説明

2階建てバス

【課題】 この発明は、比較的安価な装置構成で車室内の温度を均一に制御できる2階建てバスを提供することを課題とする。
【解決手段】 2階建てバス1の2階客室には、車幅方向左右端部に車両前後方向に延びた2本のヒーターダクト22R、22Lが設けられている。また、階段3より車両後方には、エアコンユニットに吸気するためのリターンダクト8aが設けられている。リターンダクト8aから最も離れた1列目の車幅方向右側の1列目右側席、1列目の車幅方向左側の1列目左側席、3列目右側席、および3列目左側席に対応して、ヒーターダクト22R、22Lの吹出し口31R、31L、33R、33Lが設けられ、2列目中央席に温度センサ40が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、長距離バスや観光バスなど1階および2階に座席を有する2階建てバスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1階および2階に座席を配置した2階建てバスが普及されつつある。2階建てバスは、1階に運転席を設けるため、2階の最前列にも座席を配置することができ、障害物の殆ど無いフロント視界を提供できる。
【0003】
しかし、この種の比較的大型の2階建てバスは、従来のバスと比較して座席数が多く、車室内空間も比較的大きく、車室内温度を均一に制御することが難しい。従来、バスの空調システムとして、車室上部の左右側部に車両前後方向に延設した冷房ダクト、および車室下部の左右側部に車両前後方向に延設した暖房ダクトを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この特許文献1に開示された空調システムでは、各種センサを介して車室内温度やダクト内の温度を検出してコンピュータで演算し、エアコンユニットの各種バルブや送風ファンを制御して車室内温度を調整している。このため、演算処理が複雑で、複数のセンサを必要とし、装置が高価になる。
【特許文献1】特開2005−193753号公報([0012]段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、比較的安価な装置構成で車室内の温度を均一に制御できる2階建てバスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の2階建てバスは、車両後方で1階に配置されたエンジンと、上記車両の後輪前側から1階床と2階床を連絡して車両後方に向けて上方に傾斜して延びた階段と、上記階段とエンジンの間で1階に配置されたエアコンユニットと、上記階段が2階床につながる昇降口より車両後方に配置され、上記エアコンユニットに車室内の空気を取り入れる吸気口と、上記2階床近くの車幅方向左右側部で車両前後方向に延設され、上記エアコンユニットからの温風を車室内に送気するためのダクトと、車両前後方向に複数列並んで2階床上に設置された複数の座席と、上記吸気口から最も離れた車両前方から1列目の車幅方向右側に設置された1列目右側席、1列目の車幅方向左側に設置された1列目左側席、3列目の車幅方向右側に設置された3列目右側席、および3列目の車幅方向左側に設置された3列目左側席にそれぞれ対応して、上記ダクトに形成された複数の吹出し口と、車両前方から2列目の車幅方向中央に設置された2列目中央席に取り付けられ、上記エアコンユニットの制御基準を与えるための車室内温度を検出する温度センサと、を有する。
【0007】
上記発明の2階建てバスによると、1階後方にエンジンを搭載し、景観の良い2階前方の座席数を多くするため、階段をできるだけ後方、すなわち後輪の前方に配置している。また、この2階建てバスは、1階の階段より前方にも座席を配置するため、エンジンを搭載した1階後方に殆ど全ての構造物を配置することになる。このため、このバスでは、エアコンユニットも、エンジンと階段の間に配置している。また、エアコンユニットからの温風を車室内に送気するためのダクトは、2階床近くの車幅方向左右端部で車両前後方向に延設されている。
【0008】
このようなレイアウトでは、エアコンユニットに車室内の空気を取り入れるための吸気口を、階段につながる2階床の昇降口より後方に配置する必要がある。2階建てバスは、座席数も多く車室内空間も広いため、エアコンユニットの吸気口も比較的開口面積の大きなものとなる。このため、吸気口の周辺で車室内に比較的大きな気流が生じ、車両後方における車室内空間の温度が低下し易い。
【0009】
つまり、車室内空間が広くなると、その分、車室内で温度分布が生じ易く、車室内温度を均一に制御することが難しくなる。また、車室内で温度分布に差が生じると、エアコンユニットの制御基準を与える車室内温度を検出するための温度センサの設置場所も重要となる。例えば、車室内空気をエアコンユニットに取り込むための吸気口の近くに温度センサを設置してしまうと、検出温度が車室内温度の平均値より低くなり、車室内温度を正確に検出できなくなり、エアコンユニットを正常に制御できなくなる。
【0010】
よって、本発明では、車室内温度を検出するための唯一の温度センサを、車室内で気流が最も安定する位置で、且つ車室内の平均的な温度を検出できる位置に取り付けた。車室内に気流を生じる構造として、上述したエアコンユニットの吸気口の他に、ダクトの吹出し口がある。具体的には、気流が安定する位置として、本発明では、車両前方から2列目の車幅方向左右側部から離れた中央の席(2列目中央席)に温度センサを取り付けた。
【0011】
つまり、エアコンユニットの吸気口から最も離れた車両前方から1列目の右側の席(1列目右側席)の近くでダクトに形成した吹出し口、1列目左側席に形成した吹出し口、3列目右側席に形成した吹出し口、および3列目左側席に形成した吹出し口、それぞれから離れた2列目中央席に温度センサを取り付けた。この位置に温度センサを取り付けることで、吸気口に流入する空気による気流、および各吹出し口から吹出される温風による気流の影響を受けることがない。これにより、唯一の温度センサを用いて、車室内の温度を正確且つ安定して検出でき、エアコンユニットに信頼性の高い制御基準を与えることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の2階建てバスは、上記のような構成および作用を有しているので、比較的安価な装置構成で車室内の温度を均一に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1には、この発明の実施の形態に係る2階建てバス1(以下、単に、バス1と称する)を左斜め前方から見た透視図を示してある。また、図2には、このバス1の2階の座席レイアウトを破線で示してある。本実施の形態のバス1は、車両前後方向(矢印D方向)に沿った長さが約12[m]あり、左右方向の車幅が約2.5[m]あり、地上高さが約3.8[m]ある。
【0014】
図1に示すように、バス1は、その進行方向(矢印D方向)左側のサイドボディー1aに後方ドア2を備え、この後方ドア2の内側から車両後方に向けてサイドボディー1aの内側に沿って上方に傾斜して延びた階段3を有する。階段3は、左側の後輪4の前方、すなわちリアのフロントアクスルの前から2階床の昇降口6(図2)まで延びている。また、バス1の進行方向前方寄りの左側のサイドボディー1aには、前方ドア5が設けられている。この前方ドア5は、主に運転者や乗務員の乗り降りに使用し、後方ドア2は、専ら乗客の乗り降りに使用する。
【0015】
すなわち、後方ドア2から乗車する乗客は、後方ドア2からバス1に乗ってそのまま1階の通路を前方に進んで座席(図示せず)に座り、或いは階段3を上がって、2階の通路7(図2)を前方或いは後方に歩いて座席に座る。つまり、1階には、階段3より前方に座席があり、2階には車両の略全長にわたって座席がある。なお、ここでは、1階の座席の図示を省略してある。
【0016】
2階の座席は、図2に破線で示すように、階段3より後方に4列10席あり、それ以外に昇降口6より前方に7列20席が設置されている。つまり、2階には、合計30席の座席が設置されている。以下の説明では、昇降口6より前方の1列〜7列、20席を前方座席と称し、階段3より後方の8列〜11列、10席を後方座席と称する。また、2階の通路7は、各列の車幅方向中央の座席と車幅方向右側の座席との間で車両前後方向に延設されている。
【0017】
また、車両の1階後方には、エンジン12(図3)が搭載されており、エンジン12と階段3の間には、後述するエアコンユニット8が配置されている。すなわち、このバス1は、車両後方にエンジン12を搭載しているので、1階の座席は車両前方寄りに配置することになる。1階の座席数をできるだけ多くするためには、リアのフロントアクスルの前に階段3を配置し、この階段3の位置を1階の客室の後端とするレイアウトが有効である。一方、2階の座席は、図2に示すように車両の略全長にわたって設けられているため、1階の階段3より後方にバス1の構造物を集約する必要がある。
【0018】
以上のように、このバス1の各構成要素、すなわち階段3、エンジン12、エアコンユニット8などのレイアウトが決定すると、エアコンユニット8に空気を取り入れるためのリターンダクト8a、8bの位置も必然的に決まってくる。つまり、エアコンユニット8にフレッシュな外気を取り入れるためのリターンダクト8bは、車両左側のサイドボディー1aに形成されている。言い換えると、エアコンユニット8は、このリターンダクト8bを介して効率的に外気を取り入れるため、車両左側のサイドボディー1aに近接して配置されている必要がある。
【0019】
このため、エアコンユニット8に車室内の空気を取り入れるためのリターンダクト8a(吸気口)も、左側のサイドボディー1aに近接した2階床に形成する必要がある。より具体的には、図2に示すように、車室内の空気をエアコンユニット8に取り入れるためのリターンダクト8aは、車両左側の後方2列(9列、10列)の座席下の床に形成されている。このリターンダクト8aの位置は、当然のことながら、2階床の昇降口6より後方となる。
【0020】
図3には、バス1の2階の客室内を暖房する暖房システム10の配管図を示してある。
ラジエター11で冷却された水は、エンジン12を冷却してポンプ13によって予熱器14へ送られる。予熱器14で十分に加熱された水(温水)は、水タンク15へ送られる。水タンク15の温水は、ポンプ16によって、エアコンユニット8のヒーターコア17を流通され、ファン18によって発生する風によって熱交換される。尚、水タンク15内では、ヒーターコア17へ送水される温水路とヒーターコア17から水タンク15へ戻る温水路とが隙間を有して仕切られている。そして、ヒーターコア17を通った温風が後述するダクト20を介して車室内へ送り込まれる。
【0021】
エアコンユニット8に接続されたダクト20は、図1に示すように、2階床近くで車幅方向左右側部のサイドボディー内側に沿って車両前後方向に延設された2本のヒーターダクト22R、22Lを有する。これら2本のヒーターダクト22R、22Lは、エアコンユニット8からの温風を送気するために設けられている。これら2本のヒーターダクト22R、22Lには、後述する複数の吹出し口が形成されている。
【0022】
この他に、ダクト20は、各ヒーターダクト22R、22Lの途中から上方に分岐された2本のサイドウォールダクト24R、24L、各サイドウォールダクト24R、24Lの上端に接続され、車幅方向左右側部の天井近くで車両前後方向に延設された2本のクーラーダクト26R、26L、および左右のダクトを繋いで2階床下で車幅方向に延びたアンダーフロアダクト28を有する。
【0023】
図4には、上述した暖房システム10の動作を説明するための制御フロー図を示してある。暖房システム10の図示しない制御部は、2階客室内に設置した後述する温度センサ40(図2)を介して2階客室内の温度を検出し、予め設定した室温に近付けるように、上述したファン18による送風強度をコントロールするとともに、上述したヒーターコア17へ温水を流通させるためのウォーターポンプ16およびウォーターバルブ19をON/OFF制御する。
【0024】
エアコンユニット8の設定温度に対し、−5[℃]をさらに下回る室温であることを検知した場合、制御部は、ヒーターコア17に温水を流通させた状態で、ファン18の送風強度を高(High)にする。そして、制御部は、この状態で室温を監視し、設定温度のー5[℃]に達した時点で、ファン18の送風強度を中(Midle)に切り換える。
【0025】
この後、制御部は、引き続き室温を監視し、室温がさらに上昇して設定温度のー3[℃]に達した場合、ファン18の送風強度を中(Midle)から低(Low)に切り換える。しかし、ファン18の送風強度を上述したように高(High)から中(Midle)に切り換えた後、室温が下がって設定温度より−6.5[℃]を下回った場合には、制御部は、ファン18の送風強度を再び高(High)に切り換える。
【0026】
ファン18の送風強度を低(Low)に切り換えた後、制御部は、室温を監視しつつ設定温度に近付けるよう室温を制御する。例えば、ファン18を低(Low)に切り換えた後、室温が下がって設定温度の−4.5[℃]を下回った場合には、制御部は、ファン18を再び中(Midle)に切り換える。
【0027】
一方、ファン18を低(Low)に切り換えた状態で室温がさらに上昇して設定温度の−1[℃]に達した場合、制御部は、ヒーターコア17に温水を流通させないように、ウォーターポンプ16を停止するとともに、ウォーターバルブ19を閉じる。このとき、ファン18は停止しない。
【0028】
そして、制御部は、さらに室温を監視して、室温が設定温度の−2.5[℃]より低くなったとき、ウォーターポンプ16を作動させるとともにウォーターバルブ19を開いて、温水をヒーターコア17に流通させる。以上のように、暖房システム10の制御部は、室温を設定温度に近付けるようにファン18、ウォーターポンプ16、およびウォーターバルブ19をコントロールする。つまり、室温が設定温度を超えることは殆ど無い。
【0029】
上述したように暖房システム10をコントロールすることで、理想的には2階の客室の室温を設定温度に近付けることができ、少なくとも温度センサを設置した場所近くの室温は設定温度に近付けることができる。しかし、本実施の形態のバス1のように、客室が1階および2階にあるような比較的大型のバスでは、2階の客室内の空間も広く、2階客室の室温を全体的に均一に制御することは難しい。
【0030】
特に、本実施の形態のバス1は、2階客室の後方に、比較的大きなリターンダクト8aを備えているため、後方座席の近くで室温が低下し易い。つまり、リターンダクト8aの開口面積も、客室の広さによって大きくする必要があるので、本実施の形態のバス1では、リターンダクト8aに吸い込まれる空気の量も比較的多い。このため、暖めた空気がリターンダクト8aに多量に吸い込まれて、その分、リターンダクト8a周辺の室温が低下してしまう。
【0031】
このため、本実施の形態では、まず、2階客室に温風を吹出すヒーターダクト22R、22Lの吹出し口の配置位置を工夫した。つまり、室温が下がり易い車両後方の吹出し口の個数を増やし、車両前方の吹出し口の数を減らした。
【0032】
具体的には、図1および図2に示すように、本実施の形態では、1列目の車幅方向右側の前方座席(1列目右側席)の下に吹出し口31Rを設け、1列目の車幅方向左側の前方座席(1列目左側席)の下に吹出し口31Lを設け、3列目の車幅方向右側の前方座席(3列目右側席)の下に吹出し口33Rを設け、3列目の車幅方向左側の前方座席(3列目左側席)の下に吹出し口33Lを設け、5列目の車幅方向右側の前方座席の下に吹出し口35Rを設け、5列目の車幅方向左側の前方座席の下に吹出し口35Lを設けた。
【0033】
また、9列目の車幅方向右側の後方座席の下に2つの吹出し口391R、392Rを並べて設け、10列目の車幅方向右側の後方座席の下に2つの吹出し口401R、402Rを並べて設け、11列目の車幅方向右側の後方座席の下に2つの吹出し口411R、412Rを並べて設け、11列目の車幅方向左側の後方座席の下に2つの吹出し口411L、412Lを並べて設けた。
【0034】
見方を変えると、合計20席ある前方座席に対して6箇所の前方吹出し口31R、31L、33R、33L、35R、35Lを設け、合計10席ある後方座席に対して8箇所の後方吹出し口391R、392R、401R、402R、411R、412R、411L、412Lを設けた。本実施の形態では、全ての吹出し口の開口面積が同じであるため、階段3より車両後方にある後方吹出し口391R、392R、401R、402R、411R、412R、411L、412Lを合計した開口面積が、前方吹出し口31R、31L、33R、33L、35R、35Lを合計した開口面積より大きくなっている。
【0035】
つまり、本実施の形態の吹出し口の個数は、後方座席の座席数(10席)に対する後方吹出し口391R、392R、401R、402R、411R、412R、411L、412Lを合計した開口面積の比率が、前方座席の座席数(20席)に対する前方吹出し口31R、31L、33R、33L、35R、35Lを合計した開口面積の比率より大きくなるように決定されている。
【0036】
より具体的には、全ての吹出し口の開口面積を同じにして、後方座席の座席数と後方吹出し口391R、392R、401R、402R、411R、412R、411L、412Lの数との比を10:8に設定し、前方座席の座席数と前方吹出し口31R、31L、33R、33L、35R、35Lの数との比を10:3に設定した。これにより、車両の前後で温度差が少ない均一な室温にコントロールできた。
【0037】
図5および図6には、吹出し口のレイアウトを本実施の形態のように変更する前と後で室温を比較した結果を示してある。なお、このとき、暖房システム10は、設定温度25[℃]で動作させた。吹出し口のレイアウトを変更する前は、1列目〜6列目の左右の前方座席下に1つずつ(合計12箇所)前方吹出し口を設け、9列目〜11列目の右側の後方座席下および11列目の左側の後方座席下に1つずつ(合計4箇所)後方吹出し口を設けた。図5には、左側3列目、5列目、9列目、11列目の座席に座った人の膝の位置で室温を計測した結果を示してあり、図6には、右側3列目、5列目、9列目、11列目の座席に座った人の膝の位置で室温を計測した結果を示してある。
【0038】
これによると、レイアウト変更前のように車両前後に関係なく座席数に対する吹出し口の割合を均一にした場合、特に、車両前方で設定温度を超えているのが分かる。暖房システム10を上述したように制御することを前提とすると、設定温度を超えることは殆どありえないことから、設定温度を超える室温制御は好ましくない。
【0039】
これに対し、本実施形態のような吹出し口のレイアウトにした場合、計測では一部(右側5列目)で設定温度を超えた部分があったが、車室内全体では殆どが設定温度を超えることがなく、車室内全体では略均一な温度コントロールができている。又、体感的にも殆ど違和感がない状態になっている。つまり、本実施の形態のように、後方座席にリターンダクト8aを有する場合、吹出し口のレイアウトを、前方座席に対する前方吹出し口の比率より後方座席に対する後方吹出し口の比率を大きくするよう設計することで、2階客室温度を均一にできる。
【0040】
一方、2階客室内の温度を所望する温度に制御するためには、上述したように、エアコンユニット8の制御部に制御基準を与えるための室温を検出する温度センサ40の配置位置が重要となる。理想的には、2階客室内に設置した1つの温度センサで客室内における平均的な温度を安定して検出し、この検出した正確な客室温度をエアコンユニット8の設定温度に近付けるよう暖房システム10をコントロールすることが望ましい。
【0041】
このため、本発明の発明者等は、2階客室の数箇所に温度センサを設置して、エアコンユニット8の設定温度を種々変更した場合における各温度センサの出力(検出温度)と実際の客室温度との関係を調べた。その結果を図7に示す。
【0042】
これによると、温度センサをリターンダクト8a内に設置した場合、温度センサで検出した温度と実際の客室温度は殆ど一致せず、検出温度にばらつきがあることが分かる。つまり、リターンダクト8aの近くでは、上述したように比較的風量の多い気流が生じており、この気流の影響によって検出温度にばらつきを生じているものと考えられる。
【0043】
また、リターンダクト8aから離れた階段3より前方の6列目の中央の前方座席に温度センサを設置した場合、リターンダクト8aから離れた分、リターンダクト8aに吸い込まれる空気による気流の影響は少なくなる。しかし、5列目の車幅方向左右の座席下にヒーターダクト22R、22Lの吹出し口35R、35Lが設けられているため、この2つの吹出し口35R、35Lから吹出される温風による影響が考えられる。つまり、7列目、8列目にヒーターダクト22R、22Lの吹出し口が無いため、5列目の吹出し口35R、35Lから吹出された温風の殆どはリターンダクト8aに向かって車両後方に流れることになる。このため、5列目の吹出し口35R、35Lとリターンダクト8aとの間にある6列目中央席に設置した温度センサによる検出温度にもばらつきが生じる。
【0044】
これに対し、6列目中央席よりさらにリターンダクト8aから離れた2列目中央席に温度センサ40(図2参照)を設置した場合、図7に示すように、当該温度センサ40による検出温度と実際の客室温度が略一致しているのが分かる。2列目中央席は、リターンダクト8aから遠く離れているため、リターンダクト8aに吸い込まれる空気による気流の影響は殆ど無いものと考えられる。
【0045】
一方、2列目中央席の周辺には、気流を生じる4つの吹出し口31R、31L、33R、33Lが設けられている。しかし、2列目中央席がこれら4つの吹出し口31R、31L、33R、33Lの略中間位置にあるため、温度センサ40に影響を及ぼす気流は殆ど生じない。つまり、この2列目中央席には、ダクトの吹出し口から直接温風が当たることがなく、この席に温度センサ40を設置することで、気流の影響の殆ど無い安定した室温検出が可能となる。
【0046】
図8には、温度センサ40の具体的な設置例を図示してある。
温度センサ40は、2列目中央席の車幅方向に並んで設けられた2本の脚部42R、42Lの内側、より具体的には、通路7側の脚部42Rの裏側で座面に近い上方位置に取り付けられている。この位置に温度センサ40を取り付けることで、2列目中央席に座った乗客の足が温度センサ40に接触することがなく、2階客室を掃除する際に掃除機が温度センサ40にぶつかることがなく、温度センサ40が破壊される心配がない。また、この位置に温度センサ40を取り付けることで、客室内からこの温度センサ40が見えることがなく、美観を損ねることもない。
【0047】
以上のように、本実施の形態によると、2階建てバス1の2階客席に延設されたヒーターダクト22R、22Lの吹出し口を適当なレイアウトで配置したため、2階客室内の温度を均一に制御できる。その上で、車両後方のリターンダクト8aから離れた2列目中央席に温度センサ40を配置したため、客室温度を安定して正確に検出でき、エアコンユニットの制御部に信頼性の高い制御基準を与えることができる。特に、本実施の形態によると、1つの温度センサ40を適当な位置に配置するだけで、客室温度を均一且つ正確にコントロールでき、複雑な演算処理を必要とせず、センサも1つで済み、装置コストを安価にできる。
【0048】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。
【0049】
例えば、上述した実施の形態では、ヒーターダクト22R、22Lの複数の吹出し口の開口面積を同じにして、その個数および配置位置を調整する場合について説明したが、これに限らず、吹出し口の開口面積を異ならせることでも室温の調整が可能である。
【0050】
また、上述した実施の形態では、2階建てバス1の2階の室温を検出するための温度センサ40の配置場所を適正化した場合について説明したが、1階の室温を検出する温度センサも温風が直接当たらない箇所に設置することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施の形態に係る2階建てバスを左斜め前方から見た透視図。
【図2】図1のバスの2階の座席および吹出し口のレイアウトを説明するための透視図。
【図3】図2の2階客室を暖房する暖房システムの配管図。
【図4】図3の暖房システムの動作を説明するための動作フロー図。
【図5】吹出し口のレイアウトを変更する前と後で2階客室の左側の座席における室温を比較したグラフ。
【図6】吹出し口のレイアウトを変更する前と後で2階客室の右側の座席における室温を比較したグラフ。
【図7】図2の2階客室で温度センサを設置する位置を変えた場合における検出温度と実際の客室温度との関係を示す図。
【図8】図2の2階客室で温度センサを適当な位置に配置した例を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1…2階建てバス、1a…サイドボディー、2…後方ドア、3…階段、4…後輪、5…前方ドア、6…昇降口、8…エアコンユニット、8a…リターンダクト、10…暖房システム、11…ラジエター、12…エンジン、14…予熱器、15…水タンク、16…ウォーターポンプ、17…ヒーターコア、18…ファン、19…ウォーターバルブ、20…ダクト、22R、22L…ヒーターダクト、31R、31L、33R、33L、35R、35L…前方吹出し口、391R、392R、401R、402R、411R、412R、411L、412L…後方吹出し口、40…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後方で1階に配置されたエンジンと、
上記車両の後輪前側から1階床と2階床を連絡して車両後方に向けて上方に傾斜して延びた階段と、
上記階段とエンジンの間で1階に配置されたエアコンユニットと、
上記階段が2階床につながる昇降口より車両後方に配置され、上記エアコンユニットに車室内の空気を取り入れる吸気口と、
上記2階床近くの車幅方向左右側部で車両前後方向に延設され、上記エアコンユニットからの温風を車室内に送気するためのダクトと、
車両前後方向に複数列並んで2階床上に設置された複数の座席と、
上記吸気口から最も離れた車両前方から1列目の車幅方向右側に設置された1列目右側席、1列目の車幅方向左側に設置された1列目左側席、3列目の車幅方向右側に設置された3列目右側席、および3列目の車幅方向左側に設置された3列目左側席にそれぞれ対応して、上記ダクトに形成された複数の吹出し口と、
車両前方から2列目の車幅方向中央に設置された2列目中央席に取り付けられ、上記エアコンユニットの制御基準を与えるための車室内温度を検出する温度センサと、
を有することを特徴とする2階建てバス。
【請求項2】
上記階段より車両後方で上記ダクトに形成した後方吹出し口を合計した開口面積は、上記後方吹出し口より車両前方で上記ダクトに形成した前方吹出し口を合計した開口面積より大きいことを特徴とする請求項1に記載の2階建てバス。
【請求項3】
上記温度センサは、上記2列目中央席の車幅方向に並んだ2つの脚部の内側に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の2階建てバス。
【請求項4】
2階床上に設置された上記複数の座席のうち各列の車幅方向中央の座席と車幅方向右側の座席との間で車両前後方向に延設された通路をさらに有し、
上記温度センサは、上記2列目中央席の車幅方向に並んだ2つの脚部のうち上記通路側の脚部の内側に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の2階建てバス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−241904(P2009−241904A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94193(P2008−94193)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【出願人】(595158980)三菱ふそうバス製造株式会社 (8)
【Fターム(参考)】