説明

2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法

本発明は、化学式:CCl3CH2CHClFで表される1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素とを、触媒の存在下に、気相中において反応させることを特徴とする、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法を提供する。本発明方法は、工業的スケールにも対応できる、簡便かつ効率的な方法で2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CF=CH2(HFC-1234yf)で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び化学式:CF3CH=CHF(HFC-1234ze)で表される1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、いずれも冷媒として有用な化合物であり、代替フロンとして使用可能な冷媒、混合冷媒の構成成分として注目されている。
【0003】
これらの化合物の内で、HFC-1234yfの製造方法としては、例えばCF3CF2CH2X(XはCl又はI)で表される化合物をエタノール中で亜鉛と反応させて一段階で製造する方法が下記非特許文献1に記載されている。しかしながら、亜鉛は高価であり、しかも多量の廃棄物が生じるという問題があるため、この方法は工業的規模の製造方法としては好ましくない。
【0004】
その他、HFC-1234yfの製造方法としては、特許文献1には、テトラフルオロプロパン酸クロロメチルとアミンを反応させる方法が記載され、特許文献2には、1-トリフロオロメチル-1,2,2-トリフルオロシクロブタンの熱分解による方法が記載され、特許文献3には、クロロトリフルオロエチレン(CClF=CF2)とフッ化メチル(CH3F)をSbF5に代表されるルイス酸存在下で反応させる方法が記載され、特許文献4には、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)とクロロメタン(CH3Cl)の熱分解による方法が記載されている。更に、下記非特許文献2及び3にもHFC-1234yfの製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法については、原料の製造が難しく入手が困難であることや、反応条件が過酷であること、反応試薬が高価であること、収率が低いことなどの問題点があり、工業的に有効な製法とは言い難い。
【0006】
一方、HFC-1234zeの製造方法としては、CF3CH2CHFX(X は、F、Cl、Br又はIである)を脱ハロゲン化水素させる方法(特許文献5〜9等参照)、CF3CHFCH2F(HFC-245eb)を脱フッ化水素させる方法(特許文献10〜11参照)、CF3CH=CHCl(HCFC-1233zd)をフッ素化する方法(特許文献12)、CF3CHXCH2F(XはCl、Br又はIである)を脱ハロゲン化水素させる方法(特許文献13)などが知られている。しかしながら、これらの方法も原料の製造が困難で入手が困難であることや、収率が低く、工程が多段階に及ぶことなどの問題点があり、工業的な製法としては改善が必要である。
【0007】
例えば、特許文献5には、CF3CH2CHFX (X は、F、Cl、Br又はIである)を脱ハロゲン化水素させてHFC-1234zeを製造する方法が記載されており、CF3CH2CHFXの製造方法として、Cr2O3等の触媒の存在下に、CY3CH2CHY2(Yは、F、Cl、Br又はIである)をHF(フッ化水素)と反応させる方法が記載されている。しかしながら、この方法で1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得るには、HF(フッ化水素)と反応させ、脱ハロゲン化水素を行うという二段階の工程が必要であり、反応工程が煩雑である。また、反応の中間成分であるCF3CH2CHFXのその他の製造方法としては、CF3X(X は、Cl、Br又はIである)とフッ化ビニルを反応させる方法も記載されているが、この方法では、CF3Xという高価な化合物を用いているため、工業的に有効な製法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−211245号公報
【特許文献2】米国特許第3996299号
【特許文献3】US 2006/258891A1
【特許文献4】米国特許第2931840号
【特許文献5】US 2005/0245773 A1
【特許文献6】US 2008/051611 A1
【特許文献7】EP 2000/974571 A2
【特許文献8】特開平11−140002号公報
【特許文献9】US 2007/0129579 A1
【特許文献10】WO 2008/002499 A2
【特許文献11】WO 2008/002500 A1
【特許文献12】特開2007−320896号公報
【特許文献13】WO 2005/108334 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., 1957, 2193-2197
【非特許文献2】J. Chem. Soc., 1970, 3, 414-421
【非特許文献3】J. Fluorine Chem., 1997, 82, 171-174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、工業的スケールにも対応できる、簡便かつ効率的な2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記した目的を達成すべき鋭意研究を重ねてきた。その結果,触媒の存在下に、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン(HCFC-241fb)を気相において無水フッ化水素と反応させることより、一段階の反応操作で2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234ze)を含む含フッ素プロペンを製造することができ、この方法は、これらの化合物の工業的に有利な製造方法として利用できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法を提供するものである。
1. 化学式:CCl3CH2CHClFで表される1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素とを、触媒の存在下に、気相中において反応させることを特徴とする、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法。
2. 触媒が、酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムである上記項1に記載の方法。
3. 酸化クロムが、組成式:CrO(1.5<m<3)で表される化合物である上記項2に記載の方法。
4. 酸化クロムが、組成式:CrOにおいて、1.8≦m≦2.5の範囲内の化合物である上記項2に記載の方法。
5. 酸化クロムが、更に、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むものである上記項2〜4のいずれかに記載の方法。
6. インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む酸化クロムが、クロムイオンと金属イオンを含む水溶液から沈殿を形成する工程を含む方法で得られたものである、上記項5に記載の方法。
7. 無水フッ化水素を、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン1モルに対して3モル以上の量で、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと反応させる上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
8. 1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンが、四塩化炭素とフッ化ビニルとの反応生成物である上記項1〜7のいずれかに記載の方法。
【0013】
以下、本発明の製造方法について具体的に説明する。
【0014】
原料化合物
本発明では、原料としては、化学式:CCl3CH2CHClFで表される1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン(HCFC-241fb)と無水フッ化水素(HF)を用いる。
【0015】
原料の内で、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンは、公知物質であり、例えば、四塩化炭素とフッ化ビニルとを反応させることによって容易に得ることができる。この方法では、原料とする四塩化炭素とフッ化ビニルはいずれも比較的安価な物質であり、しかも製造方法も簡単であるため、本発明方法において原料とする1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンは安価に入手可能な物質である。
【0016】
1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンを得るための四塩化炭素とフッ化ビニルの反応は、金属及び金属ハロゲン化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の存在下に、必要に応じて本反応に対して不活性な非極性溶媒、例えば塩化メチレン、二硫化炭素などの溶媒を用いて行うことができる。この反応に用いることができる金属としては銅、鉄、マンガン等を例示でき、金属ハロゲン化物としては塩化アルミニウム、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化第二鉄、塩化マンガンなどを例示できる。金属と金属ハロゲン化物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0017】
更に、四塩化炭素とフッ化ビニルの反応では、必要に応じて、反応促進剤として、5価のリンを含む化合物、例えば、トリメチルフォスフェート、トリメチルフォスフィン、トリエチルフォスフェート、トリエチルフォスフィン、トリブチルフォスフェート等を用いることができる。
【0018】
上記反応において、フッ化ビニルの使用量は、通常、四塩化炭素1モルに対して、0.1〜10モル程度である。
【0019】
また、金属及び金属ハロゲン化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の使用量については、通常、四塩化炭素1モルに対して、0.001〜2モル程度である。
【0020】
また、反応促進剤として用いる5価のリンを含む化合物の使用量は、通常、金属及び金属ハロゲン化物の合計量1モルに対して、0.1〜10モル程度である。
【0021】
四塩化炭素とフッ化ビニルの反応の反応温度は、通常、室温〜150℃程度、好ましくは、80〜120℃程度とすればよい。
【0022】
反応圧力は、常圧、加圧、減圧の何れであっても良いが、通常は、密閉容器中において、加圧下に行うことができる。
【0023】
本発明の製造方法
本発明の方法では、触媒の存在下において、気相中で上記した化学式:CCl3CH2CHClFで表される1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素とを反応させて、化学式:CF3CF=CH2 で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと化学式:CF3CH=CHF で表される1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンを製造する。
【0024】
前述した通り、特許文献5には、CF3CH2CHFX (X は、F、Cl、Br又はIである)の脱ハロゲン化水素によってHFC-1234zeを製造する方法が記載されているが、この方法は、反応工程が煩雑であり、しかも、使用する原料が高価であるために、工業的に有効な製法とはいえない。しかも得られる有用物質は、HFC-1234zeだけである。
【0025】
これに対して、本発明方法によれば、安価な原料を用いて、実質的に一段階の反応によって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンという2種類の有用な化合物を含む含フッ素プロペンを得ることができる。このため、本発明方法は、工業的な有用性が高い方法である。
【0026】
触媒成分
本発明で使用する触媒は、特に限定的ではなく、フッ化水素によるフッ素化反応に対して有効な触媒を用いることができる。この様な触媒としては、例えば、金属酸化物、金属ハロゲン化物、遷移金属などを用いることができる。
【0027】
本発明では、特に、酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムを触媒として用いる場合には、効率よく反応を進行させることができる。この場合、酸化クロムとしては、特に、組成式:CrOmで表される化合物において、mが1.5<m<3の範囲にあるものが好ましく、1.8≦m≦2.5の範囲にあるものがより好ましく、2.0≦m≦2.3の範囲にあるものが更に好ましい。尚、上記組成式において、mの値が小さすぎると、触媒活性及びHFC-1234yfとHFC-1234zeの選択率が低下する傾向があり、mが大きすぎると、触媒劣化が進行する傾向があるので、いずれも好ましくない。この様な酸化クロムの調製方法の一例を挙げると次の通りである。
【0028】
まず、クロム塩の水溶液(硝酸クロム、塩化クロム、クロムみょうばん、硫酸クロム等)とアンモニア水を混合して水酸化クロムの沈殿を得る。例えば、硝酸クロムの5.7%水溶液に10%のアンモニア水を、硝酸クロム1当量に対して、1当量から1.2当量滴下することによって、水酸化クロムの沈殿が生じる。この時の沈殿反応の反応速度により水酸化クロムの物性を制御することができる。反応速度は、速いことが好ましく、反応速度を速くすることによって触媒活性を高くすることができる。反応速度は反応溶液温度、アンモニア水混合方法(混合速度)、撹拌状態等により左右されるので、これらの条件を調整することによって反応速度を制御できる。
【0029】
この沈殿を濾過洗浄後、乾燥する。乾燥は、例えば、空気中、70〜200℃程度、特に120℃程度で、1〜100時間程度、特に12時間程度行えばよい。この段階の生成物を水酸化クロムの状態と呼ぶ。次いで、この生成物を解砕する。この際、解砕品(例えば、粒径1000μm以下、46〜1000μmの粒径品95%としたもの)の粉体密度が0.6〜1.1g/ml程度、好ましくは0.6〜1.0g/ml程度になるように沈澱反応速度を調整する。粉体密度が0.6g/mlよりも小さい場合には、ぺレットの強度が不十分となるので好ましくない。また、粉体密度が1.1g/mlよりも大きいと、触媒の活性が低く、ペレットが割れやすくなるので好ましくない。粉体の比表面積は、200℃、80分の脱気条件で、100m2/g程度以上であることが好ましく、120m2/g程度以上であることがより好ましい。比表面積の上限は、例えば、220m2/g程度である。尚、本願明細書において、比表面積はBET法で測定した値である。
【0030】
この水酸化クロムの粉体に、要すればグラファイトを3重量%程度以下混合し、打錠機によりペレットを形成する。ペレットは、例えば、直径3.0mm程度、高さ3.0mm程度とすればよい。このペレットの圧潰強度(ペレット強度)は210±40kg/cm2程度であることが好ましい。圧潰強度が大きすぎると、ガスの接触効率が低下して触媒活性が低下するとともに、ペレットが割れ易くなる。一方小さすぎる場合は、ペレットが粉化しやすくなって取扱いが困難になる。
【0031】
成形されたペレットを不活性雰囲気中、例えば窒素気流中で焼成して、非晶質の酸化クロムにする。この焼成温度は360℃以上であることが好ましいが、高温になり過ぎると結晶化するために、これを回避できる範囲内で出来るだけ高温にすることが望まれる。例えば、380〜460℃程度、特に400℃程度で、1〜5時間程度、特に2時間程度焼成すればよい。
【0032】
焼成された酸化クロムの比表面積は、170m2/g程度以上、好ましくは180m2/g程度以上、より好ましくは200m2/g程度以上である。比表面積の上限は、一般に、240m2/g程度、好ましくは220m2/g程度である。240m2/gを上回る比表面積では、活性は高いが劣化速度が増加し、比表面積が170m2/gよりも小さい場合には、触媒の活性が低くなるので好ましくない。
【0033】
また、フッ素化された酸化クロムについては、特開平5−146680号公報に記載された方法によって調製することができる。例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって得ることができる。フッ素化の温度は、生成する水が凝縮しない温度(例えば、0.1MPaにおいて150℃程度)とすればよく、反応熱により触媒が結晶化しない温度を上限とすればよい。フッ素化時の圧力には制限はないが、触媒反応に供される時の圧力で行うことが好ましい。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度である。
【0034】
フッ素化処理により触媒の表面積は低下するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化された段階での比表面積は、25〜130m2/g程度であることが好ましく、40〜100m2/g程度であることがより好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0035】
酸化クロムのフッ素化反応は、後述する本発明方法の実施に先立って、酸化クロムを充填した反応器にフッ化水素を供給することによって行ってもよい。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料とする1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンを反応器に供給することによって、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの生成反応を進行させることができる。
【0036】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が10〜30重量%程度までのフッ素化された酸化クロムを好適に用いることができる。
【0037】
更に、本発明では、特開平11−171806号公報に記載されているクロム系触媒(以下、「金属成分添加クロム触媒」ということがある)を酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。このクロム系触媒は、非晶質質状態であり、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加されたクロム化合物を主成分とし、該クロム化合物におけるクロムの平均原子価数が+3.5以上、+5.0以下である。
【0038】
金属成分添加クロム触媒の製造方法については、特に限定的ではなく、前述した方法で酸化クロム触媒を得た後、この触媒に、上記した金属元素を含む水溶液を含浸させ、その後焼成する方法によっても金属成分添加クロム触媒を得ることができるが、特に、前述した方法で酸化クロム触媒を作製する過程において、クロム塩の水溶液中に、上記した金属元素を含む化合物を添加して、クロムイオンと金属イオンを含む水溶液を調製し、この水溶液にアンモニア水を添加して水酸化クロムと金属成分を含む沈殿物を形成し、その後、上記した方法に従って、乾燥及び焼成する方法によって調製することが好ましい。この方法で得られた金属成分添加クロム触媒を用いる場合には、高い選択率で目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得ることができ、特に、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの選択率を大きく向上させることができる。
【0039】
インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物としては、クロム塩を含む水溶液中に可溶性の化合物であれば良く、例えば、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の水溶性化合物を用いることができる。これらの金属元素の添加量については、最終的に得られる金属成分添加クロム触媒の全量を基準として、金属元素量が0.1〜50wt%程度となる量であることが好ましく、1.0〜30wt%程度となる量であることがより好ましい。
【0040】
この様にして得られる金属成分添加クロム触媒は、更に、上記した方法と同様にしてフッ素化処理を行っても良い。
【0041】
上記した各種の触媒は、アルミナ、活性炭等の担体に担持して使用することもできる。
【0042】
反応方法
本発明の方法では、通常、上記した触媒を充填した反応器に、原料である1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素を気相状態で供給すればよい。これにより、一段階の反応操作で、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E-HFC-1234ze+Z-HFC-1234ze)を含む反応生成物を得ることができる。
【0043】
本発明において、原料として用いる1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素の比率については、特に限定的ではないが、例えば、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン1モルに対して、フッ化水素を3モル以上用いれば良く、フッ化水素を5モル以上用いることが好ましい。フッ化水素の供給量の上限は1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン1モルに対して、20モル程度が好ましく、15モル程度がより好ましい。
【0044】
上記した範囲内で無水フッ化水素を使用することによって、HCFC-241fbの転化率と触媒活性の両方を良好に維持することができる。これに対して、フッ化水素の供給量が少なすぎると2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E-HFC-1234ze+Z-HFC-1234ze)の選択率が低下するため好ましくない。また、フッ化水素の供給量が多くなりすぎても、特に効果の向上は見られないので、不経済である。
【0045】
上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0046】
また、長時間の触媒活性を維持するために、上記原料に酸素を同伴させて反応器に供給してもよい。この場合、酸素の供給量は、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素の合計供給モル数を基準として0.1〜5mol%程度とすることが好ましい。
【0047】
本発明方法で用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、例えば、触媒を充填した断熱反応器、熱媒体を用いて除熱した多管型反応器等を用いることができる。尚、反応器としては、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0048】
本発明方法では、反応温度は、反応器の中の温度として、170〜450℃程度が好ましく、210〜400℃程度がより好ましい。この温度範囲より高温になると触媒の活性が低下し、逆に低温になると原料転化率と1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの選択率が低下するので好ましくない。
【0049】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。即ち、本発明における反応は、大気圧(0.1MPa)下で実施することが可能であるが、1.0MPa程度までの加圧下で行ってもよい。
【0050】
反応時間については特に限定的ではないが、通常、反応系に流す原料ガスの全流量Fo(0℃、0.1MPaでの流量:cc/sec)に対する触媒充填量W(g)の比率:W/Foで表される接触時間を2〜30 g・sec/cc、好ましくは4〜15 g・sec/cc程度の範囲とすればよい。尚、全流量Foは、原料として供給される 1,1,1,2-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素の流量、又は不活性ガス及び/又は酸化ガスを供給する場合には、上記した原料ガスと、これらのガスの流量を合わせた量である。
反応器出口では、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E-HFC-1234ze+Z-HFC-1234ze)を含む反応生成物を得ることができる。1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、E体とZ体の混合物として得られる。
【0051】
上記した反応条件の範囲内においては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)は2〜5%程度の選択率を示し、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E-HFC-1234ze + Z-HFC-1234ze)は反応条件と用いる触媒を選択することで、選択率を25%以上まで高くすることができる。
【0052】
反応生成物は、そのまま用いても良いし、蒸留などによって分離・精製して2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを別々に回収しても良い。その他の含フッ素オレフィンは次の反応工程で他の化合物へと変換してもよい。また、未反応のCCl3CH2CHClF (HCFC-241fb)がある場合では、分離・精製後に再び反応器に戻して、原料として用いることができる。この様に未反応の原料をリサイクルできることによって、原料転化率が低い場合であっても、高い生産性を維持することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の方法によれば、容易に入手できる1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンとフッ化水素を原料として、一段階の反応によって、目的とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)と1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E-HFC-1234ze+Z-HFC-1234ze)を含む含フッ素プロペンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、原料として用いる1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン (HCFC-241fb)の製造例と、本発明の実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0055】
製造例1
1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン(HCFC-241fb)の合成
温度計、真空ライン、窒素パージライン、仕込みライン、ゲージ及び圧力開放弁を設置した1000mlオートクレーブに、軟鉄粉4.5g(79.2mmol)、トリエチルフォスフェート20g(79.2mmol)、塩化第二鉄100mg、及び四塩化炭素420g(2.73mol)を仕込み、窒素で5回、フッ化ビニルで1回パージした。次に、オートクレーブ内を真空にして攪拌しながらフッ化ビニルをゲージ圧0.4MPaになるまで仕込んだ。120℃まで加熱すると反応が始まり、内温は127℃まで上昇して圧力は0.9MPaから0.4MPaまで低下した。フッ化ビニル圧0.8MPaに保ちながら、内温120℃で8時間攪拌した。その後トリエチルフォスフェート10g(39.6mmol)をオートクレーブに圧入して、さらに120℃で10時間反応させた。
【0056】
反応終了後、粗生成物をガスクロマトグラフィーにて分析し、四塩化炭素が完全に消費されたことを確認した。粗生成物の3倍量の水で2回洗浄し有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥することでガスクロマトグラフィー純度88.9%のHCFC-241fbを得た。副生成物はエチレンとフッ化ビニルオリゴマーであった。得られた粗生成物を減圧下(10mmHg)で蒸留して留分63〜65℃を集めることにより、純度98%以上のHCFC-241fb、467g(2.35mol、収率86%)を得た。
【0057】
実施例1
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒42.7g (フッ素含有量約16.4重量%)を、内径20mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。
【0058】
この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を300 cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)、窒素(N2)を100 cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)で反応器に供給して2時間維持した。その後、窒素(N2)の供給を止め、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン(HCFC-241fb、純度98.9%)を20cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)の速度で供給し、反応器の温度を281℃に変更した。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するフッ化水素(HF)のモル比は15であり、接触時間(W/F0)は8.0 g・sec/ccであった。目的の反応温度になってから2時間後の反応器の流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表1に示す。
【0059】
各生成物の構造は以下の通りである;
CF3CF=CH2 (HFC-1234yf)
CF3CH=CHF (E-HFC-1234ze + Z-HFC-1234ze )
CF3CF2CH3 (HFC-245cb)
CF3CH2CHF2 (HFC-245fa)
CF3CCl=CH2 (HCFC-1233xf)
CF3CH=CHCl (E-HCFC-1233zd + Z-HCFC-1233zd)
CF3CH=CH2 (HFC-1243zf)
CF3CH2CHCl2 (HCFC-243fa)
実施例2
CrO2.2の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒42.7g (フッ素含有量約17.8重量%)を用いた以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するHFのモル比は15であり、接触時間(W/F0)は8.0g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0060】
実施例3
CrO1.9の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒を36.7g使用し、無水フッ化水素の流量を200 cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)に変更し、反応温度を300℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するHFのモル比は10であり、接触時間(W/F0)は10.0 g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
実施例1で使用したものと同じ触媒を用い、触媒量を35.0gに、無水フッ化水素の流量を400cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)に、反応温度を380℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するHFのモル比は20であり、接触時間(W/F0)は5.0g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0062】
実施例5
CrO1.6の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒42.7g (フッ素含有量約13.9重量%)を用いた以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するHFのモル比は15であり、接触時間(W/F0)は8.0g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0063】
実施例6
(1)触媒の調製工程
硝酸クロム九水和物221.4g(0.549mol)と硝酸ニッケル六水和物41.4g(0.137mol)を純水に溶解させ、総重量2710gの混合溶液とした。この混合溶液の温度を50℃に保ちながら、10重量%アンモニア水402gを攪拌しながら滴下し、ニッケルを含む水酸化クロムの沈殿を得た。次いで、これを濾別し、純水による洗浄の後、その一部を空気中、120℃で12時間乾燥して得られた固形水酸化クロムを0.2mm以下の粒径に粉砕し、粉末状の水酸化クロムを63.4g得た。
【0064】
次いで、これに黒鉛2.5重量%を加えて混合した粉末を、直径3mm、高さ3mmの円柱状ペレットに圧縮成形し、窒素ガス気流下、400℃で2時間焼成して、ニッケル含有酸化クロム46.0gを得た。このニッケル含有酸化クロムのCrの原子価数は、磁化率測定から特定された値より、CrO2.0であった。また、そのX線回折測定(XRD)から、この触媒は非晶質を示していることが確認され、比表面積は187.1m2/gであった。
【0065】
尚、得られた触媒についてSEM(電子顕微鏡)による測定結果より、該触媒中に含まれる金属分の重量比を求めたところ、Ni : Cr = 20.2 : 79.8であった。
【0066】
(2)反応工程
上記(1)工程で調製した触媒にフッ素化処理を施して得られた触媒36.7g(フッ素含有量約15.1重量%)を、内径20mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。
この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を200 cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)、窒素(N2)を100cc/min(0℃、 0.1MPaでの流量)で反応器に供給して2時間維持した。その後、窒素(N2)の供給を止め、1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン(HCFC-241fb、純度98.9%)を20cc/min(0℃、0.1MPaでの流量)の速度で供給し、反応器の温度を300℃に変更した。1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンに対するHFのモル比は10であり、接触時間(W/F0)は10.0g・sec/ccであった。目的の反応温度になってから3時間後の反応器の流出ガスをガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:CCl3CH2CHClFで表される1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンと無水フッ化水素とを、触媒の存在下に、気相中において反応させることを特徴とする、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む含フッ素プロペンの製造方法。
【請求項2】
触媒が、酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化クロムが、組成式:CrO(1.5<m<3)で表される化合物である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸化クロムが、組成式:CrOにおいて、1.8≦m≦2.5の範囲内の化合物である請求項2に記載の方法。
【請求項5】
酸化クロムが、更に、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むものである請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む酸化クロムが、クロムイオンと金属イオンを含む水溶液から沈殿を形成する工程を含む方法で得られたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパン1モルに対して、無水フッ化水素を3モル以上反応させる請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
1,1,1,3-テトラクロロ-3-フルオロプロパンが、四塩化炭素とフッ化ビニルとの反応生成物である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2012−519654(P2012−519654A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537769(P2011−537769)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/053476
【国際公開番号】WO2010/101198
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】