説明

2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含む可燃性プラスチック材料用難燃剤およびその製造法

可燃性プラスチック材料のための難燃剤組成物およびその製造法が開示される。難燃剤組成物は、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンの粒子中に存在する、酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩およびケイ酸よりなる群から選ばれた水不溶性多価金属化合物の金属種の1ないし1000ppmを含んでいる2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンよりなる。この難燃剤組成物は、2,4,6−トリブロモフェノールのアルカリ金属塩と塩化シアヌルとを前記水不溶性多価金属化合物の存在下で反応させることによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含む可燃性プラスチック材料用難燃剤に関する。本発明はまた前記難燃剤の製造法にも関する。
【背景技術】
【0002】
2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンは、プラスチック製品の難燃剤として使用されている。この化合物はアルカリ金属トリブロモフェノラートと塩化シアヌルとの反応、典型的にはナトリウムトリブロモフェノラートと塩化シアヌルとの反応によって合成される。この反応の副生物としてアルカリ金属ハライド、典型的には塩化ナトリウムが生成し、ハライドイオン源が製品に混入することがある。ハライドイオン源を含有する製品は、これを可燃性プラスチックの難燃化に使用する時、種々の不利益をもたらす。一般に熱可塑性樹脂を難燃化する場合は、樹脂と上記難燃剤は共に溶融状態で混合され、溶融状態で成形される。この時難燃剤に含まれるハライドイオン源からのハライドイオンは、押出機のような混合装置の金属部品、あるいは、成型に使用する金型の腐食を促進し、錆の混入による成形体異常を発生させるばかりでなく、成形品の熱安定性および電気的性質、特に耐トラッキング性に悪影響する。また難燃剤は熱硬化性樹脂の難燃化にも使用される。この場合は固体の粉末難燃剤を例えばプリプレグ製造用のワニスに添加し、金属張り積層板に加工される。この場合でもハライドイオン源を含んでいる難燃剤は、プリント配線板のような成形品の電気的性質に悪影響する。
【0003】
2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン(以後“ブロム化フェノキシトリアジン”と呼ぶ。)は、フランス特許第1,566,675号に最初に記載され、トリブロモフェノールのアルカリ金属塩(フェノラート)に塩化シアヌルを反応させることによって製造される。そこでは2,4,6−トリブロモフェノールのナトリウムフェノラートをベンゼン/アセトン混合溶媒へ溶解し、これへアセトン中の塩化シアヌル懸濁液を添加し、反応させている。
【0004】
米国特許第3,843,650号は、トリブロモフェノールナトリウムのエタノール溶液へ塩化シアヌルのテトラヒドロフラン溶液を添加し、米国特許第5,965,731号は、トリブロモフェノールのアセトン溶液へ水酸化ナトリウム水溶液を加えてナトリウム塩とし、これへアセトン中の塩化シアヌル溶液を加えて反応させている。
【0005】
米国特許第4,039,538号は、トリブロモフェノールアルカリ金属フェノラートをメチルまたはエチルセロソルブのようなアルキレングリコールモノアルキルエーテルに溶解し、これへ塩化シアヌルを加えて反応させている。
【0006】
特開平7−25859、平7−25860および平7−25861は、高濃度トリブロモフェノラート水溶液/塩化メチレン混合液へ塩化シアヌルの塩化メチレン溶液または分散液を加え、3級アミンおよび/または相間移動触媒の存在下で反応させている。
【0007】
上記いずれの方法においても、反応の進行と共に副生したNaCl,KCl等のハロゲン化アルカリの系内濃度が増加し、また、目的物であるブロム化フェノキシトリアジンは、水および有機溶媒への溶解度が低いため、系内に結晶として析出して来る。このため生成物が結晶として析出する際に副生したハロゲン化アルカリを取込むことが避けられない。このため、反応に使用する水および/または有機溶媒の体積あたりのフェノラートおよび塩化シアヌルの仕込み量を少なくし、系内の副生したハロゲン化アルカリの濃度を相対的に低くする方法が考えられる。この場合は目的物結晶の析出も当然相対的に低下し、生産効率の面で工業的生産には適用困難である。
【0008】
結晶に取込まれたハロゲン化アルカリは、ハロゲン化アルカリを溶かす水、エタノール、アセトン等の溶媒で洗浄しても結晶内部から抽出、除去することはできない。そのため、ハロゲン化アルカリを取込んだ目的物の結晶をこれを溶かす大量の有機溶媒に溶解し、この溶液から目的物を再結晶するか、またはこの溶液から水でハロゲン化アルカリを逆抽出し、その後溶媒を留去する方法が考えられる。代りに結晶を微粉砕した後、水やアルコールなどでくり返して洗浄する方法も考えられる。これらの方法もやはり生産効率の面で工業的生産には適用困難である。
【0009】
このためハライド塩および他の有難不純物の含有量の少ない2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含む難燃剤に需要がある。また前記難燃剤の製造法にも需要が存在する。
【発明の開示】
【0010】
本発明によれば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩およびケイ酸塩よりなる群から選ばれた不溶性多価金属塩の金属種の1ないし1000ppmを含んでいる、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含む可燃性プラスチック材料用難燃剤が提供される。前記水不溶性多価金属塩は前記2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン中に物理的に分離不能の状態で存在する。
【0011】
また本発明は、アルカリ金属トリブロモフェノラートと塩化シアヌルとを、塩化シアヌルに対し0.01〜10重量%の酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩またはケイ酸から選ばれた不溶性多価金属化合物の微粒子の存在下で反応させるよりなる、前記難燃剤を製造する方法を提供する。
【0012】
特定の理論に拘束されるものではないが、反応系内に存在する前記不溶性金属化合物の微粒子が結晶の成長核として働き、反応の進行につれて生成するブロム化フェノキシトリアジンがハライドイオン源および他の不純物を取込むことなく結晶へ成長するのを促進するものと推測される。その代りに本発明に従って製造されたブロム化フェノキシトリアジンは、1ppm以上の前記不溶性金属化合物に相当する金属種を含んでいるが、その存在はハライドイオン源のように難燃性プラスチック成形品およびそのための成形装置に悪影響しない。
【0013】
別の面において、本発明は、本発明方法によって製造され、低いハライドイオン源および他の不純物含有量を有し、製品が前記不溶性金属化合物に相当する金属種の少なくとも1種を1〜1000ppm含んでいる前記難燃剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明方法は、反応系に前記不溶性金属化合物の微粒子を存在させることを除き、公知方法、例えば上で先行技術として挙げた特許文献に記載されている方法を採用して行われる。
【0015】
本発明方法は、これら公知方法の反応系へ前述した不溶性金属化合物微粒子を添加して実施することができる。この目的に使用するのに適した金属化合物は、多価金属、とりわけマグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムまたはアンチモンなどの酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの塩である。具体例としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸バリウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび三酸化アンチモンなどである。タルク、ベントナイト、カオリン、ゼオライトなどの多価金属のケイ酸塩複合体を含む天然または合成鉱物も使用することができる。本発明において「不溶性金属化合物」とは、25℃において水に対する溶解度が1g/1以下、好ましくは0.5g/1以下であることを意味する。前述したように、これらの化合物が結晶成長の核として働くためには、単位重量あたりの粒子の個数の多い平均粒径の小さい粒子を使用すると添加量が少なくてすむ。そのため不溶性金属化合物微粒子の平均粒径は10μm以下、とりわけ5μm以下であることが好ましい。特にnmのオーダーの平均粒径を有するフュームドシリカが最も好ましい。
【0016】
不溶性金属化合物微粒子の添加量は、一般に塩化シアヌルに対し0.01ないし10重量%の範囲内である。しかしながら前述したように、単位重量当りの粒子の個数、換言すると金属化合物の平均粒子径に応じて変動し得る。すなわち平均粒子径が小さければ小さい程添加量が少なくてすむ。
【0017】
不溶性多価金属化合物の微粒子は、反応生成物の結晶析出が始まるまでに系内に存在しなければならない。典型的には微粒子は、反応剤のいずれか一方、例えばフェノラート溶液へ最初から添加される。塩化シアヌル成分は、フェノラート溶液へ後から添加することができる。代って、微粒子は塩化シアヌル反応剤と同時にフェノラート溶液へ添加してもよい。既製の微粒子の代りに、微粒子は反応系内でスラリーとしてその場で生成させることもできる。例えば、塩化カルシウムと炭酸ナトリウムの反応によって炭酸カルシウムを生成させることができる。同様に、塩化カルシウムとリン酸ナトリウムの反応によってリン酸カルシウムを生成させることができる。
【0018】
反応は、室温ないし反応溶媒の沸点までの温度で実施することができる。しかしながら少なくともすべての反応成分の添加が終了した後、反応完結まで還流温度で反応を継続するのが好ましい。反応後は析出した反応生成物は濾過し、洗浄し、乾燥される。濾過は慣用の濾過装置または遠心機を用いて実施することができ、そして得られた濾過ケーキの洗浄は水、または水とアルカリ金属ハライドを溶かす有機溶媒との混合物を用いて実施することができる。有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、DMF,THF,ジオキサンなどを含む水混和性溶媒が好ましい。臭素化フェノキシトリアジンと溶媒との高められた親和性のため、水混和性溶媒の使用によって洗浄効率が高められる。しかしながら、最終生成物の乾燥時に大気中へのVOCの放出をなくすため、最後の洗浄ステップには水のみを使用するのが好ましい。
【0019】
本発明によれば、ハライドイオン源汚染物の量はNaClに換算して500ppm未満に低減される。この量は、不溶性多価金属化合物の種類とその粒径を適切に選択することによってさらに250ppm未満へ減らすことができる。その代りに生成物は、多価金属化合物の微粒子を、該不溶性多価金属化合物に対応する金属種に換算して1ppmから1000ppmを含んでいる。そのような少量の不溶性多価金属化合物は反応生成物およびそれを含むプラスチック成形品の性能に全くまたは少ししか影響しない。すなわち、この難燃剤はプラスチック成形品の熱安定性を劣化させることも、混合および成形機械の腐食を促進することもない。
【0020】
反応生成物に取込まれたハライドイオンの量は、後述の硝酸銀を使用した電位差滴定によって定量することができ、反応生成物に残留する不溶性金属化合物に由来する金属は原子吸光分析法やプラズマ発光分析法などの常法によって定量することができる。
【0021】
副生するハロゲン化アルカリ以外にも反応系内には未反応アルカリ金属フェノラートのような他の電解質が存在し得る。それらも生成する臭素化フェノキシトリアジン結晶中に取り込まれ得る。これら電解質不純物も汚染された反応生成物を含んでいるプラスチック製品の電気的性質に悪影響する。これら他の電解質不純物はAgNOでの電位差滴定によっては検出できないが、結晶を水で抽出し、そして電解質不純物を含んでいる水の電気伝導度を測定することによって定量的に検出することができる。本発明より、硝酸銀電位差滴定によって測定したハライドイオンのレベルをNaClに換算して500ppm以下へ減らし、そして同時に抽出水の電気伝導度によって代表される、ハライド塩を含む全電解質レベルを50×10−6S/cm未満の許容レベルへ低減させることができる。
【0022】
対照的に、反応系へ不溶性金属化合物微粒子を添加することなく製造された製品は、結晶内部にNaClに換算して少なくとも1000ppmのハライドイオン源と、150×10−6S/cmを上廻る抽出水電気伝導度を示し、これらの値は直接または粉砕後メタノールで洗浄しても許容レベルに達しなかった。
【実施例】
【0023】
以下の実施例により本発明を例証する。実施例中、部および%は特記しない限り重量基準による。
【0024】
第I部 ブロム化フェノキシトリアジンの製造:
材料:
1)塩化シアヌル:デグサ製工業用Fグレード 純度99.7%,金属含量<10ppm
2)炭酸カルシウム:丸尾カルシウム(株)製 ナノックス#30,平均粒径約1μm
3)酸化チタン:石原産業(株)製 PF711,平均粒径約0.25μm
4)フュームドシリカ:日本アエロジル(株)製 アエロジル200、平均粒径12nm
5)沈降性硫酸バリウム:東新化成(株)製,平均粒径0.5μm
6)タルク(ケイ酸マグネシウム):日本タルク(株)製 ミクロエースP−3,平均粒径5μm
7)縮合リン酸アルミニウム(AlH10・2HO)
:テイカ(株)製 K−WHITE#85,平均粒径3.7μm
8)酸化ジルコニウム:第一稀元素化学工業(株)製EPグレード、平均粒径2.2μm
a)三酸化アンチモン:第一工業製薬(株)製AN−800(T),平均粒径1.1μm
試験法:
1)試料中の金属の定量
試料をDMFに溶解し、プラズマ発光分析法(IPC)によって定量した。決定には標準物質を用いて作成した検量線への補内法によった。機器は、(株)リガク製CIROS−120を使用した。
2)NaCl含有量の測定:
試料5.0gを100mlビーカーに採り下2桁まで精秤した。ジオキサン50mlを加えて完全に溶解した後に、撹拌しながらイオン交換水5mlを徐々に添加した。硝酸酸性条件下で0.01mol/l硝酸銀規定液で銀電極を用いて電位差滴定し、得られたハロゲンイオン濃度をNaClの重量%に換算して求めた。尚、ハロゲンイオンの多い場合は0.01mol/l硝酸銀規定液の滴定量が約1〜5mlになるように試料採取量を調整した。
3)抽出水電気伝導度
ポリプロピレン製100ml容器へ試料5.0gを秤取り、ジオキサン30mlを加えて完全に溶解させ、続いて、攪拌しながらイオン交換水50mlを徐々に加えてジオキサンと水との混合溶液とした。このとき、ジオキサンに溶解していたブロム化フェノキシトリアジンの一部が析出し、スラリー状になった。この混合溶液を25±0.5℃に調製後、電気伝導度を測定した。測定には、電気伝導計としてCM−30Sと電極としてCGT−511B(セル定数=0.966/cm)(いずれも東亜電波工業(株)製)を用いた。なお、本測定には、試料を加えずに行うブランク試験において、電気伝導度が1×10−6S/cm以下となるような容器、器具、ジオキサン、およびイオン交換水を用いた。
【0025】
実施例1
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、メチルセロソルブ370mlを仕込み、これへフレーク状NaOH7.2g(0.18mol)と、トリブロモフェノール59.15g(0.18mol)と、炭酸カルシウム0.10g(塩化シアヌルの9%)を加え、60℃に加温し、攪拌した。これへ塩化シアヌル11.1g(0.06mol)を3分間にわたって少しずつ加えた。内温は70℃へ上昇した。反応が進行するにつれ反応混合物はスラリー状となるが、110℃まで昇温し、この温度でさらに反応を継続し、室温まで冷却した。反応混合物をヌッチェを使って濾過し、ケーキを最初100mlのメタノールで洗浄し、次いで毎回水100mlを使用して洗液中のNaClが100ppm以下になるまで水洗を繰り返した。この時の水洗浄回数は3回であった。湿った濾過ケーキは、130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物56.3g(88%)を得た。生成物のNaCl含有量は350ppm、抽出水電気伝導度は40×10−6S/cmであった。
【0026】
実施例2
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、アセトン100mlを仕込み、トリブロモフェノール99.2g(0.3mol)、25%NaOH水溶液50g(NaOHとして0.31mol)、酸化チタン0.2g(塩化シアヌルの1.1%)を加え、還流温度へ加熱した。これへアセトン100ml中18.4g(0.1mol)の塩化シアヌル溶液を30分かけて滴下した。スラリー状となった反応混合物をさらに3時間還流下反応させ、室温まで冷却した。その後反応混合物を濾過し、ケーキを最初アセトン100mlで洗い、次いで毎回100mlの水で洗浄し、洗液中NaClが100ppm以下になるまで繰り返した。水による洗浄回数は3回必要であった。洗浄したケーキは、130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物102g(96%)を得た。このもののNaCl含有量は140ppm、抽出水電気伝導度は18×10−6S/cmであった。
【0027】
実施例3
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、水150g,フレーク状NaOH17.1g(0.43mol)、亜硫酸ナトリウム0.07g,フュームドシリカ12.5mg(塩化シアヌルの0.05%)を加え、均一な溶液になるまで攪拌した。この溶液を10℃に冷却し、それへトリブロモフェノール136g(0.136mol)を加え、溶解した。別に塩化メチレン160gに塩化シアヌル25.0g(0.136mol)と30%トリメチルアミン水溶液1.0gを加えて溶解し、この溶液をフラスコ中のトリブロモフェノール溶液へ3〜30℃の温度で滴下した。滴下終了後還流温度で30分間加熱し、反応させた。その後、塩化メチレンを常圧で留去し、残った反応混合物を室温へ冷却し、析出した沈澱を濾過し、毎回水100mlを使用して洗液中のNaClが100ppm以下になるまで洗浄を繰り返した。水による洗浄回数は3回必要であった。洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物140.8g(97%)を得た。このもののNaCl含有量は220ppm、抽出水電気伝導度は20×10−6S/cmであった。
【0028】
実施例4
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、水96g,フレーク状NaOH34.2g(0.86mol)、亜硫酸ナトリウム0.14gを加えて攪拌溶解した。この溶液を10℃に冷却し、それへ塩化メチレン130gと、トリブロモフェノール272g(0.82mol)を加え、溶解した。この溶液へ冷却しながら(3〜30℃)塩化シアヌル50.0g(0.27mol)とフュームドシリカ75mg(塩化シアヌルの0.3%)を徐々に加えた。添加終了後反応混合物を還流へ加熱し、30分間反応させた。その後塩化メチレンを常圧で留去し、残った反応混合物を室温へ冷却し、析出した沈澱を濾過し、毎回水100mlを用いて洗液中のNaClが100ppm以下になるまで洗浄を繰り返した。水による洗浄は3回必要であった。洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブン中で平衡に達するまで乾燥し、生成物284.3g(98%)を得た。このもののNaCl含有量は90ppm、抽出水電気伝導度は15×10−6S/cmであった。
【0029】
実施例5
実施例3において、フュームドシリカ12.5mgに変えて、沈降性硫酸バリウムを50mg(塩化シアヌルの0.2%)を加えて、全く同じ操作で反応および精製を行った。水洗回数は3回必要であり、洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物142.2g(98%)を得た。このもののNaCl含有量は110ppm、抽出水電気伝導度は20×10−6S/cmであった。
【0030】
実施例6
実施例3において、フュームドシリカ12.5mgに変えて、タルクを0.25g(塩化シアヌルの1.0%)を加えて、全く同じ操作で反応および精製を行った。水洗回数は3回必要であり、洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物142.3g(98%)を得た。このもののNaCl含有量は70ppm、抽出水電気伝導度は12×10−6S/cmであった。
【0031】
実施例7
実施例4において、フュームドシリカ75mgに変えて、縮合リン酸アルミニウムを0.5g(塩化シアヌルの1.0%)を加えて、全く同じ操作で反応および精製を行った。水洗回数は3回必要であり、洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物285.0g(98%)を得た。このもののNaCl含有量は180ppm、抽出水電気伝導度は22×10−6S/cmであった。
【0032】
実施例8
実施例4において、フュームドシリカ75mgに変えて、酸化ジルコニアを0.5g(塩化シアヌルの1.0%)を加えて、全く同じ操作で反応および精製を行った。水洗回数は3回必要であり、洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物283.8g(98%)を得た。このもののNaCl含有量は100ppm、抽出水電気伝導度は17×10−6S/cmであった。
【0033】
実施例9
反応攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、水150g、フレーク状NaOH17.1g(0.43mol)、亜硫酸ナトリウム0.07g、塩化カルシウム0.4gを加え、均一な溶液になるまで攪拌した。続いて、10重量%リン酸水溶液4.0gを攪拌しながらこの溶液に徐々に添加した。このとき、生成したリン酸カルシウムが析出し白濁溶液となった。生成したリン酸カルシウムの平均粒子径を別途測定したところ約3μmであった。また、リン酸カルシウムは水に実質的に溶解しないことから、リン酸カルシウムの存在量は、原料の使用量から約0.5g(塩化シアヌルの約2.0%)と推定される。この白濁溶液を10℃に冷却し、それへトリブロモフェノール136g(0.136mol)を加え、溶解した。その後の操作は、実施例3と全く同じ操作で反応および精製を行った。水洗回数は3回必要であり、洗浄した濾過ケーキは130℃のオーブンで平衡に達するまで乾燥し、生成物142.2g(98%)を得た。このものNaCl含有量は230ppm、抽出水電気伝導度は36×10−6S/cmであった。
【0034】
実施例10
実施例1で使用した同じフラスコに、水150g、フレーク状NaOH17.1g(0.43mol)、亜硫酸ナトリウム0.07g、および三酸化アンチモン0.75g(塩化シアヌルの3.0%)を加えた。混合物を均一な溶液を得るように攪拌し、10℃へ冷却した。これへトリブロモフェノール136g(0.136mol)を加えた。別に塩化シアヌル25.0g(0.136mol)を塩化メチレン160gに溶解し、30%トリメチルアミン水溶液1.0gを加えた。このように調製した塩化シアヌル溶液をフラスコ中のトリブロモフェノール溶液へ3−30℃の温度で滴下した。添加後反応混合物を反応完了まで30分間還流温度へ加熱した。次に塩化メチレンを常圧で留去した。残渣を室温へ冷却し、生成する析出物を濾過し、洗液中のNaCl含量が100ppm以下になるまで毎回100mlの水で数回洗浄した。このNaClレベルへ達するまでに3回の洗浄を要した。洗浄した濾過ケーキをオーブン中130℃において平衡に達するまで乾燥し、所望の生成物285.0g(98%)を得た。この生成物は84ppmのNaCl含有量と、抽出水電気伝導度16×10−6S/cmを示した。
【0035】
比較例1
炭酸カルシウムを添加しなかったことを除き、実施例1を繰り返した。生成物のNaCl含有量は2,300ppm、抽出水電気伝導度は180μS/cmであった。
【0036】
比較例2
酸化チタンを添加しなかったことを除き、実施例2を繰り返した。生成物のNaCl含有量は4,600ppm、抽出水電気伝導度は>200μS/cmであった。
【0037】
比較例3
フュームドシリカを添加しなかったことを除き、実施例3を繰り返した。生成物のNaCl含有量は7,300ppm、抽出水電気伝導度は>200μS/cmであった。
【0038】
比較例4
フュームドシリカを添加しなかったことを除き、実施例4を繰り返した。生成物のNaCl含有量は11,500ppm、抽出水電気伝導度は>200μS/cmであった。
【0039】
比較例5
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えた500mlフラスコに、比較例4で得た生成物(平均粒径100μm)100gとメタノール300mlを仕込み、懸濁液を還流温度で1時間攪拌した。これを室温へ冷却し、濾過して固形分を集め、水100mlで2回洗浄した後130℃のオーブン中で平衡に達するまで乾燥した。この処理によってNaCl含有量は8,900ppmであり、抽出水電気伝導度は>200μS/cmであった。
【0040】
比較例6
比較例4で得た生成物(平均粒径100μm)を平均粒径5μmまで微粉砕し、これを用いて比較例5の操作を繰り返した。NaCl含有量は970ppmであり、抽出水電気伝導度は85μS/cmであった。
【0041】
第II部 製造したブロム化フェノキシトリアジンの評価
材料:
(1)ブロムフェノキシトリアジン:
実施例1−4および比較例1−6の製品を使用した。
(2)ガラス繊維強化ポリブチレンフタレート樹脂:
三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ノバデュラン5010G30
(3)三酸化アンチモン:
第一工業製薬(株)製ピロガードAN−800(T)
(4)酸化防止剤:
チバ・スペシャルティ・ケミカル(株)製イルガノックス245

テストピースの作成:
ガラス繊維強化ポリブチレン 100.0部
テレフタレート樹脂
ブロム化フェノキシトリアジン 12.0部
三酸化アンチモン 4.0部
酸化防止剤 0.2部

上記配合の混合物を直径20mmの2軸押出機に仕込み、設定温度250℃で混練押出して冷却し、ペレットに切断した。このペレットを80℃で24時間減圧乾燥した後、金型温度60℃において射出成形し、それぞれの試験に必要なテストピースを作成した。テストピースは試験直前までデシケータ中に保存した。

評価試験方法:
(1)メルトマスフローレイト(MFR)
成形前のペレットを測定。JIS K7210 A法に準拠して実施した。測定温度は250℃、荷重2.116kgにて行った。
(2)難燃性
UL−94垂直燃焼方法に準拠して実施した。テストピース サイズは、幅12.7mm、長さ127mm、厚み0.8mmとした。
(3)熱変形温度(HDT)
JIS K6810に準じて実施した。但し、テストピース サイズは、幅3.2mm、高さ12.7mm、長さ127mmとして、荷重は4.6kgf/cmとし、0.254mm撓んだ時の温度を読んだ。
(4)曲げ強度
JIS K7203に準拠して測定した。テストピースは幅12.7mm、高さ3.2mm、長さ127mmを用いた。支点間距離68mm、試験速度2mm/分で測定して、最大荷重から計算した。
(5)耐トラッキング性(CTI)
JIS C2134に準拠して実施した。テストピースは、50x50mm、厚み3.2mmの表面の平滑な平板をそのまま用いた。
(6)湿熱処理後の耐トラッキング性(CTI)
湿熱処理は、50x50mm、厚み3.2mmの表面の平滑な平板を80℃x90%RHの恒温高湿器中で1日間保管後、25℃x20%RHの恒温高湿器中で1日間保管した。この操作を10回繰り返した後、80℃にて24時間減圧乾燥して、デシケータ中で室温に戻した。但し、湿熱処理および乾燥時には、耐トラッキング性試験を実施する表面には何も触れないよう注意した。
湿熱処理したテストピースを(5)の方法にて耐トラッキング性の測定を実施した。
(7)熱安定性試験
50x50mm、厚み3.2mmの表面の平滑な平板をテストピースとして、280℃で30分間熱プレスした後の着色を加熱前のテストピースを基準として色差計にて測定した。
評価基準は、ΔE<5:○、ΔE=5〜10:△、ΔE>10:×とした。
(8)金型腐食性試験
表面の清浄なSKD−11焼入れ鋼の上に難燃樹脂ペレット2gを乗せガラス製シャーレをかぶせた。これを280℃に調温したオーブン中で1時間加熱して、シャーレ内側の鋼表面の錆(変色)の発生有無を確認した。
評価基準は、錆(変色)発生有り:×、錆(着色)なし:○とした。
【0042】
結果
第I部の結果を表1および表2に、第II部の結果を表3に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
実施例1〜実施例10が示すように、反応系へ不溶性多価金属化合物を添加することにより反応生成物のNaCl含量を劇的に減少させることが可能である。同時に、水溶性電解質含量を表すパラメータである、反応生成物を抽出するのに使用した水の電気伝導度が50×10−6S/cm以下へ減らされた。実施例1〜10の生成物は反応系へ添加した不溶性多価金属化合物に対応する金属種の検出可能レベルを含有する。この場合、金属種の検出は、結晶性生成物中のNaClおよび他のイオン化不純物の含量が許容レベルへ低減されたことを示す。
【0047】
比較例1〜4の生成物は副生物として生成した多量のNaClを含有することを示した。比較例5において、NaClが可溶のメタノールで生成物を抽出することによってNaCl含量を減らすことを試みた。しかしながらNaCl含量の低減はたった約20%までであった。抽出効率を高めるため、比較例6においては抽出前に反応生成物を微粉砕した。NaCl含量は約1/10へ減らされた。比較例1〜6の結果から、抽出および粉砕ステップのようないくつかの追加のステップが従来の方法の生成物からNaCl含有量を減らすのに必須であると考えられる。これらの追加のステップは生産性のみでなく経済的にも不利である。
【0048】
実施例および比較例の生成物は、難燃性プラスチック製品の製造のために使用する時、性能に明確な相違を示す。色相や機械強度は両者間で匹敵するが、しかし電気的特性の耐久性、特に高温/低温および湿度ヒステリシスを経験した後に改善が実施例の生成物に見られる。実施例の生成物は金型に対して腐食性を持たないことが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩およびケイ酸塩よりなる群から選ばれた水不溶性多価金属化合物の金属種を1ないし1000ppmを含んでいる粒子状2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含み、前記水不溶性多価金属化合物は粒子状2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン中に物理的に分離不能の状態で存在する。可燃性プラスチック材料のための難燃剤組成物。
【請求項2】
前記金属種の量は500ppmまでである請求項1の難燃剤組成物。
【請求項3】
前記金属種は、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムまたはアンチモンである請求項1の難燃剤組成物。
【請求項4】
前記水不溶性多価金属化合物は、タルク、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、ポリリン酸アルミニウム、シリカ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムまたは三酸化アンチモンである請求項1の難燃剤組成物。
【請求項5】
組成物のNaClに換算したハライドイオンの含量が、AgNOを使用した電位差滴定によって測定する時500ppm未満である請求項1の難燃剤組成物。
【請求項6】
組成物の抽出水の電気伝導度が50×10−6S/cm未満である請求項1の難燃剤組成物。
【請求項7】
2,4,6−トリブロモフェノールのアルカリ金属塩と塩化シアヌルとを、塩化シアヌルの0.01ないし10重量%の水不溶性多価金属化合物の微粒子の存在下で反応させることを含む、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを含む可燃性プラスチック材料用難燃剤の製造法。
【請求項8】
前記多価金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムまたはアンチモンである請求項7の方法。
【請求項9】
前記水不溶性多価金属化合物は、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、タルク、ポリリン酸アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、三酸化アンチモンまたはリン酸カルシウムである請求項7の方法。
【請求項10】
前記水不溶性多価金属化合物は、10μm未満の平均粒子径を持っている請求項7の方法。
【請求項11】
前記水不溶性多価金属化合物の微粒子は、前記トリブロモフェノールのアルカリ金属塩の溶液中に存在し、そして前記塩化シアヌル反応剤は前記溶液へ添加される請求項7の方法。
【請求項12】
前記水不溶性多価金属化合物の微粒子と、前記塩化シアヌル反応剤は、前記トリブロモフェノールのアルカリ金属塩の溶液へ同時に添加される請求項7の方法。
【請求項13】
析出した反応生成物を回収するため反応混合物を濾過し、そして回収した反応生成物を水および/またはアルカリ金属ハライドがその中に可溶な有機溶媒で洗浄するステップをさらに含む請求項7の方法。
【請求項14】
洗浄後前記反応生成物を乾燥するステップをさらに含む請求項13の方法。


【公表番号】特表2012−520371(P2012−520371A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553606(P2011−553606)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/JP2009/001982
【国際公開番号】WO2010/125611
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(507192507)ブローミン コンパウンズ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】