説明

22位水酸化酵素

【課題】ソヤサポゲノールBはその生合成前駆体であるβ−アミリンがメバロン酸経路により生成した2,3−オキシドスクアレンが閉環することにより生合成され、さらに、二段階の水酸化反応を経て生合成される。しかしながら、この反応に関与する22位の水酸化酵素の遺伝子は未だ解明されていない。
【解決手段】オレアナン型トリテルペンの22位の水酸化酵素の遺伝子を特定し、特定の遺伝子を組み合わせて共発現させることにより、オレアナン型トリテルペンの22位を水酸化させることを見出した。更に、22位の水酸化酵素の遺伝子を24位の水酸化酵素の遺伝子と合わせて共発現させることにより、ソヤサポゲノールBを大量に効率よく生産することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソヤサポゲノールBの生合成に関与する植物由来の酵素及びその遺伝子並びにそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
トリテルペンサポニンは様々な薬用・食用植物に含まれる化合物群であり、ステロイドもしくはトリテルペノイドに、エーテルもしくはエステル結合によって糖が付加した構造を持つ、代表的な二次代謝産物である。トリテルペンサポニンの生合成は、メバロン酸由来のC30イソプレノイドである2,3−オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)を共通の前駆体とする閉環反応、骨格酸化反応、糖転移反応からなり、各反応の過程でその構造多様性が広がるといわれている。
【0003】
トリテルペンサポニン生合成の最初の段階である閉環反応を触媒する酵素は、ステロイド代謝経路で詳細に検討されている2,3−オキシドスクアレン−ラノステロール閉環酵素との類似性(非特許文献1)や近年の分子生物学の発展などにより、多種の酵素がクローニングされている(非特許文献2及び3)。
【0004】
トリテルペンの構造多様性は続く酸化反応によりさらに複雑なものとなる。しかし、酸化酵素活性の検出が難しいため、その詳細についてはほとんど解明されていない。植物体や培養細胞を用いたインビトロ(in vitro)酵素反応実験や投与実験においてトリテルペンや類似体である二次代謝型ステロイドに対する酸化酵素活性を検出した例は数例に過ぎない(非特許文献4及び5)。
P450をはじめとする多くの酸化酵素は、NADPHやFMNなどほかの因子を要求する膜結合型の酵素であり、安定性が低く、酵素タンパク質の精製が難しい。それゆえ、植物体や培養細胞レベルでの活性をまず検出し、酵素の精製を行い、その情報をもとに生合成遺伝子を同定するという、従来の手法でのトリテルペン酸化酵素のクローニングは、困難を極める。
【0005】
マメ科のダイズ(Glycine max)はトリテルペンサポニンである多種のソヤサポニン類を産生する(非特許文献6及び7)。これらのアグリコン部の構造をもとに、主に2つのグループ、AとBに分類される。その一方であるグループBサポニンのアグリコン部はソヤサポゲノールB[soyasapogenol B (olean-12-ene-3β,22β, 24-triol)]であり、β−アミリン[β-amyrin (olean-12-ene-3β-ol)]の22位及び24位の水酸化体である。すなわち、ダイズにはβ−アミリンを水酸化する酵素が存在すると考えられる。ソヤサポゲノールBはβ−アミリンから2段階の水酸化で生合成されると考えられている。さらに糖転移反応により、最終的にソヤサポニン(例えば、soyasaponin I)が生成する。
β−アミリンの24位の水酸化に関しては、本発明者らが、機能ゲノム学的な手法を用いて、ダイズからβ−アミリン及びソフォラジオール[sophoradiol (olean-12-ene-3β,22β-diol)]の24位を水酸化する酵素CYP93E1を同定している(非特許文献8及び特許文献1)。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO2005/080572号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. J. Corey, S. P. T. Matsuda, B. Bartel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 91, 2211-2215
【非特許文献2】E. J. Corey, S. P. T. Matsuda, B. Bartel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11628-11632
【非特許文献3】J. B. R. Herrera et al., Phytochem. (1998) 49, 1905-1911
【非特許文献4】H. Hayashi et al., Phytochem. (1993) 34, 1303-1307
【非特許文献5】M. Peterson, H. U. Seitz, FEBS Lett. (2006) 1985, 188, 11-14
【非特許文献6】S. Kudou et al., Biosci. Biotech. Biochem. (1993) 57, 546-550
【非特許文献7】M. Shiraiwa et al., Agric. Biol. Chem. (1991) 55, 315-322
【非特許文献8】M. Shibuya, M. Hoshino, Y. Katsube, H. Hayashi, T. Kushiro, Y. Ebizuka, FEBS J. (2006) 273, 948-959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ソヤサポゲノールBの生合成前駆体であるβ−アミリンは、メバロン酸経路により生成した2,3−オキシドスクアレンが閉環することにより生合成され、さらに、二段階の水酸化反応を経てソヤサポゲノールBが生合成される。しかしながら、この反応に関与するオレアナン型トリテルペンの22位の水酸化酵素の遺伝子は未だ解明されていない。そのため、オレアナン型トリテルペンの22位の水酸化酵素を遺伝子工学的に利用することは不可能となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力した結果、オレアナン型トリテルペンの22位の水酸化酵素の遺伝子を特定し、この遺伝子がオレアナン型トリテルペンの22位を水酸化させることを見出した。更に、22位の水酸化酵素の遺伝子を24位の水酸化酵素の遺伝子と合わせて共発現させることにより、ソヤサポゲノールBを大量に効率よく生産することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のものを提供するものである。
1.オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
2.上記1記載のポリヌクレオチドであって、
以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列を含む(好ましくは、からなる)ポリペプチドをコードするDNA、
(b)配列番号1記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含む(好ましくは、からなる)ポリペプチドであって、オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
3.上記1又は2記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
4.上記3記載の組換えベクターによって形質転換された形質転換細胞。
5.形質転換細胞が酵母である、上記4記載の形質転換細胞。
6.下記の(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチド;
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列を含む(好ましくは、からなる)ポリペプチド、
(b)配列番号1記載の塩基配列がコードするアミノ酸配列を含む(好ましくは、からなる)ポリペプチド、
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含む(好ましくは、からなる)ポリペプチドであり、且つオレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチド、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるポリペプチドであり、且つオレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
7.上記1に記載のポリヌクレオチドを有する組換えベクターと、β―アミリン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターとを用意する工程、
前記用意した2つの組換えベクターを同一の宿主細胞内で発現させる工程、
前記発現させた宿主細胞を培養する工程、
前記宿主細胞またはその培養上清からソフォラジオールを精製する工程
を含むことを特徴とする、ソフォラジオールの製造方法。
8.上記7に記載の同一の宿主細胞内において、更に、シトクロムP450還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターを発現させる、上記7に記載の方法。
9.前記宿主細胞が酵母である、上記7又は8に記載の方法。
10.上記1に記載のポリヌクレオチドを有する組換えベクターと、β―アミリン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターと、オレアナン型トリテルペンの24位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターとを用意する工程、
前記用意した3つの組換えベクターを同一の宿主細胞内で発現させる工程、
前記発現させた宿主細胞を培養する工程、
前記宿主細胞またはその培養上清からソヤサポゲノールBを精製する工程
を含むことを特徴とする、ソヤサポゲノールBの製造方法。
11.上記10に記載の同一の宿主細胞内において、更に、シトクロムP450還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターを発現させる、上記10に記載の方法。
12.前記宿主細胞が酵母である、上記10又は11に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素の遺伝子を明らかにすることができた。また、遺伝子工学的手法を用いて、特定の22位水酸化酵素の遺伝子と特定のシトクロムP450の遺伝子を組み合わせて共発現させることにより、22位が水酸化されたオレアナン型トリテルペンを直接培養により大量に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例2で実施したダイズCYP72A61全長配列の決定方法の概略を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例9で作製した形質転換体GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61を作製するときに用いた各プラスミドの構造を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例7で実施した、酵母INVSc1株においてPSY、CYP93E1、GmCPRを共発現させた形質転換体からの抽出物のトータルイオンクロマトグラムを表したものである。A:オレアン−12−エン−3β,24−ジオールアセチル化体標品、B:INVSc1/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-HIS-GmCPR菌体抽出物、C:INVSc1/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図4】図4は、図5における保持時間9.05分ピークのMS開裂パターンを表したものである。A:オレアン−12−エン−3β,24−ジオールアセチル化体標品、B:INVSc1/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-HIS-GmCPR菌体抽出物、C:INVSc1/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図5】図5は、実施例9で実施した、酵母GIL747株においてPSY、GmCPR、CYP72A61を共発現させた形質転換体からの抽出物のトータルイオンクロマトグラムを表したものである。A:ソフォラジオールTMS化体標品、B:GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61菌体抽出物、C:GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図6】図6は、図5における保持時間9.05分ピークのMS開裂パターンを表したものである。A:ソフォラジオールTMS化体標品、B:GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61抽出物である。
【図7】図7は、実施例11で実施した、酵母INVSc1株においてGmCPR及びCYP72A61を共発現させた形質転換体からの抽出物のm/z=306のクロマトグラムを表したものである。A:ソヤサポゲノールB TMS化体標品、B:INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61菌体抽出物、C:INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図8】図8は、図7における保持時間9.85分ピークのMS開裂パターンを表したものである。A:ソヤサポゲノールB TMS化体標品、B:INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61菌体抽出物、C:INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図9】図9は、実施例12で作製した形質転換体GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61の作製に用いた各プラスミドの構造を示す模式図である。
【図10】図10は、実施例12で実施した、酵母GIL747株においてPSY、CYP93E1、GmCPR、CYP72A61の共発現させた形質転換体からの抽出物のトータルイオンクロマトグラムを表したものである。A:ソフォラジオールTMS化体標品、B:ソヤサポゲノールB TMS化体標品、C:GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61菌体抽出物、D:GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS菌体抽出物である。
【図11】図11は、図10における保持時間9.85分ピークのMS開裂パターンを表したものである。B:ソヤサポゲノールB TMS化体標品、C:GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61菌体抽出物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるオレアナン型トリテルペンとしては、例えば、β−アミリン、ソフォラジオール、オレアン−12−エン−3β,24−ジオール、ソヤサポゲノールA、ソヤサポゲノールBなどが知られているが、本発明におけるオレアナン型トリテルペンは、上記の物質に限定されるものではない。
22位が水酸化されるオレアナン型トリテルペンとしては、β−アミリン、オレアン−12−エン−3β,24−ジオールなどが挙げられるが、本発明の方法により22位が水酸化される物質であれば、これらの物質に限定されるものではない。
【0015】
ダイズ由来のEST及び機能未解明の塩基配列が報告されているシトクロムP450クローン5種[TIGR (The Institute for Genomic Research) Accession Number: TC204312, TC225935, TC218097, TC224852, TC209136]を選択した。この中で、CYP72A61(GenBank Accession Number: DQ335793, TIGR Accession Number: TC204312)に高い相同性を示した配列番号1のポリヌクレオチドが22位の水酸化活性を有していた。しかし、他の4種の塩基配列については、22位の水酸化活性が認められなかった。
【0016】
本発明において、配列番号1のポリヌクレオチド又はその均等体の転写・翻訳産物を利用して22位が水酸化されたオレアナン型トリテルペンを製造することができる。なお、均等体とは、配列番号1で表される塩基配列でコードされるアミノ酸配列(すなわち、配列番号2で表されるアミノ酸配列)からなるポリペプチドの有する機能(特には、オレアナン型トリテルペンの22位を水酸化する活性)と同一機能を有し、配列番号1のポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列をいう。
【0017】
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、配列番号1のポリヌクレオチドを有するDNAの一部又は全部あるいはその相補鎖をプローブとして、ハイブリダイズを使用する手法によりポリヌクレオチドを確認することをいう。ハイブリダイズを使用する手法としては、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法などが挙げられる。具体的には、0.5mol/Lの塩化ナトリウム存在下、55℃でハイブリダイゼーションを行なった後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L NaCl、15mmol/L クエン酸ナトリウム、pH7.0からなる)を用いる場合が一例として挙げられる。
ハイブリダイゼーションは、Molecular cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed. T.Maniatis et al., Cold Spring Harbor laboratory, 1989などに記載されている方法に準じて行なうことができる。
【0018】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、特にはDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の同一性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。同一性とは、比較される配列間において、各々の配列を構成する塩基の一致の程度の意味で用いられる。具体的には、BLAST(National Center for Biotechnology Information)を用いて計算したときに、配列番号1のポリヌクレオチドと少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0019】
配列番号1のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつオレアナン型トリテルペンの22位を水酸化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、具体的には、配列番号1の塩基配列において、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加され、かつ、オレアナン型トリテルペンの22位を水酸化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されるヌクレオチドの個数は、上記の活性を有するポリペプチドをコードする数であれば、特に限定されない。
【0020】
シトクロムP450遺伝子CYP72A61のポリヌクレオチドに対する変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異も含む。人為的に変異させる手段としては、シトクロムP450遺伝子CYP72A61のポリヌクレオチドを用いて、ランダム変異、あるいは部位特異的突然変異を導入し、遺伝子工学的に、1若しくは複数のヌクレオチド残基が欠失、置換、挿入、若しくは付加の少なくとも1つがなされているポリヌクレオチドを得る方法が挙げられる。こうして得られた変異ポリヌクレオチドを利用することにより、本酵素の活性の至適温度、熱安定性、至適pH、pH安定性、基質特異性等の性質が異なったポリペプチドを得ることが可能となる。
【0021】
本発明において、「アミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法により、又は天然に生じ得る程度の数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。アミノ酸の改変の個数は、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜30個、更に好ましくは1〜10個、更により好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜2である。
本発明のポリペプチドの改変アミノ酸配列の例は、好ましくは、そのアミノ酸が、1又は数個(好ましくは、1、2、3又は4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であることができる。
【0022】
ここで、「保存的置換」とは、1若しくは数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0023】
22位が水酸化されたオレアナン型トリテルペンを産生し得る、微生物、植物又は動物に対して、シトクロムP450遺伝子CYP72A61の塩基配列を有するポリヌクレオチドの一部、全部又はその相補鎖をプローブとして、ハイブリダイズを使用する手法(例えば、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法など)または、シトクロムP450遺伝子CYP72A61の塩基配列を有するポリヌクレオチドの一部、全部又はその相補鎖をプライマーとして、PCRを行う手法等によって、シトクロムP450遺伝子CYP72A61のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、オレアナン型トリテルペンの22位を水酸化する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得ることもできる。
また、上記のポリヌクレオチドは、塩基配列の情報を基にして、化学合成によって得ることもできる。その方法は、Gene, 60, 1, 115-127,1987の記載を参照して行うことができる。
【0024】
本発明の遺伝子又は組換えベクターを適当な宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。
また、本発明において、オレアナン型トリテルペンの24位を水酸化する活性を有するポリペプチドをコードするDNA、あるいはβ―アミリン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを宿主細胞に導入することもできる。前者の例としては、国際公開第WO2005/080572号パンフレット記載のオレアナン型トリテルペンの24位水酸化酵素遺伝子pESC-CYP93E1、後者の例としては、β−アミリン合成酵素遺伝子PSY(Accession No.AB034802、Eur.J.Biochem.,267,p.3543-3460,2000)が挙げられる。
宿主細胞としては、本発明の遺伝子を発現できれば任意の細胞でよく、種類は特に限定されず、微生物、酵母、糸状菌、植物、動物などを用いることができる。例えば、微生物としては、バチルス属やストレプトマイセス属などのグラム陽性菌、大腸菌などのグラム陰性菌などが挙げられる。
【0025】
酵母としては、例えば、ヘム合成能及び脂質酸合成能が欠損しているGIL747株を用いることができる。このGIL747株はGL7株(E.G.Gollub et al., J. Biol. Chem., 252, 2846-2854 (1977))とW303株(Genetics 142(3):749-59)を掛け合せた菌株であり、本発明で用いることのできるその他の酵母としては、ラノステロール合成酵素ERG7が欠損しているGIL77株(Kushiro,T. et al., Eur. J. Biochem., 256, 238-2448(1998))を用いることができる。また、INVSc1株(Invitogen社製)、INVSc2株(Invitogen社製)なども用いることができる。
【0026】
糸状菌としては、アスペルギルス属、ニューロスポラ属、フザリウム属、トリコデルマ属などを用いることができる。植物としては、ダイズなどを用いることができる。また、動物としては、カイコなどを用いることができる。哺乳類細胞としては、HFK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞などを用いることができる。
【0027】
宿主細胞の培地、培養条件は、公知の方法により適宜選択して用いることができる。微生物を宿主細胞として用いる場合、得られた形質転換体を培養する培地は、当該微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行なえる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0028】
炭素源としては、ポテトデキストロース、グルコース、スクロース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機塩、若しくは有機酸のアンモニウム塩、その他の窒素化合物、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、肉エキスなどを用いることができる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸マグネシウムなどを用いることができる。
【0029】
微生物の形質転換では、プロトプラスト法、コンピテント細胞を用いる方法などを用いることができる。酵母を宿主細胞として組み換えベクターを導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法などを挙げることができる。宿主細胞がカイコの場合、例えば、バキュロウイルス発現系を用いた公知の方法(Appl.Microbiol.Biotechol.,62,1-20,2003)により、本発明のポリペプチドを発現させることができる。
【0030】
また、植物細胞を宿主細胞として形質転換体を作製する場合、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのTiプラスミド又はバイナリープラスミド系、アグロバクテリウム・リゾジェネスのRiプラスミド、ポリエチレングリコールを用いる直接的な遺伝子伝達またはエレクトロポレーション法が有効である(Methods in Molecular Biology, 267, Recombinant Gene Expression, 329-350,2004)。
【0031】
本発明の遺伝子は適当なベクターに挿入して用いることができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されない。例えば、自立的に複製するベクター(例えば、プラスミドなど)でもよいし、あるいは宿主細胞に導入された際に宿主のゲノムに組み込みことが可能であり、また、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。その中でもベクターとしては、発現ベクターを用いるのが好ましい。
【0032】
発現ベクターとしては、本発明のポリヌクレオチドを転写できる位置にプロモーターを含有しているものを用いることができる。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
宿主細胞が微生物である場合、発現ベクターとしては、例えば、pBuescript(Stratagene社製)、pUC(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)、pUC19(タカラバイオ社製)などが挙げられる。
そして、プロモーターとしては、大腸菌、糸状菌などの宿主細胞中で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)などの大腸菌やファージなどに由来するプロモーター、タカアミラーゼ遺伝子プロモーター、TEF1遺伝子プロモーターなどの麹菌などに由来するプロモーターなどを挙げることができる。また、人為的に設計や改変を行なったプロモーターなども用いることができる。
【0033】
宿主細胞が酵母である場合、発現ベクターとしては、例えば、pAUR101(タカラバイオ社製)、pAUR112(タカラバイオ社製)、pI-RED1(東洋紡績社製)、pYES2(Invitogen社製)、pESC-URA(Stratagene社製)、pESC-HIS(Stratagene社製)、pESC-LES(Stratagene社製)などが挙げられる。
このときのプロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば特に限定されない。例えば、解糖系酵素遺伝子プロモーター、Galプロモーターなどのプロモーターなどを用いることができる。
【0034】
本発明の組み換えベクターはさらに形質転換体を選択するための選択マーカーを含んでいてもよい。選択マーカーとしては、薬剤耐性マーカー遺伝子や栄養要求マーカー遺伝子などを適宜用いることができ、例えば、宿主が細菌である場合にはアンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等、宿主が酵母である場合にはトリプトファン合成遺伝子(例えばTRP1)、ウラシル合成遺伝子(例えばURA3)、ロイシン合成遺伝子(例えばLEU2)等、宿主がカビである場合にはハイグロマイシン耐性遺伝子(Hyg)、ビアラホス耐性遺伝子(Bar)、硝酸還元酵素遺伝子(niaD)等を用いることができる。
【0035】
組み換えベクターの導入方法としては、上記の宿主細胞にポリヌクレオチドを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972))、エレクトロポレーション法(Methods. Enzymol., 194, 182 (1990))、スフェロプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 1929 (1978))、酢酸リチウム法(J. Bacteriol. 153, 163 (1983))などが挙げられる。
【0036】
本発明の形質転換体は、色々な態様があるが、例えば、酵母GIL747株を用い、これに2種類のプラスミドpESC-URA-PSY及びpESC-HIS-CYP72A61を組み込んで作製することができる。この形質転換体によれば、ソフォラジオールを製造することができる。この場合、更にダイズ由来のNADPH−シトクロムP450還元酵素(GmCPR)遺伝子(Accession No. AY170374)をプラスミドpESC-LEU-GmCPRとして加えることにより、共発現系でP450の活性が更に増大させることができる。このGmCPRを加えた形質転換体酵母をGIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61と命名し、平成21年6月30日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM BP-11138として寄託されている。
【0037】
本発明の形質転換体を用いてソヤサポゲノールBを製造する場合、例えば、酵母INVSc1株を用い、これにプラスミドpESC-HIS-CYP72A61及びpESC-LEU-GmCPRを組み込み、オレアン−12−エン−3β,24−ジオールを添加することでソヤサポゲノールBを製造することができる。また、例えば、酵母GIL747株を用い、これに3種類のプラスミドpESC-URA-PSY-CYP93E1、pESC-LEU-GmCPR、pESC-HIS-CYP72A61を組み込むことで製造することができる。すなわち、本発明の22位水酸化酵素の遺伝子と共に24位水酸化酵素の遺伝子を組み込むことにより、一工程でβ−アミリンからソヤサポゲノールBを製造することができる。なお、上記形質転換体酵母をGIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61と命名し、平成21年6月30日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM BP-11139として寄託されている。
【0038】
オレアン−12−エン−3β,24−ジオールは、酵母GIL77株にプラスミドpESC-PSY-CYP93E1を組み込んだ形質転換体酵母により製造することができる。なお、上記形質転換体酵母をGIL77/pESC-PSY-CYP93E1と命名し、平成16年2月6日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM P-19675として寄託され、平成17年1月6日に国際寄託(受託番号FERM BP-10201)へ移管されている。
【0039】
本発明のポリペプチドを形質転換体の培養物から単離精製するには、公知の酵素の単離、精製法を用いることができる。
例えば、本発明のポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、緩衝液に懸濁して、ホモジナイザー、超音波破砕機、フレンチプレス等により細胞を破砕後、遠心分離して無細胞抽出液を得る。さらに、該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の酵素の単離精製法で用いられる手法により精製したポリペプチドを得ることもできる。
緩衝液には、ポリペプチドの失活を防ぐため、抗酸化剤、酵素の安定化剤、ポリフェノール吸着剤、金属配位子などを添加することができる。さらに、比活性を高めるために、ポリペプチドを精製することも有効である。
精製方法としては、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、陰イオン交換クロマトグラフィー法、陽イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等が挙げられ、これらは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0040】
また、本発明のポリペプチドが細胞内に不溶状態で発現した場合は、上記と同様に細胞を破砕後、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法によりポリペプチドを回収することができる。さらに、得られたポリペプチドの不溶体を変性剤で可溶化し、希薄溶液に希釈あるいは透析した後、上記と同様の単離精製法により精製ポリペプチドを得ることができる。
【0041】
本発明のポリペプチドが細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチドあるいはその誘導体を回収することができる。そして、培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製ポリペプチドを得ることができる。
【0042】
得られたポリペプチドを含む緩衝液に、基質となるオレアナン型トリテルペン並びに補酵素を添加して、15〜40℃、好ましくは20〜37℃でインキュベートする。補酵素としては、NADHあるいはNADPHが利用でき、グルコース−6−リン酸とグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いたNADPH再構成系を併用できる。また、形質転換細胞が産生するNADPH−P450リダクターゼ以外のNADPH−P450リダクターゼの遺伝子を外部から組み込んで水酸化反応を起こさせることもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
《実施例1》ダイズ種子からのcDNAの調製
ダイズ(Glycine max)種子(青大豆、虎屋産業株式会社)を湿らせた脱脂綿上に蒔き、25℃、暗所条件下で5日間育成した。得られた芽生え5.3gを回収し、液体窒素で凍結し、乳鉢を用いて細かくすり潰した。これをpH9.0の1mol/L トリス−塩酸緩衝液4.5mLへ懸濁し、さらに5mLのフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール25:24:1の溶液(pH9.0の1mol/Lの1mol/L トリス−塩酸緩衝液を加え、飽和させたものである。以下、PCIという)及び0.5mLの10%SDS水溶液を加え、氷上でよく混合した。これを1mLずつ分注し、4℃、15000rpmで5分間遠心し、上層を回収した。更に、この溶液に400μLのPCIを加えてよく混合し、前記同一条件で上層を回収した。これらの上層を合わせて240μLずつ分注し、それぞれに3mol/L酢酸ナトリウム水溶液24μL及びエタノール800μLを加え、−80℃で1時間冷却し、エタノール沈殿を行った。これを4℃、15000rpmで10分間遠心し、上清を廃棄して、沈殿を合計800μLの滅菌水に溶解してひとつにまとめた。更にそれを4℃、15000rpmで10分間遠心し、上清を回収し、350μLずつ2本のチューブに分注した。それぞれに350μLの4mol/L塩化リチウム水溶液を加えて混合し、4℃、15000rpmで10分間遠心して上清を廃棄した。それぞれに180μLの70%エタノール水溶液を加え、4℃、15000rpmで1分間遠心して上清を廃棄した。真空乾燥後、それぞれに50μLの滅菌水を加えて沈殿を溶解し、全RNA(各0.78μg/μL、1.17μg/μL)を得た。
【0045】
この全RNA5μgに1μLのオリゴdTプライマー(RACE32)を加え、Super Script(商標)III逆転写酵素(Invitrogen社製)を用い、添付されているマニュアルに従って逆転写反応を行った。得られた産物に滅菌水80μLを加えて希釈し、PCR用のダイズのcDNAテンプレートを調製した。
【0046】
RACE32:
5’- gac tcg agt cga cat cga t14 -3’ (配列番号3)
【0047】
《実施例2》CYP72A61全長配列の決定
ダイズESTデータベース(http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/plant.html)上のダイズCYP72A61は、N末端部分を150アミノ酸残基程度欠けた部分長TC(Tentative Consensus)配列TC204312であった。なお、現在はTC343128へ引き継がれている。
この部分長TC配列TC204312は、GenBank上にあるMedicago truncatula(マメ科)のCYP72A61(MtCYP72A61:Accession No. DQ335793)と83%の高い相同性を示した。
このMtCYP72A61配列をもとにプライマーを設計し、TC204312の上流配列を確認した。このMtCYP72A61配列と49%の相同性を有するArabidopsis thaliana(アブラナ科)のCYP72A5(ABCYP72A5)の配列を比較したところ、N末端から50bpほどのところに、保存されたトリプトファンを含む配列が存在した。そのトリプトファンを指定するコドンは1つであったため、この部分に相当するMtCYP72A61塩基配列をもとにしてセンスプライマー(Mt72A61-S)を設計した。また、アンチセンスプライマー(GmTC204312-1st)はTC204312配列のC末端から1100bpほど上流の配列をもとに設計した。この2つのプライマーと実施例1で調製したcDNAテンプレートを用いてPCR法により断片の増幅を行った。
【0048】
ここで得られた増幅断片をアガロースゲル電気泳動後、DNA分子量マーカーKb ladder(タカラバイオ社製)により、目的断片付近(350〜450bp)を切り出し、MonoFas(商標)DNA精製Kit I(GL Sciences社製)で精製し、10μLの滅菌水で溶出した。この溶出物の1μLをテンプレートとしてセンスプライマー(Mt72A61-S)とアンチセンスプライマー(GmTC204312-2nd)を用いてPCRを行った。その反応後、反応液をSuprec 02(商標)filter(タカラバイオ社製)に移し、プライマーを除去した後、エタノール沈殿を行い、20μLの滅菌水に溶解した。DNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用いて、この断片とpT7bule T-vector(Novagen社製)のライゲーションを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、LB(+amp, X-gal, IPTG)プレートで37℃、16時間培養した。生じたコロニーのうち白色のコロニーについて、コロニーPCRで確認してコロニーを選抜した。選抜したコロニーをLB(+amp)培地で37℃、16時間培養した。GFX Micro Plasmid Prep kit(GE Healthcare社製)を用いて大腸菌培養液からプラスミドを精製した。このプラスミドについて、インサートの核酸配列をキャピラリーDNAシーケンサーABI PRISM(商標)3100(Applied Biosystem社製)によりTC204312のN末上流の配列の一部を確認した。
【0049】
更に上流の配列を決定するために、5’−RACE(Rapid Amplification of cDNA End)を行った。実施例1で調製したダイズRNAを鋳型とし、RACE32プライマーの代わりにTC204312のC末端配列をもとに設計したアンチセンスプライマー(GmTC204312-ClaI-C)を用いてSuper Script(商標)III(Invitrogen社製)のマニュアルに従って、逆転写反応を行い、5’−RACE用のcDNAテンプレートを調製した。これを鋳型とし、RACE32プライマーと、先のPCRで得た配列をもとに設計したアンチセンスプライマー(GmTC204312-3rd)を用いてPCRを行った。
【0050】
得られた断片を精製後、その一部をテンプレートとしてセンスプライマー(RACE17)とアンチセンスプライマー(GmTC204312-4th)を用いたPCRを行った。その反応後、反応液をSuprec 02(商標)filter(タカラバイオ株式会社製)に移し、プライマーを除去した後、エタノール沈殿を行い、10μLの滅菌水に溶解した。DNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用いて、この断片とpT7blue T-vector(Novagen社製)のライゲーションを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、LB(+amp, X-gal, IPTG)プレートで37℃、16時間培養した。生じたコロニーのうち白色のコロニーについて、コロニーPCRで確認してコロニーを選抜し、これらをLB(+amp)培地で37℃、16時間培養した。GFX Micro Plasmid Prep kit(GE Healthcare社製)を用いて、大腸菌培養液からプラスミドを精製した。これらについて、インサートの核酸配列をキャピラリーDNAシーケンサーABI PRISM(商標)3100(Applied Biosystem社製)により確認し、CYP72A61の全長配列(塩基配列が配列番号1、アミノ酸配列が配列番号2である)を決定した。本実施例の手順の概略を図1に示す。
【0051】
Mt72A61−S:
5’- gtg ttg ata tgg tgg att tgg -3’ (配列番号4)

GmTC204312−1st:
5’- ctg tgt tta gcc cac ttg tcg cca tc -3’ (配列番号5)

GmTC204312-2nd:
5’- ctt gaa aag tgg act agt gtc ggg c -3’ (配列番号6)

GmTC204312-3rd:
5’- tcc aat caa agg gcg gta gg -3’ (配列番号7)

GmTC204312-ClaI-C:
5’- ggt agc tac tag agt ttg cgt aaa atg aga tga gcc -3’ (配列番号8)

RACE17:
5’- gac tcg agt cga cat cg -3’ (配列番号9)

GmTC204312-4th:
5’- ttg aga cgc ctc tct atc ctc -3’ (配列番号10)
【0052】
《実施例3》ダイズ由来NADPH−シトクロムP450還元酵素(GmCPR)遺伝子のクローニング
Siminszkyらの報告(B. Siminszky et al., Pest. Biochem. Physiol. (2003) 77, 35-43)をもとに、GenBankより、ダイズ由来のGmCPR(Accession No. AY170374)配列情報を得た。これをもとに、開始コドン上流にBamHIサイトを付加したN末端プライマー(GMR-BamHI-S)及び終止コドン下流にSalIサイトを付加したC末端プライマー(GMR-SalI-A)を設計し、実施例1で調製したPCR用のダイズcDNAテンプレートからPCRにより断片の増幅を行った。その結果、目的とする約2kbpの増幅断片が得られていることを電気泳動で確認した。
【0053】
GMR-BamHI-S:
5’- gtt tgt gga tcc acc atg gct tcg aat tcc -3’ (配列番号11)
(下線部はBamHI認識部位である)

GMR-SalI-A:
5’- taa tca gtc gac tta cca gac atc tct aag -3’ (配列番号12)
(下線部はSalI認識部位である)
【0054】
《実施例4》発現プラスミドpESC-HIS-GmCPRの構築
実施例3の残りの反応液全量についてSuprec 02(商標) filterを用いてプライマーを除去し、その液量と等量のPCIを加えて撹拌後、15000rpmで5分間遠心し、上層を回収した。これをエタノール沈殿に供して増幅断片を回収し、制限酵素BamHI、SalIで消化を行った後、エタノール沈殿によりGmCPR断片を回収し、挿入した。同様に酵母発現用ベクターpESC-HIS(Stranagene社製)をBamHI、SalIで酵素消化後、エタノール沈殿により回収し、これをアルカリホスファターゼ(Shrimp由来)(タカラバイオ社製)を用いて末端を脱リン酸化後、エタノール沈殿により回収した。これらをDNA Ligation Kit Ver.2.1を用いてライゲーションを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、LB(+amp)プレートで37℃、16時間培養した。生じたコロニーについて、コロニーPCRで確認してコロニーの選抜を行い、これらをLB(+amp)培地で37℃、16時間培養した。GFX Micro Plasmid Prep kitを用いて大腸菌培養液からプラスミドを精製し、プラスミド溶液の一部をNheIで消化して、得られたプラスミドが目的のものであることを確認した。これらについて、インサートの核酸配列をキャピラリーDNAシーケンサーABI PRISM(商標)3100(Applied Biosystem社製)により、pESC-HIS-GmCPRと確認した。
【0055】
《実施例5》発現プラスミドpESC-LEU-GmCPRの構築
実施例4のpESC-HIS-GmCPRプラスミド溶液を制限酵素BamHI、SalIで消化し、この全量をGel Indicator(商標) DX(BioDynamics Laboratory 社製)を用いて染色したアガロースゲルSeakem(商標) ME agarose(Cambrex社製)で電気泳動し、GmCPRに相当する約2kbpの断片を切り出し、MonoFas(商標) DNA精製Kit I(GL Sciences社製)で精製した。一方、発現用ベクターpESC-LEU(Stranagene社製)はBamHI、SalIで消化後、エタノール沈殿により回収した。これをアルカリホスファターゼ(Shrimp由来)(タカラバイオ社製)を用いて末端を脱リン酸化後、エタノール沈殿により回収した。
【0056】
これと精製したGmCPR断片をDNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションし、大腸菌DH5αを形質転換し、LB(+amp)プレートで37℃、16時間培養した。生じたコロニーについて、コロニーPCRで確認してコロニーの選抜を行い、これらをLB(+amp)培地で37℃、16時間培養した。GFX Micro Plasmid Prep kit(GE Healthcare社製)を用いて大腸菌培養液からプラスミドを精製し、プラスミド溶液の一部を制限酵素ClaIで消化した。このプラスミドのインサートの核酸配列をキャピラリーDNAシーケンサーABI PRISM(商標)3100(Applied Biosystem社製)により、pESC-LEU-GmCPRと確認した(図2)。
【0057】
《実施例6》発現プラスミドpESC-URA-PSY-CYP93E1の構築
ガラクトース誘導性発現ベクターpESC-URA(Stranagene社製)のマルチクローニングサイト2にエンドウ(Pisum sativum)由来のβ−アミリン合成酵素遺伝子PSY(Accession No.AB034802、Eur.J.Biochem.,267,p.3543-3460,2000)を組み込んだ発現プラスミドpESC-URA-PSY(図2)を大腸菌DH5αへ導入し、プラスミドを増幅して調製した。このプラスミドのマルチクローニングサイト1にpESC-CYP93E1を組み込んでpESC-URA-PSY-CYP93E1を調製した。なお、pESC-CYP93E1は国際公開第WO2005/080572号パンフレット記載の方法により調製したものを用いた。
【0058】
《実施例7》酵母INVSc1株におけるpESC-URA-PSY-CYP93E1、pESC-HIS-GmCPR共発現
実施例3で得られたGmCPRを共発現系に加えた場合と加えない場合とを比較して、CYP93E1のβ−アミリン水酸化活性の増大の有無を確認した。宿主細胞にはウラシル(URA)、ヒスチジン(HIS)、ロイシン(LEU)、トリプトファン(TRP)の4つの選択マーカーをもつ酵母INVSc1株(Invitrogen)を用いた。
Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)(ZYMO RESEARCH社製)により、ウラシル、ヒスチジンを除いた、グルコースを炭素源とする合成完全(SC−U−H)寒天培地で30℃、2日間培養し、INVSc1株をpESC-URA-PSY-CYP93E1とpESC-HIS-GmCPRの2種のプラスミドで形質転換して、形質転換酵母INVSc1/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-HIS-GmCPRを得た。なお、SC−U培地の調製は、Methods in Yeast Genetics, A Laboratory Course manual, Cold Spring Harbar Laboratory Press, 1990の記載に基づいて行った。
【0059】
この培地上のコロニーを20mLのSC−U−H液体培地に植菌し、30℃で2日間振倒培養した。そして、この培地からグルコースを除いたSC−U−H−Glu液体培地へ置換し、20%ガラクトース水溶液(終濃度2%)及びヘミン(終濃度13μg/mL)を加えて、さらに30℃で2日間振倒培養した。この培養液を1700rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。これに20%水酸化カリウム水溶液(50%エタノール含有)を加えて5分間煮沸した。その後、ヘキサン2mLを用いて脂溶性物質を抽出した。他方、pESC-HIS-GmCPRの代わりに空ベクターpESC-HISを用いた形質転換体を同様に作製し、脂溶性物質を得た。
【0060】
これらの抽出物に100μLの無水酢酸及び20μLのピリジンを加え、室温で12時間反応させ、アセチル化した。100μLのメタノール及び200μLの滅菌水を加えて反応を停止し、脂溶性物質をヘキサン2mLで2回抽出した。その脂溶性物質を200μLのアセトンに溶解し、その1μLをGC−MSで分析した。その結果、トータルイオンクロマトグラム上で、GmCPRを組み込んだ形質転換体(図3−B)はGmCPRを組み込まない形質転換体(図3−C)よりも、オレアン−12−エン−3β,24−ジオールの生成量が明らかに増大した。よって、GmCPRを共発現系に加えることでP450の活性を増大させることが確認できた(図3、図4)。
【0061】
《実施例8》発現プラスミドpESC-HIS-CYP72A61の構築
実施例2で得られた配列情報をもとに、開始コドン上流にClaIサイトを付加したN末端センスプライマー(CYP72A61-ClaI-S)及び終止コドン下流にSacIサイトを付加したアンチセンスプライマー(CYP72A61-SacI-R)を設計し、実施例1で作製したダイズcDNAテンプレートからPCRにより断片の増幅を行った。
CYP72A61-ClaI-S:
5’- gaa ttc atc gat gct tat gtc tgg cac ag -3’ (配列番号13)
(下線部はClaI認識部位である)

CYP72A61-SacI-R:
5’- gaa ttc gag ctc aga gtt tgc gta aaa tg -3’ (配列番号14)
(下線部はSacI認識部位である)
【0062】
目的とする約1600bpの断片が得られていることを電気泳動により確認した後、残りの反応液全量についてSuprec 02(商標) filter(タカラバイオ社製)を用いてプライマーを除去し、その液量と等量のPCIを加えて撹拌後、15000rpmで5分間遠心し、上層を回収した。これをエタノール沈殿に供して増幅断片を回収し、ClaI、SacIで酵素消化を行った後、エタノール沈殿により断片を回収し、DNAインサートとした。
【0063】
同様にpESC-HISをClaI、SacIで酵素消化後、エタノール沈殿により回収し、これをアルカリホスファターゼ(Shrimp由来)(タカラバイオ社製)を用いて末端を脱リン酸化後、エタノール沈殿により回収した。これらをDNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用いてライゲーションを行い、大腸菌DH5αを形質転換し、LB(+amp)プレートで37℃、16時間培養した。生じたコロニーについて、コロニーPCRで確認してコロニーの選抜を行い、これらをLB(+amp)培地で37℃、16時間培養した。GFX Micro Plasmid Prep kit(GE Healthcare社製)を用いて大腸菌培養液からプラスミドを精製し、プラスミド溶液の一部をNheIで消化した。このプラスミドのインサートの核酸配列をキャピラリーDNAシーケンサーABI PRISM(商標)3100(Applied Biosystem社製)により、pESC-HIS-CYP72A61と確認した(図2)。
【0064】
《実施例9》形質転換体GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61の調製及び抽出物の同定
YPD(1%イーストエキストラクト、2%ペプトン、2%グルコース)+HET[ヘミン(終濃度13μg/mL)、エルゴステロール(終濃度20μg/mL)、tween80(終濃度38mg/mL)]寒天培地上のGIL747株のコロニーを10mLのYPD+HET液体培地に植菌し、30℃、220rpmで 2日間振倒培養し、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標) (ZYMO RESEARCH社製)を用いて、GIL747のコンピテントセルを調製し、−80℃で保存した。なお、前記GIL747株は、東京大学大学院薬学研究系研究科天然物化学研究室において分譲可能な状態で保管されている。
【0065】
このGIL747コンピテントセルを用いて、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)のプロトコルに従い、GIL747株にpESC-URA-PSYを導入し、SC−U+HET寒天培地で30℃、2日間培養した。このプレート上のコロニーを、10mLのSC−U+HET液体培地に植菌し、30℃、220rpmで2日間振倒培養し、同様の方法によりGIL747/pESC-URA-PSYコンピテントセルを調製し、−80℃で保存した。
さらに、このGIL747/pESC-URA-PSYコンピテントセルを用いて、先と同様に、GIL747/pESC-URA-PSYに実施例5で調製したpESC-LEU-GmCPR及び実施例8で調製したpESC-HIS-CYP72A61を導入し、SC−U−L−H+HET寒天培地で30℃、3日間培養し、GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61を調製した。
【0066】
この寒天培地上のコロニーを20mLのSC−U−L−H+HET液体培地へ植菌し、30℃、220rpmで5日間振倒培養した。この液体培地から20mLのSC−U−L−H+HET−Glu液体培地へ置換し、2mLの20%ガラクトース水溶液(終濃度2%)を加え、さらに24時間振倒培養した。この液体培地を10mLのpH7.0の100mmol/Lリン酸−カリウム緩衝液へ置換し、100μLのヘム溶液(終濃度13μg/mL)、1mLの30%グルコース水溶液(終濃度3%)を加え、さらに2日間振倒培養した。このとき、酸素供給が反応律速とならないよう、綿栓を用いた。1700rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。これに1mLの20%水酸化カリウム(50%エタノール)溶液を加えて5分間煮沸した。脂溶性物質を2mLのヘキサンで2回抽出し、濃縮した。一方、対照として、pESC-HIS-CYP72A61の代わりにpESC-HISを用いた形質転換体GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HISを同様の方法により作製し、脂溶性物質を得た。
【0067】
これらの脂溶性物質に50μLのN−メチル−N−トリメチルシリル−トリフルオロアセトアミドを加え、80℃のヒートブロック上で1時間反応させ、トリメチルシリル(TMS)化した。これを濃縮し、200μLのアセトンに溶解し、1μLをGC−MSで分析した。
【0068】
その結果、トータルイオンクロマトグラム上で、対照(図5−C)には観測されないピークが、保持時間9.05分に観測された(図5−B)。このピークの保持時間及びMS開裂パターンは、ソフォラジオール標品のTMS化体(図5、図6−A)のものと一致した(図5、図6)。下記のEI−MS開裂様式に示すように、m/z=306のフラグメントは、逆Diels−Alder反応に起因するオレアン−12−エン骨格に特徴的なものであり、m/z=291のフラグメントは、m/z=306のフラグメントからいずれかのメチル基が脱離したものであると考えられる。以上の結果から、CYP72A61をβ−アミリン−22位水酸化酵素と同定した。
【0069】
【化2】

【0070】
《実施例10》GIL77/pESC-PSY-CYP93E1の2L大量培養による基質オレアン−12−エン−3β,24−ジオールの製造
酵母GIL77株にpESC-PSY-CYP93E1を導入し、SC−U+HET寒天培地上で30℃、2日間培養し、形質転換酵母GIL77/pESC-URA-PSY-CYP93E1を作製した。この寒天培地上のコロニーをSC−U+HET液体培地に植菌し、30℃で2日間ほど培養した。炭素源として、ラフィノースを用いて作製したSCR−U+HET培地2Lにこの培養液を加え、30℃、160rpmで2日間ほど培養した後、20%ガラクトース水溶液(終濃度2%)を加えてさらに30℃で24時間培養した。この培地をpH7.0の100mmol/Lリン酸−カリウム緩衝液へ交換し、炭素源としてのグルコース(終濃度3%)及びヘミン(終濃度13μg/mL)を加え、30℃で24間培養した。遠心分離により菌体を回収し、200mLの水酸化ナトリウム(50%メタノール)溶液を加えて1時間30分加熱還流した。200mLのヘキサン:酢酸エチル=3:1溶媒を用いて脂溶性成分を抽出した。これを1N塩酸、飽和炭酸ナトリウム、飽和食塩水で洗浄した。この抽出操作を3回行い、有機層をあわせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。得られた抽出物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(Wako FC−40シリカゲル)で分析した。ベンゼン:酢酸エチル=9:1から4:1まで、溶媒組成を変化させて溶出し、4mgの脂溶性物質を得た。これをNMR測定用重クロロホルムに溶解し、H−NMR、13C−NMRを測定した。その測定値を文献値(FEBS Journal, (2006)273, 948-959)と比較して、オレアン−12−エン−3β,24−ジオールであることを確認した。文献値(FEBS Journal, (2006)273, 948-959)との化学シフト値の比較 (CDCl3, 1H : 500MHz, 13C : 125MHz) を以下に示す。
【0071】
【化3】

オレアン−12−エン−3β,24−ジオール
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
《実施例11》形質転換体INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61を用いた酵素活性試験及びソヤサポゲノールBの生成
SC−L−H寒天培地上のINVSc1コロニーをSC−L−H液体培地に植菌し、30℃、220rpmで2日間振倒培養し、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)を用いて、INVSc1のコンピテントセルを調製し、−80℃で保存した。
このINVSc1コンピテントセルを用いて、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)のプロトコルに従い、酵母INVSc1株に実施例5で調製したpESC-LEU-GmCPR及び実施例8で調製したpESC-HIS-CYP72A61を導入して、形質転換し、SC−L−H寒天培地で30℃、2日間培養し、形質転換酵母INVSc1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61を作製した。
【0075】
プレート上のコロニーを、20mLのSC−L−H液体培地に植菌し、30℃、220rpmで2日間振倒培養した。この液体培地を、10mLのSC−L−H−Gluの液体培地へ置換し、1mLの20%ガラクトース(終濃度2%)及び実施例10で調製した25μLの10mmol/Lオレアン−12−エン−3β,24−ジオールエタノール溶液(終濃度5μg/mL)を加え、さらに30℃で4日間培養した。この培養液を1700rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。これに20%水酸化カリウム(50%エタノール)溶液を加えて5分間煮沸した。そして、2mLのヘキサンで2回抽出し、脂溶性成分を得た。
対照として、pESC-HIS-CYP72A61の代わりに空ベクターpESC-HISを用いた形質転換体を同様に作製し、脂溶性成分を得た。
【0076】
これらの抽出物をアセトンに溶解し、Silica gel 60 F254 with concentrating zone(MERCK社製)を用いて、薄層クロマトグラフィー(Thin LayerChromatography; TLC)を行った。展開溶媒には、ベンゼン90mLと酢酸エチル10mLを混合したものを用いた。展開したTLCプレートをUV照射してエルゴステロールのスポットを確認し、これより下の、エルゴステロールを含まない高極性部分を、スパーテルでかきとった。これを酢酸エチル3mLで抽出し、精製した。
【0077】
これらの抽出物にN−メチル−N−トリメチルシリル−トリフルオロアセトアミドを加え、80℃のヒートブロック上で1時間反応させ、TMS化した。これを濃縮し、20μLのアセトンに溶解し、1μLをGC−MS分析を行った。その結果、保持時間9.85分に対照(図7−C)では観測されない、オレアン−12−エン骨格の開裂で生じる特徴的なm/z=306のピークが観測された(図7−B)。このピークの保持時間及びMS開裂パターンは、ソヤサポゲノールB標品のTMS化体(図7−A)と一致した。
【0078】
《実施例12》PSY、CYP93E1、GmCPR、CYP72A61の4遺伝子の共発現によるソヤサポゲノールBの製造
実施例9で作製したGIL747のコンピテントセルを用いて、Frozen-EZ Yeast Transformation II(商標)のプロトコルに従い、GIL747株にpESC-URA-PSY-CYP93E1及びpESC-LEU-GmCPR(図9)を導入し、SC−U−L+HET寒天培地で30℃、3日間培養した。プレート上のコロニーを10mLのSC−U−L+HET液体培地に植菌し、30℃、220rpmで3日間振倒培養し、同様の方法によりGIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPRコンピテントセルを調製し、−80℃で保存した。
得られたコンピテントセルに、上記と同様の方法でpESC-HIS-CYP72A61(図9)を導入し、SC−U−L−H+HET寒天培地で30℃、3日間培養し、形質転換体酵母GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61を調製した。
【0079】
この寒天培地上のコロニーを20mLのSC−U−L−H+HET液体培地へ植菌し、30℃、220rpmで4日間振倒培養した。この培地を20mLのSC−U−L−H+HET−Glu液体培地へ置換し、2mLの20%ガラクトース水溶液(終濃度2%)を加え、さらに30℃で24時間培養した。この培地をpH7.0の100mmol/Lリン酸−カリウム緩衝液10mLと置換し、1mLの30%グルコース水溶液(終濃度3%)と、100μmのヘミン(終濃度13μg/mL)を加え、さらに30℃で2日間培養した。このとき、酸素供給が律速とならないよう、綿栓を用いた。この培養液を1700rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。これに20%水酸化カリウム水溶液(50%エタノール含有)1mLを加えて5分間煮沸した。これをヘキサン2mLで2回抽出し、脂溶性成分を得た。
対照として、pESC-HIS-CYP72A61の代わりに空ベクターpESC-HISを用いた形質転換体を上記と同様の方法により作製し、脂溶性成分を得た。
【0080】
これらの抽出物にそれぞれ50μLのN−メチル−N−トリメチルシリル−トリフルオロアセトアミドを加え、80℃のヒートブロック上で1時間反応させ、TMS化した。それを濃縮し、200 Lのアセトンに溶解し、その1μLをGC−MSにより分析した。その結果、トータルイオンクロマトグラム上で、保持時間9.85分に対照(図10−D)では観測されなかったピークを新たに観測した(図10−C)。この保持時間およびMS開裂パターンがソヤサポゲノールB標品のTMS化体(図10、図11−B)のものと一致した。
以上の結果から、PSY、CYP93E1、GmCPR、及びCYP72A61の4種の遺伝子を酵母発現系で共発現させることにより、ソヤサポゲノールBが生産されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、オレアナン型トリテルペンの22位を水酸化する酵素を遺伝子工学的に使用することを可能する。これにより、当該水酸化酵素遺伝子を組み込んだ細胞を用いて宿主細胞を利用した水酸化酵素の生産、植物トリテルペンの微生物による生産などの工業化への利用を可能にする。また、24位の水酸化酵素の遺伝子と合わせて組み込むことにより、ソヤサポゲノールBなどのトリテルペンの生産を効率よく、大量に生産させることができる。
【受託番号】
【0082】
形質転換体酵母GIL747/pESC-URA-PSY/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61は、平成21年6月30日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM BP-11138として寄託されている。
形質転換体酵母GIL747/pESC-URA-PSY-CYP93E1/pESC-LEU-GmCPR/pESC-HIS-CYP72A61は、平成21年6月30日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM BP-11139として寄託されている。 形質転換体酵母をGIL77/pESC-PSY-CYP93E1は、平成16年2月6日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央第6)に受託番号FERM P-19675として寄託され、平成17年1月6日に国際寄託(受託番号FERM BP-10201)へ移管されている。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。
配列番号3〜14の各配列で表される塩基配列は、プライマー配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリヌクレオチドであって、
以下(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNA、
(b)配列番号1記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、オレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項4】
請求項3記載の組換えベクターによって形質転換された形質転換細胞。
【請求項5】
形質転換細胞が酵母である、請求項4記載の形質転換細胞。
【請求項6】
下記の(a)〜(d)のいずれかに記載のポリペプチド;
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b)配列番号1記載の塩基配列がコードするアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、且つオレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチド、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるポリペプチドであり、且つオレアナン型トリテルペンの22位水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを有する組換えベクターと、β―アミリン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターとを用意する工程、
前記用意した2つの組換えベクターを同一の宿主細胞内で発現させる工程、
前記発現させた宿主細胞を培養する工程、
前記宿主細胞またはその培養上清からソフォラジオールを精製する工程
を含むことを特徴とする、ソフォラジオールの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の同一の宿主細胞内において、更に、シトクロムP450還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターを発現させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記宿主細胞が酵母である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを有する組換えベクターと、β―アミリン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターと、オレアナン型トリテルペンの24位水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターとを用意する工程、
前記用意した3つの組換えベクターを同一の宿主細胞内で発現させる工程、
前記発現させた宿主細胞を培養する工程、
前記宿主細胞またはその培養上清からソヤサポゲノールBを精製する工程
を含むことを特徴とする、ソヤサポゲノールBの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の同一の宿主細胞内において、更に、シトクロムP450還元酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを有する組換えベクターを発現させる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記宿主細胞が酵母である、請求項10又は11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−24534(P2011−24534A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175880(P2009−175880)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月2日、http://nenkai.pharm.or.jp/129/web/
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】