説明

3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法

【課題】3−アミノメチルピリジンの副生を抑制して、高収率で3−ヒドロキシメチルピリジンを製造する方法の提供。
【解決手段】3−シアノピリジンを酸性水溶液中、水素圧力下に接触還元して3−ヒドロキシメチルピリジンを製造する方法において、触媒としてパラジウム炭素のみを用い、かつ水素圧力を1〜10kg/cm2Gとすることを特徴とする3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の医農薬の原料として有用な、3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、3−シアノピリジンの接触還元による3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法としては、3−シアノピリジンを酸性溶液中でパラジウム炭素触媒の存在下に常圧下に水素還元する方法(特許文献1)、および3−シアノピリジンを触媒として鉛、錫および亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属を含有するパラジウム炭素触媒の存在下に水素還元する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
上記特許文献1に記載の方法は、収率や副反応生成物の量および所要反応時間の点で工業的製法として満足できるものではない。また、特許文献2に記載の方法は、触媒の調製が煩雑である点、触媒の毒性および再生において問題があり、工業的製法として満足できるものではなかった。
【特許文献1】英国特許第717,172号明細書
【特許文献2】特公平6−45598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の方法よりも収率に優れ、副反応が少なく、反応が短時間で完結し、かつ環境安全面に優れた新規な3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の従来技術(特許文献1に記載の方法)の追試を行ったところ、種々の問題点を見いだした。すなわち、特許文献1に記載の常圧および30℃の反応条件では、基質である3−シアノピリジンの水素添加が極めて遅く、5時間後においても反応が完結しないこと(54面積%程度残存)、さらに反応の選択率が低く、目的物の3−ヒドロキシメチルピリジンの生成比は1面積%程度であり、3−アミノメチルピリジンおよび3−ホルミルピリジン(3−ピリジンカルバルデヒド)がそれぞれ、7面積%および32面積%程度副生し、工業的に採用できない方法であることが確認された。
【0006】
次に、この反応混合物を常圧下に温度を60℃に上げて水素供給を続けた。4時間後の3−シアノピリジンの残存は18面積%程度であり、3−ヒドロキシメチルピリジンの生成量は28面積%であり、副生成物の3−アミノメチルピリジンおよび3−ホルミルピリジンの生成量は、それぞれ11面積%および36面積%程度であった。この結果は、反応進行には室温以上の反応温度が必要であるものの、まだ反応を完結させるには不十分であることを示している。
【0007】
本発明者らは、さらに本反応混合物にパラジウム炭素を追加し(初期の添加量は3−シアノピリジンに対して1.0質量%であったが、追加して5.0質量%に設定した)、常圧下、50℃で水素供給を4.5時間行った。この結果、3−シアノピリジンは消失し、目的物である3−ヒドロキシメチルピリジンを約87面積%、副生成物である3−アミノメチルピリジンを13面積%含む反応混合物が得られた。
【0008】
本発明者らは、これらの一連の実験から、
1)先行技術の主張する30℃以下の反応温度では、反応の進行が極めて遅いこと。
2)反応温度の上昇は、転化率の向上に有効であること。
3)触媒の使用量が3−シアノピリジンに対して1.0質量%では反応の進行が極めて遅いこと。
4)触媒の使用量を3−シアノピリジンに対して5.0質量%に増やすと、反応が飛躍的に進行すること。
5)3−アミノメチルピリジンの副生を抑制することが課題となること。
を知った。
【0009】
本発明者らは、次に本反応系における水素圧力の影響を検討した。水素圧を1.3kg/cm2Gとした場合には、反応の進行は遅いが、4〜5kg/cm2Gに上げると、著しい反応の加速が認められ、なおかつ、驚くべきことに、本発明の課題である3−アミノメチルピリジンの副生が抑制できることを見いだした。
【0010】
最終的に、本発明者らは、水素圧力、酸の使用量、触媒の使用量および反応温度を最適化することにより、従来は困難とされてきた、パラジウム炭素触媒単独使用による高選択的な3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法を完成させたのである。
【0011】
すなわち、本発明は、3−シアノピリジンを酸性水溶液中、水素圧力下に接触還元して3−ヒドロキシメチルピリジンを製造する方法において、触媒としてパラジウム炭素のみを用い、かつ水素圧力を1〜10kg/cm2Gとすることを特徴とする3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法を提供する。
【0012】
上記本発明においては、酸性水溶液が、硫酸若しくは塩酸の水溶液であり、それらの使用量が3−シアノピリジンの1.5〜2当量の範囲であること;パラジウム炭素の使用量が、3−シアノピリジンの1〜10質量%であること;および反応温度が、30〜80℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3−アミノメチルピリジンの副生を抑制して、高収率で3−ヒドロキシメチルピリジンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明をより詳細に説明する。本発明ではパラジウム炭素を唯一の触媒として使用する。本発明で使用するパラジウム炭素としては、通常の市販品が使用でき、取り扱いの安全性の面から含水パラジウム炭素が好適に使用できる。その使用量は、3−シアノピリジンの使用量に対して、5質量%パラジウム炭素(50質量%含水品)で2〜20質量%(すなわち、ドライ品換算で1〜10質量%)が好ましく、さらに好ましくは3〜5質量%である。触媒の使用量がこれより少ないと反応の進行が遅く、原料の残存および副生成物により収率が低下し、使用量がこれよりも多いと非経済的である。
【0015】
本反応における水素圧力は、1〜10kg/cm2Gが好ましく、さらに好ましくは4〜5kg/cm2Gである。水素圧力がこれより小さいと反応の進行が遅く、かつ副生成物の生成により収率が低下する。また、水素圧力がこれよりも大きいと反応の進行が速すぎて除熱などの操作上の問題が生じる。
【0016】
上記反応は酸性水溶液中で行うことが必須である。酸の強度および経済性の点から、硫酸若しくは塩酸の使用が好適である。それらの使用量は3−シアノピリジンの1.5〜2当量が好ましい。これより弱い酸の使用および少ない使用量は、反応の遅滞や副反応の原因になるので好ましくない。また、酸の使用量がこれより多くなると、排水量の増加となり非経済的である。
【0017】
上記反応は、30〜80℃の温度範囲で行うことが好ましく、より好ましい反応温度の範囲は50〜80℃である。これよりも反応温度が低いと反応が遅滞する。
【0018】
本発明の実施態様を述べる。3−シアノピリジンと酸性水溶液およびパラジウム炭素触媒を反応容器に仕込み、水素を適当な圧までチャージし、攪拌しながら適当な温度まで加温すれば反応は円滑に進行する。反応の進行は水素圧力の変動および高速液体クロマトグラフィーによる定量で追跡できる。反応終了後は触媒を濾過などの固液分離により除去し、適当量の水で触媒を洗浄後に水相をアルカリ性とした後、有機溶媒により抽出し、抽出相を濃縮、精製して3−ヒドロキシメチルピリジンが得られる。
【実施例】
【0019】
以下、比較例および実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
[比較例1]
100mlのガラス製オートクレーブに3−シアノピリジン4.0g(0.038モル)、3.16N硫酸41.3g(3−シアノピリジンに対して1.56当量)、5質量%パラジウム炭素(50質量%ウェット品、エヌイーケムキャット製、PEタイプ)0.008g(3−シアノピリジンに対して1.0質量%)を仕込み、攪拌しつつ、常圧下、22〜25℃で水素を供給した。
【0020】
5時間後に反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析すると、その組成は、3−シアノピリジンが54.3面積%、3−ヒドロキシメチルピリジンが0.54面積%、3−ホルミルピリジンが31.9面積%、3−アミノメチルピリジンが6.5面積%であった。反応温度を60℃とし、さらに水素の供給を続けたところ、4時間後には水素の消費が無くなった。
【0021】
反応液をHPLC分析すると、3−シアノピリジンが17.8面積%、3−ヒドロキシメチルピリジンが27.9面積%、3−ホルミルピリジンが36.2面積%、3−アミノメチルピリジンが11.3面積%であった。ついで、5質量%パラジウム炭素を3−シアノピリジンに対して5.0質量%になるように追加し、常圧下、50℃で反応を継続した。水素の吸収が観測され、4.5時間後に水素の吸収が停止した。反応液をHPLC分析したところ、3−シアノピリジンおよび3−ホルミルピリジンは未検出であり、3−ヒドロキシメチルピリジンは86.8面積%、3−アミノメチルピリジンは11.3面積%であった。
【0022】
[比較例2]
100mlのガラス製オートクレーブに3−シアノピリジン4.0g(0.038モル)、水36ml(3−シアノピリジンに対して3.9質量倍)、98%硫酸6.0g(0.06モル、3−シアノピリジンに対して1.56当量)、5質量%パラジウム炭素(50質量%ウェット品)0.04g(3−シアノピリジンに対して5.0質量%)を仕込み、攪拌しつつ、常圧下、50℃で水素を供給した。13.5時間後に水素の吸収が停止した。
【0023】
反応液をHPLC分析すると、3−シアノピリジンおよび3−ホルミルピリジンは未検出であり、3−ヒドロキシメチルピリジンは86.8面積%、3−アミノメチルピリジンは13.0面積%であった。
【0024】
[実施例1]
1,000mlのガラス製オートクレーブに3−シアノピリジン50.0g(0.48モル)、水192ml(3−シアノピリジンに対して3.84質量倍)、98%硫酸74.9g(0.75モル、3−シアノピリジンに対して1.56当量)、5質量%パラジウム炭素(50質量%ウェット品)3.0g(3−シアノピリジンに対して3.0質量%)を仕込み、攪拌しつつ、水素圧1.3〜1.4kg/cm2G、80℃で水素を供給した。
【0025】
18時間後に水素の吸収が停止したのでHPLC分析を行ったところ、反応が完結していなかったため、水素圧を4.9kg/cm2Gとし、同温度で水素の供給を続けた。9時間後に水素の吸収が停止した。反応液をHPLC分析したところ、3−シアノピリジン、3−ホルミルピリジンおよび3−アミノメチルピリジンは未検出であり、3−ヒドロキシメチルピリジンは98.0面積%であった。
【0026】
[実施例2]
実施例1に記載の反応条件において、反応温度を50℃、水素圧力を4.5〜5.0kg/cm2Gに変えて同様の反応を行った。9時間後に水素の吸収が停止した。反応液をHPLC分析したところ、3−シアノピリジンおよび3−ホルミルピリジンは未検出であり、3−ヒドロキシメチルピリジンは98.9面積%、3−アミノメチルピリジンは0.5面積%であった。反応混合物を濾過し、ロート上の5質量%パラジウム炭素を水50mlで洗浄した。
【0027】
水層を1,000mlのガラス製三ッ口フラスコに移し、室温で48%水酸化ナトリウム水溶液84.0gを加えてpHを8.6〜9.0に調整した。食塩13.0gを加えた後、30〜35℃でクロロホルム(200ml×3回)抽出した。抽出相(937g、絶対検量線法による3−ヒドロキシメチルピリジンの含量は52.0g、収率:99%)を減圧濃縮し、赤褐色油状の粗3−ヒドロキシメチルピリジン49.8g(収率:95.1%、HPLC純度:96.4%)を得た後に減圧蒸留で精製を行い、淡黄色油状の精製3−ヒドロキシメチルピリジン43.9g(収率:83.8%、HPLC純度:99.6%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、3−アミノメチルピリジンの副生を抑制して、高収率で3−ヒドロキシメチルピリジンを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−シアノピリジンを酸性水溶液中、水素圧力下に接触還元して3−ヒドロキシメチルピリジンを製造する方法において、触媒としてパラジウム炭素のみを用い、かつ水素圧力を1〜10kg/cm2Gとすることを特徴とする3−ヒドロキシメチルピリジンの製造方法。
【請求項2】
酸性水溶液が、硫酸若しくは塩酸の水溶液であり、それらの使用量が3−シアノピリジンの1.5〜2当量の範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
パラジウム炭素の使用量が、3−シアノピリジンの1〜10質量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
反応温度が、30〜80℃である請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−231078(P2008−231078A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77324(P2007−77324)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(595137941)タマ化学工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】