説明

3次元アトムレベル構造観察装置

【課題】 3次元アトムレベル構造観察装置において、質量の近い元素同志の分析を行うために、小型の構成で分解能の向上を図る装置を提供する。
【解決手段】 3次元構造物体1に対し電界を印加し、電界による3次元構造物体1から離脱した発散状の帯電原子種2に対し、複数のの扇形電場印加機構5を組み合わせてマルチターン飛行時間型質量分析器を構成することによって、発散性の帯電原子種イオンを分析器内を周回させて飛行イオン光路を長くして分解能を向上させる。また、飛行イオン光路中に高速のデフレクタやメカニカルチョッパ型の開閉器などを介して特定のイオン種のみを選択することにより、他の妨害イオンを予め排除してより分解能を高めることも出来る。この構成により質量分解能m/Δm=5,000以上の分解能を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元アトムレベル構造観察装置に関するものであり、特に、小型の装置構成で分解能を高めるための飛行イオン光路の構成に特徴のある3次元アトムレベル構造観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(ハードディスクドライブ)の小型化、大容量化が急速に進んでおり、高密度磁気記録を実現するためのヘッド及び媒体の開発が求められている
媒体に微細に配列された記録ビットから発生する磁気的信号を再生ヘッドで高効率に電気信号に変換するために、MRヘッドの微細化・薄層化が求められている。
【0003】
この様に微細化・薄層化されたMRヘッドにおいては、スピンバルブ膜を構成する各層の層厚を精度良く形成するとともに、各層間の界面状態を良好に保つ必要がある。
例えば、膜厚分布が不均一であったり、界面が湾曲していたり、或いは、界面で構成原子が相互拡散して界面が不明確になっていれば、所望の特性が得られなくなる。
【0004】
そこで、従来においては、界面におけるX線の反射を利用した2θ法を用いて、スピンバルブ膜等の各層の膜厚及び界面状態を評価して、結果を製造工程へフィードバックすることによって、性能の向上と製造歩留りの向上を図っていた。
【0005】
しかし、2θ法は界面でのX線の反射強度を利用する手法であるため、界面で構成原子が相互拡散して界面が不明確になっている場合には精度の高い解析が困難であり、また、予期せぬ層が介在していた場合にも、精度の高い解析が困難であった。
【0006】
そこで、この様な問題を解決する手法として、原子レベルの3次元構造を直接観察する手法として3次元アトムプローブ法が知られており(例えば、特許文献1或いは特許文献2参照)、このアトムプローブ法は針状に鋭角に形成された先端径が1μm以下の針状試料にパルス状高電界やレーザを照射し、このエネルギーで、表面の原子或いはクラスターを電解蒸発させ2次元位置検出器により試料の3次元原子レベルの構造を観察するものであるので、ここで、図15を参照して従来の3次元アトムプローブ法を説明する。
【0007】
図15参照
図15は、従来の3次元アトムプローブ法の原理の説明図であり、先端半径が例えば、100nm(=0.1μm)の針状試料61にパルス高電圧を印加して針状試料61の先端から構成物質62,63を電界蒸発させ、飛来する構成物質62,63の到達時間(TOF:Time of Flight)を2次元位置検出器64によって測定し、到達時間から構成物質62,63のイオン種を同定するとともに、2次元位置検出器64の検出位置から飛来位置を同定するものである。
【0008】
また、3次元アトムプローブ法ではないが、アトムプローブ法において、扇状電場印加部を質量分析器として設けることによって電界で試料から離脱した原子種を特定することも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−042715号公報
【特許文献2】特開2001−208659号公報
【特許文献3】特公平07−007661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の3次元アトムプローブ装置においては、針状試料からの発散性イオンの検出を行っていたため質量分解能(m/Δm)はせいぜいm/Δm=300〜500であるため、この分解能では質量の近い元素同士の分析、例えば、Si基板中のPの分析は不可能であるという問題がある。
【0010】
このような質量の近い元素同士の分析を行うためには、m/Δm=5000〜10000以上の分解能が望まれている。
【0011】
3次元アトムプローブ装置の分解能は、イオンの飛行時間に依存するために、飛行時間を長くすれば分解能は向上するが、針状試料と測定器との距離を大きく必要があり、且つ、イオンは発散性イオンであるため、距離の増大とともにイオンの広がりが大きくなり、面積の大きな測定器が必要になる。
【0012】
このような大型の測定器を構成することは非現実的であるとともに、仮に実現できたとしても、針状試料と測定器との距離が大きくなるため、装置の全体構成が大型化するという問題がある。
【0013】
したがって、本発明は、小型の装置構成で飛行イオン光路を長くして分解能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、3次元構造物体1に対し電界を印加し、電界による3次元構造物体1からの元素の離脱現象を利用して、3次元構造物体1における離脱した元素の位置および原子種を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、3次元構造物体1への電界印加後、3次元構造物体1から離脱した発散状の帯電原子種2に対し、電界レンズ或いは磁界レンズの少なくとも一方を用いて平行性の帯電原子種2に変更する平行化機構3を設けたことを特徴とする。
【0015】
このように、発散状の帯電原子種2を平行性の帯電原子種2に変更することによって、飛行イオン光路を長くしても位置検出機構6を大型化する必要がないので、従来の位置検出機構6のままで分解能を大幅に向上することができる。
【0016】
この場合、3次元構造物体1に近接して引出電極を設けることが望ましく、特に、引出電極を平行化機構3と機械的に一体構造とすることによって装置構成を小型化することができる。
【0017】
また、本発明は、3次元構造物体1に対し電界を印加し、電界による3次元構造物体1からの元素の離脱現象を利用して、3次元構造物体1における離脱した元素の位置および原子種を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、3次元構造物体1への電界印加後、3次元構造物体1から離脱した発散状の帯電原子種2に対し、少なくとも1つの扇形電場印加機構5を通過させることを特徴とする。
【0018】
このように、扇形電場印加機構5を通過させることによって、狭い奥行きの場合にも、飛行イオン光路を長くすることができ、それによって、分解能を高めることができる。
【0019】
この場合、扇形電場印加機構5の前段に、発散状の帯電原子種2を平行性の帯電原子種2に変更する平行化機構3を設けることが望ましく、それによって、扇形電場印加機構5内において異なった質量の帯電原子種2の位置検出機構6への到達時間が入れ代わることがない。
【0020】
また、扇形電場印加機構5を複数設け、帯電原子種2が同一軌道上を複数回周回したのち、位置検出機構6に入射させる周回制御機構を設けることが望ましく、それによって、狭い空間で飛行イオン光路を周回数に比例して長くすることができ、m/Δm=5000〜10000以上の分解能も可能になる。
【0021】
或いは、扇形電場印加機構5を複数設け、各扇形電場印加機構5を1回のみ通過したのち位置検出機構6に入射させるように構成しても良く、この場合には、用いた扇形電場印加機構5の数に比例して飛行イオン光路を長くすることができる。
【0022】
また、帯電原子種2に対して、特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構を設けることが望ましく、それによって、分解能をより高めることができる。
【0023】
例えば、特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構としては、偏向器、特に、静電偏向器が挙げられる。
【0024】
この場合、偏向器の通過したのち、少なくとも1つの扇形電場印加機構5に導入されない原子種の通過位置に検出器を設けることが望ましく、それによって、最も主要な測定対象となる原子種の分解能に比べて低分解能ながら広い原子種の像を併せて得ることができ、最も主要な測定対象となる原子種の解析におけるバックグラウンドデータ等として役立てることができる。
【0025】
また、特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構としては、開閉器、特に、回転円盤によるメカニカルチョッパ型開閉器或いはバルバノミラー型開閉器を用いても良いものであり、特定の飛行時間の原子種の到達予想時間に合わせて開閉器を開閉させることによって特定の飛行時間の原子種のみ扇形電場印加機構5に導入することができる。
【0026】
また、帯電原子種2に対して減速機構4を設けても良く、帯電原子種2を減速すると帯電原子種2の飛行時間が長くなるので、それによって、分解能をより高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明においては、装置構成を大型化することなく飛行時間を長くすることができ、且つ、位置検出機構を大型化する必要がないので、分解能の飛躍的向上と装置構成の小型化を両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、発散性のイオン光路に、平行ビーム形成レンズ及び扇形電場印加機構の少なくとも一方を設け、イオンの発散を防ぐことによって飛行距離を延ばした場合にも位置検出器の大型化が不要にし、また、扇形電場印加機構を設けることによって、同じ空間内における飛行距離を延ばすものである。
【0029】
特に、複数の扇形電場印加機構を組み合わせてマルチターン飛行時間型質量分析器を構成することによって、飛行距離は、マルチターン飛行時間型質量分析器内を通過する周回数で決定され、同じ空間で任意の飛行距離を実現することができる。
【0030】
また、飛行イオン光路中に、高速のデフレクターやメカニカルチョッパ型開閉器或いはバルバノミラー型開閉器等の開閉器を介して特定のイオン種のみを選択することによって、他のイオン種を予め排除しても良く、それによって、分解能をより高めることができる。
【実施例1】
【0031】
ここで、図2を参照して、本発明の実施例1の3次元アトムプローブ装置を説明する。 図2参照
図2の上図は、本発明の実施例1の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21の引き出しを容易にするを引出電極12と発散性のイオン21を平行化する電磁レンズ13とが一体化した平行化機構11、及び、2次元位置検出器20によって基本構成が構成され、電磁レンズ13の焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0032】
また、図2の下図は、平行化機構11の具体的構成図であり、純鉄製の中空円錐台状の薄板部材からなる引出電極12と、引出電極12の直後に内部にコイル14を収容した磁極部材15からなる電磁レンズ13を配置し、両者はフッ素樹脂等からなる非磁性部材16によって一体構成されている。
【0033】
この実施例1においては、分解能を高めるためにイオンの飛行距離を延ばしてもイオンは平行化されて発散しないため、2次元位置検出器20は大型化する必要がなく、奥行きさえ確保すれば、奥行きに直交する二次元的な大きさの増大を回避しコンパクトな観察装置を実現することができる。
【実施例2】
【0034】
次に、図3を参照して、本発明の実施例2の3次元アトムプローブ装置を説明する。
図3参照
図3は、本発明の実施例2の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオン21を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、及び、2次元位置検出器20によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0035】
この場合のマルチターン型飛行イオン光路30は、4つの扇形電場印加機構31〜34と各扇形電場印加機構31〜34間に設けられた静電4重極レンズ37〜42及び偏向器43〜46によって構成される(必要ならば、http://mass.phys.wani.osaka−u.ac.jp/toyodam/,第48回質量分析学会総合討論会試料,2000年5月12日参照)。
なお、静電4重極レンズ37〜42及び偏向器43〜46は必要に応じて多段構成となっている。
【0036】
また、入力側の扇形電場印加機構31にはイオンゲート35が設けられており、扇形電場印加機構31に印加する電圧のタイミングを制御することによって、針状試料10から離脱して平行化されたイオン21を扇形電場印加機構31に設けたイオンゲート35を介して扇形電場印加機構32に入射する。
【0037】
また、出力側の扇形電場印加機構34にはイオンゲート36が設けられており、扇形電場印加機構34に印加する電圧のタイミングをイオン21の周回状況に応じて制御することによって、マルチターン型飛行イオン光路30内を周回するイオン21を扇形電場印加機構34に設けたイオンゲート36から取り出して、2次元位置検出器20で検出する。
【0038】
この実施例2においては、マルチターン型飛行イオン光路30を設けているので、周回数を制御することによって、飛行距離、したがって、飛行時間を任意に制御することができ、周回数に応じた分解能を得ることができる。
【0039】
例えば、マルチターン型飛行イオン光路30の一周の光路長を100cmとした場合に、5周させることによって、m/Δm=5000の分解能を実現することが可能になり、これにより、従来、高分解能の元素分析ができなかった、Si基板中のSiの同位体元素である30Si(原子量≒29.97)と30P(原子量≒30.97)の分析が可能になる。
【0040】
図4参照
図4は、マルチターン型飛行イオン光路の分解能の周回数依存性の説明図であり、周回数を重ねることによって、周回数にほぼ比例して分解能が高まることが分かる。
因に、100回の周回数でm/Δm=100000の分解能が得られるので、5回周回させることによって大凡m/Δm=100000/20=5000の分解能が得られることになる。
【0041】
図5参照
図5は、マルチターン型飛行イオン光路内のイオン強度の周回数依存性の説明図であり、周回数を重ねることによって、イオンが損失により減少するので、周回数にほぼ比例して感度が低下することが分かる。
したがって、ある程度の感度を得るためには、周回数を制限する必要がある。
【実施例3】
【0042】
次に、図6を参照して、本発明の実施例3の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例3の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例2の3次元アトムプローブ装置の平行化機構の直後に減速レンズを設けたものである。
【0043】
図6参照
図6は、本発明の実施例3の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオンを減速する減速レンズ17、減速されたイオン22を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、及び、2次元位置検出器20によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0044】
この場合の減速レンズ17は、電子顕微鏡或いは収束イオンビーム堆積装置等において使用されている減速レンズを用いるものであり、例えば、多段電極によって構成される。
但し、減速レンズは一般に集束性を有しているので、集束効果を受けた後に平行性を保つように、平行化機構11における平行化の程度を減速レンズによる集束効果を相殺するように調整する必要がある。
【0045】
この減速レンズ17によりイオン22のエネルギーを2/3程度に落とした場合には、同じ周回数で飛行時間は1.5倍になるので、例えば、3回の周回でほぼm/Δm=5000の分解能を実現することが可能になる。
【実施例4】
【0046】
次に、図7を参照して、本発明の実施例4の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例4の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例2の3次元アトムプローブ装置の平行化機構の直後に偏向器を設けるとともに、偏向器によりマルチターン型飛行イオン光路方向に偏向されなかったイオン種を検出する第2の2次元位置検出器を設けたものである。
【0047】
図7参照
図7は、本発明の実施例4の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオン21の内、最も主要な測定対象となるイオン種を選択的に偏向する偏向器18、偏向されたイオン23を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、マルチターン型飛行イオン光路30から取り出したイオン23を検出する2次元位置検出器20、及び、偏向器18でマルチターン型飛行イオン光路30方向に偏向されなかったイオン24を検出する2次元位置検出器25によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0048】
このように、実施例4においては予め偏向器18によって最も主要な測定対象となるイオン種を選択しているので、マルチターン型飛行イオン光路30において周回を重ねても、異なった質量のイオン種の2次元位置検出器25への到達時間の前後関係が入れ交わることがないので他元素からの妨害(ノイズ)を低減でき、より精度の高い分析が可能になる。
【0049】
また、偏向器18でマルチターン型飛行イオン光路30方向に偏向されなかったイオン24を2次元位置検出器25で検出しているので、最も主要な測定対象となるイオン種の分解能に比べて低分解能ながら広い原子種の像を併せて得ることができ、最も主要な測定対象となるイオン種の解析におけるバックグラウンドデータ等として役立てることができる。
【実施例5】
【0050】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の実施例5の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例5の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例2の3次元アトムプローブ装置の平行化機構の直後に減速レンズ及び偏向器を設けるとともに、偏向器によりマルチターン型飛行イオン光路方向に偏向されなかったイオン種を検出する第2の2次元位置検出器を設けたものである。
【0051】
図8参照
図8は、本発明の実施例5の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオンを減速する減速レンズ17、減速されたイオン22の内、最も主要な測定対象となるイオン種を選択的に偏向する偏向器18、偏向されたイオン23を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、マルチターン型飛行イオン光路30から取り出したイオン23を検出する2次元位置検出器20、及び、偏向器18でマルチターン型飛行イオン光路30方向に偏向されなかったイオン24を検出する2次元位置検出器25によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0052】
図9参照
図9は、本発明の実施例5の3次元アトムプローブ装置に用いる偏向器の概略的構成図であり、通常の静電偏向器からなる。
この場合に、針状試料10から離脱した構成原子のイオン種の内、最も主要な測定対象となるイオン種の通過予想時間に合わせて偏向器18に電圧をパルス的に印加することによって、イオン種の選別作用をより高めることができる。
【0053】
また、この場合の減速レンズ17も、電子顕微鏡或いは収束イオンビーム堆積装置等において使用されている減速レンズを用いるものであり、例えば、多段電極によって構成される。
但し、減速レンズは一般に集束性を有しているので、集束効果を受けた後に平行性を保つように、平行化機構11における平行化の程度を減速レンズによる集束効果を相殺するように調整する必要がある。
【0054】
このように、実施例5においては予め偏向器18によって最も主要な測定対象となるイオン種を選択しているので、マルチターン型飛行イオン光路30において周回を重ねても、異なった質量のイオン種の2次元位置検出器25への到達時間の前後関係が入れ交わることがないので他元素からの妨害(ノイズ)を低減でき、より精度の高い分析が可能になる。
また、減速レンズ17によって、減速しているので、同じ周回回数でも分解能を向上することができる。
【実施例6】
【0055】
次に、図10及び図11を参照して、本発明の実施例6の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例5の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例2の3次元アトムプローブ装置の平行化機構の直後にメカニカルチョッパ型開閉器を設けたものである。
【0056】
図10参照
図10は、本発明の実施例6の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオン21の内、最も主要な測定対象となるイオン種を選択的に通過させるメカニカルチョッパ型開閉器26、メカニカルチョッパ型開閉器26を通過したイオン21を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、マルチターン型飛行イオン光路30から取り出したイオン21を検出する2次元位置検出器20によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0057】
図11参照
図11は、本発明の実施例6の3次元アトムプローブ装置に用いるメカニカルチョッパ型開閉器の概略的構成図であり、所定の位置に開口部28を有する回転円盤27からなる。
この場合、針状試料10から離脱した構成原子のイオン種の内、最も主要な測定対象となるイオン種の通過予想時間に合わせて開口部28がイオン21の通過位置に来るように回転円盤27の回転を制御することによって、イオン種を選別することができる。
【0058】
このように、実施例6においては予めメカニカルチョッパ型開閉器26によって最も主要な測定対象となるイオン種を選択しているので、マルチターン型飛行イオン光路30において周回を重ねても、異なった質量のイオン種の2次元位置検出器25への到達時間の前後関係が入れ交わることがないので他元素からの妨害(ノイズ)を低減でき、より精度の高い分析が可能になる。
【実施例7】
【0059】
次に、図12を参照して、本発明の実施例7の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例7の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例6の3次元アトムプローブ装置のメカニカルチョッパ型開閉器をガルバノミラー型開閉器に置き換えただけであるので、ガルバノミラー型開閉器の構成のみを説明する。
【0060】
図12参照
図12は、本発明の実施例7の3次元アトムプローブ装置に用いるガルバノミラー型開閉器の概略的構成図であり、支持軸47に固定された回転軸48を軸として回転自在に回転する遮蔽板49からなる。
【0061】
この場合、針状試料10から離脱した構成原子のイオン種の内、最も主要な測定対象となるイオン種の通過予想時間に合わせて遮蔽板49を倒すように回転を制御することによって、イオン種を選別することができる。
【0062】
このように、実施例7においては予めガルバノミラー型開閉器によって最も主要な測定対象となるイオン種を選択しているので、マルチターン型飛行イオン光路30において周回を重ねても、異なった質量のイオン種の2次元位置検出器25への到達時間の前後関係が入れ交わることがないので他元素からの妨害(ノイズ)を低減でき、より精度の高い分析が可能になる。
【実施例8】
【0063】
次に、図13を参照して、本発明の実施例8の3次元アトムプローブ装置を説明するが、この実施例8の3次元アトムプローブ装置は上述の実施例6の3次元アトムプローブ装置の平行化機構の直後に減速レンズを設けたものである。
【0064】
図13参照
図13は、本発明の実施例8の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を平行ビームに整形する平行化機構11、平行化されたイオンを減速する減速レンズ17、減速されたイオン22の内、最も主要な測定対象となるイオン種を選択的に通過させるメカニカルチョッパ型開閉器26、メカニカルチョッパ型開閉器26を通過したイオン21を周回させるマルチターン型飛行イオン光路30、マルチターン型飛行イオン光路30から取り出したイオン23を検出する2次元位置検出器20によって基本構成が構成され、この場合も平行化機構11の電磁レンズの焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置する。
【0065】
この実施例8においては予めメカニカルチョッパ型開閉器26によって最も主要な測定対象となるイオン種を選択しているので、マルチターン型飛行イオン光路30において周回を重ねても、異なった質量のイオン種の2次元位置検出器25への到達時間の前後関係が入れ交わることがないので他元素からの妨害(ノイズ)を低減でき、より精度の高い分析が可能になる。
また、減速レンズ17によって、減速しているので、同じ周回回数でも分解能を向上することができる。
【実施例9】
【0066】
次に、図14を参照して、本発明の実施例9の3次元アトムプローブ装置を説明する。
図14参照
図14は、本発明の実施例9の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図であり、針状試料10から離脱した構成原子のイオン21を発散状態のままで入射する3段の扇形電場印加機構51〜53からなる蛇行型飛行イオン光路50、及び、蛇行型飛行イオン光路50から取り出したイオン21を検出する2次元位置検出器20から構成される。
【0067】
この場合、扇形電場印加機構51のエネルギー集束系の焦点位置に針状試料10の先端部が位置するように配置するとともに、千鳥状に対向配置された各扇形電場印加機構51の入出力部のエネルギー集束系の焦点が互いに一致するように配置する。
【0068】
この場合も、蛇行型飛行イオン光路50によって飛行距離を長くしているので、分解能を向上することができる。
なお、この場合の分解能も飛行距離に略比例するので、扇形電場印加機構の大きさ、段数、相互の対向距離に依存し、これらを調整することによって、奥行き方向に対して横方向の大きさをあまり大きくすることなくm/Δm=3000程度の分解能を実現することができる。
【0069】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載した条件・構成に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、実施例1乃至実施例4においては、平行化機構を引出電極と静電レンズとを一体化して構成しているが別体で構成しても良いものであり、さらには、引出電極を設けることなく、静電レンズのみで平行化機構を構成しても良いものである。
【0070】
また、上記の実施例1乃至実施例8においては、第4段目の扇形電場印加機構にイオンゲートを設けてイオンを取り出しているが、第2段目或いは第3段目の扇形電場印加機構にイオンゲートを設けてイオンを取り出し、この取り出しイオンゲートに対向するように2次元位置検出器を配置しても良いものである。
【0071】
さらには、第2段目乃至第4段目の全ての扇形電場印加機構に取り出し用のイオンゲートを設けて任意の段数における扇形電場印加機構でイオンを取り出すようにしても良いものであり、2次元位置検出器の設置スペースに制限がある場合に有効となる。
【0072】
また、上記の実施例7において、平行化機構11とガルバノミラー型開閉器との間に減速レンズ17を設けても良いものであり、それによって、同じ周回数で測定行う場合には、より分解能が高くなるとともに、予めイオン種を選択しているので他のイオン種によるノイズが低減され、より精度の高い分析が可能になる。
【0073】
また、上記の実施例9においては、蛇行型飛行イオン光路を3段構成で構成しているが、3段構成に限られるものであり、必要とする分解能に応じて段数を設定すれば良い。
【0074】
また、上記の実施例9においては平行化機構、減速レンズ、偏向器、或いは、開閉器を設けていないが、平行化機構及び/または減速レンズ及び/または偏向器或いは開閉器を設けても良いものである。
【0075】
また、上記の実施例4或いは実施例5においては、偏向器として構成が簡単な静電偏向器を用いているが、静電偏向器に限られるものではなく、偏向磁石を用いることを排除するものではない。
【0076】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 3次元構造物体1に対し電界を印加し、前記電界による3次元構造物体1からの元素の離脱現象を利用して、前記3次元構造物体1における離脱した元素の位置および原子種を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、前記3次元構造物体1への電界印加後、3次元構造物体1から離脱した発散状の帯電原子種2に対し、電界レンズ或いは磁界レンズの少なくとも一方を用いて平行性の帯電原子種2に変更する平行化機構3を設けたことを特徴とする3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記2) 上記3次元構造物体1に近接配置する引出電極を、上記平行化機構3と機械的に一体構造としたことを特徴とする付記1記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記3) 3次元構造物体1に対し電界を印加し、前記電界による3次元構造物体1からの元素の離脱現象を利用して、前記3次元構造物体1における離脱した元素の位置および原子種2を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、前記3次元構造物体1への電界印加後、3次元構造物体1から離脱した発散状の帯電原子種2に対し、少なくとも1つの扇形電場印加機構5を通過させることを特徴とする3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記4) 上記扇形電場印加機構5の前段に、発散状の帯電原子種2を平行性の帯電原子種2に変更する平行化機構3を設けたことを特徴とする付記3記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記5) 上記扇形電場印加機構5を複数設け、上記帯電原子種2が同一軌道上を複数回周回したのち、位置検出機構6に入射させる周回制御機構を設けたことを特徴とする付記3または4に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記6) 上記扇形電場印加機構5を複数設け、前記各扇形電場印加機構5を1回のみ通過したのち位置検出機構6に入射させることを特徴とする付記3または4に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記7) 上記帯電原子種2に対して、特定の飛行時間の原子種2のみを選択する選別機構を設けたことを特徴とする付記3乃至6のいずれか1に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記8) 上記特定の飛行時間の原子種2のみを選択する選別機構が、偏向器であることを特徴とする付記7記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記9) 上記偏向器が、静電偏向器であることを特徴とする付記8記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記10) 上記偏向器の通過したのち、上記少なくとも1つの扇形電場印加機構5に導入されない原子種の通過位置に検出器を設けたことを特徴とする付記8または9に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記11) 上記特定の飛行時間の原子種2のみを選択する選別機構が、開閉器であることを特徴とする付記7記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記12) 上記開閉器が、回転円盤によるメカニカルチョッパ型開閉器或いはバルバノミラー型開閉器のいずれかであることを特徴とする付記11記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
(付記13) 上記帯電原子種2に対して減速機構4を設けたことを特徴とする付記1乃至12のいずれか1に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の活用例としては、原子量が接近しているSiとP等を分離して分析する必要のある半導体基板の不純物濃度分布の検出が典型的な検出対象であるが、原子量が接近していない場合の組成構造や界面状態等の分析・観察にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1の3次元アトムプローブ装置の説明図である。
【図3】本発明の実施例2の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図4】マルチターン型飛行イオン光路の分解能の周回数依存性の説明図である。
【図5】マルチターン型飛行イオン光路内のイオン強度の周回数依存性の説明図である。
【図6】本発明の実施例3の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図7】本発明の実施例4の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図8】本発明の実施例5の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例5の3次元アトムプローブ装置に用いる偏向器の概略的構成図である。
【図10】本発明の実施例6の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図11】本発明の実施例6の3次元アトムプローブ装置に用いるメカニカルチョッパ型開閉器の概略的構成図である。
【図12】本発明の実施例7の3次元アトムプローブ装置に用いるガルバノミラー型開閉器の概略的構成図である。
【図13】本発明の実施例8の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図14】本発明の実施例9の3次元アトムプローブ装置の概念的構成図である。
【図15】従来の3次元アトムプローブ法の原理の説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 3次元構造物体
2 帯電原子種
3 平行化機構
4 減速機構
5 扇形電場印加機構
6 位置検出機構
10 針状試料
11 平行化機構
12 引出電極
13 電磁レンズ
14 コイル
15 磁極部材
16 非磁性部材
17 減速レンズ
18 偏向器
20 2次元位置検出器
21 イオン
22 イオン
23 イオン
24 イオン
25 2次元位置検出器
26 メカニカルチョッパ型開閉器
27 回転円盤
28 開口部
30 マルチターン型飛行イオン光路
31 扇形電場印加機構
32 扇形電場印加機構
33 扇形電場印加機構
34 扇形電場印加機構
35 イオンゲート
36 イオンゲート
37 静電4重極レンズ
38 静電4重極レンズ
39 静電4重極レンズ
40 静電4重極レンズ
41 静電4重極レンズ
42 静電4重極レンズ
43 偏向器
44 偏向器
45 偏向器
46 偏向器
47 支持軸
48 回転軸
49 遮蔽板
50 蛇行型飛行イオン光路
51 扇形電場印加機構
52 扇形電場印加機構
53 扇形電場印加機構
61 針状試料
62 構成物質
63 構成物質
64 2次元位置検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元構造物体に対し電界を印加し、前記電界による3次元構造物体からの元素の離脱現象を利用して、前記3次元構造物体における離脱した元素の位置および原子種を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、前記3次元構造物体への電界印加後、3次元構造物体から離脱した発散状の帯電原子種に対し、電界レンズ或いは磁界レンズの少なくとも一方を用いて平行性の帯電原子種に変更することを特徴とする3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項2】
3次元構造物体に対し電界を印加し、前記電界による3次元構造物体からの元素の離脱現象を利用して、前記3次元構造物体における離脱した元素の位置および原子種を観察する3次元アトムレベル構造観察装置において、前記3次元構造物体への電界印加後、3次元構造物体から離脱した発散状の帯電原子種に対し、少なくとも1つの扇形電場印加機構を通過させることを特徴とする3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項3】
上記扇形電場印加機構を複数設け、上記帯電原子種が同一軌道上を複数回周回したのち、位置検出機構に入射させる周回制御機構を設けたことを特徴とする請求項2記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項4】
上記帯電原子種に対して、特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構を設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項5】
上記特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構が、偏向器であることを特徴とする請求項4記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項6】
上記偏向器の通過したのち、上記少なくとも1つの扇形電場印加機構に導入されない原子種の通過位置に検出器を設けたことを特徴とする請求項5記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項7】
上記特定の飛行時間の原子種のみを選択する選別機構が、開閉器であることを特徴とする請求項4記載の3次元アトムレベル構造観察装置。
【請求項8】
上記帯電原子種に対して減速機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の3次元アトムレベル構造観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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