説明

3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの製造方法

【課題】 1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを、異性化触媒の存在下で加熱することにより異性化し、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法において、触媒や原料の組成、原料に使用する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの化学的構造を変えることなく、異性化反応の平衡到達による終了を回避することで、原料仕込み量に対する収率が高い製造方法を提供する。
【解決手段】 蒸留装置を設けた反応器を使用して、生成する3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら、異性化反応を行なう。異性化反応は、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点以上の温度で加熱しながら行なうことが好ましく、また減圧下で行なうことが好ましい。さらに、異性化反応を、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを連続的に供給し、一方、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを蒸留塔頂部から連続的に回収しながら行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンの異性化により、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法に関し、反応系から3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを分離取得する、生産効率に優れた、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの製造方法として、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの異性化反応を利用する方法がある。
【0003】
1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換する異性化反応は平衡反応であるため、平衡濃度に達した時点で反応が終了してしまい、原料化合物(1,4−ジアセトキシ−2−ブテン)の仕込み量に対する目的物(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)の収率が一般に低くなる。このため、効率のよい生産方法が検討されている。
【0004】
例えば、特開平10−212264号(特許文献1)には、原料として使用する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンにはトランス体とシス体があり、白金の塩化物及び/又はクロロ白金酸の存在下で行なう異性化反応が、トランス体では速やかに進み、シス体では異性化があまりすすまないことに着目して、原料として、トランス体の含有率が90%以上の1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを使用する製造方法が提案されている。
【0005】
具体的には、トランス体の含有率が90%以上の1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、塩化白金を仕込み、窒素雰囲気下で、120℃に加熱して(実施例1)、あるいは100℃に加熱して(実施例2)、反応させている。反応終了後、反応混合物から蒸留などの公知の方法により、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを分離取得している。
【0006】
1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換する異性化反応は平衡反応で、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン/1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの値が通常、約40/60となった時点で平衡に達して、反応が終了してしまう。つまり、原料としてトランス体を多く含む1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを使用することで、原料である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの転化率を上げたとしても、やはり上記比率の平衡に達すると反応は終了してしまい、反応後の溶液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの含有率、すなわち原料の仕込み量に対する収率が40%を越えることはない。このため、得られた反応混合物は、蒸留等により目的物(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)を分離取得し、残りの1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを再び原料として利用しているものの、再び、トランス体とシス体の分離操作が必要になるなど、生産効率としては、さらなる向上が望まれる。
【0007】
【特許文献1】特開平10−212264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、異性化反応の平衡到達を抑制することにより反応終了することを回避し、連続的に生産することで、単位時間当たりの収量を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、原料の1,4−ジアシロキシ−2−ブテンよりも、目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの方が沸点が低いことに着目して、目的生産物を反応系外へ留去することにより、平衡に到達するまでの反応時間の延長を図ることが可能となり、単位時間当たりの収量を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの製造方法は、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを、異性化触媒の存在下で加熱することにより異性化し、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法において、蒸留装置を設けた反応器を使用して、生成する3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら、異性化反応を行なうことを特徴とする。
【0011】
前記異性化反応は、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点以上の温度で行なうことが好ましく、また、減圧下で行なわれることが好ましい。
また、前記蒸留装置を設けた反応器として、上部に蒸留塔が連結された反応器を用いることが好ましい。
【0012】
さらに、前記異性化反応を、前記反応器へ1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを連続的に供給し、一方、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを連続的に回収しながら行うことが好ましい。
【0013】
前記1,4−ジアシロキシ−2−ブテンは下記一般式(1)で表わされる化合物であり、前期3,4−ジアシロキシ−1−ブテンは下記一般式(2)で表わされる化合物である場合に好適である。
(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)
【0014】
【化1】


【化2】

【発明の効果】
【0015】
本発明の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの製造方法は、異性化反応の間、生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去することにより、平衡到達による反応終了を回避しているので、原料として使用する1,4−ジアシロキシ−2−ブテンの3,4−ジアシロキシ−1−ブテンへの転化率が同じであっても、原料の仕込み量に対する3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの収量を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの製造方法は、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを、異性化触媒の存在下で加熱することにより異性化し、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法において、蒸留装置を設けた反応器を使用して、生成する3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら、異性化反応を行なうことを特徴とする。
原料としての1,4−ジアシロキシ−2−ブテンは、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、Rは、飽和脂肪族炭化水素基を示す。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基などが挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、特にはメチル基が好ましく、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンとしては、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンが好ましく用いられる。
【0019】
原料としての1,4−ジアシロキシ−2−ブテンとしては、シス形、トランス形のいずれも用いることができるが、トランス体を用いることが好ましい。少なくともトランス体を90重量%以上含んでいることが好ましい。トランス体は速やかに3,4−ジアシロキシ−1−ブテンへと異性化することができるが、シス体は殆ど異性化しないからである。
【0020】
また、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを主成分とするものであればよく、シス体の他、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンの製造過程で混入され得る副生成物が多少含まれていても良い。例えば、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが0.1〜10重量%含まれていてもよい。
【0021】
目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンは、異性化触媒存在下で、原料の1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを加熱することで、1,4−ジアシロキシ−2−ブテンの1位置のアシロキシ基が3位置に転移し、二重結合部位が1位に転移することで得られる下記一般式(2)に示す構造を有する化合物である。式中Rは、(1)式と同じである。
【0022】
【化2】

【0023】
例えば、原料として1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを使用した場合、目的生産物は3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとなる。
【0024】
上記異性化触媒としては、従来より公知の1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを3,4−ジアシロキシ−1−ブテンに異性化する反応に用いる触媒を用いることができる。例えば、周期表第8〜10族の金属化合物が上げられる。
【0025】
上記金属化合物としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、白金、イリジウム、オスミウム、及びパラジウム等の遷移金属化合物が挙げられ、好ましくはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等のいわゆる白金族金属化合物であり、特に好ましくは周期表第10族の金属化合物であり、より好ましくは白金化合物である。そして、上記金属化合物としては、例えば、酢酸塩、アセチルアセトキシトナート、ハライド、硫酸塩、硝酸塩、アミン化合物、ピリジン化合物、アルケン化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物などが挙げられる。これらのうち、白金塩が好ましく用いられる。上述した金属化合物の形態は特に限定せず、単量体、二量体、又は多量体であってもよい。
【0026】
これらの触媒の使用量は、特に限定しないが、触媒活性と経済性の点から、原料である1,4−ジアシロキシ−2−ブテンに対して、1×10−8(0.01モルppm)〜1モル当量、好ましくは1×10−7(0.1モルppm)〜0.001モル当量の範囲、10−6〜0.0001モル当量の範囲で使用される。
【0027】
上記触媒とともに、触媒助剤を共存させることが好ましい。触媒助剤としては、公知のものを使用することができ、触媒である金属化合物に配位可能な化合物が用いられる。例えば、リン化合物、窒素系化合物、アリル系化合物などが用いられる。触媒として周期表第8〜10属の金属化合物を使用する場合、触媒助剤としては、有機リン化合物を使用することが好ましい。上記有機リン化合物としては、ホスフィン類、ホスファイト類、ホスホナイト類、ホスフィナト類などが挙げられ、これらは単座でも多座でもよく、これらの混合物であってもよい。かかる触媒助剤の使用量は、例えば触媒の金属化合物に対して通常0.1〜10モル当量であり、好ましくは1〜4モル当量である。
【0028】
反応器には、原料となる1,4−ジアシロキシ−2−ブテン、異性化触媒を仕込み、好ましくは触媒助剤を共存させるが、その他、溶媒、重合禁止剤、消泡剤などを共存させてもよい。
【0029】
本発明の製造方法は無溶媒で行うことが好ましいが、溶媒を用いることを排除するものではない。かかる溶媒としては、触媒及び原料化合物を溶解できる有機溶剤であり、且つ留去する目的生産物に混入しないように、反応圧力において加熱温度よりも高い沸点を有するものであれば使用可能であり、特に限定しない。例えば、炭素数5〜20のカルボン酸類;炭素数10〜20のアルコール類;ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;シクロへサノン等のケトン類;酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレート等のエステル類;トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類;異性化反応系内で副生成物として生成する高沸点物などが挙げられる。
【0030】
反応は、反応器に蒸留装置を設けた反応蒸留装置を用いて行なう。蒸留装置としては、還流機構を備えた蒸留装置が好ましく用いられ、その設置位置は特に限定するものではないが、蒸留気体の性質から、反応器の上部に一体的に備え付けられていることが好ましい。また、蒸留装置は、蒸留塔であることが好ましい。
【0031】
例えば、好ましい蒸留装置の具体例として、図1に示すような反応蒸留装置が挙げられる。図1に示す装置において、1は反応器であり、2は蒸留塔で、塔頂部付近に、目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの留去口3が設けられている。分離採取ライン4には、真空ポンプ等の減圧装置が備えられていて、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去するとともに、系内を減圧にすることができる。また、蒸留塔2は、目的物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンと他の化合物(特に原料の1,4−ジアシロキシ−2−ブテン)とを理論的に分離できる段数の棚板若しくは充填物を備えたものを用いることが好ましい。
【0032】
反応器への原料の投入は、直接、反応器へ原料を投入することによって行なってもよいし、原料が反応生成物として得られる場合には、例えば、ブタジエンのアシルオキシ化により得られる場合、アシルオキシ化反応の生成物分離部と、本発明の反応器を連結することにより、アシルオキシ化反応生成物が、直接、本発明の反応器へ導入されるようにしてもよい。
【0033】
反応器への原料の投入は、一括仕込みであってもよいし、連続的又は間欠的に供給してもよく、好ましくは連続的に供給する方法である。本発明の製造方法は、目的物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら行なうので、一定容積の反応器内に、原料を投入し続けることが可能であり、原料の投入を追加的に行なっていくことで、反応を継続的に行なうことができ、ひいては単位時間当たりの収量を増大することができる。
【0034】
反応は、加熱条件下で行なう。加熱温度は、使用する原料、目的生産物の種類に応じて適宜選択されるが、好ましくは目的物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点(反応圧力における沸点)以上の温度で行なう。反応は液相で行なわれることが好ましいからである。また、目的生産物の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを、蒸留により反応系から分離取得するために、加熱温度の上限は、原料化合物である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの沸点(反応圧力における沸点)よりも下の温度とすることが好ましいが、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの沸点以上の加熱温度であっても、還流により、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの蒸気が反応系に戻ることができる温度であればよい。従って、反応温度は、通常、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点(Tb(3,4))(反応圧力における沸点)以上からTb(3,4)+50℃の範囲であり、好ましくは、Tb(3,4)以上からTb(3,4)+30℃の範囲である。
【0035】
原料化合物の沸点、目的生産物の沸点は、反応圧力、および上記一般式中のRの種類に応じて、また、シス体、トランス体といった立体異性体によっても異なるが、例えば、Rがメチル基の場合、1,4−ジアセトキシ−2ブテンの沸点は、1気圧で222−230℃、18mmHg(約0.02atm)で、1,4−ジアセトキシ−2ブテンは120−127℃である。一方、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの沸点は、1気圧で206−208℃程度であり、10mmHg(0.01atm)で、95−96℃である。
【0036】
反応系内の圧力は、特に限定しないが、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点を下げる観点から、1気圧以下の減圧下とすることが好ましい。減圧下では沸点が低くなるので、反応系の加熱温度を下げることができ、副反応がおこることを防止できるからである。
【0037】
系内を減圧にする際の吸引口は特に限定しないが、目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの留去口を吸引口と兼用した場合、生産物の留去とともに、系内を減圧にすることが可能となるため好ましい。かかる吸引口と留去口の設置位置は、特に限定するものではないが、反応溶液の液面に近すぎる場合、目的生産物の分離が充分でない場合があるため、好ましくは蒸留装置の中部又は上部とすることが好ましく、より好ましくは蒸留装置の上部であり、特に蒸留装置の頂部とすることが好ましい。
【0038】
また、蒸留装置の温度は、塔頂部に近づくにつれて低くなる。3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを蒸留装置から留去する場合、留去口の設置位置における圧力で、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが沸点と同程度の温度とすることが好ましい。留去口の設置位置における3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点より低くなりすぎると、留去口よりも反応器に近い場所で目的生産物の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが液化して、再び反応系に戻ってしまうおそれがあるからである。少なくとも、留去口において、原料と目的生産物を分離することができる温度とすることが好ましい。
【0039】
以上のようにして、目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら反応を行なわせることができる。特に、反応器の上部に蒸留装置が一体的に備え付けられた、反応蒸留装置を用いることで、目的物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの蒸留を、異性化反応後と同時に行なうことができ、純度の高い3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを分離取得することができる。
【0040】
本発明の方法によれば、反応器内が目的生産物の沸点以上の温度に加熱されているので、反応蒸気が蒸留装置に導入される。蒸留装置に導入されるガスには、目的物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの他、原料として使用した1,4−ジアシロキシ−2−ブテンガス、その他の不純物として混入していた化合物のガスも含まれ得るが、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点よりも高い沸点を有する化合物、特に原料の1,4−ジアシロキシ−2−ブテンは、液化して、反応器に戻る。一方、目的生産物である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンは、留去口付近にまで上昇することができる。その留去口から3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが留去され、次いで冷却され、液体の3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが取得されることになる。留去口付近ですでに3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが液化している場合には、棚段から、留去口に導入される構造としておくことにより、反応系から留去することが可能である。
【0041】
1,4−ジアシロキシ−2−ブテンから3,4−ジアシロキシ−1−ブテンへの異性化反応は、平衡反応である。1,4−ジアセトキシ−2−ブテンから、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応の場合には、150℃で、約60−65モル%の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンと35−40モル%の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの混合物のところで、平衡に到達してしまう。しかしながら、反応系内において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを留去し続けることにより、上記平衡状態に到達して反応終了となることを抑制することができる。また、目的生産物の生成反応速度が速い状態を保つことができ、反応における仕込み原料に対する目的生産物の収量(収率)が高くなる。
【0042】
よって、本発明の方法では、目的生産物である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを留去し続けているので、更に、連続的に、原料である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを反応系内に供給しながら行なうことで、原料の減少による反応終了を避けることができる。これにより、一定量の原料を反応器に仕込んで、反応終了後、反応混合物を取り出して、蒸留するという、従来より行なわれていたバッチ法と比べて、単位時間当たりの生産物収量の向上が可能となり、しかも平衡に達しにくくしているので、目的生産物の生成反応速度が速い状態を保つことができ、反応における仕込み原料に対する収率が高くなる。
【0043】
以上の観点から、例えば、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンから、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを製造する場合、反応器内の温度は、反応器内の圧力の大きさにもよるが、通常100〜235℃、好ましくは120〜160℃とすることが好ましい。反応温度が高すぎた場合、副反応が起りやすくなるからである。一方、低すぎると、反応速度が遅くなり、また3,4−ジアセトキシブテンの蒸留による留去が困難になる傾向がある。
【0044】
また、蒸留装置の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの留去口における温度は、反応器の温度よりも低く、例えば、通常60〜210℃、好ましくは80〜180℃、特に好ましくは100〜140℃である。
【0045】
さらに、系内の圧力は、1〜120000Paの範囲内で適宜選択することが可能であるが、上記反応温度が低い方が好ましいという観点からは、1〜60000Paが好ましく、1〜15000Paであることがより好ましい。
【0046】
また、反応器に備えられる蒸留装置としては、その形態は特に限定するものではないが、塔型であることが好ましい。特に、原料となる1,4−ジアセトキシ−2−ブテンと目的生産物である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとを、理論的に分離できるものであり、理論段数5〜50の蒸留塔を用いることが好ましい。段数が少なすぎると、目的物である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと原料の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンとの分離が不十分となるからである。
【0047】
本発明の製造方法によれば、反応と同時に蒸留を行なうことで平衡到達による反応終了を抑制することができ、さらに、原料の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを連続的に供給する連続法を採用できるので、従来より使用していた原料、触媒を変更しなくても、原料仕込み量に対する収率、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの単位時間あたりの収量を高めることができ、生産効率が向上する。
【実施例】
【0048】
〔実施例〕
回転用攪拌子をいれた2000重量部の連続式オールダー形精密分留装置(32φ、40段)を連結した反応器に、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを主体とする原料(トランス−1,4−ジアセトキシトキシ−2−ブテン93.5重量%、シス−1,4−ジアセトキシ−2−ブテン2.0重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン3.6重量%、その他0.9重量%)700重量部を投入した。反応器内に、1時間、窒素吹き込みをして酸素を追い出した後、塩化白金(II)0.2重量部及びトリフェニルホスフィン0.2重量部(それぞれトランス1,4−ジアセトキシ−2−ブテン1モルに対して0.0002モル)を投入し、反応容器内の温度が160℃となるように加熱攪拌した。反応蒸気が蒸留塔の塔頂部にあがってから3時間全還流を行なった。尚、塔頂部を真空ポンプで吸引することにより、系内の圧力を13300Pa(=99mmHg=0.1atm)とした。0.1atmにおける3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの沸点は134℃であり、トランス−1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの沸点は168℃、シス−1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの沸点は163℃である。従って、反応温度は、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの沸点より26℃高い温度で、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの沸点よりも低い温度であった。
【0049】
その後、上記1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを主体とする原料を、40重量部/時間で供給し続けるとともに、塔頂部から目的物である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを40重量部/時間の割合で留去しながら12時間反応させた。
3,4−ジアセトキシ−1ブテンの収量は443重量部(得られた目的物をガスクロマトグラフィにより分析した結果の各異性体の組成:3,4−ジアセトキシ−1−ブテン98重量%、シス1,4−ジアセトキシ−2−ブテン0.08重量%、トランス1,4−ジアセトキシー2−ブテン0.09%、その他不純物1.83重量%)であり、仕込み原料に対する収率は37.5%であった。
【0050】
〔比較例〕
実施例と同じ原料を使用し、反応容器として、回転用攪拌子をいれた1000重量部容量の容器を使用し、仕込み量を下記のように変更して、バッチ式で反応させた。
実施例で使用した1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを主体とする原料の仕込量を350重量部とし、触媒の仕込み量を、塩化白金(II)0.02重量部及びトリフェニルホスフィン0.02重量部(それぞれ1,4−ジアセトキシ−2−ブテン1モルに対して0.00004モル)とした。
【0051】
反応容器内に窒素吹き込みをして酸素を追い出した後、120℃に加熱攪拌しながら、6.5時間(昇温時間を含まない場合は6時間)反応を行なった。得られた目的物をガスクロマトグラフィにより分析した結果、このときの転化率は20%であった。さらに、150℃まで昇温し、8時間反応させたところ、転化率は36.5%となった。
反応終了後、得られた反応混合物を蒸留装置(32φ、40段)に入れ替え、160℃に加熱して、反応蒸気が蒸留塔の塔頂部にあがってから、3時間、全還流を行った。なお、塔頂部を真空ポンプで吸引することにより、系内の圧力を13300Pa(99mmHg=0.1atm)とした。
目的物115重量部得た。従って、仕込み原料に対する3,4−ジアセトキシ−1ブテンの収率は32.9%である。
【0052】
実施例及び比較例の結果をまとめると下記の表のようになる。
【表1】

【0053】
表1からわかるように、同じ原料を使用しても、原料の仕込み量に対する収率は実施例の方が高かった。3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの系内からの留去により、平衡に到達しにくくなって、反応が促進されたためと考えられる。また、実施例では原料供給も連続的に行なっているので、単位時間あたりの収量が高かった。従って、本実施例の方法は、従来のバッチ法に比べて、生産効率が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法によれば、反応と同時に蒸留を行なうことで平衡到達による反応終了を抑制することができ、さらに、原料の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを連続的に供給する連続法を採用できるので、従来より使用していた原料、触媒を変更しなくても、原料仕込み量に対する収率、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの単位時間あたりの収量を高めることができ、生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の製造方法で用いられる反応蒸留装置の一実施態様を示す構成模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 反応器
2 蒸留装置
3 留去口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを、異性化触媒の存在下で加熱することにより異性化し、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを製造する方法において、
蒸留装置を設けた反応器を使用して、生成する3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを留去しながら、異性化反応を行なうことを特徴とする3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの製造方法。
【請求項2】
前記異性化反応は、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの沸点以上の温度で行なう請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記異性化反応は、減圧下で行なわれる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留装置を設けた反応器として、上部に蒸留塔が連結された反応器を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記異性化反応を、前記反応器へ1,4−ジアシロキシ−2−ブテンを連続的に供給し、一方、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを連続的に回収しながら行う請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記1,4−ジアシロキシ−2−ブテンは下記一般式(1)で表わされる化合物であり、前記3,4−ジアシロキシ−1−ブテンは下記一般式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の製造方法。
(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)
【化1】


【化2】


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−67786(P2009−67786A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211268(P2008−211268)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】