説明

3,4−ジクロロフタリドとその製造方法及びそれを用いる3−クロロフタロイルジクロリドの製造法

【課題】 新規な3,4−ジクロロフタリドの提供とその製造法および3−クロロフタロイルジクロリドへの変換。
【解決手段】3−クロロオルトキシレンの塩素化、加水分解により下記式(I)で表される3,4−ジクロロフタリドを製造する。3,4−ジクロロフタリドは光塩素化により、3−クロロフタロイルジクロリドに高収率で変換できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3,4−ジクロロフタリドに関する。
【背景技術】
【0002】
3−クロロフタロイルジクロリド(下記式IV)は、特許文献1および特許文献2に記載の農園芸用殺虫剤を製造するための原料化合物として有用である。しかしながらその製造方法は文献に開示されている方法は少なく、(1)3−クロロ無水フタル酸をホスゲンで塩素化する方法が特許文献3に開示されているに過ぎない。また、(2)無水フタル酸に五塩化リンを作用させてフタロイルジクロリドを合成する方法が非特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−240857号公報
【特許文献2】特開平2001−131141号公報
【特許文献3】WO2006−058642号公報
【非特許文献1】Org. Synth. Coll. Vol.2, 528 (1943)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、(1)の方法は危険を伴うホスゲンを塩素源として用いており、工業化には特殊な設備を必要とする。(2)の方法は当量の五塩化リンを用いるために、大量のリンを含む廃棄物が生じるという欠点がある。また、無水フタル酸誘導体の塩素化では再結晶で精製を行ったとしても、高純度のフタロイルジクロリド誘導体を得ることはできず工業化には困難を伴っていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、
(1)下記式(I)で表される3,4−ジクロロフタリド、
【0006】
【化1】

(2)3−クロロオルトキシレンを光塩素化する、3,4−ジクロロフタリドの製造方法、及び
(3)3,4−ジクロロフタリドを光塩素化する、3−クロロフタロイルジクロリドの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明による新規な3,4−ジクロロフタリドは塩素化により農園芸用殺虫剤原料などとして有用な高純度の3−クロロフタロイルジクロリドに容易に誘導することができ、工業的価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は式(I)で表される3,4−ジクロロフタリドに関するものである。
本発明の3,4−ジクロロフタリドは、下記のスキームにより製造することができる。
【0009】
【化2】

【0010】
上記3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)は3−クロロオルトキシレン(III)を光塩素化することで選択的に得られる。(II)はケミカルアブストラクトのレジストリーナンバーが付けられているにも関わらず、文献未記載の化合物である。本発明者らは、3−クロロオルトキシレン(III)を枝塩素化すると3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)が選択的に得られることを見出した。
上記塩素化の方法は、水銀灯等による光照射下に(III)中に塩素ガスを導入する液相側鎖塩素化反応により行うことができる。この塩素化反応は無溶媒で行うこともできるが、必要に応じてクロロベンゼン等の溶媒を用いてもよい。
反応温度は110℃から160℃でよく、好ましくは130℃から155℃で行うのが望ましい。
【0011】
反応はガスクロマトグラフィーで追跡でき、化合物(II)に反応が収束したら、蒸留により単離することができる。(II)の加水分解は触媒量の塩化第二鉄の存在下、このものに水を滴下して行うことができる。反応温度は120℃から130℃が好ましい。(I)は蒸留により精製後、光塩素化し3−クロロフタロイルジクロリドに誘導することもできるが、粗製のまま光塩素化することもできる。光塩素化の条件は、水銀ランプにより反応器の外部または内部に光照射しながら、塩素ガスを導入することで容易に反応させることができる。光照射は、反応スケールにより変化するが実験室スケールでは40〜200w水銀ランプ装置(岩崎電気社製)によって5〜80時間紫外線外部照射しながら反応を行う。
光塩素化して得られた3−クロロフタロイルジクロリド(IV)は蒸留により高純度に取り出すことができる。
【0012】
新規な3,4−ジクロロフタリド(I)は、それを加水分解すると3−ヒドロキシ−4−クロロフタリドとなり、その融点が文献記載のデータと一致することにより3,4−ジクロロフタリド(I)が得られていることが確認できた。
【0013】
【化3】

【実施例】
【0014】
次に本発明を実施例、参考例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0015】
実施例1.3−クロロオルトキシレン(III)の塩素化による3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)の製造。
攪拌機、温度計、塩素導入吹込み管および排ガス吸収処理可能な還流冷却管を接続した5Lの4つ口フラスコに3−クロロオルソキシレン(III)(自社製造品、純度:99.7%)2270g(16.1mol)を仕込み、反応缶外部より光触媒として100W水銀ランプを照射し、攪拌下マントルヒーター上で130−150℃に加温しながら、塩素ガス6766g(95.4mol)を60時間掛けて導入した。得られた反応液を、キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィー(以下、GCと略す)にて分析したところ、目的物である3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)79.6%、3−クロロ−1,2−ビス(ジクロロメチル)ベンゼン7.7%含む反応液を4835g得た(純分収率:76.2%)。
化合物(II)のGC/MS(EI):m/z=312(M),277(M−Cl)
【0016】
実施例2.3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)の加水分解による3,4―ジクロロフタリド(I)の製造。
実施例1.で得られた3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)を79.6質量%含む反応液4835gを単離精製することなく、これに塩化第二鉄2.5g(0.015mol、反応液量に対し0.05質量%)を添加し、攪拌下マントルヒーター上で120℃に加温する。これに、水526.7g(29.2mol、反応液量に対し10.9質量%)を16.5時間掛けて温度120〜130℃で滴下後、同温度で2時間熟成させた。得られた反応液をGC分析したところ、目的物の3,4―ジクロロフタリド(I)が76.7%(3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼンの転化率99.9%、目的物純分収率96.4%)、3−クロロフタルアルデヒド2.3%を含む溶液3130.9gを得た。
この溶液を蒸留し、156.9gを初留分として抜き出した後、本留分として2214.0gを留出させた。本留分のGC分析により、3,4−ジクロロフタリド(I)が88.9%、3−クロロフタルアルデヒド2.7%(純分収率62.7%)が含まれていた。
【0017】
実施例3.高純度3,4−ジクロロフタリド(I)の製造及び構造確認
実施例1.と同様に3−クロロオルトキシレン(III)の塩素化により3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)を83.0%含む反応液を得た。攪拌機、温度計、滴下ロートおよび排ガス吸収処理可能な還流冷却管を接続した100mlの4つ口フラスコに、3−クロロ−2−ジクロロメチル−1−トリクロロメチルベンゼン(II)を83.0%含む反応液100.0g、塩化第二鉄0.055g(0.34mmol、反応液量に対し0.05重量%)を入れ、攪拌下120℃に加温した。これに、水11.0g(0.61mol、反応液量に対し11.0重量%)を温度120〜130℃で滴下、熟成させた。反応時間は水の滴下時間および熟成を含めて12.5時間で反応終了とした。GC分析により、3,4−ジクロロフタリド(I)を82.5%(純分収率97.7%)含む反応液63.8gを得た。
この溶液をガラス製充填物(理論段数2−3段相当)のある蒸留装置にて回分留出させた。初留分として26.3g(41.2重量%相当)抜き出した後、本留分として20.7g(32.5重量%)留出させた。本留分はGC分析により、3,4−ジクロロフタリド(I)が96.4%、3−クロロフタルアルデヒド0.8%がGC全面積比で含まれていた。
得られた本留分は窒素雰囲気下発汗法による純度アップを行いGC純度99.0%の3,4−ジクロロフタリド5.11g(純分収率9.5%)を得た。
【0018】
融点:83.8℃
GC/MS(EI):m/z=202(M),167(M−Cl)
1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ=7.09(s,1H),7.65(dd,1H,J=7.8,7.5Hz),7.75(dd,1H,J=7.8,0.8Hz),7.87(dd,1H,J=7.5,0.8Hz)
13C−NMR:(75MHz,CDCl3):δ=166.60(C=O),144.58,135.97,133.16,130.21,127.08,124.65,84.59(CH−Cl)
【0019】
実施例4.3,4−ジクロロフタリド(I)の塩素化による3−クロロフタロイルジクロリドの製造。
攪拌機、温度計、塩素導入吹込み管および排ガス吸収処理可能な還流冷却管を接続した3Lの4つ口フラスコに、実施例.2で得られた3,4−ジクロロフタリド(I)2214.0gを仕込み、攪拌下反応缶外部より光触媒として100W水銀ランプを照射しながら、温度110〜120℃にて塩素ガス811g(11.4mol)を12時間掛けて導入した。反応終了後、窒素ガスにて溶存塩化水素の置換を行い、3−クロロフタロイルジクロリド溶液(GC純度94.9%)2569.0gを得た。
この溶液をニッケル製充填物(理論段数20段相当)を充填した蒸留塔を使用して、蒸留を行い3−クロロフタロイルジクロリド2064.0g(蒸留収率80.3%)を得た。bp132−133℃/4−5mmHg。このもののGC分析は純度99.7%であった。(文献値:140℃/8mbar:WO2006058642)
融点:49.0℃
GC/MS(EI):m/z=236(M),201(M−Cl)
【0020】
参考例1.3,4−ジクロロフタリド(I)の加水分解による3−ヒドロキシ−4−クロロフタリドへの変換(誘導化による構造確認)
攪拌機、温度計、還流冷却管を接続した300ml4つ口フラスコに、3,4−ジクロロフタリド(I)を40%含む溶液20gと10重量倍のイオン交換水200gを加え、攪拌下オイルバス上で還流させた。加水分解反応を2時間経過した時点でGCによる分析を行った。その結果、3,4−ジクロロフタリド(I)の消失を確認し、新たなピークとして3−ヒドロキシ−4−クロロフタリドの生成を確認した。このピークはその後15時間継続した反応追跡で変化することは無かった。反応液を室温まで冷却し純粋な3−ヒドロキシ−4−クロロフタリドの針状結晶を得た。
融点:128.4℃。(文献値:128−130℃:J.Org.Chem.2003,68,2030−2033)
GC/MS(EI):m/z=184(M),167(M−OH)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される3,4−ジクロロフタリド。
【化1】

【請求項2】
3−クロロオルトキシレンを光塩素化する、3,4−ジクロロフタリドの製造方法。
【請求項3】
3,4−ジクロロフタリドを光塩素化する、3−クロロフタロイルジクロリドの製造方法。

【公開番号】特開2009−242336(P2009−242336A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93179(P2008−93179)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(393021967)イハラニッケイ化学工業株式会社 (13)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】