説明

4−フルオロエチレンカーボネートの製造方法及び装置

【課題】ECとF2/N2混合ガスとを直接反応させてFECを製造する方法において、穏和な反応条件で反応転化率と選択率に優れており、かつ簡単な精製工程のみで高純度の製品収得が可能なFEC製造方法とFEC製造用として有用な反応装置を提供する。
【解決手段】エチレンカーボネートとフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスを反応させて4-フルオロエチレンカーボネートを製造する方法において、エチレンカーボネートの充填された反応器内にフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスを供給するに際し、充填カラム用充填物の充填された気泡調節カラムを用いて該混合ガスの気泡の大きさを調節しつつ供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-フルオロエチレンカーボネート(4-fluoroethylene carbonate)の製造方法及び装置に係り、より具体的には、溶媒を用いることなくエチレンカーボネート((CH2O-)2CO:以下、「EC」という)にフッ素ガスと窒素ガスの混合ガス(以下、「F2/N2混合ガス」という)を直接反応させて4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(4-fluoro-1,3-dioxolan-2-one)を製造する方法及びこれに使用される装置に関するものである。
4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンは、4-フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)という別称を持っている。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン2次電池の電解液としては、含フッ素無機リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水溶性の有機電解液が主に用いられる。この際、電解液は、高い伝導度を持たなければならず、電気、化学的安定性の範囲が広く、容器及び電極材料との反応性が低いという特性を持たなければならないが、一般に1種の有機溶媒がこのようないろいろの特性を持っていないので、混合有機溶媒の形で使用される。また、このような混合電解液に含フッ素有機化合物を使用することにより、リチウムイオン2次電池の性能が向上するものと知られており、フッ素含有有機化合物としてフルオロエチレンカーボネート類が用いられている。
フルオロエチレンカーボネートは、置換されたフッ素原子の数によってモノフルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、テトラフルオロエチレンカーボネート、及びこれらの異性体に分けられるが、その中でも、リチウムイオン2次電池電解質用有機溶媒の性能改善用添加物として最も優れるものはFECであると知られている。添加剤としてFECを電解液に配合すると、初期充填の際に電解質の分割による電池の性能低下が殆どなく、電池の熱安定性が大幅向上してリチウムイオン2次電池で間欠的に発生する爆発を抑えるなどの効果を示す。このような機能性のため、FECの使用量が段々増大している。
【0003】
ところが、リチウム2次電池の電解液として使用できるFECは、電池の性能及び安全性の維持のために、その品質規格が、純度99.8wt%以上、水分20ppm以下、色相APHA color 50以下、金属イオン含量1ppm以下、酸性度(HF基準)50ppm以下と非常に厳しく規制されている。
FECを製造するに当たり、ECとF2/N2混合ガスとを直接反応させてECをフッ素化させる方法が、反応収率と純度の面で最も適した方法であると知られている。ECとF2ガスとを直接接触させて反応させると、反応性があまり高くて局部的な爆発現象が起こってECの変性を伴うので、反応の安定性を確保するためにF2/N2混合ガスを使用し、且つF2との反応性が低いフッ化物を反応溶媒とするなど様々な改良方法を用いている。
【0004】
特許文献1には、ジメチルカーボネートと3,3,3-トリフルオロ-1,2-プロピレンオキサイドとを炭酸ナトリウム(NaHCO3)の存在下に反応させてトリフルオロエチレンカーボネートを製造する方法が開示されている。
特許文献1の方法は、高価なフッ化有機物(3,3,3-トリフルオロ-1,2-プロピレンオキサイド)を原料物質として使用し、反応時間が約8〜40時間程度かかり、円筒状反応器に撹拌装置を使用し、最終製品を得るために水で洗浄し、さらに有機物の抽出、乾燥、濾過、結晶化などの複雑な精製工程を必要とし、収率も57%未満に過ぎない。このような複雑な精製工程を繰り返し行うことにより不純物の流入可能性が高いため、リチウムイオン2次電池電解液で要求される厳しい品質規格(金属成分1ppm以下、水分20ppm以下、酸度50ppm以下)に合わせることが難しいため、商業的製法として有用ではない。
【0005】
特許文献2には、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン (4-Chloro-1,3-dioxolan-2-one)とKFを使用するフッ素置換反応によってFECを合成する方法が開示されている。この場合、ハロゲン置換反応は、高温の反応条件及び長い反応時間を必要とし、選択率も低く、使用したKF及び副生するKCl、HClを除去するために水洗浄又は濾過などの後工程を必ず必要とする。このような複雑な精製工程によって高純度のFECを得るには多くの難しい問題が伴う。
【0006】
特許文献3には、ECを原料として、50℃の恒温槽内の撹拌器が設置された反応器で反応溶媒として無水フッ酸又はパーフルオロカーボン(perfluoro carbon)を使用し、30%のF2/N2混合ガスを350mL/minの供給速度で供給し、800rpmで撹拌させながら約40時間反応させた後、HF除去のために水で洗浄し、さらに10%NaHCO3水溶液で洗浄し、ジクロロメタン(500mL×6回)で抽出し、MgSO4で乾燥させた後、ジクロロメタンを除去し、蒸留精製、結晶化過程などの段階を経てFECを製造する方法が開示されている。このような方法では、1.8molのF2ガスが反応したとき、反応物中のFECの組成が64〜67%であった。これは、供給されたF2ガスの33〜35mol%のみが反応に消耗され、FEClmolの生産に3molのF2ガスが必要であることを意味する。供給されたF2ガスの33%のみが反応に寄与したので、このような方法は、洗浄及び抽出過程で相当量のFECが水に溶解されて収率が急激に減少するうえ、水分によるFECの脱フッ化水素酸反応(Dehydro fluorination)によってビニレンカーボネート(Vinylene carbonate)が副生して精製不能の場合が生ずることもある。また、反応熱を制御するために無水フッ化水素酸をEC重量比5〜50%使用し、高価なF2ガスをECに対し1.8mol過量で使用するなど有用ではない。前記反応で純度90%のFEC480g(収率70%)を得、15℃で再結晶を数回繰り返し行って純度99%以上のFEC390gを得た。このとき、F2の使用量を基準として、収率は38%であった。
【0007】
特許文献4には、特許文献3と同一の反応装置でECに30%のF2/N2混合ガスを250mL/minの供給速度で供給して約11時間反応させることにより、ジフルオロエチレンカーボネート(以下、「DFEC」という)をtrans-70%、cis-14%、gem-6%、FEC-9%の割合で製造し、HFを留去した後、10%NaHCO3水溶液で洗浄し、ジクロロメタン(250mL×6回)で抽出し、MgSO4で乾燥させた後、5〜20mmHgで減圧蒸留によってDFECを分離し、高純度のDFECを収得する方法が開示されている。この反応において、EC1molに対するF2の所要量は2.25molであり、再結晶純度は99%以上であった。
【0008】
特許文献5には、FEC1molの生産に3molのF2ガスが必要であると記載されている。この技術も、水を用いてHFを除去する過程を経ることにより、前述したような収率減少の問題点が発生した。
【0009】
特許文献6には、ECとフッ素ガス又はF2/N2混合ガスとの激烈な反応の温度を制御するために、ECの重量比に対し3〜20wt%の範囲でFECを混合して15〜45℃程度の低温で5v/v%のF2/N2混合ガスと反応させて反応を完了した後、KHCO3で中和させ、濾過した後、濾液をアセトンで洗浄し、アセトンを蒸留除去してFECを製造する方法が開示されている。この方法は、FECの製造反応時間が後述の本発明に比べて4〜5倍程度長く、重炭酸水素カリウム(potassium hydrogen bicarbonate、KHCO3)による中和工程、懸濁液濾過工程、アセトンによる洗浄を経て蒸留工程に導入されるので、工程が複雑で不純物混入のおそれが高く、効率の面でも商業的に不経済である。
【0010】
特許文献3及び特許文献4では、無水フッ酸溶液にECを溶解させてEC含量が5〜50重量%の無水フッ酸溶液を作り、ここにF2/N2混合ガスを導入して反応させる。ところが、ECとF2/N2混合ガスとの反応のみでもFEC量の20wt%程度のHFが生成されるので、反応終了後、規格値以下にHFを除去することが容易ではなくて有用な方法であるとは言えない。したがって、これを商業化工程に適用し難いうえ、経済的にも有用ではない。しかも、再結晶工程を経ても、電解液で最も重要な酸性度を規格値以下に低めることが難しい。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,010,806号明細書
【特許文献2】国際公開特許WO98/15024号パンフレット
【特許文献3】特開2000−309583号公報
【特許文献4】特開2000−344763号公報
【特許文献5】特開2004−63432号公報
【特許文献6】国際公開特許WO2004/076439号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、ECとF2/N2混合ガスとを直接反応させてFECを製造する方法において、液状のECとF2/N2混合ガスが接触するとき、F2/N2混合ガスは液状ECの中で気泡を形成しながら反応し、この際に形成される気泡の大きさが大きければ反応が急激に行われて局部的爆発を起こし、ECが黒く焦げてしまうなど変質することに着目し、ECと反応するF2/N2混合ガスの気泡サイズを気泡調節カラムで予め調節して供給することによりECとの反応時に混合ガスの気泡を微細に形成させ、これを反応媒質中に均一に分散させてスムーズな反応で高い反応転化率と選択率を維持させることができ、その他の反応溶媒を使用しないため反応完結後にも簡単な精製工程のみで高純度のFECを収得することができることを見出し、本発明の完成に至った。
そこで、本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ECとF2/N2混合ガスとを直接反応させてFECを製造する方法において、穏和な反応条件で反応転化率と選択率に優れており、かつ簡単な精製工程のみで高純度の製品収得が可能なFEC製造方法とFEC製造用として有用な反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、エチレンカーボネートにフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスを反応させて4-フルオロエチレンカーボネートを製造する方法において、エチレンカーボネートの充填された反応器内にフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスを供給するに際し、充填カラム用充填物の充填された気泡調節カラムを用いて該混合ガスの気泡の大きさを調節しつつ供給することを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネートの製造方法が提供される。
また、前記4-フルオロエチレンカーボネートの製造方法は、前記充填カラム用充填物がラシヒリング、ポールリング又は構造充填物(structure packing)であることを特徴とする。
本発明の他の観点によれば、4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法において、エチレンカーボネートにフッ素ガスと窒素ガスを反応させて得られる、フッ酸、未反応エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)を含有する4-フルオロエチレンカーボネートを、減圧蒸留方法によってフッ酸、エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートを分離、精製して高純度の4-フルオロエチレンカーボネートを得ることを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法が提供される。
また、前記4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法は、フッ酸、エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートを含有する4-フルオロエチレンカーボネートを分別蒸留カラムで温度60〜120℃、圧力30〜140mmHgで分別蒸留してフッ酸を分離、除去させた後、温度90〜160℃、圧力20〜100mmHgで再蒸留してエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート及び残留フッ酸を分離、除去させ、これを温度60〜130℃、圧力1〜100mmHgでさらに蒸留して高純度の4-フルオロエチレンカーボネートを得ることを特徴とする。
本発明の別の観点によれば、F2/N2混合ガスの供給口と、外部表面に冷却水ジャケットが設置された反応室と、上端に設けられた反応ガス排出口とを含む4-フルオロエチレンカーボネート製造用反応器において、前記反応室内に設けられ、充填カラム用充填物が充填された気泡調節カラムを含んでなり、前記反応室は円筒からなる「中央部空隙凹体」形状を有することを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネート製造用反応器が提供される。
なお、本発明でいう「中央部空隙凹体」とは、略、図1に示す反応器の断面の形状を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法は、ECとF2/N2混合ガスとを直接反応させてFECを製造する方法において、精製工程が簡単であり、かつ高い反応転化率及び選択率でFECを製造することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の方法は、回分式(Batch)工程を採用し、ECからFECを製造する工程で液状のECをF2/N2混合ガスで直接フッ化させる方法である。本発明の方法は、10時間以内の短い反応時間で高選択性、高収率のFECを製造することができるとともに、高価なF2ガスの反応効率を大幅向上させることができる。
また、本発明の方法は、洗浄工程、抽出工程、乾燥工程、結晶化などの煩わしい精製工程を行うことなく、減圧蒸留工程のみで精製するという特徴をもつ。本発明は、FECの損失を最小化しながら簡単で経済的に有用な高純度のFECを商業的に量産する方法の提供を目指している。
現在、最も有用なFEC製造方法としては、F2ガスを不活性ガス(N2)と一定の割合で混合してECに直接フッ化させる方法が提示されている。ところが、この種の直接フッ素化反応は、前述したように、反応速度の緩和のために原料物質をまずフッ化させて溶媒として使用し、あるいは反応器に撹拌器などを用いて高速で撹拌しなければならず、反応速度の緩和のために使用された溶媒を反応後に分離、除去させるために洗浄、抽出、乾燥、蒸留、再結晶などの複雑な精製工程を経なければならないという問題があった。また、原料物質のECに比べて過剰量のF2ガスが消耗され、長い反応時間を必要とするにも拘らず、FECへの転化率及び最終製品としてのFEC収率も低いなどいろいろ不満足な点がある。
【0016】
本発明の方法でも、液状のECを原料としてF2/N2混合ガスで直接フッ化させてFECを製造した。これを次の反応式で表わすことができる。
【0017】

【0018】
液状のECとF2/N2混合ガスとが接触するとき、F2/N2混合ガスを液状ECの中で気泡を形成しながらEC液と反応する。この際、形成される気泡の大きさが大きければ、反応が急激に行われて局部的な爆発を起こし、よってECの変質をもたらす。ところが、この気泡の大きさを非常に小さくすると、反応がスムーズに行われるようにすることができる。
特許文献3に開示されているように、ECをF2/N2の混合ガスと反応させてFECを製造する方法において、撹拌器を用いて800rpmの撹拌速度で反応物を撹拌させることは、F2/N2混合ガスの気泡を細かく砕いて均一に分散させるためである。本発明の別の特徴は、駆動部を備えない気泡調節カラムを用いてF2/N2混合ガスの気泡を細かく且つ均一に形成させて供給することにある。
【0019】
本発明の反応器は、図1に示されているように、下端に設けられたF2/N2混合ガスの供給口と、外部表面に冷却水ジャケットが設置されている反応室と、上端に設けられた反応ガス排出口とを含むFEC製造用反応器において、前記反応室8内に設けられる気泡調節カラム3を含んでなり、前記反応室は円筒からなる「中央部空隙凹体」形状を有する。反応器1は、F2/N2混合ガスの供給口2、気泡調節カラム3、冷却水注入口4、冷却水排出口5、熱交換器6、N2ガス排出口7及び反応室8から構成される。図1に示されてはいないが、反応器1には、一般的な化学反応装置で使用される反応温度、内容量、流量、圧力などを表示あるいは記録することが可能な装置が備えられている。
F2/N2混合ガスの供給口2から供給されたF2/N2混合ガスは、気泡調節カラム3を介して反応室8へ供給される。気泡調節カラム3は液状ECの中に浸漬された状態で使用される。反応器内の撹拌器など別途の装置は不要である。また、ジャケット型(Jacket type)の冷却水循環通路を形成した1次反応器(主反応器)とこれと同様の反応器(2次反応器)の2つを直列に設置して使用した方がより反応効率を高めることができる。それぞれの反応器は外部ジャケットを介して加温及び冷却ができるようにした。
従来のFEC製造用反応器は撹拌装置を備えた円筒状の反応器が使用されている。「中央部空隙凹体」形状の反応器は、単純円筒状の反応器に比べて、撹拌装置などの駆動部がなく、反応室の長さが長くて表面積が広いという特徴をもつ。
FEC製造反応は高い反応熱を発生させる発熱反応なので、反応室の外壁に冷却水を供給して反応温度を制御しなければならないが、反応室の内部容量が同一の場合、本発明の反応器の反応室の表面積が円筒状の反応器に比べて広いので、温度制御が容易である。表面積だけでなく反応室の長さも長くなるので、ECと混合ガスとの接触時間が長く保たれて、反応効率は増大し、反応時間は短縮される。
円筒状反応器の場合、反応物質を反応室に完全に充填して反応させることができないため、通常30〜40%の空隙(dead volume)を維持しなければならないが、本発明の反応器では、反応室内に空隙を維持する必要がなくなるので、反応室の大きさを小さくすることができる。反応の際、反応器内の空隙は未反応ガスでみたされ、反応副産物は主にこれら未反応ガスの相互反応により作られるものなので、空隙の少ない本発明の反応器では、副反応の発生可能性が低くなる。また、反応前又は反応完了後、空隙にみたされていた未反応ガスの排出に一定の時間が必要となるので、円筒状の反応器は作業時間が長くなる。
【0020】
化学工程で気−液又は液−液など互いに異なる相の物質を効率よく混合させるために、異相間の接触面積を大きくしながら混合させる充填物を充填したカラムを使用するが、このようなカラムを充填塔(packing tower)又は充填カラム(packing column)とし、ここに充填するものを充填物(packing)とする。このような充填カラムを使用する理由は、互いに異なる相を効果的に混ぜるためのものである。このような用途で使用される充填物としては、図2a、図2b、図2cに示したようなラシヒリング(Raschig ring)(図2a)、ポールリング(pall ring)(図2b)、構造充填物(structure packing)(図2c)などがあるが、これらは全て市販されているものである。ポールリングは、ラシヒリングの内部に回転翼状の分岐が備えられたものである。
気泡調節カラムの内部には、液状のECとF2ガスとがよく混合できるように、ステンレス材質の3/8”ポールリング又は3/8”ラシヒリングが充填される。この充填層を通過する間、不規則に積層された充填物が形成する不規則な空隙が微細なガス流通経路を形成し、この空隙の間を混合ガスが通過しながら気泡がよく分散し、形成された気泡が液状のEC中に均一に分散しながらECと反応する。また、気泡が充填層を通過しながらEC液との接触面を増大させる。このような機能は、反応器の内部で溶液の循環と気液接触を極大化するので反応収率が既存の製造方法より著しく高いという利点をもっている。1次反応器の下方に導入されるF2/N2混合ガスは、反応物のECを循環させながら1次反応器でECと反応する。未反応ガスはさらに2次反応器の下方に導入されて同一の方法で反応される。少量の未反応ガスは排出されて吸収器に導入されて処理される。
【0021】
一般にECとF2/N2混合ガスとを混合させる混合器(mixer or agitator)は回転翼などの駆動部を有するが、これに対し、本発明では、反応器中のECが充填されている反応区域にポールリング又はラシヒリングなどの充填カラム用充填物で充填された気泡調節カラムを設置し、この気泡調節カラムの内部に混合ガスを通過させることにより、ECとF2/N2混合ガスとを混合させる混合器の役割を行うようにした。気泡調節カラムはこのような充填物が不規則に充填されたものである。
一定の圧力でF2/N2混合ガスを充填層に通過させると、F2/N2混合ガスが充填層で気−液接触して均一に分散する。この際、F2/N2混合ガスの流速を調節することにより、液状ECの中に形成されるF2/N2混合ガスの気泡の大きさを調節することができる。この際、形成される気泡の大きさは、液状ECの粘度、充填物の大きさ及び構造、充填層の高さ(又は充填物の量)、F2/N2混合ガスの供給速度によって決定される。ポールリング又はラシヒリングなどの充填物を使用すると、ECと反応するF2/N2混合ガスの気泡サイズを微細に調節することができるうえ、F2/N2混合ガスの気泡が液状のECと十分に気−液接触しながら反応して反応性を増加させることができる。
本発明の製造方法では、反応器内に充填されたECに直接F2/N2混合ガスを導入するだけで反応が行われるので、精製工程で溶媒を除去する必要がない。一方、本発明の反応装置は、反応安定性がよく、反応熱の制御が容易であり、10時間以内の短い反応時間などの面で一層有利であり、副反応による副生成物も少なくてFECの選択率が非常に高く、2基の連続した反応装置を使用することによりF2ガスの損失を最小化することができるため経済的にも有利であり、FECの量産が可能であるという特徴を持つものである。
本発明では、1.2molのF2ガスが反応したとき、1次反応器と2次反応器で連続して反応させると、F2ガスの反応効率が80〜86mol%と非常に高い。つまり、F2ガス反応効率は従来の方法に比べて2.2〜2.5倍高い結果を得た。
【0022】
本発明では、商業的に運転されるF2電解槽で発生するF2ガスを別途の貯蔵装置を通過させることなく、圧縮して全量反応器に導入した。反応温度45〜60℃、反応圧力1000〜1500mmAqで20〜25v/v%のF2/N2混合ガスを反応させて精製工程を経て99.8wt%以上の高純度のFECを得ることができる。また、リチウムイオン2次電池電解液として使用するために、前述したように電池性能及び安定性に致命的な影響を及ぼす不純物の含量を厳しく規定している。
本発明において、精製工程の特徴は、上述した先行技術で実施する10%NaHCO3、KHCO3又は氷水を用いた洗浄工程、HF除去工程、FEC分離のためのジクロロメタン抽出工程、MgSO4乾燥工程、再結晶工程などを使用しないので、複雑な工程から招かれる不純物混入のおそれを根本的に除去したことにある。前述した先行技術では、HF含量を1wt%以下におさえることが難しく、水に対するFEC/ECの高い溶解度のために50wt%のFECの損失を回避することができなかった。
本発明は、FEC中のHFを除去するために設置されたHF除去用減圧蒸留塔、低沸点物−高沸点物分離カラム(Light-heavy Cut Column)、製品収集塔、EC再生塔を順次経由する工程によって精製を行う。本発明は、ECとF2/N2混合ガスの反応物を減圧蒸留による分別蒸留工程のみで精製してFECを得るという特徴をもつ。
このような単純な精製工程によっても高純度のFECを得ることができ、それぞれの蒸留塔を経る間、HF及び水分が連続的に除去されるため、水洗浄及び中和の方法では得られない電解液の規格を満足するFECを得ることができるという利点がある。減圧蒸留方法は蒸留缶(reboiler)の温度50〜150℃で、HF除去工程は60mmHg以下の圧力で、低沸点物−高沸点物分離工程は40mmHg以下の圧力で、FEC収集工程は20mmHg以下の圧力でそれぞれ行われる。これにより、本発明は、純度、酸性度、水分量、金属イオン量、色相などの全ての電解液規格を満足することができた。そして、それぞれの精製工程で残る高沸点物(EC/未蒸留のFEC)を全量回収して原料物質として再使用することにより、EC/FECの損失を最小化することができた。ECとF2/N2混合ガスとを接触させて得られる反応生成物を精製する際に、減圧蒸留しなければ、FECの沸点が210℃と高くて多くの熱量が必要となるうえ、蒸留装置も大気圧で130〜250℃の温度勾配を与えることが可能な大容量の蒸留カラムが必要となる。次に、本発明を下記実施例によって具体的に説明する。しかしながら、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0023】
<製造実施例>
実施例1
反応器1にECを充填するためには、常温で無色無臭の結晶EC(m.p36〜37℃)を、移送可能な溶液に融解しなければならない。この際、反応室8の外部冷却水ジャケットに温水を循環させて45〜50℃に維持しながら反応室8に液状のEC10.6kg(120.37mol)を充填した。冷却水ジャケットに温水を循環させて反応器の温度が45〜50℃に保たれる状態で、F2電解槽で発生するF2ガスを混合器(図示せず)に供給し、N2ガスと混合し、20v/v%のF2/N2(F2含量20V%)混合ガスを作って1960L/hの供給速度で反応器の下部のF2/N2混合ガス供給口2から注入して反応器内に導入する。この際、F2/N2の混合ガスは、気泡調節カラム3を介して反応器内に導入する。それぞれの気泡調節カラムの内部は充填物で充填させる。本実施例では、各気泡調節カラムの内部に3/8”のラシヒリング1200個を充填させた。内径2”、長さ600mm、内容積1373cm3の円筒状気泡調節カラム3を4段にして設置した。F2/N2混合ガスがカラムの内部に不規則に充填されたラシヒリング床を通過すると、様々な経路の流路を形成しながら均一に分散する。この際、混合ガスの流速を調節すると、多段からなる気泡調節カラムを通過しながら液状ECの中に形成されるF2/N2混合ガスの気泡の大きさを所望の大きさに細かく調節することができる。この際、形成される気泡の大きさは気泡調節カラムの数、充填物の使用量、F2/N2混合ガスの供給速度によって決定される。気泡調節カラムを使用すると、ECと反応するF2/N2混合ガスの気泡の大きさを細かく調節することができるうえ、F2/N2混合ガスの気泡を液状ECの中に均一に分布させる。混合ガスの流量は流量制御器(flow controller)で制御した。
F2/N2混合ガスが反応器内に導入されて反応し始めると、激しく反応し、高い反応熱が発生するので、そのときからは冷却水ジャケットに冷却水を供給し、反応温度は55±3℃の範囲とした。図1の反応器内の「→」はECの流動方向を示す。反応器の上部の熱交換器には-15℃の塩水(brine)を供給しながら、熱交換器の下部の温度を27±2℃に保った。反応器の圧力は、未反応ガスが吸収器へ排出される配管上にソレノイドバルブを設置し、微細圧力調節装置で制御して1000+30mmAqとした。最初に反応器に充填されたECを基準としてF2ガスの導入量が1.2molとなったとき、反応を終了した。反応終了後には30分に亘って500L/hrのN2で反応器内の残留ガスを除去した。
この際の反応結果は、反応生成物量13.14kg、HF11.63wt%(1.05kg)、FEC75.37wt%(8.75kg、82.5mol)、DFEC3.0wt%(o.35kg、2.85mol)であった。F2反応mol数は88.2molであり、F2転化率は61.1%、FECの選択率は93.5%であった。F2を基準とするとき、FECの収率は57.1%であった。
【0024】
実施例2
実施例1と同様の反応条件で実験を実施した。但し、反応器は同一形状の2基の反応器を直列に連結して使用した。主反応器の1次反応器と2次反応器にそれぞれ液状のEC10.6kgを充填し、反応ガスである20v/v%のF2/N2混合ガスを1次反応器に導入して1次反応させた。この際、排出される未反応ガスは、2次反応器に導入されて再び反応に使用されるようにした。それ以外の実験条件は実施例1と同様である。
この際の反応結果は、反応生成物量25.3kg、HF9.96wt%(2.52kg)、FEC52.74wt%(12.01kg、113.2mol)、DFEC2.06wt%(0.47kg、3.73mol)であった。F2反応mol数は116.9molであり、F2転化率は80.93%、FECの選択率は96.8%であった。F2を基準とするとき、FECの収率は78.4%であった。
【0025】
実施例3
実施例2と同様の反応条件で実験を実施した。主反応器の1次反応器には液状のEC10.6kgを充填し、2次反応器には35wt%(34.8mol)のFECを含むEC/FEC溶液10.6kgを充填し、反応ガスである20v/v%のF2/N2混合ガスを1次反応器に導入して1次反応させる。この際、排出される未反応ガスは、2次反応器に導入されて再び反応に使用されるようにした。それ以外の実験条件は実施例2と同様である。
この際の反応結果は、反応生成物量25.01kg、HF11.79wt%(2.95kg)、FEC73.65wt%(16.24kg、153.1mol)、DFEC2.99wt%(0.66kg、5.32mol)であった。F2反応mol数は124.8molであり、F2転化率は86.4%、FECの選択率は94.8%であった。F2を基準とするとき、FECの収率は81.9%であった。
実施例1は1基の反応器1のみを使用した場合であり、実施例2、実施例3は2基の反応器1を直列に連結して使用した場合である。2基の反応器を使用する場合は、1次反応器から排出される未反応F2ガスを回収してF2/N2混合ガスを作り、1基の反応器における方法と同様の方法で2次反応器へ供給する。
上記の実施例で示したように、2基の反応器を使用する場合が、1基の反応器を使用する場合に比べてF2ガスの損失量を減らし且つFECの生産量を増大させるのに効果的な方法であると言える。
【0026】
<精製実施例>
実施例4
前記実施例1、2、及び3はそれぞれ回分式の運転を採用したものなので、得られた反応生成物は貯蔵タンクに混合貯蔵される。
反応終了後の反応生成物をHF除去カラムに移送して減圧蒸留を施した。蒸留カラムの内部には、図2cに示されている構造充填材(wire gauze type packing、別名はstructure packing)を入れて蒸留効率を高めた。蒸留カラムの最上段で除去されるHFは、真空ポンプの前に設置された液体窒素トラップに受け取られるようにした。蒸留効率は、同一の蒸留缶温度では真空度が高いほど、同一の圧力条件では温度が高いほど高かった。本実施例は蒸留温度95±1℃、圧力35±3mmHgで実施した結果であり、蒸留温度60〜120℃、蒸留圧力30〜140mmHgの範囲内で実施可能である。
減圧蒸留実験の結果、FEC71.8wt%、HF12.3wt%、DFEC2.8wt%、EC13.1wt%の反応生成物19.8kgを蒸留して、FEC83.7wt%、HF0.1wt%(除去率99.2wt%)、DFEC0.49wt%、EC15.71wt%を含む16.23kgのFECを含む有機混合物(FECを基準として95.5wt%)を別途の貯蔵槽に収集した。この減圧蒸留操作を再度行ったところ、FEC82〜84wt%、HF0.1〜0.13wt%、DFEC0.4〜0.6wt%、EC15〜17wt%の組成を有する、HFの除去された混合物を得ることができた。
HF除去カラムでHFが除去された貯蔵槽の反応生成物は、低沸点物−高沸点物分離カラムへ移送されて塔の上部でDFECと微量含有HFを除去し、塔の中間でFEC92〜95%程度の粗FECを収集する。本実施例では蒸留温度120±1℃、圧力25±2mmHgで実施したもので、蒸留温度90〜180℃、蒸留圧力20〜100mmHgの範囲内で実施可能である。
実験の結果、FEC82.6wt%、HF0.12wt%、DFEC0.46wt%、EC16.82wt%の組成を有する、HFの除去されたFEC含有有機物20.1kgを蒸留して、FEC93.22wt%、HF0.009wt%、DFEC0.21wt%の粗FEC15.87kg(FECを基準として89.1wt%)を別途の貯蔵槽に収集した。この減圧蒸留操作を再度行ったところ、FEC92〜94wt%、HF0.007〜0.012wt%、DFEC0.15〜0.3wt%の組成を示した。そして、蒸留缶に残っている高沸点物は、反応器又はEC再生塔に戻して再使用した。
低沸点物−高沸点物分離カラムで精製された粗FECは、最終製品収集塔へ移送され、除去されていない微量のHFとDFECを塔の上部で除去し、塔の中間でFEC最終製品を収集した。本実施例では蒸留温度94〜96℃、圧力4mmHg以下で実施した結果であり、蒸留温度60〜130℃、蒸留圧力1〜100mmHgの範囲内で実施可能である。
実験の結果、FEC93.84wt%、HF0.008wt%、DFEC0.19wt%、EC5.96wt%の組成を有する粗FEC20.0kgを蒸留して、FEC99.89wt%、HF0.003wt%、DFEC0.10wt%の製品FEC16.53kg(FECを基準として88.0wt%)を貯蔵槽に収集した。そして、蒸留缶に残っている粗FECは低沸点物−高沸点物分離塔に戻して再使用した。
実施例4は多段階に分けて実施したものであるから、前段階で得られた生成物の組成は次の段階の出発物質の組成とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の4-フルオロエチレンカーボネート製造装置の断面図
【図2a】充填カラム用充填物のラシヒリングを示す図
【図2b】充填カラム用充填物のポールリングを示す図
【図2c】構造充填物(structure packing)の正面図
【図2d】図2cの構造充填物の平面図
【符号の説明】
【0028】
1 反応器
2 F2/N2混合ガスの供給口
3 気泡調節カラム
4 冷却水注入口
5 冷却水排出口
6 熱交換器
7 N2ガス排出口
8 反応室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンカーボネートをフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスと反応させて4-フルオロエチレンカーボネートを製造する方法において、エチレンカーボネートの充填された反応器内にフッ素ガスと窒素ガスの混合ガスを供給するに際し、充填カラム用充填物の充填された気泡調節カラムを用いて該混合ガスの気泡の大きさを調節しつつ供給することを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記充填カラム用充填物が、ラシヒリング、ポールリング又は構造充填物であることを特徴とする、請求項1に記載の4-フルオロエチレンカーボネートの製造方法。
【請求項3】
4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法において、エチレンカーボネートにフッ素ガスと窒素ガスを反応させて得られる、フッ酸、未反応エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)を含有する4-フルオロエチレンカーボネートを、減圧蒸留方法によってフッ酸、エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートを分離、精製して、高純度の4-フルオロエチレンカーボネートを得ることを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法。
【請求項4】
フッ酸、エチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートを含有する4-フルオロエチレンカーボネートを分別蒸留カラムで、温度60〜120℃、圧力30〜140mmHgで分別蒸留してフッ酸を分離、除去させた後、温度90〜160℃、圧力20〜100mmHgで再蒸留してエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート及び残留フッ酸を分離、除去させ、これを温度60〜130℃、圧力1〜100mmHgでさらに蒸留して高純度の4-フルオロエチレンカーボネートを得ることを特徴とする、請求項3に記載の4-フルオロエチレンカーボネートの精製方法。
【請求項5】
F2/N2混合ガスの供給口と、外部表面に冷却水ジャケットが設置された反応室と、上端に設けられた反応ガス排出口とを含む4-フルオロエチレンカーボネート製造用反応器において、前記反応室内に設けられ、充填カラム用充填物が充填された気泡調節カラムを含んでなり、前記反応室は円筒からなる「中央部空隙凹体」形状を有することを特徴とする、4-フルオロエチレンカーボネート製造用反応器。


【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【公開番号】特開2006−206566(P2006−206566A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116780(P2005−116780)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(505139779)蔚山化學株式会社 (7)
【氏名又は名称原語表記】Ulsan Chemical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】290 Maeam−dong, Nam−ku, Ulsan, Republic of Korea