説明

4環性アジン化合物

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、他の液晶材料との相溶性に優れ、Δnの大きな化合物を得るため、共役系を広げる目的でビフェニル骨格を有し、溶解性改善のためフッ素原子を分子内に導入した4環性アジン系液晶化合物を提供することである。
【解決手段】 一般式(I)
【化1】


(式中、R、R’は炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシル基又はアルケニル基を表し、X〜Xは、水素原子又は、フッ素原子を表す。)で表される化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電子材料や医農薬、特に電気光学的液晶表示用ネマチック液晶材料として有用な4環性アジン類に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、各種測定機器、自動車用パネル、ワードプロセッサー、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ、時計、広告表示板等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(ツイステッド・ネマチック)型、STN(スーパー・ツイステッド・ネマチック)型、TFT(薄膜トランジスタ)型等がある。
【0003】
これらの液晶を用いた液晶表示素子は、偏光板を必要とするため表示を明るくすることに限界がある。
【0004】
一方、偏光板や配向処理を要さず、明るくコントラストのよい、液晶素子として、コレステリック液晶ディスプレイが挙げられる。このディスプレイはコレステリック液晶の持つ、特定の波長の光がラセンピッチにより選択的に反射される性質を利用して表示を行っている。このため表示品位の改善において、反射率の向上が非常に重要となる。この反射率を高くするための手段の一つとして、液晶分子の屈折率異方性(Δn)を大きくすることがある。そのため、より大きなΔnを示す液晶化合物の開発が要望されている。
【0005】
大きなΔnを示す液晶化合物の代表例として、トラン系化合物があり、式(A)で表される化合物は屈折率異方性(Δn)が0.178である。更にΔnを大きくするため芳香環を導入した式(B)で表される化合物はΔnが0.384を示した。また、アジン系化合物として、式(C)で表される化合物が開発され、この化合物はΔnが0.340である。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

しかしながら、従来開発されてきたこれら誘導体では、更なる高Δn化への要求に対応することができない状況となってきた。すなわち、より高Δn化するためには共役系を広げることが必要であり、そのために芳香環を化合物中に導入することが有効となる。しかし、芳香環の数を増やすことで分子の剛直性が増してしまい、結晶化し易い構造となる。このため、液晶組成物に芳香環の数を増やした化合物を添加すると使用中に結晶が析出し、ディスプレイの表示欠陥の原因となってしまう。このように、高Δn化を実現しつつ他の液晶材料との相溶性に優れた材料の開発は容易ではなく、これらの問題を解決した新規化合物の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−5031号公報
【特許文献2】特開昭60−152427号公報
【特許文献3】特開平11−71338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、高Δn化を実現しつつ他の液晶材料との相溶性に優れた4環性アジン系液晶化合物を提供し、併せて当該化合物を構成部材とする液晶組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本願発明者らは種々の化合物の合成検討を行った結果、アジン化合物に共役系を広げる目的でビフェニル骨格を導入し、ビフェニル骨格にフッ素原子を導入した4環性アジン化合物が、効果的に課題を解決できることを見出し本願発明の完成に至った。
【0012】
本願発明は、一般式(I)
【0013】
【化4】

(式中、R及びR’はお互い独立して炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数2〜12のアルケニル基、炭素原子数2〜12のアルケニルオキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OCF、−OCFH、−CF、又は−OCHCFを表し、X〜X16はお互い独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)で表される化合物を提供し、併せて、当該化合物を含有する液晶組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により提供される、一般式(I)で表される4環性アジン誘導体である新規液晶化合物は熱、光等に対し安定で、液晶性に優れ、しかも工業的にも容易に製造することができる。得られた一般式(I)で表される4環性アジン化合物は、屈折率異方性が極めて大きく、高い透明点を示す。更に、フッ素原子を導入することにより、相溶性も改善した化合物である。
【0015】
従って、大きな屈折率異方性が求められるコレステリック液晶ディスプレイ用の液晶材料に添加した際に析出等の問題を起こさず、特性を改善することが出来ることから、コレステリック液晶ディスプレイ用の液晶材料の構成成分として非常に有用である。
【0016】
一般式(I)においてR、R’及びX〜X16の選択により、多種類の化合物を含みうるわけであるが、R又はR’のうち少なくとも一方が炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数2〜12のアルケニル基又は炭素原子数2〜12のアルケニルオキシ基であることが好ましく、製造を簡略化するためにはRとR’が同一であることが好ましい。X〜Xのうち少なくとも1つがフッ素原子であり、X〜X16のうち少なくとも1つがフッ素原子であることが好ましく、製造を簡略化するためにはXとX15が同じ置換基を表し、XとX16が同じ置換基を表し、XとX13が同じ置換基を表し、XとX14が同じ置換基を表し、XとX11が同じ置換基を表し、XとX12が同じ置換基を表し、XとXが同じ置換基を表し、及びXとX10が同じ置換基を表すことが好ましい。溶解度を高めるためには左右非対称の分子形状が好ましく、製造を簡略化するには左右対称の分子形状とすることが好ましい。
【0017】
これらの中では以下の(Ia)〜(Iz)が好ましく、特に(Ib)〜(Ie)が好ましい。
【0018】
【化5】

一般式(I)の化合物(Ia)〜(In)は以下のようにして製造することができる。
【0019】
即ち、一般式(II)
【0020】
【化6】

(式中、R、X〜Xは一般式(I)におけるとおなじ意味を表す。)で表されるアルデヒド誘導体と過剰量のヒドラジンとをメタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール系溶媒、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル等のエーテル系、ヘキサン及びトルエン等の炭化水素系溶媒の単独又は混合物中で反応させ、一般式(III)
【0021】
【化7】

(式中、R、X〜Xは一般式(I)におけるとおなじ意味を表す。)で表される化合物を得る。この際、反応系を塩基性に保つため、トリエチルアミン等のアミン類を添加することもできる。水洗して過剰のヒドラジンを除去した後、この化合物と一般式(IV)
【0022】
【化8】

(式中、R’、X〜X16は一般式(I)におけるとおなじ意味を表す。)で表される化合物を反応させることにより一般式(I)で表される化合物を得ることができる。この反応は、冷却下に、あるいは加熱下に行ってもよいが、通常は室温付近で実施することが好ましい。反応終了後は、エタノール等の溶媒を用い、ろ過を行い、溶媒を溜去し、再結晶して精製する。また、必要に応じて塩基性アルミナによるカラムクロマトグラフィーを用いて、精製することも好ましい。
【0023】
また、一般式(II)で表される化合物とヒドラジンを反応させ、一般式(V)
【0024】
【化9】

(式中、R、X〜Xは一般式(I)におけるとおなじ意味を表す。)で表される化合物を得ることができる。この際、反応溶液を酸性にする又は脱水剤を加える等により、反応の進行が円滑になる。得られた化合物は一般式(I)において、RとR’が同じ置換基を表し、XとX15が同じ置換基を表し、XとX16が同じ置換基を表し、XとX13が同じ置換基を表し、XとX14が同じ置換基を表し、XとX11が同じ置換基を表し、XとX12が同じ置換基を表し、XとXが同じ置換基を表し、及びXとX10が同じ置換基を表す化合物である。
【0025】
斯くして製造された一般式(I)のアジン誘導体の例をその相転移温度、Δnとともに第1表に掲げる。
【0026】
【化10】

【0027】
【表1】

【0028】
=X、X、X、X、X、X10、X12、X14、X15、X16
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を示し、本発明を更に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)により確認し、相転移温度の測定は温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡と示差走査熱量計(DSC)を併用して行った。また、組成物における「%」は『質量%』を表す。
(実施例1) 1−[4−(4−プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4−プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]ヒドラジン(第1表中No.(I−1)の化合物)の合成
【0031】
【化11】

式(II−1)で表されるアルデヒド(このアルデヒドは、4−メチルブロモベンゼンから調製したグリニア反応剤と3−ブロモフルオロベンゼンをパラジウム触媒存在下にカップリングし4−メチル3’−フルオロビフェニルを得た後、−78℃でs−ブチルリチウムによりフッ素原子のオルト位をリチオ化した後、ジメチルホルムアミドと反応させて得た。)20gをエタノール100mLに溶解して加えた後、ヒドラジン1水和物2gを滴下して加え、室温で5時間攪拌した。反応終了後、減圧下に溶媒を溜去した。残渣をアルミナ(塩基性)カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)を用いて精製し、更にテトラヒドロフランから再結晶させて、黄色の結晶15gを得た。得られた黄色結晶が1−[4−(4プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]ヒドラジンであることは、下記のNMRの化学シフトで確認した。
1H−NMR(400MHz、CDCl)σ(ppm):0.98(t、6H),1.70(m、4H),2.65(t,4H)7.25−7.71(m、14H),8.66(s,2H)
また、上記において、3−フルオロ−4’プロピル−ビフェニル−4−カルバルデヒドに換えて、2−フルオロ−4’プロピル−ビフェニル−4−カルバルデヒド、2’−フルオロ−4’プロピル−ビフェニル−4−カルバルデヒド、
又は2’−フルオロ−4’ブテニル−ビフェニル−4−カルバルデヒド、
を用いることにより、以下の化合物を得た。
【0032】
1−[4−(4プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]ヒドラジン(第1表中No.(I−1)の化合物)
1−[4−(4プロピルフェニル)−3−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4プロピルフェニル)−3−フルオロベンジリデン]ヒドラジン(第1表中No.(I−2)の化合物)
1−[4−(2−フルオロ−4プロピルフェニル)ベンジリデン]−2−[4−(2−フルオロ−4プロピルフェニル)ベンジリデン]ヒドラジン(第1表中No.(I−3)の化合物)
1−[4−(2−フルオロ−4ブテニルフェニル)ベンジリデン]−2−[4−(2−フルオロ−4ブテニルフェニル)ベンジリデン]ヒドラジン(第1表中No.(I−4)の化合物)
(実施例2)液晶組成物の調整
低粘性で、温度範囲の広いネマチック液晶として特にアクティブマトリックス駆動用に好適なホスト液晶(H)
【0033】
【化12】

を調整したところ、ネマチック相上限温度(Tni)は、116.7℃であった。このホスト液晶(H)をセル厚4.5μmのTNセルに充填して液晶素子を作製して測定した屈折率異方性(Δn)は、表1のとおりである。
(実施例3) 1−[4−(4−プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4−プロピル−3−フルオロフェニル)ベンジリデン]ヒドラジン(式(I−5)で表される化合物)の製造方法III
【0034】
【化13】

式(II−1)で表されるアルデヒドをジクロロメタン溶媒中でアルデヒド1molに対し3molのヒドラジンIIIと反応させて、ヒドラゾンを調製し、反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液により水洗して過剰のヒドラジンを除去する。これにトリエチルアミンを加え、更に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した溶液を、塩基性アルミナ共存下、室温で式(II−2)のアルデヒドのジクロロメタン溶液に加えて反応させる。反応終了後ただちに塩基性アルミナによるカラムクロマトグラフィーにより精製し、エタノールから再結晶を行い1−[4−(4−プロピルフェニル)−2−フルオロベンジリデン]−2−[4−(4−プロピル−3−フルオロフェニル)ベンジリデン]ヒドラジン(式(I−5)で表される化合物)を得る。
同様にして、一般式(I)の化合物(If)〜(Ig)、(Iw)〜(Iz)を製造することができる。
(比較例1)
式(A)
【0035】
【化14】

で表されるトランを実施例2と同様の方法でΔnの値を測定すると0.178であった。またこの化合物は液晶相を示さず、73℃で結晶から液体へ転移した。
【0036】
実施例2で示した本願化合物と比較してΔnの値は小さなものであった。
【0037】
このため、本願化合物の方が液晶相温度範囲及びΔnが優れていることがわかった。
(比較例2)
式(B)
【0038】
【化15】

で表されるトランを実施例2と同様の方法でΔnの値を測定すると0.384であった。またこの化合物はC N Iとの相転移挙動を示した。
【0039】
実施例2で示した本願化合物と比較してΔnの値は小さなものであった。
(比較例3)
更にΔnを大きくするため式(B)で表される化合物にベンゼン環を導入した式(B’)
【0040】
【化16】

で表される化合物を製造したがこの化合物は母体液晶に溶解せずΔnの値を測定することは出来なかった。
(比較例4)
式(C)
【0041】
【化17】

で表されるアジンを実施例2と同様の方法でΔnの値を測定すると0.279であった。またこの化合物はC57N116Iとの相転移挙動を示した。
【0042】
これらを比較すると明らかなように、本発明の一般式(I)の化合物のネマチック相上限温度は、対応する2環性アジンに比べ、200℃以上も高くなり、屈折率異方性の大きさも飛躍的に向上している。
【0043】
ここで、一般に、屈折率異方性の大きな液晶化合物は、相溶性が問題になることが多い。式(A)で表されるトランに比べ、式(B)で表されるトランは、屈折率が大きくなっているものの、他の液晶材料との相溶性が低く使用することができない。この相溶性は、ネマチック相上限温度の上昇と比例的相関がある。相溶性の低い化合物はネマチック相上限温度が高い傾向にある。トラン(2環→3環)とアジン(2環→4環)のネマチック相上限温度とΔnの関係を下表に示す。アジンはトランと比較して環数が増加してもネマチック相上限温度の上昇を抑えつつ、Δnを上昇させていることがわかる。通常、Δnがここまで大きな液晶化合物は、相溶性が極めて悪く、実用できないが、ビフェニル骨格にフッ素原子を導入することにより、相溶性が改善することがわかった。
【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R及びR’はお互い独立して炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数2〜12のアルケニル基、炭素原子数2〜12のアルケニルオキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、−OCF、−OCFH、−CF、又は−OCHCFを表し、X〜X16はお互い独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)で表される化合物。
【請求項2】
一般式(I)において、R又はR’のうち少なくとも一方が炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシル基、炭素原子数2〜12のアルケニル基又は炭素原子数2〜12のアルケニルオキシ基である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(I)において、X〜Xのうち少なくとも1つがフッ素原子であり、X〜X16のうち少なくとも1つがフッ素原子である請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
一般式(I)において、RとR’が同じ置換基を表し、XとX15が同じ置換基を表し、XとX16が同じ置換基を表し、XとX13が同じ置換基を表し、XとX14が同じ置換基を表し、XとX11が同じ置換基を表し、XとX12が同じ置換基を表し、XとXが同じ置換基を表し、及びXとX10が同じ置換基を表す請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の一般式(I)で表される化合物を含有する液晶組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶組成物を使用した液晶表示素子。

【公開番号】特開2011−68591(P2011−68591A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220582(P2009−220582)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】