説明

4,4’−ビフェノール誘導体の製造方法

【課題】高純度の4,4'−ビフェノール誘導体組成物を、簡略な反応工程で、安価な製造コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】ビフェニル誘導体を原料基質として用い、微生物を利用した水酸化反応によって位置選択的に水酸基を導入することを特徴とする高純度の4,4'−ビフェノール誘導体組成物を製造する方法。また、水酸化反応を水親和性の低い脂肪族の有機溶媒共存下で、微生物の菌体懸濁液と油水二相系で行うことを特徴とする、高純度の4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフェニル化合物を原料として、微生物を利用した水酸化反応によって位置選択的に水酸基を導入し、高純度の4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4'−ビフェノールは、エンジニアリングプラスチックス、耐熱性芳香族系ポリエステル、液晶ポリマー等の原料としてよく知られた化合物であり、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールを二量化して3,3',5,5'−テトラ−tert−ブチル−4,4'−ビスフェノールを製造し、次いでtert−ブチル基を全て脱離し製造することが知られている(特許文献1)。
【0003】
生化学的な製造方法として、例えば、水性媒体中において、ペルオキシダーゼ酵素過酸化物及びラジカル伝達薬剤の存在下で、水酸基等の置換基を有する置換芳香族化合物を反応させるビフェノール誘導体の製造方法(特許文献2)、難水溶性ないし非水溶性有機溶媒と水からなる二相系混合溶媒を用いることにより、フェノールの低分子量重合物を合成する製造方法(特許文献3)や、ラジカル伝達剤や酸化剤を用いることなく、フェノール誘導体を酵素の存在下で重合しビフェノール誘導体前駆体を生成させ、次いで還元剤を添加しビフェノール誘導体を製造する方法(特許文献4)が提案されている。しかしながら、それぞれ酵素反応の際にラジカル伝達剤や酸化剤の添加を必要としたり、反応性が非常に低くなったり、酵素反応後さらに還元剤の添加が必要であるために製造コストの増大や工程が煩雑になる等の問題があった。
【0004】
一方、微生物を利用した水酸化反応を行うことにより二つの水酸基が位置特異的に導入されたフェノール誘導体を製造する方法が提案されおり、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属を利用した水酸化反応により副産物を実質的に含まない高純度のフェノール誘導体を得る方法が開示されている(特許文献5、6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−200935号公報
【特許文献2】特表平11−503021号公報
【特許文献3】特開平2000−41691号公報
【特許文献4】特開2007−129952号公報
【特許文献5】特開平9−279号広報
【特許文献6】特開平9−23893号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1から4の酵素を用いた製法方法は、製造コストの増大や工程が煩雑という面で工夫の余地があり、また特許文献5、6の微生物を用いる製造方法は、いずれもフェノール類化合物を原料基質とした方法であり、安価な原料を用いて低コストでビフェノール誘導体を製造する方法の開発が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、微生物を利用した水酸化反応によって位置選択的に水酸基を導入する方法において、フェノール類化合物以外の芳香族炭化水素を原料基質に用いた簡便な方法により4,4'−ビフェノール誘導体組成物を製造する方法を提供することを目的とする。また、高純度の4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ビフェニル誘導体を原料基質として用いて微生物を利用した水酸化反応を行うことにより、一段の反応工程で4,4'−ビフェノール誘導体組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、水酸化反応を水親和性の低い脂肪族有機溶媒の共存下で行うことにより、中間生成物であるp−ヒドロキシビフェニルの除去が容易となり、高純度の4,4'−ビフェノール誘導体が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本願発明は、(1)一般式(I)(化1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基又はハロゲノ基を示す。)で表されるビフェニル誘導体を原料として用いて微生物を利用した水酸化反応を行うことによって、一般式(II)(化2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基又はハロゲノ基を示す。)で表される4,4'−ビフェノール誘導体組成物を製造する方法である。
【0014】
(2)前記水酸化反応に用いられる微生物がモノオキシゲナーゼ活性を有する微生物である4,4'−ビフェノール誘導体組成物の製造方法である。
【0015】
(3)前記の水酸化反応を水親和性の低い脂肪族有機溶媒の共存下、油水二相系で反応することを特徴とする4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法である。
【0016】
(4)前記脂肪族の有機溶媒はオクタノール/水分配係数が2以上で水親和性の低い脂肪族の有機溶媒である4,4'−ビフェノール誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安価なビフェニル誘導体を原料として用いることにより、微生物を用いた水酸化反応を一段の反応工程で行うことができるため、簡略な工程により製造コストを低下した4,4'−ビフェノール誘導体組成物を得ることが可能になる。また、水酸化反応中に水親和性の低い脂肪族有機溶媒の共存させることにより、副産物や中間生成物を含まない高純度の4,4'−ビフェノール誘導体を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ビフェニル誘導体から4,4'−ビフェノール誘導体を生成するルート
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、一般式(I)(化1)
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基又はハロゲノ基を示す。)で表されるビフェニル誘導体を原料として用いて微生物を利用した水酸化反応を行うことによって、一般式(II)(化2)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基又はハロゲノ基を示す。)で表される4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法である。具体的には、モノオキシゲナーゼ活性を有する微生物を、炭素源を含む培地で培養後、ろ過により菌体を得る。次いで、菌体を緩衝液でpHを制御した液中に分散させ菌体懸濁液を作成する。この菌体懸濁液に原料基質であるビフェニル誘導体とエネルギー源となる炭素源を添加し、好気条件下で反応を行い、4,4'−ビフェノール誘導体を製造する方法である。
【0024】
本発明に原料基質に用いるビフェニル誘導体は、下記の一般式(I)(化1)
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基又はハロゲノ基を示す。)で表される化合物である。具体的には、ビフェニル、2−エチルビフェニル、3−エチルビフェニル、2,2’−ジメチルビフェニル、2−クロロビフェニル、2−ブロモビフェニル、2−ヨードビフェニル、2,2’−ジクロロビフェニル等を用いることができる。好適には、ビフェニルである。
【0027】
本発明において使用できる微生物は、モノオキシゲナーゼ活性を有する微生物であれば特に制限されないが、具体的には、メチロシヌス属(Methylosinus)、メチロコッカス属(Methylococcus)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)、ノカルディア属(Nocardia)、及びシュードモナス属(Pseudomonas)に属する微生物が挙げられる。これらのうち、プロパンモノオキシゲナーゼ活性を有するロドコッカス属(Rhodococcus)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium)及びシュードモナス属(Pseudomonas)に属する微生物が好ましく使用でき、より好ましくはミコバクテリウム・グディ(Mycobacterium goodii)、ミコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)が使用される。ミコバクテリウム・グディとしては、Mycobacterium goodii NS12523が挙げられる。Mycobacterium goodii NS12523は、独立行政法人産業技術研究所特許微生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に平成20年(2008年)9月5日付で受領されており、その受領番号はFERM AP−21670である。ミコバクテリウム・スメグマティスとしては、Mycobacterium smegmatis MC2 155が挙げられる。Mycobacterium smegmatis MC2 155はATCC(American Type Culture Collection)、カタログ番号700084として入手できる。
【0028】
本発明における4,4'−ビフェノール誘導体の生成反応をより効率的に行うためには、反応液にエネルギー源となる物質を添加することが好ましい。該エネルギー源とは、水酸化反応において必要な補酵素であるNADHやNADPHを供給するのに利用される物質を示す。
【0029】
本発明において、微生物による4,4'−ビフェノール誘導体の生成反応に使用されるエネルギー源としては、菌株がその物質を分解して得られるエネルギー補酵素であるNADやNADPを還元してそれぞれNADHやNADPHを生成できるものであれば特に制限されないが、具体的にはグルコース及びシュークロースなどの糖類、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールなどのアルコール類、酢酸などの有機酸、プロパン、ブタン及びペンタンなどの炭化水素類及びアセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類等の炭素源が挙げられる。
【0030】
本発明におけるモノオキシゲナーゼによる水酸化反応は好気条件下で行うのが好ましく、分子酸素が酸素供給源として必要である。従って、菌体懸濁液、基質及びエネルギー源からなる反応液中に過不足なく酸素を供給する必要がある。反応液への酸素の供給方法としては、例えば、攪拌、振とう、及び通気攪拌槽における空気または酸素の通気及び攪拌操作などが挙げられる。通気攪拌または振とうによって酸素を供給する場合の条件は特に制限されず、用いる装置の大きさ、形状及び菌体懸濁液の量によって適宜決定される。
【0031】
また、本発明において使用できる活性菌体を懸濁するための緩衝液はpH5〜9の範囲内に入る物であれば使用できるが、代表例としては、リン酸緩衝液、ジメチルグルタル酸緩衝液及びトリス塩酸緩衝液等が挙げられる。また、上記した緩衝液以外にも生理食塩水等の塩類溶液を使用してもよい。さらに、水酸化反応において、反応の間のpH変化が少ない場合には、あえて緩衝液を用いる必要はなく、生理食塩水などの無機塩水あるいは水を用いることができる。
【0032】
本発明において、微生物の培養に使用する培地は、固体又は液体培地のいずれでも良く、また、使用する菌株が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれでも良い。
【0033】
本発明の菌株の培養において使用できる炭素源としては、本菌株が良好に生育し、4,4'−ビフェノール誘導体を生成できうる物であれば特に制限されず、プロパン、ブタン、ペンタン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、イソプロパノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノール、及び酢酸等が挙げられる。これらのうち、菌体の生育を考慮すると、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、プロパノール、1−ブタノール及び2−ブタノール等が炭素源として好ましく使用され、また、モノオキシゲナーゼ活性を高めることを考慮すると、プロパン、ブタン、アセトン、メチルエチルケトン及び2−ブタノールなどが好ましく使用される。
【0034】
本発明において微生物を使用する際に好ましく使用できる培地の一組成例を以下の表1に示し、以下、この培地をA培地と称する。この培地に上記したような所定の炭素源を添加して調整した培地で微生物を培養すると、微生物は直径1mm以下の小さい集塊を形成しながら増殖し、培養液を静置すると速やかに沈降し、容易に菌体のみを回収できるため、本発明における微生物の培養に好ましく使用できる。
【0035】
【表1】

【0036】

本発明において4,4'−ビフェノール誘導体を生成する工程で使用する完全合成培地としてはA培地に誘導基質としての上記したような炭素源を加えた培地が好ましく使用される。
【0037】
本発明において、微生物の培養は、上記実施形態において詳細に記載した培養に限られるものではなく、使用する微生物が適切に培養できる公知の培養方法によって行われる。一般的には、本発明の微生物の培養は、好気的条件下で行われ、その際の培養条件は、使用する微生物の種類、培地の組成や培養法によって適宜選択され、使用する菌株が増殖しモノオキシゲナーゼ活性が発現できる条件であれば特に制限しない。通常は培養温度が、20〜45℃、好ましくは30〜40℃であり、また、培養に適当な培地のpHは、4.5〜9、好ましくは6〜8である。
【0038】
また、誘導基質としての炭素源が培地中で消失するとモノオキシゲナーゼ活性が低下するため、高いモノオキシゲナーゼ活性を有する菌体を得るためには、誘導基質としての炭素源が培地中に残存している段階で微生物の培養を終了させることが重要である。ただし、単に目的量の菌体を得る場合には、モノオキシゲナーゼ活性の低下に関係なく、定常期に達するまで菌体の増殖を継続してもよい。このため、上記実施態様において示したように、一定量の菌体を得るための培養段階及びこのような培養段階で得られた菌体に誘導基質を添加して短時間培養を行うことによってモノオキシゲナーゼ活性の高い菌体を得ることを目的とした培養段階に分けて、微生物の培養を行うことが好ましいが、前述したような2段階からなる培養を行わずに、誘導基質濃度を一定に制御することができる培養装置を用いて菌体の増殖とモノオキシゲナーゼ活性の発現の両方を一段階で行い、活性菌体を得てもよい。
【0039】
培養時間は、使用する微生物の種類、培養温度及びpHや菌体の初期濃度等の培養条件および培養方法によって異なるが、例えば、一定量の菌体を得るための培養段階では、NS12523株を一白金耳、1重量%のメチルエチルケトンを炭素源として加えたA培地5mlに接種し30℃で3日間培養して種培養液を調整し、この種培養液を上記と同様の培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種し、30℃で振とう培養(140rpm)を行った場合、2〜5日である。また、活性菌体を得るための培養段階では、上述の培養段階で得たモノオキシゲナーゼ活性が十分高くない菌体を誘導基質としてメチルエチルケトンを1重量%添加した新鮮なA培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種して30℃で振とう培養(140rpm)を行った場合、6〜72時間である。このような方法によって、目的とする水酸化反応に供試できるモノオキシゲナーゼ活性を有する菌体を調製することができる。
【0040】
以上このようにして得られた活性菌体を用いて、所望の物質変換を行うことができる。
【0041】
本発明には、4,4'−ビフェノール誘導体の製造方法において、水酸化反応を水親和性の低い脂肪族有機溶媒の共存下、油水二相系で行う形態も含まれる。水酸化反応を油水二相系で行うことにより、中間生成物であるp−ヒドロキシビフェニル誘導体が難水溶性であるため、水相よりも有機相に分配されやすい。一方反応生成物である4,4'−ビフェノール誘導体はp−ヒドロキシビフェニル誘導体よりも水に対する溶解性が高いため、水相に分配されやすい。基質であるビフェニル誘導体は水にほとんど溶解しないため、油水二相系で反応を行うと、水相からは生成物である4,4'−ビフェノール誘導体のみが回収され、分離精製の操作性の点で有利である。
【0042】
本発明の油水二相系での反応は、ビフェニル誘導体/有機溶媒とモノオキシゲナーゼ活性を有する微生物とを接触させることにより実施する。微生物とビフェニル誘導体/有機溶媒とを接触させるとは、培養物を緩衝液に溶かした菌体懸濁液を用いて反応を行うこと、また、微生物の処理物を用いて反応を行うことを包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いることもできる。
【0043】
本発明に用いられる有用な有機溶媒は、水に不混和性である脂肪族の有機溶媒である。好ましくは、この有機溶媒はオクタノール/水分配係数が2以上で、常温で液体であるものが良い。オクタノール/水分配係数が2以下の有機溶媒を使用すると、水と混合した際に溶媒の一部が水に溶解し、ビフェニル誘導体が析出した。また、4,4'−ビフェノール誘導体の生成反応の際に、中間生成物であるp−ヒドロキシビフェニルも誘導体水相に一部分配され、検出された。
【0044】
本発明に用いられる溶媒が脂肪族である理由は、Mycobacterium goodii NS12523は芳香族化合物からフェノール誘導体を製造できることが知られており(特開平9−279号公報、特開平9−23893号公報記載)、芳香族化合物を溶媒として利用すると、目的である4,4'−ビフェノール誘導体の他に、フェノール誘導体を副産物として生成するためである。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1
(無溶媒系での休止菌体反応)
肉汁寒天培地に生育させたミコバクテリウム・グディ NS12523株(Mycobacterium goodii NS12523)を一白金耳、1重量%のメチルエチルケトンを添加した表1に示される培地5mlを入れた試験管に接種し、30度で3日間培養し、種培養液を調製した。次いで、この種培養液を上記と同様の培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種し、さらに30度で3日間培養し、培養液を調製した。このようにして得た培養液から遠心分離(6,000×g、5分)によって菌体を回収し、菌体を新鮮な同培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種して30度で更に24時間培養して、4,4'−ビフェノールの生成効率の高い活性菌体を調製した。
【0046】
このようにして得られた培養液を遠心分離(6,000×g、5分)することによって得られた培養液から菌体を回収し、菌体を0.02%MgSO4・7HOを含む50mMリン酸緩衝液(pH7)20mlに懸濁した。
【0047】
この菌体懸濁液10mlを100ml容の三角フラスコに入れ、基質としてビフェニルを10mg、エネルギー源としてアセトンを1,000ppmになるように添加し、反応を開始した。反応開始後、好気条件で30℃、20時間振盪(140rpm)することによって反応を行った。所定時間経過した後、反応液を回収し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって反応液中に含まれる生成物の同定及び定量を行った。HPLC分析の結果、4,4'−ビフェノールが0.15mM、p−ヒドロキシビフェニルが0.02mM生成し、4,4'−ビフェノール組成物が得られた。ビフェノールの異性体は検出されなかった。
実施例2
(有機溶媒の選定)
ビフェニル200mgを有機溶媒1gに溶解し、水10mlと混合後、静置を行った。ビフェニルの析出の確認を行い、その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
この結果、水と混合した際、ビフェニルが析出するのは溶媒のオクタノール/水分配係数が2以下の有機溶媒であることから、少なくとも2以上の有機溶媒を使用すれば、有機溶媒が水にほとんど溶解しないことが示された。
(油水二相系での休止菌体反応)
肉汁寒天培地に生育させたミコバクテリウム・グディ NS12523株(Mycobacterium goodii NS12523)を一白金耳、1重量%のメチルエチルケトンを添加した表1に示される培地5mlを入れた試験管に接種し、30度で3日間培養し、種培養液を調製した。次いで、この種培養液を上記と同様の培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種し、さらに30度で3日間培養し、培養液を調製した。このようにして得た培養液から遠心分離(6,000×g、5分)によって菌体を回収し、菌体を新鮮な同培地100mlを入れた500ml容の坂口フラスコに接種して30度で更に24時間培養して、4,4'−ビフェノールの生成効率の高い活性菌体を調製した。
【0050】
このようにして得られた培養液を遠心分離(6,000×g、5分)することによって得られた培養液から活性菌体のみを回収し、菌体を0.02% MgSO4・7HOを含む50mMリン酸緩衝液(pH7)20mlに懸濁した。
【0051】
基質であるビフェニル100mgをテトラデカン200mgに溶解した。
【0052】
菌体懸濁液10mlを100ml容の三角フラスコに入れ、基質としてビフェニル/テトラデカン溶液を100μl、エネルギー源としてアセトンを1,000ppmになるように添加し、反応を開始した。好気条件で30℃、20時間振盪(140rpm)することによって反応を行った。所定時間経過した後、反応液を回収し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって水相中に含まれる生成物の同定及び定量を行った。HPLC分析の結果、4,4'−ビフェノールが0.24mM生成し、4,4'−ビフェノール組成物が得られた。p−ヒドロキシビフェニルやビフェノールの異性体は検出されず、高純度の4,4'−ビフェノール組成物であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(化1)に示す一般式(I)
【化1】

(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基、ハロゲノ基を示す。)で表されるビフェニル誘導体を原料基質として用いて微生物を利用した水酸化反応を行うことによって、下記(化2)に示す一般式(II)
【化2】

(式中、Rはオルト位またはメタ位に結合し、水素、アルキル基、ハロゲノ基を示す。)で表される4,4'−ビフェノール誘導体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記の微生物がモノオキシゲナーゼ活性を有する微生物であることを特徴とする請求項1記載の4,4'−ビフェノール誘導体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記の水酸化反応を水親和性の低い脂肪族有機溶媒の共存下、油水二相系で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の4,4'−ビフェノール誘導体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記の脂肪族有機溶媒はオクタノール/水分配係数が2以上で水親和性の低い脂肪族の有機溶媒であることを特徴とする請求項3記載の4,4'−ビフェノール誘導体組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−227000(P2010−227000A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77776(P2009−77776)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】