説明

4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタンの分離

重要な化学中間体4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタンの分離方法は、アルコール溶液又はアルコール水溶液中において4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタンのその二種の鏡像異性体をジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)と反応させてその塩を得た後、塩を分離する工程を具備する。これによって高い鏡像体過剰率、通常の分離及び逆分離よりも全体で80%より大きい高収率が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イバブラジンの重要な中間体としての4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタン(II)を分離(光学分割)してイバブラジンの中間体、つまり(1S)−4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタン(I)を得る方法を提供する。


本発明の方法に従って調製された式(I)の化合物は、イバブラジンの合成に使用できる。
【背景技術】
【0002】
イバブラジン及びその薬学的に許容可能な塩、特にその塩酸塩は、非常に有益な薬理及び治療効果、特に徐脈効果を有しているので、これらの化合物は、狭心症、心筋梗塞及び関連する調律障害のような心筋虚血の様々な臨床疾患の治療又は予防ばかりでなく、様々な調律障害、特に上室性調律障害の治療又は予防にも使用することができる。イバブラジンは狭心症等の心筋虚血の効果的な治療薬である。
【0003】
米国特許第5296482号はイバブラジンの合成経路を詳細に説明している。更に、該特許は、カンファースルホン酸を使用して式(II)の化合物を分離して式(I)の化合物を得る方法を開示している。しかし、その分離方法の結果は決して満足できるものではなかった。第一に、その分離方法は分離剤(光学分割剤)としてカンファースルホン酸を使用するので極めて低収率で、わずか4−5%の収率に過ぎず、その総収率はわずか2−3%であった。このような低収率は高コスト、低効率の原因となる。第二に、分離剤が低い選択性であるため、鏡像体過剰率(ee)が低く、分離を完了させるには生成物を数回、再結晶化させる工程が必要となる;更に、プロセスが複雑で、工業的生産には適しておらず、最終生成物のキラル純度もまた満足できなかった。
【0004】
イバブラジンとその塩の医薬的価値に鑑みると、高効率、高収率で、高キラル純度のS体(配置)の式(I)の中間体化合物を得るための効果的な工業的方法を見出すことは極めて必要である。
【発明の詳細な記載】
【0005】
鋭意研究の結果、本発明者は、一般的に使用される様々な酸分離剤は、R−カンファースルホン酸がある程度の選択性を持っていることを除くと、式(II)のラセミ体の分離には実質的に効果がないことを見出した。L−酒石酸、R−マンデル酸等のように、あるものは式(II)のラセミ体と反応しないため、様々な溶媒中で効果的に結晶化及び沈殿せず;N−アセチル−L−グルタミン酸、L−ロイシン等のように、あるものは式(II)のラセミ体と反応して溶媒中で結晶化及び沈殿するが、選択性がなく、得られる沈殿は混合物のままである。
【0006】
鋭意研究の結果、本発明者は、意外にも、試験した非常に多くの一般的な酸分離剤の中で、ベンゾイル又は置換ベンゾイルによってジアシル化された酒石酸だけ、例えばジベンゾイル−L−酒石酸(L−DBTA)、ジベンゾイル−D−酒石酸(D−DBTA)、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)が(S)−アミンと(R)−アミンを効果的に分離することができることを見出した。
【0007】
本発明は、イバブラジンの重要な中間体、つまり、4,5−ジメトキシ−1−(メチル−アミノ−メチル)−ベンゾシクロブタン(II)(中間体アミン,ラセミ体)の分離方法であって、分離剤を上記中間体と反応させてアルコール溶媒又はアルコール水溶液中に対応の塩を得る工程と、続く結晶化工程を具備し、上記分離剤が、ジベンゾイル−L−酒石酸(L−DBTA)、ジベンゾイル−D−酒石酸(D−DBTA)、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)で、好ましくはジ−p−トルオイル−L−酒石酸、又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸である方法に関する。最後に、目的生成物である式(I)の(1S)−4,5−ジメチルオキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタンが得られる。


【0008】
更に、本発明の分離方法は、塩化及び結晶化工程後に再結晶化工程を含む。本発明において使用される分離剤のジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)及びジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)は、単独で使用してもよいし併用してもよい。すなわち、本発明は式(II)のラセミ体の分離方法に関する。本発明によって解決される課題は、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸を用いることにより、優れた収率でS体の式(I)の上記光学的に純粋な薬学的に許容可能な化合物を得ることにある。該方法は、式(II)のラセミ体を特定の溶媒中において酸分離剤と反応させて対応の塩を得、キラル中間体アミン塩の所望の結晶を選択的に沈殿させることを特徴とする。
【0009】
式(II)の化合物の分離方法は、対応の塩を得るために式(II)の化合物を酸のキラル分離剤と反応させることばかりでなく、式(I)の中間体アミンを得るための結晶化、再結晶化、抽出の工程を含み、必要に応じて、イバブラジン合成のための適切な中間体としての対応する塩を得るために式(I)の化合物を適切な酸と反応させる工程を更に含む。ここで使用される式(II)の化合物は米国特許第5296482号に従って調製される。
【0010】
分離剤の量については、理論的には、酸塩基反応の対応に従って、分離剤に対する中間体アミンのモル比を2:1とでき、所望の立体配置を考慮するだけならば、モル比を4:1とでき、等モルで調製される酸付加塩を考えるならば、モル比は1:1とできる。しかしながら、鋭意研究後、本発明者は、分離剤のより高い割合が高キラル純度の分離生成物を得るためのより満足できる収率を有していることを見出した。一般的に言えば、分離剤に対する中間体アミンの適切なモル比は、5:1から1:2とでき、好ましい比は2:1から1:1であり、過剰な分離剤が分離により役立つということはない。
【0011】
式(II)のラセミ体の上記分離方法は、一般的な溶媒中、好ましくは有機溶媒中、より好ましくはアルコール溶媒中において実施される。更に、アルコール溶媒は単独で使用しても他の有機溶媒と組み合わせることもできる。本発明において使用されるアルコール溶媒には、単独で使用されるアルコール並びにアルコールベースの溶媒混合物が含まれる。上記アルコール溶媒は3以下の炭素原子の低級脂肪アルコール、好ましくはエタノールである。上記アルコール溶液はエタノール水溶液である。更に、式(II)のラセミ体の分離方法は一般的な水溶液、好ましくはアルコール水溶液中で実施することもできる。アルコールと水の割合は任意であるが、好ましくはアルコール溶媒の割合が50%〜100%である。ここでのアルコール溶媒は、3以下の炭素原子の低級脂肪アルコール、好ましくはエタノールである。
【0012】
式(I)の中間体アミンのキラル純度を改善するためには、式(I)の化合物を再結晶化させることがしばしば必要である。分離方法は一般に室温で実施され得、必要なら加熱条件下でなされる。一般に、再結晶化工程は加熱条件下でなされ、先ず式(I)の化合物が特定の溶媒に溶解され、ついで、再結晶化が室温でゆっくりと完了する。一般に、二回の再結晶化の後、キラル純度がしばしば満足できるものとなり、ee値は一般に99%を越える。
【0013】
遊離の中間体アミンを得る方法は常套的なものであり、好ましく使用されるアルカリは水酸化ナトリウムであり;使用される抽出溶媒は一般的な抽出に使用される疎水性有機溶媒、好ましくはトルエン、酢酸エチル、塩化メチレン及びクロロホルム等、より好ましくは酢酸エチル及びクロロホルムである。更に、式(I)の化合物の塩化方法もまた一般的であり、該塩は薬学的に許容可能な酸と式(I)の化合物を用いて精製、貯蔵及び直接の反応のために形成され得、塩化に使用される酸は好ましくは塩酸である。塩化方法は一般的であり、当業者には容易である。
【0014】
本発明に係る式(I)の化合物又はその塩は、イバブラジンの合成中間体及びその薬学的に許容可能な塩として特に適切な、80%を越えるまでの累積分離収率及び99%を越えるキラル純度を有している。
【好ましい実施態様】
【0015】
本発明を、本発明の範囲を更に限定するものと決して解してはならない次の実施例によって詳細に説明する。
【0016】
実施例1
8.0g(41.40mmol)の式(II)のラセミ体を350mlのエタノールに溶解させた。この反応混合物に、4.0g(10.35mmol)のL−DTTAを加えた。ついで、反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、94.14%のS体を示した。
【0017】
粗生成物を350mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、28.9%(ラセミ体に対するS体の重量割合)の分離収率を有する3.47g(5.99mmol)の生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、97.19%のS体を示した。
【0018】
実施例2
8.0g(41.40mmol)の式(II)のラセミ体を350mlのエタノールに溶解させた。この反応混合物に、8.0g(20.7mmol)のL−DTTAを加えた。ついで、反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、96.84%のS体を示した。
【0019】
粗生成物を350mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、35.8%の分離収率を有する4.3g(7.42mmol)の生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、99.87%のS体を示した。
【0020】
実施例3
8.0g(41.40mmol)の式(II)のラセミ体を350mlのエタノールに溶解させた。この反応混合物に、16.0g(41.4mmol)のL−DTTAを加えた。ついで、反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、94.56%のS体を示した。
【0021】
粗生成物を350mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、61.7%の分離収率を有する7.4g(12.77mmol)の最初の生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、99.25%のS体を示した。
【0022】
上記の分離プロセス及び再結晶化中に得られた母液を混合した後、濃縮乾固して固形物を得た。第一に、固形物を水酸化ナトリウムで処理した。第二に、反応混合物を酢酸エチルで抽出して、主としてR体を含む4.7gの式(II)のラセミ体を得た。これをHPLCによって分析したところ、73.5%のR体を示した。ついで、これを350mlのエタノールに溶解させ、14.9gのD−DTTAを逆分離のために加えた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、94.86%のR体を示した。
【0023】
粗生成物を350mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、60.8%の逆分離収率を有する7.3gのR体の生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、99.38%のR体を示した。
【0024】
上記の分離プロセス及び再結晶化中に得られた母液を混合した後、濃縮乾固して固形物を得た。第一に、固形物を水酸化ナトリウムで処理した。第二に、反応混合物を酢酸エチルで抽出して、主としてS体を有する2.6gの式(II)のラセミ体を得た。これをHPLCによって分析したところ、55.5%のS体を示した。ついで、これを100mlのエタノールに溶解させ、5.0gのL−DTTAを加えた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、92.62%のS体を示した。
【0025】
粗生成物を100mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、2.5g(4.31mmol)の生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、99.10%のS体を示した。
【0026】
二回の通常の分離後に得られた生成物を混合した後、水酸化ナトリウム水溶液で処理した。反応混合物を酢酸エチルで抽出して、総分離収率82.5%のS体の式(I)の中間体アミン3.3gを得た。これをHPLCによって分析したところ、99.20%のS体を示した。
【0027】
実施例4
8.0g(41.40mmol)の式(II)のラセミ体を350mlのエタノールに溶解させた。この反応混合物に7.4g(20.7mmol)のL−DBTAを加えた。ついで、反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて粗生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、83.37%のR体を示した。
【0028】
粗生成物を350mlのエタノールに溶解させた。反応混合物を、最初は溶解していなかった物質が溶液になるまで還流下で加熱した。冷却後、反応溶液から固形物を結晶化させた。得られた沈殿物を濾過によって集めた後、乾燥させて、3.6gの生成物を得た。これをHPLCによって分析したところ、90.78%のR体を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イバブラジンの重要な中間体4,5−ジメトキシ−1−(メチルアミノメチル)−ベンゾシクロブタン(II)の分離方法であって、分離剤を上記中間体と反応させてアルコール溶媒又はアルコール水溶液中に対応の塩を得る工程と、続く結晶化工程を具備し、分離剤がベンゾイル又は置換ベンゾイルによってジアシル化された酒石酸であり、得られる標的生成物が式(I)の(1S)−4,5−ジメチル−オキシ−1−(メチル−アミノ−メチル)−ベンゾシクロブタンである分離方法。


【請求項2】
分離剤がジベンゾイル−L−酒石酸、ジベンゾイル−D−酒石酸、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸である請求項1記載の分離方法。
【請求項3】
分離剤がジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)である請求項1記載の分離方法。
【請求項4】
結晶化工程後に再結晶化工程を更に含む請求項1記載の分離方法。
【請求項5】
分離剤としてジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)を単独で使用する請求項3記載の分離方法。
【請求項6】
分離剤としてジ−p−トルオイル−L−酒石酸(L−DTTA)又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸(D−DTTA)を併せて使用する請求項3記載の分離方法。
【請求項7】
アルコール溶媒が単独で使用されるアルコール又はアルコールベース溶媒混合物を含む請求項3記載の分離方法。
【請求項8】
アルコール溶媒がエタノールで、アルコール水溶液がエタノール水溶液である請求項1記載の分離方法。

【公表番号】特表2011−503122(P2011−503122A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533411(P2010−533411)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001711
【国際公開番号】WO2009/062377
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510135463)江▲蘇▼恒瑞医▲薬▼股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】