説明

5’末端キャップ修飾されたRNAを含有するワクチン組成物

本発明は、特に未熟抗原提示細胞において、RNAの安定性を改善し、発現を増大させるための、5'末端キャップ類似体でのRNAの修飾に関する。本発明は、前記の安定化されたRNAを含有するワクチン組成物、前記の安定化されたRNAを含む未熟抗原提示細胞、ならびに免疫エフェクター細胞を刺激するおよび/または活性化するためおよび前記の安定化されたRNAを使用して個体における免疫応答を誘導するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸に基づくワクチン接種の分野に属する。本発明は、RNAワクチン接種に関連して、修飾によるRNAの安定化に関し、5'末端キャップ類似体で修飾されたRNAを含有するワクチン組成物、そのようなRNAを含有する未熟抗原提示細胞、ならびに本発明によるワクチン組成物または未熟抗原提示細胞を使用して個体において免疫応答を誘発するための方法を提供する。さらに、本発明は、未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めるための方法、未熟抗原提示細胞におけるRNAの発現を高めるための方法、対象とする抗原を提示するMHC分子の割合を増大させるための方法、ならびに免疫エフェクター細胞を刺激するおよび/または活性化するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
組換えワクチンは、感染性および癌性疾患の予防および治療のための人間医学および獣医学において特に重要である。一定の疾患の予防または治療において有効な、一定の抗原に対する特異的免疫反応を誘導することが組換えワクチンによる免疫の目的である。公知の組換えワクチンは、組換えタンパク質、合成ペプチドフラグメント、組換えウイルスまたは核酸に基づく。
【0003】
最近、DNAおよびRNAベースのワクチンが重要性を増してきた。プラスミドDNAの直接筋肉内注射は、コードされる遺伝子の持続的な発現をもたらすことが示された(Wolffら,1990,Science,247:1465−1468)。この所見は、免疫療法における核酸の適用性をさらに検討するための当該分野における重要な誘因となった。最初は、感染性病原体に対するDNAベースのワクチンが検討された(Coxら,1993,J.Virol.67:5664−5667;Davisら,1993,Hum.Mol.Genet.2:1847−1851;Ulmerら,1993,Science 259:1745−1749;Wangら,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:4156−4160)。さらに、腫瘍に対する遺伝子治療における、および特異的抗腫瘍免疫の誘導のための、核酸の適用性が検討されてきた(Conryら,1994,Cancer Res.54:1164−1168;Conryら,1995,Gene Ther.2:59−65;Spoonerら,1995,Gene Ther.2:173−180;Wangら,1995,Hum.Gene Ther.6:407−418)。
【0004】
核酸ベースの免疫法は多くの利点を示す。例えば、核酸ベースのワクチンの製造は直接的で、比較的コストがかからず、DNAベースのワクチンは長期保存に対して安定である。しかし、特に、DNAベースのワクチンは種々の潜在的な安全上の危険性、例えば抗DNA抗体の誘導(Gilkesonら,1995,J.Clin.Invest.95:1398−1402)や導入遺伝子の宿主ゲノムへの潜在的な組込みの可能性などを示す。これは、細胞遺伝子の不活性化、導入遺伝子の制御不能の長期的な発現、または腫瘍形成を導く可能性があり、従って、一般にerb−B2(Bargmannら,1986,Nature 319:226−230)およびp53(Greenblattら,1994,Cancer Res.54:4855−4878)などの腫瘍形成の潜在的可能性がある腫瘍関連抗原には適用されない。
【0005】
RNAの使用は、DNAベースのワクチンの潜在的危険性を回避する魅力的な代替策を提供する。RNAに基づく免疫法の利点の一部は、一過性の発現および非形質転換特性である。さらに、RNAは、導入遺伝子が発現されるために核内に輸送される必要がなく、さらには、宿主ゲノムに組み込まれることができない。DNAの注入と同様に(Condonら,1996,Nat.Med.2:1122−1128;Tangら,1992,Nature 356:152−154)、RNAの注入はインビボ(in vivo)で細胞性ならびに体液性免疫応答の両方を生じさせ得る(Hoerrら,2000,Eur.J.Immunol.30:1−7;Yingら,1999,Nat.Med.5:823−827)。
【0006】
インビトロ(in vitro)で転写されたRNA(IVT−RNA)による免疫療法のために2つの異なる戦略が推進されており、どちらも様々な動物モデルにおいて成功裏に試験されてきた。RNAは種々の免疫経路によって患者に直接注入されるか(Hoerrら,2000,Eur.J.Immunol.30:1−7)、またはインビトロで従来のトランスフェクション法を用いて樹状細胞をIVT−RNAでトランスフェクトし、次にトランスフェクトされた樹状細胞を患者に投与する(Heiserら,2000,J.Immunol.164:5508−5514)。RNAでトランスフェクトされた樹状細胞による免疫は、インビトロおよびインビボで抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導することが示されている(Suら,2003,Cancer Res.63:2127−2133;Heiserら,2002,J.Clin.Invest.109:409−417)。さらに、実験動物のリンパ節への裸のRNAの直接注入(結節内注入)は、おそらくマクロピノサイトーシスと呼ばれるプロセスによって(独国特許発明第 10 2008 061 522.6号明細書参照)、主として未熟な樹状細胞による前記RNAの取込みを導くことが示されている。免疫応答を誘発するためにRNAが翻訳され、発現されたタンパク質が抗原提示細胞の表面のMHC分子に提示されると推測される。
【0007】
RNAベースのワクチン接種の主たる難点は、インビボでの、特に免疫系の細胞における、RNAの不安定性である。長鎖RNAの5'末端からの分解は、RNA鎖からmGDPを切断する、いわゆる「デキャッピング」酵素Dcp2によって細胞内で誘導される。従って、切断はRNAキャップのαリン酸基とβリン酸基の間で起こると推測される。
【0008】
デキャッピング過程を阻害するため、従ってインビボでのRNAの安定性を高めるために、前記RNAの安定性へのホスホロチオエートキャップ類似体の作用が検討されてきた。5'末端キャップのβリン酸基における硫黄原子の酸素原子による置換はDcp2に対する安定化をもたらすことが示されている。RNAの5'末端キャップのホスホロチオエート修飾は、RNA鎖へのキャップの逆方向組込みを阻害する「抗逆方向キャップ類似体(anti−reverse cap analog)」(ARCA)修飾と組み合わされてきた。生じたキャップ類似体、すなわちm(7,2'−O)GpppGは、β−S−ARCAと命名された(図1参照)。架橋リン酸における硫黄原子の酸素原子による置換は、HPLCでの溶出パターンに基づきD1およびD2と称されるホスホロチオエートジアステレオマーを生じさせる。興味深いことに、2つのジアステレオマーはヌクレアーゼに対する感受性が異なる。β−S−ARCAのD2ジアステレオマーを担持するRNAは、Dcp2切断に対してほぼ完全に抵抗性であり(非修飾ARCA 5'末端キャップの存在下で合成されたRNAと比較して6%だけの切断)、一方β−S−ARCA(D1)5'末端キャップを有するRNAはDcp2切断に対して中間的な感受性を示す(71%の切断)ことが明らかにされた。さらに、3つのキャップ類似体、ARCA、β−S−ARCA(D1)およびβ−S−ARCA(D2)は、真核生物翻訳開始因子eIF4Eに対する結合親和性が異なる。どちらのホスホロチオエートキャップ類似体も、従来の5'末端キャップを有するRNAよりもeIF4Eに対してより高い親和性を有する。さらに、Dcp2切断に対する安定性の上昇はHC11細胞におけるタンパク質発現の上昇と相関することが示された。特に、β−S−ARCA(D2)キャップを担持するRNAは、β−S−ARCA(D1)キャップを担持するRNAよりもHC11細胞においてより効率的に翻訳されることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許発明第 10 2008 061 522.6号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wolffら,1990,Science,247:1465−1468
【非特許文献2】Coxら,1993,J.Virol.67:5664−5667
【非特許文献3】Davisら,1993,Hum.Mol.Genet.2:1847−1851
【非特許文献4】Ulmerら,1993,Science 259:1745−1749
【非特許文献5】Wangら,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:4156−4160
【非特許文献6】Conryら,1994,Cancer Res.54:1164−1168
【非特許文献7】Conryら,1995,Gene Ther.2:59−65
【非特許文献8】Spoonerら,1995,Gene Ther.2:173−180
【非特許文献9】Wangら,1995,Hum.Gene Ther.6:407−418
【非特許文献10】Gilkesonら,1995,J.Clin.Invest.95:1398−1402
【非特許文献11】Bargmannら,1986,Nature 319:226−230
【非特許文献12】Greenblattら,1994,Cancer Res.54:4855−4878
【非特許文献13】Condonら,1996,Nat.Med.2:1122−1128
【非特許文献14】Tangら,1992,Nature 356:152−154
【非特許文献15】Hoerrら,2000,Eur.J.Immunol.30:1−7
【非特許文献16】Yingら,1999,Nat.Med.5:823−827
【非特許文献17】Hoerrら,2000,Eur.J.Immunol.30:1−7
【非特許文献18】Heiserら,2000,J.Immunol.164:5508−5514
【非特許文献19】Suら,2003,Cancer Res.63:2127−2133
【非特許文献20】Heiserら,2002,J.Clin.Invest.109:409−417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
要約すると、RNAは臨床適用に特に良好に適する。しかし、遺伝子治療およびRNAワクチン接種におけるRNAの使用は、主として、低いおよび/または不十分なタンパク質発現をもたらす、RNAの短い半減期、特に細胞質における短い半減期によって制限される。
【0012】
従って、RNAワクチン接種のためには、抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めることが特に重要である。リンパ節に注入された裸のRNAは、主として未熟抗原提示細胞によって、特に未熟樹状細胞によって取り込まれるので、未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めることがRNAワクチン接種に関連して特に重要である。従って、RNAワクチン接種に特に適するRNAを提供する、すなわち、特に未熟抗原提示細胞においてRNAを安定化する手段を提供することが本発明の目的である。この技術的な問題は、特許請求の範囲の内容により本発明に従って解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様では、本発明は、式(I):
【化1】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを含有するワクチン組成物を提供する。
【0014】
好ましい実施形態では、5'末端キャップ構造は、前記RNAを未熟抗原提示細胞に導入したとき、式(I)による5'末端キャップ構造を有さない同じRNAと比較して、RNAの安定性を高める、RNAの翻訳効率を高める、RNAの翻訳を延長させる、RNAの総タンパク質発現を増大させる、および/または前記RNAによってコードされる抗原もしくは抗原ペプチドに対する免疫応答を増大させることができる。
【0015】
好ましい実施形態では、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、任意に置換されたC−Cアルケニル、および任意に置換されたアリールから成る群より選択される。
【0016】
好ましい実施形態では、RおよびRは、H、F、OH、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より独立して選択される。
【0017】
特に好ましい実施形態では、RNAの5'末端キャップはβ−S−ARCAのジアステレオマーD1である。
【0018】
好ましくは、ワクチン組成物は結節内注入用に製剤される。
【0019】
第2の態様では、本発明は、式(I):
【化2】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを含有する未熟抗原提示細胞を提供する。
【0020】
第3の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘発する方法であって、本発明の最初の態様のワクチン組成物または本発明の2番目の態様の未熟抗原提示細胞を前記個体に投与するステップを含む方法を提供する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めるおよび/または未熟抗原提示細胞におけるRNAの発現を高める方法であって、
式(I):
【化3】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造を有する前記RNAを準備すること、ならびに
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること
を含む方法を提供する。
【0022】
第5の態様では、本発明は、抗原提示細胞の表面に対象とする抗原を提示するMHC分子の割合を増大させる方法であって、
前記の対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化4】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、ならびに
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること
を含む方法を提供する。
【0023】
第6の態様では、本発明は、免疫エフェクター細胞を刺激するおよび/または活性化するための方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化5】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、ならびに
抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させること
を含む方法を提供する。
【0024】
抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させることは、インビトロまたはインビボで実施され得る。
【0025】
第7の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘導する方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化6】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、ならびに
前記RNAを前記個体に投与すること
を含む方法を提供する。
【0026】
好ましい実施形態では、RNAはリンパ節内注入によって投与される。
【0027】
第8の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘導する方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化7】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、ならびに
抗原提示細胞を前記個体に投与すること
を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】5'末端キャップジヌクレオチドの構造を示す図である。逆相HPLCでの溶出特徴に従ってD1およびD2と称される、P立体中心によるホスホロチオエートキャップ類似体β−S−ARCAの2つのジアステレオマーが存在する。
【図2】樹状細胞におけるタンパク質発現への5'末端キャップ構造の作用を示す図である。(A)未熟および成熟樹状細胞(それぞれiDCおよびmDC)を、様々なキャップジヌクレオチド(示されているような)の存在下で転写された5'末端キャップ構造、またはワクシニアウイルスのキャッピング酵素(mGpppG(p.−t.))を使用して転写後に5'末端キャップが組み込まれた5'末端キャップ構造、ルシフェラーゼをコードする同じ量のRNAで電気穿孔した5'末端キャップ構造。2、4、8、24、48および72時間後にルシフェラーゼ活性(RLUで示す)を2回測定した。平均±標準偏差で示している。(B)iDCおよびmDCを、(A)で述べたように調製した、d2eGFPをコードする同じ量のRNAで電気穿孔した。2、4、8、24、48および72時間後に細胞を採取し、フローサイトメトリーを用いてd2eGFP蛍光(MFIで示す)を測定した。
【図3】ARCAキャップRNAとβ−S−ARCA(D1)キャップRNAとの間での翻訳の競合を示す図である。未熟樹状細胞(iDC)を、(A)ルシフェラーゼをコードする漸増量のRNAまたは(B)指示されているようにARCAもしくはβ−S−ARCA(D1)のいずれかで共転写的にキャップした、ルシフェラーゼおよびd2eGFPをコードする指示量のmRNAで電気穿孔した。2、4、8、24、48および72時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。(A)40pmolと20pmolのルシフェラーゼをコードするRNAによる電気穿孔後に得られたルシフェラーゼ活性の比(2つの独立した実験の±SD)、ならびに(B)RNAなしにルシフェラーゼをコードするRNAだけで電気穿孔した細胞(ARCAキャップRNAおよびβ−S−ARCA(D1)キャップRNAの両方について1に設定した)と比較した相対的ルシフェラーゼ活性を示す。
【図4】樹状細胞におけるmRNAの安定性への5'末端キャップの影響を示す図である。(A)未熟樹状細胞(iDC)および成熟樹状細胞(mDC)を、指示されている種々のキャップ類似体の存在下で転写されたd2eGFPをコードする等しい量のmRNAで電気穿孔した。2、4、8、24、48および72時間後に細胞を採取し、d2eGFP転写産物レベルをリアルタイムRT−PCRによって定量した。各時点について、d2eGFPをコードするRNAと、内部対照として使用したヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT1)の閾値サイクル数(Ct)の差を示す。データを二相性減衰(iDC;図4A)または単相性減衰(mDC;図4B)に適合させた。
【図5】インビボでのタンパク質発現への5'末端キャップ構造の作用を示す図である。マウス(n=9)に、5'末端にARCAまたはβ−S−ARCA(D1)を有する(指示されているように)、ルシフェラーゼをコードする同じ量のRNAを結節内注射した。2、4、8、24、48および72時間後にルシフェラーゼ活性(RLUで示す)を測定した。(A)ARCAまたはβ−S−ARCA(D1)RNAを注射した代表的マウスの指示時点での動物全体の画像を示す。光子数は図に示すグレースケールに対応して表示されている。(B)時間的経過に従って測定した平均±平均の標準誤差。統計解析を用いて有意性を決定した(:P<0.005および**:P< 0.02)。
【図6】RNAによる結節内免疫後のT細胞の新たなプライミングへの5'末端キャップ構造の作用を示す図である。マウス(n=5)を、5'末端にARCAまたはβ−S−ARCA(D1)のいずれかを担持する、特異的ペプチド抗原をコードする同じ量のRNAの1日2回(0日目と3日目)の結節内注射によって免疫した。テトラマー陽性CD8細胞の頻度を、テトラマー解析を用いて8日目に測定した。(A)ARCAまたはβ−S−ARCA(D1)RNAで免疫した(指示されているように)マウスの末梢血および脾臓からの細胞の代表的なドットプロット。(B)8日目に測定したテトラマー陽性CD8細胞の平均数±平均の標準誤差(%)。統計解析を用いて有意性を決定した(:P<0.075)。
【図7】m7,2'−OGpppG(D1)および(D2)(すなわちβ−S−ARCA(D1)および(D2))のHPLC分析を示す図である。β−S−ARCA(D1):(D2)のモル比が1:3のジアステレオマー混合物の分析HPLCを、Supelcosil LC−18−T RPカラム(5μm、4.6×250mm、流速:1.3ml/分)を備えたAgilent Technologies 1200 Series装置で、15分以内に0.05M酢酸アンモニウム、pH=5.9中のメタノールの0〜25%直線勾配を用いて実施した。UV検出(VWD)を260nmで実施し、蛍光検出(FLD)を280nmでの励起および337nmでの検出で実施した。保持時間:β−S−ARCA(D1)=10.4分。β−S−ARCA(D2)=10.7分。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を以下で詳細に説明するが、手順、プロトコールおよび試薬は異なり得るので、本発明は、本明細書で述べる特定の方法、プロトコールおよび試薬に限定されないことが了解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図されず、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも了解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0030】
以下では、本発明の要素を説明する。これらの要素は特定の実施形態と共に列挙されるが、それらは、さらなる実施形態を創造するために任意の方法および任意の数で組み合され得ることが了解されるべきである。様々な記述される実施例および好ましい実施形態は、本発明を、明白に記述された実施形態だけに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明白に記述された実施形態を多くの開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含することが了解されるべきである。さらに、本出願において記述されるすべての要素の任意の順序および組合せが、文脈によって特に指示されない限り、本出願の記述によって開示されるとみなされるべきである。例えば、1つの好ましい実施形態において5'末端キャップ構造のRがメトキシであり、別の好ましい実施形態では5'末端キャップ構造のRがSである場合、1つの好ましい実施形態では、5'末端キャップ構造のRはメトキシであり、およびRはSである。
【0031】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」,H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH−4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0032】
本発明の実施には、特に指示されない限り、当技術分野の文献(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrookらeds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989)において説明される化学、生化学および組換えDNA技術の従来の方法を使用する。
【0033】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈によって特に求められない限り、「含む(comprise)」という語ならびに「comprises」および「comprising」などの変形は、記載される成員、整数または段階または成員、整数もしくは段階の群の包含を意味するが、任意の他の成員、整数または段階または成員、整数もしくは段階の群の排除を意味しないことが了解される。「a」および「an」および「the」という用語ならびに本発明を説明することに関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される同様の言及は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単にその範囲内に含まれる各々別個の値を個別に言及する省略方法としての役割を果たすことが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各々個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書で述べるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施できる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図されており、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に必須の特許請求されない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0034】
本明細書の記載全体を通していくつかの資料が引用される。上記または下記で、本明細書において引用する資料(すべての特許、特許出願、学術出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)の各々は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中のいかなる内容も、本発明が、先行発明のためにそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0035】
本発明によれば、「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、それらの組合せおよびそれらの修飾形態を含む。この用語は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学的に合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖としておよび線状または共有結合閉環状分子として存在し得る。核酸は、本発明によれば、単離され得る。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断とゲル電気泳動による分離によって、精製された、または(iv)例えば化学合成によって、合成されたことを意味する。
【0036】
本発明に関連して、「RNA」という用語は、少なくとも1個のリボヌクレオチド残基を含む分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β−D−リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的にまたは完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、1またはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変化によって天然に生じるRNAとは異なる修飾されたRNAなどの組換え生成されたRNAを含む。「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって生成され、ペプチドまたはタンパク質をコードする「転写産物」に関する。典型的には、mRNAは、5'UTR、タンパク質コード領域および3'UTRを含む。mRNAは、細胞においておよびインビトロで限られた半減期しか有さない。本発明に関連して、mRNAはDNA鋳型からインビトロ転写によって生成され得る。インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。本発明に関連して、RNA、好ましくはmRNAは、5'末端キャップ構造で修飾されている。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明によるRNAは、1もしくはそれ以上の抗原および/または1もしくはそれ以上の抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードし、特に未熟抗原提示細胞などの細胞に導入された場合、1もしくはそれ以上の抗原および/または1もしくはそれ以上の抗原ペプチドを含む前記ペプチドまたはタンパク質を発現することができる。RNAはまた、免疫刺激エレメントなどの他のポリペプチド配列をコードする配列も含み得る。さらに、RNAは、発現の調節に関与するエレメント(例えば5'UTRまたは3'UTR配列等)を含み得る。
【0038】
本発明において使用されるRNAに関連して「修飾」という用語は、前記RNA中に天然では存在しないRNAの任意の修飾を包含する。特に、修飾という用語は、RNAに、式(I)に示す構造を有する5'末端キャップ類似体を提供することに関する。例えば、RNAに5'末端キャップ類似体を提供することは、前記5'末端キャップ類似体の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって実施でき、前記5'末端キャップは生成されたRNA鎖に共転写的に組み込まれ、または、例えばインビトロ転写によってRNAを生成し、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて転写後に5'末端キャップをRNAに結合し得る。RNAはさらなる修飾を含み得る。例えば、本発明で使用されるRNA、好ましくは本発明で使用されるmRNAのさらなる修飾は、天然に生じるポリ(A)尾部の伸長もしくは末端切断または前記RNA、好ましくは前記mRNAのコード領域に関連しない非翻訳領域(UTR)の導入などの5'UTRもしくは3'UTRの変化、例えばグロビン遺伝子、例えばα2グロビン、α1グロビン、βグロビン、好ましくはβ−グロビン、より好ましくはヒトβグロビンに由来する3'UTRと既存の3'UTRの交換または前記グロビン遺伝子由来の3'UTRの1またはそれ以上、好ましくは2コピーの挿入であり得る。
【0039】
「5'末端キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に認められるキャップ構造を指し、一般に、異例の5'−5'三リン酸結合を介してmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドから成る。1つの実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。「従来の5'末端キャップ」という用語は、天然に生じるRNAの5'末端キャップ、好ましくは7−メチルグアノシンキャップ(mG)を指す。本発明に関連して、「5'末端キャップ」という用語は、RNAキャップ構造に類似し、好ましくはインビボで、好ましくは未熟抗原提示細胞において、最も好ましくは未熟樹状細胞において、RNAに結合された場合そのRNAを安定化する能力を有するように修飾された5'末端キャップ類似体を包含する。本発明において使用される5'末端キャップは、式(I)による構造を示す。
【0040】
本発明に関連して、「ワクチン組成物」という用語は、RNAを含有する抗原製剤に関する。ワクチン組成物は、1またはそれ以上の抗原に対する個体の体液性および/または細胞性免疫系を刺激するために受容者に投与される。これに関連して、RNAは、前記抗原もしくは抗原ペプチドを含む抗原、タンパク質またはペプチドをコードし得る。本発明に関連してワクチン組成物は1またはそれ以上のアジュバント、希釈剤、担体および/または賦形剤等をさらに含有してよく、抗原に対する防御および/または治療的免疫反応を誘発するために任意の適切な経路で個体に適用される。
【0041】
本発明による投与、特にワクチン組成物の形態での投与のために、RNAは、裸のRNAであり得るかまたは担体、例えばリポソームもしくは遺伝子導入のための他の粒子に組み込まれてよく、好ましくは裸のRNAの形態である。
【0042】
本発明による「抗原」は、免疫応答を誘発する任意の物質を包含する。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を包含する。好ましくは、本発明に関連して抗原は、場合によりプロセシング後に、好ましくは抗原に対して特異的な、免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、免疫反応のための候補物質である、任意の適切な抗原を使用してよく、前記免疫反応は体液性ならびに細胞性免疫反応の両方であり得る。本発明の実施形態に関連して、抗原は、好ましくは細胞によって、好ましくは、MHC分子との関連で、抗原に対する免疫反応を生じさせる抗原提示細胞によって提示される。抗原は、好ましくは天然に生じる抗原に対応するまたは天然に生じる抗原に由来する生成物である。そのような天然に生じる抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物および他の感染性因子および病原体を含み得るもしくはそれらに由来し得るか、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は天然に生じる生成物、例えばウイルスタンパク質またはその一部に対応し得る。
【0043】
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち細胞質、細胞表面または細胞核に由来し得る腫瘍細胞の一部、特に主として細胞内でまたは腫瘍細胞の表面抗原として生じるものである。例えば、腫瘍抗原は、癌胎児性抗原、α1フェトプロテイン、イソフェリチンおよび胎児性スルホグリコプロテイン、α2−H−フェロプロテインおよびγフェトプロテインならびに様々なウイルス性腫瘍抗原を含む。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは腫瘍または癌に特徴的な、ならびに型および/または発現レベルに関して腫瘍細胞または癌細胞に特徴的な任意の抗原を含む。別の実施形態では、抗原は、ウイルス性リボ核タンパク質またはコートタンパク質などのウイルス抗原である。特に、抗原はMHC分子によって提示されるべきであり、それにより、特にT細胞受容体の活性の調節を介した、免疫系の細胞、好ましくはCD4およびCD8リンパ球の調節、特に活性化を生じさせる。
【0044】
好ましい実施形態では、抗原は腫瘍抗原であり、本発明は、そのような腫瘍抗原を発現し、好ましくはMHCクラスIと共にそのような腫瘍抗原を提示する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答を刺激することを含む。
【0045】
「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘導するための抗原の相対的有効性に関する。
【0046】
「病原体」という用語は、病原性微生物に関し、ウイルス、細菌、真菌、単細胞生物および寄生生物を含む。病原性ウイルスの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウイルスおよびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)がある。単細胞生物は、マラリア原虫、トリパノソーマ、アメーバ等を含む。
【0047】
本発明において使用し得る抗原の例としては、p53、ART−4、BAGE、ss−カテニン/m、Bcr−abL CAMEL、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、CLAUDIN−12、c−MYC、CT、Cyp−B、DAM、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE、GnT−V、Gap100、HAGE、HER−2/neu、HPV−E7、HPV−E6、HAST−2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE−A、好ましくはMAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11またはMAGE−A12、MAGE−B、MAGE−C、MART−1/Melan−A、MC1R、Myosin/m、MUC1、MUM−1、MUM−2、MUM−3、NA88−A、NF1、NY−ESO−1、NY−BR−1、p190マイナーBCR−abL、Plac−1、Pm1/RARa、PRAME、Proteinase3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART−1またはSART−3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP−1、TRP−2、TRP−2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT−1がある。
【0048】
本発明による「抗原の一部またはフラグメント」または「抗原ペプチド」は、好ましくは抗原の不完全な形態(representation)であり、抗原に対する免疫応答を誘発することができる。
【0049】
これに関連して、本発明はまた、本明細書では「抗原ペプチド」とも称される、抗原に由来するアミノ酸配列を含むペプチドを使用する。「抗原ペプチド」または「抗原に由来する抗原ペプチド」とは、抗原のフラグメントまたはペプチドのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含むオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。抗原ペプチドは任意の長さであってよい。
【0050】
好ましくは、抗原ペプチドは、抗原、または抗原の発現および好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、MHCクラスIと共に抗原を提示することを特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性CTLを刺激することができる。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドであるか、またはMHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドを産生するようにプロセシングされ得る。好ましくは、抗原ペプチドは、抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗原の前記フラグメントは、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドである。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、そのようなフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、そのようなフラグメント、すなわち抗原に由来するMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを産生するようにプロセシングされる。
【0051】
抗原ペプチドが直接、すなわちプロセシングされずに、特に切断されずに提示される場合、その抗原ペプチドはMHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示される抗原ペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。
【0052】
抗原ペプチドがプロセシング後に、特に切断後に提示される場合、プロセシングによって生成されるペプチドは、MHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示されるペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。従って、本発明による抗原ペプチドは、1つの実施形態では、抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長の配列を含み、抗原ペプチドのプロセシング後に、提示されるペプチドを形成する。しかし、抗原ペプチドはまた、上記で述べた配列よりもさらに一層長い抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である配列も含み得る。1つの実施形態では、抗原ペプチドは抗原の配列全体を含み得る。
【0053】
MHCクラスIによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、MHCクラスIによって提示されるペプチドのTCR認識のためまたはMHCへのペプチド結合のために必須ではない1またはそれ以上の残基において異なり得る。そのような実質的に対応するペプチドはまた、抗原応答性CTLを刺激することができる。TCR認識には影響を及ぼさないが、MHCへの結合の安定性を改善する残基での提示ペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善することができ、本明細書では「最適化ペプチド」と称され得る。これらの残基のいずれが、MHCまたはTCRのどちらかへの結合に影響を及ぼす可能性がより高いと考えられるかについての既存の知識を利用して、実質的に対応するペプチドの設計への合理的なアプローチを使用し得る。機能性である生じたペプチドは抗原ペプチドとして企図される。
【0054】
「抗原プロセシング」は、抗原のフラグメントへの分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)および「抗原提示細胞」による特異的T細胞への提示のためのこれらのフラグメントの1またはそれ以上とMHC分子との会合(例えば結合による)を指す。
【0055】
「抗原応答性CTL」とは、抗原提示細胞の表面にMHCクラスIと共に提示される、抗原または前記抗原に由来するペプチドに対して応答性であるCD8T細胞を意味する。
【0056】
本発明によれば、CTL応答性は、持続的なカルシウム流入、細胞分裂、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方調節、ならびに腫瘍抗原を発現する標的細胞の特異的な細胞溶解性死滅を含み得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポーターを用いて測定し得る。
【0057】
本発明に関連して「免疫応答を誘導すること」という用語は、好ましくは細胞性ならびに体液性免疫応答の誘導を指す。免疫応答は、防御的/防止的/予防的/治療的であり得る。免疫応答は、任意の免疫原または抗原もしくは抗原ペプチドに対してであり得、好ましくは癌関連抗原または病原体関連抗原に対してであり得る。これに関連して「誘導すること」は、誘導の前には特定の抗原または病原体に対する免疫応答が存在しなかったことを意味し得るが、同時に、誘導の前に特定の抗原または病原体に対してある程度の免疫応答が存在し、誘導後に前記免疫応答が増強されることも意味し得る。従って、これに関連して「免疫応答を誘導すること」は、「免疫応答を増強すること」も包含する。好ましくは、個体において免疫応答を誘導した後、前記個体が感染症または癌性疾患などの疾患を発症することから保護されるか、または免疫応答を誘導することによって疾患状態が改善される。
【0058】
「細胞性免疫応答」または「抗原に対する細胞性応答」は、MHCクラスIまたはMHCクラスIIと共に抗原を提示することを特徴とする細胞に対する細胞性応答を包含することが意図されている。細胞性応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働く、T細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8T細胞またはCTLとも称される)は、腫瘍細胞などの疾患細胞を死滅させ、より多くの疾患細胞の産生を防止する。
【0059】
「ワクチン接種」および「免疫」という用語は、本明細書で述べるように、1またはそれ以上の免疫原または抗原またはその誘導体を、特にそれをコードするRNAの形態で、個体に投与し、前記1またはそれ以上の免疫原または抗原または前記1もしくはそれ以上の免疫原もしくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答を刺激する手順に関する。
「免疫反応」という用語は、本明細書ではその従来の意味で使用され、体液性および細胞性免疫を含む。免疫反応は、1またはそれ以上の抗原に対する抗体の発現ならびに、インビトロでの様々な増殖試験またはサイトカイン産生試験において検出され得る、抗原特異的Tリンパ球、好ましくはCD4およびCD8Tリンパ球、より好ましくはCD8Tリンパ球の増殖から成る群より選択される1またはそれ以上の反応を含む。
【0060】
「抗原の提示を特徴とする細胞」または「抗原を提示する細胞」または「抗原提示細胞の表面に抗原を提示するMHC分子」または同様の表現は、疾患細胞、特に腫瘍細胞などの細胞、または、MHC分子、好ましくはMHCクラスIおよび/もしくはMHCクラスII分子、最も好ましくはMHCクラスI分子に関連して、直接もしくはプロセシング後に、抗原もしくは抗原ペプチドを提示する抗原提示細胞を意味する。
【0061】
「免疫療法」という用語は、特異的免疫反応の活性化を含む治療に関する。本発明に関連して、「保護する」、「防止する」、「予防的」、「防止的」または「防御的」などの用語は、個体における腫瘍または病原体の発生および/または増殖の予防または治療またはその両方に関する。ワクチン組成物の予防的投与は、腫瘍増殖の発症または病原体による感染から受容者を保護することができる。ワクチン組成物の治療的投与または免疫療法は、個体を、例えば既存の腫瘍の播種または転移から保護し得る。
【0062】
「アジュバント」という用語は、抗原または抗原ペプチドと組み合わせて個体に投与された場合、免疫応答を延長するまたは増強するまたは促進する化合物に関する。本発明に関連して、RNAは任意のアジュバントと共に投与され得る。アジュバントは、抗原の表面の増大、体内での抗原の保持時間の延長、抗原放出の遅延化、マクロファージへの抗原の標的化、抗原の取込みの増大、抗原プロセシングの増強、サイトカイン放出の刺激、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などの免疫細胞の刺激および活性化、ならびに免疫細胞の非特異的活性化を含む、1またはそれ以上の機構によってその生物学的活性を及ぼすと推測される。アジュバントは、油性エマルション(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌毒素など)、リポソームおよび免疫刺激性複合体などの化合物の不均質な群を含む。アジュバントの例としては、モノホスホリル脂質A(MPL SmithKline Beecham)、QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開広報第WO96/33739号)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1などのサポニン(Soら,1997,Mol.Cells 7:178−186)、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Kriegら,1995,Nature 374:546−549)、ならびにスクアランおよび/またはトコフェロールなどの生分解性油から調製される様々な油中水型エマルションがある。
【0063】
「増大させること」、「増強すること」または「延長すること」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%の増大、増強または延長に関する。これらの用語はまた、ゼロ時点で特定の化合物または状態についての検出可能なシグナルが存在せず、ゼロ時点より後の特定の時点で特定の化合物または状態についての検出可能なシグナルが存在する状況にも関し得る。
【0064】
「抗原提示細胞」(APC)は、その細胞表面にMHC分子と共同してタンパク質抗原のペプチドフラグメントを提示する細胞である。一部のAPCは抗原特異的T細胞を活性化し得る。APCは、プロフェッショナルAPCと非プロフェッショナルAPCに分けることができる。例えば、プロフェッショナルAPCは、樹状細胞、マクロファージ、単球、B細胞、ミクログリア等を含む、本発明に関連して、APCは、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞である。本発明に関連して、APCは、好ましくは未成熟である。従って、本発明に関連して、APCは、好ましくは、未熟樹状細胞、未熟マクロファージ、未熟単球、未熟ミクログリアおよび未熟B細胞から成る群より選択され、好ましくは未熟樹状細胞である。未熟樹状細胞(iDC)または成熟樹状細胞(mDC)のサブセットは、例えば骨髄系樹状細胞(my−DC)、形質細胞様樹状細胞(pDC)、単球由来樹状細胞(mo−DC)および造血前駆細胞由来樹状細胞(hp−DC)を含む。好ましい実施形態では、本発明によるAPCは、哺乳動物、好ましくはヒト、マウスまたはラットである。
【0065】
樹状細胞は、特有の形態および広範囲に広がる組織分布を有する不均質な細胞集団を含む。Steinman(1991,Annu.Rev.Immunol.9:271−296)は、樹状細胞系および免疫系におけるその役割についての総説を提供する。樹状細胞は、MHC拘束性T細胞を感作する能力を示し、T細胞に抗原を提示するうえで非常に有効である。「樹状細胞」または「DC」という用語は、リンパ系または非リンパ系組織に位置する、形態学的に類似の細胞型の多様な集団の成員に関する。樹状細胞は、例えば造血系骨髄前駆細胞に由来する。これらの前駆細胞は、最初に未熟樹状細胞に変換される。未熟樹状細胞は、末梢血および臍帯血中でならびに胸腺およびリンパ節などのリンパ系において認められる。これらの細胞は、高いエンドサイトーシス活性と低いT細胞活性化潜在能を特徴とする。未熟樹状細胞は、ウイルスおよび細菌などの病原体に関して絶えず周囲の環境をサンプリングする。これは、受容体媒介性機構および受容体非依存性機構(例えばマクロピノサイトーシス)の両方を介して行われる。トル様受容体(TLR)などのパターン認識受容体(PRR)は、病原体のサブセット上に認められる特定の化学的痕跡を認識する。未熟樹状細胞はまた、ニブリングと呼ばれる過程で、自身の生細胞から少量の膜も貪食し得る。ひとたびそれらが提示可能な抗原と接触すると、それらは成熟樹状細胞へと活性化する。未熟樹状細胞は病原体を貪食し、それらのタンパク質を小片に分解して、成熟後にMHC分子を用いてそれらのフラグメントを細胞表面に提示する。同時に、それらは、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)およびCD40などのT細胞活性化における共受容体として働く細胞表面受容体を上方調節し、T細胞を活性化する能力を大きく増強する。それらはまた、樹状細胞が血流を通って脾臓にまたはリンパ系を通ってリンパ節に移動することを誘導する走化性受容体であるCCR7も上方調節する。ここでは未熟樹状細胞は抗原提示細胞として働く:それらは、非抗原特異的共刺激シグナルと並行して、ヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞を病原体に由来する抗原と共に提示することによってそれらを活性化する。樹状細胞はすべての抗原提示細胞のうちで最も強力であり、記憶T細胞およびナイーブT細胞の両方を活性化することができる。活性化された成熟樹状細胞は、T細胞の活性化および増殖に必要なシグナルを提供することが示されている。これらのシグナルは2つのタイプに分類され得る。免疫応答に特異性を与える、最初のタイプは、T細胞受容体/CD3(「TCR/CD3」)複合体と、APCの表面に主要組織適合遺伝子複合体(「MHC」)クラスIまたはクラスIIタンパク質によって提示される抗原ペプチドとの間の相互作用を通して媒介される。共刺激シグナルと呼ばれる2番目のタイプのシグナルは、抗原特異的またはMHC拘束性のいずれでもなく、最初のタイプのシグナルの存在下でT細胞の完全な増殖応答およびT細胞エフェクター機能の誘導を導くことができる。この二重のシグナル伝達は、従って、活発な免疫応答を生じさせる、樹状細胞の成熟の種々の系統および程度は、それらの特定の形態、食作用/エンドサイトーシス能力、ならびにそれらのMHCクラスII表面発現の程度およびT細胞、特にナイーブT細胞に抗原を提示する能力によって区別され得る。未熟樹状細胞の典型的なマーカーは、MHCクラスIIが検出可能であり、CD86が検出可能であり、そして特にCD83が陰性である。
【0066】
典型的には、未熟樹状細胞を作製するために、最初に、血液中に存在する他の混入細胞型から単球前駆体を精製または富化しなければならない。単球は、例えばリンパ球およびナチュラルキラー(NK)細胞などの末梢血中に認められる他の細胞よりもプラスチックに付着する傾向が大きいので、これは一般に単球前駆体のプラスチック(ポリスチレン)表面への接着を介して実施される。強く洗浄することによって混入細胞を実質的に除去した後、単球前駆体を未熟樹状細胞に変換するサイトカインと共に単球を培養する。単球前駆体を未熟樹状細胞に分化させるための方法は、Sallusto and Lanzavecchia(参照により本明細書に組み込まれる、J.Exp.Med.,179:1109−1118,1994)によって最初に記述され、彼らは、単球の未熟樹状細胞への分化を誘導するサイトカインGM−CSFおよびIL−4を使用した。サイトカインのこの組合せが最も典型的に使用されるが、IL−4をIL−13またはIL−15に置き換えるなどの、様々な他の組合せも同じ目的を達成するために記述されている。この過程の最終結果は、T細胞共刺激分子ならびに検出可能なレベルの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の分子を発現するが、樹状細胞成熟マーカーCD83を発現しない、「ベールで隠された(veiled)」細胞である。これらの細胞は皮膚のランゲルハンス細胞に類似し、その主要な生理的機能は侵入微生物を捕捉することである。この方法の変法には、例えばタンジェンシャルフローろ過(TFF)を含む、またはビーズに付着させた抗体を単球上の表面分子に結合することによる、単球を精製する種々の方法が含まれる。混入細胞を洗浄して除去した後、単球がビーズから溶出されるように、結合細胞を有するビーズをカラム中または磁気面で濃縮する。樹状細胞前駆体を得るためのさらに別の方法では、血液(参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,994,126号)または骨髄のいずれかから、幹細胞マーカーCD34を発現している細胞を精製する。これらの細胞を必須のサイトカインGM−CSFと共に培養して、未熟樹状細胞に分化させることができる。
【0067】
これらの樹状細胞は、一見したところ、単球から生成される未熟樹状細胞と非常に類似した特徴および機能的特性を有する。未熟樹状細胞は、抗原を取り込み、プロセシングする高い能力を有するが、免疫応答を開始する能力は限られている。免疫応答を開始する能力は未熟樹状細胞の成熟によって獲得される。この成熟は、樹状細胞を活性化することまたは樹状細胞の活性化とも称される。成熟過程は、成熟誘導性サイトカイン、細菌産物またはウイルス成分等との接触を介して開始される。
【0068】
好ましくは、未熟樹状細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)からインビトロで生成され得る単球由来の未熟樹状細胞である。未熟樹状細胞は、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)およびインターロイキン(IL−4)などのサイトカインの存在下に、リポ多糖または腫瘍壊死因子α(TNF−α)などの成熟因子の不在下で、PBMCから分化され得る。1つの実施形態では、未熟樹状細胞は、GM−CSFおよび/またはIL−4などの1またはそれ以上のサイトカインの存在下で末梢血単球を少なくとも約3日間または少なくとも約7日間培養することによって得られたまたは得られ得る単球由来の未熟樹状細胞である。例えば、組織培養フラスコでのPBMCの平板培養によって単球の接着が可能となる。IL−4およびGM−CSFでのこれらの単球の処理により、約1週間で未熟樹状細胞への分化に至る。その後のTNF−αでの処理により、未熟樹状細胞は成熟樹状細胞へとさらに分化する。本発明に関連して、未熟樹状細胞は、造血幹細胞(CD34細胞)から分化させ得るか、または白血球搬出法を用いて個体から精製し得る。
【0069】
成熟樹状細胞は、それらの形態の変化、非接着性、および1またはそれ以上のマーカーの存在によって同定できる。そのようなマーカーは、CD83、CD86、CD40、CD80およびMHCクラスIIなどの細胞表面マーカーを含むが、これらに限定されない。成熟樹状細胞(mDC)についての典型的なマーカーは、CD83が検出可能であり、MHC IIならびにCD86のレベルが未熟樹状細胞(iDC)に比べて高い。あるいは、成熟は、炎症性サイトカインなどのサイトカインの産生を観察するまたは測定することによって同定できる。成熟樹状細胞は、典型的なサイトフルオログラフィーおよびセルソーティング技術と装置、例えば蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて収集し、分析することができる。成熟樹状細胞の細胞表面抗原に特異的な抗体は市販されている。
【0070】
「MHC結合ペプチド」という用語は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。MHCクラスI/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には8〜10アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドも有効であり得る。MHCクラスII/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には10〜25アミノ酸長、特に13〜18アミノ酸長であるが、より長いまたはより短いペプチドも有効であり得る。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語はmMHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、すべての脊椎動物において生じる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、正常な免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞との間のシグナル伝達のために重要であり、正常な免疫反応では、MHCタンパク質または分子がペプチドに結合して、T細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。
【0071】
本発明に関連して「免疫エフェクター細胞」という用語は、免疫反応においてエフェクター機能を果たす細胞に関する。「免疫エフェクター細胞」は、好ましくは、抗原または抗原の提示を特徴とする細胞に結合し、免疫応答を媒介することができる。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を死滅させ、抗体を分泌し、感染細胞または癌細胞を認識して、場合によりそのような細胞を排除する。例えば、免疫エフェクター細胞は、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージおよび樹状細胞を含む。好ましくは、本発明に関連して、「免疫エフェクター細胞」は、T細胞、好ましくはCD4および/またはCD8細胞である。
【0072】
好ましくは、「免疫エフェクター細胞」は、特に抗原提示細胞または腫瘍細胞のような疾患細胞の表面などにMHC分子に関連して提示された場合、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドをある程度の特異性で認識する。好ましくは、前記認識は、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が応答性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子に関連して抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4T細胞)である場合、そのような応答性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解を介した、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわちMHCクラスIと共に抗原を提示することを特徴とする細胞の排除を含み得る。抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞である場合、そのような応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0073】
「半減期」という用語は、分子の活性、量または数の半分を排除するために必要とされる時間に関する。本発明に関連して、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。
【0074】
「患者」、「個体」または「動物」という用語は哺乳動物に関する。例えば、本発明に関連して哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ等のような家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のような実験動物、ならびに動物園の動物などの捕らえられている動物である。本明細書で使用される「動物」はまた、ヒトを含む。
【0075】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍性疾患」という用語は、細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖によって形成される腫脹または病変を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新たな増殖を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造機構および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常、良性、前悪性または悪性であり得る明確な組織塊を形成する。
【0076】
好ましくは、本発明による腫瘍性疾患は、癌疾患、すなわち悪性疾患であり、腫瘍細胞は癌細胞である。好ましくは、腫瘍性疾患は、抗原、すなわち腫瘍抗原が発現されるまたは異常発現される細胞を特徴とする。好ましくは、腫瘍性疾患または腫瘍細胞は、MHCクラスIと共に腫瘍抗原を提示することを特徴とする。
【0077】
「異常発現」は、本発明によれば、健常個体における状態と比較して、発現が変化している、好ましくは増大していることを意味する。発現の増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%の増加を指す。1つの実施形態では、発現は疾患組織においてのみ認められ、健常組織における発現は抑制されている。
【0078】
好ましくは、本発明による腫瘍性疾患は癌であり、本発明による「癌」という用語は、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝癌、結腸癌、胃癌、腸癌、頭頸部癌、消化器癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵癌、耳鼻咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮の癌、卵巣癌および肺癌ならびにそれらの転移を含む。その例としては、肺癌腫、乳癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫、または上述した癌型または腫瘍の転移である。本発明による「癌」という用語はまた、癌の転移を包含する。
【0079】
本発明による組成物は、一般に「医薬的に許容される量」でおよび「医薬的に許容される製剤」中で適用される。そのような組成物は、塩、緩衝剤、防腐剤、担体および場合により他の治療薬を含有し得る。「医薬的に許容される塩」は、例えば酸付加塩を含み、酸付加塩は、例えば、塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、カルボン酸またはリン酸などの医薬的に許容される酸の溶液と化合物の溶液を混合することによって形成され得る。さらに、化合物が酸性部分を担持する場合、その適切な医薬的に許容される塩は、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩またはカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩またはマグネシウム塩);ならびに適切な有機配位子で形成される塩(例えばハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩などの対アニオンを使用して形成されるアンモニウム、第四級アンモニウムおよびアミンカチオン)を含み得る。医薬的に許容される塩の説明的な例は、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、エデト酸カルシウム、ショウノウ酸塩、カンファースルホン酸塩、カンシル酸塩(camsylate)、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩(estolate)、エシル酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプチン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩(lactobionate)、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、粘液酸塩(mucate)、2−ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオダイド(triethiodide)、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を含むが、これらに限定されない(例えば、S.M.Bergeら,「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.,66,pp.1−19(1977)参照)。
【0080】
本明細書で使用される場合「賦形剤」という用語は、有効成分ではない医薬製剤中のすべての物質、例えば担体、結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、着香剤または着色剤などを指示することが意図されている。
【0081】
本発明による組成物は、医薬的に許容される担体を含有し得る。本発明に関連して「医薬的に許容される担体」という用語は、ヒトへの投与に適する、1またはそれ以上の適合性の固体または液体充填剤または希釈剤に関する。「担体」という用語は、活性成分の適用を容易にするために活性成分と組み合わされる天然または合成の有機または無機成分に関する。好ましくは、担体成分は、鉱油、動物または植物に由来するものを含む、水または油など、例えば落花生油、ダイズ油、ゴマ油、ヒマワリ油等のような滅菌液体である。塩溶液ならびにデキストロースおよびグリセリン水溶液も水性担体化合物として使用し得る。
【0082】
本発明によれば、組成物は治療有効量で投与される。「治療有効量」は、単独でまたはさらなる投与量と組み合わせて、所望反応または所望作用を生じさせる量に関する。特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望反応は疾患の進行の阻害に関する。これは、疾患の進行の減速、特に疾患の進行の中断を含む。疾患または状態の治療のための所望反応はまた、疾患または状態の発生の遅延化または発生の阻害であり得る。本発明による組成物の有効量は、状態または疾患、疾患の重症度、年齢、生理的状態、身長および体重を含む患者の個別のパラメータ、治療の期間、場合により併用される治療の種類、特定の投与経路および同様の因子に依存する。初期用量で患者の反応が不十分である場合は、より高い用量(またはより局所的な投与経路によって達成され得るより高い有効用量)を適用し得る。一般に、ヒトにおける治療または免疫反応の誘導もしくは増大のために、好ましくは1ng〜700μg、1ng〜500μg、1ng〜300μg、1ng〜200μgまたは1ng〜100μgの範囲のRNAの用量が製剤され、投与される。
【0083】
本発明に関連して、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロで合成される過程に関する。好ましくは、転写産物の作製のためにクローニングベクターを適用する。これらのクローニングベクターは一般に転写ベクターと称され、本発明により「ベクター」の用語に包含される。本発明によれば、本発明において使用されるRNAは、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって入手し得る。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼについての任意のプロモーターであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例としては、T7、T3およびSP6 RNAポリメラーゼがある。好ましくは、本発明によるインビトロ転写はT7またはSP6プロモーターによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって入手し得る。cDNAはRNAの逆転写によって入手し得る。
【0084】
「発現」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で使用され、RNAの産生またはRNAとタンパク質の産生を含む。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、特にペプチドまたはタンパク質の産生に関する。発現は一過性であり得るかまたは安定であり得る。
【0085】
本発明に関連して「翻訳」という用語は、mRNA鎖がアミノ酸配列の構築を制御してタンパク質またはペプチドを生成する、リボソームにおける過程に関する。
【0086】
本発明によれば、RNAは、例えばリンパ系、好ましくはリンパ節へのRNAの投与によって、インビトロまたはインビボのいずれかで未熟抗原提示細胞に移入される。これに関して、「移入すること」または「トランスフェクトすること」などの用語は、本明細書では交換可能に使用され、核酸、特に外因性または異種核酸、特にRNAの細胞への導入に関する。本発明によれば、RNAを細胞に移入するのに適した任意の技術を使用して、RNAを細胞に導入し得る。好ましくは、標準的な技術によってRNAを細胞にトランスフェクトする。そのような技術は、核酸のリン酸カルシウム沈殿物のトランスフェクション、DEAEに結合した核酸のトランスフェクション、対象とする核酸を担持するウイルスを用いたトランスフェクションまたは感染、電気穿孔法、リポフェクションおよびマイクロインジェクションを含む。本発明によれば、核酸の投与は、裸の核酸としてまたは投与試薬と組み合わせて達成される。好ましくは、核酸の投与は裸の核酸の形態で行われる。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与される。特に好ましい実施形態では、RNAおよび/または本発明の組成物は、好ましくはリンパ節内注入によって裸のRNAとして投与される。本発明によれば、従来のトランスフェクション技術は、裸のRNAを細胞に、好ましくは抗原提示細胞に、好ましくは未熟抗原提示細胞に、好ましくは未熟樹状細胞に導入するために絶対的に必要というわけではない。なぜなら、特に未熟樹状細胞などの未熟抗原提示細胞は、マクロピノサイトーシスによって裸のRNAを取り込むことができるからである。好ましくは、抗原または抗原ペプチドをコードするRNAの細胞への導入は、細胞における前記抗原または抗原ペプチドの発現を生じさせる。特定の実施形態では、特定の細胞への核酸の標的化が好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために適用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は、標的分子を展示する。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上の受容体に対するリガンドなどの分子を核酸担体に組み込み得るかまたはそれに結合し得る。核酸がリポソームによって投与される場合、標的化および/または取込みを可能にするために、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、インターナライズされるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的するタンパク質等を包含する。
【0087】
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合連結された2またはそれ以上、好ましくは3またはそれ以上、好ましくは4またはそれ以上、好ましくは6またはそれ以上、好ましくは8またはそれ以上、好ましくは10またはそれ以上、好ましくは14またはそれ以上、好ましくは16またはそれ以上、好ましくは21またはそれ以上、好ましくは8、10、20、30、40または50まで、特に100アミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大型ペプチド、好ましくは100アミノ酸残基超を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」と「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では交換可能に使用される。
【0088】
「対象とする抗原を提示するMHC分子の割合」という用語は、細胞の表面上のMHC分子の総量に対する、特定の抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドが負荷されている、すなわち結合している抗原提示細胞の表面上のMHC分子の割合を指す。好ましい実施形態では、本発明で使用されるRNAは、RNAが移入された抗原提示細胞の表面に対象とする抗原を提示するMHC分子の割合を増大させることができる。これは、式(I)による構造を有する5'末端キャップを担持しないRNA、特に従来のRNAキャップを担持するRNAと比較してである。
【0089】
「アルキル」という用語は、飽和直鎖または分枝炭素鎖を指す。好ましくは、鎖は1〜10個の炭素原子、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、neo−ペンチル、1,2−ジメチルプロピル、イソアミル、n−ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、n−オクチル、2−エチル−ヘキシル、n−ノニルおよびn−デシルを含む。アルキル基は任意に置換されている。
【0090】
それ自体でのまたは他の用語と組み合わせた「シクロアルキル」という用語は、特に明記されない限り、好ましくは3〜10個の炭素原子、すなわち3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子、好ましくは3〜6個の炭素原子を有し、環を形成する、「アルキル」の環状型、好ましくはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルを表す。「シクロアルキル」という用語はまた、二環式を含むことが意図される。二環式環が形成される場合は、それぞれの環が2個の隣接炭素原子で互いに結合していることが好ましいが、あるいは2つの環は同じ原子を介して結合している、すなわちそれらはスピロ環系を形成するかまたは「架橋」環系を形成する。シクロアルキルの好ましい例としては、C−Cシクロアルキル、特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、スピロ[3,3]ヘプチル、スピロ[3,4]オクチル、スピロ[4,3]オクチル、ビシクロ[4.1.0]ヘプチル、ビシクロ[3.2.0]ヘプチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[5.1.0]オクチルおよびビシクロ[4.2.0]オクチルを含む。
【0091】
本発明に関連して「アルケニル」という用語は、1またはそれ以上の二重結合を有するオレフィン系不飽和直鎖または分枝炭素鎖を指す。好ましくは、鎖は2〜10個の炭素原子、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を含む。例えば、アルケニルは、ビニル、アリル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル、1−ヘプテニル、2−ヘプテニル、3−ヘプテニル、4−ヘプテニル、5−ヘプテニル、6−ヘプテニル、1−オクテニル、2−オクテニル、3−オクテニル、4−オクテニル、5−オクテニル、6−オクテニル、7−オクテニル、1−ノネニル、2−ノネニル、3−ノネニル、4−ノネニル、5−ノネニル、6−ノネニル、7−ノネニル、8−ノネニル、1−デセニル、2−デセニル、3−デセニル、4−デセニル、5−デセニル、6−デセニル、7−デセニル、8−デセニルまたは9−デセニルであり得る。
【0092】
本発明に関連して「アルケニル」という用語はまた、1またはそれ以上の二重結合を有する1またはそれ以上の環を含むオレフィン系不飽和基を指す「シクロアルケニル」を包含する。好ましくは、シクロアルケニル環は3〜10個の炭素原子、すなわち3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子、例えばシクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクチル、スピロ[3,3]ヘプテニル、スピロ[3,4]オクテニル、スピロ[4,3]オクテニル、ビシクロ[4.1.0]ヘプテニル、ビシクロ[3.2.0]ヘプテニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプテニル、ビシクロ[2.2.2]オクテニル、ビシクロ[5.1.0]オクテニルまたはビシクロ[4.2.0]オクテニルを含む。
【0093】
本発明に関連して「アルキニル」という用語は、1またはそれ以上の三重結合を有する不飽和直鎖または分枝炭素鎖を指す。好ましくは、鎖は2〜10個の炭素原子、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を含む。アルキニルの例としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル、1−ヘプチニル、2−ヘプチニル、3−ヘプチニル、4−ヘプチニル、5−ヘプチニル、6−ヘプチニル、1−オクチニル、2−オクチニル、3−オクチニル、4−オクチニル、5−オクチニル、6−オクチニル、7−オクチニル、1−ノニニル、2−ノニニル、3−ノニニル、4−ノニニル、5−ノニニル、6−ノニニル、7−ノニニル、8−ノニニル、1−デシニル、2−デシニル、3−デシニル、4−デシニル、5−デシニル、6−デシニル、7−デシニル、8−デシニルまたは9−デシニルがある。
【0094】
「ヘテロシクリル」という用語は、環内の1〜3個の炭素原子がO、SまたはNのヘテロ原子によって置換されている、上記で定義したシクロアルキル基を意味する。
【0095】
「アリール」という用語は、5〜14個の炭素原子を含む芳香環構造、例えばフェニル、インデニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリルおよび9−フェナントリルを指す。好ましくは、「アリール」は、6個の炭素原子を含む単環式環または10個の炭素原子を含む芳香族二環式環系を指す。好ましい例はフェニルまたはナフチルである。アリール基は任意に置換されている。
【0096】
「ヘテロアリール」という用語は、環内の1〜3個の炭素原子がO、SまたはNのヘテロ原子によって置換されている、上記で定義したアリール基を意味する。好ましくは、この用語は、1〜3個の炭素原子がO、NまたはSの同じかまたは異なるヘテロ原子によって置換されている5員または6員芳香族単環式環を指す。あるいは、この用語は、1〜3個の炭素原子がO、NまたはSの同じかまたは異なるヘテロ原子で置換されている芳香族二環式環系を意味する。好ましい例としては、フラニル、チエニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−トリアゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、1,2,3−トリアジニル、1,2,4−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、1−ベンゾフラニル、2−ベンゾフラニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾチエニル、2−ベンゾチエニル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、インドオキサジニル、2,1−ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1,2−ベンゾイソチアゾリル、2,1−ベンゾイソチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、2,3−ベンゾジアジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、1,2,3−ベンゾトリアジニルまたは1,2,4−ベンゾトリアジニルがある。
【0097】
本発明に関連して「ハロ」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード、好ましくはフルオロを意味する。
【0098】
「アルコキシ」という用語は、−OR基[式中、Rはアルキル、アリールまたはシクロアルキルである。]を指し、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシまたはデシルオキシを含み得る。
【0099】
「任意に置換された」という用語は、1またはそれ以上の水素原子が、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ハロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールおよびヘテロアリール等のような水素とは異なる基で置換されていることを示す。任意選択の置換基は、それ自体が、ハロゲン、特にフルオロなどの置換基によって置換されていてもよい。
【0100】
「ヒドロキシ」という用語は、−OH基を指す。
【0101】
「ハロアルキル」という用語は、1またはそれ以上のハロゲンで置換されたアルキルまたはシクロアルキル基(例えばトリフルオロメチル)を指す。
【0102】
「ハロアルコキシ」という用語は、−OR基[式中、Rは、1またはそれ以上のハロゲンで置換されたアルキル、アリールまたはシクロアルキルである。]を指す。
【0103】
アミノという用語は、−NH基を指す。
【0104】
「アルキルアミノ」という用語は、−NR'R基[式中、Rは水素、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり、およびR'はアルキル、アリールまたはシクロアルキルである。]を指す。
【0105】
「アシルアミノ」という用語は、−NRC(O)R基[式中、各々のRは独立して水素、アルキル、アリールまたはヘテロアリールである。]を指す。
【0106】
「カルボニル」という用語は、C=O基[式中、炭素はアルキル鎖または環系の一部であってよい。]を指す。
【0107】
「置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する」という語句は、置換基Rを含み、かつキラル中心を有する、従って2つの立体化学的配置のいずれかで存在することができるリン原子が、主として1つの所望立体化学的配置、すなわちβ−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置で存在することを意味する。β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子に関して場合によっては、これは(R)立体配置または(S)立体配置のいずれかであり得る。好ましくは、対象とする基の50%以上が所望立体化学的配置を有し、好ましくは対象とする基の少なくとも75%が所望立体化学的配置を有し、より好ましくは対象とする基の少なくとも90%が所望立体化学的配置を有し、さらに一層好ましくは対象とする基の少なくとも95%が所望立体化学的配置を有し、最も好ましくは対象とする基の少なくとも99%が所望立体化学的配置を有する。
【0108】
「β−S−ARCAのD1ジアステレオマー」または「β−S−ARCA(D1)」は、β−S−ARCAのD2ジアステレオマー(β−S−ARCA(D2))と比較してHPLCカラムで最初に溶出し、従ってより短い保持時間を示すβ−S−ARCAのジアステレオマーである。HPLCは、好ましくは分析HPLCである。1つの実施形態では、好ましくは5μm、4.6×250mmの体裁の、Supelcosil LC−18−T RPカラムを分離のために使用し、それにより1.3ml/分の流量が適用できる。1つの実施形態では、酢酸アンモニウム中のメタノールの勾配、例えば15分以内で0.05M酢酸アンモニウム、pH=5.9中のメタノールの0〜25%直線勾配を使用する。UV検出(VWD)は260nmで実施でき、蛍光検出(FLD)は280nmでの励起および337nmでの検出で実施できる。
【0109】
発明者は、驚くべきことに、ホスホジエステル基ではなくホスホロチオエート基の一部である場合に、Dcp2による分解に対する感受性を低下させる、P原子、すなわち式(I)中のnが1である場合はPβ原子、式(I)中のnが2である場合はPγ原子、または式(I)中のnが3である場合はPδ原子における特定の立体化学的配置を示し、前記のP原子における特定の立体化学的配置が5'末端キャップ類似体β−S−ARCA(D1)のPβ原子における立体化学的配置に対応する、特定の5'末端キャップ構造、特にホスホロチオエート5'末端キャップ構造を含むように修飾されたRNAが、特に未熟抗原提示細胞、特に未熟樹状細胞において高い安定性を有し、従ってまた高い発現を示すことを見出した。
【0110】
本発明は、好ましくは免疫細胞における、より好ましくは未熟免疫細胞における、さらに一層好ましくは未熟抗原提示細胞における、最も好ましくは未熟樹状細胞におけるRNA、好ましくはmRNAの安定性を高めるための、前記RNAの修飾に関する。本発明において述べる修飾されたRNAは、RNAワクチン接種のために特に有用である。
【0111】
「5'末端キャップ構造で修飾されたRNA」は、5'末端キャップ構造が、キャップ構造のグアノシンがRNAの一部となり、キャップ構造の修飾されたグアノシンが5'−5'三リン酸結合または修飾された三リン酸結合を介してRNAに結合している、修飾されたRNAを生じさせるように結合しているRNAを意味する。従って、そのような修飾されたRNAは、例えば式m(7,2'−O)GpppGRNAを有し得る。
【0112】
本発明において使用される5'末端キャップ構造で修飾されたRNAは、以下の構造:
【化8】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、好ましくはRとRは一緒になって2',3'−イソプロピリデンを形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、好ましくはRはSであり、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから独立して選択され、より好ましくはRおよびRはOであり、
nは1、2または3であり、好ましくはnは1または2であり、より好ましくはnは1であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
を有する。
【0113】
本発明において使用される修飾されたRNAの5'末端キャップは、式(I)に示す以下の構造:
【化9】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、好ましくはRとRは一緒になって2',3'−イソプロピリデンを形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、好ましくはRはSであり、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから独立して選択され、より好ましくはRおよびRはOであり、
nは1、2または3であり、好ましくはnは1または2であり、より好ましくはnは1であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
を有する。
【0114】
「RおよびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択される」という語句は、置換基Rが、存在する各々の場合にO、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、従って同じであってもよくまたは異なってもよいことを意味する。例えば、nが2である場合、式(I)に示す構造は2個のR置換基を含み、これらの2個のR置換基の各々は、同じ式中の1番目のR置換基と2番目のR置換基が同じであってもよくまたは異なってもよいようにO、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択される。
【0115】
好ましくは、本発明で使用される修飾されたRNAの5'末端キャップは、修飾されたRNAを未熟抗原提示細胞に導入したとき、5'末端キャップ構造を有さない同じRNAと比較して、RNAの安定性を高める、RNAの翻訳効率を高める、RNAの翻訳を延長させる、RNAの総タンパク質発現を増大させる、および/または前記RNAによってコードされる抗原に対する免疫応答を増大させることができる。未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞であることが特に好ましい。当業者は、修飾されたRNAの5'末端キャップが上記機能を果たすことができるかどうかを、例えば、RNAの一方は式(I)による5'末端キャップを担持し、他方のRNA(標準RNA)は、(i)5'末端キャップを含まない、(ii)従来のmRNA 5'末端キャップ、すなわちメチル−7−グアノシンキャップを担持する、または(iii)式(I)による5'末端キャップの機能と比較すべき任意の他のキャップを担持する、5'末端キャップだけが異なる2個のRNAを、例えばインビトロ転写によって作製することにより、容易に判定し得る。例えば、標準RNAは、β−S−ARCAのD2ジアステレオマーに対応する5'末端キャップを担持し得る。本発明で使用される修飾されたRNAの5'末端キャップ構造は、修飾されたRNAを未熟抗原提示細胞に導入したとき、従来のmRNA 5'末端キャップを有する同じRNAと比較した場合、および/または同じ5'末端キャップ構造を有するが、置換基Rを担持するP原子における立体化学的配置が異なる、すなわち前記立体化学的配置がβ−S−ARCAのD2ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する同じRNAと比較した場合、好ましくはβ−S−ARCAのD2ジアステレオマーに対応する5'末端キャップを有する同じRNAと比較した場合、RNAの安定性を高める、RNAの翻訳効率を高める、RNAの翻訳を延長させる、RNAの総タンパク質発現を増大させる、および/または前記RNAによってコードされる抗原に対する免疫応答を増大させることができることが特に好ましい。
【0116】
好ましくは、Rは、本発明で使用される5'末端キャップが、前記5'末端キャップを担持するRNAの翻訳を阻害しないように選択される。特に、Rは、前記RNA、特に5'末端キャップが、好ましくはインビボおよびインビトロで、翻訳開始機構によって認識されるように、好ましくは5'末端キャップが真核生物翻訳開始機構によって認識されるように選択される。例えば、当業者は、RNAまたはRNA 5'末端キャップが真核生物翻訳開始機構によって認識されるかどうかを、前記RNAまたは前記RNA 5'末端キャップに対する真核生物翻訳開始因子eIF4Eの親和性を測定することによって判定し得る。
【0117】
好ましくは、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチルおよび任意に置換されたナフチルメチル、任意に置換されたC−Cアルケニル、例えばエテニル、プロペニルまたはブテニル、ならびに任意に置換されたアリールから成る群より選択される。好ましくは、RはC−Cアルキル、および任意に置換されたアリールよりなる群より選択される。さらに一層好ましくは、Rは、メチル、エチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチル、および任意に置換されたナフチルメチルから成る群より選択される。好ましくは、Rはメチルである。
【0118】
好ましくは、RおよびRの立体配置は、5'末端キャップが一方向でのみRNA鎖に組み込まれ得る配置である。Pasquinelliら(1995,RNA J.1:957−967)は、インビトロ転写においてバクテリオファージRNAポリメラーゼが転写の開始のために7−メチルグアノシン単位を利用し、それによりキャップを有する転写産物の約40〜50%が逆方向のキャップ−ジヌクレオチドを有する(すなわち初期反応産物はGpppmGpNである)ことを明らかにした。正しいキャップを有するRNAと比較して、逆方向のキャップを有するRNAは、コードされるタンパク質の翻訳に関して機能性ではない。従って、キャップを正しい方向に組み込む、すなわちmGpppGpN等に基本的に対応する構造を有するRNAを生じさせることが望ましい。キャップ−ジヌクレオチドの逆方向組込みは、メチル化グアノシン単位の2'−OH基または3'−OH基のいずれかの置換によって阻害されることが示されている(Stepinskiら,2001;RNA J.7:1486−1495;Pengら,2002;Org.Lett.24:161−164)。そのような「抗逆方向キャップ類似体」、すなわちARCAの存在下で合成されるRNAは、従来の5'末端キャップmGpppGの存在下でインビトロ転写されたRNAよりも効率的に翻訳される。さらに、Koreら(J.Am.Chem.Soc.2009 Apr 22.[印刷物に先駆けたオンライン出版])は、ロックト核酸(LNA)−修飾ジヌクレオチドmRNAキャップ類似体も、RNA鎖に逆方向で組み込まれないことを認めた(Koreら2009,J.Am.Chem.Soc.131:6364−6365)。
【0119】
従って、特に好ましい実施形態では、Rは、真核生物翻訳開始機構が本発明で使用される修飾されたRNAを認識することができるように選択され、Rおよび/またはRは、キャップがRNA鎖に逆方向で組み込まれることができないように選択される。
【0120】
好ましくは、RおよびRは、H、F、OH、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より独立して選択される。好ましくは、RおよびRの一方はOHであり、他方はOHではない。より好ましくは、RおよびRの少なくとも1つはOHではない。置換基RおよびRを含む環構造がリボースの立体化学的配置を有する場合、RおよびRの少なくとも1つはOHでないことが特に好ましい。好ましくは、OHではない残基は、H、ハロおよび任意に置換されたC−C10アルコキシから成る群より選択され、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より選択され、より好ましくはメトキシである。好ましい実施形態では、特に置換基RおよびRを含む環構造がリボースの立体化学的配置を有する場合、RはOHであり、およびRはメトキシであるか、またはRはメトキシであり、およびRはOHである。
【0121】
1つの実施形態では、置換基RおよびRを含む環構造の立体化学的配置がリボースの立体化学的配置に対応しない、例えばアラビノース、キシロースまたはリキソースの立体化学的配置に対応する場合、特に前記環構造の立体化学的配置がアラビノースの立体化学的配置に対応する場合は、RおよびRはどちらもOHであってよい。しかし、この実施形態において、RおよびRは上記で指定されたように選択されることも可能である。
【0122】
特に好ましい実施形態では、RはSである。好ましくは、RおよびRは、OおよびSから成る群より選択され、好ましくはOである。好ましくは、nは1または2であり、より好ましくはnは1である。
【0123】
式(I)による5'末端キャップ構造の好ましい実施形態を以下で説明する。以下で述べる構造、式および化合物はすべて、「式(I)による5'末端キャップ構造」という用語に包含されることが了解されるべきである。
【0124】
最も好ましい実施形態では、本発明で使用される5'末端キャップは、式(II)に従った以下の構造:
【化10】

を有するβ−S−ARCAのD1ジアステレオマーに対応する。
【0125】
これに関連して、「に対応する」は、5'末端キャップがβ−S−ARCAのD1ジアステレオマーと同一である、またはβ−S−ARCAのD1ジアステレオマーと基本的に同一であることを意味し、好ましい実施形態では本発明で使用されるRNAの5'末端キャップとβ−S−ARCAのD1ジアステレオマーとの間にわずかな相違しか存在し得ないことを意味する。例えば、7−メチルグアノシン単位の2'位の置換基はHまたはエトキシであってよく、および/または7−メチルグアノシン単位のN原子の置換基はエチルであってよく、および/または7−メチルグアノシン単位の2'位の置換基はOHであってよく、および7−メチルグアノシンの3'位の置換基はOHとは異なってよく、例えばHまたはメトキシ、好ましくはメトキシであってよい。
【0126】
以下では、本発明にいて使用されるRNAの特に好ましい実施形態を開示する:
【化11】

[式中、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチルまたは任意に置換されたナフチルメチル、任意に置換されたC−Cアルケニル、例えばエテニル、プロペニルまたはブテニル、ならびに任意に置換されたアリールから成る群より選択され、
は、H、OH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より選択され、好ましくはRはOHであるか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化12】

[式中、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチルまたは任意に置換されたナフチルメチル、任意に置換されたC−Cアルケニル、例えばエテニル、プロペニルまたはブテニル、ならびに任意に置換されたアリールから成る群より選択され、
は、H、OH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より選択され、好ましくはRはOHであり、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化13】

[式中、Rは、H、ハロおよび任意に置換されたC−C10アルコキシから成る群より選択され、好ましくはRは、H、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから選択され、好ましくはRはHまたはメトキシであり、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化14】

[式中、Rは、H、ハロおよび任意に置換されたC−C10アルコキシより成る群より選択され、好ましくはRは、H、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから選択され、好ましくはRはHもしくはメトキシであるか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化15】

[式中、Rは、H、OH、ハロおよび任意に置換されたC−C10アルコキシから成る群より選択され、好ましくはRは、H、OH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから選択され、好ましくはRはOHであるか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化16】

[式中、Rは、H、OH、ハロおよび任意に置換されたC−C10アルコキシから成る群より選択され、好ましくはRは、H、OH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから選択され、好ましくはRはOHであり、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから成る群より独立して選択され、最も好ましくはRおよびRはOであり、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化17】

[式中、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチルまたは任意に置換されたナフチルメチル、任意に置換されたC−Cアルケニル、例えばエテニル、プロペニルまたはブテニル、ならびに任意に置換されたアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、F、OH、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、好ましくはRとRは一緒になって2',3'−イソプロピリデンを形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、好ましくはRおよびRは、5'末端キャップが逆方向でRNAに組み込まれることができないように選択され、
β原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【化18】

[式中、Rは、任意に置換されたC−Cアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、任意に置換されたベンジル、任意に置換されたフェニルエチルまたは任意に置換されたナフチルメチル、任意に置換されたC−Cアルケニル、例えばエテニル、プロペニルまたはブテニル、ならびに任意に置換されたアリールから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、好ましくはRおよびRは、OおよびSから独立して選択され、より好ましくはRおよびRはOであり、
nは1、2または3であり、好ましくはnは1または2であり、より好ましくはnは1であり、そして
置換基としてSを担持するP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]。
【0127】
好ましくは、本発明で使用されるRNAの安定性および翻訳効率を、必要に応じてさらに改変し得る。例えば、安定化作用および/または翻訳効率を高める作用を有する1またはそれ以上の修飾によってRNAを安定化し、その翻訳効率を高め得る。そのような修飾は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開広報第WO2007/036366号に記載されている。
【0128】
例えば、マスクされていないポリA配列(マスクされていないポリA尾部)を有するRNAは、マスクされたポリA配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。「ポリA配列」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスクされていないポリA配列」は、RNA分子の3'末端のポリA配列がそのポリA配列のAで終了し、そのポリA配列の3'末端側、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらに、約120ヌクレオチドの長いポリA配列は最適の転写産物安定性および翻訳効率をもたらす。
【0129】
従って、本発明で使用されるRNA、好ましくはmRNAは、好ましくは、10〜500ヌクレオチドの長さを有する、好ましくは30〜300ヌクレオチドの長さを有する、より好ましくは65〜200ヌクレオチドの長さを有する、より好ましくは100〜150ヌクレオチド、例えば100、110、120、130、140または150ヌクレオチド、好ましくは120ヌクレオチドの長さを有するポリA尾部をさらに含む。好ましくは、前記ポリA配列はマスクされていないポリA配列である。従って、好ましくは、上記で特定した本発明で使用されるRNAは、10〜500ヌクレオチドの長さを有する、好ましくは30〜300ヌクレオチドの長さを有する、より好ましくは65〜200ヌクレオチドの長さを有する、より好ましくは100〜150ヌクレオチド、例えば100、110、120、130、140または150ヌクレオチド、好ましくは120ヌクレオチドの長さを有するマスクされていないポリA尾部を含む。
【0130】
加えて、RNA分子の3'非翻訳領域(UTR)への3'非翻訳領域の組込みは、翻訳効率の改善をもたらすことができる。そのような3'UTRの2またはそれ以上を組み込むことによって相乗作用を達成し得る。3'UTRは、それらが導入されるRNAに対して自家または異種であってよく、例えば、β−グロビンmRNAの3'UTRであり得る。従って、好ましくは、本発明で使用されるRNA、好ましくはmRNAは、β−グロビン遺伝子、好ましくはヒトβ−グロビン遺伝子の3'非翻訳領域(3'UTR)の1またはそれ以上のコピー、好ましくは2コピーをさらに含み得る。
【0131】
本発明で使用されるRNAは、上述した修飾の組合せ、すなわちポリA配列の組込み、ポリA配列の脱マスク化および1またはそれ以上の3'UTRの組込みの組合せによって修飾されていることが特に好ましい。
【0132】
特に好ましい実施形態では、本発明で使用されるRNAは、免疫原、抗原または抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードする。1つの実施形態では、前記ペプチドまたはタンパク質は、発現後に前記免疫原、抗原または抗原ペプチドを提供するようにプロセシングされる。別の実施形態では、ペプチドまたはタンパク質自体が免疫原、抗原または抗原ペプチドである。
【0133】
第1の態様では、本発明は、上述した構造を有するRNAを含有するワクチン組成物を提供する。好ましい実施形態では、前記ワクチン組成物は、1またはそれ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤をさらに含有する。前記ワクチン組成物は、個体において免疫反応を増強するおよび/または支持することができる化合物または物質をさらに含有し得る。例えば、本発明のワクチン組成物は、上述したアジュバントまたはサイトカイン、例えばインターロイキン12(IL−12)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)またはインターロイキン18(IL−18)をさらに含有し得る。さらに、本発明によるワクチン組成物は、RNアーゼ阻害剤などのRNA安定化物質、医薬的に許容される塩もしくは緩衝剤、塩化ベンザルコニウム、クロルブタノール、パラベンもしくはチメロサールなどの防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および/または付加的な薬剤もしくは活性物質をさらに含有し得る。特に好ましい実施形態では、RNAは、裸のRNAの形態で本発明によるワクチン組成物中に存在する。本発明のワクチン組成物は、非経口投与用に、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、リンパ内またはリンパ節内投与用に、最も好ましくはリンパ節内投与用に製剤されることが特に好ましい。本発明のワクチン組成物は、最も好ましくはリンパ節、好ましくは鼠径リンパ節への注射用に、リンパ管および/または脾臓への注射用に製剤される。好ましくは、ワクチン組成物は、受容者、すなわちワクチン接種される個体の血液と等張である水溶液または非水溶液の形態である。例えば、リンガー液、等張塩化ナトリウム溶液またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用し得る。特に、ワクチン組成物は、好ましくは滅菌であり、上記で特定したRNAを治療有効量で含有する。
【0134】
第2の態様では、本発明は、上記で特定したRNAを含む未熟抗原提示細胞を提供する。好ましい実施形態では、未熟抗原提示細胞は、未熟マクロファージ、未熟単球、未熟B細胞および未熟樹状細胞から成る群より選択され、好ましくは、未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞である。特に好ましい実施形態では、本発明による未熟抗原提示細胞は医薬組成物に製剤され、前記医薬組成物は、好ましくは、個体に投与された場合免疫応答を誘発するのに適しており、前記免疫応答は、好ましくは、本発明の未熟抗原提示細胞中に存在するRNAによってコードされるタンパク質もしくはペプチド、または本発明の未熟抗原提示細胞中に存在するRNAによってコードされるタンパク質もしくはペプチドに含まれる抗原および/もしくは免疫原を対象とする。従って、本発明は、本発明の2番目の態様に従った未熟抗原提示細胞を含有する医薬組成物を提供する。
【0135】
第3の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘発する方法であって、本発明のワクチン組成物または本発明の未熟抗原提示細胞を前記個体に投与するステップを含む方法を提供する。好ましくは、前記免疫応答は、本発明のワクチン組成物もしくは未熟抗原提示細胞に含まれるRNAによってコードされるタンパク質もしくはペプチドを特異的に対象とするか、または前記タンパク質もしくはペプチドに含まれる抗原を特異的に対象とする。前記免疫応答は治療的および/または防御的であり得る。前記ワクチン組成物および前記未熟抗原提示細胞、好ましくは未熟樹状細胞は、本発明の最初の態様について上記で特定したように非経口的に、好ましくはリンパ節内注射によって、好ましくは鼠径リンパ節への注射によって投与されることが特に好ましい。
【0136】
第4の態様では、本発明は、未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めるためおよび/または未熟抗原提示細胞におけるRNAの発現を増大させる方法であって、上記で特定した式(I)による5'末端キャップ構造を有する前記RNAを準備することを含む方法を提供する。好ましくは、前記未熟抗原提示細胞は、未熟単球、未熟マクロファージ、未熟グリア細胞、未熟B細胞および未熟樹状細胞から成る群より選択され、好ましくは、未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞である。未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を評価するため、当業者は、前記RNAの導入後一定の時点で、例えば本明細書中以下の実施例4で述べるようにリアルタイムRT−PCRを使用することにより、未熟抗原提示細胞内の検討されるRNAの存在を検出し得るまたはRNAの量を定量化し得る。未熟抗原提示細胞におけるRNAの発現は、ルシフェラーゼまたは緑色蛍光タンパク質などのマーカータンパク質、好ましくはd2EGFPをコードするRNAを使用して測定し得るが、当業者に公知の任意の他のマーカータンパク質であってもよく、本明細書中以下の実施例3で述べるようにRNAの導入後一定の時点で前記マーカータンパク質の発現を測定し得る。
【0137】
第5の態様では、本発明は、抗原提示細胞の表面に対象とする抗原を提示するMHC分子の割合を増大させる方法であって、前記の対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、上記で特定した式(I)による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、および前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備することを含む方法を提供する。いかなる理論にも拘束されるものではないが、式(I)によるキャップ構造でRNAを修飾することは、特に未熟抗原提示細胞内、例えば未熟樹状細胞内での前記RNAの安定性を高めると推測される。この安定性上昇は、前記RNAの発現上昇、従って前記RNAによってコードされるタンパク質またはペプチドの蓄積を導く。前記タンパク質またはペプチドは、抗原または抗原ペプチドを含み得る。従って、前記タンパク質のプロセシング後に、抗原または抗原ペプチドは抗原提示細胞の表面上でMHC分子に負荷され得る。あるいは、前記タンパク質またはペプチドは、それ自体が抗原または抗原ペプチドであってもよく、プロセシングなしでMHC分子に負荷され得る。式(I)による5'末端キャップ構造で修飾された、抗原または抗原ペプチドを含む特定のタンパク質またはペプチドをコードするRNAは、従来の5'末端キャップを有する同じRNAと比較した場合、好ましくはARCA 5'末端キャップを有する同じRNAと比較した場合、より好ましくは、置換基Rを有するP原子における立体化学的配置が異β−S−ARCA(D2)のPβ原子における立体化学的配置に対応することを除き、同じ5'末端キャップ構造を有する同じRNAと比較した場合、前記RNAによってコードされるタンパク質またはペプチドに由来するペプチドを提示する抗原提示細胞の細胞表面上のMHC分子の割合/画分を増大させると推測される。抗原提示細胞の表面に特定の抗原を提示するMHC分子の密度は、前記特定抗原に特異的な誘導される免疫応答の強さを決定するので、抗原提示細胞に導入された、抗原をコードするRNAの安定性を高めることは前記特定抗原に対する免疫応答の増大を導くと推測される。
【0138】
第6の態様では、本発明は、免疫エフェクター細胞を刺激するおよび/または活性化するための方法であって、対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、および抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させることを含む方法を提供する。好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、抗原特異的に活性化されるおよび/または刺激される。好ましくは、この方法により、抗原特異的エフェクター細胞、好ましくはT細胞の量が増大する。好ましくは、未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞である。好ましい実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、好ましくはCD4および/またはCD8細胞である。1つの実施形態では、前記RNAを未熟抗原提示細胞に導入する段階は、上述したリポフェクション、電気穿孔法またはマイクロインジェクションなどの当業者に公知の任意の核酸導入法、例えばトランスフェクション法によってインビトロで実施される。別の実施形態では、前記RNAを未熟抗原提示細胞に導入する段階は、例えば、RNAを個体に投与することによって、好ましくは非経口投与によって、好ましくはリンパ内投与によって、好ましくはリンパ節への注射、すなわちリンパ節内注射によって、リンパ管への注射によって、または脾臓への注射によってインビボで実施される。好ましくは、前記投与は、好ましくはリンパ節内で未熟樹状細胞によって取り込まれるRNAのリンパ節内注射による。投与されるRNAは、好ましくは裸のRNAの形態である。1つの実施形態では、抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させる段階は、インビトロで、例えば組織培養皿において実施される。別の実施形態では、抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させる段階はインビボで実施される。この実施形態では、RNAを未熟抗原提示細胞に導入する段階は、上述したようにインビトロまたはインビボで実施され得る。RNAがインビトロで導入された抗原提示細胞をインビボで免疫エフェクター細胞と接触させるために、抗原提示細胞を、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、リンパ内または腹腔内注射によって、好ましくはリンパ管、脾臓および/またはリンパ節、好ましくは鼠径リンパ節への注射などのリンパ系への注射によって、個体に投与する。本発明の6番目の態様の実施形態では、前記方法は、RNAを未熟抗原提示細胞に導入した後および抗原提示細胞を免疫エフェクター細胞と接触させる前に、未熟抗原提示細胞を成熟抗原提示細胞に分化させる段階をさらに含み得る。分化段階はインビトロまたはインビボで実施され得る。例えば、RNAを未熟抗原提示細胞に、好ましくは未熟樹状細胞に導入し、未熟抗原提示細胞をインビトロで分化させ、分化した成熟抗原提示細胞、好ましくは成熟樹状細胞を、上述したようにインビトロまたはインビボで、好ましくはインビボで免疫エフェクター細胞と接触させる。RNAがインビトロで導入される未熟抗原提示細胞は、個体、例えば免疫される患者から単離し得るか、または造血幹細胞から分化させ得る。
【0139】
免疫エフェクター細胞、特にT細胞の刺激および/または活性化は、典型的には免疫エフェクター細胞の増殖、細胞傷害反応性および/またはサイトカイン分泌に関連する。従って、当業者は、免疫エフェクター細胞が刺激されるおよび/または活性化されるかどうかを、典型的にはT細胞を使用して実施される、簡単なインビトロ試験によって判定し得る。そのようなT細胞は、T細胞ハイブリドーマなどの形質転換されたT細胞株またはげっ歯動物、例えばマウスもしくはラットなどの哺乳動物から単離されたT細胞によって提供され得る。適切なT細胞ハイブリドーマは、市販されているかまたは公知の方法によって作製され得る。T細胞は公知の方法によって哺乳動物から単離され得る(Shimonkevitzら,1983,J.Exp.Med.158:303−316参照)。T細胞の活性化および/または刺激に関して試験するための適切な実験設定を以下の段階(1)〜(4)で述べる。T細胞は、試験し得るおよびT細胞の活性化またはT細胞活性の調節を指示する適切なマーカーを発現する。マウスT細胞ハイブリドーマDO11.10は活性化後にインターロイキン2(IL−2)を発現するので、前記ハイブリドーマをこの目的に使用し得る。T細胞の活性化/刺激を確認するためまたは組成物が前記T細胞ハイブリドーマの活性を調節することができるかどうかを判定するためにIL−2濃度を測定し得る。この試験は以下の段階によって実施される:(1)T細胞ハイブリドーマからまたは哺乳動物からの単離によってT細胞を提供する、(2)増殖を可能にする条件下でT細胞を培養する、(3)増殖中のT細胞を、抗原またはそれをコードする核酸と接触させておいた抗原提示細胞と接触させる、および(4)T細胞をマーカーに関して試験する、例えばIL−2産生を測定する。試験に使用される細胞は、増殖を可能にする条件下で培養する。例えば、DO11.10 T細胞ハイブリドーマを完全培地(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミンおよび5×10−5M 2−メルカプトエタノールを添加したRPMI 1640)において37℃および5%COで適切に培養する。T細胞活性化シグナルは、適切な抗原性ペプチドを負荷された抗原提示細胞によって提供される。
【0140】
あるいは、T細胞活性の調節を、抗原特異的T細胞の変化または増殖を測定することによって確認してもよく、これは、例えば公知の放射性標識法によって測定し得る。例えば、標識ヌクレオチドを試験培地に添加し得る。そのような標識ヌクレオチドのDNAへの組込みは、T細胞増殖に関する指標としての役割を果たし得る。この試験は、T細胞ハイブリドーマのようなその増殖のために抗原提示を必要としないT細胞には適用されない。この試験は、哺乳動物から単離された非形質転換T細胞の場合にT細胞活性の調節を測定するために有用である。
【0141】
第7の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘導する方法であって、対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、および前記RNAを前記個体に投与することを含む方法を提供する。対象とする抗原は任意の抗原であってよく、好ましくは上記で定義したとおりである。好ましい実施形態では、前記RNAは、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、リンパ内または腹腔内注射によって、好ましくはリンパ管、脾臓および/またはリンパ節、好ましくは鼠径リンパ節への注射などのリンパ系への注射によって、裸のRNAの形態で投与される。好ましくは、投与されたRNAは個体の未熟樹状細胞によって取り込まれる。好ましくは、免疫応答は防御的および/または治療的であり、例えば、癌性疾患または感染症などの疾患を治療するおよび/または予防するために有用である。
【0142】
第8の態様では、本発明は、個体において免疫応答を誘導する方法であって、対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、および抗原提示細胞を前記個体に投与することを含む方法を提供する。本発明のこの態様では、RNAを、上述した当業者に公知の任意の核酸導入法、例えばリポフェクション、電気穿孔法またはマイクロインジェクションなどのトランスフェクションによってインビトロで未熟抗原提示細胞に導入する。好ましくは、未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞である。RNAがインビトロで導入される未熟抗原提示細胞は、個体、例えば免疫される患者から単離し得るか、または造血幹細胞から分化させ得、造血幹細胞は患者から単離し得る。未熟抗原提示細胞または造血幹細胞は白血球搬出法によって個体から単離し得る。好ましくは、未熟抗原提示細胞は未熟樹状細胞である。好ましくは、未熟抗原提示細胞を免疫される個体から単離し、RNAを前記単離細胞に導入して、その細胞を、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、リンパ内または腹腔内注射によって、好ましくはリンパ管、脾臓および/またはリンパ節、好ましくは鼠径リンパ節への注射などのリンパ系への注射によって前記個体に戻す。
【0143】
標的疾患に対するワクチン接種への適合性を含む、免疫反応を誘導する能力は、インビボ試験によって容易に判定され得る。例えば、組成物、例えばワクチン組成物または医薬組成物を実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ等のような哺乳動物に投与し、組成物の投与の前および組成物の投与後定められた時点で、例えば投与の1、2、3、4、5、6、7および8週間後に前記動物から血液試料を採取し得る。血液試料から血清を調製し、投与/免疫後に生じた抗体の発現を測定し得る。例えば、抗体の濃度を測定し得る。さらに、T細胞を哺乳動物の血液および/またはリンパ系から単離し、それを、免疫のために使用された抗原に対する反応性に関して試験し得る。当業者に公知の任意の読み取りシステムを使用してよく、例えば増殖アッセイ、サイトカイン分泌アッセイ、細胞傷害活性を試験するアッセイまたはテトラマー解析等を使用し得る。さらに、免疫反応性の増大も、抗原特異的T細胞の数、それらの潜在的細胞傷害能または上記で述べたようなそれらのサイトカイン分泌パターンを測定することによって判定し得る。
【0144】
さらに、本発明は、医学適用における使用のための、好ましくは個体において免疫応答を誘導するための、例えば個体のワクチン接種のための、例えば前記個体において癌性疾患もしくは感染症を予防するためまたは癌性疾患もしくは感染症に罹患している個体を治療するための、本明細書で述べるRNA、本発明の最初の態様に従ったワクチン組成物、本発明の2番目の態様に従った未熟抗原提示細胞および前記細胞を含有する医薬組成物を提供する。
【0145】
本発明の方法、特に免疫エフェクター細胞を活性化および/または刺激し、個体において免疫応答を誘導するための方法ならびに前記方法における使用のためのワクチン組成物、未熟抗原提示細胞およびRNAは、RNAに基づく免疫後に抗原特異的Tリンパ球の頻度の定量的増大を可能にする。この効率の上昇は、より良好な臨床効率またはワクチン用量の低減に関して患者の免疫療法のために利用され得る。さらに、本発明は、かろうじて存在する前駆T細胞から抗原特異的T細胞を大幅に増幅する機会を提供する。さらに、本発明を適用した効率の上昇にはコスト削減が付随する。
【0146】
本発明を以下の図面および実施例によって詳細に説明するが、これらは説明のみを目的とし、限定を意図されない。説明および実施例により、同様に本発明に含まれるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能となる。
【実施例】
【0147】
実施例1:ヒト単球由来樹状細胞の作成。
【0148】
細胞培養フラスコ(150cm、Falcon Nr 355001)、1000U/mlヒト顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF、Essex,Luzern,Switzerland)および1000U/ml IL−4(ヒトインターロイキン4、Strathmann Biotech,Hamburg,Germany)を添加したDC培地(2mMグルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、1mMピルビン酸ナトリウム、可欠アミノ酸および10%熱不活性化ヒトAB血清を含むRPMI 1640;すべてInvitrogen,Karlsruhe,Germany)、DPBS/EDTA(Invitrogen,Karlsruhe,GermanyからのDPBS、およびEDTA 2ml;Sigma−Aldrich,Taufkirchen,Germany)、15mlおよび50ml反応管、使い捨てピペット、ピペットチップ、FACSチューブ、冷却遠心機(4℃)、氷を準備する。
【0149】
手順:
【0150】
0日目:
CD14陽性細胞を、ビーズ結合した抗C14抗体(Miltenyi Biotec)を製造者の指示に従って使用して選択し、通過した溶出液の試料および末梢血単核細胞(PBMC)画分をその後のFACS分析のために保持した(実施例2参照)。溶出後に細胞を計数し、4℃で遠心分離(15分間、340rcf)を実施した。細胞を約1×10細胞/ml(最大5×10細胞/フラスコ)の密度でDC培地に再懸濁した。1000U/ml IL−4および1000U/ml GM−CSF(上述したような)を培養液に添加した。
【0151】
2(場合により3)日目:
培養液の3分の1を取り出し、4℃で遠心分離した(15分間、340rcf)。2000U/ml IL−4および2000U/ml GM−CSFを含む同じ容量の培養液を添加した。
【0152】
5(場合により4)日目:
培養液の3分の1を取り出し、4℃で遠心分離した(15分間、340rcf)。2000U/ml IL−4および2000U/ml GM−CSFを含む同じ容量の培養液を添加した。
【0153】
7日目:
繰り返しピペットを上下して取ることによって組織培養フラスコの底部から細胞を取り出した。培養液全体を取り出し、フラスコを冷PBS/EDTA 約30mlで洗浄した。遠心分離によって細胞を採取し、冷DC培地10mlに再懸濁した。細胞を氷上に置き、計数した。細胞の試料をその後のFACS分析のために保持した。細胞の密度をDC培地で1.0×10/40mlに調整し、フラスコにつきDC培地40mlを添加した。以下のサイトカインを培養液に添加した:
500U/ml IL−4
800U/ml GM−CSF
10ng/ml IL−1B
10ng/ml TNF−α
1000U/ml IL−6
1μg/ml PGE2
【0154】
9(場合により10)日目:
静かに洗い流すことによって組織培養フラスコから細胞を取り出した。細胞を計数し、試料をその後のFACS分析のために保持した(実施例2参照)。細胞を遠心分離し、必要に応じて細胞数を調整した。
【0155】
実施例2:FACS染色。
【0156】
約2x10細胞を各々の染色のためにFACSチューブに取った。FACS緩衝液(5mM EDTA、Sigma−Aldrich,Taufkirchen,Germanyおよび5%FCS、Invitrogen,Karlsruhe,Germanyを含む、DPBS、Invitrogen,Karlsruhe,Germany)で容量を100μlに調整した。α−CDx−FITC 5μlおよび場合によりα−CDy−PE 5μlをFACSチューブに添加した。チューブを暗所にて4℃で30〜40分間インキュベートした後、FACS緩衝液4mlを添加し、試料を遠心分離した。上清を吸引して除去し、細胞ペレットおよび細胞をFACS緩衝液400μlに再懸濁して、4℃で保存した。
【0157】
α−CD14−FITC(BD Biosciences)およびα−CD3−PE(BD Biosciences)を使用してPBMCを染色した。別途の染色では、α−CD19−PE(BD Biosciences)を用いてPBMCを染色した。7日目と9日目に染色を実施した。染色を実施するまで細胞試料を氷上で保存した。
【0158】
実施例3:5'末端に特定のホスホロチオエートキャップ類似体を有するRNAは未熟樹状細胞においてタンパク質発現の増強と延長を生じさせる。
【0159】
ルシフェラーゼをコードするRNAを、鋳型となる最適化したベクター(国際公開広報第WO2007/036366号;Holtkampら,2006,Blood 108:4009−4017)を用いてインビトロで転写した。線状化ベクターDNAを分光光度的に定量し、基本的にPokrovskayaとGurevich(Pokrovskava & Gurevich,1994,Anal.Biochem.220:420−423)により記載されたようにインビトロ転写に供した。キャップジヌクレオチドの1つ、mGpppG(Darzynkiewiczら,1988,Nucleic Acids Res.16:8953−8962)、mGppppmG、m(7,3'−O)GpppG(以下ではARCAと称する)(Stepinskiら,1995,Nucleosides Nucleotides 14:717−721,Stepinskiら,2001,RNA 7:1486−1495)、m(7,2'−O)GppspG(D1)(本発明ではβ−S−ARCA(D1)と命名する)またはm(7,2'−O)GppspG(D2)(本発明ではβ−S−ARCA(D2)と命名する)(Kowalskaら,2008,RNA 14:1119−1131)を転写反応に添加して、対応して修飾された5'末端キャップ構造を有するRNAを得た(図1も参照のこと)。キャップ類似体を含む反応では、GTPは1.5mMで存在し、一方キャップ類似体は6.0mMで存在した。キャップ類似体を含まない反応では、GTPは7.5mMで存在した。転写反応の最後に、線状化ベクターDNAを0.1U/μl TURBO DNアーゼ(Ambion,Austin/TX,USA)で37℃にて15分間消化した。RNAを、MEGAclear Kit(Ambion,Austin/TX,USA)を用いて製造者のプロトコールに従ってこれらの反応物から精製した。所望する場合は、キャップ類似体の不在下で転写したRNAに、その後、転写後キャッピング(m7GpppG(p.−t.))のためにワクシニアウイルスのキャッピング酵素(Epicentre,Madison/WI,USA)を製造者の指示に従って用いてm7GpppGキャップを提供し、MEGAclear Kit(Ambion,Austin/TX,USA)を製造者のプロトコールに従って使用して前記RNAをもう一度精製した。上述したように作製したRNAを、電気穿孔法(Gene Pulser II、Bio−Rad,Munchen,Germanyを使用して300Vおよび150μFで)を用いてヒト未熟および成熟樹状細胞に導入し、レポータータンパク質ルシフェラーゼの発現を72時間の経過の間に測定した。このために、2、4、8、24、48および72時間後にルシフェラーゼ活性(タンパク質の量に比例する;図2)を測定することによってルシフェラーゼタンパク質の量を測定した。コードされるタンパク質の発現分析により、RNAの翻訳効率(曲線の最大勾配に対応する)および機能的RNAの安定性(曲線の最大値の時点によって示される)を判定することが可能である。さらに、曲線の積分は、観察した時間範囲にわたる全体的タンパク質発現の強度に対応する。
【0160】
未熟樹状細胞における最も高い総タンパク質発現は、β−S−ARCA(D1)の存在下で転写されたRNAに関して認められた(図2A;左側のパネル)。HC11細胞ならびにインビトロ翻訳系の両方において5'末端にβ−S−ARCA(D2)を有するRNAが最も強力な総発現を生じさせたので(「背景技術」参照)、この結果は予想外であった。5'末端にβ−S−ARCA(D2)を有するRNAは未熟樹状細胞において2番目に良好な総発現を生じさせただけであり、5'末端にARCAを有するRNAおよび転写後修飾されたRNAがそれに続く。
【0161】
GpppGがインビトロ転写の間に逆方向に組み込まれ得る(従って、5'末端キャップを含むRNAの約半数が翻訳に関して機能性である)という事実と一致して、mGpppGを使用して転写されたRNAの発現は明らかにその他のRNAより低い。翻訳効率および機能性RNAの安定性への複合作用により、β−S−ARCA(D1)は、mGpppGの存在下で合成されたRNAと比較して13倍以上高い総タンパク質発現を生じさせる。5'末端にARCAを有するRNAまたは転写後修飾されたRNAと比較して、β−S−ARCA(D1)を有するRNAからの発現は約3の倍数で上昇する。β−S−ARCA(D1)RNAからの総タンパク質発現は、β−S−ARCA(D2)RNAからの総タンパク質発現と比較して約2倍高い(表1)。
【0162】
GpppGを有するRNAと比較して、ARCAを有するRNAの翻訳効率は約2.5倍高く、β−S−ARCA(D1)を有するRNAは約3.4倍、β−S−ARCA(D2)を有するRNAは約3.5倍、そして転写後修飾されたRNAは約4.1倍高い(表1)。
【0163】
翻訳効率への作用に加えて、様々なキャップ構造はまた、未熟樹状細胞における機能性RNAの安定性にも影響を及ぼす。mGpppGの存在下で転写されたRNAのタンパク質発現は、電気穿孔の約8時間後にその最大値を示す(表1)。これに対し、ARCAまたはβ−S−ARCA(D2)を有するRNAの発現の最大値は12時間後であり、β−S−ARCA(D1)は機能性RNAの安定性をさらに一層上昇させ、15時間以上後に最大値を示す。
【0164】
表1.5'−RNAキャップ構造が翻訳効率に及ぼす影響(図2Aの曲線の最大勾配によって示す)。最大タンパク質発現の時点および実験の時間経過全体を通しての総タンパク質発現。各々の細胞型(未熟および成熟樹状細胞[それぞれiDCおよびmDC])に関して、mGpppGの存在下で転写されたRNAで電気穿孔した細胞についての翻訳効率および総シグナルを1に設定した。平均±標準偏差で示す。
【0165】
【表1】

【0166】
興味深いことに、本発明者らは未熟樹状細胞において、以前にインビトロ翻訳系における発現の上昇を生じさせたmGppppmGキャップを有するRNA(Grudzienら,2004,RNA J.10:1479−1487)が、mGpppGの存在下で転写されたRNAよりもさらに一層低い未熟樹状細胞における発現を生じさせることを認めた。対照として適用した、キャップを含まないまたは翻訳機構によって認識されないキャップ(ApppGおよびGpppG)を有するRNAは、有意の発現を生じさせない。
【0167】
成熟樹状細胞では、様々な5'RNA構造の作用が未熟樹状細胞における場合と異なる。第一に、機能性RNAの安定性が未熟樹状細胞におけるよりも一般に高く、RNAの5'末端の種類にはごくわずかしか依存しないことが注目される。第二に、総タンパク質発現に関する順序が未熟樹状細胞におけるものとは異なる:β−S−ARCA(D2)を有するRNAが成熟樹状細胞において最も高いタンパク質発現を生じさせ、β−S−ARCA(D1)を有するRNA、転写後修飾されたRNA、そして次に5'末端にARCAを有するRNAが続く。さらに、成熟樹状細胞における発現レベルの差は未熟樹状細胞におけるほど著明ではない。これは、成熟樹状細胞における機能性RNAの安定性へのキャップ構造の影響がより少ないことと合致する。mGppppmGを有するRNAも、成熟樹状細胞ではほとんど翻訳されない。これらのデータは、このキャップが、インビトロでのデータに反してインビボでは翻訳機構をごくわずかしか動員できないという仮説を裏付ける。キャップを含まないまたはそれぞれApppGおよびGpppGを有する対照RNAは、予想されたようにタンパク質発現を生じさせない。
【0168】
観察されたRNAキャップ構造の作用がRNAによってコードされるタンパク質と無関係であることを確認するため、インビトロ転写に関して上述したのと同じ最適化ベクターを使用して緑色蛍光タンパク質(d2eGFPと称する)をコードするRNAに関して実験を反復した。未熟および成熟樹状細胞へのRNAの導入後種々の時点で、フローサイトメトリーを用いてd2eGFPの量を測定し、得られた結果はルシフェラーゼをコードするRNAに関するものと非常に類似していた(図2AおよびB参照)。β−S−ARCA(D1)を有するRNAは、やはり未熟樹状細胞において最も高い総タンパク質発現を生じさせた(図2B;左側のパネル)。ルシフェラーゼをコードするRNAに関して認められたように、この作用は未熟樹状細胞に特異的である。これは、未熟樹状細胞における総タンパク質発現についての、他のすべてのキャップ類似体に対するおよび翻訳後修飾に対するβ−S−ARCA(D1)の優位性を確認する。成熟樹状細胞では、β−S−ARCA(D2)を有するRNAが最も高い総タンパク質発現を生じさせ、β−S−ARCA(D1)、翻訳後修飾されたRNA、次にARCAを有するRNAが続く。要約すると、これらのデータは、RNAの5'末端のキャップ構造は、未熟樹状細胞および成熟樹状細胞において機能性RNAの安定性および翻訳効率に差別的な影響を及ぼすことを示す。特に、未熟樹状細胞におけるβ−S−ARCA(D1)の作用はユニークであり、以前には認められていない。
【0169】
実施例4:未熟樹状細胞における5'末端にβ−S−ARCA(D1)を有するRNAの選択的翻訳。
【0170】
ここまでに述べた結果は、樹状細胞においてmRNAの翻訳効率がその5'末端のキャップ構造の種類によって影響されることを指示する。これは、翻訳機構が種々の5'末端キャップ構造に動員される効率の差に起因する可能性が最も高い。これを裏付けるため、本発明者らは次に、(i)未熟樹状細胞への電気穿孔のために使用されるRNAの量の作用、および(ii)未熟樹状細胞に同時電気穿孔される2番目のRNAのタンパク質発現への影響を分析した。電気穿孔されるmRNAの量を増加させることにより、ある時点で1またはそれ以上の翻訳因子が細胞において律速となり、次に外因性RNAから合成され得るタンパク質の量を制限する。同様に、2番目のRNAは翻訳機構に関して競合し、やはり翻訳効率に影響を及ぼす。
【0171】
ARCAまたはβ−S−ARCA(D1)のいずれかで共転写的にキャップされた、ルシフェラーゼをコードするRNAの漸増量(20pmolおよび40pmol)を未熟樹状細胞に電気穿孔し、2、4、8、24、48および72時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。興味深いことに、ARCAでキャップしたRNA 40pmolを使用して測定したルシフェラーゼ活性は、電気穿孔の24時間後にARCAでキャップしたRNA 20pmolで得られたシグナルと比較して低かった(図3A)。この時点で、ルシフェラーゼタンパク質の活性は、半量のRNAを使用した場合よりも約1.6倍高いだけであった。この比率は、電気穿孔の48および72時間後にはさらに一層低下した(それぞれ1.4倍および1.2倍)。これに対し、β−S−ARCA(D1)でキャップしたRNAに関しては、ルシフェラーゼタンパク質のレベルは、一般に実験の経過全体にわたって電気穿孔のために使用したRNAの量に比例し、すなわちRNA 40pmolの電気穿孔後に得られたシグナルは、各々の時点について、RNA 20pmolを使用した場合のシグナルよりも約2倍高かった。
【0172】
同様に、同じ量のd2eGFPをコードするRNA(ARCAまたはβ−S−ARCA(D1)のいずれかでキャップした)の未熟樹状細胞への同時電気穿孔は、ルシフェラーゼをコードするRNAだけで電気穿孔した対照と比較して、24、48および72時間後にARCAでキャップしたルシフェラーゼをコードするRNAの発現を低下させたが、β−S−ARCA(D1)でキャップしたルシフェラーゼをコードするRNAの発現は低下させなかった(図3B)。合わせて考慮すると、これは、未熟樹状細胞においてACRAでキャップしたRNAは、RNAレベルが1またはそれ以上の制限翻訳因子のアベイラビリティーによって設定される可能性が高い一定の閾値を越えて上昇した場合、明らかに、翻訳機構に関してβ−S−ARCA(D1)でキャップしたRNAほど効率的に内因性RNAと競合できないことを指示する。従って、5'末端におけるβ−S−ARCA(D1)の組込みは、内因性RNAまたは別の外因性RNAと競合した場合選択的に翻訳されるRNAを与える。
【0173】
実施例5:未熟樹状細胞におけるホスホロチオエートキャップ類似体によるRNAの安定化。
【0174】
図2に示すデータは、5'末端キャップの種類が、翻訳効率のみならず樹状細胞における機能性mRNAの安定性にも影響を及ぼすことを指示する。これを実証するため、本発明者らは、樹状細胞において様々な5'末端キャップ構造を有するRNAの絶対的RNA安定性を測定した。絶対的安定性はRNAの半減期によって示される。
【0175】
ヒト未熟および成熟樹状細胞を、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して共転写的にまたは転写後にキャップ類似体を提供した、d2eGFPをコードするRNAで電気穿孔した。2、4、8、24、48および72時間後に細胞の一部を採取し、d2eGFPをコードするRNAの量を、リアルタイムRT−PCRを用いて内因性RNA(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼをコードするRNA)と比較して測定した(図4)。測定した値を使用してRNAの半減期を計算した(表2)。電気穿孔およびタンパク質発現についての対照として、フローサイトメトリー定量化を用いて24時間後にd2eGFPの量を測定し、上述した実験と同じ順序で測定した。
【0176】
表2.未熟樹状細胞(iDC)および成熟樹状細胞(mDC)における種々のキャップ構造を有するRNAの安定性。平均±標準偏差。
【0177】
【表2】

【0178】
興味深いことに、8時間後に既にほぼ完全に分解されていたキャップを含まないRNAを除き、未熟樹状細胞におけるすべてのRNAに関してRNAの二相分解動態を認めた(図4Aおよび表2)。電気穿孔後最初の8時間以内に、実験終了までのその後の分解期と比較してRNAはより速やかに分解された。
【0179】
5'末端にβ−S−ARCA(D1)を有するRNAは、初期分解期ならびに後期分解期(それぞれ約8時間および27時間の半減期;図4Aおよび表2)の両方で未熟樹状細胞において最も安定なRNAである。インビトロ試験ではβ−S−ARCA(D2)がデキャッピング酵素Dcp2による分解に対して最良の保護を示したので、これは予想外である。キャップを有するRNAの大部分は、それぞれ初期分解期には5〜7時間の範囲の半減期、後期分解期には15〜18時間の半減期を示した。これは、実際にβ−S−ARCA(D1)が、特に後期分解期に、RNAの安定化に明らかな作用を及ぼすことを意味する。その他の5'RNA構造の大部分は、しかし、絶対的RNA安定性にはわずかな作用しか示さなかった。例外はmGppppGmGである。5'末端にこのキャップを有するRNAは最も不安定なRNAであり、電気穿孔後最初の8時間には2時間半未満の半減期である。電気穿孔の8時間後にまだ細胞中に存在するmGppppGmG RNAは、興味深いことに、約20時間の半減期を有するその他のRNAと同程度に安定である。
【0180】
未熟樹状細胞と異なり、成熟樹状細胞におけるRNA分解は、検討した時間経過全体を通して均一な動態に従う(図4Bおよび表2)。未熟樹状細胞における初期分解動態と比較して、成熟樹状細胞ではRNAは明らかにより安定であり、未熟樹状細胞での後期分解期における半減期と同等の半減期を示した。未熟樹状細胞において既に認められたように、キャップを有するすべてのRNAが13〜15時間の類似の半減期を有している(12時間未満の半減期を示した、5'末端にmGppppGmGを有するRNAを除く)ので、絶対的安定性はキャップ構造にごくわずかしか依存しない。キャップを欠くRNAでさえも、成熟樹状細胞ではかなり安定であり、10時間以上の半減期を有する。RNAの同等の半減期は、成熟樹状細胞における同等の機能性RNAの安定性と一致する(表1参照)。
【0181】
要約すると、この実験は、成熟樹状細胞における様々な5'末端キャップ構造を有するRNAのタンパク質発現の強度および期間についての決定的な因子は翻訳効率であることを示す。
【0182】
実施例6:マウスのリンパ節への注射後の、5'末端にβ−S−ARCA(D1)を有するRNAの発現上昇。
【0183】
最近、本発明者らは、リンパ節へのRNAの注射(リンパ節内注射)が、コードされる抗原に対する免疫応答を得るために最も有望なアプローチであることを示すことができた(独国特許第DE 10 2008 061 522.6号)。このようにして投与されたRNAは、主として未熟樹状細胞によって取り込まれる。そこで、本発明者らは、他のキャップ構造を有するRNAと比較して(本発明者らが以前の試験で適用したARCAに関して例示的に分析した)、β−S−ARCA(D1)RNAに関してより強力なタンパク質発現がリンパ節においても認められるかどうかを検討した。
【0184】
ARCAまたはβ−S−ARCA(D1)のいずれかの存在下で転写された、ルシフェラーゼをコードするRNA(上述したような)をマウスの鼠径リンパ節に注射した。リンパ節の細胞によるRNAに取込みおよびコードされるルシフェラーゼの翻訳後、インビボイメージングを用いてルシフェラーゼ活性を測定することにより、タンパク質発現を定量した。D−ルシフェリン(Promega,Mannheim,Germany;150mg/kg体重)の水溶液をマウスに腹腔内投与した。動物をイソフルランで麻酔し、IVIS Luminaイメージングシステム(Xenogen,Russelsheim,Germany)の光密室に入れた。ルシフェリン注射の25分後に、放出された光子を1分の積分時間について定量した。マウスのグレースケール画像を標準として使用し、Living Imageソフトウエア(Xenogen)を使用することによってその上に生物発光シグナルを、拡大縮小した擬似カラー画像として重ね合わせた(黒色=最小強度;白色=最大強度)。生物発光を定量するため、関心領域(ROI)を描画し、ROI内の全光束(光子/秒、p/s)を測定した。動物上の非シグナル放出領域からのバックグラウンド生物発光を、各々の動物についてそれぞれの生物発光値から差し引いた。
【0185】
単離された未熟樹状細胞における結果と一致して、5'末端にβ−S−ARCA(D1)を有するRNAのタンパク質発現は、各々の時点(RNAのリンパ節内適用の2、4、8、24、48および72時間後)で5'末端にARCAを有するRNAよりも高かった(図5)。時間経過全体を通して、発現(曲線の積分によって示す)は約8倍上昇した。従って、本発明者らは、β−S−ARCA(D1)により、リンパ節内、従って主としてその中に存在する未熟樹状細胞におけるタンパク質発現が強度および期間において増強されることを初めて示すことができた。
【0186】
実施例7:5'末端にβ−S−ARCA(D1)を有するRNAを使用したワクチン接種後の新たなT細胞プライミングの上昇。
【0187】
アミノ末端リーダーペプチドおよびカルボキシ末端のMHCクラスI輸送シグナルへの抗原の融合は、MHCクラスIおよびクラスIIエピトープの抗原提示の上昇をもたらす(Kreiterら,2008,J.Immunol.180:309−318)。それぞれに修飾された抗原をコードし、ポリ(A)配列およびβ−グロビンUTRに関する上述した最適化を含むARCA RNAのリンパ節内注射は、ナイーブT細胞の新たなプライミングを可能にする(独国特許第DE 10 2008 061 522.6号)。本発明者らは、新たなプライミングがβ−S−ARCA(D1)を使用することによってさらに増強され得るかどうかを検討した。
【0188】
上記修飾を有する特異的抗原をコードする裸のRNAを1日2回結節内注射することによってマウスを免疫した(0日目と3日目)。8日目に、テトラマー染色を用いて末梢血中および脾臓中の抗原特異的T細胞の頻度を測定した。図6に示すように、末梢血中のCD8T細胞の約5%および脾臓中のCD8T細胞の約6%が、ARCA RNAでの2回の免疫後にテトラマー陽性であった。β−S−ARCA(D1)RNAを使用すると、末梢血中および脾臓中でそれぞれ12%および13%以上のテトラマー陽性CD8T細胞が測定された。これは、β−S−ARCA(D1)が、プロセシングならびにMHCクラスIおよびクラスII複合体への輸送に関して最適化した抗原に関連しても、またより高い安定性と翻訳効率を有するRNAの作製のためのDNA鋳型を使用した場合も、β−S−ARCA(D1)キャップを担持するRNAからのタンパク質発現の増大および延長を導き、それが次に免疫応答の増強(T細胞の新たなプライミングとして測定される)を生じさせることを初めて明らかにする。
【0189】
実施例8:m7,2'-OGpppG(D1)および(D2)(すなわちβ−S−ARCA(D1)および(D2))のHPLC分析。
【0190】
約1:3のモル比のm7,2'-OGpppG(D1)および(D2)(すなわちβ−S−ARCA(D1)および(D2))のジアステレオマー混合物の分析HPLC分析を、Supelcosil LC−18−T RPカラム(5μm、4.6×250mm、流速:1.3ml/分)を備えたAgilent Technologies 1200 Series装置で、15分以内に0.05M酢酸アンモニウム、pH=5.9中のメタノールの0〜25%直線勾配を用いて実施した。UV検出(VWD)を260nmで実施し、蛍光検出(FLD)を280nmでの励起および337nmでの検出で実施した。保持時間:m7,2'−OGpppG(D1)=10.4分、m7,2'−OGpppG(D2)=10.7分(図7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを含有するワクチン組成物。
【請求項2】
前記5'末端キャップ構造が、前記RNAを未熟抗原提示細胞に導入したとき、式(I)による前記5'末端キャップ構造を有さない同じ前記RNAと比較して、前記RNAの安定性を高める、前記RNAの翻訳効率を高める、前記RNAの翻訳を延長させる、前記RNAの総タンパク質発現を増大させる、および/または前記RNAによってコードされる抗原もしくは抗原ペプチドに対する免疫応答を増大させることができる、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
が、任意に置換された、C−Cアルキル、任意に置換されたC−Cアルケニル、および任意に置換されたアリールから成る群より選択される、請求項1または2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
およびRが、H、F、OH、メトキシ、エトキシおよびプロポキシから成る群より独立して選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
RNAの5'末端キャップがβ−S−ARCAのジアステレオマーD1である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
結節内注入用に製剤された、請求項1〜5のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
式(I):
【化2】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを含有する未熟抗原提示細胞。
【請求項8】
個体において免疫応答を誘発する方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載のワクチン組成物または請求項7に記載の未熟抗原提示細胞を前記個体に投与するステップを含む方法。
【請求項9】
未熟抗原提示細胞におけるRNAの安定性を高めるおよび/または前記未熟抗原提示細胞におけるRNAの発現を高める方法であって、
式(I):
【化3】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造を有する前記RNAを準備すること、ならびに
前記RNAを導入した前記未熟抗原提示細胞を準備すること
を含む方法。
【請求項10】
抗原提示細胞の表面に対象とする抗原を提示するMHC分子の割合を増大させる方法であって、
前記対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化4】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、ならびに
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること
を含む方法。
【請求項11】
免疫エフェクター細胞を刺激するおよび/または活性化するための方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化5】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、ならびに
抗原提示細胞を前記免疫エフェクター細胞と接触させること
を含む方法。
【請求項12】
前記抗原提示細胞を前記免疫エフェクター細胞と接触させることがインビトロまたはインビボで実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
個体において免疫応答を誘導する方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化6】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
に従った5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、ならびに
前記RNAを前記個体に投与すること
を含む方法。
【請求項14】
前記RNAが結節内注入によって投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
個体において免疫応答を誘導する方法であって、
対象とする抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I):
【化7】

[式中、Rは、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたアルケニル、任意に置換されたアルキニル、任意に置換されたシクロアルキル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアリール、および任意に置換されたヘテロアリールから成る群より選択され、
およびRは、H、ハロ、OHおよび任意に置換されたアルコキシから成る群より独立して選択されるか、またはRとRは、一緒になってO−X−O[式中、Xは、任意に置換されたCH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)およびC(CHから成る群より選択される。]を形成するか、またはRは、Rが結合して−O−CH−もしくは−CH−O−を形成する環の4'位で水素原子と結合しており、
は、S、SeおよびBHから成る群より選択され、
およびRは、O、S、SeおよびBHから成る群より独立して選択され、
nは1、2または3であり、
置換基Rを含むP原子における立体化学的配置は、β−S−ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。]
による5'末端キャップ構造で修飾されたRNAを準備すること、
前記RNAを導入した未熟抗原提示細胞を準備すること、ならびに
抗原提示細胞を前記個体に投与すること
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−501014(P2013−501014A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523242(P2012−523242)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004760
【国際公開番号】WO2011/015347
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(509146023)バイオエヌテック アーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】BioNTech AG
【住所又は居所原語表記】Hoelderlinstrasse 8 55131  Mainz Germany
【出願人】(509256849)
【氏名又は名称原語表記】JOHANNES GUTENBERG−UNIVERSITAET MAINZ
【住所又は居所原語表記】Saarstrasse 21, 55122 Mainz, Germany
【出願人】(512028817)ウニヴェルシテ ヴァルシャフスキ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIWERSYTET WARSZAWSKI
【住所又は居所原語表記】ul.Krakowskie Przedmiescie 26/28 PL−00−927 Warszawa Poland
【Fターム(参考)】