説明

5−フルオロウラシルの酵素的製造法

【課題】 温和な条件で効率的に5−フルオロウラシルを製造するための方法を提供すること。
【解決手段】 以下の工程を含有することを特徴とする5−フルオロウラシルの製造方法。
(1)5−フルオロシトシンに酵素を作用させ、5−フルオロウラシルおよびアンモニアを生成させる工程;
(2)工程(1)において生成したアンモニアと2−オキソグルタル酸および還元型補酵素とにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸および酸化型補酵素を生成させる工程;および、
(3)工程(2)において生成した酸化型補酵素とイソクエン酸とにイソクエン酸脱水素酵素を作用させ、還元型補酵素および2−オキソグルタル酸を再生させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−フルオロウラシルの酵素的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
5−フルオロウラシルは、臨床の現場で使用されている抗癌剤の1つであり、胃癌、肝癌、結腸・直腸癌、乳癌、膵癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌等の悪性腫瘍へ適用されている。5−フルオロウラシルの製造法としては、化学合成的手法による製造法や酵素を用いた製造法(酵素的製造法)が知られている。酵素的製造法としては、シトシンをウラシルとアンモニアに加水分解する活性を有するシトシンデアミナーゼを用いた方法が知られており、例えば、Escherichia coli等の微生物菌体から抽出したシトシンデアミナーゼを用いて5−フルオロシトシンから5−フルオロウラシルを製造する方法(特許文献1参照)やパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来の熱安定性シトシンデアミナーゼを用いて5−フルオロシトシンから5−フルオロウラシルを製造する方法(特許文献2参照)等が報告されている。
【0003】
一方、クレアチニンデイミナーゼ(クレアチニンイミノヒドロラーゼ)が、クレアチニンをN−メチルヒダントインとアンモニアに加水分解するだけでなく、5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルとアンモニアに加水分解することを利用した血中の5−フルオロシトシンの測定法が報告されている(非特許文献1参照)。また、血中の5−フルオロシトシン測定法として、血中の5−フルオロシトシンにクレアチニンデイミナーゼを作用させて5−フルオロウラシルおよびアンモニアを生成させた後、生成したアンモニアと、2−オキソグルタル酸およびNADHとにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸およびNAD+を生成させ、この反応において消費されるNADHを測定する方法が報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、クレアチニンデイミナーゼ等によるアンモニア生成反応を利用した検体中の物質の測定において、検体に元から存在するアンモニアの消去方法として、アンモニアと、2−オキソグルタル酸および還元型補酵素とにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸および酸化型補酵素を生成させると共に、生成した酸化型補酵素とイソクエン酸とにイソクエン酸脱水素酵素を作用させて、還元型補酵素および2−オキソグルタル酸を再生させることにより、効率的にアンモニアを消去する方法が報告されている(特許文献3および4参照)。
【0005】
化学的手法による5−フルオロウラシルの製造法については、多数の方法が報告されているが、過酷な製造条件を用いる場合が多いため、温和な条件での5−フルオロウラシルの製造法が望まれている。
【特許文献1】特開昭59−055196号公報
【特許文献2】特開平4−131084号公報
【特許文献3】特開平9−000295号公報
【特許文献4】特開平11−346781号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(Journal of Clinical Microbiology),(米国),1984年,第20巻,第5号,p.996−997
【非特許文献2】クリニカル ケミストリー(Clinical Chemistry),(米国),1988年,第34巻,第1号,p.59−62
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、温和な条件で効率的に5−フルオロウラシルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、温和な条件で効率的に5−フルオロウラシルを製造する方法を鋭意検討した結果、5−フルオロシトシンにクレアチニンデイミナーゼ等を作用させ、5−フルオロウラシルとアンモニアを生成させる、5−フルオロウラシルを酵素的に製造する方法において、生成したアンモニアと2−オキソグルタル酸および還元型補酵素とにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸および酸化型補酵素を生成させてアンモニアを消去し、さらに生成した酸化型補酵素とイソクエン酸とにイソクエン酸脱水素酵素を作用させ、還元型補酵素および2−オキソグルタル酸を再生させることにより、効率的に5−フルオロウラシルを製造することができる、という知見を見出し本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]〜[4]に関する。
[1]以下の工程を含有することを特徴とする5−フルオロウラシルの製造方法。
(1)5−フルオロシトシンに酵素を作用させ、5−フルオロウラシルおよびアンモニアを生成させる工程;
(2)工程(1)において生成したアンモニアと2−オキソグルタル酸および還元型補酵素とにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸および酸化型補酵素を生成させる工程;および、
(3)工程(2)において生成した酸化型補酵素とイソクエン酸とにイソクエン酸脱水素酵素を作用させ、還元型補酵素および2−オキソグルタル酸を再生させる工程。
[2]さらに(4)生成した5−フルオロウラシルを単離する工程を含有することを特徴とする[1]に記載の製造方法。
[3]還元型補酵素および酸化型補酵素が、それぞれNADPHおよびNADP+である[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]5−フルオロシトシンに作用させる酵素がクレアチニンデイミナーゼまたはシトシンデアミナーゼである[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、温和な条件で効率的に5−フルオロウラシルを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)製造法の原理
本発明の製造法の原理を図1に示す。本発明の製造法は、5−フルオロシトシンを酵素的に5−フルオロウラシルに変換する工程と、当該工程で生成するアンモニアの消去工程を含有するため、生成するアンモニアは速やかに消去されると共に、アンモニア消去工程で使用される2−オキソグルタル酸濃度は、2−オキソグルタル酸の再生工程を含有するため、一定濃度に保つことができるという特徴を有する。
【0010】
5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルに変換する工程において、5−フルオロシトシンは水の存在下でシトシンデアミナーゼ、クレアチニンデイミナーゼ等の酵素の作用により加水分解されて、5−フルオロウラシルおよびアンモニアに変換される。この反応において5−フルオロウラシルと共に生成するアンモニアを下記のアンモニア消去工程によって消去することにより、5−フルオロウラシルおよびアンモニアが生成する方向の反応速度が増加し、効率的に5−フルオロウラシルを生成することができる。
【0011】
アンモニア消去工程において、まず、還元型補酵素の存在下、グルタミン酸脱水素酵素により、上記の工程で5−フルオロウラシルと共に生成したアンモニアは2−オキソグルタル酸と反応して消去され、グルタミン酸が生成し、還元型補酵素は酸化型補酵素に変換される。さらに、2−オキソグルタル酸の再生工程において、上記のアンモニア消去反応で生成した酸化型補酵素の存在下、イソクエン酸脱水素酵素により、イソクエン酸が2−オキソグルタル酸と二酸化炭素に変換されると共に、酸化型補酵素が還元型補酵素に変換され、2−オキソグルタル酸および還元型補酵素が再生される。2−オキソグルタル酸の再生工程により、上記のアンモニア消去工程において、2−オキソグルタル酸および還元型補酵素が再生されて供給されるため、アンモニアと2−オキソグルタル酸からグルタミン酸が生成する方向の反応速度が増加し、効率的にアンモニアを消去することができる。その結果、5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルに変換する工程において、さらに5−フルオロウラシルおよびアンモニアが生成する方向の反応速度が増加し、効率的に5−フルオロウラシルを生成することができる。
【0012】
(2)5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルに変換する酵素
本発明において使用される、5−フルオロシトシンを5−フルオロウラシルに変換する酵素としては、5−フルオロシトシンと水から5−フルオロウラシルとアンモニアを生成する反応を触媒する酵素であれば制限はなく、例えばクレアチニンデイミナーゼ(EC 3.5.4.21)およびシトシンデアミナーゼ(EC 3.5.4.1)等があげられる。
【0013】
クレアチニンデイミナーゼとしては、クレアチニンと水からN−メチルヒダントインとアンモニアを生成する反応を触媒する酵素(EC 3.5.4.21)であれば制限はなく、例えば、Clostridium paraputrificum(J. Bacteriol., 75, 633-639, 1958)、Corynebacterium liliumCorynebacterium glutamicum等のCorynebacterium属細菌(特開昭52−34976号公報)、Brevibacterium ammoniagenesBrevibacterium divaricatum等のBrevibacterium属細菌(特開昭52−34976)、Pseudomonas ovalisPseudomonas cruciviae等のPseudomonas属細菌(特開昭52−34976号公報)Arthrobacter ureafaciensArthrobacter histidinolovorans等のArthrobacter属細菌(特開昭52−34976号公報)、Flavobacterium filamentosum(J. Biol. Chem., 260, 3915-3922, 1985)、Bacillus sp. CNI-1365(特開昭61−219383号公報)、好気性微生物ATCC31546(特開昭56−72692号公報)等の細菌由来のクレアチニンデイミナーゼ等があげられ、これらの微生物の菌体から調製したり遺伝子組換え法(特開平7−143881号公報)により製造することができる。また、ロシュ・ダイアグノスティクス社、シグマ−アルドリッチ社等から市販されているものを使用することもできる。
【0014】
シトシンデアミナーゼとしてはシトシンと水からウラシルとアンモニアを生成する反応を触媒する酵素(EC 3.5.4.1)であれば制限はなく、Salmonella typhimurium(Biochem. Biophys. Acta., 719, 251-258, 1982)、Escherichia coli(Agric. Biol. Chem., 50, 1721-1730, 1986; 特開昭57−63089; 特開昭59−55196号公報)等の細菌、Saccharomyces cerevisiae(Methods Enzymol., 51, 394-401, 1978; 特開昭59−131084号公報)等の酵母由来のシトシンデアミナーゼ等があげられ、これらの微生物の菌体から調製することができる。
【0015】
(3)グルタミン酸脱水素酵素
本発明において使用されるグルタミン酸脱水素酵素としては、還元型補酵素、アンモニアおよび2−オキソグルタル酸からL−グルタミン酸と酸化型補酵素とを生成する反応を触媒する酵素であれば特に制限はなく、例えば、還元型補酵素としてNADHおよびNADPHの両方を取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.3)、還元型補酵素としてNADHのみを取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.2)、還元型補酵素としてNADPHのみを取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.4)があげられる。還元型補酵素としてNADHおよびNADPHの両方を取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.3)としては、例えばウシ肝等の動物組織、カビ、テトラヒメナ、MycoplasmalaidowiiBacillus subtilis等の細菌等由来のグルタミン酸脱水素酵素があげられる。還元型補酵素としてNADHのみを取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.2)としては、例えばBacillus acidocaldarius(特開平6−38744号公報)、Pseudomonas sp. 433-3(特開平7−274956号公報)、Pyrococcus sp. KOD1(特開2000−41680号公報)、高等植物由来のグルタミン酸脱水素酵素等があげられる。還元型補酵素としてNADPHのみを取り得るグルタミン酸脱水素酵素(EC 1.4.1.4)としては、例えばNitrosomonas europaeEscherichia coliThiobacillus novellusBrevibacterium flavumBacillus licheniformisCorynebacterium glutamicum, Proteus inconstans(特開昭54−126789号公報)、Thermococcus litoralis(特開平6−327471号公報)、Pyrococcus furiosus等の細菌、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Neurospora crassaFusarium oxysporumCoprinus macrorhizus(特開昭62−107784号公報)等のカビ、クロレラ由来のグルタミン酸脱水素酵素等があげられる。グルタミン酸脱水素酵素は、上記の微生物の菌体や動物組織から調製することができる。
【0016】
(4)還元型補酵素および酸化型補酵素
本発明において使用される還元性補酵素としては、例えばNADH、NADPH、チオNADH、チオNADPH、ADADPH(アセチルピリジンアデニンジヌクレオチドホスフェート)等が挙げられるが、NADHまたはNADPHが好ましく、NADPHがより好ましい。本発明において還元型補酵素から生成する酸化型補酵素としては、例えばNAD+、NADP+、チオNAD+、チオNADP+、ADADP+等が挙げられるが、NAD+またはNADP+が好ましく、NADP+がより好ましい。
【0017】
(5)イソクエン酸脱水素酵素
本発明において使用されるイソクエン酸脱水素酵素としては、酸化型補酵素およびイソクエン酸から2−オキソグルタル酸、二酸化炭素および還元型補酵素を生成する反応を触媒する酵素であれば特に制限はなく、酸化型補酵素としてNADP+を利用するイソクエン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.42)や酸化型補酵素としてNAD+を利用するイソクエン酸脱水素酵素(EC 1.1.1.41)があげられる。酸化型補酵素としてNADP+を利用するイソクエン酸脱水素酵素としては、例えばSaccharomyces cervisiaeCandida utilis等の酵母、Aspergillus niger(Biochem. J., 236, 549-557, 1986)等の糸状菌、Mycobacterium tuberculosisAzotobacter vinelandiiBacillus stearothermophillus(J. Biol. Chem., 245, 3186-3194, 1970)、Thermusflavus AT-62(J. Biochem., 77, 233-240, 1975)、Thermus aquaticus(特開平11−346781号公報)、Escherichia coli(Biochim. Biophys. Acta., 481 340-347, 1977)、Escherichia freundiSulfolobus acidocaldarius(特開平9−925号公報)、Corynebacterium melassecola(特開昭62−166890号公報)、Vibrio sp. ABE-1(J. Biochem., 86, 377-384, 1979)等の細菌、Trypanosoma cruzi、カイコ、ウシ角膜上皮、ウシ心筋、ウシ肝、ブタ心筋等の種々の動物組織、植物組織由来のイソクエン酸脱水素酵素等があげられる。酸化型補酵素としてNAD+を利用するイソクエン酸脱水素酵素としては、例えばウシ心筋(Biochemistry, 17, 5339-5346, 1978)、ブタ心筋(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 75, 252-255, 1978)等の種々の動物組織、Saccharomyces cerevisiae(J. Biol. Chem., 238, 2875-2881, 1963)等の酵母、Acetobacter peroxydans(J. Biol. Chem., 238, 2875-2881, 1963)、Deinococcus radiodurans(特開2005−34065号公報)、Aspergillus nigerNeurospora crassa(Biochemistry, 18, 3616-3622, 1978)、Cristhidia fasciculata、エンドウ豆ミトコンドリア由来のイソクエン酸脱水素酵素等があげられる。イソクエン酸脱水素酵素は、上記の微生物の菌体や動物組織から調製することができる。
【0018】
(6)反応条件
本発明における5−フルオロウラシルの製造における反応条件としては、5−フルオロウラシルを温和な条件で、かつ、効率的に製造し得る条件であれば特に制限はない。イソクエン酸脱水素酵素の反応には、通常は金属イオンが必要なため、マンガンイオンまたはマグネシウムイオン等の金属イオンを存在させることが好ましい。反応液中のpHとしては、例えばpH4〜11,好ましくはpH5〜10、より好ましくはpH6〜9である。反応温度としては、例えば酵素が機能するに適した温度であれば特に制限はなく、例えばは0〜50℃であり、好ましくは10〜45℃であり、より好ましくは25〜40℃である。反応時間としては、例えば酵素反応が終了する時間であれば特に制限はなく、例えばは30分間〜10時間であり、好ましくは1時間〜5時間であり、より好ましくは1.5時間〜2.5時間である。5−フルオロシトシン、2−オキソグルタル酸、イソクエン酸の濃度は、0.1mmol/L〜1mol/Lが好ましく、より好ましくは1〜100mmol/Lである。クレアチニンデイミナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素の濃度は、0.1〜1000kU/Lが好ましく、より好ましくは1〜100kU/Lである。還元型補酵素の濃度は、1μmol/L〜100mmol/Lが好ましく、より好ましくは10μmol/L〜10mmol/Lである。
【0019】
(7)5−フルオロウラシルの単離
反応液中に生成した5−フルオロウラシルは、反応終了後の反応液を減圧下で濃縮乾固させ、得られた乾固物を少量の希塩酸およびメタノールで洗浄して未反応の5−フルオロシトシンを除去した後、乾固物を再度に水に溶解させ、水溶液から再結晶させることにより単離することができる。また、再結晶の代わりにイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等によっても単離することができる。
【0020】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。なお、以下の実施例においては、次の酵素、試薬を使用した。
5−フルオロシトシン(東京化成工業株式会社製)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(和光純薬工業株式会社製、以下トリス)、塩化マグネシウム・6水和物(和光純薬工業株式会社製)、2−オキソグルタル酸(協和発酵工業株式会社製)、イソクエン酸(和光純薬工業株式会社製)、NADPH・4Na(オリエンタル酵母工業株式会社製)、クレアチニンデイミナーゼ(Corynebacterium lilium由来;ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、グルタミン酸脱水素酵素(酵母由来;オリエンタル酵母工業株式会社製)、イソクエン酸脱水素酵素(酵母由来;オリエンタル酵母工業株式会社製)。
【実施例】
【0021】
5−フルオロウラシルの製造
(1)製造用溶液の調製
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(6.06g:50.0mmol、和光純薬工業株式会社製)を蒸留水(700mL)に溶解し、2mol/Lの塩酸を用いてpH8.0に調整し、トリス緩衝液を調製した。次いで、当該トリス緩衝液を攪拌しながら、塩化マグネシウム・6水和物(0.04g:0.20mmol、和光純薬工業株式会社製)、2−オキソグルタル酸(1.60g:11.0mmol、)、イソクエン酸(1.80g:9.4mmol)および5−フルオロシトシン(2.00g:15.5mmol)を順にトリス緩衝液に添加した。この時、溶液のpHが4.9となったので、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(6.30g:52.0mmol)を混合液に添加し、pHを8.0に調整した。このpH8.0の水溶液に、NADPH・4Na(400mg:0.480mmol)、グルタミン酸脱水素酵素(30.89kU)、イソクエン酸脱水素酵素(3.00kU)およびクレアチニンデイミナーゼ(20.00kU)を順に添加し、最後に蒸留水を加えて合計で1Lの製造用溶液を調製した。
【0022】
(2)反応の追跡
上記(1)で調製した製造用溶液を37℃で150分間攪拌した。反応途中、30分間毎に、一部の反応液を取り出して、2通りの方法により反応を追跡した。1つは、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(シリカゲルTLC)による追跡方法であり、もう1つは、特定の波長での吸光度を測定することによる追跡である。
【0023】
シリカゲル薄層クロマトグラフィーによる反応の追跡は、次のようにして行った。まず、TLC用のサンプルを調製すべく、反応開始30分間毎に一部の反応液を採取し、この採取した一部の反応液をセントリコン30(アミコン社製)を用いて限外ろ過し、得られたろ液を蒸留水で100倍希釈した。サンプルとしてこの希釈反応溶液を、展開溶媒として酢酸エチル:アセトン:水(7:4:1)の混液を用いたシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより反応を追跡した。検出には、紫外線ランプ(波長:254nm)を用いた。その結果、150分後の反応液では、5−フルオロシトシンが消失し、5−フルオロウラシルのみが生成していることを確認した。従って、シリカゲル薄層クロマトグラフィーから、150分間の反応により、5−フルオロシトシンが完全に消費されたことを確認した。
【0024】
一方、特定の波長での吸光度測定による反応の追跡は、次のようにして行った。前記の方法により調製した希釈反応溶液の275nmおよび265nmでの吸光度を分光光度計(日立228型)により測定した。ここで、275nmおよび265nmは、それぞれ、5−フルオロシトシンおよび5−フルオロウラシルに特異的な吸収波長である。反応を追跡した結果、275nmでの吸光度は減少したのに対して、265nmでの吸光度は増加した。
【0025】
反応150分後、セントリコン30を用いた限外ろ過により分子量30,000以上の物質を取り除いた。得られたろ液を蒸留水で100倍希釈し、当該希釈溶液(希釈反応溶液)の265nmでの吸光度を、分光光度計を用いて測定した。ブランク、すなわちフルオロシトシンを添加せずに調製した製造用溶液を、同様に100倍希釈して265nmでの吸光度を測定した。希釈反応溶液の吸光度からブランクの吸光度を差し引いた吸光度は0.949であった。
【0026】
さらに、市販の5−フルオロウラシル2gを蒸留水1Lに溶解して調製した5−フルオロウラシルの標準液(15.37mmol/L)を100倍希釈して得られた希釈溶液(希釈標準液)の265nmでの吸光度は0.933であった。上記の通り、反応前の製造用溶液は15.5mmol/Lの5−フルオロシトシンを含んでおり、150分間反応後の反応液の100倍希釈液の265nmでの吸光度は0.949であり、希釈標準液の265nmでの吸光度とほぼ同じ値であったことから、150分間の反応により、5−フルオロシトシンはほぼ完全に5−フルオロウラシルに変換されたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、抗癌剤として有用な5−フルオロウラシルを温和な条件で効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の5−フルオロウラシルの製造法の反応原理を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含有することを特徴とする5−フルオロウラシルの製造方法。
(1)5−フルオロシトシンに酵素を作用させ、5−フルオロウラシルおよびアンモニアを生成させる工程;
(2)工程(1)において生成したアンモニアと2−オキソグルタル酸および還元型補酵素とにグルタミン酸脱水素酵素を作用させ、グルタミン酸および酸化型補酵素を生成させる工程;および、
(3)工程(2)において生成した酸化型補酵素とイソクエン酸とにイソクエン酸脱水素酵素を作用させ、還元型補酵素および2−オキソグルタル酸を再生させる工程。
【請求項2】
さらに(4)生成した5−フルオロウラシルを単離する工程を含有することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
還元型補酵素および酸化型補酵素が、それぞれNADPHおよびNADP+である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
5−フルオロシトシンに作用させる酵素がクレアチニンデイミナーゼまたはシトシンデアミナーゼである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−43979(P2007−43979A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232792(P2005−232792)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000162478)協和メデックス株式会社 (42)
【Fターム(参考)】