説明

5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルの製造方法

【課題】5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルを製造する方法として、ハロゲン化工程、及び脱ハロゲン化水素工程(量論量の強アルカリが必要)を経てることなく、また多量の廃棄物が生成することの無い、より環境負荷が低く経済的な合成方法を提供する。
【解決手段】テトラヒドロフルフリルアルコール類を触媒の存在下、気相反応で分子内脱水させ5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類を製造する方法であって、該触媒としてアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素、及びリンとを含有する化合物を用いることを特徴とする5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロフルフリルアルコール類を気相反応で分子内脱水させ、5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類を製造する方法、及びそれに用いる触媒に関する。本発明の製造方法により製造される5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルは、カチオン重合性モノマー等として各種用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロフルフリルアルコール(以下、THFAと称することがある)を固体触媒の存在下、気相反応で分子内脱水させると、α位に不飽和結合を有する環状エーテル(以後、α−不飽和環状エーテルと称する)が生成する。下記式(2)に示したように、アルミナ等の固体触媒を用いた場合、6員環構造を有するα−不飽和環状エーテル(ジヒドロピラン:DHP)が選択的に生成するが、これは脱水の過程で5員環のエーテル環が6員環に転位するためである(非特許文献1、2)。5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル(2−メチレンテトラヒドロフラン:MTHF、及び2−メチル−4,5−ジヒドロフラン:MDHF)が生成する可能性も示されているが、実際にこれらが収率良く得られた例は知られていない。
【0003】
【化1】

【0004】
【非特許文献1】C. L. Wilson、Journal of the American Chemical Society、1947年、69巻、3004-3006ページ
【非特許文献2】G. J. Baumgartner等、Journal of the American Chemical Society、1959年、81巻、2440-2442ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
α−不飽和環状エーテル類はカチオン重合性を有しており、その環状構造に由来して低収縮性・基材との高密着性が得られるため各種高分子原料として有用である。特に5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルはカチオン重合性に富んでおり(非特許文献3、4)、重合性の低い6員環構造を有する環状エーテルより重要である。
【0006】
5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルを製造する方法としては、脱ハロゲン化水素反応によるものが知られている(非特許文献3、4、5)。これはTHFAを原料とし、THFAのハロゲン化工程、及び脱ハロゲン化水素工程(量論量の強アルカリが必要)を経て、不飽和環状エーテルを製造するものである。しかしながらこの方法は工程が複雑であること、ハロゲン化物を使用すること、多量のアルカリが必要であること、多量の廃棄物が生成することから、より環境負荷が低く経済的な合成方法が望まれていた。
【0007】
以上のように、カチオン重合性モノマーとして有用な5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルを効率良く、環境負荷が低く経済的に製造する方法はこれまでに知られていなかった。
【0008】
【非特許文献3】Y. Ogawa等、Polymer Journal、1984年、16巻、5号、415-422ページ
【非特許文献4】西岡明徳等、工業化学雑誌、1962年、65巻、7号、1120-1123ページ
【非特許文献5】D. M. Aten Armitage等、Journal of the American Chemical Society、1959年、81巻、2437-2440ページ
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため本発明者らは鋭意検討し、THFAを気相反応で分子内脱水させる際に、触媒として特定の組成の化合物を使用すると、5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルが選択率良く生成することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明はTHFA類を触媒の存在下、気相反応で分子内脱水させ、5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類を製造する方法であって、該触媒としてアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素、及びリンとを含有する化合物を使用することを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によると、5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類が気相反応で連続的に選択率良く得られ、かつハロゲン化合物を使用せず廃棄物も少ないことから、工業的価値の高いプロセスとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るテトラヒドロフルフリルアルコール類の気相脱水反応による5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類の製造方法を実施形態に基づき説明する。
【0013】
本発明で用いられる触媒は、アルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素、及びリンとを必須成分とする化合物であり、前記必須成分を含んでいれば触媒の形態としては特に限定されないが、好ましくは前記必須成分が担体に担持された触媒が好ましい。担体の種類としては、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカ‐アルミナ、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト等が用いられ、より好ましくはケイ素またはジルコニウムの酸化物である、シリカまたはジルコニアである。
該触媒の組成比として、好ましくは、下記一般式(3):
MaXbPcOd (3)
(式中、Mはアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素より選ばれる一種以上の元素、Xはケイ素及び/又はジルコニウム、Pはリン、Oは酸素を表す)で表される化合物である。添字a、b、c、dは、a=1のときb=1〜500、c=0.1〜5の範囲を取ることが好ましい。より好ましくは、a=1のときb=2〜50、c=0.3〜2の範囲である。更に好ましくは、a=1のときb=2.5〜10、c=0.5〜1.5の範囲である。dはa、b、cの値及び各種構成元素の結合状態により定まる。触媒の組成比は反応選択率に大きく影響し、上記範囲内で触媒を調製することで、5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルを選択率良く製造することができる。
【0014】
前記Mは、好ましくはアルカリ金属元素であり、具体的には、カリウム、セシウムが好ましい。リンはどのような形態を取っていても良いが、好ましくは酸化物であり、より好ましくは、リン酸型又はリン酸塩型である。ケイ素またはジルコニウムの酸化物からなる担体は多孔質であることが好ましく、かつ比表面積が1m/g以上であることが好ましい。
【0015】
触媒の必須成分の一つであるアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素は、その原料として、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、その他塩類(例えば炭酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、硫酸塩等)等のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物等あるいは金属単体を用いることが出来るが、好ましくはその他塩類である。もう一方の必須成分であるリンは、その原料としてリン酸、亜リン酸、ポリリン酸、及びこれらの塩類(アンモニウム塩、金属塩等)、無水リン酸類等のリン酸化合物が用いられるが、好ましくはリン酸およびリン酸の塩類である。
【0016】
ケイ素又はジルコニウムの酸化物からなる担体は、予め酸化物となっているものを担体として用いるのが好ましいが、該化合物の水酸化物や硝酸塩、アンモニウム塩等を、触媒調製時にアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物やリン酸化合物等と混合し、焼成によりケイ素又はジルコニウムの酸化物の形態に転換すると同時に必須成分であるアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素とリンとが担持された触媒として得ることも出来る。
【0017】
触媒の調製法としては従来公知のあらゆる方法が適用できる。例えば、(1)前記M成分およびリン成分を水中に溶解もしくは懸濁せしめ、更に前記X成分を加えた後、撹拌下、加熱、濃縮し、乾燥後成型し、更に焼成を経て触媒とする方法、(2)M成分およびX成分の原料を水中に溶解もしくは懸濁せしめ、各種リン成分を加え、必要に応じてpHを調節した後、ろ過、水洗を行い、乾燥、成型後、焼成を経て触媒とする方法、あるいは、(3)各成分元素の酸化物または水酸化物に、各種リン成分を加えて混合し、適当な成型助剤(例えば水、アルコールなど)を添加後成型し、乾燥、焼成を経て触媒とする方法、等が上げられる。これらの中でも好ましくは、(1)の方法であり、更に好ましくは、前記M成分として金属塩類、リン成分としてリン酸あるいはリン酸塩、X成分としてシリカもしくはジルコニアを用いる(1)の方法である。
【0018】
触媒の乾燥温度は、80℃〜150℃が好ましく、更に好ましくは100℃〜120℃である。また触媒の焼成温度は、好ましくは200〜1000℃、更に好ましくは300℃〜600℃であり、酸素雰囲気下で焼成することが好ましい。成型後の触媒の大きさは、0.1mm〜10mmが好ましく、更に好ましくは0.2mm〜5mmである。
【0019】
本発明で原料として用いられるTHFA類としては、エーテル環の炭素原子上に置換基が存在していても良いTHFAであり、下記一般式(4)であらわされる。
【0020】
【化2】

【0021】
式(4)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は夫々独立して、水素原子、炭素数3以下のアルキル基および炭素数3以下のヒドロキシアルキル基から選択される基を表す。具体的には、R1からR6すべてが水素原子であるテトラヒドロフルフリルアルコール、R1、R2、R3またはR5のいずれか1つがメチル基で、その他のR1〜R6が水素原子であるメチルテトラヒドロフルフリルアルコール、およびR5またはR6がヒドロキシメチル基で、その他のR1〜R6が水素原子である2,5−ビス(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフランが好ましく、より好ましくはR1〜R6すべてが水素原子であるテトラヒドロフルフリルアルコールである。
【0022】
5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルとは、5員環のエーテル環を含有し、かつエーテル環の酸素原子のα位に不飽和結合を有する化合物のことである。本発明で製造される5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルとしては、前記THFA類を原料として脱水反応により生成するものであり、下記一般式(5)または(6)であらわされる。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
式(5)中、Ra、Rb、Rc、Rd、ReおよびRfは夫々独立して、水素原子、炭素数3以下のアルキル基および炭素数3以下のヒドロキシアルキル基から選択される基を表す。
【0026】
式(6)中、Rg、Rh、Ri、RjおよびRkは夫々独立して、水素原子、炭素数3以下のアルキル基および炭素数3以下のヒドロキシアルキル基から選択される基を表す。ただし、RiおよびRjには置換基が無く不飽和結合を形成していいても良い。具体的には、RaからRfがすべて水素原子である2−メチレンテトラヒドロフラン、RgからRkすべてが水素原子である2−メチル−4,5−ジヒドロフラン、Rkがメチル基でRgとRhが水素原子で、かつRiおよびRjには置換基が無く不飽和結合を形成している2,5−ジメチルフランが好ましく、更に好ましくは、式(5)中、Ra〜Rfすべてが水素原子である2−メチレンテトラヒドロフラン、または、式(6)中、Rg〜Rkすべてが水素原子である2−メチル−4,5−ジヒドロフランである。5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルは、カチオン重合性に富んでおり特に有用な高分子原料である。本発明は、これら5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類を選択率良く製造できることが特徴である。
【0027】
本発明のTHFA類の気相脱水反応の実施方法としては特に限定されず、反応器は固定床流通型、流動床型のいずれでも使用できる。反応は原料のTHFA類が気相状態を維持し得る反応温度及び反応圧力下で行うことができる。反応圧力は通常、常圧又は減圧であるが、加圧も可能である。反応温度は他の反応条件によっても異なるが、250〜500℃、好ましくは300〜450℃の範囲が適当である。この温度範囲で反応を実施することで、原料転化率および目的化合物である5員環構造を有するα−不飽和環状エーテルの収率の面で、好ましい結果が得られる。
【0028】
原料は各種希釈ガスによる希釈、及び/又は減圧により、分圧を0.001〜0.080MPaとして触媒に供給するのが好ましい。更に好ましくは0.005〜0.050MPaである。希釈ガスとしては酸素を含まないガスが好ましく、具体的には窒素、ヘリウム、アルゴンが好適に用いられる。また反応ガスの空間速度(GHSV)は、好ましくは10〜3000h‐1、更に好ましくは50〜1000h‐1の範囲である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【0030】
なお、実施例中の転化率及び選択率は、ガスクロマトグラフィー分析により測定し、以下の定義に従って表示した。略字は以下に説明した通りである。
・転化率(モル%)=消費したTHFAのモル数/供給したTHFAのモル数×100
・選択率(モル%)=生成物のモル数/消費したTHFAのモル数×100
THFA:テトラヒドロフルフリルアルコール
MTHF:2−メチレンテトラヒドロフラン
MDHF:2−メチル−4,5−ジヒドロフラン
DHP :2,3−ジヒドロピラン
(実施例1)
触媒調製:硝酸セシウム7.80g(0.04mol)、リン酸二水素アンモニウム4.60g(0.04mol)を蒸留水39.0gに溶解させた。あらかじめ120℃で乾燥させたシリカビーズ12.0g(0.20mol、富士シリシア製キャリアクトQ−30C、粒径0.45〜2mm)を磁製皿に入れ、先の混合液を室温で投入した。一時間ほど良くかき混ぜながらシリカビーズに含浸させた後、90℃湯浴上で蒸発乾固した。これを120℃でコントロールした乾燥器で乾燥させた後、これを焼成炉で空気流通下、500℃で2時間焼成することにより、セシウムリンシリカ複合酸化物触媒(酸素を除く組成比は、CsSi)を得た。
【0031】
反応:調製した触媒10.0mlを内径10mmのステンレス製反応管に充填した後、360℃の溶融塩浴に浸漬し、該反応管内にTHFAをその分圧が0.01MPaとなるまで窒素で希釈した原料ガスを、THFAのGHSVで150h−1(全ガス流量は1500h−1)の速度で供給し常圧で気相脱水反応を行った。供給開始後0.5〜1時間の間、反応管出口で反応ガスをアセトニトリルで捕集しガスクロマトグラフにより分析した。その結果、THFAの転化率は46%であり、各生成物の選択率はそれぞれ、MTHF5%、MDHF59%、DHP20%、その他16%であった(表1に記載)。5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル(MTHF及びMDHF)の合計選択率は64%であった。5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテルが選択的に生成していることが分かった。
【0032】
(実施例2〜10)
表1に示したように触媒組成を変えた各種酸化物を調製した。これらの触媒を用いて実施例1と同様に、ただし各種条件を表1に示したように変更し、THFAの気相脱水反応を行った(表1に示していない反応条件は実施例1と同様である)。表1に結果を示したように各種α‐不飽和環状エーテル類の生成が認められ、比較例と比較して5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類の反応選択率が高いことがわかった。なお、ここで新たに用いた材料は以下の通りである。硝酸カリウム(実施例8)、硝酸リチウム(実施例9)、酸化ジルコニウム(サンゴバン社製)。
【0033】
(比較例1〜4)
実施例1と同様に、表1に示した各種酸化物触媒、各種条件でTHFAの気相脱水反応を行った(表1に示していない反応条件は実施例1と同様である)。6員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル(DHP)が主要な生成物であった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法によると、5員環構造を有するα‐不飽和環状エーテル類が効率良く製造できるため、カチオン重合性モノマーとして高分子材料に広く利用可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロフルフリルアルコール類を触媒の存在下、気相反応で分子内脱水させ、5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類を製造する方法であって、該触媒としてアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素、及びリンとを含有する化合物を用いることを特徴とする5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類の製造方法
【請求項2】
前記5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類が、2−メチレンテトラヒドロフラン、又は2−メチル−4,5−ジヒドロフランである請求項1記載の5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類の製造方法
【請求項3】
前記触媒が、下記一般式(1):
MaXbPcOd (1)
(式中、Mはアルカリ金属元素及び/又はアルカリ土類金属元素より選ばれる一種以上の元素、Xはケイ素及び/又はジルコニウム、Pはリン、Oは酸素を表す。また添字a、b、c、dは、a=1のときb=1〜500、c=0.1〜5の範囲を取り、dはa、b、cの値及び各種構成元素の結合状態により定まる数値である)で表される化合物である請求項1又は2記載の5員環構造を有するα−不飽和環状エーテル類の製造方法

【公開番号】特開2009−126846(P2009−126846A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305901(P2007−305901)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】