説明

5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体及びその製造方法

【課題】各種の炭化水素基等により、2,3−ジシアノナフタレン環の5〜8−位が置換された、新規な5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体(1)、及びその製造方法の提供。
【解決手段】フラン化合物を、金属マグネシウムの存在下に、2,3−ジシアノベンゼン誘導体と反応させてナフタレン誘導体(1)を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフタロシアニン製造の中間体等として有用な、新規な5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、近赤外領域に発振波長を持つ半導体レーザーの登場によってフタロシアニンの吸収長波長化の研究が盛んに行われるようになり、それに関連してナフタロシアニンの合成が注目を浴びている。ナフタロシアニンは、フタロシアニンよりも共役系が長く吸収波長が長波長領域であるため、光記録材料だけでなく熱線吸収剤としての利用が期待されているが、前駆体である2,3−ジシアノナフタレン誘導体の合成が困難であるため報告例が少ない。
【0003】
ナフタロシアニンの前駆体となる2,3−ジシアノナフタレン誘導体の製造方法としては、1−置換又は1,4−置換−2,3−ジメチルベンゼンを原料として、多段階反応により対応する5−置換、又は5,8−置換−2, 3−ジシアノナフタレン誘導体を製造する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
また、1,4−ジヒドロキシ−2,3−ジシアノナフタレンをアルキル化剤と反応させることによってヒドロキシル基をアルキル化し、対応する2, 3−ジシアノナフタレン誘導体を製造する方法も提案されている。(例えば、特許文献2,非特許文献1参照)
【特許文献1】特開平8−67826号公報
【特許文献2】特表平8−508269号公報
【非特許文献1】A. Sygula, R. Sygula, P. N. Rabideau, Org. Lett.2005, 7, 4999 - 5001
【0004】
しかしながら、これらの従来技術で得られる2,3-ジシアノナフタレン誘導体の種類は限られていた。また、2,3−ジシアノナフタレン環に結合した炭化水素基の数が少ないために有機溶媒に対する溶解性が小さく、これらの化合物をナフタロシアニン化合物等の原料として使用した場合には、所望の化合物を効率良く製造することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は各種の炭化水素基等により、2,3−ジシアノナフタレン環の5〜8−位が置換された、新規な5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討した結果、置換フラン化合物を1,4-ジアルコキシ-2,3−ジシアノ−5,6-ジハロゲン化ベンゼンと反応させることによって、対応する2,3−ジシアノナフタレン環の5〜8−位が置換された新規な5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−2,3−ジシアノナフタレン誘導体及びその合成前駆体である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体が得られることを発見し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明はつぎの1〜6の構成を有するものである。
1.下記の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体:
【化1】

(式中、R,Rは各独立して、H又は−Cで表される基を表し、R,Rはナフチル基又は−Cで表される基を表す。ここで、RはH、F、OCHから選択された基を表す。また、RおよびR6は各独立して炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
2.前記R及びRが、同一の基であることを特徴とする1に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体。
3.前記RおよびR6がペンチル基であることを特徴とする1又は2に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体。
4.下記の式(2)で表されるフラン化合物を、
【化2】

(式中、R,Rは各独立して、H又は−Cで表される基を表し、R,Rはナフチル基又は−Cで表される基を表す。ここで、RはH、F、OCHから選択された基を表す。)
金属マグネシウムの存在下に、下記式(3)で表される2,3−ジシアノベンゼン誘導体と反応させることを特徴とする、
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を表し;R及びRは、各独立して炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
下記の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の製造方法:
【化4】

(式中、R〜Rは上記と同じものを表す。)
5.前記反応を、有機溶媒中で行うことを特徴とする4に記載の2,3−ジシアノ−1,4−ジアルコキシ−5,6,7,8−テトラ置換−5,8−エポキシナフタレン誘導体の製造方法。
6.前記反応を0℃〜30℃で行うことを特徴とする4又は5に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体は、ナフタロシアニン化合物の原料である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−2,3−ジシアノナフタレン誘導体の合成前駆体として有用な新規な化合物である。また、この化合物は有機溶媒に対して良好な溶解性を有し、色素、半導体等として用いられるナフタロシアニン化合物を直接合成する原料としても、好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の具体例としては、例えばR〜Rとして次のような置換基を有する化合物が挙げられる。
=R=H,R=R=フェニル,R=R=C11
=R=H,R=R=4’−フルオロフェニル,R=R=C11
=R=H,R=R=4’−メトキシフェニル,R=R=C11
=R=H,R=R=1’−ナフチル,R=R=C11
=R=R=R=フェニル,R=R=C11
=R=R=R=4’−フルオロフェニル,R=R=C11
【0009】
本発明の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体は、下記の式(2)で表されるフラン化合物を、
【化5】

(式中、R,Rは各独立して、H又は−Cで表される基を表し、R,Rはナフチル基又は−Cで表される基を表す。ここで、RはH、F、OCHから選択された基を表す。)
グリニヤール反応用の削状マグネシウムのような金属マグネシウムの存在下に、下記式(3)で表される2,3−ジシアノベンゼン誘導体と反応させることにより製造することができる。
【化6】

(式中、Xはハロゲン原子を表し;RおよびR6は、各独立して炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0010】
上記式(2)で表されるフラン化合物において、好ましいR〜Rとしては、H、フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0011】
また、上記の式(3)で表される2,3−ジシアノベンゼン誘導体において、好ましいハロゲン原子としてはBr原子が、また、好ましいRおよびR6としては、Hおよび炭素数1〜4の低級アルキル基も用いることができるが、炭素数5〜12程度の高級アルキル基が好ましい。
これらの2,3−ジシアノベンゼン誘導体は、入手の容易な1,4−ジヒドロキシ−2, 3−ジシアノベンゼン誘導体を原料として、NBSによるジブロモ化反応、および、後続する光延反応(DIAD及びPPhの存在下での対応するアルコールROHおよび(または) ROHとの反応)により、次の反応スキームにしたがって製造することができる。
【化7】

【0012】
上記反応スキームにおいて、NBSはN−ブロモこはく酸イミド、DIADははジイソプロピルアゾカルボキシレート、PPhはトリフェニルホスフィン、THFはテトラヒドロフラン、r.t.は室温を意味し、65%及び97%は各反応における収率を表す。
【0013】
本発明の上記式(1)で表される化合物は、上記のように式(2)で表されるフラン化合物を、式(3)で表される2,3−ジシアノベンゼン誘導体と反応させることによって、効率良く製造することができる。この反応は、通常は有機溶媒、特にTHF、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、グライム類のようなエーテル系有機溶媒中で行うことが好ましい。他の好適な有機溶媒としては、トルエンやキシレンなどの非極性溶媒、およびN、N−ジメチルホルムアミドやN−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
また、反応温度は0℃〜リフラックス温度の範囲で、使用する原料等に応じて選択することができる。
【0014】
この反応は、R及びRがペンチル基であるものを例にとると、下記の反応スキームのように、5, 6-ジブロモ−2,3−ジシアノ−1、4-ジペンチルオキシベンゼンからベンザイン中間体が生成し、置換フランとのDiels-Alder型[4+2]付加反応により合成前駆体である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体を経由して2、3−ジシアノナフタレン誘導体が生成すると考えられる。
【化8】

【0015】
反応系には、合成前駆体である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体と、最終生成物である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−2,3−ジシアノナフタレン誘導体が共存し、反応温度や反応時間を調整することによって合成前駆体の割合を高めることができる。例えば、反応温度を室温とし、反応時間を2時間以下とした場合には、合成前駆体と最終生成物の割合を1:1程度とすることができる。また、反応温度を高めてリフラックス温度で反応を行うか、反応時間を長くして反応を完結させた場合には、最終生成物である2,3−ジシアノナフタレン誘導体のみを得ることができる。
【0016】
合成前駆体である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体と、最終生成物である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−2,3−ジシアノナフタレン誘導体が共存する反応液は、そのままナフタロシアニン化合物の合成原料として使用することができる。
また、合成前駆体である5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体は、カラムクロマト等により単離することができる。得られた5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体からは、次式にしたがって脱酸素化することによって、5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−2,3−ジシアノナフタレン誘導体を製造することができる。
【化9】

【実施例】
【0017】
次に実施例により本発明をさらに説明するが,以下の実施例は本発明を限定するものではない。
(製造例1:5, 6-ジブロモ-1, 4-ジヒドロキシ-2,3−ジシアノベンゼンの合成)
温度計と塩化カルシウム管を取り付けた500 mL三つ口フラスコに、1, 4-ジヒドロキシ-2,3−ジシアノベンゼン30.0 g(187 mmol)、tert-ブタノール 200 mLを導入し、50℃で加熱溶解した。そこへN-ブロモコハク酸イミド67.6 g(380 mmol, 2 eq.)を15分かけて加え、その後50℃で2時間加熱撹拌した。再びN-ブロモコハク酸イミド67.6 g(380 mmol, 2 eq.)を15分かけて加え、50℃で2時間加熱撹拌した。反応溶液は室温まで放冷した後、亜硫酸水素ナトリウム50 gを水200 mLに溶解した水溶液に加えた。生じた褐色沈殿を吸引ろ過で濾取および水洗した後、真空乾燥した。淡褐色粉末の5, 6-ジブロモ-1, 4-ジヒドロキシ-2,3−ジシアノベンゼンを39.0 g(収率:65%)得た。得られた化合物の物性値を以下に示す。
13C NMR (100 MHz, TMS, d6-DMSO)d 151.73, 124.87, 113.94, 102.09 ppm; IR(KBr)nmax 3314, 2250, 1716, 1561, 1439, 1331, 1275, 1173, 1052,
986, 931, 844, 728, 681, 521, 419 cm-1; MS(APCI) m/z
318 [M + H]+
また、文献(Cook, M. J.; Heeney, M.
J. Chem. Eur. J. 2000, 21, 3958)のスペクトルと照合し、目的化合物の生成を確認した。
【0018】
(製造例2:5, 6-ジブロモ-1, 4-ジペンチルオキシ-2,3-ジシアノベンゼンの合成)
滴下漏斗、塩化カルシウム管、窒素導入管、温度計を取り付けた1000 mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下にて上記製造例1で得られた5, 6-ジブロモ-1, 4-ジヒドロキシ-2,3-ジシアノベンゼン37.1 g(117 mmol)、トリフェニルホスフィン 73.5 g(280 mmol, 2.4 eq.)、1-ペンタノール 25.7 g(292 mmol, 2.5 eq.)、テトラヒドロフラン 170 mLを導入した。反応溶液を氷浴で0℃に冷却し、そこへ滴下漏斗からジイソプロピルアゾジカルボキシレート 59.4 g(294 mmol, 2.5 eq.)をテトラヒドロフラン 250 mLに溶解した溶液を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外して反応溶液を室温に戻し、室温で5時間撹拌した。反応溶液中のテトラヒドロフランをロータリーエバポレーターで留去した。得られた褐色粘調液体にジエチルエーテル100 mLを加え、析出した無色固体(トリフェニルホスフィンオキシド)を吸引ろ過で濾取した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮して褐色固体の粗生成物を94.0 g得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 800 mL, 展開溶媒 ジクロロメタン:ヘキサン = 1 : 5)で精製し、無色結晶の5,
6-ジブロモ-1, 4-ジペンチルオキシ-2,3-ジシアノベンゼンを 51.9 g(収率
97 %)得た。なお、テトラヒドロフランは金属ナトリウムを用いて蒸留したものを用いた(以下の例でも、同様である。)。得られた化合物の物性値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 4.20(t, 4H, J = 6.4 Hz), 1.94 - 1.87(m, 4H), 1.56 -
1.36(m, 8H), 0.95(t, 6H, J = 7.2 Hz) ppm; 13C NMR (100 MHz,
TMS, CDCl3)d 156.38, 129.62, 112.36,
109.21, 76.69, 29.63, 27.73, 22.34, 13.93 ppm; IR(KBr) nmax 2959, 2858, 2234, 1548, 1466, 1423, 1361, 1231, 1072,
1044, 1006, 936, 889, 835, 729, 536, 499 cm-1; MS(APCI) m/z
459 [M + H]+; mp 68.8 - 69.9 ℃
【0019】
(実施例1:6,7−ジフェニル−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン)
30 mLナス型フラスコに窒素導入管と塩化カルシウム管を取り付け、窒素気流下で、ナス型フラスコにグリニャール反応用削状マグネシウム0.41 g(17 mmol, 4 eq.)を入れ室温で10分間攪拌した。そこへ溶媒である乾燥テトラヒドロフラン16mL、3,4-ジフェニルフラン (4.2 mmol, 1 eq.)、5, 6-ジブロモ-1, 4-ジペンチルオキシ-2,3 -ジシアノベンゼン3.84 g(8.4 mmol, 2.0 eq.)を入れ、原料が消失するまで1.0時間、室温で攪拌した。反応終了後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液400 mLに加え、15分間撹拌した。反応溶液を分液ロートに移し、50 mLのジクロロメタンで3回抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾取し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、黒色油状の粗成生物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、淡黄色針状結晶の6,7−ジフェニル−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3-ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンを得た(収率35%)。得られた化合物の物性値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 7.34-7.25(m, 10H), 6.23(s, 2H), 4.10(dt, 2H, J = 8.8, 6.4
Hz), 3.94(dt, 2H, J =8.8, 6.8 Hz), 1.77-1.58(m, 4H), 1.38-1.25(m, 8H),
0.90(t, 6H, J = 7.2 Hz) ppm; 13C NMR (100 MHz, TMS, CDCl3)d, 149.95, 146.53, 146.22, 132.23, 128.89, 128.81, 126.92,
113.36, 108.84, 85.79, 75.35, 29.35, 27.62, 22.17, 13.87 ppm; IR(KBr) nmax 3081, 3056, 3022, 2931, 2870, 2233, 1597, 1574, 1498,
1442, 1377, 1340, 1297, 984, 920, 863, 761, 695 cm-1; MS(APCI) m/z
536 [M + H2O] +; Anal. Calcd. for C34H34N2O3:
C 78.74, H 6.61, N 5.40, found: C 78.59, H 6.83, N 5.43; mp 101.2-101.5 ℃
【0020】
(実施例2:6,7−ジ(4’−フルオロフェニル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンの合成)
実施例1において、3,4-ジフェニルフランに換えて3,4-ジ(4’−フルオロフェニル)フランを使用し、反応時間を1.2時間とした以外は、実施例1と同様にして淡黄色針状結晶の6,7−ジ(4’−フルオロフェニル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンを得た(収率42%)。得られた化合物の物性値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 7.28-7.23(m, 4H), 7.02(t, 2H, J= 8.4 HZ), 6.17(s, 2H), 4.13(dt,
2H, J =8.9, 6.4 Hz), 3.95(dt, 2H, J =8.9, 6.8 Hz), 1.83-1.68(m,
4H), 1.40-1.27(m, 8H), 0.91(t, 6H, J = 6.9 Hz) ppm; 13C NMR
(100 MHz, TMS, CDCl3) d 162.82(d, 1JCF
= 250.4Hz), 149.98, 145.98, 145.63, d 128.85(d, 3JCF = 8.1 Hz), 128.18(d, 4JCF
= 3.6 Hz), 116.26(d, 2JCF = 21.6 Hz), 113.29,
109.11, 85.74, 75.45, 29.42, 27.70, 22.20, 13.90 ppm; IR(KBr) nmax 3072, 2932, 2873, 2228, 1599, 1513, 1503, 1443, 1377,
1338, 1280, 1221, 1162, 983, 920, 865, 839, 685, 567, 538 cm-1;
MS(APCI) m/z 572 [M + H2O] +; mp
160.5-161.2 ℃
【0021】
(実施例3:6,7−ジ(4’−メトキシフェニル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンの合成)
実施例1において、3,4-ジフェニルフランに換えて3,4-ジ(4’−メトキシフェニル)フランを使用し、反応時間を1.2時間とした以外は、実施例1と同様にして黄色粉末状の6,7−ジ(4’−メトキシフェニル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンを得た(収率35%)。得られた化合物の物性値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 7.24(d, 4H, J= 8.6 HZ), 6.84(d, 4H, J= 8.6 HZ),4.10(dt, 2H,
J = 8.9, 6.6 Hz), 3.95(dt, 2H, J =8.9, 6.6 Hz), 3.81(s, 6H),
1.79-1.71(m, 4H), 1.39-1.29(m, 8H), 0.91(t, 6H, J = 6.9 Hz) ppm; 13C
NMR (100 MHz, TMS, CDCl3) d 159.86, 149.91, 146.56, 144.31, 128.33, 124.86, 114.34,
113.45, 108.79, 85.76, 75.41, 55.26, 29.44, 27.71, 22.24, 13.93 ppm; IR(KBr) nmax 2977, 2934, 2871, 2229, 1604, 1573, 1517, 1505, 1439,
1376, 1341, 1292, 1248, 1179, 982, 924, 863, 834, 679, 577, 547 cm-1;
MS(APCI) m/z 596 [M + H2O] +; mp
105.8-106.4 ℃
【0022】
(実施例4:6,7−ジ(1’−ナフチル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンの合成)
実施例1において、3,4-ジフェニルフランに換えて3,4-ジ(1’−ナフチル)フランを使用し、反応時間を2.3時間とした以外は、実施例1と同様にして白色粉末状の6,7−ジ(1’−ナフチル)−1,4−ジペンチルオキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレンを得た(収率36%)。得られた化合物の物性値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 7.84(d, 2H, J= 8.6 HZ), 7.77(d, 2H, J= 8.2 HZ), 7.73(d, 2H,
J = 8.2 HZ), 7.41 (t, 2H, J= 7.4 HZ), 7.31(t, 2H, J= 7.6 HZ), 7.28(t, 2H, J=
7.8 HZ), 7.05(d, 2H, J= 6.9 HZ), 6.41(s, H), 3.84(dt, 2H, J =8.6, 6.6
Hz), 3.69(dt, 2H, J =8.6, 6.9 Hz), 1.52(quint, 4H, J=6.7 Hz),
1.10-1.02(m, 8H), 0.76(t, 6H, J = 6.8 Hz) ppm; 13C NMR (100
MHz, TMS, CDCl3) d 149.91, 146.09, 145.68, 133.71,
130.46, 130.40, 129.24, 128.55, 126.61, 126.26, 125.23, 125.19, 124.97, 113.38,
108.93, 86.92, 75.13, 29.26, 27.37, 22.00, 13.80 ppm; IR(KBr) nmax 3055, 2930, 2867, 2227, 1591, 1505, 1441, 1379, 1340,
1281, 984, 960, 911, 871, 775, 741, 654, 639, 449, 419 cm-1;
MS(APCI) m/z 636 [M + H2O] +; Anal. Calcd.
for C42H38N2O3: C 81.53, H 6.19, N
4.53, found: C 81.62, H 6.27, N 4.37; mp 171.8-173.3 ℃
【0023】
以下の例では、上記の実施例1〜4で得られたエポキシ化合物を脱酸素化して、対応する2,3−ジシアノ−1,4−ジアルコキシ−6,7−ジ置換ナフタレン誘導体を製造した例について記載する。
(参考例1−4)
3.5mLスクリュー管にグリニャール反応用削状マグネシウム0.039g(1.6mmol,4eq.)、トリメチルクロロシラン0.18g(1.7mmol,4eq.),溶媒である乾燥テトラヒドロフラン2mLを入れ、窒素置換して30分間室温で攪拌した。そこへ,上記実施例1〜4で得られたエポキシ化合物(0.4mmol,1eq.)を入れ、再び窒素置換して原料が消失するまで室温で攪拌した。反応終了後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液100 mLに加え、15分間撹拌した。反応溶液を分液ロートに移し、20 mLのジクロロメタンで3回抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾取し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、橙色固体の粗成生物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、対応するナフタレン誘導体を得た。
【0024】
得られたナフタレン誘導体の物性値を以下に記載する。
(参考例1:6, 7-ジフェニル-1, 4-ジペンチルオキシ-2, 3-ジシアノ-ナフタレン)
反応時間:2.5時間、収率:68%。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 8.12(s, 2H), 7.18 - 7.09(m, 10H), 4.33(t, 4H, J = 6.4 Hz),
1.83(quint, 4H, J = 6.8 Hz), 1.47 - 1.25(m, 8H), 0.82(t, 6H, J =
7.2 Hz) ppm; 13C NMR (100 MHz, TMS, CDCl3) δ 157.08, 143.66, 139.75,
129.64, 129.22, 128.10, 127.48, 125.12, 114.44, 98.78, 76.31, 29.73, 27.87,
22.27, 13.86 ppm; IR(KBr) nmax 3061, 2956, 2870, 2223,
1565, 1495, 1340, 1041, 1025, 965, 908, 781, 768, 702, 565, 532 cm-1;
MS(APCI) m/z 503 [M + H]+; mp 119.5 - 121.3 ℃
【0025】
(参考例2:6,7-ジ(4’-フルオロフェニル)-1, 4-ジペンチルオキシ-2,
3-ジシアノナフタレン)
反応時間:1.3時間、収率:84%。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 8.21(s, 2H), 7.17-7.13(m, 4H), 7.01(tt, 4H, J = 2.3 Hz, 8.7
Hz), 4.47(t, 4H, J = 6.6 Hz), 1.95(quint, 4H, J = 6.6
Hz),1.54(quint, 4H, J = 7.3 Hz), 1.41(sext, 4H, J= 7.4 Hz), 0.93(t, 6H, J
= 7.3 Hz) ppm; 13C NMR (100 MHz, TMS, CDCl3)d 162.40(d, 1JCF = 247.7Hz), 157.14,
142.58, 135.71(d, 4JCF = 4.0Hz), 131.36(d, 3JCF
= 8.0Hz), 129.47, 125.25, 115.36(d, 2JCF = 20.0Hz),
114.51, 99.12, 76.45, 29.83, 27.98, 22.36, 13.95 ppm; IR(KBr) nmax 3070, 2960, 2874, 2226, 1905, 1603, 1509, 1339, 1220,
1161, 1015, 966, 842, 817, 546 cm-1; MS(APCI) m/z 538
[M ] +; Anal. Calcd. for C34H32F2N2O2:
C 75.82, H 5.99, N 5.20, found: C 75.74, H 6.07, N 5.16; mp 228.5-230.2 ℃
【0026】
(参考例3:6,7-ジ(4’-メトキシフェニル)-1, 4-ジペンチルオキシ-2,
3-ジシアノナフタレン)
反応時間:2.0時間、収率:82%。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 8.18(s, 2H), 7.13(d, 4H, J = 8.6 Hz), 6.84(d, 4H, J =
8.6 Hz), 4.45(t, 4H, J = 6.6 Hz), 3.82(s, 6H), 1.95(quint, 4H, J
= 7.1 Hz), 1.54(quint, 4H, J = 7.9 Hz), 1.42(sext, 4H, J = 7.3
Hz), 0.94(t, 6H, J = 7.3 Hz) ppm; 13C NMR (100 MHz, TMS, CDCl3)d 159.15, 157.30, 143.43, 132.36, 130.87, 129.28, 124.95,
114.66, 113.75, 98.80, 76.43, 55.23, 29.85, 27.98, 23.46, 22.38, 13.96 ppm;
IR(KBr) nmax 3070, 2956, 2871, 2224,
1608, 1515, 1338, 1295, 1251, 1179, 1029, 835, 560 cm-1; MS(APCI) m/z
562 [M ] +; Anal. Calcd. for C36H38N2O4:
C 76.84, H 6.81, N 4.98, found: C 76.99, H 6.83, N 4.79; mp 128.0-130.0 ℃
【0027】
(参考例4:6,7-ジ(1’-ナフチル)-1, 4-ジペンチルオキシ-2,
3-ジシアノナフタレン)
反応時間:2.5時間、収率:67%。
1H NMR(400 MHz, TMS, CDCl3) d 8.44(s, 1H), 8.49(s, 1H), 7.80(dd, 1H, J = 2.0, 7.6 Hz),
7.71(dd, 1H, J = 1.6, 7.3 Hz), 7.67-7.61(m, 4H), 7.49-7.42(m, 2H),
7.29-7.24(m, 3H), 7.09(t, 1H, J = 7.9 Hz), 7.04(t, 1H, J = 7.9
Hz), 6.95(dd, 1H, J=1.2, 7.1 Hz), 4.54-4.44(m, 4H), 1.88(sext, 4H, J = 6.6
Hz), 1.49-1.26(m, 8H), 0.83(t, 3H, J = 7.4 Hz), 0.80(t, 3H, J=7.3 Hz)
ppm; 13C NMR (100 MHz, TMS, CDCl3)d 157.41, 143.79, 143.60, 137.15, 137.13, 133.31, 133.20,
132.00, 131.18, 129.38, 129.24, 128.38, 128.33, 128.12, 128.07, 127.99, 127.05,
126.58, 126.52, 126.27, 125.78, 125.62, 125.59, 125.41, 124.66, 124.46, 114.65,
99.11, 99.05, 76.63, 76.61, 29.78, 29.75, 27.84, 27.80, 22.30, 22.27, 13.85,
13.82 ppm; IR(KBr) nmax 3047, 2955, 2871, 2224,
1592, 1560, 1509, 1426, 1340, 1177, 1011, 802, 775 cm-1; MS(APCI) m/z
603 [M ] +; Anal. Calcd. for C42H38N2O2:
C 83.69, H 6.35, N 4.65, found: C 83.70, H 6.55, N 4.45; mp 142.1-142.6 ℃
【0028】
上記の各例では、式(1)で示される化合物において、R,及びRが共にペンチルオキシ基である化合物について説明したが、これらの反応経路においては、1, 4位のジペンチルオキシ基は、ナフタレン環の形成反応に関与するものではない。したがって、RおよびR6として他のアルキル基をした場合にも、同様にナフタレン環の形成反応は進行する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体:
【化1】

(式中、R,Rは各独立して、H又は−Cで表される基を表し、R,Rはナフチル基又は−Cで表される基を表す。ここで、RはH、F、OCHから選択された基を表す。また、RおよびR6は各独立して炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記R及びRが、同一の基であることを特徴とする請求項1に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体。
【請求項3】
前記RおよびR6がペンチル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体。
【請求項4】
下記の式(2)で表されるフラン化合物を、
【化2】

(式中、R,Rは各独立して、H又は−Cで表される基を表し、R,Rはナフチル基又は−Cで表される基を表す。ここで、RはH、F、OCHから選択された基を表す。)
金属マグネシウムの存在下に、下記式(3)で表される2,3−ジシアノベンゼン誘導体と反応させることを特徴とする、
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を表し;R及びRは、各独立して炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
下記の式(1)で表される5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の製造方法:
【化4】

(式中、R〜Rは上記と同じものを表す。)
【請求項5】
前記反応を、有機溶媒中で行うことを特徴とする請求項4に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記反応を0℃〜30℃で行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の5,6,7,8−テトラ置換−1,4−ジアルコキシ−5,8−エポキシ−2,3−ジシアノ−5,8−ジヒドロナフタレン誘導体の製造方法。




【公開番号】特開2010−126500(P2010−126500A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304176(P2008−304176)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】