説明

6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法

【課題】 6−ヒドロキシ−2−ピリドン類、特に6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を、安価で収率良く、工業的に有利に製造する方法を提供すること。
【解決する手段】 一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と、一般式(2)で表されるカルボニル化合物とを、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【化16】


(式中、R1はアルキル基、又はアリール基を表す。R2は水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。W1及びW2はそれぞれ電子求引性基を表す。X1及びX2はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、N−置換アミノ基を表す。但し、X1とX2が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X1とX2は同時にN−置換アミノ基であることはない。Zは水素原子、または脱離基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料、医薬品等の合成中間体として有用な6−ヒドロキシ2−ピリドン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6−ヒドロキシ−2−ピリドン類は、種々の機能性材料、医薬品の合成中間体として有用な化合物である。
【0003】
6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の一種である6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の合成方法としては、従来、アルデヒド類とシアノ酢酸エステルとアンモニアとの反応(例えば、非特許文献1〜2)や、アルデヒド類と2−シアノ酢酸アミドとの反応(例えば、非特許文献3)が知られている。しかしながら、従来公知の方法で、6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を工業的規模で合成する場合、反応時間が長い、収率が低い、製造適性が低い、およびコストが高いなどの問題があった。例えば、非特許文献1に記載の方法では、追試実験の結果収率が8〜13%であり、一方、非特許文献3に記載の方法は、追試実験の結果、粗収率は43%であるが純度が75%程度と低く、純収率を見積もっても収率30%程度であった。
【非特許文献1】Journal of the Chemical Society [Section] C: Organic (1968), (8), 960
【非特許文献2】Journal of the Organic Chemistry (1974), Vol. 39, No. 25, 3735
【非特許文献3】Collection of Czechoslovak Chemical Communications (1960), Vol. 25, 2173
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる実状を鑑みてなされたものであり、6−ヒドロキシ−2−ピリドン類、特に6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を、安価で収率良く、工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、合成経路、反応条件等を種々、詳細に検討したところ、下記記載の合成方法により達成できることを見出した。すなわち、本発明の課題は、下記手段により達成された。
(1)一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と、一般式(2)で表されるカルボニル化合物とを、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【0006】
【化4】

【0007】
(式中、R1はアルキル基、又はアリール基を表す。R2は水素原子、アルキル基、又はアリール基、ヘテロアリール基を表す。W1及びW2はそれぞれ電子求引性基を表す。X1及びX2はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、又はN−置換アミノ基を表す。但し、X1とX2が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X1とX2は同時にN−置換アミノ基であることはない。Zは水素原子、または脱離基を表す。)
(2)W1及びW2が、それぞれシアノ基であることを特徴とする、上記(1)に記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
(3)Zが、アルコキシ基であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
(4)R2が、水素原子であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
(5)一般式(4)で表されるオルソエステルと、一般式(5)で表されるシアノ酢酸誘導体とを、塩化亜鉛を触媒として縮合反応させ、一般式(6)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物を合成した後、該α,β−不飽和カルボニル化合物を単離することなく、一般式(7)で表されるシアノ酢酸誘導体を加え、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(8)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
【0008】
【化5】

【0009】
(式中、R3はアルキル基、又はアリール基を表す。R4はアルキル基を表す。X3及びX4はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、又はN−置換アミノ基を表す。但し、X3とX4が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X3とX4は同時にN−置換アミノ基であることはない。)
(6)X3がアルコキシ基であり、X4がアミノ基であることを特徴とする上記(5)に記載の一般式(8)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
(7)上記(5)、又は(6)に記載の製造方法で製造した6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を用いて、下記一般式(9)で表される2,6−ジクロロピリジン−3,5−ジカルボニトリル類を製造することを特徴とする2,6−ジクロロピリジン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
【0010】
【化6】

【0011】
(式中、R5はアルキル基、又はアリール基を表す。)
【0012】
本発明は、一般式(3)で表されるような3−位及び5−位に電子求引性基が置換されている6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法において、反応基質として一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と一般式(2)で表されるカルボニル化合物を使用して合成することに特徴がある。上記構成とすることで、安価かつ高収率で、一般式(3)で表されるような6−ヒドロキシ−2−ピリドン類を得ることができる。
特に、一般式(6)のような、オレフィン部に脱離基OR4を導入した化合物(中間体)を用いることで、さらに良好な結果が得られる。この理由としては、一般式(6)の化合物を経由してピリジン環を形成させることにより、1,4−ジヒドロピリジン型の反応中間体を経由しない為、1,4−ジヒドロピリジン型から、ピリジンへの酸化反応に付随する副反応がなく、高収率で6−ヒドロキシ−2−ピリドン得ることができるためである。(1,4−ジヒドロピリジン型から、ピリジンへの酸化反応に付随する副反応についてはJ.Org.Chem.,Vol.39,No.25 1974,3735に詳しい記載がなされている。)
さらに、一般式(6)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物は、一般式(4)で表されるオルソエステルと一般式(5)で表わされるシアノ酢酸誘導体とを塩化亜鉛触媒を用いて縮合反応させることでほぼ定量的に得られる為、単離せずに次工程の環化反応へと使用することができ、結果としてさらなる高収率化が達成可能となった。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、6−ヒドロキシ−2−ピリドン類、特に6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を、安価且つ高収率で工業的に有利に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
以下に、本発明の一般式(1)〜(9)で表わされる化合物について、詳細に説明する。
【0016】
1はアルキル基、またはアリール基を表す。アルキル基は、直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でも良く、さらに置換基を有していても良い。アリール基は、いずれのものでも良く、さらに置換基を有していても良い。
1として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びフェニル基であり、さらに好ましくはメチル基及びエチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0017】
2は水素原子、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。アルキル基は直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよく、さらに置換基を有していてもよい。アリール基、ヘテロアリール基はいずれのものでもよく、さらに置換基を有していてもよい。
2として好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基であり、より好ましくは水素原子、アリール基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0018】
3は、R1と同義であり、好ましいものもR1と同じである。
【0019】
4はアルキル基を表す。アルキル基は、直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよく、さらに置換基を有していても良い。R4として、好ましくはメチル基、エチル基、及びn−プロピル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
【0020】
5は、R1、及びR3と同義であり、好ましいものもR1、及びR3と同じである。
【0021】
1及びW2は、それぞれ電子求引性基を表す。W1とW2は同じであっても、異なっていても良い。電子求引性基とは、電子効果で電子求引的な性質を有する置換基であり、置換基の電子求引性、電子供与性の尺度であるHammettの置換基定数σpを用いれば、σp値が大きな値を示す置換基である。例えば、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、スルファモイル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、トリフルオロメチル基などである。W1及びW2として好ましい置換基はシアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基であり、より好ましくはシアノ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基であり、さらに好ましくはシアノ基である。特にW1とW2が、ともにシアノ基であることが最も好ましい。
Hammettの置換基定数σp値について若干説明する。Hammett則は、ベンゼン誘導体の反応、または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。Hammett則で求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J.A.Dean編、「Lange's Handbook of Chemistry」第12版、1979年(Mc Graw−Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁、1979年(南光堂)に詳しい。
【0022】
1及びX2はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、又はN−置換アミノ基を表す。但し、X1とX2が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X1とX2は同時にN−置換アミノ基であることはない。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。N−置換アミノ基は、N−アルキルアミノ基(例えばN−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基など)、N−アリールアミノ基(例えばN−フェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基など)、N−ヘテロアリールアミノ基(N−チアゾリルアミノ基、N−イミダゾリルアミノ基など)を示す。N−置換アミノ基は、さらに置換基を有していてもよい。
1及びX2の組み合わせとして、好ましくは、ともにアミノ基である組み合わせか、アルコキシ基とアミノ基である組み合わせか、アルコキシ基とN−置換アミノ基である組み合わせである。より好ましくは、ともにアミノ基である組み合わせか、アルコキシ基とアミノ基である組み合わせであり、最も好ましくはX1がアルコキシ基(特にメトキシ基もしくはエトキシ基)でありX2がアミノ基の組み合わせである。
【0023】
3及びX4は、それぞれX1とX2と同義であり、好ましい組み合わせもX1とX2の組み合わせと同義である。
【0024】
Zは水素原子、または脱離基を表す。脱離基とは、反応により脱離する置換基であればいずれであってもよいが、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、スルホニルオキシ基、カルボニルオキシ基などが例として挙げられる。
Zとして、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基であり、より好ましくは水素原子、アルコキシ基であり、最も好ましくはアルコキシ基(特にメトキシ基もしくはエトキシ基)である。
【0025】
一般式(1)〜(9)の具体的な化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
一般式(1)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化7】

【0028】
一般式(2)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
【化8】

【0030】
一般式(3)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
【化9】

【0032】
一般式(4)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
【化10】

【0034】
一般式(5)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
【化11】

【0036】
一般式(6)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
【化12】

【0038】
一般式(7)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
【化13】

【0040】
一般式(8)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
【化14】

【0042】
一般式(9)で表わされる化合物例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化15】

【0044】
本発明の化合物(本発明で使用する化合物、および本発明によって得られる化合物)は、その置かれた環境によって幾何異性体、互変異性体を取り得る。本発明においては代表的な形の1つで記述しているが、本発明の記述と異なる幾何異性体、互変異性体も本発明の化合物に含まれる。
【0045】
本発明の化合物には、その合成過程や単離方法等によって対塩を伴っているものも含まれる。対塩としてはいずれのものであっても良いが、例えばハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、有機スルホン酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。構造によっては分子内塩を形成していても良い。
【0046】
次に、本発明の一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と、一般式(2)で表されるカルボニル化合物とを反応させ6−ヒドロキシ−2−ピリドン類を合成する環化反応条件について説明する。
【0047】
一般式(1)で表される化合物は、いずれの方法を用いて製造してもよい。例えば、R1がメチル基、W1がシアノ基、X1がエトキシ基、Zが水素の場合、Tetrahedron Letters 39 (1988) 5121-5124にアセトアルデヒドとシアノ酢酸エチルから合成する方法が記載されている。また、R1がメチル基、W1がシアノ基、X1がアミノ基、Zが水素の場合、Russian Journal of Organic Chemistry 29 (1993) 915-917にアセトアルデヒドとシアノ酢酸アミドから合成する方法が記載されている。米国特許第2,824,121号明細書には、オルソ酢酸トリエチルとシアノ酢酸エチルとを酢酸中で反応させ、R1がメチル基、W1がシアノ基、X1がエトキシ基、Zがエトキシ基であるα,β−不飽和カルボニル化合物を合成する方法が記載されている。その他、置換基を有しているものは、これら文献記載の方法を参考にして類似の合成法で合成することができる。
【0048】
溶媒としては、本発明の環化反応に影響を与えないものであれば、いずれのものを使用しても良い。例えば、アルコール類(例としてメタノール、エタノール)等を溶媒として用いることが出来る。溶媒の量は一般式(1)の化合物に対し、0.1〜100倍(質量)が好ましく、0.1〜10倍(質量)がより好ましい。
【0049】
使用する塩基としては、本発明の環化反応が進行する塩基であれば、いずれのものを使用しても良い。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、及びt−ブトキシカリウム等が挙げられる。好ましくは、水酸化カリウム、炭酸カリウム、及び、ナトリウムメトキシドであり、より好ましくは、ナトリウムメトキシドである。塩基の量は一般式(2)の化合物に対し1.0当量以上であればいずれであってもよい。また反応初期に全量混合していなくても最終的に1.0当量以上になるように分割添加しても良い。好ましい塩基の量は、1.0〜2.0当量であり、より好ましくは1.0〜1.5当量であり、最も好ましくは1.0〜1.1当量である。
【0050】
一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と、一般式(2)で表されるカルボニル化合物の反応させる比率は(一般式(1)で表わされる化合物のモル数/一般式(2)で表わされる化合物のモル数)が0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましく、1.0であることが最も好ましい。また反応初期から全量混合していなくても最終的に上記の比になるように、分割添加しても良い。
【0051】
反応温度は、いずれの温度であっても良いが、0℃〜125℃が好ましい。より好ましくは10℃〜70℃であり、さらにより好ましくは20℃〜40℃である。反応時間は反応温度に依存するが、好ましくは5分〜12時間であり、より好ましくは5分〜8時間であり、さらに好ましくは5分〜4時間である。
【0052】
続いて、一般式(4)で表されるオルソエステルと、一般式(5)で表されるシアノ酢酸誘導体とを、塩化亜鉛を触媒として縮合反応させ、一般式(6)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物を合成した後、該α,β−不飽和カルボニル化合物を単離することなく、一般式(7)で表されるシアノ酢酸誘導体を加え、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(8)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の合成する場合の反応条件について詳細に説明する。
【0053】
一般式(4)で表されるオルソエステルと、一般式(5)で表されるシアノ酢酸誘導体との縮合反応は、この縮合反応、及び、後の環化反応に影響しない溶媒であれば使用してもよいが、無溶媒で反応させることが好ましい。
【0054】
触媒として使用する塩化亜鉛の量は、一般式(4)で表されるオルソエステルに対して0.01当量〜1.0当量が好ましく、より好ましくは0.01当量〜0.5当量であり、さらに好ましくは0.01当量〜0.1当量である。
【0055】
一般式(4)で表されるオルソエステルと、一般式(5)で表されるシアノ酢酸誘導体の反応させる比は、(一般式(4)で表わされる化合物のモル数/一般式(5)で表わされる化合物のモル数)が1.0〜1.5であることが好ましく、より好ましくは1.0〜1.2であり、最も好ましくは1.0である。
【0056】
反応温度は、この縮合反応が進行する温度であれはいずれの温度でも良い。好ましくは50℃〜150℃であり、より好ましくは55℃〜130℃であり、さらに好ましくは60℃〜125℃である。反応時間は反応温度に依存するが、好ましくは5分〜12時間であり、より好ましくは5分〜8時間であり、さらに好ましくは5分〜4時間である。
【0057】
前記縮合反応において副生成物としてアルコールが生じる。生じたアルコールは反応中に、反応系外に留去することが好ましい。
【0058】
上記縮合反応終了後、一般式(6)のα,β−不飽和カルボニル化合物を単離することなく、溶媒、及び、一般式(7)で表わされるシアノ酢酸誘導体を加え、塩基性条件下で反応させ、6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類(一般式(8))を合成する。α,β−不飽和カルボニル化合物とシアノ酢酸誘導体の比、溶媒量、塩基種、塩基量、反応時間、反応温度は前記一般式(3)で表わされる化合物形成における環化反応と同様である。
【0059】
本発明の反応系に、反応を促進する効果や、原料や生成物の安定性を向上させる効果などを有する添加剤を併用してもよい。
【0060】
本発明における一般式(3)、及び、一般式(8)で表される化合物は写真用添加剤、増感色素、染料、電子材料、医薬品等の合成中間体として使用することが出来る。例えば、独国特許発明第2206506号明細書に記載のように2−位のカルボニル基、及び、6−位のヒドロキシル基をクロロ基などの脱離基にさらに変換して使用しても良い。
【実施例】
【0061】
本発明の実施例によってさらに詳細に説明するが、勿論本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
化合物例(1−4) 5.0g(0.040モル)、化合物例(2−5) 3.4g(0.040モル)、メタノール28mLを室温で混合した後、35℃に加温し溶解させた。室温まで冷却し、水酸化カリウム2.4g(0.040モル)をメタノール20mLに溶解させた溶液を30分間かけて滴下した。室温で4時間撹拌した後、反応液を10℃まで冷却し、沈殿を吸引ろ過により、ろ別し、50℃で1日乾燥させ、化合物例(3−1)のカリウム塩を収量4.4g(収率52%)で得た。
マススペクトルを測定したところ、親ピークとして[M−K]-である174が観測されたこと及び1H−NMRスペクトル(300MHz,DMSO−d6)を測定したところ、δ(ppm)=2.18(s,3H,CH3)、10.33(br,1H,NH)が観測されたことにより化合物例(3−1)が生成していることを確認した。
【0062】
[実施例2]
化合物例(4−1)288g(2.40モル)、化合物例(5−1)198g(2.00モル)、無水塩化亜鉛13.7g(0.10モル)を室温で混合し、外温85℃から95℃に昇温した。外温85℃から95℃で加熱撹拌しながら、生成するメタノールを、ディーンスターク管を用いて留去しながら2.5時間反応させた。反応後70℃まで放冷し、メタノール650mL注入した(A液)。別のフラスコに28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液386g(2.00モル)、メタノール600mL、化合物例(7−4)168g(2.00モル)を室温で混合し、ここにA液を水冷下35℃以下に保ちながら、約30分で滴下した。室温で1.5時間攪拌した後、温度を15℃に冷却し、沈殿をろ別した。冷メタノール(10℃)250mLでふりかけ洗いをし、得られた結晶を70℃で1日乾燥させ、化合物例(8−1)のナトリウム塩(1メタノール含有)を収量312g(収率68.0%)で得た。
マススペクトルを測定したところ、親ピークとして[M−Na]-である174が観測されたこと及び1H−NMRスペクトル(300MHz,DMSO−d6)を測定したところ、δ(ppm)=2.18(s,3H,CH3)、10.33(br,1H,NH)が観測されたことにより化合物例(8−1)が生成していることを確認した。
【0063】
[比較例]
2mol/Lアンモニアメタノール溶液 650mL(1.30モル)を10℃に冷却し、シアノ酢酸エチルを213mL(2.00モル)、アセトアルデヒド 56mL(1.00モル)を15℃以下で滴下した。内温10〜15℃で3時間撹拌し、その後室温で3時間、ついで60度で3時間反応させた。反応液を5℃以下まで冷却し、析出している結晶を吸引ろ過により、ろ別し、50℃で1日乾燥させ、化合物例(3−1)のアンモニウム塩を25.0g(収率13%)で得た。
マススペクトルを測定したところ、親ピークとして[M−NH4-である174が観測されたこと、及び1H−NMRスペクトル(300MHz,DMSO−d6)を測定したところ、δ(ppm)=2.18(s,3H,CH3)、10.33(br,1H,NH)が観測されたことにより、化合物例(3−1)が生成していることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物と、一般式(2)で表されるカルボニル化合物とを、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【化1】

(式中、R1はアルキル基、又はアリール基を表す。R2は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。W1及びW2はそれぞれ電子求引性基を表す。X1及びX2はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、又はN−置換アミノ基を表す。但し、X1とX2が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X1とX2は同時にN−置換アミノ基であることはない。Zは水素原子、又は脱離基を表す。)
【請求項2】
1及びW2が、それぞれシアノ基であることを特徴とする、請求項1に記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【請求項3】
Zが、アルコキシ基であることを特徴とする請求項1または2に記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【請求項4】
2が、水素原子であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の一般式(3)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン類の製造方法。
【請求項5】
一般式(4)で表されるオルソエステルと、一般式(5)で表されるシアノ酢酸誘導体とを、塩化亜鉛を触媒として縮合反応させ、一般式(6)で表されるα,β−不飽和カルボニル化合物を合成した後、該α,β−不飽和カルボニル化合物を単離することなく、一般式(7)で表されるシアノ酢酸誘導体を加え、塩基性条件下で反応させることを特徴とする一般式(8)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
【化2】

(式中、R3はアルキル基、又はアリール基を表す。R4はアルキル基を表す。X3及びX4はそれぞれアルコキシ基、アミノ基、又はN−置換アミノ基を表す。但し、X3とX4が同時にアルコキシ基であることはなく、また、X3とX4は同時にN−置換アミノ基であることはない。)
【請求項6】
3がアルコキシ基であり、X4がアミノ基であることを特徴とする請求項5に記載の一般式(8)で表される6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
【請求項7】
請求項5、又は請求項6に記載の製造方法を用いて製造した6−ヒドロキシ−2−ピリドン−3,5−ジカルボニトリル類を用いて、下記一般式(9)で表される2,6−ジクロロピリジン−3,5−ジカルボニトリル類を製造することを特徴とする2,6−ジクロロピリジン−3,5−ジカルボニトリル類の製造方法。
【化3】

(式中、R5はアルキル基、又はアリール基を表す。)

【公開番号】特開2006−213639(P2006−213639A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28013(P2005−28013)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】