説明

6行程ツインエンジン

【課題】
従来の4行程ツインエンジンを、燃料消費の少ない6行程エンジンに設計変更しようとするとき、6行程エンジンがもつ振動・変動バランス利点を導きいれた構造にして、変更を円滑にできるようにする。
【解決手段】
並列するツインシリンダにおいて、クランク軸とピストンとをコンロッドを介して両ピストンが互いに180°の位相を持って往復動する関係に連結し、シリンダヘッドに設けた点火栓へ一方のピストンが点火時期に至ったときに、両点火栓を同時に発火させるように構成することで解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの3回転につき一回の爆発行程をもつ6行程エンジン、特に、排気行程と吸気行程との間に、吸気弁が閉じ排気弁の開いた状態でピストンを昇降させる冷却と放出との2個の行程を介在させたものの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からエンジンの運転中にシリンダ内面の温度を下げることを目的として、4行程エンジンの吸気、あるいは排気行程の後に、外気、あるいは排気をシリンダ内へ導入するべく冷却と放出との2個の行程を介在させた6行程エンジンが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一般に、4行程の2気筒のエンジン、いわゆる4行程ツインエンジンでは、出力行程を等間隔で行わせるため、2個のピストンを同位相で運動させており、往復質量が大きくなってバランス重錘も重くなることは仕方がない事としていた。また、エンジンの点火回路として分配器を省略するために、クランク軸の1回転毎に、2個のシリンダに設けた点火栓を同時に発火させる構造は、すでに慣用技術となっている。
【0004】
しかしながら、この構造で点火装置を6行程ツインエンジンに適用しようとすると、上記慣用された点火コイルを用いる場合、点火回路は一方のシリンダが点火時期に至ったときに点火を行う必要から、一方のシリンダの点火から他方のシリンダの点火時期までが、クランク軸の二回転後であったり、一回転後であったりと、等間隔で行えなくなり、不要な振動を発生させてしまう。
【0005】
また、一方のシリンダが点火時期にあるとき、他方のシリンダが吸気弁の開弁時期に当たるため、吸気弁と排気弁のオーバーラップの設定の仕方によっては、燃焼室へ流入し始めた混合気に点火することとなり、吸気通路へ逆火するおそれを生じる。
【0006】
もっとも、逆火のおそれは各シリンダごとに点火コイルを用意し、それぞれ適時に点火することによって解消できるが、シリンダごとに点火コイルを準備するか、ディストリビュータが必要となる。そのため重量の大きい点火コイルの数が増えたり、ディストリビュータの消耗の激しさのため、エンジンの品質が低下する。
【特許文献1】特開2007−71193号公報
【特許文献2】特開平9−273430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の4行程ツインエンジンを、燃料消費の少ない6行程エンジンに設計変更しようとするとき、同一のエンジンを種々の車種の車両で共用するときの便宜のため、車両自体や車両に連結されているエンジン部品を交換することなく行えるのが望ましい。そこで、6工程のバランスがよい利点を取り入れ、車両とエンジンとに跨って使用される代表的な部品である点火コイル系等を変更せずに、6行程化することのできるエンジン構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クランク軸を支持したクランクケースに、互に並設された2個を一対とするシリンダ孔を有するシリンダを設け、そのシリンダ孔にピストンを摺動可能に挿通するとともに、前記シリンダ孔を閉じるシリンダヘッドに点火栓と吸排気通路を開閉する吸気弁と排気弁とを設け、前記ピストンが3往復する間に前記吸気弁と排気弁とを1度づつ開閉させ、吸入、圧縮、燃焼、排気の行程の次に、吸気弁が閉じ排気弁の開いた状態でピストンを昇降させる冷却と放出との2個の行程を介在させた6行程エンジンにおいて、前記クランク軸とピストンとをコンロッドを介して両ピストンが互いに180°の位相を持って往復動する関係に連結し、前記シリンダヘッドに設けた点火栓へ一方のピストンが点火時期に至ったときに、両点火栓を同時に発火させるように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る6行程ツインエンジンは、従来の4行程ツインエンジンの、クランク軸の位相を変え、2個にシリンダに挿通されたピストンが互いに180°の位相を持って往復動する関係に連結したものであるから、エンジンと車両との間に跨って存在する部品を新設あるいは改装する必要がなく、すでに、既存の車両に変更を加えることなく、エンジンの6行程化が可能となる利点がある。しかも、ピストンが互いに反対向きの運動をするようになるから、1次慣性力は静的にも、動的にも小さなバランス重錘でとれ、等間隔出力工程になるから、トルク変動も最小限に抑える事ができる。
【実施例1】
【0010】
以下、図面によって、本発明の一実施例を説明する。図1中、10は本発明に係る6行程ツインエンジンである。6行程ツインエンジン10は、クランク軸12を回転可能に支持したクランクケース14と、そのクランクケース14に結合されたシリンダ15を有する。16はクランクケース14内の圧力を抜くための周知の息抜き管である。息抜き管16はエアークリーナー(図示していない)に開口することがおおいが、クランクケース14内の圧力変動が少なくなるため、吸気性能に及ぼす悪影響は低下する。
【0011】
シリンダ15は水ジャケット17の内部に並設された2個のシリンダ孔18、18を有し、それらにはピストン20が摺動可能に挿通されている。前記クランク軸12は2個のクランクピンが180°の位相をもって配置されており、コンロッド22を介して前記ピストン20へ連結されている。よって、2個のピストン20は互に反対方向へ摺動することになる。よって、一方のピストンが上昇行程にあるとき、他方のピストンが下降行程となるから、ピストンの移動に伴うクランクケース内の圧力変化が少なく、前記息抜き管16の負担が少なくて済むのである。
【0012】
23は前記シリンダ孔18を覆って取り付けられたシリンダヘッドである。前記シリンダ孔18はピストン20の上方をシリンダヘッド23に覆われ、その内面にはピストン20とシリンダヘッド23との間に燃焼室25が形成される。26は燃焼室25内に電極を臨ませた点火栓であり、共通の点火コイル(図示してない)によって点火される。
【0013】
シリンダヘッド23にはカム軸30が回転可能に支持されており、タイミングチェーン31を介してクランク軸12によって駆動される。カム軸30を駆動する駆動スプロケット32の歯数は、従動スプロケット33の歯数の1/3に設定されている。また、シリンダヘッド23には吸気通路35aと排気通路36aとを開閉する吸気弁35と排気弁36とが設けられている。かくて、カム軸30はクランク軸12の1/3の速度で回転し、前記ピストン20が3往復する間に一回転する。
【0014】
前記カム軸30の軸端には周縁にスリット37を設けた円形のスリット板38と、点火時期センサ39とが設けられており、スリット板38が回転してスリット37が点火時期センサ39を通過する都度、点火信号が発せられる。なお、このスリット板38と点火時期センサ39との組み合わせは新規ではなく、光を使ったもの、磁気を使ったものが慣用されている。
【0015】
この実施例に係る6行程ツインエンジン10は以上の構成を有するので、その運転中、ピストンが3往復する間に前記吸気弁35と排気弁36とを1度づつ開閉させ、吸入、圧縮、燃焼、排気の4個の行程を行った後に、引き続いて吸気弁が閉じ排気弁の開いた状態でピストンを昇降させ、一旦、排気通路へ排出して温度の低下した既燃ガスを再び燃焼室内へ吸入させる冷却行程と、シリンダ内で吸熱した既燃ガスを排気通路へ排出させる放出行程との2個の行程を行う。
【0016】
これを点火時期との関係で詳述する。図3で示すように、仮に一方のシリンダをLシリンダ、他のシリンダをRシリンダとすると、まず、Lシリンダが上死点Tにあるとき、Rシリンダは下死点Bとなり、クランク軸12の回転に伴ってLシリンダが吸入行程を、Rシリンダが排気行程を行う。
【0017】
さらにクランク軸12の回転が進むとピストンの進行方向が反転し、Lシリンダは圧縮行程をRシリンダは冷却行程を行い、その行程の終期に点火コイルが発火し、圧縮行程にあったLシリンダが上死点に達すると反転して膨張行程を行い、冷却行程にあったRシリンダでは点火栓で発火が行われるものの、シリンダ内に混合気がないので、燃焼が行われず、ムダ火となる。
【0018】
以下、同様にして、一方のシリンダが点火時期に至ったとき、他方のシリンダは冷却行程、すなわち、燃焼室25が拡大して排気通路から既燃ガスを燃焼室25内へ導入する行程にあり新気を導入する行程にないら、着火するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】6行程ツインエンジンの概要を示す概要断面図である。
【図2】図1中のII−II断面図である。
【図3】6行程エンジンの作動行程図である。
【符号の説明】
【0020】
10 6行程ツインエンジン
12 クランク軸
14 クランクケース
15 シリンダ
16 息抜き管
17 水ジャケット
18 シリンダ孔
20 ピストン
22 コンロッド
23 シリンダヘッド
25 燃焼室
26 点火栓
30 カム軸
31 タイミングチェーン
32 駆動スプロケット
33 従動スプロケット
35 吸気弁
35a 吸気通路
36 排気弁
36a 排気通路
37 スリット
38 スリット板
39 点火時期センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を支持したクランクケースに、互に並設された2個を一対とするシリンダ孔を有するシリンダを設け、そのシリンダ孔にピストンを摺動可能に挿通するとともに、前記シリンダ孔を閉じるシリンダヘッドに点火栓と吸排気通路を開閉する吸気弁と排気弁とを設け、前記ピストンが3往復する間に前記吸気弁と排気弁とを1度づつ開閉させ、吸入、圧縮、燃焼、排気の行程の次に、吸気弁が閉じ排気弁の開いた状態でピストンを昇降させる冷却と放出との2個の行程を介在させた6行程エンジンにおいて、前記クランク軸とピストンとをコンロッドを介して両ピストンが互いに180°の位相を持って往復動する関係に連結してなる6行程ツインエンジン。
【請求項2】
請求項1において、前記シリンダヘッドに設けた点火栓へ一方のピストンが点火時期に至ったときに、両点火栓を同時に発火させるように構成してなる6行程ツインエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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