説明

90度光ハイブリッド干渉計及び90度光ハイブリッド干渉計の製造方法

【課題】
OIF標準の出力ポート配置を実現しつつ、デバイスのコンパクト化が可能な光回路構成を有する、90度光ハイブリッド干渉計を提供する。
【解決手段】
TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいて、I相側とQ相側のいずれか一方の、信号光導波路アームと局部発振光導波路アームとの対に、光路長差を設けた構造として、I相側信号とQ相側の信号との間に相間位相差を与え、I相側の結合器とQ相側の結合器がそれぞれ有する出力干渉特性同士の位相差と、相間位相差とを合計した、出力位相差をπ/2とすることにより、8つの出力ポートの出力信号を、上からTE光信号側のIp、In、Qp、Qn、およびTM光信号側のIp、In、Qp、Qnの順に配列する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は90度光ハイブリッド干渉計に関し、特に光導波路技術を用いた平面光波回路で構成した90度光ハイブリッド干渉計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、100Gbit/秒を超える超高速通信において、波長利用効率、受信特性、分散補償能力に優れる偏波直交多重多値デジタル信号変調方式(DP−QPSK: Dual Polarization Differential Quadrature Phase Shift Keying)による通信技術が注目されている。DP−QPSK方式における受信器(レシーバ)には、光信号を偏波分離する機能と、偏波分離した光信号から位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド機能が必要とされる。この位相情報は、互いにπの位相差を有するIpとIn、並びにIpとInに対してそれぞれπ/2の位相遅延を有する QpとQnとからなる、I−Q平面上の4値の位相情報である。
【0003】
このような機能を有するレシーバは、高速データ通信を推進する業界団体であるOIF(Optical Internetworking Forum)で標準化が進められている。例えば8つの出力信号を出力するポートの配列順などはOIFにてその仕様が取り決められており、レシーバの開発はこれらのOIFの仕様に則って行われている。
【0004】
ところで、このようなDP−QPSK方式のレシーバの機能を実現するデバイスには、光導波路技術を用いた平面光波回路が有力とされている。光導波路技術は、半導体集積回路製造プロセスと同様の微細加工技術により、基板上に多様な形状の光導波路を形成するもので、集積化や量産に適したものである。
【0005】
このような光波回路によるDP−QPSK方式のレシーバは、近年開発が進められており、例えば非特許文献1には図6に示す光波回路構造が記載されている。図6の光波回路は、上述した偏波分離機能と90度光ハイブリッド機能とを平面光回路内に集積したものであり、このうち90度光ハイブリッド機能を担っている部分の平面光回路の構成を模式図として図7に示す。
【0006】
この光回路においてTE(Transverse Electric)光信号およびTM(Transverse Magnetic)光信号について90度光ハイブリッド機能は、それぞれ4つのアームが干渉計を構成する。そして、当該4本のアームの内、特定のアームを他のアームより光導波路内を伝播する信号光波長の1/4に相当する分だけ長くすることにより光路長差を付与して実現される。非特許文献1に記載の90度光ハイブリッド干渉計では、アーム33とアーム35の2つが、それぞれ他のアームより光路長差分だけ長い。このように光路長差を付与すると、出力される干渉信号は図8に示すように、TE光信号およびTM光信号について、それぞれπ/2の位相差を有する4つの光信号として出力される。図8において横軸はTE信号光と局発光の位相差を表しており、InTEとQnTE、並びにIpTEとQpTEは、共にπ/2の位相差を持って出力される。またInTEとIpTE、並びにQnTEとQpTEは、共にπの位相差を持って出力される。同様に、InTMとQnTM、並びにIpTMとQpTMは、共にπ/2の位相差を持って出力される。またInTMとIpTM、並びにQnTMとQpTMは、共にπの位相差を持って出力される。なお、図7におけるこれらの出力信号が出力されるポートの配列は、OIFで取り決められた仕様に従ったものになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】橋本俊和、他7名、「平面光波回路を用いた偏波多重光ハイブリッドモジュール」、2009年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会エレクトロニクス講演論文集1、2009年9月15日、p.194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、出力ポートを上記のOIF標準に則って配置する場合、図7のような光回路構成では、2分岐した局部発振光を伝播する光導波路のうち一方が、信号光を伝播する光導波路と交差するポイントが生じる。この交差部においては、クロストーク、すなわち本来導波してはならない導波路側に光が結合してしまう現象の防止はもちろん、過剰損の発生を回避するために、交差角度をできるだけ直角に近づけた設計としなければならい。また、90度光ハイブリッド干渉計では、スキュー特性を満足させるため入力から出力までの各光パスにおいて光路長が同一であることが望ましい。すなわち、このような構成においては交差角度と光路長の制約を受けることになり、交差部数が多いほど光導波路のレイアウトが冗長化・複雑化するため、OIF標準の出力ポート配置を実現するための設計自由度を損なうだけでなく、チップサイズも大きくなる。
【0009】
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、OIF標準の出力ポート配置を実現しつつ、光導波路アームの交差部分を削減した光回路構成の、90度光ハイブリッド干渉計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の90度光ハイブリッド干渉計は、偏波分離したTransverse Electric(TE)光信号およびTransverse Magnetic(TE)光信号から、それぞれ、互いにπの位相差を有する位相情報IpとIn、並びに前記Ipと前記Inに対してそれぞれπ/2の位相遅延を有する位相情報QpとQnとからなる、I−Q平面上の4値の位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド干渉計であって、前記偏波分離したTE光信号およびTM光信号をそれぞれ入力する2つの信号光入力ポートと、前記2つの信号光入力ポートの間に配置された、局部発振光を入力する局部発振光入力ポートと、前記信号光入力ポートから入力され、それぞれI相側とQ相側とに2分岐された、前記TE光信号およびTM光信号を伝播する信号光導波路アームと、前記局部発振光入力ポートから入力され、前記TE光信号側と前記TM光信号側とに2分岐された後、さらにそれぞれ2つに分岐された前記局部発振光を伝播する局部発振光導波路アームと、前記TE光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TE光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する4つの光結合器と、前記TM光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TM光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する2つの光結合器と、前記TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいて、2つの前記光結合器から出力される、対をなす信号光と局部発振光との位相差による4つの干渉信号を、それぞれ前記位相情報Ip、In、Qp、Qnとして取り出す4つの出力ポートと、を有し、前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側と前記Q相側のいずれか一方の、前記信号光導波路アームと前記局部発振光導波路アームとの対に、光路長差を設けることにより、前記I相側と前記Q相側の出力干渉信号IpとQp、並びにInとQnとの間にそれぞれ前記光路長差に対応する遅延位相差を与え、前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側の光結合器と前記Q相側の光結合器とがそれぞれ有する出力干渉特性同士の位相差と、前記遅延位相差とを、両者の合計で生じる、出力干渉信号Ipに対するQpの出力位相差、並びに出力干渉信号Inに対するQnの出力位相差が、共に+π/2となるように設定することにより、8つの前記出力ポートの出力信号を、上から前記TE光信号側のIp、In、Qp、Qn、および前記TM光信号側のIp、In、Qp、Qnの順に配列したことを特徴としている。
【0011】
また本発明の90度光ハイブリッド干渉計の製造方法は、偏波分離したTransverse Electric(TE)光信号およびTransverse Magnetic(TE)光信号から、それぞれ、互いにπの位相差を有する位相情報IpとIn、並びに前記Ipと前記Inに対してそれぞれπ/2の位相遅延を有する位相情報QpとQnとからなる、I−Q平面上の4値の位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド干渉計の製造方法であって、前記偏波分離したTE光信号およびTM光信号をそれぞれ入力する2つの信号光入力ポートと、前記2つの信号光入力ポートの間に配置された、局部発振光を入力する局部発振光入力ポートと、前記信号光入力ポートから入力され、それぞれI相側とQ相側とに2分岐された、前記TE光信号およびTM光信号を伝播する信号光導波路アームと、前記局部発振光入力ポートから入力され、前記TE光信号側と前記TM光信号側とに2分岐された後、さらにそれぞれ2つに分岐された前記局部発振光を伝播する局部発振光導波路アームと、前記TE光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TE光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する4つの光結合器と、前記TM光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TM光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する2つの光結合器と、前記TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいて、2つの前記光結合器から出力される、対をなす信号光と局部発振光との位相差による4つの干渉信号を、それぞれ前記位相情報Ip、In、Qp、Qnとして取り出す4つの出力ポートと、を構成し、前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側と前記Q相側のいずれか一方の、前記信号光導波路アームと前記局部発振光導波路アームとの対に、光路長差を設けることにより、前記I相側と前記Q相側の出力干渉信号IpとQp、並びにInとQnとの間にそれぞれ前記光路長差に対応する遅延位相差を与え、前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側の光結合器と前記Q相側の光結合器とがそれぞれ有する出力干渉特性同士の位相差と、前記遅延位相差とを、両者の合計で生じる、出力干渉信号Ipに対するQpの出力位相差、並びに出力干渉信号Inに対するQnの出力位相差が、共に+π/2となるように設定することにより、8つの前記出力ポートの出力信号を、上から前記TE光信号側のIp、In、Qp、Qn、および前記TM光信号側のIp、In、Qp、Qnの順に配列することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、OIF標準の出力ポート配置を実現しつつ、光導波路アームの交差部分を削減した光回路構成の、90度光ハイブリッド干渉計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の構成を示す模式図である。
【図3】光回路や光結合器の構成の違いによる、90度光ハイブリッド干渉計の出力干渉信号特性のパターンの比較を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態の構成を示す模式図である。
【図6】光信号を偏波分離する機能と、偏波分離した光信号から位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド機能からなる、一般的なDP−QPSK方式の受信器の構成例を示す模式図である。
【図7】一般的なDP−QPSK方式の受信器に用いられる、90度光ハイブリッド干渉計の構成の例を示す模式図である。
【図8】一般的な、90度光ハイブリッド干渉計のTE信号側の出力干渉信号特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の一実施の形態の90度光ハイブリッド干渉計の光導波路構成を示す模式図である。図1において1、2は偏波分離したTEおよびTM光信号をそれぞれ入力する信号光入力ポートである。3〜6は、それぞれ2つに分岐したTEおよびTM光信号を伝播する信号光導波路アームである。7は局部発振光を入力する局部発振光入力ポートで、信号光入力ポート1、2の間に配置されている。8〜11は、TE光信号側とTM光信号側とに2分岐した後、さらにそれぞれ2つに分岐した局部発振光を伝播する局部発振光導波路アームである。12〜15は信号光導波路アーム3〜6と局部発振光導波路アーム8〜11とをそれぞれ一対ずつ結合する光結合器である。16〜23は各光結合器から出力される、信号光と局部発振光との位相差による干渉信号を、I−Q平面上の4値の位相情報Ip、In、Qp、Qnとして取り出す出力ポートである。出力ポート16〜23より出力する干渉信号の配列は、上からIpTE、InTE、QpTE、QnTE、IpTM、InTM、QpTM、QnTM、の順で並んでいる。
【0015】
TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいては、I相側とQ相側のいずれか一方の、信号光導波路アームと局部発振光導波路アームとの対が、光路長差を有した構造としている。すなわちI相側では3と8または4と9とのいずれか、Q相側では5と10または6と11とのいずれかのアーム対に、光路長差が設けられている。この光路長差は、対を構成するアームの一方の長さを光路長差分長くすることによって付与し、これによって当該光路長差分長くしたアーム内を伝播する光波は、その他のアーム内を伝播する光波よりも、各光結合器に入力する時点で位相遅延が生じる。その結果、各光結合器から出力する干渉信号に関しては、TE光信号側においては、IpTEとQpTE、並びにInTEとQnTEは、共に上記の光路長差に対応する位相差を持った関係となる。同様にTM光信号側においても、IpTMとQpTM、並びにInTMとQnTMは、やはり共に上記の光路長差に対応する位相差を持つ。
【0016】
一方、光結合器はその構造によって出力干渉特性が異なり、同じ位相で入力された光信号でも各光結合器の出力干渉特性同士の差によって、出力する干渉信号に位相差が生じる。ここでは光結合器12と13との出力干渉特性の差によって生じる位相差分と、上記の光路長差に対応する位相差との合計で生じる、IpTEに対するQpTEの位相差、並びにInTEに対するQnTEの位相差を、共に+π/2となるように設定している。同様に、光結合器14と15との出力干渉特性の差によって生じる位相差分と、上記の光路長差に対応する位相差とを合計した、IpTMに対するQpTMの位相差、並びにInTMに対するQnTMの位相差を、共に+π/2となるように設定している。
【0017】
図1では、局部発振光導波路アーム8と9との間に、伝播する局部発振光のπ/2の位相差に相当する光路長差を設けている。すなわち、アーム9はアーム8に比べて光導波路内を伝播する局部発振光の波長の1/4の長さだけ長くしている。同様に局部発振光導波路アーム10と11との間も、伝播する局部発振光のπ/2の位相差に相当する光路長差を設けている。すなわち、アーム11はアーム10に比べて光導波路内を伝播する局部発振光の波長の1/4の長さだけ長くしている。これによってI相側とQ相側とに分岐した光信号の間にはそれぞれπ/2の位相差が生じる。また光結合器12〜15は、それぞれが有する出力干渉特性がすべて同一のものを用いている。したがって各光結合器の出力干渉特性同士の位相差はゼロである。
【0018】
上記の光導波路回路構成とすることにより、InTEとQnTE、並びにIpTEとQpTEは、共にπ/2の位相差を持って出力される。またInTEとIpTE、並びにQnTEとQpTEは、共にπの位相差を持って出力される。同様に、InTMとQnTM、並びにIpTMとQpTMは、共にπ/2の位相差を持って出力される。またInTMとIpTM、並びにQnTMとQpTMは、共にπの位相差を持って出力される。このように、出力ポート16〜23からの出力干渉信号特性の関係は、OIF標準の出力ポート配置と一致する。
【0019】
以上のように、本実施の形態によって、光導波路アームの交差部を削減した光回路レイアウトで、OIF標準どおりの出力ポート配置を実現することができる。
(第2の実施の形態)
図2は本発明の第2の実施の形態の90度光ハイブリッド干渉計の光導波路構成を示す模式図である。図2において、図1と対応する部分は同じ符号が記してある。
【0020】
第2の実施の形態は、光結合器としていずれもマッハツェンダー干渉計24〜27を用いたものである。また局部発振光にπ/2の位相差を与える光路長を付加する局部発振光導波路アームはアーム9とアーム11とし、マッハツェンダー干渉計24〜27はすべて図中の上側の光導波路部分が長い形状となっている。したがって各マッハツェンダー干渉計の出力干渉特性自体はすべて等しく、出力干渉特性同士の位相差はゼロである。なお信号光導波路アーム3、4、5、6はいずれも干渉計を構成する部分(分岐部から光結合器に達するまで)の長さが等しい。以上のように90度光ハイブリッド干渉計の光回路を構成することにより、その出力干渉特性はOIF標準にしたがった出力ポート配置とすることができる。
【0021】
また光結合器としてのマッハツェンダー干渉計24〜27はいずれも同じ側の光導波路部分が長い形状としているため、加工精度の問題等により光結合強度が設計値からずれを生じたとしても、特性に与える影響を抑えることができる。なぜなら加工を行う上で、同一の要因で上記ずれが生じたのであれば、そのずれは少なくとも同じデバイス内であれば、いずれも同じ方向に同じ量で生じると考えられ、出力干渉特性における位相差のずれは相対的にはキャンセルされるからである。
【0022】
以上の構成の光導波回路は、半導体集積回路製造プロセスと同様の微細加工技術により製造することができる。例えばシリコン基板上に積層した屈折率の異なるシリコン酸化膜を、フォトリソグラフィー法を用いて導波路コアやクラッドとしてパターニングすることにより、所定の形状の光導波路を形成できる。図2の構成の光導波回路においては、光導波路アーム3、4、5、6、8、10の長さは、それぞれ分岐部分から光結合器に接続する部分までの長さとして、例えば3mmとする。光導波路アーム9、11は、例えば信号光の中心波長λが1.55μmの場合、他の光導波路アームの長さにλ/4nの値として0.265μmを追加する。ここでnは光導波路の等価屈折率である。またマッハツェンダー干渉計24〜27の幅および光路長差はそれぞれ、例えば780μmおよび0.265μmとする。
【0023】
なお、図2におけるマッハツェンダー干渉計24〜27は、図2の形状とは逆に、すべて図中の下側の光導波路部分が長い形状とした構成にしても、各マッハツェンダー干渉計の出力干渉特性自体に差はないため、やはり上述の場合と同様な好適な効果が得られる。
【0024】
また、上記の光導波路構成で、光結合器として方向性結合器やマルチモード干渉計などの対称性の光結合器を用いることによっても、やはりOIF標準どおりの出力ポート配置を実現することができる。ただしこれらの90度光ハイブリッド干渉計の各出力干渉信号特性は、それぞれの相対的な位相差関係は一定であるが、光回路や光結合器の構成によって全体の位相自体は異なってくる。
【0025】
図3(a)〜(e)は、光回路や光結合器の構成が異なる90度光ハイブリッド干渉計の出力ポートからの出力干渉信号特性の位相パターンの比較を示す。これらの図においては、いずれも横軸Δφはマッハツェンダー干渉計に入力される際の信号光と局部発振光との位相差、縦軸は出力強度(a.u.)である。またこれらの図は、比較の便宜のため、いずれもIpおよびQp信号についてのみ表示し、IpおよびQp信号がそれぞれ反転した特性を有するIn及びQn信号に関しては表示を省略した。
【0026】
図2に示す構成の場合、出力干渉特性は図3(a)のようになり、TE側とTM側とで出力強度の位相自体が同一となる。また図2におけるマッハツェンダー干渉計24〜27の形状を反転し、すべて図中の下側の光導波路部分が長い形状とした構成にした場合は、出力干渉特性は図3(b)のようになり、やはりTE側とTM側とで出力強度の位相自体は同一である。
【0027】
一方、図2におけるマッハツェンダー干渉計24〜27を、方向性結合器やマルチモード干渉計などの対称性の光結合器に置き換えた場合には、出力干渉特性は図3(c)のようになり、TE側とTM側とで出力強度の位相同士は一致していない。
【0028】
以上のように、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様にOIF標準どおりの出力ポート配置を実現しつつ、光導波路アームの交差部を削減できる。そして光結合器としてマッハツェンダー干渉計を用い、そのすべてを同じ側の光導波路部分を長くした構成とすることにより、光結合強度のばらつきの影響を抑制できる。さらにまた、TE側とTM側とで出力干渉特性の位相自体を一致させたい場合には特に好適である。
(第3の実施の形態)
図4は本発明の第3の実施の形態の90度光ハイブリッド干渉計の光導波路構成を示す模式図である。第3の実施の形態は第2の実施の形態と基本的な構成は同様であるが、第3の実施の形態では、局部発振光にπ/2の位相差を与える光路長を付加する局部発振光導波路アームはアーム8とアーム11としている。また光結合器としてマッハツェンダー干渉計24〜27を用い、このうちマッハツェンダー干渉計25だけが図中の下側の光導波路部分が長く、それ以外のものはすべて図中の上側の光導波路部分が長い形状となっている。これにより、マッハツェンダー干渉計25の光結合記としての出力干渉特性は、他のマッハツェンダー干渉計に対して反転した状態、すなわちπの位相差を有する状態となる。したがって、マッハツェンダー干渉計の出力干渉特性の差によって生じる位相差分として、マッハツェンダー干渉計24、26、27についてはゼロ、マッハツェンダー干渉計25についてはπの値を設定する。そしてこれらの値と、アームの位相遅延に対応する位相差との合計で生じる、各出力干渉信号同士の位相差は、IpTEとQpTE、InTEとQnTE、IpTMとQpTM、InTMとQnTM、のいずれもが+π/2となる。
【0029】
以上のように90度光ハイブリッド干渉計の光回路を構成することにより、その出力干渉特性はOIF標準にしたがった出力ポート配置とすることができる。なおこの光回路構成では、局部発振光導波路アームの光路長および信号光アームと交差する位置がTE側とTM側とで対称となっている。このため、アームの交差部分による光路長の変動等、設計パラメータ補正の必要が生じた場合において、双方で同様な補正を行えばよく、解析や設計の手間を大幅に省くことができる。
【0030】
上述の効果は、図4におけるマッハツェンダー干渉計24〜27を、それぞれ光導波路を長くする側をすべて反転させた形状のものに置き換えても、同様に得ることができる。
【0031】
なお、図4に示す構成の場合、90度光ハイブリッド干渉計の出力ポートからの出力干渉特性は図3(d)のようになる。
【0032】
以上のように、第3の実施の形態では、第1、第2の実施の形態と同様にOIF標準どおりの出力ポート配置を実現しつつ、光導波路アームの交差部を削減できる。そして局部発振光導波路アーム構造がTE側とTM側とで対照となっていることから、設計パラメータ補正の必要が生じた場合にも、解析や設計の手間を大幅に省くことができる。
(第4の実施の形態)
図5は本発明の第4の実施の形態の90度光ハイブリッド干渉計の光導波路構成を示す模式図である。第4の実施の形態は、第3の実施の形態の変形例であり、局部発振光にπ/2の位相差を与える光路長を付加する局部発振光導波路アームはアーム9とアーム10としている。また光結合器としてマッハツェンダー干渉計24〜27を用い、このうちマッハツェンダー干渉計27だけが図中の下側の光導波路が長く、それ以外のものはすべて図中の上側の光導波路が長い形状となっている。以上のように90度光ハイブリッド干渉計の光回路を構成することにより、その出力干渉特性はOIF標準にしたがった出力ポート配置とすることができる。なおこの光回路構成では、第3の実施の形態と同様、局部発振光導波路アームの光路長および信号光アームと交差する位置がTE側とTM側とで対称となっている。このため、やはりアームの交差部分による光路長の変動等、設計パラメータ補正の必要が生じた場合において、双方で同様な補正を行えばよく、解析や設計の手間を大幅に省くことができる。
【0033】
上述の効果は、図5におけるマッハツェンダー干渉計24〜27を、それぞれ光導波路を長くする側をすべて反転させた形状のものに置き換えても、同様に得ることができる。
【0034】
なお、図5に示す構成の場合、90度光ハイブリッド干渉計の出力ポートからの出力干渉特性は図3(e)のようになる。
【0035】
以上のように、第4の実施の形態では、第1〜3の実施の形態と同様にOIF標準どおりの出力ポート配置を実現しつつ、光導波路アームの交差部を削減できる。そして局部発振光導波路アーム構造がTE側とTM側とで対称となっていることから、設計パラメータ補正の必要が生じた場合にも、解析や設計の手間を大幅に省くことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 TE信号光入力ポート
2 TM信号光入力ポート
3〜6 信号光導波路アーム
7 局部発振光入力ポート
8〜11 局部発振光導波路アーム
12〜15 光結合器
16〜23 出力ポート
24〜27 マッハツェンダー干渉計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波分離したTransverse Electric(TE)光信号およびTransverse Magnetic(TE)光信号から、それぞれ、互いにπの位相差を有する位相情報IpとIn、並びに前記Ipと前記Inに対してそれぞれπ/2の位相遅延を有する位相情報QpとQnとからなる、I−Q平面上の4値の位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド干渉計であって、
前記偏波分離したTE光信号およびTM光信号をそれぞれ入力する2つの信号光入力ポートと、
前記2つの信号光入力ポートの間に配置された、局部発振光を入力する局部発振光入力ポートと、
前記信号光入力ポートから入力され、それぞれI相側とQ相側とに2分岐された、前記TE光信号およびTM光信号を伝播する信号光導波路アームと、
前記局部発振光入力ポートから入力され、前記TE光信号側と前記TM光信号側とに2分岐された後、さらにそれぞれ2つに分岐された前記局部発振光を伝播する局部発振光導波路アームと、
前記TE光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TE光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する4つの光結合器と、
前記TM光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TM光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する2つの光結合器と、
前記TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいて、2つの前記光結合器から出力される、対をなす信号光と局部発振光との位相差による4つの干渉信号を、それぞれ前記位相情報Ip、In、Qp、Qnとして取り出す4つの出力ポートと、
を有し、
前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側と前記Q相側のいずれか一方の、前記信号光導波路アームと前記局部発振光導波路アームとの対に、光路長差を設けることにより、前記I相側と前記Q相側の出力干渉信号IpとQp、並びにInとQnとの間にそれぞれ前記光路長差に対応する遅延位相差を与え、
前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側の光結合器と前記Q相側の光結合器とがそれぞれ有する出力干渉特性同士の位相差と、前記遅延位相差とを、両者の合計で生じる、出力干渉信号Ipに対するQpの出力位相差、並びに出力干渉信号Inに対するQnの出力位相差が、共に+π/2となるように設定することにより、8つの前記出力ポートの出力信号を、上から前記TE光信号側のIp、In、Qp、Qn、および前記TM光信号側のIp、In、Qp、Qnの順に配列したことを特徴とする、90度光ハイブリッド干渉計。
【請求項2】
前記局部発振光にπ/2の位相差を与える光路長差を設ける局部発振光導波路アームは、前記TE光信号側Qn信号を出力する光導波路アームと、前記TM光信号側Qp信号を出力するアームであることを特徴とする、請求項1に記載の90度光ハイブリッド干渉計。
【請求項3】
前記光結合器はいずれもマッハツェンダー干渉計で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の90度光ハイブリッド干渉計。
【請求項4】
前記マッハツェンダー干渉計は、いずれも同じ側の光導波路部分に路長差分の長さを付与した形状であることを特徴とする、請求項3に記載の90度光ハイブリッド干渉計。
【請求項5】
偏波分離したTransverse Electric(TE)光信号およびTransverse Magnetic(TE)光信号から、それぞれ、互いにπの位相差を有する位相情報IpとIn、並びに前記Ipと前記Inに対してそれぞれπ/2の位相遅延を有する位相情報QpとQnとからなる、I−Q平面上の4値の位相情報を取り出すための90度光ハイブリッド干渉計の製造方法であって、
前記偏波分離したTE光信号およびTM光信号をそれぞれ入力する2つの信号光入力ポートと、
前記2つの信号光入力ポートの間に配置された、局部発振光を入力する局部発振光入力ポートと、
前記信号光入力ポートから入力され、それぞれI相側とQ相側とに2分岐された、前記TE光信号およびTM光信号を伝播する信号光導波路アームと、
前記局部発振光入力ポートから入力され、前記TE光信号側と前記TM光信号側とに2分岐された後、さらにそれぞれ2つに分岐された前記局部発振光を伝播する局部発振光導波路アームと、
前記TE光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TE光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する4つの光結合器と、
前記TM光信号側において、それぞれI相側とQ相側とに2分岐した前記TM光信号と前記局部発振光とを、それぞれ一対ずつ結合する2つの光結合器と、
前記TE光信号側およびTM光信号側のそれぞれにおいて、2つの前記光結合器から出力される、対をなす信号光と局部発振光との位相差による4つの干渉信号を、それぞれ前記位相情報Ip、In、Qp、Qnとして取り出す4つの出力ポートと、
を構成し、
前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側と前記Q相側のいずれか一方の、前記信号光導波路アームと前記局部発振光導波路アームとの対に、光路長差を設けることにより、前記I相側と前記Q相側の出力干渉信号IpとQp、並びにInとQnとの間にそれぞれ前記光路長差に対応する遅延位相差を与え、
前記TE光信号側および前記TM光信号側のそれぞれにおいて、前記I相側の光結合器と前記Q相側の光結合器とがそれぞれ有する出力干渉特性同士の位相差と、前記遅延位相差とを、両者の合計で生じる、出力干渉信号Ipに対するQpの出力位相差、並びに出力干渉信号Inに対するQnの出力位相差が、共に+π/2となるように設定することにより、8つの前記出力ポートの出力信号を、上から前記TE光信号側のIp、In、Qp、Qn、および前記TM光信号側のIp、In、Qp、Qnの順に配列することを特徴とする、90度光ハイブリッド干渉計の製造方法。
【請求項6】
前記局部発振光にπ/2の位相差を与える光路長差を設ける局部発振光導波路アームは、前記TE光信号側Qnを出力する光導波路アームと、前記TM光信号側Qpを出力するアームとすることを特徴とする、請求項5に記載の90度光ハイブリッド干渉計の製造方法。
【請求項7】
前記光結合器はいずれもマッハツェンダー干渉計で構成することを特徴とする、請求項5または6に記載の90度光ハイブリッド干渉計の製造方法。
【請求項8】
前記マッハツェンダー干渉計は、いずれも同じ側の光導波路部分に光路長差分の長さを付与した形状とすることを特徴とする、請求項7に記載の90度光ハイブリッド干渉計の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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