説明

A相の二酸化バナジウム(VO2)粒子の製造方法

【課題】1回の処理で、A相のVOの微細粒子を製造することが可能な、VO粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】A相の二酸化バナジウム(VO)粒子の製造方法であって、(1)五酸化二バナジウム(V)と、還元剤と、水とを含む混合液を調製するステップと、(2)前記混合液を水熱反応させるステップであって、これによりA相の二酸化バナジウム(VO)のロッド状ナノ粒子が得られるステップと、を有することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A相の二酸化バナジウム(VO)粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウム酸化物には、VO、VO、VO1.27、V、V、V、V、VO、V13、V、およびVOなど、様々な酸化状態が存在する。また、バナジウム酸化物には、様々な相構造が存在することが知られており、例えば二酸化バナジウム(VO)の場合だけでも、A相、B相、C相、R相、およびM相などの相状態が存在する。
【0003】
VOのこれらの相構造のうち、ルチル型結晶構造を有するR相のVOは、サーモクロミック特性を有するため、バナジウム酸化物の中で、現在、最も着目されている材料の一つである(従って、ルチル型結晶構造を有するR相のVOは、「サーモクロミック材料」とも称される)。
【0004】
「サーモクロミック特性(材料)」とは、温度により光学特性が可逆的に変化する性質(材料)を意味する。例えば、住宅およびビル等の建物、ならびに車両などの移動体に使用される窓ガラス(またはウインドガラス)の表面に、このような「サーモクロミック特性」を有する「サーモクロミック材料」を形成した場合、ガラスの透明状態/反射状態等の光学的な性質を、温度により制御することが可能となる。従って、例えば、夏にはガラス表面で太陽光を反射させて熱を遮断し、冬にはガラスを介して太陽光を透過させて熱を吸収させるなど、省エネ性と快適性とを両立させることが可能になる。
【0005】
一方、バナジウム酸化物の中には、V、V13、およびVOなど、リチウムイオン二次電池のような二次電池のカソード(正極)材料として、優れた特性を有するものも存在する。例えば、非特許文献1には、結晶構造がB相のVOに関して、二次電池のカソード材料としての適用性が検討されている(非特許文献1)。
【0006】
このように、結晶構造がR相およびB相の二酸化バナジウム(VO)材料については、これまでに多くの研究がなされている。
【0007】
これに対して、A相のVOは、これまでほとんど研究されておらず、A相のVOに関する文献は、極めて少ない。この中で、Theobaldによる文献には、VとVと水とを水熱反応させ、水和物(VO・nHO)を生成した後、さらに得られた水和物をもう一度水熱反応させることにより、A相の単一相からなるVO粒子が形成されることが開示されている(非特許文献2)。
【0008】
また、Okaらによれば、VOClとFeClの塩化物系混合物を水熱反応させることにより、A相のVOからなる比較的大きな単結晶粒子を生成できることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Natasha A.Chernov,Megan Roppolo,Anne C.Dillon and M,Stanley Whittingham:Journal of Materials Chemistry,第19巻,第2526−2552頁,2009年
【非特許文献2】F.Theobald,J.Less−Common Mat.,第53巻,第55−71頁,1977年
【非特許文献3】Yoshio Oka,Takeshi Yao,and Naoichi Yamamoto:J.Solid State Chemistry,第86巻,第116−124頁,1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、これまでのVO(二酸化バナジウム)の材料特性に関する研究は、R相およびB相のものに限られ、A相のVOについては、あまり研究されていないのが現状である。これは、A相のVO粒子を製造する方法が十分に把握されていないことが一因であると思われる。
【0011】
なお、前述の非特許文献2には、A相のVO粒子を製造する方法について記載されている。しかしながら、この方法では、出発材料として高価なVを使用する必要がある。また、この方法では、A相のVO粒子を得るためには、VとVと水とを水熱反応させる第1工程、および得られた生成物を再度水熱反応させる第2工程の、2段階の工程が必要となる。このため、非特許文献2に記載の方法は、A相のVO粒子を得るための現実的および実用的な方法とは言えない。
【0012】
また、前述の非特許文献3の方法では、1回の処理で比較的大きな単結晶粒子(100μm〜200μmオーダー)が形成される。しかしながら、この方法では、一回の処理で多数の粒子を生成させることは難しい。また、サーモクロミック材料としての適用性を考慮した場合、このような大きな粒子では、分散性が悪く、ガラスのような被コーティング材料に、均一にコーティングすることができないという問題が生じる。このため、得られた単結晶粒子は、微細化のため粉砕処理しなければならず、結局、この方法でも工程数が増えてしまう。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、1回の処理で、A相のVOの微細粒子を製造することが可能な、VO粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、A相の二酸化バナジウム(VO)粒子の製造方法であって、
(1)五酸化二バナジウム(V)と、還元剤と、水とを含む混合液を調製するステップと、
(2)前記混合液を水熱反応させるステップであって、これによりA相の二酸化バナジウム(VO)のロッド状ナノ粒子が得られるステップと、
を有することを特徴とする製造方法が提供される。
【0015】
ここで、本発明による製造方法において、前記ロッド状ナノ粒子は、A相の二酸化バナジウム(VO)の単一相で構成されても良い。
【0016】
また、本発明による製造方法において、前記ロッド状ナノ粒子は、単結晶であっても良い。
【0017】
また、本発明による製造方法において、前記ロッド状ナノ粒子は、アスペクト比が2〜100であっても良い。
【0018】
また、本発明による製造方法において、前記水熱反応は、220℃〜260℃の温度範囲で行われても良い。
【0019】
また、本発明による製造方法において、前記混合液は、タングステン化合物を含んでも良い。
【0020】
また、本発明による製造方法において、前記タングステン化合物は、(NH101241・5HO、WO、WO、およびHWOからなる群から構成された少なくとも一つを含んでも良い。
【0021】
また、本発明による製造方法において、前記還元剤は、シュウ酸((COOH))またはその水和物であっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、1回の処理で、A相のVOの微細粒子を製造することが可能な、VOの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるA相のVOの微細粒子を製造するためのフローチャートの一例である。
【図2】サンプル1のSEM写真の一例である。
【図3】サンプル1のXRDパターンの一例である。
【図4】サンプル2のXRDパターンの一例である。
【図5】サンプル3のXRDパターンの一例である。
【図6】サンプル4のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明者らは、A相のVOの半導体/金属の相転移特性がR相のものと極めて類似していることを見出して以来、A相のVOは、比較的高温では、サーモクロミック材料として利用できる可能性があると考えてきた。
【0025】
ちなみに、A相のVOは、常温では、正方晶系(Tetragonal system P4/ncc)に属し、格子定数は、a=8.4403、c=7.666オングストローム(Å)である。A相のVOは、162℃付近で相転移を起こし、別の正方晶系(I4/m)に変化する。
【0026】
しかしながら、これまでのVO材料の特性に関する研究は、R相およびB相に限られており、A相のVOの材料特性に関しては、ほとんど研究されていないのが現状である。これは、A相のVOの微細粒子を製造する簡便な方法が十分に把握されていないことが一因であると思われる。
【0027】
例えば、前述の非特許文献2の方法では、出発材料として高価なVを使用する必要がある。また、この方法では、A相のVO粒子を得るためには、VとVと水とを水熱反応させる第1工程、および得られた生成物を再度水熱反応させる第2工程の、2段階の工程が必要となる。このため、非特許文献2に記載の方法は、A相のVO粒子を得るための現実的および実用的な方法とは言えない。
【0028】
また、前述の非特許文献3の方法では、1回の処理で比較的大きな単結晶粒子(100μm〜200μmオーダー)が形成される。しかしながら、この方法では、一回の処理で多数の粒子を生成させることは難しい。また、サーモクロミック材料としての適用性を考慮した場合、このような大きな粒子では、分散性が悪く、均一にコーティングすることができないという問題が生じる。このため、得られた単結晶粒子は、微細化のため粉砕処理しなければならず、結局、この方法でも工程数が増えてしまう。
【0029】
このような背景の下、本願発明者らは、1回の処理でA相のVOの微細粒子を製造する方法について、鋭意研究開発を進めてきた。その結果、以下の方法により、そのような微細粒子を製造することができることを把握し、本発明に至った。
【0030】
すなわち、本発明では、
A相の二酸化バナジウム(VO)粒子の製造方法であって、
(1)五酸化二バナジウム(V)と、還元剤と、水とを含む混合液を調製するステップと、
(2)前記混合液を水熱反応させるステップであって、これによりA相の二酸化バナジウム(VO)のロッド状ナノ粒子が得られるステップと、
を有することを特徴とする製造方法が提供される。
【0031】
ここで、「ロッド状」(粒子)とは、粒子の縦×横×長さの3つの寸法のうち、最も大きな寸法Lmax(例えば長さ)と最も小さな寸法Lmin(例えば縦または横)の比(Lmax/Lmin)、すなわちアスペクト比が2以上の形状を意味する。本発明による方法では、例えば、アスペクト比は、2〜100の範囲である。
【0032】
また、「ナノ粒子」と言う用語は、粒子の縦×横×長さの3つの寸法のうちの少なくとも1つが、ナノオーダー(10nm〜500nm)の微粒子を意味する。本発明の方法では、例えば、粒子の縦または横の寸法が、100nm以下のナノ粒子が得られる。
【0033】
また、「水熱反応」とは、温度と圧力が、水の臨界点(374℃、22MPa)よりも低い熱水(亜臨界水)中において生じる化学反応を意味する。
【0034】
本発明による方法は、1回の処理のみで、A相の二酸化バナジウム(VO)の微細粒子を得ることができる。また、出発原料として、三酸化二バナジウム(V)のような高価な材料を使用していない。このため、本発明による方法では、より実用的な方法、すなわち簡単で安価に、A相の二酸化バナジウム(VO)の微細粒子を得ることができる。
【0035】
(本発明によるA相のVO粒子の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。
【0036】
図1には、本発明によるA相のVO粒子の製造方法のフローチャートを概略的に示す。図1に示すように、本発明による製造方法は、
(1)五酸化二バナジウム(V)と、還元剤と、水とを含む混合液を調製するステップ(ステップS110)と、
(2)前記混合液を水熱反応させるステップであって、これによりA相の二酸化バナジウム(VO)のロッド状ナノ粒子が得られるステップ(ステップS120)と、
を有する。以下、各ステップについて説明する。
【0037】
(ステップS110)
まず、バナジウム(V)源として、五酸化二バナジウム(V)が準備される。次に、五酸化二バナジウム、還元剤および水を混合して、混合液が調製される。
【0038】
還元剤は、例えばシュウ酸((COOH))またはシュウ酸の水和物((COOH)・nHO)であっても良い。
【0039】
混合液は、Vが溶解した水溶液であっても、Vの粒子が水中に分散した懸濁液であっても良い。
【0040】
各物質の添加量は、特に限られず、各物質の添加量は、生成するVOナノ粒子の量等によって、適宜調整される。
【0041】
また、混合液には、さらに、生成するVO粒子の電気的光学的特性(例えば相転移特性)に影響を及ぼす、例えばタングステン化合物のような、添加化合物が添加されても良い。これにより、最終的に得られるA相のVOナノ粒子のサーモクロミック特性(特に、相転移温度)を制御することができる。タングステン化合物を添加する場合、タングステン化合物は、例えば、(NH101241・5HO、WO、WO、およびHWOからなる群から選定されても良い。
【0042】
なお、添加化合物の添加量は、特に限られないが、添加化合物の添加量は、例えば、バナジウム(V)原子に対して、原子比で0.1原子%〜5.0原子%の範囲(例えば1.0原子%)であっても良い。
【0043】
(ステップS120)
次に、前述の方法で調製した混合液を用いて、水熱反応処理が行われる。
【0044】
水熱反応処理の温度は、例えば、220℃〜260℃の範囲であっても良い。これにより、A相の単一相からなる二酸化バナジウム(VO)粒子が形成される。一方、処理温度が220℃未満の場合、A相に加えてまたはA相に代わって、B相の二酸化バナジウム(VO)粒子が生成される可能性が高くなる。また、処理温度が270℃を超えると、A相に加えてまたはA相に代わって、R相の二酸化バナジウム(VO)粒子が生成される可能性が高くなる。
【0045】
処理時間は、混合液の量、処理温度、処理圧力、および混合液中のVの量等によっても変化するが、おおよそ1時間〜5日の範囲であり、例えば、24時間程度である。処理時間を長くすることにより、得られるナノ粒子の粒径(最小寸法)等を大きくすることができるが、過度に長い処理時間では、エネルギー消費量が多くなる。
【0046】
なお、水熱反応処理は、必ずしもバッチ式で実施する必要はなく、連続式に実施しても良い。
【0047】
以上の工程により、A相のVOのロッド状ナノ粒子を含む懸濁液が得られる。
【0048】
このロッド状ナノ粒子の最も短い部分の寸法(Lmin)は、通常、500nm以下であるが、この寸法は、200nm以下、例えば100nm以下であっても良い。また、ロッド状ナノ粒子のアスペクト比は、2〜100の範囲であっても良い。
【0049】
その後、懸濁液から、ナノ粒子をろ過し、得られた回収物を洗浄し、乾燥処理等を行うことにより、A相のVOのナノ粒子を回収することができる。
【0050】
あるいは、得られたA相のVOのナノ粒子を含む懸濁液は、そのまま利用されても良い。さらに、この懸濁液は、所望の溶媒を添加したり、所望の溶媒で置換したりしてから、使用することも可能である。
【0051】
このように、本発明による方法は、1回の処理のみで、A相のVOの微粒子を得ることができる。また、出発原料として、Vのような高価な材料を使用していない。このため、本発明による方法では、より実用的な方法、すなわち簡単で安価に、A相のVOの微細粒子を得ることができる。
【0052】
また、本発明では、A相のVOの単一相を容易に得ることができる。このような単一相では、VOは、同じ結晶構造の均一な成分で構成されるため、均一な光学的または電気化学的特性が得られるようになる。また、単一相では、粒子のサイズをより均一に揃えることができると言う利点がある。例えば、R相のVOの場合、単一相では、複相に比べてよりシャープな転移温度、およびより大きな光学的または電気的特性の変化を示すことが確認されている。
【0053】
さらに、本発明による方法で得られるA相のVOのナノ粒子は、ロッド状形状を有し、アスペクト比は、2〜100の範囲である。また、このVOのナノ粒子は、分散性が良く、各ロッド状ナノ粒子は、相互に凝縮した状態ではなく、一つ一つが分離した状態となっている。このため、本発明による方法で得られたナノ粒子は、サーモクロミック材料として、有意な適用性を有する。すなわち、本発明による方法で得られたVOのナノ粒子は、塗料等に添加してコーティング液とした場合、ガラス等の被コーティング剤に、比較的均一にコーティングすることができるという特徴を有する。
【0054】
また、このロッド状ナノ粒子は、例えばガラスの表面等にコーティングする際に、最も大きな寸法(Lmax)の方向(すなわち長さ方向)がガラスの表面と平行になるように配置される傾向にある。この場合、ロッド状ナノ粒子の最も小さな寸法(Lmin)の方向は、ガラスの表面に対して垂直な方向、すなわち光の透過方向となる。さらに、この場合、ロッド状ナノ粒子がこの方向にナノオーダーで配列されることになるため、粒子のコーティングによってガラスの光透過性が低下することを抑制することが可能となる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(微細粒子の製造)
まず、五酸化二バナジウム(V、特級、和光株式会社製)、シュウ酸二水和物((COOH)・2HO、特級、和光株式会社製)、および純水200mlを、1:2:300のモル比となるように室温で混合し、十分に攪拌し、水溶液を調製した。
【0057】
次に、この水溶液10mlを、市販の水熱反応処理用オートクレーブ(三愛科学社製HU−25型)(ステンレス鋼製の本体に、25ml容積のテフロン(登録商標)製内筒を備える)内に入れ、220℃で24時間、水熱反応させた。
【0058】
次に、得られた水溶液中の沈殿生成物を濾過し、生成物を水およびエタノールで洗浄した。さらに、この生成物を、定温乾燥機を用いて、60℃で10時間乾燥させた。これにより、粉末状生成物が得られた。
【0059】
(評価1)
次に、以下の方法で、得られた粉末状生成物(以下、「サンプル1」という)の特性について評価した。
【0060】
まず、サンプル1の微細構造について評価した。
【0061】
サンプル1の微細構造は、サンプル1をそのまま用いて、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日立社製、Hitachi S−4300型)および透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEOL JEM2010型)により評価した。具体的には、サンプル1から得られたSEM写真(6000nm×4000nm)を用いて、サンプル1に含まれる各微細粒子の形態を観察した。
【0062】
図2には、サンプル1のSEM写真を示す。この写真から、サンプル1中の各微細粒子は、ほとんどが凝縮されずに、バラバラな状態となっていること(すなわち分散性が良いこと)がわかる。また、各微細粒子は、アスペクト比が大きく、ロッド状の形態となっていることがわかる。
【0063】
それぞれのロッド状微細粒子は、ほぼ長方形状の断面形状を有し、全長は、数μmから数十μmの範囲である。また、ロッド状微細粒子の縦および横のうち、短い方の寸法(以下、「粒径」という)は、約10nm〜約200nmの範囲であり、ロッド状微細粒子は、いわゆるナノ粒子の形態となっている。
【0064】
また、図2から、各ロッド状ナノ粒子の「粒径」は、おおよそ揃っており、「粒径」のばらつきが小さいことがわかる。ロッド状ナノ粒子10個の平均粒径は、約40nmであり、ロッド状ナノ粒子10個の平均アスペクト比は、約15であった。
【0065】
(評価2)
次に、サンプル1の結晶性について評価した。
【0066】
サンプル1の結晶性は、サンプル1をそのまま用いて、粉末XRD装置(PHILIPS社製、X'Pert−MPD型)により評価した。また、サンプル1のTEM観察を行うとともに、電子回折パターンを測定した。
【0067】
図3には、サンプル1の粉末XRD測定の結果を、A相の二酸化バナジウム(VO)結晶の標準回折パターン(JCPDS80−0690)(図3の下側)とともに示す。
【0068】
図3に示すように、サンプル1の回折ピークは、標準ピークと一致することがわかった。また、サンプル1の回折ピークには、A相の二酸化バナジウム(VO)以外のものは認められず、サンプル1は、A相の二酸化バナジウム(VO)のみで(すなわち単一相で)構成されていることが確認された。さらに、得られた回折ピークは、鋭く、半値幅が狭くなっていることから、サンプル1は、各ロッド状ナノ粒子の粒径がナノオーダーであるにも関わらず、極めて良好な結晶性を有することがわかった。
【0069】
さらに、TEM観察およびその際の電子回折パターンから、サンプル1に含まれるロッド状ナノ粒子は、単結晶であることがわかった。
【0070】
[実施例2]
(微細粒子の製造)
五酸化二バナジウム(V、特級、和光株式会社製)、シュウ酸二水和物((COOH)・2HO、特級、和光株式会社製)、および純水200mlを、1:2:300のモル比となるように室温で混合した。さらに、これに、二酸化タングステン(WO)を加え、十分に攪拌し、水溶液を調製した。二酸化タングステン(WO)は、バナジウム(V)に対するタングステン(W)の割合が、0.5原子%となるように添加した。
【0071】
次に、この水溶液10mlを、市販の水熱反応処理用オートクレーブ(三愛科学社製HU−25型)(ステンレス鋼製の本体に、25ml容積のテフロン(登録商標)製内筒を備える)内に入れ、260℃で24時間、水熱反応させた。
【0072】
次に、得られた水溶液中の沈殿生成物を濾過し、生成物を水およびエタノールで洗浄した。さらに、この生成物を、定温乾燥機を用いて、60℃で10時間乾燥させた。これにより、粉末状生成物が得られた。
【0073】
(評価)
次に、前述のサンプル1と同様の方法で、得られた粉末状生成物(以下、「サンプル2」という)の特性について評価した。
【0074】
サンプル2のSEM観察の結果、サンプル2においても、サンプル1と同様、ロッド状ナノ粒子が多数形成されていることが確認された。また、これらのロッド状ナノ粒子は、分散性が良く、ほとんどが凝縮されずに、バラバラな状態となっていることが確認された。
【0075】
また、TEM観察およびその際の電子回折パターンから、サンプル2に含まれるロッド状ナノ粒子は、単結晶であることが確認された。
【0076】
図4には、サンプル2の粉末XRD測定の結果を、A相の二酸化バナジウム(VO)結晶の標準回折パターン(JCPDS80−0690)(図4の下側)とともに示す。
【0077】
図4に示すように、サンプル2の回折ピークは、標準ピークと一致することがわかった。また得られた回折ピークは、鋭く、半値幅が狭くなっていることから、得られたロッド状ナノ粒子は、極めて良好な結晶性を有することがわかった。また、サンプル2の回折ピークには、A相の二酸化バナジウム(VO)以外のものは認められず、サンプル2は、A相の二酸化バナジウム(VO)のみで(すなわち単一相で)構成されていることが確認された。
【0078】
なお、実施例1におけるサンプル1と比べて、サンプル2では、回折ピークの強度がより大きくなるとともに、鋭さがより顕著になっており、水熱反応温度を高くすることによって、結晶性をさらに高めることができることがわかった。
【0079】
(比較例1)
(微細粒子の製造)
実施例1と同様の方法により、微細粒子を製造した。ただし、この比較例1では、水熱反応処理の温度は、210℃とし、処理時間は、24時間とした。その他の条件は、実施例1におけるサンプル1の製造条件と同様である。
【0080】
(評価)
次に、前述のサンプル1と同様の方法で、得られた粉末状生成物(以下、「サンプル3」という)の特性について評価した。
【0081】
図5には、サンプル3のXRD回折パターンをB相の二酸化バナジウム(VO)結晶の標準回折パターン(JCPDS81−2393)(図5の下側)とともに示す。
【0082】
図5に示すように、サンプル3の回折ピークは、B相の二酸化バナジウム(VO)の標準ピークと一致することがわかった。この結果から、比較例1による方法では、A相ではなく、B相の二酸化バナジウム(VO)が形成されることがわかった。
【0083】
(比較例2)
(微細粒子の製造)
実施例1と同様の方法により、微細粒子を製造した。ただし、この比較例2では、水熱反応処理の温度は、270℃とし、処理時間は、24時間とした。その他の条件は、実施例1におけるサンプル1の製造条件と同様である。
【0084】
(評価)
次に、前述のサンプル1と同様の方法で、得られた粉末状生成物(以下、「サンプル4」という)の特性について評価した。
【0085】
図6には、サンプル4のXRD回折パターンをR相の二酸化バナジウム(VO)結晶の標準回折パターン(JCPDS82−0661)(図6の下側)とともに示す。
【0086】
図6に示すように、サンプル4の回折ピークは、R相の二酸化バナジウム(VO)の標準ピークと一致することがわかった。この結果から、比較例2による方法では、A相ではなく、R相の二酸化バナジウム(VO)が形成されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば、比較的高温(162℃付近)において、サーモクロミック特性を有するサーモクロミック材料の製造方法として利用することができる。また、本発明は、例えば、二次電池用の新しいカソード材料の製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A相の二酸化バナジウム(VO)粒子の製造方法であって、
(1)五酸化二バナジウム(V)と、還元剤と、水とを含む混合液を調製するステップと、
(2)前記混合液を水熱反応させるステップであって、これによりA相の二酸化バナジウム(VO)のロッド状ナノ粒子が得られるステップと、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ロッド状ナノ粒子は、A相の二酸化バナジウム(VO)の単一相で構成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ロッド状ナノ粒子は、単結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ロッド状ナノ粒子は、アスペクト比が2〜100であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記水熱反応は、220℃〜260℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合液は、タングステン化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記タングステン化合物は、(NH101241・5HO、WO、WO、およびHWOからなる群から構成された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記還元剤は、シュウ酸((COOH))またはその水和物であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−116737(P2012−116737A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270788(P2010−270788)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月1日 社団法人日本セラミックス協会発行の「Journal of the Ceramic Society of Japan vol.118, no.1382,October 2010」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】