説明

ALCパネルの補強方法

【課題】 既設のALCパネルが弱体化する取付ボルト貫通孔近傍の補強工事を、外部側から施工し、補強後に外観の変化がないALCパネルの補強方法を提供する。
【解決手段】 ボルト止め工法によって構築されたALCパネルの補強方法であって、ALCパネル表面よりALCパネル裏側に向うように穴をあけ、該穴に補強材をALCモルタルと共に埋め込む。
穴はALCパネルを取り付けるためのフックボルトを挟むように斜めに交差して設けるのが好ましく、ALCパネル表面に立てた法線と穴の中心線とのなす角度が45度以下となるように設けるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビル等の既設建築物に外壁材等として使用されているALC(軽量気泡コンクリート)パネル取付部の耐力が経年劣化などにより低下した場合、あるいは耐震性能を向上させる場合などに適用するALCパネルの補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、一般に、けい石、生石灰、セメントなどの主成分と発泡剤としてアルミ粉末を添加した原料スラリーを、補強鉄筋を配置した型枠内に注入して、発泡・硬化させて半硬化状態となったALCブロックを型枠内から取り出し、所定の張力で緊張させたピアノ線等のワイヤカッターで所定の大きさのパネル状に切断する。次いで、その切断された半硬化状態のALCパネルをオートクレーブで蒸気養生した後、適宜表面加工等を施して製品化される。
【0003】
そのようにして製品化されたALCパネルは、縦長方向ないし横長方向に建物壁面として配置し、様々な取り付け工法により建物躯体に取り付けられる。
過去の大きな地震を教訓として耐震性能が強化されてきている建築物とともに、取り付け工法も耐震性能を強化するといったように変化してきている。
図3は、ALCパネルの横壁ボルト止め工法の施工例を示すもので、建物躯体であるH型鋼等によりなる間柱11にアングル材等よりなる下地鋼材(定規アングル)12を取り付け、その定規アングル12にALCパネルの自重を受けるアングル材等よりなる受け鋼材13を溶接等で固着させ、その上にALCパネル1を載せ、ALCパネル1を貫通するフックボルト2を溶接等で固着することにより、ALCパネル壁面として構成されるものである。ALCパネル1の接合部にはロックウール14を詰めてバックアップ材15,シーリング材16を充填して防水仕上げしてある。
【0004】
ところがこの工法では、上記のようにALCパネルをフックボルトで貫通させて、丸座金でALCパネル母材自体を受けることによりALCパネルの面外方向の力を支えているが、ALCパネルの経年劣化による母材の強度低下や、過去の地震等により丸座金、フックボルト部分近傍のALCパネルにひび割れが生じるなどにより、取付部耐力に支障をきたす恐れがある。すなわち、一般に経年劣化したALCパネルやひび割れが生じたALCパネルは物性が低下し、それによって強度も低下する。しかし、経年劣化の程度は建物の維持管理やおかれている環境などによってまちまちで、今後の継続的な使用の適否をいつ判断すべきかは一概には決められないが、少なくとも20年以上経過したALC建物は専門家による劣化診断を受けて、適切なメンテナンスを行う必要がある。
【0005】
その場合、かなり劣化を受けたALCパネルでも曲げ耐力は十分に安全側に設計されているので殆ど問題ないが、取付部強度については詳細な調査により、必要に応じて補強工事を行うとよく、また今後予想される大地震に対応するためにも、地球環境のためにも既存ALC建物の安全を考慮した補強対策が必要な場合も少なくない。しかし、既存建物はその殆どが使用中で、外壁の内部側には内装や屋内装置品等が設置されていることから、屋内側から補強対策を施すことはできない等の問題があった。
【0006】
既存建物のALCパネル外壁の補強方法としては、建物躯体に下地鋼材を介して取付けたALC縦壁パネルの補強構造であって、下地鋼材上のALCパネル表面にドリル穴を搾孔し、該穴をボルトを貫通させてスタッド溶接等で下地鋼材に固着し、該ボルトを介して支持板を取付け、その支持板と上記下地鋼材との間にALCパネルを挟んで固定し、そのボルトにねじ込んだナットによって上記支持板と下地鋼材との間にALCパネルを挟んだ状態で締め付け固定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−255045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ALCパネルが弱体化するのは、主として取付部の取付ボルト貫通孔近傍に発生する亀裂に起因することが多いことから、取付部強度については詳細な調査により、必要に応じて補強工事を行う必要がある。
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、既設のALCパネルの取付ボルト貫通孔近傍をその外部側から容易に補強処理を行うことができ、補強後外観の変化がない、既設ALCパネルの補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明による既設ALCパネルの補強方法は、ALCパネル表面よりALCパネル裏側に向うように穴をあけ、該穴に補強材をALCモルタルと共に埋め込むALCパネルの補強方法を採用した。
【0010】
本発明においては、前記穴をALCパネルを取り付けるためのフックボルトを挟むように、斜めに交差して設けることが好ましい。
また、前記穴はALCパネル表面に立てた法線と穴の中心線とのなす角度が45度以下となるように設けることが好ましい。
また、前記穴はALCパネル表面からパネル厚さの50%以上80%以下の一までの範囲に搾孔することが好ましい。
さらに、前記穴は穴の中心と取付金物貫通孔の中心との距離を、取付金物貫通孔直径の1.5倍以上2.5倍以下の範囲にして搾孔することが好ましい。
【0011】
本発明に使用する補強材としては、軟鋼線材またはステンレス鋼線材であって、表面に異形加工が施されている線材を使用することが好ましい。
さらに、前記補強材を埋設した箇所の表面を、ALCモルタルで充填して補強材が表面に露出しないように施工することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成された本発明による既設ALCパネルの補強方法によれば、屋内が使用中であっても、また屋内に内装や屋内装置品があっても屋外側からだけの施工で、ALCボルト止め工法の取付部近傍の補強を行うことが可能である。
また、本発明の補強方法はALC表面の補修部分が小さい範囲で済み、尚且つ簡易に施工を行うことのできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による補強方法の水平断面透視図である。
【図2】本発明による補強方法の正面断面透視図である。
【図3】従来の横壁ボルト止め工法の施工例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示す実施形態に基づいて本発明を具体的に説明する。図1は、本発明による既設ALCパネルの補強方法の水平断面透視図であり、図の上方がALCパネルの外面側で、図の下方がALCパネルの内面側である。また、図2はALCパネル正面からの断面透視図である。
本実施形態は前記のボルト止め構法によって施工されたALCパネルに適用したもので、その既設ALCパネルは前記従来例と同様に、建物躯体であるH型鋼等よりなる柱材に、アングル材等よりなる下地鋼材(定規アングル)を取り付け、その下地鋼材にALCパネルの自重を受けるアングル材等よりなる受け鋼材を溶接等で固着させ、その上にALCパネルを載せ、丸座金を取り付けたフックボルトをALCパネルに貫通させ、フック部分を定規アングルに溶接等で固着させた構造である。
【0015】
そして本発明による補強方法は、図1,図2に示すように、丸座金2c周辺よりALCパネル1の表面から補強材埋込用穴3を搾孔する。
前記補強材埋込用穴3の内径はALCパネル取付用の取付金物用貫通孔6より一回り小さい内径で良い。
前記補強材埋込用穴3はALCパネル1面に垂直でも良いが、ALCパネル1に立てた法線と補強材埋込用穴3の中心線とのなす角度θが45度以下となるように設けることが好ましい。角度θが大きくなりすぎると穴長が長くなってかえって強度が低下する。丸座金2cを避けつつより取付金物貫通孔6に接近させることができるからである。
また、前記補強材埋込用穴3はALCパネル1の表面からパネル厚さの50%以上80%以下の位置までの範囲Dに搾孔することが好ましい。穴の深さは余り深くするのはあまり好ましくなく、取付金物貫通孔6の近傍に達していればよい。
さらに、前記補強材埋込用穴3は穴の中心と取付金物貫通孔6の中心との距離dを、取付金物貫通孔6の直径の1.5倍以上2.5倍以下の範囲にして搾孔することが好ましい。新たに設けた補強材埋込用穴3によって取付金物貫通孔6近傍のALCパネルの強度が低下するのを防ぐためである。
補強材埋込用穴3のより好ましい搾孔方向の例としては、ALCパネル1を取り付けるためのフックボルト2を挟むように、ALCパネル内部に埋め込んだ補強鉄筋や丸座金2cを避けつつ斜めに交差して設けることが望ましい。
【0016】
使用する補強材としては、炭素鋼材やステンレス鋼材の線材が使用できる。弱アルカリ性のALCに埋設されるので腐食の心配は余りないが、炭素鋼材の場合は念のため亜鉛メッキ等の錆止め処理をしておけば安心である。補強材の太さはALCパネル内部に埋設されている補強配筋と同じ程度の5〜8mm程度の太さのものでよい。ALCモルタルとの接合力を確保するために、補強材表面を粗らくしたものが好ましい。
前記埋込用穴に補強材としての線材を挿入すると共に、ALCモルタルを空隙ができないように充填する。ALCモルタルは既存のALCパネルと馴染んで補強材と一体化し、取付金物貫通孔の近傍の強度を向上させる。
【0017】
上記本発明の補強方法を施工するに当たっては、例えば以下の要領で施工すればよい。即ち、まず既設の丸座金(50mmφ)2cより50〜60mm離れたALCパネル1の表面位置より、フックボルト2を避けるように斜め45度に10mmφのドリルで搾孔を行う。その際、ALCパネル1を貫通しないように、100mm厚さのALCパネルであれば深さ100mm程度の穴とする。この穴の中に補強材としてめっき等の錆止め処理を行った鋼材、もしくはステンレス鋼の5mmφ、長さ80mmの線材4をALC専用補修材であるALCモルタル5と共に埋め込む。最後に、穴あけ部分表面もALC専用補修材であるALCモルタル5で充填補修し、塗装等の仕上げを行う。
【0018】
上記のようにして、補強材とALC専用補修材でALCパネルの既設取付部を簡単・確実に補強することができ、その際の施工は上記のようにパネルの外側、すなわち屋外側からだけでできるので、屋内が使用中であっても、また屋内に内装や屋内装置品があっても何ら支障がなく施工を行うことができる。また、上記補強の個数、補強材の材質、長さ、太さによる強度等で、取付部補強強度を自由に設定することが可能で、耐震強度等の必要強度を容易に確保することができる。
【0019】
また、補強材設置を行ってもパネル表面に金物が出ず、今まで通りの外観を保持することができ、ALCの補修及び止水シーリング、表面塗装等の仕上げにより、ほぼ新設の状態に戻すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上のように本発明によれば、既設のALCボルト止め工法において、建物の外側から簡単・確実にパネル取付部を補強することができるので、現在使用中のものでも居住者や使用者に何ら負担をかけることなく施工可能で、補修後の外観にも変化がない、既設建築物におけるALCボルト止め工法の補強方法として、産業上も極めて有効でかつ適切に利用することができる利点がまことに大である。
【符号の説明】
【0021】
1 ALCパネル
2 取付金物
2a フックボルト
2b ナット
2c 丸座金
3 補強材埋込用穴
4 補強材
5 充填補修材
6 取付金具用貫通孔
7 座掘り穴
8 充填材
11 間柱
12 定規アングル
13 受け鋼材
14 ロックウール
15 バックアップ材
16 シーリング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト止め工法によって構築されたALCパネルの補強方法であって、ALCパネル表面よりALCパネル裏側に向うように穴をあけ、該穴に補強材をALCモルタルと共に埋め込むことを特徴とするALCパネルの補強方法。
【請求項2】
前記穴を、ALCパネルを取り付けるためのフックボルトを挟むように斜めに交差して設けることを特徴とする請求項1に記載のALCパネルの補強方法。
【請求項3】
前記穴を、ALCパネル表面に立てた法線と穴の中心線とのなす角度が45度以下となるように設けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のALCパネルの補強方法。
【請求項4】
前記穴を、ALCパネル表面からパネル厚さの50%以上80%以下の位置までの範囲に搾孔することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のALCパネルの補強方法。
【請求項5】
前記穴を、穴の中心と取付金物貫通孔の中心との距離を、取付金物貫通孔直径の1.5倍以上2.5倍以下の範囲にして搾孔することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のALCパネルの補強方法。
【請求項6】
前記補強材として軟鋼線材またはステンレス鋼線材であって、表面に異形加工が施されている線材を使用することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のALCパネルの補強方法。
【請求項7】
前記補強材を埋設した箇所の表面を、ALCモルタルで充填して補強材が表面に露出しないように施工することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のALCパネルの補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144959(P2012−144959A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6336(P2011−6336)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】