説明

ALCパネルの開口切欠の形成方法

【課題】ALCパネルの小口面の中間部に開口切欠を、補強鉄筋の切断を伴いながらもALCパネルや工具をほとんど傷めることなく効率的に形成する。
【解決手段】次の工程を含む。
(A1)丸鋸刃により2本の第一小口切り込み11を形成するA1ステップと、(A2)丸鋸刃により2本の第二小口切り込み12を形成するA2ステップとを含む(A)小口切り込み工程。
(B1)丸鋸刃をALCパネルの一主面3からパネル厚さの中央付近まで又はそれ以上に作用させるB1ステップと、(B2)丸鋸刃41をALCパネルの他主面2から軸着部44が一主面3に達するまで作用させるB2ステップとにより、主面内切り込み14を形成し、B2ステップの途中で2本の第二小口切り込み12間のパネル部分15を脱落させてできる空所を軸着部44が通過する(B)主面内切り込み工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強鉄筋が埋設されたALCパネル(軽量気泡コンクリートパネル)の小口面の中間部に開口切欠を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルの小口面に開口切欠を形成することがある。例えば、ALCパネルを床として敷設する際には、柱と干渉する部分を切除して開口切欠とする必要がある。そして、このような開口切欠を形成する場合でも、ALCパネルに埋設されている補強鉄筋の切断を伴うことになるので、ALCパネルを所要の長さに切断する場合(特許文献1)と同様に、補強鉄筋の切断に耐えて効率的に切断できる丸鋸刃を用いることが好ましい。ルーター、ジグソー等の刃では、補強鉄筋の切断に耐えられず、効率も低いからである。
【0003】
ここで、図14(a)に示すように、ALCパネル100の角部に開口切欠101を形成する場合には、ALCパネルを所要の長さに切断する場合(特許文献1)と同様に、丸鋸刃110を2つの小口面から交差進入方向へ作用させて小口切り込みを形成することのみにより、容易に形成することができる。
【0004】
しかし、小口面の中間部に開口切欠103を形成する場合には、丸鋸刃をパネル小口面から作用させることのみによっては、小口切り込みを形成することはできるが、小口面にかからず主面(表面及び裏面)内に収まる主面内切り込みを形成することができない。
【0005】
そこで現行では、小口面の中間部に開口切欠103を形成するために、まず、図14(a)に示すように、丸鋸刃110を小口面から交差進入方向へ作用させて小口切り込み104を形成する作業を、小口面の長さ方向に少しずつずらしなから多数回行う。その後、多数本の小口切り込み104で弱くなったパネル部分105をハンマーで叩き割り、図14(b)に示すように、露出した補強鉄筋106をディスクグラインダー等で切断し、形成された開口切欠103の内面をヤスリで仕上げている。
【特許文献1】特開平10−86130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように多数本の小口切り込み104を形成する方法では、その形成自体に工数と時間がかかる。さらに、叩き割るパネル部分105は、多数本の小口切り込み104で弱くなっているとはいえ、パネルの本体に対してパネル厚さ方向には全厚で繋がっているため、叩き割るのが難しく、また、割り面が平坦になりにくい。割り面に大きな凹凸が残ると、ヤスリによる仕上げに大変な手間がかかる。また、前記のとおり、露出した補強鉄筋106を切断するのにも手間がかかる。
【0007】
そこで本願発明者は、丸鋸刃やジグソー以外にも、次のような種々の手段により開口切欠を形成することを試みたが、いずれもうまくはいかなかった。
【0008】
(a)ワイヤーソー(一般には御影石等の加工用)
切り込み速度を100mm/分以上にすると、ワイヤーの抜け側で補強鉄筋を弾き、ALCパネルを損傷させる。
(b)電着ホイール・砥石ホイール(一般に表面研磨等の加工用)
ホイールの砥粒間にALC切粉が入り、切削できなくなる。補強鉄筋を切断する時は、切削抵抗が大きいため、切削スピードを落とさなければならない。
(c)エンドミル(一般には金属等の加工用)
切り込み速度300mm/分位で切削できるが、少数(例えば50箇所位)の開口穴を形成するだけで、刃部が磨耗し切削不可能となる。
(d)高圧水での切断(一般には鋼板・石材・食物等の加工用)
補強鉄筋を切断する時に、高圧水が補強鉄筋に当たって広がり、高圧水の抜け側でALCパネルを大きくえぐって損傷させる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、ALCパネルの小口面の中間部に開口切欠を、補強鉄筋の切断を伴いながらもALCパネルや工具をほとんど傷めることなく効率的に形成することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、補強鉄筋が埋設されたALCパネルの小口面の中間部に開口切欠を形成する方法であって、次の(A)小口切り込み工程と、(B)主面内切り込み工程とを含むALCパネルの開口切欠の形成方法である。
(A1)回転する丸鋸刃を前記小口面における開口切欠の両端となる両端二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第一小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA1ステップと、
(A2)回転する丸鋸刃を前記小口面の前記両端二位置の中間における後記B2ステップ用の丸鋸刃の軸着部の直径以上に互いに離間した中間二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第二小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA2ステップと
を含む(A)小口切り込み工程。
(B1)回転する丸鋸刃をALCパネルの一主面からパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの中央付近まで又はそれ以上に作用させるB1ステップと、
(B2)回転する丸鋸刃をALCパネルの他主面からパネル厚さ方向へ相対移動させ、該丸鋸刃の軸着部が一主面に達するまで作用させるB2ステップとにより、
主面内切り込みを形成し、前記B2ステップの途中で、2本の前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分を脱落させてできる空所を前記軸着部が通過する(B)主面内切り込み工程。
【0011】
前記B1ステップ用の丸鋸刃の直径Dが、次式の範囲にあることが好ましい。
[t/有効直径率]≦D≦[a+(L2/4a)]・・・(数1)
ここで、有効直径率は(D−丸鋸刃の無効中心部の直径)/D
tはALCパネルのパネル厚さ
aはt/2
Lは主面内切り込みの長さ
【0012】
前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが、次式の範囲にあることが好ましい。
[t/有効直径率]≦D≦L・・・(数2)
ここで、有効直径率は(D−丸鋸刃の無効中心部の直径)/D
tはALCパネルのパネル厚さ
Lは主面内切り込みの長さ
【0013】
そして、前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが主面内切り込みの長さLとほぼ等しいとき、前記B2ステップにより、前記第一小口切り込みと前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分も脱落させて、前記小口面の中間部に開口切欠を形成することができる。
【0014】
また、前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが主面内切り込みの長さLより小さいとき、前記(B)主面内切り込み工程における前記B2ステップ後に、
(B3)回転する丸鋸刃を主面平行方向へ相対移動させて、前記主面内切り込みを延ばしていき、前記第一小口切り込みに至ったときにパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの全体に作用させるB3ステップ
を行うことにより、前記第一小口切り込みと前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分を脱落させて、前記小口面の中間部に開口切欠を形成することができる。
【0015】
前記B3ステップを行うとき、前記(A)小口切り込み工程では、
(A3)回転する丸鋸刃を前記小口面における、前記第二小口切り込みより前記第一小口切り込みへ向かって前記丸鋸刃の有効半径以下のピッチで離間した、少なくとも一位置から主面平行方向へ相対移動させて、少なくとも1本の第三小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA3ステップ
を行うことが好ましい。
【0016】
前記各手段において、丸鋸刃の軸着部は、丸鋸刃の中心部を回転軸に取着するための構造部であって、特定の構造に限定されないが、回転軸に固定された内フランジと、締付ボルトと、締付ボルトにより回転軸に止着される外フランジとで構成され、両フランジ間に丸鋸刃の中心部を挟着するものを例示できる。丸鋸刃のうち軸着部の直径分は切り込み能力のない無効中心部であり、それ以外が切り込み能力のある有効部である。よって、丸鋸刃の有効直径率は(D−丸鋸刃の軸着部の直径)/Dで表される。
【0017】
前記各ステップにおける相対移動は、丸鋸刃の方を移動させる方が容易であるが、ALCパネルの方を移動させることもできる。
【0018】
(A)小口切り込み工程の各ステップと、(B)主面内切り込み工程の各ステップの順序については、次の順序が必要であるが、その他の順序は特に限定されない。
・A1ステップ及びA2ステップがB2ステップより前に行われることが必要である。
・B1ステップがB2ステップより前に行われることが必要である。
・B3ステップを行うときには、A3ステップがB3ステップより前に行われることが必要である。
【0019】
開口切欠の形状は大半が長方形なので、2本の第一小口切り込みは小口面から直角に切り込むことが大半である。しかし、これに限るものではなく、例えば、開口切欠の形状を台形にして、2本の第一小口切り込みを小口面から直角以外の角度で切り込むこともできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、ALCパネルの小口面の中間部に開口切欠を、補強鉄筋の切断を伴いながらもALCパネルや工具をほとんど傷めることなく効率的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
補強鉄筋5が埋設されたALCパネル1の小口面4の中間部に開口切欠を形成する方法であって、次の(A)小口切り込み工程と、(B)主面内切り込み工程とを含むALCパネルの開口切欠の形成方法である。
(A1)回転する丸鋸刃51を小口面4における開口切欠の両端となる両端二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第一小口切り込み11を補強鉄筋5の切断を伴って形成するA1ステップと、
(A2)回転する丸鋸刃51を小口面4の両端二位置の中間における後記B2ステップ用の丸鋸刃41の軸着部44の直径以上に互いに離間した中間二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第二小口切り込み12を補強鉄筋5の切断を伴って形成するA2ステップと
を含む(A)小口切り込み工程。
(B1)回転する丸鋸刃42をALCパネルの一主面3からパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの中央付近まで又はそれ以上に作用させるB1ステップと、
(B2)回転する丸鋸刃41をALCパネルの他主面2からパネル厚さ方向へ相対移動させ、該丸鋸刃41の軸着部44が一主面3に達するまで作用させるB2ステップとにより、
主面内切り込み14を形成し、B2ステップの途中で、2本の第二小口切り込み12と主面内切り込み14とで切り離されたパネル部分15を脱落させてできる空所を軸着部44が通過する(B)主面内切り込み工程。
【0022】
B1ステップ用の丸鋸刃42の直径Dは式(数1)の範囲にある。また、B2ステップ用の丸鋸刃41の直径Dは式(数2)の範囲にある。
【0023】
そして、B2ステップ用の丸鋸刃41の直径Dが主面内切り込み14の長さLとほぼ等しいとき、B2ステップにより、第一小口切り込み11と第二小口切り込み12と主面内切り込み14とで切り離されたパネル部分16も脱落させて、小口面4の中間部に開口切欠10を形成することができる。
【0024】
また、B2ステップ用の丸鋸刃41の直径Dが主面内切り込み14の長さLより小さいとき、(B)主面内切り込み工程におけるB2ステップ後に、
(B3)回転する丸鋸刃41を主面平行方向へ相対移動させて、主面内切り込み14を延ばしていき、第一小口切り込み11に至ったときにパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの全体に作用させるB3ステップ
を行うことにより、第一小口切り込み11と第二小口切り込み12と主面内切り込み14とで切り離されたパネル部分17を脱落させて、小口面4の中間部に開口切欠10を形成することができる。
【0025】
B3ステップを行うとき、(A)小口切り込み工程では、
(A3)回転する丸鋸刃51を小口面4における、第二小口切り込み12より第一小口切り込み11へ向かってB3ステップ用の丸鋸刃41の有効半径以下のピッチで離間した、少なくとも一位置から主面平行方向へ相対移動させて、少なくとも1本の第三小口切り込み13を補強鉄筋5の切断を伴って形成するA3ステップ
を行うことが好ましい。
【実施例】
【0026】
図1〜図13は本発明の実施例を示している。
[ALCパネル1]
図1及び図2に例示したALCパネル1は、その主面2,3(ここでは表面2及び裏面3)が長方形をなす一般的なものであり、補強鉄筋5が埋設されている。補強鉄筋5は、主筋と副筋とを縦横に溶接してなる二枚の枠体6を所定間隔をおいて並べ、両枠体6にスペーサ7を架け渡して溶接することにより、かご状に形成されたものである。本実施例は、このALCパネル1の小口面の中間部に小口切り込み11,12,13と主面内切り込み14とを形成し、もって開口切欠10を形成する方法に関するものである。
【0027】
[加工装置]
図3に例示した同方法に使用する加工装置は、次の搬送装置30と主面内切り込み装置40と小口切り込み装置50とを備える。
搬送装置30は、パネル長さの延長方向に延びる基台31に多数の回転可能なローラ32を並設し、該ローラ32を駆動装置(図示略)により回転駆動するようにしたローラ式搬送装置である。主面内切り込み装置40の手前部位では、丸鋸刃41,42の昇降を逃がせるように基台31が切れている。小口切り込み装置50の手前部位では、丸鋸刃51の進入を逃がせるように基台31が奥まっている。
【0028】
主面内切り込み装置40は、パネル長さ方向に延びる主面内切り込み14を形成するものである。主面内切り込み装置40は、パネル長さ方向と平行に向けた前記上下二つの丸鋸41,42と、各丸鋸刃41,42の回転軸43、軸受45及びモータ46と、上下の各軸受45及びモータ46を支持する移動台47とを備え、さらにこの移動台47をパネル厚さ方向(上下方向)とパネル長さ方向(搬送方向)とパネル幅方向(搬送直角方向)とに駆動する駆動装置48を備えている。移動台47は、上下用を一つにまとめてもよいし(二つの丸鋸41,42が上下方向に一緒に駆動される)、上下用で二つに分離独立させてもよい(二つの丸鋸41,42が上下方向に独立して駆動される)。
【0029】
下側の丸鋸刃42には直径Dが前記式(数1)の範囲にあるものを用い、上側の丸鋸刃41には直径Dが前記式(数2)の範囲にあるものを用いる。具体的には、後述する第一実施例(t=100mm、L=220mmの開口切欠)に用いる図5〜図7の丸鋸刃41,42は上下共に、直径Dが220mm(Lと等しい)である。また、第二実施例(t=100mm、L=300mmの開口切欠)に用いる図9〜図13の丸鋸刃41,42も上下共に、同じく直径Dが220mmである。
【0030】
各丸鋸刃41,42の中心部は、軸着部44により回転軸43に交換可能に取着されている。軸着部44は、回転軸43に固定されたフランジ44aと、締付ネジ44bとで構成され、締付ネジ44bを丸鋸刃41,42の中心部に設けられた取付穴を通してフランジ44aに締め付ける。本実施例では、軸着部44の直径(最大直径)はフランジ44aの直径で規定され、丸鋸刃41,42のうち軸着部44の直径分は切り込み能力のない無効中心部であり、それ以外が切り込み能力のある有効部である。そして本例の丸鋸刃41,42では、軸着部44の直径(無効中心部)は70mmであり、(D−丸鋸刃の軸着部の直径)で表される有効直径は150mmであり、(D−丸鋸刃の軸着部の直径)/2で表される有効半径は75mmであり、(D−丸鋸刃の軸着部の直径)/Dで表される有効直径率は0.68である。
【0031】
次に、小口切り込み装置50は、長手側の小口面4に対して直角に向けた前記丸鋸刃51と、その回転軸53、軸受55及びモータ56と、これらを支持する移動台57とを備え、さらにこの移動台57をパネル幅方向(搬送直角方向)とパネル長さ方向(搬送方向)とに駆動する駆動装置(図示略)とから構成されている。丸鋸刃51の中心の高さは搬送されるALCパネル1の厚さの中央の高さに合わせてある。小口切り込み装置50では、直径が[切り込み深さ/丸鋸刃有効直径率]以上である一つの丸鋸刃51を用いる。同直径の上限は特に限定されず、スペースが許す限り大きい方が好ましい。
【0032】
その他、加工装置は、搬送されるALCパネル1の位置を検知するセンサ(図示略)と、該センサによる検知と予め設定された数値とに基づいて、主面内切り込み装置40の駆動装置48及びモータ46と、小口切り込み装置50の駆動装置及びモータ56とを制御する制御装置とを備えている。
【0033】
[第一実施例]
さて、前記加工装置を用いた下記の(A)小口切り込み工程と(B)主面内切り込み工程とを含む方法により、前記ALCパネル1の小口面4の中間部に開口切欠10を形成する。第一実施例は、t=100mmのALCパネル1の小口面に、L=220mmの開口切欠を形成する例であり、前記のとおり直径D=220mm(Lと等しい)の丸鋸刃41,42を用いる。
【0034】
(A)小口切り込み工程
搬送装置によりALCパネル1を搬送し、ALCパネル1の切り込み形成必要箇所が小口切り込み装置50の丸鋸刃51の位置にまで来たときにALCパネル1を停止させ、次のA1ステップとA2ステップとを行う。
【0035】
(A1)A1ステップ
駆動装置(図示略)により、図4に示すように、小口切り込み装置50の回転する丸鋸刃51を、小口面4における開口切欠(10)の両端となる両端二位置(その間隔は220mm)から、主面平行方向(本例ではパネル幅方向)へ相対移動させて、開口切欠(10)の深さ分まで作用させることにより、2本の第一小口切り込み11を補強鉄筋5の切断を伴って形成する。
【0036】
(A2)A2ステップ
また、駆動装置(図示略)により、小口切り込み装置50の回転する丸鋸刃51を、小口面4の前記両端二位置の中間における後記B2ステップ用の丸鋸刃41の軸着部44の直径(70mm)以上に互いに離間(その間隔は本例では80mm)した中間二位置から、主面平行方向(本例ではパネル幅方向)へ相対移動させて、開口切欠(10)の深さ分まで作用させることにより、2本の第二小口切り込み12を補強鉄筋5の切断を伴って形成する。本例では、左側で隣り合う第一小口切り込み11と第二小口切り込み12との間隔と、右側で隣り合う第一小口切り込み11と第二小口切り込み12との間隔とが、いずれも70mmであり、これは後記B2ステップ用の丸鋸刃41の有効半径(75mm)以下である。
【0037】
A1ステップとA2ステップの先後は問わないし、混然と行ってもよい。例えば、小口切り込み11,12をその横並び順に形成すること、すなわち本例では第一小口切り込み11→第二小口切り込み12→第二小口切り込み12→第一小口切り込み11の順で形成することもできる。
【0038】
これら小口切り込み11,12の形成時には、易削性のALCの切断のみならず難削性の補強鉄筋5の切断を伴うことになるが、丸鋸刃51は補強鉄筋5の切断に十分耐えて長寿命であり、また速度を落とす必要もなく高速で効率的に切断することができる。丸鋸刃51の切り込み速度は、特に限定されないが、1000〜6000mm/分程度の高速で行うことが効率上好ましく、その程度の高速でも補強鉄筋5を問題なく切断でき、ALCパネル1を損傷させることもない。
【0039】
なお、この小口切り込み11,12は、パネル内部に(丸鋸刃ゆえに生じる)円弧状の切り残し部19を残したものとなるが、前記のとおり丸鋸刃51には直径の十分に大きいものを用いることができるので、切り残し部19はごく僅か(例えば2〜3mm幅程度)になる。よって、後述するパネル部分15、16を除去するとき、この切り残し部19は容易に割れ、また割った後のヤスリによる仕上げはほとんど不要である。また、小口切り込み11,12を形成した丸鋸刃51を上下方向に移動させることにより、切り残し部19を完全に無くすことが好ましい。
【0040】
(B)主面内切り込み工程
搬送装置によりALCパネル1を搬送し、ALCパネル1の切り込み形成必要箇所が主面内切り込み装置40の丸鋸刃41の位置にまで来たときにALCパネル1を停止させる。駆動装置48により移動台47をパネル幅方向(搬送直角方向)に移動させることにより、軸着部44が2本の第二小口切り込み12の間のパネル部分の上下に位置するようにして、丸鋸刃41,42を切り込み形成必要箇所の上下に正確に位置させ、次のB1ステップとB2ステップとを行う。
【0041】
(B1)B1ステップ
駆動装置48により、図5に示すように、回転する下側の丸鋸刃42をALCパネル1の切り込み形成必要箇所に主面3からパネル厚さ方向(上方向)へ移動させ、パネル厚さtの中央付近まで又はそれ以上に作用させて、主面内切り込み14の一部(下部)を形成する。図5において横破線によるハッチングを付した範囲は、形成する主面内切り込み14のうち未だ切っていない未切部18である。同B1ステップでは、前記直径の設定により、丸鋸刃42の軸着部44がALCパネル1の主面3に当たることはない。
【0042】
(B2)B2ステップ
続いて駆動装置48により、図6及び図7に示すように、前記下側の丸鋸刃42を下方へ退避させるとともに、回転する上側の丸鋸刃41をALCパネル1の切り込み形成必要箇所に主面2からパネル厚さ方向(下方向)へ移動させ、該丸鋸刃41の軸着部44が主面3に達するまで(パネル厚さtの全体に)作用させる。
【0043】
同B2ステップの初期から、図6(a)に示すように、前記未切部18が減少していき、特に2本の第二小口切り込み12の間のパネル部分15における未切部18が優先的に減少する。そして、パネル部分15における未切部18が無くなると、2本の第二小口切り込み12と主面内切り込み14の一部とで切り離されたパネル部分15は自重で脱落するが(切り残し部19を完全に無くした場合や、切り残し部19が自然に割れた場合)、切り残し部19により脱落せずに止まっていることもある。
【0044】
同B2ステップの途中においては、図6(b)に示すように、前記パネル部分15が脱落してできた空所を軸着部44が通過する。前記のとおりパネル部分15が止まっている場合には、軸着部44がパネル部分15を押し下げて切り残し部19を割るため、パネル部分15は脱落し、同様に軸着部44は空所を通過する。
【0045】
同B2ステップの終期においては、図7に示すように、第一小口切り込み11と第二小口切り込み12との間のパネル部分16における未切部18も大きく減少する。そして、軸着部44が主面3に達するときには、該未切部18が無くなって主面内切り込み14の全部が形成される。このとき、第一小口切り込み11と第二小口切り込み12と主面内切り込み14とで切り離されたパネル部分16は、自重で脱落するが(切り残し部19を完全に無くした場合や、切り残し部19が自然に割れた場合)、切り残し部19により脱落せずに止まっていることもある。しかし、前記のとおり切り残し部19はごく僅かなので、手又は工具で極めて容易に割ることができ、止まっているパネル部分16を容易に脱落させることができる。以上をもって、小口面4の中間部に開口切欠10が形成される。
【0046】
この主面内切り込み14の形成時には、易削性のALCの切断のみならず難削性の補強鉄筋5の切断を伴うことになるが、丸鋸刃41,42は補強鉄筋5の切断に十分耐えて長寿命であり、また速度を落とす必要もなく高速で効率的に切断することができる。丸鋸刃41、42の切り込み速度は、特に限定されないが、1000〜6000mm/分程度の高速で行うことが効率上好ましく、その程度の高速でも補強鉄筋5を問題なく切断でき、ALCパネル1を損傷させることもない。
【0047】
[第二実施例]
次に、図8〜図12に示す第二実施例は、t=100mmのALCパネル1の小口面に、L=300mmの開口切欠を形成する例であり、前記のとおり直径D=220mm(Lより小さい)の丸鋸刃41,42を用いる。本実施例は、(A)小口切り込み工程のどこかに次のA3ステップを追加し、(B)主面内切り込み工程における前記B2ステップ後に次のB3ステップを追加する点において、第一実施例と相違するものであり、その他は第一実施例と共通である(共通部分については第一実施例の説明を援用する)。
【0048】
(A)小口切り込み工程
(A1)A1ステップ
図8に示すとおり、第一実施例と同様にして、小口面の両端二位置(その間隔は300mm)から2本の第一小口切り込み11を形成する。
【0049】
(A2)A2ステップ
図8に示すとおり、第一実施例と同様にして、小口面の中間二位置から軸着部44の直径(70mm)以上に互いに離間(その間隔は80mm)した2本の第二小口切り込み12を形成する。但し、2本の第二小口切り込み12は片側(本例では左側)の第一小口切り込み11に寄せて形成し、よって左側で隣り合う第一小口切り込み11と第二小口切り込み12との間隔は70mm(丸鋸刃41の有効半径(75mm)以下)であるが、右側で隣り合う第一小口切り込み11と第二小口切り込み12との間隔は150mm(丸鋸刃41の有効半径(75mm)より大きい)ため、A3ステップを行う。後者(右側)の間隔が丸鋸刃41の有効半径より小さければ、A3ステップは不要である。
【0050】
(A3)A3ステップ
駆動装置(図示略)により、図8に示すように、小口切り込み装置50の回転する丸鋸刃51を、小口面4における右側の第二小口切り込み12より右側の第一小口切り込み11へ向かって丸鋸刃41の有効半径(75mm)以下のピッチ(本例では50mm)で順に離間した二位置から、主面平行方向(本例ではパネル幅方向)へ相対移動させて、開口切欠(10)の深さ分まで作用させることにより、2本の第三小口切り込み13を補強鉄筋5の切断を伴って形成する。
【0051】
A1ステップとA2ステップとA3ステップの先後は問わないし、混然と行ってもよい。例えば、小口切り込み11,12,13をその横並び順に形成すること、すなわち本例では第一小口切り込み11→第二小口切り込み12→第二小口切り込み12→第三小口切り込み13→第三小口切り込み13→第一小口切り込み11の順で形成することもできる。
【0052】
(B)主面内切り込み工程
(B1)B1ステップ
図9に示すとおり、第一実施例と同様にして、主面内切り込み14の一部(下部)を形成する。
【0053】
(B2)B2ステップ
図10及び図11に示すとおり、第一実施例と同様にして、主面内切り込み14の上部を形成し、パネル部分15及び左側のパネル部分16と、第一小口切り込み11と第二小口切り込み12と一つ目の第三小口切り込み13にまで至る主面内切り込み14とで切り離されたパネル部分17とを脱落させる。
【0054】
(B3)B3ステップ
続いて駆動装置48により、図12に示すように、回転する丸鋸刃41を主面平行方向へ相対移動させて、前記主面内切り込み14を延ばしていき、その途中で、二つ目の第三小口切り込み13までのパネル部分17を脱落させる。丸鋸刃41が右側の第一小口切り込み11に至ったときに、図13に示すように、回転する丸鋸刃41パネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの全体に作用させることにより、未切部18が無くなって主面内切り込み14の全部が形成され、残りのパネル部分17を脱落させる。以上をもって、小口面4の中間部に開口切欠10が形成される。
【0055】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)前記実施例では、補強鉄筋5(長手方向に延びる主筋)の切断を伴って小口切り込み11、12等を形成し、また補強鉄筋5(幅方向に延びる副筋)の切断を伴って主面内切り込み14を形成し、もって開口切欠10を形成した。補強鉄筋5(特に主筋)の側端は長手方向の小口面の近くに埋設されているため、小口切り込み11、12等を形成する際には、必ず補強鉄筋5(主筋)の切断を伴う。しかし、補強鉄筋5(特に副筋)は大きなピッチで埋設されているため、そのピッチよりも主面内切り込み10の長さLが小さい場合などには、主面内切り込み10が補強鉄筋5にかからないために、補強鉄筋5の切断を伴わない場合も十分にありうる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例で開口切欠を形成したALCパネルの斜視図である。
【図2】(a)はALCパネルの平面図、(b)は側面図である。
【図3】(a)は加工装置の平面図、(b)は正面図、(c)は丸鋸刃及びその軸着部の平面図である。
【図4】第一実施例の小口切り込み工程を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図5】第一実施例の主面内切り込み工程のB1ステップを示し、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図6】第一実施例の主面内切り込み工程のB2ステップを示し、(a)は初期の側面図、(b)は途中の側面図である。
【図7】同じくB2ステップの終期の側面図である。
【図8】第二実施例の小口切り込み工程を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【図9】第二実施例の主面内切り込み工程のB1ステップを示し、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図10】第二実施例の主面内切り込み工程のB2ステップを示し、(a)は初期の側面図、(b)は途中の側面図である。
【図11】同じくB2ステップの終期の側面図である。
【図12】第二実施例の主面内切り込み工程のB3ステップの途中までの側面図である。
【図13】同じくB3ステップの終期の側面図である。
【図14】従来技術で開口切欠を形成したALCパネルの斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ALCパネル
2 主面(表面)
3 主面(裏面)
4 小口面
5 補強鉄筋
6 枠体
7 スペーサ
10 開口切欠
11 第一小口切り込み
12 第二小口切り込み
13 第三小口切り込み
14 主面内切り込み
15 パネル部分
16 パネル部分
17 パネル部分
18 未切部
19 切り残し部
30 搬送装置
40 主面内切り込み装置
41 丸鋸刃
42 丸鋸刃
43 回転軸
44 軸着部
50 小口切り込み装置
51 丸鋸刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強鉄筋が埋設されたALCパネルの小口面の中間部に開口切欠を形成する方法であって、次の(A)小口切り込み工程と、(B)主面内切り込み工程とを含むALCパネルの開口切欠の形成方法。
(A1)回転する丸鋸刃を前記小口面における開口切欠の両端となる両端二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第一小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA1ステップと、
(A2)回転する丸鋸刃を前記小口面の前記両端二位置の中間における後記B2ステップ用の丸鋸刃の軸着部の直径以上に互いに離間した中間二位置から主面平行方向へ相対移動させて、2本の第二小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA2ステップと
を含む(A)小口切り込み工程。
(B1)回転する丸鋸刃をALCパネルの一主面からパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの中央付近まで又はそれ以上に作用させるB1ステップと、
(B2)回転する丸鋸刃をALCパネルの他主面からパネル厚さ方向へ相対移動させ、該丸鋸刃の軸着部が一主面に達するまで作用させるB2ステップとにより、
主面内切り込みを形成し、前記B2ステップの途中で、2本の前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分を脱落させてできる空所を前記軸着部が通過する(B)主面内切り込み工程。
【請求項2】
前記B1ステップ用の丸鋸刃の直径Dが、次式の範囲にある請求項1記載のALCパネルの開口切欠の形成方法。
[t/有効直径率]≦D≦[a+(L2/4a)]
ここで、有効直径率は(D−丸鋸刃の無効中心部の直径)/D
tはALCパネルのパネル厚さ
aはt/2
Lは主面内切り込みの長さ
【請求項3】
前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが、次式の範囲にある請求項1又は2記載のALCパネルの開口切欠の形成方法。
[t/有効直径率]≦D≦L
ここで、有効直径率は(D−丸鋸刃の無効中心部の直径)/D
tはALCパネルのパネル厚さ
Lは主面内切り込みの長さ
【請求項4】
前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが主面内切り込みの長さLとほぼ等しいとき、前記B2ステップにより、前記第一小口切り込みと前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分も脱落させて、前記小口面の中間部に開口切欠を形成する請求項3記載のALCパネルの開口切欠の形成方法。
【請求項5】
前記B2ステップ用の丸鋸刃の直径Dが主面内切り込みの長さLより小さいとき、前記(B)主面内切り込み工程における前記B2ステップ後に、
(B3)回転する丸鋸刃を主面平行方向へ相対移動させて、前記主面内切り込みを延ばしていき、前記第一小口切り込みに至ったときにパネル厚さ方向へ相対移動させ、パネル厚さの全体に作用させるB3ステップ
を行うことにより、前記第一小口切り込みと前記第二小口切り込みと前記主面内切り込みとで切り離されたパネル部分を脱落させて、前記小口面の中間部に開口切欠を形成する請求項3記載のALCパネルの開口切欠の形成方法。
【請求項6】
前記(A)小口切り込み工程では、
(A3)回転する丸鋸刃を前記小口面における、前記第二小口切り込みより前記第一小口切り込みへ向かって前記B3ステップ用の丸鋸刃の有効半径以下のピッチで離間した、少なくとも一位置から主面平行方向へ相対移動させて、少なくとも1本の第三小口切り込みを前記補強鉄筋の切断を伴って形成するA3ステップ
を行う請求項5記載のALCパネルの開口切欠の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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