説明

ALC構造物の剥落防止方法及びALC構造物の剥落防止構造

【課題】 ALC部材を用いて構成されたALC構造物に関し、長期に亘って該ALC構造物よりALC片が剥落することを防止しうる剥落防止方法及び剥落防止構造を提供することを一の目的とする。
【解決手段】 複数のALC部材1が目地部3を介して配置され、該目地部3には弾性部材2が介装されてなるALC構造物10の剥落防止方法であって、前記ALC部材1の表面にプライマー4を塗布するプライマー塗布工程と、前記目地部3に弾力性のあるパテ材5を充填する目地部充填工程と、前記プライマー4が塗布されたALC部材1表面に弾力性のあるパテ材6を塗布しつつ該パテ材6により網状繊維材7をALC部材1表面に固定する網状繊維材固定工程と、前記パテ材6の表面を柔軟性のある表面被覆材9で被覆する表面保護工程とを有することを特徴とするALC構造物10の剥落防止方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALC部材を用いて構成されたALC構造物の剥落防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(本発明において、単に「ALC」ともいう)は、強度、耐火性、断熱性、調湿性、遮音性等に優れ、しかもコンクリートと比較して軽量である、という利点を有するため、多くの構造物が、柱や梁を鉄骨で造り、それに該ALCからなるALC部材を固定するようにして構成されている。具体的には、該ALC部材は、壁材、屋根材、床材、間仕切り等として使用され、いわゆるALC構造物を構成している。
【0003】
しかるに、前記ALC部材は、一般的なコンクリートと比較して曲げ強度等が低い傾向にあるため、該ALC部材に大きな荷重が作用した場合や、地震等で鉄骨に大きな変形が生じた場合には、該ALC部材に変形、又はひび割れ等が発生し、その一部が剥落しやすくなるという問題点を有している。
【0004】
従来、コンクリート構造物等についての補強方法としては、例えば特許文献1に開示されたような、アラミド繊維や炭素繊維などの繊維補強材をセメントモルタルにより固定する方法が知られているが、上記の如きALC構造物については、これまで、充分な持続効果のある補修方法が見出されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−293693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記のようなALC構造物に対し、長期に亘って該ALC構造物よりALC片が剥落することを防止しうる剥落防止方法及び剥落防止構造を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく、本発明者らが鋭意研究したところ、この種のALC構造物は、ALC部材同士が目地部を介して接合されており、しかも該目地部には弾性を有する目地材が介装された構成であるため、該ALC構造物に荷重が作用した場合には、該目地部がズレるようにして変形を起こし、このようなズレによる変形が従来の繊維補強材を剥離させ、比較的早期に剥離防止作用を持続し得なくせしめていることを見出し、斯かる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、複数のALC部材が目地部を介して配置され、該目地部には弾性部材が介装されてなるALC構造物の剥落防止方法であって、前記ALC部材の表面にプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、前記目地部に弾力性のあるパテ材を充填する目地部充填工程と、前記プライマーが塗布されたALC部材表面に弾力性のあるパテ材を塗布しつつ該パテ材により網状繊維材をALC部材表面に固定する網状繊維材固定工程と、前記パテ材の表面を柔軟性のある表面被覆材で被覆する表面保護工程とを有することを特徴とするALC構造物の剥落防止方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、複数のALC部材が目地部を介して配置され、該目地部には弾性部材が介装されてなるALC構造物の剥落防止構造であって、前記ALC部材の表面にプライマーが塗布され、前記目地部に弾力性のあるパテ材が充填され、前記プライマーが塗布されたALC部材表面に弾力性のあるパテ材によって網状繊維材が固定され、前記パテ材の表面に柔軟性のある表面被覆材が被覆されてなることを特徴とするALC構造物の剥落防止構造を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記目地部に弾力性のあるパテ材を充填するとともに、弾力性のあるパテ材を用いて網状繊維材をALC部材表面に固定するようにしたため、該ALC構造物の変形により、目地部に伸縮やズレ変形が生じた場合であっても、該弾力性のあるパテ材、及び該パテ材により固定された網状繊維材がALC構造物に付随して変形し、ALC部材表面からの剥離を防止することが可能となる。
従って、本発明に係るALC構造物の剥落防止方法によれば、ALC部材に大きな荷重が作用したような場合や鉄骨に大きな変形を生じた場合であっても、比較的長期に亘って該ALC構造物からのALC片の剥落を防止し得るという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るALC構造物の剥落防止方法の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態としてのALC構造物の剥落防止方法のを示した概念図である。
【0012】
本実施形態のALC構造物の剥落防止方法は、複数のALC部材1が目地部3を介して並置されてなるALC構造物10において、そのALCの剥落を防止するために行う剥落防止方法であって、前記ALC部材1の表面にプライマー4を塗布するプライマー塗布工程と、前記目地部3に弾力性のあるパテ材5を充填する目地部充填工程と、前記プライマー4が塗布されたALC部材1の表面に弾力性のあるパテ材6を塗布しつつ該パテ材6により網状繊維材7をALC部材1の表面に固定する網状繊維材固定工程と、前記パテ材6の表面を柔軟性のある表面被覆材8で被覆する表面保護工程とを実施するものである。
【0013】
前記プライマー塗布工程は、ALC部材1の表面にプライマー4を塗布する工程である。ALC部材1の表面にプライマー4を塗布しなければ、ALC部材1の表面による吸水作用により、後に塗布する弾力性のあるパテ材6の硬化阻害や接着不良を招くこととなる。
特に、該弾力性のあるパテ材6がポリマーセメントである場合には、該ALC部材1の表面による吸水作用によってポリマーセメント中のセメント成分の水和に必要な水分が部分的に不足し、水和不良となって接着性が低下することとなる。
【0014】
該プライマー4としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂系又はシリコーン系の浸透性防止剤、ポリアクリル酸エステル(PAE)系、エチレン酢酸ビニル(EVA)系、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)系のポリマー等を1種又は2種以上含み、これらの樹脂成分等を水中に分散させてなる水性樹脂エマルジョンを好適に使用し得る。
該プライマーの市販品としては、住友大阪セメント社製の商品名「ライオンボンドA」を挙げることができる。
【0015】
前記目地部充填工程は、目地部3に弾力性のあるパテ材5を充填する工程である。該パテ材を目地部に充填することにより、ALC部材1の目地部3に形成された窪みが該パテ材で埋められ、その結果、ALC部材1同士の接合部分が平坦となるため、後述する網状繊維材7の固定が容易となる。
また、該パテ材5が弾力性を有するものであるため、該目地部が伸縮又は湾曲といった変形を起こしても、該パテ材5及び該パテ材5により固定された網状繊維材7がALC構造物10の変形に追従でき、長期に亘ってALC部材1の剥落を防止することができる。
【0016】
該弾力性のあるパテ材5としては、ポリマーセメントモルタルを使用することができ、特に、セメント100重量部に対して5重量部以上30重量部未満のポリマー固形分を含むポリマーセメントモルタルが好適である。
該ポリマーセメントモルタルとは、セメント、細骨材、水、混和剤などを含んでなるセメントモルタルに、流動性や接着力の向上、吸水率の減少などを目的として水性ポリマーディスパージョンが添加されたものである。水性ポリマーディスパージョンを構成するポリマーとしては、アクリル、エチレン酢酸ビニル、スチレンブタジエン、ウレタン等やそれらの混合物を挙げることができる。
中でも、アクリルを含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンが好ましく、更に、ガラス転移温度が−50℃〜−20℃のアクリル樹脂を含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンがより好ましい。
斯かる構成のポリマーセメントモルタルの市販品としては、住友大阪セメント社製の商品名「リフレベースパテ」を挙げることができる。
【0017】
ガラス転移温度が−50℃〜−20℃のアクリル系ポリマーディスパージョンを採用することにより、ALC構造物への追従性と付着強度に優れたものとなる。
尚、本発明において、ガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K 7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0018】
前記網状繊維材固定工程は、プライマー4が塗布されたALC部材1の表面に弾力性のあるパテ材6を塗布しつつ該パテ材6により網状繊維材7をALC構造物10の表面、即ち、ALC部材1の表面に固定する工程である。
該パテ材6としては、前記目地部充填工程において説明したパテ材5と同様のパテ材を使用することができる。
【0019】
また、該網状繊維材7としては、ALCの剥落を防止しうる強度を有するものであれば、特に限定されるものではない。該網状繊維材7としては、例えば、耐アルカリ性ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、炭素繊維等の繊維材が、織物状、編物状、メッシュ状等の網状に形成された任意のものを使用することができる。
中でも、少なくとも経方向、斜方向および逆斜方向の3軸方向の糸で構成される積層布であり、且つ、ポリプロピレン製網状繊維材を用いることが好ましい。斯かる構成の網状繊維材を用いることにより、3軸方向の糸で構成される積層布がALCの剥落をより確実に防止し、さらにポリプロピレン製繊維が加工性に優れるため、壁面に貼付しやすいという効果がある。
【0020】
さらに、該前記網状繊維材固定工程では、図1に示したように、タッカー8を併用し、前記網状繊維材7を固定することが好ましい。具体的には、先ず、前記パテ材6を塗布し、該パテ材6の上に網状繊維材7を載置する。さらに、載置された該網状繊維材7の上からタッカー8を打ち込み、更に該網状繊維材7及び該タッカー8を被覆するように前記パテ材6を重ねて塗布する方法を採用しうる。
タッカー8は、その先端部分がALC部材1に貫入されるため、該タッカー8を用いて網状繊維材7を固定することにより、ALC剥落時の押し抜きせん断に対する抵抗力が増し、より確実に網状繊維材7を固定し、ALCの剥落を防止することができる。
【0021】
該タッカーに用いる針としては、任意の形状のものを使用することができるが、材質はステンレス製とすることが好ましい。鉄製の針はポリマーセメントモルタル等の影響により、早期に錆びが発生するが、ステンレス製とすることにより、このような錆びの発生を長期に亘って防ぐことができる。
【0022】
前記表面保護工程は、パテ材6の表面を柔軟性のある表面被覆材9で被覆する工程である。
該表面被覆材9としては、ポリマーセメントモルタルを使用することができ、特に、セメント100重量部に対して30重量部以上120重量部未満のポリマー固形分を含むポリマーセメントモルタルが好適である。
該ポリマーセメントモルタルは、ポリマー固形分の含有量を除き、パテ材5において説明したものと同様のものを使用することができる。
また、該ポリマーとしては、アクリルを含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンが好ましく、更に、ガラス転移温度が−50℃〜−20℃のアクリル樹脂を含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンがより好ましく、該ポリマーディスパージョンを採用することによりALC構造物への追従性と付着強度がより一層高められる。
斯かる構成のポリマーセメントモルタルの市販品としては、住友大阪セメント社製の商品名「リフレベースZ」を挙げることができる。
【0023】
そして、このような手順を経ることにより、図2に示すようなALC構造物の剥離防止構造の一実施形態が作成される。つまり、本実施形態に係る剥離防止構造は、複数のALC部材1が目地部を介して隣り合った状態に配置され、該目地部には弾性部材2が介装されており、さらに、前記ALC部材1の表面にはプライマー4が塗布され、前記目地部には弾力性のあるパテ材5が充填され、前記プライマー4が塗布されたALC部材表面には弾力性のあるパテ材6によって網状繊維材7が固定され、前記パテ材6の表面には柔軟性のある表面被覆材9が被覆されてなるものである。
斯かる構成のALC構造物の剥離防止構造によれば、隣り合うALC部材5に大きな荷重が作用したり、又は鉄骨に大きな変形を生じた場合であっても、ALC部材5から網状繊維材7が剥離することが防止され、該網状繊維材7による補強作用が長期に亘って発揮されることとなり、耐震性に優れた構造物となる。
【0024】
尚、本発明において、剥離防止の対象となるALC構造物としては、複数のALC部材が目地部を介して配置され、該目地部に弾性部材が介装されてなるALC構造物であれば、特に限定されるものではない。該ALC構造物としては、例えば、倉庫、工場、低層建造物及び中層建造物等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るALC構造物の剥落防止方法の一実施形態を示した概念図。
【図2】本発明に係るALC構造物の剥落防止構造の一実施形態を示した拡大断面図。
【符号の説明】
【0026】
1 ALC部材
2 弾性部材
3 目地部
4 プライマー
5、6 パテ材
7 網状繊維材
8 タッカー
9 表面被覆材
10 ALC構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のALC部材が目地部を介して配置され、該目地部には弾性部材が介装されてなるALC構造物の剥落防止方法であって、
前記ALC部材の表面にプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、前記目地部に弾力性のあるパテ材を充填する目地部充填工程と、前記プライマーが塗布されたALC部材表面に弾力性のあるパテ材を塗布しつつ該パテ材により網状繊維材をALC部材表面に固定する網状繊維材固定工程と、前記パテ材の表面を柔軟性のある表面被覆材で被覆する表面保護工程とを有することを特徴とするALC構造物の剥落防止方法。
【請求項2】
前記パテ材が、セメント100重量部に対して5重量部以上30重量部未満のポリマー固形分を含むポリマーセメントモルタルからなり、該ポリマーセメントモルタルには、ガラス転移温度が−50℃〜−20℃のアクリル樹脂を含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンが添加されていることを特徴とする請求項1記載のALC構造物の剥落防止方法。
【請求項3】
前記表面被覆材が、セメント100重量部に対して30重量部以上120重量部未満のポリマー固形分を含むポリマーセメントモルタルからなり、該ポリマーセメントモルタルには、ガラス転移温度が−50℃〜−20℃のアクリル樹脂を含んでなるアクリル系ポリマーディスパージョンが添加されていることを特徴とする請求項1又は2記載のALC構造物の剥落防止方法。
【請求項4】
前記網状繊維材は、少なくとも経方向、斜方向および逆斜方向の3軸方向の糸で構成される積層布であり、且つ、ポリプロピレン樹脂製であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のALC構造物の剥落防止方法。
【請求項5】
複数のALC部材が目地部を介して配置され、該目地部には弾性部材が介装されてなるALC構造物の剥落防止構造であって、
前記ALC部材の表面にプライマーが塗布され、前記目地部に弾力性のあるパテ材が充填され、前記プライマーが塗布されたALC部材表面に弾力性のあるパテ材によって網状繊維材が固定され、前記パテ材の表面に柔軟性のある表面被覆材が被覆されてなることを特徴とするALC構造物の剥落防止構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−106567(P2010−106567A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280093(P2008−280093)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】