説明

AMP活性化プロテインキナーゼ活性化剤

【課題】糖吸収促進剤、ならびに糖尿病予防および治療剤の提供。
【解決手段】下記式(1):

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロール誘導体を含有するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化剤に関するものである。また、本発明は、糖吸収促進剤並びに糖尿病予防剤または治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化が進んだ現代社会において、糖尿病が大きな社会問題となっている。糖尿病は高脂肪、高カロリーな食事による過剰なエネルギー摂取とストレスや運動不足を原因とする疾患であると認識されている。
【0003】
生活習慣病である糖尿病は、血液中のグルコース濃度が異常上昇する疾患である。厚生労働省の「2007年国民健康・栄養調査」によると糖尿病患者および予備群は2210万人以上に上るとされている。これは日本の成人2割以上にあたり、その対策が急務となっている。世界的にも成人の総人口の3%程度の患者が発生しているといわれており、国際連合では11月14日を「世界糖尿病デー」として、その予防・治療・療養を啓発する運動を行っている。
【0004】
糖尿病の原因がエネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスの偏りによって引き起こされることは多くの実験結果から明らかになっている。エネルギー代謝のバランスが崩れることにより、血糖値を調節するホルモンであるインスリンの枯渇、インスリン分泌量の低下、インスリン感受性の低下が起こり糖尿病を発症する。この問題を改善する1つの方法として体内の代謝機能を向上させ、消費エネルギーを増大させることが挙げられる。消費エネルギーの増大を図ることによって、普段運動をしていない、また少しの運動しか行っていない場合であっても十分な運動を行ったのと同じ効果が得られる運動代替手段として効果が期待される。
【0005】
AMPKは生体内のエネルギー代謝を制御する因子として見出されている(非特許文献1)。AMPKは細胞でATP濃度の減少とそれに伴うAMP濃度の上昇を感知してリン酸化され活性型へ変換される。活性化されたAMPKはATP産生促進以外に様々な代謝経路を亢進する。例えば、血液中から細胞内へのグルコースの取り込みを行うグルコース輸送体GLUT4の発現と細胞膜へのトランスロケーションを促進し、糖の吸収を亢進させる。AMPKは生体内の主要な代謝経路の活性に関与しており、これを活性化することは代謝の活性化つまり運動代替効果を及ぼすものとされている。
【0006】
上記のようにAMPKの活性化の有用性が示されていることから、その活性化を目的とした先行技術がいくつか報告されている。例えば、アディポネクチンのC末端領域を有効成分とするAMP活性化プロテインキナーゼ活性化剤(特許文献1)、レスベラトロールを有効成分とするAMPK活性化剤(特許文献2)、ローズマリーまたはセージ抽出物を有効成分とするAMPK活性化剤(特許文献3)、ニンニク、醗酵黒ニンニク、ゴボウ、西洋カボチャ種子、キウイ種子、ギャバ、カッコン、チンピ、オウバク、オウゴン、アガリクス、ガラナ等の植物エキスを有効成分とするAMPK活性化剤(特許文献4)、2−8量体のプロシアニジンを有効成分とするAMPK活性化剤(特許文献5)等が挙げられる。
【0007】
前記のようにAMPK活性を有する化合物や素材が多数提案されているが、更なる新規素材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−016074号公報
【特許文献2】特開2006−273834号公報
【特許文献3】特開2008−208081号公報
【特許文献4】特開2009−298742号公報
【特許文献5】特開2011−178728号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Molecular Medicine,39(4),p398−407(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、AMPK活性化剤に関する前記の状況を鑑みて、新規なAMPK活性化剤の探索をした。その結果、新たに作製したレスベラトロール誘導体類が、レスベラトロールよりも優れたAMPK活性化作用を有することに加えて、糖吸収促進作用も有する化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明は、レスベラトロールに比べて優れたAMPK活性化剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、レスベラトロールに比べて優れた糖吸収促進剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、レスベラトロールに比べて優れた糖尿病予防または治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、
〔1〕下記式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
で示されるレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするAMPK活性化剤、
〔2〕前記式(1)記載のレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする糖吸収促進剤、
〔3〕前記式(1)記載のレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする糖尿病予防または治療剤
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のAMPK活性化剤は、公知のAMPK活性化剤であるレスベラトロールと比べて優れたAMPK活性化作用を有していることから、新規のAMPK活性化剤として有用である。
また、本発明のAMPK活性化剤は、レスベラトロールに比べて細胞の糖吸収作用を活性化することが可能であることから、糖吸収促進剤としても有用であり、このように血糖値の過剰な上昇を防止できることから、糖尿病予防または治療剤としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は実施例1で行ったUHA4002のHPLCのクロマトグラムを示す。R3は本発明品であるUHA4002に該当する。
【図2】図2は実施例2で行った活性型AMPKを検出・定量した結果を示す。左から、(1)DMSO、(2)レスベラトロール(Resveratrol)、(3)UHA4002で処理したそれぞれの前駆脂肪細胞中のリン酸化AMPK量をウェスタンブロット解析の結果から定量した結果を示している。なお、上図は、ウェスタンブロットの状態を示しており、下図はそのリン酸化AMPK(活性型AMPK)量を示している。
【図3】図3は実施例3で行った糖吸収試験の結果を示している。左から、(1)DMSO、(2)レスベラトロール(Resveratrol)、(3)UHA4002で処理したそれぞれの脂肪細胞培養液中のグルコース濃度を定量した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、「AMPK活性化剤」とは、AMPKのリン酸化を促進することができる薬剤をいう。
また、「糖吸収促進剤」とは、細胞の糖吸収を亢進することができる薬剤をいう。
前記AMPKのリン酸化促進作用および細胞の糖吸収作用は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
また、本発明の「糖尿病予防または治療剤」は、AMPKのリン酸化を促進し、加えて細胞の糖吸収を亢進することで、血糖値の過剰な上昇を抑制することで、糖尿病の進行を抑えて、糖尿病の発生を抑制することが可能な薬剤をいう。
【0018】
本発明では、AMPK活性化剤、糖吸収促進剤および糖尿病予防または治療剤の構成は同じであるため、これらをまとめて、本発明のAMPK活性化剤等と略する。
【0019】
本発明のAMPK活性化剤等は、下記式(1):
【0020】
【化2】

【0021】
で示されるレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする。
【0022】
前記レスベラトロール誘導体において、炭素−炭素2重結合は、トランスまたはシスであってよく、シス体とトランス体との混合物を含む。
【0023】
前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩またはそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
また、前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能なエーテルまたはエステルとは、ヒドロキシ基(−OH)の1個または2個以上がエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基であるものをいう。これらのエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基は、非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、または非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖脂肪族、芳香脂肪族または芳香族カルボン酸に由来してもよい。エーテル化ヒドロキシ基はさらにグリコシド基であってもよく、エステル化ヒドロキシ基はさらにグルクロニドまたは硫酸基であってもよい。これらの薬理的に許容し得るエーテルまたはエステルは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明で使用する前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体は、レスベラトロールを原料として、金属塩の存在下で加熱処理して得ることができる。
以下に、前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体の製造方法について具体的に説明する。
【0026】
前記製造方法では、前駆体としてレスベラトロールを用いる。レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、レスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。レスベラトロールは、ブドウ果皮から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明で用いる前記レスベラトロール誘導体が得られるから、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。また、レスベラトロールには、塩、エーテル、エステル等の誘導体もあるが、前記製造方法では、これらの誘導体も原料として使用することができる。
ただし、前記レスベラトロール誘導体の回収率の観点からは、レスベラトロール換算で1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。
前記レスベラトロールとしては、ブドウ果皮、ピーナッツ等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0027】
本発明では、レスベラトロールを適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであれば、レスベラトロールの溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類については特に制限はなく、レスベラトロールが十分に溶解すれば良い。中でも、メタノールやエタノールのみの溶媒や、水とメタノール、水とエタノール等の混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。新規レスベラトロール誘導体を含む反応後組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒としてエタノールや含水エタノールを使用することが望ましい。
【0028】
前記のようにして得られるレスベラトロールを含有する溶液中のレスベラトロールの濃度について特に制限はないが、それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロールの濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロールがそれぞれ飽和する濃度近くが好ましい。
また、レスベラトロールは前記溶液中において生成反応前に完全に溶解していなくともよい。
【0029】
次に、前記レスベラトロールを含有する溶液(以下、レスベラトロール含有溶液)のpHを8以上に調整することが好ましい。調整方法として、例えば、レスベラトロール含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加してpHを調整しても良いし、前記溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。レスベラトロール含有溶液の反応開始時のpHは8.0以上であれば、効率的に後述の反応が進むので好ましく、pH13.0を越えると反応と同時に、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために最終的なレスベラトロール重合化合物類の回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは8以上13未満が望ましい。
【0030】
本発明では、前記レスベラトロール含有溶液中に金属塩を添加する。前記金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩等が挙げられる。
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社、グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。
なお、前記金属塩の含有量としては、前記レスベラトロール誘導体を生成可能な量であればよく、特に限定はない。
【0031】
次に、金属塩存在下で、レスベラトロール含有溶液を加熱処理する。この加熱処理により、新規レスベラトロール誘導体の生成反応を行う。生成反応を効率的に進ませるために、レスベラトロール含有溶液の加熱温度は110℃以上に調整することが好ましい。また、使用する溶媒の沸点から考え、加圧加熱が望ましい。例えば、開放容器にレスベラトロール含有溶液を入れ、溶媒の沸点を超える高温で前記容器を加熱する、密閉容器にレスベラトロール含有溶液を入れて前記容器を加熱する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加熱する等、少なくとも部分的に溶液温度が110℃以上に達するように加熱することが好ましい。回収効率面から、溶液温度が均一に110℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜120分の加熱時間が望ましい。また、加熱は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。複数回に分けて加熱する場合、蒸発した溶媒を補うために溶媒を新たに追加して行うことが好ましい。
【0032】
前記加熱処理によるレスベラトロール誘導体の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析によりレスベラトロール誘導体の生成量を確認して判断すればよい。
【0033】
得られる反応液中には、本発明で用いるレスベラトロール誘導体が含有されている。
また、安全な原料のみを用いた工程でレスベラトロール誘導体を製造した場合には、前記レスベラトロール誘導体を含む混合物の状態で食品、医薬品または医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロールを含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーターやミネラルプレミックスを添加して加熱処理した場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0034】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮してレスベラトロール誘導体の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製しレスベラトロール誘導体の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0035】
また、前記反応液から式(1)で表されるレスベラトロール誘導体を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。
【0036】
前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状のレスベラトロール誘導体を得ることができる。
【0037】
また、得られたレスベラトロール誘導体は、必要に応じて、当該分野で公知の方法により、レスベラトロール誘導体の塩としたり、レスベラトロール誘導体のヒドロキシ基をエーテル化またはエステル化してもよい。
【0038】
前記のレスベラトロール誘導体はいずれも、レスベラトロールにはない優れたAMPK活性化作用、糖吸収促進作用を有する。
したがって、本発明は、前記レスベラトロール誘導体を有効成分として含有するAMPK活性化剤、糖吸収促進剤、糖尿病予防剤、糖尿病治療剤を提供することができる。
【0039】
次に本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1:UHA4002の生成および単離・精製)
トランス−レスベラトロール(東京化成)700mgをエタノール14mLに溶解し、2.5%NaHCO3水溶液を14mL加えて、レスベラトロール含有溶液(pH9.9)を得た。このレスベラトロール含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)、「SANYO LABO AUTOCLAVE」、以下同じ)にて130℃、20分間加熱した。次いで、1回目のオートクレーブ処理にて得られた反応溶液に、エタノール14mLと5.0%NaHCO3水溶液を14mL加え、再度、オートクレーブにて130℃、20分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、このうちの10μLをHPLCにより分析した。その結果を図1に示す。
【0041】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0042】
図1に示すように、反応後溶液のクロマトグラムでは、複数のピークが確認され、原料であるレスベラトロールのピークとは相違しているR1〜R4のピークのうち、R3のピークに含まれる化合物をUHA4002と命名した。
【0043】
R3のピークに含まれるUHA4002を分取HPLCにより精製し、常法により乾燥したところ、褐色粉末状の物質であった。
【0044】
なお、UHA4002の分子量を高分解能FAB−MS(高速原子衝撃質量分析)にてそれぞれ測定したところ、439.4803であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C28H23O5(M+H)+ :439.4792
分子式C28225
【0045】
次に、前記UHA4002を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMRおよび各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA4002が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。
【0046】
(実施例2 活性型AMPKの定量)
活性型AMPKの発現量を評価するために、3T3−L1細胞(マウス由来脂肪前駆細胞)を用いて評価を行った。
【0047】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA4002の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に20μMの濃度で溶解させて試験に使用した。
【0048】
培養は、10%ウシ胎児血清(FBS:バイオロジカル・インダストリーズ社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(ギブコ(GIBCO)社製)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、シグマ(Sigma)社製)を用いていった。試験に使用する前駆脂肪細胞は定法に従って調整した。つまり、細胞培養用6wellディッシュ(日本BD社製)に3T3L1細胞を5×104cells/mLで2mL播種して37℃、5%CO2条件下で48時間培養し、100%コンフルエントしたものを使用した。
【0049】
試験は以下のように行った。培養した前駆脂肪細胞に各試料を10μL(終濃度0.1μM)添加して10分間処理した。溶媒であるDMSOのみを0.5%添加したものをコントロールとした。
【0050】
処理後、細胞にRIPAバッファー(シグマ社製)100μLを添加し、タンパク質を抽出した。抽出後、タンパク質濃度をDcプロテインアッセイ(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)を用いてタンパク質濃度を測定した。
SDS−ポリアクリルアミド電気泳動に供するタンパク質サンプルは、タンパク質20μg相当に1/5量のLaemmliサンプルバッファー(10%ドデシル硫酸ナトリウム、100mMジチオトレイトール、30%グリセロール、50mMTris−HCl、pH6.8)を添加して96℃で5分間加熱変性させたものを使用した。ゲルには「ミニプロティアンTGX7.5%Gel」(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)を使用した。
変性させたタンパク質サンプルを全量ゲルに供し、200V、30分間電気泳動した。
電気泳動後、セミドライ式ブロッティング装置「TRANS−BLOT S−D SEMI−DRY TRANSFER CELL」(商品名、バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)でPVDF膜(ミリポア(株)社製)に転写し、5%スキムミルクでブロッティングした。ここから、「Phospho−AMPKα(Thr172)(40H9)Rabbit monoclonal Antibody」(一次抗体、CSTジャパン(株)製)、「Anti−Rabbit IgG,HRP−linked Antibody」(二次抗体、CSTジャパン(株)製)を用いた抗体反応によって活性型AMPK(p−AMPK)の検出を行った。また一次抗体に「AMPKα Rabbit Polyclonal Antibody」(CSTジャパン(株)製)を用いて総AMPK量を確認した。検出されたバンドを画像解析ソフト「Image J」を用いてバンド強度の算出を行った。これらの結果を図2に示した。
【0051】
図2の結果より、UHA4002においてレスベラトロールと比較し、優れたAMPK活性化作用が確認された。
このようにUHA4002は、AMPK活性化作用を有することから、糖吸収促進作用を有することが示唆された。
【0052】
(実施例3 糖吸収促進作用の評価)
糖吸収促進作用を評価するために3T3−L1細胞を用いた評価を行った。
【0053】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA4002の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に100μMの濃度で溶解させて試験に使用した。
【0054】
3T3−L1の培養は実施例2と同様に行った。
100%コンフルエントした3T3-L1を毎日培地交換しながらさらに48時間培養し、培地を「AdipoInducer Reagent」(商品名、タカラバイオ(株)社製)付属のインスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチンをそれぞれ1%、0.5%、0.1%添加した分化用DMEM2mLに交換して48時間分化誘導を行った。
その後インスリン1%を含むDMEM(維持培地)に交換して1週間培養した。
【0055】
培養後、DMEM培地に交換し、各試料10μL(終濃度0.5μM)添加して2日間培養した。培養終了後、培地上清を回収し、培地中のグルコース濃度を「Glucose Assay kit」(商品名、バイオ・ビジョン(Bio Vision)社製)を用いて定量した。
【0056】
方法はキット付属のプロトコールに準じて行った。具体的には、回収した培地をグルコースアッセイバッファーで100倍した。この希釈サンプルを96ウェルマイクロプレートに50μLずつ添加し、これに「リアクションミックス(Reaction Mix)」(商品名、46μL グルコースアッセイバッファー、2μL グルコースエンザイムミックス、2μL グルコースサブストレートミックス)50μLを混合し、室温、暗所で30分間反応させた。反応後、プレートリーダー(「BIO−RAD Model 680」、バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)を用いて測定波長450nmの吸光度測定を行った。グルコース濃度はグルコーススタンダードを用いた検量線から算出した。結果は図3に示した。
【0057】
その結果、UHA4002で処理した場合には、DMSOおよびレスベラトロールの場合と比べて3T3−L1細胞培養液中のグルコース濃度が有意に低下していた。
【0058】
UHA4002は、前記のようにAMPK活性促進作用、糖吸収促進作用がともにレスベラトロールに比べて優れていることから、血糖値の上昇に伴い発症する糖尿病を予防および治療する糖尿病予防および治療剤としても有用であると考えられる。
【0059】
また、実施例2、3において、UHA4002で処理した各細胞を観察したところ、いずれも実験前後で特に大きな変化は見られなかった。したがって、UHA4002は、細胞毒性が低く、安全性にも優れていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするAMP活性化プロテインキナーゼ活性化剤。
【請求項2】
下記式(1):
【化2】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする糖吸収促進剤。
【請求項3】
下記式(1):
【化3】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする糖尿病予防または治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112656(P2013−112656A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261259(P2011−261259)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】