説明

Al−B4C複合材料のための改良されたリサイクル方法

Al−BC複合のスクラップ材料を再生するための方法が記載されている。当該方法は、スクラップ材料を予備加熱し、溶融アルミニウムの液体プールを加熱する工程を含む。その後、スクラップ材料を溶融アルミニウムに添加し、予め決定された溶融温度を、全てのスクラップ材料が溶融アルミニウムに溶けるまで液体プール内で維持し、複合溶融物の結果物を生成する。最後に、複合溶融物の結果物を攪拌し均一化を促進する。また、BC含有アルミニウム鋳造用複合製品を準備するための方法であって、非流動性のBC粒子と溶融アルミニウムとの混合物を準備する工程と、混合物を攪拌してアルミニウムによりBC粒子を湿潤させる工程とを備える方法が記載されている。その後、当該混合物は鋳造複合材料に鋳造され、さらに鋳造複合製品とAl−BC複合スクラップ材料とを形成するため処理される。その後、当該ストラップ材料は上述の方法により再生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硼素ベースの中性子吸収材料、特にAl−BC複合のスクラップ材料をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力エネルギー産業の分野において、例えば廃棄燃料のための容器に使用する、中性子を吸収し放出させない構成材料に対して大きな関心がある。これらの廃棄物用容器は、主にアルミニウム(Al)ベースの材料からなり、硼素(B)が中性子吸収のために共通して使用される原子となる。一般的に硼素は、BC、TiB若しくは単にBの形態でAlに取り込まれ、BC、TiB若しくはBは、AlマトリクスにおいてAlB若しくはAlB12を形成する。
【0003】
このような保存用容器を形成する製造プロセスとして、直接チル鋳造(DC鋳造)、射出成型、及び圧延が含まれている。当該方法により、非常に頻繁にAl−BC複合材料のプロセススクラップが作製されるが、当該Al−BC複合材料からなるプロセススクラップはオリジナルの原料物質の65%を占める。
【0004】
そのため、経済的節約のため及び廃棄物の減量化のため、貴重なプロセススクラップを再生する方法を探求することに大きな関心がある。しかしながら、BC粒子は、液体アルミニウム中において熱力学的に不安定であり、そのためBCとAlとの間で界面反応を引き起こしてしまう。これが、再溶解の間、液状複合物の流動性及び可鍛性(castability)を著しく低下させ、それによりスクラップ材料の再生、及びその後の鋳造プロセスを著しく困難なものとしてしまう。
【0005】
硼素含有アルミニウム材料は、溶融状態において非常に反応性を有し、その反応度は温度及び時間に対して著しく高い依存性を有する。そのため、単に溶融させることによりスクラップ材料をリサイクルしようとすると、このスクラップの表面温度は上昇し(例えば約770℃以上)、それによりアルミニウムマトリクスと反応するようなBC含有耐燃性物質となり、流動性が減少し当該材料をその後の鋳造に使用することができなくなってしまう。
【0006】
非常に大量のスクラップを適切な時間内に溶融物に溶解させるために、一次鋳造複合物を比較的高い温度まで加熱しなければならない。そのため、「一次の」若しくは未使用の鋳造複合材料と複合スクラップ材料とを混合する試みは未だ成功していない。この加熱は一次複合物を劣化させることとなる。
【0007】
その代わりとして一次複合物の温度を低いレベルに維持しても良いが、しかしながら、この場合においては、スクラップ材料の溶解速度を減少させなければならず、所定量のスクラップ材料をリサイクルするに必要な時間が増加することになり、さらに当該材料が劣化することになる。
【0008】
米国特許第3,955,970(クラックストン(Claxton)等)では、スクラップ材料と溶融アルミニウムとの比率を1:10〜1:50としてスクラップ材料を溶融アルミニウムに浸漬する工程を備える連続溶融プロセスが教示されている。当該固体のスクラップを溶融アルミニウムに混合するため攪拌が使用されるが、しかしながら、スクラップ材料におけるBCと溶融アルミニウムマトリクスとの間の反応を防止する方法については特に教示されていない。また、米国特許第4,571,258では、溶融アルミニウムへの浸漬により、軽量アルミニウムであるスクラップ材料を再生する方法が教示されている。この特許では、BCを含むスクラップ材料の取扱いに関して、さらにBCの劣化及び溶融アルミニウムとの反応を防止する方法に関しては言及されていない。
【0009】
また、米国特許第6,223,805では、金属マトリクス複合物をリサイクルする方法に関して記載されており、そのオプションとして、上記複合物を「一次」複合物若しくはマトリクス金属に混合する方法も含まれている。当該特許は、リサイクルされた材料において不純物を取り除く方法に焦点が置かれている。
【0010】
したがって、Al−BC複合のスクラップ材料を再生する方法を提供することが強く望まれている。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、Al−BC複合のスクラップ材料を再生する特有の方法、及び成形鋳造のためのAl−BC複合材料を再溶融する特有の方法を創世することを目的とする。
すなわち、本発明は、Al−BC複合のスクラップ材料を再生する方法であって、予め決定されたプール温度まで溶融アルミニウムの液体プールを加熱し、そして、予め決定された予備加熱温度まで当該スクラップ材料を予備加熱する工程を備える方法を提供することにある。さらに、スクラップ材料と溶融アルミニウムの質量比率が0.3:0.7〜0.7:0.3となるよう上記溶融アルミニウムに当該予備加熱されたスクラップ材料を添加する。上記スクラップ材料が全て上記溶融アルミニウムに溶けるまで予め決定された上記溶融温度を液体プールにおいて維持して複合溶融物の結果物を生成し、当該複合溶融物の結果物を攪拌して均一化を促進する。
【0012】
本発明はまた、BC含有アルミニウム複合製品を作製する方法であって、BC粒子を溶融アルミニウム合金に分散させ、上記BC粒子を当該アルミニウムで湿潤させるため混合物を攪拌することにより、非流動性BC粒子と溶融アルミニウムとの混合物を準備する工程を備える方法を提供することにある。当該混合物をその後鋳造し鋳造複合材料としさらに処理して、Al−BC複合のスクラップ材料を生み出す製品とする。その後、予め決定されたプール温度まで溶融アルミニウムの液体プールを加熱し、そして予め決定された予備加熱温度までスクラップ材料を予備加熱することによりスクラップを再生する。溶融アルミニウムに対するスクラップ材料の質量比率が0.3:0.7〜0.7:0.3となるよう、上記溶融アルミニウムに予備加熱されたスクラップ材料を添加する。全てのスクラップ材料が溶融アルミニウムに溶けるまで予め決定された当該溶融温度を液体プールにおいて維持して、複合溶融物の結果物を生成する。最後に、複合溶融物の結果物を攪拌し均一化を促進させ、新たな鋳造製品として鋳造する。
【0013】
本発明を、以下の図面を参照しながら詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、再利用のため再生される硼素含有アルミニウムスクラップ材料の量と質を改善することに焦点を置いている。
【0015】
現在、スクラップ材料を再生するための方法が幾つか提案され研究室レベルで試験がなされている。これらの方法のいくつかを表1に纏めている。この表にあるように、置換による方法及び再溶融による方法では溶融温度及び継続期間に対して非常に敏感である。局所的な過熱や溶融時間が長いことにより、流動性を失いそして全般的にBCが劣化することとなる。
【0016】
【表1】

【0017】
対照的に、希釈による方法は、スクラップAl−BC材料を再溶融しリサイクルする際良好な結果が示された。
【0018】
本発明において、溶融アルミニウム合金は、決定されたある温度において所望のスクラップ溶解速度で与えられ、そして、溶解後の混合物の温度、すなわちスクラップを溶融し混合する温度によりBC劣化が引き起こされないように与えられる。
【0019】
希釈によるプロセスは、図1A、1B、1C及び1Dに示される4つの工程からなる。最初は、図1Aに示すように、溶融アルミニウムの液体プールは、スクラップ材料が溶解された後の全溶融物の0.3〜0.7を構成する量となるよう調製される。図面に示された曲線は、容器に熱が加えられていることを示している。続いて、図1Bに示されているように、好ましくはAl−BCブロックの形態のスクラップ材料が、予め決定された温度まで予備加熱される。スクラップ材料の予備加熱されたブロックは、溶融アルミニウムに加えられ、図1Cに示されているように上記ブロックが全部液体プールに溶けるまで溶融される。最後に、図1Dに示されているように、複合溶融物の結果物を攪拌し、均一の複合製品を形成する。攪拌によりプロセス時間を短くすることができるが、しかしこの攪拌はスクラップが全て溶解された後にのみ実行される。
【0020】
液体プールの温度を制御することにより、Al−BC材料を過熱しすぎて望ましくない材料劣化を引き起こす危険性が無くなる。さらに、要求される溶融時間を比較的短くすることができ、それによりBCとアルミニウムとの反応の機会を減少させることができる。本発明を実行し良好な流動性及び可鍛性を与えるために、当該技術分野でよく知られたあらゆる単純な炉及び装置を使用してもよい。可鍛化を容易にすることにより、鋳造のために必要な時間を減少させることができる。
【0021】
スクラップ材料を添加する前の溶融アルミニウムの温度、及び、スクラップ材料の予め加熱されたブロックの温度は、複合溶融物(即ち、オリジナルのバス(bath)からの溶融アルミニウム合金、スクラップからのマトリックス合金、及び複合溶融物に分散される全てのボロンカーバイド粒子)の結果物の温度が好ましくは770℃以下、さらに好ましくは740℃以下であって、固相温度より高く、好ましくは液相温度以上となるようにすべきである。BC含有スクラップ材料のブロックは、600℃以下、より好ましくは500℃以下の温度まで予備加熱される。これらの条件に基づき、加えられたスクラップの量を基に最終平衡温度に達するために、オリジナルのバスにおける溶融アルミニウム合金の温度を上昇させればよいことが分かる。したがって、オリジナルのバスとして未使用の鋳造複合材料を用いるプロセスは実行することができない。混合物を溶融する間熱を急速に混合物に伝達させるため、混合物中に常に液体金属が存在することが重要であり、そのために混合物の温度は、その固相曲線より上に、より好ましくはその液相温度より上に維持されるべきである。
【0022】
この温度制御の重要性が、図2及び3に示されている。図2及び3は、保持時間に対して複合物の流動性をプロットしたものである。この流動性は、特別設計の直線状鋳型に沿った距離として計測される。図2から、複合溶融物温度が770℃より少し上に上昇しただけでも流動性に大きな影響を与えることが明らかである。さらにこのプロットから、表1に纏められた別の方法(例えば新たな複合材料と混合する方法(置換による方法)、若しくは単に再溶融する方法)は不利益をもたらし、良好な流動性を維持することができないことを示している。図3において、770℃での保持時間では少なくとも40分間適度の流動性を維持することができることが分かる。この40分間という時間は、鋳造のために有益な最小の保持時間である。より低い温度では、安定性が非常に改善され、800℃の温度(例えば好ましい上限値770℃を超える温度)では流動性が急速に劣化することになる。
【0023】
本発明は、先行技術において提案されたものより多くスクラップ材料を添加することができることに留意が必要である。これにより、より多くの量のスクラップを一度に再生することができ、より高いレベルの効率を得ることができる。さらに、結果として得られる複合製品は、浸漬による方法で得られる複合製品より希薄にならないため、当該製品を中性子吸収廃棄物用容器にする中性子吸収要件を満たすようにするための後処理プロセスは殆ど必要ない。
【0024】
溶融アルミニウムに対するスクラップ材料の質量比は少なくとも0.3:0.7で有り、0.7:0.3まで高くすることができる。これは、スクラップとアルミニウムとが平衡となるまで、即ち全てのスクラップが溶融されるまで、混合物が攪拌されないことを意味する。この比率により、十分なBCを含む製品を容易に使用可能とすることができる。
【0025】
本発明の好ましい特性は、0.2〜5.0質量%、より好ましくは0.5〜1.5質量%のTiが溶融アルミニウムプールに加えられることである。これにより、複合溶融物の結果物の流動性を改善することができ、さらに液体アルミニウム中においてBCに安定性を与えることができる。
【0026】
図4は、Tiを加えた場合と加えない場合において、様々な保持温度での複合物の流動性を時間の関数としてプロットしたものを示している。740℃以下の保持温度に対しては、Tiを添加することにより複合物の安定性をある程度上昇させることができる。770℃(好ましい上限値)の保持温度に対しては、Tiを添加することにより安定性に大きな影響を与える。
【0027】
本発明のプロセスのある特徴は、バッチ式プロセスとして実行することができることである。スクラップが連続的に加えられ製品が周期的に取り除かれる一般的なスクラップリサイクルに使用されるもの等の連続的プロセスでは、既に溶融された大量のAl−BC複合物が長い間高温に維持されることが必要であるという問題を有する。これにより、常にBCとAlとの間で望ましくない反応へと導かれ、それにより流動性が失われ、そしてBCが劣化する。
【0028】
本発明により作製される複合材料の結果物を、アルミニウム鋳造工場における中性子吸収廃棄物用容器のため、形状鋳造物を作製するため使用される再溶融インゴットとして製造される。そのため、アルミニウム鋳造工場において、希釈プロセスを再溶融プラクティスに直接適用してもよい。
【0029】
結果として得られる製品を既知の方法を使用して選択的に修正し、中性子吸収を保持しより高いレベルまで上昇させることができる。例えば、ミキシングが溶融、鋳造の間、特に溶融製品を混合する工程の間若しくはその直後の比較的短い時間に完全に行われるように、完全に溶融された物体を混合することにより、付加的なボロンカーバイド粉末を組み込んでもよい。本発明の好ましい実施の形態のようにTiが存在することにより、当該混合物においてボロンカーバイドを安定化させることができる。
【0030】
当該方法及び製品の詳細な記載を用いて本発明の第1の実施の形態を例示している。当業者であれば、当該方法において様々な修正を行うことができること、及び様々な別の実施の形態として利用することができることは明らかであろう。そのため、本発明の方法及び製品において、また添付のクレームのみにより限定される本発明の技術的範囲から逸脱すること無く当該方法及び製品が適用される応用物において、様々な修正を行うことができることも認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1A、1B、1C及び1Dは、本発明の方法に含まれる工程を示した概略ダイアグラムである。
【図2】図2は、複合物の流動性と時間とをプロットしたものであり、流動性に対する短時間オーバーヒートの効果を示している。
【図3】図3は、複合物の流動性と時間とをプロットしたものであり、流動性に対する温度の保持効果を示している。
【図4】図4は、複合物の流動性と時間とをプロットしたものであり、BC15%〜10%の材料を再生しながら、様々な保持温度について、流動性に対するチタニウム添加物の効果を示している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−BC複合のスクラップ材料を再生するための方法であって、
a)予め決定されたプール温度まで溶融アルミニウムの液体プールを加熱する工程と、
b)予め決定された予備加熱温度までスクラップ材料を予備加熱する工程と、
c)溶融アルミニウムに対するスクラップ材料の質量比率が0.3:0.7〜0.3:0.7となるように、上記溶融アルミニウムに対して、上記予備加熱されたスクラップ材料を添加する工程と、
d)上記スクラップ材料が全て上記溶融アルミニウムに溶けるまで上記液体プールにおいて上記予め決定された溶融温度を維持して複合溶融物の結果物を生成する工程と、
e)上記複合溶融物の結果物を攪拌して均一化を促進させる工程と、を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記スクラップ材料を600℃以下の温度で予備加熱することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記のアルミニウムと溶融スクラップ材料との混合溶融プールの温度が770℃以下であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
上記のアルミニウムと溶融スクラップ材料との混合溶融プールの温度が740℃以下であることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
溶融アルミニウムの上記液体プールがさらに0.2〜5質量%のチタンを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
上記複合溶融物の結果物を攪拌する工程の間若しくはその後更に付加的にボロンカーバイドが添加されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
C含有アルミニウム鋳造複合製品を作製する方法であって、
a)BC粒子を溶融アルミニウム合金に分散させることにより、非流動性BC粒子と溶融アルミニウムとの混合物を準備する工程と、
b)上記混合物を攪拌させ、上記BC粒子を上記アルミニウムで湿潤させる工程と、
c)上記混合物を鋳造して鋳造複合材料とする工程と、
d)上記鋳造複合材料を処理して、鋳造複合製品及びAl−BC複合スクラップ材料の結果物を生成する工程と、
e)予め決定されたプール温度まで溶融アルミニウムの液体プールを加熱する工程と、
f)予め決定された予備加熱温度まで上記スクラップ材料を予備加熱する工程と、
g)溶融アルミニウムに対するスクラップ材料の質量比率が0.3:0.7〜0.7:0.3となるように、上記溶融アルミニウムに上記予め加熱されたスクラップ材料を添加する工程と、
h)上記スクラップ材料が全て上記溶融アルミニウムに溶けるまで液体プールにおいて上記予め決定された溶融温度を維持して複合溶融物の結果物を生成する工程と、
i)上記複合溶融物の結果物を攪拌して均一化を促進させ、別の鋳造製品として鋳造する工程と、を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
上記別の鋳造複合製品を鋳造する前、上記複合溶融物の結果物を攪拌する工程の間若しくはその後付加的にボロンカーバイド粉末を添加することを特徴とする請求項7記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−533850(P2007−533850A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508694(P2007−508694)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000609
【国際公開番号】WO2005/103311
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(591074002)アルキャン・インターナショナル・リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】ALCAN INTERNATIONAL LIMITED
【Fターム(参考)】