説明

Amycolatopsisorientalis変異株および塩酸バンコマイシン調製プロセス

【課題】不純物含有量が低く、かつバンコマイシン収率が高いAmycolatopsis株、ならびにこの株を使用する塩酸バンコマイシン発酵プロセスおよび精製プロセスを提供する。
【解決手段】Amycolatopsis orientalisの親株(受託番号KCCM−10836P)を選択培地において、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンを使用して、Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)を単離する。当該変異株を培養させて醗酵させる工程、濾過、精製、結晶化する工程を包含する、塩酸バンコマイシンを調製するためのプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)、この変異株を使用して塩酸バンコマイシンを産生するための発酵プロセスおよび精製プロセスに関する。より具体的には、本発明は、i)炭素源としてのデキストリン、窒素源としてのダイズ粉末またはジャガイモタンパク質、および他のミネラルを含む培地において、発酵条件を制御することによってこの変異株を使用してバンコマイシンを高い収率および生産能力で調製するための発酵プロセス、およびii)カラムシステムと、塩酸バンコマイシンを結晶化するためのプロセスとから構成される、精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(先行技術の説明)
バンコマイシンは、微生物の細胞壁の合成を阻害する糖ペプチド抗生物質のうちの1つである。さらに、バンコマイシンは、グラム陽性細菌(例えば、Streptococcus属、Staphylococcus属およびClostridium difficile(これらは、抗生物質のペニシリンおよびセファロスポリンに対して耐性であるグラム陽性細菌である))に対して強力な抑制効果を示す。また、バンコマイシンは、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)(これは、手術後の患者、老齢患者、および免疫が弱い患者にとっては致死性である)に由来する疾患に対して、高い処置効果を有することが公知である。米国特許第3,067,099号において、バンコマイシンを発酵および産生するためのプロセスが、開示されている。しかし、この特許化されたプロセスは、0.2mg/mLという非常に低い株収率および生産能力を示した。さらに、その生産コストもまた、非常に高かった。
【0003】
上記の問題を解決するために、高いバンコマイシン収率を有する多数の株が、単離および開発された。特許文献1において、Amycolatopsis変異株(受託番号KFCC−10745)が、高い株収率でバンコマイシンを産生すると開示されている。一方、特許文献2において、Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KFCC−10744)が、高い株収率でバンコマイシンを産生すると開示されている。さらに、特許文献1において、1.0〜2.0 w/v%のグルテンまたはダイズケーキを窒素源として含む培養培地を使用してバンコマイシンを高収率で産生するための発酵プロセスが、開示されている。
【0004】
上記特許において開示されたAmycolatopsis株は、バンコマイシンを産生することについて6.1mg/mLという高い株収率を示したが、バンコマイシンを商業化するための多数のハンディキャップ(例えば、高い毒性および高い不純物含有量、ならびに高い生産コスト)が存在する。
【特許文献1】韓国特許公開公報第93−13090号
【特許文献2】韓国特許公開公報第93−13091号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、不純物含有量が低く、かつバンコマイシン収率が高いAmycolatopsis株、ならびにこの株を使用する塩酸バンコマイシン発酵プロセスおよび精製プロセスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、非常に高いバンコマイシン生産能力および低い不純物含有量という特徴を有する新規なAmycolatopsis変異株を単離した。本発明は、この単離された変異株を、炭素源としてのデキストリンと、窒素源としてのマメ粉末またはジャガイモタンパク質と、他の微量元素とを含む培地において使用して、その培地組成および発酵条件を調整することよってバンコマイシンを産生するための発酵プロセスを開発した。
【0007】
(発明の要旨)
本発明の目的は、バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)を使用して塩酸バンコマイシンを調製するためのプロセスを提供することである。このプロセスは、
i)選択培地においてNTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を使用してAmycolatopsis orientalisの親株(受託番号ATCC−19795)を変異させて、上記株から、バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis株(受託番号KCCM−10836P)を単離する工程;
ii)上記単離されたAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)をシード培養(seed culturing)する工程;
iii)12〜18(w/v)%のデキストリン、2.2〜3.8(w/v)%のマメ粉末、1.9〜2.9(w/v)%のジャガイモタンパク質、0.10〜0.14(w/v)%の塩化ナトリウムおよび少量のミネラルからなる発酵培地において、上記Amycolatopsis orientalis変異株を培養させて発酵させる工程;
iv)培養ブロス中でマイクロフィルターを使用して、菌糸を除去することによって、バンコマイシンを濾過する工程;
v)得られたバンコマイシンを、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および吸収剤樹脂が詰まったカラムシステムを使用して精製する工程;ならびに
vi)上記精製された塩酸バンコマイシンを塩化アンモニウムおよびエタノールで結晶化する工程;
を包含する。
【0009】
さらに、上記発酵培地は、0.10〜0.14(w/v)%の塩化ナトリウム、1〜100mg/Lのカルシウム、1〜100mg/Lのピリドキシン、1〜100mg/Lのメラニン生合成インヒビターをさらに含み、上記メラニン生合成インヒビターは、アルブチン、ヒドロキノンおよびトリシクラゾールから選択される。
【0010】
さらに、上記カラムシステムを使用して精製する工程は、
i)疎水性吸収剤樹脂が詰まった吸着カラムに上記ブロスを通す工程であって、バンコマイシンは上記カラム中に残り、不純物は通過し、バンコマイシンは5〜15%のエタノールによって溶出される、工程;
ii)工程(i)において得られた溶出物を、強酸カチオン交換樹脂が詰まったカラムに通す工程であって、バンコマイシンを含む溶液は通過し、不純物は上記カラム中に残る、工程;
iii)工程(ii)において得られた溶液を、弱塩基アニオン交換樹脂が詰まったカラムに通す工程であって、バンコマイシンを含む溶液は通過し、不純物は上記カラム中に残る、工程;
iv)工程(iii)において得られた溶液を、活性炭で処理して着色料および不純物を除去する工程;
v)上記脱色された溶液を、活性化アルミナ樹脂で処理し、バンコマイシンを35〜60%のイソプロパノールで溶出させる工程;および
vi)塩酸バンコマイシンを結晶化する工程;
を包含する。
【0011】
(摘要)
本発明は、Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)を使用して塩酸バンコマイシンを調製するためのプロセスを提供する。このプロセスは、
i)選択培地においてNTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を使用してAmycolatopsis orientalisの親株(受託番号ATCC−19795)を変異させて、上記株から、バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis株(受託番号KCCM−10836P)を単離する工程;
ii)上記単離されたAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)をシード培養する工程;
iii)12〜18(w/v)%のデキストリン、2.2〜3.8(w/v)%のマメ粉末、1.9〜2.9(w/v)%のジャガイモタンパク質、0.10〜0.14(w/v)%の塩化ナトリウムおよび少量のミネラルからなる発酵培地において、上記Amycolatopsis orientalis変異株を培養させて発酵させる工程;
iv)培養ブロス中でマイクロフィルターを使用して、菌糸を除去することによって、バンコマイシンを濾過する工程;
v)得られたバンコマイシンを、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および吸収剤樹脂が詰まったカラムシステムを使用して精製する工程;ならびに
vi)上記精製された塩酸バンコマイシンを塩化アンモニウムおよびエタノールで結晶化する工程;
を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
上記Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)は、以下の3工程のプロセスによって単離された。
【0013】
変異株の単離の第1段階は、高いバンコマイシン耐性を有する株を選択することである。Amycolatopsis orientalis(受託番号ATCC−19795)を、親株として使用する。この親株を、NTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を使用して変異した後、この変異させた株を、0.1〜50g/Lのバンコマイシンを含む選択培地中で28〜32℃にて4日間培養した。この選択培地において高い増殖を示す上記の変異させた株を選択して単離した。選択培地の他の組成が、表1に示される。
【0014】
【表1】

変異株の単離の第2段階は、上記の第1段階において選択された変異株から、高いバンコマイシン生産能力を有する株を選択することである。上記の変異させた株を、バンコマイシンを含まない選択培地を含む寒天プレート表面上で4日間培養した。Bacillus subtilis ATCC−6633培養物を、その寒天プレート表面に重層し、その後、それを30℃にて24時間インキュベートした。Bacillus subtilisに対して高い増殖抑制効果を示す変異させた株を、選択して単離した。培地の他の組成は、表1に示されるものと同じである。
【0015】
変異株の単離の第3段階は、得られた変異株を、250〜280 nmのUVで処理することである。その後、高いバンコマイシン生産能力および低い不純物含有量という特徴を有する変異株を、選択して最終株として単離した。
【0016】
その単離したAmycolatopsis orientalis変異株を、2007年1月12日付けで、ブダペスト条約の下で、受託番号KCCM−10836Pとして、コリアン カルチャー センター オブ マイクロオーガニズムズ(韓国微生物保存センター)(Korea Culture Center of Microorganisms)(KCCM)(住所:大韓民国,120−091 ソウル,ソデムン−ク,ホンジェ1−ドン,ユリムビルディング,361−221(361−221、Yurim B/D Hongje−1−dong、Seodaemun−gu、Seoul 120−091、Republic of Korea))に寄託した。この変異株(受託番号KCCM−10836P)の主要な特徴は、高いバンコマイシン生産能力、バンコマイシン自体に対する高い耐性、および低い不純物含有量である。従って、この変異株の培養物は、高いバンコマイシン生産能力、バンコマイシン含有培地における良好な増殖、および低い不純物(特に、HPLCクロマトグラムにおいてバンコマイシンピークの直前に出現する不純物)生産能力を示す。
【0017】
単離した変異株の培養・分析の方法が、以下に記載され得る。
【0018】
上記変異株を、50mlエルレンマイアーフラスコ、ペトリ皿、または7Lジャーファーメンターを使用して、23〜37℃、pH5.5〜8.0および200−700rpmにて、上記培地において培養した。バンコマイシンの濃度は、米国薬局方28に基づいてHPLC分析によって決定した。微生物の増殖は、10mLの培養ブロスを450gにて10分間遠心分離した後のPMV(充填菌糸体積(packed mycelia volume))によって測定した。溶存酸素濃度は、Ingold Co.(Swiss)によって製造された電極(ポーラログラフィー型)を使用して測定した。
【0019】
表2は、親株(ATCC−19795)、Amycolatopsis orientalis(KFCC−10990)およびAmycolatopsis orientalis(KCCM−10836P)の間のバンコマイシン耐性を示す。
【0020】
【表2】

さらに、表3は、親株(ATCC−19795)、Amycolatopsis orientalis(KFCC−10990)およびAmycolatopsis orientalis(KCCM−10836P)の間の形態学的特徴、生理学的特徴および生化学的特徴を示す。
【0021】
【表3】

単離された変異株(受託番号KCCM−10836P)および親株は、34℃、700rpmで120時間にわたって、4Lの生産培地を含む7Lジャーファーメンター中で培養した。菌糸を除去した後、バンコマイシンの量、成長(PMV)、バンコマイシンの純度,および不純物の含有量を、米国薬局方28に基づいて、HPLC分析によって決定した。
【0022】
表4は、生産培地の組成を示す。
【0023】
【表4】

表5は、親株および本発明の変異株の培養混合物の成長(PMV)、バンコマイシン生産能力、バンコマイシンの純度,および不純物含有量を示す。
【0024】
【表5】

1:主要不純物は、HPLCクロマトグラム上のバンコマイシンのピーク直前の保持時間5.95分におけるピークを意味する。
【0025】
表2および表3に示されるように、本発明の変異株は、バンコマイシン自体に対する耐性、至適培養温度および至適pHに関して他の株の特徴とは異なる特徴を有する。
【0026】
さらに、上記変異株は、表5、図1,および図2に示されるように、遙かに高い生産能力でバンコマイシンを生産し、かつ親株よりも遙かに低い主要不純物(5.95分)を生産する。
【0027】
本発明は、以下の実施例によって例示され得る。しかし、本発明の範囲は、以下の実施例によって限定されないものとする。
【実施例】
【0028】
(実施例1) 7Lジャーファーメンターにおけるバンコマイシン生産
Amycolatopsis orientalis変異株(KCCM−10836P)によるバンコマイシンの生産を、7Lジャーファーメンター中で測定した。
【0029】
(シード培養)
単離された変異株を、50mLの第1シード培地を含む500mLのエルレンマイアーフラスコ中、30℃および250rpmにおいて24時間にわたって培養した。次いで、0.1mLのシード培養物を、100mLの第2シード培地を含む500mLのエルレンマイアーフラスコに移し、30℃および250rpmにおいて60時間にわたってインキュベートした。
【0030】
表6は、第1シード培養物の組成を示す。
【0031】
【表6】

表7は、第2シード培地の組成を示す。
【0032】
【表7】

(主要培養)
主要培養を、5〜20%のデキストリンを含む4Lの生産培地(表4)を充填した7L−ジャーファーメンター中で行った。第2シード培養物(200ml)を、7Lジャーファーメンターに移した。培養中の温度、曝気速度,およびpHを、それぞれ、34℃、1vvm、および7.5に維持した。溶存酸素濃度を、700〜900rpmの範囲で攪拌しながら20%より高く維持した。バンコマイシン生産に対するデキストリンの初期濃度の効果を評価するために、種々の濃度のデキストリン(5〜20%)を使用した。バンコマイシン生産は、15%のデキストリン濃度において最高であった;従って、この値は、バンコマイシン生産のためのデキストリンの至適濃度を表す。
【0033】
表8は、デキストリン濃度の変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0034】
【表8】

(実施例2) pHの変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、pHの変化に従って測定した。実施例1の15%のデキストリンを含む同じ発酵培地および方法を採用した。pHのみを、5.5〜8.0まで変化させた。表10は、pHの変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0035】
【表9】

(実施例3) 温度変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、温度変化に従って測定した。実施例2の同じ発酵培地および方法を採用した。pHを7.5に調節した。温度を、23℃〜37℃まで変化させた。
【0036】
表10は、温度変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0037】
【表10】

(実施例4) 窒素源(ダイズ粉)の濃度変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、窒素源(ダイズ粉)の濃度変化に従って測定した。ダイズ粉および温度を除いて、実施例3の同じ発酵培地および方法を採用した。温度は、32℃に調節し、ダイズ粉を1.0%〜3.5%まで変化させた。3%のダイズ粉を含む培地が至適であることが示されている。
【0038】
表11は、ダイズ粉の濃度変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0039】
【表11】

(実施例5) 窒素源(ジャガイモタンパク質)の濃度変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、窒素源(ジャガイモタンパク質)の濃度変化に従って測定した。デキストリン(15%)、ダイズ粉(3.0%)、ジャガイモタンパク質(1.0〜3.5%)およびNaCl(0.12%)を含む発酵培地ならびに実施例4の方法を採用した。2.4%のジャガイモタンパク質を含む培地が至適であることが示されている。
【0040】
表12は、ジャガイモタンパク質の濃度変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0041】
【表12】

(実施例6) CaCl・2HOの濃度変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、CaCl・2HOの濃度変化に従って測定した。デキストリン(15%)、ダイズ粉(3%)、ジャガイモタンパク質(2.4%)、およびNaCl(0.12%)を含む発酵培地ならびに実施例5の同じ方法を採用した。40mg/LのCaCl・2HOが至適であることが示された。
【0042】
表13は、CaCl・2HOの濃度変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0043】
【表13】

(実施例7) ピリドキシンの変化によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、ピリドキシンの濃度変化に従って測定した。実施例6の40mg/LのCaCl・2HOを補充した同じ発酵培地および方法を採用した。50mg/Lのピリドキシンが至適であることが示された。
【0044】
表14は、ピリドキシンの濃度変化によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0045】
【表14】

(実施例8) メラニン生合成インヒビターの添加によるバンコマイシン生産
バンコマイシン生産を、メラニンインヒビターの添加に従って測定した。実施例6の40mg/LのCaCl・2HOおよび50mg/Lのピリドキシンを補充した同じ発酵培地ならびに方法を採用した。メラニン生合成インヒビターを、アルブチン、ヒドロキノンおよびトリシクラゾールから選択した。50mg/Lのメラニン生合成インヒビターの添加は、メラニン生合成インヒビターなしのコントロールの生成能力と比較して、よりよい生産能力を示す。
【0046】
表15は、メラニン生合成インヒビターの添加によるバンコマイシンの生産能力を示す。
【0047】
【表15】

(実施例9) バンコマイシンの精製
濃度14g/Lのバンコマイシンを含む300Lファーメンターから得た200Lの発酵ブロスを、200Lの蒸留水と混合し、2N塩酸を添加することによって、pHを2〜3に調節した。400Lの希釈発酵ブロスを、マイクロ濾過システム(micro−filtration system)を用いて濾過した。濾液が得られたらすぐに、2N水酸化ナトリウムを添加して、pHを7〜8に調節した。
【0048】
濾液を、40Lの疎水性吸収剤樹脂(HP20、Diaion、Japan)を含むカラムに通した。次いで、疎水性吸収剤樹脂に吸着したバンコマイシンを、40L/時間の流速で、5〜15% エタノールで溶出した。最終的に、バンコマイシンを含む溶出液を、60L/時間の流速で連続して20Lの強カチオン交換樹脂(SK1B、Diaion、Japan)および20Lの弱アニオン交換樹脂(WA30、Diaion、Japan)に通過させる。そのカラムを、濾液を載せたときと同じ順番で、200Lの蒸留水で洗浄した。バンコマイシンを含む画分をあわせ、均質化し、ナノ濾過システムを用いて100g/Lに濃縮した。
【0049】
濃縮液(14L)を、等容積のイソプロピルアルコールと混合し、次いで、2N水酸化ナトリウムを添加して、pHを4〜5にあわせた。活性炭(840g)をその混合物に添加し、1時間にわたってゆっくりと攪拌し、次いで、珪藻土フィルターのフィルターで濾過した。
【0050】
その濾液を、酸性形態に調節した9Lの活性化アルミナ(Wako、Japan)を詰めたカラムに9L/時間の流速で通過させた。濾液を載せ終わった後、50% イソプロピルアルコールを、同じ流速でカラムに流した。カラムの出口から出てきた溶液を分画し、HPLCによって分析して、バンコマイシンの純度を調べた。バンコマイシンの少なくとも93%のクロマトグラフィー純度を有する画分をあわせ、均質化し、ナノ濾過システムによって150g/Lにまで濃縮した。
【0051】
93%のクロマトグラフィー純度を上回る少なくとも150g/Lのバンコマイシンを含む濃縮液を、2N塩酸でpH2〜3に調節し、次いで、その濃縮液の導電性を、医薬品等級の塩化アンモニウムの飽和水溶液を添加することによって15〜20ms/cmに高めた。次に、その濃縮液を、0.2μmポアを有するフィルターに通して、エンドトキシンを除去し、無菌性を確認し、次いで、20〜30℃で12時間にわたって放置した。
【0052】
次に、冷無水エタノールを、塩酸バンコマイシンが結晶化するまでその濾液に滴下し、そのスラリーを、12時間にわたって冷蔵庫中に放置して結晶化を促進し、そしてそのスラリーを濾過した。その濾過した沈殿物を、40℃において減圧乾燥機中で乾燥させた。その乾燥した塩酸バンコマイシンは、重量840gであり、白色で、少なくとも95%のクロマトグラフィー純度および米国薬局方28に基づく分析によって1050Uの抗微生物活性を有する、よく可溶性の(freely soluble)粉末であった。分析結果を、図3および図4に図示する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従う方法を使用した、上記変異株の培養混合物のHPLC分析結果を示す図である。6.489分における主要ピークは、バンコマイシンピークを示す。そのバンコマイシンピークの面積は、バンコマイシン含有量が、バンコマイシン培養混合物全体のうちの76.447%であることを示す。
【図2】図2は、上記親株の培養混合物のHPLC分析結果を示す図である。6.466分における主要ピークは、バンコマイシンピークを示す。そのバンコマイシンピークの面積は、バンコマイシン含有量が、バンコマイシン培養混合物全体のうちの52.080%であることを示す。
【図3】図3は、本発明の実施例9における方法を使用して精製された塩酸バンコマイシンのHPLC分析結果を示す図である。
【図4】図4は、米国薬局方において引用される標準バンコマイシン(カタログ番号USP 1709007)のHPLC分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)。
【請求項2】
Amycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)を使用して塩酸バンコマイシンを産生するためのプロセスであって、
i)選択培地においてNTG(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を使用してAmycolatopsis orientalisの親株(受託番号ATCC−19795)を変異させて、該株から、バンコマイシンを産生するためのAmycolatopsis orientalis株(受託番号KCCM−10836P)を単離する工程;
ii)該単離されたAmycolatopsis orientalis変異株(受託番号KCCM−10836P)をシード培養する工程;
iii)12〜18(w/v)%のデキストリン、2.2〜3.8(w/v)%のマメ粉末、1.9〜2.9(w/v)%のジャガイモタンパク質、0.10〜0.14(w/v)%の塩化ナトリウムおよび少量のミネラルからなる発酵培地において、該Amycolatopsis orientalis変異株を培養させて発酵させる工程;
iv)培養ブロス中でマイクロフィルターを使用して、菌糸を除去することによって、バンコマイシンを濾過する工程;
v)得られたバンコマイシンを、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および吸収剤樹脂が詰まったカラムシステムを使用して精製する工程;ならびに
vi)該精製された塩酸バンコマイシンを塩化アンモニウムおよびエタノールで結晶化する工程;
を包含する、プロセス。
【請求項3】
請求項2に記載の塩酸バンコマイシンを調製するためのプロセスであって、前記発酵培地は、0.10〜0.14(w/v)%の塩化ナトリウム、1〜100mg/Lのカルシウム、1〜100mg/Lのピリドキシン、1〜100mg/Lのメラニン生合成インヒビターをさらに含み、該メラニン生合成インヒビターは、アルブチン、ヒドロキノンおよびトリシクラゾールから選択される、プロセス。
【請求項4】
請求項2に記載の塩酸バンコマイシンを調製するためのプロセスであって、前記カラムシステムを使用して精製する工程は、
i)疎水性吸収剤樹脂が詰まった吸着カラムに前記ブロスを通す工程であって、バンコマイシンは前記カラム中に残り、不純物は通過し、バンコマイシンは5〜15%のエタノールによって溶出される、工程;
ii)工程(i)において得られた溶出物を、強酸カチオン交換樹脂が詰まったカラムに通す工程であって、バンコマイシンを含む溶液は通過し、不純物は該カラム中に残る、工程;
iii)工程(ii)において得られた溶液を、弱塩基アニオン交換樹脂が詰まったカラムに通す工程であって、バンコマイシンを含む溶液は通過し、不純物は該カラム中に残る、工程;
iv)工程(iii)において得られた溶液を、活性炭で処理して着色料および不純物を除去する工程;
v)該脱色された溶液を、活性化アルミナ樹脂で処理し、バンコマイシンを35〜60%のイソプロパノールで溶出させる工程;および
vi)塩酸バンコマイシンを結晶化する工程;
を包含する、プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−194027(P2008−194027A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216449(P2007−216449)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(507283229)バイオエヌジーン カンパニー, リミテッド (1)
【Fターム(参考)】