説明

B細胞リンパ腫および細胞株の処置に効果的な二重特異性抗体

【課題】悪性B細胞に対して選択的な細胞傷害性を有する二重特異性抗体を提供すること、および、これらの抗体を用いる治療および診断方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、悪性B細胞に対して選択的な細胞傷害性を有する二重特異性抗体を提供する。二重特異性抗体は、エフェクター細胞抗原および悪性B細胞の表面上の28/32kDaヘテロ二量体タンパク質に結合する。本発明はまた、二重特異性抗体の単特異性成分、それらのヒト化形態、およびヒト化二重特異性抗体を包含する。本発明はさらに、これらの抗体を用いる治療および診断方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
モノクローナル抗体(MoAb)の投与は、ヒトの悪性腫瘍の新規な処置様式として有望であることが示されている。しかし、MoAbによる悪性細胞の破壊は、抗体の標的細胞への首尾よい結合の後でさえも、常に生じるわけではない。悪性腫瘍の免疫療法に対する第2のアプローチは、細胞免疫系の操作を包含する。IL−2のようなリンホカインは、血液、脾臓、または悪性腫瘍そのものから単離されるNK細胞およびT細胞の両方を活性化するために使用され得る。このような細胞の抗腫瘍効果は、インビトロおよびインビボの両方において詳細に報告されている。IL−2単独に基づく治療の毒性は重篤であり得、そしてこの治療の臨床上の利用性を十分に制限し得る。
【0002】
抗体の特異性と活性化リンパ球の能力とを組み合わせることを意図する悪性腫瘍の免疫療法は、より効果的で、そしてより少ない毒性であり得る。このようなアプローチの1つは、活性化T細胞の毒性を標的抗原(Ag)を発現する腫瘍細胞に再指向するための二重特異性抗体の使用である。
【0003】
二重特性抗体の種々の形態が提供されている。これらは、通称「ハイブリッドハイブリドーマ」により分泌されるBSIgG(これは、2つの異なる重鎖および2つの異なる軽鎖を含むIgG分子である)、および異なる特異性の抗体または抗体フラグメントの化学的な結合により生成されるヘテロ抗体結合体を包含する。
【0004】
数人の研究者は、抗CD3/抗腫瘍二重特性抗体構造を免疫療法薬剤として評価した。このような研究により、腎細胞癌腫、黒色腫、神経膠腫、リンパ腫、白血病、および多剤耐性関連糖タンパク質を発現している細胞のインビトロでの細胞溶解が報告された。特定の抗CD3/抗腫瘍特異的ヘテロ抗体結合体により指向されるIL−2活性化ヒト末梢リンパ球が、ヌードマウスにおいてヒトガン異種移植片の増殖を妨げることもまた報告された。ヒト異種移植片を有する免疫不全マウスのインビトロおよびインビボでの研究により、特定の二重特異性抗体が、特定の標的抗原を有する腫瘍細胞、および、いくらか拡大して、治療抗体により認識されないバイスタンダー腫瘍細胞の両方の増殖を阻止し得ることが報告された。
【0005】
リンパ球の細胞膜は、独特に構築され、そしてサプレッサー、インデューサー、または細胞の細胞溶解作用、細胞の活性化状態もしくは細胞の分化段階のような異なる細胞表現型特徴を決定し、そして細胞がモノクローナルまたはポリクローナルの集団のいずれに属するかを決定する。従って、これまで悪性リンパ球上に分布した細胞膜抗原の大多数は、分化または活性のいくつかの段階において、悪性ではないリンパ球上に示される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記から、悪性細胞上で優勢的にまたは独占的に見出される抗原に対して標的化された治療薬剤の必要性が存在することが明らかである。この治療薬剤は、このような細胞に対して強い細胞溶解活性を誘導し得る。本発明は、この必要性および他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、悪性B細胞リンパ球およびT細胞に結合する二重特異性モノクローナル抗体が、悪性B細胞のみに効率良く結合し、そして正常B細胞には結合しないように形成され
得るという理解を前提とする。
【0008】
さらに、本発明は、二重特異性抗体が、末梢拡散大細胞型リンパ腫から得られ、悪性B細胞のみに特異的なモノクローナル抗体であり、そしてこのモノクローナル抗体がキラーT細胞またはNK細胞にも結合する二重特異性抗体を形成するように改変され得るモノクローナル抗体を産生する細胞株から形成され得るという理解を前提とする。
【0009】
本発明は、さらに、T細胞またはNK細胞に特異的なIgG抗体を産生する細胞株の融合により形成される細胞株、およびB細胞悪性腫瘍に特異的なIgG抗体を産生する細胞株が、次いで、悪性B細胞およびT細胞またはNK細胞の両方に効果的に結合し、それにより悪性B細胞の溶解または破壊をもたらす独特な二重特異性抗体を産生するという理解を前提とする。
【0010】
好適な実施態様において、細胞株は、以下でさらに説明するように、T細胞のCD3抗原に特異的な抗体を産生する細胞株と、悪性B細胞の細胞膜上のヘテロ二量体に特異的な細胞株との組み合わせによる融合に由来する。
【0011】
さらなる局面によれば、本発明は、1D10抗体を提供する。これは、悪性B細胞の表面上の28/32kDaのヘテロ二量体タンパク質に特異的である。
【0012】
本発明は、さらに、ヒト化形態の1D10抗体を提供する。ヒト化抗体は、ヒト化重鎖およびヒト化軽鎖を含有する。ヒト化軽鎖は、対応する1D10免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびL48、L49、L69、およびL70からなる第1の群より選択される位置の少なくとも1つの位置(ここで、アミノ酸位置は、1D10免疫グロブリン軽鎖の可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される)を除くヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有する。ヒト化重鎖は、対応する1D10免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH27、H29、H30、H37、H67、H71、H78、およびH83からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置(ここで、アミノ酸位置は、マウス1D10免疫グロブリン重鎖の可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される)を除くヒト重鎖の可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有する。ヒト化抗体は、約10−1の低限および1D10免疫グロブリンの結合親和性の約5倍の上限を有する結合親和性で、28/32kDaヘテロ二量体タンパク質細胞に特異的に結合する。好ましくは、ヒト化軽鎖可変領域フレームワークは、R3.5H5G抗体に由来する。この場合、位置L43は、ヒトκサブグループIコンセンサス配列の等しい位置に存在するアミノ酸で置換され得る。好ましくは、ヒト化重鎖は、IC4抗体の重鎖領域可変フレームワーク由来である。この場合、位置H73は、ヒト免疫グロブリンサブグループIIまたはIVコンセンサス配列の等しい位置に存在する同一のアミノ酸により置換され得る。
【0013】
さらなる局面によれば、本発明は、CD3抗原に特異的なヒト化抗体を提供する。抗体は、ヒト化重鎖および軽鎖を含有する。ヒト化軽鎖は、対応するM291免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有する。ヒト化重鎖は、対応するM291免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH30、H67、H68、H70、H72、およびH74からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置(ここで、アミノ酸位置は、マ
ウスM291免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同一のアミノ酸により占有される)を除くヒト重鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有する。免疫グロブリンは、約10−1の低限およびM291免疫グロブリンの結合親和性の約5倍の上限を有する結合親和性で、T細胞の表面上でCD3抗原に特異的に結合する。好ましくは、ヒト化軽鎖可変領域フレームワークは、サブグループI中のHF2−1/17抗体の軽鎖可変領域フレームワーク由来である。好ましくは、ヒト化重鎖領域フレームワークは、21/28抗体の重鎖領域可変フレームワーク由来である。この場合、位置H44は、ヒト免疫グロブリンサブグループIコンセンサス配列の等しい位置に存在する同じアミノ酸で置換され得る。
【0014】
さらなる局面によれば、本発明は、CD3抗原に特異的に結合する第1の結合フラグメント、および悪性B細胞の表面上の28/32kDaヘテロ二量体抗原に特異的に結合する第2の結合フラグメントを含有するヒト化二重特異性抗体を提供する。第1の結合フラグメントは、M291抗体の重鎖可変領域のヒト化形態およびM291抗体の軽鎖可変領域のヒト化形態を含有する。第1の結合フラグメントに連結している第2の結合フラグメントは:1D10抗体由来の重鎖可変領域のヒト化形態および1D10抗体由来の軽鎖可変領域のヒト化形態を含有する。
【0015】
好ましくは、第1および第2の結合フラグメントは、各重鎖可変領域に融合された定常領域のセグメントをさらに含有し、そして結合フラグメントは、定常領域の会合により連結される。例えば、結合フラグメントは、FabまたはFab’であり得る。両結合フラグメントがFab’である場合、二重特異性抗体はF(ab’)である。必要であれば、第1および第2の結合フラグメントは、各定常領域に融合した第1および第2のロイシンジッパーをさらに含有する。
【0016】
本発明は、上記抗体を含有する薬学的組成物をさらに提供する。悪性B細胞を有する患者に上記の二重特異性抗体の治療的有効量を供する処置方法もまた提供される。
【0017】
従って、本願発明は、以下を提供する。
(項目1) 二重特異性抗体であって、以下の抗原:
(a)T細胞およびナチュラルキラー細胞からなる群より選択されるエフェクター細胞の表面上の第1の抗原、および
(b)悪性B細胞の表面上の28/32kDaヘテロ二量体タンパク質上の第2の抗原に結合し、該第2の抗原は1D10と称される抗体に特異的に結合し、ここで該二重特異性抗体と該第1および該第2の抗原との該結合が該悪性B細胞の傷害をもたらす、二重特異性抗体。
(項目2) 前記エフェクター細胞がT細胞である、項目1に記載の二重特異性抗体。
(項目3) 前記二重特異性抗体が前記T細胞上のCD3抗原に結合する、項目2に記載の二重特異性抗体。
(項目4) 前記抗体が細胞株ATCC HB 10993により産生される、項目3に記載の二重特異性抗体。
(項目5) 項目1に記載の二重特異性抗体を産生する細胞株。
(項目6) 第1の抗原に結合する抗体を産生する第1のハイブリドーマ、および
第2の抗原に結合する抗体を産生する第2のハイブリドーマ
の2つのハイブリドーマから形成されるハイブリッドハイブリドーマである、項目5に記載の細胞株。
(項目7) 前記エフェクター細胞がT細胞であり、そして前記第1のハイブリドーマが前記T細胞上のCD3抗原に結合する抗体を産生する、項目6に記載の細胞株。
(項目8) ATCC HB 10993と称される細胞株。
(項目9) 1D10と称される抗体。
(項目10) 項目9に記載の抗体のヒト化形態。
(項目11) 項目10に記載のヒト化抗体であって、該抗体が以下のヒト化重鎖およびヒト化軽鎖:
(1)対応する1D10免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびL48、L49、L69、およびL70からなる第1の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有するヒト化軽鎖であって、ここで、アミノ酸位置は、1D10免疫グロブリン軽鎖の可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される、軽鎖;および
(2)対応する1D10免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH27、H29、H30、H37、H67、H71、H78、およびH83からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒト重鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有するヒト化重鎖であって、ここで、アミノ酸位置は、マウス1D10免疫グロブリン重鎖の可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同一のアミノ酸により占有される、重鎖;を含有し、
ここで、該免疫グロブリンは約10−1の低限および1D10免疫グロブリンの結合親和性の約5倍の上限を有する結合親和性で、悪性B細胞の表面上の28/32kDaヘテロ二量体タンパク質に特異的に結合する、ヒト化抗体。
(項目12) 項目11に記載のヒト化抗体であって、前記ヒト化軽鎖可変領域フレームワークが、前記第1の群由来の少なくとも1つの位置および位置L43を除くR3.5H5G抗体の軽鎖可変領域フレームワーク由来であり、該ヒト化軽鎖可変領域フレームワークはヒトκサブグループIコンセンサス配列の等しい位置に存在するアミノ酸を占有し;
前記ヒト化重鎖が、前記第2のグループより選択される少なくとも1つの位置および位置H73を除くIC4抗体の重鎖領域可変フレームワーク由来であり、ここでアミノ酸位置はヒト免疫グロブリンサブグループIIまたはIVコンセンサス配列の等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される、ヒト化抗体。
(項目13) 前記ヒト化軽鎖が図4A(上段)のアミノ酸配列を含有し、および
前記ヒト化重鎖が図4B(上段)のアミノ酸配列を含有する、
項目12に記載のヒト化抗体。
(項目14) 前記ヒト化軽鎖がヒトκ定常領域をさらに含有し、前記ヒト化重鎖がヒトγ1定常領域をさらに含有し、そして細胞表面上の28/32kDaヘテロ二量体タンパク質に結合する場合、前記ヒト化抗体がADCCおよび悪性B細胞の補体媒介溶解をもたらす、項目13に記載のヒト化抗体。
(項目15) ヒト化抗体であって、該抗体が以下のヒト化重鎖およびヒト化軽鎖:
(1)対応するマウスM291免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワーク配列を含有するヒト化軽鎖、および
(2)対応するマウスM291免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH30、H67、H68、H70、H72、およびH74からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒト重鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有するヒト化重鎖であって、ここで、アミノ酸位置は、マウスM291免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される、重鎖;を含有し、
ここで、該免疫グロブリンは、約10−1の低限および該M291免疫グロブリンの結合親和性の約5倍の上限を有する結合親和性でT細胞表面上のCD3抗原に特異的に結合する、ヒト化抗体。
(項目16) 項目15に記載のヒト化抗体であって、前記ヒト化軽鎖可変領域フレーム
ワークが、サブグループI中のHF2−1/17抗体の軽鎖可変領域フレームワーク由来であり;
前記ヒト化重鎖領域フレームワークが、前記第2の群より選択される少なくとも1つの位置および位置44を除く21/28抗体の重鎖領域可変フレームワーク由来であり、ここでアミノ酸位置は、ヒト免疫グロブリンサブグループIコンセンサス配列の等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される、ヒト化抗体。
(項目17) 前記ヒト化軽鎖が図5A(上段)のアミノ酸配列を含有し、そして
前記ヒト化重鎖が図5B(上段)のアミノ酸配列を含有する、
項目16に記載のヒト化抗体。
(項目18) ヒト化されている項目1に記載の二重特異性抗体。
(項目19) 第1の抗原がCD3抗原である、項目18に記載の二重特異性抗体。
(項目20) 項目19に記載の二重特異性抗体であって、
M291抗体の重鎖可変領域のヒト化形態;
M291抗体の軽鎖可変領域のヒト化形態;
を含有する第1の結合フラグメント、および
1D10抗体由来の重鎖可変領域のヒト化形態;
1D10抗体由来の軽鎖可変領域のヒト化形態;
を含有する該第1の結合フラグメントが結合する第2の結合フラグメントを含み、ここで、該第1の結合フラグメントが前記CD3抗原に特異的に結合し、そして該第2の結合フラグメントが悪性B細胞表面上の28/32kDaヘテロ二量体抗原に特異的に結合する、二重特異性抗体。
(項目21) 項目20に記載の二重特異性抗体であって、前記M291抗体の重鎖可変領域のヒト化形態が、対応するM291免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH30、H67、H68、H70、H72、およびH74からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒト重鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有し、ここで、アミノ酸位置は、マウスM291免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有され;
前記M291抗体の軽鎖可変領域のヒト化形態が、対応するM291免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有し;
前記1D10抗体由来の重鎖可変領域のヒト化形態が、対応する1D10免疫グロブリン重鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびH27、H29、H30、H37、H67、H71、H78、およびH83からなる第2の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒト重鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有し、ここで、アミノ酸位置は、マウス1D10免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有され;そして、
前記1D10抗体由来の軽鎖可変領域のヒト化形態が、対応する1D10免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域由来のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)、およびL48、L49、L69、およびL70からなる第1の群より選択される位置の少なくとも1つの位置を除くヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列由来の可変領域フレームワークを含有し、ここで、アミノ酸位置は、1D10免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワークの等しい位置に存在する同じアミノ酸により占有される、二重特異性抗体。
(項目22) 項目21に記載の二重特異性抗体であって、第1の結合フラグメントが、図5B(上段)に示される重鎖可変領域および図5A(上段)に示される軽鎖可変領域を含有し、そして第2の結合フラグメントが図4B(上段)に示される重鎖可変領域および図4A(上段)に示される軽鎖可変領域を含有する、二重特異性抗体。
(項目23) 項目22に記載の二重特異性抗体であって、第1および第2の結合フラグメントそれぞれが、それぞれの重鎖可変領域に融合された定常領域のセグメントをさらに含有し、そして該結合フラグメントが該定常領域の会合により結合される、二重特異性抗体。
(項目24) 前記結合フラグメントがFabまたはFab’である、項目23に記載の二重特異性抗体。
(項目25) 第1および第2の結合フラグメントがFab’であり、そして前記二重特異性抗体がF(ab’)である、項目24に記載の二重特異性抗体。
(項目26) 第1および第2の結合フラグメントが、それぞれの定常領域に融合された第1および第2のロイシンジッパーをさらに含有する、項目25に記載の二重特異性抗体。
(項目27) 前記第1の結合フラグメントが図5Dに示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含有し、そして前記第2の結合フラグメントが図4Dに示されるアミノ酸配列を有する重鎖を含有する、項目26に記載の二重特異性抗体。
(項目28) 悪性B細胞を被る患者を処置する方法であって、該方法が、治療的有効量の項目1に記載の二重特異性抗体で患者を処置する工程を包含する、方法。
(項目29) 項目28に記載の方法であって、前記二重特異性抗体が:
前記M291抗体の重鎖可変領域のヒト化形態;
前記M291抗体の軽鎖可変領域のヒト化形態;
を含有する第1の結合フラグメント、および、
前記1D10抗体由来の重鎖可変領域のヒト化形態;
前記1D10抗体由来の軽鎖可変領域のヒト化形態;
を含有する該第1の結合フラグメントに結合する第2の結合フラグメントを含み、ここで、該第1の結合フラグメントがT細胞表面上のCD3抗原に特異的に結合し、そして該第2の結合フラグメントが前記悪性B細胞表面上の28/32kDaヘテロ二量体抗原に特異的に結合する、方法。
(項目30) 患者にT細胞を活性化するための薬剤を投与する工程をさらに包含する、項目29に記載の方法。
(項目31) 前記薬剤がIL−2である、項目30に記載の方法。
(項目32) 項目1に記載の二重特異性抗体を含む薬学的組成物。
【0018】
(定義)
用語「実質的な同一性」または「実質的な相同性」は、2つのペプチド配列を欠失ギャップ量(default gap weight)を用いて、例えば、GAPプログラムまたはBESTFITプログラムにより最適にアラインした場合に、少なくとも65%の配列同一性、好ましくは80%または90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性(例えば、99%の配列同一性)を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基の位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。
【0019】
アミノ酸置換を保存的または非保存的に分類する目的のために、アミノ酸は以下のように分類される:第I群(疎水性側鎖):ノルロイシン(norleucine)、met、ala、val、leu、ile;第II群(中性疎水性側鎖):cys、ser、thr;第III群(酸性側鎖):asp、glu;第IV群(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;第V群(鎖の配向に影響される残基):gly、pro;および第VI群(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同じクラスにおけるアミノ酸間での置換を包含する。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することからなる。
【0020】
免疫グロブリンの成熟重鎖および軽鎖の種々の可変領域由来のアミノ酸は、それぞれHxおよびLxと称される(ここで、xは、Kabatのスキーム(Sequences
of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health,Bethesda,MD,1987および1991)に従うアミノ酸の位置を称する数字である)。Kabatは、各サブクラスについて抗体に対する多くのアミノ酸配列を列挙し、そしてそのサブクラスにおいて各残基の位置に最も一般に存在するアミノ酸を列挙する。Kabatは、列挙した配列中の各アミノ酸に残基番号を付与する方法を用い、そして残基番号を付与するこの方法は、当該分野において一般的な方法(standard)になっている。Kabatのスキームは、Kabatにおけるコンセンサス配列の1つを有する問題の抗体を配列することによる彼の概論に含まれない他の抗体にも拡張可能(extendible)である。Kabatの番号付けシステムの使用により、異なる抗体における等価な位置のアミノ酸が容易に決定される。例えば、ヒト抗体のL50位のアミノ酸は、マウス抗体のアミノ酸L50位に等価な位置を占める。
【0021】
軽鎖および重鎖は両方とも、N末端からC末端に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。各ドメインに対するアミノ酸の割り当ては、Kabat ((1987)および(1991)、前出)、またはChothia & Lesk、J.Mol.Biol. 196:901−917 (1987);Chothiaら、Nature 342:878−883 (1989)の定義に従う。
【0022】
基本的な抗体構造の単位は、四量体を含むことが知られている。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対からなり、各対は1本の「軽鎖」(約25kDa)および1本の「重鎖」(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識を最初に担う種々の領域の約100から110またはそれ以上のアミノ酸を含む。各鎖のカルボキシ末端部位は、エフェクター機能を最初に担う定常領域を規定する。各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。従って、完全な抗体は、2つの結合部位を有する。
【0023】
軽鎖をκまたはλのいずれかとして分類する。重鎖を、γ、μ、α、ζ、およびεとして分類し、そして抗体のイソ型を、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEとして定義する。軽鎖および重鎖内の、可変領域および定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域によって結合され、重鎖はまた約10を超えるアミノ酸の「D」領域を含む(概して、Fundamental Immunology (Paul,W.編、第2版、Raven Press,N.Y.、1989)、第7章を参照(これは、全ての目的のためにその全てが参考として援用される))。
【0024】
用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞レセプターに特異的に結合し得る任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性な表面配置からなり、そして通常、特異的な三次元構造特徴ならびに特異的な電荷特徴を有する。
【0025】
用語「患者」は、ヒト被験体および家畜被験体を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(詳細な説明)
本発明は、エフェクター細胞(T細胞またはナチュラルキラー細胞)および悪性B細胞の表面上に存在する28/32 kDaのヘテロ二量体抗原の両方に特異的な二重特異性(bispecific)抗体を提供する。本発明は、本願発明の抗体を産生するハイブリドーマおよび他の細胞株をさらに提供する。
【0027】
28/32kDa抗原は、悪性Bリンパ球の表面上に優先的に見出され、そして休止期
のリンパ球または種々の誘導的刺激によってインビトロで活性化されたB細胞およびT細胞上で発現されない。Gingrichら、Blood 75、2375−2387 (1990)を参照のこと。リンパ球が悪性の形質転換を被る場合において、またはいくつかの場合において、それらがエプスタイン−バーウイルス(EBV)によって混乱された(perturbe)場合、この抗原は発現され得る。正常な休止期のリンパ球および刺激されたリンパ球は、抗原を発現しない。この抗原はまた、造血幹細胞上に存在しない。悪性B細胞上で優先的にまたは排他的に発現される28/32kDa抗原についての科学的基礎は、本発明の実施には重要ではないが、抗原がHLA−Dr抗原の異常型翻訳後プロセッシング変異株を示し得ると考えられている。
【0028】
悪性B細胞に特異的な抗体を産生するために、HO−85で標識された末梢化拡散(peripheralizing diffuse)大細胞型リンパ腫を有する患者由来のリンパ腫細胞株を、10%ウシ胎児血清を有する懸濁培養液RPMI 1640中で、約24時間の倍加時間(doubling time)で増殖させた。細胞株は、CD20、μ、δ(弱い)、κ、HLAクラスI、およびHLAクラスII抗原に陽性である。細胞株は、CALLA抗原、T細胞抗原、骨髄細胞抗原、または単核細胞抗原を検出するモノクローナル抗体と反応しない。この細胞は、SFR7、DR7、およびB7/21モノクローナル抗体と反応し、このことはそれらがDR7およびDP抗原をそれぞれ発現することを示している。
【0029】
前述のように、雌BALB/cマウス(6〜10週齢)に、ヒト大細胞型リンパ腫株由来の5×10細胞を用い、2週間間隔で4から6回腹膜内感染を与えた。動物を最後の感染の5日後に屠殺し、そして脾細胞を非分泌性マウスミエローマ細胞株N−1と融合させた。96ウェル細胞培養トレイ中にプレートした後、ハイブリドーマを、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地中で選択した。10日後、悪性B細胞(抗HO85)抗体結合活性を測定するために、25μlアリコートを各ウェルから取り出した。
【0030】
悪性B細胞(抗HO85)抗体結合活性を、新鮮なHO85細胞を標的として用いる全細胞の間接的な放射性イムノアッセイにより測定した。同一のアッセイを、標的RAJI(ATCC CCL86)、MOLT−3(ATCC CRL1582)、HL−60(ATCC CCL240)、および新鮮な末梢血単核細胞を用いて行った。HO−85およびRajiに対して組織培養培地のみの活性の5倍以上の結合活性を示すが、MOLT−3、HL−60、および末梢血単核細胞と反応しないウェルを採集した。
【0031】
上記基準を満たす細胞は、1D10と呼ばれる抗体を産生することが見出され、そしてその後限界希釈によってクローン化された。ハイブリドーマは、インビトロおよびもとの感染されたBALB/cマウスの腹水中で良好に成長する。
【0032】
1D10に結合する悪性B細胞の一部は、それぞれ32kDaおよび28kDaであるα鎖およびβ鎖の分子量を有する2つのタンパク質を含むヘテロ二量体のポリペプチドである。このタンパク質は、Rajiのような悪性B細胞を界面活性剤で可溶化することによって得ることができる。分子量決定は、ヨウ素標識細胞およびMoAb6抗原沈降の1次元SDS−PAGE分析を用いることによりなされる。1D10抗体の形成については、Gingrichら、Blood 75、2375−2387(1990)により考察される。1D10に対して同じまたは同様の結合特異性を有する他の抗体は、1D10を用いた28/32kDaヘテロ二量体抗原に対する競合結合によってスクリーニングされる。多数の型の競合結合アッセイが公知であり、例えば:直接的または間接的固相ラジオイムノアッセイ(RIA)、直接的または間接的固相酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(Stahliら、Methods in Enzymolog
y 9、242−253 (1983)を参照のこと);直接的固相ビオチン−アビジンEIA(Kirklandら、J.Immunol. 137、3614−3619 (1986)を参照のこと);直接的固相標識アッセイ、直接的固相標識サンドイッチアッセイ(Harlow&Lane、「Antibodies, A Laboratory
Manual」、Cold Spring Harbor Press (1988)を参照のこと);I−125標識を用いる直接的固相標識RIA(Morelら、Molec. Immunol. 25、7−15 (1988)を参照のこと);直接的固相ビオチン−アビジンEIA(Cheungら、Virology 176、546−552 (1990));および直接的標識RIA(Moldenhauerら、Scand.J.Immunol. 32、77−82(1990))。典型的には、このようなアッセイは、28/32kDa抗原を産生する細胞、非標識試験免疫グロブリンおよび標識対照標準免疫グロブリン(1D10)の使用を包含する。競合阻害は、試験免疫グロブリンの存在下で細胞に結合する標識の量を決定することにより測定される。試験免疫グロブリンは、通常過剰に存在する。(抗体に競合する)競合アッセイによって同定された抗体は、対照標準抗体として同一のエピトープに結合する抗体および対照標準抗体により結合されたエピトープが立体障害を生じるために十分に近位な隣接エピトープに結合する抗体を含む。
【0033】
本発明の二重特異性抗体についての第2の成分は、T細胞の表面上またはNK細胞の表面上の抗原に対して特異性を有する抗体である。適切であると考えられるヒトT細胞抗原としては、CD3、CD2、CD28、CD44、C69、A13、およびG1をが挙げられる。ナチュラルキラー細胞上の適切な抗原としては、FCγレセプター(3G8、B73.1、LEUL1、VEP13、およびAT10)が挙げられる。おそらく不適切であるヒトT細胞抗原としては、MHCクラスI、CD4、CD8、CD18、およびCD71が挙げられる。
【0034】
上記のエフェクター細胞抗原に特異的なIgGを産生する細胞株は、市販されているかまたは新たに産生され得る(実施例3を参照のこと)。OKT細胞(ATCC CRL 8001)は、CD3抗原に対する抗体の適切な供給源である。CD3抗原に対する他の抗体としては、WT31、WT32、抗leu−4、UCHT−1、SPV−3TA、およびSPV−T3Bが挙げられる。全てのT細胞中に存在するので、CD3部位が好ましい。
【0035】
本発明の抗体は、28/32kDaヘテロ二量体抗原に特異的な抗体を産生する第1の成分の細胞株とT細胞またはナチュラルキラー細胞のいずれかに特異的な抗体を産生する第2の細胞株との融合によって形成される細胞株によって産生され得る。例えば、1D10を産生するハイブリドーマを、以下のようにOKT3と融合させた。
【0036】
OKT3ハイブリドーマ細胞株を、0.13mMの8−アザグアニンを含む培地、次いで1.0mMウアバインを含む培地中で連続的にOKT3細胞を増殖させることによって選択した。ハイブリッド−ハイブリドーマを、10個のHAT耐性ウアバイン感受性1D10分泌ハイブリドーマと、10HAT感受性ウアバイン耐性OKT3分泌ハイブリドーマとの融合によって(38%ポリエチレングリコールを用いる)産生した。
【0037】
融合した細胞を、HATウアバイン培地にプレートして、ハイブリッド−ハイブリドーマについて選択した。この培地中のHATは、融合されていないOKT3細胞の増殖を妨げ、そしてウアバインは、融合されていない1D10細胞の増殖を妨げた。従って、親のハイブリドーマの両方の遺伝物質を含むハイブリッド−ハイブリドーマのみが生き残った。12個のハイブリッド−ハイブリドーマが、この技術を用いて単離された。
【0038】
二重特異性抗体を分泌する細胞株は、3つの工程のスクリーニング手順によって同定され得る。例えば、1D10およびOKT3の融合により形成されたハイブリドーマの分析において、第1のスクリーニングを、ハイブリッド−ハイブリドーマの上清をヤギ抗マウスIgG1抗体でコートしたELISAプレートに添加して行った。洗浄後、アルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG2aを添加した。反応性により、IgG1およびIgG2a重鎖の両方を有する単一の抗体分子を含むハイブリッド−ハイブリドーマ上清が示される。
【0039】
間接的な免疫蛍光アッセイを、ELISAに対して陽性の全てのサンプルについて第2のスクリーニングとして使用した。この第2のスクリーニングにおいて、ハイブリッド−ハイブリドーマ上清を、HO−85細胞(1D10反応性)およびJurkat細胞(OKT3反応性)に別々に添加した。ヤギ抗マウスIgG−FITCを添加して、洗浄後、結合抗体の存在を検出した。12個全てのハイブリッド−ハイブリドーマは、HO−85細胞およびJurkat細胞の両方に結合し得る抗体を分泌した。これらのハイブリッド−ハイブリドーマの1つを、さらなる研究のために選択した。それを、限界希釈×2によってサブクローン化し、そして1DT3−Dと称した。この細胞株は、ブダペスト条約下、アメリカンタイプカルチャーコレクション(12301 Parklawn Drive、Rockville、MD 20852)に、1992年3月24日に寄託され、そして番号ATCC HB 10993が与えられた。
【0040】
1DT3−Dは、100μgのL−グアニンおよび100U/mlのペニシリン−ストレプトマイシンを補充したHB 101倍地中、インビトロで培養された。これらの細胞を、Mini Flo−path Bioreactor 中空線維装置に移した。消費(spend)培地から得られた抗体を、0.18から0.5M NaClの勾配を用いたHPLC陽イオン交換によって分画した。上述のアッセイにより示されるように、二重反応性を含むピークを単離し、リン酸緩衝化生理食塩水に対して透析し、濃縮して、そしてさらなる研究に使用した。
【0041】
1D10とOKT3との融合によって形成された二重特異性抗体は、マウス由来のモノクローナルである。本発明のこの抗体のヒト化形態および他の二重特異性の抗体はまた、以下により詳細に考察されるように用いられ得る。
【0042】
(ヒト化抗体)
本発明は、ヒト化免疫グロブリン(または抗体)をさらに提供する。いくつかのヒト化抗体は、T細胞抗原CD3に特異的である。他のヒト化抗体は、悪性B細胞上の28/32kDaへテロ二量体に特異的である。これらのヒト化抗体は、それのみでの治療試薬および診断試薬として有用であるか、またはその成分の結合特異性の両方を所有するヒト化二重特異性抗体を形成するために組み合わされ得る。免疫グロブリンのヒト化形態は、ヒト免疫グロブリンに実質的に由来する可変フレームワーク領域(単数または複数)(アクセプター免疫グロブリンと呼ばれる)、およびマウス免疫グロブリンに実質的に由来する相補性決定領域(ドナー免疫グロブリンと呼ばれる)を有する。存在する場合、定常領域(単数または複数)はまた、ヒト免疫グロブリンに実質的に由来する。ヒト化抗体は、少なくとも10、10、10、または1010−1のそれらのそれぞれの抗原に特異的な結合親和性を示す。ヒト化抗体の結合親和性の上限または下限は、しばしば、それらが由来するマウス抗体のファクターの3あるいは5または10のファクターの範囲内である。
【0043】
((1)ヒト化のためのマウス抗体)
28/32kDaへテロ二量体に特異的なヒト化抗体の産生のための出発物質は、好ましくは1D10マウス抗体であるが、28/32kDaヘテロ二量体に結合について1D
10と競合する他のマウス抗体もまた使用され得る。CD3に特異的なヒト化抗体の産生のための適切な出発物質は、その単離が実施例3に記載されているM291抗体である。
【0044】
((2)フレームワーク残基を供給するためのヒト抗体の選択)
ヒト可変ドメインフレームワーク中へのマウスCDRの置換は、ヒト可変ドメインフレームワークが、CDRが起源とするマウス可変フレームワークに対して同一または類似する配置を適合する場合、それらの正確な空間的配向の保持が最も生じるようである。これは、フレームワーク配列が、CDRが由来するマウス可変フレームワークドメインと高程度の配列同一性を示すヒト抗体由来のヒト可変ドメインを得ることによって達成される。重鎖および軽鎖の可変フレームワーク領域は、同一のまたは異なるヒト抗体配列に由来され得る。ヒト抗体配列は、天然に存在するヒト抗体の配列であり得るか、またはいくつかのヒト抗体のコンセンサス配列であり得る。
【0045】
適切なヒト抗体配列は、マウス可変領域のアミノ酸配列と公知のヒト抗体の配列とのコンピューター比較によって同定される。この比較は、重鎖および軽鎖について別々に実施されるが、その原理は、各々類似している。
【0046】
((3)コンピューターモデリング)
マウスCDR領域とヒト可変フレームワーク領域との非天然的な並置は、特定のアミノ酸残基の置換によって訂正されない限り、結合親和性の欠損に導く非天然的な配座抑制が生じ得る。置換のためのアミノ酸残基の選択は、コンピューターモデリングによって、部分的に、決定される。免疫グロブリン分子の3次元画像を作製するためのコンピューターハードウェアおよびソフトウェアは、広範に入手可能である。一般に、分子モデルは、免疫グロブリン鎖またはそのドメインについて解明された構造から開始することにより作製される。モデル化されるべき鎖は、解明された3次元構造の鎖またはドメインとアミノ酸配列の類似性について比較され、そして最も高い配列類似性を示す鎖およびドメインを、分子モデルの構造についての出発点として選択する。解明された出発構造は、モデル化された免疫グロブリン鎖またはドメインにおける実際のアミノ酸と出発構造におけるアミノ酸との間の差異を可能にするように改変される。次いで、改変構造を混成の免疫グロブリンの中へ組み立てる。最後に、このモデルを、エネルギー最小化によって、および全ての原子が互いに最適な距離の範囲内であり、そして結合長および角度が化学的に受容可能な限界の範囲内にあることを確かめることによってさらに正確にする。
【0047】
((4)アミノ酸残基の置換)
上述のように、本発明のヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリンに実質的に由来する可変フレームワーク領域(単数または複数)およびマウス免疫グロブリンに実質的に由来する相補性決定領域を含む(例えば、1D10またはM291)。マウス抗体の相補性決定領域および適切なヒトアクセプター免疫グロブリンが同定されると、次の工程は、もしあれば、これらの構成物由来のどの残基が、得られるヒト化抗体の特性を最適化するために置換されるべきであるかを決定することである。一般に、ヒトアミノ酸残基のマウスアミノ酸残基との置換は、最小にするべきである。なぜなら、マウス残基の導入は、ヒトにおいてHAMA応答を誘導する抗体の危険性を増大するからである。CDR配座および/または抗原への結合に対するそれらの考えられ得る影響に基いて、置換のためのアミノ酸が選択される。このような考えられる影響の研究は、モデリング、特定の位置でのアミノ酸の特徴の試験、または置換の効果または特定のアミノ酸の変異の経験に基づく観察による。
【0048】
アミノ酸がマウス可変フレームワーク領域と等量のヒト可変フレームワーク領域との間で異なる場合、通常、ヒトフレームワークアミノ酸が、理論的に以下のようなアミノ酸であると予想される場合、等価なマウスアミノ酸により置換されるべきである:
(1)抗原に非共有結合的に直接接触される、または
(2)CDR領域に隣接するか、またはCDR領域と相互作用する(例えば、CDR領域の約4〜6Åの範囲内である)。
【0049】
置換についての他の候補は、その位置でヒト免疫グロブリンには通常無い(unusual)アクセプターヒトフレームワークアミノ酸である。これらのアミノ酸は、より代表的なヒト免疫グロブリンの等価な位置由来のアミノ酸で置換され得る。あるいは、マウス抗体における等価な位置由来のアミノ酸は、このようなアミノ酸が、等価な位置でヒト免疫グロブリンに代表的である場合、ヒトフレームワーク領域内に導入され得る。
【0050】
一般に、上記の基準を満たす全てのまたは大部分のアミノ酸の置換が望ましい。しかし、場合によって、特定のアミノ酸が上記基準を満たすかどうかについていくつかの両義性が存在する。そして代替の変異体免疫グロブリンが産生され、一方はその特定の置換を有し、他方は有しない。
【0051】
マウス1D10抗体に由来する本発明のヒト化抗体は、通常以下の位置:L48、L49、L69、およびL70の少なくとも1、2、3、または4ヶ所における、対応するマウス MAb 1D10残基でのヒトκ軽鎖フレームワーク残基の置換を含む。ヒト化抗体はまた、通常以下の位置:H27、H29、H30、H37、H67、H71、H78、およびH83の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、または8ヶ所においてヒト重鎖フレームワーク残基の置換を含む。好適な実施態様において、ヒト軽鎖アクセプター免疫グロブリンが、R3.5HGである場合、軽鎖はまた、43位での置換を含む。この位置は、より代表的なアミノ酸残基を有するヒト免疫グロブリンの等価な位置由来の、またはこのようなヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列由来のアミノ酸で置換される。同様に、ヒト重鎖アクセプター免疫グロブリンがIC4である場合、重鎖はまた、73位での置換を含む。
【0052】
マウスM291抗体に由来する本発明のヒト化抗体は、軽鎖アクセプターがHF2−1/17である場合、ヒトκ軽鎖フレームワーク残基の置換を含まない。ヒト化抗体はまた、通常以下の位置:H30、H67、H68、H70、H72、およびHH74の少なくとも1、2、3、4、5、および6ヶ所においてヒト重鎖フレームワークの置換を含む。好適な実施態様において、重鎖アクセプター免疫グロブリンが21/28である場合、軽鎖はまた、44位での置換を含む。この位置は、より代表的なアミノ酸残基を有するヒト免疫グロブリンの等価な位置由来の、またはこのようなヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列由来のアミノ酸で置換される。
【0053】
通常、ヒト化抗体におけるCDR領域は、実質的に同一であり、より通常には、それらが由来するマウス抗体における対応のCDR領域に同一である。いつも所望されるわけではないが、得られたヒト化免疫グロブリンの結合親和性をかなり影響することなくCDR残基の1つ以上の保存的アミノ酸を置換することが時には可能である。場合によっては、CDR領域の置換は、結合親和性を増強し得る。
【0054】
上記の特異的なアミノ酸置換について以外に、ヒト化免疫グロブリンのフレームワーク領域は、通常実質的に同一であり、そしてより通常には、それらが由来するヒト抗体のフレームワーク領域に同一である。勿論、フレームワーク領域におけるアミノ酸の多くが、抗体の特異性または親和性にほとんどまたは全く直接的に寄与しない。従って、フレームワーク残基の多くの個々の保存的置換は、得られたヒト化免疫グロブリンの特異性または親和性をかなり変化することなく耐えられ得る。しかし、一般に、このような置換は所望されない。
【0055】
((5)可変領域の産生)
ヒト化免疫グロブリンのCDRおよびフレームワーク成分が、概念的に選択されると、種々の方法が、このような免疫グロブリンを産生するために利用可能である。コードの縮重のため、種々の核酸配列は、各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードする。所望の核酸配列は、新たな固相DNA新規合成によってまたは所望のポリヌクレオチドの初期に調製された変異体のPCR変異誘発によって産生され得る。この適用に記載される抗体をコードする全ての核酸は、本発明において明白に包含される。
【0056】
((6)定常領域の選択)
上述のように産生されたヒト化抗体の変異性セグメントは、典型的に、免疫グロブリン定常領域(Fc)(代表的にはヒト免疫グロブリンの定常領域)の少なくとも一部に、連結される。ヒト定常領域DNA配列は、種々のヒト細胞から、しかし、好ましくは不死化B細胞から、由来の周知の手順に従って単離され得る(Kabatら、前出、およびWO87/02671)。通常、抗体は軽鎖定常領域および重鎖定常領域の両方を含む。通常、重鎖定常領域はCH1、ヒンジ、CH2、CH3、および、時には、CH4領域を含む。
【0057】
ヒト化抗体は、全ての型の定常領域(IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEを含む)ならびにイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む)を有する抗体を含む。ヒト化抗体が細胞傷害性活性を示すことが所望される場合、定常ドメインは、通常補体固定定常ドメインであり、そしてそのクラスは典型的には、IgGである。このような細胞傷害性活性が所望されない場合、定常ドメインはIgGクラスであり得る。ヒト化抗体は、1を超えるクラスまたはイソタイプに由来する配列を含み得る。
【0058】
((7)発現系)
ヒト化軽鎖可変領域およびヒト化重鎖可変領域をコードし、必要に応じて定常領域に結合される核酸は、発現ベクター内に挿入される。軽鎖および重鎖は、同一のまたは異なる発現ベクターにおいてクローン化され得る。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実にする発現ベクター(単数または複数)中の制御配列に作動可能に連結される。このような制御配列は、シグナル配列、プロモーター、エンハンサー、および転写終結配列を包含する(Queenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、10029 (1989);WO 90/07861;Coら、J.Immunol. 148、1149 (1992)を参照のこと。これらは、全ての目的のためにそれらの全体が本明細書中で参考として援用される)。
【0059】
(C.ヒト化抗体のフラグメント)
本発明のヒト化抗体は、フラグメントおよび完全な抗体を含む。代表的には、これらのフラグメントは、抗体結合をもたらす完全な抗体と競合する。フラグメントは、代表的には、少なくとも10−1の親和性、およびより代表的には10または10−1の親和性(すなわち、完全な抗体と同じ範囲内で)で結合する。ヒト化抗体フラグメントは、別々の重鎖、軽鎖Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvを含む。フラグメントは、組換えDNA技術によって、または完全な免疫グロブリンの酵素的分離または化学的分離によって生成される。
【0060】
(組換え二重特異性抗体)
ハイブリドーマ細胞によって産生される抗体由来の二重特異性抗体を形成するための上記の方法はまた、1D10およびM291のヒト化形態のような組換え発現された抗体からのに重特異性抗体の産生に応用または適用され得る。例えば、二重特異性抗体は、成分抗体をそれぞれ発現する2つの細胞株の融合によって産生され得る。あるいは、成分抗体は、同一の細胞株中で同時発現され得る。二重特異性抗体はまた、成分組換え抗体の化学
的架橋によって形成され得る。
【0061】
成分組換え抗体はまた、遺伝子的に連結され得る。1つのアプローチにおいて、二重特異性抗体は、スペーサーによって分離された2つの成分抗体由来の4つの異なる可変ドメインを含む単一の融合タンパク質として発現される。例えば、このようなタンパク質は、1つの末端から他の末端、第1の成分抗体のVL領域、スペーサー、第1の成分抗体のVHドメイン、第2のスペーサー、第2の成分抗体のVHドメイン、第3のスペーサー、および第2の成分抗体のVLドメインを含む。例えば、Segalら、Biologic Therapy of Cancer Updates 2、1−12 (1992)を参照のこと。
【0062】
さらなるアプローチにおいて、二重特異性抗体は、成分抗体をロイシンジッパーペプチドに連結することによって形成される。概して、同時継続出願の11823−003200(1991年11月29日に提出された07/801,798);Kostelnyら、J.Immunol. 148、1547−1553 (1992)(全ての目的のためにその全てが参考として援用される)を参照のこと。ロイシンジッパーは、一般構造式(ロイシン−X−X−X−X−X−X(配列番号14)を有し、ここで、Xは、従来の20アミノ酸のいずれでもあり得るが(Proteins,Structures and Molecular Principles、(1984) Creighton (編)、W.H.Freeman and Company、New York)、αヘリックス形成の高い可能性を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびリジン)であることが最も考えられ(RichardsonおよびRichardson、Science 240、1648 (1988))、そしてnは3以上であり得るが、代表的にはnは4または5である。ロイシンジッパーは、種々の真核生物のDNA結合タンパク質(例えば、GCN4、C/EBP、c−fos遺伝子産物(Fos)、c−jun遺伝子産物(Jun)、およびc−myc遺伝子産物)に生じる。これらのタンパク質において、ロイシンジッパーは、二量体化(dimeriation)相互作用領域を作製し、ここで、ロイシンジッパーを含むタンパク質は、安定なホモ二量体および/またはヘテロ二量体を形成し得る。
【0063】
本発明における使用のためのロイシンジッパーは、好ましくはペアワイズ(pairwaise)親和性を有する。2つの種のロイシンジッパーが十分な濃度で存在する場合にヘテロ二量体形成が、ホモ二量体形成よりも好まれるのでペアワイズ親和性は、ある種のロイシンジッパー(例えば、Fosロイシンジッパー)が別の種のロイシンジッパー(例えば、Junロイシンジッパー)とヘテロ二量体を優先的に形成する能力として規定される。Schuemannら、Nucleic Acids Res. 19、739 (1991)を参照のこと。従って、ヘテロ二量体の優先的な形態は、代表的には50〜75%、好ましくは75〜85%、および最も好ましくは、85%を越えるヘテロ二量体である二量体集団に導く。合成ペプチドのそれぞれのアミノ末端が、分子間のジスルフィド結合を許容するためにシステイン残基を含む場合、ヘテロ二量体形成は、ホモ二量体化の実質的な排除を生じる。
【0064】
二重特異性抗体の形態において、成分抗体の結合フラグメントは、第1のまたは第2のロイシンジッパーにインフレームで融合される。適切な結合フラグメントは、Fv、Fab、Fab’、または重鎖を含み得る。ジッパーは、抗体結合フラグメントの重鎖または軽鎖に連結され得、そして通常C末端に連結される。定常領域または定常領域の一部が存在する場合、ロイシンジッパーは、好ましくは定常領域またはその一部に連結される。例えば、Fab’−ロイシンジッパー融合において、ジッパーは、通常、ヒンジのC末端に融合される。それぞれの成分抗体フラグメントに融合されたロイシンジッパーの封入により、ジッパーのアニーリングによるヘテロ二量体フラグメントの形成が促進される。成分
抗体が定常領域の部分(例えば、Fab’フラグメント)を含む場合、ジッパーのアニーリングはまた、定常領域を近接内に運搬するために作用し、それにより(例えば、F(ab’)2フラグメント中の)定常領域の結合を促進する。代表的なヒト定常領域は、各鎖のヒンジ領域間の2つのジスルフィド結合の形成によって結合する。この結合は、さらなるシステイン残基(単数または複数)を、さらなるジスルフィド結合の形成を可能にする各ヒンジ領域内に操作することによって増強され得る。
【0065】
抗体結合フラグメントに連結されるロイシンジッパーは、種々の方法で産生され得る。例えば、ロイシンジッパーを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、細胞宿主またはインビトロ翻訳系によって発現され得る。あるいは、ロイシンジッパーおよび/または抗体結合フラグメントは、化学的ペプチド合成によるか、所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の発現によるか、またはロイシンジッパー、抗体、または高分子種を含む他のタンパク質からの切断によるかのいずれかで、別々に産生され得、そして続いて精製され得る。このような精製ポリペプチドは、スペーサーアミノ酸配列の介在の存在または非存在を伴うペプチド結合によるか、またはスペーサー分子の介在の存在または非存在を伴う非ペプチド共有結合によって連結され得、スペーサー分子は、アミノ酸または他の非アミノ酸化学構造物のいずれかである。結合の方法または型に関わらず、このような結合は可逆的であり得る。例えば、化学的に不安定な結合(ペプチジル結合またはその他のいずれか)は、自発的にまたは熱、電磁放射波、プロテアーゼ、または化学薬剤での処理の際に切断され得る。このような可逆的結合の2つの例は:(1)ヒドロキシルアミンによって切断され得るAsn−Glyペプチド結合を包含する結合、および(2)還元剤によって切断され得るジスルフィド結合、である。
【0066】
成分抗体のフラグメント−ロイシンジッパー融合タンパク質は、同一の細胞株中の両方の融合タンパク質を同時発現することによってアニーリルされ得る。あるいは、融合タンパク質は、別々の細胞株中で発現され得、そしてインビトロで混合され得る。成分抗体フラグメントが定常領域の一部(例えば、Fab’フラグメント)を含む場合、ロイシンジッパーは、アニーリングが生じた後に切断され得る。成分抗体は、二重特異性抗体において定常領域を介して結合されたままである。
【0067】
(治療法)
本発明の二重特異性抗体を含む薬学的組成物は、非経口投与(すなわち、皮下、筋肉内、および特に、静脈内投与)に有用である。非経口投与のための組成物は、一般に、受容可能なキャリア(好ましくは、水溶性キャリア)に溶解した抗体溶液またはそのカクテルを含む。種々の水溶性キャリア(例えば、水、緩衝化水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなど)が使用され得る。これらの溶液は、無菌であり、そして一般的に粒状の物質を含まない。この組成物は、生理学的条件に近づけるために必要な薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pH調整剤およびpH緩衝化剤、毒性調整剤など)(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム)を含み得る。これらの製剤における二重特異性抗体の濃度は、広範に(すなわち、約0.01重量%未満、通常には少なくとも約0.1重量%〜5重量%まで)変化し得、そして主に選択された投与の特定の様式に従う、液体容積および粘性に基づいて選択される。
【0068】
静脈内注入のための典型的な組成物は、250mlの滅菌Ringer溶液、および10mgの二重特異性抗体を含むように作製され得る。Remington’s Pharmaceutical Science (第15版、Mack Publishing
Company、Easton、Pennsylvania、1980)を参照のこと。
【0069】
本発明の二重特異性抗体またはそのカクテルを含む組成物は、予防処置および/または
治療処置のために投与され得る。治療適用において、組成物を、症状およびその合併症を治療するまたは少なくとも部分的に抑制するのに十分な量で、悪性B細胞(例えば、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、および多発性骨髄腫)によって既に罹患されている患者に投与される。このことを達成するために適切な量は、「治療有効用量」として規定される。この使用に対する有効量は、症状の重篤度および患者自身の免疫系の一般的な状態に依存して使用されるが、用量当たり約0.01mg〜約100mgの二重特異性抗体の範囲であり、患者当たり0.1mg〜50mgおよび1mg〜10mgの投薬範囲がより一般に使用される。毎日の、毎週の、または毎月のスケジュールにおける単独投与または複合投与は、処置する医師によって選択される用量レベルおよびパターンで行われ得る。
【0070】
予防的適用において、二重特異性抗体またはそのカクテルを含む組成物は、患者の耐性を増強するために、疾患状態が進行する危険性のある患者に投与される。このような量は、「予防有効用量」であると規定される。この使用において、正味の応答量はまた、患者の健康状態および一般的な免疫レベルに依存し、一般的には用量当たり0.1mgから100mgの範囲であるが、本質的には患者当たり1mg〜10mgの範囲である。
【0071】
処置のいくつかの方法において、二重特異性抗体は、エフェクター細胞を活性化するために十分な量で第2の因子(例えば、インターロイキン)と共に投与され、それにより二重特異性抗体単独の投与と比較して悪性B細胞に対するそれらの細胞傷害性を増加する。インターロイキン−2の投与量は、約500,000U/kgが適切である。組合せ療法(combination therary)は、投与される二重特異性抗体がF(ab’)2フラグメントである場合、特に適切である。
【0072】
単特異性1D10抗体(特にヒト化形態)はまた、B細胞悪性疾患を罹患した患者またはB細胞悪性疾患の危険性のある患者に対する治療的投与に適切である。必要に応じて、抗体は、放射線標識または毒素と結合される。単特異性M291抗体(特にヒト化形態)は、免疫系の疾患および異常(例えば、宿主対移植片疾患、移植片対宿主疾患、自己免疫病、および炎症)の処置における免疫抑制剤として使用され得る。例えば、Cosimiら、N.Engl.J.Med. 305、308 (1981);Russelら、Annu. Rev.Med. 35、63 (1984)を参照のこと。単特異性抗体を投与するための投薬量および薬学的賦形剤は、二重特異性抗体のそれらに類似である。
【0073】
(診断方法)
M291および1D10抗体(マウス形態およびヒト化形態の両方)はまた、診断方法において有用である。1D10抗体(および同一エピトープのまたは類似のエピトープに結合する他の抗体)は、悪性B細胞の存在の診断、およびそれに対する処置の効力モニターに有用である。抗体はまた、特定の系統および発生起源の細胞を同定し、そして分類するという研究目的に有用である。M291抗体は、患者の免疫学的モニター(例えば、Cosimiら、前出を参照のこと)における診断目的および白血球のサブタイプを(例えば、抗体パネルの一部として)分類する研究目的に有用である。診断の方法は、患者由来の細胞サンプル(例えば、血液サンプル、リンパ節バイオプシーまたは細胞)を用いてインビトロで実施され得るか、またはインビボ画像形成によって実施され得る。
【実施例1】
【0074】
(実施例1)
1DT3−DがT細胞による悪性B細胞の除去を誘導する能力をインビトロで評価した。用いたアッセイは、51クロム放出細胞傷害性アッセイであった。標的悪性B細胞(1ml中10細胞)を100μCi 51Crとの1時間のインキュベーションで標識した。正常ドナー由来のT細胞を、エフェクター細胞として使用する前に、インビトロでI
L−2、またはIL−2および抗CD3抗体と3〜7日間インキュベートした。T細胞を、抗体と共に、51Cr標識悪性B細胞に添加した。この混合物を4時間インキュベートし、そして細胞非含有上清を除去し、そして放出された51Crの存在についてガンマ計数により評価した。最大放出を、全ての細胞の溶解を誘導する界面活性剤(NP−40)で処理したウエルから得られた上清を評価することにより決定した。バックグラウンド放出を、標的悪性B細胞およびT細胞を有するが抗体を有さないサンプルからの51Crレベルを評価することにより決定した。51Crの特異的放出は51Cr含有標的細胞の溶解を示し、そして下式を用いて算定した。
【0075】
【数1】

図1は、1DT3−Dは、Raji(バーキットリンパ腫の患者から樹立された細胞株)、HO−85(大細胞リンパ腫細胞株)、697(前B急性リンパ芽球白血病細胞株)、およびKH(慢性リンパ球白血病の患者から得られた新鮮リンパ球)を包含する、多数の異なる悪性B細胞の溶解を誘導したこと示す。T細胞標的細胞比は10:1であり、そして抗体濃度は5μg/mlであった。標的溶解は単特異性抗体が用いられたときには見られなかった。
【0076】
図2は、1DT3−Dが、低いT細胞:Raji細胞比(1:1未満)および低い抗体濃度(0.1μg/ml未満)でのraji細胞の顕著な溶解を誘導し得ることを示す。同様の結果が他の標的細胞株で見られた。
【0077】
図3は、新鮮KH細胞の1DT3−Dにより誘導されるT細胞媒介溶解が長いインキュベーション時間後に見出されたことを示す。
【0078】
本発明の二重特異性抗体はまた、単に、1D10抗体のFabまたはF(ab’)フラグメントを選び出して、これらをOKT3抗体の部分と融合して本発明の二重特異性抗体を形成させることによって生産され得る。あるいは、ナチュラルキラー細胞またはT細胞上で1D10および抗原を認識する二重特異性抗体は、合成技術または遺伝子工学技術によって生産され得る。
【0079】
本発明の二重特異性抗体の利点は、それらが悪性B細胞を認識し、非悪性B細胞からこれらを識別する能力である。従って、本発明の二重特異性抗体を用いる治療は、例えば、抗CD19抗体B4のような非特異性抗体を用いる治療より著しく損傷が少ない。
【0080】
さらに、実施例に記載のデータにより示されるように、本発明の抗体は、比較的低いT細胞比で悪性B細胞の顕著な溶解を誘導する。図2は、0.1μg/ml未満の比較的低い抗体濃度での1:1未満の悪性:T細胞比が、悪性細胞の顕著な破壊を提供することを示す。このことは、患者において利用可能なT細胞の濃度への依存を低下させるので、特に重要である。さらに、それはまた、必要な抗体量を低下させ、それによりいかなる潜在的な副作用をも制限する。
【0081】
(実施例2:IDT3−D二重特異性抗体のインビボ効率)
本実施例は、二重特異性抗体1DT3−Dのインビボ試行を記載する。正常ドナーヒト末梢血リンパ球を、OKT3(2μg/ml)および組換えIL−2(300μg/ml)の存在下でインビトロで活性化した。CB−17 scid/scidマウス(Itohら、Cancer 72, 2686−2694 (1993))に、5×10活性化リンパ球と混合した5×10Raji細胞を皮下注射した。24時間後、マウスに二重特異性抗体または二重特異性抗体の単特異性抗体成分を注射したか、あるいは抗体を注
射しなかった。マウスを、腫瘍注射部位において、少なくとも0.5cmの腫瘍の発達について毎日試験した。60日後に腫瘍のないままのマウスを陰性としてスコア付け、そして60日以内に腫瘍を発達したマウスを陽性としてスコア付けた。コントロールの未処理マウスは常に21〜28日以内に腫瘍を発達した。
【0082】
第一の実験では、5匹のマウスを、悪性細胞および活性化ヒトT細胞の混合物を接種した24時間後に、10μg/マウスの二重特異性抗体で処置した。コントロール群の5匹のマウスにはビヒクルのみを接種した。処置群およびコントロール群における腫瘍発生(すなわち、少なくとも8週間以内での少なくとも0.5cmの腫瘍の発達)は、以下の通りであった:
【0083】
【表1】

フィッシャーの片側検定を用いると、二重特異性抗体処置は、疾患のない生存を延ばした(p値は0.024である)。
【0084】
第二の実験は、上述したように腫瘍およびT細胞を接種したマウスにおいて、10μg/マウスの用量で、二重特異性抗体の抗腫瘍効果を単特異性抗CD3および単特異性1D10と比較するように設計した。第2群のマウスは、単特異性1D10および単特異性OKT3を受容した。第3群は二重特異性抗体を受容し、そしてコントロール群はビヒクルのみを受容した。第4群のマウスもまた10μg/マウスの濃度で二重特異性抗体を受容したが、活性化T細胞を受容した全ての他の群とは異なり、これらのマウスには非活性化T細胞を予め接種した。
【0085】
【表2】

一般的な二元表についてのフィッシャー検定(exact test)(Agresti、Categorical Data Analysis (Wiley, NY, 1990)、64〜65頁)を用いて、4つの群の発生率が等しいという帰無仮説を検定した。群間で非常に有意な差異がある(p=0.001)。コントロール群を第2群、第3群、および第4群のそれぞれと比較する両側検定もまた実施した。対応する片側p値は0.004、0.004、および0.222である。従って、第2群および第3群はともに、コントロール群とは有意に異なる。10μg/マウスの用量では、二重特異性抗体または両成分単特異性抗体での組合せの処置は、腫瘍のない生存を延ばしたと結論した。
【0086】
第三の実験では、用量応答研究を、二重特異性抗体の種々の投与量の抗腫瘍効果を試験するために実施した。別個のマウス群を、それぞれ0.4、2、または10μg/マウスの二重特異性抗体またはビヒクルの投与量で処置した。
【0087】
【表3】

Cochran−Armitageトレンド検定(Agresti、Categorical Data Analysis (Wiley, NY, 1990)、100〜102頁、118〜119頁)を用いて、4つの群の発生率が等しいという帰無仮説を、線形トレンドの対立仮説に対して検定した。等間隔スコアを用いると、p値は0.001である。0、0.4、2、および10のスコアを用いると、p値は0.0164である。両セットのスコアは、比率において有意なトレンドを示す。これらの結果は、二重特異性抗体が生存時間を延ばすのに有効であり、そしてより多い用量(10μgおよび2μg)を受容したマウスは、腫瘍のない生存を改善したことを示す。
【0088】
第四の実験は、2μg抗体/マウスの用量で、単特異性OKT3および1D10を二重特異性抗体に対して比較するように設計した。
【0089】
【表4】

一般的な二元表についてのフィッシャー検定を用いると、単特異性OKT3(第2群)および単特異性1D10(第3群)で処置したマウスの腫瘍のない生存は、コントロールとは有意な差異がなかったが、一方、二重特異性抗体(第4群)で処置したマウスは、生存を延ばした。
【0090】
これらのデータは、1DT3−Dの全身投与がインビボにおける悪性B細胞を傷害し、そして/またはその発達を妨害すること、および2μg/動物の用量で、二重特異性抗体治療が単特異性抗体治療より有効であることを示す。
【0091】
(実施例3:ヒトCD3抗原に対するモノクローナル抗体の生成)
実施例1に記載の1DT3−D抗体は、エフェクター細胞に対して親和性を有する結合部分としてOKT3を合併させた。本実施例は、二重特異性抗体におけるエフェクター細胞結合成分として使用するための別の抗体M291の単離を記載する。
【0092】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)をPHAおよびIL−2で活性化し、T細胞を拡大させた。活性化T細胞をBalb/Cマウスにおける免疫原として使用した。ハイブリドーマを、標準的な方法により、これらのマウスの脾臓から生成した。これらのハイブリドーマを、インビトロで増殖するようにPBMCを刺激し得る抗体についてスクリーニングした。適切なFcを有する抗CD3抗体は、PBMC中のT細胞の増殖を引き起こす。これらのハイブリドーマの1つであるM291を単離し、そしてT細胞を活性化して増殖させ得るアイソタイプIgG2a/κの抗体を分泌することが分かった。精製抗体M291は、別の抗ヒトCD3抗体であるOKT3(IgG2a/κ)と、ヒトT細胞への結合について競合し、このことは、それぞれの抗体により認識されるエピトープが密接した間隔にあることを示す。従って、M291は、ヒトCD3複合体に対する特異性を有する抗体である。
【0093】
(実施例4:1D10およびM291抗体のヒト化)
本実施例は、1D10およびM291抗体についてそれぞれのヒト化手順を記載する。
【0094】
((1)1D10およびM291 V領域cDNAのクローニング)
1D10およびM291の重および軽VドメインcDNAを、アンカーPCR法(Lohら、Science 243, 217 (1989)を参照のこと)を用いてクローン化した。cDNAをまず、ハイブリドーマ細胞由来のポリA+ RNAをオリゴdTでプライムした後に逆転写酵素により合成した。dGの尾部を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによりcDNAの3’末端に付加した。次いで、VドメインをPCRにより、C領域にハイブリダイズする3’プライマーおよびG尾部にハイブリダイズする5’プライマーを用いて増幅した。いくつかの独立したH鎖クローンおよびL鎖クローンを配列決定し、配列の誤りがPCRによって導入されなかったことを確認した。1D10について、Vドメインを、マウスアイソタイプIgG2a/κの抗体として、ミエローマ細胞株SP2/0に適切なベクター中の遺伝子をトランスフェクトすることにより発現させ、それらが1D10の結合部位をコードしていることを確証した。トランスフェクションにおいて用いられる発現ベクターは、定常領域の遺伝子がマウス配列に由来することを除いて、Coらにより記載のプラスミドpVk.GおよびpVg.D(Coら、J. Immunol. 148, 1149 (1992)を参照のこと)と同様である。トランスフェクト細胞から単離された抗体は、フローサイトメトリーにより、親マウスIgG1/κ 1D10抗体のパターンとは識別できないパターンでRaji細胞に結合することが分かった。M291のVドメインを同様にクローン化し、そしてそれらをマウスF(ab’−ジッパー)として発現させた(Kostelnyら、J. Immunol. 148, 1547 (1992)を参照のこと)。フローサイトメトリーアッセイは、M291−Fos F(ab’ジッパー)が親抗体と同様または同一の親和性でヒトT細胞に結合することを示した。この観察により、M291の正確なVドメインがクローン化されたことを確証した。
【0095】
((2)ヒト化配列のモデリングおよび設計)
マウス1D10およびM291に最も類似したヒトVドメインの配列を選択し、ヒト化抗体のフレームワークとして供した。1D10については、最良のヒトV配列は、ヒトサブグループIのR3.5H5Gであり、これはフレームワーク領域において1D10とは16アミノ酸しか異ならない。Manheimer−Loryら、J. Exp. Med. 174, 1639−1652 (1991)。最良のV配列は、KabatサブグループIIまたはサブグループIVのIC4であり(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest 1, 1137 (1991)を参照のこと)、これらは26アミノ酸が異なる。M291については、最良のヒトV配列は、ヒトサブグループIのHF2−1/17であり、26アミノ酸が、フレームワーク領域においてM291と異なる(Athisonら、J. Clin. Invest. 75, 1138 (1985);Lampman、Blood 74, 262 (1989));最良のヒトV配列は、ヒトサブグループIの21/28であり、これらは20アミノ酸が異なる。Dersimonianら、J. Immunol. 139, 2496−2501 (1987)。三次元モデルの助けを借りて、マウス抗体と選択されるヒト配列との間で異なるさらなる数のフレームワーク位置を同定した。三次元空間におけるそれらのアミノ酸残基の超可変領域(またはCDR)に対する位置は、それらがCDRコンホメーション、そして従って結合親和性に影響を及ぼすようであることを示した。マウス配列をこれらの位置で用いた。ヒト配列において、それらのそれぞれのサブグループのコンセンサスと異なる多くの位置を同定した。これらのアミノ酸を、コンセンサス配列に対応するように変更した。マウス1D10とヒト化1D10との間、およびマウスM291とヒト化M291との間のVおよびV配列比較を、それぞれ図4および図5に示す。
【0096】
((3)ヒト化1D10抗体の合成および発現)
ヒト化1D10 L鎖およびH鎖V領域をコードするDNAセグメントを、オーバーラップオリゴヌクレオチドからの全遺伝子合成により構築した。これらのミニエキソンは、シグナル配列、Jセグメント、およびスプライスドナー配列を含み、そしてXbaI部位に囲まれた。このDNAセグメントを、図6に概要を示したスキームを用いて、発現ベクター中に取り込んだ。
【0097】
ヒト化Vドメインを、対応する重鎖および軽鎖発現プラスミドpV1.D.TtおよびpVk.rG.dEのXbaI部位にクローン化した。得られたプラスミドをpHu1D10.Vg1.D.TtおよびpHu1D10.V.rG.dEと称する。重鎖発現ベクターpVg1.D.Tt(これは、選択マーカーとして変異ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(mdhfr)(SimonsenおよびLevinson、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 2495, (1983)を参照のこと)、転写開始のためのヒトサイトメガロウイルス(hCMV)主要即時型プロモーターおよびエンハンサー(Boshartら、Cell 41, 521 (1985)を参照のこと)、およびヒトIgG1定常領域を含有する)を、標準的な方法によりそれぞれのフラグメントから構築した。このベクターは、Coら、J. Immunol. 148, 1149 (1992)に記載のベクターpV1.Dとは、γ1遺伝子ポリ(A)部位の3’側に転写終結部位を有することにより異なる。転写終結部位(Tt)は、ヒト補体遺伝子C2から下流に位置する配列(C2ポリ(A)部位の+37から+162bp)(Ashfieldら、EMBO J. 10, 4197 (1991)を参照のこと)から誘導し、そしてオーバーラッピングオリゴヌクレオチドを用いることにより、完全に合成した。
【0098】
軽鎖発現については、ベクターを、hCMVプロモーターおよびエンハンサー、ヒトC遺伝子(先行するイントロンの一部を含む)、および選択用キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子(MulliganおよびBerg、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 2072 (1981)を参照のこと)から構築した。ベクターpV.rG.dEは、gpt遺伝子の向きを除いて、Coらにより記載のpV(Coら、J. Immunol. 148, 1149 (1992)を参照のこと)と同様である。さらに、gpt遺伝子を転写するのに用いられるSV40プロモーターのエンハンサー領域における2つの反復配列の一方を、SphI消化により欠失させた。
【0099】
1つのプラスミドにおける重鎖および軽鎖の同時発現については、hCMVプロモーター、VHエキソン、C1、C2、およびC3エキソン、ポリAシグナル、および転写終結シグナルを含むEcoRIフラグメントを、重鎖発現ベクターから選び出し、そして対応する軽鎖発現プラスミドの単独のEcoRI部位にクローン化した。それらの間に位置した転写終結シグナルの存在により、この2つの遺伝子は、hCMVプロモーターにより独立して転写される。転写後、ヒト化Vエキソンはヒトγ1 C1、ヒンジ、C2、およびC3エキソンにスプライスされ、そして次いでポリアデニル化される。同様に、VエキソンはヒトCエキソンにスプライスされる。ヒト化1D10の成熟軽鎖および重鎖の推定アミノ酸配列を、それぞれ、図4Cおよび4Eに示す。
【0100】
プラスミドpHu1D10.IgG1.rG.dEを、エレクトロポレーションにより、マウスミエローマ細胞株TSOへのトランスフェクションのために用いた。TSO細胞は、それらがSatoら、J. Exp. Med. 165, 1761 (1987)の手順に従って無血清培地において増殖する能力について選択された、マウスミエローマNSO細胞(ECACC 85110503)の誘導体である。各トランスフェクショ
ンからの細胞をgpt発現について選択した。gpt遺伝子についてのSV40プロモーター/エンハンサーは不能にされたので、少数個のトランスフェクタントのみが、選択物を生存させるに十分に高い程度に、gptを発現させ得る(JasinおよびBerg、Genes Dev. 2, 1353 (1988)を参照のこと)。gptの野生型SV40プロモーターを含むほぼ同一のプラスミドを用いるトランスフェクションからの10〜50×10−6の効率に比較して、約0.5〜1.0×10−6である。標準的なELISAによりヒト化抗体の生産についてスクリーニングした場合、平均生存細胞もまた、野生型SV40プロモーターを含むプラスミドでトランスフェクトされた細胞に比較して、より高いレベルの抗体を生じた。次いで、最良の抗体プロデューサーをヒト化1D10の生産のためにサブクローン化した。抗体Hu1D10を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより無血清使用済培地から精製した。
【0101】
((4)Hu1D10の特性)
マウス1D10−IgG2aおよびヒト化1D10は、1D10陽性細胞株および1D10陰性細胞株との反応性について同一のスペクトルを有した。標的抗原を有する細胞についてのマウス1D10−IgGaおよびヒト化1D10の親和性を配置替えアッセイを用いて評価した(Woodleら、J. Immunol. 148 2756 (1992)を参照のこと)。このアッセイにおいて、既結合ヒト化1D10またはマウス1D10−IgG2aがFITC標識マウス1D10−IgG2aの結合を阻害する能力を、FACS分析により定量した。ヒト化1D10は、マウス1D10−IgG2aの結合を、親抗体で見られるのと同様の程度に競合阻害した(図7A)。これらのデータは、ヒト抗体がマウス抗体と同様の親和性で結合することを示した。スキャッチャード分析を、ヒト化1D10の見かけの親和性をより良好に概算するために用いた。ヒト化1D10−IgG1は、2.3×10−1の見かけのKを有すること、およびRaji細胞株において細胞当たり約5×10部位が存在することが分かった(図7B)。さらに、ヒト化1D10は、ADCCおよび補体媒介溶解を導く能力を有し、この2つのエフェクター機能は元のマウス1D10には存在しない(図8Aおよび8B)。
【0102】
((5)ヒト化M291および1D10(ab’−ジッパー)2の合成および発現)
ロイシンジッパー遺伝子(JunおよびFos)をKostelnyら、J. Immunol. 148, 1547 (1992)により記載のように合成した。得られたPCR産物は、179bpのPstI−SalIフラグメントであり、これは完全ヒンジジッパー遺伝子融合を包含する。PstI部位はヒンジエキソンの開始部に位置した天然の制限部位であるが、SalI部位はPCRの間にジッパー配列の末端部に付加された。ヒンジ/ジッパーエキソンを、マウスIgG2a遺伝子の3’非コード配列を含む162bpのSalI−BamHIフラグメントと共に、重鎖発現ベクターpVgl.D.Ttに挿入し、プラスミド中でヒンジ、C2、およびC3エキソンが置換される。1つのプラスミドにおける短縮型重鎖(Fd)遺伝子と軽鎖遺伝子との同時発現は、pHu1D10.IgG1.rG.dE(図6)について上述したのと本質的には同じである。発現プラスミドを、pHu1D10−Jun.rG.dEおよびpHuM291−Fos.rG.dEと称する(図9)。これらのプラスミドと全抗体を発現させるのに用いたプラスミドとの間の差異は以下の通りである:(1)ヒトγ1C1エキソンは、ヒンジ、C2、およびC3エキソンの代わりに、ヒンジ/ジッパー融合エキソンにスプライスされている、および(2)転写物は異種シグナルによりポリアデニル化されている。ロイシンジッパーJunをHu1D10のFdのために用い、そしてFosをHuM291のFdのために用いる。対応する軽鎖と組み合わせたとき、Fd−ジッパーは、F(ab’−ジッパー)を形成し得る。1D10およびM291に関するヒト化F(ab’−ジッパー)フラグメントを、それぞれHu1D10−JunおよびHuM291−Fosと称する。Hu1D10−JunおよびHuM291−Fosにおける重鎖Fd−ジッパーの推定アミノ酸配列を、それぞれ図4Dおよび5Dに示す。両場合とも、ヒンジ/ジッパー融
合の領域でヒトIgG1ヒンジの改変が存在した(図10)。マウスIgG2aヒンジ由来の2アミノ酸残基Lys−Cysの挿入をヒンジエキソンに導入して、さらなる重鎖間ジスルフィド結合を提供した。ヒトIgG1ヒンジにおいてこれらの2残基を挿入することにより、そのCOOH−末端半部位をマウスIgG2aヒンジに相同とする。改変ヒンジは、野生型ヒトIgG1が2つであるのに対して、3つの重鎖間ジスルフィド結合を有し得た。さらに、Ala残基(C2ドメインの第1残基)および2つのGly残基を融合接合部に導入し、接合部をより可動性にした。発現プラスミドであるpHu1D10−Jun.rG.dEおよびpHuM291−Fos.rG.dEを、エレクトロポレーションにより、マウスミエローマ細胞株TSOに別々にトランスフェクトした。トランスフェクタントを、ELISAにより、分泌F(ab’−ジッパー)フラグメントの存在および量についてスクリーニングした。F(ab’−ジッパー)フラグメントをプロテインGアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。
【0103】
((5)HuM291−Fosの特性)
T細胞についてのマウスM291およびHuM291−Fos F(ab’−ジッパー)の相対的親和性を、上記の配置替えアッセイを用いて評価した。HuM291−Fosは、FITC標識マウスM291 IgG2aおよび非標識M291の結合をブロックする(図11A)。CD3についてのHuM291の親和性は、N291の2〜3倍以内であると概算される。スキャッチャード分析は、HuM291−Fosの見かけの親和性がKが1.1×10−1であったこと、および活性化ヒトT細胞において細胞当たり約6.6×10部位が存在することを示した(図11B)。
【0104】
((6)二重特異性Hu1D10−Jun×HuM291−Fos F(ab’−ジッパー)のインビトロでの形成)
Hu1D10−JunおよびHuM291−Fosを、0.5〜3.0mg/mlの間の濃度で等モルで混合し、そしてPBS中10mM DTTで、37℃で1時間還元し、Fab’−ジッパーを形成した。それらをPBS中でセファロースG−50カラムに通し、DTTを除去した。脱塩したタンパク質を4℃で48時間インキュベートし、ヘテロ二量体二重特異性Hu1D10−Jun×HuM291−Fosを形成させた。二重特異性分子を、フェニルセファロースカラム上で疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により、さらに精製した。
【0105】
(実施例5:ヒト化二重特異性抗体のT細胞媒介細胞傷害性)
Hu1D10−Jun×HuM291−FosがT細胞媒介溶解を導く能力を、クロム放出アッセイにおいて試験した。OKT3およびIL−2処理後のPBMC由来のヒトT細胞をエフェクター細胞として用いた。Dawo(これは、B大細胞型リンパ腫の患者から発達した細胞株である)を、標的細胞として用いた。図12は、二重特異性Hu1D10−Jun×HuM291−Fos、およびマウス二重特異性IgG 1DT3−Dが標的細胞を溶解するようにT細胞を導いたことを示す。2つの二重特異性分子は、低い抗体濃度で同様の活性を有するようであった。2つの親抗体であるHuM291−FosおよびHu1D10−Junは、単独でも組み合わせても、このアッセイでは有効ではなかった。
【0106】
高濃度(10μg/ml)で、1DT3−Dは、標的細胞溶解を媒介するにおいて、Hu1D10−Jun×HuM291−Fosより高い活性を有した。これは、標的細胞の表面上の低親和性のFcレセプターのためである。高い抗体濃度では、二重特異性IgGのFcは、これらのレセプターに結合し得、そしてT細胞を標的抗原から独立した標的細胞の溶解に導き得た。これは、逆溶解として知られる機構である(Weinerら、J.
Immunol. 152, 2385 (1994)を参照のこと)。Hu1D10−Jun×HuM291−Fosは、Fcを有さないF(ab’)様分子であるので、
Fcレセプターへの結合によって溶解を開始させ得ない。いくつかの治療用途において、ヒト化抗体のこの特性は、抗体の選択的傷害性を増大させるのに有利である。
【0107】
上記に引用された全ての刊行物および特許出願は、その各個々の刊行物または特許出願が、詳細かつ個々に参照のために援用されるとしてそのように示されたと同じ程度に、あらゆる目的のために、本明細書中にその全体が参照のために援用される。本発明は、明確化および理解の目的のために説明および実施例によってやや詳細に記載されているが、ある種の変更および改変が添付の請求の範囲の範囲内で実施され得ることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、本発明の二重特性抗体による悪性B細胞の溶解を示すグラフである;
【図2】図2は、本発明の抗体の異なる濃縮物により引き起こされるRaji細胞の溶解を示すグラフである;
【図3】図3は、本発明の二重特性抗体による経時的KH細胞の溶解を示すグラフである。これはまた、比較研究を示している。
【図4−1】図4。ヒト化1D10抗体(上段)およびマウス1D10抗体(下段)の軽鎖(A)(配列番号1〜2)および重鎖(B)(配列番号3〜4)可変領域のアミノ酸配列(シグナル配列を含有しない)。各鎖中の3つのCDRに下線が引かれる。マウスのアミノ酸またはコンセンサスヒトアミノ酸で置換されているヒトフレームワーク中の残基に二重下線を引く。ヒト化1D10の完全な軽鎖および重鎖のアミノ酸配列を、それぞれ、(C)(配列番号5)および(E)(配列番号7)に示す。Vドメインは残基1〜107からなり、Cは108〜214からなる。Vドメインは残基1〜116からなり、C1は117〜214からなり、ヒンジは215〜229からなり、C2は230〜339からなり、そしてC3ドメインは340〜446からなる。1D10のヒト化F(ab’−ジッパー)中のFd−Junのアミノ酸配列を、(D)(配列番号6)に示す。Vドメインは残基1〜116からなり、C1ドメインは117〜214からなり、改変ヒンジは215〜234からなり、そしてFosロイシンジッパーは235〜273からなる。
【図4−2】図4−1の続き
【図4−3】図4−2の続き
【図5−1】図5。ヒト化M291抗体(上段)およびマウスM291抗体(下段)の軽鎖(A)(配列番号8〜9)および重鎖(B)(配列番号10〜11)可変領域のアミノ酸配列(シグナル配列を含有しない)。各鎖中の3つのCDRに下線を引く。マウスのアミノ酸またはコンセンサスヒトアミノ酸で置換されているヒトフレームワーク中の残基に二重下線を引く。ヒト化M291の完全な軽鎖のアミノ酸配列を、(C)(配列番号12)に示す。Vドメインは残基1〜106からなり、そしてヒトCドメインは107〜213からなる。M291のヒト化F(ab’ジッパー)2中のFd−Fosのアミノ酸配列を、(D)(配列番号13)に示す。Vドメインは残基1〜120からなり、C1ドメインは121〜218からなり、改変ヒンジは219〜238からなり、そしてFosロイシンジッパーは239〜279からなる。
【図5−2】図5−1の続き
【図6】図6。ヒト化1D10 IgG1の発現のために使用されるプラスミドpHu1D10.IgG1.rG.dEの構築。
【図7】図7。(A)。抗原に対するヒト化1D10およびマウス1D10の相対的な親和性の比較のための配置替えアッセイ。Raji細胞上のマウス1D10−IgG2a−FITCの亜飽和量(subsaturation)をマウス1D10−IgG2aまたはヒト化1D10−IgG1の増加量で置換した。Raji細胞を完全培地中に2.5×10/mlで再懸濁した。試験抗体(ヒト化1D10−IgG1)またはコントロール抗体(マウス1D10−IgG2a)の希釈物を添加し、そして4℃で1時間インキュベートした。一定の、亜飽和量のマウス1D10−IgG2a−FITCを添加し、そして細胞を4℃で1時間インキュベートし、洗浄し、そして1%パラホルムアルデヒド中に再懸濁した。次いで、細胞を、フローサイトメトリーを用いて分析した。値を非競合抗体コントロールと比較した蛍光強度の阻害%で示した。(B)。125I標識ヒト化1D10−IgG1のRaji細胞への結合のスキャッチャード(Scatchard)プロット分析。スキャッチャード分析を、0.2ml、90分間、0℃での標識抗体の希釈物の4×10 Raji細胞への結合により行った。細胞を結合緩衝液(0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBS中の2%ウマ血清)中で洗浄し、そして計数した。非特異的結合を、過剰の非標識ヒト化1D10−IgG1との特異的結合の阻害により測定した。見かけ上のKaおよび結合部位の数を、スキャッチャードプロットの傾きおよびX軸切片それぞれから算出した。
【図8】図8。(A)。種々の1D10アイソタイプによる抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)能力。51Cr標識Rajiヒトリンパ腫細胞を、マウス1D10−IgG1(▲)、マウス1D10−IgG2a(●)、またはヒト化1D10−IgG1(■)についての標的として、そしてヒト末梢単核をエフェクター細胞として使用した。エフェクター:標的の比は40:1であった。自発的な放出は、全放出の20%未満であった。線は、SEMを表す。(B)。種々の1D10アイソタイプによる補体媒介細胞傷害性。51Cr標識Rajiヒトリンパ腫細胞を、マウス1D10−IgG1(▲)、マウス1D10−IgG2a(●)、またはヒト化1D10−IgG1(■)についての標的として、そして正常な被験体由来のヒト血清を補体として使用した。自発的な放出は、全放出の20%未満であった。線は、SEMを表す。
【図9】図9。Hu1D10−JunおよびHuM291−Fos F(ab’−ジッパー)の発現のためのプラスミドpHu1D10−Jun.rG.dEおよびpHuM291−Fos.rG.dEの略図。これら2つのプラスミドの構築は、ロイシンジッパー配列JunおよびFosによるC2およびC3エキソンの置換を除いて、図6のpHu1D10.IgG1の構築と同様であった。Fd−ジッパー転写産物のためのポリアデニル化シグナルは、マウスIgG2a遺伝子の3’非コード配列(Kostelnyら、J. Immunol. 148, 1547 (1992)を参照のこと)由来である。
【図10】図10。(A)。ヒンジ−ジッパー融合において使用した改変ヒトIgG1ヒンジの配列。2つの残基Lys−Cys(下線)を改変ヒンジ中に挿入した。この改変ヒンジ中の最初のCysは軽鎖とジスルフィド結合を形成し、そして残りの3つのCys残基は、内部重鎖ジスルフィドを形成する。比較のために、ヒトIgG1(B)およびマウスIgG2a(C)のヒンジ配列もまた示す。マウスIgG2aヒンジ中の3つすべてのCys残基が、内部重鎖ジスルフィドのために使用される。Lys−Cysの挿入後、改変ヒンジおよびマウスIgG2aヒンジは、COOH末端近傍において広範囲の配列相同性を有する。
【図11】図11。(A)。HuM291−FosおよびM291のそれらの抗原に対する相対的な親和性を比較するための配置替えアッセイ。ヒトT細胞上の亜飽和量のマウスM291−FITCを漸増量のマウスM291またはHuM291−Fosにより置換した。T細胞を完全培地中に2.5×10/mlで再懸濁した。試験抗体(HuM291−Fos)またはコントロール抗体(マウスM291)の希釈物を添加し、そして4℃で1時間インキュベートした。一定の、亜飽和量のマウスM291−FITCを添加し、そして細胞を4℃で1時間インキュベートし、洗浄し、そして1%パラホルムアルデヒド中に再懸濁した。次いで、細胞を、フローサイトメトリーを用いて分析した。値を非競合抗体コントロールと比較した蛍光強度の阻害%で示した。(B)。125I標識HuM291−Fosの活性化ヒトT細胞への結合のスキャッチャードプロット分析。スキャッチャード分析を、0.2ml、90分間、0℃での標識抗体の希釈物の4×10 T細胞への結合により行った。細胞を結合緩衝液(0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBS中の2%ウマ血清)中で洗浄し、そして計数した。非特異的結合を、過剰の非標識HuM291−Fosとの特異的結合の阻害により測定した。見かけのKaおよび結合部位の数を、スキャッチャードプロットの傾きおよびX軸切片それぞれから算出した。
【図12】図12。二重特異性抗体が誘導した1D10陽性細胞のT細胞媒介溶解。ヒトPBL中のT細胞を、抗CD3抗体OKT3により活性化し、そしてIL−2中でそれらを培養することによって拡大した。標的細胞を51Crで標識し、そして洗浄した。T細胞および標識標的細胞を25:1のエフェクター:標的比でV底マイクロタイタープレート中に入れた。抗体を所望の濃度で添加した。使用した抗体は:Hu1D10−Jun、HuM291−Fos、マウス二重特異性IgG 1DT3−D、およびヒト化二重特異性F(ab’−ジッパー) Hu1D10−Jun×HuM291−Fosであった。プレートを37℃で4時間インキュベートし、遠心分離し、そして標的細胞溶解を51Cr放出量の測定により測定した。この細胞傷害性アッセイにおける特異的放出のパーセントを以下のように計算した:{抗体により放出したカウント−抗体の添加なしに放出したカウント}/{0.1% SDSにより放出したカウント−抗体の添加なしに放出したカウント}×100。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体であって、以下の抗原:
(a)T細胞およびナチュラルキラー細胞からなる群より選択されるエフェクター細胞の表面上の第1の抗原、および
(b)悪性B細胞の表面上の28/32kDaヘテロ二量体タンパク質上の第2の抗原に結合し、該第2の抗原は1D10と称される抗体に特異的に結合し、ここで該二重特異性抗体と該第1および該第2の抗原との該結合が該悪性B細胞の傷害をもたらす、二重特異性抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−262077(P2007−262077A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128680(P2007−128680)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【分割の表示】特願平8−526407の分割
【原出願日】平成8年2月29日(1996.2.29)
【出願人】(500533422)ピーディーエル バイオファーマ,インコーポレイティド (18)
【出願人】(506045761)
【Fターム(参考)】