説明

B群連鎖球菌の糖質を免疫学的に模倣する抗イディオタイプ抗体を含むワクチン処方物

【課題】B群Streptococcus等の病原体によって引き起こされる疾患に対して有効であるワクチンの開発を課題とする。
【解決手段】上記課題は、B群Streptococcus(GBS)(特にIII型GBS)の莢膜ポリサッカライドに対して防御免疫応答を惹起し得る、ペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドの化合物を提供することによって解決された。このような化合物は、これらの病原体によって引き起こされる疾患に対して有効であるワクチンの開発において有用である。新生児防御は、これらの化合物で母親を免疫することによって得られ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B群Steptococcus(GBS)、特にIII型GBSの莢膜ポリサッカライドに対する防御的免疫応答を誘起し得る化合物に関する。そのような化合物は、そのような化合物は、これら病原体によって生じる疾患に対して効果的なワクチンの開発において有用である。
【背景技術】
【0002】
B群連鎖球菌(GBS)は、新生児における敗血症および髄膜炎、ならびに糖尿病、肝硬変および固形腫瘍に罹患しているような感受性の成人患者における敗血症および髄膜炎の主要な原因であると認識されている。抗体の使用は、症例の致死率に劇的な影響を与えたが、感染の発病率は、ほとんど変化しなかった。実際、先進国においてでさえ、死亡の発生率および恒久的障害は、適切な治療の適用にもかかわらず、高いままである。
【0003】
GBSは、生物によって保有される特定の型の莢膜ポリサッカライド(CHO)に基づく血清型に分類される。莢膜ポリサッカライドは、抗食細胞特性を有し、GBSの主要なビルレンス因子であると考えられる(Bakerら、1995;Rubensら、1987)。III型莢膜GBSは、新生児感染の主要な原因であり、そして髄膜炎症例の約90%の原因である(Bakerら、1995)。
【0004】
型抗原の組み合わせを用いての受胎した女性の免疫が、胎盤の障壁を通る特定の抗体が新生児感染を予防し得るという理論的根拠とともに、新生児疾患の予防のための戦略として提唱されている(Bakerら、1981)。実際に、新生児のGBS感染と、型特異的CHOに対する低レベルの母性抗体との間の有意な相関が示されている(Bakerら、1981;Bakerら、1976)。
【0005】
GBSによって生じる疾患の発症頻度を制御する意図において、ポリサッカライドワクチンが開発されている。莢膜ポリサッカライドワクチンにともなう主要な問題は、その劣っている免疫原性である。このことは、ポリサッカライド抗原に対する抗体によって使用される唯一の抗体応答である、T細胞非依存性(TI)型の免疫反応に由来すると考えられている。この型の応答は、T細胞に対する抗原提示のためのMHCクラスII拘束分子に関与しない;結果として、T細胞の補助が妨げられる。
【0006】
ポリサッカライド抗原の免疫原性を増強する広範に受け入れられている方法は、タンパク質とポリサッカライド抗原との結合による。かなりの程度、このアプローチは、b型Haemophilus influenzae感染の予防において成功している(Ala’AldeenおよびHormaeche、1995)。破傷風トキソイド(Paolettiら、1994;Kasperら、1996;Bakerら、1996)と結合した型CHO、またはGBSタンパク質(Madoffら、1992;Larsonら、1996)と結合した型CHOは、GBS疾患を予防するための可能性のあるワクチンとして、現在評価されている。
【0007】
糖鎖抗原に対する効果的かつ追加免疫可能な抗体応答を得るための代替的な戦略は、関連する糖エピトープのコンフォメーションを模倣するタンパク質分子の開発に関連する。このアプローチの利点は、その化学的性質によって、タンパク質が、抗原特異的方法においてT細胞補助を刺激する内在的能力を有するという点である。この戦略は、致死的なStreptococcus pneumoniae感染に対するBALB/cマウスを免疫防御する代理ワクチンとして成功して使用された、キャリアタンパク質と結合したモノクローナル抗イデオタイプ抗体(mAb)の開発を生じた(McNamaraら、1984)。K13 Escherichia coli(Steinら、1984)莢膜抗原、およびC群Neisseria meningitidis(Westerinkら、1988)莢膜抗原を模倣するモノクローナル抗体もまた記載されている。
【0008】
しかし、これらの報告は、莢膜ポリサッカライドの抗原決定基をある程度模倣する化合物が生成され得るという概念を説明するが、現在まで開発された特定の化合物(マウスモノクローナル抗体)が、ヒトワクチンの候補であるようではなく、そしてしばしば長時間持続する防御免疫を付与することにおいて効果的ではないことが、当該分野において広く理解されている。さらに、GBSに対して効果的なそのような化合物は、今日まで生成されていない。
【0009】
従って、GBSによって生じる疾患と戦うのに効果的な新規の改善されたワクチン戦略の開発について、および、特に、ワクチンとして使用した場合に、GBSに対する防御的免疫応答を誘起し得る化合物についての大きな必要性が残っている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明に従って、B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドに対する防御的免疫応答を誘発し得るペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物が提供される。そのような化合物は、免疫原性化合物として有用であり、GBSによって生じる疾患に対して防御的なワクチンの成分としてもまた有用であり得る。
【0011】
好ましくは、この化合物は、GBSの主要なビルレンス決定基であると広く認識されているB群StreptococcusのIII型莢膜ポリサッカライドに対する防御的免疫応答を誘発し得る。新生児防御は、これらの化合物で母親を免疫することによって得られ得る。
【0012】
用語「防御的免疫応答」によって、動物またはヒト患者において、本発明の化合物に対して指向される有益な体液性応答および/または細胞性応答の発生が意味される。体液性応答は、抗体媒介性であり、そして本発明の化合物に対する親和性を有する抗体の生成を包含する。このことは、本発明の化合物で免疫された個体へのGBS侵入に際して、個体の免疫系はこの化合物の免疫記憶を有し、従って、GBS生物に対する即時の体液性攻撃を開始し得ることを、意味する。
【0013】
細胞性応答は、主要組織適合性複合体(MHC)のクラスI分子またはクラスII分子と会合した抗原性エピトープの提示によって誘発される。これは、抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞、またはCD8+細胞傷害性Tリンパ球細胞を活性化する。
【0014】
本発明の化合物が免疫応答の誘発において効果的であり得る種としては、全ての哺乳動物、特にヒトが挙げられる。ほとんどの場合、化合物がヒトにおける免疫応答の誘発において活性であることが好ましい。GBSによって生じる疾患からの防御が大きく必要とされるヒトの集団は、新生児である。しかし、成人集団の種々の部門(特に、糖尿病、肝硬変のような衰弱する慢性疾患に罹患しているる集団、または固形腫瘍を保有する集団)もまた、危険性を有する。
【0015】
新生児を防御するために効果的な戦略は、母親において、胎盤の障壁を通過し得る抗体の誘発を包含する。そのような抗体は、IgGクラスに属し、そしてBおよびTリンパ球の両方を刺激し得る抗原(T依存性抗原)に対する応答においてのみ、産生される。本発明に従って提供される化合物は、特異的IgGの産生を刺激する能力を有する。さらに、これらの化合物を用いる母性免疫は、新生児をGBS疾患から防御するのに効果的である。
【0016】
ペプチドとは、ともに共有結合した3と10との間のアミノ酸の化合物を意味する。オリゴペプチドは、10と30との間の連結したアミノ酸を含み、一方、ポリペプチドは、30より多いアミノ酸を含む。
【0017】
本発明に従うペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物の構造は、B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドの免疫学的決定基を模倣する、エピトープを、その折り畳まれた3次元構造中に含有するようなものである。好ましくは、このエピトープは、B群StreptococcusのIII型莢膜ポリサッカライドの免疫学的決定基を模倣する。
【0018】
ペプチドおよびオリゴペプチドは、その小さなサイズに起因して、免疫原性化合物としての使用のための理想的な候補である;これらの分子は、抗原エピトープを模倣するのに十分大きく(代表的に5と12との間のアミノ酸によって決定される)、なお、免疫グロブリンのようなより大きな分子を超える有利な薬物動態的特性を有するのに十分小さい。その化学的性質によって、これらの分子は、抗原特異的様式においてT細胞補助を刺激する内在的能力(例えば、ポリサッカライドによっては保有されない特性)を有する。このことは、ポリサッカライドワクチンの使用が、莢膜病原体によって生じる疾患の処置において固有の欠点を有する1つの理由である。
【0019】
本発明に従うポリペプチド化合物もまた、これらの化合物を特定の適用に適合させる有利な性質を有し得る。これら分子の特性は、所望されるように正確に適合され得る(例えば、免疫系の種々のエフェクターを補充させるために、Fcドメインを分子上に移植することにより)。
【0020】
本発明の好ましい実施態様に従って、GBSの莢膜ポリサッカライドに対する所望の免疫応答を誘起することにおいて効果的なポリペプチド化合物は、scFvフラグメントを含有し得る。これらの分子は、小さく、従って、有利な薬物動態学的特性を有する。これらの小さなサイズはまた、抗scFv抗体の産生が最小化されることを意味する。抗scFv応答の生成はまた、免疫される被験体動物と同一種由来の分子からscFvを構築することにより、最小化され得る。最も好ましくは、本発明の化合物は、scFv C10(抗III型CHO P9D8 mAbを使用するscFvファージディスプレーライブラリーの選択によって生成された)を含有する(Tetiら、1992)。
【0021】
本発明のペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物は、キャリアタンパク質と融合され得る。キャリアタンパク質は、キャリア−抗原結合体が導入される生物の免疫系により、それに結合される抗原に対して指向する抗体の形成を誘導する抗原性ポリペプチド実体である。キャリアタンパク質の使用の必要性は、多くの短いエピトープは防御性であるが、これらはしばしば免疫原性に乏しいという事実に由来する。このことは、新規の効果的なワクチンの生成におけるこれらエピトープの有用性を消し去る。免疫原性キャリアタンパク質と非免疫原性分子との結合によって、キャリアタンパク質の高度の免疫原性を、結合分子に付与することが可能である。そのような結合分子は、結合分子の非免疫原性部分に対する免疫応答の生成を刺激し、従って、そうしなければ防御的免疫が生成され得なかった病原体に対して防御するワクチンにおいて効果的に使用される。
【0022】
適切なキャリアタンパク質は、高度に免疫原性な破傷風トキソイドタンパク質、Plasmodium falciparumのサーカムスポロゾイト(circumsporozite)、B型肝炎表面抗原、B型肝炎コアタンパク質、H.influenzaeマトリックスタンパク質、H.influenzae赤血球凝集素、ジフテリアトキソイド、非毒性ジフテリア毒素変異体CRM197、B群N.menigitidis外膜タンパク質複合体(OMPC)、肺炎球菌毒素ニューモライシン(pneumolysin)、およびMycobacterium bovis由来の熱ショックタンパク質のような従来使用されたキャリアを包含する。他の適切なキャリアタンパク質は、当業者に公知である。CD4+ Th細胞エピトープを含有するが、T細胞サプレッサー機能を含まない改善されたキャリアタンパク質が、近年開発された;これらのキャリアもまた、本発明の化合物との結合体における使用のために適切である。
【0023】
キャリアタンパク質に加え、本発明の化合物は、他のペプチド、またはタンパク質フラグメント(例えば、インターロイキン−2(IL−2)または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)のような免疫調節性サイトカイン由来のエピトープ)を含み得る。無差別な(promiscuous)ペプチド(Panina−Bordignonら、1989)、いわゆる「ユニバーサル」ペプチド(Kumarら、1992)、クラスターペプチド(Ahlersら、1993)、またはT細胞エピトープおよびB細胞エピトープの両方を含有するペプチド(Lettら、1994)もまた、必要とされる場合、免疫系の種々のエフェクター系を動員するために使用され得る。
【0024】
本発明のペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物が、当業者に明らかなように、任意の適切な手段によって生成され得る。ペプチドの場合、コンビナトリアルペプチドライブラリーが、最も適切である;所望の結合特性を提示するペプチド分子が、GBS莢膜ポリサッカライド、好ましくはIII型莢膜ポリサッカライドに特異的な抗体に結合する分子(例えば、抗III型 CHO mAb P9D8)について選択する選択レジメを介して単離され得る。
【0025】
ペプチドライブラリーの生成の1つの方法は、縮重オリゴヌクレオチドライブラリーを使用する。この方法は、コードする核酸の引き続いての分析を可能にし、従って、ミモトープ(mimotope)についての直接の配列情報を与える(例えば、Cullら、1992;Matteakisら、1994を参照のこと)。
【0026】
ファージディスプレー技術もまた、提示されたペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドの選択を可能にするビヒクルを提供し、表現型と遺伝子型との間の関連を同時に提供し、その結果コードする核酸が同定および分析され得る(総説について、ClacksonおよびWells(1994)Trends Biotechnol 12:173〜184を参照のこと)。繊維状ファージ粒子は、その外側にタンパク質を、およびその内部にそのタンパク質をコードする核酸を有する遺伝子ディスプレーパッケージとして作用する。この技術によって可能となるライブラリーのサイズの実際の制限は、107〜1011改変体のオーダーであり、その結果、大多数の異なる化合物の生成を可能にする。この技術はまた、選択の複数回の実行を可能にし、その結果、単離された分子の親和性を向上させる。
【0027】
本発明に従うペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物の好ましい生成方法は、ファージディスプレーライブラリーにおける候補化合物の選択を介する。
【0028】
ファージディスプレーライブラリーからの核酸または遺伝子の選択は、ほとんどの場合において、大多数の改変体核酸または遺伝子のスクリーニングを必要とする。ファージディスプレー技術とともに使用するための核酸または遺伝子のライブラリーは、多数の方法によって生成され得る。例えば、天然に生じる遺伝子のプールが、ゲノムDNAまたはcDNAよりクローン化され得る(Sambrookら、1989を参照のこと)。免疫ドナーまたは非免疫ドナーからの抗体遺伝子のPCR増幅レパートリーより作製されるファージ抗体ライブラリーは、機能的抗体フラグメントの非常に効果的な供給源であることが証明されている(Winterら、(1994)Annu Rev Immunol、12、433〜55;Hoogenboom、(1997)Trends Biotechnol.、15、62〜70)。
【0029】
好ましくは、本発明の化合物は、抗GBS抗体で免疫された動物の脾臓リンパ球のmRNAに由来する核酸プールを含有するファージディスプレーライブラリー中に生成される。好ましくは、動物の免疫に使用する抗体は、GBSのIII型CHOに対して指向する。最も好ましくは、使用される抗体は、P9D8抗体である。
【0030】
遺伝子のライブラリーもまた、遺伝子の全部もしくは一部、または遺伝子のプールをコードすることによってか、あるいはランダム化合成オリゴヌクレオチドまたは予想された合成オリゴヌクレオチドを使用することによって、作製され得る。ライブラリーはまた、インビボにおいて種々の技術によって(E.coli
mutD5のような細菌の、いわゆる「ミューテーター株」の使用を含む)、遺伝子中または遺伝子のプール中にランダムに変異を導入することにより、作製され得る(Liaoら、1986)。Bリンパ球の抗体過剰変異系もまた、使用され得る(Yelamosら、1995)。
【0031】
ランダムな変異もまた、インビボおよびインビトロの両方において、化学的変異誘発因子および電離線またはUV照射(Friedbergら、1995を参照のこと)によってか、または変異原性塩基アナログの取り込みによって(Zaccoloら、1996)導入され得る。変異はまた、インビトロでの重合化の間に(例えば、エラーを生じやすいポリメラーゼの使用により(Leungら、1989))、遺伝子中に導入され得る。さらに、インビボ(Kowalczykowskiら、1994を参照のこと)またはインビトロ(Stemmer、1994)のいずれかでの相同組換えの使用により、多様性が導入され得る。
【0032】
一旦、本発明のペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチド化合物が単離されると、この化合物は、当業者に明らかなように、任意の適切な手段によって、大量に産生され得る。構築の2つの好ましい方法は、直接合成、および組換えタンパク質による産生である。配列が既知の短いペプチドの場合、好ましい産生方法は、直接合成であり得る。しかし、ほとんどの場合、好ましい方法は、組換え手段によって(コードする核酸分子からの発現による)である。組換え発現は、化合物の産生が高価でなく、安全であり、容易であり、そしてその後の除去を必要とし得る毒性化合物の使用を含まないという利点を有する。
【0033】
組換え形態で発現される場合、本発明の化合物は、宿主細胞中のコード核酸からの発現によって生成される。種々の異なる発現系(例えば、哺乳動物細胞、バキュロウイルス、細菌、および酵母を用いて使用される発現系)が使用され得る。好ましくは、細菌宿主は、細菌を操作および増殖させ得る容易さのために、組換えタンパク質の産生に使用される。選り抜きの細菌宿主は、Escherichia coliである。
【0034】
哺乳動物発現系は、当該分野において公知である。哺乳動物プロモーターは、哺乳動物RNAポリメラーゼを結合し得かつ下流(3’)のコード配列(例えば、構造遺伝子)のmRNAへの翻訳を開始し得る、任意のDNA配列である。プロモーターは、転写開始領域を有し、この領域は、通常、コード配列の5’末端に近接して配置され、そしてTATAボックスは、通常、転写開始部位の25〜30塩基対(bp)上流に位置される。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIを指向して正しい部位でのRNA合成を開始すると考えられる。哺乳動物プロモーターはまた、通常、TATAボックスの上流100〜200bp内に位置する、上流プロモーターエレメントを含む。上流プロモーターエレメントは、転写を開始する速度を決定し、そしていずれかの配向で作用し得る(Sambrookら(1989)「Expression of Cloned Genes in Mammalian cells.」Molecular Cloning:A Laboratory Maunal、第2版)。
【0035】
哺乳動物ウイルス遺伝子は、しばしば、高度に発現され、そして広範な宿主範囲を有する;従って、哺乳動物ウイルス遺伝子をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例としては、SV40初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、および単純疱疹ウイルスプロモーターが挙げられる。さらに、非ウイルス遺伝子由来の配列(例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子)はまた、有用なプロモーター配列を提供する。発現は、構成的か、またはホルモン応答性細胞において、グルココルチコイドで誘導され得るプロモーターに依存して調節される(誘導性)かのいずれかであり得る。
【0036】
上記のプロモーターエレメントと組み合せた、エンハンサーエレメント(エンハンサー)の存在は、通常、発現レベルを増大させる。エンハンサーは、同種プロモーターまたは異種プロモーターと連結された場合、通常のRNA開始部位で開始する合成を伴う、転写を1000倍まで刺激し得る調節性DNA配列である。エンハンサーはまた、正常の配向または反転した配向(flipped orientation)のいずれかにおいて、転写開始部位から上流または下流に、または、プロモーターから1000を超えるヌクレオチドの距離で、配置された場合、活性である(Maniatisら(1987)Science 236:1237;Albertsら(1989)Molecular Biology of the Cell、第2版)。ウイルス由来のエンハンサーエレメントは、特に有用であり得る。なぜなら、このエンハンサーエレメントは、通常、より広範な宿主範囲を有するからである。例としては、SV40初期遺伝子エンハンサー(Dijikemaら(1985)EMBO J.4:761)ならびにラウス肉腫ウイルス(Gormanら(1982b)Proc.Natl.Acad.Sci.79:6777)の長末端反復(LTR)およびヒトサイトメガロウイルス(Boshartら(1985)Cell 41:521)に由来するエンハンサー/プロモーターが挙げられる。さらに、いくつかのエンハンサーは、調節可能であり、そしてインデューサー(例えば、ホルモンまたは金属イオン)の存在下でのみ活性になる(Sassone−CorsiおよびBorelli(1986)Trends Genet.2:215;Maniatisら(1987)Science 236:1237)。
【0037】
DNA分子は、哺乳動物細胞において、細胞内に発現され得る。プロモーター配列は、DNA分子と直接的に連結され得、この場合、組換えタンパク質のN末端の初めのアミノ酸は、常に、ATG開始コドンによりコードされるメチオニンである。所望される場合、このN末端は、臭化シアンとのインビトロでのインキュベーションによりタンパク質から切断され得る。
【0038】
あるいは、外来タンパク質はまた、哺乳動物細胞において、外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントから構成される融合タンパク質をコードするキメラDNA分子を作製することによって、細胞から増殖培地中へ分泌され得る。好ましくは、インビボまたはインビトロのいずれかで切断され得る、リーダー配列と外来遺伝子との間にコードされるプロセス部位が存在する。このリーダー配列フラグメントは、通常、細胞からタンパク質の分泌を指向する疎水性アミノ酸から構成されるシグナルペプチドをコードする。アデノウイルスの三つのリーダーは、哺乳動物において、外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列の例である。通常、哺乳動物細胞により認識される転写終結配列およびポリアデニル化配列は、翻訳停止コドンの3’に位置する調節領域であり、従って、プロモーターエレメントと共に、コード配列に隣接する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的翻訳後切断およびポリアデニル化により形成される(Birnstielら(1985)Cell 41:349;ProudfootおよびWhitelaw(1988)「Termination and 3’end processing of eukaryotic RNA.」Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編);Proudfoot(1989)Trends Biochem.Sci.14:105)。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドへと翻訳され得るmRNAの転写を指向する。転写のターミネーター/ポリアデニル化のシグナルの例としては、SV40由来の転写のターミネーター/ポリアデニル化のシグナルが挙げられる(Sambrookら(1989)「Expression of cloned genes in cultured mammalian cells.」Molecular Cloning:A Laboratory Manual)。
【0039】
いくつかの遺伝子は、イントロン(介在配列としても呼ばれる)が存在する場合に、より効率的に発現され得る。しかし、幾つかのcDNAは、スプライシングシグナル(スプライスドナー部位およびスプライスアクセプター部位とも呼ばれる)を欠くベクターから効率的に発現されている(例えば、GothingおよびSambrook(1981)Nature 293:620を参照のこと)。イントロンは、スプライスドナー部位およびスプライスアクセプター部位を含むコード配列内に介在する非コード配列である。イントロンは、一次転写物のポリアデニル化に続く、「スプライシング」と呼ばれるプロセスにより除去される(Nevins(1983)Annu.Rev.Biochem.52:441;Green(1986)Annu.Rev.Genet.20:671;Padgettら(1986)Annu.Rev.Biochem.55:1119;KrainerおよびManiatis(1988)「RNAスプライシング」Transcription and splicing(B.D.HamesおよびD.M.Glover編))。
【0040】
通常、上記の成分(プロモーター、ポリアデニル化シグナル、および転写終結配列を含む)は、発現構築物へと組み立てられる。エンハンサー、機能的なスプライスのドナー部位およびアクセプター部位を有するイントロン、ならびにリーダー配列はまた、所望される場合、発現構築物に含まれ得る。発現構築物は、しばしば、宿主(例えば、哺乳動物細胞または細菌)中で安定に維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中で維持される。哺乳動物複製系としては、複製するためにトランス作用性因子を必要とする、動物ウイルス由来の複製系が挙げられる。例えば、パポバウイルスの複製系(例えば、SV40(Gluzman(1981)Cell 23:175))またはポリオーマウイルスの複製系を含むプラスミドは、適切なウイルスT抗原の存在下で極めて高いコピー数を複製する。哺乳動物のレプリコンのさらなる例としては、ウシパピローマウイルスおよびエプスタイン−バーウイルス由来のレプリコンが挙げられる。さらに、このレプリコンは、2つの複製系を有し得、それによって例えば、哺乳動物細胞中においては発現のために、および原核生物宿主においてはクローニングおよび増幅のためにレプリコンが維持されることを可能にする。このような哺乳動物−細菌シャトルベクターの例としては、pMT2(Kaufmanら(1989)Mol.Cell.Biol.9:946およびpHEBO(Shimizuら(1986)Mol.Cell.Biol.6:1074)が挙げられる。
【0041】
使用される形質転換の手順は、形質転換されるべき宿主に依存する。異種ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞中に導入するための方法は、当該分野で公知であり、そしてデキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈澱、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム中でのポリヌクレオチドのカプセル化、および核へのDNAの直接的なマイクロインジェクションが挙げられる。発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該分野で公知であり、そしてそれらには、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、乳仔(baby)ハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、および多数の他の細胞株を含むがこれらに限定されない、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株が挙げられる。
【0042】
タンパク質をコードするポリヌクレオチドはまた、適切な昆虫発現ベクター中に挿入され得、そしてそのベクター内のコントロールエレメントに作動可能に連結される。ベクター構築は、当該分野で公知の技術を用いる。一般に、発現系の構成としては、バキュロウイルスゲノムのフラグメントと、異種遺伝子または発現されるべき遺伝子の挿入のための都合のよい制限部位との両方を含む、移入ベクター(通常は、細菌プラスミド);移入ベクター中のバキュロウイルス特異的フラグメントに相同な配列を有する野生型バキュロウイルス(これは、異種遺伝子のバキュロウイルスゲノム中への相同組換えを可能にする);ならびに適切な昆虫宿主細胞および増殖培地が挙げられる。
【0043】
タンパク質をコードするDNA配列を移入ベクター中に挿入した後に、このベクターおよび野生型ウイルスゲノムは、昆虫宿主細胞中にトランスフェクトされ、ここで、このベクターおよびウイルスゲノムは、組換えられる。このパッケージングされた組換えウイルスは、発現され、そして組換え体のプラークが同定および精製される。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系についての材料および方法は、とりわけ、Invitorogen、San Diego CA(「MaxBac」キット)からキット形態で市販されている。これらの技術は、一般に、当業者に公知であり、そしてSummersおよびSmith、Texas Agricultural Experiment Station Bulletin第1555号(1987)(本明細書中以降、「SummersおよびSmith)に十分に記載されている。
【0044】
タンパク質をコードするDNA配列をバキュロウイルスゲノム中に挿入する前に、プロモーター、リーダー(所望される場合)、目的のコード配列、および転写終結配列を含む上記の成分は、通常、中間体のトランス配置性(transplacement)構築物(移入ベクター)へと構築される。この構築物は、単一の遺伝子、ならびに作動可能に連結された調節エレメント;複数の遺伝子(それぞれ、調節エレメントに作動可能に連結されたセットを所有する);または同じセットの調節エレメントによって調節される複数の遺伝子を含み得る。中間体のトランス配置性構築物は、しばしば、宿主(例えば、細菌)中で安定な維持を可能にする染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のような、レプリコン中で維持される。このレプリコンは、複製系を有し、それによってレプリコンが適切な宿主中で、クローニングおよび増幅のために維持されることを可能にする。
【0045】
現在、AcNPV中に外来遺伝子を導入するために最も一般的に使用される移入ベクターは、pAc373である。当該分野で公知の多数の他のベクターもまた、設計されている。これらとしては、例えば、pVL985(これは、ポリヘドリンの開始コドンをATGからATTへと変更しており、かつそのATTから32塩基対の下流にBamHIクローニング部位を導入している;LuckowおよびSummers、Virology(1988)17:31を参照のこと)が挙げられる。
【0046】
プラスミドはまた、通常、ポリヘドリンポリアデニル化シグナル(Millerら(1989)Annu.Rev.Microbiol.42:177)ならびにE.coli中での選択および増殖のための原核生物アンピシリン耐性(amp)遺伝子および複製起点を含む。
【0047】
バキュロウイルス移入ベクターは、通常、バキュロウイルスプロモーターを含む。バキュロウイルスプロモーターは、バキュロウイルスRNAポリメラーゼを結合し得、そしてmRNAへのコード配列(例えば、構造遺伝子)の下流(5’から3’)の転写を開始し得る、任意のDNA配列である。プロモーターは、通常、コード配列の5’末端に近接して配置される、転写開始領域を有する。この転写開始領域は、通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含む。バキュロウイルス移入ベクターはまた、エンハンサーと呼ばれる第2のドメイン(これは、存在する場合、通常構造遺伝子から離れている)を有し得る。発現は、調節されるかまたは構成的のいずれかであり得る。
【0048】
ウイルス感染周期の後期で豊富に転写される構造遺伝子は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例としては、ウイルスポリヘドリンタンパク質をコードする遺伝子(Friesenら、(1986)「The Regulation
of Baculovirus Gene Expression、「The
Molecular Biology of Baculoviruses(Walter Doerfler編);欧州特許公開番号127 839および155 476;ならびにp10タンパク質をコードする遺伝子(Vlakら、(1988)、J.Gen.Virol.69:765)由来の配列が挙げられる。
【0049】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、分泌された昆虫タンパク質またはバキュロウイルスタンパク質に対する遺伝子由来であり得る(例えば、バキュロウイルスポリヘドリン遺伝子(Carbonellら(1988)Gene、73:409))。あるいは、哺乳動物細胞の翻訳後修飾(例えば、シグナルペプチド切断、タンパク質分解性切断、およびリン酸化)についてのシグナルは、昆虫細胞により認識されるようであり、そして分泌および核の蓄積に必要とされるシグナルはまた、無脊椎動物細胞と脊椎動物細胞との間で保存されているようなので、ヒトγ−インターフェロン(Maedaら、(1985)、Nature
315:592);ヒトガストリン放出ペプチド(Lebacq−Verheydenら、(1988)、Molec.Cell.Biol.8:3129;ヒトIL−2(Smithら、(1985)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA、82:8404);マウスIL−3(Miyajimaら、(1987)Gene 58:273);およびヒトグルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)(Martinら(1988)DNA、7:99)をコードする遺伝子に由来するリーダーのような、非昆虫細胞起源のリーダーはまた、昆虫における分泌を提供するために使用され得る。
【0050】
組換えポリペプチドまたは組換えポリタンパク質は、細胞内で発現され得、または適当な調節配列と共に発現される場合、これらは、分泌され得る。非融合外来タンパク質の良好な細胞内発現は、通常、ATG開始シグナルに先行する適切な翻訳開始シグナルを含む短いリーダー配列を理想的には有する異種遺伝子を必要とする。所望される場合、N末端のメチオニンは、臭化シアンとのインビトロでのインキュベーションにより成熟タンパク質から切断され得る。
【0051】
あるいは、天然で分泌されない組換えポリタンパク質または組換えタンパク質は、昆虫において外来タンパク質の分泌を提供するリーダー配列フラグメントから構成される融合タンパク質をコードするキメラDNA分子を作製することによって、昆虫細胞から分泌され得る。このリーダー配列フラグメントは、通常、小胞体中へのタンパク質のトランスロケーションを指向する疎水性アミノ酸から構成されるシグナルペプチドをコードする。
【0052】
DNA配列および/またはタンパク質の発現産物の前駆体をコードする遺伝子の挿入の後に、昆虫細胞宿主は、移入ベクターの異種DNAおよび野生型バキュロウイルスのゲノムDNAで同時形質転換される(通常は、同時トランスフェクションによる)。構築物のプロモーターおよび転写終結配列は、通常、バキュロウイルスゲノムの2〜5kb部分を含む。バキュロウイルス中の所望部位に異種DNAを導入するための方法は、当該分野において公知である(SummersおよびSmith前出;Juら(1987);Smithら、Mol.Cell.Biol.(1983)3:2156;ならびにLuckowおよびSummers(1989)を参照のこと)。例えば、挿入は、相同二重交差組換えによって、遺伝子(例えば、ポリヘドリン遺伝子)中であり得る;挿入はまた、所望のバキュロウイルス遺伝子中に操作された制限酵素部位中であり得る。Millerら(1989)、Bioessays 4:91.DNA配列は、発現ベクターにおいてポリヘドリン遺伝子の代わりにクローニングされた場合、ポリヘドリン特異的配列の5’および3’の両方に隣接され、そしてポリヘドリンプロモーターの下流に位置される。
【0053】
続いて、新たに形成されたバキュロウイルス発現ベクターが、感染性組換えバキュロウイルス中にパッケージングされる。相同組換えは、低頻度(約1%〜約5%の間)で生じ;従って、同時トランスフェクションの後に産生されたウイルスの大部分は、なお野生型である。従って、組換えウイルスを同定するための方法が必要とされる。この発現系の利点は、組換えウイルスが区別されることを可能にする視覚的なスクリーニングである。ネイティブなウイルスにより産生されるポリヘドリンタンパク質は、ウイルス感染後の後期に、感染した細胞の核において非常に高レベルで産生される。蓄積したポリヘドリンタンパク質は、埋包された粒子をも含む封入体を形成する。これらの封入体(大きさが15 mまで)は、非常に屈折性であり、光学顕微鏡下で容易に観察される明るく輝く外観を与える。組換えウイルスで感染された細胞は、封入体を欠く。組換えウイルスを野生型ウイルスから区別するために、トランスフェクションの上清は、当業者に公知の技術によって、単層の昆虫細胞上へとプラーク形成(plaqued)される。すなわち、このプラークは、封入体の存在(野生型ウイルスを示す)または非存在(組換えウイルスを示す)について、光学顕微鏡下でスクリーニングされる。「Current Protocols in Microbiology」第2巻(Ausubelら、編)16.8(補遺10、1990);SummersおよびSmith、前出;Millerら(1989)。
【0054】
組換えバキュロウイルス発現ベクターは、幾つかの昆虫細胞中への感染のために開発されている。例えば、組換えバキュロウイルスは、とりわけ;Aedes
aegypti、Autographa californica、Bombyx mori、Drosophila melanogaster、Spodoptera frugiperda、およびTrichoplusia niについて開発されている(PCT公開番号WO89/046699;Carbonellら、(1985)J.Virol.56:153;Wright(1986)Nature 321:718;Smithら、(1983)Mol.Cell.Biol.3:2156;および一般には、Fraserら(1989)In Vitoro Cell.Dev.Biol.25:225を参照のこと)。
【0055】
細胞および細胞培養培地は、バキュロウイルス/発現系において、異種ポリペプチドの直接発現および融合発現について両方で市販されている;細胞培養技術は、一般に、当業者に公知である。例えば、SummersおよびSmith前出を参照のこと。
【0056】
次いで、改変された昆虫細胞を、改変された昆虫宿主において存在するプラスミドの安定な保持を可能にする適切な栄養培地中で増殖させ得る。発現産物遺伝子が誘導性の制御下にある場合、この宿主を高密度に増殖させ得、そして発現を誘導し得る。あるいは、発現が構成的である場合、この産物は、この培地中に連続的に発現され、そしてこの栄養培地は、目的の産物を取り出し、そして枯渇した栄養素を増強しながら、連続的に循環されなければならない。この産物は、クロマトグラフィー(例えば、HPLC、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなど);電気泳動;密度勾配遠心分離;溶媒抽出などのような技術によって精製され得る。適切な場合、この産物は、この培地中に分泌されるかまたは昆虫細胞の溶解から生じる、実質的に全ての昆虫タンパク質を除去して、宿主破片(例えば、タンパク質、脂質、および多糖)を少なくとも実質的に含まない産物を提供するように、必要に応じてさらに精製され得る。
【0057】
タンパク質発現を得るために、形質転換体由来の組換え宿主細胞を、組換えタンパク質をコードする配列の発現を可能にする条件下でインキュベートする。これらの条件は、選択される宿主細胞に依存して変化する。しかし、この条件は、当該分野で公知であることに基づいて、当業者によって容易に確認可能である。
【0058】
細菌発現技術は、当該分野で公知である。細菌性プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼに結合し得、かつmRNAへのコード配列(例えば、構造遺伝子)の下流の(3’)転写を開始し得る、任意のDNA配列である。プロモーターは、通常はコード配列の5’末端に近位に配置される転写開始領域を有する。この転写開始領域は、通常、RNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含む。細菌プロモーターはまた、RNA合成が開始される、隣接するRNAポリメラーゼ結合部位と一部重複し得る、オペレーターと呼ばれる第2のドメインを有し得る。オペレーターは、ネガティブに調節される(誘導性の)転写を可能にする。なぜなら、遺伝子リプレッサータンパク質が、このオペレーターに結合し得、それによって特定の遺伝子の転写を阻害し得るからである。構成的発現は、ネガティブ調節エレメント(例えば、オペレーター)の非存在下で生じ得る。さらに、ポジティブ調節が、遺伝子アクチベータータンパク質結合配列(これは、存在する場合は通常、RNAポリメラーゼ結合配列の近位(5’側)に存在する)によって達成され得る。遺伝子アクチベータータンパク質の一例は、Escherichia coli(E.coli)においてlacオペロンの転写を開始するのを補助するカタボライトアクチベータータンパク質(CAP)である[Raibaudら(1984)Annu.Rev.Genet.18:173]。それゆえ、調節される発現は、ポジティブまたはネガティブのいずれかであり得、それにより、転写の増強または低減のいずれかを行い得る。
【0059】
代謝経路の酵素をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例としては、解糖酵素(例えば、ガラクトース、ラクトース(lac)[Changら(1977)Nature 198:1056]、およびマルトース)由来のプロモーター配列が挙げられる。さらなる例としては、生合成酵素(例えば、トリプトファン(trp))由来のプロモーター配列[Goeddelら(1980)Nuc.Acids Res.8:4057;Yelvertonら(1981)Nucl.Acids Res.9:731;米国特許第4,738,921号;EPO公開第036 776号および同第121 775号]が挙げられる。g−ラクタマーゼ(g−laotamase)(bla)プロモーター系[Weissmann(1981)「The cloning of interferon and other mistakes.」Interferon 3(I.Gresser編)]、バクテリオファージλPL[Shimatakeら(1981)Nature 292:128]およびT5[米国特許第4,689,406号]プロモーター系もまた、有用なプロモーター配列を提供する。
【0060】
さらに、天然では生じない合成プロモーターはまた、細菌プロモーターとして機能する。例えば、1つの細菌またはバクテリオファージのプロモーターの転写活性化配列は、別の細菌またはバクテリオファージのプロモーターのオペロン配列に連結されて、合成ハイブリッドプロモーター[米国特許第4,551,433号]を作製し得る。例えば、tacプロモーターは、lacリプレッサーによって調節される、trpプロモーター配列およびlacオペロン配列の両方を含むハイブリッドのtrp−lacプロモーターである[Amannら(1983)Gene 25:167;de Boerら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.80:21]。さらに、細菌プロモーターは、細菌RNAポリメラーゼ結合能および転写開始能を有する、非細菌起源の天然に存在するプロモーターを含み得る。非細菌起源の天然に存在するプロモーターはまた、原核生物において、適合性RNAポリメラーゼと結合されていくつかの遺伝子の高レベルの発現を生じ得る。バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼ/プロモーター系は、結合されたプロモーター系の一例である[Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;Taborら(1985)Proc Natl.Acad.Sci.82:1074]。さらに、ハイブリッドプロモーターはまた、バクテリオファージプロモーターおよびE.coliオペレーター領域から構成され得る(EPO公開第267 851号)。
【0061】
機能するプロモーター配列に加えて、効率的なリボソーム結合部位はまた、原核生物における外来遺伝子の発現に有用である。E.coliでは、このリボソーム結合部位は、シャイン−ダルガーノ(SD)配列と呼ばれ、そして開始コドン(ATG)および開始コドンの3〜11ヌクレオチド上流に位置する3〜9ヌクレオチドの配列を含む[Shineら(1975)Nature 254:34]。このSD配列は、SD配列とE.coli 16S rRNAの3’末端(and)との間の塩基対合によって、リボソームに対するmRNAの結合を促進すると考えられる[Steitzら(1979)「Genetic signals and nucleotide sequences in messenger RNA.」Biological Regulation and
Development:Gene Expression(R.F.Goldberger編)]。弱いリボソーム結合結合部位を用いて真核生物遺伝子および原核生物遺伝子を発現する[Sambrookら(1989)「Expression of cloned genes in Escherichia
coli.」Molecular Cloning:A Laboratory Manual]。
【0062】
DNA分子は、細胞内で発現され得る。プロモーター配列は、このDNA分子に直接連結され得、この場合、N末端の最初のアミノ酸は常にメチオニンであり、このメチオニンは、ATG開始コドンによってコードされる。所望の場合、N末端のメチオニンは、臭化シアンとのインビトロでのインキュベーションによって、または細菌性メチオニンN末端ペプチダーゼ(EPO公開第219 237号)とのインビボもしくはインビトロのいずれかでのインキュベーションによってタンパク質から切断され得る。
【0063】
融合タンパク質は、発現を指向するための代替法を提供する。通常、内因性細菌タンパク質または他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列は、異種コード配列の5’末端に融合される。発現によって、この構築物は、2つのアミノ酸配列の融合物を提供する。例えば、バクテリオファージλ細胞遺伝子は、外来遺伝子の5’末端で連結され得、そして細菌において発現され得る。得られる融合タンパク質は、好ましくは、外来遺伝子由来のバクテリオファージタンパク質を切断するためにプロセシング酵素(第Xa因子)についての部位を保持する[Nagaiら(1984)Nature 309:810]。融合タンパク質はまた、lacZ遺伝子[Jiaら(1987)Gene 60:197]、trpE遺伝子[Allenら(1987)J.Biotechnol.5:93;Makoffら(1989)J.Gen.Microbiol.135:11]、およびChey遺伝子[EPO公開第324 647号]由来の配列から作製され得る。2つのアミノ酸配列の連結部でのDNA配列は、切断可能な部位をコードしてもよいし、コードしなくともよい。別の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、好ましくは、ユビキチンを外来タンパク質から切断するために、プロセシング酵素(例えば、ユビキチン特異的プロセシングプロテアーゼ)のための部位を保持するユビキチン領域を用いて作製される。この方法によって、ネイティブな外来タンパク質を単離し得る[Millerら(1989)Bio/Technology 7:698]。
【0064】
あるいは、外来タンパク質はまた、細菌における外来タンパク質の分泌を提供するシグナルペプチド配列フラグメントを含む融合タンパク質をコードするキメラDNA分子を作製することによって細胞から分泌され得る[米国特許第4,336,336号]。シグナル配列フラグメントは通常、細胞からのタンパク質の分泌を指向する疎水性アミノ酸を含むシグナルペプチドをコードする。このタンパク質は、増殖培地中に分泌される(グラム陽性細菌)か、または細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞周辺腔中に分泌される(グラム陰性細菌)かのいずれかである。好ましくは、シグナルペプチドフラグメントと外来遺伝子との間でコードされる、インビボまたはインビトロのいずれかで切断され得る、プロセシング部位が存在する。
【0065】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、分泌された細菌タンパク質についての遺伝子(例えば、E.coli外膜タンパク質遺伝子)(ompA)[Masuiら(1983)Experimental Manipulation of Gene Expression;Ghrayebら(1984)EMBO J.3:2437]およびE.coliアルカリホスファターゼシグナル配列(phoA)[Okaら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:7212]に由来し得る。さらなる例としては、種々のBacillus株由来のα−アミラーゼ遺伝子のシグナル配列を用いて、B.subtilisから異種タンパク質を分泌し得る[Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開第244 042]。
【0066】
通常、細菌によって認識される転写終結配列は、翻訳停止コドンの3’側に位置し、従って、コード配列に隣接するプロモーターと一緒に位置する調節領域である。これらの配列は、DNAによってコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を指向する。転写終結配列は頻繁に、転写を終結させるのを助けるステムループ構造を形成し得る約50ヌクレオチドのDNA配列を含む。例としては、強力なプロモーターを有する遺伝子(例えば、E.coliにおけるtrp遺伝子、ならびに他の生合成遺伝子)に由来する転写終結配列が挙げられる。
【0067】
通常、プロモーター、シグナル配列(所望の場合)、目的のコード配列、および転写終結配列を含む上記の構成成分は、発現構築物中に一緒に入れられる。発現構築物は、しばしば、レプリコン(例えば、宿主(例えば、細菌)において安定に保持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド))中で保持される。このレプリコンは、複製系を有し、従って、それが発現、またはクローニングおよび増幅のいずれかのために真核生物宿主中で保持されるのを可能にする。さらに、レプリコンは、多コピー数性かまたは低コピー数性のいずれかのプラスミドであり得る。多コピー数性のプラスミドは一般に、約5〜約200の、そして通常、約10〜約150の範囲にわたるコピー数を有する。多コピー数性のプラスミドを含む宿主は好ましくは、少なくとも約10、そしてより好ましくは少なくとも約20のプラスミドを含む。多コピー数性または低コピー数性のいずれかのベクターが、宿主に対するベクターおよび外来タンパク質の効果に依存して選択され得る。
【0068】
あるいは、発現構築物は、組み込みベクターを用いて細菌ゲノムに組み込まれ得る。組み込みベクターは通常、ベクターが組み込まれるのを可能にする細菌染色体に相同な、少なくとも1つの配列を含む。組み込みは、ベクター中の相同なDNAと、細菌染色体との間の組換えによって得られるようである。例えば、種々のBacillus株由来のDNAを用いて構築された組み込みベクターは、Bacillus染色体中に組み込まれる(EPO公開第127 328号)。組み込みベクターはまた、バクテリオファージまたはトランスポゾンの配列を含み得る。
【0069】
通常、染色体外構築物および組み込み発現構築物は、形質転換された細菌株の選択を可能にするための選択マーカーを含み得る。選択マーカーは、細菌宿主中で発現され得、そして細菌を薬物(例えば、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン(ネオマイシン)、およびテトラサイクリン)に対して耐性にする遺伝子を含み得る[Daviesら(1978)Annu.Rev.Microbiol.32:469]。選択マーカーはまた、生合成遺伝子(例えば、ヒスチジン、トリプトファン、およびロイシン生合成経路における生合成遺伝子)を含み得る。
【0070】
あるいは、上記の構成成分のうちのいくつかは、形質転換ベクター中に一緒に入れられ得る。形質転換ベクターは、通常、上記のように、レプリコン中に保持されるかまたは組み込みベクター中に開発されるかのいずれかである選択マーカーを含む。
【0071】
発現ベクターおよび形質転換ベクターは、染色体外レプリコンまたは組み込みベクターのいずれもが、多くの細菌への形質転換のために開発されている。例えば、発現ベクターは、とりわけ、以下の細菌のために開発されている:Bacillus subtilis[Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開第036 259号および同第063 953号;PCT公開第WO 84/04541号]、Escherichia coli[Shimatakeら(1981)Nature
292:128;Amannら(1985)Gene 40:183;Studierら(1986)J.Mol.Biol.189:113;EPO公開第036 776号、同第136 829号、および同第136 907号]、Streptococcus cremoris[Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655];Streptococcus lividans[Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655]、Streptomyces lividans[米国特許第4,745,056号]。
【0072】
外因性DNAを細菌宿主中に導入する方法は、当該分野で周知であり、そして通常、CaCl2または他の薬剤(例えば、二価のカチオンおよびDMSO)のいずれかで処理した細菌の形質転換を含む。DNAはまた、エレクトロポレーションによって細菌細胞に導入され得る。形質転換手順は通常、形質転換されるべき細菌種によって変化する。例えば、[Massonら(1989)FEMS Microbiol.Lett.60:273;Palvaら(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:5582;EPO公開第036 259号および同第063 953号;PCT公開第WO 84/04541号、Bacillus]、[Millerら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:856;Wangら(1990)J.Bacteriol.172:949,Campylobacter]、[Cohenら(1973)Proc.Natl.Acad.Sci.69:2110;Dowerら(1988)Nucleic Acids Res.16:6127;Kushner(1978)「An improved method for transformation of Escherichia coli with ColE1−derived plasmids.In Genetic
Engineering:Proceedings of the International Symposium on Genetic Engineering(H.W.BoyerおよびS.Nicosia編);Mandelら(1970)J.Mol.Biol.53:159;Taketo(1988)Biochim.Biophys.Acta 949:318;Escherichia]、[Chassyら(1987)FEMS Microbiol.Lett.44:173、Lactobacillus];[Fiedlerら(1988)Anal.Biochem 170:38,Pseudomonas];[Augustinら(1990)FEMS Microbiol.Lett.66:203、Staphylococcus]、[Baranyら(1980)J.Bacteriol.144:698;Harlander(1987)「Transformation of Streptococcus
lactis by electroporation,Streptococcal Genetics(J.FerrettiおよびR.Curtiss
III編);Perryら(1981)Infect.Immun.32:1295;Powellら(1988)Appl.Environ.Microbiol.54:655;Somkutiら(1987)Proc.第4回 Evr. Cong.Biotechnology 1:412、Streptococcus]を参照のこと。
【0073】
酵母発現系はまた、当業者に公知である。酵母プロモーターは、酵母RNAポリメラーゼに結合し得、そしてコード配列(例えば、構造遺伝子)の下流(3’)のmRNAへの転写を開始し得る、任意のDNA配列である。プロモーターは、通常このコード配列の5’末端に近位に配置される、転写開始領域を有する。この転写開始領域は通常、RNAポリメラーゼ結合部位(「TATAボックス」)および転写開始部位を含む。酵母プロモーターはまた、存在する場合、通常、構造遺伝子に遠位である、上流アクチベーター配列(UAS)と呼ばれる第2のドメインを有し得る。UASは、調節された(誘導性)発現を可能にする。構成的発現は、UASの非存在下で生じる。調節される発現は、ポジティブまたはネガティブのいずれかであり得、それにより、転写を増強または低減し得る。
【0074】
酵母は、活性な代謝経路を有する発酵性生物であり、それゆえ、代謝経路における酵素をコードする配列は、特に有用なプロモーター配列を提供する。例としては、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(EPO公開第284 044号)、エノラーゼ、グルコキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPまたはGAPDH)、ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、およびピルビン酸キナーゼ(PyK)(EPO公開第329 203号)が挙げられる。酸性ホスファターゼをコードする酵母PHO5遺伝子はまた、有用なプロモーター配列を提供する[Myanoharaら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:1]。
【0075】
さらに、天然では生じない合成プロモーターはまた、酵母プロモーターとして機能し得る。例えば、1つの酵母プロモーターのUAS配列は、別の酵母プロモーターの転写活性化調節に連結されて、合成ハイブリッドプロモーターを作製し得る。このようなハイブリッドプロモーターの例としては、GAP転写活性化領域に連結されたADH調節配列が挙げられる(米国特許第4,876,197号および同第4,880,734号)。ハイブリッドプロモーターの他の例としては、解糖酵素の遺伝子(例えば、GAPまたはPyK)の転写活性化領域と組み合わされたADH2、GAL4、GAL10、またはPHO5のいずれかの遺伝子の調節配列からなるプロモーターが挙げられる(EPO公開第164 556号)。さらに、酵母プロモーターとしては、酵母RNAポリメラーゼ結合能および転写開始能を有する、非酵母起源の、天然に存在するプロモーターが挙げられ得る。このようなプロモーターの例としては、とりわけ、[Cohenら(1980)Proc.Natl.Acad Sci.USA 77:1078;Henikoffら(1981)Nature 283:835;Hollenbergら(1981)Curr.Topics Microbiol.Immunol.96:119;Hollenbergら(1979)「The Expression of Bacterial Antibiotic Resistance Genes in the Yeast Saccharomyces cerevisiae」:Plasmids of Medical, Environmental and Commercial Importance(K.N.TimmisおよびA.Puhler編);Mercerau−Puigalonら(1980)Gene 11:163;Panthierら(1980)Cure.Genet.2:109;]が挙げられる。
【0076】
DNA分子は、酵母で細胞内発現され得る。プロモーター配列は、DNA分子と直接結合され得る。この場合、組換えタンパク質のN末端での最初のアミノ酸は、常にメチオニン(ATG開始コドンによりコードされる)である。所望の場合、N末端のメチオニンは、臭化シアンとのインビトロインキュベーションによりタンパク質から切断され得る。
【0077】
融合タンパク質は、酵母発現系、ならびに哺乳動物発現系、バキュロウイルス発現系および細菌発現系のための代替を提供する。通常、内因性酵母タンパク質または他の安定なタンパク質のN末端部分をコードするDNA配列は、異種性コード配列の5’末端に融合される。発現の際、この構築物は2つのアミノ酸配列の融合物を提供する。例えば、酵母またはヒトのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)遺伝子は、外因性遺伝子の5’末端に結合され得、そして酵母で発現され得る。2つのアミノ酸配列の接合部でのDNA配列は、切断部位をコードしてもよいし、しなくてもよい。例えば、EPO 公開番号196 056を参照のこと。別の例は、ユビキチン融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、外来タンパク質由来のユビキチンを切断するために、プロセシング酵素(例えば、ユビキチン特異的プロセシングプロテアーゼ)のための部位を好ましくは保持するユビキチン領域をともなって作製される。従って、この方法を通じて天然の外来タンパク質が単離され得る(例えば、WO88/024066)。
【0078】
あるいは、外来タンパク質はまた、外来タンパク質の酵母への分泌をもたらすリーダー配列フラグメントからなる融合タンパク質をコードするキメラDNA分子を作製することにより、細胞から増殖培地に分泌され得る。好ましくは、リーダーフラグメントと外来遺伝子との間にコードされるプロセシング部位(インビボまたはインビトロのいずれかで切断され得る)が存在する。このリーダー配列フラグメントは、通常、細胞からのタンパク質の分泌を方向付ける疎水性アミノ酸からなるシグナルペプチドをコードする。
【0079】
適切なシグナル配列をコードするDNAは、酵母インベルターゼ遺伝子(EPO 公開番号012 873;JPO 公開番号62,096,086)およびA因子遺伝子(米国特許第4,588,684号)のような分泌型酵母タンパク質の遺伝子に由来し得る。あるいは、また酵母での分泌をもたらすインターフェロンリーダーのような非酵母起源のリーダーが存在する(EPO 公開番号060 057)。
【0080】
分泌リーダーの好ましいクラスは、酵母α因子遺伝子のフラグメント(「プレ」シグナル配列および「プロ」領域の両方を含む)を使用するクラスである。使用され得るα因子フラグメントの型は、完全長プレ−プロα因子リーダー(約83アミノ酸残基)および短縮されたα因子リーダー(通常、約25〜約50アミノ酸残基)(米国特許第4,546,083号および同第4,870,008号;EPO公開番号324 274)を含む。分泌を提供するα因子リーダーフラグメントを用いるさらなるリーダーは、第1の酵母のプレ配列で作製されるハイブリッドα因子リーダーを含むが、第2の酵母α因子由来のプロ領域は含まない(例えば、PCT公開番号WO89/02463を参照のこと)。
【0081】
通常、酵母により認識される転写終止配列は、翻訳停止コドンに対して3’に位置される調節領域であり、このためプロモーターとともにコード配列に隣接する。これらの配列は、DNAによりコードされるポリペプチドに翻訳され得るmRNAの転写を指向する。転写終止配列および他の酵母認識終止配列(例えば、糖分解酵素をコードする配列)の例。
【0082】
通常、上記の成分(プロモーター、リーダー(所望される場合)、目的のコード配列、および転写終止配列を含む)は、発現構築物に一緒に配置される。発現構築物は、酵母または細菌のような宿主に安定に維持され得る染色体外エレメント(例えば、プラスミド)のようなレプリコンにしばしば維持される。このレプリコンは、2つの複製系を有し得、従ってそれが、例えば、発現のために酵母において、ならびにクローニングおよび増幅のために原核生物宿主において維持されることを可能にする。このような酵母−細菌シャトルベクターの例としてはYEp24[Botsteinら(1979)Gene 8:17〜24]、pCl/1[Brakeら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci USA 81:4642〜4646]、およびYRp17[Stinchcombら(1982)J.Mol.Biol.158:157]が挙げられる。さらに、レプリコンは高コピー数のプラスミドまたは低コピー数のプラスミドのいずれかであり得る。高コピー数プラスミドは、一般に、約5〜約200の範囲、通常は約10〜約150のコピー数を有する。高コピー数のプラスミドを含む宿主は、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約20を有する。宿主へのベクターおよび外来タンパク質の効果に依存して、高コピー数または低コピー数ベクターを挿入することが選択され得る。例えば、Brakeら(前出)を参照のこと。
【0083】
あるいは、発現構築物は、組み込みベクターを用いて酵母ゲノムに組み込まれ得る。組み込みベクターは、通常、ベクターを組み込むことを可能にする、酵母染色体に対する少なくとも1つの配列相同体を含み、そして好ましくは、発現構築物に隣接する2つの相同配列を含む。組み込みは、ベクターにおける相同DNAと酵母染色体との間の組換えから生じるようである[Orr−Weaverら(1983)Methods in Enzymol.101:228〜245]。組み込みベクターは、ベクターへの封入に適切な相同配列を選択することにより酵母における特定の遺伝子座に対して指向され得る。Orr−Weaverら(前出)を参照のこと。1つ以上の発現構築物が組み込み得、潜在的に産生される組換えタンパク質のレベルに影響する[Rineら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:6750]。
【0084】
ベクターに含まれる染色体配列は、ベクター全体の組み込みを生じる、ベクター中の単一セグメントとしてか、または、発現構築物のみの安定な組み込みを生じ得る、染色体中の隣接セグメントに対して相同であり、かつベクター中の発現構築物に隣接する2つのセグメントとしてのいずれかで見出され得る。
【0085】
通常、染色体外発現構築物および組み込み発現構築物は、形質転換された酵母株の選択を可能にする選択マーカーを含み得る。選択マーカーは、酵母宿主において発現され得る生合成遺伝子、例えばADE2、HIS4、LEU2、TRP1、およびALG7、ならびにG418耐性遺伝子(これらは、それぞれツニカマイシンおよびG418に対して酵母細胞に耐性を付与する)を含み得る。さらに、適切な選択マーカーはまた、毒性化合物(例えば、金属)の存在下で増殖する能力を有する酵母を提供し得る。例えば、CUP1の存在は、銅イオンの存在下で酵母の増殖を可能にする[Buttら(1987)Microbiol.Rev.51:351]。
【0086】
あるいは、上記の成分のいくつかは、形質転換ベクターに一緒に配置され得る。形質転換ベクターは、通常、上記のようにレプリコンで維持されるかまたは組み込みベクター中に発現されるかのいずれかである選択マーカーから構成される。
【0087】
発現ベクターおよび形質転換ベクター(染色体外レプリコンまたは組み込みベクターのいずれか)が、多くの酵母への形質転換のために開発された。例えば、発現ベクターは、特に、以下の酵母のために開発された:Candida albicans[Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol.6:142]、Candida maltosa[Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141]、Hansenula polymorpha[Gleesonら(1986)J.Gen.Microbiol.132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302]、Kluyveromyces fragilis[Dasら(1984)J.Bacteriol.158:1165]、Kluyveromyces lactis[De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:737;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135]、Pichia guillerimondii[Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141]、Pichia pastoris[Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;米国特許第4,837,148号および同第4,929,555号]、Saccharomyces cerevisiae[Hinnenら、(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163]、Schizosaccharomyces pombe[Beach and Nurse(1981)Nature 300:706]、およびYarrowia lipolytica[Davidowら(1985)Curr.Genet.10:380471 Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49]。
【0088】
酵母宿主に外因性DNAを導入する方法は、当該分野で周知であり、そして、通常、アルカリ陽イオンで処理したスフェロプラストの形質転換またはインタクトな酵母細胞の形質転換のいずれかを含む。形質転換手順は、通常、形質転換されるべき酵母種と共に変化する。例えば、以下を参照のこと:[Kurtzら(1986)Mol.Cell.Biol.6:142;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141;Candida];[Gleesonら(1986)J.Gen.Microbiol.132:3459;Roggenkampら(1986)Mol.Gen.Genet.202:302;Hansenula];[Dasら(1984)J.Bacteriol.158:1165;De Louvencourtら(1983)J.Bacteriol.154:1165;Van den Bergら(1990)Bio/Technology 8:135;Kluyveromyces];[Creggら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3376;Kunzeら(1985)J.Basic Microbiol.25:141;米国特許第4,837,148号および同第4,929,555号;Pichia];[Hinnenら(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75;1929;Itoら(1983)J.Bacteriol.153:163 Saccharomyces];[BeachおよびNurse(1981)Nature 300:706;Schizosaccharomyces];[Davidowら(1985)Curr.Genet.10:39;Gaillardinら(1985)Curr.Genet.10:49;Yarrowia]。
【0089】
本発明のさらなる局面に従って、本発明の第1の局面による化合物の産生方法が提供される。この方法は以下の工程を包含する:
a)哺乳動物を、B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドに対する抗体で免疫化する工程;
b)免疫化された哺乳動物から脾臓細胞を取り出す工程および抗体に結合する細胞について選択する工程;
c)選択された脾臓細胞からmRNA種を分離する工程、およびこのmRNA種でコードされるタンパク質を発現するファージライブラリーを産生する工程;
d)目的の化合物を発現する組換えファージを選択する工程。
【0090】
哺乳動物を免疫化するため、B群Streptococcus(好ましくはIII型CHO)の莢膜ポリサッカライドに対する抗体が、好ましくは非経口的に、免疫応答を惹起するのに十分な量で導入される。免疫化のための哺乳動物の選択は、防御的化合物が意図される哺乳動物に主に依存する。ほとんどの場合、これはヒトである。免疫化は、最も好ましくは抗体P9D8を利用する(Tetiら、1992)。次いで、脾臓性のリンパ球が免疫化された患者から取り出され、そして、細胞はコーティング抗原として最初の免疫化に使用された抗体を用いる抗原パニングにより選択される。次いで、選択されたリンパ球由来のmRNAは、逆転写のための鋳型として使用され、次いで得られたcDNAはgIIIpとの融合タンパク質として、組換えペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドを発現する組換えファージライブラリーを構築するために用いられ得る。表面上で適切な候補化合物を発現するファージは、コーティング抗原として免疫化に最初に用いられた抗体を用いるアフィニティー精製により、再度選択され得る。次いで、これらのファージは、当業者に容易に明らかである方法を用いて分析され得る。
【0091】
本発明のさらなる局面に従って、B群Streptococcus、好ましくはGBSのIII型CHOの莢膜ポリサッカライドに対して、防御免疫応答を誘発し得る、ペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチド化合物を含む組成物(薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせた)が提供される。このような組成物は、病原性GBS細菌によって生じる疾患に対する防御を提供するために用いられ得、従ってワクチンとして用いられ得る。本発明に従うワクチンは、予防的(すなわち、感染を防ぐこと)または治療的(すなわち、感染後の疾患を処置すること)のいずれかであり得る。
【0092】
薬学的に受容可能な賦形剤とは、それ自体が、組成物を投与される個体に対して有害な抗体の産生を誘導しない任意の化合物を意味する。この賦形剤は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、局所投与または静脈内投与に適するべきである。適切な化合物は、代表的には大きく、緩徐に代謝される高分子(例えば、タンパク質、ポリサッカライド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー性アミノ酸、アミノ酸コポリマー、脂質凝集物(例えば、油滴またはリポソーム)および不活性ウイルス粒子)である。このような化合物は、当業者には周知である。さらに、これらの化合物は、免疫刺激剤(「アジュバント」)として機能し得る。さらに、この抗原は、細菌のトキソイドに結合体化され得る。
【0093】
組成物の有効性を増強する好ましいアジュバントとしては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:(1)アルミニウム塩(ミョウバン)、例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなど;(2)水中油型乳濁処方物(ムラミルペプチドまたは細菌細胞壁成分のような他の特定の免疫刺激因子と共にまたは伴わずに)、これには、例えば以下のようなものがある:(a)マイクロ流動化器(microfluidizer)を用いてミクロン以下の粒子に処方された、5%スクアレン、0.5%TweenTM80および0.5%Span85を含有する(必須ではないが、必要に応じて種々の量のMTP−PEを含有する)MF59TM(WO90/14837)、(b)ミクロン以下の乳濁にマイクロ流動化(microfluidised)されるか、またはボルテックスされより大きい粒子サイズの乳濁液を生成したかのいずれかである、10%スクアレン、0.4%Tween80、5%プルロニックブロック化ポリマーL121、およびthr−MDPを含有する、SAF、ならびに(c)2%スクアレン、0.2%Tween80、ならびにモノリン酸脂質A(MPL)、トレハロース ジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)からなる群からの1つ以上の細菌細胞壁成分(好ましくはMPL+CWS(DetoxTM))を含む、RibiTMアジュバントシステム(RAS);(3)サポニンアジュバント(例えば、StimulonTM、またはそれから生成される粒子(例えば、ISCOM)(免疫刺激複合体)が用いられ得る);(4)フロイント完全アジュバントおよび不完全アジュバント(CFAおよびIFA);(5)インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12など)、インターフェロン(例えば、IFNγ)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのようなサイトカイン;ならびに(6)組成物の有効性を増強する免疫刺激因子として作用する他の物質。ミョウバンおよびMF59TMが好ましい。
【0094】
上述のように、ムラミルペプチドは、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ(huydroxyphosphoryloxy))−エチルアミン(MTP−PE)などを含むが、これらに限定されない。
【0095】
免疫原性組成物(例えば、抗原、薬学的に受容可能なキャリアおよびアジュバント)は、代表的に希釈液(例えば、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなど)を含む。さらに、補助物質(例えば、保湿剤または乳化剤、pH緩衝化物質など)が、このようなビヒクルに存在し得る。
【0096】
代表的に、免疫原性組成物は、液体の溶液または懸濁液のいずれかで、注射剤として調製される;注射前の液体ビヒクル中の溶液または懸濁液に適切な固体形態がまた調製され得る。調製物はまた、上記の様に、アジュバント性効果を増強するため、乳化されるかまたはリポソーム中にカプセル化され得る。
【0097】
ワクチンとして用いられる免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原性ポリペプチド、および必要な場合、任意の他の上述の成分を含む。「免疫学的に有効な量」とは、個体へのその量(単回用量または一連の投与の部分のいずれか)の投与が処置または防御に有効である投与量を意味する。この量は、処置される個体の健康状態および生理学的状態、処置される個体の分類学的群(例えば、非ヒト霊長類、霊長類、など)、個体の免疫系の抗体合成能力、所望の防御程度、ワクチンの処方、医学的状態の主治医の評価、および他の関連因子に依存して変化する。この量は、慣用的なトライアルを通じて決定され得る比較的広範な範囲におさまることが予期される。
【0098】
免疫原性の組成物は、従来、非経口的に、例えば、皮下か筋肉内のいずれかの注射により、投与される。それらはまた、粘膜表面(例えば、口内または鼻内)に、または肺の処方物、座剤、もしくは経皮適用の形態で投与され得る。投与処置は、単回用量スケジュールまたは複数回用量スケジュールであり得る。ワクチンは、他の免疫調節剤と組み合わせて投与され得る。
【0099】
本発明によるペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドの化合物はまた、抗体レベルを検出するためのイムノアッセイにおいて用いられ得る(または逆に、本発明の化合物に対する抗体は、抗原レベルを検出するために用いられ得る)。十分規定された組換え抗原に基づくイムノアッセイは、侵襲性の診断方法に置き換わるように開発され得る。生物学的サンプル(例えば、血液、または血清サンプルを含む)内の本発明の化合物に対する抗体は、検出され得る。イムノアッセイの設計は、多数の改変に供され、これらの改変は当該分野において公知である。イムノアッセイについてのプロトコールは、例えば、競合アッセイ、または直接反応アッセイ、またはサンドイッチ型アッセイに基づき得る。プロトコールはまた、例えば、固体支持体を用い得るか、または免疫沈降により得る。ほとんどのアッセイは、標識された抗体またはポリペプチドの使用を含む;この標識は、例えば、蛍光分子、化学発光分子、放射活性分子または色素分子であり得る。プローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた公知である;この例は、ビオチンおよびアビジンを利用するアッセイ、ならびに酵素標識イムノアッセイおよび酵素媒介イムノアッセイ(例えば、ELISAアッセイ)である。
【0100】
本発明はまた、免疫診断に適切なキットを提供する。これらは、適切な標識試薬を含み、そして適切な物質を包装することにより構築される。この物質には、アッセイを実施するために必要な、その他の試薬および物質(例えば、適切な緩衝液、塩溶液など)とともに適切な容器内にある、本発明の組成物、ならびにアッセイの指示の適切なセットが含まれる。
【0101】
タンパク質を基礎とするワクチンへの代わりとして、DNAワクチンが使用され得る[例えば、RobinsonおよびTorres(1997)Seminars in Immunology 9:271〜283;Donnellyら(1997)Annu Rev Immunol 15:617〜648]。従って、本発明のワクチンは、ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドの化合物を含むよりも、これらの化合物をコードする核酸を含み得る。
【0102】
本発明のなおさらなる局面に従って、GBSによって引き起こされる疾患の予防または処置方法が提供され、この方法は、哺乳動物(好ましくはヒト)に、GBSの莢膜ポリサッカライドに対する防御免疫応答を誘発し得る化合物または組成物の有効量を導入する工程を包含する。
【0103】
本発明のなおさらなる局面に従って、GBSによって引き起こされる疾患に対して、哺乳動物(好ましくはヒト)にワクチン投与する方法が提供され、この方法は、この哺乳動物に、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリア(例えば、アジュバント)とともに、本発明の第1の局面に従うペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチド化合物の組成物を投与する工程を包含する。
【0104】
本発明のさらなる実施態様に従って、本発明の第1の局面に従うペプチド、オリゴペプチド、およびポリペプチドをコードする核酸分子がまた提供される。当業者に認識されるように、これらの核酸分子の配列は、遺伝コードの特異性を通して所望の活性を有するペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドのアミノ酸配列を規定する。
【0105】
さらに、コードされた化合物の正確な特性を正確に仕立てるために、当業者は、もともと単離されたペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチド配列から、1つ以上のヌクレオチドの付加、置換、欠失、または挿入によって、変化がヌクレオチドレベルで作製され得ることを認識する。部位特異的変異誘発(SDM)は、本発明に従う、変異され、改善された化合物を生成するために使用される好ましい方法である。当業者に現在公知の多くのSDMの技術が存在する。これらには、例えば、Sambrookら、(1989)に記載されるような、PCRを使用するか、または市販のキットを使用するオリゴヌクレオチド特異的変異誘発が含まれる。
【0106】
このような変異誘発の技術によって産生される大部分の化合物は、もともと選択された化合物よりも効果がない。しかし、少数の場合において、導入された変異は改善された機能(例えば、GBSのIII型CHOエピトープに対するより密接な構造的類似性、または特定の生物におけるより強い免疫原性)を有する分子を産生する。
【0107】
本発明のこの局面に従う核酸分子は、DNA、RNA、またはcDNAを含み得、そしてコード配列中にヌクレオチドアナログをさらに含み得る。好ましくは、その核酸分子は、DNAを含む。
【0108】
本発明のさらなる局面は、本発明の第1の局面に従う化合物をコードする核酸を含む宿主細胞を提供する。なおさらなる局面は、宿主細胞または生物に、コード核酸を導入する工程を包含する方法を提供する。核酸の導入は、上記に議論したように、任意の利用可能な技術を使用し得る。
【0109】
1つの実施態様において、この核酸は、宿主細胞のゲノムに組み込まれる。組込みは、標準的な技術(Sambrookら、1989を参照のこと)に従って、ゲノムとの組換えを促進する配列を含むことによって促進され得る。
【0110】
生殖系列中で、本発明の第1の局面に従う1つ以上のペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチド化合物を発現または過剰発現するために形質転換されたトランスジェニック動物は、それらの産生のための方法とともに本発明のなおさらなる局面を形成する。
【0111】
本発明の種々の局面および実施態様が、現在、ファージライブラリーから単離されたscFv化合物への特定の言及を伴う例示によってより詳細に記載される。詳細な改変が、本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが認識される。本明細書中で引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が参考として援用される。
【0112】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドに対して防御性免疫応答を誘発し得る、ペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドの化合物。
(項目2) B群StreptococcusのIII型莢膜ポリサッカライドに対して防御性免疫応答を惹起し得る、項目1に記載の化合物。
(項目3) 前記免疫応答が、前記化合物に結合する抗体を含む、項目1または2に記載の化合物。
(項目4) 前記免疫応答が、前記化合物に結合するT細胞を含む、項目1〜3のいずれかに記載の化合物。
(項目5) 抗体または抗体フラグメントを含む、項目1〜4のいずれかに記載の化合物。
(項目6) scFvフラグメントを含む、項目5に記載の化合物。
(項目7) scFvフラグメントC10である、項目6に記載の化合物。
(項目8) 前記化合物の構造が、B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドの抗原決定基を模倣する、項目1〜7のいずれかに記載の化合物。
(項目9) 前記化合物の構造が、B群StreptococcusのIII型莢膜ポリサッカライドの抗原決定基を模倣する、項目8に記載の化合物。
(項目10) 患者の血流への前記化合物の送達を促進するのに有効であるか、または該化合物に対する免疫応答を促進するキャリアタンパク質に連結された、項目1〜9のいずれかに記載の化合物。
(項目11) 薬学的に受容可能な賦形剤と合わせられる、項目1〜10のいずれかに記載の化合物を含む、薬学的組成物。
(項目12) 前記賦形剤が、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、局所的投与または静脈内投与に適切である、項目11に記載の組成物。
(項目13) アジュバントをさらに含む、項目11または12のいずれかに記載の組成物。
(項目14) 前記アジュバントがミョウバンを含む、項目13に記載の組成物。
(項目15) 前記アジュバントが水中油型エマルジョンを含む、項目13に記載の組成物。
(項目16) GBSによって引き起こされる疾患の制御における防御的免疫原としての使用のための、項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれか1項に記載の組成物。
(項目17) 医薬品としての、項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれかに1項に記載の組成物の、使用。
(項目18) GBSによって引き起こされる疾患の予防または処置のための医薬品の製造における、項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれかに1項に記載の組成物の、使用。
(項目19) ワクチンまたはワクチン成分としての、項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれか1項に記載の組成物の、使用。
(項目20) ワクチンまたはワクチン成分としての使用のための、項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれか1項に記載の組成物。
(項目21) 項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれか1項に記載の組成物を含む、ワクチン。
(項目22) 項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物を選択する方法であって、以下の工程:
a)B群Streptococcusの莢膜ポリサッカライドに対する抗体で哺乳動物を免疫する工程;
b)脾臓細胞を免疫した哺乳動物から取り出し、そして該抗体に結合する細胞を選択する工程;
c)選択した脾臓細胞からmRNA種を分離し、そして該mRNA種によってコードされるタンパク質を発現するファージラブラリーを作製する工程;および
d)目的の化合物を発現する組換えファージを選択する工程、
を包含する、方法。
(項目23) 哺乳動物、好ましくはヒトに、有効量の項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物または項目11〜15のいずれか1項に記載の組成物を導入する工程を包含する、GBSによって引き起こされる疾患の予防または処置の方法。
(項目24) 項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物をコードする核酸分子。
(項目25) DNAを含む、項目24に記載の核酸分子。
(項目26) 項目24または25のいずれかに記載の核酸分子を含むクローニングベクターまたは発現ベクター。
(項目27) ウイルスベクターである、項目26に記載のベクター。
(項目28) 項目24もしくは25のいずれかに記載の核酸または項目26もしくは27のいずれかに記載のベクターで形質転換したか、あるいはトランスフェクトした、宿主細胞。
(項目29) 項目24または25のいずれかに記載の核酸分子によって、あるいは項目26または27のいずれかに記載のベクターによって形質転換された、トランスジェニック動物。
(項目30) 項目1〜10のいずれか1項に記載の化合物を調製する方法であって、宿主細胞中で項目26または27の記載のベクターを発現させる工程および前記タンパク質が発現される条件下で該宿主細胞を培養する工程、ならびにこのように発現された該タンパク質を回収する工程、を包含する方法。

【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、C10 scFvを用いるマウスの免疫後の種々の時点において収集した血清中の抗III型抗体レベルを示す。マウスを、示した時間(矢印)で、精製したC10 scFvまたは加熱死菌(heat−killed)GBSを用いて免疫した。点および棒は、各々異なる血清サンプルで行った5つの定量データの平均±標準偏差を表す。
【図2】図2は、ファージ提示型C10 scFvを用いるマウスの免疫後の種々の時点において収集した血清中の抗III型抗体レベルを示す。マウスを、示した時間(矢印)で、C10 scFvまたは加熱死菌GBSを発現するファージを用いて免疫した。点および棒は、各々異なる血清サンプルで行った5つの定量データの平均±標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0114】
(発明の詳細な説明)
(標準的な手順および技術の要約)
本発明の実施は、他に示されない限りは、当該技術の範囲にある分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来的な技術を利用する。このような技術は、文献(例えば、
【0115】
【数1】

)に十分に記載されている。
【実施例】
【0116】
(実施例)
(統計学的分析)
マウス血清中の抗体濃度間の差異を、分散の一元分析(oneway analysis)およびStudent−Keuls−Newman検定を用いて、統計学的な有意さについて分析した。致死率の差異を、Fisherの完全検定を用いて分析した。
【0117】
(細菌株および試薬)
H738株(III型)は、メリーランド州、Bethesda、National Institutes of HealthのBascom Anthony博士により恵与された。COH1株(別名GBSIII型)および非カプセル化同遺伝子型変異体COH1−13(Rubensら、1987)は、Seatle、University of WashingtonのCraig Rubens博士により恵与された。III型CHOおよび群特異的CHOを、以前に記載された(Mancusoら、1994;von Hunolsteinら、1997)ように、H738株の培養上清からイオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過によって精製した。III型CHOは、重量で24%のシアル酸を含んだ(Aminoff、1961)。この調製物は、十分な純度と見なされた。なぜなら、これは、重量基準で0.5%未満のタンパク質(BioRadタンパク質アッセイ、BioRad Laboratories、Milan、Italy)、核酸(250nmにおける吸光度)、または群抗原の主要な構成成分であるラムノース(DischeおよびShettles、1948)を含んだからである。
【0118】
マウスmAb P9D8の特性および精製は、他で記載されている(Tetiら、1992)。このmAbは、新生仔のラットまたはマウスに受動的に投与された場合に、III型CHOのシアル酸依存性エピトープに結合し、オプソニン食作用性のGBSの殺傷を促進し、そしてGBSによって誘導される致死性に対する有意な防御活性を有する。
【0119】
ウサギ抗III型GBS血清(Statens Serum Institute,Copenhagen,Denmark)を、加熱殺傷した(80℃、45分間)カプセル化していないGBS(COH1−13株)を用いて吸収させ、非型特異的な抗GBS抗体を除去した。吸収後、この調製物はIII型GBSと反応したが、非カプセル化株または他の血清型に属する株とは反応しなかった。
【0120】
(ファージライブラリーの産生)
ファージライブラリーを、以下のプロトコールを用いて産生した。雄性BALB/cマウス(8週齢)に、0日目および15日目に、0.2mlの完全フロイントアジュバント(Difco,Diagnostic International Distributors,Milan,Italyより入手)中の50μgのmAb P9D8を皮下(s.c.)注射し、そして0.2mlの不完全フロイントアジュバント(Difco)中の同用量の抗原を、21日目および28日目に注射した。最終の追加免疫注射(生理食塩水中の50μgの抗原)を、35日目に腹腔内で与え、そして3日後、マウスを屠殺してそれらの脾臓を取り出した。
【0121】
脾臓細胞を、組織培養培地に再懸濁し、そして炭酸緩衝液(pH 9.6)中のmAb P9D8(25μg/ml)であらかじめコートし、そして2%脱脂粉乳(Sigma,Milan,Italy)でブロッキングした75cm2組織培養フラスコに分注した。
【0122】
5%CO2中で37℃にて一晩インキュベーションの後、非接着脾臓細胞を除去し、そしてグアニジウムイソチオシアネートを使用して、パニングフラスコ中でmRNAを接着細胞から直接的に抽出した。オリゴ(dT)−セルロース(QuickPrep mRNA精製キット、Pharmacia、Biotech、Milan、Italy)上でのアフィニティークロマトグラフィーによる精製の後、精製したmRNAの逆転写を、Maglianiら、(1997)に記載されるように、ランダムなヘキサデオキシリボヌクレオチドをプライマーとして使用して、マウス逆転写酵素を用いて行った。
【0123】
抗体フラグメントをクローニングおよび発現するために、市販のシステム(Recombinant Phage Antibody System,Pharmacia)を使用した。重鎖および軽鎖抗体遺伝子を、2セットの特異的プライマーを用いることによって、2つの別個のPCR反応において増幅し、340および325塩基対のフラグメントをそれぞれ生成した。重鎖および軽鎖DNA産物を、(Gly4Ser)3リンカー(VH鎖のカルボキシ末端とVL鎖のアミノ末端との間の橋として作用する)をコードするDNAフラグメントを使用して、単一の遺伝子に組み立てた。次いで、この遺伝子は、再び増幅されて、特定のファージミドベクター(pCANTAB 5E)へのクローニングのために2つの制限酵素部位(SfiI/NotI)を導入した。
【0124】
C末端13アミノ酸ペプチドタグ(E−タグ)、続いてアンバー翻訳停止コドンをコードする配列に連結したscFv遺伝子を含む連結したベクターを、コンピテントsupE E.coli株(TG1)に導入した。次いで、この株に、M13KO7ヘルパーファージを感染させ、それらの先端に組換えscFv抗体を提示する組換えファージを産生した。
【0125】
(ファージの選択)
ファージの選択を、以下のプロトコルを用いて行った。組換えファージを、炭酸緩衝液(pH 9.6)中の5mlのmAb P9D8(10μg/ml)であらかじめコートした25cm2組織培養フラスコに分注した。37℃、2時間のインキュベーションおよび徹底的な洗浄後、対数期のTG1細胞をフラスコに添加し、そして37℃で1時間インキュベートした。この懸濁液を、滅菌した試験管に移し、そしてアンピシリン(100μg/ml)、グルコース(2%)、およびM13KO7ヘルパーファージの添加後、37℃で振盪しながらさらにインキュベートした。組換えファージ上清の生成後、第2回目のパニングを反復し、そして細胞をアンピシリンを含む寒天プレートにプレーティングした。単離したコロニーを、別個の96ウェルマイクロタイタープレート(マスタープレート)に移し、次いでそれをM13KO7を用いるライブラリーレスキューのために使用した。
【0126】
マスタープレートから得られた組換えファージ上清を、あらかじめmAb P9D8(10μg/ml)でコートしたマイクロタイタープレートのウェル中でスクリーニングした。あらかじめ等容量のブロッキング緩衝液で希釈した200μlの各々の上清を、抗原でコートした各ウェルに添加し、そして室温で2時間インキュベートした。PBS中の0.05% Tween 20を用いる5回の洗浄の後、結合したファージを、200μlのペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗M13ファージ−M13ファージ抗体(Maglianiら、1997)を用いて検出した。
【0127】
ライブラリーの2回のパニングの後、mAb P9D8を用いてコートしたウェルを再度用いるELISA試験において、6つの異なるファージクローンが強い反応を生じた。これらのクローンのうちの1つ(C10と呼ばれる)を、さらなる特徴付けのために選択した。さらに、無関係なH6 scFv(Maglianiら、1997)(これは、mAb P9D8に結合し得ない)を、本研究を通じて使用するためのコントロールとして選択した。
【0128】
(scFv組換え抗体の産生)
陽性のELISAシグナルを与える組換えファージを使用してE.coli HB2151を感染させ、可溶性scFv組換え抗体を産生した。
【0129】
抗原陽性組換えファージを使用して、ペリプラズム抽出物を得るために1mM
EDTAに暴露した対数期のHB2151細胞を感染させた。scFv組換え分子をまた、HB2151培養物の濃縮した上清から得た。ペリプラズム抽出物または上清のいずれかからのscFvの精製を、Maglianiら(1997)によって記載されたように、抗−E−タグ N−ヒドロキシスクシンイミド活性化Sepharoseカラム(HiTrap Anti−E−tag、Pharmacia)を使用して行った。精製の間、scFvを、抗−E−タグ抗体を使用して、ドットブロットまたはウェスタンブロットによって検出した。
【0130】
E.coli HB2115細胞の感染後、C10およびコントロールH6 scFvを、ペリプラズム抽出物または形質転換した株の濃縮した上清のいずれかから産生した。高度な量が上清から得られた(6mg/l)ので、これらは、引き続く研究においてscFvの好ましい供給源として使用された。アフィニティー精製されたC10またはH6 scFvのウェスタンブロット分析は、両方が約29kDaの分子量を有する単一のモノマーからなることを示した(示さず)。
【0131】
(GBS凝集阻害アッセイ)
予備的な研究において、可溶性のC10およびH6 scFvを、抗III型抗体によるGBS凝集を阻害するそれらの能力について試験した。
【0132】
細菌凝集アッセイを、マイクロタイタープレートのU字型のウェル中で、III型特異的抗体を用いて、死菌GBSを混合することによって設定した。このアッセイにおいて、III型GBSは(非カプセル化された変異体ではなく)、mAb P9D8または吸収ウサギ血清のいずれかによって凝集された。凝集阻害アッセイのために、インヒビター(1%ウシ血清アルブミンを補充したPBS中の50μl)を、等容量の抗体含有溶液とともにマイクロタイタープレートのウェル中で混合した。抗体溶液を、インヒビターの非存在下で凝集を誘導するのに必要な最低濃度の2倍に相当する最終希釈を達成するために調整した。インヒビターを、型特異抗体または吸収ウサギ血清とともに37℃で30分間インキュベートした後に、50μlの死菌GBS懸濁液を添加した。この懸濁液を、GBS株H738(III型)を、3%ホルマリン中で殺傷させた(4℃で3日間)後に得、洗浄したペレットをPBS−アルブミン中で再懸濁し、5×108細胞/mlの濃度にした。このプレートを、37℃で4時間インキュベートし、次いで室温で一晩インキュベートした。結果を目視的に評価した。
【0133】
III型CHOについての試験の特異性を、精製した型の抗原であるが、群特異的抗原ではない抗原の、mAb P9D8によるIII型GBSの凝集を阻害する能力によって確認した(表1)。15μg/ml以上の濃度のC10 scFvは、mAb P9D8によって誘導されるGBS細胞の凝集を阻害し得た。顕著には、240μg/mlまでの関連性のないH6 scFvは、凝集に影響を与えなかった(表1)。C10 scFvの阻害活性は、そのフラグメントが、パラトープ結合部位に類似しているか、または同一であるかのいずれかであるmAb P9D8のイディオタイプの決定基を認識することを示唆した。
【0134】
これらの2つの可能性の間を区別するために、凝集を誘導するmAb P9D8の代わりにウサギ抗III型抗体を使用して、凝集阻害実験を行った。これらの研究の背後の理論的根拠は、抗原結合に関連しないイディオタイプ抗体が、異なる種内で惹起された抗体中にほとんど存在しないということである(Westerinkら、1990)。
【0135】
【表1】

表1は、C10 scFvがウサギ抗体によって誘導された凝集を阻害し得たことを示す。このことは、C10 scFvが抗III型CHO抗体の抗原結合部位に対して特異的であり、従って通常のIII型抗原のコンホメーションを模倣し得ることを強く示唆した。
【0136】
(scFvでの免疫)
さらなる実験において、マウスを可溶性C10またはH6 scFv分子に対して生成された免疫応答の性質を決定するために、50μgの可溶性C10またはH6 scFvで免疫した。
【0137】
雄性BALB/cマウス(6週齡)を、精製したscFvまたはポリエチレングリコール−NaCl沈澱させたファージディスプレイ型scFvのいずれかで免疫した(Maglianiら、1997)。0.2mlの完全フロイントアジュバント中に50μgの抗原の最初の皮下注射の2週間後に、0.2mlの不完全フロイントアジュバント中、同用量の第2の皮下投与を行った。0.2mlの生理食塩水中に50μgの免疫原のさらなる注射を3回、最初の免疫の21、28、35日後に腹腔内に行った。
【0138】
血清を、免疫後、示された時間で眼球後の叢から入手し、そして酵素結合免疫吸着アッセイ(ここでは、1μg/ウェルのチロシル化III型CHOを用いてマイクロタイタープレートがコーティングされた)を使用してIII型抗原に対する抗体について分析した(Tetiら、1992)。結合した抗体を、ビオチン化多価抗マウスIgG(Vector Laboratories、Labtek Milan,Italyから配給)またはμ鎖特異的またはγ鎖特異的アルカリホスファターゼ−ウマ抗マウスIg(Sigma,Milan,Italy)を用いて、Tetiら(1992a)に記載のように、検出した。死菌III型GBSで免疫したマウス由来のプール血清からなる陽性コントロールを各決定に含めた。結果を、試験血清の吸収度と陽性コントロール血清の吸収度との間の比に1,000を乗じたのに等しい任意の単位で表した。
【0139】
図1は、コーティング抗原としてIII型CHOを使用するELISAによって、抗体レベルについて試験した血清サンプル(示された時間で採取した)のELISA結果を示す。C10 scFvでワクチン接種したマウス由来の血清は、免疫前の値と比較して、抗III型IgMおよびIgGにおいて有意な上昇(P<0.05)を示した(図1)。対照的に、コントロールH6 scFvで免疫したマウス由来の血清は、有意な抗III型CHO応答を全く示さなかった(データ示さず)。C10 scFv誘導抗III型CHO抗体の上昇は、反復ワクチン接種によってブーストされ、そして35日目のscFvでの最後の免疫後に徐々に減少した(図1)。
【0140】
これらの免疫が正常抗原に対する応答についてマウスを感作したか否かを決定するために、C10 scFv免疫動物を、97日目に死菌III型GBSでブーストした。図1は、97日目での値と比較して、104日目でのよりIgM、IgGおよび総抗体の高力価によって証明されるように、死菌細菌が、抗III型CHO抗体の急激な増加を引き起こしたことを示す。これらのデータは、C10 scFvが病原体に曝露する際に増加した応答についてマウスを感作し得たことを示した。
【0141】
さらなる研究を、C10 scFvを表面上で提示するファージが抗III型CHO応答をやはり誘導し得るか否かを決定するために行った。ファージディスプレイ型C10フラグメントで免疫したマウスにおける抗III型CHO抗体応答(図2)は、同じ免疫スケジュールおよび用量(すなわち、1マウスあたり50μgのファージ)を使用して、精製したC10 scFvを用いて観察された応答に酷似した。再び、コントロールのファージディスプレイ型H6フラグメントは、有効ではなかった(示さず)。これらのデータは、ファージ表面上での組換え抗イディオタイプフラグメントの提示が、抗体応答を誘導することにおいて、特に3〜5のScFv分子のみが、各ファージ表面上で発現されることを考慮に入れると、きわめて有効であり得ることを示唆する(Korttら、1994)。
【0142】
(GBS疾患の新生仔モデル)
受動的に投与された血清の防御効果を研究するために、GBS感染の新生仔マウスモデルを使用した結果、C10 scFvがきわめて有毒なGBSでの致死的な感染に対して仔マウスを受動的に防御する能力を評価し得た(Mancusoら、1994;Cusumanoら、1996;Mancusoら、1997)。また、同じモデルを使用して、感染から新生仔を防御することにおける、能動的な先天性免疫の有効性を評価した。
【0143】
血清の防御活性を評価するために、新生仔(24時間齢)Balb/cマウスをコントロール群または実験群に無作為に割り当て、母親とともに印づけし、そして飼育した。仔マウスを、25μlの正常または免疫血清の示された希釈物を皮下接種した。6時間後、動物を、COH1株(25μl中100CFU(PBS中);GBSの90%致死用量)で皮下チャレンジした。致死率を、12時間毎に5日間評価した。この後にはほとんど死亡は認められなかった。
【0144】
表2は、可溶性C10 scFvで免疫したマウスか、またはファージディスプレイ型C10 scFvで免疫したマウスのいずれかに由来する血清が、免疫前血清と比較して、GBSチャレンジに対して有意な受動的免疫防御を付与し得ることを示す。C10 scFv免疫マウス由来血清の防御力価は、1:10〜1:40の範囲であった(表2)。対照的に、無関係なH6 scFvで免疫した動物由来の血清は、非防御性であった(表2)。
【0145】
抗イディオタイプフラグメントでの先天性免疫が感染に対して新生仔マウスを保護するに有用であるか否かを決定するために、4週齡の雌性マウスを、50μgの可溶性scFvまたはファージディスプレイ型scFvで3回免疫し、交尾させ、そして初回免疫の35日後に再びブーストした。0.2mlの完全フロイントアジュバント中、50μgの抗原の最初の皮下注射の2週間後に、0.2mlの不完全フロイントアジュバント中、同用量の第2の皮下投与を行った。0.2mlの生理食塩水中、50μgの免疫原の1回のさらなる注射を初回免疫後の21日目に皮下に与えた。次いで、メスを31日目に交尾させ、そして35日目に生理食塩水中、50μgの抗原で皮下投与してブーストした。
【0146】
次いで、新生仔マウスを90%致死用量のGBSで感染させた。表3は、可溶性C10 scFvまたはファージディスプレイ型C10 scFvで免疫した母マウスから生まれた新生仔が、無関係のH6 scFvで免疫した母マウスから生まれた新生仔と比較して、GBS誘導致死率に対して有意に防御されたことを示す。
【0147】
【表2】

【0148】
【表3】

(参考文献)
【0149】
【数2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
防御性免疫応答を誘発し得る化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−179645(P2009−179645A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123637(P2009−123637)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【分割の表示】特願2000−544789(P2000−544789)の分割
【原出願日】平成11年4月20日(1999.4.20)
【出願人】(592243793)カイロン ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (107)
【Fターム(参考)】