説明

CD38を特異的に認識する抗体およびメルファランを含有する抗腫瘍性組合せ剤

CD38を特異的に認識する抗体およびメルファランを含む薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD38に対するモノクローナル抗体と、腫瘍性疾患の治療に治療上有用なメルファランとの組合せ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
CD38は、長いC末端細胞外ドメインと短いN末端細胞質ドメインとを有する45kDのII型膜貫通糖タンパク質である。CD38タンパク質は、NADから環状ADP−リボース(cADPR)への転化を触媒することができるとともに、cADPRをADP−リボースへ加水分解することができる二機能表面酵素である。CD38は、多くの造血器腫瘍においてアップレギュレートされるので、これらの腫瘍と関連づけられてきた。
【0003】
モノクローナル抗体38SB13、38SB18、38SB19、38SB30、38SB31、および38SB39は、CD38を特異的に認識するもので、PCT出願WO2008/047242に記載されている。これらの抗CD38抗体は、アポトーシスの誘導、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、および補体依存性細胞傷害(CDC)の3種の異なる細胞障害機構により、CD38細胞を死滅させることができる。また、これらの抗体は、間質細胞または間質由来のサイトカインが存在しなくても、CD38細胞のアポトーシスを直接誘導することができる。メルファランは、化学療法で用いられるアルキル化剤である。それでもなお、依然として癌治療の新規の有効な医薬が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/047242号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今回、ヒト化抗CD38抗体が、抗癌治療に治療上有用でありヒト化抗CD38抗体のうちの1つの機構と同一または異なる機構を有する少なくとも1種の物質と組み合わせて投与すると、この抗体の効力が顕著に改善されることが見出され本発明に至った。本発明ではこの物質はメルファランに限定される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
「抗体」という用語は、本明細書中、最も広義で用いられ、具体的には、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEなどの任意のアイソタイプのモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む。)、ポリクローナル抗体、多選択性抗体、キメラ抗体、ならびに抗体断片を包含する。典型的なIgG抗体は、ジスルフィド結合でつながった、2本の同一重鎖と2本の同一軽鎖で構成される。重鎖および軽鎖のそれぞれが、定常領域および可変領域を含有する。各可変領域は、抗原のエピトープを結合するのにまず必要となる、「相補性決定領域」(「CDR」)または「高頻度可変領域」と呼ばれるセグメントを3つ含んでいる。これらのセグメントは通常、N末端から順に付番されてCDR1、CDR2、およびCDR3と示される。CDR外の可変領域のうちより高度に保存される部分は、「フレームワーク領域」と呼ばれる。
【0007】
本明細書中使用される場合、「V」または「VH」は、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域を示し、Fv、scFv、dsFv、Fab、Fab’、またはF(ab’)2断片の重鎖を含む。「V」または「VL」という表現は、抗体の免疫グロブリン軽鎖の可変領域を示し、Fv、scFv、dsFv、Fab、Fab’、またはF(ab’)2断片の軽鎖を含む。
【0008】
38SB13抗体は、配列番号50からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号38からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:1、2、および3からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:4、5、および6からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0009】
38SB18抗体は、配列番号52からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号40からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:7、8、および9からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:10、11、および12からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0010】
38SB19抗体は、配列番号54からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号42からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:13、14、および15からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:16、17、および18からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0011】
38SB30抗体は、配列番号56からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号44からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:19、20、および21からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:22、23、および24からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0012】
38SB31抗体は、配列番号58からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号46からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:25、26、および27からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:28、29、および30からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0013】
38SB39抗体は、配列番号60からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の重鎖および配列番号48からなるアミノ酸配列を有する少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:31、32、および33からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを、ならびにこの軽鎖は配列番号:34、35、および36からなるアミノ酸配列を有する3つの連続したCDRを含む。
【0014】
38SB13、38SB18、38SB19、38SB30、38SB31、および38SB39マウス抗CD38抗体を産生するハイブリドーマ細胞株は、それぞれPTA−7667、PTA−7669、PTA−7670、PTA−7666、PTA−7668、およびPTA−7671の寄託番号で、2006年6月21日に、American Type Culture Collection(10801 University Bld,Manassas,VA,20110−2209,USA)に寄託されている(WO2008/047242に記載されるとおり)。
【0015】
「ヒト化抗体」という用語は、本明細書中使用される場合、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体を示す。ヒト化の最終目標は、抗体の完全な抗原結合親和性および特異性を維持しながらも、ヒトに導入するために、マウス抗体などの異種抗体の免疫原性を低下させることである。ヒト化抗体、または他の哺乳類による非拒絶に適合した抗体は、表面改修(resurfacing)およびCDR移植などの複数の技法を用いて作製することができる。本明細書中使用される場合、表面改修技法とは、分子モデル化、統計解析、および突然変異導入の組み合わせを用いて抗体可変領域の非CDR表面を改変し、標的宿主の既知の抗体の表面に似せるものである。CDR移植技法は、例えば、マウス抗体の相補性決定領域をヒトフレームワークドメイン中に置換することを含む(例えば、WO92/22653を参照)。ヒト化されたキメラ抗体は、好ましくは、定常領域、および対応するヒト抗体領域に実質的にまたはもっぱら由来する相補性決定領域(CDR)以外の可変領域、およびヒト以外の哺乳動物に実質的にまたはもっぱら由来するCDRを有する。
【0016】
抗体の表面改修に対する戦略および方法、ならびに異種宿主内での抗体の免疫原性を低下させる他の方法は、U.S.Pat.No.5,639,641に開示される(この全体が参照として本明細書に援用される。)。抗体は、その他様々な技法によりヒト化することができ、このような技法として以下が挙げられる:CDR移植(EP0239400;WO91/09967;U.S.Pat.No.5,530,101;およびU.S.Pat.No.5,585,089)、ベニアリング(veneering)または表面改修(EP0592106;EP0519596;Padlan E.A.,1991,Molecular Immunology 28(4/5):489−498;Studnicka G.M.et al.,1994,Protein Engineering,7(6):805−814;Roguska M.A.et al.,1994,PNAS,91:969−973)、鎖シャッフリング(shuffling)(U.S.Pat.No.5,565,332)、ならびに柔軟な(flexible)残基の同定(PCT/US2008/074381)。ヒト抗体は、ファージディスプレイ法をはじめとする、当該分野で既知の様々な方法によって作製することが可能である。U.S.Pat.No.4,444,887、U.S.Pat.No.4,716,111、U.S.Pat.No.5,545,806、およびU.S.Pat.No.5,814,318;ならびに国際特許出願公開WO98/46645、WO98/50433、WO98/24893、WO98/16654、WO96/34096、WO96/33735、およびWO91/10741も参照(これらの参照はこの全体が参照として本明細書援用される。)。
【0017】
本発明の薬学的組合せ剤の抗CD38抗体は、CD38を認識してCD38細胞をアポトーシス、ADCC、およびCDCにより死滅させるヒト化抗体である。さらなる実施形態において、本発明のヒト化抗体は、間質細胞または間質由来のサイトカインが存在しなくても、アポトーシスによりこのCD38細胞をアポトーシスにより死滅させることができる。
【0018】
このようなヒト化抗体の好適な実施形態とは、ヒト化38SB13、38SB18、38SB19、38SB30、38SB31、もしくは38SB39抗体、またはこのエピトープ結合断片である。
【0019】
38SB13、38SB18、38SB19、38SB30、38SB31、および38SB39抗体のCDRは、モデリングで同定され、この分子構造は予測されてきている。従って、1つの実施形態において、本発明は、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するCDRを1つ以上含む、ヒト化抗体またはこのエピトープ結合断片を提供する。好適な実施形態において、38SB13のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:1、2、および3で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:4、5、および6で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。別の好適な実施形態において、38SB18のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:7、8、および9で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:10、11、および12で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。別の好適な実施形態において、38SB19のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:13、14、および15で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:16、17、および18で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。別の好適な実施形態において、38SB30のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:19、20、および21で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:22、23、および24で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。別の好適な実施形態において、38SB31のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:25、26、および27で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:28、29、および30で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。別の好適な実施形態において、38SB39のヒト化改変型が提供され、この改変型は少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含有し、この重鎖は配列番号:31、32、および33で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を、ならびにこの軽鎖は配列番号:34、35、および36で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む。
【0020】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号:66および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化抗体またはこの断片を提供する。好適な実施形態において、配列番号66で表されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化38SB19抗体が提供される。別の好適な実施形態において、配列番号72で表されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化38SB31抗体が提供される。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、配列番号:62、64、68、および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化抗体またはこの断片を提供する。好適な実施形態において、配列番号:62および64からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化38SB19抗体が提供される。別の好適な実施形態において、配列番号:68および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するVを含むヒト化38SB31抗体が提供される。
【0022】
38SB13、38SB18、38SB19、38SB30、38SB31、および38SB39抗体のヒト化改変型はそれぞれが抗癌剤として特別に有利であることを示してきた。これらの調製、物性、および有益な薬理学的性質は、WO2008/047242に記載される(これはこの全体が本明細書中に参照として援用される。)。ヒトを治療するのに用いられる用量は、治療される被検体に特有の要因に依存するが、一般に、経口投与で1から150mg/kgであるか、または静脈内投与で1から150mg/kgである。
【0023】
メルファラン(商標、Alkeran(登録商標))は、窒素マスタードアルキル化剤のクラスに属する化学療法薬である。その他にL−フェニルアラニンマスタード、即ちL−PAMとして既知であるが、メルファランは、メクロレタミンのフェニルアラニン誘導体であり、二官能性アルキル化剤である。2つのビス−2−クロロエチル基のそれぞれから形成されたカルボニウム中間体が、DNAのグアニンの7−窒素と共有結合することでアルキル化し、2本のDNA鎖を架橋する。これにより細胞複製を防ぐことができる。メルファランは、多発性骨髄腫および卵巣癌を治療するのに主に使われるが、悪性黒色腫に用いられることもある。メルファランは、通常、経口投与または静脈内投与される。
【0024】
本発明の1つの態様は、抗CD38抗体を少なくともメルファランと組み合わせて含有する薬学的組成物である。完成品の活性は用いられる用量に依存するため、用いる用量を減らして毒性現象を減らしながらも活性を上げることが可能である。本発明による組合せ剤での効力の改善は、治療的相乗作用の定義により説明することができる。研究の最良な作用剤を単独で、この最大耐量でまたは毒性が動物種に及ばないかぎりの試験したこの最大用量で用いた場合よりも、ある組合せ剤の方が治療上優れているならば、この組合せ剤は治療的相乗作用を示している。
【0025】
この効力は、例えば、log10細胞死滅により定量することが可能であり、log10細胞死滅は以下の式によって求められる:
log10細胞死滅=T−C(日数)/3.32×T
式中、T−Cは腫瘍増殖の遅延を表し、腫瘍があらかじめ定めた値(例えば、1g)に達するまでの日数の、治療群についての中央値(T)および対照群についての中央値(C)であり、Tは、対照動物で腫瘍体積が2倍になるのに必要な日数を表す[T.H.Corbett et al.,Cancer,40:2660−2680 (1977);F.M.Schabel et al.,Cancer Drug Development,Part B,Methods in Cancer Research,17:3−51,NewYork,Academic Press Inc.(1979)]。log10細胞死滅が0.7以上であれば、この完成品は活性であると判断される。log10細胞死滅が2.8より大きければ、この完成品は非常に活性が高いと判断される。
【0026】
組合せ剤のlog10細胞死滅が、最良な構成要素を単独で、この最大耐量でまたは試験したこの最大用量で用いた場合のlog10細胞死滅の値よりも高い場合、この組合せ剤は治療的相乗作用を示していることになるだろう。
【0027】
組合せ剤の固形腫瘍に対する効力は、以下の様式で実験的に求めることができる:
0日目、実験に供される動物(一般にマウス)に、腫瘍断片30から60mgを両側に皮下移植する。腫瘍を持たされた動物を、この腫瘍の大きさに関して無作為に割り振って様々な治療と対照に供する。移植後、腫瘍があらかじめ定めた大きさに到達したら、腫瘍の種類に依存して、化学療法を開始し、動物を毎日観察する。治療中、それぞれの動物群の重さを、重さの減少が最大になり、続いて重さが完全に回復するまで、毎日測定する。次いで、試験終了まで、動物群の重さを週に1回か2回測定する。腫瘍は、約2gに達するか動物が死亡する(腫瘍が2gに達する前にそうなってしまった場合)まで、腫瘍が2倍になる時間に依存して、週に1回から5回測定する。動物を、安楽死即ち死後直ちに死体解剖する。
【0028】
抗腫瘍活性は、記録した異なるパラメータに応じて求められる。
【0029】
hu38SB19およびメルファランをこれらの最適用量で用いた組合せ剤で得られる結果は、本明細書中以下、実施例として示される。
【0030】
従って、本発明は、本発明による組合せ剤を含有する薬学的組成物にも関する。
【0031】
組合せ剤を構成する構成要素は、この組合せ剤の最大効力が得られるように、同時に、半同時に、別々に、または時間的に間を空けて、投与することができる。それぞれの投与について、継続期間を急速投与から連続かん流まで変化させることが可能である。
【0032】
結果として、本発明の目的について、組合せ剤は構成要素の物理的結合により得られるものに排他的に限定されるのではなく、個別投与を許容するものも含まれ、個別投与は同時または時間的に間を空けることが可能である。
【0033】
本発明による組成物は、好ましくは非経口(parentally)で投与することができる組成物である。しかしながら、本発明による組成物は、局所領域治療(localized regional therapies)の場合は、経口、皮下、または腹腔内投与されてもよい。
【0034】
非経口(parental)投与用組成物は、一般に、薬学的に許容可能な滅菌溶液または懸濁液であり、溶液または懸濁液は必要に応じて使用時に随意に調製することができる。非水溶液または懸濁液の調製には、天然の植物油(オリーブ油、ゴマ油など)または石油または注射用有機エステル(オレイン酸エチルなど)を用いることができる。滅菌水溶液は、完成品の水溶液からなるものが可能である。水溶液のpHが適切に調節されており、この水溶液が例えば、十分な量の塩化ナトリウムまたはグルコースで等浸透圧になっていれば、これは静脈内投与に適している。滅菌は、加熱により、または組成物に悪影響を及ぼさない任意の他の手段により、行なうことができる。組合せ剤は、リポソームの形またはシクロデキストリンもしくはポリエチレングリコールなどのキャリアと会合した形を取ることもできる。
【0035】
経口、皮下、または腹腔内投与用組成物は、好ましくは、水性懸濁液または水溶液である。
【0036】
本発明による組合せ剤において、この組合せ剤の構成要素の使用は同時、別々、または時間的に間を空けることができ、ヒト化抗CD38抗体の量はこの組合せ剤の10から90重量%を占めることが特に有利であり、この含有量は、関連する物質の性質、得ようとする効力、および治療しようとする癌の性質によって変えることが可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明による組合せ剤は、複数の種類の癌の治療に特に有用であり、このような癌として以下が挙げられる(が、これらに限定されない。):膀胱、乳房、結腸、頭頸部、前立腺、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、および皮膚のもの、ならびに扁平上皮癌をはじめとするカルシノーマおよび腺癌;多発性骨髄腫、白血病、急性および慢性リンパ性(またはリンパ様)白血病、急性および慢性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(例えばバーキットリンパ腫)をはじめとするリンパ球系列の造血器腫瘍;急性および慢性骨髄性(骨髄または骨髄球性)白血病、ならびに前骨髄球性白血病をはじめとする骨髄球系列の造血器腫瘍;線維肉腫、骨肉腫、および横紋筋肉腫をはじめとする間葉系起源の腫瘍;星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、およびシュワン細胞腫をはじめとする中枢神経系および末梢神経系の腫瘍;ならびに黒色腫、奇形癌腫、色素性乾皮症、角化棘細胞腫、および精上皮腫をはじめとするその他の腫瘍、さらには今後CD38が発現することが確認された癌。本発明の抗CD38抗体は独特の作用機構を有しているので、本発明による組合せ剤は、一般的に用いられる抗癌剤が効かない白血病、リンパ腫、および癌を治療するのに主に役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
従って、本発明は、癌の治療用医薬の製造のための上記組合せ剤の使用も包含する。
【実施例】
【0039】
この実施例では、腫瘍増殖阻害について本発明の抗CD38抗体/メルファラン組合せ剤の有効性をin vivoで実証した。
【0040】
最初に選択した腫瘍モデルは、移植性ヒト多発性骨髄腫細胞株、RPMI−8226をSCIDマウスに移植したものであった。
【0041】
Hu38SB19を、Ca2+およびMg2+を含まないリン酸緩衝食塩水(pH7.4)に配合した。腫瘍移植後16、19、22、25日目に、Hu38SB19を静脈内投与した。
【0042】
メルファランを、エタノールが5%、ポリソルベート80が5%、0.9%塩化ナトリウム水溶液が90%の中に配合した。腫瘍移植後16、19、22、25日目に、メルファランをhu38SB19と同時に静脈内投与した(この組合せの最高用量を除く、最高用量では19日目に毒性が現れたため治療を停止した。)。
【0043】
実験結果を表1にまとめる。
【0044】
腫瘍が2倍になる時間=3.2日。
【0045】
以下の評価項目を用いた:
・≧20%体重減少または≧10%薬物死を誘導する投薬量では毒性であるとした、
・log10細胞死滅=(T−C)/[3.32×(腫瘍が2倍になる日数)]を計算することにより抗腫瘍効力を求めた
(Tは、処置したマウスで1000mgに達するまでの時間の中央値を意味し、Cは対照マウスで同じ大きさに達するまでの時間の中央値(25.3日)を意味する;無再発生存個体はこれらの計算から排除し別々に集計する。)。log細胞死滅<0.7では抗腫瘍活性はないものとした。log細胞死滅≧2.8では治療は非常に活性が高いものとした
・無再発生存個体(TFS):研究の全期間(最後の処置から100日後以降)について触診限界(63mg)未満の完全回復に相当する。
・治療的相乗作用:ある組合せ剤が研究の最良の薬剤単独よりも活性が高い(少なくとも1のlog細胞死滅の差)ならばこの組合せ剤は治療的相乗作用を有する。
【0046】
メルファラン単独の場合の毒性は、16.1mg/kg/注射の用量で観測され、マウス5匹中3匹が薬物関連死をとげた、即ち10%閾値を超えた。メルファランの無毒の最高用量(HNTD)は10mg/kg/注射であった(注射量合計=40mg/kg)。10mg/kg/注射の用量は、log細胞死滅が1.9と活性であることがわかった。
【0047】
hu38SB19に関して、完成品は、40mg/kg/注射の用量で耐容性がよかった。毒性は観測されず、このことは抗体がマウスCD38との交差反応性を欠如していることで説明できる。log細胞死滅は0.5であり、hu38DB19がこの条件下では活性ではなかったことを示している。
【0048】
メルファランを16.1mg/kg/注射、およびhu38SB19を40mg/kg/注射で組み合わせると毒性であり、5匹中5匹が薬物関連死をとげた、即ち同じ用量でのメルファラン単独で観測された結果と非常に類似していた。10mg/kg/注射のメルファランに40mg/kg/注射のhu38SB19を合わせた用量がHNTDであると判断された。この用量では、log細胞死滅は2.2であり、この組合せが最良作用剤、即ちメルファランぐらい活性があることを示した。
【0049】
別の実験を、RPMI−8226と比較してメルファランに対する感受性が高いヒト多発性骨髄腫モデル、LP1で行なった。この骨髄腫モデルをSCIDマウスに移植した。
【0050】
Hu38SB19を5%グルコース水溶液に配合した。移植後12、15、18、21日目に、Hu38SB19を静脈内投与した。
【0051】
メルファランを、エタノールが5%、ポリソルベート80が5%、0.9%塩化ナトリウム水溶液が90%の中に配合した。移植後12、15、18、21日目に、メルファランをhu38SB19と同時に静脈内投与した。
【0052】
実験結果を表2にまとめる。
【0053】
腫瘍が2倍になる時間=1.5日。
【0054】
以下の評価項目を用いた:
・≧20%体重減少または≧10%薬物死を誘導する投薬量では毒性であるとした、
・log10細胞死滅=(T−C)/[3.32×(腫瘍が2倍になる日数)]を計算することにより抗腫瘍効力を求めた
(Tは、処置したマウスで1000mgに達するまでの時間の中央値を意味し、Cは対照マウスで同じ大きさに達するまでの時間の中央値(16.8日)を意味する;無再発生存個体はこれらの計算から排除し別々に集計する。)。log細胞死滅<0.7では抗腫瘍活性はないものとした。log細胞死滅≧2.8では治療は非常に活性が高いものとした
・治療的相乗作用:ある組合せ剤が研究の最良の薬剤単独よりも活性が高い(少なくとも1のlog細胞死滅の差)ならばこの組合せ剤は治療的相乗作用を有する。
【0055】
メルファラン単独の場合の毒性は、16.1mg/kg/注射の用量で観測され、22日目の最下点で33.6%の体重減少であり、即ち20%閾値を超えた、また4/5は薬物関連死をとげた。メルファランのHNTDは10mg/kg/注射であった(注射量合計=40mg/kg)。10mg/kg/注射の用量は、log細胞死滅が9.3と活性であることがわかった。
【0056】
hu38SB19に関して、完成品は、40mg/kg/注射の用量で耐容性がよかった。毒性は観測されず、このことは抗体がマウスCD38との交差反応性を欠如していることで説明できる。log細胞死滅は0.2であり、hu38DB19がこの条件下では活性ではなかったことを示している。
【0057】
メルファランを16.1mg/kg/注射、およびhu38SB19を40mg/kg/注射で組み合わせると毒性であり、22日目の最下点で34.2%の体重減少、および5/5が薬物関連死をとげた、即ち同じ用量でのメルファラン単独で観測された結果と非常に類似していた。10mg/kg/注射のメルファランに40mg/kg/注射のhu38SB19を合わせた用量が無毒の最高用量であると判断された。際立ったことに、この用量は、18.9のlog細胞死滅(および148日目で1/5がTFS)という高い抗腫瘍効力を示し、メルファラン単独のHNTD(9.3のlog細胞死滅)との比較から治療的相乗作用が実証された。メルファラン単独の等毒性用量と比較して、組合せ剤の用量レベルを下げても治療的相乗作用は維持された。
【0058】
【表1】

腫瘍が2倍になる時間=3.2日。治療開始時の腫瘍の大きさの中央値=131から148mg。腫瘍が中央値で1000mgに達するまでの時間=25.3日。配合:hu38SB19=Ca2+およびMg2+を含まないリン酸緩衝食塩水(pH7.4);メルファラン=エタノールが5%、ポリソルベート80が5%、0.9%塩化ナトリウム水溶液が90%。BWC=体重変化、T−C=腫瘍増殖の遅延、HNTD=無毒性の最高用量、HDT=試験した最高用量、IV=静脈内。
【0059】
【表2】

腫瘍が2倍になる時間=1.5日。治療開始時の腫瘍の大きさの中央値=111から127mg。腫瘍が中央値で1000mgに達するまでの時間=16.8日。配合:hu38SB19=5%グルコース水溶液、メルファラン:エタノールが5%、ポリソルベート80が5%、0.9%塩化ナトリウム水溶液が90%。BWC=体重変化、T−C=腫瘍増殖の遅延、HNTD=無毒性の最高用量、HDT=試験した最高用量、TFS=無再発生存個体、NTBA=無癌動物、IV=静脈内。毒性が現れたため、18日目に治療を停止した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシス、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、および補体依存性細胞傷害(CDC)により、CD38細胞を死滅させることができる、CD38を特異的に認識する抗体、および少なくともメルファランを含む薬学的組合せ剤。
【請求項2】
抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の組合せ剤。
【請求項3】
前記抗体が、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域を1つ以上含む、請求項2に記載の組合せ剤。
【請求項4】
前記抗体が、少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号66で表されるアミノ酸配列を有するとともに前記重鎖は配列番号:13、14、および15で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含み、ならびに前記軽鎖は配列番号:62および64からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するとともに軽鎖は配列番号:16、17、および18で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む、請求項3に記載の組合せ剤。
【請求項5】
前記抗体が、少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号72で表されるアミノ酸配列を有するとともに重鎖は配列番号:25、26、および27で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含み、ならびに前記軽鎖は配列番号:68および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するとともに軽鎖は配列番号:28、29、および30で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む、請求項3に記載の組合せ剤。
【請求項6】
癌治療用医薬を製造するための請求項1に記載の薬学的組合せ剤を調製するためのCD38を特異的に認識する抗体の使用。
【請求項7】
抗体がヒト化抗体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記抗体が、配列番号:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、および36からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する相補性決定領域を1つ以上含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記抗体が、少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号66で表されるアミノ酸配列を有するとともに重鎖は配列番号:13、14、および15で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含み、ならびに前記軽鎖は配列番号:62および64からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するとともに軽鎖は配列番号:16、17、および18で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記抗体が、少なくとも1本の重鎖および少なくとも1本の軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号72で表されるアミノ酸配列を有するとともに前記重鎖は配列番号:25、26、および27で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含み、ならびに前記軽鎖は配列番号:68および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するとともに軽鎖は配列番号:28、29、および30で表されるアミノ酸配列を有する3つの連続した相補性決定領域を含む、請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2012−510461(P2012−510461A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538092(P2011−538092)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055389
【国際公開番号】WO2010/061357
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】