説明

CKD輸送対応マスチック接着剤

【課題】
加硫剤の失活を防ぎ且つ接着剤の強度低下を防止し、硬化物性が保持できるようにしたCKD輸送対応マスチック接着剤を提供する。
【解決手段】
CKD輸送対応ラインに適用するマスチック接着剤であって、
(A)未架橋型及び/ 又は部分架橋型の合成ゴム、
(B)酸化カルシウムを0.7〜1.0質量%、
(C)加硫剤、
(D)加硫助剤を1.0〜2.0質量%、
(E)充填材、
(F)可塑剤
を含有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CKD(Complete knock down)輸送に対応したマスチック接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、国内で自動車のパーツを組み立てて自動車を製造する場合には、パーツに接着剤を塗布した後、当日に加熱硬化させている。
【0003】
一方、海外へ自動車を輸出する場合、自動車のパーツのままで輸送し、輸出先の国で組立てを行う、いわゆるCKD(Complete knock down;完全ノックダウン)方式がとられることが多い。
【0004】
このようなCKDパーツを輸送するにあたっては、パーツに塗布された接着剤が加熱硬化されるのは、最大で30日後が予定されている。このため、CKDパーツの輸送条件としては、例えば、(50℃×95%RH×8時間→23℃×50%RH×16時間)×30日間が想定されている。
【0005】
このようなCKDパーツ用の接着剤として、従来、熱をかければ硬化するため、塩化ビニル樹脂を添加した接着剤が使用されていた時期もあるが、最近では環境問題から使用されなくなってきている。
【0006】
CKDパーツ用の接着剤として、マスチック接着剤が使われるが、このような高温高湿下に長時間未硬化の状態で放置されると、マスチック接着剤は原材料中の水分を除去するために充分な量の酸化カルシウムが配合されているが、長期間未硬化の状態で放置される間に、吸湿により生成した水酸化カルシウムの影響により系内のアルカリ度が高まり、ゴム加硫剤の機能が低下して硬化不良を引き起こすという問題があった。
【0007】
例えば、CKDパーツに対応した接着剤としては、特許文献1に示すような車体パネル用無溶剤型マスチック接着剤も提案されているが、これは、CKD対応ラインでの耐高圧シャワー性を向上させたマスチック接着剤であり、CKDパーツ輸送時の湿気硬化を主眼としたものではない。また、特許文献2記載のプレゲル性接着剤や特許文献3記載の熱加硫性接着剤なども開示されているが、いずれもCKDパーツ輸送時の湿気硬化を主眼としたものではない。
【0008】
高温高湿下に長時間未硬化の状態で放置した場合の問題点を解消するために、酸化カルシウムの量を減らすことも考えられるが、単に酸化カルシウムの量を減らしたのでは接着剤のせん断強度が低下してしまい充分な品質を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開平10−25458号公報
【特許文献2】特開平2−160885号公報
【特許文献3】特開平2−169683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、吸湿の影響を比較的受け難い加硫助剤を併用することにより、硬化性、せん断強度の低下を最小限にとどめることが可能となることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
本発明は上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、加硫剤の失活を防ぎ且つ接着剤の強度低下を防止し、硬化物性が保持できるようにしたCKD輸送対応マスチック接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のCKD輸送対応マスチック接着剤は、CKD輸送対応ラインに適用するマスチック接着剤であって、(A)未架橋型及び/ 又は部分架橋型の合成ゴム、(B)酸化カルシウムを0.7〜1.0質量%、(C)加硫剤、(D)加硫助剤を1.0〜2.0質量%、(E)充填材、(F)可塑剤、を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加硫剤の失活を防ぎ且つ接着剤の強度低下を防止し、硬化物性が保持できるようにしたCKD輸送対応マスチック接着剤を提供することができるという著大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0014】
本発明に使用される未架橋型合成ゴム及び部分架橋型合成ゴムとしては、具体的には、部分架橋型ゴム(予めジビニルベンゼンまたは硫黄等の架橋剤を用いて部分的に架橋させたもの)、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等を脱硫再生した再生ゴム及び未架橋型の合成ゴム等が利用できる。
【0015】
未架橋型の合成ゴムとしては、アクリロニトリル−イソプレン共重合体ゴム(NIR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)等のジエン系合成ゴムが利用できる。これらのジエン系合成ゴムは常温で液状、固形での選択に制限はなく、また、カルボキル基、水酸基などを付加した変性NBR、変性BR等についても利用できる。
【0016】
これらの未架橋型合成ゴム及び部分架橋型合成ゴムはそれぞれ単独で用いることができ、又はいかなる組み合わせで2種以上混合して用いてもよい。上記合成ゴムの添加量は、特に限定されないが、一般的に、本発明のマスチック接着剤全量に対して2〜30質量%程度であり、5〜15質量%の範囲のものが望ましい。
【0017】
本発明に使用される可塑剤としては、可塑剤として公知の化合物を広く使用でき、特に限定されないが、例えば、BBP、DBP、DHP、DOP、DINP、DIDP等のフタル酸エステル類、安息香酸エステル類、アジピン酸エステル類、グルタル酸エステル類、リン酸エステル類、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、プロセスオイル、流動パラフィンなどが挙げられる。好ましくは、DIDP,DINP,プロセスオイルである。上記可塑剤の添加量は特に限定されないが、一般的には、本発明に使用される合成ゴム100重量部に対する重量部(以下同様)で100〜600重量部、好ましくは、200〜500重量部の割合で用いられる。これらの可塑剤も1種又は2種類以上組み合わせて使用することも出来る。
【0018】
本発明に使用される充填材としては、充填材として公知の化合物を広く使用でき、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカ、アルミナ、炭酸マグネシウム、シリカ粉末、セルロース粉末、ポリエチレン等の樹脂粉末、金属粉末などが挙げられる。さらに、充填材として中空充填材を添加することも出来る。中空充填材としては、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、アミノ樹脂、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合樹脂、シリコーン樹脂等よりなる有機系の中空充填材や、シラス、フライアッシュ、アルミナ、ガラス、カーボン等の無機系の中空充填材などが挙げられる。これらの充填材は1種又は2種類以上組み合わせて使用することが出来る。上記充填材の添加量は特に限定されないが、一般的には、300〜600重量部、好ましくは、350〜550重量部の割合で用いられる。
【0019】
本発明に使用される上記加硫剤としては、例えば、ポリ−p−ジニトロベン
ゼン、安息香酸アンモニウム、N−N’−m−フェニレンジマレイミド、p−キノンジオキシム、p−p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、4−4’−ジチオジモルホリン、金属酸化物や硫黄または硫黄系化合物(本発明では、硫黄と硫黄系化合物を併せて硫黄系化合物と称する。具体的には、単体硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、ジエチルチオユリア、ジブチルチオユリア、トリメチルチオユリア、トリメチルチオユリア、ジオルソトリルチオユリア、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレンなどが挙げられる。)等が挙げられ、特に加熱されることで合成ゴムを架橋させることのできる硫黄系化合物が好ましい。
【0020】
これら加硫剤は、単独もしくは併用して使用することができる。その添加量は、特に限定されないが、一般的には、1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0021】
加硫助剤は、具体的には、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルデヒドアンモニア系化合物;n−ブチルアルデヒドアニリンなどのアルデヒドアミン系化合物;N−N’−ジフェニルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素などのチオウレア系化合物;1,3ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、1−0−トリルビグアニド、ジカテコールボレートジ−o−トリルグアニジン塩、などのグアニジン系化合物;2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾール金属塩、2−メルカプトベンゾチアゾールシクロヘキシルアミン塩、2−(N,N’−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどのチアゾール系化合物;N−シクロヘキシル2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラム系化合物;ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピベリジン塩、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリン塩、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸テルルなどのジチオカルバミン酸塩系化合物などを挙げることが出来る。これらの加硫助剤も1種又は2種類以上組み合わせて使用することも出来る。本発明の接着剤における添加量としては、1.0〜2.0質量%である。
【0022】
上記加硫剤、加硫助剤は、さらに、過酸化物系の化合物、例えば、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステルなどとの併用も可能である。
【0023】
酸化カルシウムの量が3.0質量%の場合は、未硬化放置時間が長くなると急激にせん断強度の低下が見られた。また、未硬化放置後の硬化状態は、酸化カルシウムの量が1.0%以下の場合で良好となる。しかし、0%の場合は、系内の水分が充分処理できないために不均一な発砲状態となり、0.7質量%の場合は、せん断強度の低下率が大きくなる。
【0024】
酸化カルシウムの量が0.7質量%の場合でも、吸湿の影響の比較的受け難い加硫助剤を1質量%以上配合することにより、せん断強度の低下率も低く抑えることができる。
【0025】
本発明のCKD輸送対応マスチック接着剤では、マスチック接着剤中に酸化カルシウムの量が0.7〜1.0質量%であり、加硫助剤を1.0〜2.0質量%を含むことで、高温高湿下に長時間未硬化放置されても良好な硬化物が得られる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0027】
(実施例1〜7及び比較例1〜4)
下記表1に示す重量部数の各成分を用いて、以下の手順でマスチック接着剤を製造した。まず、合成ゴム成分100重量部をニーダーミキサーで素練りを行い、充填剤として炭酸カルシウム(「NN−500」日東粉化(株)製310重量部)、可塑剤として、DINP(積水化学工業(株)製350重量部)と混練りを行い、次いで他の成分を順次混合し均一分散させて調整し、減圧攪拌脱泡して、実施例1〜7及び比較例1〜4の接着剤組成物を調整した。
【0028】
【表1】

表1における材料は以下の通りである。
*1)「BR1220」日本ゼオン(株)製のブタジエンゴム
*2)「SBR 1009」アイエスピー・ジャパン(株)製のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム
*3)「CCR」白石工業(株)製の表面処理炭酸カルシウム
*4)「NN−500」備北紛化工業(株)製の炭酸カルシウム
*5)「DINP」積水化学工業(株)製のフタル酸エステル
*6)「アイビープロセスオイル F262」興和油化工業(株)製のプロセスオイル
*7)「LP−3106」三菱レイヨン(株)製のアクリル樹脂
*8)「バルノックGMペースト」大内新興化学工業(株)製の加硫剤
*9)「ユニホームAZ」大塚化学(株)製の有機熱分解型発泡剤
*10)「イーストマン TXIB」イーストマンケミカルジャパン(株)製のテキサノールイソブチレート
*11)「レオホス 65」味の素ファインテック(株)製のトリアリールホスフェート
*12)「アデカレジンEP4100G」(株)アデカ製のエポキシ樹脂
*13)「CG−1200」エアプロダクツ(株)製のジシアンジアミド
*14)「ベスタQCX」井上石灰(株)製の酸化カルシウム
*15)「AZO−A」正同化学工業(株)製の酸化亜鉛
*16)「ノクセラーCZ」大内新興化学工業(株)製のN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
*17)「ノクセラーM」大内新興化学工業(株)製の2-メルカプトベンゾチアゾール
【0029】
上記製造した実施例1〜7及び比較例1〜4の各接着剤を以下に示す性能試験に供し、結果を下記の表2に示す。
【0030】
(A)初期接着強度
SPC鋼板(幅25mm×長さ100mm×1mm)に得られた接着剤組成物を接着剤厚さ1mmで縦25mm×横25mmの面積に塗布し、170℃×20分間保持した。冷却後50mm/minのスピードで引張り強度を測定した。
評価基準:
○:150kPa以上
×:150kPa未満
【0031】
(B)耐湿養生後接着強度
SPC鋼板(幅25mm×長さ100mm)に得られた接着剤組成物を接着剤厚さ1mmで縦25mm×横25mmの面積に塗布し、(温度:50℃、湿度:95%RH、時間:8時間)+(温度:23℃、湿度:50%RH、時間:16時間)を1サイクルとして、合計30サイクル養生したものを、170℃×20分間保持した。冷却後50mm/minのスピードで引張り強度を測定した。
評価基準:
○:150kPa以上
×:150kPa未満
【0032】
(C)初期発泡状態
アルミ板に接着剤組成物を長さ50mm直径10mmの半円ビード状に塗布し、170℃×20分間保持した。冷却後硬化物をカッターで切り内部の発泡状態の観察を行った。
評価基準:
○:硬化物の発泡が均一である。
△:硬化物の発泡がやや不均一である。
×:硬化物の発泡が著しく不均一である。
【0033】
(D)耐湿養生後発泡状態
アルミ板に接着剤組成物を長さ50mm直径10mmの半円ビード状に塗布し、(温度:50℃、湿度:95%RH、時間:8時間)+(温度:23℃、湿度:50%RH、時間:16時間)を1サイクルとして、合計30サイクル養生したものを、170℃×20分間保持した。冷却後硬化物をカッターで切り内部の発泡状態の観察を行った。
○:硬化物の発泡が均一である。
△:硬化物の発泡がやや不均一である。
× :硬化物の発泡が著しく不均一である。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示した如く、酸化カルシウムを0.7〜1.0質量%を用いた実施例1〜7では、初期及び耐湿養生後共に良好な接着強度を有しており、初期及び耐湿養生後共に発泡状態の異常も認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CKD輸送対応ラインに適用するマスチック接着剤であって、
(A)未架橋型及び/ 又は部分架橋型の合成ゴム、
(B)酸化カルシウムを0.7〜1.0質量%、
(C)加硫剤、
(D)加硫助剤を1.0〜2.0質量%、
(E)充填材、
(F)可塑剤
を含有することを特徴とするCKD輸送対応マスチック接着剤。

【公開番号】特開2010−132830(P2010−132830A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312100(P2008−312100)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(300043303)セメダインヘンケル株式会社 (7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】