説明

CNS治療用のプロテオグリカン分解変異体

【課題】コンドロイチン分解酵素遺伝子の変異体、それに由来するポリペプチド、及び中枢神経系の障害または疾患後に神経性の機能的回復を促す方法を提供する。
【解決手段】構造単位に欠損、置換、またはその組み合わせを含み、より好ましくは、成熟遺伝子の欠損変異体であるコンドロイチン分解酵素変異型遺伝子、及び前記遺伝子によってコードされる変異型コンドロイチン分解酵素及び前記変異体の調製。治療成分の組織への拡散を促す方法における前記変異体の使用。中枢神経系の障害または疾患後の神経機能回復に対する前記変異体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連文献の相互参照
本明細書は、2003年5月16日に提出された米国仮出願番号第60/471,240号(代理人整理番号127304.01300)、2003年5月16日に提出された米国仮出願番号第60/471,239号(代理人整理番号127304.01200)、2003年5月16日に提出された米国仮出願番号第60/471,300号(代理人整理番号127304.01400)、2003年5月16日に提出された米国仮出願番号第60/474,372号(代理人整理番号127304.01700)、及び2004年5月17日に本明細書と同時に提出された表題「CNS治療に対する融合蛋白質」の米国特許出願明細書(米国特許出願番号[未定]、代理人整理番号127304.01201)の利益と優先権を主張するものであり、これらの各引用文献の全体の内容は、この参考によって本明細書に組み込まれるものである。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン分解酵素は、中枢神経系などの広範な組織の細胞外基質成分であるプロテオグリカンの成分、つまりコンドロイチン硫酸に作用する細菌由来の酵素であり、例えば網膜とヒト眼の硝子体の間の接着を介在することができる。コンドロイチン分解酵素の例は、細菌プロテウス・ブルガリス(P.vulgaris)が産生するコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)、Flavobacterium heparinumが産生するコンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)である。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)とコンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)は、蛋白質−多糖類複合体の多糖類側鎖を分解することで機能し、蛋白質のコア部分は分解しない。
【0003】
Yarnagataら(J.Biol.Chem.243:1523〜1535,1968)は、P.vulgaris抽出物からABCI(配列ID番号:37)などのコンドロイチン分解酵素を精製する方法について報告している。この酵素は、pH8においてコンドロイチンまたはヒアルロン酸を分解するよりも速い速度で、グルコサミノグリカンコンドロイチン−4−硫酸、デルタマン硫酸、コンドロイチン−6−硫酸(それぞれコンドロイチン硫酸A、B、Cとも呼ばれ、プロテオグリカンの側鎖である)を選択的に分解する。前記分解生成物は、高分子量の不飽和オリゴ糖と不飽和二糖類である。しかし、コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)は、ケラトサルフェート(keratosulfate)、ヘパリン、または硫酸ヘパリチンには作用しない。
【0004】
コンドロイチン分解酵素の利用では、眼の神経網膜に接着している硝子体を急速に、特異的に非外科的に破壊することで、硝子体の除去を促すことが含まれる。
【0005】
例えばABCI(配列ID番号:37)などのP.vulgarisコンドロイチン分解酵素は、SDS−PAGEで分離すると、見かけの分子量が約110kDaで移動する。SDS−PAGEの解像度でコンドロイチン分解酵素ABCが二重線に見えることが報告された(Sato et al.,Agric.Biol.Chem.50:4,1057〜1059,1986)。しかし、この二重線は無傷のコンドロイチン分解酵素ABCと90kDaの分解生成物である。市販のコンドロイチン分解酵素ABC蛋白質製剤は、この90kDaの分解生成物を様々な量で含み、さらに18kDaの分解生成物もコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)に由来する。
【0006】
コンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)もP.vulgarisから単離、精製され、コンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)は990アミノ酸のポリペプチドで、SDS−PAGEによる見かけの分子量が約112kDaである。エレクトロスプレーとレーザー脱離質量分析で決定したその分子量は、約111,772ダルトンである。コンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)の等電点は8.4〜8.45である。その酵素活性は、コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)と異なるが、相補的である。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)は、プロテオグリカンを内側から溶解して(endolytically)開裂し、最終産物の二糖類と、少なくとも他に2つの生成物を産生し、これらの生成物は四糖類のコンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)と考えられ、プロテオグリカンのコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)の消化でこれらの四糖類生成物を少なくとも1つ消化する。
【0007】
成体哺乳類の中枢神経系(CNS)に障害があると、軸索が再生することができず、永久に麻痺する可能性がある。障害による病変はグリア性瘢痕を生じ、これはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPGs)などの細胞外基質分子を含む。CSPGはin vitroで神経組織の成長を阻害し、in vivoではCSPGが豊富な領域で神経組織の再生ができない。
【0008】
多数の分子とその特異的領域は、神経突起伸長とも呼ばれる、神経細胞からの神経突起の発芽を支持できると考えられた。前記神経突起という用語は、軸索と樹状突起構造の両方を指す。この神経突起の発芽プロセスは、特に身体的な障害または疾患が神経細胞を障害した後での、神経の発達と再生に重要である。神経突起は、すべての動物種の中枢および末梢神経系いずれにおいても、発達中は盛んに伸長する。この現象は軸索と樹状突起の両方に関係する。しかし、CNSにおける神経突起伸長は、動物の加齢と共に減弱する。
【0009】
コンドロイチン分解酵素は、いくつかの脊髄損傷のin vivoモデルで機能的結果を改善する効果が示された。組み換え技術によって作られたコンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)とコンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)のポリペプチドは、アグリカンなど抑制基質関門のバリアを克服し、ラット皮質ニューロンの神経突起を伸長することで、in vitroで効果を示した。
【0010】
本発明者は、利用できる結晶構造に基づいた欠損解析から、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)を分解することができる変異型ポリペプチドを発見した。これらの変異体すべての開裂活性は、基質としてアグリカンを用いた酵素電気泳動法によりin vitroでスクリーニングされた。アミノ末端とカルボキシ末端それぞれから50アミノ酸、275アミノ酸が欠落し、蛋白質の全長75kDaに対し、分子量38kDaを有する、コンドロイチン分解酵素ACの切断されたポリペプチド(nΔ50−cΔ275)(配列ID番号:11)は、酵素電気泳動法で検査した活性を保持する最小限のサイズであることが分かった。アミノ末端とカルボキシ末端それぞれから120アミノ酸が欠落し、蛋白質の全長52kDに対し、分子量26kDを有する、コンドロイチン分解酵素Bの欠損変異体(nΔ120−cΔ120)(配列ID番号:17)は、酵素電気泳動法で活性を保持することが示された。分子のサイズと複雑性が減少することで、作用部位への拡散を促す可能性があり、長期的に治療に使用すると、免疫原性を低下させる可能性がある。これらのより小さなコンドロイチン分解酵素は、脊髄損傷の潜在的な治療法となる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、コンドロイチン分解酵素遺伝子の変異体、それに由来するポリペプチドと蛋白質、及び中枢神経系(「CNS」)の障害または疾患後に神経性の機能的回復を促す方法におけるそれらの利用に関するものである。変異型遺伝子、ポリペプチド、及びそれに由来する蛋白質は、好ましくは成熟遺伝子またはポリペプチドの構造単位に欠損、置換、またはその組み合わせを含み、より好ましくは、前記変異型遺伝子またはポリペプチドは、成熟遺伝子またはポリペプチドの欠損変異体である。これらの変異型遺伝子またはポリペプチド、好ましくは生物学的活性は、様々な医薬組成物に利用される可能性がある。
【0012】
コンドロイチン分解酵素ポリペプチドの変異体、例えばコンドロイチン分解酵素ABCタイプI(配列ID番号:1または37)、コンドロイチン分解酵素ABCタイプII(配列ID番号:27)、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)が、提供される。コンドロイチン分解酵素様の活性を持つ他の哺乳類酵素変異体は、ヒアルロニダーゼ1(配列ID番号:30)、ヒアルロニダーゼ2(配列ID番号:31)、ヒアルロニダーゼ3(配列ID番号:32)、ヒアルロニダーゼ4(配列ID番号:33)、及び任意にPH−20(配列ID番号:34)などの酵素をそれぞれ独立して含んでもよい。これらの欠損または置換変異体は、治療組成物および混合物として、単独で、またはコンドロイチン分解酵素または欠損または置換変異体と併用して使用されてもよい。さらに、これらの変異体、好ましくは、これだけに限らないが外傷性障害などのCNSの損傷後に哺乳類で神経性の機能的回復を促すコンドロイチン分解酵素の欠損または置換変異体の使用法を提供する。
【0013】
本発明の1つの実施形態は、プロテオグリカン分解分子の欠損および/または置換変異体であるポリペプチドのアミノ酸配列をコード化するヌクレオチド配列から成る、及び好ましくはこれを有する単離核酸分子である。独立して、本発明の核酸分子は、コンドロイチン分解酵素の変異型プロテオグリカン分解ポリペプチド、例えばコンドロイチン分解酵素ABCタイプI(配列ID番号:1または37)、コンドロイチン分解酵素ABCタイプII(配列ID番号:27)、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)、ヒアルロニダーゼ1(配列ID番号:30)、ヒアルロニダーゼ2(配列ID番号:31)、ヒアルロニダーゼ3(配列ID番号:32)、ヒアルロニダーゼ4(配列ID番号:33)、または任意にPH−20(配列ID番号:34)と、その組み合わせをコード化するものである。好ましくは、前記核酸は、コンドロイチン分解酵素の欠損および/または置換変異体をコード化し、最も好ましくは、前記核酸は、コンドロイチン分解酵素ABCタイプIまたはIIポリペプチドをコード化するものである。本発明は、上述した核酸配列に相補的なヌクレオチド配列から成る、及び好ましくはこれを有する核酸分子に関するものでもある。また、上述した核酸分子のいずれかと、少なくとも80%、好ましくは85%または90%、より好ましくは95%、96%、97%、98%、または99%同一である拡散分子も提供される。さらに、厳密な条件下において上述した核酸分子のいずれかにハイブリダイズした核酸分子も提供されるものである。本発明は、これらの核酸分子を有する組換えベクター、及びそのようなベクターで形質転換した宿主細胞も提供するものである。
【0014】
さらに、プロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損および/または置換変異体のアミノ酸配列から成る、及び好ましくはこれを有する単離ポリペプチドも提供される。独立して、プロテオグリカン分解酵素は、例えばABCタイプI(配列ID番号:1または37)、プロテオグリカン分解酵素ABCタイプII(配列ID番号:27)、プロテオグリカン分解酵素AC(配列ID番号:5)、プロテオグリカン分解酵素B(配列ID番号:12)、ヒアルロニダーゼ1(配列ID番号:30)、ヒアルロニダーゼ2(配列ID番号:31)、ヒアルロニダーゼ3(配列ID番号:32)、ヒアルロニダーゼ4(配列ID番号:33)、また任意にPH−20(配列ID番号:34)などのコンドロイチン分解酵素を含むことができる。好ましくは、前記ポリペプチドは、コンドロイチン分解酵素の欠損変異体である。医薬組成物は、これらのコンドロイチン分解酵素および/またはヒアルロニダーゼなどの変異型プロテオグリカン分解分子から調整することができ、前記組成物は、異なるプロテオグリカン分解ポリペプチドからの欠損および置換変異体を1若しくはそれ以上含むことができる。
【0015】
本発明の1つの観点において、生物学的に活性なプロテオグリカン分解ポリペプチドが提供され、これは少なくとも1つのアミノ酸の欠損または置換を有するものである。前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドは、本明細書で示された酵素アッセイにより決定されたように、最小のサイズであるが、ある程度の活性を保持するものを含む。好ましいプロテオグリカン分解分子の欠損または置換変異体は、コンドロイチンを分解し、N末端から約1〜約120以上のアミノ酸、および/またはC末端から約1〜約275以上のアミノ酸で、1つ若しくはそれ以上のアミノ酸の欠損を有するものであり、より好ましくは前記欠損は、コンドロイチン分解酵素または置換コンドロイチン分解酵素に存在するものであり、さらに好ましくはコンドロイチン分解酵素ABCI或いはIIまたは置換コンドロイチン分解酵素ABCI或いはIIに存在するものである。
【0016】
本発明の1つの観点は、神経突起の再生および/またはCNSの可塑性を促す、および/またはプロテオグリカンの分解により組織への治療分子の拡散を促進または阻害する、プロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損および/または置換変異体、好ましくはコンドロイチン分解酵素ポリペプチドの欠損変異体である。
【0017】
前記変異型分解ポリペプチド、好ましくはコンドロイチン分解酵素の欠損および/または置換変異体は、CNSの神経突起の再生を促し、および/またはプロテオグリカンの分解により組織への治療分子の拡散を促進または阻害してもよく、適切に修飾されたDNA配列の発現を介して得られる可能性がある。従って、本発明は適切な発現ベクターとそれに適合性を有する宿主細胞も提供している。
【0018】
さらなる別の観点において、本発明は、薬学的に許容可能な担体との組み合わせで、プロテオグリカン分解分子の欠損および/または置換変異体の、および好ましくは前記コンドロイチン分解ポリペプチドの欠損または置換変異体の生物学的に活性なポリペプチドを含む医薬組成物を有する。
【0019】
本発明のプロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損変異体および/または置換変異体を利用し、神経組織の神経突起の再生を促してもよい。これらの変異体は、他のCNS疾患の治療に有用であると考えられ、可塑性、再生、またはその両方に対して有益である可能性がある。例えば、CNSの障害と疾患には、挫傷、外傷性脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、上腕神経叢損傷、ambliopliaを含むと考えられるが、これだけに限らない。プロテオグリカンを分解する性質のために、通常はこれらを透過しない組織および細胞への治療組成物や診断薬の送達を促すために用いてもよい。或いは、組織に入れるために細胞外基質の一部を利用した、組織への治療組成物、診断薬、または細胞の浸透を抑制するために使用することもできる。完全長の酵素と比べサイズが小さいため、前記欠損および/または置換変異体は作成が容易で、標的細胞と組織への送達が容易である。このようなさらに小さなプロテオグリカン分解酵素の欠損または置換変異体を潜在的な治療薬として用いることができ、CNS損傷の治療では免疫原性が低く、組織浸透能は同等若しくはより高い。
【0020】
前記欠損変異体は、前記治療開発プロセスにおいて完全長の蛋白質以上に重要な利益をもたらす可能性がある。前記酵素の組織浸透は、著しく前記蛋白質の大きさの影響を受ける。組織浸透における蛋白質サイズの作用は予測が難しいが、サイズと荷電に依存する。浸透率は、組織の組成物、荷電の相互作用、水和効果に依存する。幅広いサイズの活性酵素があることで、最適な組織浸透作用に基づき、酵素の選択が可能と考えられ、おそらく効果的な濃度を最大限とするか、前記酵素への末梢曝露を限定するものである。
【0021】
細菌蛋白質に対する哺乳類の免疫反応は、治療薬としての蛋白質またはポリペプチドを利用する能力を制限する可能性もあれば、制限しない可能性もある。前記蛋白質に対する抗体の生成は、反復曝露を制限し、蛋白質を治療薬として不活化しその効果がなくなる可能性がある。より小さな変異型プロテオグリカン分解酵素、好ましくは、変異型コンドロイチン分解酵素は、抗原部位を制限し、免疫反応を制限し、または少なくとも免疫原性を低下させる酵素の設計プロセスを簡素化する可能性がある。
【0022】
しばしば徐放性製剤で使用される基質からの蛋白質放出速度は、サイズと架橋結合に依存する可能性がある。前記基質からプロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損変異体が効果的に放出される速度は、酵素のサイズを操作することを通じて設計される可能性がある。様々なサイズと荷電のコンドロイチン分解酵素のレパートリーを有することは、徐放性製剤の開発に重要な利益を与えるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(A)は、コンドロイチン分解酵素Bの欠損NΔ120 CΔ120変異体(配列ID番号:17)の発現活性を示す抗His標識ウエスタンブロット(上)と酵素電気泳動像(下)を示している。図1(B)は、コンドロイチン分解酵素AC欠損NΔ50 CΔ275変異体(配列ID番号:11)の発現活性を示す抗His標識ウエスタンブロット(上)と酵素電気泳動像(下)を示している。
【図2】図2は、コンドロイチン分解酵素AC 配列ID番号:5の全長に対する、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:6〜11)の様々な欠損変異型ポリペプチドの相対的な基質分解活性を示している。
【図3】図3(A)は、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:6〜11)の欠損変異型ポリペプチドの概略図を示しており、図3(B)は、ウエスタンブロット法によるコンドロイチン分解酵素AC欠損変異体の確認法を示している。
【図4】図4は、(A)ウエスタンブロットと(B)酵素電気泳動像によるコンドロイチン分解酵素AC欠損変異体(配列ID番号:6〜11)の蛋白質発現と酵素活性の確認法を示している。
【図5】図5は、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)の欠損変異型ポリペプチド(配列ID番号:13〜17)の概略図を示している。
【図6】図6は、(A)ウエスタンブロットと(B)酵素電気泳動像によるコンドロイチン分解酵素Bと欠損変異体(配列ID番号:12〜17)の蛋白質発現と酵素活性の確認法を示している。
【図7】図7は、コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)のコンドロイチン分解酵素ABCI欠損変異型ポリペプチド(配列ID番号:2〜4)の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の組成物と方法を説明する前に、説明される特定の分子、組成物、方法論、またはプロトコールは様々である可能性があるため、本発明はこれらに限定されないことは理解されるものとする。前記説明に使用される用語は、特定の説明または実施例のみを説明することを目的としたもので、前記添付の請求項のみで限定される、本発明の範囲を限定する意図はないことも理解されることとする。
【0025】
本文および添付の請求項に用いられるとおり、文脈が明確にそうでないことを示していない限り、単数形の「a」、「an」、「the」は複数の言及も含めることにも注意して頂きたい。従って、例えば、「セル」という言及は1若しくはそれ以上のセルおよび当業者に周知の同等物などを言及している。それ以外に定義されているのではない限り、本文に用いられるすべての技術的、科学的用語は、通常の当業者の1人によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本文に説明したものと同様またはそれに相当するすべての方法および材料は、本発明の実施例を実行または検討するために用いることができるが、前記好適な方法、装置、材料が今回報告される。本文に述べたすべての文献は、参考文献に含められている。本明細書は、本発明が先願発明の長所によってそのような公開を予期する権利がないことを承認するものとして解釈されるものではない。
【0026】
「任意」または「任意に」は、その後に記載された事象或いは状況が生じる若しくは生じないこと、及びその記載がその事象が起こる或いは物質が存在する場合及びそれが起こらない或いは物質が存在しない場合を含むことを意味している。
【0027】
本開示の1つの観点は、かなり分子量が少ないが修飾されている、好ましくは野生型酵素と比べ、同等であるか優れたプロテオグリカン分解酵素の活性を有する欠損変異型酵素の作成に用いることができる、コンドロイチン変換酵素遺伝子の一連の欠損および/または置換変異体に関連するものである。前記欠損および/または置換変異体は、ポリメラーゼ連鎖反応により作成することができる。結果生じた変異体は発現され、次に前記変異型ポリペプチドの酵素活性は酵素電気泳動法で確認されうる。
【0028】
前記プロテオグリカン分解分子の変異型を利用し、哺乳類のCNS損傷、特に外傷または疾患により生じた損傷を治療できる。特に、例えばABCタイプI(配列ID番号:1または37)、ABCタイプII(配列ID番号:27)、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)などのコンドロイチン分解酵素のようなプロテオグリカン分解ポリペプチド分子の欠損変異体、またはヒアルロニダーゼ1(配列ID番号:30)、ヒアルロニダーゼ2(配列ID番号:31)、ヒアルロニダーゼ3(配列ID番号:32)、ヒアルロニダーゼ4(配列ID番号:33)、また任意にPH−20(配列ID番号:34)などのコンドロイチン分解酵素様活性を有する哺乳類酵素、またはこれらのいずれかの混合物を利用し、CNS障害および疾患の治療に提供することができ、これには、これだけに限らないが、外傷性障害、外傷性脳損傷、脳卒中、多発性硬化症、上腕神経叢損傷、amblioplia、脊髄損傷を含むものである。脊髄損傷には、自動車事故、転倒、打撲傷、射創、またその他の損傷によって引き起こされるニューロンの粉砕などの疾患および外傷を含む。本発明の方法の実行により、治療された哺乳類に臨床的利益を与えることができ、被験動物の運動協調性機能及び知覚の少なくとも1つにおいて臨床的に関連性のある改善を提供する。臨床的に関連性のある改善は、検出可能な改善から前記CNSの機能損傷または機能喪失の完全な回復まで幅がある可能性がある。
【0029】
プロテオグリカン分解酵素変異体、例えばコンドロイチン分解酵素ACの欠損変異体(配列ID番号:5)は、賦形剤を追加するか、凍結乾燥により安定化された酵素活性を有する可能性がある。安定剤には、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸、界面活性剤が含まれると考えられ、当業者に周知である。例としては、スクロース、ラクトース、マンニトール、デキストランなどの炭水化物、アルブミン、プロタミンなどの蛋白質、アルギニン、グリシン、トレオニンなどのアミノ酸、TWEEN(登録商標)、PLURONIC(登録商標)などの界面活性剤、塩化カルシウム、リン酸ナトリウムなどの塩、脂肪酸、リン脂質、胆汁塩などの脂質を含む。1:10〜4:1の比で前記安定剤は前記プロテオグリカン分解ポリペプチド欠損変異体に、1:1000〜1:20の比で炭水化物はポリペプチド、アミノ酸ポリペプチドに、蛋白質安定剤はポリペプチドに、塩はポリペプチドに、また界面活性剤はポリペプチドに、1:20〜4:1で脂質はポリペプチドに追加することができる。ヘパリナーゼ活性を用いた比較研究に基づいて、他の安定剤としては高濃度の硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、または硫酸ナトリウムを含む。前記安定剤、好ましくは前記硫酸アンモニウムまたは他の同様の塩が0.1〜4.0mg硫酸アンモニウム/IU酵素の比で前記酵素に追加される。
【0030】
前記プロテオグリカン分解変異型ポリペプチドは、組成物として製剤化され、被験動物または患者に局所性、局在性、または全身性に投与されてもよい。好ましくは、前記被験動物は、前記コンドロイチン分解酵素の1つなどのプロテオグリカン分解組成物を必要とする哺乳類、またさらに好ましくはヒトである。局所性または局在性投与は、適用をさらにコントロールするために利用される。1若しくはそれ以上のプロテオグリカン分解変異型ポリペプチドは、単独または併用で、投与前に適切な薬学的に許容可能な担体と混合される可能性がある。一般的に利用される薬学的担体および添加物の例は、従来の希釈液、結合剤、潤滑剤、着色料、崩壊剤、緩衝剤、等脹化剤、保存料、麻酔薬などである。利用できる具体的な薬学的担体は、デキストラン、血清アルブミン、ゼラチン、クレアチニン、ポリエチレングリコール、非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬質ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシエチレングリコートなど)、およびそれらと同等の化合物である。
【0031】
プロテオグリカン分解ポリペプチドまたはそれを発現する核酸を有する本発明の組成物には、治療分子、診断薬、及び神経突起の伸長と再生を促す薬物を含んでもよい。診断分子の例には、蛍光プローブ、放射性同位体、色素、磁気造影剤を含んでもよいが、これだけに限らない。可塑性、神経突起伸長、及び再生を促す化合物には、NgR27−311などの可溶性NOGOアンタゴニスト、L1などの神経細胞接着因子、神経栄養因子、成長因子、ホスホジエステラーゼ阻害剤、及びMAGまたはMOGの阻害剤など神経突起の増殖抑制を克服するか、神経成長を促す分子を含んでもよいが、これだけに限らない。さらに、欠損変異体は、ニューレグリン(GGF2)などの再ミエリン化を促す他の化合物および再ミエリン化を促す抗体と組み合わされてもよい。
【0032】
神経系の可塑性は、すべてのタイプの機能的再構築を指す。この再構築は、発達、学習と記憶、及び脳の修復と共に生じる。可塑性と共に生じる構造変化には、シナプスの形成、シナプスの除去、及び神経突起の発芽を含んでもよく、既存のシナプスの強化または弱化を含むことさえある。再生に特徴的な断裂した路において軸索が広範にわたり成長することにより、再生は一般に可塑性と区別される。
【0033】
本発明の前記プロテオグリカン分解分子の生物学的活性を利用し、組織におけるプロテオグリカンの分解率を制御することができ、例えば、過敏性組織の分解活性を遅くし、より厚い組織の蛋白質分解率を高くするように選択することができる。前記活性は、前記ポリペプチドまたはそれらを発現するために用いたベクターにおいて、1つ以上のアミノ酸の置換または欠損により制御されてもよく、前記活性は、成分中のプロテオグリカン分解ポリペプチドの濃度または組み合わせにより制御されてもよい。前記プロテオグリカン分解活性は、完全長のポリペプチドよりも高いか低くなるように作られてもよい。例えば、完全長のコンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)よりも低く作ることができ、図2に示す通り、完全長のポリペプチドの活性の半分よりも低く作ることができる。また、さらに図2に示されるとおり、前記プロテオグリカン分解活性は、完全長のコンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)よりも高く作ることができ、1.5以上の因数で完全長のポリペプチドよりも高い活性とすることができ、2.5以上の因数で完全長のポリペプチドよりも高い活性とすることができる。
【0034】
典型的には、天然または野生型P.vulgaris菌株を利用し、通常の伸長条件でコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1または37)、およびコンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)、及びこれら完全長のポリペプチドの変異体を作ることができる。P.vulgarisの野生型株を導入し、唯一の炭素源としてコンドロイチン硫酸などの導入基質を提供することで、検出可能レベルのコンドロイチン分解酵素ABCIとその変異体を作成することができる。
【0035】
変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドを発現させるため、変異型核酸を用いることができる。前記発現されたポリペプチドまたは前記変異型核酸を利用し、哺乳類のCNS損傷、特に外傷または疾患により生じた損傷を治療することができる。特に、コンドロイチン分解酵素ABCタイプIなどのプロテオグリカン分解ポリペプチド分子を発現した欠損変異型核酸は、これだけに限らないが、クローン化コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:22または28)、コンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:26)、欠損変異型TATコンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ60(配列ID番号:43)の融合蛋白質を発現した核酸などを含んでもよく、E.coili中のこれらの遺伝子の変異型は、人工誘導因子を用いた不均一発現系を用いて発現させることができる。コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:22または28)、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:26)、その変異型はF.heparinumからクローニングされ、E.coliに発現される。
【0036】
コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)などの完全長のプロテオグリカン分解酵素、またプロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損および/または置換は、多数の細菌および哺乳類発現ベクターでクローニングされうる。これらのベクターは制限なく、pET15b、pET14b、pGEX 6P1、pDNA4HisMax、またはpSECTag2bを含む。本発明の前記欠損変異体と置換ポリペプチドは、コンドロイチンCS、DSなどのプロテオグリカンを分解する能力を示し、細胞や組織へ、また膜を貫通して拡散を促すことが予想される成熟酵素ポリペプチドよりもサイズと分子量が小さい。発現ベクターには、発現制御配列と操作可能に連結された変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドを発現した、拡散配列を含むことができる。操作可能に連結されたとは、発現制御配列とコード化配列間の結合を指し、前記連結は前記コード化配列の発現を発現調節配列によって調節できるようにするものである。
【0037】
前記プロテオグリカン分解分子の天然型、置換および/または欠損変異型の性質は、前記蛋白質に様々な突然変異を導入することで変化させることができる。そのような変化は変異誘発技術を用いて適切に導入され、例えば、これだけに限らないがPRC変異誘発などがあり、前記変異型ポリペプチド分子は前記発現ベクターを用いて適切に合成される。
【0038】
本発明の変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドは、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドのアミノ酸の欠損および/または置換を含む。好ましくは、前記欠損または置換は、2つの連続または離れたアミノ酸、NまたはC末端アミノ酸の欠損または置換、ポリペプチド内部のアミノ酸の欠損または置換を含む。前記欠損および/または置換は前記分子のアミノ酸で開始することができ、前記分子に2つの離れた欠損がある可能性がある。前記欠損または置換では変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドが生じ、これは前記変異型酵素よりも小さく、プロテオグリカン分解能力を保持しているものである。変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドは、別のポリペプチドと融合するか連結させることができる。ポリペプチドは、プロテオグリカン分解活性を有するすべての長さの変異型に対するアミノ酸配列を明白に含むように用いられ、翻訳時には最初ポリペプチドの一部であり、宿主の翻訳修飾により開裂されるシグナル配列の不足を含む可塑性を改善する。
【0039】
本発明の変異型核酸は、成熟プロテオグリカン分解ポリペプチドを発現している遺伝子からのヌクレオチドの欠損および/または置換体を含む。DNAレベルでの欠損と置換の突然変異を利用し、前記コードされた蛋白質にアミノ酸置換および/または欠損を導入する。これらのヌクレオチドの欠損と置換を利用し、前記ポリペプチドの重要な配座または活性領域に欠損および/または置換を導入することができる。核酸断片は成熟プロテオグリカン分解ポリペプチドの全アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列よりも少ないヌクレオチドを有する核酸であるが、好ましくは成熟ポリペプチドをコードし、これは完全な長さの蛋白質の生物活性を一部保持し、例えば前記発現されたポリペプチド断片がプロテオグリカンの分解を誘導し、細胞および組織への治療薬の拡散を促し、または神経突起の再生を促す。他のポリペプチドと連鎖したプロテオグリカン分解ポリペプチドドメインのNまたはC末端変異体をコードする遺伝子は、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドと結合した融合蛋白質を発現させるコンストラクトにも利用されうる。
【0040】
本発明の欠損および/または置換変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドは、これらのポリペプチドの誘導体を含んでもよく、これは化学的または酵素的に修飾されているが、プロテオグリカンを分解する生物学的活性を保持する。これらの変異型のプロテオグリカン分解活性は、前記ポリペプチドを発現させるために用いたポリペプチドまたは核酸に対する欠損および/または置換によって制御されてもよい。前記成熟プロテオグリカン分解ポリペプチドまたは核酸の変異体、断片、または類似体およびこれらを発現させるために用いたベクターは、欠損、置換、またはその両方の組み合わせの1つ以上だけ、成熟ポリペプチドまたは核酸配列と異なる配列を有する変異型ポリペプチドおよび核酸を含み、前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドが生物学的活性を保持し、プロテオグリカンを分解することができ、好ましくはコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを分解する。
【0041】
遺伝子コードの縮重のため、変異型プロテオグリカン分解分子をコードする核酸配列と少なくとも80%、好ましくは85%または90%、さらに好ましくは95%、96%、97%、98%、或いは99%同一な配列を有する多数の核酸分子は、プロテオグリカン分解活性、および好ましくはコンドロイチン分解活性を有する変異型ポリペプチドをコードすることを、当業者は認識するだろう。さらに、変異体を変性させないそのような核酸分子では、妥当な数がプロテオグリカン分解活性を有する変異型ポリペプチドをコードすることがさらに認識される。これは(例えば、第1の脂肪族アミノ酸と第2の脂肪族アミノ酸を置換するなどの)ポリペプチド活性に有意に影響をもたらす可能性が低いか、その可能性がないアミノ酸置換は、プロテオグリカンを分解し、好ましくはコンドロイチンを分解するためである。
【0042】
本発明に含まれる変異型には、前記核酸および/またはポリペプチド配列に対する個々の置換、欠損または付加を含む可能性がある。そのような変化により、コード化された配列に1つのアミノ酸または少ない割合のアミノ酸が変化、付加、または欠損する。変異型は「保存的に修飾された変異型」と呼ばれ、前記変化により化学的に類似なアミノ酸を有するアミノ酸置換が生じる。
【0043】
本発明の欠損および置換変異型ポリペプチドの前記プロテオグリカン分解活性は、完全長のプロテオグリカン分解分子よりも低いか、ほぼ同様か、高いという発見は、別の考えられる利益をもたらすものである。前記プロテオグリカン分解分子を含む医薬組成物は、非経口、静脈内、皮下に投与されうる。前記ポリペプチドを封入し連続的に放出する生物分解性ポリマーから成るハイドロゲルの使用は、ハイドロゲルに封入された前記ポリペプチドの量によって制限される。特異的活性がより高いポリペプチドの欠損変異体を使用することは、モルを基本とし、活性基質の多くが同量で封入され、それによって連続投与の間の時間を長くする、または場合によっては反復投与を回避することを意味する。
【0044】
発現後に得られたポリペプチドの精製は、使用される宿主細胞と発現コンストラクトに依存する。一般に、プロテオグリカンの欠損または置換変異体の精製は、ヒスタミン標識の利用など、完全長の天然ポリペプチドの精製と同様の方法で行われる可能性がある。
【0045】
前記欠損または置換変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドと蛋白質は、CSPGsの分解に有効な量で投与される。前記ポリペプチドは、治療および診断組成物の拡散を補助するために利用され、さらに神経機能と神経突起伸長の回復を促すために利用され得る。前記組成物における変異型プロテオグリカン分解蛋白質またはポリペプチドが望みの程度まで精製されると、それらは、SCI投与に対して、或いはアグリカンのような適切な基質におけるin vitroの神経突起伸長を促す組成物のスクリーニングアッセイに対して適切な生理学的担体または賦形剤に懸濁または希釈されてもよい。SCIモデルでは、ラットにおけるコンドロイチン分解酵素の有効なくも膜下腔投与が14日間、隔日で約0.06単位であった。70キログラムのヒトに対する用量は、約17単位と考えられる。約100単位/ミリグラムでは、これが約170マイクログラムに相当する。20単位までの用量はラットなどの哺乳類被験動物で安全であるように見える。組成物にはプロテオグリカン分解変異型ポリペプチド、好ましくは変異型コンドロイチン分解酵素ポリペプチド、さらにより好ましくは欠損変異型コンドロイチンポリペプチドを含んでもよい。これらの組成物には、他のプロテオグリカン分解分子とそれらの欠損および/または置換変異体、神経突起成長阻害剤の作用を遮断する分子、神経突起または軸索の接着、診断、治療、または融合タンパク質の一部として前記プロテオグリカン分解分子変異体を促進する分子を含んでもよい。前記混合物または融合蛋白質は担体または医薬品として認められる賦形剤に追加され、通常は被験動物1μg〜500mg/kgの範囲の濃度で注入されうる。前記薬物の投与はボーラス投与、静脈内投与、連続注入、インプラントからの持続的放出、または徐放性製剤により行うことができる。注入による投与は、筋肉内、腹膜、皮下、静脈内、くも膜下腔内に行うことができる。経口投与には錠剤またはカプセル剤を含んでもよく、好ましくは前記経口投与剤は1日1回または2回投与用の徐放性製剤である。経皮投与は、1日1回とすることができ、好ましくは1日1回未満の投与とする。前記ヒト患者または他の哺乳類被験動物に対する投与は、前記患者で自律神経系または運動神経系機能の測定可能な改善が達成されるまで継続してもよい。
【0046】
これらを含む前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドまたは融合ポリペプチドは、遺伝的に修飾された細胞により、発現または分泌されてもよい。前記表現された欠損または置換プロテオグリカン分解ポリペプチドま或いは融合ポリペプチドは、治療組成物用に取り出し、精製してもよく、または前記遺伝的に修飾された細胞は、遊離状態またはカプセル剤として、CNS障害またはその付近に、または前記治療分子または診断分子の制御された拡散が望ましい組織で移植される可能性がある。変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドを発現した変異型核酸は、置換コンドロイチン分解酵素ABCIのポリペプチドであり、リーダーアミノ酸配列がないポリペプチドをコードしたコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:22および28)、コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:21)の変異型ポリペプチドNΔ120 CΔ120をコードしたコンドロイチン分解酵素B核酸変異体(配列ID番号:21)、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:11)の変異型ポリペプチドNΔ50 CΔ275をコードしたコンドロイチン分解酵素AC核酸変異型(配列ID番号:19)などの限定のない実例で説明されている。融合核酸の例には、制限なく、TAT欠損変異型コンドロイチン分解酵素ABCI融合DNAコンストラクト(配列ID番号:41)を含む。別の例は、発現されたポリペプチド(配列ID番号:44)のTAT−コンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ60(配列ID番号:43)の核酸であろう。
【0047】
前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドが、CSPGsと共に細胞または組織に投与された場合、CSPGsの分解は、神経突起伸長を遮断する抑制分子を除去し、患部の神経突起の再生を可能にする。CSPGの除去もCNSの可塑性を促す。例えば、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)、およびコンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)の完全長のポリペプチドは、それぞれCSとDSを分解し、その結果、不飽和硫酸二糖類を生じる。コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)は、CSの多糖類の骨格において、N−アセチルガラクトサミンとグルクロン酸との間にある1,4グリコシド結合でCSを開裂する。開裂は、ランダムで内側から溶解する(endolytic)作用パターンでβ−除去を介して起こる。コンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)は、DSの多糖類の骨格にある1,4ガラクトサミンイズロン酸結合を開裂する。CSおよびDSの開裂は、これらの酵素メカニズムと哺乳類GAG分解酵素を区別するβ−除去プロセスを介して起こる。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)、コンドロイチン分解酵素ABCII(配列ID番号:27)は、CSおよびDSの両方を開裂するエキソ−およびエンド−リアーゼである。グリア性瘢痕からCSとDSを除去すると、損傷部位への神経突起伸長再生が可能となり、可塑性を促す。例えば、図2に示されている前記プロテオグリカン分解分子、コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:5)、様々な変異型コンドロイチン分解酵素AC(配列ID番号:6〜11)は、様々な量でモデルプロテオグリカン基質を分解する。同様の結果が、図6におけるコンドロイチン分解酵素B(配列ID番号:12)と実例となる変異体(配列ID番号:13〜17)でin vitro酵素電気泳動により示されている。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)などのプロテオグリカン分解分子が外傷性脊髄損傷があるラットにおいて機能回復を改善し、脳組織へのモデル化合物の拡散を促すため、前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドおよびそれを含む組成物は、外傷性脊髄損傷があるラットなどの哺乳類被験動物で機能回復を改善させることもでき、脳組織へのモデル化合物の拡散を促すこともできると予想することが妥当である。
【0048】
神経細胞の再生と患部CNSの可塑性回復により、運動神経系機能と感覚神経系機能を回復させることができる。臨床的に関連性のある改善は、検出可能な改善から神経機能の障害または損失の完全回復まで幅があり、個々の患者と損傷によって異なる。機能的な回復の度合いは、脊柱病変にコンドロイチン分解酵素を投与後、皮質脊髄路伝導の改善、テープ除去の改善、梁の歩行、格子の歩行、脚の置き方が改善することで証明されうる。機能改善の指標として、運動技術の改善、及び自律神経機能、すなわち、腸、膀胱、感覚、性機能も、機能的改善の指標として利用することができ、これは本発明の前記組成物における分子構造と構成成分に関連するものである。
【0049】
プロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損または置換変異型のコードを含む一連のポリヌクレオチドは、鋳型としてプロテオグリカンの完全長のcDNAを利用して、PCRによって作成され、E.Coliの発現に利用されるNdeIおよびBamHI部位で、pET15bなどの発現ベクターへクローニングすることができる。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)の遺伝子発現を誘導後、前記細菌は超音波処理により溶解させ、Triton X−114/PBSなどの界面活性剤を用いて変異型ポリペプチドを同時に抽出することができる。組み換え型プロテオグリカン分解ポリペプチドの大部分が細菌細胞溶解物の細胞質分画に認められ、コンドロイチン分解酵素精製プロトコールを利用し、高い収率で高い活性の前記変異型プロテオグリカン分解酵素を得ることができる。このプロトコールは、His−タグ化変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドに選択的に結合する抗His抗体を有するカラムによる精製を含み、捕捉段階として陽イオン交換クロマトグラフィー、及び研磨段階としてゲル濾過を含むことができる。これらの段階の後、例えばIntercept Q、ミリポア(Millipore)に陰イオン交換膜濾過を利用し、エンドトキシンと宿主DNAの除去を行うことができる。濾過後、前記プロテオグリカン分解変異型ポリペプチドをpH 8.0の揮発性緩衝液に透析し、凍結乾燥することができる。前記最終生成物は、長期間保存では−70で安定であると予想される。前記精製した塩基性プロテオグリカン分解変異型ポリペプチドのpIは、粗細胞溶解物からのサンプルIEF−PAGE分析により決定することができる。
【0050】
様々な分析法は、プロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損または置換変異体の組み換え体の酵素活性を、コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)のような完全長のプロテオグリカン分解分子、または市販されている形の前記酵素などの酵素活性と比較するために利用され得る。さらに、前記方法は、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドの一部を含む、融合蛋白質の活性を評価するように適合され得る。プロテオグリカンの分解により反応生成物が生産されることによる吸光度の変化を測定する、認められた分光光度法を利用し、特異的な活性測定を行ってもよい。サイズ排除クロマトグラフィーを利用し、前記変異型酵素の流体特性を比較することができる。
【0051】
一種の酵素電気泳動法を利用し、前記成熟プロテオグリカン分解酵素を特徴付けることができ、前記成熟プロテオグリカン分解特性の特徴に適応させてもよい。コンドロイチン分解酵素ABCIなどのプロテオグリカン分解分子の基質であるアグリカン存在下で、ポリアクリルアミドゲルを重合させることができる。前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドの酵素サンプルは、SDSの存在下、電気泳動によりアグリカンを充填したゲル上で分解させてもよい。次に前記ゲルは、前記SDSが抽出でき、前記酵素が再び折り畳むことができる再生段階に適用することができる。前記再び折り畳まれた酵素は、活性を回復し、次に前記ゲル内でアグリカンを消化し、前記ゲルの部分に生じた炭水化物の喪失は炭水化物特異的な染色で可視化することができる。同様の前記ゲル内の炭水化物の喪失は、前記変異型プロテオグリカン分解分子の同等の活性体と濃度で予想されるだろう。遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIの場合、その活性が酵素電気泳動像で明確なスポットとして可視化される可能性がある。前記酵素電気泳動法は前記分光光度的分析と一致している。
【0052】
変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドによるCSPG消化の結果、遊離される四硫酸二糖および六硫酸二糖(それぞれΔ4DSおよびΔ6DS)を検出するため、HPLC法を利用してもよい。前記2種類の二糖類は、陰イオン交換クロマトグラフィーで効果的に分離することができる。クロマトグラムからΔ4DSおよびΔ6DSを定量化するHPLCアッセイでは、HPLCに注入される量に比例した直線関係が得られると予想される。CSPG消化によるΔ4DSおよびΔ6DSの産生は、分光光度法で決定されるとおり、コンドロイチン分解酵素特異的な活性の量と直接関連する。このアッセイは、様々な基質の変異型プロテオグリカン分解ポリペプチド消化により放出されたΔ4DSおよびΔ6DSを、独立して定量する高感度の正確な方法として利用することができ、それらを含む変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドと融合蛋白質の活性を定量するためにも利用することができる。
【0053】
変異型プロテオグリカン分解ポリペプチド活性を特徴付けるために実施することができる別の機能的アッセイでは、後根神経節(DRG)のニューロンがアグリカン、または欠損または置換変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドで処理したアグリカンで培養される。アグリカンで培養されたニューロンは、培養皿および伸展した軸索に接着できなくなることが予想される。対照的に、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドで処理したアグリカンで培養されたニューロンは、組成物または融合ポリペプチドの一部として、前記表面または伸展したニューロンに接着することが予想される。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)で観察される広範な軸索の成長は、軸索の成長に対してより許容状態の基質を作るアグリカンの中心蛋白質で炭水化物が消化されるためと考えられる。
【0054】
本発明の様々な観点が、以下の限定されない実施例を参照して理解されうる。
【実施例1】
【0055】
この机上の実施例は、組成物にプロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損または置換変異体を用い、細胞および組織への分子の拡散を示している。
【0056】
成体Sprague Dawleyラットの脳は頭蓋から除去してもよく、半球を緩衝液のみまたは(配列ID番号:9)NΔ50 CΔ200 AC(T74−T500)蛋白質などの変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドを約33U/ml含む緩衝液に2時間37℃で浸してもよい。半球をすすぎ、直ちに70%エタノール中のエオシンY(Sigma)またはコンゴレッド(Sigma)の飽和溶液などの染料につけることができる。一片の組織を切断し、画像をスキャナに取り込んでもよい。変異型プロテオグリカン分解分子のプロテオグリカン分解活性、および同型の組織への治療および診断分子の期待される浸透または拡散の指標として、前記脳組織への染料の浸透を利用してもよい。
【実施例2】
【0057】
この机上の実施例は、例えばプロテオグリカン分解ポリペプチドの欠損および/または置換変異体を含む、コンドロイチン分解酵素ABCIの欠損変異体または融合蛋白質など、変異型プロテオグリカン分解分子の活性を測定するために修飾されうる、コンドロイチン分解酵素ABCIのアッセイプロトコールを示している。
【0058】
プロテオグリカン分解分子または融合蛋白質の触媒活性による反応生成物の産生は、波長232nmでの前記プロテオグリカン分解生成物の吸光度測定により、決定することができる。典型的な反応混合物は、基質(5μlの50mMコンドロイチンC(MW 521)、コンドロイチン6 SO4、またはデルマタン硫酸)および1.5μlのコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)または(配列ID番号:2)などのコンドロイチン分解酵素の変異体と混合した、120μlの反応混合物(40mM Tris、pH 8.0、40mM酢酸ナトリウム、0.002%カゼイン)から成る。約120μlの反応混合物アリコートは、3分以上30〜37℃で調整することができる。前記生成物の形成は、分光計を用い、232nmの波長での時間の関数として、232nmで吸光度の上昇としてモニターする。前記反応は0.1% SDSを加えて停止させ、その後5分間沸騰させてもよい。前記観察された活性は、前記反応で形成されたC4−C5二重結合のモル吸光計数を利用し、単位(1分当たりに生成した生成物のμmoles)に変換してもよい(3800cm−1min−1)。
【0059】
前記反応生成物のモル吸光計数を知ることによって、0.002%のカゼインおよび追加されたコンドロイチン基質と共に既知量のコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)または他の変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドを120μlの反応混合物に追加すると、経時的に232nmの読み値で反応生成物の吸光度の変化を測定し、前記変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドの特異的活性をumol/min/mgで決定することができる。これらの約450μmole/min/mgのアッセイ条件で、Seikagakuのコンドロイチン分解酵素ABCIには特異的活性がある。
【0060】
コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:37)などのプロテオグリカン分解分子はCNS組織に存在する軸索成長抑制コンドロイチンを消化し、外傷性脊髄損傷を有するラットで機能的回復を改善する。プロテオグリカン分解活性を示した(配列ID番号:11)NΔ50 CΔ275 AC(T74−T426)ポリペプチドなどのプロテオグリカン分解分子変異体は、一部神経の再生を示し、可塑性を刺激し、組織への薬物の拡散に有用であると予想することは妥当である。前記投与方法、投与時期、用量を実行し、神経突起伸長と可塑性を促すことにより、前記CNSの障害の機能的回復を高める。(配列ID番号:11) NΔ50 CΔ275 AC(T74−T426)蛋白質などのプロテオグリカン分解分子の欠損または置換変異体を投与すると、CSPGsの分解により組織中の抑制分子を除去することができ、これが薬物の拡散を遮断し、神経突起伸長を遮断し、神経突起の再生または患部への他の治療薬を促すと予想することは妥当である。患部CNSへの前記神経細胞の再生と可塑性により、運動機能と感覚機能を回復させてもよい。臨床的に関連性のある改善は、検出可能な改善から神経機能の障害または損失の完全回復まで幅があり、個々の患者と損傷によって異なる。
【実施例3】
【0061】
この実施例では、コンドロイチン分解酵素の欠損変異体が生物学的に活性であることを示している。
【0062】
組み換え技術によって作られたコンドロイチン分解酵素ACおよびBは、アグリカンなどの抑制基質の境界関門を克服することでin vitroで効果を示し、ラットの皮質ニューロンの神経突起を拡張する。前記損傷部位への前述の酵素の効果的輸送を促すため、これらのコンドロイチン分解酵素の欠損変異体を調整し、CSPGsを分解することができる最小限のサイズのポリペプチドを決定した。これらの変異体すべての開裂活性は、基質としてアグリカンを用い、酵素電気泳動アッセイによりin vitroでスクリーニングされた。コンドロイチン分解酵素ACの切断されたポリペプチド(nΔ50−cΔ275)(配列ID番号:11)は、アミノ末端およびカルボキシ末端からそれぞれ50および275アミノ酸が欠損しており、完全長の蛋白質75kDaと比べ、分子量38kDaを有し、図4(B)の酵素電気泳動法で検討したとおりの活性を保持する、ほぼ最小限のサイズの変異型コンドロイチン分解酵素ACであることが分かった。さらに、より小さい変異体でも、コンドロイチン分解酵素Bの欠損変異体(nΔ 120−cΔ 120)(配列ID番号:17)は、アミノ末端とカルボキシ末端それぞれから120アミノ酸が欠損しており、完全長の蛋白質52kDaと比べ、分子量26kDaを有し、図6(B)の酵素電気泳動法でも活性を保持していることも示された。これらのさらに小さな欠損変異体は、前記変異型酵素と比べ、免疫原性が低く、同様または高い組織浸透能を有する潜在的治療薬として利用することができ、脊髄損傷の治療に利用することができる。
【0063】
一連のコンドロイチン分解酵素ACおよびBの欠損変異体は、鋳型としてコンドロイチン分解酵素ACおよびBの完全な長さのcDNAを利用してPCRで生成され、NdeIおよびBamHI部位で、前記pETl5b発現ベクターへクローニングされた。検出および精製を簡単にするヒスチジン−タグにより、完全長の欠損変異体が作成された。これらのcDNAのそれぞれは、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導され、抗His抗体(Novagen)を用いたウエスタンブロット法により、前記発現が確認された。図3(A)は、様々な非制限欠損変異体を概略的に示し、図3(B)は、抗ヒスチジン−タグのウエスタンブロット法によりこれらのコンドロイチン分解酵素AC変異型ポリペプチドの発現の確認法を示している。図5および6は、コンドロイチン分解酵素Bの欠損で同じ所見を示している。ウエスタンブロットは、予想されるサイズの蛋白質を示している。欠損変異体の酵素電気泳動PAGEは、基質消化の強いバンド(左)を示し、炭水化物染色は陰性である。
【0064】
酵素電気泳動法:SDS−ポリアクリルアミドゲルを注ぎ、アグリカン(85μg/ml)をその中に重合させた。コンドロイチン分解酵素ACおよびBの欠損変異体の粗抽出物を37℃で一晩反応、再生させた。分離後、前記ゲルを0.2%セチルピリジニウムで90分間、室温でインキュベートした。前記コンドロイチン分解酵素による前記プロテオグリカンの消化は、0.2%Toludene Blueのエタノール−HO−酢酸(50:49:1 v/v/v)溶液を用いたゲルで30分染色することで可視化し、エタノール−HO−酢酸(50:49:1 v/v/v)で脱染した。脱染後、前記ゲルを暗所で一晩50μg/ml Stains−allの50%エタノール溶液でインキュベートし、HOで脱染している。前記ゲルに明確なバンドがあることは、前記CSPGのコンドロイチン分解酵素による炭水化物が消化され、中心蛋白質が未染色のまま残っていることを示している(図4および図6)。
【実施例4】
【0065】
この実施例では、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドに対するHisタグの連結について説明する。
【0066】
前記変異体でN末端から特定数のアミノ酸が欠損し、プロテオグリカン分解活性を維持した、コンドロイチン分解酵素ABCI酵素の欠損変異体が作成されうる(配列ID番号:2〜4)。これらのN末端の欠損は、N末端に接着したヒスチジンタグを保存しているが、同様にタグ化した完全長のコンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)は、発現後、前記ヒスチジンタグを保存していなかった。
【0067】
例えば、コンドロイチン分解酵素ABCIの触媒的に活性な欠損変異体は、図7で示した成熟ABCI蛋白質のN末端から、それぞれ20および60アミノ酸を欠損するように調整されうるが、これだけに限らない。コンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ60−CΔ80(配列ID番号:4)などのN末端およびC末端の欠損両方を持つ変異型ポリペプチドも作ることができる。
【0068】
N末端融合キメラ蛋白質の作成に、これらのコンドロイチン分解酵素の欠損変異体および他のプロテオグリカン分解分子の変異体を利用してもよい。アッセイではコンドロイチンを分解するこれらの融合ポリペプチドにより検査し、これを利用して、前記基質特異性、基質の結合、組織浸透について、組成物と融合蛋白質中の成熟ABCIと様々な欠損変異体の効果を決定することができる。変異型プロテオグリカンポリペプチドまたは融合ポリペプチドの活性を特徴付けるために実施することができる機能的アッセイには、これらを含む。この機能的アッセイでは、後根神経節(DRG)ニューロンが、アグリカンまたは変異型プロテオグリカンポリペプチドまたは前記変異体を含む融合ポリペプチドで培養されうる。アグリカンで培養されたニューロンは、培養皿および伸展した軸索に接着できなくなることが予想される。対照的に、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドまたは前記変異体を含む融合ポリペプチドで処理したアグリカンで培養されたニューロンは、組成物または融合ポリペプチドの一部として、前記表面または伸展したニューロンに接着することが予想される。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1または37)などのコンドロイチン分解酵素で観察される広範な軸索の伸長は、軸索の成長に対してより許容状態の基質を作るアグリカンの中心蛋白質で炭水化物が消化されるためと考えられる。
【実施例5】
【0069】
この机上の実施例では、未変性の蛋白質構造を有するが、プロテオグリカン分解触媒活性がないコンドロイチン分解酵素ABCIの変異型について示している。
【0070】
この変異型は、バイオアッセイおよびSCI試験のヌル(空値)またはネガティブコントロールとして調整されてもよい。コンドロイチン分解酵素ABCIの結晶構造に基づき、推定上の活性部位で触媒活性をノックアウトする、H501aおよびY508a(配列ID番号:36)に指定される部位特異的変異体を調整することができる。そのような変異体は、触媒活性とSECの不活化を検討され、野生型酵素と比較することができる。ヌル活性変体型を利用し、バイオアッセイおよび最終的にはSCI動物研究で利用するための様々なプロテオグリカン分解融合蛋白質のネガティブコントロールを提供することもできる。
【実施例6】
【0071】
この実施例では、本発明のポリペプチドからの置換および欠損の両方を含む、変異型プロテオグリカン分解ポリペプチドの例を示している。
【0072】
コンドロイチン分解酵素ABCI配列(配列ID番号:37)は、開示された成熟コンドロイチン分解酵素ABCIペプチドの配列であり、リーダー配列を含む。コンドロイチン分解酵素ABCI配列(配列ID番号:37)は(配列ID番号:1または29)と類似であるが、(配列ID番号:1)は(配列ID番号:37)の最初の25アミノ酸を有しておらず、(配列ID番号:37)の154および195位のアミノ酸は、(配列ID番号:1)および(配列ID番号:37)が一列になっている場合に同様の位置に見られるこれら(の置換)とは異なる。
【0073】
(配列ID番号:38〜40)は、(配列ID番号:37)ポリペプチドのNまたはC末端と(配列ID番号:1)に対する置換による欠損体を示している。これらの変異型ポリペプチドは、NΔ20(配列ID番号:38)、NΔ60(配列ID番号:39)、およびNΔ60 CΔ80 (配列ID番号:40)である。
【実施例7】
【0074】
この実施例は、これだけに限らないが、HIV TAT蛋白質のポリペプチド部分などに対する膜の形質導入ポリペプチドと融合する本発明の変異型ポリペプチドの、限定されない実例を示している。前記融合ポリペプチドの完全な配列リストは、本明細書に含まれる配列リストで提供されている。
【0075】
TAT−コンドロイチン分解酵素ABCI−nΔ20のヌクレオチド配列(配列ID番号:41)の一部が以下に示されており、コンドロイチン分解酵素ヌクレオチドと結合した部分に下線を引いてハイライトし、TAT配列ヌクレオチドを示している。
【0076】
【化1】

【0077】
前記核酸配列のこの部分の下線を引いたヌクレオチドは、コンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ20核酸の5’に結合したTAT配列(配列ID番号:47)を示している。
【0078】
TAT−コンドロイチン分解酵素ABCI−nΔ20(配列ID番号:42)のアミノ酸配列の一部が以下に示され、コンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ20(配列ID番号:2)のN末端に下線を引いてハイライトし、TAT配列のアミノ酸を示している。
【0079】
【化2】

【0080】
TAT−ABCI−NΔ60(配列ID番号:43)のヌクレオチド配列の一部が以下に示され、下線を引いてハイライトしたN−末端TAT(配列ID番号:49)ヌクレオチドを示している。
【0081】
【化3】

【0082】
TAT−ABCI−nΔ60(配列ID番号:44)のアミノ酸配列の一部を以下に示し、コンドロイチン分解酵素ABCI−NΔ60(配列ID番号:3)のN末端で下線を引いてハイライトしたTAT配列(配列ID番号:50)を示している。
【0083】
【化4】

【0084】
ABCI−TAT−C (配列ID番号:45)のヌクレオチド配列の一部が以下に示され、下線を引いてハイライトしたC−末端TAT配列ヌクレオチドを示している。コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:28)のストップコドンをTAT配列と置き換え、TAT配列の3’末端で置き換えた。
【0085】
【化5】

【0086】
ABCI−TAT−C (配列ID番号:46)のアミノ酸配列の一部を以下に示し、成熟コンドロイチン分解酵素ABCI(配列ID番号:1)のC末端でコンドロイチン分解酵素ポリペプチドと結合したTAT配列を下線を引き、ハイライトして示している。
【0087】
【化6】

【実施例8】
【0088】
この実施例は、コンドロイチン分解酵素の核酸とポリペプチドの配列を示しており、本発明の変異型で欠損または置換に用いてもよい。これらの配列では、ヌクレオチドレベルおよびアミノ酸レベルの両方で、発表された配列との不一致が太字でハイライトされている。これらは本発明の置換の実例である。
【0089】
【化7−1】

【0090】
【化7−2】

【0091】
【化7−3】

【0092】
【化7−4】

【0093】
【化7−5】

【0094】
【化7−6】

【0095】
前記ヌクレオチドレベルの不一致である太字部分は、前記アミノ酸レベルで98.3%同一であり、前記置換された残りは以下に太字でマークされている。
【0096】
【化8−1】

【0097】
【化8−2】

【0098】
【化8−3】

【0099】
【化9−1】

【0100】
【化9−2】

【0101】
【化9−3】

【0102】
【化9−4】

【0103】
【化9−5】

【0104】
【化9−6】

【0105】
前記アミノ酸レベルでの配列同一性が以下に示されている。
【0106】
【化10−1】

【0107】
【化10−2】

【0108】
【化10−3】

【0109】
【化10−4】

【0110】
【表1】

【0111】
本発明は、特定の好ましい実施形態を参照することによって、考えられる詳細を記載したが、他のバージョンも可能である。従って、添付された請求項の要旨と範囲は、この記載によって限定されるべきではなく、好ましいバージョンが本明細書に含まれるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンを分解する精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチドであって、
プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体を有し、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、コンドロイチナーゼAC(配列ID番号:5)の欠損変異体の配列を有し、この欠損変異体は前記コンドロイチナーゼACのN末端から約1〜約100のアミノ酸が欠損によって切断されているものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のコンドロイチナーゼACの精製した欠損変異体であって、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、配列ID番号:8、配列ID番号:9、配列ID番号:10、及び配列ID番号:11から選択されるものである
ことを特徴とする、欠損変異体。
【請求項3】
プロテオグリカンを分解する精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチドであって、
プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体を有し、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、コンドロイチナーゼAC(配列ID番号:5)の欠損変異体の配列を有し、この欠損変異体は前記コンドロイチナーゼACのC末端から約1〜約275のアミノ酸が欠損によって切断されているものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチド。
【請求項4】
請求項3記載のコンドロイチナーゼACの精製した欠損変異体であって、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、配列ID番号:6、配列ID番号:7、配列ID番号:8、配列ID番号:9、配列ID番号:10、及び配列ID番号:11から選択されるものである
ことを特徴とする、欠損変異体。
【請求項5】
プロテオグリカンを分解する精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチドであって、
プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体を有し、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、コンドロイチナーゼAC(配列ID番号:5)の欠損変異体の配列を有し、この欠損変異体は前記コンドロイチナーゼACのN末端から約1〜約100のアミノ酸とC末端から約1〜約275のアミノ酸とが欠損によって切断されているものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチド。
【請求項6】
請求項5記載のコンドロイチナーゼACの精製した欠損変異体であって、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、配列ID番号:11である
ことを特徴とする、欠損変異体。
【請求項7】
プロテオグリカンを分解する精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチドであって、
プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体を有し、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、コンドロイチナーゼAC(配列ID番号:5)の欠損変異体の配列を有し、この欠損変異体は前記コンドロイチナーゼACのN末端から約1〜約50のアミノ酸が欠損によって切断されているものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチド。
【請求項8】
請求項7記載のコンドロイチナーゼACの精製した欠損変異体であって、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、配列ID番号:8、配列ID番号:9、及び配列ID番号:11から選択されるものである
ことを特徴とする、欠損変異体。
【請求項9】
プロテオグリカンを分解する精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチドであって、
プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体を有し、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、コンドロイチナーゼAC(配列ID番号:5)の欠損変異体の配列を有し、この欠損変異体は前記コンドロイチナーゼACのN末端から約1〜約50のアミノ酸とC末端から約1〜約275のアミノ酸とが欠損によって切断されているものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ変異型ポリペプチド。
【請求項10】
請求項9記載のコンドロイチナーゼACの精製した欠損変異体であって、
前記プロテオグリカン分解ポリペプチドの変異体は、配列ID番号:11である
ことを特徴とする、欠損変異体。
【請求項11】
請求項1、3、5、7、及び9のいずれか記載の変異型コンドロイチナーゼを有する融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1、3、5、7、及び9のいずれか記載の精製コンドロイチナーゼであって、薬学的に許容可能な賦形剤を有する
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ。
【請求項13】
請求項1、3、5、7、及び9のいずれか記載の精製コンドロイチナーゼであって、担体を有する
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ。
【請求項14】
請求項1、3、5、7、及び9のいずれか記載の精製コンドロイチナーゼであって、このコンドロイチナーゼは、さらに、
神経突起成長抑制剤の活性を阻害する分子、神経突起の接着を促進する分子、治療用分子、診断用分子、若しくはこれらの組み合わせを有するものである
ことを特徴とする、精製コンドロイチナーゼ。
【請求項15】
請求項1、3、5、7、及び9のいずれか記載のコンドロイチナーゼを発現する遺伝子組換え細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−187685(P2010−187685A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−75727(P2010−75727)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2006−533213(P2006−533213)の分割
【原出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【出願人】(505425351)アコーダ セラピューティクス、インク. (12)
【Fターム(参考)】