説明

CVケーブルの残留電荷測定方法。

【課題】 測定時間を短縮しながら、CVケーブルの劣化診断を精度よく行うことができる残留電荷の測定方法を提供すること。
【解決手段】 直流高電圧発生装置1よりケーブル3の導体−遮蔽間に直流高電圧を課電する。ついで、ケーブル導体を対地へ抵抗Rを介して接地した後に、直接接地をする。その後、試験用変圧器2により、ケーブル導体−遮蔽間に交流電圧を1回課電して残留電荷信号を測定する。得られた残留電荷信号を、予め用意した任意のステップ回数により得られる残留電荷信号を格納したデータべースのデータを用いて、任意の電圧ステップ成分に対応する残留電荷信号に分離し、この波形分離した残留電荷信号を用いて、水トリーの劣化診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水トリー劣化したCVケーブルの絶縁劣化を診断するための残留電荷測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水トリー劣化したCVケーブルの絶縁劣化診断法として、残留電荷測定方法が知られている。残留電荷測定方法は、直流電圧を課電することによりCVケーブルの水トリーに蓄積した電荷を測定し、ケーブル絶縁体の残存性能を非破壊的に診断するものであり、CVケーブルの劣化診断方法として注目されている。
残留電荷測定においては、当該ケーブルに所定の直流電圧を課電し、一旦接地をした後に交流電圧を課電する。水トリーがケーブル絶縁体中に存在している場合には、直流電圧を課電することにより、水トリー部に電荷が蓄積する。
この種の電荷は、接地をしてケーブル導体・遮蔽間を閉回路とした際にも容易に放出されるものではない。しかしながら、その後に交流電圧を課電することにより、これらの電荷は容易に放出される。これら放出された電荷を、ローパスフィルタを用いることにより、直流電流成分として検出する。
【0003】
残留電荷法においては、幾つかの評価手法が提案されており、その1つに交流電圧をステップ状に課電する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載されるものは、図10に示すように、直流電圧を課電した後に、交流電圧をステップ状に昇圧していき、残留電荷信号が検出された最高の交流課電電圧を劣化の指標として用いて、水トリー劣化程度を診断するものである。
以下では、上記交流電圧をステップ状に課電する手法をステップ課電法と呼び、ステップを設けずに交流電圧を1回課電して残留電荷を測定する手法を1回課電法と呼ぶこととする。
【特許文献1】特開2001−349922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来においては、上述したように所定の交流電圧を1回課電することにより残留電荷信号を得る方法(1回課電法)や、ステップ状に課電して残留電荷信号を得る方法(ステップ課電法)が知られている。
この内、ステップ状に課電して残留電荷信号を得る方法は、複数回の交流電圧課電が必要となる。当該手法によれば、従来の1回課電する手法において課題であった線路亘長による影響を低減することは可能であるが、測定に費やされる時間がステップの回数分必要である。
また、交流電圧による残留電荷信号の分類は連続量ではない。このため、ステップの回数が少ないと、最終的に得られる判定結果の診断精度は低下する。原理的にはステップ回数を多くすることにより診断精度は向上するが、ステップ回数を多くすることにより、測定時間に費やす時間が長くなるとともに、各交流電圧を課電した際に得られる残留電荷信号は小さくなってしまい、逆に診断精度が低下することになる。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであって、その目的は、測定時間を短縮しながら、CVケーブルの劣化診断を精度よく行うことができる残留電荷の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
図1に1回課電法により、ステップ課電法の最高課電電圧までの交流電圧を印加して得られる残留電荷信号と、ステップ課電法により得られる残留電荷信号の各成分波形の総和の波形を示す。
なお、測定毎に測定波形には若干の差が生じるが、ここでは、波形の形状に注目するために、図1においては、波形の縦軸を各波形の最大値で正規化してある。
図1より、1回課電法により得られる波形はステップ課電法により得られる各波形の和の波形とほぼ一致しており、1回課電法に得られる波形は、ステップ課電法により得られる各波形の総和の波形であると言える。逆に、1回課電法により得られる波形は、ステップ課電法により得られる波形に分離することが可能であると言える。
【0006】
本発明ではこれを利用し、残留電荷信号が検出される最高の交流電圧をCVケーブルに1回課電法により課電して残留電荷信号を獲得し、その波形を任意の電圧ステップ成分に対応する残留電荷信号に分離する。これにより、交流電圧を1回課電するだけで、ステップ課電法により得られる残留電荷信号の各波形に対応した残留電荷信号を得ることができる。
上記波形の分離は、任意のステップ回数で交流電圧を変化させることにより得られる残留電荷信号を格納したデータベースを予め用意しておき、このデータベースに格納された各交流印加電圧に対する残留電荷信号に基づき、残留電荷信号が得られる最高の交流電圧を1回課電したことにより得られた残留電荷信号から波形分離する。そして、この波形分離した残留電荷信号を用いて、水トリーの劣化診断を行う。
これにより、任意のステップで交流電圧を印加した場合と同等の残留電荷信号を得ることができ、短い測定時間で精度よくCVケーブルの水トリー劣化の診断を行うことができる。
なお、残留電荷信号としては、電流信号あるいは当該信号の積分値である残留電荷量信号、いずれの場合でも本手法は適用できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)測定される残留電荷信号は、ステップ状に交流電圧を課電した際に獲得される信号の総和として得られ、これを波形分離して各交流印加電圧に対応した残留電荷信号を得ているので、ステップ状に交流電圧を課電することにより得られる診断と同等の診断が可能であり、精度よく劣化診断を行うことができる。
(2)交流電圧を1回課電するだけでよいので、ステップ状に交流電圧を課電する場合に比較して測定時間を大幅に短縮化することができる。
(3)予め用意しておくデータベースに格納したデータを、細かい交流電圧ステップとすることにより、診断精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施例の測定装置の概略構成を図2に示す。図2は、水トリーに電荷を蓄積させる手段として、直流電圧を用いた場合を示している。
課電装置としては、水トリーに電荷を蓄積させるための直流高圧発生装置1と、残留電化測定時に交流電圧を課電する試験用変圧器2と、切換えスイッチSWから構成される。 直流高圧発生装置1は、直流電圧もしくは直流電圧の代替となり得る波形の電圧を出力する。切換えスイッチSWの端子(a)は測定対象ケーブル3のケーブル導体に接続され、また、端子(b)は上記直流高圧発生装置1に接続され、端子(c)は上記試験用変圧器2の交流電圧出力端子に接続され、端子(d)は接地され、端子(e)は抵抗Rを介して接地されている。
【0009】
図2において、残留電荷の測定は次のように行われる。
初めに、端子(a)と(b)を接続して直流高圧発生装置1より、測定対象ケーブル3のケーブル導体−遮蔽間に所定の電圧を所定の時間課電する。所定の時間が経過した後に、端子(a)を端子(e)へ接続して導体を対地へ抵抗Rを介して接地した後に、端子(a)を端子(d)に接続して直接接地をする。
その後、端子(a)を端子(c)に接続して試験用変圧器2により、ケーブル導体−遮蔽間に所定の交流電圧を課電して、残留電荷信号を測定する。
測定信号線は試験用変圧器2の低圧側より取り出し、ローパスフィルタ4を介して対地へ接地されている。測定電流信号は、商用周波数をカットするためのローパスフィルタ4を介して、電圧信号として増幅器5へと入力され、増幅器5の出力から残留電荷信号が得られる。
【0010】
上記手順において、本発明においては、直流電圧を課電した後の交流電圧課電の際にはステップを設けずに、所定の最高交流課電電圧を1回課電する。すなわち、1回課電法により残留電荷信号を得る。
得られた残留電荷信号を、予め用意した任意のステップ回数により得られる残留電荷信号を格納したデータベースのデータを用いて波形分離する。この波形分離は、例えばパーソナルコンピュータのソフトウェア等を用いて自動的に行うことができる。この結果より、各交流課電電圧に対する残留電荷信号成分が獲得される。当該残留電荷信号成分を用いた劣化診断については、例えば前記特許文献1などに記載される手法を用いることができる。
【0011】
次に、上記波形分離方法について説明する。
図3はステップ課電による残留電荷信号の発生の様子を示す概念図である。
同図(a)は交流電圧をV1 、V2 の2ステップで課電した場合を示しており、同図(b)(c)はその際に測定される残留電荷信号を示している。なお、回路時定数などの時間遅れについては無視している。
1 の交流電圧を課電した場合には、図3(b)に示す残留電荷信号が出現する。この際の波形は、交流電圧の課電を開始した直後(t0 )から出現し、V1 に到達した程度の時間領域で最大値を示す波形となる。
続いて、所定時間経過後V2 の交流電圧を課電した際には、既にV1 の交流電圧に対応する残留電荷信号は出現しているので、V2 まで電圧を昇圧する中で、V1 までの範囲には残留電荷信号は出現せずに、図3(c)に示すようにV1 以上の電圧となった時間(t1 )以降から出現し始める。
【0012】
図3に示すように、直流電圧を課電した後に、ステップを設けずにV2 まで交流電圧を課電した際に出現する残留電荷信号では、V1 以上になってから初めてV1 以上の交流電圧を要する残留電荷信号成分が出現することになる。このため、V1 以下の領域で出現する残留電荷信号における波形の立ち上がり部分は、ステップ状に課電した際にV1 を課電して出現する残留電荷信号の立ち上がりと同じとなる。
例えば、図4(a)に示すように交流電圧を2回に分けて印加した場合を想定し、まず、交流電圧V1 を印加することにより残留電荷信号S1 が得られ、次に交流電圧V2 を印加することにより残留電荷信号S2 が得られたとすると、交流電圧V2 を1回課電した場合に得られる残留電荷信号Sは、図4(b)に示すように上記残留電荷信号S1 ,S2 を合わせた波形となる。
【0013】
すなわち、残留電荷信号Sには上記残留電荷信号S1 に相当する波形S1 ' (同図のハッチング部分)が含まれており、波形Sの立ち上がり部分の波形は波形S1 と同様の形状となる。したがって、波形Sからまず波形S1 に相当する波形S1 ' を求め、ついで波形S1 ' を波形Sから差し引けば波形S2 に相当した波形S2 ' を求めることができる。
ここで、波形S1 ' のピーク値は分からないが、上述したように波形S1 と波形S1 ' の立ち上がりは同様な形状であるので、波形Sの立ち上がり部分(例えば70%程度)の形状がほぼ一致するように波形の大きさを調整し波形Sから波形S1 を分離する。
以上のようにすれば、交流電圧V2 を課電することにより得られる波形Sから、交流電圧V1 ,V2 を課電した場合に得られる残留電荷信号である波形S1 ,S2 を得ることができる。また、上記交流電圧V1 ,V2 と波形S1 ,S2 の関係を予めデータベースに格納しておけば、パソコン上で実行されるソフトウェアにより、上記波形分離を自動的に行うことができる。
【0014】
残留電荷信号波形の各交流電圧成分への分離は上記性質を利用して行われ、その手順は以下の通りである。
(1)事前に、任意のステップにおいて残留電荷信号波形を獲得しておく。便宜上、波形をS1 ,S2 ,S3 ,S4 ,S5 とする.
(2)ステップを設けずに、所定の最高の交流電圧を課電することにより残留電荷信号を獲得する。これをSとする。
(3)次に上記(2)にて獲得した波形において、S1 の立ち上がり部分の時間領域に着目して、S1 の立ち上がり波形とSの立ち上がり波形を比較する。そして、その誤差が最小となる様に波形S1 の大きさを変化させ、波形S中に存在する波形S1 に相似する波形S1 ’を決定する。
【0015】
(4)上記(3)の処理を行った後に、SからS1 ’を差し引く。差し引いた値をS’とする。
S’において、決められた大きさ以上ある場合には、当該波形にS2 以上の成分の存在することを意味することになり、それ以下の場合にはS’中にはS2 以上の成分が存在しないことになる。前者の場合には、(5)の操作を行う。
(5)次に、(1)で得た次ステップ信号S2 に相似するS2 ’を決定し、最終的にS’からS2 ’を差し引く。差し引いた波形の取り扱いは(4)に記述したものと同様である。
(6)S3 以上の成分が存在する可能性がある場合には、次のステップの波形成分に対して、順次(3)から(5)の操作を繰り返して波形の分離を行っていく。
【0016】
次に本発明の残留電荷測定方法による具体的例について説明する。
22kVCVケ−ブルにおいて、図5に示す様に、直流電圧を課電した後に、2.5kVステップにて、12.5kVまでステップ状に交流電圧を課電することにより得られる残留電荷信号を図6に示す。図6に示す様に、本試料は12.5kVまで残留電荷信号が確認されるものである。
また、図7に示す課電パターンにより、同試料に直流電圧を課電した後、ステップを設けずに、所定の最高課電交流電圧(12.5kV)まで昇圧することにより得られた残雷電荷信号を図8に示す。
【0017】
ベースデータに格納するデータとして例えば図6に示す波形のデータなどを用い、前述したように波形分離処理を行い、図7に示す波形を分離した結果得られた残留電荷量を図9に示す。同図の横軸は交流課電電圧、縦軸は正規化した残留電荷量である。同図では図6に示したステップ状に交流電圧を課電した場合に得られた残留電荷量とともに、波形分離した結果の残留電荷量を示しており、ハッチングで示したものはステップ状に課電した場合、白抜きで示したものは波形分離した結果である。
図9に示すように、図8の示した残留電荷量を上述したように波形分離した場合においても、交流電圧12.5kVまでの残留電荷成分を確認することができ、本発明の波形分離による方法が有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ステップ課電法による残留電荷信号の総和と1回課電法による残留電荷信号を示す図である。
【図2】本発明の実施例の測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】ステップ課電法による残留電荷信号の発生の様子を示す概念図である。
【図4】本発明の波形分離を説明する図である。
【図5】ステップ課電法による課電パターンを示す図である。
【図6】ステップ課電法により獲得される残留電荷信号の波形例を示す図である。
【図7】1回課電法による課電パターンを示す図である。
【図8】1回課電法により獲得される残留電荷信号の波形例を示す図である。
【図9】ステップ課電法により獲得された残留電荷量と、1回課電法により獲得した残留電荷量を波形分離した結果を対比させ示した図である。
【図10】従来のステップ課電法による課電パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 直流高電圧発生装置
2 試験用変圧器
3 CVケーブル
4 ローパスフィルタ
5 増幅器
SW 切換えスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVケーブルに直流電圧あるいは直流電圧と同様な作用を有する電圧波形を課電した後に、所定の交流電圧を1回課電し、上記直流電圧課電時、あるいは直流電圧と同様な作用を有する電圧波形課電時に上記CVケーブルの水トリーに蓄積した電荷を放出させ残留電荷を測定するCVケーブルの残留電荷測定方法であって、
交流電圧を1回課電することにより得られた残留電荷信号を、予め用意した任意のステップで電圧を変化させて交流電圧を課電した際に獲得される各交流課電電圧に対する残留電荷信号に基づき波形分離し、交流電圧を1回課電することにより得られた残留電荷信号中に存在する、各交流印加電圧に対応する残留電荷信号成分を求める
ことを特徴とするCVケーブルの残留電荷測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−170200(P2008−170200A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1966(P2007−1966)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】