説明

Co化合物の回収方法

【課題】不純物として少なくともMn、Zn、および第2族元素を含有するCo水溶液から、不純物の混入が殆ど無い高純度のCo化合物を回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るCo化合物の回収方法は、不純物としてMn、Zn、および第2族元素を含有するCo水溶液に含まれるMn量に対して10〜90当量の酸化剤を添加した後、水溶液のpHを1.5〜2.3に調整してMnを沈殿除去する第一工程と、Mnを沈殿除去した後の水溶液に含まれるCo量に対して1.5〜3.5当量の酸化剤を添加し、水溶液のpHを1.0〜2.7に調整して三価以上のCo化合物を沈殿させる第二工程と、をこの順で含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mn、Zn、および第2族元素を不純物として含有するCo水溶液から、三価以上のCo化合物を、高純度で効率よく回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Coは、二次電池の正極材料、特殊鋼、磁性材料、触媒など幅広い分野に用いられる希少金属である。Coは、ニッケルや銅の製錬工程で発生する副産物から精製される他、使用済の二次電池正極材料、特殊鋼、磁性材料、触媒などの廃棄物からのリサイクルも行なわれている。
【0003】
上記の副産物や廃棄物などから金属Coを回収する方法としては、通常、これらを酸で溶解したCo水溶液を用い、pH調整剤などの各種薬剤による沈殿除去、溶媒抽出、電気分解などの方法が行なわれている。上記のCo水溶液には、Mn、Zn、第2族元素(例えば、MgやCa)などの複数の不純物が含まれているため、高純度の金属Coを得るために、上述した方法を単独または組み合わせて金属Coを回収している。
【0004】
不純物を含むCo溶液から高純度のCoを回収する方法として、例えば、特許文献1および2が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、Ca,Mgなどのアルカリ土類金属とCoを分離する方法が記載されている。詳細には、アルカリ土類金属を含む酸性のCo水溶液に対し、第一段階として水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を用いてpH6.5〜7.0に調整し、生成した水酸化Coの沈殿物を濾過し分離した後、第二段階として塩素ガスなどの酸化剤を濾液に添加しながら酸化還元電位を1000mV(Ag/AgCl電極基準)以上に制御して液に残存するコバルトイオンを三価に酸化しつつ、再びpH調整剤を用いてpH3.0〜4.2に調整し、得られた沈殿物を濾過する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、有機相での抽出および逆抽出挙動がCoと酷似しているMnおよびCuを不純物として含むCo溶液から、酸化中和法によってMnを除去し、Mn濃度の低いCo溶液を製造する方法が開示されている。詳細には、この文献には、Co溶液の酸化還元電位が900mV以上(Ag/AgCl電極基準)で、かつpHが3以下となる条件で酸化中和反応を行い、Mnの大部分をCo/Mn重量比が0.3〜1.0の酸化物の沈殿物として除去する第一工程と、得られたCo溶液の酸化還元電位及びpHの条件を第一の工程と同一の条件に維持しながら酸化中和反応を継続し、残留していた少量のMnを酸化物の沈殿物として除去して、Mn濃度が0.05g/L以下の高純度Co溶液を得る第二工程と、を含む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3724179号明細書
【特許文献2】特許第4240982号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の方法ではいずれも、酸化還元電位の制御を行なっている。しかしながら、酸性溶液では酸化剤が自己分解反応により時間の経過と共に減少するため、酸化還元電位を上記の範囲に制御するためには酸化剤を適宜補充する必要があり、専用の制御装置が別途必要となる。また、特許文献2のように沈殿物中のCo/Mn重量比を所定範囲に制御することは困難であり、得られるCo溶液には10mg/L程度の多量のMnが残留し、高純度のCo溶液は得られ難い。更に、これらの方法を、ZnやMgなどの不純物を含有するCo溶液に適用すると、上記不純物が沈殿してCo化合物中に混入するため、高純度のCoを回収することができない。
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、制御が困難な酸化還元電位に替わり、不純物として少なくともMn、Zn、および第2族元素を含有するCo水溶液から、不純物の混入が殆ど無いCo化合物を、簡便且つ短時間の処理により高純度で回収することができる新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明に係るCo化合物の回収方法は、不純物としてMn、Zn、および第2族元素を含有するCo水溶液からCo化合物を回収する方法であって、前記Co水溶液に含まれるMn量に対して10〜90当量の酸化剤を添加した後、水溶液のpHを1.5〜2.3に調整してMnを沈殿除去する第一工程と、Mnを沈殿除去した後の水溶液に含まれるCo量に対して1.5〜3.5当量の酸化剤を添加し、水溶液のpHを1.0〜2.7に調整して三価以上のCo化合物を沈殿させる第二工程と、をこの順で含むところに要旨を有するものである。
【0011】
また、本発明の方法は、Coを1〜150g/L、およびMnを200mg/L以下(0mg/Lを含まない)含有するCo水溶液からCo化合物を回収する際に好適に用いられる。
【0012】
上記第一工程におけるMnの沈殿除去処理は、2回以上繰り返して行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、Coとの分離が困難であったMnと、これまで主に溶媒抽出法で分離していたZnなどの不純物を少なくとも含むCo水溶液から、不純物量が少ない三価以上のCo化合物を高純度で効率良く得ることができる。このようにして得られたCo化合物を、常法の処理で還元すれば、高純度の金属Coを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、Coとの分離が困難なMnだけでなく、更にZnや第2族元素を不純物として含むCo水溶液から、三価以上のCo化合物を、簡便に効率良く回収する方法を提供するため、検討を行なってきた。詳細には、(ア)従来の酸化中和法では、反応中にCo水溶液中に含まれる不純物の沈殿だけでなく、回収したいCoの一部も水酸化物[二価のCo(OH)2]を生成して共沈すると共に、所望とする三価以上のCo化合物[CoO2またはCo(OH)3]を高い純度で回収できないこと、(イ)前述した特許文献2のような酸化還元電位や沈殿物中のCo/Mn重量比を制御する方法は、操作が煩雑で処理効率が低く、不純物も多く含まれる、などの問題に鑑み、更に検討を重ねてきた。
【0015】
その結果、
(1)制御が難しい酸化還元電位の調整に替わり、酸化剤の添加量及びpHを厳密に制御すれば、Coとの分離が困難であったMnだけでなく、従来溶媒抽出法などで分離していたZnを、短時間で効率よく除去して高純度のCo化合物が得られること、
(2)特に、Mnを選択的に沈殿させる第一工程と、Coを選択的に沈殿させる第二工程の各工程において、第一工程ではCoを極力沈殿させず、第二工程ではZnを極力沈殿させないようにして最終的に高純度のCo化合物を得るためには、各工程のpHと、Mn量またはCo量に対して添加される酸化剤の各添加量の両方を、厳格に制御すれば良く、これにより、MnやZnなどの不純物の混入が著しく少ない高純度のCo化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
この点について、もう少し詳しく説明すると、本発明は、特許文献2に記載の酸化中和法を改変したものである。特許文献2では、Co溶液中のMn分離除去に当たり、Co溶液のpHが3.0以下の領域で、且つ高酸化性の領域、すなわち酸化還元電位が高い領域においては、溶液中の二価のCoイオン(Co2+)が三価のCo水酸化物[Co(OH)3]を生成する反応よりも、溶液中のMnイオンが四価の酸化Mn(MnO2)を生成する反応の方が優先して進む(すなわち、Mnが選択的に沈殿すること)点に着目し、「生成する沈殿物中のCo/Mn重量比が0.3〜1.0になるように酸化還元電位及びpHの条件に設定して酸化中和反応を行い、Mnの大部分を酸化物の沈殿物として沈殿させ、これを除去する第一の工程」と、「これにより得られたCo溶液の酸化還元電位及びpHの条件を第一の工程と同一の条件に維持しながら酸化中和反応を継続し、残留していた少量のMnを酸化物の沈殿物として除去して、Mn濃度が0.05g/L以下の高純度Co溶液を得る第二の工程を含む」方法を開示している。
【0017】
本発明も、特許文献2と同様、Co溶液のpHが3.0以下の高酸化性領域におけるCoとMnの沈殿挙動[すなわち、三価のCo水酸化物[Co(OH)3]より四価の酸化Mn(MnO2)が沈殿し易いという現象]を利用したものではあるが、CoとMnの分離除去に当たっては、特許文献2とは異なって、制御が煩雑な酸化還元電位に替わり、酸化剤およびpHの厳格な制御を行なってMnを徹底的且つ選択的に除去しており、これにより、Mnの除去される程度が約0.01g/L以下と、特許文献2の場合(0.05g/L以下)よりも更に低減され、高純度のCoを回収できた点で相違している。詳細には、本発明では、(ア)第一工程では、Co水溶液中のMnを徹底的に完全除去するために、pHを厳格に制御し、且つ、Mn量に対する酸化剤の添加量を10〜90当量と、極めて多く添加しており、(イ)次の第二工程では、Coと共沈し易いZnをできるだけ沈殿させないようにするために、pHおよびCo量に対する酸化剤の添加量を厳格に制御することにより、(ウ)最終的に、Mnが0.1ppm未満、Znが数十ppmと極めて高純度のCo酸化物を回収できた点で、特許文献2の方法と相違している。
【0018】
即ち、本発明に係るCo化合物の回収は、Mn、Zn、および第2族元素の不純物を含有するCo水溶液からCo化合物を回収するに当たり、
Co水溶液に含まれるMn量に対して10〜90当量の酸化剤を添加した後、水溶液のpHを1.5〜2.3に調整してMnを沈殿除去する第一工程と、
Mnを沈殿除去した後の水溶液に含まれるCo量に対して1.5〜3.5当量の酸化剤を添加し、水溶液のpHを1.0〜2.7に調整して三価以上のCo化合物を沈殿させる第二工程と、
をこの順で含むところに特徴がある。
【0019】
はじめに、本発明に用いられるCo水溶液について説明する。
【0020】
《Co水溶液について》
本発明の回収方法では、不純物としてMn、Zn、および第2族元素を少なくとも含むCo水溶液を用いている。これらの不純物は、Coの精製過程やスクラップからのリサイクルの過程などで混入してくる元素であり、上記Co水溶液から高純度の金属Coを回収するためには、当該不純物を極力分離除去することが望まれる。
【0021】
ここで、上記第2族元素とは、Mg、Ca等を意味する。本発明の回収方法によれば、特にMgを効率よく分離除去することができる。
【0022】
上記Co水溶液に含まれるCoおよびMnは、Co:1〜150g/L(より好ましくは1〜120g/L)、Mn:200mg/L以下(より好ましくは180mg/L以下)であることが好ましい。特に本発明の回収方法は、上記Co水溶液に含まれるCoとMnの質量比(Co/Mn)が、おおむね200〜30000の範囲内にあるCo水溶液から高純度の金属Coを得るのに好適に用いられる。このようにMn量に対するCo量の比率が多いCo水溶液を対象とする場合、MnとCoとの分離除去が非常に困難になるが、本発明の方法を用いれば、効率よくMnを分離除去することができる。
【0023】
上記のCo水溶液は、Coの精製過程で副産物として産出される炭酸コバルトなどのCo化合物や、二次電池電極材料などの廃棄物などを、酸に溶解することによって得られる。溶解に用いられる酸としては、例えば、塩酸や硫酸が挙げられる。最終的にCo化合物を還元して金属Coを製造するときの処理効率を考慮すると、塩酸を用いることが好ましい。Co化合物の塩酸溶液を用いた場合、後述する第二工程で沈殿するCo化合物にNaが残存すると、Naの大部分は塩化ナトリウムの形態で存在するが、塩化ナトリウムは、その後の乾式還元法によって容易に除去できるからである。これに対し、Co化合物の硫酸溶液を用いると、Co化合物に残存するNaの大部分が硫酸ナトリウムの形態で存在するため、除去が困難である。
【0024】
次に、本発明を特徴付ける第一工程と、第二工程について、工程順に説明する。
【0025】
《第一工程》
第一工程は、上記のCo水溶液から、Coをできるだけ沈殿させることなくMnを選択的に沈殿させて除去する工程であり、本発明では、Co水溶液に含まれるMn量に基づいて算出される所定量の酸化剤を添加した後、pH調整剤を添加して水溶液のpHを1.5〜2.3の範囲内に調整している。これにより、Coとの分離が困難であったMnを除去することができる。
【0026】
詳細には、前述したCo水溶液を撹拌しながら、Mn量に対して10〜90当量の酸化剤を添加してpHが安定するまで保持した後、pH調整剤を添加し、水溶液のpHが1.5〜2.3に安定化するまで保持する。これにより、Co水溶液中のMnはMnO2として徹底的に除去され、Co水溶液に含まれるMn濃度は、約10mg/L以下(好ましくは0.1mg/L未満)に著しく低減される。
【0027】
本発明では、高酸化性雰囲気下でCo水溶液中のMnを徹底的に除去するため、Mn量に対する酸化剤の添加量を10〜90当量とする。酸化剤の添加量が10当量未満では、Co水溶液中のMnイオン(Mn2+)→四価のMn酸化物(MnO2)への酸化が充分に進まず、Co水溶液からのMn除去率が低い。一方、酸化剤の添加量が90当量を超えると、Co水溶液中のCoイオン(Co2+)→三価のCo酸化物[Co(OH)3]または四価のCo酸化物(CoO2)への酸化が進行するようになるため、Coの回収率が低くなり、Mnの除去率も低下する。Mn量に対する酸化剤の好ましい添加量は、20当量以上、80当量以下であり、より好ましい添加量は、30当量以上、70当量以下である。
【0028】
上記酸化剤としては、Co水溶液中のMnを酸化できるものであれば特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、さらし粉などが使用できる。取扱いのし易さなどを考慮すると、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の使用が好ましい。
【0029】
また、本発明では、Co水溶液中のMnを徹底的に除去するため、pH調整剤添加後の水溶液のpHを1.5〜2.3とする。上記水溶液のpHが1.5を下回ると、Mnの除去率が低くなり、一方、上記水溶液のpHが2.3を超えると、Coも共沈してしまい、Coの回収率が低下する。pH調整剤添加後の水溶液の好ましいpHは、1.8以上、2.3以下であり、より好ましいpHは2.1以下である。
【0030】
上記pH調整剤は、酸化剤添加後のpHを上記範囲に調整するために添加され、通常用いられる酸または塩基が挙げられる。酸化剤添加後のpHが上記範囲(1.5〜2.3)を下回るときは、pH調整剤として、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩などの塩基が用いられ;一方、酸化剤添加後のpHが上記範囲を超えるときは、pH調整剤として、塩酸、硫酸などの酸が用いられる。上記アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど;上記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。後記する実施例のように、ニッケル精錬工程などで得られた炭酸Coを原料として用いる場合は、安価な水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。炭酸Coには、ナトリウムが含まれることが多いため、pH調整剤として水酸化ナトリウムを用いても、新たな不純物成分の混入にならず、また、ナトリウムは、回収したCo化合物を金属Coに還元する際に容易に除去できるからである。
【0031】
上記の一連の反応は、約10〜50℃の温度で、約0.5〜4時間行なうことが好ましい。
【0032】
上記の方法により沈殿したMnは、濾過法、遠心分離法などにより、固液分離する。
【0033】
第一工程における上記処理(酸化剤、pH調整剤の添加後、Mnの分離除去)は、2回以上繰返して行なっても良い。この繰返し処理は、特に、Co水溶液に含まれるMn量が、おおむね50mg/L以上と多い場合に極めて有用である。Co水溶液中のMn量が多いと、上記水溶液とMnの沈殿物との間におけるMnの固液平衡の関係により、水溶液中のMn量を、好ましいレベル(0.1mg/L未満)まで低減できないからである。
【0034】
なお、上記のように2回以上の繰返し処理を行なう場合は、Mn量に対する酸化剤の添加量の合計が10〜90当量となるように制御すれば良い。
【0035】
《第二工程》
第二工程では、上記のようにしてCo水溶液中のMnを10mg/L以下(好ましくは0.1mg/L未満)に徹底的に除去した後のろ液(水溶液)を用い、当該水溶液に含まれるCo量に対して1.5〜3.5当量の酸化剤を添加し、水溶液のpHを1.0〜2.7に調整して三価以上のCo化合物を沈殿させる。これにより、Co水溶液に含まれるZnや第2族元素を沈殿させることなく、Coを選択的に沈殿させることができ、高純度のCo化合物を回収することができる。このように第二工程では、Coのみを選択的に沈殿させてZnや第2族元素は共沈しないように、Co量に対する酸化剤の添加量およびpHを厳格に制御しているため、Coの回収率を高めることができる。
【0036】
詳細には、第一工程により得られたろ液を撹拌しながら酸化剤を添加し、ろ液のpHが1.0〜2.7に安定化するまで保持する。好ましくは、酸化剤添加後、pHが安定するまで保持した後、pH調整剤を添加して、ろ液のpHが上記範囲に安定化するまで保持する。
【0037】
本発明では、ZnやMgなどの第2族元素を沈殿させずにCoのみを選択的に沈殿させるため、ろ液中のCo量に対する酸化剤の添加量を1.5〜3.5当量とする。酸化剤の添加量が1.5当量未満では、Co水溶液中のCoイオン(Co2+)→三価のCo酸化物[Co(OH)3]または四価のCo酸化物(CoO2)への酸化が充分に進まず、Coの沈殿率が低く、十分な量のCoを回収することができない。一方、酸化剤の添加量が3.5当量を超えると、ろ液中のZnイオン(Zn2+)が沈殿するようになり、Znの除去率が低くなる。Co量に対する酸化剤の好ましい添加量は、1.8当量以上、3.3当量以下であり、より好ましい添加量は、2.0当量以上である。
【0038】
上記酸化剤としては、ろ液中のCoを酸化できるものであれば特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、さらし粉などが使用できる。取扱いのし易さなどを考慮すると、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の使用が好ましい。
【0039】
また、本発明では、ろ液中のZnや第2族元素を共沈させずにCoのみを選択的に沈殿させるため、更に酸化剤(好ましくはpH調整剤)添加後の水溶液のpHを1.0〜2.7とする。第二工程におけるpHは、コバルトの電位−pH図(例えば、M.Pourbaix, Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, NACE, p.325, (1974).)を考慮して決定されたものである。すなわち、上記第一工程で得られたろ液に含まれるCoは、二価のCoイオン(Co2+)であり、通常、pH5以上に制御すると二価のCo水酸化物が沈殿するが、本発明では、上記のようにCo量に対する酸化剤の量を多くして高酸化性雰囲気とし、三価または四価のCo化合物が得られるようにすると共に、Co以外の不純物(例えば、ZnやMg)が共沈しないように、pHを上記範囲に設定した次第である。上記水溶液のpHが1.0を下回ると、Coの沈殿率が低くなり、一方、上記水溶液のpHが2.7を超えると、Znも共沈してしまうなど、不純物の混入率が多くなる。上記水溶液の好ましいpHは、1.5以上、2.3以下であり、より好ましいpHは1.8以上である。第二工程における上記pHは、第一工程におけるpHと同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0040】
上記第二工程では、pH調整剤は添加してもしなくても良い。すなわち、上記酸化剤を添加した後の水溶液のpHが所定範囲(1.0〜2.7)を満足する場合は、pH調整剤を敢えて添加する必要はなく、上記水溶液のpHが上記範囲を外れる場合にのみ、pH調整剤を添加してpHを調整すればよい。
【0041】
上記pH調整剤としては、前述した第一工程と同じものを用いることができる。
【0042】
上記の一連の反応は、約10〜50℃の温度で、約0.5〜4時間行なうことが好ましい。
【0043】
上記の方法により沈殿したCoは、濾過法、遠心分離法などにより、固液分離する。
【0044】
なお、第二工程における上記処理(酸化剤、必要に応じてpH調整剤の添加後、Coの沈殿除去)は、2回以上繰返して行なっても良い。この繰返し処理は、特に、Coが100g/L以上含まれる場合に極めて有用である。ろ液中のCo量が多いと、固液平衡でCoが再溶解し回収量が低下するからである。
【0045】
なお、上記のように2回以上の繰返し処理を行なう場合は、Co量に対する酸化剤の添加量の合計が1.5〜3.5当量となるように制御すれば良い。
【0046】
以上、本発明を特徴付ける第一工程および第二工程について説明した。本発明では、Co水溶液の調製から、第一工程および第二工程の全てを、同一の設備で行なうことができる。よって、前述した特許文献に記載の方法に比べ、設備規模を大幅に縮小することができ、酸化還元電位の厳密な制御も不要であるにもかかわらず、Mn、Zn、第2族元素の不純物量が極めて少なく、高純度のCo化合物を回収できる点で、極めて有用である。
【0047】
上述した第一工程および第二工程により三価以上のCo化合物を回収した後は、常法により、金属Coを回収することができる。
【0048】
具体的には、例えば、電気分解による精製方法や、乾式還元法、化学還元法などの還元方法を採用することができる。一般的には電気分解による精製方法が用いられるが、金属Co粉末を直接製造可能な水素還元法も多く用いられ、適宜、好ましい方法を選択することができる。
【0049】
なお、金属Coの回収に当たっては、予め、上記Co化合物を水や希酸などで洗浄することが好ましい。上記第二工程で得られるCo化合物の表面に亜鉛などの不純物が付着していることが多く、特に水素還元法を適用する場合にCoの純度が低下するためである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
以下では、不純物としてMn、Zn、および第2族元素のMgを含有するCo水溶液を用い、第一工程における酸化剤の添加量と水溶液のpHがMnなどの沈殿率に及ぼす影響(実験例1)、上記第一工程の後に第二工程を行い、第二工程における酸化剤の添加量と水溶液のpHがCoなどの沈殿率に及ぼす影響(実験例2)を調べた。
【0052】
[実験例1]
《Co水溶液の調製》
ニッケル製錬工程で得られた固体の炭酸Co(Co44質量%、Mn0.05質量%、Zn0.002質量%、Mg0.03質量%を含有)270gに対し、濃塩酸550mLを少量ずつ添加し、発泡が穏やかになった後、上記溶液を攪拌しながら水を加え、液量を1000mLとした。30分間攪拌した後、ろ過して微量の無機物などの不溶残渣を除去してCo水溶液を得た。得られたCo水溶液のpH、および当該Co水溶液のCo、Mn、Zn、およびMgの各濃度(mg/L)を表1に示す。なお、上記Co水溶液に含まれるCoとMnの質量比(Co/Mn)は1009である。
【0053】
《第一工程》
上記のようにして調製したCo水溶液に対し、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム、pH調整剤として水酸化ナトリウムを、表1に示すように添加して酸化及びpH調整を行なった。
【0054】
具体的には、No.1、2、および7では、酸化剤添加の後、pHが安定になるまで0.5時間程度保持した後、pH調整剤を添加して所定のpHになるまで0.5時間程度保持した。
【0055】
また、No.3〜6は、上記の酸化及びpH調整を2回行なった例である。詳細には、酸化剤添加の後、pHが安定になるまで0.5時間程度保持した後、pH調整剤を添加してpH=0.9(No.4)、1.9(No.3、5)、3.5(No.6)になるまで0.5時間程度保持し、沈殿物を除去する操作を、2回繰り返して行った。
【0056】
次いで、沈殿物除去後の水溶液に含まれる各元素(Co、Mn、Zn、およびMg)の濃度をICP発光分析法で測定した。
【0057】
また、沈殿物中のMnに対するCoの質量比率(Co/Mn)を算出した。
【0058】
これらの結果を表1に併記する。
【0059】
【表1】

【0060】
表1より、以下のように考察することができる。
【0061】
まず、No.2、3、5は、いずれも本発明で規定する条件で第一工程を行った例であり、このうちNo.3および5は、酸化剤、pH調整剤、沈殿物の除去を2回行なった例である。
【0062】
上記の本発明例について、第一工程終了後のCo水溶液に含まれるCo量は、104000〜107000mg/Lであり、開始時のCo量(113000mg/L)と殆ど変化しなかった。一方、上記Co水溶液に含まれる不純物のうち、Mn量は、112mg/L(開始時)から7mg/L以下(終了時)と、著しく低減されており、Mn量の殆どを沈殿物として除去できたことが分かる。特に、一連の処理を2回行なったNo.3および5は、Co水溶液中のMn量を0.1mg/L未満まで低減することができた。また、他の不純物であるZn量およびMg量は、開始時と殆ど変化しなかった。
【0063】
これらの結果より、本発明で規定する第一工程を行なえば、Co水溶液中に含まれるCo、Zn、およびMgを殆ど沈殿させることなくMnのみを選択的に沈殿除去できることが分かった。
【0064】
これに対し、本発明で規定する第一工程の要件のいずれかを満足しないNo.1、4、6、および7の各例は、以下の不具合を抱えている。
【0065】
まず、No.1は、Mnに対する酸化剤の添加量が少ない例であり、Mnを充分に沈殿させることができず、Co水溶液には多くのMn(48mg/L)が残留していた。
【0066】
No.4は、前述したNo.5と同様、酸化剤、pH調整剤、沈殿物の除去を2回行なった例であるが、酸化剤添加後のCo水溶液のpHが低いため、Mnを充分に沈殿させることができず、Co水溶液には多くのMn(22mg/L)が残留していた。
【0067】
No.6は、前述したNo.5と同様、酸化剤、pH調整剤、沈殿物の除去を2回行なった例であるが、酸化剤添加後のCo水溶液のpHが高いため、Mnだけでなく、Coも共沈してしまい、第一工程終了時のCo水溶液に含まれるCo量は、開始時の113000mg/Lから、92000mg/Lに低減した。
【0068】
No.7は、Mnに対する酸化剤の添加量が多い例であり、Mnだけでなく、Coも共沈してしまい、第一工程終了時のCo水溶液に含まれるCo量は、開始時の113000mg/Lから、93100mg/Lに低減した。
【0069】
[実験例2]
《第二工程》
実験例2では、上記表1のNo.5を用い、引き続き、表2に示す条件で第二工程を行なった。詳細には、沈殿物を除去した後のろ液に対し、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム、pH調整剤として塩酸または水酸化ナトリウムを、表2に示すように添加し、三価または四価のCo化合物を沈殿させた。このうちNo.5Eでは、第二工程(酸化剤1.5当量+pH調整剤の添加→Coの沈殿除去)の処理を2回繰り返して行なった。ろ過後、回収した上記Co化合物を水で洗浄し、乾燥した。乾燥後のCo化合物中に含まれる各元素(Co、Zn、およびMg)の濃度を、塩酸水溶液の形態でICP発光分析法にて測定した。上記の各濃度について、開始時のCo水溶液中に含まれるCo、Zn、およびMgの各濃度に対する割合(沈殿率)を算出した。
【0070】
これらの結果を表2に併記する。なお、Mnについては検出されなかった。
【0071】
【表2】

【0072】
表2より、以下のように考察することができる。
【0073】
まず、No.5B、No.5D、およびNo.5Eは、いずれも本発明で規定する条件で第二工程を行った例であり、不純物のZnおよびMgを殆ど沈殿させることなく、Coの沈殿率を30%以上とすることができた。特に、Coに対する酸化剤の添加量をより好ましい範囲に制御したNo.5DおよびNo.5Eは、No.5Bに比べ、Znの混入量を殆ど上昇させることなく、Coの沈殿率を約72%以上まで高めることができた。ここで、No.5DとNo.5Eは、添加した酸化剤の量は同じであるが、No.5Eのように酸化剤を2回に分けて添加すると、No.5Dに比べてCoの沈殿率が一層高くなり、約90%もの高い除去率が得られた。
【0074】
これらの結果より、本発明で規定する第一工程および第二工程を行なえば、結果的に、Mn、Zn、およびMgの不純物の混入が殆どなく、原料として用いたCo水溶液中のCoイオンの大部分を、三価以上のCo化合物として回収できることが分かった。
【0075】
なお、上記のNo.5Dについて、得られたCo化合物をアルミナトレーに入れ、4体積%の水素を含むアルゴン雰囲気下で、700℃で6時間、管状炉で加熱して水素還元を行った。得られた金属Co中に含まれる各不純物の量(mg/kg)は、Mn:0.1mg/kg未満、Zn:20mg/kg、Mg:0.1mg/kg未満であった。また、上記金属Co中のNa量は、Na:1.0mg/kg未満であり、第二工程によって得られたCo化合物中に残存していたNaが、上記の水素還元法によって塩化ナトリウムとして揮発除去されることも分かった。その結果、本発明によれば、99.9%以上の高純度の金属Coを回収することができた。この金属Coの純度は、差分法[100%−(Mn+Zn+Mg+Na)]により算出されたものである。
【0076】
これに対し、本発明で規定する第二工程の要件のいずれかを満足しないNo.5A、5C、5F、および5Gの各例は、以下の不具合を抱えている。
【0077】
まず、No.5Aは、Co量に対する酸化剤の添加量が少ない例であり、Coを充分沈殿させることができなかった。
【0078】
No.5Cは、pH調整剤添加後の水溶液のpHが低い例であり、Coを充分沈殿させることができなかった。
【0079】
No.5Fは、pH調整剤添加後の水溶液のpHが高い例であり、Coだけでなく、Znも多く共沈した。
【0080】
No.5Gは、Co量に対する酸化剤の添加量が多い例であり、Coの他、Znも多く共沈した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてMn、Zn、および第2族元素を含有するCo水溶液からCo化合物を回収する方法であって、
前記Co水溶液に含まれるMn量に対して10〜90当量の酸化剤を添加した後、水溶液のpHを1.5〜2.3に調整してMnを沈殿除去する第一工程と、
Mnを沈殿除去した後の水溶液に含まれるCo量に対して1.5〜3.5当量の酸化剤を添加し、水溶液のpHを1.0〜2.7に調整して三価以上のCo化合物を沈殿させる第二工程と、
をこの順で含むことを特徴とするCo化合物の回収方法。
【請求項2】
Coを1〜150g/L、およびMnを200mg/L以下(0mg/Lを含まない)含有するCo水溶液を用いるものである請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記第一工程におけるMnの沈殿除去処理を2回以上繰り返して行なうものである請求項1または2に記載の回収方法。

【公開番号】特開2011−132562(P2011−132562A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291202(P2009−291202)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(591234307)アサヒプリテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】