Cr含有条鋼材の製造方法
【課題】スケール剥離性に悪影響を与えるCrを含有するCr含有条鋼材であっても、スケール剥離性を改善でき、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造する。
【解決手段】Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、
前記加熱を下記条件で行うことを特徴とするCr含有条鋼材の製造方法。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【解決手段】Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、
前記加熱を下記条件で行うことを特徴とするCr含有条鋼材の製造方法。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr含有条鋼材の製造方法に関するものであり、特にスケール除去(以下、「デスケーリング」ということがある)により良好にスケールが剥離されて、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる熱間圧延用鋼、熱間鍛造用鋼、軸受鋼などの条鋼製品(SCR420、SCM435、SUJ2など)には、強度を確保するためCrやSiが一般に添加される(以下、この様にCrやSiを含む条鋼材を「Cr含有条鋼材」と総称する)。Cr含有条鋼材も、一般的な鋼材と同様に、ビレット等を加熱した後デスケーリングが行われ、次いで熱間圧延して製造される。一般に鉄鋼を高温で加熱すると、表面に1次スケール(ウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3)などのFe系酸化物で構成されるスケール)が形成される。また上記Cr等の酸化しやすい合金元素を多く含む鋼種では、加熱過程等で、該合金元素を含む鉄酸化物(以下、「サブスケール」という。特にはクロマイト(FeCr2O4))が、スケール最下層(地鉄界面付近)に生成し、鋼とスケールとの密着性を高める作用がある(以下では、1次スケールとサブスケールを併せて「スケール」と総称することがある)。よって、高圧水によるデスケーリング(高圧水デスケーリング)を行っても、上記1次スケールはほぼ除去されるがサブスケールが残留し易い。このサブスケールが残留した状態で熱間圧延を行うと、該サブスケールが鋼内に押し込まれ、熱間圧延仕上がりの状態で、微細な表面疵や肌荒れなどの表面欠陥がしばしば発生し、条鋼製品の表面品質が悪化する。
【0003】
条鋼製品の表面品質(表面性状)に対して年々厳しくなっている要求に応えるべく、デスケーリングによりスケールを良好に剥離して(以下、この様な特性を「スケール剥離性に優れた」ということがある)、スケールによる表面欠陥を抑制し、条鋼製品の表面品質を高める方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、熱間圧延前の加熱において、条鋼材に直接水を供給しながら、一定温度で一定時間以上保持することが規定されている。また、特許文献2には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、熱間圧延前の加熱において、2段階加熱を行っており、各加熱段階の加熱温度・時間および水蒸気濃度を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−316207号公報
【特許文献2】特開2003−119517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1や特許文献2では、加熱雰囲気中の水蒸気濃度を高めたり水を供給することにより、デスケーリング時に剥離し易いスケールを形成することが示されている。しかし、その効果は対象となる鋼種により異なることが分かった。例えばSCM鋼を対象とする場合には、加熱雰囲気への水蒸気添加は効果を奏するが、例えばSCR420に代表されるSCR鋼を対象とした場合には、効果があまりなく、デスケーリング時にスケールが良好に剥離されない、といった問題がある。
【0006】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、SCR鋼を対象とする場合であっても、デスケーリングによりスケールを良好に剥離でき(スケール剥離性に優れ)、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング前の加熱条件を適切に制御すれば、その後のデスケーリング工程でスケールを十分に剥離でき、表面性状に優れたCr含有条鋼材を熱間圧延して製造できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明に係るCr含有条鋼材の製造方法は、Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、前記加熱を下記条件で行うところに特徴を有する。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【0009】
前記鋼片としては、その成分組成が更に、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.05%以上、および
Mn:0.1%以上
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものが挙げられる。
【0010】
特に前記鋼片として、JIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすもの(SCR鋼)を用いれば、本発明の効果が存分に発揮される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、条鋼製品の製造工程において、鋼片加熱後に行うデスケーリング時のスケール剥離性が向上し、熱間圧延後の、スケールが起因の微細な表面疵や肌荒れなどの表面欠陥が十分に抑制されて、表面性状に優れた条鋼製品(特には、SCR鋼よりなる条鋼製品)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、サブスケール厚さと残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、再加熱温度とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、再加熱温度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、再加熱温度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、再加熱保持時間とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、再加熱保持時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、再加熱保持時間と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図10】図10は、再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、再加熱雰囲気中のO2濃度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述した通り、特許文献1等に示された水蒸気雰囲気下で加熱することで、その後のデスケーリング時にスケールを良好に剥離できる鋼種(Cr含有条鋼材)がある。例えば、SCM435を対象とした場合、水蒸気(H2O濃度:25〜30体積%が最適範囲)雰囲気下で加熱することで、デスケーリング時のスケール剥離性は向上する。しかしながら、SCR420に代表されるSCR鋼を対象とした場合には、上記水蒸気雰囲気下での加熱があまり効果なく、デスケーリング時のスケール剥離性が向上しない、といった問題がある。
【0014】
本発明者らは、この様にCr含有条鋼材の中でも特にSCR鋼を対象とした場合に、上記問題が存在することをまず突き止めた上で、上記SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング時のスケール剥離性を向上させるべく鋭意研究を行ったところ、まずサブスケールとして、(a)厚み:40μm以上、かつ(b)サブスケール中の平均Cr濃度(後述する実施例に示す方法で測定した値をいう):10質量%以下を満たすものを形成すればよいことがわかった。
【0015】
更に、上記条件を満たすサブスケールを形成するための具体的手段について検討したところ、特に、デスケーリング直前に行う加熱の雰囲気中のO2濃度を高めると共に、該加熱のその他の条件を規定すればよいことを見出した。
【0016】
まず、加熱雰囲気中のO2濃度について説明する。サブスケールは、Cr2O3主体の内部酸化層が表面に移行して外部酸化層となり、更にその表面に形成されるFeO層と、この外部酸化層(Cr2O3主体)が合わさって形成される。一般にスケールは、Feイオンの外方拡散とO2の内方拡散によって形成され、雰囲気中のO2濃度が低い、即ち、O2の内方拡散が遅いと、平衡酸素圧がFeよりも低いCrが優先的に酸化され、その結果、上記サブスケールとしてCr濃度の高いものが形成される。これに対し、雰囲気中のO2濃度を高くすれば、O2の内方拡散が速くなり、Crの酸化とFeの酸化が拮抗して起こるため、結果として、地鉄と剥離しやすく脆い、Cr濃度の低いサブスケールが形成されると考えられる。
【0017】
上記作用効果を十分に発揮させるため、デスケーリング直前に行う加熱の、後述する加熱温度で保持時の雰囲気(加熱雰囲気)中のO2濃度を10体積%以上とする。加熱雰囲気中のO2濃度をより増加させることで、上記の通り、O2の内方拡散がより速まり、剥離しやすいサブスケールが形成されると考えられるが、その効果は飽和する。また必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。よって本発明では、加熱雰囲気中のO2濃度を30体積%以下とする。
【0018】
尚、上記O2以外にCO、CO2、H2Oなどの酸化性ガスが加熱雰囲気中に含まれると、スケールの成長がより促進されるため望ましい。しかし本発明では、上記の通りO2濃度を高めており、またスケール成長速度はO2濃度に支配されるため、上記O2以外の酸化性ガスは含まれていても含まれていなくてもよい。
【0019】
加熱雰囲気において、上記O2以外のガスは特に限定されず、必要に応じて更に含まれうる前記酸化性ガス:CO、CO2、H2Oの他、例えばN2、Ar、H2が含まれうる。
【0020】
以下では、デスケーリング直前に行う加熱のその他の条件を規定した理由について説明する。
【0021】
〔加熱温度:1150〜1250℃〕
加熱温度を1150℃以上とすることで、サブスケール厚さが増大し、また、サブスケール中の平均Cr濃度が低減して、デスケーリング時に容易に剥離しやすいサブスケールを形成することができる。一方、必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。この様な観点から、本発明における加熱温度の上限は1250℃である。
【0022】
尚、本発明において、上記加熱温度、後記する昇温速度、降温速度とは、それぞれ鋼片の表面温度、鋼片の表面温度の昇温速度、降温速度をいうものとする。
【0023】
〔上記加熱温度での保持時間:3〜60秒〕
上記加熱温度で加熱して、サブスケール厚さを増大させると共にサブスケール中の平均Cr濃度を低減させるには、上記加熱温度で保持する時間を3秒以上とする必要がある。好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上である。
【0024】
通常、鋼片の加熱には燃焼ガスが用いられ、加熱炉内の雰囲気は、一般的にN2−1%(体積%)O2−10%CO2−20%H2Oである。しかしこの雰囲気は、O2濃度が1%と低いため、上述した通り、O2の内方拡散が遅く、Cr濃度の高いサブスケールが形成されやすくなる。これに対し本発明では、上記の通り、加熱温度を高くすると共にO2濃度を高めた雰囲気で加熱するため、短時間で、Cr濃化の抑制された厚いサブスケールを形成でき、結果としてスケール剥離性を向上できる。
【0025】
上記保持時間をより増加させることで、スケールがより成長してスケール剥離性を向上できるが、その効果は飽和する。また必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。よって本発明では、上記保持時間を60秒以下とする。好ましくは20秒以下である。
【0026】
〔室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.〕
本発明では、室温から上記加熱温度までの昇温速度を5〜30℃/min.とする。昇温速度が5℃/min.未満だと、鋼片の加熱に長時間を要し、条鋼材の生産性低下を招くので好ましくない。上記昇温速の範囲内であれば、高周波加熱炉等の特別な装置を用いず、一般的な加熱炉を用いて昇温させることができる。該昇温時の雰囲気は特に問わない。
【0027】
本発明では、上記加熱雰囲気におけるH2O濃度は特に限定されず、加熱雰囲気中にH2Oが存在してもほとんど存在しなくてもよい。実操業レベルとしてはおおよそ10〜25体積%の範囲内である。また、上記加熱温度から室温まで降温時の降温速度・雰囲気についても、特に限定されない。
【0028】
上記条件で加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含む製造工程(一部)として、例えば下記(A)(B)が挙げられる。
(A)(加熱炉にて上記条件で鋼片を加熱後、抽出)→(デスケーリング)→(熱間圧延)
(B)(加熱炉で鋼片を加熱後、抽出)→(上記条件で加熱(この場合の加熱を「再加熱」ということがある))→(デスケーリング)→(熱間圧延)
【0029】
鋼片は、通常、加熱炉において1100℃前後の温度で30〜60分加熱される。これにより、後工程の熱間圧延に最適な鋼片の均温化を図ることができる。一方、上記(A)の工程の通り、加熱炉で1200℃前後に加熱すると鋼片のスケール剥離性は向上するが、このような高温の加熱設備(加熱炉)を実現することは、技術的、コスト的に難しい。また、対象鋼種(例えばSUJ2、SCR420、SCM435など)以外の鋼種は、1100℃前後で加熱することが一般的であるため、加熱炉での加熱を、対象鋼種と対象鋼種以外の鋼種に分けて行わなければならず、製造コストがアップする。
【0030】
この様な観点から、上記(B)に示す通り、加熱炉で通常行われている加熱(1100℃前後で加熱)後に、コンベア上に設けられたブース内の例えば電気式加熱装置やガス式加熱装置(高周波加熱装置であってもよい)で、上記条件で加熱(このときの加熱と加熱炉での加熱を区別すべく、このときの加熱時の加熱温度を再加熱温度、該加熱温度での保持時間を再加熱保持時間、加熱雰囲気を再加熱雰囲気という)することが好ましい。
【0031】
上記(B)の工程を実施する場合、加熱炉で鋼片を加熱する条件については、特に限定されず、通常行われている通り、例えば1000℃〜1150℃の温度で30〜60分保持(加熱雰囲気も特に問わず、例えば燃焼ガスを用いて形成される雰囲気とすればよい)し、抽出後に規定の条件で加熱(再加熱)することが挙げられる。
【0032】
その他の製造条件については特に限定されず、例えば、連続鋳造にてスラブまたはビレットを得てから、例えば上記(A)または(B)に示す通り加熱し、ただちに(例えば20秒以内に)、スケールを高圧水デスケーラーで除去し、その後、例えば粗圧延、仕上げ圧延、製品水冷、巻取りを順次経て条鋼材(線状の鋼材)を得ることができる。
【0033】
尚、本発明は上述の通り、スケール剥離性に悪影響を与える特にCrを含有する条鋼材のスケール剥離性を改善するものである。よって本発明は、Crを0.1%以上(好ましくは0.8%以上)含むCr含有条鋼材を対象とする。さらに本発明によれば、Crを多量に含有していても、スケール剥離性を良好にでき、Cr含有量は、例えば、1.0%以上、好ましくは1.1%以上であってもよい。尚、Cr量が過剰になると、延性の確保が困難となるため、Cr量は、2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下である。
【0034】
本発明は、特にCrに起因するサブスケールを制御するものであるため、熱間圧延材(条鋼材)として使用できる限り、Cr以外の鋼成分は特に限定されないが、Cr以外の元素とその量が、例えば、C:0.1〜0.5%、Si:0.05%以上、およびMn:0.1%以上を含むものが挙げられる。
【0035】
上記Cr、C、SiおよびMn以外の残部は、鉄および不可避不純物であってもよい。不可避不純物として、例えば、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不純物が鋼中に含まれることは、当然に許容される。
【0036】
特に前記鋼片として、下記表1に示すJIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすSCR鋼を対象とすると、本発明の効果が存分に発揮され、該SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング時のスケール剥離性を十分に高めることができる。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明における条鋼材とは、棒状または線状の鋼材の総称であり、例えば自動車用の懸架ばね、弁ばね、軸受などに用いられうる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
〔実施例1〕
まず、サブスケール厚さとサブスケール中の平均Cr濃度がスケール剥離性に及ぼす影響について調べた。
【0041】
下記4種類の鋼片(いずれも、合金元素(C、Cr)以外の残部は鉄および不可避不純物)を溶製して得た。
・炭素0.1質量%を含む、Fe−0.1%C合金、
・炭素0.1質量%およびCr0.5質量%を含む、Fe−0.1%C−0.5%Cr合金、
・炭素0.1質量%およびCr1.0質量%を含む、Fe−0.1%C−1.0%Cr合金、
・炭素0.1質量%およびCr1.5質量%を含む、Fe−0.1%C−1.5%Cr合金
【0042】
そして上記鋼片から、機械加工によりφ8.0mm×12mmの円柱状に切り出した試料を用意した。前記加工の際、円柱状試料の側面はRmax≦6μmの表面粗度に研磨した。
【0043】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%(体積%)O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、種々の温度および時間で加熱した。該温度は1050〜1300℃の範囲で変化させ、該温度での保持時間は30〜120min.の範囲で変化させて、厚さや平均Cr濃度が種々のサブスケールを形成した。尚、室温から上記加熱温度までの昇温速度は10℃/min.とし、上記加熱温度から室温までの降温速度は10℃/min.とした。
【0044】
(スケール剥離性の評価)
上記加熱後の試料を加工フォーマスターにセットし、真空中で昇温させて1000℃に到達後、デスケーリングを模擬して試料を圧縮してスケールを剥離させ、残留したスケールの面積率からスケール剥離性を評価した。
【0045】
上記圧縮は、真空雰囲気で圧縮歪率50%、歪速度10mm/sec.の条件で行い、圧縮試験後はAr中で試料を常温まで急冷し、剥離後のスケール生成(2次スケール生成)を抑制した。圧縮後は、試料側面の外観をスキャナで取り込み、画像を2値化処理し、圧縮後の試料におけるスケール残留部の面積率(残留スケール面積率)を算出した。
【0046】
(サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定)
また上記加熱後の試料(同時に加熱した、スケール剥離性の評価用の試料とは別個の試料)を樹脂に埋め込んだ後、断面研磨を行い、試料断面(上記円柱状試料の中心軸を通る断面)を露出させた。
【0047】
この断面露出試料をSEMにて観察し、そのスケール断面観察からサブスケール厚さを計測するとともに、該サブスケールをEPMAにより定量分析し、SEM−EPMA写真における3視野のサブスケール中の平均Cr濃度(質量%)を求めた。
【0048】
尚、サブスケールは、上記SEMの反射電子像を撮影すれば、コントラストの違いから特定することができる。また、Cr元素に対してEPMAによりマッピング像を撮影することにより、サブスケール層を確実に特定することができる。
【0049】
上記サブスケール厚さと残留スケール面積率の関係を図1に示す。サブスケール厚さが増加すると、残留スケール面積率が減少する(スケール剥離性が向上する)ことがわかる。良好なスケール剥離性を確保するには、残留スケール面積率を50%以下にすることが望ましく、そのためには図1より、サブスケール厚さを40μm以上とすればよいことがわかる。
【0050】
また、上記サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を図2に示す。この図2より、サブスケール中の平均Cr濃度が減少すると、残留スケール面積率が減少する(スケール剥離性が向上する)ことがわかる。良好なスケール剥離性を確保するには、残留スケール面積率を50%以下にすることが望ましく、そのためには図2より、サブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすればよいことがわかる。
【0051】
〔実施例2〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱における再加熱温度について調べた。
【0052】
まず、C:0.22%、Si:0.31%、Cr:0.95%、Mn:0.72%、P:0.002%、およびS:0.003%を含み、残部鉄および不可避不純物である鋼片を溶製により作製した。この鋼種はSCR420に相当する。
【0053】
上記鋼片を用いて、実施例1と同様に加工した試料を用意した。
【0054】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0055】
引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にてN2−20%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、後記する加熱温度(再加熱温度)で10秒保持する再加熱を行った。この際、室温から上記再加熱温度までの昇温速度、および上記再加熱温度から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。再加熱温度は1100℃から1300℃の範囲で変化させた。
【0056】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0057】
上記再加熱温度とサブスケール厚さの関係を図3に示す。図3より、再加熱温度が高くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0058】
また、上記再加熱温度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図4に示す。図4より、再加熱温度が高くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は5質量%以下となることがわかる。
【0059】
更に、上記再加熱温度と残留スケール面積率の関係を図5に示す。図5より、再加熱温度が高くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることがわかる。
【0060】
この図3〜5の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【0061】
〔実施例3〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱における再加熱保持時間について調べた。
【0062】
まず実施例2と同様にして、SCR420に相当する鋼片を溶製し、加工した試料を用意した。
【0063】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0064】
その後、引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にてN2−20%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1200℃で保持する再加熱を行った。この際、室温から1200℃までの昇温速度、および上記1200℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また、上記1200℃で保持する時間(再加熱保持時間)を0〜60秒の範囲で変化させた。
【0065】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0066】
上記再加熱保持時間とサブスケール厚さの関係を図6に示す。図6より、再加熱保持時間が長くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0067】
また、上記再加熱保持時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図7に示す。図7より、再加熱保持時間が長くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は10質量%以下となることがわかる。
【0068】
更に、上記再加熱保持時間と残留スケール面積率の関係を図8に示す。図8より、再加熱保持時間が長くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に抑えられることがわかる。
【0069】
この図6〜8の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【0070】
〔実施例4〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱雰囲気について調べた。
【0071】
まず実施例2と同様にして、SCR420に相当する鋼片を溶製し、加工した試料を用意した。
【0072】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0073】
その後、引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にて下記の雰囲気(再加熱雰囲気)下、1200℃で10秒保持する再加熱を行った。この際、室温から1200℃までの昇温速度および1200℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。再加熱雰囲気は、N2、O2、CO2およびH2Oの混合ガス雰囲気とし、CO2濃度:10体積%、H2O濃度:18体積%に固定し、O2濃度を0体積%から40体積%の範囲で変化させ、残部はN2とした。
【0074】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0075】
上記再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール厚さの関係を図9に示す。図9より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0076】
また、上記再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール中の平均Cr濃度との関係を図10に示す。図10より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は10質量%以下となることがわかる。
【0077】
更に、再加熱雰囲気中のO2濃度と残留スケール面積率の関係を図11に示す。図11より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に抑えられることがわかる。
【0078】
この図9〜11の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr含有条鋼材の製造方法に関するものであり、特にスケール除去(以下、「デスケーリング」ということがある)により良好にスケールが剥離されて、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる熱間圧延用鋼、熱間鍛造用鋼、軸受鋼などの条鋼製品(SCR420、SCM435、SUJ2など)には、強度を確保するためCrやSiが一般に添加される(以下、この様にCrやSiを含む条鋼材を「Cr含有条鋼材」と総称する)。Cr含有条鋼材も、一般的な鋼材と同様に、ビレット等を加熱した後デスケーリングが行われ、次いで熱間圧延して製造される。一般に鉄鋼を高温で加熱すると、表面に1次スケール(ウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3)などのFe系酸化物で構成されるスケール)が形成される。また上記Cr等の酸化しやすい合金元素を多く含む鋼種では、加熱過程等で、該合金元素を含む鉄酸化物(以下、「サブスケール」という。特にはクロマイト(FeCr2O4))が、スケール最下層(地鉄界面付近)に生成し、鋼とスケールとの密着性を高める作用がある(以下では、1次スケールとサブスケールを併せて「スケール」と総称することがある)。よって、高圧水によるデスケーリング(高圧水デスケーリング)を行っても、上記1次スケールはほぼ除去されるがサブスケールが残留し易い。このサブスケールが残留した状態で熱間圧延を行うと、該サブスケールが鋼内に押し込まれ、熱間圧延仕上がりの状態で、微細な表面疵や肌荒れなどの表面欠陥がしばしば発生し、条鋼製品の表面品質が悪化する。
【0003】
条鋼製品の表面品質(表面性状)に対して年々厳しくなっている要求に応えるべく、デスケーリングによりスケールを良好に剥離して(以下、この様な特性を「スケール剥離性に優れた」ということがある)、スケールによる表面欠陥を抑制し、条鋼製品の表面品質を高める方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、熱間圧延前の加熱において、条鋼材に直接水を供給しながら、一定温度で一定時間以上保持することが規定されている。また、特許文献2には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、熱間圧延前の加熱において、2段階加熱を行っており、各加熱段階の加熱温度・時間および水蒸気濃度を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−316207号公報
【特許文献2】特開2003−119517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1や特許文献2では、加熱雰囲気中の水蒸気濃度を高めたり水を供給することにより、デスケーリング時に剥離し易いスケールを形成することが示されている。しかし、その効果は対象となる鋼種により異なることが分かった。例えばSCM鋼を対象とする場合には、加熱雰囲気への水蒸気添加は効果を奏するが、例えばSCR420に代表されるSCR鋼を対象とした場合には、効果があまりなく、デスケーリング時にスケールが良好に剥離されない、といった問題がある。
【0006】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、SCR鋼を対象とする場合であっても、デスケーリングによりスケールを良好に剥離でき(スケール剥離性に優れ)、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング前の加熱条件を適切に制御すれば、その後のデスケーリング工程でスケールを十分に剥離でき、表面性状に優れたCr含有条鋼材を熱間圧延して製造できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明に係るCr含有条鋼材の製造方法は、Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、前記加熱を下記条件で行うところに特徴を有する。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【0009】
前記鋼片としては、その成分組成が更に、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.05%以上、および
Mn:0.1%以上
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものが挙げられる。
【0010】
特に前記鋼片として、JIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすもの(SCR鋼)を用いれば、本発明の効果が存分に発揮される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、条鋼製品の製造工程において、鋼片加熱後に行うデスケーリング時のスケール剥離性が向上し、熱間圧延後の、スケールが起因の微細な表面疵や肌荒れなどの表面欠陥が十分に抑制されて、表面性状に優れた条鋼製品(特には、SCR鋼よりなる条鋼製品)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、サブスケール厚さと残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、再加熱温度とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、再加熱温度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、再加熱温度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、再加熱保持時間とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、再加熱保持時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、再加熱保持時間と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図9】図9は、再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図10】図10は、再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図11】図11は、再加熱雰囲気中のO2濃度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述した通り、特許文献1等に示された水蒸気雰囲気下で加熱することで、その後のデスケーリング時にスケールを良好に剥離できる鋼種(Cr含有条鋼材)がある。例えば、SCM435を対象とした場合、水蒸気(H2O濃度:25〜30体積%が最適範囲)雰囲気下で加熱することで、デスケーリング時のスケール剥離性は向上する。しかしながら、SCR420に代表されるSCR鋼を対象とした場合には、上記水蒸気雰囲気下での加熱があまり効果なく、デスケーリング時のスケール剥離性が向上しない、といった問題がある。
【0014】
本発明者らは、この様にCr含有条鋼材の中でも特にSCR鋼を対象とした場合に、上記問題が存在することをまず突き止めた上で、上記SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング時のスケール剥離性を向上させるべく鋭意研究を行ったところ、まずサブスケールとして、(a)厚み:40μm以上、かつ(b)サブスケール中の平均Cr濃度(後述する実施例に示す方法で測定した値をいう):10質量%以下を満たすものを形成すればよいことがわかった。
【0015】
更に、上記条件を満たすサブスケールを形成するための具体的手段について検討したところ、特に、デスケーリング直前に行う加熱の雰囲気中のO2濃度を高めると共に、該加熱のその他の条件を規定すればよいことを見出した。
【0016】
まず、加熱雰囲気中のO2濃度について説明する。サブスケールは、Cr2O3主体の内部酸化層が表面に移行して外部酸化層となり、更にその表面に形成されるFeO層と、この外部酸化層(Cr2O3主体)が合わさって形成される。一般にスケールは、Feイオンの外方拡散とO2の内方拡散によって形成され、雰囲気中のO2濃度が低い、即ち、O2の内方拡散が遅いと、平衡酸素圧がFeよりも低いCrが優先的に酸化され、その結果、上記サブスケールとしてCr濃度の高いものが形成される。これに対し、雰囲気中のO2濃度を高くすれば、O2の内方拡散が速くなり、Crの酸化とFeの酸化が拮抗して起こるため、結果として、地鉄と剥離しやすく脆い、Cr濃度の低いサブスケールが形成されると考えられる。
【0017】
上記作用効果を十分に発揮させるため、デスケーリング直前に行う加熱の、後述する加熱温度で保持時の雰囲気(加熱雰囲気)中のO2濃度を10体積%以上とする。加熱雰囲気中のO2濃度をより増加させることで、上記の通り、O2の内方拡散がより速まり、剥離しやすいサブスケールが形成されると考えられるが、その効果は飽和する。また必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。よって本発明では、加熱雰囲気中のO2濃度を30体積%以下とする。
【0018】
尚、上記O2以外にCO、CO2、H2Oなどの酸化性ガスが加熱雰囲気中に含まれると、スケールの成長がより促進されるため望ましい。しかし本発明では、上記の通りO2濃度を高めており、またスケール成長速度はO2濃度に支配されるため、上記O2以外の酸化性ガスは含まれていても含まれていなくてもよい。
【0019】
加熱雰囲気において、上記O2以外のガスは特に限定されず、必要に応じて更に含まれうる前記酸化性ガス:CO、CO2、H2Oの他、例えばN2、Ar、H2が含まれうる。
【0020】
以下では、デスケーリング直前に行う加熱のその他の条件を規定した理由について説明する。
【0021】
〔加熱温度:1150〜1250℃〕
加熱温度を1150℃以上とすることで、サブスケール厚さが増大し、また、サブスケール中の平均Cr濃度が低減して、デスケーリング時に容易に剥離しやすいサブスケールを形成することができる。一方、必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。この様な観点から、本発明における加熱温度の上限は1250℃である。
【0022】
尚、本発明において、上記加熱温度、後記する昇温速度、降温速度とは、それぞれ鋼片の表面温度、鋼片の表面温度の昇温速度、降温速度をいうものとする。
【0023】
〔上記加熱温度での保持時間:3〜60秒〕
上記加熱温度で加熱して、サブスケール厚さを増大させると共にサブスケール中の平均Cr濃度を低減させるには、上記加熱温度で保持する時間を3秒以上とする必要がある。好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上である。
【0024】
通常、鋼片の加熱には燃焼ガスが用いられ、加熱炉内の雰囲気は、一般的にN2−1%(体積%)O2−10%CO2−20%H2Oである。しかしこの雰囲気は、O2濃度が1%と低いため、上述した通り、O2の内方拡散が遅く、Cr濃度の高いサブスケールが形成されやすくなる。これに対し本発明では、上記の通り、加熱温度を高くすると共にO2濃度を高めた雰囲気で加熱するため、短時間で、Cr濃化の抑制された厚いサブスケールを形成でき、結果としてスケール剥離性を向上できる。
【0025】
上記保持時間をより増加させることで、スケールがより成長してスケール剥離性を向上できるが、その効果は飽和する。また必要以上の加熱(酸化)は、エネルギー原単位の増加によるコストアップ、過剰なスケール生成(材料ロス)による歩留まりの低下を招く。よって本発明では、上記保持時間を60秒以下とする。好ましくは20秒以下である。
【0026】
〔室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.〕
本発明では、室温から上記加熱温度までの昇温速度を5〜30℃/min.とする。昇温速度が5℃/min.未満だと、鋼片の加熱に長時間を要し、条鋼材の生産性低下を招くので好ましくない。上記昇温速の範囲内であれば、高周波加熱炉等の特別な装置を用いず、一般的な加熱炉を用いて昇温させることができる。該昇温時の雰囲気は特に問わない。
【0027】
本発明では、上記加熱雰囲気におけるH2O濃度は特に限定されず、加熱雰囲気中にH2Oが存在してもほとんど存在しなくてもよい。実操業レベルとしてはおおよそ10〜25体積%の範囲内である。また、上記加熱温度から室温まで降温時の降温速度・雰囲気についても、特に限定されない。
【0028】
上記条件で加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含む製造工程(一部)として、例えば下記(A)(B)が挙げられる。
(A)(加熱炉にて上記条件で鋼片を加熱後、抽出)→(デスケーリング)→(熱間圧延)
(B)(加熱炉で鋼片を加熱後、抽出)→(上記条件で加熱(この場合の加熱を「再加熱」ということがある))→(デスケーリング)→(熱間圧延)
【0029】
鋼片は、通常、加熱炉において1100℃前後の温度で30〜60分加熱される。これにより、後工程の熱間圧延に最適な鋼片の均温化を図ることができる。一方、上記(A)の工程の通り、加熱炉で1200℃前後に加熱すると鋼片のスケール剥離性は向上するが、このような高温の加熱設備(加熱炉)を実現することは、技術的、コスト的に難しい。また、対象鋼種(例えばSUJ2、SCR420、SCM435など)以外の鋼種は、1100℃前後で加熱することが一般的であるため、加熱炉での加熱を、対象鋼種と対象鋼種以外の鋼種に分けて行わなければならず、製造コストがアップする。
【0030】
この様な観点から、上記(B)に示す通り、加熱炉で通常行われている加熱(1100℃前後で加熱)後に、コンベア上に設けられたブース内の例えば電気式加熱装置やガス式加熱装置(高周波加熱装置であってもよい)で、上記条件で加熱(このときの加熱と加熱炉での加熱を区別すべく、このときの加熱時の加熱温度を再加熱温度、該加熱温度での保持時間を再加熱保持時間、加熱雰囲気を再加熱雰囲気という)することが好ましい。
【0031】
上記(B)の工程を実施する場合、加熱炉で鋼片を加熱する条件については、特に限定されず、通常行われている通り、例えば1000℃〜1150℃の温度で30〜60分保持(加熱雰囲気も特に問わず、例えば燃焼ガスを用いて形成される雰囲気とすればよい)し、抽出後に規定の条件で加熱(再加熱)することが挙げられる。
【0032】
その他の製造条件については特に限定されず、例えば、連続鋳造にてスラブまたはビレットを得てから、例えば上記(A)または(B)に示す通り加熱し、ただちに(例えば20秒以内に)、スケールを高圧水デスケーラーで除去し、その後、例えば粗圧延、仕上げ圧延、製品水冷、巻取りを順次経て条鋼材(線状の鋼材)を得ることができる。
【0033】
尚、本発明は上述の通り、スケール剥離性に悪影響を与える特にCrを含有する条鋼材のスケール剥離性を改善するものである。よって本発明は、Crを0.1%以上(好ましくは0.8%以上)含むCr含有条鋼材を対象とする。さらに本発明によれば、Crを多量に含有していても、スケール剥離性を良好にでき、Cr含有量は、例えば、1.0%以上、好ましくは1.1%以上であってもよい。尚、Cr量が過剰になると、延性の確保が困難となるため、Cr量は、2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下である。
【0034】
本発明は、特にCrに起因するサブスケールを制御するものであるため、熱間圧延材(条鋼材)として使用できる限り、Cr以外の鋼成分は特に限定されないが、Cr以外の元素とその量が、例えば、C:0.1〜0.5%、Si:0.05%以上、およびMn:0.1%以上を含むものが挙げられる。
【0035】
上記Cr、C、SiおよびMn以外の残部は、鉄および不可避不純物であってもよい。不可避不純物として、例えば、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不純物が鋼中に含まれることは、当然に許容される。
【0036】
特に前記鋼片として、下記表1に示すJIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすSCR鋼を対象とすると、本発明の効果が存分に発揮され、該SCR鋼を対象とした場合であっても、デスケーリング時のスケール剥離性を十分に高めることができる。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明における条鋼材とは、棒状または線状の鋼材の総称であり、例えば自動車用の懸架ばね、弁ばね、軸受などに用いられうる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
〔実施例1〕
まず、サブスケール厚さとサブスケール中の平均Cr濃度がスケール剥離性に及ぼす影響について調べた。
【0041】
下記4種類の鋼片(いずれも、合金元素(C、Cr)以外の残部は鉄および不可避不純物)を溶製して得た。
・炭素0.1質量%を含む、Fe−0.1%C合金、
・炭素0.1質量%およびCr0.5質量%を含む、Fe−0.1%C−0.5%Cr合金、
・炭素0.1質量%およびCr1.0質量%を含む、Fe−0.1%C−1.0%Cr合金、
・炭素0.1質量%およびCr1.5質量%を含む、Fe−0.1%C−1.5%Cr合金
【0042】
そして上記鋼片から、機械加工によりφ8.0mm×12mmの円柱状に切り出した試料を用意した。前記加工の際、円柱状試料の側面はRmax≦6μmの表面粗度に研磨した。
【0043】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%(体積%)O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、種々の温度および時間で加熱した。該温度は1050〜1300℃の範囲で変化させ、該温度での保持時間は30〜120min.の範囲で変化させて、厚さや平均Cr濃度が種々のサブスケールを形成した。尚、室温から上記加熱温度までの昇温速度は10℃/min.とし、上記加熱温度から室温までの降温速度は10℃/min.とした。
【0044】
(スケール剥離性の評価)
上記加熱後の試料を加工フォーマスターにセットし、真空中で昇温させて1000℃に到達後、デスケーリングを模擬して試料を圧縮してスケールを剥離させ、残留したスケールの面積率からスケール剥離性を評価した。
【0045】
上記圧縮は、真空雰囲気で圧縮歪率50%、歪速度10mm/sec.の条件で行い、圧縮試験後はAr中で試料を常温まで急冷し、剥離後のスケール生成(2次スケール生成)を抑制した。圧縮後は、試料側面の外観をスキャナで取り込み、画像を2値化処理し、圧縮後の試料におけるスケール残留部の面積率(残留スケール面積率)を算出した。
【0046】
(サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定)
また上記加熱後の試料(同時に加熱した、スケール剥離性の評価用の試料とは別個の試料)を樹脂に埋め込んだ後、断面研磨を行い、試料断面(上記円柱状試料の中心軸を通る断面)を露出させた。
【0047】
この断面露出試料をSEMにて観察し、そのスケール断面観察からサブスケール厚さを計測するとともに、該サブスケールをEPMAにより定量分析し、SEM−EPMA写真における3視野のサブスケール中の平均Cr濃度(質量%)を求めた。
【0048】
尚、サブスケールは、上記SEMの反射電子像を撮影すれば、コントラストの違いから特定することができる。また、Cr元素に対してEPMAによりマッピング像を撮影することにより、サブスケール層を確実に特定することができる。
【0049】
上記サブスケール厚さと残留スケール面積率の関係を図1に示す。サブスケール厚さが増加すると、残留スケール面積率が減少する(スケール剥離性が向上する)ことがわかる。良好なスケール剥離性を確保するには、残留スケール面積率を50%以下にすることが望ましく、そのためには図1より、サブスケール厚さを40μm以上とすればよいことがわかる。
【0050】
また、上記サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を図2に示す。この図2より、サブスケール中の平均Cr濃度が減少すると、残留スケール面積率が減少する(スケール剥離性が向上する)ことがわかる。良好なスケール剥離性を確保するには、残留スケール面積率を50%以下にすることが望ましく、そのためには図2より、サブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすればよいことがわかる。
【0051】
〔実施例2〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱における再加熱温度について調べた。
【0052】
まず、C:0.22%、Si:0.31%、Cr:0.95%、Mn:0.72%、P:0.002%、およびS:0.003%を含み、残部鉄および不可避不純物である鋼片を溶製により作製した。この鋼種はSCR420に相当する。
【0053】
上記鋼片を用いて、実施例1と同様に加工した試料を用意した。
【0054】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0055】
引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にてN2−20%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、後記する加熱温度(再加熱温度)で10秒保持する再加熱を行った。この際、室温から上記再加熱温度までの昇温速度、および上記再加熱温度から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。再加熱温度は1100℃から1300℃の範囲で変化させた。
【0056】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0057】
上記再加熱温度とサブスケール厚さの関係を図3に示す。図3より、再加熱温度が高くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0058】
また、上記再加熱温度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図4に示す。図4より、再加熱温度が高くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は5質量%以下となることがわかる。
【0059】
更に、上記再加熱温度と残留スケール面積率の関係を図5に示す。図5より、再加熱温度が高くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、再加熱温度が1150℃以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることがわかる。
【0060】
この図3〜5の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【0061】
〔実施例3〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱における再加熱保持時間について調べた。
【0062】
まず実施例2と同様にして、SCR420に相当する鋼片を溶製し、加工した試料を用意した。
【0063】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0064】
その後、引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にてN2−20%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1200℃で保持する再加熱を行った。この際、室温から1200℃までの昇温速度、および上記1200℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また、上記1200℃で保持する時間(再加熱保持時間)を0〜60秒の範囲で変化させた。
【0065】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0066】
上記再加熱保持時間とサブスケール厚さの関係を図6に示す。図6より、再加熱保持時間が長くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0067】
また、上記再加熱保持時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図7に示す。図7より、再加熱保持時間が長くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は10質量%以下となることがわかる。
【0068】
更に、上記再加熱保持時間と残留スケール面積率の関係を図8に示す。図8より、再加熱保持時間が長くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、再加熱保持時間が3秒以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に抑えられることがわかる。
【0069】
この図6〜8の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【0070】
〔実施例4〕
次に、厚み:40μm以上かつ平均Cr濃度が10質量%以下であるサブスケールを得るための条件として、再加熱雰囲気について調べた。
【0071】
まず実施例2と同様にして、SCR420に相当する鋼片を溶製し、加工した試料を用意した。
【0072】
上記試料を雰囲気制御型熱処理装置に設置し、N2−1%O2−10%CO2−18%H2Oの雰囲気下、1100℃で60分保持する加熱を行った。この際、室温から1100℃までの昇温速度および1100℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。また昇温および降温過程の雰囲気はN2フローとし、1100℃で保持時のみ前記雰囲気とした。
【0073】
その後、引き続き、前記雰囲気制御型熱処理装置にて下記の雰囲気(再加熱雰囲気)下、1200℃で10秒保持する再加熱を行った。この際、室温から1200℃までの昇温速度および1200℃から室温までの降温速度はいずれも10℃/min.とした。再加熱雰囲気は、N2、O2、CO2およびH2Oの混合ガス雰囲気とし、CO2濃度:10体積%、H2O濃度:18体積%に固定し、O2濃度を0体積%から40体積%の範囲で変化させ、残部はN2とした。
【0074】
上記再加熱を施した試料に対し、実施例1と同様にスケール剥離性の評価(残留スケール面積率の測定)、サブスケール厚さおよびサブスケール中の平均Cr濃度の測定を行った。
【0075】
上記再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール厚さの関係を図9に示す。図9より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなるとサブスケールは厚くなる傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、サブスケール厚さは40μm以上となることがわかる。
【0076】
また、上記再加熱雰囲気中のO2濃度とサブスケール中の平均Cr濃度との関係を図10に示す。図10より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなるとサブスケール中の平均Cr濃度は減少する傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、サブスケール中の平均Cr濃度は10質量%以下となることがわかる。
【0077】
更に、再加熱雰囲気中のO2濃度と残留スケール面積率の関係を図11に示す。図11より、再加熱雰囲気中のO2濃度が高くなると残留スケール面積率は減少する傾向にあり、上記O2濃度が10体積%以上であれば、残留スケール面積率を50%以下に抑えられることがわかる。
【0078】
この図9〜11の結果は、前記図1および図2において、サブスケール厚さを40μm以上かつサブスケール中の平均Cr濃度を10質量%以下とすれば、残留スケール面積率を50%以下に低減できることとほぼ一致している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、
前記加熱を下記条件で行うことを特徴とするCr含有条鋼材の製造方法。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【請求項2】
前記鋼片は、更に、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.05%以上、および
Mn:0.1%以上
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記鋼片は、JIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすものである請求項2に記載の製造方法。
【請求項1】
Crを0.1%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)以上含む鋼片を、加熱してからデスケーリングする工程、次いでデスケーリングした鋼片を熱間圧延する工程を含むCr含有条鋼材の製造方法であって、
前記加熱を下記条件で行うことを特徴とするCr含有条鋼材の製造方法。
(加熱条件)
加熱温度:1150〜1250℃
室温から上記加熱温度までの昇温速度:5〜30℃/min.
上記加熱温度での保持時間:3〜60秒
上記加熱温度で保持時の雰囲気:O2濃度が10〜30体積%である雰囲気
【請求項2】
前記鋼片は、更に、
C:0.1〜0.5%、
Si:0.05%以上、および
Mn:0.1%以上
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記鋼片は、JIS G 4104(1997年)で規定されるSCR415、SCR420、SCR430、SCR435、SCR440、またはSCR445の化学成分を満たすものである請求項2に記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−201461(P2010−201461A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49414(P2009−49414)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
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