説明

D−プシコースを含有する体重増加抑制性組成物およびその利用方法

【課題】 種々の原因による体重の過剰な増加を抑制し、過体重を減少させること。
【解決手段】 D−プシコースを含み、体重の過剰増加を抑制することおよび/または過体重を減少させること、を特徴とする組成物。D−プシコースを含み、肥満を予防することおよび/または肥満状態を改善すること、を特徴とする組成物。D−プシコースは1〜90重量%含まれるように配合される。D−プシコースはD−プシコースおよび/またはその誘導体である。体重の過剰増加の抑制および/または過体重の減少を必要とする人および/または動物に対して、上記の組成物を用いること、を特徴とする体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させる方法。肥満の予防および/または肥満状態の改善を必要とする人および/または動物に対して、上記の組成物を用いること、を特徴とする肥満を予防およびまたは肥満状態を改善する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はD−プシコースの有する体重増加抑制および/または過体重減少効果の利用に関する。より詳細には本発明は、種々の原因による体重の過剰な増加を抑制し、過体重を減少させることができ、肥満を防止、軽減することが可能で、過剰の体重増加傾向あるいは過体重にある人および/または動物に適したD−プシコースおよび/またはその誘導体を含有する組成物、食品、食品素材、食品添加物、飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料に関する。また本発明は、種々の原因による体重増加を抑制および/または過体重を減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少糖は天然に存在するが、その存在量が極めて微量である単糖をいう。希少糖は化学構造により、アルドース、ケトースおよびアルコールに分けられる。アルドース類としては例えばD−アロースが、ケトース類としては例えばD−プシコースが、アルコール類としては例えばアリトールがある。しかし、従来これら希少糖の大部分は大量生産ができず入手困難であったため、その生理活性や薬理活性に関する研究はほとんどなされていなかった。最近、香川大学農学部何森教授らにより酵素を用いた大量生産方法が開発され、D−プシコース、D−アロース、アリトールなどいくつかの希少糖が生産されるようになり、その生物活性に関する研究が進んでいる。
【0003】
これまでの研究結果から、希少糖には糖代謝あるいは脂質代謝に対する作用をもつ糖が存在することが明らかにされている。例えば、D−プシコースについては、in vitro実験において、摘出腸管でのD-Glucose輸送の抑制(非特許文献1)、ラット膵β細胞株からのインスリン分泌促進(特許文献1)、血管内皮細胞株からのMCP-1分泌抑制(特許文献1)などが、またin vivo実験で、体脂肪蓄積軽減作用(非特許文献2)、生体内ではエネルギーとはならないこと(非特許文献3)、などが、それぞれ明らかにされている。
これまでの研究結果から、希少糖には糖代謝あるいは脂質代謝に対する作用をもつ糖が存在することが明らかにされている。例えば、D−プシコースについては、in vitro実験において、摘出腸管でのD-Glucose輸送の抑制(非特許文献1)、ラット膵β細胞株からのインスリン分泌促進(特許文献1)、血管内皮細胞株からのMCP-1分泌抑制(特許文献1)、脂肪細胞において中性脂肪の蓄積を抑える働き(非特許文献2、3)などが、またin vivo実験で、体脂肪蓄積軽減作用(非特許文献4)、生体内ではエネルギーとはならないこと(非特許文献5)などが、それぞれ明らかにされている。
【0004】
しかし、これまでの研究で明らかにされた作用は、多くはin vitro実験で見られているものであり、in vivo実験の結果も正常動物を用いて見られたものである。従って、希少糖が肥満など糖代謝あるいは脂質代謝に異常を持つ病態動物においてどのような効果を現すかは未だ知られていない。
【0005】
【非特許文献1】平成11年度科学技術総合研究委託費 地域先導研究 研究成果報告書「希少糖類の医薬品としての作用機序に関する研究」香川医科大学、徳田雅明、小西良士、前田 肇、平成12年
【非特許文献2】2005年 日本生化学会抄録(神戸)「脂肪細胞に及ぼす単糖類の影響」香川大学医学部、斉藤まど香 他4名。
【非特許文献3】2006国際生化学会抄録(京都)「Effects of Rare Sugars on the Properties of 3T3-L1 Adipocytes.」
【非特許文献4】平成11年度科学技術総合研究委託費 地域先導研究 研究成果報告書「ラット等を用いた希少糖類の栄養学的評価と食品への応用」香川大学農学部、鈴木博雄、松尾達博、橋口峰雄、平成12年
【非特許文献5】平成12年度科学技術総合研究委託費 地域先導研究 研究成果報告書「ラット等を用いた希少糖類の栄養学的評価と食品への応用」香川大学農学部、鈴木博雄、松尾達博、橋口峰雄、平成13年
【特許文献1】国際公開番号W003/097820
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在我が国には肥満とされる人たちが2300万人いると見られている。これらの人たちは、単に体重の過剰増加あるいは過体重のみでなく、高脂血症、高血糖症などを併発していることが多く、生活習慣病の一つとして心臓、血管、脳などに現れるメタボリックシンドロームなどの疾患による死亡あるいはQOLの低下などの危険にさらされている。そのため、体重の過剰な増加を防止し、過体重を減少させる必要性が叫ばれている。このためには、医薬品使用より日常的に摂取する食物の質や量の制限と運動が肥満の治療あるいは予防により有効であると考えられている。しかし、食事制限や運動は時に行き過ぎとなって、健康そのものを害することもある。
【0007】
現在、肥満予防や血中脂質を低減することをうたういわゆる健康食品も多く市販されている。これらのいわゆる健康食品は、本来行うべき食事制限や運動の補助として使う限り有用である。現在、肥満の予防などに用いられているそれらの食品の主成分には、食物繊維、低カロリー甘味料、アミノ酸混合物などがあるが、いずれも味がよくない、作用が不確実であるなどの難点がある。そのため、食事制限や運動の補助のために、作用が確実で使用しやすい食品の出現が望まれている。
【0008】
D−プシコースは蔗糖の約60%の強さの爽快な甘みを持つ糖で、糖代謝異常は脂質代謝異常と深い関係にあるため、この希少糖が抗肥満効果を持っている可能性は大きい。そこで、ヒト肥満のモデル動物を用いてD−プシコースの抗肥満効果について検討した。
【0009】
上記研究の成果に基づく本発明の目的は、体重の過剰増加抑制および過体重減少が可能で、肥満予防および肥満状態改善を必要とする人および動物に適したD−プシコースおよび/またはその誘導体を含有する組成物、食品、食品素材、食品添加物、飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料などの提供である。また、本発明は、種々の原因による体重の過剰な増加を抑制し、過体重を減少させる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記研究において、肥満モデル動物の体重に対するD−プシコースの効果について検討したところ、遺伝的肥満動物の体重増加を抑制し、実験的肥満動物の過体重を減少させる効果を見いだし、その発見をもとに鋭意研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、D−プシコースを含み、体重の過剰増加を抑制することおよび/または過体重を減少させること、を特徴とする組成物を要旨とする。
D−プシコースが1〜90重量%含まれるように配合されており、本発明は、D−プシコースを含み、D−プシコースが1〜90重量%含まれるように配合されている、体重の過剰増加を抑制することおよび/または過体重を減少させること、を特徴とする組成物を要旨とする。
D−プシコースがD−プシコースおよび/またはその誘導体であり、本発明は、D−プシコースおよび/またはその誘導体を含み、好ましくはD−プシコースおよび/またはその誘導体が1〜90重量%含まれるように配合されている、体重の過剰増加を抑制することおよび/または過体重を減少させること、を特徴とする組成物を要旨とする。
また、本発明は、体重の過剰増加の抑制および/または過体重の減少を必要とする人および/または動物に対して、上記のいずれかの組成物を用いること、を特徴とする体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させる方法を要旨とする。
【0012】
本発明は、D−プシコースを含み、肥満を予防することおよび/または肥満状態を改善すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
D−プシコースが1〜90重量%含まれるように配合されており、本発明は、D−プシコースを含み、D−プシコースが1〜90重量%含まれるように配合されている、肥満を予防することおよび/または肥満状態を改善すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
D−プシコースがD−プシコースおよび/またはその誘導体であり、本発明は、D−プシコースおよび/またはその誘導体を含み、好ましくはD−プシコースおよび/またはその誘導体が1〜90重量%含まれるように配合されている、肥満を予防することおよび/または肥満状態を改善すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
また、本発明は、肥満の予防および/または肥満状態の改善を必要とする人および/または動物に対して、上記のいずれかの組成物を用いること、を特徴とする肥満を予防およびまたは肥満状態を改善する方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、D−プシコースおよび/またはその誘導体を有効成分とし、体重の過剰増加抑制および/または過体重減少効果を有する組成物および/または各種の原因による肥満の予防効果および/または肥満状態の改善効果を有する組成物、ならびにこれらの組成物を用いることを特徴とする、体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させる方法および/または各種の原因による肥満を予防および/または肥満状態を改善させる方法を提供することができる。
【0014】
本発明は、体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させることを特徴とし、D−プシコースおよび/またはその誘導体を有効成分として含有する、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および/または患獣用飼料を提供することができる。
【0015】
また、本発明はD−プシコースおよび/またはその誘導体を含む組成物を用いる、体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させる方法および/または各種の原因による肥満を予防および/または肥満状態を改善させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
D−プシコースについては、近年、エピメラーゼの出現(例えば、特開平6−125776号公報参照)により、たとえば自然界に豊富に存在する単糖であるD−フラクトースより生産できるようになるなど、依然高価ではあるが、比較的入手が容易となった。原料としてD−フラクトースを用いることにより、原料コストの問題を解決し、D−プシコースに基づく新たな生理活性を有することが期待できるヘテロオリゴ糖が得られることを見出した。単糖類の中で、D−プシコースは、還元基としてケトン基を持つ六単糖である。このD−プシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D−プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されている。
【0017】
希少糖とは自然界に希にしか存在しない単糖(アルドース、ケトースおよび糖アルコール)と定義づけることができる。本発明においても上記の定義に基づく希少糖であり、好ましくはケトースのD-プシコースである。この定義は糖の構造や性質による定義ではないため、あいまいである。すなわち、一定量以下の存在量を希少糖というなどの量の定義はなされていないためである。しかし、一般に自然界に多量に存在するアルドースとしてはD-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの6種類あり、それ以外のアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D-フラクトースが存在しており、他のケトースは希少糖といえる。他のケトースとして、D-タガトース、D-ソルボース、L-フラクトース、L-プシコース、L-タガトース、L-ソルボースが挙げられる。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD−ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。
本発明で用いる希少糖D−プシコースは、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を大量生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
【0018】
本発明で用いるD-プシコースの誘導体について説明する。ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物を出発化合物の誘導体と呼称する。D-プシコースを含む六炭糖の誘導体には、糖アルコール(単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコールとなる)や、ウロン酸(単糖類のアルコール基が酸化したもので、天然ではD-グルクロン酸、ガラクチュロン酸、マンヌロン酸が知られている)、アミノ糖(糖分子のOH基がNH2基で置換されたもの、グルコサミン、コンドロサミン、配糖体などがある)などが一般的であるが、それらに限定されるものではない。
【0019】
希少糖は微量ではあるが天然に存在する単糖である。D−プシコースについてはヒトに対する毒性の報告はなく、動物に対する毒性は低いと考えられる。また、D−プシコースは水に溶けやすく、蔗糖の約60%の強さの爽快な甘みを持つ糖であり、その甘味は上品で爽やかで、サッカリンのような苦みや渋みを伴う不快感はなく、むしろフラクトースの甘味に類似している。D−プシコースは、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味など、各種の物質の他の呈味とよく調和し、普通一般の飲食物の甘味付、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0020】
本発明が対象とする組成物(食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および/または患獣用飼料)は、D−プシコースおよび/またはその誘導体を含む食用および/あるいは薬用の組成物であれば何でもよい。
D-プシコースを有効成分とする組成物は、体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるための食品添加物、食品素材、飲食品、医薬品・医薬部外品および飼料からなる群から選ばれる形態のものである。その組成物の機能性を生かして健康飲食品、患者用栄養飲食品を謳った食品、同様に、家畜、家禽、魚などの飼育動物のための飼料の開発が可能となった。
すなわち、上記飲食品が、体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるための、機能性食品、栄養補助食品または健康飲食品である。上記飼料が、体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるための、家畜、家禽、ペット類の飼料である。具体的には、上述したD−プシコースを有効成分とする組成物の食品素材を、食品形態、飲料形態または飼料形態のいずれの形態で使用することができる。
本発明のD-プシコースを有効成分とする組成物が有する上述した機能性を生かして用いる場合は、その含量は、特に制限されないが、目的とする機能の度合い、使用態様、使用量等により適宜調整することができ、例えば0.05〜100質量%である。体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるための組成物は、人体やその他飲食物、医薬品、飼料や皮膚外用剤に使用することができる。また、経口等により内服することも、皮膚等に塗布することもできる。常法にしたがって経口、非経口の製品に配合することができ、調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、皮膚外用剤、医薬品および飼料等の様々な分野で利用することができる。例えば、飲食物に配合した場合には、体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるべき疾患を治療または予防するための飲食物を提供することができる。予防等の効果からは、健康食品、栄養食品等として用いられることも期待できる。その他、家畜、および/または魚類の飼料、餌料に利用することができる。人体やその他飲食物、医薬品、肥料、飼料や皮膚外用剤に使用することにより、体重の過剰増加を抑制するおよび/または過体重を減少させるべき疾患を治療または予防する効果を得ることができる。
【0021】
本発明の組成物においては、D−プシコースおよび/またはその誘導体は、通常、組成物中に0.1〜50重量%含まれるように配合されている。好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。ただし、含有量が少ない場合には組成物の摂取量を増やせば良く含有量が多い場合には組成物の摂取量を少なくすれば良い。よって、配合割合について、通常飲食品には下限に近い配合割合で用いることができるが、医薬品、錠剤やカプセルに入れて用いるような場合は上限に近い配合割合で用いることができる。D−プシコースおよび/またはその誘導体をヒトが摂取する場合、個々人の年齢、体重および症状などによって用法用量が決定されるべきであるが、多くの場合有効な用量はD−プシコース成人1日当たり1〜50gで、分割して食前、食後あるいは食事とともに摂取されるのが適当である。D−プシコースおよび/またはその誘導体の投与量は、経口投与の場合、成人に対しD−プシコースとして、1日量0.3〜50gを摂取するのが好ましいが、年令、症状により適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の肥満予防および/または改善剤は、1日に1回、又は適当な間隔をおいて1日2もしくは3回に分けて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに摂取することが好ましい。
【0022】
本発明の組成物を食品に利用する場合、そのままの形態、オイルなどに希釈した形態、乳液状形態食、または食品業界で一般的に使用される担体を添加した形態などのものを調製してもよい。飲料の形態は、非アルコール飲料またはアルコール飲料である。非アルコール飲料としては、例えば、炭酸系飲料、果汁飲料、ネクター飲料などの非炭酸系飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒー、ココアなど、また、アルコール飲料の形態では薬用酒などの一般食品の形態を挙げることができる。本発明の組成物の、前記糖質代謝異常および/または脂質代謝異常改善を目的とした食品素材あるいは食品添加物としての使用形態としては、錠剤、カプセル剤、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、ゼリーなどの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。さらに、本発明の組成物を適宜食品に添加して肥満予防および/または改善などを目的とした保健食または病人食とすることができる。
任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D−ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0023】
本発明の食品素材および食品添加物について説明する。D−プシコースは水に溶けやすいため、コーヒーやジュースなどの飲料や菓子類および各種の加工食品に容易に添加することができる。さらに、本発明の組成物を適宜食品および/または食品素材に添加して肥満予防および/または肥満状態改善などを目的とした保健用および/または患者用加工食品とすることができる。本発明の組成物は、肥満予防および/または肥満状態改善を必要とする人および動物が一般の食事とともに摂食、服用あるいは飲用する食品を作るための食品素材および/または食品添加物として用いることができ、体重の過剰な増加を予防し、過体重状態を改善してQOLをたかめるとともに、同様の目的で用いられる薬剤あるいは他の食品の効果を補強し、その使用量を低減することができる。
【0024】
D−プシコースおよび/またはその誘導体をヒトが摂取する場合、個々人の年齢、体重および症状などによって用法用量が決定されるべきであるが、多くの場合有効な用量は希少糖1日当たり1〜50gで、分割して食前、食後あるいは食事とともに摂取されるのが適当である。
【0025】
本発明の組成物の、前記肥満予防および/または肥満状態改善などを目的とした食品素材あるいは食品添加物としての使用形態としては、錠剤、カプセル剤、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、ゼリーなどの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。さらに、本発明の組成物を適宜食品に添加して肥満予防および/または肥満状態改善などを目的とした保健食または病人食とすることができる。
【0026】
本発明の飲料水について説明する。肥満は摂取カロリーと消費カロリーのアンバランスから現われるが、その原因が生活習慣に深く根ざしているため治療は困難である。現在我が国では食欲減退薬などの肥満治療薬は認められておらず、食事制限などによる生活習慣の修正と運動が肥満治療の方法として行われている。しかし、食事制限や運動は肥満状態にある人たちにとっては大きなストレスとなっている。また、過体重ではないにも拘わらず体重を減らすために食事制限などを行い、栄養バランスが崩れて体調を悪化させるという状況も見られている。
【0027】
本発明の飲料水は、D−プシコースおよび/またはその誘導体を1〜5重量%含む無色透明で無臭、ほとんど無味の水溶液である。好ましくは1.5〜4重量%、より好ましくは2〜3重量%である。1重量%未満であると肥満予防および/または肥満状態改善効果が十分ではなく、5重量%を超えると砂糖の60%の甘みを有するD−プシコース由来の甘みを感ずるようになる。この飲料水は、無色透明でにおいはなく、かすかな甘みを有している。したがって、そのまま飲料水として飲用できるとともに、炊飯、調理やお茶、コーヒーなどを淹れるためにも使用できる。本発明の飲料水をこのように日常の食事や嗜好品を作るために使用することにより、食事制限を緩和し、特に意識することなく体重を制御することができる。また、本発明の基礎となった研究結果から、正常範囲にある体重には影響を与えないことが推測されるので、より安全に体重調節を行うことができると考えられる。このことは、過体重や体重の過剰増加に悩む人たちのQOLの向上に益するものである。
【0028】
本発明の薬剤について説明する。本発明者は、D−プシコースのラット体重に対する作用について、遺伝的および実験的肥満モデル動物を用いて詳細に検討した。その結果、D−プシコースには体重増加抑制および過体重減少効果があることを見いだした。
【0029】
D−プシコースおよび/あるいはその誘導体を有効成分とする、肥満予防および/または肥満状態改善効果を目的とする薬剤は、これらを単独で用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの適当な添加剤を配合し、液剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、軟膏剤、貼付剤、散布剤、スプレー剤または注射剤等の適当な剤型を選んで製剤し、経口的、経鼻的、経皮的あるいは経静脈的に投与することができる。
【0030】
本発明の組成物を薬剤として臨床に適用するに際しては、有効成分としてD−プシコースおよび/あるいはその誘導体を、固体、半固体または液体の医薬用担体、例えば希釈剤、賦形剤、安定剤等の添加剤とともに含む製剤とすることが望ましい。前記有効成分の担体成分に対する割合は、1〜90重量%の間で変動させ得る。剤型および投与形態としては、液剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、軟膏剤、貼付剤、散布剤、スプレー剤または注射剤などの剤型にして、又は原末のまま経口投与してもよい。液剤として使用する場合には、経口投与の他に経鼻的あるいは経静脈的に投与してもよい。
【0031】
経口投与、経鼻投与、経皮投与または経静脈投与に適した医薬用の有機又は無機の固体、半固体又は液体の担体、溶解剤もしくは希釈剤を、本発明の組成物を薬剤として調製するために用いることができる。水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動植物油ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、ヤシ油、ラノリン、又は医薬に用いられる他のキャリアー(担体)は全て、本発明の組成物を含む薬剤の担体として用いることができる。また、安定剤、湿潤剤、乳化剤や、浸透圧調整や配合剤のpH維持のための塩類を補助薬剤として適宜用いることができる。
【0032】
さらに、本発明の組成物を含有する薬剤は、肥満予防および/または肥満状態改善において、本発明の薬剤とともに適切に投与することができる他の医薬として有効な成分を含有していてもよい。顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、散剤、錠剤、軟膏剤、貼付剤、散布剤またはスプレー剤の場合には、本発明の組成物を5〜80重量%含有しているのが好ましく、液剤または注射剤の場合には、対応する量(割合)は1〜80重量%であるのが好ましい。
【0033】
臨床投与量は、経口投与の場合、成人に対してD−プシコースおよび/またはその誘導体として1日量1〜50gを内服するのが好ましいが、年齢、症状などにより適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の薬剤は、1日1回又は適当な間隔を置いて1日2回以上にわけて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに投与することが好ましい。
【0034】
本発明の製剤原料について説明する。肥満予防および/または肥満状態改善を期待する他の薬物を薬剤として製造するときに、D−プシコースおよび/またはその誘導体を、製剤原料として、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの目的で使うこともできる。あるいは、例えば続発性に肥満が現れた場合などには原因疾患の治療に加えて肥満状態の改善が必要となるが、このような場合の原因疾患治療剤などの製造に、本発明の組成物を上記のような製剤原料としても用いることができる。この場合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の使用量や他の薬物などとの割合は、これら治療薬の製剤中含有量あるいは性質により適宜調整することができる。
【0035】
[作用]
遺伝的肥満ラットにおいてD−プシコースの連続経口投与はラットの体重増加を抑制した。また、実験的肥満ラットにD−プシコースを連続経口投与した場合には、増加した体重が減少した。
【0036】
本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実験に用いた餌の種類:日本クレア(株)製のマウス・ラット・ハムスター用CE2餌の投与方法:自由摂取
摂餌量:D-プシコース水溶液投与群と対照群とで差は認められなかった。(実験中の観察からは、動物の行動にも顕著な変化は認められなかった。)
【0038】
[実験方法]
1.遺伝的肥満ラットを用いた実験
10週齢の雄Zucker(fa/fa)ラット(以下Zuc(fa)と示す)を用いた。これらの動物を、蒸留水投与群(対照群)、D−プシコース0.5g/kg投与群(P0.5)、D−プシコース1g/kg投与群(P1)、D−プシコース2g/kg投与群(P2)、D−プシコース4g/kg投与群(P4)、の5群に分けた。D−プシコースは蒸留水に溶解し、投与容量は10mL/kgとした。
上記のD−プシコース溶液あるいは蒸留水を1日1回強制経口投与した。体重は3あるいは4日間隔で測定した。測定値は平均値および標準誤差で表わし、有意差検定はTukey multiple range testを用いて行った。
2.実験的肥満マウスを用いた実験
4週齢のddY系マウスを用いた。実験的に肥満を起こすために、Aurothioglucose(ATG)
500mg/kgを腹腔内に投与した。投与15日目には、ATGを投与したマウス60匹のうち、7匹が死亡し、53匹が生存していた。生存マウスのうち、ATGを投与しなかった動物(非ATG対照群)の体重の平均値+標準偏差×2以上の体重を持つ動物を実験的肥満マウスとした。53匹の生存マウスのうち、実験的肥満マウスは26匹であった。
実験的肥満マウスを、蒸留水投与群(ATG対照群)、D−プシコース1%水溶液投与群(ATG+P1%)およびD−プシコース10%水溶液投与群(ATG+P10%)の3群に分けた。これらD−プシコース水溶液投与群には、ATG投与15日目から28日目まではD−プシコース水溶液を、18日目の体重測定以後は蒸留水を、それぞれ飲料水として与えた。
体重は3あるいは4日間隔で測定した。測定値は平均値および標準誤差で表わし、有意差検定はTukey multiple range testを用いて行った。
【0039】
[実験結果]
1.遺伝的肥満ラットを用いた実験
Zuc(fa)の実験開始時の平均体重は405.6±3.0g(N=100)であった。対照群のZuc(fa)の体重は1日当たり4から6g増加し、実験開始後21日目には504.4±4.1g(N=20)となった。D−プシコース投与群の動物の体重増加は対照群と較べて少なく、P4群の体重はD−プシコース投与10日目以降の全ての測定時点で対照群と較べて有意差が見られた。P2群では、D−プシコース投与21日目に対照群と較べて有意に少ない体重を示した(図1)。
2.実験的肥満マウスを用いた実験
ATG投与後15日目の非ATG対照群の動物の平均体重は、36.0±0.8g(N=10)gであった。一方、実験的肥満マウスの平均体重は、39.2±0.3g(N=5)gであった。
実験的肥満マウスでD−プシコースを投与しなかった場合(ATG対照群)には体重は増加し続け、ATG投与後42日目には53.3±3.7g(N=5)gとなった。D−プシコース投与群のうち、ATG+P1%群の動物の体重は、ATG対照群とほぼ同様に増加し、ATG投与42日目には55.6±3.5g(N=5)gとなった。ATG対照群およびATG+P1%群の動物の体重は、全ての測定時点で非ATG対照群の動物の体重と較べて有意に大きかった。ATG+P10%群の動物の体重はD−プシコース投与直後に減少し、D−プシコース投与期間中(ATG投与15日目から28日目まで)、非ATG対照群の動物の体重との間には有意差は見られなかった。ATG投与28日目に飲料水をD−プシコース10%水溶液から蒸留水に変えた後も、ATG+P10%群の動物の体重は減少したままで、非ATG対照群の動物の体重との間には有意差は見られなかった(図2)。
【0040】
[考察]
遺伝的肥満ラットを用いた実験においては、0.5g/kg以上のD−プシコースを強制経口投与した場合に、対照群と較べて体重増加が小さい傾向が見られ、4g/kgを投与した群では対照群との間に有意な差が見られた。D−プシコース4g/kgを投与した群では、投与開始後10日目からその差が明らかとなった。
一方、実験的肥満マウスを用いた実験では、D−プシコース10%水溶液を飲料水とした直後に、正常マウスとほぼ同じ体重にまで減少した。D−プシコース10%水溶液を飲料水としたときに減少した体重は、飲料水を蒸留水に変更した後も持続していた。また、D−プシコース10%水溶液により体重は減少したが、正常マウスの体重より有意に低くなることはなかった。
本研究で、D−プシコースが病態動物の体重増加を抑制し、増加した体重を減少させる効果が明らかになったことは、ヒトにおける糖代謝あるいは脂質代謝の異常により発現する肥満に対して希少糖が改善効果を現す可能性が大きいことを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、D−プシコースおよび/またはその誘導体は肥満病態動物において体重増加を抑制し、増加した体重を減少させる効果を現すことがはじめて明らかになった。このことは、ヒトにおいてもD−プシコースおよび/またはその誘導体が肥満予防および/または肥満状態改善効果を現すことを推測させる結果であり、肥満の予防ならびに対処に新しい手段を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】Zucker(fa/fa)ラットの体重に及ぼすD-Psicose反復投与の影響〔図中、*;p<0.05,**;p<0.01(vs 蒸留水投与群)〕。
【図2】Aurothioglucose(ATG)投与マウスの体重におよぼすD-Psicoseの影響〔図中、**;p<0.01(vs ATG対照群)〕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−プシコースを含み、体重の過剰増加を抑制することおよび/または過体重を減少させること、を特徴とする組成物。
【請求項2】
D−プシコースを含み、肥満を予防することおよび/または肥満状態を改善すること、を特徴とする組成物。
【請求項3】
D−プシコースが1〜90重量%含まれるように配合される請求項1又は2の組成物。
【請求項4】
D−プシコースがD−プシコースおよび/またはその誘導体である請求項1、2または3の組成物。
【請求項5】
体重の過剰増加の抑制および/または過体重の減少を必要とする人および/または動物に対して、請求項1、3または4の組成物を用いること、を特徴とする体重の過剰増加を抑制および/または過体重を減少させる方法。
【請求項6】
肥満の予防および/または肥満状態の改善を必要とする人および/または動物に対して、請求項2、3または4の組成物を用いること、を特徴とする肥満を予防およびまたは肥満状態を改善する方法。












【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−51137(P2007−51137A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196753(P2006−196753)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】