説明

DDR型ゼオライト膜配設体の製造方法

【課題】DDR型ゼオライト膜でのクラック発生が低減され、DDR型ゼオライト膜内での1−アダマンタンアミンの残存が低減されているDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法を提供する。
【解決手段】1−アダマンタンアミン、シリカ(SiO)、及び水を含有する原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させることによる、DDR型ゼオライトの水熱合成にて、多孔質基体の表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成し、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を作製する膜形成工程と、前駆体を400℃以上550℃以下にて加熱することにより、DDR型ゼオライト膜に含有されている1−アダマンタンアミンを燃焼除去する燃焼工程と、を有するDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)などの低分子ガスに対する分子篩膜として機能させることができるDDR型ゼオライト膜を備えるDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、触媒、触媒担体、吸着材等として利用されている。ゼオライト膜配設体は、例えば金属やセラミックスからなる多孔質基体の表面にゼオライト膜が形成されたものであり、ゼオライトの分子篩作用を利用してガス分離膜や浸透気化膜に用いられている。
【0003】
ゼオライトは、その結晶構造により、LTA、MFI、MOR、AFI、FER、FAU、DDR等に分類される。これらの中でも、DDR(Deca−Dodecasil 3R)は、主成分がシリカからなる結晶であり、その結晶構造内には酸素8員環を含む多面体によって形成された細孔が存在する。DDR型ゼオライトの細孔径は、4.4×3.6オングストロームである(W.M.Meier,D.H.Olson,Ch.Baerlocher,Atlas of zeolite structure types,Elsevier(1996)参照)。
【0004】
DDR型ゼオライトは、ゼオライトの中では比較的細孔径が小さいものであり、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)などの低分子ガスに対する分子篩膜として適用できる可能性を有する。
【0005】
そして、DDR型ゼオライトの製造方法としては、例えば、1−アダマンタンアミン、シリカ、水及びエチレンジアミンを含有する原料溶液にDDR型ゼオライト種結晶を浸漬させて行う水熱合成により、短時間に結晶成長させて、DDR型ゼオライトを製造する方法が開示されている。また、この方法では、多孔質基体の表面上に緻密なDDR型ゼオライト膜を形成することにより、DDR型ゼオライト膜配設体を製造することも可能である(特許文献1、2参照)。
【0006】
特許文献1、2に記載のものをはじめとする従来公知の製造方法では、水熱合成直後のDDR型ゼオライト膜には、DDRゼオライトの細孔内に構造規定剤として用いた1−アダマンタンアミンが取り込まれている。そのため、DDR型ゼオライト膜配設体の製造方法では、水熱合成後にDDR型ゼオライト膜を加熱し、1−アダマンタンアミンを燃焼除去する工程を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−66188号公報
【特許文献2】特開2004−83375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、1−アダマンタンアミンの燃焼除去のためにDDR型ゼオライト膜を加熱したとき、多孔質基体とその表面上に配設されたDDR型ゼオライト膜との間に熱膨張差が生じ、DDR型ゼオライト膜にクラックが発生しやすい。この加熱温度を低くして1−アダマンタンアミンを燃焼除去する手段もあるが、加熱温度を低くするとDDR型ゼオライト膜内に1−アダマンタンアミンが残存してしまう。これらのDDR型ゼオライト膜でのクラックの発生及びDDR型ゼオライト膜内での1−アダマンタンアミンの残存は、DDR型ゼオライト膜の低分子ガス等に対する分離性能を低下させる原因となる。しかし、従来公知のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法では、上述のような分離性能低下をもたらすクラックの発生や1−アダマンタンアミンの残存の問題が依然として解決されていない。
【0009】
上述の問題に鑑みて、本発明の課題は、DDR型ゼオライト膜でのクラック発生が低減され、DDR型ゼオライト膜内での1−アダマンタンアミンの残存が低減されているDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者等は、鋭意検討した結果、1−アダマンタンアミンを燃焼除去するために好適なDDR型ゼオライト膜の加熱条件を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示すDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法が提供される。
【0011】
[1] 1−アダマンタンアミン、シリカ(SiO)、及び水を含有する原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させることによる、DDR型ゼオライトの水熱合成にて、前記多孔質基体の表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成し、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を作製する膜形成工程と、前記前駆体を400℃以上550℃以下にて加熱することにより、前記DDR型ゼオライト膜に含有されている前記1−アダマンタンアミンを燃焼除去する燃焼工程と、を有し、二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガスに対する分離係数が10以上の分離性能を有するDDR型ゼオライト膜配設体を得るDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。
【0012】
[2] 前記燃焼工程において、前記前駆体を400℃以上450℃未満にて100時間以上加熱する前記[1]に記載のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。
【0013】
[3] 前記燃焼工程において、前記前駆体を450℃以上550℃以下にて50時間以上加熱することにより、二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガスに対する分離係数が10以上かつ二酸化炭素(CO)の透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上の分離性能を有する前記DDR型ゼオライト膜配設体を得る前記[1]に記載のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法は、DDR型ゼオライト膜でのクラック発生が低減され、DDR型ゼオライト膜内での1−アダマンタンアミンの残存が低減されているDDR型ゼオライト膜配設体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法の一実施形態に用いる多孔質基体を模式的に示す斜視図である。
【図2】構造規定剤として用いた1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト粉末について、加熱の設定温度400℃、500℃又は600℃にて加熱した際の加熱時間とDDR型ゼオライト粉末の質量増減率との関係を表すグラフである。
【図3】実施例1〜7、比較例1〜3において、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上のDDR型ゼオライト膜配設体を得られる割合について、燃焼工程での加熱温度と加熱時間との関係に着目して分布を表している図である。
【図4】実施例1〜7、比較例1〜3において、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上かつCO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上のDDR型ゼオライト膜配設体が得られた割合について、燃焼工程での加熱温度と加熱時間との関係に着目して分布を表している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施
形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、
改良を加え得るものである。
【0017】
1.DDR型ゼオライト膜配設体の製造方法:
1−1.本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法の概要:
本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」)は、1−アダマンタンアミンを構造規定剤として多孔質基体の表面上にDDR型ゼオライト膜を形成する膜形成工程と、DDR型ゼオライト膜に含有されている1−アダマンタンアミンを燃焼除去する燃焼工程とを有する。
【0018】
本発明の製造方法の膜形成工程は、水熱合成によって、多孔質基体の表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成する工程である。水熱合成は、1−アダマンタンアミン、シリカ(SiO)、及び水を含有する原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させて実施する。
【0019】
本発明の製造方法の燃焼工程は、膜形成工程後、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を400℃以上550℃以下にて加熱することにより、DDR型ゼオライト膜に含有されている1−アダマンタンアミンを燃焼除去する工程である。
【0020】
本発明の製造方法により得られたDDR型ゼオライト膜配設体では、DDR型ゼオライト膜でのクラック発生が低減され、DDR型ゼオライト膜内での1−アダマンタンアミンの残存も低減されている。そのため、本発明の製造方法では、二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガスに対する分離係数が10以上の分離性能を有するDDR型ゼオライト膜配設体を歩留まりよく製造することができる。
【0021】
以下、「膜形成工程」、「燃焼工程」を詳しく説明する。
【0022】
1−2.本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法の諸工程:
1−2−1.膜形成工程:
本発明の製造方法の膜形成工程では、1−アダマンタンアミン、シリカ(SiO)、及び水を含有する原料溶液を調製する。この原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させることにより、DDR型ゼオライトを水熱合成させる。これにより、多孔質基体の表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成することができる。
【0023】
1−2−1−1.原料溶液:
原料溶液に含まれるシリカ(SiO)は、DDR型ゼオライト膜を構成するケイ素(Si)及び酸素(O)の原子の供給源である。また、1−アダマンタンアミンは、Si等を成分としてDDR型ゼオライト膜が形成される過程における、DDR型ゼオライト膜を形成するための構造規定剤である。
【0024】
本発明の製造方法に用いる原料溶液を調製するにあたり、シリカ(SiO)としては、シリカゾルを用いることが好ましい。原料溶液の調製に際して、シリカに対する1−アダマンタンアミンの比(1−アダマンタンアミン/シリカ(モル比))は、0.002〜0.5が好ましく、0.002〜0.2が更に好ましい。この比率が0.002より小さい場合、構造規定剤である1−アダマンタンアミンが不足してDDR型ゼオライトが形成されにくくなる。また、この比率が0.5より大きい場合、膜状のDDR型ゼオライトが形成されにくくなり、また高価な1−アダマンタンアミンの使用量が増えるため製造コスト増になる。
【0025】
加えて、原料溶液の調製に際して、シリカに対する水の比(水/シリカ(モル比))は、10〜500が好ましく、10〜200が更に好ましい。この比率が10より小さい場合、シリカ濃度が高すぎてDDR型ゼオライトが形成されにくくなり、DDR型ゼオライトが形成されても膜状に形成されにくくなる。また、この比率が500より大きい場合、シリカ濃度が低すぎてDDR型ゼオライトが形成されにくくなる。
【0026】
原料溶液中には、エチレンジアミンを含有させることが好ましい。エチレンジアミンを添加して原料溶液を調製することにより、1−アダマンタンアミンを容易に溶解することが可能となり、均一な結晶サイズ、膜厚を有する緻密なDDR型ゼオライト膜を製造することが可能となる。
【0027】
1−アダマンタンアミンに対するエチレンジアミンの比(エチレンジアミン/1−アダマンタンアミン(モル比))は、4〜35が好ましく、8〜32が更に好ましい。この比率が4より小さい場合、1−アダマンタンアミンを溶かし易くするための量としては不充分である。この比率が35より大きい場合、反応に寄与しないエチレンジアミンが過剰となり製造コストがかかる。
【0028】
また、原料溶液の調製においては、1−アダマンタンアミンをエチレンジアミンに溶解させた、1−アダマンタンアミン溶液を予め調製することが好ましい。この1−アダマンタンアミン溶液と、シリカを含むシリカゾル溶液とを混合して原料溶液を調製することが好ましい。このように原料溶液を調製したとき、より簡便かつ完全に1−アダマンタンアミンが原料溶液に溶解され、均一な結晶サイズ、所望の膜厚を有する緻密なDDR型ゼオライト膜を製造できる。
【0029】
シリカゾル溶液は、微粉末状シリカを水に溶解させる、又はアルコキシドを加水分解することにより調製できる。また、シリカゾル溶液は、市販品のシリカゾルのシリカ濃度を所望の濃度に調整したものでもよい。
【0030】
原料溶液の変形形態としては、例えば、添加剤として微量のアルミン酸ナトリウムを使用することが挙げられる。このようにアルミン酸ナトリウムを原料溶液に添加することにより、DDR型ゼオライト膜を構成するSiの一部をAlで置換することもできる。上記のSiからAlへの置換と同様の手法を適用することにより、DDR型ゼオライト膜に対して、本来備えられる分離機能に加えて、置換により導入された成分に起因する触媒作用等を付加することも可能である。
【0031】
1−2−1−2.多孔質基体:
本発明の製造方法に用いる多孔質基体の形状は、特に限定されず、用途に応じて任意の形状とすることができる。例えば、板状、筒状、ハニカム形状、又は、モノリス形状等を好適例として挙げることができる。これらの中でも、単位体積当たりの膜面積を大きくすることが可能であるとともに、膜面積当たりのシール部分面積を小さくすることが可能であるため、モノリス形状が好ましい。
【0032】
なお、ここでいう「モノリス形状」とは、中心軸方向に貫通する複数の貫通孔が形成された柱形状を意味し、例えば、その中心軸方向に直交する断面が蓮根状になっているものをいう。以下、多孔質基体が、モノリス形状である一実施形態、いわゆるモノリス形状多孔質基体について、図1を参照し説明するが、多孔質基体の形状及び多孔質基体の製造方法は、これに限定されるものではなく、当業者が通常用いうる方法を採用できる。
【0033】
図1は、本発明の製造方法に用いる多孔質基体11を模式的に示す斜視図である。多孔質基体11は、中心軸方向に貫通する複数の貫通孔12が形成された円柱状のモノリス形状多孔質基体である。
【0034】
多孔質基体11の平均気孔率は、10〜60%が好ましく、20〜40%が更に好ましい。10%より低いと被処理流体の分離時に圧力損失が大きくなることがあり、60%より高いと多孔質基体11の強度が低くなることがある。尚、平均気孔率は、水銀ポロシメーターにより測定した値である。
【0035】
多孔質基体11は複数の粒子層からなるが、貫通孔12に面する最表面層の平均細孔径は、0.003〜10μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることが更に好ましい。この最表面層の平均細孔径が、0.003μmより小さいと被処理流体の分離時に圧力損失が大きくなることがあり、10μmより大きいと表面に形成されたDDR型ゼオライト膜に欠陥が生じ易くなることがある。
【0036】
多孔質基体11の長さ、及び中心軸に直交する断面の面積は、目的に応じて適宜決定することができ、例えば、多孔質基体の長さは40〜1000mm程度の範囲のものを好適に使用することができる。多孔質基体11の材質は、アルミナ、ジルコニア又はムライト等のセラミックス、ガラス、ゼオライト、粘土、金属、炭素等が好ましい。これらの中でも、強度やコストの低さに優れる点で、アルミナが好ましい。
【0037】
多孔質基体11に形成される貫通孔12の密度(貫通孔本数/多孔質基体の中心軸方向に垂直な断面の面積)は、0.01〜15本/cmであることが好ましい。この貫通孔12の密度が、0.01本/cmより少ないと被処理流体の分離時の処理能力が低下することがあり、15本/cmより多いと多孔質基体11の強度が低下することがある。
【0038】
一つの貫通孔12の大きさは、中心軸に直交する断面の面積が0.5〜28mmであることが好ましい。一つの貫通孔12の大きさが、0.5mmより小さいと被処理流体の分離時の圧力損失が大きくなることがあり、28mmより大きいと多孔質基体11の強度が低下することや、被処理流体の分離時の処理能力が低下することがある。
【0039】
1−2−1−3.DDR型ゼオライト種結晶:
本発明の製造方法の膜形成工程では、多孔質基体の表面上に付着されているDDR型ゼオライト種結晶から結晶成長させることにより、DDR型ゼオライト膜を形成する。以下、DDR型ゼオライト種結晶を多孔質基体の表面に付着させるまでの手法を説明する。
【0040】
このDDR型ゼオライト種結晶としては、「M.J.denExter,J.C.Jansen,H.van Bekkum,Studies in Surface Science and Catalysis vol.84,Ed.by J.Weitkamp et al.,Elsevier(1994)1159−1166」に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法に従って、DDR型ゼオライト粉末を製造し、これを微粉末に粉砕したものを使用することが好ましい。粉砕後の種結晶は、篩等を用いて所定の粒径範囲とすることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法の膜形成工程において、DDR型ゼオライト種結晶を多孔質基体の表面上に付着させる手法は、特に限定されず、当業者が通常用いる手法を採用できる。例えば、DDR型ゼオライト種結晶を水に分散させた分散液を調製し、滴下法、ディップコート法、ろ過コート法、流下法、スピンコート法、印刷法等を目的に応じて選択し、多孔質基体表面のDDR型ゼオライト膜を形成する領域にDDR型ゼオライト種結晶を塗布すればよい。低分子ガスの分子篩膜としてのDDR型ゼオライト膜を備えるDDR型ゼオライト膜配設体を作製する場合、図1の斜視図にて示すモノリス形状の多孔質基体11の貫通孔12の内壁面15に、DDR型ゼオライト膜を形成することを一実施形態として挙げることができる。この実施形態の場合、例えば、多孔質基体11の側面13をマスクし、ディップコート法を実施することにより、貫通孔12の内壁面15にDDR型ゼオライト種結晶を付着させたモノリス形状の多孔質基体11を得る。
【0042】
1−2−1−4.水熱合成:
本発明の製造方法の膜形成工程では、原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させ、DDR型ゼオライトを水熱合成させる。これにより、構造規定剤として用いた1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜が多孔質基体の表面に形成されたDDR型ゼオライト膜配設体の前駆体(以下、「DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体」)を得られる。
【0043】
原料溶液に多孔質基体を浸漬させて行う水熱合成の際、原料溶液の温度は、90〜200℃とすることが好ましく、100〜150℃とすることが更に好ましい。原料溶液の温度を90℃未満で水熱合成を行った場合には、DDR型ゼオライト膜を形成しにくくなり、200℃超で水熱合成を行った場合には、DDR型ゼオライトとは異なるDOH型ゼオライト等の結晶相が形成され易くなる。
【0044】
また、水熱合成に際しての処理時間は、1〜240時間が好ましく、1〜120時間が更に好ましい。
【0045】
図1の斜視図にて示すモノリス形状多孔質基体11の貫通孔12の内壁面15にDDR型ゼオライト膜を形成させる場合、水熱合成によって形成される1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜の膜厚は、0.05〜15μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることが更に好ましく、0.1〜2μmであることが特に好ましい。15μmより厚いと、ガスの透過量が少なくなることがある。この膜厚が、0.05μmより薄いとDDR型ゼオライト膜の強度が低くなることがある。
【0046】
ここで、多孔質基体11の表面に膜を形成すると、多孔質基体11表面には多数の細孔が開いているため、多孔質基体11表面上だけでなく、多孔質基体11の細孔内に入り込んだ部分を有する膜となる場合がある。本実施の形態において「膜厚」というときは、このように、多孔質基体の細孔内に入り込んだ部分も含めた厚さをいう。また、DDR型ゼオライト膜の膜厚は、厚さ方向に沿って切断した断面の電子顕微鏡写真により測定した5ヶ所の断面位置での平均値である。
【0047】
1−2−2.燃焼工程:
本発明の製造方法の燃焼工程は、膜形成工程後、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を400℃以上550℃以下にて加熱することにより、DDR型ゼオライト膜に含有されている1−アダマンタンアミンを燃焼除去する工程である。
【0048】
燃焼工程により1−アダマンタンアミンが燃焼除去される速度は、加熱の設定温度に依存する。本発明の製造方法の燃焼工程において、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を400℃以上450℃未満の設定温度にて加熱する場合には、この範囲の設定温度で100時間以上加熱することが好ましい。DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を450℃以上550℃以下の設定温度にて加熱する場合には、この範囲の設定温度で50時間以上加熱することが好ましい。
【0049】
このような燃焼工程により、合成時に構造規定剤として取り込まれた1−アダマンタンアミンをDDR型ゼオライトから除去してゼオライト化を完結させ、十分な分離性能を発揮できるDDR型ゼオライト膜配設体を得られる。
【0050】
ここでは、燃焼工程での加熱温度と加熱時間の条件に関し、本発明者等が検討した実験結果に基づいて説明する。図2に示すグラフは、示差熱熱重量同時測定(TG−DTA)にて測定した、400℃、500℃、又は600℃を加熱の設定温度とした時の加熱時間とDDR型ゼオライト粉末の質量増減率との関係を表す。なお、図2のグラフ縦軸の質量増減率は、測定時におけるDDR型ゼオライト粉末が、0時間のDDR型ゼオライト粉末の質量から増減している割合を表す。すなわち、この質量増減率の数値が負(マイナス)のときは、0時間のDDR型ゼオライト粉末の質量よりも減少していることを意味し、この数値の絶対値がDDR型ゼオライト粉末の質量減少率を表す。例えば、図2のグラフ縦軸の質量増減率が−2%の時には、質量減少率は、2%である。なお、この加熱試験に用いたDDR型ゼオライト粉末は、同一の製法・ロットから得られた平均粒径0.8μmのものであり、1−アダマンタンアミンを構造規定剤として用いて水熱合成して得られたものである。加熱の設定温度までの昇温は、加熱の設定温度より50℃以下の温度([設定温度−50℃]以下)までは10℃/min、加熱の設定温度より50℃以下の温度を超える温度([設定温度−50℃]超)から加熱の設定温度までは1℃/minにて実施し、図2のグラフの0時間は、昇温開始時とする。この実験系において、DDR型ゼオライト粉末から1−アダマンタンアミンが完全に燃焼除去された場合のDDR型ゼオライト粉末の質量減少率は、理論値としては11.2%であり、実測値としては11.9%である。
【0051】
図2のグラフにて表されるDDR型ゼオライト粉末の質量減少率の推移から理解できるように、DDR型ゼオライト粉末の質量は、加熱温度が高いほど速やかに減少し、質量減少率11.9%となるまで質量が減少すると、この質量を維持する。本実験において、DDR型ゼオライト粉末が質量減少率11.9%に到達するまでの時間は、加熱の設定温度600℃では18時間、加熱の設定温度500℃では34時間である。
【0052】
よって、図2のグラフから、合成時に構造規定剤として用いた1−アダマンタンアミンが含有されているDDR型ゼオライト粉末について、加熱の設定温度を500℃以上600℃以下として加熱した場合、少なくとも50時間加熱すれば、DDR型ゼオライト粉末から1−アダマンタンアミンがほぼ完全に燃焼除去されることがわかる。
【0053】
一方、加熱の設定温度400℃の場合、50時間加熱後のDDR型ゼオライト粉末の質量減少率は9.5%であり、100時間以上加熱しても質量減少率9.91%のため、依然として質量減少率11.9%に及ばず、1−アダマンタンアミンが若干残留した状態となる。
【0054】
1−3.本発明のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法の作用:
1−3−1.分離係数:
本発明の製造方法では、二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガス(以下、「CO/CH混合ガス」)に対する分離係数αが10以上の分離性能を有するDDR型ゼオライト膜配設体を歩留まりよく得ることができる(詳しくは後述の実施例参照)。
【0055】
ここでいう「CO/CH混合ガスに対する分離係数α」とは、DDR型ゼオライト膜配設体にCO/CH混合ガスを供給してDDR型ゼオライト膜にCOを透過させる際において、ゼオライト膜を隔てた供給側と透過側のガス濃度に基づき、(透過側のCO濃度/透過側のCH濃度)/(供給側のCO濃度/供給側のCH濃度)にて算出される。
【0056】
1−3−2.二酸化炭素の透過速度:
特に、本発明の製造方法では、燃焼工程において、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を450℃以上550℃以下にて50時間以上加熱して実施した場合、上述の分離係数αが10以上かつ二酸化炭素の透過速度(以下、「CO透過速度」)が200nmol/sec・m・Pa以上の分離性能を有する前記DDR型ゼオライト膜配設体を歩留まりよく得ることができる(詳しくは後述の実施例参照)。
【0057】
ここでいう「CO透過速度(nmol/sec・m・Pa)」とは、(測定時間内にDDR型ゼオライト膜を透過したCOの量)/{測定時間×単位膜面積×(供給側のCO分圧−透過側のCO分圧)}として算出される。なお、「単位膜面積」は、分離に寄与する膜の面積から算出する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
2.DDR型ゼオライト膜配設体の製造、及び評価:
2−1.DDR型ゼオライト膜配設体の製造:
膜形成工程においてろ過コート法(実施例1〜6、比較例1、2)又は流下法(実施例7、比較例3)を用いて多孔質基体表面に種結晶を付着させて水熱合成を行った後、燃焼工程を実施し、DDR型ゼオライト膜配設体を製造した。DDR型ゼオライト膜配設体を製造した数は、実施例1では3体、実施例3では14体、比較例1では10体、実施例2、4〜7、比較例2、3は各1体であり、複数のDDR型ゼオライト膜配設体を製造した実施例、比較例では、分離係数α、及びCO透過速度の再現性も検討した。
【0060】
(実施例1〜6)
多孔質基体表面への種結晶の付着にろ過コート法を用いる以下の製造方法により、実施例1〜6のDDR型ゼオライト膜配設体を製造した。
【0061】
(1)膜形成工程:
(原料溶液の調製)
フッ素樹脂製のボトルに7.329gのエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後、1.153gの1−アダマンタンアミン(アルドリッチ社製)を加え、1−アダマンタンアミンの沈殿が残らないように溶解した。別のボトルに115.97gの水を入れ、97.55gの30質量%シリカゾル(スノーテックスS:日産化学社製)を加えて軽く撹拌した後、これに上述のエチレンジアミンに1−アダマンタンアミンが溶解した溶液を加えて完全に溶解するまで約1時間攪拌混合し、原料溶液とした。
【0062】
(多孔質基体)
DDR型ゼオライト膜を表面に形成させる多孔質基体として、モノリス形状多孔質基体
を用いた。具体的には、直径30mm、長さ160mm、貫通孔に面した最表層の平均細
孔径0.1μm、貫通孔の直径3mmφ、貫通孔数37のレンコン形状である、アルミナ
製のモノリス形状多孔質基体を用いた。
【0063】
(DDR型ゼオライト種結晶の調製、及び種結晶の多孔質基体表面への付着)
「M.J.den Exter,J.C.Jansen,H.van Bekkum,Studies in Surface Science and Catalysis vol.84,Ed.by J.Weitkamp et al.,Elsevier(1994)1159−1166」に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法に従って、DDR型ゼオライト粉末を製造し、これを微粉末に粉砕してDDR型ゼオライト種結晶として使用した。粉砕後、DDR型ゼオライト種結晶を水に分散させた後、粗い粒子を除去し、種結晶分散液とした。この種結晶分散液を、モノリス形状多孔質基体の貫通孔の内壁面に、ろ過コート法にて塗布することにより、DDR型ゼオライト種結晶をモノリス形状多孔質基体の貫通孔の内壁面に付着させた。なお、モノリス形状多孔質基体は、両端部にガラス等のシールを施していないものを使用した。
【0064】
(水熱合成)
フッ素樹脂製内筒付きのステンレス製耐圧容器に原料溶液を入れ、この原料溶液にDDR型ゼオライト種結晶が付着しているモノリス形状多孔質基体を浸漬させて水熱合成を行った。水熱合成は120℃で84時間行い、これにより1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜が形成されているDDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を得た。水熱合成後、この前駆体を水洗、乾燥した。この前駆体では、1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜が、膜厚1〜2μmにて、モノリス形状多孔質基体の貫通孔の内壁面に形成されていることを確認した。なお、以上の工程までは、実施例1〜6全て共通に実施した。
【0065】
(実施例7)
多孔質基体表面への種結晶の付着に流下法を用いる以下の製造方法により、実施例7のDDR型ゼオライト膜配設体を製造した。
【0066】
(1)膜形成工程:
(原料溶液の調製)
フッ素樹脂製のボトルに7.35gのエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後、1.156gの1−アダマンタンアミン(アルドリッチ社製)を加え、1−アダマンタンアミンの沈殿が残らないように溶解した。別のボトルに116.55gの水を入れ、98.0gの30質量%シリカゾル(スノーテックスS:日産化学社製)を加えて軽く撹拌した後、これに上述のエチレンジアミンに1−アダマンタンアミンが溶解した溶液を加えて完全に溶解するまで約1時間攪拌混合し、原料溶液とした。
【0067】
(多孔質基体)
DDR型ゼオライト膜を表面に形成させる多孔質基体として、モノリス形状多孔質基体を用いた。具体的には、直径30mm、長さ160mm、貫通孔に面した最表層の平均細孔径0.1μm、貫通孔の直径2.5mmφ、貫通孔数55のレンコン形状である、アルミナ製のモノリス形状多孔質基体を用いた。なお、このモノリス形状多孔質基体の両端にはガラスシールを施した。
【0068】
(DDR型ゼオライト種結晶の調製)
DDR型ゼオライト種結晶及び種結晶分散液の調製は、上記実施例1〜6の方法と同じく行った。
【0069】
(種結晶の多孔質基体表面への付着)
次いで、上記の種結晶分散液をイオン交換水で希釈し、DDR型ゼオライト種結晶濃度0.006質量%になるように調整し、スターラーで300rpmで攪拌し、種結晶付着用スラリー液とした。広口ロートの下端に、貫通孔の貫通方向が上下方向となる姿勢にてモノリス形状多孔質基体を固定し、モノリス形状多孔質基体の上部から160mlの種結晶付着用スラリー液を流し込むことによって、種結晶付着用スラリー液を貫通孔内に通過させた。続いて、種結晶付着用スラリーを流下させたモノリス形状多孔質基体を風速3〜6m/sの条件で60分間にわたり貫通孔内を通風乾燥させた。以上の種結晶付着用スラリーの流下とこれに続く通風乾燥を合計2回行い、DDR型ゼオライト種結晶が付着したモノリス形状多孔質基体を得た。
【0070】
(水熱合成)
フッ素樹脂製内筒付きのステンレス製耐圧容器に原料溶液を入れ、この原料溶液にDDR型ゼオライト種結晶を付着させたモノリス形状多孔質基体を浸漬させて水熱合成を行った。水熱合成は150℃で16時間行い、これにより1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜が形成されているDDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を得た。なお、水熱合成後、この前駆体を水洗、乾燥した。
【0071】
(2)燃焼工程:
DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を、大気中、表1に示す加熱温度及び加熱時間にて加熱することにより、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体のDDR型ゼオライト膜に含有されている1−アダマンタンアミンを燃焼除去した。この燃焼工程での加熱を詳しく述べると、昇温速度0.1℃/minにて昇温し、表1に記載の加熱温度に到達した時点を起点して、表1に記述した加熱時間にわたりこの加熱温度を維持した。所定の加熱時間を経過後、降温速度0.5℃/minにて降温し、実施例1〜7のDDR型ゼオライト膜配設体を得た。
【0072】
【表1】

【0073】
(比較例1、2)
燃焼工程での加熱温度及び加熱時間を表1に示す設定にした以外は、実施例1と同様にして、比較例1、2のDDR型ゼオライト膜配設体を得た。
【0074】
(比較例3)
燃焼工程での加熱温度及び加熱時間を表1に示す設定にした以外は、実施例7と同様にして、比較例3のDDR型ゼオライト膜配設体を得た。
【0075】
2−2.DDR型ゼオライト膜配設体の評価:
実施例1〜7、比較例1〜3のDDR型ゼオライト膜配設体に関し、以下の試験を行い評価した。
【0076】
2−2−1.X線回折:
実施例1〜7、比較例1〜3のDDR型ゼオライト膜配設体についてX線回折を行った。結果、DDR型ゼオライト及び多孔質基体を構成するアルミナの回折ピークのみが検出された(データ示さず)。なお、X線回折における「DDR型ゼオライトの回折ピーク」とは、International Center for Diffraction Data (ICDD) 「Powder Diffraction File」に示されるDeca−dodecasil 3Rに対応するNo.38−651、又は41−571に記載される回折ピークである。
【0077】
2−2−2.CO/CH混合ガスに対する分離係数αの測定:
実施例1〜7、比較例1〜3のDDR型ゼオライト膜配設体におけるCO/CH混合ガスに対する分離係数αを算出するため、以下のガス透過試験を行った。25℃、0.6 MPa(絶対圧)、体積比でCO:CH=1:1にて混合されたCO/CH混合ガスを、導入速度10L/minにてDDR型ゼオライト膜配設体の貫通孔内に流入させた。なお、CO/CH混合ガスの導入速度の制御は、マスフローコントローラ(HEMMI社製)を使用した。また、CO/CH混合ガスの貫通孔内への導入時には、DDR型ゼオライト膜配設体の透過側の圧力は大気圧と同一となるように調節した。透過ガスの流量はマスフローメータ(HORIBA社製)にて計測し、透過ガスの流量が十分に安定した時点で透過ガスにおけるCO、CH各々の組成比をGC−MS(HP社製)にて測定した。
【0078】
CO/CH混合ガスに対する分離係数αを測定するため、透過側のCO濃度、透過側のCH濃度、供給側のCO濃度、及び供給側のCH濃度を計測した。計測結果から算出されたCO/CH混合ガスに対する分離係数αを表2に示す。また、実施例1〜7、比較例1〜3のそれぞれについて、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上のDDR型ゼオライト膜配設体が得られた割合を表3に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表2に示すサンプルNo.1〜22の実施例1〜7の全22体中21体において、CO/CH混合ガスに対する分離係数αは10以上であった。特に、燃焼工程での加熱温度500℃、加熱時間50時間の実施例3では、14体中8体において分離係数が100以上であった。対して、表2に示すサンプルNo23〜34の比較例1〜3においては、計測可能であった8体中わずか1体のみにおいて、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上であった。
【0082】
これらの結果に基づき、図3では、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上のDDR型ゼオライト膜配設体を得られる割合(以下、この段落では「歩留」と称する)について、燃焼工程での加熱温度と加熱時間との関係に着目して分布を表す。なお、図3にてプロットされた記号は、歩留の大小を表し、二重丸(◎)が75%以上100%以下、一重丸(○)が50%以上75%未満、三角印(△)が25%以上50%未満、バツ印(×)が0%以上25%未満を意味する。歩留が50%以上の加熱条件の範囲を破線にて囲み、「領域A」として表す。図3中の「領域B」は、歩留が50%未満の条件であり、構造規定剤である1−アダマンタンアミンの燃焼除去が不十分のため、DDR型ゼオライトの細孔内でのCOの透過流速が不十分であるDDR型ゼオライト膜配設体が、多く製造される条件を表す。図3中の「領域C」は、歩留が50%未満の条件であり、加熱時でのDDR型ゼオライト膜とアルミナを主成分とする多孔質基体との熱膨張差が大きいため、DDR型ゼオライト膜にクラックが高頻度で発生する条件を表す。なお、図3中の領域A〜Cは、上述の実施例1〜7、比較例1〜3に加え、本出願人が実施した、本明細書の図2にてデータを表した実験やその他の本明細書に示さない予備的な実験などのデータに基づき画定されている。
【0083】
2−2−3.CO透過速度の測定:
計測結果から算出されたCO透過速度(nmol/sec・m・Pa)を表2に示す。また、実施例1〜7、比較例1〜3のそれぞれについて、分離係数αが10以上かつCO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上のDDR型ゼオライト膜配設体が得られた割合を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
実施例1〜4、7の全サンプルにおいて、CO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上であった。これらの結果に基づき、図4は、分離係数αが10以上かつCO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上のDDR型ゼオライト膜配設体が得られた割合(以下、この段落では「歩留」と称する)について、燃焼工程での加熱温度と加熱時間との関係に着目して分布を表している。なお、図4にてプロットされた記号は、歩留の大小を表し、二重丸(◎)が75%以上100%以下、一重丸(○)が50%以上75%未満、三角印(△)が25%以上50%未満、バツ印(×)が0%以上25%未満を意味する。歩留が50%以上の加熱条件の範囲を破線にて囲み、「領域A」として表す。図4中の「領域B」及び「領域D」は、歩留が50%未満の条件であり、構造規定剤である1−アダマンタンアミンの燃焼除去が不十分のため、DDR型ゼオライトの細孔内でのCOの透過流速が不十分であるDDR型ゼオライト膜配設体が、多く製造される条件を表す。「領域D」は、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上のDDR型ゼオライト膜配設体を得られる割合が、50%以上であるが、CO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上のDDR型ゼオライト膜配設体が得られた割合が、50%未満である条件である。図4中の「領域C」は、歩留が50%未満の条件であり、加熱時でのDDR型ゼオライト膜とアルミナを主成分とする多孔質基体との熱膨張差が大きいため、DDR型ゼオライト膜にクラックが高頻度で発生する条件を表す。なお、図4中の領域A〜Cは、上述の実施例1〜7、比較例1〜3に加え、本出願人が実施した、本明細書の図2にてデータを表した実験やその他の本明細書に示さない予備的な実験などのデータに基づき画定されている。
【0086】
2−3.総合評価:
以上、実施例1〜7、比較例1〜3によって、本発明の製造方法では、CO/CH混合ガスに対する分離係数αが10以上の高い分離性能を発揮するDDR型ゼオライト膜配設体を得られることが判明した。また、本発明の製造方法では、燃焼工程において、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を450℃以上550℃以下にて50時間以上加熱することにより、CO透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上の分離性能を発揮する、より優れたDDR型ゼオライト膜配設体を得られることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)などの低分子ガスに対する分子篩膜として機能させることができるDDR型ゼオライト膜を備えるDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0088】
11:多孔質基体、12:貫通孔、13:側面、14:端面、15:貫通孔の内壁面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−アダマンタンアミン、シリカ(SiO)、及び水を含有する原料溶液に、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着されている多孔質基体を浸漬させることによる、DDR型ゼオライトの水熱合成にて、前記多孔質基体の表面に1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を形成し、DDR型ゼオライト膜配設体の前駆体を作製する膜形成工程と、
前記前駆体を400℃以上550℃以下にて加熱することにより、前記DDR型ゼオライト膜に含有されている前記1−アダマンタンアミンを燃焼除去する燃焼工程と、を有し、
二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガスに対する分離係数が10以上の分離性能を有するDDR型ゼオライト膜配設体を得るDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。
【請求項2】
前記燃焼工程において、前記前駆体を400℃以上450℃未満にて100時間以上加熱する請求項1に記載のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。
【請求項3】
前記燃焼工程において、前記前駆体を450℃以上550℃以下にて50時間以上加熱することにより、
二酸化炭素(CO)とメタン(CH)との混合ガスに対する分離係数が10以上かつ二酸化炭素(CO)の透過速度が200nmol/sec・m・Pa以上の分離性能を有する前記DDR型ゼオライト膜配設体を得る請求項1に記載のDDR型ゼオライト膜配設体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−158665(P2010−158665A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255809(P2009−255809)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】