説明

DLK1−Fc融合タンパク質を有効成分として含む癌転移抑制用組成物

本発明では、DLK1の細胞外可溶性ドメイン遺伝子及びIgG抗体のFcドメインの遺伝子を含む組換え発現ベクターを構築し、293E細胞においてDLK1−Fc融合タンパク質を発現させ、かつ精製した。本発明は、DLK1−Fc融合タンパク質による癌細胞の顕著な移動減少を確認し、かつ薬物動態パラメーターを計算することによって、癌転移を抑制するための薬物としての有効性を確認したものである。DLK1−Fc融合タンパク質は、非融合タンパク質に比べて高い安定性を有し、多様な癌細胞株の移動を顕著に減少させ、かつ低濃度でも優れた癌転移抑制効果を提供する。したがって、DLK1−Fc融合タンパク質は、癌転移抑制用組成物の有効成分として効果的に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌転移抑制能を有するDLK1−Fc融合タンパク質を含む癌転移抑制用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌は、人類の生命に危険を与える主な疾病である。韓国ではこの何年間、死亡原因の1位が癌であり、米国で癌は、心臓血管疾患に続き死亡主原因の二番目となっている。多くの研究が行われてきて今も行われているが、現在でも癌は相変らず人類の最も大きな災いであり、毎年数百万名の生命と天文学的な経済的損失を与える致命的な病気である。
【0003】
癌は特に、発癌遺伝子及び腫瘍抑制遺伝子などの遺伝子に変異が起きて発生する遺伝的疾患であり、細胞次元に原因がある疾患である。現在、癌の治療法としては、外科的手術療法、薬物療法、放射線療法及び免疫療法などが用いられているが、悪性腫瘍の抑制及び再発は相変らず解決されていない。
【0004】
癌の最も重要な生物学的特性の一つは、転移を起こすことがあるということであり、これは癌を治療するのに最も大きな障害となっている。実際に固形腫瘍患者全体の約60%は、原発腫瘍診断時に微細的ではあるが、すでに臨床的に転移した癌を有しており、大部分の癌患者の決定的な死亡原因が癌転移であることは、すでによく知られている。
【0005】
転移が起きる過程中、癌の局所組織の浸潤とともに現れる現象が、新生血管形成であり、これには腫瘍脈管形成因子(TAF)などが関与し、腫瘍によって新たにできた血管は欠陥が多いため癌細胞によって容易に侵犯される。また、癌の浸湿及び転移過程には、組織の基質及び基底膜に付着するのに必要なラミニン受容体などの多数の癌細胞表面の受容体、正常組織の間質を溶解させるのに必要な第IV型コラゲナーゼ、プラスミノ−ゲン活性因子及びカテプシンDなどの多数の酵素、成長因子、自己分泌運動性因子(autocrine motility factor、AMF)及び癌遺伝子などの発現が必要である。
【0006】
現在までこのような癌転移抑制作用を有する物質の開発に対する期待は非常に大きいが、実際に癌転移抑制を目的にした物質の開発例は極めて少ない。硫酸化多糖類、N−ジアゾアセチルグリシン誘導体、ノイラミニターゼ及びフィブロネクチン(FN)分解酵素などがこのような抑制作用を有すると報告されているが、まだその実用化の報告はなく、それら自体が癌転移抑制効果を有するという報告もない。したがって、癌の転移を効果的に抑制することができる方法を開発すれば、癌転移による死亡を効果的に制御することができる有用な治療法の開発が可能になる。
【0007】
一方、ノッチ/デルタ/セレートファミリーに属するDLK1(デルタ様1ホモログ(delta−like 1 homolog))は、染色体14q32に位置するdlk1遺伝子にコードされている膜貫通糖タンパク質であり、383個のアミノ酸で構成されている。前記タンパク質は、280個の細胞外領域と24個の膜貫通セグメントと、56個の細胞質ドメインとに分けられ、この中で細胞外領域は、6個の上皮細胞成長因子(EGF)様反復(epidermal growth factor like repeat)ドメインを有しており、3個のN−グリコシル化(glycosylation)と7個のO−グリコシル化部位を有している。DLK1は、膜貫通タンパク質でもあるが、腫瘍壊死因子α変換酵素(TACE)によって細胞外部分が細胞膜から離れ出て(shedding)、別の機能を有するタンパク質としてもよく知られている(非特許文献1)。
【0008】
DLK1は、細胞膜でグリコシル化による50〜60kDaの多様な形態で発見されており(非特許文献2)、選択的スプライシングによる4種のスプライシング変異体(splicing variant)を有する(非特許文献3)。この中で大きな2種の変異体がタンパク質分解酵素切断部位を有し、タンパク質分解酵素であるTACEによって切断して、50kDaの大きさと25kDaの大きさの2種の可溶性形態が生成される(非特許文献4) (図1参照)。
【0009】
DLK1は、発生段階で主に、胚組織(非特許文献2、非特許文献5)及び胎盤から発現し、特に母性の血清(maternal serum)で高濃度に発現するため、胎児抗原1(FA1)としても知られている(非特許文献6)。また、膵臓の腺細胞(非特許文献5)、卵巣細胞、骨格筋管(非特許文献7)などでのDLK1の発現も報告されている。DLK1は、出生後大部分の組織で発現が消えて前脂肪細胞(preadipocyte)(非特許文献2)、膵臓島細胞(非特許文献8)胸腺間質性細胞(非特許文献5)、副腎細胞(非特許文献9)などの特定の細胞でのみ発現する。DLK1の発現は、メチル化による影響で父性の単一アレルでのみ発現(paternal monoallelic expression)することが知られている(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。
【0010】
DLK1の機能研究は、脂肪細胞分化を抑制する因子Pref−1(前脂肪細胞因子−1(preadipocyte factor−1))で知られており、最も多くの研究が行われている(非特許文献2、非特許文献13)。脂肪細胞分化抑制能力以外にも、DLK1は造血幹細胞の分化を抑制する役割(非特許文献14、非特許文献15)、リンパ球前駆細胞の分化を調節する役割(非特許文献16、非特許文献5)及び創傷治癒に関係していること(非特許文献17)でも知られている。しかし、癌細胞に関するDLK1の役割はほとんど研究が進行していない状況である。
【0011】
DLK1と少数の癌とが関連している研究の中に、最近神経膠腫(glioma)でDLK1が過剰発現しており、DLK1のcDNAを神経膠腫細胞に過剰発現させると、神経膠腫細胞の増殖が増加して転移が増加するという報告があり(非特許文献18)、肝癌においてDLK1の発現が正常の肝細胞と比較して上がっており、siRNA実験を通じてDLK1の発現を減少させた時に腫瘍の大きさが減少するという報告があった(非特許文献19)。最近、DLK1の細胞質ドメインが腫瘍形成能に重要な役割を果たす(非特許文献20)ことが報告されている。腫瘍壊死因子α変換酵素(TACE)によって細胞膜から離れ出た(shedding)細胞外部分である可溶性DLK1に対する研究は、現在まで脂肪細胞の分化抑制機能に焦点が合わせられている。特に、DLK1の細胞外可溶性ドメインと癌との関係に対する研究は全くないのが実情である。
【0012】
そこで、本発明者らは、DLK1の細胞外領域の可溶性ドメイン遺伝子とIgG抗体のFcドメインの遺伝子とを含む組換え発現ベクターを構築し、293E細胞からDLK1−Fc融合タンパク質を発現させて精製し、DLK1−Fc融合タンパク質による癌細胞の顕著な移動(migration)減少を確認し、かつ薬物動態(PK)パラメーターの計算によって癌転移抑制薬物としての有効性を確認することで、DLK1−Fc融合タンパク質を癌転位抑制用組成物の有効成分として効果的に使用することができることを確認して、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yuhui Wang and Hei Sook Sul,Molecular and cellular biology.2006年,第26(14)巻,p.5421−5435
【非特許文献2】Smas CM and Sul HS,Cell.1993年,第73巻,p.725−34
【非特許文献3】Smas CMら,Biochemistry.1994年,第33巻,p.9257−65
【非特許文献4】Yuhui Wangら,Journal of Nutrition.2006年,第136巻,p.2953−2956
【非特許文献5】Kaneta Mら,Journal of Immunology.2000年,第164巻,p.256−64
【非特許文献6】Jensen CHら,European Journal of Biochemistry.1994年,第225巻,p.83−92
【非特許文献7】Floridon Cら,Differentiation.2000年,第66巻,p.49−59
【非特許文献8】Carlsson Cら,Endocrinology.1997年,第138巻,p.3940−8
【非特許文献9】Halder SKら,Endocrinology.1998年,第139巻,p.3316−28
【非特許文献10】Schmidt JVら,Genes and Development.2000年,第14巻,p.1997−2002
【非特許文献11】Takada Sら,Current Biology.2000年,第10巻,p.1135−8
【非特許文献12】Wylic AAら,Genome Research.2000年,第10巻,p.1711−8
【非特許文献13】Villena JAら,Hormone and Metabolic Research.2002年,第34巻,p.664−70
【非特許文献14】Sakajiri Sら,Leukemia.2005年,第19巻,p.1404−10
【非特許文献15】Li Lら,Oncogene.2005年,第24巻,p.4472−6
【非特許文献16】Bauer SRら,Molecular and Cellular Biology.1998年,第18巻,p.5247−55
【非特許文献17】Samulewicz SJら,Wound Repair and Regeneration.2002年,第10巻,p.215−21
【非特許文献18】Yin Dら,Oncogene.2006年,第25巻,p.1852−61
【非特許文献19】Huang Jら,Carcinogenesis.2007年,第28(5)巻,p.1094−1103
【非特許文献20】Yuri Kら,Cancer Research.2009年,第69(24)巻,p.OF1−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、DLK1−Fc融合タンパク質、及びこれを有効成分として含む癌転移抑制用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は、DLK1(デルタ様1ホモログ)の可溶性細胞外ドメインを提供する。
【0016】
また、DLK1の細胞外可溶性ドメインをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びその組換えベクターを宿主細胞に形質移入した組換え細胞株を提供する。
【0017】
また、前記DLK1の細胞外可溶性ドメイン、及びヒト抗体Fcドメインと組み合わせたDLK1−Fc融合タンパク質を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記DLK1−Fc融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む組換えベクター、組換えベクターを宿主細胞に形質移入した組換え細胞株を提供する。
【0019】
また、本発明は、
1)組換え細胞株を培養する工程、及び
2)細胞株培養培地からDLK1−Fc融合タンパク質を分離する工程
を含むDLK1−FC融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記製造されたDLK1細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質を有効成分として含む癌転移抑制用組成物を提供する。
【0021】
また、本発明は、前記製造されたDLK1の細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質の薬学的に有効な量を、転移癌を有する対象に投与する工程を含む癌転移抑制方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、癌転位抑制用組成物の製造における、前記DLK1細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質の使用を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のDLK1−Fc融合タンパク質は、非融合タンパク質に比べて高い安定性を有し、多様な癌細胞株の移動を顕著に減少させ、低い濃度でも癌転移抑制効果が優れているので、癌転移抑制用組成物の有効成分として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】DLK1タンパク質の構造を示す図である。S:シグナルペプチド、1〜6:上皮細胞成長因子(EGF)様反復ドメイン、JM:膜近傍ドメイン、Tm:膜貫通ドメイン、Cy:細胞内ドメイン
【図2】癌患者組織でのDLK1遺伝子の発現率を示す図である。
【図3】癌細胞でのDLK1遺伝子の発現率を示す図である。
【図4】DLK1−Fc融合タンパク質発現のための発現ベクター構築に用いられたプライマー配列(配列番号2:5’−CAGGGGGCCGTGGGGGCCGAATGCTTCCCGGCCTGCAA−3’;配列番号3:5’−TAGCGGCCGACGCGGCCGCCCTCGGTGAGGAGAGGGG−3’)を示す図である。
【図5】DLK1−Fc融合タンパク質発現のための発現ベクターpYK602−His−DLK1ベクターの構造を示した図である。
【図6】クローニングされたDLK1の核酸塩基配列(配列番号1)を示す図である。
【図7】クローニングされたDLK1のアミノ酸配列(配列番号4)を示す図である。
【図8】293E細胞でDLK1−Fc融合タンパク質発現を誘導して細胞培養培地を回収し、回収した培地でDLK1−Fc融合タンパク質の発現を確認した結果を示した図である。
【図9】精製されたDLK1−Fc融合タンパク質を確認するためのSDS−ポリアクリルアミドゲルの結果を示した図である。
【図10】大腸癌細胞株SW620でDLK1−Fc融合タンパク質を含んだ細胞培養培地の移動阻害効果を示した図である。
【図11】皮膚癌黒色腫細胞株MDA−MB−435でDLK1−Fc融合タンパク質を含んだ細胞培養培地の移動阻害効果を示した図である。
【図12】皮膚癌黒色腫細胞株MDA−MB−435でのDLK1の細胞外可溶性ドメイン及び可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図であり、sDLK1、sDLK1−Fc、Fcを、それぞれ10μg/ml用いる。
【図13】皮膚癌黒色腫細胞株MDA−MB−435でのDLK1の細胞外可溶性ドメイン及び可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示したグラフであり、sDLK1、sDLK1−Fc、Fcを、それぞれ10μg/ml用いる。
【図14】乳癌細胞株Hs578Tでの可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図15】乳癌細胞株MCF−7での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図16】子宮癌細胞株HeLaでの可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図17】大腸癌細胞株SW480での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図18】大腸癌細胞株HT29での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図19】腎臓癌細胞株786−Oでの可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図20】腎臓癌細胞株UO−31での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図21】肝臓癌細胞株HepG2での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図22】肝臓癌細胞株SNU449での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図23】肝臓癌細胞株SNU398での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図24】肺癌細胞株A549での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図25】肺癌細胞株NCIH23での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図26】肺癌細胞株NCIH460での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図27】卵巣癌細胞株MDAH2774での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図28】卵巣癌細胞株IGROV−1での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図29】膵臓癌細胞株Aspc−1での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図30】膵臓癌細胞株HPACでの可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図31】膵臓癌細胞株MIA paca−2での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図32】胃癌細胞株SNU638での可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図33】胃癌細胞株AGSでの可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果を示した図である。
【図34】可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の移動阻害効果の確認のための実験時に使用された各々の細胞株の細胞数、化学誘引物質構成、培養時間を示した図である。
【図35】可溶性DLK1−Fc融合タンパク質の薬物動態実験結果を示した図である。
【図36】sDLK1の薬物動態パラメーターを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0026】
本発明は、DLK1(デルタ様1ホモログ)の細胞外可溶性ドメイン、DLK1の細胞外可溶性ドメインをコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びその組換えベクターを宿主細胞に形質移入した組換え細胞株を提供する。
【0027】
前記DLK1の細胞外可溶性ドメインは、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0028】
前記可溶性ドメインをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表される遺伝子配列を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0029】
また、本発明は、前記DLK1の細胞外可溶性ドメイン、及びヒトIgG Fcドメインと組み合わせたDLK1−Fc融合タンパク質を提供する。
【0030】
用語「DLK1−Fc融合タンパク質」は、抗体重鎖の定常ドメインに由来する断片を含む組換え分子を意味する。Fc融合タンパク質は、五つのIgクラス(例:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM)中の任意のものからの抗体のFcドメイン、すなわちCH2およびCH3定常ドメインの全体または一部を含むことができる。例えば、DLK1−Fc融合タンパク質は、DLK1の細胞外可溶性ドメインのカルボキシ末端及びアミノ末端に抗体重鎖の定常ドメインの全体または一部を含む形態で作製することができる。異なる例として、Fc融合タンパク質は、2個以上の抗体重鎖の定常ドメイン部分を含む形態を含むこともでき、ここで二つの重鎖Fcは、ジスルフィド結合または異なる共有結合で連結することができる。また他の例として、DLK1−Fc融合タンパク質のDLK1部分は、DLK1の2個以上の細胞外可溶性ドメインを有する形態を含むこともできる。
【0031】
また、本発明は、前記DLK1−Fc融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びその組換えベクターを宿主細胞に形質移入した組換え細胞株を提供する。
【0032】
また、本発明は、
1)組換え細胞株を培養する工程;及び
2)細胞株培養培地からDLK1−Fc融合タンパク質を分離する工程
を含むDLK1−Fc融合タンパク質の製造方法を提供する。
【0033】
前記遺伝子を含む発現ベクターは、pYK602−Hisベクターであることが好ましいが、これに限定されず、哺乳動物の発現プローモーター、Fcドメインを含んだベクターはすべて使用可能である。
【0034】
前記哺乳動物細胞は、293E細胞であることが好ましいが、これに限定されず、プローモーターが作動することができる哺乳動物細胞株はすべて使用可能である。
【0035】
本発明者らの以前の研究におけるマイクロアレイ結果によると、癌患者でのDLK1の発現(図2参照)が、以前の先行文献と異なってむしろ減少していることを確認することができ、特にこのような現象は、乳癌、膵臓癌及び卵巣癌組織において顕著であることを確認した(図2参照)。また、67個の癌細胞株での発現量調査でも、少数の細胞株を除き非常に低い発現を確認した(図3参照)。前記発現パターンを見ると、DLK1が発癌遺伝子(oncogene)の特性以外にも癌抑制遺伝子として機能する可能性も推測され、特に腫瘍壊死因子α変換酵素(TACE)によって細胞膜外部分が細胞膜から離れ出て(shedding)自己分泌型の作用(autocrine effect)をだけでなく傍分泌型の作用(paracrine effect)を有する可溶性ドメインのみを用いて、研究を行った。
【0036】
可溶性Fc融合タンパク質は、インビトロ実験及びインビボ実験で広く用いられており、特に動物実験などで非融合タンパク質に比べて高い安定性を有するなど、多くの長所を有している(Meg Lら,Methods in Molecular Biology,2007年,第378巻,p.33−52)。また、可溶性Fc融合タンパク質は、ヒト抗体製剤の生産において、抗原特異性を維持しながらも多くの免疫学的な問題を排除することができる長所を有するため、現在広く用いられている。代表的な可溶性Fc融合ヒト抗体製剤としては、アムゲン(Amgen)の関節炎治療剤であるEtanerceptを挙げることができ、これは、TNF受容体2(TNF receptor 2)の可溶性ドメインに、ヒトIgG1のFcを融合して作られた製剤である(米国特許第5447851号)。
【0037】
本発明の具体的な実施例において、pYK602−HisベクターにDLK1をクローニングするために、配列番号2(5’−CAGGGGGCCGTGGGGGCCGAATGCTTCCCGGCCTGCAA−3’)及び3(5’−TAGCGGCCGACGCGGCCGCCCTCGGTGAGGAGAGGGG−3’)で表されるプライマーを用い、DNAライブラリーミックス(腎臓、胎盤、膵臓及び肝臓の混合)を鋳型にしてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行ってDLK1タンパク質の細胞外可溶性ドメインのみを増幅し、これにより得られたPCR産物は、SfiIで制限酵素反応を遂行した後、pYK602−Hisベクターに入れてpYK602−His−DLK1組換えベクターを構築した(図4及び5参照)。
【0038】
以後、pYK602−His−DLK1DNAを293E細胞に形質移入して培地を回収し、ウエスタンブロット法でDLK1−Fc融合タンパク質の発現を確認した(図8参照)。発現の確認された培地は、プロティンAカラムを用いて精製し、精製されたDLK1−Fcタンパク質は、pHを中性にした後、PBS(リン酸カリウム生理食塩水)バッファーを用いて透析した後、BCA分析により定量を行い、SDS−PAGEにより精製および定量の達成を確認した(図9参照)。以後、精製されたDLK1−Fc融合タンパク質をEndoTrap Redカラムを用いて細菌内毒素を除去し、これによりDLK1−Fc融合タンパク質を製造した。
【0039】
また、本発明は、前記製造されたDLK1細胞外可溶性ドメイン、またはDLK1−Fc融合タンパク質を有効成分として含む癌転移抑制用組成物を提供する。
【0040】
前記癌は、皮膚癌、肝臓癌、胃癌、乳癌、結腸癌、骨癌、膵臓癌、頭部または頚部癌、子宮癌、大腸癌、肺癌、卵巣癌、直腸癌、食道癌、小腸癌、肛門癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌腫及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、胃癌及び膵臓癌からなる群から選択されるいずれか一つであることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0041】
本発明の具体的な実施例で、製造されたDLK1−Fc融合タンパク質が癌細胞株に与える影響を調べるために、参考文献(Chen HC,Methods in molecular biology.2005年,第294巻,p.15−22)の方法を用いて癌細胞株の移動分析(migration assay)を実施し、精製されたDLK1−Fc融合タンパク質を用いて多様な癌細胞株の転移に与える影響を調査した結果、皮膚癌(図11参照)、乳癌(図14及び15参照)、子宮癌(図16参照)、大腸癌(図17及び18参照)、腎臓癌(図19及び20参照)、肝臓癌(図21〜23参照)、肺癌(図24〜26参照)、卵巣癌(図27及び28参照)、膵臓癌(図29〜31参照)及び胃癌(図32及び33参照)の転移を減少させることができることを確認した。
【0042】
また、前記製造されたDLK1の細胞外可溶性ドメインのみを発現させ、かつ精製した後、皮膚癌黒色腫細胞株に処理して比較した結果、DLK1の細胞外可溶性ドメインも癌細胞株の移動を顕著に減少させることができることを確認した(図12及び13参照)。
【0043】
また、実際に癌転移抑制のための薬物としての有効性を検証するために、薬物動態パラメーターを決定する実験をマウスで実施した。実験の結果、5mg/kg(実際マウスの重さを考慮すると100μg/マウス)で接種して、マウスの総血液がおおよそ2mlであることを考慮すると、静脈注射した時に最高濃度として算定することができる濃度は50μg/mlであり、腹腔接種を通じて示された実験結果のCmax値として38.96μg/mlが示されたことは、相当に高い値であると言え、接種後4時間(Tmax値)で最高濃度を示すことが分かった。そして、生体内でどの程度安定的であるかを調べる半減期値が約20時間と示され、生体内で相当に安定的であることを確認することができた(図36参照)。そして、癌転移抑制力を示す濃度が、10μg/mlでも卓越した効果を示すことを確認したことから、48時間後に約10μg/mlの濃度を維持している結果と照らし合わせると、本発明の薬物が癌転移抑制用タンパク質新薬として十分な安全性及び有効性を提供することは明らかである(図35参照)。
【0044】
したがって、前記製造されたDLK1の細胞外可溶性ドメイン、またはDLK1−Fc融合タンパク質は、癌転移抑制用組成物の有効成分として有用に用いることができる。
【0045】
本発明の組成物は、追加で同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含むことができる。投与のためには、追加に薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。本発明の組成物は、組成物総重量に対して前記タンパク質が0.0001〜10重量%であり、0.001〜1重量%を含むことが好ましい。薬剤学的に許容可能な担体としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エチルアルコール及びこれら成分のうちの1成分以上の混合物を用いることができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの異なる通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらに、当技術分野の適正な方法で、または Remington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、Easton PA,18th,1990年)に開示されている方法を用いて、各疾患に応じて、または成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0046】
本発明の癌転移抑制用組成物は、目的とする方法によって非経口投与(例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下または局所に適用)するか、経口投与することができ、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度等によってその範囲が多様である。本発明によるタンパク質の投与量は、成人男性を60kgと仮定した時(米国FDA基準)0.738μg〜7.38gであり、好ましくは7.38μg〜0.738g(12.3mpk)で、二日に一度投与することが好ましいが、投与方法は患者の必要性によって決定することができる。
【0047】
また、本発明は、前記製造されたDLK1の細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質の薬学的に有効な量を、転移癌を有する対象に投与する工程を含む癌転移抑制方法を提供する。
【0048】
前記DLK1の細胞外可溶性ドメインは、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0049】
用語「DLK1−Fc融合タンパク質」は、抗体重鎖の定常ドメインに由来した断片を含む組換え分子を意味する。Fc融合タンパク質は、五つのIgタイプ(例:IgA,IgD,IgE,IgG及びIgM)中の任意のものからの抗体のFcドメイン、すなわちCH2およびCH3定常ドメインの全体または一部を含むことができる。例えば、DLK1−Fc融合タンパク質は、細胞外可溶性ドメインのカルボキシ末端及びアミノ末端に抗体重鎖の定常ドメインの全体または一部を含む形態で作製することができる。異なる例として、Fc融合タンパク質は、2個以上の抗体の重鎖定常ドメインを有する形態をまた含むことができ、ここで二つの重鎖は、ジスルフィド結合または異なる共有結合で連結することができる。また異なる例として、DLK1−Fc融合タンパク質のDLK1部分は、DLK1の2個以上の細胞外可溶性ドメインを有する形態をまた含むことができる。
【0050】
前記癌は、皮膚癌、肝臓癌、胃癌、乳癌、結腸癌、骨癌、膵臓癌、頭部または頚部癌、子宮癌、大腸癌、肺癌、卵巣癌、直腸癌、食道癌、小腸癌、肛門癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌腫及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、胃癌及び膵臓癌からなる群から選択されるいずれか一つであることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0051】
本発明の癌転移抑制方法は、目的とする方法によって非経口投与(例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下または局所に適用)するか、経口投与することができ、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度等によってその範囲が多様である。本発明によるタンパク質の投与量は、成人男性を60kgと仮定した時(米国FDA基準)0.738μg〜7.38gであり、好ましくは7.38μg〜0.738g(12.3mpk)で、二日に一度投与することが好ましいが、投与方法は患者の必要性によって決定することができる。
【0052】
本発明では、DLK1の細胞外可溶性ドメイン遺伝子とIgG抗体のFcドメインの遺伝子とを含む組換え発現ベクターを構築し、293E細胞からDLK1−Fc融合タンパク質を発現させて精製し、DLK1−Fc融合タンパク質による癌細胞の顕著な移動(migration)減少を確認し、かつ薬物動態パラメーター計算に基づいて癌転移抑制薬物としての有効性を確認した。結果的には、本発明のDLK1の細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質を、転移癌を有する対象に投与することで、癌転移を抑制する方法に有用に用いることができる。
【0053】
また、本発明は、癌転位抑制用組成物の製造のための、前記製造されたDLK1細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質の使用を提供する。
【0054】
前記DLK1の細胞外可溶性ドメインは、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有することが好ましいが、これに限定されない。
【0055】
用語「DLK1−Fc融合タンパク質」は、抗体重鎖の定常ドメインに由来する断片を含む組換え分子を意味する。Fc融合タンパク質は、五つのIgタイプ(例:IgA,IgD,IgE,IgG及びIgM)中の任意のものからの抗体のFcドメイン、すなわちCH2およびCH3定常ドメインの全体または一部を含むことができる。例えば、DLK1−Fc融合タンパク質は、細胞外可溶性ドメインのカルボキシ末端及びアミノ末端に抗体重鎖の定常ドメインの全体または一部を含む形態で作製することができる。異なる例として、Fc融合タンパク質は、2個以上の抗体の重鎖定常ドメインを有する形態をまた含むことができ、ここで二つの重鎖は、ジスルフィド結合または異なる共有結合で連結することができる。また異なる例として、DLK1−Fc融合タンパク質のDLK1部分は、DLK1の2個以上の細胞外可溶性ドメインを有する形態をまた含むことができる。
【0056】
前記癌は、皮膚癌、肝臓癌、胃癌、乳癌、結腸癌、骨癌、膵臓癌、頭部または頚部癌、子宮癌、大腸癌、肺癌、卵巣癌、直腸癌、食道癌、小腸癌、肛門癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌腫及び中枢神経系腫瘍からなる群から選択されるいずれか一つであることが好ましく、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、胃癌及び膵臓癌からなる群から選択されるいずれか一つであることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0057】
本発明では、DLK1の細胞外可溶性ドメイン遺伝子とIgG抗体のFcドメインの遺伝子とを含む組換え発現ベクターを構築し、293E細胞からDLK1−Fc融合タンパク質を発現させて精製し、DLK1−Fc融合タンパク質による癌細胞の顕著な移動(migration)減少を確認し、かつ薬物動態パラメーター計算に基づいて癌転移抑制薬物としての有効性を確認した。結果的には、本発明のDLK1の細胞外可溶性ドメインまたはDLK1−Fc融合タンパク質を、癌転位抑制用組成物の製造に用いる用途に有用に用いることができる。
【0058】
本発明の癌転移抑制用組成物には、追加で同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含むことができる。投与のためには、追加で薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。本発明の組成物は、組成物総重量に対して前記タンパク質が0.0001〜10重量%であり、0.001〜1重量%を含むことが好ましい。薬剤学的に許容可能な担体としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エチルアルコール及びこれら成分のうちの1成分以上の混合物を用いることができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの異なる通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。更に当技術分野の適正な方法で、またはRemington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、Easton PA,18th,1990年)に開示されている方法を用いて、各疾患に応じて、または成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0059】
本発明の癌転移抑制方法は、目的とする方法によって非経口投与(例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下または局所に適用)するか、経口投与することができ、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度等によってその範囲が多様である。本発明によるタンパク質の投与量は、成人男性を60kgと仮定した時(米国FDA基準)0.738μg〜7.38gであり、好ましくは7.38μg〜0.738g(12.3mpk)で、二日に一度投与することが好ましいが、投与方法は患者の必要性によって決定することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例、実験例及び製造例によって詳しく説明する。
【0061】
ただし、下記実施例、実験例及び製造例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例、実験例及び製造例に限定されるものではない。
【0062】
<実施例1>pYK602−His−DLK1発現ベクターの製造
pYK602−HISベクターのDLK1−Fcの発現を誘導するために、それぞれ配列番号2(5’−CAGGGGGCCGTGGGGGCCGAATGCTTCCCGGCCTGCAA−3’)及び3(5’−TAGCGGCCGACGCGGCCGCCCTCGGTGAGGAGAGGGG−3’)で表される塩基配列を有するプライマー対を作製して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。具体的な反応の組み合わせは、鋳型に使用したDNAライブラリーミックス(腎臓、胎盤、膵臓、肝臓の混合)100ng、pfu2.5unitプライマーそれぞれ10pmolを添加して、総量50μlで反応を遂行した。反応は94度2分を1サイクル、94度30秒、55度30秒、72度1分を30サイクル、72度10分を1サイクルにして反応を終結した。PCR産物は、SfiI制限酵素位置を含んでいるため、SfiIで制限酵素反応を遂行した後、pYK602−HISベクターに挿入してpYK602−His−DLK1組換えベクターとした(図5)。
【0063】
クローニングしたDLK1は、全体で383個のアミノ酸における24番目のアミノ酸から302番目のアミノ酸までに該当するDLK1の細胞外可溶性ドメインであり、シグナルペプチドと膜貫通領域と細胞質ドメインとが除去されている。クローニングされたDLK1の核酸配列とアミノ酸配列は、図6(配列番号1)及び7(配列番号4)にそれぞれ示されている。
【0064】
<実施例2>DLK1−Fc融合タンパク質の発現及び精製
前記<実施例1>でクローニングされたDLK1−Fcを発現させるために、293E細胞を使用した。具体的な発現方法は、下記の通りである。100mmプレートに70%程度の細胞水準でDNA10μg、PEI(#23966,Polysciences,米国)20μgを混合して室温で20分間反応させて混合物を作った後、細胞に処理した。16〜10時間後に無血清DMEM培地に代えた後、二日に一回ずつ培地を回収して新しい培地に交換した。回収した培地は、ウエスタンブロット法を用いて発現を確認した(図8)。発現の確認された培地は、残っている可能性のある細胞を遠心分離によって確実に除去した後、0.22μmフィルター(#PR02890 Millipore,米国)を用いてろ過した。以後プロティンAカラムを用いて精製した。すなわち、10mlのカラムに500μlのプロティンAビーズ(#17−1279−03 GE,Sweden)を充填してPBSで洗浄後、DLK1−Fcが発現された培地を流した。この過程は、蠕動ポンプを使用し、1分間に0.5mlずつ流れ込むようにセッティングした。培地がすべてカラムを通過した後、PBSで洗浄し、0.1Mグリシン−HCl(#G7126,Sigma,米国)で精製されたDLK1−Fcタンパク質を回収した。回収されたタンパク質は、1M Tris pH9.0(#T−1503,Sigma,米国)を用いてpHを中性にした後、PBSを用いて透析を実施した。精製されたタンパク質は、BCA分析によって定量を行い、SDS−PAGEを行って精製有無を確認し(図9)、これを通じて精製されたDLK1−Fc融合タンパク質を得た。
【0065】
<実験例1>精製されたDLK1−Fcの内毒素測定及び除去
精製されたDLK1−Fcの細菌内毒素データを測定するために、Chromo−LAL(cat# C0031,CAPE COD)を用いた。具体的には、タンパク質標準物質としてのCSE(control standard endotoxin;cat# E0005,CAPE COD)1EU/mlを2倍ずつ希釈して最小濃度が0.03125EU/mlになるように準備した。陰性対照としてのLRW(LAL reagent water;cat# WP1001,CAPE COD)100μl+LAL 100μl、陽性対照としての0.125EU/ml濃度の標準物質(100ul+LAL 100μl)を加えた。分析のために、所定の濃度(50μg/ml)を有する希釈したLRWサンプル100μl+LAL 100μlを準備した。追加で、サンプル間の干渉を確認する目的で、陽性対照の実験のために、上記の希釈したサンプル(50μl+0.125EU/ml)及び標準物質(50μl+LAL 100ul)も準備した。また、VersaMax microplate reader(Molecular devices)で測定するために、あらかじめセッティングされた値をプロトコール化したファイル(Chromo LAL setting.pda)を用いた。プレートは、あらかじめ37℃で10分程度予熱した後、実験を始めた。LALを処理するのと同時にセッティングされたファイルを開始して吸光度を測定した。標準曲線のX軸はLog EU/mL、Y軸はLogオンセット(Onset)時間で作成し、サンプルの内毒素データは測定した吸光度をソフトウェアで自動計算してEU/mlで表示した。標準曲線のR値が0.98以上になる場合に測定値に対する信頼性を置いた。DLK1−Fcタンパク質に対するLALテストの結果、150.24 EU/mlの内毒素を含んでいることが測定された。続いてサンプルの内毒素を除去するために、EndoTrap Red(cat# 83−009U,Lonza)カラムを使用した。カラムを3mlの再生バッファーで2回洗浄した後、同量の安定化バッファーで2回洗浄した。次にサンプル適用と同時に分液を得た(速度:0.5〜1ml/分)。カラム内の残余サンプルは、安定化バッファー1mlを適用して得た。内毒素除去後、上記と同一の方法でLALテストを再び実施し、その結果、サンプルの内毒素のデータが7.53EU/mlと測定された。これは陰性対照と類似の量であり、結果的に、精製されたDLK1−Fcタンパク質の細菌内毒素が除去されたことを確認した。
【0066】
<実験例2>DLK1−Fc融合タンパク質の癌細胞株移動抑制効果の確認
前記<実施例2>で製造及び精製されたDLK1−Fcタンパク質が癌細胞株に与える影響を調べるために、参考文献(Chen HC,Methods in molecular biology.2005年,第294巻,p.15−22)の方法を用いて癌細胞株の移動分析(migration assay)を実施した。
【0067】
具体的には、癌細胞株[皮膚癌細胞株(MDA−MB−435;ATCC HTB−129)、乳癌細胞株(Hs578T;ECACC 86082104及びMCF−7;ATCC HTB−22)、子宮癌細胞株(HeLa;ATCC CCL−2)、大腸癌細胞株(SW480;ATCC CCL−228,SW620;ATCC CCL−227及びHT29;ATCC HTB−38)、腎臓癌細胞株(786−O;ATCC CRL−1932及びUO−31;DTP)、肝臓癌細胞株(HepG2;ATCC HB−8065,SNU398;KCLB 00398及びSNU449;KCLB 00449)、肺癌細胞株(A549;ATCC CCL−185,NCIH23;KCLB 90023及びNCIH460;KCLB 30177)、卵巣癌細胞株(MDAH2774;ATCC CRL−10303及びIGROV−1;DTP)、膵臓癌細胞株(Aspc−1;KCLB 21682,HPAC;ATCC CRL−2119及びMIA paca−2;KCLB 21420)及び胃癌細胞株(SNU638;KCLB 00638及び、AGS;KCLB 21739)]を培養して細胞が50%程度水準である時に無血清培地に交換して、24時間後に細胞をトリプシン処理によって剥がした後に細胞数を測定した。細胞、無血清培地、及び処理しようとするそれぞれのタンパク質を合わせて100μlにして、37℃で1時間培養した。24ウェルプレートに1mlの化学誘引物質(chemo−attractant)を入れて、さらに8.0μmの大きさのポア(孔)を有したトランスウェル(Corning#3422)を載せてその中に1時間前培養した細胞、細胞、及びタンパク質の混合液100μlを入れた後、37℃の二酸化炭素培養器で24時間〜48時間培養した。それぞれの細胞株に使用した細胞数、化学誘引物質構成、培養時間を図21に示した。
【0068】
培養後、トランスウェルの培地を除去した後、100%メタノールで15分間固定させ、その後、蒸留水を用いて2回洗浄した後、クリスタルバイオレット溶液で5分間反応させた。反応後、蒸溜水で3回洗浄後、トランスウェルを通過することができなかった細胞を綿棒を用いて完全に除去した。トランスウェルを完全に乾かした後、トランスウェルを通過した細胞を観察するために100倍の倍率で観察及び写真を撮影した。定量的分析のためには、写真撮影が終わった後、トランスウェルに10%酢酸溶液に入れて抽出した後、560nm波長で測定して吸光度を分析した。
【0069】
その結果、可溶性DLK1−Fc融合タンパク質を含んだ細胞培養培地によって処理した大腸癌細胞株(SW620)及び皮膚癌黒色腫細胞株(MDA−MB−435)では、可溶性DLK1−Fc融合タンパク質が、対照可溶性Fcタンパク質及び非処理群に比べて癌細胞株の移動を顕著に阻害することを確認した(図10及び11)。また、移動が、DLK1に結合されたFcの影響ではないことを調べるために、DLK1の可溶性領域のみを発現させ、かつ精製して比較した結果、可溶性DLK1−Fc融合タンパク質と同様に癌細胞株の顕著な移動減少を確認することができた(図12及び13)。また、精製された可溶性DLK1Fc融合タンパク質を用いて多様な癌細胞株の転移に与える影響を調査した結果、乳癌(図14及び15)、子宮癌(図16)、大腸癌(図17及び18)、腎臓癌(図19及び20)、肝臓癌(図21〜23)、肺癌(図24〜26)、卵巣癌(図27及び28)、膵臓癌(図29〜31)及び胃癌(図32及び33)で、癌細胞株の移動を抑制することを確認した。
【0070】
<実験例3>DLK1−Fc融合タンパク質の薬物動態パラメーター(pharmacokinetice parameter)確認
前記<実施例2>で製造及び精製されたDLK1−Fc融合タンパク質が実際に転移抑制剤として用いるのに相応しいかどうかを調べるための実験として、薬物動力学実験を実施した。
【0071】
具体的には、30匹の6週齢Balb/cメス(オリエントバイオ)に腹腔注射によって5mg/kgで一度接種した後、眼球静脈叢(ophtalmic venus plexus)から0、0.5、2、4、6、24、30、48時間毎に血液を採取し、血清を分離して実験に使用した。
【0072】
サンプリングされた血清を用いて血中DLK1−Fcの濃度を測定するために酵素免疫測定法(ELISA)を使用した。具体的には、ELISAプレート(#439454,NUNC)に1μg/mlの濃度のDLK1抗体(#MAB1144,R&D)を4℃でコーティングした。4%スキムミルク/PBS(リン酸カリウム生理食塩水)バッファーでブロッキングを1時間行った後、プレートをPBST(リン酸カリウム生理食塩水、0.05%ツイーン20)バッファーで洗浄した。標準曲線の作成のために、精製されたDLK1−Fcを100nM濃度から始めて2倍ずつ希釈した。陰性対照としてhIgG(human IgG)を使用した。実験でサンプリングされた血清は、250倍、500倍、1000倍にそれぞれ希釈した後、2時間室温で反応させた。プレートをPBSTバッファーで洗浄した後、抗Fc−HRP(#31413、Pierce)抗体を1:4000の濃度に希釈して2時間室温で反応させた。プレートをPBSTバッファーで洗浄した後、OPD(o−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(o−Phenylenediamine dihydrochloride))溶液を準備してそれぞれのウェルに100μlずつ処理した。OPD溶液は、PCバッファー、pH5.0に過酸化水素水及びOPD(P9187,Sigma)を添加して製造した。10分間暗室で反応後、2.5M硫酸50μlを処理して、発色反応を終結してOD492nmで吸光度を測定した。標準曲線については、R値が0.99以上の区間を選定して結果を処理した。
【0073】
その結果、5mg/kg(実際マウスの重さを考慮すると100μg/マウス)で接種して、マウスの総血液がおおよそ2mlであることを考慮すると、静脈注射した時、最高濃度として算定することができる濃度は、50μg/mlであり、腹腔接種を通じて示された実験結果のCmax値が38.96μg/mlと示されたことは、相当に高い値であると言え、接種後4時間(Tmax値)で最高濃度を示すことが分かった。そして、生体内でどの程度安定的なのかを調べる半減期値が約20時間と示され、生体内で相当に安定的であることを確認することができた(図36)。そして、癌転移抑制力を示す濃度が、10μg/mlでも卓越した効果を示すことを確認したことから、48時間後に約10μg/mlの濃度を維持している結果と照らし合わせると、本発明の薬物が癌転移抑制用タンパク質新薬として十分な安全性及び有効性を提示することは明らかである(図35)。
【0074】
したがって、DLK1−Fc融合タンパク質が多様な癌腫の移動を阻害することを考慮し、かつ薬物動態パラメーターを考慮すると、DLK1−Fc融合タンパク質は、癌転移を阻害するための組成物としての十分な可能性を提供することは明らかである。
【0075】
下記に、本発明の組成物のための製造例を提示する。
【0076】
<製造例1>薬学的製剤の製造
1.散剤の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 2g
乳糖 1g
前記成分を混合して気密包装に充填して散剤を製造した。
【0077】
2.錠剤の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 100mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法にしたがって打錠して錠剤を製造した。
【0078】
3.カプセル剤の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 100mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法にしたがってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0079】
4.注射剤の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 10μg/ml
希塩酸BP pH7.6になるまで
注射用塩化ナトリウムBP 最大1ml
適当な容積の注射用塩化ナトリウムBP中にDLK1−Fc融合タンパク質を溶解させて、生成された溶液のpHを希塩酸BPを用いてpH7.6に調節して、注射用塩化ナトリウムBPを用いて容積を調節して充分に混合した。溶液を透明ガラスの5mlタイプIアンプル中に充填し、ガラスを溶解させて密封し、120℃で15分以上オートクレーブして殺菌して注射液剤を製造した。
【0080】
5.丸薬の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 1g
乳糖 1.5g
グリセリン 1g
キリシトール 0.5g
前記成分を混合した後、通常の方法によって1丸薬当り4gになるように製造した。
【0081】
6.顆粒の製造
DLK1−Fc融合タンパク質 150mg
大豆抽出物 50mg
ブドウ糖 200mg
澱粉 600mg
前記成分を混合した後、30%エチルアルコール100mgを添加して60℃で乾燥して顆粒を形成した後、包装に充填した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のDLK1−Fc融合タンパク質は、非融合タンパク質に比べて高い安定性を有し、多様な癌細胞株の移動(migration)を顕著に減少させ、かつ低濃度でも顕著な癌転移抑制効果を提供する。したがって、本発明のDLK1−Fc融合タンパク質は、癌転移抑用組成物及び癌予防及び治療用組成物、癌予防及び改善用健康食品の組成物として効果的に用いられる。さらに、本発明のDLK1−Fc融合タンパク質は、現在癌治療剤に用いられている新生血管抑制用組成物との併用に向けて製品化した場合に、顕著に増大した抗癌活性を有する癌転移抑制用及び癌治療用組成物として、効果的に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DLK1(デルタ様1ホモログ(delta−like 1 homolog))の細胞外可溶性ドメイン。
【請求項2】
200〜300a.aの大きさである、請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメイン。
【請求項3】
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメイン。
【請求項4】
請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメイン及びヒト抗体Fcドメインを含む、DLK1−Fc融合タンパク質。
【請求項5】
請求項4に記載のDLK1−Fc融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の組換えベクターを宿主細胞に形質移入した組換え細胞株。
【請求項8】
1)請求項7に記載の組換え細胞株を培養する工程と、
2)細胞株培養培地からDLK1−Fc融合タンパク質を分離する工程と
を含む、DLK1−Fc融合タンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメインまたは請求項3に記載のDLK1−Fc融合タンパク質を含む、癌転移抑制用組成物。
【請求項10】
前記癌が、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌及び胃癌からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメインまたは請求項3に記載のDLK1−Fc融合タンパク質の薬学的に有効な量を、転移癌を有する対象に投与する工程を含む、癌転移抑制方法。
【請求項12】
前記癌が、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌及び胃癌からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
癌転位抑制用組成物の製造のための、請求項1に記載のDLK1の細胞外可溶性ドメインまたは請求項3に記載のDLK1−Fc融合タンパク質の使用。
【請求項14】
前記癌が、皮膚癌、乳癌、子宮癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌及び胃癌からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項13に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2012−513775(P2012−513775A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505813(P2012−505813)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/KR2010/002277
【国際公開番号】WO2011/115323
【国際公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(508139457)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (19)
【Fターム(参考)】