説明

DNAメチル化における改変を伴う神経再生細胞連邦政府の援助に関する申告適用なし

中枢神経系(CNS)又は末梢神経系(PNS)傷害の部位への移植後のさまざまな神経障害を救援する及び/又は後退させることができる、骨髄接着幹細胞(MASCs)の子孫である細胞が本明細書中に開示されている。上記細胞はMASCsにおけるそれらのメチル化状態と比較して、ある遺伝子のメチル化状態において改変を含む。ある遺伝子のメチル化状態の改変による、CNS又はPNS傷害の部位への移植後のさまざまな神経障害を救援する及び/又は後退させることができる細胞の作出方法もまた提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は神経障害のための細胞治療及び遺伝子発現及び分化の後成的な調節の分野におけるものである。
【背景技術】
【0002】
細胞分化は部分的には遺伝子発現の調節により制御されている。転写の調節;すなわち、mRNA分子の合成のための鋳型としてのDNAの使用は遺伝子発現が調節される機構の一つである。遺伝子発現の転写調節は例えば、クロマチン構造の変化及び/又は上記遺伝子内の又は上記遺伝子近辺の特定のDNA配列への転写調節タンパク質の結合から起こりうる。
【0003】
遺伝子発現の転写制御が成し遂げられる他の方法はDNAの化学的改変による。この型の調節の最も広く研究されている局面はDNAメチル化である。真核生物ゲノムでは、DNAメチル化の基本的な型はいくつかの細胞メチルトランスフェラーゼの1つの活性をとおした、シトシンの5‐メチル‐シトシンへの変換である。ほとんどの場合、メチル化C残基はG残基の上流に直接的に局在している。一般的に、遺伝子内の又は遺伝子近辺のC残基のメチル化は上記遺伝子の減少された発現と相関している。ほとんどの場合、CpGメチル化はそれ自体、遺伝子の転写抑制の近因ではないが、遺伝子調節タンパク質によりはじめに仲介される転写抑制を永続させるための機構であるように見える。
【0004】
ある非細胞型特異的脊椎動物遺伝子(すなわち、ハウスキーピング遺伝子)の上流領域におけるCGジヌクレオチド配列の頻度は上記ゲノムのGC含有量に基づいて予想されるであろうよりずいぶん高い;上記領域はCpG島として知られている。CpG島はC残基のメチル化状態が関連遺伝子の転写に影響しうる部位である。逆に、特定の遺伝子に関連するCpG島又は他の領域におけるC残基のメチル化状態はその遺伝子の転写状態の有力な指標として及び/又は特定の細胞型を特徴づける診断マーカーとして使用されうる。例えば、WO2006/094836を参照のこと。
【発明の概要】
【0005】
要約
神経系傷害又は疾患の部位への移植後に神経回復及び/又は神経再生を刺激することができる細胞が本明細書中に開示されている。ある態様において、上記細胞は骨髄接着幹細胞(MASCs)に由来しているが、in vitroでの処理及び培養後にある遺伝子のメチル化状態において改変している。したがって、本発明者は、1又は複数の遺伝子のメチル化状態の改変は前駆細胞を上記前駆細胞が有さなかった神経再生特性を有する子孫細胞に変換しうることを発見した。
【0006】
この発見の結果として、本開示はとりわけ、以下の態様を含む:
1.細胞内の遺伝子のメチル化状態の改変方法であって:
(a)Notch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドで上記細胞をトランスフェクトすること;及び
(b)上記細胞又は上記細胞の1又は複数の子孫における遺伝子のメチル化状態がトランスフェクトされていない細胞における上記遺伝子と比較して改変されており、それにより上記遺伝子のメチル化状態が改変されている、上記トランスフェクトされた細胞を培養すること
を含む方法。
2.上記遺伝子がPITX2遺伝子である、態様1の方法。
3.上記遺伝子がDNMT3b遺伝子である、態様1の方法。
4.上記遺伝子がIGF2R遺伝子である、態様1の方法。
5.上記遺伝子がSDF4遺伝子である、態様1の方法。
6.上記遺伝子がROPN1L遺伝子である、態様1の方法。
7.上記遺伝子がTMEM179遺伝子である、態様1の方法。
8.上記遺伝子のメチル化が上記子孫細胞において増加している、態様1〜5のいずれかの方法。
9.上記遺伝子のメチル化が上記子孫細胞において減少している、態様1、6又は7のいずれかの方法。
10.配列C‐A‐T‐Cme‐G‐C‐C‐CがC‐A‐T‐C‐G‐C‐C‐Cに変換されている、態様9の方法。
11.上記細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、態様1〜10のいずれかの方法。
12.遺伝子のメチル化状態が改変されている子孫細胞の作出方法であって:
(a)Notch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドで前駆細胞をトランスフェクトすること;
(b)上記トランスフェクトされた細胞を培養すること;及び
(c)上記トランスフェクトされた細胞の子孫の中から、上記遺伝子のメチル化状態が改変されている1又は複数の子孫細胞を得ること
を含む方法。
13.上記遺伝子がPITX2遺伝子である、態様12の方法。
14.上記遺伝子がDNMT3b遺伝子である、態様12の方法。
15.上記遺伝子がIGF2R遺伝子である、態様12の方法。
16.上記遺伝子がSDF4遺伝子である、態様12の方法。
17.上記遺伝子がROPN1L遺伝子である、態様12の方法。
18.上記遺伝子がTMEM179遺伝子である、態様12の方法。
19.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して上記子孫細胞において増加している、態様12〜16のいずれかの方法。
20.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して上記子孫細胞において減少している、態様12又は17又は18のいずれかの方法。
21.配列C‐A‐T‐Cme‐G‐C‐C‐CがC‐A‐T‐C‐G‐C‐C‐Cに変換されている、態様20の方法。
22.上記前駆細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、態様12〜21のいずれかの方法。
23.前駆細胞を神経再生細胞に変換する方法であって、上記原種細胞中の1又は複数の遺伝子のメチル化状態を改変することを含む方法。
24.上記遺伝子がPITX2遺伝子である、態様23の方法。
25.上記遺伝子がDNMT3b遺伝子である、態様23の方法。
26.上記遺伝子がIGF2R遺伝子である、態様23の方法。
27.上記遺伝子がSDF4遺伝子である、態様23の方法。
28.上記遺伝子がROPN1L遺伝子である、態様23の方法。
29.上記遺伝子がTMEM179遺伝子である、態様23の方法。
30.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して、上記神経再生細胞において増加している、態様23〜27のいずれかの方法。
31.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して、上記神経再生細胞において減少している、態様23、28又は29のいずれかの方法。
32.配列C‐A‐T‐Cme‐G‐C‐C‐CがC‐A‐T‐C‐G‐C‐C‐Cに変換されている、態様31の方法。
33.上記前駆細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、態様23〜32のいずれかの方法。
34.上記遺伝子のメチル化状態が:
(a)Notch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドで上記前駆細胞をトランスフェクトすること;
(b)上記トランスフェクトされた細胞を培養すること;及び
(c)上記トランスフェクトされた細胞の子孫の中から、上記遺伝子のメチル化状態が改変されている1又は複数の子孫細胞を得ること;
により改変されており、ここで上記遺伝子のメチル化状態が改変されている前記子孫細胞は神経再生細胞である、態様23の方法。
35.上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆種細胞をメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又はメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子内の1又は複数の配列に結合するように作出されている、態様30の方法。
36.上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞を脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又は脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより変換されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子内の1又は複数の配列に結合するように作出されている、態様31の方法。
37.in vitroでの培養をとおして前駆細胞に由来する細胞であって、ここで:
(a)上記細胞が神経組織の成長及び/又は再生を援助する;
(b)上記細胞における1又は複数の遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞に比較して改変されている;及び
(c)in vitroでの培養中、上記前駆細胞もその子孫のいずれもNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトされていない、
細胞。
38.上記遺伝子がPITX2遺伝子である、態様37の細胞。
39.上記遺伝子がDNMT3b遺伝子である、態様37の細胞。
40.上記遺伝子がIGF2R遺伝子である、態様37の細胞。
41.上記遺伝子がSDF4遺伝子である、態様37の細胞。
42.上記遺伝子がROPN1L遺伝子である、態様37の細胞。
43.上記遺伝子がTMEM179遺伝子である、態様37の細胞。
44.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して、上記神経再生細胞において増加している、態様37〜41のいずれかの細胞。
45.上記遺伝子のメチル化が上記前駆細胞と比較して、上記神経再生細胞において減少している、態様37、42又は43のいずれかの細胞。
46.配列C‐A‐T‐Cme‐G‐C‐C‐CがC‐A‐T‐C‐G‐C‐C‐Cに変換されている、態様45の細胞。
47.上記前駆細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、態様37〜46のいずれかの細胞。
48.上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞をメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又はメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子内の1又は複数の配列に結合するように作出されている、態様37の細胞。
49.上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞を脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又は脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子内の1又は複数の配列に結合するように作出されている、態様37の細胞。
50.神経再生細胞の同定方法であって、上記細胞における1又は複数の遺伝子のメチル化状態を分析することを含む方法であって、ここで上記分析された遺伝子のメチル化状態における変化は神経再生細胞を表している、方法。
51.上記分析が上記1又は複数の遺伝子の増加されたメチル化についてである、態様50の方法。
52.上記分析が上記1又は複数の遺伝子の減少されたメチル化についてである、態様50の方法。
53.上記分析が1又は複数の第一の遺伝子の増加されたメチル化について及び1又は複数の第二の遺伝子の減少されたメチル化についてである、態様50の方法。
54.上記1以上の遺伝子(単数又は複数)がPITX2、ROPN1L、DNMT3b、IGF2R、TMEM179及びSDF4から成る群から選択される、態様50の方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
適用なし。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
診断としてのメチル化状態
問題の1又は複数の遺伝子内の又は問題の1又は複数の遺伝子近辺の特定のCpG配列のDNAメチル化状態における変化の分析は細胞を同定するために及び異なるDNAメチル化パターンを有する他の細胞からそれを区別するために使用されうる。例えば、幹細胞又は他の型の前駆細胞において、特定のCpG配列がそのC残基上でメチル化され、そしてさらなる分化に際して、上記C残基が脱メチル化される場合、そのC残基の脱メチル化はその分化段階についてのマーカーとして使用されうる。逆に、C残基のメチル化は分化についてのマーカーとしてはたらきうる。メチル化状態における全体的な全か無かの変化は必要ではない;特定のCpG配列でのメチル化頻度における変化もまた診断でありうる。
【0009】
本分野において知られるいくつかの方法はメチル化シトシン残基を非メチル化シトシン残基から区別するために使用されうる。これらは、非限定的に、重亜硫酸塩でのDNAの処理、及びメチル化感受性及びメチル化依存性制限酵素でのDNA切断の分析を含む。重亜硫酸塩(SO3)処理は非メチル化シトシンを脱アミノ化し、それを、複製に際して伸長中のDNA鎖中でアデノシン残基の鋳型となるデオキシウリジンに変換する。したがって、重亜硫酸塩処理はC‐G塩基対のT‐A塩基対への結果として起こる変換をもたらし;そして上記変化は標準のDNAシークエンシング法により検出されうる。メチル化C残基は重亜硫酸塩処理により影響されない;それゆえ、Cme‐G塩基対は変換されないままである。
【0010】
制限酵素を用いたメチル化状態の分析のために、それらの認識部位に配列CGを有する酵素が使用されうる。配列CGを含むある認識部位について、上記部位を認識する酵素は、上記C残基がメチル化されている場合、それを切断することができないであろうが、その酵素の等分裂体(すなわち、上記同じ配列を認識する酵素)はC残基がメチル化されていようとされていまいと、上記部位を切断するであろう。例えば、HpaII及びMspIの両方とも配列CCGGを認識する。MspIは二番目のC残基がメチル化されているかどうかにかかわらず、上記部位を切断する。しかしながら、HpaIIは二番目のC残基がメチル化されていない場合のみ上記部位を切断するであろう。したがって、両方の酵素によるCCGG配列の切断は上記部位内の二番目のC残基がメチル化されていない(すなわち、上記部位は配列C‐C‐G‐Gを有する)ことを示す;一方でMspIのみによる切断は二番目のC残基がメチル化されている(すなわち、上記部位は配列C‐Cme‐G‐Gを有する)ことを示す。
【0011】
実際には、特定のCpG配列のメチル化状態の分析は問題のCpGを含むより長い配列の同定に関連する。しばしばアンプリコンと表示されるこの配列は一般的に、それが(メチル化状態が異なる細胞型で異なりうる)1又は複数のCpGジヌクレオチド配列を含み、そして例えば、ポリメラーゼ鎖反応による増幅に好適であるように選択される。上記アンプリコン配列は一般的に哺乳類サイズのゲノム中で独特であるのに十分な長さである。
【0012】
メチル化分析及びDNAメチル化の分析に使用されうる例示的なアンプリコンに関する追加の詳細及び他の情報はWO 2006/094836(Sept.14,2006)中に見られ、その開示をメチル化分析及びDNAメチル化の分析に使用されうる例示的なアンプリコンに関する追加の詳細及び他の情報を提供する目的のために援用する。
前駆細胞
ある遺伝子のメチル化状態を改変することにより神経再生細胞に変換されうる前駆細胞はどんな型の非最終分化細胞でもありうる。例えば、例えば米国特許第5,843,780号;第6,200,806号及び第7,029,913号中に開示される全能幹細胞は前駆細胞として使用されうる。全能幹細胞は培養され(例えば、米国特許第6,602,711号及び第7,005,252号)、そして開示された方法の実施において前駆細胞としてまた使用されうるさまざまな型の多能性細胞(例えば、米国特許第6,280,718号;第6,613,568号及び第6,887,706号)に分化されうる。
【0013】
他の例示的な型の前駆細胞は骨髄間質細胞(BMSCs)、骨髄接着幹細胞及び間葉幹細胞としても知られる、骨髄接着間質細胞(MASCs)である。MASCsの例示的な開示は米国特許出願公開公報第2003/0003090号;Prookop(1997)Science 276:71‐74及びJiang(2002)Nature 418:41‐49中に提供されている。MASCsの単離及び精製方法は例えば、米国特許第5,486,359号;Pittenger et al.(1999)Science 284:143‐147及びDezawa et al.(2001)Eur. J. Neurosci.14:1771‐1776中に見られうる。ヒトMASCsは商業的に入手可能である(例えば、Bio Whittaker, Walkersville, MD)又は例えば、骨髄吸引、続いて接着性骨髄細胞の選択によりドナーから得られうる。例えば、WO 2005/100552を参照のこと。
【0014】
MASCsは臍帯血からもまた単離されうる。例えば、Campagnoli et al.(2001)Blood 98:2396‐2402;Erices et al.(2000)Br. J. Haematol. 109:235‐242及びHou et al.(2003)Int. J. Hematol. 78:256‐261を参照のこと。
Notch細胞内ドメイン
Notchタンパク質は細胞内シグナリングをとおして細胞分化に影響する、全ての後生動物中に見られる膜貫通型受容体である。Notch細胞外ドメインのNotchリガンド(例えば、Delta, Serrate, Jagged)との接触はNotchタンパク質の2のタンパク質分解切断をもたらし、そのうちの二番目のものはγ‐セクレターゼにより触媒され、そしてNotch細胞内ドメイン(NICD)を細胞質に放出する。マウスNotchタンパク質では、この切断はアミノ酸gly1743及びval1744の間で起こる。NICDは核に移動し、そこでそれは転写因子としてはたらき、追加の転写調節タンパク質(例えば、MAM、ヒストンアセチラーゼ)を補充し、さまざまな標的遺伝子(例えば、Hes1)の転写抑制を緩和する。
【0015】
Notchシグナリングについての追加の詳細及び情報は例えば、Artavanis‐Tsakonas et al.(1995) Science 268:225‐232;Mumm and Kopan(2000)Develop. Biol. 228:151‐165及びEhebauer et al.(2006)Sci.STKE 2006(364),cm7[DOI:10.1126/stke.3642006cm7]中に見られる。
【0016】
前駆細胞(例えば、MASCs)のヒトNotch細胞内ドメインをコードする核酸でのトランスフェクション、続いてトランスフェクトされた細胞の薬物選択及びさらなる培養による拡充はそれらのゲノム中に改変されたDNAメチル化を有する神経再生細胞の生成をもたらす。追加の詳細のために下記実施例2を参照のこと。
細胞培養及びトランスフェクション
細胞培養のための標準の方法は本分野において知られている。例えば、R. I. Freshney “Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique,” Fifth Edition, Wiley, New York, 2005を参照のこと。
【0017】
外因性DNAの細胞への導入方法(すなわち、トランスフェクション)もまた本分野において周知である。例えば、Sambrook et al. “Molecular Cloning: A Laboratory Manual,” Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology,” John Wiley & Sons, New York, 1987及び定期的なアップデートを参照のこと。
【0018】
トランスフェクション及び培養についての例示的な方法は下記実施例1及び2中に提供されている。
DNAメチル化の標的化改変の方法
前駆細胞の神経再生細胞への変換には、ある遺伝子のメチル化状態における変化が付随するので;メチル化状態の標的化改変は前駆細胞を神経再生細胞に変えるために使用されうる。
【0019】
特定のC残基でのメチル化状態の改変方法は本分野において知られている。特定の配列のメチル化を増加させるために、DNA結合ドメイン及びメチル化ドメインを含む融合タンパク質が使用されうる。例えば、Bestor U. S. 2002/0188103(Dec. 12, 2002)及びWO 97/11972(April 3, 1997)を参照のこと。メチル化ドメインの源としてはたらきうる例示的なDNAメチルトランスフェラーゼ酵素は上記に挙げられる引用文献中に開示されている。DNAメチルトランスフェラーゼは特定のDNA配列をメチル化することができるタンパク質であり、その特定のDNA配列はCpGでありうる。このタンパク質は変異DNAメチルトランスフェラーゼ、野生型DNAメチルトランスフェラーゼ、天然DNAメチルトランスフェラーゼ、天然DNAメチルトランスフェラーゼの変形、切り取られたDNAメチルトランスフェラーゼ又はDNAをメチル化することができるDNAメチルトランスフェラーゼの切片でありうる。DNAメチルトランスフェラーゼは哺乳類DNAメチルトランスフェラーゼ、細菌DNAメチルトランスフェラーゼ、M. SssI DNAメチルトランスフェラーゼ及びDNAをメチル化する能力を有する他のタンパク質又はポリペプチドを含みうる。
【0020】
融合タンパク質の構築のためにメチル化ドメインの源としてはたらきうる例示的なDNAメチルトランスフェラーゼは、非限定的に、シトシンDNAメチルトランスフェラーゼ、damメチルトランスフェラーゼ、dcmメチルトランスフェラーゼ、DNMT1、DNMT2、DNMT3a、DNMT3b、CpGメチラーゼ、M. SssI、M. CviPI、HhaIメチルトランスフェラーゼ、HpaIIメチルトランスフェラーゼ、MspIメチルトランスフェラーゼ、TaqIメチルトランスフェラーゼ、BamHIメチルトランスフェラーゼ、EcoRIメチルトランスフェラーゼ、HaeIIIメチルトランスフェラーゼ、AluIメチルトランスフェラーゼ、及びSssIメチルトランスフェラーゼを含む。
【0021】
特定のDNA配列のメチル化の程度を減少させるために、DNA結合ドメイン及び脱メチル化ドメインの融合体が使用されうる。例示的なDNA脱メチル化ドメインは示されている。例えば、Bhattacharya et al.(1999)Nature(London)397:579‐583; Cervoni et al.(1999)J. Biol. Chem. 274:8363‐8366を参照のこと。
【0022】
問題の配列のメチル化の程度を減少させるための他の例示的な方法は細胞内で(問題の配列に結合する)DNA結合ドメイン及び5‐メチルシトシンDNA‐グリコシラーゼの融合体を発現させることである。上記融合タンパク質は細胞DNA修復酵素によりシトシンで置換されるように、DNA糖リン酸骨格からメチル化シトシン塩基を除去する。
【0023】
問題のDNA配列の脱メチル化は複製中に維持メチラーゼのその配列へのアクセスをブロックし;それにより新規に複製されたヘミメチル化DNAの非メチル化鎖のメチル化を妨げることによってもまた達成されうる。複製のさらなるラウンドは問題の配列でメチル化されていない娘DNA二重鎖をもたらすであろう。上記妨害は問題の配列に結合するように作出された亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの細胞内発現により達成されうる(以下を参照のこと)。
【0024】
メチル化ドメイン又は脱メチル化ドメインの活性はメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質(又は上記融合タンパク質をコードする核酸)を構築することにより特定のC残基に標的化されることができ、ここで上記DNA結合ドメインは選択されたC残基の配列又は選択されたC残基近辺の配列に自然に結合する又は選択されたC残基の配列又は選択されたC残基近辺の配列に結合するように作出されている。上記DNA結合ドメインは天然DNA結合ドメイン又は非天然の作出されたDNA結合ドメインでありうる。
【0025】
この点で、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインは、亜鉛フィンガータンパク質を選択したどんなDNA配列にも結合するように作出することが可能であるので、有用である。亜鉛フィンガー結合ドメインは1以上の亜鉛フィンガー構造を含む。Miller et al.(1985)EMBO J 4:1609‐1614; Rhodes(1993)Scientific American February:56‐65;米国特許第6,453,242号。典型的に、単一の亜鉛フィンガーは約30アミノ酸の長さであり、そして4つの亜鉛配位結合アミノ酸残基を含む。構造研究は、規範的な(C22)亜鉛フィンガーモチーフは(一般的に2の亜鉛配位結合システイン残基を含むベータターン中に保持されている)2つのベータシート及び(一般的に2つの亜鉛配位結合ヒスチジン残基を含む)1つのアルファヘリックスを含むことを示している。
【0026】
亜鉛フィンガーは規範的なC22亜鉛フィンガー(すなわち、亜鉛イオンが2つのシステイン及び2つのヒスチジン残基により配位結合されているもの)及び例えば、C3H亜鉛フィンガー(亜鉛イオンが3つのシステイン残基及び1つのヒスチジン残基により配位結合されているもの)及びC4亜鉛フィンガー(亜鉛イオンが4つのシステイン残基により配位結合されているもの)の如き非規範的亜鉛フィンガーの両方を含む。非規範的亜鉛フィンガーはシステイン又はヒスチジン以外のアミノ酸がこれらの亜鉛配位結合残基の1つと置換されているものもまた含みうる。例えば、WO 02/057293(July 25, 2002)及びUS 2003/0108880(June 12, 2003)を参照のこと。
【0027】
亜鉛フィンガー結合ドメインは選択した配列に結合するように作出されうる。例えば、Beerli et al.(2002)Nature Biotechnol. 20:135‐141; Pabo et al.(2001)Ann. Rev. Biochem. 70:313‐340; Isalan et al.(2001)Nature Biotechnol.19:656‐660; Segal et al.(2001)Curr. Opin. Biotechnol.12:632‐637; Choo et al.(2000)Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411‐416を参照のこと。亜鉛フィンガー結合ドメインは天然亜鉛フィンガータンパク質に比較して、新しい結合特異性を有するように作出される。作出方法は、非限定的に、合理的な設計及びさまざまな型の経験的な選択方法を含む。合理的な設計は例えば、各三重鎖又は四重鎖ヌクレオチド配列が特定の三重鎖又は四重鎖配列と結合する亜鉛フィンガーの1以上のアミノ酸配列と関連している三重鎖(又は四重鎖)ヌクレオチド配列及び個々の亜鉛フィンガーアミノ酸配列を含むデータベースを用いることを含む。例えば、米国特許第6,140,081号;第6,453,242号;第6,534,261号;第6,610,512号;第6,746,838号;第6,866,997号;第7,067,617号;米国特許出願公開公報第2002/0165356号;第2004/0197892号;第2007/0154989号;第2007/0213269号;及び国際特許出願公開公報WO 98/53059及びWO 2003/016496を参照のこと。
【0028】
ファージディスプレイ、インターラクショントラップ、ハイブリッド選択及びツーハイブリッドシステムを含む例示的な選択方法は米国特許第5,789,538号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,140,466号;第6,200,759号;第6,242,568号;第6,410,248号;第6,733,970号;第6,790,941号;第7,029,847号及び第7,297,491号;並びに米国特許出願公開公報第2007/0009948号及び第2007/0009962号;WO 98/37186;WO 01/60970及びGB2,338,237中に開示されている。
【0029】
亜鉛フィンガー結合ドメインについての結合特異性を高めることは例えば、米国特許第6,794,136号(Sept. 21, 2004)中に示されている。フィンガー内リンカー配列についての亜鉛フィンガー作出の追加の局面は米国特許第6,479,626号及び米国特許出願公開公報第2003/0119023号中に開示されている。Moore et al.(2001a)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1432‐1436; Moore et al.(2001b)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:1437‐1441及びWO 01/53480もまた参照のこと。
【0030】
「DNAメチル化の標的化改変の方法」と題されたこの節中に引用されている全ての引用文献は例示的なメチル化ドメイン及び脱メチル化ドメイン(野生型及び変異体)、亜鉛フィンガーDNA結合ドメインの設計、選択及び作出のための本分野で認識されている方法、及びメチル化ドメイン及び/又は亜鉛フィンガーDNA結合ドメインを含む融合タンパク質の構築を開示する目的のためにそれらを全体として本明細書中に援用する。
【実施例】
【0031】
実施例1:骨髄接着間質細胞(MASCs)の調製
ヒトドナーから得られた骨髄吸引物を50ml管中に12.5ml等分に分け、そして12.5mlの生育培地(ペニシリン/ストレプトマイシン及び2mM L‐グルタミンで補充したαMEM中の10%FBS)を各管に添加した。上記管の内容物を反転により混合し、そして上記管を200×gで8分間遠心分離した。上部の透明な相を捨て、下部相の体積を新しい生育培地で25mlに合わせ、そして上記管を再び混合し、そして遠心分離した。上部層を再び除去した。各管中の下部相の体積を25mlに再び合わせ、そして全ての管の内容物を1つの250ml管中に集めた。Trypan Blue除外及び有核細胞カウントの決定による細胞濃度の決定後、細胞を1フラスコ当たり100×106総有核細胞の密度で1フラスコ当たり40mlの生育培地中のT225フラスコ中にまいた。上記フラスコをCO2インキュベーター内で37℃で3日間インキュベートし、その間MASCsは上記フラスコに接着した。
【0032】
3日後、接着していない細胞を上記フラスコを揺り動かし、そして上記培養培地を引くことにより除去した。各フラスコをペニシリン/ストレプトマイシンで補充した40mlのαMEMで3回洗浄し;その後40mlの事前に温めた(37℃)生育培地を各フラスコに添加し、そして上記細胞をCO2インキュベーター内で37℃で培養した。この間、上記培地を3〜4日毎に40mlの新しい生育培地で置き換え、そして細胞をコロニーの生育及び細胞密度についてモニターした。
【0033】
上記培養物が25〜30%コンフルエンスを達成したとき(通常1コロニー当たり10,000〜20,000細胞及び10〜14日以内)、MASCs(M0代)をさらなる継代のために回収した。MASCsを一度に10までのT‐225フラスコから回収した。培地を上記フラスコから除去し、そして上記接着細胞を20mlのDPBS w/o Ca/Mg(DPBS −/−,HyClone)で2回すすいだ。10mlの0.25%Trypsin/EDTA(Invitrogen, Carlsbad, CA)を各フラスコに添加し、そしてフラスコを室温で約5分間インキュベートした。細胞がはずれ、そして上記コロニーが分散して単一の細胞になったとき、上記トリプシンを10mlの生育培地の添加及び穏やかな混合により不活性化した。上記細胞懸濁物を上記フラスコから引き、そして250ml管中に集めた。上記管を200×gで8分間の遠心分離にかけた。上記上清を慎重に除去し、そして湿った細胞ペレットを約1×106細胞/mlの見積もり細胞濃度になるように生育培地中に再懸濁した。生存細胞カウントを決定し、そして細胞を生育培地中に1フラスコ当たり2×106細胞の濃度でT225フラスコ中にまいた(M1代)。細胞を2〜3日毎に培地を交換しながら、3〜5日間又は85〜90%コンフルエントまで生育させた。85〜90%コンフルエンスで、M1代細胞をトリプシン処理により回収し、そして上記に示されているように1つのT225フラスコ当たり2×106細胞で再びまき、M2代培養物を作出した。M2培養物に、必要な場合、3日毎に新しい培地を与えた。M2代培養物が85〜90%コンフルエンスに達したとき(通常3〜5日以内)、それらをNRCsを作出するためのトランスフェクションのために回収し(以下の実施例2)又はさらなる使用のために凍結した。
実施例2:神経再生細胞(NRCs)の調製
NRCs又はSB623細胞としても知られる、神経再生細胞を以下のように、M2代培養物から回収したMASCsから調製した。
A.トランスフェクション混合物の調製
神経再生細胞をNotch細胞内ドメインをコードするプラスミドでのM2代MASCsのトランスフェクションにより作出した。上記プラスミド(pN2)は、細胞内ドメインをコードする、ヒトNotch‐1タンパク質のアミノ酸1703‐2504をコードする配列をマルチクローニング部位に導入した、pCI‐ネオ骨格(Promega, Madison, WI)を含んだ。MASCsの各フラスコについて、40μgのプラスミド及び0.2mlのFugene6(商標)溶液を含む5mlのトランスフェクション混合物を使用した。上記トランスフェクション混合物を作出するために、(トランスフェクトされるべき細胞のフラスコの数に因り)適切な量のFugene(商標)溶液をガラスピペットを用いて滅菌250ml管中のαMEMに添加した。上記溶液を穏やかに混合し、そして室温で5分間インキュベートした。適切な量のプラスミドDNAをその後Fugene(商標)/αMEM混合物に一滴ずつ添加し、穏やかに混合し、そして室温で30分間インキュベートした。
【0034】
pN2 DNAのFugene(商標)/MEM混合物への添加前に、5mlを除去し、そして15ml管に入れ、その管に40μgのpEGFPプラスミドを添加した。この溶液をトランスフェクション効率についてのコントロールとして、1フラスコの細胞をトランスフェクトするために使用した。
B.トランスフェクション
トランスフェクションのために、M2代MASCsを(実施例1中に示されているような)トリプシン処理により回収し、そして1のT225フラスコ当たり40mlの生育培地中に2.5×106細胞の密度でまいた。上記細胞が50〜70%コンフルエンスに達したとき(通常18〜24時間以内)、それらを、それらの生育培地を1フラスコ当たり35mlのトランスフェクション培地(ペニシリン/ストレプトマイシンを含まないαMEM+10%FBS)で置き換えることにより、トランスフェクションのために準備した。
【0035】
トランスフェクション培地の導入3時間後、5mlの上記トランスフェクション混合物(上記節A)を、上記生育表面に接触しないで上記培地に直接的にピペッティングすることにより各T‐225フラスコに添加し、続いて穏やかに混合した。コントロールT‐225フラスコをトランスフェクション効率の決定のために、40μgのpEGFPプラスミドでトランスフェクトした。
【0036】
培養物をトランスフェクション培地中で37℃で24時間インキュベートした後、上記トランスフェクション培地をαMEM+10%FBS+ペニシリン/ストレプトマイシンで置き換えた。
C.トランスフェクトされた細胞の選択
プラスミドDNAを組み込んだ細胞を、上記培地を1フラスコ当たり40mlの選択培地(100μg/ml G‐418を含む生育培地)で置き換えることによりトランスフェクション48時間後に選択した。新しい選択培地を、選択を開始した3日後、及び再び5日後に提供した。7日後、選択培地を除去し、そして上記細胞に40mlの生育培地を与えた。上記培養物をその後新しい生育培地を2〜3日毎に再び与えながら、約3週間(18〜21日間の範囲)生育させた。
【0037】
選択を開始した約3週間後、生存細胞がコロニーを形成しはじめたとき、細胞を回収した。培地を吸引ピペットを用いて上記フラスコから除去し、そして室温のCa2+/Mg2+を含まない20mlのDPBSを各フラスコに添加した。上記培養物表面を穏やかにすすぎ、上記洗浄溶液を吸引により除去し、そして上記すすぎ段階を繰り返した。その後10mlの事前に温めた(37℃)0.25% Trypsin/EDTAを各フラスコに添加し、生育表面にわたりすすぎ、そして上記フラスコを室温で5〜10分間インキュベートした。培養物を細胞の完全な分離を確実にするために顕微鏡でモニターした。分離が完了したとき、トリプシンを1フラスコ当たり10mlの生育培地の添加により不活性化した。上記混合物を上記培養物表面にわたりすすぎ、10mlピペットで4〜5回ピペッティングすることにより混合し、そして上記懸濁物を滅菌50ml円錐形遠心分離管に移した。いくつかのフラスコから回収した細胞は単一の管に集められうる。凝集塊が存在した場合、それらを沈殿させ、そして上記懸濁物を新しい管に除去した。
【0038】
上記細胞懸濁物を室温で800rpm(200×g)で8分間遠心分離した。上清を吸引により除去した。細胞ペレットを上記管を軽くたたくことによりゆるめ、Ca2+/Mg2+を含まない約10mlのDPBSを各管に添加し、そして細胞を10mlピペットで4〜5回穏やかにピペッティングすることにより再懸濁し、均一な懸濁物を得た。
D.トランスフェクトされた細胞の拡充
細胞数を形質転換され選択された細胞の懸濁物について決定し、そして上記細胞を1フラスコ当たり2×106細胞(生存細胞の約30%シーディングを提供する)でT‐225フラスコ中にまいた。この培養物をM2P1(#1代)と呼ぶ。M2P1培養物に2〜3日毎に新しい培地を与え、そして細胞が90〜95%コンフルエンスに達したとき(通常継代後4〜7日)、それらを回収し、そして1フラスコ当たり2×106細胞で再びまき、M2P2代を作出した。M2P2培養物が90〜95%コンフルエンスに達したとき、それらをさらなる分析のために回収した。
実施例3:MASCs及びNRCsのメチル化パターンの比較
MASCsを上記実施例1中に示されているように、3つの独立したヒトドナー(D33、D39及びD41と呼ばれる)各々から調製した。各MASCs調製物の一部を上記実施例2中に示されているように、神経再生細胞を調製するために使用した。ゲノムDNAをこれらの6つの細胞調製物の各々から単離し、そして上記3つのドナーの各々について、神経再生細胞からのDNAのメチル化状態をそれらのMASC前駆細胞からのDNAのそれと比較した。
【0039】
そのメチル化状態が分析された遺伝子を3つの基準:
1.MASCs及び間葉細胞系についての既知のDNAメチル化マーカー
2.ディファレンシャルメチル化ハイブリダイゼーションを用いたゲノムワイドなスクリーニングにおいてMASCsについてのメチル化マーカーとして同定された遺伝子;及び
3.胚幹細胞分化に対して影響を有することが文献中で報告されている遺伝子
にしたがって選択した。
【0040】
メチル化状態の分析のために、重亜硫酸塩シークエンシングを上記に列挙される基準にしたがって選択された遺伝子の選択部分(アンプリコン)について行った。ある遺伝子はMASCs及びNRCsの間でメチル化状態における顕著な差異を示さなかった。これらの遺伝子は表1中に列挙されている。いくつかの遺伝子はMASCs及びNRCsの間でメチル化状態における差異を示したアンプリコンを含んだ。これらは表2中に列挙されている。これらのうち、そのメチル化の差異がMASCsからNRCsを区別することにおいて有用であるのに十分顕著であるのは5つの遺伝子であった。これらはPITX2(下垂体ホメオボックス2;RIEGビコイド関連ホメオボックス転写因子としてもまた知られる)、ROPN1L(Ropporin1様タンパク質;AKAP関連精子タンパク質)、DNMT3b(DNA C5‐N‐メチルトランスフェラーゼ3b)、IGF2R(インスリン様成長因子2受容体)及びSDF4(間質細胞由来因子4)であった。これらの5つの遺伝子中の選択されたアンプリコンについてのメチル化の差の詳細は表3〜7中に提供されている。
【0041】
表3〜7は各アンプリコン中のいくつかのCpG配列でのメチル化状態を示す。「コントロール細胞」はMASCsをいい、そして「標的細胞」はNRCsをいう。細胞を3つの異なるドナーから得、そしてMASCs及びNRCsの両方を各ドナーから調製した。SB101 MASCs及びSB102 NRCsを同じドナーから;SB103 MASCs及びSB104 NRCsを第二のドナーから得、そしてSB105 MASCs及びSB106 NRCsを第三のドナーから得た。各表は異なるアンプリコンについて得られた結果を示す。各表中のカラム2〜7はMASCs(カラム2〜4)及びNRCs(カラム5〜7)中の(カラム1中のコロンにしたがう数により同定される)上記アンプリコン中の特定のCpG部位についてのメチル化値を示す。分析された各CpGについての平均メチル化値はMASCsについてカラム8中に及びNRCsについてカラム9中に提供されており、そしてMASCs及びNRCsの間の平均メチル化値における差はカラム10中に示されている。
【0042】
カラム11は分析された各CpG配列についての「Fisherスコア」を示す。上記Fisherスコアを以下のように計算した:
[平均メチル化値(MASCs)−平均メチル化値(NRCs)]2/[[標準偏差(MASCs)]2+[標準偏差(NRCs)]2
上記Fisher基準は特定のCpG部位でのメチル化値における変動性を示す。1超のFisherスコアは有意であると考えられる。
【0043】
これらのデータはPITX2、DNMT3b、IGF2R及びSDF4遺伝子におけるCpG配列のメチル化はMASCsに比較してNRCsにおいて増加されていることを示す。対照的に、RPON1L遺伝子におけるCpG配列のメチル化はMASCsに比較してNRCsにおいて減少されている。同様に、TMEM179のメチル化は減少されている。特に、アンプリコン549中の位置292でのメチル化C残基の脱メチル化はそれらのMASCs前駆細胞に比較してNRCsにおいて顕著な差を示す。
【0044】
したがって、これらのメチル化変化はNRCsについての診断である;さらに、他の手段により同じメチル化変化を達成することはNRCsを調製するために有用でもある。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
実施例4:ROPN1L遺伝子のメチル化状態における変化
MASCsに比較して、NRCsにおいてROPN1L遺伝子中にメチル化状態の変化を含むアンプリコンのヌクレオチド配列をそのメチル化状態が改変されているヌクレオチドを正確に同定するために分析した。この分析の結果は表8中に示されている。
【0052】
【表7】

【0053】
実施例5:改変されたDNAメチル化を有するNRCsの神経再生特性
実施例3及び4中に示されているメチル化変化を有する、実施例2中に示されているように調製された神経再生細胞は中枢及び末梢神経系のさまざまな障害の治療において有用である。例えば、その開示を全ての目的のためにそれらを全体として本明細書中に援用する、共同所有のWO 2009/023251(Feb. 19, 2009)を参照のこと。
【0054】
本開示中に示されており、そして特徴づけられている細胞は、さらなる処理後に、神経細胞及び神経前駆細胞の特性を有する細胞にもまた変換されうる。例えば、上記例示的な処理、及びそのように処理された細胞の特性を開示する、その開示を本明細書中に援用する、米国特許出願公開公報第2006/0166362号(July 27, 2006)を参照のこと。そのように処理された細胞の追加の特性を開示する、その開示を本明細書中に援用する、米国特許出願公開公報第2006/0216276号(Sept. 28,2006)もまた参照のこと。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞における遺伝子のメチル化状態の改変方法であって:
(a)上記細胞をNotch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトすること;及び
(b)上記細胞における又は上記細胞の1又は複数の子孫における遺伝子のメチル化状態がトランスフェクトされていない細胞における上記遺伝子と比較して改変されており、それにより上記遺伝子のメチル化状態が改変されているような、上記トランスフェクトされた細胞を培養すること
を含む方法。
【請求項2】
遺伝子のメチル化状態が改変されている子孫細胞の作出方法であって:
(a)前駆細胞をNotch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトすること;
(b)上記トランスフェクトされた細胞を培養すること;及び
(c)上記トランスフェクトされた細胞の子孫のうち、上記遺伝子のメチル化状態が改変されている1又は複数の子孫細胞を得ること
を含む方法。
【請求項3】
前駆細胞を神経再生細胞に変換する方法であって、上記前駆細胞における1又は複数の遺伝子のメチル化状態の改変を含む方法。
【請求項4】
in vitroでの培養をとおして前駆細胞に由来する細胞であって、ここで:
(a)上記細胞は神経組織の成長及び/又は再生を援助する;
(b)上記細胞における1又は複数の遺伝子のメチル化状態は上記前駆細胞と比較して改変されている;及び
(c)in vitroでの培養中、上記前駆細胞もその子孫のいずれもNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトされていない、
細胞。
【請求項5】
上記遺伝子がPITX2、DNMT3b、IGF2R及びSDF4から成る群より選択される、請求項1、2又は3に記載の方法又は請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
上記遺伝子がROPN1L及びTMEM179から成る群より選択される、請求項1、2又は3に記載の方法又は請求項4に記載の細胞。
【請求項7】
上記遺伝子のメチル化が上記子孫細胞において増加している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法又は細胞。
【請求項8】
上記遺伝子のメチル化が上記子孫細胞において減少している、請求項1〜4又は請求項6のいずれかに記載の方法又は細胞。
【請求項9】
上記配列C‐A‐T‐Cme‐G‐C‐C‐CがC‐A‐T‐C‐G‐C‐C‐Cに変換される、請求項8に記載の方法又は細胞。
【請求項10】
上記細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、請求項1又は5〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
上記前駆細胞が骨髄接着間質細胞(MASC)である、請求項2〜9のいずれかに記載の方法又は細胞。
【請求項12】
上記遺伝子のメチル化状態が:
(a)上記前駆細胞をNotch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドでトランスフェクトすること;
(b)上記トランスフェクトされた細胞を培養すること;及び
(c)上記トランスフェクトされた細胞の子孫のうち、上記遺伝子のメチル化状態が改変されている1又は複数の子孫細胞を得ること
により改変されており、ここで上記遺伝子のメチル化状態が改変されている前記子孫細胞は神経再生細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞をメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又はメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子中の1又は複数の配列に結合するように作出されている、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞を脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又は脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子中の1又は複数の配列に結合するように作出されている、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞をメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又はメチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子中の1又は複数の配列に結合するように作出されている、請求項4に記載の細胞。
【請求項16】
上記遺伝子のメチル化状態が上記前駆細胞を脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質と又は脱メチル化ドメイン及びDNA結合ドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸と接触させることにより改変されており、ここで上記DNA結合ドメインは上記遺伝子中の1又は複数の配列に結合するように作出されている、請求項4に記載の細胞。
【請求項17】
神経再生細胞の同定方法であって、上記細胞における1又は複数の遺伝子のメチル化状態を分析することを含む方法であって、ここで上記分析された遺伝子のメチル化状態における変化は神経再生細胞を表す、方法。
【請求項18】
上記分析が上記1又は複数の遺伝子の増加されたメチル化についてである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記分析が上記1又は複数の遺伝子の減少されたメチル化についてである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
上記分析が1又は複数の第一の遺伝子の増加されたメチル化について及び1又は複数の第二の遺伝子の減少されたメチル化についてである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
上記1以上の遺伝子(単数又は複数)がPITX2、ROPN1L、DNMT3b、IGF2R、TMEM179及びSDF4から成る群から選択される、請求項17〜20のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2011−519280(P2011−519280A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507457(P2011−507457)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/002664
【国際公開番号】WO2009/134409
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(510288714)サンバイオ,インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】