説明

DNAメチル化部位の局在検出方法

【課題】組織及び細胞の固定試料において、特定の配列を持つDNAのメチル化部位を検出するように設計された、DNAのメチル化部位の新規検出方法の提供。
【解決手段】(i)組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、(ii)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、(iii)工程(ii)の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、(iv)工程(iii)の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに(v)標識部位を検出する工程を含む、in situでのDNAのメチル化部位の検出方法など。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細胞分化のエピジェネティック制御をより良く理解するためには、特定の部位におけるDNAのメチル化を解析することが重要である。DNAのメチル化は、哺乳動物において、正常な精子形成の維持に関与する。メチル化のマークは、始原生殖細胞では消失し、性決定後、性特異的な様式で生殖DNAは再メチル化される(非特許文献1〜3)。DNAのメチル化は、哺乳動物において、CpG配列のシトシン残基で起こる。しかしながら、CpGアイランドは、一般的に、メチル化されていない。残りのゲノムは、高度にメチル化されており、非−CpG−アイランドDNAのメチル化状態は、体細胞組織におけるGC含量の局在レベルと負に相関する。その一方で、精巣では、低GC含量領域は、特異的に低メチル化されている(非特許文献4)。
【0002】
哺乳動物の精子形成は、精祖細胞の増殖、精母細胞の減数分裂、及び精子完成からなる、秩序立った工程である(非特許文献5)。他方で、精子形成はまた、生殖細胞の段階的な分化において、ユークロマチンを、完全に凝縮されたヘテロクロマチンへと凝縮する役割を果たす工程であるとも考えられる(非特許文献6)。精子形成の間、生殖細胞の死滅は非常に一般的であり、実際に、予測される精子収量の25〜75%が失われていると考えられている(非特許文献7〜9)。ラット及びマウスでは、生殖細胞の死滅の態様は、ほとんどアポトーシス性の性質を有し(非特許文献10、11)、ミトコンドリアの死のシグナルが、正常な精子形成における自発的細胞死の誘導に関与する(非特許文献6)。
【0003】
いくつかの証拠によって、DNAのメチル化の状態が、精子形成において重要な役割を果たすことが示唆されている。非特許文献12は、DNAのメチル化レベルを減少させることが知られているシチジンアナログの5−アザ−2’−デオキシシチジンの使用が、精巣において組織学的異常をもたらすことを報告した。さらに、精巣においてDNAの低メチル化を示す、DNAメチルトランスフェラーゼ様タンパク質(Dnmt3L)ホモ接合性の変異体マウスは、不妊であり(非特許文献13、14)、減数分裂異常となってアポトーシス様生殖細胞が出現する(非特許文献15、16)。
DNAのメチル化が、クロマチン凝縮と密接に関連していることを考慮し、本発明者らは、DNAのメチル化のどのような異常でも、おそらく不十分なヘテロクロマチン化に起因するアポトーシスの誘導をもたらすであろうと仮定した。DNAのメチル化の状態を、アポトーシス生殖細胞と関連付けるためには、組織化学的なアプローチが適当である。実際、5−メチルシトシンに対する抗体が入手可能であり、個々の細胞におけるDNAのメチル化状態を免疫組織化学的に解析可能である。しかしながら、解析可能なメチル化部位(CpG)の数が多過ぎて、免疫組織化学染色のデータをDNAの特定の配列と関連付けることができない。また、これまでの研究によって、適切な制限エンドヌクレアーゼの組合せを用いた、細胞及び組織から抽出された単離DNAのメチル化が記述されているが、組織細胞レベルに対する適用は報告されていない。
【非特許文献1】Reik W. et al., Science 293: 1089-1093 (2001)
【非特許文献2】Yamazaki Y. et al., Proc Natl Acad Sci USA 100: 12207-12212 (2003)
【非特許文献3】Li J. Y. et al., Genomics 84: 952-960 (2004)
【非特許文献4】Oakes C. C. et al., Proc Natl Acad Sci USA 104: 228-233 (2007)
【非特許文献5】Bellve A. R. et al., Histochem Cytochem 25: 480-494(1977)
【非特許文献6】Koji T., Hishikawa Y., Arch Histol Cytol 66: 1-16(2003)
【非特許文献7】Oakberg E. F., Am J Anat 99: 391-413 (1956)
【非特許文献8】Huckins C., Anat Rec 190: 905-926 (1978)
【非特許文献9】Johnson L. et al., Biol Reprod 29: 207-215 (1983)
【非特許文献10】Allan D. J. et al., Cell Prolif 25: 241-250 (1992)
【非特許文献11】Wang R. A. et al., Biol Reprod 58: 1250-1256 (1998)
【非特許文献12】Kelly T. L. et al., J Androl 24: 822-830 (2003)
【非特許文献13】Bourc’his D. et al., Science 294:2536-2539 (2001)
【非特許文献14】Hata K. et al., Development 129: 1983-1993(2002)
【非特許文献15】Bourc’his D., Bestor T. H., Nature 431: 96-99 (2004)
【非特許文献16】Hata K. et al., Mol Reprod Dev 73: 116-122(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、組織及び細胞の固定試料において、特定の配列を持つDNAのメチル化部位を検出するように設計された、DNAのメチル化部位の新規検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、マウス精巣の組織学的切片を、メチル化感受性(HpaII)及びメチル化非感受性(MspI)のイソ制限酵素のセットを用いて処理し、次いで切断部位を標識し、標識部位を検出することによって、CCGG配列のような特定部位でのDNAのメチル化レベルを評価できることを見出した。発明者らは、組織切片における特定の配列を持つDNAのメチル化部位を検出するように設計されたこの新たな方法を、DNAのメチル化部位の組織エンドヌクレアーゼ連関検出法(histo endonuclease-linked detection of methylation sites of DNA:HELMET)と命名した。
本発明者らは、HELMETを用いたところ、ほとんどの生殖細胞において、CCGG部位の高度メチル化が見られたものの、非メチル化CCGGは、伸長精細胞中に共局在化していることを発見し、HELMETによって個々の細胞レベルにおける、DNAのメチル化を解析できることを見出した。さらに、HELMETとアポトーシス細胞を検出するための方法として知られているTUNEL法を組み合わせることによって、いくつかのTUNEL陽性の生殖細胞(哺乳動物の精子形成において、頻出する)は、顕著にHpaII反応性となり、CCGG部位がアポトーシスの間に脱メチル化され、かつCCGG部位のメチル化レベルが、精原細胞の分化段階によって変動することを明らかにした。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである:
〔1〕 (i)組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)工程(ii)の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)工程(iii)の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(v)標識部位を検出する工程;
を含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出方法。
〔2〕 (i)’組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)’前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)’工程(ii)’の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)’工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(v)’工程(iv)’の固定試料上で、第二の制限酵素を作用させる工程、
(vi)’工程(v)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第二の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(vii)’標識部位を検出する工程;
を含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出方法。
〔3〕 工程(iii)’と工程(iv)’との間に、
(iii)’’工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程;
をさらに含み、工程(iv)’が工程(iii)’’の固定試料に対して行われる、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕 第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素又はメチル化非感受性制限酵素である、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕 メチル化感受性制限酵素がHpaIIである、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕 第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素であり、第二の制限酵素がメチル化非感受性制限酵素であるイソ制限酵素の組合せである、前記〔2〕又は〔3〕に記載の方法。
〔7〕 メチル化感受性制限酵素とメチル化非感受性制限酵素との組合せが、それぞれHpaIIとMspI、AvaIIとSinI、又はSau3AIとMboI若しくはNdeIIのいずれかである、前記〔6〕に記載の方法。
〔8〕 標識が、酵素、ハプテン、フルオロフォア及び放射性物質からなる群より選択される、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 DNAの3’末端に塩基を付加する酵素が、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ又はDNAポリメラーゼIである、前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 工程(i)と(ii)との間又は工程(i)’と(ii)’との間に、
(a)前処理した固定試料と、標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程;
をさらに含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕 工程(a)が、前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程である、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕 DNAの3’末端に塩基を付加する酵素がターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼである、前記〔11〕に記載の方法。
〔13〕 工程(a)において、標識された核酸分子が標識された核酸プローブであり、固定試料中のDNAと該核酸プローブとの二本鎖を形成させる条件下で接触が行われる、前記〔10〕に記載の方法。
〔14〕 2個以上の隣接組織固定試料をそれぞれ工程(i)〜工程(v)に供し、工程(v)で検出された2個以上の隣接組織固定試料間の標識部位像を重ね合わせる工程をさらに含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔15〕 2個の隣接組織固定試料の一方を前記〔1〕に記載の方法に供して検出された標識部位像と、他方の隣接組織固定試料におけるTUNEL染色像とを重ね合わせて視覚化する工程を含む、in situでのアポトーシスとDNAメチル化との関連性の検出方法。
〔16〕 DNAの3’末端に塩基を付加する酵素、ジデオキシヌクレオチド、第一の制限酵素、第一の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子、第二の制限酵素、第二の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子を別々の容器に含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出キット。
〔17〕 第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素であり、第二の制限酵素がメチル化非感受性制限酵素であるイソ制限酵素の組合せである、前記〔16〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、組織及び細胞試料の個々の細胞において、DNAのメチル化部位の局在を検出することが可能となる。また、本発明により、細胞の分化や増殖などの個々の細胞の状態と、DNAのメチル化又は非メチル化との関連付けが可能となる。これにより、癌の発症、治療、予後の病理のエピジェネティックな診断も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、以下の工程を含む、in situでのDNAメチル化部位又は非メチル化部位の検出方法(I)を提供する:
(i)組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)工程(ii)の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)工程(iii)の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(v)標識部位を検出する工程。
【0009】
本発明において「組織又は細胞の固定試料」とは、組織又は細胞集団を形成する個々の細胞の形態や構造内容物を観察可能に固体支持体上に固定した試料をいう。対象となる試料の由来は特に制限されず、いかなる生物由来のものであってもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター等)であり、より好ましくはヒト、マウス、ラット、サル、イヌ等、特に好ましくはヒトである。組織試料の場合、試料はミクロトーム等で薄く切片化された組織切片を用いても、ホールマウントされた組織又は個体を用いても良いが、好ましくは、組織切片が用いられる。組織切片は、凍結組織を切片化し、パラフィンまたは樹脂で包埋された切片であってもよい。組織としては、例えば、脳、脊髄、眼球、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、精巣、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋などが挙げられる。細胞としては、前記組織から単離された細胞、及びそれら細胞から樹立した細胞株などが挙げられる。固体支持体上で培養した細胞又はサイトスピン等で固体支持体上に集めた細胞を乾燥させ、固定した後に細胞試料として用いられ得る。試料の固定には自体公知の方法を用いればよく、例えば、パラホルムアルデヒド液、グルタルアルデヒド液、四酸化オスミウム液、酢酸アルコール、メタノール、エタノールなどを用いる方法、凍結法、マイクロウェーブ乾燥法などが挙げられる。前記試料を固定する固体支持体は、固定操作及び以下に説明する前処理操作に耐えられるものであり、好ましくは顕微鏡観察に適するものであればよい。例えば、スライドガラスが挙げられる。
【0010】
(i)組織又は細胞の固定試料を前処理する工程
本発明において「固定試料を前処理する」とは、固定試料をタンパク質分解酵素処理することをいい、当該除タンパク質処理によって、その後に固定試料に作用させる酵素、ジデオキシヌクレオチド、及び核酸分子等の、固定試料内部への浸透性が高められる。また、当該処理によって、内因性ヌクレアーゼが不活性化されるため、本発明の標的物質であるDNAの保存にも効果的である。前処理に用いられるタンパク質分解酵素は特に制限されないが、例えば、トリプシン、プロナーゼ、及びプロテイナーゼKが挙げられ、特にプロテイナーゼKが好ましい。
【0011】
前処理の条件は、用いるタンパク質分解酵素に応じて適宜設定することができるが、例えばプロテイナーゼKを用いた場合、当該酵素の濃度が1〜100μg/mlのリン酸緩衝液中、20〜40℃で1〜60分が例示される。
【0012】
固定試料がパラフィン包埋切片または樹脂包埋切片の場合、常法により脱パラフィンまたは脱樹脂を行った後に上記タンパク質分解酵素処理に供することができる。
【0013】
(ii)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程
本発明の種々の検出方法に共通して用いられる、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素は、例えばターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)、DNAポリメラーゼI、及びDNAリガーゼのいずれかを用いても良く、より好ましくはTdT又はDNAポリメラーゼIであり、最も好ましくはTdTである。
【0014】
本発明の種々の検出方法に共通して用いられるジデオキシヌクレオチドは、DNAの3’末端に付加され、当該DNAの伸長反応を停止させるものであれば特に制限されないが、例えばddCTP、ddGTP、ddUTP、ddTTPもしくはddATPが単独で又は組み合わせて用いられ、好ましくはddUTP、ddTTPもしくはddATPが単独で又は組み合わせて用いられる。
【0015】
DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液の組成は、用いる酵素に応じて適宜設定することができるが、例えばTdTを用いた場合、0.1〜0.5M カコジル酸塩、0.1〜1.0mM CoCl及び0.1〜0.5mg/ml BSAを含有するTris/HCl緩衝液(pH6.5〜7.5)の緩衝液中、100〜1000ユニット/ml TdT及び0.1〜1.0μM ジデオキシヌクレオチドが例示される。
接触時間は、20〜40℃で10〜120分が例示されるが、これに限定されるものではない。また、接触の前に、酵素及びヌクレオチドを添加しない上記緩衝液のみで1〜数十分間プレインキュベーションしてもよい。
当該接触工程により、細胞内のDNAの3’の遊離OH基がブロックされる。
【0016】
(iii)工程(ii)の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程
本発明における第一の制限酵素は、特に制限されないが、好ましくは、DNAの認識配列中の塩基がメチル化されている場合に、メチル化された塩基の種類や位置においてDNAを切断できなくなるメチル化感受性制限酵素であり、例としてHpaII、AvaII、Sau3AI、ApaI、CspI、EcoRI、HhaI、NluI、NarI、NheI、NotI、PvuI、SacII、SalI、XhoI等が挙げられる。より好ましくは、本発明のメチル化感受性制限酵素はメチル化シトシンの影響を受けるHpaII、AvaII、又はSau3AIであり、最も好ましくはHpaIIである。
また、本発明における第一の制限酵素は、DNAの認識配列中の塩基がメチル化されているかメチル化されていないかに関わらずDNAを切断する、非メチル化感受性制限酵素であってもよく、例として、MspI、SinI、MboI、NdeII、XmaI、PacI、SmaI、Sse83871が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
第一の制限酵素の作用条件は、用いる制限酵素に応じて、溶液中での制限酵素によるDNAの切断条件に準じて適宜設定することができる。例えばHpaIIを用いた場合、当該酵素を1〜100ユニット/ml含み、1〜20mM MgCl及び0.5〜5.0mM DTTを含有するTris/HCl緩衝液(pH7.0〜8.0)を工程(ii)の固定試料上に滴下し、20〜40℃で1〜60分インキュベートする条件が例示される。
【0018】
(iv)工程(iii)の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程
本発明における標識された核酸分子とは、放射性又は非放射性物質で標識された核酸分子をいう。標識は特に限定されないが、例えば、放射性物質としては、32P、33P、35S、H、14C等の放射性同位体(RI)が挙げられる。非放射性物質としては、酵素、ハプテン及びフルオロフォア等が挙げられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼ等が挙げられる。ハプテンとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、DNP及びチミン二量体等が挙げられる。また、フルオロフォアとしては、Acridine、AMCATM、BODIPYTM、Cascade BlueTM、Cy2TM、Cy3TM、Cy5TM、Cy7TM、Dabcyl、Edans、Eosin、Erythrosin、Fluorescein、6−FAMTM、TETTM、JOE、HEXTM、LightCyclerTM、NBDTM、Oregon GreenTM、Rhodamine 6GTM、Rhodamine GreenTM、Rhodamine RedTM、Rhodol GreenTM、TAMRATM、ROXTM、Texas RedTM、NEDTM、VICTM等が挙げられる。特に非放射性物質は汚染や被爆の危険性がないため取り扱いが容易であり、後述する二重染色やマージ像を得る目的のためには好ましく用いられる。
【0019】
標識された核酸分子の塩基長は、特に制限されず、例えば1〜50塩基のポリヌクレオチド、好ましくは1〜20塩基のポリヌクレオチド、より好ましくは1〜5塩基のオリゴヌクレオチド、さらに好ましくは、4塩基、3塩基、2塩基のオリゴヌクレオチド、最も好ましくは1塩基のヌクレオチドである。
【0020】
標識された核酸分子は、酵素を用いた内部標識法によってPCR又は自動合成の際に標識化合物を核酸分子に取り込ませて作製してもよいし、酵素を用いた末端標識法によって、標識ヌクレオチドを核酸分子に付加して作製してもよい。あるいは、市販のRI標識(オリゴ)ヌクレオチド、酵素標識ヌクレオチド、ハプテン標識ヌクレオチド、又は蛍光標識ヌクレオチド等を用いても良い。さらに、核酸分子と標識との結合にビオチン−(ストレプト)アビジンを用いることによって、酵素が間接的に結合して標識された核酸分子を作製することもできる。
【0021】
標識された核酸分子による第一の制限酵素切断部位の標識は、前記工程(ii)において、ジデオキシヌクレオチドの代わりに標識された核酸分子を用いること以外は、工程(ii)と同様に行うことができる。
【0022】
(v)標識部位を検出する工程
標識部位の検出とは、標識の特性又は活性を利用して、その存在箇所を視覚化することを意味し、用いた標識に応じて、自体公知の方法によって行われる。例えば、放射性物質の場合はオートラジオグラフィーにより、酵素の場合は酵素−基質反応による発色の検出により、ハプテンの場合はハプテンに結合する物質(抗体等)とかかる結合物質を認識する蛍光標識抗体とを用いた免疫反応の蛍光検出により、フルオロフォアの場合は特定の波長で励起させて特定の波長の蛍光を検出することにより行うことができる。なお、ハプテンを認識するための蛍光標識抗体に使用する蛍光物質は、前記フルオロフォアで例示したものを用いることができる。
【0023】
検出手段としては、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡、などが挙げられる。検出したシグナルをデジタル画像処理して三次元的に検出することも可能である。
【0024】
検出方法(I)により、in situでのDNAメチル化部位又は非メチル化部位が容易に可視化され、検出することができる。メチル化感受性制限酵素を用いることにより非メチル化部位が検出され、メチル化非感受性制限酵素を用いることにより非メチル化部位とメチル化部位とが同時に検出される。メチル化部位を特異的に検出するためには、後述する同時検出方法または検出された像を重ね合わせる方法を用いる。
【0025】
本発明はまた、以下の工程を含む、in situでのDNAメチル化部位又は非メチル化部位の検出方法(II)を提供する:
(i)’組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)’前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)’工程(ii)’の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)’工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(v)’工程(iv)’の固定試料上で、第二の制限酵素を作用させる工程、
(vi)’工程(v)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第二の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(vii)’標識部位を検出する工程。
【0026】
検出方法(II)において、組織又は細胞の固定試料、固定試料の前処理、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素、ジデオキシヌクレオチド、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液、標識された核酸分子及びその検出については、上記検出方法(I)に関して記載したとおりである。よって、工程(i)’〜工程(iii)’は、それぞれ検出方法(I)の工程(i)〜工程(iii)と同様に行うことができる。なお、工程(iii)’における第一の制限酵素については、検出方法(I)において上述したもののうち、メチル化感受性制限酵素を用いることが望ましい。工程(iv)’は、工程(ii)又は工程(ii)’に準じて同様に行うことができる。
【0027】
(v)’工程(iv)’の固定試料上で、第二の制限酵素を作用させる工程
本発明における第二の制限酵素は、特に制限されないが、好ましくは、第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素である場合、その認識する塩基配列と同一の塩基配列を認識するメチル化非感受性制限酵素(即ち、第一及び第二の制限酵素はイソ制限酵素である)である。第一のメチル化感受性制限酵素と第二のメチル化非感受性制限酵素との好ましい組合せとしては、例えば、HpaIIとMspI、AvaIIとSinI、又はSau3AIとMboI若しくはNdeII等が挙げられる。CpG部位でのシトシンのメチル化の有無を検出するためには、第一及び第二の制限酵素の組合せは、HpaIIとMspIが好ましい。第一のメチル化感受性制限酵素により非メチル化部位を切断し、当該切断部位をブロックした後に、第二のメチル化非感受性制限酵素を作用させることにより、特定の塩基配列中のメチル化部位が特異的に切断される。原核生物及び真核生物のメチル化塩基に対する感受性制限酵素及び非感受性制限酵素については、例えば、McClelland, M. et al., Nucleic Acids Res. 22:3640-3659, 1994に詳しく記載されている。
【0028】
第二の制限酵素の作用条件は、用いる制限酵素に応じて、溶液中での制限酵素によるDNAの切断条件に準じて適宜設定することができる。例えばMspIを用いた場合、当該酵素を1〜100ユニット/ml含み、1〜20mM MgCl及び0.5〜5.0mM DTTを含有するTris/HCl緩衝液(pH7.0〜8.0)を工程(iv)’の固定試料上に滴下し、20〜40℃で1〜60分インキュベートする条件が例示される。
【0029】
(vi)’工程(v)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第二の制限酵素切断部位を標識する工程
本工程において、前記工程(iv)と同様の操作が行われる。第一の制限酵素としてメチル化感受性制限酵素を用い、第二の制限酵素として第一の制限酵素と同一の塩基配列を認識するメチル化非感受性制限酵素を用いた場合、特定の塩基配列中のメチル化部位が特異的に標識される。
【0030】
(vii)’標識部位を検出する工程
本工程は、前記工程(v)と同様の操作で行うことができる。工程(vi)’で標識された部位を本工程で検出することにより、第一の制限酵素としてメチル化感受性制限酵素を用い、第二の制限酵素として第一の制限酵素と同一の塩基配列を認識するメチル化非感受性制限酵素を用いた場合、特定の塩基配列中のメチル化部位をin situで特異的に検出することができる。
【0031】
本発明の検出方法(II)は、工程(iii)’と工程(iv)’との間に、工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程(iii)’’を含んでいても良い。ここで、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びそれを含有する溶液は、上述のとおりであり、工程(iii)’’は、前記工程(iv)と同様に行われる。
【0032】
工程(iii)’’において、標識された核酸分子としては、上述した標識された核酸分子のいずれかを用いればよいが、本工程で用いる標識された核酸分子と、後の工程(vi)’において、第二の制限酵素切断部位を標識するために用いる標識された核酸分子とは、異なる標識を保有している必要がある。異なる標識の組み合わせは、上述の放射性物質、酵素、ハプテン、フルオロフォアのいずれかから選択されることが好ましい。
【0033】
本発明の検出方法(II)が工程(iii)’’を含む場合、続く工程(iv)’は、工程(iii)’’の固定試料に対して行われる。工程(iii)’’をさらに含む本発明の検出方法(II)は、第一の制限酵素としてメチル化感受性制限酵素を用いて切断部位を検出することにより、特定の塩基配列中の非メチル化部位をin situで特異的に検出することができ、次いで、第二の制限酵素として第一の制限酵素と同一の塩基配列を認識するメチル化非感受性制限酵素を用いた場合、該特定の同じ塩基配列中のメチル化部位をin situで特異的に検出することができる。かかる検出方法は、同一の固定試料に対して連続的に行うことができ、いわゆる二重染色標本を提供することができる。
【0034】
本発明の検出方法(I)及び(II)において、それぞれの工程(i)と(ii)との間又は工程(i)’と(ii)’との間に、前処理した固定試料と、標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程(a)をさらに含んでいてもよい。
【0035】
工程(a)の例としては
(a−1)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程、及び
(a−2)前処理した固定試料と、標識された核酸プローブを含有する溶液とを接触させ、固定試料中のDNAと該核酸プローブとの二本鎖を形成させる条件下で接触が行われる工程
が挙げられる。
【0036】
工程(a−1)は、上述した検出方法(I)の工程(iv)に準じて行うことができ、前記工程(v)と同様に、標識部位を検出することができる。工程(a−1)により、固定試料中のDNAの3’末端を標識し、所望により標識部位を検出することができる。
【0037】
工程(a−1)を含む方法としては、例えば、アポトーシス細胞等で見られるDNAの断片化を検出するためのTUNEL染色が公知である。TUNEL染色は、Gavrieli et al., J Cell Biol 119: 493-501 (1992)、Koji et al., Biol Reprod 64: 946-954 (2001)、及びAn et al., Histochem Cell Biol 123: 249-261 (2005)等に記載の方法にしたがって行われ得、下記の実施例において、一例を開示する。よって、工程(a−1)を含む本発明の検出方法(I)又は(II)は、細胞のアポトーシスと特定の塩基配列中のDNAのメチル化または非メチル化部位をin situで同時に検出することができる。
【0038】
工程(a−2)において、標識された核酸プローブは、前処理した固定試料中のDNAと二本鎖を形成する核酸である。固定試料中のDNAは、一本鎖であっても二本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。核酸プローブと固定試料中のDNAとは、互いに相補的な塩基配列間でハイブリダイズし、試料中のDNAと核酸プローブとの二本鎖が形成される。本工程において、かかる二本鎖が形成される条件下で接触が行われる。
【0039】
標識された核酸プローブは、標的となる固定試料中のDNA配列と二本鎖を形成し得る塩基配列を含む核酸プローブであれば、特に制限されない。プローブの標識は、前記核酸分子の標識で記載した標識の中から目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
本発明核酸プローブの塩基長は、対象となる標的DNA配列と特異的に二本鎖を形成し得る限り特に制限されず、例えば15塩基以上、好ましくは20塩基以上、より好ましくは25塩基以上が挙げられる。合成の容易さなどを考慮すれば、核酸プローブ長は200塩基以下であることが好ましく、100塩基以下であることがより好ましい。プローブの合成は、例えば、標的とするメチル化部位を含む特定の塩基配列を選択し、その相補配列を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって行うことができる。相補配列の同一性は、目的とするDNA配列に対して完全相補的(100%)であってもよく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上であってもよい。
【0041】
工程(a−2)の溶液は、核酸プローブと固定試料中のDNAとが二本鎖を形成する組成であれば特に制限されないが、溶液の組成の例として、例えば以下が挙げられる:
1M Tris/HCl(pH7.4) 2.50μl
5M NaCl 30.00μl
0.2M EDTA(pH7.4) 1.25μl
脱イオン化ホルムアミド 100.00μl
100×Denhardt溶液 2.50μl
酵母 tRNA(10mg/ml) 6.25μl
サケ精巣 DNA(5mg/ml) 6.25μl
硫酸デキストラン(50%) 50.00μl
プローブ/10mM Tris/HCl
−1mM EDTA(pH7.4) 51.25μl
合計 250.00μl
【0042】
当該プローブを含む溶液と固定試料との接触及びハイブリダイズ後の洗浄条件は、当業者であれば、溶液の塩濃度、反応の温度(プローブの融解温度に基づき適宜設定する、例えば約25℃〜約50℃)、核酸プローブ濃度(0.1〜10μg/ml、好ましくは1〜2μg/ml)、核酸プローブの塩基長、ミスマッチの数、反応時間(約30分〜約一日、好ましくは約120分〜約900分)等を適宜変更することにより、容易に設定することができる。
【0043】
工程(a−2)において、前記工程(v)に準じて、所望により形成された二本鎖を検出することができる。
【0044】
工程(a−2)を含む方法としては、例えば、in situハイブリダイゼーションが公知である。よって、工程(a−2)を含む本発明の検出方法(I)又は(II)は、in situハイブリダイゼーションと組み合わせることによって細胞の特定の塩基配列中のDNAのメチル化または非メチル化部位をin situで同時に検出することができる。
【0045】
本発明はまた、2個以上の隣接組織試料をそれぞれ工程(i)〜工程(v)に供し、工程(v)で検出された2個以上の隣接組織固定試料間の標識部位像を重ね合わせる工程をさらに含む、in situでのDNAメチル化又は非メチル化部位の検出方法(III)を提供する。
【0046】
検出方法(III)で用いる隣接組織固定試料とは、組織試料から作製した連続切片の相互に隣接した組織切片の組み合わせをいう。隣接組織固定試料は、検出対象の試料としてほぼ同一の試料とみなすことができる。隣接組織試料として、特にミラー切片(切断面を鏡像のように合わせることができる2枚の連続切片の組合せをいう)が最も好ましい。
【0047】
検出方法(III)において、2個以上の隣接組織固定試料を用いることにより、第一の制限酵素を2種以上選択してDNAのメチル化又は非メチル化部位を検出することができる。得られたメチル化又は非メチル化像をそれぞれ解析したり、互いに重ね合わせることによって、メチル化又は非メチル化に関する様々な情報をin situで得ることができる。
【0048】
本発明はまた、2個の隣接組織固定試料の一方を検出方法(I)の方法に供して検出された標識部位像と、他方の隣接組織固定試料におけるTUNEL染色像とを重ね合わせて視覚化する工程を含む、in situでのアポトーシスとDNAメチル化との関連性の検出方法(IV)を提供する。これにより、得られたTUNEL染色像とメチル化又は非メチル化像とを別々に解析したり、互いに重ね合わせることによって、アポトーシスとDNAメチル化に関する様々な情報をin situで得ることができる。
【0049】
また、本発明は、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素、ジデオキシヌクレオチド、第一の制限酵素、第一の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子、第二の制限酵素、第二の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子を別々の容器に含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出キットを提供する。当該キットにおいて、第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素であり、第二の制限酵素がメチル化非感受性制限酵素であるイソ制限酵素の組合せが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0051】
化学薬品及び生化学薬品:
パラホルムアルデヒド(PFA)は、メルク(Darmstadt、ドイツ)から購入し、3,3’−ジアミノベンジジン・4HCl(DAB)は、株式会社同仁化学研究所(熊本、日本)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)(本質的に脂肪酸及びグロブリンを含まない)及びトリス(Trizma)塩基及びBrij−35は、シグマ化学株式会社(St. Louis、MO、アメリカ)の物を入手した。ビオチン−16−dUTP、ジゴキシゲニン−11−dUTP、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)は、ロシュ・ダイアグノスティックス(Mannheim、ドイツ)の物を入手した。ジデオキシATP(ddATP)及びジデオキシTTP(ddTTP)は、ジェナ・バイオサイエンス(Jena、ドイツ)の物を入手した。HpaII及びMspIは、タカラバイオ株式会社(滋賀、日本)から購入した。パーマウント(Permount)は、フィッシャー・サイエンティフィック株式会社(NJ、アメリカ)から購入した。本研究で用いた他の全ての試薬は、和光純薬(大阪、日本)の物であり、分析グレードであった。
【0052】
抗体:
マウスモノクローナル抗5−メチルシトシン抗体(2.5μg/ml)は、カルバイオケム(San Diego、CA、アメリカ)から購入した。正常ヤギIgG及びヒツジIgGは、ダコ(Glostrup、デンマーク)から購入した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgG(1:100)、HRP標識ヤギ抗ビオチン抗体(1:100)及びHRP標識ヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体(1:100)は、ケミコン・インターナショナル株式会社(Temecula、CA、アメリカ)の物を入手した。FITC標識ヤギ抗ビオチン抗体(1:100)は、Vector Laboratories(Burlingame、CA、アメリカ)の物を入手し、ローダミン標識ヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体(1:100)は、ロシュ・ダイアグノスティックス(Mannheim)の物を入手した。
【0053】
動物及び組織標本:
本研究では、27〜38gの雄成体ICRマウス(8〜10週齢)を用いた。一部のマウスには、コーン油に溶解したジエチルスチルベストロール(DES)を、5日ごとに20mg/kg体重にて、4回接種し、生殖細胞アポトーシスを誘導した(Koji T. et al., Biol Reprod 64: 946-954 (2001))。DES又はビヒクル単独での20日間の処置後、マウスを解剖した。実験プロトコルは、長崎大学の動物倫理審査委員会によって承認されたものである(#0112100012及び#0202200048)。
解剖して摘出した精巣を、細片に切り分け、次いでリン酸緩衝食塩水(PBS)中4%のPFAで一晩、4℃で固定し、標準的な様式でパラフィンに包埋した。いくつかの連続切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、生殖細胞の精上皮周期及び分化段階の同定に用いた。
【0054】
5−メチルシトシンの免疫組織化学染色:
以前に詳述された方法(Matsuo Y. et al., Acta Histochem Cytochem 40: 69-75 (2007))で、マウス精巣のパラフィン切片に対して5−メチルシトシンの免疫組織化学的検出を行った。脱パラフィンした後、切片を、10mMクエン酸緩衝液、pH6.0中に浸し、120℃で15分間オートクレーブし、次いで、PBS(pH7.2)中1% BSAに溶解した500μg/mlの正常ヤギIgGと、1時間プレインキュベートした。他に特に規定がなければ、全ての反応を室温(RT)にて行った。次いで、切片を、PBS中1% BSA中の抗5−メチルシトシン抗体(2.5μg/ml)と一晩反応させた。PBS中0.075% Brijで3回、各15分間洗浄後、PBS中1% BSA中に溶解したHRP標識ヤギ抗マウスIgGを、1時間反応させた。PBS中0.075% Brijで3回、各15分間洗浄後、HRPの部位を、ニッケル及びコバルトイオンの存在下、DAB及びHで可視化した(Shukuwa K. et al., Histochem Cell Biol 126: 111-123 (2006))。ネガティブコントロールとして、いくつかの切片を、特異的なモノクローナル抗体の代わりに、正常マウスIgGと反応させた。
【0055】
ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニックエンド標識(TUNEL)染色:
アポトーシス生殖細胞を同定するために、Gavrieli Y. et al., J Cell Biol 119: 493-501(1992)の方法に従って、わずかな改変を加えて(Koji T. et al., Biol Reprod 64: 946-954 (2001); An S. et al., Histochem Cell Biol 123: 249-261 (2005))、TUNELを行った。シランコートしたスライドガラス上のパラフィン切片(厚さ5〜6μm)を脱パラフィンし、PBS中10μg/mlのプロテイナーゼKで、37℃にて、15分間消化した。次いで、切片をTdT緩衝液(0.2M カコジル酸カリウム及び0.25mg/ml BSAを含有する825mM Tris/HCl緩衝液、pH6.6)単独で、RTにて30分間インキュベートした。インキュベーション後、スライドを、0.5μM ビオチン−16−dUTP、20μM dATP、1.5mM CoCl及び0.1mM ジチオスレイトールを添加したTdT緩衝液中に溶解した800ユニット/mlのTdTと、37℃で90分間反応させた。ネガティブコントロールとして、TdT反応を、ビオチン−16−dUTPの代わりに0.5μM TTPで行い、あるいはTdTを含めずに行った。ミリQ水(Millipore、Molsheim、フランス)(DDW)で洗浄後、HRP標識ヤギ抗ビオチン抗体又はFITC標識ヤギ抗ビオチン抗体で、免疫組織化学的にシグナルを検出した。HRPの部位を、上述のように、DAB、過酸化水素、ニッケル及びコバルトイオンの混合物によって可視化した。
【0056】
HELMET:
まず、TdT反応を、上述のようにして(ただしDNAの遊離3’−OH末端をブロックするために、dATP及びビオチン−16−dUTPの代わりに20μM ddATP及び20μM ddTTPを用いた)マウス精巣のパラフィン切片上に対して、37℃にて2時間行った。DDW及びPBSで連続して洗浄後、切片を、PBS中の4% PFAで5分間固定し、次いで、PBSで2回、DDWで1回、各5分間ずつ洗浄した。次いで、切片を、10mM MgCl及び1mM ジチオスレイトールを含有する10mM Tris/HCl緩衝液、pH7.5中、に溶解した100ユニット/mlのHpaIIと、37℃で2時間反応させた。次いで、スライドをDDWで3回、各5分間ずつ洗浄した。DNAの非メチル化CCGG配列の部位を検出するために、TUNELのTdT反応と類似したTdT反応を、0.5μM ビオチン−16−dUTP又は0.5μM ジゴキシゲニン−11−dUTPで、37℃にて、1.5時間、湿室中で行い、ついでPBSで3回、各5分間ずつ洗浄した。シグナルを可視化するために、酵素免疫組織化学染色の場合、スライドをPBS中500μg/mlの正常ヤギIgG又は正常ヒツジIgGと5% BSAとの混合物とともに1時間インキュベートし、次いで、PBS中5% BSAに溶解したHRP−ヤギ抗ビオチン抗体又はHRP−ヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体と、それぞれ1時間反応させた。PBS中0.075% Brijで3回、次いでPBS単独で、各10分間ずつ洗浄後、シグナルを、上述のように、DAB、H、ニッケル及びコバルトイオンからなる色素原溶液で可視化した。スライドを、段階的濃度のエタノール溶液を通して脱水し、キシレンで透徹し、次いでパーマウントでマウントした。蛍光免疫組織化学染色の場合、PBS中5% BSAに溶解したFITC−ヤギ抗ビオチン抗体又はローダミン−ヒツジ抗ジゴキシゲニン抗体を、1時間反応させ、同様に洗浄した。スライドを、PBS中90%(v/v)グリセロールでマウントした。
DNAのメチル化CCGG配列の部位を検出するために、切片を、HpaIIで消化し、次いで、上述のように、TdTによってジデオキシヌクレオチドの混合物でブロックした。次に、それらをPBS中4% PFAで5分間固定し、PBSで2回、各15分ずつ洗浄した。DDWで洗浄後、切片を、10mM MgCl、0.5mM ジチオスレイトール、66mM 酢酸カリウム及び0.1% BSAを含有するTris/HCl緩衝液(pH7.9)に溶解した100ユニット/mlのMspIで、37℃にて2時間消化した。DDWで3回、各5分間ずつ洗浄後、0.5μM ビオチン−16−dUTP又は0.5μM ジゴキシゲニン−11−dUTPで、37℃にて2時間、湿室中でTdT反応を行い、次いで、PBSで3回、各5分間ずつ洗浄した。次に、非メチル化CCGG部位の検出に用いた手順と同じ手順で、メチル化CCGG部位を可視化した。
非メチル化部位及びメチル化部位の二重染色のために、HpaII切断部位を、TdT反応によってビオチン−16−dUTPで標識し、ジデオキシヌクレオチドでブロックした。次に、メチル化部位を検出する手順で、MspI切断部位を、TdT反応によって、ジゴキシゲニン−11−dUTPで標識した。最後に、両方のハプテンを、それぞれFITC−抗ビオチン抗体及びローダミン−抗ジゴキシゲニン抗体によって可視化した。
蛍光シグナルの解析は、LSM 5 Pascal(V3.2)(Carl Zeiss Co.、Jena、ドイツ)で行った。本研究では、FITC及びローダミンシグナルは、それぞれ505〜530nm(励起、488nm)の発光フィルター及び560〜nmフィルター(励起、543nm)で得た。観察は、Plan−Neofluar 20×/0.5及び40×/0.75の対物レンズで行い、それぞれの光学的切片の厚みは、0.5μm及び0.7μmであった。
【0057】
HELMETのコントロール実験:
シグナルの特異性を確認するために、発明者らはいくつかのコントロール実験を行った。HpaII消化の前後におけるジデオキシヌクレオチドでの3’−OH末端のブロッキングが必須であり、ビオチン−16−dUTP又はジゴキシゲニン−11−dUTPでのTdT反応によって評価した。エンドヌクレアーゼ活性の切断部位に対する依存性を検討するために、いくつかのスライドを、10分間煮沸して冷却した酵素溶液と反応させた。TdT反応のコントロールとして、いくつかのスライドを、反応混合物中、TdTの不存在下で、又はビオチン−16−dUTPもしくはジゴキシゲニン−11−dUTPの代わりにTTPと共に反応させた。酵素−免疫組織化学染色における内因性ペルオキシダーゼの活性もしくは蛍光−免疫組織化学染色における自己蛍光を評価するために、いくつかのスライドを、免疫組織化学的染色の工程においてHRP標識抗体又は蛍光色素標識抗体を省いて処理した。
【0058】
TUNEL及びHELMETのための二重染色:
TUNEL陽性細胞を、CCGG配列のメチル化状態と直接関連付けるために、まずマウス精巣のパラフィン切片でTUNELを行った。ビオチン−16−dUTPとのTdT反応後、切片を、上記のようにジデオキシヌクレオチドでブロックし、PBS中4% PFAで5分間固定した。次いで、切片をPBSで2回(各15分間)及びDDWで1回(5分間)洗浄し、上記の手順において説明したように、HpaII又はMspIで消化した。CCGGの非メチル化部位又はメチル化部位との共局在化のために、切断部位をTdTによってジゴキシゲニン−11−dUTPで標識し、最後に、ビオチン部分及びジゴキシゲニン部分の両方を、それぞれFITC−抗ビオチン抗体及びローダミン−抗ジゴキシゲニン抗体で、上に詳述したように可視化した。
【0059】
(試験例1)
HELMETにおける種々のパラメータの最適化
基本的に、本方法は、TUNELにおいて用いられるTdT反応に依存する;制限酵素によってもたらされる切断部位の3’−OH末端を、TdT反応によってハプテン性のdUTPアナログで標識し、次いで酵素免疫組織化学染色又は蛍光免疫組織化学染色によって可視化した。本プロトコルでは、以前に記述された(Koji T., Molecular Histochemical Techniques (Springer Lab Manuals),(2000); Koji T., Biol Reprod 64: 946-954(2001))ように最適化されたTdT反応の条件を用いた。発明者らは、制限酵素の条件(濃度及び持続時間)を、シグナル強度が最大となるように設定した。DNAの非特異的な切断の検出又はDNAの3’−OH末端の不要な伸長を防ぐために、TdT反応のための、ジデオキシヌクレオチドでの3’−OH末端のブロッキングが必須であった。種々の濃度(5〜20μM)のddUTP、ddTTP及びddATPを、単独で又は組合せて用い、ブロッキング効果を比較したところ、20μM ddTTP及び20μM ddATPの混合物で、さらなるTdT反応に対する完全なブロックが達成された(データ示さず)。さらに、PBS中4% PFAでの繰り返しの固定もまた、好ましくない染色を減少させるのに効果的であり、それはおそらく、組織切片においてもともとマスキングされていたDNAの、アンマスキングが減少したためである(データ示さず)。
【0060】
(試験例2)
マウス精巣における非メチル化CCGG配列及びメチル化CCGG配列の両方の同時局在
精原細胞の異なる分化段階間の、DNAの非メチル化CCGG配列対メチル化CCGG配列の比における差異を評価するために、発明者らは、HELMETにより、両方のCCGG配列の同時染色を行った。図1A及び1Dにおいて示すように、HpaII陽性の非メチル化CCGGは、主にいくつかの大型細胞の核(矢印)及びステップ10〜11よりも後の段階における伸長精細胞(矢じり)に局在し、精原細胞の核ではより低強度であった。一方で、MspI陽性のメチル化CCGGの染色は全体としてより強く、ほとんどの生殖細胞が陽性であった(図1B及び1E)。しかし、いくつかの大型細胞は、わずかにしか又は全く染色されなかった。マージ像(図1C及び1F)において、大型細胞が黄色又は緑であることが明らかであり、非メチル化CCGGが等しく又は優勢に存在していたこと示す。H&E染色スライドに基づき、それらの大型細胞は、アポトーシスを経ていたと考えられる。したがって、発明者らは、細胞をTUNEL及びHELMETで、二重染色することにした。
さらに、発明者らは、種々のコントロール実験を行った;図1G及び1Hで示すように、HpaII消化前後では、DNAの3’−OH末端は、ジデオキシヌクレオチドで完全にブロックされていた。不活化エンドヌクレアーゼとのインキュベーションは、いかなるシグナルも呈さなかった(図1I及び1J)。さらに、HpaII消化後にビオチン−16−dUTPの代わりにTTPでTdT反応を行った場合(図1K)、又はMspI消化後にジゴキシゲニン−11−dUTPの代わりにTTPでTdT反応を行った場合(図1L)、いかなるシグナルも検出されなかった。蛍光色素標識抗体を除いても、シグナルは生成されなかった(データ示さず)。
【0061】
(試験例3)
マウス精巣の隣接切片のDNAの非メチル化及びメチル化CCGG部位の分染
マウス精巣の隣接切片を用い、発明者らは、TUNEL、非メチル化CCGG部位、及びメチル化CCGG部位の酵素免疫組織化学染色を比較した。図2Bに示すように、発明者らは、いくつかのTUNEL陽性細胞がアポトーシス細胞であることを見出した。プロテイナーゼ消化後に切片をジデオキシヌクレオチドで標識した場合、TUNELにおけるさらなるTdT反応は、いかなる染色も示さなかった(図2C)。次に、ジデオキシヌクレオチドでブロックした切片を、HpaIIで消化し、非メチル化CCGG部位を、TdTによってジゴキシゲニン−11−dUTPで標識し、HRP−抗ジゴキシゲニン抗体で可視化した(図2D)。生殖細胞の過半数は、非常に弱くしか染色されなかったものの、TUNEL陽性細胞と同定された、強く染色されたいくつかの細胞もまた見られた。他の切片を、HpaIIで消化し、ジデオキシヌクレオチドでブロックし、次いで、MspIで消化し、TdTによってジゴキシゲニン−11−dUTPで標識し、HRP−抗ジゴキシゲニン抗体で可視化した(図2F)。生殖細胞の過半数は、多かれ少なかれ陽性であったものの、染色の強度は生殖細胞間で異なり、いくつかの精原細胞、細胞分裂中の精母細胞及び精子細胞(円形及び伸長)は、強く染色されていた。セルトリ細胞の核は、核小体以外は、ごくわずかにしか染色されていなかった。興味深いことに、非メチル化CCGG部位の染色と異なり、いくつかのTUNEL陽性細胞のメチル化CCGG部位の染色は、非常に弱かった。MspI消化を行わなかったコントロール切片では、染色は見られず(図2E)、HpaII消化後のジデオキシヌクレオチドでのブロッキングが完璧であったことを示している。さらに、ビオチン−16−dUTPの代わりにTTPでTUNELを行った場合、又はTdTなしでTUNELを行った場合、いかなる染色も検出されなかった(データ示さず)。
TUNEL陽性細胞におけるCCGG部位のメチル化状態を直接的に明らかにするために、TUNELとHpaII切断部位又はMspI切断部位との二重染色を行った。図3に示すように、TUNEL陽性細胞は、常にHpaII切断部位(非メチル化CCGG)に関して陽性であったが(図3C)、MspI切断部位(メチル化CCGG)に関しては、常には陽性ではなかった(図3F)。
【0062】
(試験例4)
マウス精巣における5−メチルシトシンの免疫組織化学的検出
HELMETによって検出されたメチル化CCGGの局在パターンと5−メチルシトシンの局在パターンとの比較のために、発明者らは、抗5−メチルシトシンモノクローナル抗体を用いて、免疫組織化学染色を行った。図4Aに示すように、ほとんどの生殖細胞の核は、強く染色され、種々の分化段階における生殖細胞間での染色強度の顕著な差異はなかった。さらに、DES処理精巣切片における5−メチルシトシンの免疫組織化学染色は、ほとんどの生殖細胞で重度の核染色を示した(図4B)が、TUNEL陽性細胞とTUNEL陰性細胞との間には差はなかった(図4C)。
【0063】
(考察)
本研究において発明者らは、組織切片における非メチル化及びメチル化CCGG配列を識別するように設計された、新たな組織化学的な方法、HELMET、を説明した。新たな方法HELMETを、マウス精巣のパラフィン包埋切片の解析に適用し、その結果は、5−メチルシトシンの免疫組織化学染色の結果とは異なり、生殖細胞の分化段階に依存するCCGG部位のメチル化レベルの差異を明らかにした。結果はさらに、ほとんどがアポトーシスを経ていたTUNEL陽性生殖細胞において、CCGG部位が、正常な生殖細胞と比べて、多かれ少なかれ脱メチル化されていたことを示した。これは、生殖細胞のアポトーシス誘導において、エピジェネティック制御障害が関与している可能性に関する、初めての直接的な証拠である。
CCGG部位の脱メチル化は、ステップ10〜11よりも後の段階での伸長精細胞でも見られたものの、CCGG部位の最も顕著な脱メチル化は、TUNEL陽性細胞において見られた。クロマチンは、伸長精細胞及びアポトーシス細胞の両方において、高度に凝縮されているため、CCGG部位のメチル化は、ヘテロクロマチン形成と密接に関連しているわけではないかもしれない。むしろ、より重要なのは、CCGG部位のメチル化のダウンレギュレーションが、減数分裂前の生殖細胞における生殖細胞のアポトーシス誘導の引き金であり得ることである。発明者らの発見と一致して、マウス精巣においてDNAメチル化の減少又は喪失を誘導する5−アザ−2’−デオキシシチジンでの処置(Kelly T. L. et al., J Androl 24: 822-830 (2003))及びDnmt3L遺伝子の変異(Hata K. et al., Mol Reprod Dev 73: 116-122(2006))が、マウス精巣における組織的な異常及び生殖細胞の喪失をもたらすことは、既に知られている。
本結果はまた、生殖細胞のCCGG部位におけるメチル化レベルは、セルトリ細胞のような体細胞よりも一般的に高いことを示した。これに関連して、CpGアイランドは、通常メチル化されておらず、またゲノムDNAの他の部分では、メチル化レベルは、体細胞におけるGC含量と反比例することに留意すべきである。しかし、生殖細胞におけるDNAのメチル化レベルは、DNAセグメントのGC含量に依存することが、近年の研究によって報告された(Oakes C. C. et al., Proc Natl Acad Sci USA 104: 228-233 (2007))。したがって、HELMETによる生殖細胞の一般的に強い染色は、この傾向を反映しているのかもしれない。さらに、脱メチル化を誘導する機構がまだ知られていないため、アポトーシス生殖細胞のCCGG部位が、アポトーシス中に脱メチル化されることは、興味深い発見であった。発明者らの生殖細胞研究は、「デメチラーゼ(demethylase)」の存在に関する、重要な証拠を提供するかもしれない。
一般的に、DNAの高度メチル化は、ヘテロクロマチン形成と関連していると考えられている(Li E., Nat Rev Genet 3: 662-673 (2002))。しかし、高度に凝縮されたクロマチンを有すると考えられている伸長精細胞の核において(Koji T., Hishikawa Y., Arch Histol Cytol 66: 1-16 (2003))、予測していなかったCCGG部位の低メチル化が見られた。CCGG部位のメチル化レベルが、ヘテロクロマチン領域と密接な関係を有するか否か、あるいはヘテロクロマチン領域とどのように密接に関係しているかを決定するためには、さらなる研究が必要である。この点を確認するためには、そのような研究は、ヘテロクロマチン領域のCCGG部位のメチル化状態を決定するために、電子顕微鏡の使用を含むべきである。
CpGのメチル化は、哺乳動物のゲノムを通じて、3×10の部位で起こり、HELMETによって解析したCCGG部位は、メチル化されるCpGの全体数のうち、最大で約5%を構成する(Kelly T. L. et al., J Androl 24: 822-830 (2003))。したがって、5−メチルシトシンの免疫組織化学染色がアポトーシス生殖細胞と非アポトーシス生殖細胞との間のメチル化レベルの差異を同定できなかったものの、HELMETがアポトーシス生殖細胞における低メチル化の検出を可能としたことは当然である。さらに重要なことには、イソ制限酵素であるHpaII及びMspIの使用は、DNAのより特異的な部位のメチル化に関する情報を提供できる。この方法を、異なる制限酵素の組合せの使用にまで広げ、又はこの方法を特定の遺伝子の部分がオリゴデオキシヌクレオチドプローブとin situでハイブリダイズする標本に適用すること(Koji T., Nakane P. K., J Electron Microsc 45: 119-127 (1996))によって、個々の細胞の特定の遺伝子のメチル化状態を解析することが可能となるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の検出方法を駆使して、エピジュネティックスの基礎的な研究が進展することが期待される。これにより、エピジュネティックスとエピジュネティックな変化に基づく疾患との関連が解明され、本発明の検出方法は、エピジュネティックな変化に基づく疾患の発症、治療及び予後の診断にも役立つことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】マウス精巣のパラフィン包埋切片における、HELMETによる非メチル化及びメチル化CCGG配列の同時局在を示す図である。パラフィン包埋切片は、TdTによってジデオキシヌクレオチド混合物でブロックし、次いでHpaII切断部位を、ビオチン−16−dUTPで標識した。ジデオキシヌクレオチドでのブロック後、MspI切断部位を、ジゴキシゲニン−11−dUTPで標識し、次いで、両ハプテンを、それぞれFITC−抗ビオチン抗体(A、D)及びローダミン−抗ジゴキシゲニン抗体(B、E)で可視化した。マージ像をC及びFに示す。矢印:大型細胞、矢じり:伸長精細胞。(G)ブロッキング後のTdT反応。ジデオキシヌクレオチドでのブロッキング直後に、ビオチン−16−dUTPでのTdT反応を、いくつかのスライドに対して行った。いかなる染色も見られなかった。(H)HpaII消化に次いでブロッキングした後のHELMET。TdT反応は、(G)と同様に行った。いかなる染色も見られなかった。さらなるコントロールとして、煮沸した(不活化した)HpaII(I)又はMspI(J)を、ジデオキシヌクレオチドでのブロッキング後にスライドと反応させ、次いでビオチン−16−dUTP又はジゴキシゲニン−11−dUTPそれぞれとのHELMETを行った。蛍光−免疫組織化学染色のコントロールとしては、HELMETにおいて、HpaII消化後に、ビオチン−16−dUTPの代わりにTTPでTdT反応を行い(K)、あるいはMspI消化後に、ジゴキシゲニン−11−dUTPの代わりにTTPでTdT反応を行った(L)。いかなる蛍光も見られなかった。A、B、C、G、H、I、J、K:バー=100μm、D、E、F:バー=50μm。
【図2】マウス精巣の隣接切片におけるTUNEL陽性生殖細胞のCCGG部位のメチル化レベルを示す。パラフィン包埋マウス精巣の隣接切片の、(A)H&E染色、及び(B)TUNEL染色を示す。(C)TdTによるジデオキシヌクレオチドでの3’−OH末端のブロッキング。ブロッキング後、切片をTdTによってビオチン−16−dUTPで標識し、組込まれたビオチンを、HRP−抗ビオチン抗体で検出した。いかなるシグナルも観察されなかった。(D)非メチル化CCGG部位の染色。(C)で記述したブロッキングの手順後、切片をHpaIIで消化し、ビオチン−16−dUTPで標識し、HRP−抗ビオチン抗体で酵素免疫組織化学染色によって可視化した。(E)TdTによるジデオキシヌクレオチドでの、HpaII切断部位のブロッキング。切片を、HpaIIで消化し、切断部位をジデオキシヌクレオチド混合物でブロッキングした。次いで、切片を、(C)で記述したのと同様の様式で処理した。(F)メチル化CCGG部位の染色。ジデオキシヌクレオチドでのHpaII切断部位のブロッキング後、切片をMspIで消化し、切断部位をビオチン−16−dUTPで標識し、HRP−抗ビオチン抗体で可視化した。バー=100μm。
【図3】マウス精巣のパラフィン包埋切片におけるTUNEL及び非メチル化CCGG部位又はメチル化CCGG部位の二重染色を示す。(A、D)タネル(TUNEL)染色。(B)HpaII切断部位の染色(非メチル化CCGG部位)。(C)A及びBのマージ像。(E)MspI切断部位の染色(メチル化CCGG部位)。(F)D及びEのマージ像。バー=100μm。矢印(A、B及びC)並びに矢じり(D、E及びF)は、同一の細胞を示す。
【図4】DES処理マウス精巣のパラフィン包埋切片における、5−メチルシトシンの免疫組織化学的検出を示す。(A)コーン油処理又は(B)DES処理したマウス精巣のパラフィン包埋切片を、抗5−メチルシトシン抗体と反応させ、シグナルを、酵素免疫組織化学染色によって検出した。(B)で用いた切片のミラー切片を、TUNELで用いた(C)。矢印は、TUNEL陽性細胞を示す。バー=100μm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)工程(ii)の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)工程(iii)の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(v)標識部位を検出する工程;
を含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出方法。
【請求項2】
(i)’組織又は細胞の固定試料を前処理する工程、
(ii)’前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(iii)’工程(ii)’の固定試料上で、第一の制限酵素を作用させる工程、
(iv)’工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及びジデオキシヌクレオチドを含有する溶液とを接触させる工程、
(v)’工程(iv)’の固定試料上で、第二の制限酵素を作用させる工程、
(vi)’工程(v)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第二の制限酵素切断部位を標識する工程、並びに
(vii)’標識部位を検出する工程;
を含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出方法。
【請求項3】
工程(iii)’と工程(iv)’との間に、
(iii)’’工程(iii)’の固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させ、第一の制限酵素切断部位を標識する工程;
をさらに含み、工程(iv)’が工程(iii)’’の固定試料に対して行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素又はメチル化非感受性制限酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
メチル化感受性制限酵素がHpaIIである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素であり、第二の制限酵素がメチル化非感受性制限酵素であるイソ制限酵素の組合せである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
メチル化感受性制限酵素とメチル化非感受性制限酵素との組合せが、それぞれHpaIIとMspI、AvaIIとSinI、又はSau3AIとMboI若しくはNdeIIのいずれかである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
標識が、酵素、ハプテン、フルオロフォア及び放射性物質からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
DNAの3’末端に塩基を付加する酵素が、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ又はDNAポリメラーゼIである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(i)と(ii)との間又は工程(i)’と(ii)’との間に、
(a)前処理した固定試料と、標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程;
をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)が、前処理した固定試料と、DNAの3’末端に塩基を付加する酵素及び標識された核酸分子を含有する溶液とを接触させる工程である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
DNAの3’末端に塩基を付加する酵素がターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)において、標識された核酸分子が標識された核酸プローブであり、固定試料中のDNAと該核酸プローブとの二本鎖を形成させる条件下で接触が行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
2個以上の隣接組織固定試料をそれぞれ工程(i)〜工程(v)に供し、工程(v)で検出された2個以上の隣接組織固定試料間の標識部位像を重ね合わせる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
2個の隣接組織固定試料の一方を請求項1に記載の方法に供して検出された標識部位像と、他方の隣接組織固定試料におけるTUNEL染色像とを重ね合わせて視覚化する工程を含む、in situでのアポトーシスとDNAメチル化との関連性の検出方法。
【請求項16】
DNAの3’末端に塩基を付加する酵素、ジデオキシヌクレオチド、第一の制限酵素、第一の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子、第二の制限酵素、第二の制限酵素切断部位を標識する標識された核酸分子を別々の容器に含む、in situでのDNAのメチル化又は非メチル化部位の検出キット。
【請求項17】
第一の制限酵素がメチル化感受性制限酵素であり、第二の制限酵素がメチル化非感受性制限酵素であるイソ制限酵素の組合せである、請求項16に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−68775(P2010−68775A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241679(P2008−241679)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月17日http://www.springerlink.com/content/um5g55h0823r056h/?p=0f65bd9e053a48f6b9dac45d58b42b51&pi=3を通じて発表
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】