説明

DNA塩基配列解析装置およびDNA塩基配列解析方法

【課題】従来技術より長い塩基長のDNA塩基配列を解析することができるDNA塩基配列解析方法およびDNA塩基配列解析装置を提供する。
【解決手段】ゲート絶縁膜15を有した電界効果デバイス2と、DNAプローブとターゲットDNAをハイブリダイズし、前記ゲート絶縁膜15上で、酵素および基質を導入し、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置1において、前記DNAプローブを固定する磁性粒子8と前記磁性粒子8を前記ゲート絶縁膜15に引き寄せる磁石4とを備えたDNA塩基配列解析装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA塩基解析装置およびDNA塩基配列解析方法に関し、特に電界効果デバイスを用いたDNA塩基配列解析に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの全塩基配列解読が終了し、他の生物のゲノム塩基配列解読が急速に進展する中、膨大な塩基配列情報が蓄積されつつある。これらのゲノム塩基配列情報をもとに、遺伝子機能解析が分子生物学,薬物遺伝学,臨床研究の新規分野で著しい進歩をみせている。
【0003】
これらの新規分野発展の基礎となっているのが、塩基配列情報に加えて遺伝子の機能情報である。遺伝子機能解析を大規模に行い、遺伝子検査へ発展させる装置として、電気泳動システム、DNAチップやDNAマイクロアレイ(以下、DNAチップとDNAマイクロアレイを総称して「DNAマイクロアレイ」という。)などが開発されている。
【0004】
しかし、現状の電気泳動システムやDNAマイクロアレイの多くは蛍光検出を基本原理としているので、試料を蛍光標識でラベルする必要があり、レーザや複雑な光学系が必要となり、装置が大型化する。
【0005】
これらの問題を解決する装置として、酸化・還元標識と組み合わせた電流検出方式のDNAマイクロアレイや、パイロシーケンシングなどが開発されてきたが、いずれも検出精度や検出速度の課題がある。
【0006】
また、電界効果デバイスのゲート絶縁層表面にターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブを固定し、当該DNAプローブの伸長反応に伴ったゲート絶縁層上の電荷密度の変化をしきい値電圧の変化として直接検出することで、DNA塩基配列解析を行う試みも開示されている(例えば特許文献1)。
【0007】
上記した電界効果デバイス方式では、ゲート絶縁膜としてSiO層、その上層に保護膜であるSiを成膜した二層構造のゲート絶縁層を用いている。このゲート絶縁層にDNAプローブを固定し、ターゲットDNAをハイブリダイズさせる。その後、DNAポリメラーゼと一種類の塩基のdNTPを含む溶液を導入し伸長反応させる。ここで、Nはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)のいずれかである。dNTP分子は1個のリン酸基を有し、水溶液中では負電荷を有している。そのため、dNTP分子がDNAプローブ分子の伸長鎖に取り込まれると、電界効果デバイス表面の電荷密度が変化する。この電荷密度の変化はしきい値電圧の変化として検出することができる。そのため、しきい値電圧の変化量から、dNTPの取り込み量を計測することができる。以上のdNTPの取り込み反応プロセスを、塩基の種類を例えばA→C→G→Tのように順次変えて段階的に繰り返すことによって、ターゲットDNA分子の塩基配列を解析することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/022370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術のうち電界効果デバイスを用いたDNA塩基配列解析方法は、システムを容易に小型化できる簡便な方法である。しかし、ターゲットDNAがハイブリダイズしたDNAプローブの伸長反応に伴う電荷密度変化のしきい値電圧に及ぼす影響は、センサ表面からの距離の増加と共に減少する。つまり、ターゲットDNAとハイブリダイズしたDNAプローブの伸長反応が進み、伸長反応部位がセンサ表面から遠ざかっていくほど、一塩基の伸長反応当たりのしきい値電圧変化量は小さくなり、伸長反応を検出することが困難となる。上記DNA塩基配列解析方法で実際に読み取り可能な塩基長は10塩基程度であるため、実用的ではないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決するため、従来技術より長い塩基長のDNA塩基配列を容易に解析することができるDNA塩基配列解析装置およびDNA塩基配列解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係るDNA塩基配列解析装置は、ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスを備え、前記ゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、前記DNAプローブを固定する磁性粒子と、前記磁性粒子を前記ゲート絶縁膜に引き寄せる磁石とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係るDNA塩基配列解析装置は、前記ターゲットDNAの両端が、前記磁性粒子に固定された前記DNAプローブにそれぞれハイブリダイズされていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3に係るDNA塩基配列解析装置は、前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に1つの磁性粒子を載置させるガイド部を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4に係るDNA塩基配列解析装置は、前記ガイド部が、前記チャネルに対応した前記ゲート絶縁膜の周囲に立設された支柱であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5に係るDNA塩基配列解析装置は、前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に前記磁性粒子を含んだ溶液を供給する流路を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6に係るDNA塩基配列解析装置は、前記磁石が、前記ゲート絶縁膜に一体的に形成された磁性膜で構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項7に係るDNA塩基配列解析装置は、ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスと、前記電界効果デバイスと別体に設けられ、前記ゲート絶縁膜と電気的に接続された測定部とを備え、前記測定部上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、前記DNAプローブを固定する磁性粒子と、前記磁性粒子を前記測定部に引き寄せる磁石とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項8に係るDNA塩基配列解析装置は、前記測定部上に前記磁性粒子を含んだ溶液を供給する流路を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項9に係るDNA塩基配列解析装置は、ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスを備え、前記ゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、前記DNAプローブを固定する、自重で前記ゲート絶縁膜上に沈殿する粒子を備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項10に係るDNA塩基配列解析方法は、電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において前記DNAプローブを固定した磁性粒子を前記ゲート絶縁膜上に引き寄せるステップを備えたことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項11に係るDNA塩基配列解析方法は、前記磁性粒子に固定された前記DNAプローブに、前記ターゲットDNAの両端をそれぞれハイブリダイズするステップを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項12に係るDNA塩基配列解析方法は、前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に1つの磁性粒子を載置させるガイド部を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項13に係るDNA塩基配列解析方法は、電界効果デバイスと別体に設けられ、前記電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜と電気的に接続された測定部上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において、前記DNAプローブを固定した磁性粒子を前記測定部上に引き寄せるステップを備えたことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項14に係るDNA塩基配列解析方法は、電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において、前記DNAプローブを固定した粒子を前記ゲート絶縁膜上に自重で沈殿させるステップを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のDNA塩基配列解析装置およびDNA塩基配列解析方法によれば、磁石により磁性粒子をゲート絶縁膜に引き寄せることにより、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブをゲート絶縁膜に近づけることができるので、従来の電界効果デバイスを用いたDNA塩基配列解析よりも長い塩基長のDNA塩基配列を容易に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態で用いる磁性粒子複合体の構成を示す概略図である。
【図3】本実施形態のDNA塩基配列解析装置によるDNA配列解析の原理である一塩基伸長反応過程を説明する図である。
【図4】本実施形態の磁性粒子複合体の変形例を示す概略図である。
【図5】第2実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図6】第2実施形態の変形例の電界効果トランジスタの表面の構成を示す斜視図である。
【図7】第2実施形態の変形例のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図8】第3実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図9】第3実施形態において磁石によって引き付けられた磁性粒子がゲート絶縁膜上に固定されたことを示す部分概略図である。
【図10】第4実施形態のDNA塩基配列解析装置の構成を示す概略図である。
【図11】第4実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図12】第5実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【図13】第5実施形態の測定部を示す平面図である。
【図14】第6実施形態のDNA塩基配列解析装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.第1実施形態
図1は、本発明による電界効果デバイスを用いたDNA塩基配列解析装置1を説明する断面模式図である。DNA塩基配列解析装置1は、電界効果デバイスとしての電界効果トランジスタ2、測定セル3、磁石4、電流計5、参照電極6、電源7、磁性粒子8を備える。
【0028】
電界効果トランジスタ2は、シリコン基板10の中に形成されたp型領域11と、該p型領域11の中に形成されたn型領域12を有する。当該n型領域12は、ソース12Sとドレイン12Dとを構成し、ソース12Sからドレイン12Dへドレイン電流が流れる。ソース12Sとドレイン12D上には、ゲート絶縁膜15が形成されている。
【0029】
ゲート絶縁膜15は、絶縁膜13と、当該絶縁膜13上に形成された保護絶縁膜14とを有する二層構造からなる。絶縁膜13は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、二酸化シリコン(SiO)を用いる。保護絶縁膜14としては窒化シリコン(SiNまたはSi)、酸化アルミニウム(Al)、酸化タンタル(Ta)などの材料を単独または組み合わせて用いる。絶縁膜13は、二酸化シリコンが水溶液と接触すると水和化し、絶縁性が劣化するが、保護絶縁膜14で覆うことにより、シリコン表面の電気的特性を良好に保つことができる。
【0030】
ゲート絶縁膜15の表面は、前記測定セル3に収容された溶液9で満たされる。本実施形態の場合、測定セル3はゲート絶縁膜15を囲むように設けられた側壁で構成される。溶液9にはリン酸緩衝溶液を用いる。溶液9中には後述する手順において酵素、基質などが導入される。
【0031】
参照電極6は溶液9中に配置されている。参照電極6とシリコン基板10は直流電源7および半導体パラメータアナライザ16に電気的に接続されている。また、上記ソース12Sとドレイン12Dは、直流電源17および電流計5に電気的に接続されている。これにより、DNA塩基配列解析装置1は、所定のドレイン電流が流れるときのしきい値電圧を半導体パラメータアナライザ16で測定し得るように構成されている。
【0032】
磁石4は電界効果トランジスタ2の下部に配置されている。磁石4は溶液9中の磁性粒子8をゲート絶縁膜15表面に引き寄せる。
【0033】
磁性粒子8は図2に示すようにポリマー被覆された磁性体18と、当該磁性体18に固定された官能基19によって構成されている。磁性体18はマグネタイト(Fe)、各種フェライト(XFe、X=Mn、Co、Ni、Mg、Cu、Li0.5、Fe0.5など)、三酸化二鉄(Fe)などから選択することができる。官能基19は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などから選択することができる。官能基19は磁性体18の表面に固定されており、末端にDNAプローブ20が固定される。該DNAプローブ20にはターゲットDNA21がハイブリダイズされている。このように、ターゲットDNA21がハイブリダイズされたDNAプローブ20を固定した磁性粒子8を、磁性粒子複合体22と呼ぶ。
【0034】
次に解析方法について説明する。上記DNAプローブ20と上記磁性粒子8を、50℃で一晩反応させることにより、上記磁性粒子8表面の官能基19にDNAプローブ20を固定する。
【0035】
ターゲットDNA21と上記DNAプローブ20が固定された磁性粒子8を50℃で1時間ハイブリダイズすることにより、上記磁性粒子複合体22を形成する(図3(A))。
【0036】
しきい値電圧を測定するために上記測定セル3内に溶液9を導入し、ゲート絶縁膜15表面を溶液9で満たす。該溶液9中に上記参照電極6を配置する。
【0037】
上記磁性粒子複合体22を該溶液9に混合する。磁石4を電界効果トランジスタ2の下部に近づけ、上記磁性粒子複合体22をゲート絶縁膜15表面に引き寄せる。電源7から参照電極6に電圧を印加することにより、所定のドレイン電流がソース、ドレイン間に流れる時のしきい値電圧を測定する。以下この値を基準値と呼ぶ。
【0038】
基準値測定後、伸長反応を起こすため磁石4を電界効果トランジスタ2から離し、ピペッティングによりゲート絶縁膜15上から磁性粒子複合体22を引き離す。ゲート絶縁膜15上から引き離された磁性粒子複合体22は溶液9中を浮遊する。
【0039】
次いで、基質であるdATP、dGTP、dCTP、dTTPのうち1つを使い溶液9中に導入する。例えばdCTPを導入する。上記基質導入後、磁石4で磁性粒子複合体22を上記ゲート絶縁膜15表面に引き寄せ、参照電極6に電圧を引加することにより所定のドレイン電流がソース12S、ドレイン12D間に流れる時のしきい値電圧を測定する。以下この値を測定値と呼ぶ。
【0040】
DNAは水溶液中で負電荷を有するので、溶液9中に基質を導入したことにより伸長反応が起きた場合、測定値は基準値に対し正の方向へ変化する。すなわち、測定値が基準値に対し正の方向へ変化した場合、導入した基質であるdCTPに含まれるシトシンにより、DNAプローブ20の3’末端から伸長反応が起こったことを意味する。この場合、ターゲットDNA21上の塩基は、シトシンと相補的であるグアニンであると解析することができる(図3(B))。このようにして、測定値と基準値との差をゲート絶縁膜15表面の電荷密度の変化として評価することにより、ターゲットDNA21の塩基を解析することができる。
【0041】
一方、基準値が測定値に対し変化しなかった場合、導入された基質に含まれるシトシンにより、DNAプローブ20の3’末端から伸長反応が起きなかったといえる。この場合、ターゲットDNA21上の塩基はシトシンと相補的であるグアニンではないと解析することができる。
【0042】
測定後、未反応の酵素、基質を溶液9から除去する。除去後、再度直前に用いた基質とは異なる基質を導入する。例えばdATPを導入する。再び、測定値を測定する。すなわち、磁石4で磁性粒子複合体22を上記ゲート絶縁膜15表面に引き寄せ、参照電極6に電圧7を引加することにより所定のドレイン電流がソース12S、ドレイン12D間に流れる時のしきい値電圧を測定する。そして、上記と同様に測定値と基準値との差から、ターゲットDNA21の塩基を解析する。すなわち測定値が基準値に対し正の方向へ変化した場合、導入した基質であるdATPに含まれるアデニンにより、DNAプローブ20の3’末端から伸長反応が起こったことを意味する。この場合、ターゲットDNA21上の塩基は、アデニンと相補的であるチミンであると解析することができる(図3(C))。
【0043】
一方、基準値が測定値に対し変化しなかった場合、導入された基質に含まれるアデニンにより、DNAプローブ20の3’末端から伸長反応が起きなかったといえる。この場合、ターゲットDNA21上の塩基はアデニンと相補的であるチミンではないと解析することができる。
【0044】
上記の手順で測定を繰り返すことにより、最終的にターゲットDNA21の全塩基配列を解析することができる。
【0045】
全塩基配列解析後、上記ゲート絶縁膜15表面上の磁性粒子複合体22を全て廃棄し、電界効果トランジスタ2表面を洗浄することにより、洗浄後の電界効果トランジスタ2を再利用することができる。
【0046】
上記した通り、本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置1は、磁性粒子複合体22を前記ゲート絶縁膜15上に引き寄せる構成とした。これにより、DNA塩基配列解析装置1は、DNAプローブ20とターゲットDNA21をゲート絶縁膜15の表面に近づけた状態で、しきい値電圧を測定することができるので、従来に比べ、長い塩基長のDNA塩基配列を容易に解析することができる。
【0047】
また、DNA塩基配列解析装置1は、磁性粒子複合体22を磁石4でゲート絶縁膜15表面に引き寄せる構成としたことにより、DNAプローブ20をゲート絶縁膜15表面に固定せずにしきい値電圧を測定することができるので、電界効果トランジスタ2を洗浄するだけで容易に再利用することができる。
【0048】
また、DNA塩基配列解析装置1は、伸長反応を行う際、磁石4を電界効果トランジスタ2から離し、磁性粒子複合体22を溶液9中に浮遊させることができるので、より容易に伸長反応をさせることができる。
【0049】
2.第2実施形態
本実施形態に係る電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置は、上記第1実施形態に対し、ゲート絶縁膜24表面上の形態が異なる。図1と同様の構成について同様の符号を付した図5を参照して説明する。本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置30において、電界効果トランジスタ37には、シリコン基板10の中にソース12Sとドレイン12Dが形成されており、ソース12Sとドレイン12D間にはチャネル31が形成されている。シリコン基板10上にはゲート絶縁膜34が形成されている。チャネル31は、参照電極6に電圧が印加されると電流が流れる部分である。当該ゲート絶縁膜34は絶縁膜32と当該絶縁膜32上に形成された保護絶縁膜33とを有する二層構造からなっている。本実施形態の場合、チャネル31の上部に形成されたチャネルに対応するゲート絶縁膜34は、ガイド部35に囲まれている。ガイド部35に囲まれた当該ゲート絶縁膜34は1つの磁性粒子複合体のみを載置し得る大きさを有している。
【0050】
ガイド部35は、1つの磁性粒子複合体22が1つのチャネル31に対応するゲート絶縁膜34上に載置されると共に、載置された磁性粒子複合体22が溶液9中に浮遊し得るように、出入り自在に形成されている。本実施形態の場合、ガイド部35はチャネル31に対応するゲート絶縁膜34の四隅の近傍に1個ずつ(合計4個)設けられた支柱36で構成されている。
【0051】
このように本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置30において、磁石4を電界効果トランジスタ37の下部に近づけると溶液9中に浮遊している磁性粒子複合体22はゲート絶縁膜34表面に引き寄せられる。当該磁性粒子複合体22は当該ゲート絶縁膜34上に設けられたガイド部35によりチャネル31に対応する当該ゲート絶縁膜34上へ正確に載置される。
【0052】
しかもガイド部35は1つの磁性粒子複合体22のみを1つのチャネル31に対応したゲート絶縁膜34に載置するように形成されているので、1つのチャネル31に対応したゲート絶縁膜34に1つの磁性粒子複合体22を載置することができる。したがって、DNA塩基配列解析装置30は再現性の高い一塩基伸長反応の計測を実現できる。
【0053】
また、ガイド部35はチャネル31に対応したゲート絶縁膜34の周囲に立設された支柱36で構成したことにより、磁石4を電界効果トランジスタ37の下部から離すと、チャネル31に対応したゲート絶縁膜34上に載置された磁性粒子複合体22を容易に引き離し、当該磁性粒子複合体22を溶液中に浮遊させることができる。したがって、電界効果トランジスタ37上を洗浄し、電界効果トランジスタ37を再利用してDNA配列解析を行う手順を繰り返す際に、磁性粒子複合体22をゲート絶縁膜表面から自由に着脱することができる。
【0054】
3.変形例1
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0055】
例えば図4に示したように、磁性粒子8に固定されたDNAプローブ20にターゲットDNA21の両端をそれぞれハイブリダイズし、本発明の方法を用いたDNA塩基配列解析を行うことができる。該DNA塩基配列解析により、従来の電界効果デバイスを用いたDNA塩基配列解析よりも長塩基の配列をより容易に解析することができる。
【0056】
上記実施形態では電界効果デバイスとして、トランジスタを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず電界効果キャパシターを用いることもできる。
【0057】
上記実施形態では二層構造を有したゲート絶縁膜について説明したが、本発明はこれに限らず単層構造のゲート絶縁膜を用いることもできる。
【0058】
また、上記実施形態では測定セルを側壁で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ゲート絶縁膜表面に連通する流路で構成してもよい。
【0059】
また、図5に示したガイド部35は、チャネル31に対応するゲート絶縁膜34の四隅の近傍に1個ずつ(合計4個)設けられた支柱36で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、1つのチャネル31に対応するゲート絶縁膜34上に1つの磁性粒子複合体を載置し得るように構成されていたり、支柱36を3個または5個以上としてもよい。
【0060】
さらにガイド部35は、複数の支柱36で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、チャネル31に対応するゲート絶縁膜34に立設された側壁で構成してもよい。
【0061】
また、図6に示したように、チャネルが複数設けられた電界効果トランジスタ(本図には図示しない)を用い、ゲート絶縁膜34上にそれぞれのチャネル31に対応したガイド部35を配置することとしてもよい。これにより、再現性の高い一塩基伸長反応の計測が実現できる。なお、この場合、それぞれのチャネル31に対応したソースとドレインは、それぞれ直流電源および電流計に電気的に接続されており、チャネル毎に電気的に互いに隔離されている。
【0062】
また、図7に示したように、ゲート絶縁膜34と電気的に接続された測定部38を設け、当該測定部38上に磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を導入し、測定部38上において測定することとしてもよい。これにより、単位面積あたりに多数のチャネルを配置することができ、高感度の一塩基伸長反応の計測が実現できる。なお、この場合、測定部38は基板39と当該基板39の一側表面に形成された電荷検出部40を有している。また、前記電界効果トランジスタ37のゲート絶縁膜34上に形成された金属電極41と前記測定部38とが電気的に接続されている。
【0063】
4.第3実施形態
本実施形態に係る電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置は、上記第1実施形態に対し、ゲート絶縁膜の構成のみ異なる。図1と同様の構成について同様の符号を付した図8を参照して説明する。本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置50において、電界効果トランジスタ51のソース12Sとドレイン12Dの上にゲート絶縁膜52が形成されている。ゲート絶縁膜52は、絶縁膜53と、保護絶縁膜55の間に磁石としての磁性膜54が形成された3層構造を有する。磁性膜54は材料としてネオジウム合金などを用いる。
【0064】
このように本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置50において、磁性粒子複合体22を溶液9内に導入すると、磁性粒子複合体22は磁性膜54によって引き寄せられ、ゲート絶縁膜52の表面に固定される(図9)。
【0065】
磁性粒子複合体22がゲート絶縁膜52の表面に固定された状態で、前記基準値を測定する。次いで、測定セル3内の溶液9を入れ替えることにより、伸長反応を起こすことができる。そして、測定セル3内の溶液9を入れ替えた後で測定値を測定する。このように、溶液9の入れ替えと測定値の測定とを繰り返すことによって最終的にターゲットDNA21のDNA配列解析を行うことができる。
【0066】
このように、本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置50は、磁性膜54で磁性粒子複合体22をゲート絶縁膜52表面に固定する構成としたので、従来のように化学処理を行わなくても、常にデバイ長内に磁性粒子複合体22を保持することができる。したがって、DNA塩基配列解析装置50は、ゲート絶縁膜52表面に対し略平行方向に伸びるDNAプローブ20とターゲットDNA21においてデバイ長内で伸長反応を起こすことができるので、長塩基のDNA配列解析をより簡便な構成で行うことができる。
【0067】
5.第4実施形態
本実施形態に係る電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置は、上記第1実施形態に対し、測定セルの形態が異なる。図1と同様の構成について同様の符号を付した図10を参照して説明する。本実施形態に係る電界効果トランジスタ61を用いたDNA塩基配列解析装置59は、チャネル31に対応したゲート絶縁膜34上に測定セルとしての流路64が形成されている。
【0068】
流路64はゲート絶縁膜34上に設けられたガラス膜に形成した溝で構成され、チャネル31に対応したゲート絶縁膜34の長手方向に沿って形成されている。流路64内は、溶液9で満たされている。また流路64の内腔は、1つの磁性粒子複合体22が通過できる大きさを有している。したがって、チャネル31は、流路64と同様に、幅が1つの磁性粒子複合体22と略同じ大きさに形成されている。
【0069】
図11に示すように、本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置59では、流路64に磁性粒子複合体22を含む溶液9を供給する供給部62が連通されている。
【0070】
供給部62は、流路64の出口に連通された排出層65、反応タンク66、および、流路64の入口に連通された吸入槽63で構成されており、排出層65、反応タンク66、吸入槽63の順に供給路67で連通されている。
【0071】
反応タンク66は溶液9を導入する開口部70を備える。開口部70から導入される溶液9は、磁性粒子複合体22および基質を含むこともできる。排出層65および吸入層63には、図示しないシリンジポンプが設けられている。
【0072】
次に、上記のよう構成された本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置59を用いた解析方法の一例について説明する。なお、以下に説明する解析方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0073】
DNA塩基配列解析装置59において、複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を吸入槽63に導入し、吸入層63に設けられた図示しないシリンジポンプを用いて、吸入槽63から溶液9を押し出す。吸入層63から押し出された複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9は、供給路67を通過して流路64に誘導される。
【0074】
複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9が流路64内に流通した時点で、シリンジポンプを停止し、流路64内に複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を滞留させる。流路64内に複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9が滞留した状態で、磁石4を電界効果トランジスタ61の下部に近づける。そうすると、複数の磁性粒子複合体22がチャネル31に対応したゲート絶縁膜34表面に引き寄せられ、磁性粒子複合体22がチャネル31に対応したゲート絶縁膜34表面に固定される。これにより、1つのチャネルに対応したゲート絶縁膜34上に複数の磁性粒子複合体22を固定することができる。複数の磁性粒子複合体22を1つのチャネル31に対応したゲート絶縁膜34上に固定した状態で基準値を測定する。
【0075】
基準値を測定した後、磁石4を電界効果トランジスタ61から離し、ゲート絶縁膜34上から磁性粒子複合体22を引き離し、磁性粒子複合体22を溶液9中に浮遊させる。次いで、排出層65に設けられた図示しないシリンジポンプを用いて、流路64内の溶液9を吸引して、磁性粒子複合体22を流路64から反応タンク66に誘導する。
【0076】
複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を流路64から反応タンク66に戻した時点で、排出層65のシリンジポンプを停止する。反応タンク66内に複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9が貯留された状態で第2の磁石68を反応タンク66の下に近づける。そうすると、複数の磁性粒子複合体22が反応タンク66の底面69に引き寄せられ、底面69に固定される。複数の磁性粒子複合体22を反応タンク66の底面69に固定した状態で図示しない排水口から反応タンク66内の溶液9を排出する。次いで、開口部70から所望の基質を含んだ溶液9を新たに反応タンク66内に導入し、伸長反応を起こす。次いで、図示しない排水口から基質を含んだ溶液9を排出し、溶液9を新たに反応タンク66内に導入する。そして、底面69から磁石68を引き離し、磁性粒子複合体22を溶液9内に浮遊させる。
【0077】
次いで、吸入層63に設けられた図示しないシリンジポンプを用いて、伸張反応後の複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を流路64内に誘導する。この後、上記した基準値と同様の手順で測定値を測定する。
【0078】
当該測定を繰り返すことにより、最終的にターゲットDNA21の全塩基配列を解析することができる。
【0079】
このように、本実施形態DNA塩基配列解析装置59は、チャネルの幅を狭く形成し、さらにチャネルの長手方向に複数の磁性粒子複合体22を配置し、同時に測定を行えるため、高感度のDNA塩基配列解析が実現できる。
【0080】
6.第5実施形態
本実施形態に係る電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置は、上記第4実施形態に対し、ゲート絶縁膜と電気的に接続された測定部が電界効果トランジスタとは別体に設けられている点が異なる。図10と同様の構成について同様の符号を付した図12を参照して説明する。
【0081】
本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置61は、電界効果トランジスタ37と、ゲート絶縁膜34上に形成された金属電極41と、当該金属電極41と電気的に接続され前記電界効果トランジスタ37とは別体に設けられた測定部74とを備える。
測定部74は基板71と当該基板71の一側表面に形成された電荷検出部72とを有している。
【0082】
図13に示すように、本実施形態に係る測定部74は、複数(本図においては4個)の電荷検出部72が互いに平行に配置されている。当該複数の電荷検出部72に対し略直交する方向に流路73が複数(本図においては4個)配置されている。したがって、各流路73が、複数の電荷検出部72を交差するように形成されている。また、流路73には、上記第4実施形態と同様の供給部が連通されており、流路73内に複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を導入し、及び排出し得るように構成されている。
【0083】
次に、上記のよう構成された本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置61を用いた解析方法の一例について説明する。なお、以下に説明する解析方法は一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0084】
DNA塩基配列解析装置61において、まず、1行目の流路73Aに複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を導入する。1行目の流路73A内に複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9が滞留した状態で、磁石4を測定部74の下部に近づける。そうすると、複数の磁性粒子複合体22が電荷検出部72表面に引き寄せられ、1行目の流路73Aと交差した各電荷検出部72表面に磁性粒子複合体22が1個ずつ固定される。これにより、各電荷検出部72において、1個毎の磁性粒子複合体22の基準値を複数同時に測定する。
【0085】
次いで、2行目の流路73Bに任意の基質を用いて伸長反応を起こした複数の磁性粒子複合体22を含んだ溶液9を導入する。そして、基準値と同様の手順で測定値を測定する。同様の測定を3行目(73C)、及び4行目(73D)の流路において順に行う。このような手順を繰り返し行うことにより、各電荷検出部72において、1個の磁性粒子複合体22の全塩基配列解析することができる。
【0086】
このように、本実施形態に係るDNA塩基配列解析装置61は、測定部74に複数の電荷検出部72を互いに平行に配置し、複数の電荷検出部72に対し略直交する方向に流路73を複数配置して、流路73と交差する電荷検出部72表面に磁性粒子複合体22を1個ずつ固定するように構成した。これにより、各電荷検出部72において1個の磁性粒子複合体22の基準値および測定値を測定できるので、全体として同時に複数の磁性粒子複合体22の基準値および測定値を測定できる。したがって、DNA塩基配列解析装置61は、各電荷検出部72毎に測定された1個の磁性粒子複合体22の基準値および測定値を比較することにより、測定誤差の検証を行うことができる。
【0087】
7.第6実施形態
本実施形態に係る電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置は、上記第2実施形態に対し、磁石が配置されないことのみが異なる。図14に示す電界効果トランジスタを用いたDNA塩基配列解析装置80は、ゲート絶縁膜34上にガイド部35が設けられている。本実施形態に係る粒子81は、比重が溶液9より大きく、自重で測定セル3の下部、すなわちゲート絶縁膜34上に沈殿し得るように構成されている。粒子81は、粒子本体(図示しない)と当該粒子本体に固定された官能基19によって構成されている。図示しない粒子本体は、磁性体18、シリカ、金、その他金属酸化物から選択することができる。また、粒子81は、直径1μm以上の図示しない粒子本体を用いることが好ましい。このように構成されたDNA塩基配列解析装置80では、自重で粒子81が沈殿するので、磁石を近づける手順を省略することができ、より容易にDNA塩基配列解析を行うことができる。
【0088】
8.変形例2
上記実施形態では、DNA塩基配列解析装置59における供給部62の排出層65および吸入層63に、図示しないシリンジポンプが設けられている場合について説明したが、本発明はそれに限らず、排出層65または吸入槽63のいずれか1つのみに図示しないシリンジポンプを設けてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、チャネル31に対応したゲート絶縁膜34上に1つの流路64が形成されている場合について説明したが、本発明はそれに限らず、2つ以上の流路64を互いに平行に形成してもよい。
【0090】
第3実施形態では、磁性粒子複合体22が球形状である場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、立方体形状や円柱形状であってもよい。
【0091】
9.実施例
第1実施形態に係るDNA塩基配列解析装置を用いて一回の伸長反応で50塩基を延長した際のしきい値電圧の変化を測定した。
【0092】
本実施例では表面にカルボキシル基が固定された直径1μmの市販の磁性粒子(7-12×109 beads/ml, Dynabeads MyOne Carboxylic Acid, invitrogen)を使用した。ターゲットDNA((5') H2N-GCA・・・T TCA GAG GAC G-H2N(3')、61塩基)は、(0.14)% (w/v)のWSCを含んだTE bufferで50μl、(37)μMに調製された。ターゲットDNAは両末端がアミノ基で修飾されており、磁性粒子表面のカルボキシル基とアミド結合を作ることによって固定することができる。上述のターゲットDNA溶液に磁性粒子を浸し、50℃で一晩反応させて、磁性粒子表面にDNAプローブを固定化した。
【0093】
0.1 %SDS(ニッポンジーン)を含む4×SSC溶液(シグマアルドリッチジャパン)を調節した。この溶液で、ターゲットDNAに対し相補的な塩基配列をもつプライマー役のDNA((3') A AGT CTC CTG C (5')、11塩基)の溶液を50μMで50μl調整し、ターゲットDNAを固定化した磁性粒子を浸漬して、50℃で反応させることでハイブリダイゼーションを行った。
【0094】
本実施例で用いた電界効果トランジスタは、ゲート絶縁膜がTa2O5/Si3N4/SiO2であるnチャネルディプレッション型である。それぞれの膜厚は、Ta2O5が50nm、Si3N4が100nm、SiO2が100nmである。また、半導体パラメータアナライザは、Agilent製(B1500A)を用いた。
【0095】
本実施例のDNA塩基配列解析装置に400μlのリン酸緩衝液(1μM Na2HPO4and 1μM KH2PO4)を導入し、上記リン酸緩衝液で100倍希釈した磁性粒子を混合し、酵素(Klenow Fragment)と基質(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)を使い37℃で10分間プライマー役のDNAの3’末端から50塩基の伸長反応を行った。伸長反応終了後、磁石を使い、ゲート絶縁膜表面に磁性粒子を誘引した。30分後、ドレイン電流が1mA時のしきい値電圧を測定し、上記基準値との差を磁性粒子表面の電荷密度の変化として定めた。その結果、しきい値電圧が正の方向に55.2mVシフトした。この結果から、DNA塩基配列解析装置で、長い塩基長である50塩基のしきい値電圧の変化を測定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、高精度、高速度での遺伝子測定が可能で、かつ低価格、小規模なシステムを実現できるDNA塩基配列解析方法及び解析装置を提供する。
【符号の説明】
【0097】
1 DNA塩基配列解析装置
2 電界効果トランジスタ
4 磁石
8 磁性粒子
15 ゲート絶縁膜
20 DNAプローブ
21 ターゲットDNA
30 DNA塩基配列解析装置
31 チャネル
32 電界効果トランジスタ
34 ゲート絶縁膜
35 ガイド部
36 支柱
37 電界効果トランジスタ
38 測定部
50 DNA塩基配列解析装置
52 ゲート絶縁膜
54 磁性膜
59 DNA塩基配列解析装置
61 電界効果トランジスタ
64 流路
73A 流路
73B 流路
73C 流路
73D 流路
74 測定部
81 粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスを備え、
前記ゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、
前記DNAプローブを固定する磁性粒子と、
前記磁性粒子を前記ゲート絶縁膜に引き寄せる磁石と
を備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析装置。
【請求項2】
前記ターゲットDNAの両端が、前記磁性粒子に固定された前記DNAプローブにそれぞれハイブリダイズされていることを特徴とする請求項1記載のDNA塩基配列解析装置。
【請求項3】
前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に1つの磁性粒子を載置させるガイド部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のDNA塩基配列解析装置。
【請求項4】
前記ガイド部は、前記チャネルに対応した前記ゲート絶縁膜の周囲に立設された支柱であることを特徴とする請求項3のDNA塩基配列解析装置。
【請求項5】
前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に前記磁性粒子を含んだ溶液を供給する流路を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNA塩基配列解析装置。
【請求項6】
前記磁石は、前記ゲート絶縁膜に一体的に形成された磁性膜で構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のDNA塩基配列解析装置。
【請求項7】
ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスと、
前記電界効果デバイスと別体に設けられ、前記ゲート絶縁膜と電気的に接続された測定部とを備え、
前記測定部上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、
前記DNAプローブを固定する磁性粒子と、
前記磁性粒子を前記測定部に引き寄せる磁石と
を備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析装置。
【請求項8】
前記測定部上に前記磁性粒子を含んだ溶液を供給する流路を備えることを特徴とする請求項7記載のDNA塩基配列解析装置。
【請求項9】
ゲート絶縁膜を有した電界効果デバイスを備え、
前記ゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析装置において、
前記DNAプローブを固定する、自重で前記ゲート絶縁膜上に沈殿する粒子を備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析装置。
【請求項10】
電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において、
前記DNAプローブを固定した磁性粒子を前記ゲート絶縁膜上に引き寄せるステップを備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析方法。
【請求項11】
前記磁性粒子に固定された前記DNAプローブに、前記ターゲットDNAの両端をそれぞれハイブリダイズするステップを含むことを特徴とする請求項10記載のDNA塩基配列解析方法。
【請求項12】
前記電界効果デバイスに形成された1つのチャネルに対応した前記ゲート絶縁膜上に1つの磁性粒子を載置させるガイド部を備えたことを特徴とする請求項10または11に記載のDNA塩基配列解析方法。
【請求項13】
電界効果デバイスと別体に設けられ、前記電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜と電気的に接続された測定部上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において、
前記DNAプローブを固定した磁性粒子を前記測定部上に引き寄せるステップを備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析方法。
【請求項14】
電界効果デバイスに設けられたゲート絶縁膜上に、ターゲットDNAをハイブリダイズしたDNAプローブ及び、酵素と基質を導入して、伸長反応した時のしきい値電圧変化を測定し、前記ターゲットDNAの塩基配列を解析するDNA塩基配列解析方法において、
前記DNAプローブを固定した粒子を前記ゲート絶縁膜上に自重で沈殿させるステップを備えたことを特徴とするDNA塩基配列解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−80873(P2012−80873A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50387(P2011−50387)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、半導体バイオセンシング技術による1チップゲノム解析事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】