説明

Dapoxyl又はその類縁体に結合するDNAアプタマー及びその使用方法

【課題】検出特異性及び検出感度を上げるため、核酸との親和性が知られていない環境応答性蛍光色素(溶媒の種類によって蛍光スペクトルが変化する蛍光色素)に結合するアプタマーであり、アプタマー以外のDNAと混ぜても蛍光を発しない、すなわちバックグラウンド蛍光がほぼないアプタマーと蛍光色素の組み合わせを提供する。
【解決手段】電子供与体(ED)から電子受容体(EW)への分子内電荷移動(ICT)をDapoxylと同じく保持することから、環境応答性蛍光色素として機能し、DNAアプタマーに結合させる色素として優れているDaoxyl又はDapoxyl類縁体。環境応答性蛍光色素を結合させた、特定の配列で示されるDNAアプタマー又は前記アプタマーから誘導されるDNAアプタマー。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
生化学の分野では、DNAなどを検出するための蛍光色素が広く用いられている。代表例を挙げれば、エチジウムブロマイドやSYBR Greenなどは、DNAにインターカレートすることで、その蛍光強度を増す。これらの蛍光色素はPCR産物の検出や細胞核の染色などの様々な用途に利用されるが、配列特異性はなく、特定の標的核酸の有無を識別することはできない。このため均一系で特定の標的核酸存在下でのみ蛍光を発する技術の開発が期待されている。
【0002】
また標的分子に対して特異的に結合する1本鎖のDNAやRNAを核酸ライブラリーから選択して取得する方法が報告されている。得られた1本鎖の核酸はアプタマーと呼ばれ、配列特異的な構造を形成し、抗体と比較すると結合する対象に制約が少ないという特徴を持っている。低分子化合物やアミノ酸,多糖,ペプチド,タンパク質など多様な構造の標的分子に結合するアプタマーが得られている。その中には既存の抗体より高い親和性と特異性を持つものが確認されており、96%相同な配列のタンパク質や、同じ配列で立体構造の異なる分子も区別できることが明らかになっている。さらに、このアプタマーは化学合成が容易であるなどの利点もある。
【0003】
蛍光色素に結合するアプタマーは1998年にWilsonとSzostakによって初めて取得された。Wilsonらは細胞染色試薬であるSulforhodamine Bに結合するDNAアプタマーを取得し、酸化反応を促進して蛍光シグナルを発するデオキシリボザイムの可能性を示唆した(非特許文献1)。またHolemannらによって同じくSulforhodamine Bに結合するRNAアプタマーが取得され、彼らは転写物の二重標識や蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer,FRET)にアプタマーが使用できる可能性を示唆した(非特許文献2)。
【0004】
また1998年にWerstruckとGreenによってHoechst dye 33258に結合するRNAアプタマーがが報告されている(非特許文献3)。さらに、非特許文献4には細胞染色剤の「マラカイトグリーン」をRNAの特異的配列に結合したものが記載されている。また、非特許文献4には、ターゲットを認識するarm部を備えるbinary RNA aptamerがターゲットと特異構造を形成し、マラカイトグリーンとの複合体を形成することにより、強い蛍光を発することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、ヘキスト33258、ヘキスト33342、ヘキスト34580、LDS751、7-AAD、ACMA、及びDAPIからなる群から選択される核酸染色剤とバイナリーDNAアプタマーとが複合体を形成し、核酸検出に用いる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-5594
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wilson C, Szostak J W. “Isolation of a fluorophore-specific DNA aptamer with weak redox activity.” Chem. Biol., Nov;5(11):609-17(1998)
【非特許文献2】Holeman L A, Robinson S L, Szostak J W, Wilson C “Isolation and characterization of fluorophore-binding RNA aptamers.” Fold Des.,3;(6):423-31(1998)
【非特許文献3】Werstuck G, Green M R ”Controlling gene expression in living cells through small molecule-RNA interaction. Science 282, 296-298 (1998)
【非特許文献4】Dmitry M. Kolpashchikov et al., “Binary malachite green aptamerfor fluorescent detection of nucleic acid”, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12442-12443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術からのアプタマーと蛍光色素の複合体は、RNAアプタマーを用いるものが、ほとんどで、この場合は、化学的安定性が低く、また合成コストも高いため、標的核酸検出のプローブとしては不適なものであった。
【0009】
又、特許文献1記載のものは、DNAアプタマーを利用するものであるが、利用されている蛍光色素は、2本鎖DNAならば配列に関係なく結合し蛍光を発するヘキスト33258などの色素をもとに構造を改変して、蛍光色素(ヘキスト誘導体等)を得たものであり、ATに富むヘアピンDNAと混合した場合でも若干蛍光を発してしまう。つまり、ヘキスト33258自体の2本鎖DNAに対する親和性が残っている。
【0010】
そこで、検出特異性及び検出感度を上げるため、核酸との親和性が知られていない環境応答性蛍光色素(溶媒の種類によって蛍光スペクトルが変化する蛍光色素)に結合するアプタマーを得ることを第1の課題とする。
【0011】
また、本願発明は、アプタマー以外のDNAと混ぜても蛍光を発しない、すなわちバックグラウンド蛍光がほぼないアプタマーと蛍光色素の組み合わせを開発することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、様々な試行錯誤の後、Dapoxyl又は下記一般式(I)であらわされるDapoxyl類縁体は、電子供与体(ED)から電子受容体(EW)への分子内電荷移動(ICT)をDapoxylと同じく保持することから、環境応答性蛍光色素として機能し、DNAアプタマーに結合させる色素として優れていることを見出した。
【0013】
【化1】

EDは電子供与性基、
EWは電子吸引性基で、XはN又はC、YはO又はSを示す。
【0014】
更に、配列番号1-12で示されるDNAアプタマー又は前記アプタマーから誘導されるDNAアプタマーに前記環境応答性蛍光色素を結合させることができる。更に、該アプタマーに環境応答性蛍光色素であるDapoxyl又は上記一般式(I)であらわされるDapoxyl類縁体が結合することにより蛍光強度を増大させることを見出して本願発明を完成させた。
【0015】
本願発明は、核酸との親和性が知られていない環境応答性蛍光色素に結合するアプタマーを提供し、更に、アプタマー以外のDNAと混ぜても蛍光を発しない、すなわちバックグラウンド蛍光がほぼないアプタマーと蛍光色素の組み合わせを提供する。
【0016】
なお本願明細書中では、環境応答性蛍光色素に結合するアプタマーとは、環境応答性蛍光色素と複合体を形成するアプタマーのことを意味している。
【0017】
更に、本願発明のアプタマーには、標的核酸、本件アプタマー及び環境応答性蛍光色素(溶媒の種類によって蛍光スペクトルが変化する蛍光色素)が存在し、3者が複合体を形成した時に蛍光強度を増大するアプタマーも包含する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明は、水溶液中ではほとんど蛍光を発しない環境応答性蛍光色素Dapoxylに結合し、その蛍光強度を250倍以上に増強するDNAアプタマーを提供するという優れた効果を奏する。さらに、本願発明はこのDNAアプタマーをDNAプローブとして用いることにより、標的核酸の存在下でDapoxylの蛍光強度が14倍に増強するという優れたプローブを提供する。
【0019】
また、本願発明は、非標識のDNAプローブを用いることにより、安価な検出法を提供する。本検出法は標的DNA,DNAプローブ及びDapoxyl類縁体の結合のみで蛍光強度を増強させているので、ノイズがほとんど生じず、明確な検出ができるという優れた効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】配列番号1および2のアプタマー存在下でのアミノエチルDapoxylの蛍光スペクトル。
【図2】配列番号1および2のアプタマー存在下でのDapoxylスルホン酸の蛍光スペクトル。
【図3】配列番号1および2のアプタマーの濃度とアミノエチルDapoxylの蛍光強度の関係。
【図4】配列番号13の両端に標的DNA1の相補鎖を連結したDNAプローブ。
【図5】DNAプローブ1とアミノエチルDapoxylに標的DNA1または2を加えたときの蛍光スペクトル。
【図6】DNAプローブ1の標的DNAとの相補鎖部分の改変。
【図7】DNAプローブ2とアミノエチルDapoxylに標的DNA1または2を加えたときの蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.はじめに
1−1.蛍光色素について
(I)蛍光色素の種類
生化学の分野では様々な用途に用いられる蛍光色素が存在する。その蛍光色素を大きく分類すると標識用蛍光色素,蛍光染色法に用いられる色素,蛍光性酵素基質に分けることができる。
【0022】
・標識用蛍光色素
それ自体が強い蛍光を発し、対象となるリガンドと共有結合させることができる。PCRプライマーなどのオリゴヌクレオチド,抗体,ストレプトアビジンなどのリガンドを修飾して蛍光性を付与することができる。
【0023】
・蛍光染色法で用いられる蛍光色素
それ自身では蛍光がほとんどなく、分析対象となる物質と結合して蛍光強度が高まる「蛍光増強」を示す。色素自体の蛍光は弱いので多くの場合に脱染操作をしなくてもそのまま可視化できる。核酸やタンパク質検出用のゲル染色色素(エチジウムブロマイドやSYBR Green,SYPRO Ruby)はこのような系統の色素である。また核酸やタンパク質の蛍光染色試薬は溶液中のサンプル測定にも用いることができ、蛍光マイクロプレートリーダーや蛍光分光光度計などでも測定できる。蛍光法ではサンプル濃度と蛍光強度の直線性の範囲が比色法よりもはるかに広いので定量性に優れる。
【0024】
・蛍光性酵素基質
本来は低蛍光であるが対応する酵素と反応した結果、蛍光強度が飛躍的に高まる化合物である。よく用いられる酵素反応は蛍光消光(クエンチング)を起こす原因となっている原子団を切り離す加水分解反応である。そのほか蛍光性酵素基質の中には酸化電位の変化を起こして蛍光色素を発生させるものがある。
【0025】
(II)蛍光色素の環境依存性
蛍光色素は自身が置かれる環境によって蛍光の特性に大きな変化がみられる。この変化を起こす主な要因としてはpHと脂溶性の2つが考えられる。
【0026】
まずpHについてだが、蛍光骨格に水酸基を持つフルオレセイン系の蛍光色素では、細胞内環境に近いpH4〜8程度でその蛍光特性を大きく変化させる。一方で水酸基を持たない蛍光色素類、BODIPYやローダミン・シアニン類ではpH4〜8領域ではほぼ安定した蛍光を示す。
【0027】
次に一般的な蛍光色素は脂溶性(疎水性)環境下に置かれた場合、強い蛍光を発し、水系溶媒中では蛍光強度が低下する。一方でフルオレセイン類は水〜アルコール類でしか蛍光を発しないため、疎水性の高いタンパク質表面などに標識されると蛍光を示さなくなってしまう。
【0028】
このように自身の置かれる環境下で蛍光の特性に変化をもたらす蛍光色素が多く存在する。この環境依存性を積極的に用いて、水中では蛍光を示さないがアルコールより疎水性の環境では強い蛍光を発する8-anilinonaphtharene-1-sulfonate(ANS)やProdanといった疎水性環境検出プローブは、疎水性タンパク質の検出に利用されている。またHoechst類やYOYO類は、水中ではほとんど蛍光を発しないが、DNAのマイナーグルーブ(副溝)に結合すると強い蛍光を発することから核染色色素として利用されている。
【0029】
(III)蛍光検出の利点
蛍光標識や蛍光染色は分子生物学や生化学研究における様々な実験や分析、品質管理などの分野で高感度検出や定量を行うために用いられる。核酸やタンパク質の定量、ウェスタン・ノーザン・サザンブロット,PCR産物の解析,DNAシーケンシング,アッセイ,顕微鏡観察など一般的に用いられている分析技術には蛍光検出を有効に活用できる可能がある。また蛍光色素はDNAやRNA,タンパク質の検出において従来の非放射性同位体(Non-RI)系の検出法より高感度に検出でき、これら多くの蛍光検出法は放射性同位体(RI)の感度に近づいてきつつある。現在の蛍光検出では蛍光標識を異なった2つの蛍光色素などで行っても、検出機器の光学フィルターと解析用ソフトウェアを用いることで、2色以上の蛍光を別々に検出することができ、特異的に標識した同一サンプルやゲル中の同一レーンサンプルを確実に分離し、確認することが可能である。
【0030】
蛍光標識を行った抗体やPCRプライマーは6ヶ月以上と長期間安定して使用できるため、用事調製の必要が少なくあらかじめ大量に準備することができる。このためDNAやタンパク質の分子量決定や定量などのようなアプリケーションに使用する場合、キット化されたさまざまな試薬を用いることができる。
【0031】
1−2.蛍光色素に結合するアプタマーについて
背景技術において説明したように、現在までに蛍光色素に結合することで蛍光強度を増強させるアプタマーが数例報告されており、取得したアプタマーを改変することで標的核酸の蛍光検出やRNAの転写の可視化を試みた例が報告されている。しかし大部分のアプタマーはRNAであり、DNAに比べ化学的・生物学的安定性に欠けるため、実用的な標的配列の蛍光検出には向かないという欠点が挙げられる。
【0032】
また山東らは、蛍光色素に結合するDNAアプタマーを2つに分割して標的配列とハイブリダイゼーションさせるという概念を用いた上記特許文献1に記載している。上記特許文献1においては、Hoechst dye 33258の誘導体に結合するDNAアプタマーのヘアピン構造を2つに分割し、標的配列と相補的な配列をステムの末端に、また分割したループ部分の末端に5塩基の相補的な配列を連結したbinaryプローブ(probe 1,probe2)を用いて標的配列の蛍光検出を行っている。その結果、標的配列と完全に相補的なプローブ、標的配列、Hoechst dye 33258誘導体の3者の存在下では、誘導体のみの蛍光強度と比べ143倍の増強が見られたが、1塩基ミスマッチが存在する標的配列(target sequence,X=C)を用いた場合は誘導体のみと比べて9倍しか蛍光強度の増強をしなかった。
【0033】
しかし、これらは既存の蛍光色素の誘導体を独自に合成する必要性があるため著しく汎用性に欠けると言える。また、核酸に結合する蛍光色素(Hoechst dye 33258やThiazole Orange)の誘導体であるため、核酸に対する親和性を完全に消失させるのが困難であり、さらに、蛍光色素の励起波長が345 nmと短く、生体中で用いた場合にDNAなどの生体分子の損傷を引き起こす可能性があるという問題を抱えていた。
【0034】
2.DNAアプタマーと複合体を形成する環境応答性蛍光色素
本願発明者は、上記のような環境応答性の蛍光色素をアプタマーと複合体を形成させることにより、水溶液中では蛍光を発せず、アプタマーと複合体を形成して初めて、蛍光を発する蛍光色素とアプタマーの組み合わせを開発することを検討した。
【0035】
本願発明者らは、アプタマーと結合させる既知の蛍光色素についての、既存の蛍光色素の誘導体を独自に合成の困難性、核酸に対する親和性を完全に消失させるのが困難性の問題点に鑑み、種々検討した結果、Dapoxylを基にアプタマーと結合する環境応答性蛍光色素を開発した。
【0036】
2−1.Dapoxy及びDapoxyl類縁体
Dapoxylは蛍光色素の一種であり、強い環境応答性がある。電子供与性基であるジメチルアミノ基から電子吸引性基であるスルホニル基への分子内電荷移動(ICT)が環境応答性の要因と考えられている。その特徴としてストークスシフトが大きい点や、脂溶性環境下では非常に強い蛍光を発する一方で水溶液中で蛍光強度が非常に小さい点などが挙げられる。またアルコールなどの有機溶媒に対して溶解し易く、溶媒によってストークスシフトの大きさが異なるなどの特徴的もある 。以下にDapoxyl sulfonic acid, sodium salt(以下Dapoxylスルホン酸と略す)とDapoxyl(2-aminoethyl)sulfonamide(以下アミノエチルDapoxylと略す)の2つの構造式を示す。
【0037】
【化2】

【0038】
また、電子供与性基(ED)から電子吸引性基(EW)への分子内電荷移動(ICT)を保持するようにする限り、Dapaoxlの類縁体は環境応答性を保持することができる。そこで、本願発明において、以下の一般式1で示される環境応答性蛍光色素に含まれる。
【0039】
【化3】

EDは電子供与性基、EWは電子吸引性基で、XはN又はC、YはO又はSを示す。
【0040】
より具体的には、
【化4】

が挙げられる。
【0041】
上記一般式(I)又は(II)において、EDとして具体的には、水酸基(-OH)、メトキシ基(-OMe)、低級C1-6のアルコキシ基、アミノ基(-NH2)、メチルアミノ基(-NH2Me)、アルキルアミノ基(-NHR,Rは低級C1-6のアルキル基)、C1-6のジアルキルアミノ基(-NR1R2,R1およびR2は低級C1-6のアルキル基)、トリアルキルアミノ基(-NR1R2R3,R1、R2及びR3は低級C1-6のアルキル基)、ジアルキルアミノフェニル基(-Ph-NR1R2,R1およびR2は低級C1-6のアルキル基)、又はメチル基(-Me)が挙げられ、EWとしては、ニトロ基(-NO2)、シアノ基(-CN)、トシル基(-Ts)、メシル基(-Ms)、ハロゲン(-F、-Cl、-Br、-I)、フェニル基(-Ph)、アシル基(-Ac)などのケト基、スルホ基,スルホニル基、スルホアミド基、C1−6のアミノアルキルスルホアミド基、カルボニル基,又はニトロ基が挙げられる。
【0042】
更に、好適には、
【化5】

(Xは、OH基(-OH),アミノ基(-NH2),アルキルアミノ基(-NHR,Rは低級C1-6のアルキル基),アミノエチルアミノ基(-NH-CH2CH2-NH2),フェニルアミノ基(-NH-Ph)である。)が挙げられる。
【0043】
3.環境応答性蛍光色素に結合するDNAアプタマー
本願発明者等は、Dapoxylをはじめとする上記一般式(I)、(II)又は(III)で表される環境応答性蛍光色素と結合することができるアプタマーをDapoxyl固定化カラムを用いたアフィニティにより選抜した。
【0044】
アプタマーを取得するためには、合成した single-stranded DNA(以下ssDNA)ライブラリーを緩衝液中で熱変性し、標的分子と特異的に結合したssDNAライブラリーだけを分離し、PCRを用いて増幅し、新たなssDNAライブリーを調製する。このような一連の作業を繰り返すことでアプタマーを得ることができる。
【0045】
実際に様々な標的分子に対してアプタマーの取得が行われており、in vitro selectionに用いられる標的分子を固定化する担体にもゲルや磁気ビーズ,メンブレンなどの種類が用いられてきた。本願発明者等はDapoxyl固定化ゲルを充填したアフィニティカラムを用いて in vitro selectionを行い、Dapoxylに結合するDNAアプタマーの取得を行った。
本願実施例に示される方法により、以下のアプタマーが選抜された。
【0046】
【表1】

【0047】
本願発明のDapoxyl又はその類縁体と結合するDNAアプタマーには、上記配列番号1-10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド及び、配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列を含むポリヌクレオチドを包含する。更に具体的には、本願発明のDNAアプタマーには、上記Dapoxyl類縁体と複合体を形成する部分配列が、(イ)配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、Gが4個以上連続した部分を1〜2か所含み且つGが2個以上連続した部分を3〜4か所含む配列、(ロ)配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、ステム・ループ部を含む塩基配列、更に、(ハ)配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、ループ部を含む塩基配列を含むポリヌクレオチドが包含される。
【0048】
更に、本願発明のDapoxyl又はその類縁体と結合するDNAアプタマーには、配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列であって、該部分配列はGの繰り返し配列を含むポリヌクレオチドを包含する。
【0049】
また、本願発明のDapoxyl又はその類縁体と結合するDNAアプタマーには、上記配列番号1〜10に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1又は複数の塩基が置換、付加及び/又は欠失されて塩基配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する塩基配列からなるポリヌクレオチドを包含する。このように置換、付加及び/又は欠失されている塩基配列は、具体的には、配列番号1〜10のいずれかの塩基配列に対して、相同性が95%以上、好ましくは96%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有しているものが挙げられる。
【0050】
Dapoxyl又はその類縁体には、上記2.DNAアプタマーと複合体を形成する環境応答性蛍光色素で説明した、Dapoxylを基に開発した環境応答性蛍光色素が包含される。
【0051】
3−2.選抜されたDNAアプタマーから誘導されるDNAアプタマー(選抜されたDNAアプタマーの改変)
また、本願発明者等は、更に、上記配列を分析し、配列番号1(クローン10)に含まれるステム・ループを形成する配列がDapoxylとの結合に重要な役割を果たすことを見出した。
【0052】
配列番号1中の42塩基の配列の下線部分がステムを形成し、その結果、下のようなステムループを形成する。このループ部分にGの繰り返し配列の特徴(例えば、Gが4個以上連続した部分を1〜2か所含み且つGが2個以上連続した部分を3〜4か所含む配列)が含まれている。
【0053】
【表2】

【0054】
【化6】

【0055】
同様に配列番号2(クローン1)にも共通の特徴として以下の47塩基のステムループを形成する配列(配列番号12)が含まれている。
【0056】
【化7】

【0057】
以上のことから、本願発明には、配列番号11で示される配列において、1−8ntと36-42ntが1塩基のミスマッチを含んで相補的にステム部を形成し、9−35ntがループを形成する係る構造が、Dapoxylとの結合に重要な役割を果たし、このような二次構造を保つ限り、Dapoxylとの結合できるので、本願発明で使用できるDNAアプタマーに含まれうる。さらに、配列番号11で示される配列において、1−8ntと36-42ntが1塩基のミスマッチを含んで相補的に形成するステム部及び9−35ntが形成するループ部をとを具備する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ステム部を構成する塩基対の数は1個又は2個多くてもよく、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むDNAアプタマーも本願発明には包含される。同様に、本願発明には、配列番号12で示される配列において、2−10ntと38−46ntにより相補的に形成されるステム部、及び11−37ntにより形成されるループ部を具備する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ステム部を構成する塩基対の数は1個又は2個多くてもよく、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むDNAアプタマーも包含される。
【0058】
また、本願発明のDapoxyl又はその類縁体と結合するDNAアプタマーには、上記配列番号11〜12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1又は複数の塩基
が置換、付加及び/又は欠失されて塩基配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する塩基配列からなるポリヌクレオチドを包含する。このように置換、付加及び/又は欠失されている塩基配列は、具体的には、配列番号11〜12のいずれかの塩基配列に対して、相同性が95%以上、好ましくは96%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有しているものが挙げられる。
【0059】
又本願発明のアプタマーは、選抜されたアプタマーも改変されたアプタマーも、いずれも、いわゆるバイナリー型として形成しても良いことはいうまでもない。なお、バイナリー型アプタマーは、周知の方法、例えば、上記非特許文献4に記載の方法で作成することができる。
【0060】
3−2−2.アプタマー中のループ構造
また、本発明者等は、以下の実施例に示されるが如く、上記アプタマー配列のループ部分を用いて、標的配列を標識できることを見出した。より具体的には、配列番号11で示される配列において、9−35ntがループを形成する係る構造が、Dapoxyl又はその類縁体との結合に重要な役割を果たし、このような二次構造を保つ限り、Dapoxylとの結合できることを見出した。
【0061】
そこで、配列番号11で示される配列において、9−35ntがループを形成する係る構造体、言い換えれば配列番号13で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドも、本願発明に含まれる。さらに、配列番号11で示される配列において、9−35ntがループを形成する係る二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むポリヌクレオチド(ループ構造体)も本願発明には包含される。同様に、配列番号12で示される配列において、11−37ntが形成するループ構造体、又は配列番号12で示される配列において、11−37ntが形成するループと同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むポリヌクレオチド(ループ構造体)も本願発明には包含される。
【0062】
また、本願発明は、配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含むループ構造を含むポリヌクレオチドを包含する。更に配列番号1-10で示される塩基配列に含まれる配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含むループを形成する係る二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むDNAアプタマーも本願発明には包含される。
【0063】
驚くべきことに、上記ループ構造は、Dapoxyl又はその類縁体と複合体を形成しても蛍光増強効果を示さないが、以下に示すループ部分に標的核酸配列に対する認識部位(プローブ部位)を設けたDNAプローブはDNAアプタマーとして機能し、標的配列とDapoxyl又はその類縁体の存在下複合体を形成して蛍光増強効果を示す。
【0064】
4.DNAアプタマーの応用
4−1.DNAプローブの設計
例えば、配列番号13で示される塩基配列からなるループ構造の3'側及び/又は5’側に標的配列と相補的な配列を設計することにより、Dapoxyl又はその類縁体と複合体を形成するDNAアプタマーを標識として標的核酸配列をラベルし、検出することが出来る。
【0065】
この場合、ループ構造の3'側及び/又は5’側に標的配列と相補的な配列は、(イ)相互に相補的な部分をできるだけ含まない方が望ましく、(ロ)ループ部分との相補性も少ない方が望ましい。
【0066】
また、配列番号13で示される塩基配列からなるループ構造に限らず、(i)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列を含むポリヌクレオチド、具体的には、(ii)上記Dapoxyl類縁体と複合体を形成する部分配列がステム・ループ部分を含む塩基配列で示されるポリペプチド、更に、(iii)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる配列であって、ループ部分を含む塩基配列を含むポリヌクレオチド、更に、(iv)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、且つDapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列であって、該部分配列はGの繰り返し配列(例えば、Gが4個以上連続した部分を1〜2か所含み且つGが2個以上連続した部分を3〜4か所含む配列)を含むポリヌクレオチドなどについても、それぞれ、3'側及び/又は5’側に標的配列と相補的な配列を設計することにより、Dapoxyl又はその類縁体と複合体を形成するDNAアプタマーを標識として標的核酸配列をラベルできるDNAプローブを設計することができる。
【0067】
4−2.DNAプローブを用いた標的核酸の検出及びそのためのキット
本願発明者は、上記 DNAプローブが標的DNA配列と結合してアプタマーを形成し、Dapoxyl又はDapoxyl類縁体の蛍光を増強させる非標識DNAプローブが得られることを見出した。
【0068】
すなわち本願発明には、4−1.記載のDNAプローブを及びDapoxyl又はDapoxyl類縁体を用いて、標的核酸を検出する方法を包含する。
【0069】
例えば、緩衝液(40 mM Tris/HCl, 280 mM NaCl, 10 mM KCl, 4 mM MgCl2, pH 7.6)中でDNAおよびDapoxylまたはDapoxyl類縁体の最終濃度250 nM, DMSO濃度0.025%となるようにサンプル調製し、これらのサンプルを励起波長 350〜450 nm ,蛍光波長 450 nm〜650 nmで蛍光測定を行うことができる。
【0070】
下記実施例により示されるように、本検出法は標的DNA,上記DNAプローブ及びDapoxyl類縁体の結合のみで蛍光強度を増強させているので、ノイズがほとんど生じず、明確な検出ができるという極めて優れたものである。
【0071】
本願発明は、上記4―1.記載のDNAプローブ並びに、上記2−1.に記載のDapoxy又はDapoxyl類縁体を含む、標的核酸検出キットを包含する。
【0072】
4−3.その他の応用
また、本願発明のDapoxyl又はその類縁体と結合するDNAアプタマーはXu W,et al(Anal Chem. 2010 Jan 15;82(2):574-8.)に記載の他の標的分子に結合する既知のアプタマーとマラカイトグリーンに結合するRNAアプタマーを連結することにより、アデノシンなどの標的核酸以外の物質を検出する方法にも、マラカイトグリーンに結合するRNAアプタマーの代替物として適用できる。
【実施例】
【0073】
[実施例1]Dapoxylに結合するアプタマーの選択
1−1 Dapoxyl固定化カラムの作成
カラム担体への固定化は分子内に1級アミノ基を持つアミノエチルDapoxyを使用した。またカラム担体として末端に活性化されたカルボキシル基を持つNHS-activated Sepharose 4 Fast Flow(セファロースゲル,GE Healthcare)を用いた。セファロースゲルにアミノエチルDapoxylをアミド結合を介して固定化し、固定化ゲル300μlをプラスチック製カラムに入れ、Dapoxyl固定化カラムとした。
【0074】
1−2 アプタマーの選択
アプタマーのin vitro selectionはKato, T, et al(Biochim Biophys Acta. 2000,1493(1-2),12-8)に記載の方法を参考に行った。ssDNA(1本鎖DNA)ライブラリーとして、中央に40塩基のランダムな配列を持ち、5’末端をFITC標識したssDNA(5'-FITC-GTACCAGCTTATTCAATT-N40-AGATAGTATGTTCATCAG-3',N40はランダムヌクレオチド配列を示す)を用いてラウンド1のin vitro selectionを行った。ラウンド1では、まずssDNAライブラリーをセレクション緩衝液(40mM Tris/HCl, 280mM NaCl,10mM KCl,4mM MgCl2, pH7.6)に溶解させ全量を250μl,濃度を2μMとした。このssDNAライブラリー溶液を、95℃で5分加熱して熱変性し、その後30分掛けて25℃まで温度を下げた。
【0075】
Dapoxyl固定化カラムに熱変性を行ったssDNAライブラリー溶液250μlを注入し、セレクション緩衝液による洗浄を5回行った。洗浄後、アフィニティカラムに尿素-TE溶出液(3.5 M Urea,40mM Tris/HCl,10mM EDTA)を1.2ml注入し、溶出液を回収した。溶出液をエタノール沈殿してssDNAを回収し、蛍光測定を行い、各ラウンドのssDNA回収量を算出した。回収したssDNAをPCRにより増幅した。PCRプライマーには5’末端をFITC標識したプライマー(5'-GTA CCA GCT TAT TCA ATT-3')と5’末端をビオチン標識したプライマー(5'-CTG ATG AAC ATA CTA TCT-3')を用いた。
【0076】
PCRのサーマルサイクルは94℃(1分),46℃(1分),75℃(1分)で行い,このサイクルを数回から数十回繰り返すことでDNAの増幅を行った。次にPCR産物をエタノール沈殿した後、アビジン固定化カラム(NeutrAvidin Agarose Resin (Thermo)250μlをポリスチレンカラムに充填して調製)に注入し、カラムをカラム緩衝液で洗浄した後、0.1 M NaOH でssDNAを溶出した。蛍光測定してssDNA量を算出したのち、ラウンド2以降のin vitro selectionに使用した。
【0077】
9ラウンドのin vitro selection 後、カラムに結合するssDNAライブラリーは32%まで増加したことから、アプタマーの取得が確認できた。pGEM-Tクローニングベクター内にDNAライブラリーをクローン化して、通常の方法により塩基配列を決定した。その結果10種の異なるアプタマーの塩基配列を得た(配列番号1-10)。
【0078】
[実施例2]アプタマーのDapoxylに対する蛍光増強特性と親和性の評価
図1は配列番号1,配列番号2で示されるアプタマー及びランダムssDNAライブラリーの存在下、非存在下におけるアミノエチルDapoxylの蛍光測定結果である。セレクション緩衝液中で各DNAの最終濃度250nM,DMSO濃度0.025%となるようにサンプル調製した。これらのサンプルを励起波長400nm,蛍光波長450nm〜650nmで蛍光測定を行った。配列番号2で示されるアプタマー存在下では、540nmにおける蛍光強度が151倍に、配列番号1で示されるアプタマー存在下では230倍に蛍光強度が増強した。またランダムDNAライブラリーでは蛍光強度が2倍になり、24塩基対の二本鎖DNA(1本鎖DNA,5'-GCC CCT CAA CGT TAG CTT CAC CAA-3’及びその相補鎖)存在下ではアミノエチルDapoxylの蛍光強度の増強は確認できなかった。これにより、配列番号1,2で示されるアプタマー中にアミノエチルDapoxylと結合し、蛍光増強を促す配列が存在していることがわかった。
【0079】
図2は配列番号1,配列番号2で示されるアプタマー及びランダムssDNAライブラリーの存在下、非存在下におけるDapoxylスルホン酸の蛍光測定の結果である。セレクション緩衝液中で各DNAの最終濃度250nM,DMSO濃度0.025%となるようにサンプル調製した。配列番号1で示されるアプタマー存在下での励起波長400nmにおけるDapoxylスルホン酸の蛍光波長のピークが500nmに検出された。一方、配列番号2で示されるアプタマー存在下でのDapoxyスルホン酸の蛍光強度の増強はほとんど確認できなかった。この結果より、配列番号1で示されるアプタマーはDapoxylスルホン酸に対して高い親和性を持つが配列番号2で示されるアプタマーはDapoxylスルホン酸に対して結合しないことが示唆された。
【0080】
Constantin T P,et al,(Organic Letters vol.10;No.8,1561-64(2008))を参考に、アプタマーと蛍光色素の解離定数(Kd)の算出法(蛍光滴定法)を用いて、アプタマーのアミノエチルDapoxylに対する解離定数を求めた。セレクション緩衝液中で、アプタマー(0〜400nM)とアミノエチルDapoxyl(100nM)を混合し、DMSO 0.025%(v/v)とし、励起波長400nm,蛍光波長540nmで蛍光測定を行った(図3)。測定結果(各3回)の平均値から非線形最小二乗法により解離定数を算出した。その結果、配列番号2で示されるアプタマーのアミノエチルDapoxylとの解離定数は33.0nMと決定し、配列番号1で示されるアプタマーのアミノエチルDapoxylとの解離定数は22.5nMと決定した。
【0081】
[実施例3]アミノエチルDapoxylの蛍光増強に必要な部分配列の特定
表3には、配列番号1で示されるアプタマーの各部分配列又は部分配列を包含する配列存在下(250nM)でのアミノエチルDapoxyl(250nM)の蛍光強度を配列番号1で示されるアプタマー存在下での蛍光強度に対する相対値(%)で示している。励起波長400nm,蛍光波長540nmで蛍光測定を行った。その結果、配列番号11で示される部分配列(10-42)存在下では、125%の蛍光強度を示したことから、この配列がDapoxylとの結合および蛍光増強に重要であることが示唆された。なお、配列番号11で示される部分配列はアミノエチルDapoxylのみに比べて、286倍の蛍光強度を示した。次に10-42から5’末端側の6塩基と3’末端側の5塩基を除去した配列である10-31を用いて蛍光測定した結果、47%の蛍光強度となり、更に10-31から両末端を2塩基ずつ削除した配列13で示される部分配列(10-27)を測定したところ、配列1で示されるアプタマーの1%の蛍光強度であった。次に10-42に一塩基追加した配列である10-43を用いて蛍光測定した結果、69%の蛍光強度となり、10-42の両末端の5塩基を変更した10-43-2を測定したところ、配列1の24%となった。
【0082】
【表3】

【0083】
[実施例4]アプタマーの部分配列を用いた標的配列の蛍光検出
配列番号11で示されるアプタマーの両末端を数塩基ずつ削除して、アミノエチルDapoxylに結合しない(蛍光増強を示さない)27塩基の部分配列(配列番号13)を得たことから、この部分配列の両末端に標的DNA1の相補鎖を連結することにより、均一系での標的DNA1の蛍光検出を可能とするDNAプローブ1を設計した(図4)。セレクション緩衝液中で標的DNA1(または標的DNA2),DNAプローブ1,アミノエチルDapoxylの最終濃度をそれぞれ1μM,DMSO濃度0.025%となるようにサンプル調製し、励起波長400nmで蛍光測定を行った(図5)。その結果、標的DNA1存在下ではDNAプローブ1のみに比べて540nmにおけるアミノエチルDapoxylの蛍光強度が14倍に増強されたのに対して、異なる配列の標的DNA2存在下ではほぼ蛍光強度は変化しなかった。したがって、DNAプローブ1を用いた標的DNA1の配列特異的な蛍光検出に成功した。以下に各DNAの配列を示す。
【0084】
【表4】

【0085】
[実施例5]異なる標的配列の蛍光検出
DNAプローブ1の標的DNA1に対する相補鎖部分を標的DNA2に相補的な配列に改変したDNAプローブ2を設計し、上記と同様の条件で標的DNA2の特異的な検出を試みた(図6)。その結果、図7に示すように、標的DNA2存在下ではDNAプローブ2のみに比べて540nmにおけるアミノエチルDapoxylの蛍光強度が約3倍に増強されたのに対して、標的DNA1存在下ではほとんど蛍光強度は変化しなかった。したがって、DNAプローブ2を用いた標的DNA2の配列特異的な蛍光検出に成功した。以下にDNAプローブ2の配列を示す。
【0086】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本願発明は、核酸の同定及び検出、並びに低分子化合物やアミノ酸,多糖,ペプチド,及びタンパク質の同定や検出に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)記載のDNAアプタマー。
(a)上記配列番号1〜12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する前記部分配列からなるポリヌクレオチド。
(c)上記配列番号1〜12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1又は複数の塩基が置換、付加及び/又は欠失された塩基配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する前記部分配列が、Gが4個以上連続した部分を1〜2か所含み且つGが2個以上連続した部分を3〜4か所含む配列、又はステム・ループ構造若しくはループ構造を形成する配列である、請求項1記載のDNAアプタマー。
【請求項3】
以下の(a)又は(b)記載のDNAアプタマー。
(a)配列番号11で示される配列において、1−8ntと36-42ntにより1塩基のミスマッチを含んで相補的に形成されるステム部及び、9−35ntにより形成されるループ部とを具備する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ステム部を構成する塩基対の数は1個又は2個多くてもよく、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むDNAアプタマー。
(b)配列番号12で示される配列において、2−10ntと38−46ntにより相補的に形成されるステム部、及び11−37ntにより形成されるループ部を具備する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ステム部を構成する塩基対の数は1個又は2個多くてもよく、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むDNAアプタマー。
【請求項4】
DNAアプタマーが複合体を形成する環境応答性蛍光色素が以下の一般式Iで表される一般式(I)で表されるDapoxyl又はその類縁体である、請求項1〜3いずれか1項記載のDNAアプタマー。
【化1】

(EDは電子供与性基,
EWは電子吸引性基で、XはN又はC、YはO又はSを示す。)
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるDapoxyl又はその類縁体が、下記一般式(II)又は(III)で表される、請求項4記載のDNAアプタマー。
【化2】

(ここでEDは、水酸基(-OH)、メトキシ基(-OMe)、低級C1-6のアルコキシ基、アミノ基(-NH2)、メチルアミノ基(-NH2Me)、アルキルアミノ基(-NHR,Rは低級C1-6のアルキル基)、C1-6のジアルキルアミノ基(-NR1R2,R1及びR2は低級C1-6のアルキル基)、トリアルキルアミノ基(-NR1R2R3,R1、R2及びR3は低級C1-6のアルキル基)、ジアルキルアミノフェニル基(-Ph-NR1R2,R1およびR2は低級C1-6のアルキル基)、又はメチル基(-Me)から選択される電子供与性基であり、
EWは、ニトロ基(-NO2)、シアノ基(-CN)、トシル基(-Ts)、メシル基(-Ms)、ハロゲン(-F、-Cl、-Br、-I)、フェニル基(-Ph)、アシル基(-Ac)などのケト基、スルホ基,スルホニル基、スルホアミド基、C1-6のアミノアルキルスルホアミド基、カルボニル基,又はニトロ基から選択される電子吸引性基である。)
【化3】

(ここで、Xは、Xは、OH基(-OH),アミノ基(-NH2),アルキルアミノ基(-NHR,Rは低級C1-6のアルキル基),アミノエチルアミノ基(-NH-CH2CH2-NH2),フェニルアミノ基(-NH-Ph)である。)
【請求項6】
前記一般式(I)で表されるDapoxyl又はその類縁体が、下記(a)又は(b)で表される、請求項4記載のDNAアプタマー。
【化4】

【請求項7】
以下の(a)又は(b)のループ構造体。
(a)配列番号11で示される配列において、9−35ntが形成するループ構造体、又は配列番号11で示される配列において、9−35ntがループを形成する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むループ構造体。
(b)配列番号12で示される配列において、11−37ntが形成するループ構造体、又は配列番号12で示される配列において、11−37ntが形成するループと同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むループ構造体。
【請求項8】
下記(i)〜(vi)から選択されるポリヌクレオチドの3'側及び/又は5’側に標的配列と相補的な配列を含むDNAプローブ。
(i)配列番号13で示される配列からなるポリヌクレオチド。
(ii)配列番号11で示される配列において、9−35ntがループを形成する二次構造と同じ形状及びサイズの二次構造(ただし、ループ部を構成する塩基数は±2個の範囲でもよい)を形成する領域を含むポリヌクレオチド。
(iii)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、Dapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列を含むポリヌクレオチド。
(iv)上記Dapoxyl類縁体と複合体を形成する部分配列がステム・ループ部分を含む塩基配列で示されるポリヌクレオチド。
(v)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる配列であって、ループ部分を含む塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(vi)配列番号1-12で示される塩基配列に含まれる部分配列であって、且つDapoxyl類縁体と複合体を形成する配列を含む部分配列であって、該部分配列はGが4個以上連続した部分を1〜2か所含み且つGが2個以上連続した部分を3〜4か所含む配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8記載のDNAプローブ及び下記一般式(I)で示されるDapoxyl類縁体を試料に添加し、Dapoxyl類縁体の蛍光強度を測定することを含む、試料中の標的配列を検出する方法。
【化5】

(EDは電子供与性基,
EWは電子吸引性基で、XはN又はC、YはO又はSを示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−70649(P2012−70649A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216475(P2010−216475)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ポスター発表 研究集会名:日本化学会第90春季年会 主催者名:社団法人日本化学会 発表日:2010年3月28日 講演題目:環境応答型蛍光色素Dapoxy1に結合するDNAアプタマーの探索
【出願人】(501218566)学校法人片柳学園 (10)
【Fターム(参考)】