説明

E.コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローン

本発明は、エシェリキア・コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローン、その製造方法並びにクローニング運搬体としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はE.コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローン、その製造方法並びにこうして得られた細菌のクローニング運搬体としての使用に関する。
【0002】
E.コリ、すなわち本来、特にヒト及び動物の腸に存在する細菌は、既に久しい以前から、詳細な微生物学的研究及び遺伝子工学的研究の対象となっており、そして遺伝子工学において、特に規定の遺伝子もしくはタンパク質のクローニング及び/又は発現のために使用される。
【0003】
エシェリキア属の大部分の菌株は、腸内腔の外部で病原性であり、そして一般に冒された部位に感染をもたらす。エシェリキア・コリ属の非病原性菌株はドイツ微生物保存機関に寄託された菌株DSM6601であり、該菌株は全てのその他のE.コリ株と幾つかの遺伝的特徴において相違している。しかしながら、この菌株は困難な状況下にのみ遺伝子操作できるにすぎず、そして一部で全く遺伝子操作できず、従って容易なクローニング手段として使用することができないことが指摘されていた。
【0004】
E.コリ株DSM6601は、pMut1又はpMut2と呼ばれ、3177kbもしくは5552kbのサイズを有する2種のプラスミドを本来保有している。これらのプラスミド及びそれらのDNA配列は、例えばUS6,391,631号に記載されている。
【0005】
E.コリ細菌の病原性もしくは非病原性が明らかに部分的にそれらのプラスミドによって制御されるという考察と部分的に生じるE.コリ株の“遺伝的耐性”がそれらの潜在のプラスミドと関連がありうるという更なる考察とを前提として、本発明の課題は、プラスミド不含であるが、その他にそのゲノムDNAに関して本来の菌株と遺伝的に完全に同一なE.コリ株を生み出すことである。
【0006】
前記課題は、E.コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローンを提供することと、かかるクローンの製造方法によって解決される。
【0007】
図面において、
図1は、概略の形式で菌株DSM6601のプラスミド不含のクローンの製造方法の経路を示しており;
図2はプラスミドpMut1−Tcの物理地図を示しており;
図3はプラスミドpMut2−Knの物理地図を示している。
【0008】
本発明に導いた時間のかかる研究によって、菌株DSM6601のプラスミド不含のクローンは通常の遺伝子工学的手法では全く製造できないか、又は多大な困難を伴ってのみ製造できるに過ぎないので、かかるクローンの発生のために特定の経路をとらねばならないことが明らかとなった。該菌株の野生型はそのゲノムDNAの他に異なるサイズの2種のプラスミドを有するので、これらのプラスミドを複数の、部分的に並行して進行する工程で排除せねばならない。
【0009】
本発明によるクローンの製造のために、本発明による方法によれば、E.コリ株DSM6601中に本来存在するプラスミドpMut1及びpMut2を第一工程でそれぞれ抗生物質耐性により標識する。そのために該プラスミドを従来の方法により単離し、そして耐性遺伝子を所望の部位に組み込む。有利な実施形によれば、耐性遺伝子を、プロモーターを有し、それが構成的又は誘導的であってもよい発現カセットと一緒にそれぞれのプラスミドに組み込む。
【0010】
こうして得られたプラスミドを次いで従来の方法に従って、例えばCaCl法又はエレクトロポレーションによって、適当な宿主に導入し、そしてそこでクローニングし、その際、それぞれのプラスミド中に組み込まれた耐性遺伝子は該プラスミドを有する宿主細胞の選択を容易にする。1つの耐性遺伝子を有するプラスミドのクローニングのために適当な宿主は、例えばE.コリ株DH5α又はE.コリ株HB101である。
【0011】
耐性遺伝子を有するプラスミドを単離し、そして引き続きsacB遺伝子を該プラスミド中に組み込み、更なるマーカーを準備する。
【0012】
こうして得られたもしくは標識されたプラスミドを次いでE.コリ株DSM6601に導入する。
【0013】
形質転換後に、E.コリ株DSM6601を、先行する工程でプラスミド中に組み込まれた耐性遺伝子が耐性を与えた1種以上の抗生物質を含有する培地上で培養する。
【0014】
かかる培地上での培養によって、栄養培地中に含まれる抗生物質に対して耐性であるクローンのみが増殖する。更に該細菌は本来のプラスミドpMut1及びpMut2をその増殖のためにもはや必要としないので、これらの細菌は不必要な遺伝材料を失い、結果として最後には該細菌は改変されたプラスミドpMut1及びpMut2(これらは1種以上の耐性遺伝子とsacB遺伝子を有する)のみを有する。
【0015】
更なる工程で、こうして培養された細菌を、sacBを有する細菌の増殖を阻害し、その際、選択圧がかかり、実質的にsacB遺伝子を欠失した細菌の増殖のみを可能にする栄養培地中に移す。このことは、該菌株を30℃で10%のサッカロースの存在下に培養することによって行われてよい。それというのもかかる条件ではsacB遺伝子を有するプラスミドを欠失したかかるクローンのみを複製することができるからである。
【0016】
結果として菌株DSM6601のプラスミド不含の誘導体が得られる。目下、本発明によるプラスミドを損失したクローンはゲノムDNAの改変が全くなされておらず、そして意想外にも良好にクローニング運搬体として使用できることが判明した。
【0017】
従って該クローンは研究所で多くの遺伝子もしくはタンパク質のクローニングもしくは発現のための宿主細胞として危険なく使用できる。本発明による菌株DSM6601ΔpMut1/2による試験は、該菌株が外来DNAについて、これが分離された形で存在する固有のプラスミド中に組み込まれる場合には特に良好なアクセプターである、従ってすなわち固有のプラスミドは外来DNAのためのクローニングベクターとして機能することを示している。更に該菌株は、これらが非病原性菌株から誘導されるので、動物及びヒトにおける胃腸管の障害の治療のために使用できる。このために、該菌株を所望であれば、粘膜への細菌の接着を促進する外来遺伝子、例えば場合により宿主動物特異的に、例えばウシ及び/又はブタの粘膜への細菌の接着を促進し、従って別の病原性微生物の増殖を妨害もしくは遮断するアドヘシンで形質転換する。
【0018】
ここで本発明を実施例に関連させて更に詳説する。
【0019】
実施例1
pMut1の改変
野生型のDSM6601に本来から存在する両者のプラスミドpMut1及びpMut2をキアゲン(QIAGEN)のプラスミド−ミディプレップ(Midiprep)プロトコール(キアゲンプラスミド調製ハンドブック12/2002、第16〜20頁)に従って単離した。
【0020】
プラスミドpMut1の標識のために、ベクターpBR322から誘導されたテトラサイクリン耐性カセットを選択した。付属するプロモーターはプラスミドpASK75から派生したものである。このクローニングにより得られたプラスミドをpKS−tetAtetp/oと呼称する。インサートのtetAtetp/o(インサートサイズ1.5kb)を制限酵素XbaI及びHindIIIで切り出した。XbaI/HindIII断片をNdeI制限切断部位を介してプラスミドpMut1に組み込んだ。
【0021】
このために相応の酵素によるプラスミドの制限消化により制限バッチをカラム(キアゲン、PCR精製キット(PCR Purification Kit))を介して精製し、そして“ブラントエンド”を形成するためにクレノウ処理を行った。プラスミドpMut1の再ライゲーションを回避するために、制限酵素NdeIで直鎖化され、かつクレノウ酵素で処理されたプラスミドの脱リン酸化を実施した。引き続きベクターpMut1及びインサートのtetAtetp/oをライゲーションし、そしてそれによりE.コリK−12株DH5αを形質転換した。
【0022】
コンピテント細胞を製造するために1.5mlのオーバーナイト培地を150mlのLB培地(ルリア−ベルタニ培地)に接種し、そして37℃でOD600=0.5になるまで振盪した。次いで細菌培養を20分間にわたり氷上でインキュベートし、そして10分間にわたり4℃で4000rpmで遠心分離した。細菌ペレットを滅菌された氷冷10%グリセリン中で、まずは初期容量の100%で、次いで50%で、そして最後に10%で3回洗浄した。最後に、洗浄されたペレットを300μlの10%グリセリン中に再懸濁し、アリコート(40μl)に分け、そして−80℃で保存した。細菌細胞の形質転換のために、1〜2μlのプラスミドDNA(1〜100ng)を40μlの氷上解凍されたコンピテント細胞と混合し、そして氷上で5分間インキュベートした。次いでこのバッチを両電極間に気泡が入らないようにして、滅菌され事前に冷却された2mmのエレクトロポレーションキュベットにピペット導入した。該キュベットの水分を拭き取り、電極ホルダ中に装填した。2.5kV、200Ω及び25μFで電気インパルスを通した後に、細菌懸濁液を1mlのLB培地でキュベットからすすぎだし、そして37℃で1〜2時間にわたり振とう器中でインキュベートした。引き続きこれらの細菌を遠心分離し、そして上清を100μlにまで抜き取った。沈殿物を残りの100μl中に再懸濁し、Tc含有の選択プレート上にプレーティングし、一晩37℃でインキュベートした。
【0023】
クローニングの成果を幾つかの細菌クローンのそれぞれのプラスミドの微量調製によって検査した。テトラサイクリンカセットで標識されたプラスミドpMut1をpMut1−Tcと呼称する。図2にプラスミドpMut1−Tcの物理地図を示す。テトラサイクリン耐性を担うDNA断片についての挿入部位(本来は単一のNdeI部位)が示されている。このDNA断片はクローニングに適当な単一のEcoRI配列をも有している。更にプライマーのMuta5及びMuta6についての結合部位が示されており、これらはこれらのプラスミドのPCRによる特異的な検出のために適している。
【0024】
実施例2
pMut2の改変
プラスミドpMut2の標識のために、ベクターpACYC177から誘導されたカナマイシン耐性カセットを選択した。このために前記ベクターから制限酵素StuIにより耐性カセット(サイズ1.34kb)を切り出し、そしてBglII制限切断部位を介してプラスミドpMut2に組み込んだ。相応の酵素によるプラスミドの制限消化により制限バッチをカラム(キアゲン、PCR分別キット(PCR Fraktion Kit))を介して精製し、そしてプラスミドpMut2に、クローニングのための“ブラントエンド”を形成するためにクレノウ処理を行った。プラスミドpMut2の再ライゲーションを回避するために、制限酵素BglIIで直鎖化され、かつクレノウ酵素で処理されたプラスミドの脱リン酸化を実施した。引き続きベクターpMut2及びカナマイシンカセットをライゲーションし、そしてそれによりE.コリK−12株DH5αを実施例1に記載のように形質転換した。形質転換体をKn含有のLB寒天培地上にプレーティングした。クローニングの成果を幾つかの細菌クローンのプラスミドの微量調製によって検査した。カナマイシンカセットで標識されたプラスミドpMut2をpMut2−Knと呼称する。
【0025】
図3にプラスミドpMut2−Knの物理地図を示す。カナマイシン耐性カセットについての挿入部位(本来は1つのBglII部位)並びに単一でクローニング部位として適したEcoRI配列が書き入れられている。Muta7乃至Muta10によって、前記のプラスミドのPCRによる特異的な検出のために適しているプライマーの配列に対して相補的な各領域を標している。
【0026】
実施例3
sacB遺伝子の導入
sacB遺伝子(レバンサッカラーゼをコードする)を耐性カセットで標識されたプラスミドpMut1−TcとpMut2−Kn中に導入するために、両方のプラスミドにおいてそれぞれ単一のEcoRI制限切断部位を選択した。sacB遺伝子(サイズ2.6kb)をプラスミドpCVD442から制限酵素PstIで単離した。ベクターpMut1−TcとpMut2−Knを準備するために、前記のプラスミドをEcoRIで直鎖化し、そして引き続き“ブラントエンド”の形成のためにクレノウ処理を行い、そして脱リン酸化させた。インサートのsacBをPstIによる制限消化後に精製し、そしてクレノウ酵素で処理した。直鎖化されたベクター及びインサートをライゲーションし、そしてそれによりE.コリK−12株DH5αを実施例1に記載のようにコンピテントにして、形質転換した。クローニングの成果を幾つかの細菌クローンのプラスミドDNAの微量調製及び引き続いての制限分析によって検査した。sacB遺伝子で標識されたプラスミドpMut1−TcとpMut2−KnをpMut1−TcSac及びpMut2−KnSacと呼称する。
【0027】
実施例4
E.コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローンの製造
まずプラスミドpMut1−TcSacをエレクトロポレーションによって前記の菌株に、実施例1に記載のように形質転換した。プラスミドpMut1−TcSacを菌株DSM6601に移入させるためのエレクトロポレーションの後に、該バッチをTc含有(50μg/ml)のLBプレート上にプレーティングした。得られたテトラサイクリン耐性の細菌クローンを、プラスミドpMut1−TcSacの保有に関して、そしてそれと結びつく本来存在するプラスミドpMut1の損失に関して検査した。プラスミドpMut1の損失は、プラスミドDNAを調製し、そしてそのDNAを酵素EcoRIにより制限消化し、引き続き直鎖化されたプラスミドを電気泳動により分離し、pMut1を示すDNAバンドの欠損により検出された。
【0028】
引き続きこれらのクローンの1つを10%のサッカロースを含有するLB培地中で30℃で一晩培養し、次いで10%のサッカロースを含有するLBプレート上にプレーティングした(LB培地は10gのカゼインからのペプトン、5gの酵母エキス及び5gの塩化ナトリウムからなり、蒸留水で1lにしたもの)。サッカロース含有のLB培地は、オートクレーブ処理された培地に45℃に冷却した後に、滅菌濾過された50%(質量/容量)のサッカロース原液からその一部を10%の最終濃度になるまで添加して製造した。これらのプレートは30℃でインキュベートした。前記の条件下に、sacBをもはや発現しない、すなわちsacB遺伝子を有するプラスミドを欠失した各クローンだけが複製できる。こうして得られた菌株DSM6601ΔpMut1をプラスミドpMut1−TcSacの損失に関して検査した。
【0029】
次いでエレクトロポレーションによってプラスミドpMut2−KnSacを菌株DSM6601ΔpMut1中に導入した。
【0030】
プラスミドpMut2−KnSacを菌株DSM6601ΔpMut1に移入させるためのエレクトロポレーションの後に、該バッチをKn含有(50μg/ml)のLBプレート上にプレーティングした。得られたカナマイシン耐性の細菌クローンを、プラスミドpMut2−KnSacの保有に関して、そしてそれと結びつく本来存在するプラスミドpMut2の損失に関して試験した。引き続き前記のクローンの1つを10%のサッカロースを含有するLB培地中で30℃で一晩培養し、次いで10%のサッカロースを含有するLBプレート上にプレーティングした。これらのプレートは30℃でインキュベートした。こうして得られた菌株DSM6601ΔpMut1/2をプラスミドpMut2−KnSacの損失に関して検査した。
【0031】
更にプラスミド不含の菌株DSM6601ΔpMut1/2からパルスフィールドゲル電気泳動を実施して、該菌株の場合により起こる染色体改変を排除した。如何なる改変も検出されないことを確認し、そして更なる調査により、プラスミド不含のクローンが形態学的、生化学的又は培養的な変化も示さないことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、概略の形式で菌株DSM6601のプラスミド不含のクローンの製造方法の経路を示している
【図2】図2はプラスミドpMut1−Tcの物理地図を示している
【図3】図3はプラスミドpMut2−Knの物理地図を示している

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エシェリキア・コリ株DSM6601のプラスミド不含のクローン。
【請求項2】
請求項1記載のプラスミド不含のクローンの製造方法であって、以下の工程:
a)プラスミドpMut1及びpMut2中に耐性遺伝子を組み込む工程、
b)工程a)で得られたプラスミド中にsacB遺伝子を組み込む工程、
c)工程b)で得られたプラスミドをE.コリ株DSM6601に導入し、そして該菌株を、本来存在するプラスミドpMut1及びpMut2が工程b)で得られたプラスミドによって排除される条件下に培養する工程、及び
d)工程c)で得られたクローンを、実質的にsacB遺伝子を欠失した細菌の増殖のみを可能にする条件下に培養する工程
を特徴とする方法。
【請求項3】
耐性遺伝子が発現カセット中に存在する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
耐性遺伝子がテトラサイクリン耐性又はカナマイシン耐性から選択される、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
プラスミドpMut1をテトラサイクリン耐性カセット及びsacB遺伝子で標識し、そして本来のプラスミドpMut2をカナマイシン耐性カセット及びsacB遺伝子で標識する、請求項2から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
テトラサイクリン耐性カセットとsacB遺伝子で標識されているプラスミドpMut1で形質転換された細菌をテトラサイクリンを含有するプレート上で培養し、引き続きサッカロースを含有するプレート上で培養し、そして第一工程でのプラスミドpMut1の排除の後に、プラスミドpMut2の排除をカナマイシンプレート上での培養及びサッカロースプレート上での更なる培養によって実施する、請求項2から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
クローニング菌株としての、請求項1記載のプラスミド不含のクローンの使用。
【請求項8】
動物における胃腸障害の治療のための薬剤の製造のための、請求項1記載のプラスミド不含のクローンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−514506(P2009−514506A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516056(P2006−516056)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006886
【国際公開番号】WO2004/113575
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(399117051)フアルマ−ツエントラーレ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Pharma−Zentrale GmbH
【Fターム(参考)】