説明

EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子

【課題】EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御技術と新規EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬の探索方法を提示して、EAAC1グルタミン酸輸送体機能異常と連関する疾患の発症機序解明に貢献し、同時に新規機構に立脚した新規創薬の可能性を拓こうとするものでもある。
【解決手段】従来発見されていなかったEAAC1グルタミン酸輸送体機能促進因子として、Ar16ipタンパク質及びaddicsinの変異タンパク質であるaddcsinS18Aタンパク質を見いだし、併せてその遺伝子、及びこれらの発現能を有する細胞株を新たに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EAAC1グルタミン酸輸送体の機能を制御する因子及びその遺伝子、該遺伝子を含有し、上記遺伝子を安定的に発現する細胞株、上記因子を用いてEAAC1グルタミン酸輸送体の機能を制御する方法、ならびに上記EAAC1グルタミン酸輸送体の機能を制御する因子を利用してEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御するための薬剤を探索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<グルタミン酸輸送体>
グルタミン酸は、中枢系では興奮性神経伝達物質として記憶・学習・認知などの高次神経機能に密接に関与している。その一方で、高濃度の細胞外グルタミン酸は、神経細胞毒性を示すため、神経細胞の細胞膜に存在するグルタミン酸輸送体によって常に低濃度に維持されている。細胞膜に存在するグルタミン酸輸送体は、GLAST、GLT-1、EAAC1、EAAT4、EAAT5の5種類が存在し、いずれのグルタミン酸輸送体もNa+依存的にL-グルタミン酸やD/L-Aアスパラギン酸を基質として細胞内へ輸送する。
これら各グルタミン酸輸送体について、その基質、輸送体型、共役イオン、組織分布及び関連疾患を以下の表1に示す。
【表1】

また、これら各グルタミン酸輸送体の神経シナプスにおける作用機構の概略を図1に示す。
【0003】
これらグルタミン酸輸送体は、特徴的な分布と機能を各々有していることが知られており、例えば、GLAST、GLT-1は、中枢系では小脳と終脳のアストログリア細胞に発現し、シナプス間隙からのグルタミン酸の素早い除去機能に関与する。また、EAAT4は小脳プルキンエ神経細胞に、EAAT5は網膜に特異的な発現を示す(表1)。一方、EAAC1は、中枢系では遍在的に神経細胞に発現しており、末梢系においても腎臓、心臓、肝臓などの臓器に発現していることが知られている(表1)。また、EAAC1はシナプスに存在せず、シナプス間隙からのグルタミン酸の除去能力もGLAST、GLT-1と比較すると極めて低く、その生理機能に関しては依然不明な点が多い。しかしながら、近年、末梢系では近位尿細管におけるグルタミン酸再吸収機能(非特許文献1参照)、中枢系では、運動神経再生(非特許文献2参照)への関与が報告され、重要な生理機能を有する可能性が示唆されはじめている。尚、てんかん症への関与も示唆されているが、未だ定かではない。
【0004】
<EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子>
EAAC1グルタミン酸輸送体結合因子として単離されたGTRAP3-18は、EAAC1グルタミン酸取り込み機能を抑制する唯一の蛋白質因子である (非特許文献3参照)(図1)。また、GTRAP3-18は、モルヒネ耐性依存形成時に扁桃体で発現量が増加する因子として我々がクローニングしたaddicsinのラットホモログである (非特許文献4) 。一方、EAAC1グルタミン酸輸送体のグルタミン酸取り込み機能を促進する蛋白質性因子は全く報告されていない。
【0005】
<EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬>
従来のEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬は、EAAC1グルタミン酸輸送体自身に直接作用することによってEAAC1グルタミン酸輸送体機能を調節する。EAAC1グルタミン酸輸送体に選択特異的なグルタミン酸取り込み促進薬は現在のところ知られていない。また、グルタミン酸輸送体の阻害薬は、自身が取り込まれることでグルタミン酸の取り込みを阻害する基質型阻害薬と、自身は取り込まれずにグルタミン酸輸送体に親和性を示して効果を発揮するブロッカー型阻害薬に大別される。従来の阻害薬の大半は、基質型阻害薬であり、細胞内へグルタミン酸が取り込まれる際にNa+流入(取り込み電流)が発生する場合や、基質が取り込まれた際に細胞内グルタミン酸を代わりに細胞外へ汲み出してしまうために阻害薬濃度依存的に細胞グルタミン酸濃度の上昇が引き起こされる場合があり、生理現象の解析に不向きである。EAAC1グルタミン酸輸送体の基質型阻害薬としては、L-trans-2,4-PDC、L-(-)-threo-3-Hydroxyaspartic acidなどが代表的であるが、いずれの阻害薬もEAAC1グルタミン酸輸送体のみに対する選択特異性は無く、上述した問題点を内包する。また、近年盛んに開発がすすめられているブロッカー型阻害薬は、これら欠点を補うものとして注目されているが、まだその数は限られている。EAAC1グルタミン酸輸送体のブロッカー型阻害薬としてはDL-TBOAが代表的であるが、やはりEAAC1グルタミン酸輸送体のみに対する選択特異性は無い。また、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を作用点とした薬物は皆無である。従って、EAAC1を介した細胞外グルタミン酸取り込み機構や、その異常に関連して発症する各種疾患の分子機構の解明は依然困難な状況下にある。
【0006】
【非特許文献1】Peghini, P. et. al. EMBO J. 16 (13), 3822-3832, 1997
【非特許文献2】Kiryu S et. al., J. Neurosci. 15 (12), 7872-7878, 1995
【非特許文献3】CG, Lin et. al., Nature, 410, 84-88, 2001
【非特許文献4】MJ. Ikemoto et. al., NeuroReport, 16, 2079-2084, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、アミノ酸尿症、運動神経再生、モルヒネ耐性依存などに代表される各種疾患とEAAC1グルタミン酸輸送体を介した細胞外グルタミン酸取り込み機能との関連が示唆されるようになり、生理条件下におけるEAAC1グルタミン酸輸送体機能の解析の重要性が増しつつある。特に、EAAC1グルタミン酸輸送体機能異常により発症する各種疾患の分子機序に関しては殆ど不明であり、その解明は今後に残された大きな課題である。しかしながら、EAAC1グルタミン酸輸送体のみに選択特異性を有し、かつ生理条件下の使用に十分耐えうるEAAC1グルタミン酸輸送体促進薬ならびに阻害薬は皆無である。また、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子は、addicsin/GTRAP3-18のみが唯一報告されているにすぎない。従って、さらなるEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬の開発が求められているが、同時に、EAAC1グルタミン酸輸送体へ直接作用する機序とは異なる作用機序を有する新規薬物の開発も求められている。そのためには、新たなEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子の解明とその分子機構に立脚した創薬が必要不可欠である。
【0008】
そこで、本発明の課題は、EAAC1グルタミン酸輸送体あるいはEAAC1グルタミン酸輸送体結合因子addicsin/GTRAP3-18との蛋白質相互作用を示す新たなEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を提示すると共に、その分子特性を利用したEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御技術と新規EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬の探索方法を提示しようとするものである。すなわち、本発明は、EAAC1グルタミン酸輸送体機能異常と連関する疾患の発症機序解明に貢献し、同時に新規機構に立脚した新規創薬の可能性を拓こうとするものでもある。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、Yeast Two Hybrid法を用い、EAAC1グルタミン酸輸送体結合因子addicsinと蛋白質相互作用を示す新たなEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子Arl6ip-1を単離・同定した。本因子を内在性のEAAC1グルタミン酸輸送体のみを発現するC6BU-1細胞に過剰発現させた場合、PKC活性化条件下におけるEAAC1グルタミン酸輸送体のグルタミン酸取り込み能促進効果をより一層増強する。一方、EAAC1グルタミン酸輸送体結合因子addicsin/GTRAP3-18内に存在するN末側のPKCリン酸化モチーフのセリン残基をアラニン残基に置換させたaddicsin S18Aは、C6BU-1細胞に過剰発現させた場合、上記条件化で観察されるEAAC1グルタミン酸輸送体のグルタミン酸取り込み能抑制効果を完全に阻害することを見いだした。
【0010】
本発明により、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子として、新たに該輸送体機能を増強ないし促進する因子Arl6ip-1、及びaddicsin S18Aを見いだしたことは、上記したEAAC1グルタミン酸輸送体機能抑制因子であるaddicsinと併せて、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御技術をほぼ確立したことになる。また、addicsin S18Aに関する上記知見は、addicsin遺伝子の異常に基づく細胞外グルタミン酸取り込み機能異常の態様をも示唆する。したがって、本発明のEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御手段は、EAAC1グルタミン酸輸送体機能異常と連関する疾患の発症機序の解明、あるいは新規機構に立脚した新規創薬等における極めて有用な手段となりうる。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の促進活性を有することを特徴とする、タンパク質。
(2) 配列番号9に示される、アミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の促進活性を有することを特徴とする、タンパク質。
(3) 上記(1)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(4) 配列番号2に示される塩基配列を有するDNA。
(5) 上記(3)又は(4)に記載のDNAが組み込まれていることを特徴とする、発現ベクター。
(6) 上記(2)に示されるタンパク質をコードするDNA。
(7) 配列番号8に示される塩基配列を有するDNA。
(8) 上記(6)又は(7)に記載のDNAが組み込まれていることを特徴とする、発現ベクター。
(9) EAAC1グルタミン酸輸送体発現能を有し、上記(3)及び/又は(6)に記載のDNAが組み込まれた発現ベクターが導入されていることを特徴とする、形質転換体。
(10) さらにaddicsin タンパク質をコードするDNAが組み込まれた発現ベクターが導入されていることを特徴とする、上記(9)に記載の形質転換体。
(11) 形質転換体が、動物細胞株であることを特徴とする、上記(10)に記載の形質転換体。

(12) EAAC1グルタミン酸輸送体発現能を有し、かつaddicsin、Ar16ip及びaddicsinS18Aのいずれか1以上のタンパク質の発現能力を有する細胞に、EAAC1グルタミン酸輸送体制御薬剤の候補物質を接触させ、細胞外グルタミン酸の取り込み能を評価することによりスクリーニングすることを特徴とする、EAAC1グルタミン酸輸送体制御薬剤の探索方法。

【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記したとおり、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子として、該輸送体機能を促進する因子を新たに見いだしたものであり、これにより、従来のaddicsinと併せて、EAAC1グルタミン酸輸送体の機能を有効に制御することが可能となる。 したがって、本発明の上記因子は、例えば、EAAC1グルタミン酸輸送体機能解析研究用試薬として有用であり、また、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬の開発、 各種疾患(アミノ酸尿症、モルヒネ耐性依存形成等)の治療法及び予防法の開発、並びに神経損傷の治療法ならびに予防法の開発等に大いに資するとともに、特にEAAC1グルタミン酸輸送体機能異常に起因して発生する疾患(例えば、アミノ酸尿症、モルヒネ耐性依存形成等)の発症機構の解明や神経再生機構の解明を行う上での基盤技術としても極めて有用である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書にいうEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子とは、EAAC1グルタミン酸輸送体を介したL-グルタミン酸、L-アスパラギン酸、D-アスパラギン酸のNa+ 依存的な細胞内への取り込む機能を促進もしくは阻害し、EAAC1グルタミン酸輸送体あるいはEAAC1グルタミン酸輸送体結合因子addicsin/GTRAP3-18と直接的な蛋白質間相互作用を示すか、あるいは阻害する蛋白質群もしくはペプチド因子群全般を指す。
【0014】
EAAC1グルタミン酸輸送体の完全長cDNA(1654bp)、そのCDS領域(終止コドンを含む)の塩基配列およびこれに対応する該輸送体タンパク質のアミノ酸配列(CDS;83-1654)をそれぞれ配列番号10、11および12に示す。
また、addicsinの完全長cDNA(1395bp)、そのCDS領域の塩基配列(CDS;73-636)これに対応するaddicsinタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号4、5、6に示す。これらは、そのCDS領域あるいはこれを含むDNAを発現ベクターに組み込み、ついで動物細胞等の宿主を形質転換させることにより、宿主にこれらタンパク質の発現能を人為的に付与することができる。
【0015】
本発明において、新たに見いだされたEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子としては、具体的には以下のものが挙げられる。
(1)配列番号3に示すアミノ酸配列を有するADP ribosylation like 6 interacting protein-1 (Arl6ip-1) タンパク質、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の促進活性を有するタンパク質(以下、まとめてArl6ip-1タンパク質ということがある。)
(2)配列番号9に示す、上記addicsin蛋白質の18番目のセリン残基をアラニン残基に置換したaddicsin S18Aタンパク質、あるいは該アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し(但し上記18番目の位置に対応するアミノ酸残基はアラニン残基である。)かつ、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の抑制を阻害する活性を有するタンパク質(以下、まとめてaddicsin S18Aタンパク質というときがある。)
【0016】
また、本発明においては、上記(1)、(2)に示されるタンパク質において、
さらに、エピトープタグやシグナル配列などをコードするアミノ酸配列を人工的に付加させたタンパク質を含む。
上記Arl6ip-1タンパク質をコードするcDNAの塩基配列は、具体的には配列番号2に示される。該cDNAは、Arl6ip-1完全長cDNA(配列番号1)のCDS60-668(669-671は終止コドン)に対応する。上記Arl6ip-1タンパク質は、該タンパク質をコードする塩基配列部分を含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより得られる。
【0017】
また、addicsin S18Aタンパク質のアミノ酸配列に対応するcDNAの塩基配列は、配列番号8に示され、これはアミノ酸配列の18番目に対応する塩基配列を、addicsinの”tct”から”gct”に変更したものである。該cDNAは、addicsin完全長cDNA(配列番号4)を鋳型として変異PCR法により得られる。addicsin S18Aタンパク質、このようにして得られたaddicsin S18Aタンパク質をコードする塩基配列部分を少なくとも含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより得られる。 このaddicsin S18Aの完全長cDNAの塩基配列を配列番号7に示す。
【0018】
本発明によれば、EAAC1グルタミン酸輸送体を内在的に発現する哺乳類細胞あるいは人為的に発現させた哺乳類細胞に、上記EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子をコードする該cDNAを組み込んだ哺乳類動物細胞発現ベクターを用いて、該細胞染色体に組み込まれた安定形質細胞が得られる。なお、EAAC1グルタミン酸輸送体を哺乳類細胞において人為的に発現させるためには、上記したEAAC1グルタミン酸輸送体の完全長cDNA(1654bp)あるいは該輸送体タンパク質のアミノ酸配列部分(CDS;83-1654)をコードするcDNAが組み込まれた哺乳類動物細胞発現ベクターを、哺乳類細胞に導入すればよい。
【0019】
EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子安定発現細胞の代表例としては、GeneSwirtch System (Invitrogen社)を利用して作製したC6BU-1/pSw-X (X = addicsin, addicsin S18A, Arl6ip-1) 細胞があげられる。
この細胞系は、(1)EAAC1グルタミン酸輸送体のみを内在的に発現する細胞として知られるラット神経グリオーマ細胞C6BU-1細胞を用いているために内在性EAAC1グルタミン酸輸送体機能の特異的解析が可能であること、(2) 低濃度(通常は10 nM)のミフェプリストンの曝露によって目的因子Xの顕著な発現誘導が可能であること、及び(3)クローン化した形質安定発現細胞株であるので細胞形質が同一であるといった長所を併せ持つ。したがって、本細胞系を用いれば、目的因子Xの発現誘導がEAAC1グルタミン酸輸送体機能等に及ぼす効果を厳密に比較解析することが可能となる。
【0020】
本発明においては、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子自身の分子機能を利用してEAAC1グルタミン酸輸送体機能を制御することが可能となる。
すなわち、上記のようなEAAC1グルタミン酸輸送体を内在的に発現するもしくは人為的に発現させた細胞(in vitro系)において、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子の発現量を人為的に制御することにより、EAAC1グルタミン酸輸送体機能(細胞外グルタミン酸取り込み能)動態を調節することができる。
例えば、ラットグリオーマC6Bu-1細胞では、PKC活性化試薬処理などの細胞外刺激を加えた場合の細胞外グルタミン酸取り込み能促進を増強させたい場合には、Arl6ip-1タンパク質を過剰発現させれば良い。また、逆に、同様の条件下における細胞外グルタミン酸取り込み能促進を抑制したい場合にはaddicsinタンパク質あるいはその部分配列ペプチドを過剰発現させれば良い。 さらに、未刺激状態における細胞外グルタミン酸取り込み能を増強させたい場合には、addicsin S18Aタンパク質を過剰発現させれば良い。なお、addicsin S18Aタンパク質はPKC活性化条件下でも細胞外グルタミン酸取り込み能を促進させ、この点でArl6ip-1タンパク質とはその作用が異なる。
【0021】
本発明で使用可能な細胞としては、初代培養細胞、神経細胞やグリア細胞等を由来として株化された各種培養細胞(NG108-15, N18TG-2、C6Bu-1、PC12等)、幹細胞等の細胞群が挙げられる。また、 動物細胞以外にも、昆虫細胞、植物細胞、大腸菌等の細胞が含まれる。また、細胞にEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を過剰発現させるためには、ウイルスベクター法、リポフェクション法、電気穿孔法、直接注射法等の周知の方法を適用してEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを細胞へ導入すれば良い。ウイルスベクター法では、ウイルスベクター中に存在するマルチクローニング部位に、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子をコードするcDNAをin vitroで挿入し、組み換えウイルスDNAを作製する。この組み換えDNA (あるいは組み換えウイルスDNAより逆転写して作製した組み換えウイルスRNA)を宿主細胞(BHK細胞、HEK293細胞等)へトランスフェクションし、宿主細胞中で増殖して培地中に放出された組み換えウイルスを回収・精製することにより高力価EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子遺伝子挿入組み換えウイルスを調製する。これら調製ウイルスを細胞培養液中に添加することにより遺伝子導入を行う。使用するウイルスとしては、例えば、シンドビスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス等を挙げることができる。また、該遺伝子を組み込む代表的なウイルスベクターとしては、各々pSinrep5 (Invitorogen社)、HSV-PrpUC、pAxCAwt,(宝酒造社)、pLenti6/V5 (Invitorogen社)等が存在する。
【0022】
また、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子あるいはその部分配列ペプチド自身を、蛋白質導入法や直接注射法等の周知の方法を適用して直接細胞に導入しても良い。尚、蛋白質導入法とは、Protein Transduction Domain (PTD)と呼ばれる膜透過機能を有するペプチド配列を目的蛋白質(ペプチド)に付加したキメラ蛋白質(ペプチド)を作製し、細胞外から該キメラ蛋白質(ペプチド)を細胞内へ取り込ませる技術を指す。PTDのアミノ酸配列としては、HIV/TAT (YGRKKRRQRR)、HSV/VP-22 (DAATATRGRSAASRPTERPR APARSASRPRRPVE)、AntP (RQIKIKWP QNRRMKWKK)、11 Arginine (RRRRRRRRRRR)等が適用可能である。
さらに、本技術は、in vivo系すなわちEAAC1グルタミン酸輸送体を内在的に発現するもしくは人為的に発現させた脳をはじめとする種々の組織、例えば、脳内では、海馬、扁桃体、大脳皮質、線条体等に適用しても良い。この場合、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を発現させる手段としては、上記in vitro系で記載した内容をすべて適用することが可能である。これらに加え、脳内投与法等のin vivo系に特有な周知の導入方法を適用すれば良い。
【0023】
一方、本発明のEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子は、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御薬の探索にも有効に利用できる。
このような探索方法は、Arl6ip-1やaddicsin、addicsin S18AなどのEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を過剰発現させた場合に、各因子毎に特徴的な細胞外グルタミン酸取り込み動態を有することを利用し、それぞれの因子毎の特徴的な細胞外グルタミン酸取り込み動態を増強あるいは阻害する候補物質を探索する方法である。本探索方法で使用可能な細胞は、(1) EAAC1グルタミン酸輸送体を内在的に発現もしくは人為的に発現するように構築すること、及び(2)同時に、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を過剰発現させ得ることが必要である。 細胞の種類としては、初代培養細胞、神経細胞やグリア細胞等を由来として株化された各種培養細胞(NG108-15, N18TG-2、C6Bu-1、PC12等)、幹細胞等の細胞群、ウイルス発現系や遺伝子改変動物等を利用してEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子を過剰発現させるように人為的に構築された細胞群、また、昆虫細胞、植物細胞、大腸菌等の動物細胞以外の細胞群が挙げられるが、いずれの場合にも上記2つの条件を満たすことが必須である。
【0024】
また、代表的かつ本探索法に適した細胞例としては、C6Bu-1/pSw-X (X = Arl6ip-1、addicsin、addicsin S18A)細胞が挙げられる。本細胞系では、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子Xの過剰発現が特徴的な細胞外グルタミン酸取り込み能パターンを惹起することが明らかとなっているので、このパターンを促進もしくは阻害する物質はEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子Xに作用点を有する可能性が高いと考えられる、従って、本細胞系の利用によって、EAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子Xに作用点を有する新規EAAC1グルタミン酸輸送体機能促進薬あるいは阻害薬を効率よく発見・開発することが可能となる。
これには、まず、10 nMミフェプリストン処理によってEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子Xを過剰発現させたC6Bu-1/pSw-X細胞に対してDMSOや蒸留水などの細胞毒性の無い溶媒に溶解させた種々の候補物質(天然抽出物、蛋白質、ペプチド、核酸、その他の無機および有機化合物を含む)を種々の濃度で前処置し、PKC活性薬等の細胞外刺激を与えた時のEAAC1グルタミン酸輸送体機能制御因子X特有の細胞外グルタミン酸取り込み能パターンに与える影響を検定することにより候補物質を探索・同定を行うことができる。

以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
〔実施例1〕
1、 addicsin遺伝子
a. サブトラクションクローニングによる同定
ddY系マウス (雄:6週令) に塩酸モルヒネを10, 20, 40, 80, 100, 100, 100 mg/kgの用量で1日に2回ずつ7日間にわたって皮下投与を行ってモルヒネ耐性依存モデルマウスを作成した。最終薬物投与から16時間後に、モルヒネ慢性投与マウスならびに生理食塩水慢性投与マウスの扁桃体をそれぞれ摘出し、Quick prep micro mRNA purification Kit (Amersham Bioscience社) を用いてpoly(A) RNA (5μg)を調製し、直ちにZap-cDNA synthesis kit (STRATAGENE社) を使用してλZap II cDNA ライブラリーを構築した。photobiotin-avidin 法 (Nucleic Acids Res. 16, 10937,1988) によるmRNAの差し引きを行ってsubtracted cDNAライブラリーを構築後、さらにディファレンシャルハイブリダイゼーションを行ってaddicsin遺伝子を含む薬物耐性依存関連候補遺伝子群を単離した。単離したλZapファージプラークは、in vivo excison によりpBluescript SK(-) 型ベクターに変換し、挿入断片の部分cDNA塩基配列解析を行い、BLASTならびにFASTAによるcDNAおよびアミノ酸レベルでの相同性解析を行った。その結果、候補遺伝子群のひとつが新規遺伝子であることが判明したので、「薬物常用:addiction」を語源にマウスaddicsinと命名した。
【0026】
b. addicsin cDNAのクローニング
次に、プラークハイブリダイゼーション法を行うことで完全長addicsincDNAの単離を試みた。次に、慢性モルヒネ投与を施したマウス扁桃体より構築したλZap II cDNA ライブラリーファージ溶液 (1x107 pfu/ml) 5μlをOD660 = 0.5 になるように10 mM MgSO4 溶液に懸濁して要時調製した大腸菌XL1-Blue MRF'溶液600 μlに加え、ファージを大腸菌に感染させた。この感染済みの大腸菌をNZYプレート(13 cm x 9 cm) 12枚に5 x 104 プラーク/プレートとなるように蒔き、37 ℃で一晩培養してプラークを形成させた。ニトロセルロースフィルター (S&S社) をプレート上に約3分間静置してプラークをフィルター側に移し、さらにこのフィルターを変性溶液 (0.5 M NaOH、1.5 M NaCl)に2分間、中和溶液 (0.5 M Tris-HCl pH 7.6、1.5 M NaCl)に5分間、2xSSC溶液に5分間それぞれ浸した。風乾後、UV照射を行い、42℃のプレハイブリダイゼーション溶液 (50% ホルムアミド、3xSSPE、1 X Denhardt's、1% SDS、0.5 mg/ml サケ精子DNA) 中で約3時間浸漬振盪した。次に、addicsin挿入断片 (nt 1207- nt 1394) 100 ngよりRandom Primer DNA Labeling Kit (宝酒造社)を使用して調製した放射性DNAプローブ (2×106 cpm/ml) 15μlを添加し、さらに42℃で一昼夜浸漬振盪してハイブリダイゼーションを行った。フィルターは、2 X SSC溶液, (2 X SSC、0.1% SDS) および0.2 X SSC溶液, (0.2 X SSC、0.1% SDS) の順にそれぞれ60 ℃で1時間ずつ洗浄し、風乾後に-80℃でオートラジオグラフィーを行った。陽性プラークはSM溶液に懸濁後、1/100倍に希釈して2次ならびに3次スクリーニングに使用した。最終的に陽性であったプラークは、in vivo excision を行ってpBluescript SK(-) 型のプラスミドに変換し、定法に従って増殖後、QIAGEN Midi Kit (QIAGEN社)を用いて精製プラスミドDNAを調製した。以後、このベクターをpBluescript SK(-)-addicsin(partial)ベクターと記載する。
【0027】
次に、全長cDNA塩基配列を決定するために、中山等のSize-fractionated Uni-directional Deletion (SUD) 法 (実験医学 6, 849-857, 1988)に準拠し、このプラスミドより-鎖ならびに+鎖それぞれのデレーションミュータントを作製した。シークエンス用の試料は、PRISM Ready Reaction Terminator Cycle Sequencing Kit (PEアプライドシステムズ社) を用いてダイターミネ-ター法により調製し、M13 (-20)フォワードプライマーおよびM13 リバースプライマー (STRATAGENE社) を各々使用してcDNAを解析した。またPCR反応は、DNA Thermal cycler PJ2000 Model 480 (PEアプライドシステムズ社)を用い、変性反応;96℃、30秒、アニーリング反応;50℃、15秒、合成反応 ; 60℃、240秒;25サイクルの条件で行った。
【0028】
その結果、このプラスミドはaddicsin cDNA (nt75 - nt1394)を含むものの、開始コドンおよび5'非翻訳領域が欠損していることが判明した。そこでaddicsin (nt 1- nt 74)に相当するcDNA領域をクローニングするために、nested PCR法によるaddicsin の5'非翻訳領域のクローニングを実施した。λgt10 BALB/c3T3マウス線維芽細胞 cDNAライブラリー(4×105pfu/μl) 溶液1.0μl に10XPCR緩衝溶液 (PEアプライドシステムズ社) 2.5μl、Ampli Taq DNA polymerase (5U/μl ) (PEアプライドシステムズ社) 0.25μl、1.25mM dNTP (宝酒造社) 8.0μl、 プライマー1 (60 ng/μl) (配列番号13) およびプライマー2 (60 ng/μl) (配列番号14) を 各々2.5μl、滅菌水4.25μlを加えて最終容量を25μlに調製した。次に、DNA Thermal cycler PJ2000 Model 480 (PEアプライドシステムズ社)を用いてPCR反応(変性反応:96℃、30秒、アニーリング反応:52℃、45秒、合成反応:72℃、90秒、30サイクル)を行い、続いて72℃で10分間の伸長反応を行うことによって約455 bpのPCR産物を得た。このPCR産物を2回目の鋳型DNA溶液として使用した。
【0029】
次に、この鋳型DNA溶液 0.5 μlとプライマー3 (60 ng/μl) (配列番号15) およびプライマー4(60 ng/μl) (配列番号16) を各々2.5μlを使用して1回目と同一組成のPCR試料を調製し、1同一反応条件で2回目のPCRを行うことで約435 bp のPCR産物を得た。このPCR産物を1%アガロースゲルによって分離精製後、TAKARA Ligation kit (ver.2) (宝酒造社)を用いてD. Marchukらの方法(Nucleic Acids Research 19, 1154, 1990)に準じて作製したpBluescript SK(-)-Tベクターにサブクローニング後、EcoRI-NheI挿入断片(nt 1-nt 452)を調製した。この調製挿入断片をプラークハイブリダイゼション法により単離したpBluescript SK(-)-addicsin(partial)ベクターのEcoRI-NheI部位に組み込むことによって完全長addicsin cDNAを得た。以下、このベクターをpBluescript SK(-)-T-addicsinと記載する。
【0030】
2. addicsin S18A cDNA
pBluescript SK(-)-T-addicsin Ampli Taq Gold DNA polymerase (PEアプライドシステムズ社) 、プライマー5(配列番号17)、プライマー6(配列番号18)を用いてRT-PCR反応を行った。PCR反応は、Gene Amp PCR System 9600 (PEアプライドシステムズ社)を使用して行い、変性反応;94℃、15秒、アニーリング反応;50℃、30秒、合成反応 ; 72℃、120秒を1サイクルとして25サイクルの条件下で実施した。尚、PCR前の活性化反応は、94℃、15秒、1サイクル、PCR終了後の伸長反応は72℃、7分、1サイクル実施した。得られたPCR産物は、pBluescript SK(-)-Tベクターへサブクローニング後、ABI 373Sシーケンサー(PEアプライドシステムズ社製)を用いてcDNA塩基配列解析を行い、PCR産物がマウスaddicsinS18AのcDNA配列を有することを確認した。
【0031】
〔実施例2〕
1.Arl6ip-1遺伝子
a. マウス全脳由来一本鎖cDNAの調製
P.Chomczynskiらの方法(Analytical Biochemistry, 162 : 156-159, 1987)に準じて全RNA を抽出した。その概略は次のとおりである。マウス全脳を摘出して凍結粉砕後、この粉末75mgをグアニジン溶液 (4Mグアニジンチオシアネート、25mMクエン酸ナトリウム pH7.0、0.5%サルコシルナトリウム、0.1Mメルカプトエタノール) 500μlに溶解した。この溶液に2M酢酸ナトリウム溶液 (pH4.0) 50μl、DEPC水飽和フェノール(pH4.0) 50μl 、クロロホルム 100μl を加えて撹拌後、10,000×g で20分間の遠心分離を行って水層を回収し、イソプロパノール沈殿を得た。この沈殿をグアニジン溶液 500μlに完全に溶解後に上記の過程を再度繰り返し、最終的に得られた沈殿物をDEPC水50μl に溶解させて全RNA 溶液とした。一本鎖cDNA溶液は、全RNA 3μgを鋳型とし、SUPERSCRIPTTM II Reverse Transcriptase (200U/ μl) を用いて42℃で2時間の逆転写反応を行うことにより作製した。
【0032】
b. Arl6ip-1cDNAのクローニング
マウス全長 addicsin cDNAをBait(おとり)として用いたYeast two hybrid法により、addicsin蛋白質と相互作用する因子を検索したところ、マウスADP ribosulation like 6 interacting proten -1 (Arl6ip-1)を同定した。詳細は以下の通りである。まず、Yeast two hybrid 法を用いたスクリーニング系は、MATCHMAKER GAL4 Two-Hybrid System 3 (CLONTECH)を用いて構築した。Bait(おとり)蛋白質発現用ベクターであるpGBKT7ベクターには、マウス addicsin cDNA (nt 73- nt 639)を組み込み、pGBKT7- addicsinを作成した。また、Prey (えさ) 蛋白質発現用ベクターであるpACT2ベクターには、モルヒネ慢性投与マウス扁桃体より作製したλZap II cDNAライブラリー中に挿入されていたcDNA挿入断片を組み込むことでpACT2プラスミドライブラリーを作製した。pACT2プラスミドライブラリーは、一度増幅して使用した。これら二つのプラスミドベクターを酵母AH109株へ導入して形質転換し、SD-TLAH選択培地へ播種後、α-x-gal染色に陽性反応(青色)を呈するコロニーをスクリーニングした。その結果、最終的に2個の陽性コロニーを得た。
【0033】
これら陽性コロニーに含まれていたpACT2プラスミドライブラリークローンのcDNA塩基配列を解析した結果、そのうちのひとつがマウスArl6ip-1 cDNAの5’末端側約180bpをコードすることが明らかとなった。そこでマウスArl6ip-1 cDNA全長配列を検索することによって、ORFに相当するcDNA領域を同定し、RT-PCR法によりArl6ip-1 ORFをクローニングするためのプライマーを設計した。次に、マウス全脳由来一本鎖cDNAを鋳型として、Expand High Fidelity PCR System (ロッシュダイアグノスティックス社) を使用してRT-PCR反応を行った。プライマーは、5’側にEcoRI部位を含むプライマー5(配列番号17)ならびに5’側にXho I部位を含むプライマー6(配列番号18)を使用した。PCR反応は、Gene Amp PCR System 9600 (PEアプライドシステムズ社)を使用して行い、変性反応;94℃、15秒、アニーリング反応;51℃、30秒、合成反応 ; 72℃、120秒を1サイクルとして25サイクルの条件下で実施した。尚、PCR前の酵素活性化反応は、94℃、2分、1サイクル、PCR終了後の伸長反応は72℃、7分、1サイクル実施した。得られたPCR産物をpBluescript SK(-)-Tベクターへサブクローニング後、ABI 373Sシーケンサー(PEアプライドシステムズ社製)を用いてcDNA塩基配列解析を行い、PCR産物がマウスArl6ip-1cDNA配列を有することを確認した。以下、このベクターを,pBluescript SK(-)-T- Arl6ip-1ベクターと記載する。
【0034】
〔実施例3〕
pcDNA3.-Xベクターの構築
pcDNA3.-Xベクターを以下に示す手順で構築した。尚、構築したベクターはそぞれcDNA塩基配列解析を行い、タグを付加した目的蛋白質をコードする遺伝子配列の読み枠であることを確認した。
a. pcDNA3.1-addicsinベクターの構築
pBluescript SK(-)-T- addicsinベクターを鋳型として、Ampli Taq DNA polymerase (5U/μl ) (PEアプライドシステムズ社)を使用してPCR反応を行った。プライマーは、5’側にKpn I部位を含むプライマー7(配列番号19)ならびに5’側にApa I部位を含むプライマー8(配列番号20)を使用した。PCR反応は、Gene Amp PCR System 9600 (PEアプライドシステムズ社)を使用して行い、変性反応;94℃、30秒、アニーリング反応;55℃、30秒、合成反応 ; 72℃、60秒を1サイクルとして35サイクルの条件下で実施した。尚、PCR前の酵素活性化反応は、95℃、9分、1サイクル、PCR終了後の伸長反応は72℃、1分、1サイクル実施した。得られたPCR産物をKpn IとApa Iで二重消化後、pcDNA3.1/Myc-His (+) A (Invitrogen社) ベクターのKpn I-Apa I切断部位へ組み込んでpcDNA3.1-addicsin-myc ベクターを得た。
【0035】
b. pcDNA3.1-addicsin S18Aベクターの構築
pcDNA3.1-addicsinベクターを鋳型としてAmpli Taq DNA polymerase (5U/μl ) (PEアプライドシステムズ社)を使用してPCR反応を行った。プライマーは、18番目のセリン残基をアラニン残基に置換するように設計したプライマー9 (内在配列中にSma I部位を含む)(配列番号21)ならびにプライマー10(配列番号22)を使用した。PCR反応は、Gene Amp PCR System 9600 (PEアプライドシステムズ社)を使用して行い、変性反応;94℃、30秒、アニーリング反応;50℃、30秒、合成反応 ; 72℃、60秒を1サイクルとして35サイクルの条件下で実施した。尚、PCR前の酵素活性化反応は、95℃、12分、1サイクル、PCR終了後の伸長反応は72℃、1分、1サイクル実施した。得られたPCR 産物をSma IとNhe Iで二重消化した。また、pcDNA3.1-addicsin-myc ベクター側もSma I-Nhe Iで二重消化を行い、18番目のセリン残基を内在するSma I-Nhe I断片を除去した。残ったフラグメントと上記Sma I-Nhe Iで二重消化したPCR 産物を連結してpcDNA3.1-addicsin S18A-myc ベクターを得た。
【0036】
c. pcDNA3.1-Arl6ip-1ベクターの構築
pBluescript SK(-)-T- Arl6ip-1ベクターをEcoRIとXhoIで二重消化して得られた挿入断片をpcDNA3.1/FLAG-His (+) A (Invitrogen社製品を独自に一部改変) ベクターのEcoRI-XhoI切断部位に組み込んで pcDNA3.1-Arl6ip-1-FLAGベクターを得た。
【0037】
以上の実施例で使用したプライマーを以下にまとめて示す。
プライマー配列表
プライマー1(配列番号 13) 5'-AGCAAGTTCAGCCTGGTTAAGT-3'
プライマー2(配列番号 14) 5'-AACAGCAAAGGAAGAGTGATGC-3'
プライマー3(配列番号 15) 5'-TTCAGCCTGGTTAAGTCCAAGC-3'
プライマー4(配列番号 16) 5'-AGTGATGCCGAACACAAAGACC-3'
プライマー5(配列番号 17) 5'- AAGAATTCATGGCGGAGGGGGATAACCGCA-3'
プライマー6(配列番号 18) 5'- TTCTCGAGCTCATTTTTCTTTTCTTTTTGC-3'
プライマー7(配列番号 19) 5'- GCGGTACCCTCGCGAAGCAGAGGAACAT-3'
プライマー8(配列番号 20) 5'- AAGGGCCCCTCCCTCGCTTTGCTGATGT-3'
プライマー9(配列番号 21) 5'- CTTCCCGGGCGCTGATCGTTTC-3'
プライマー10(配列番号 (22) 5'- AACAGCAAAGGAAGAGTGATGC -3'
【0038】
〔実施例4〕
Arl6ip-1とaddicsinの蛋白質相互作用の解析
a.解析試料の作製
まず、NG108-15細胞を直径9 cmシャーレ(グライナー社)に播き、10% 牛胎児血清 (Hyclone社)を含むDulbeco’s Modified Eagle’s Medium (Sigma社) (以下、10%FCS DMEM)中、37℃、湿度100%、5% CO2を含む空気下のCO2インキュベーター内で90% 細胞密度に達するまで培養を行った。次に、培地を新しい10%FCS DMEMに交換後、リポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen社)を用い、pcDNA3.1-addicsin-myc ベクター 6μgならびにpcDNA3.1-Arl6ip-1-FLAGベクター 6μgを一緒にトランスフェクションして形質転換した。尚、トランスフェクション操作は、リポフェクトアミン2000試薬に添付されていた取扱説明書に準拠した。24時間後に培地を完全に除去し、PBS溶液で3回洗浄後、細胞を1 mlのRIPA溶液 (10 mM Tris Hcl, 5 mM EDTA, 150 mM NaCl, 1% DOC, 1% TritonX-100, 0.1%SDS, pH7.4) に溶解させた。この溶解液を以下に記載する実験に使用した。
【0039】
b.免疫沈降法による解析
上記溶解液とプロテインGセファロース50%懸濁液(PIERCE社)50μlを混合後、4℃で1時間反応させて非特異的吸着因子を除去した。さらに、この試料を遠心分離して上清を回収した。この上清に、抗c-myc抗体(ロッシュダイアグノスティックス社)あるいは抗FLAG-M2抗体(Sigma社)を添加し、さらに再びプロテインGセファロース50μlを加えて、4℃で一晩抗体反応を行わせた。抗体が結合したプロテインGセファロースを遠心分離操作により回収後、1 mlのRIPA溶液で5回洗浄を行った。洗浄を終えたプロテインGセファロースは、2 x SDS試料溶液(125 mM Tris HCl, 20% Glycerol, 4% SDS, pH6.8)20μlを加えた後に加熱変性処理を施し、ウエスタンブロット解析に供した。尚、1次抗体は1,000倍希釈した抗c-myc抗体(ロッシュダイアグノスティックス社)あるいは抗FLAG-M2抗体(Sigma社)を、2次抗体には、2,000倍希釈したウサギ抗マウスIgG-HRP抗体 (Chemicon社)を使用した。シグナルの検出にはECL system (Amersham Bioscience 社)を使用した。、その結果、抗FLAG-M2抗体(Sigma社)を用いた場合にはaddcisn-myc蛋白質が、抗c-myc抗体 (Invitrogen社)を用いた場合にはArl6ip-1-FLAG蛋白質がそれぞれ免疫沈降されてきた(図2A)。
【0040】
また、上述した試料をグルセロールグラヂエント法によって解析したところ、Arl6ip-1-FLAG蛋白質ならびにaddcisn-myc蛋白質は共に同一溶出パターンを示した(図2B)。以上、両実験結果は、少なくともNG108-15細胞内に於いては、Arl6ip-1蛋白質とaddicsin蛋白質は蛋白質相互作用を示すことを示唆している。
【0041】
c. グルセロールグラヂエント法による解析
上記溶解液を10-40%グリセロール勾配溶液に重層後、13, 000 x g で24時間の密度勾配遠心操作を行った。遠心終了後、チューブの底に細かな穴を開けて試料を200 ulずつ分画し、ウエスタンブロット解析に供した。試料は、等量の2 x SDS試料溶液(125 mM Tris HCl, 20% Glycerol, 4% SDS, pH6.8)と混合後に加熱変性処理を施した。また、1次抗体は1,000倍希釈した抗c-myc抗体(ロッシュダイアグノスティックス社)あるいは抗FLAG-M2抗体(Sigma社)を、2次抗体には、2,000倍希釈したウサギ抗マウスIgG-HRP抗体 (Chemicon社)を使用した。また、シグナルの検出にはECL system (Amersham Bioscience 社)を使用した。
その結果、Arl6ip-1-FLAG蛋白質ならびにaddcisn-myc蛋白質は共に同一溶出パターンを示した(図2B)。
以上の両実験結果は、少なくともNG108-15細胞内に於いては、Arl6ip-1蛋白質とaddicsin蛋白質は蛋白質相互作用を示すことを示唆する。
【0042】
〔実施例5〕
C6BU-1/pSw-X細胞の作製
a.C6BU-1/pSw-X安定株作製のための導入ベクターの作製
発現誘導システムは、GeneSwitch System (Invitrogen社)を使用した。本システムの発現誘導原理は下記のとおりである。(1) pSwitchベクターならびにpGene/V5-His/-X (X 解析目的因子)ベクターを哺乳類動物細胞にコトランスフェクションすると、pSwitchベクターからGAL4-DNA binding domain / human progesterone receptor (hPR) / p65 activation domainから構成されるGeneSwitch調節蛋白質が発現される。(2) ヒトプロゲステロン受容体の人工リガンドであるミフェプリストンが上記hPRドメインに結合すると、その立体構造が変化して2量体を形成し、pGene/V5-His/-X 中に存在するGAL4 UASと結合できるようになるため、目的因子Xの転写が誘導される。(3) pSwitchベクターにもGAL4 UASが存在するため、GeneSwitch調節蛋白質自身の発現も同時に誘導される結果となり、目的因子Xの転写がより一層促進される。
従って、C6BU-1/pSw-X安定株を作製するためには、pSwitchベクターならびにpGene/V5-His/-X (X 解析目的因子) ベクターの双方を安定的に染色体に組み込ませた細胞株を選別する作業が求められる。以下に、その作業の概略を示す。
【0043】
i) pGene/V5-His/Xベクターの調製
pGene/V5-His/A ベクター (0.65μg/μl)(Invitrogen社)5μl に10×緩衝液L(宝酒造社)3 μl、Kpn I (10 U/μl) 1μl、Apa I (15 U/μl) 1μl、滅菌水20μl を加えて総量を30μlにし、37℃で1時間反応させた。Kpn I-Apa I消化断片 (約4.6 kbp)を1%アガロースゲル電気泳動により分離精製後、Ultrafree-MC 0.65μm フィルターカラム(ミリポア社)を用いてアガロースゲルより回収した(以下、pGene回収溶液と記載)。次に、pcDNA3.1-Xベクター 3μgに相当する溶液に10×緩衝液L(宝酒造社製)3 μl、Kpn I (10 U/μl) 1μl、Apa I (12 U/μl) 1μl、至適量の滅菌水を加え、最終的に総量が30μlになるようにし、37℃で1時間反応させた。各々の反応生成物は1%アガロースゲル電気泳動により分離精製後、各々のKpn I-Apa I挿入断片(約600 bp前後)をUltrafree-MC 0.65μm フィルターカラム(ミリポア社)を用いてアガロースゲルより回収した(以下、X断片回収溶液と記載)。1/10量のpGene回収溶液と、全量の各々のX断片回収溶液全量を混合後、フェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿による精製濃縮を行った。さらに、滅菌蒸留水5μl を加えてよく撹拌後、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造社)を用いて、pGene/V5-His/AベクターのKpn IおよびApa I部位に、各々の遺伝子XのKpn I-Apa I挿入断片を連結することによりpGene/V5-His/Xベクターを得た。最終的に得られたpGene/V5-His/Xベクターは、目的蛋白質XのC末側にV5-Hisタグが付加したキメラ蛋白質をコードするような遺伝子配列の読み枠であることをcDNA塩基配列解析により確認した。
【0044】
ii)直鎖状pSwitchおよびpGene/V5-His/Xベクターの作製
pSwitchベクター(Invitrogen社)およびpGene/V5-His/X ベクター(Invitrogen社)それぞれ30μg分に相当する溶液に10×緩衝液K (宝酒造社) 5μl、BST1107I (10 U/μl) (宝酒造社) 3μl、至適量の滅菌水を加え、最終的に総量が50μlになるようにし、37℃で11時間反応させた。BST1107I消化断片は、1%アガロースゲル電気泳動により分離精製後、Ultrafree-MC 0.65μm フィルターカラム(ミリポア社)を用いてアガロースゲルより回収した。フェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿による精製濃縮後、20μl の滅菌蒸留水に溶解させて直鎖状pSwitchおよびpGene/V5-His/Xベクター溶液を得た。
【0045】
b.C6BU-1/pSW安定株の作製
まず、GeneSwitch調節蛋白質をコードする遺伝子pSwitchベクターを染色体に組み込んだC6BU-1安定細胞株(C6BU-1/pSwと記載)を作製した。その概略は次のとおりである。まず、ラットC6BU-1細胞を25 cm2フラスコ(グライナー社)に播き、10% 牛胎児血清 (Hyclone社)を含むDulbeco’s Modified Eagle’s Medium (Sigma社) (以下、10%FCS DMEM)中、37℃、湿度100%、5% CO2を含む空気下のCO2インキュベーター内で90% 細胞密度に達するまで培養を行った。次に、培地を5mlの新しい10%FCS DMEMに交換後、リポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen社)を用い、上述した直鎖状pSwitchベクター (Invitrogen社) 12μgをトランスフェクションして形質転換した。尚、トランスフェクション操作は、リポフェクトアミン2000試薬に添付されていた取扱説明書に準拠した。48時間後に培地をハイグロマイシンB(Invitrogen社)を最終濃度で200 μg/ml含む10%FCS DMEMに交換し、さらに19日間にわたって培養を続け、ハイグロマイシンB抵抗性C6BU-1細胞株、すなわちpSwitchベクターが染色体に組み込まれたC6BU-1細胞株を作製した。これらハイグロマイシンB抵抗性C6BU-1細胞株を、1穴あたり1個以下の細胞数となるように、200 μg/mlハイグロマイシンBを含む10% FCS DMEMで無限希釈し、96穴プレート(ファルコン社)に継代した。その後さらに25日間にわたって培養を続け、増殖性を示すハイグロマイシンB抵抗性C6BU-1細胞株を選択し、42個の候補安定細胞株を得た。
【0046】
次に、至適安定細胞株を取得する目的で、各々の候補安定細胞株におけるミフェプリストン依存的なGeneSwitch調節蛋白質の発現誘導応答性を、レポーター遺伝子lacZの転写産物であるβ-ガラクトシダーゼ(β-Gal)酵素活性を指標に評価した(β-Galアッセイ法)。まず、24穴プレート(ファルコン社)に、これら候補安定細胞株を各々個別に継代し、90% 細胞密度に達するまで培養した。次に、リポフェクトアミン2000試薬(Invitorgen社)を用いてpGene/V5-His/lacZベクター(Invitrogen社)1.0μgを各候補安定細胞株にトランスフェクションし、24時間後に最終濃度が10 nMとなるようにミフェプリストンを添加した。48時間後にβ-Galアッセイキット(Invitrogen社)を用い、ミフェプリストンの曝露によって一過性に発現が誘導されたβ-Galの酵素活性を定量した。尚、β-Galアッセイの操作は、キットに添付された取扱説明書に準拠した。また、β-Galの基質にはortho-nitrophenyl-β-D-galactopyranoside (以下、ONPG)(Invitrogen社)を使用し、β-GalがONPGを加水分解することにより産生する反応生成物量を420 nmにおける吸光度を指標にして定量化し、ミフェプリストンによるGeneSwitch調節蛋白質の発現誘導能を評価した。最終的に、#39株のみが極めて高いミフェプリストン依存的なGeneSwitch調節蛋白質発現誘導応答性を示したので、この株をC6BU-1/pSwと命名し、以後の使用に供した。
【0047】
c.C6BU-1/pSw-X安定株の作製
目的蛋白質X(addicsin, addicsin S18A,Arl6ip-1)をコードするcDNAを染色体に組み込んだC6BU-1/pSw安定細胞株(C6BU-1/pSw-Xと記載)を作製した。その概略は次のとおりである。まず、C6BU-1/pSw細胞を直径9cmプラスチックシャーレ(グライナー社)に播き、200 μg/ml ハイグロマイシンBを含む10% FCS DMEM中、37℃、湿度100%、5% CO2を含む空気下のCO2インキュベーター内で90% 細胞密度に達するまで培養を行った。次に、培地を10 mlの新しい200 μg/ml ハイグロマイシンBを含む10%FCS DMEMに交換後、リポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen社)を用い、上述した直鎖状pGene/V5-His/X(pGene/V5-His/addicsin, pGene/V5-His/addicsin S18AもしくはpGene/V5-His/Arl6ip-1)ベクター 5μgをトランスフェクションして形質転換した。尚、トランスフェクション操作は、リポフェクトアミン2000試薬に添付されていた取扱説明書に準拠した。48時間後に培地をハイグロマイシンB(Invitrogen社)ならびにゼオシン(Invitrogen社)を各々最終濃度で200 μg/mlならびに250 μg/ml含む10%FCS DMEMに交換し、さらに19日間にわたって培養を続け、ゼオシン抵抗性C6BU-1/pSw細胞株、すなわちpGene-Xベクターが染色体に組み込まれたC6BU-1/pSw細胞株を作製した。
【0048】
これらゼオシン抵抗性C6BU-1細胞株を、1穴あたり1個以下の細胞数となるように、200 μg/mlならびに250 μg/ml含む10% FCS DMEMで無限希釈し、96穴プレート(ファルコン社)に継代した。その後さらに約1ヶ月間にわたって培養を続け、増殖性を示すゼオシン抵抗性C6BU-1/pSW細胞株を選択して候補安定細胞株を得た。pGene/V5-His/addicsin、pGene/V5-His/addicsin S18A、pGene/V5-His/Arl6ip-1ベクターをそれぞれC6BU-1/pSW細胞へトランスフェクションしてゼオシン抵抗性C6BU-1/pSw安定株を作製したところ、それぞれ13、23、18株の候補安定細胞株が得られた。
【0049】
次に、至適安定細胞株を取得する目的で、目的蛋白質のC末側に付加させたV5タグを特異的に認識する抗V5-HRPモノクローナル抗体(Invitrogen社)を用いて、各々の候補安定細胞株におけるミフェプリストン依存的な目的蛋白質Xの発現誘導をWestern Blot法により評価した。まず、24穴プレート(ファルコン社)に、候補安定細胞株を200 μg/ml ハイグロマイシンBおよび250 μg/mlゼオシンを含む10%FCS DMEM中で各々継代し、90% 細胞密度に達するまで培養後、最終濃度が10 nMとなるようにミフェプリストンを添加した。24時間後に培地を完全に除去し、1穴あたり500 μlのPBS溶液で3回の洗浄を行った。次に、1穴あたり50 μl の2 x SDS試料溶液(125 mM Tris HCl, 20% Glycerol, 4% SDS, pH6.8)を加えて細胞を完全に溶解させ、16G注射針を装着したシリンジで5回以上懸濁させてゲノムDNAを物理的に断片化した。このようにして粘度を低下させた細胞溶解溶液をWestern Blot解析用試料として用いた。試料は、100℃で5分間の加熱処理後、1試料当たり15 μlをゲルにロードし、12% SDS-PAGEゲルにて泳動を行った。
【0050】
泳動を終えたゲルは、5〜10分間、転写溶液(25 mM Tris, 190 mM Glycine, 20% methanol)中で平衡化後、ミニプロティアンIIエレクトロブロット装置 (BioRad社)に装着した。100 Vで60分間PVDF膜(BioRad社)に転写後、5% スキムミルクを含むPBS-0.1%Tween 20 (TBS-T) 溶液(ブロッキング溶液)にPVDF膜を浸し、4℃で一晩振とうすることによりブロッキングを行った。次に、ブロッキング溶液で5,000倍希釈した抗V5-HRPモノクローナル抗体とPVDF膜を室温で2時間反応させた後、大過剰量のTBS-T溶液を用いて10分間ずつ3回の洗浄を行った。シグナルの検出はECL system (Amersham Bioscience 社)を用いて行った。すなわち、PVDF膜と検出試薬(検出試薬Aと検出試薬Bを等量混合した溶液)を室温で1分間反応させた後、X線フィルムに露光し、そのフィルムを現像することによって目的蛋白質のシグナルを得た。その結果、C6BU-1/pSW-Arl6ip-1候補安定株中では#16株、C6BU-1/pSW-addicsin候補安定株中では#4株、C6BU-1/pSW-addicsin S18A候補安定株中では#11株が、それぞれ極めて高いミフェプリストン依存的な目的蛋白質の発現誘導応答性を示した。そこで、これらの安定株をC6BU-1/pSW-Arl6ip-1 #16、C6BU-1/pSW-addicsin #4、C6BU-1/pSW-addicsin S18A #11と命名し、解析に使用した。これら安定株は、C6BU-1/pSw-Arl6ip-1(FERM AP-20260)、C6BU-1/pSw-addicsin S18A(FERM AP-20259)及びC6BU-1/pSw-addicsin(FERM AP-20258)として、それぞれ独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成16年10月19日に寄託されている。
【0051】
d.C6BU-1/pSW-X細胞特性の解析
i) 内在性addicsinならびにβ-actin量の解析
上記eで調製した3種類の安定株(C6BU-1/pSW-Arl6ip-1 #16、C6BU-1/pSW-addicsin #4、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A #11)を、それぞれ10nmミフェプリストンを含む培地中に24時間暴露して、Arl6ip-1、addicsin、addicsinS18Aの各タンパク質を過剰発現させ、ミフェプリストン依存的に目的蛋白質X(Arl6ip-1、addicsin、addicsinS18A)を発現誘導した場合の内在性のaddicsinならびにβ-actin量の変動の有無をWestern Blot 法により検討した。
Western Blot法は、記載済みの内容を一部改変して実施した。すなわち、addicsinの発現量解析には、ウサギ抗addicsinポリクローナル抗体(MJ. Ikemoto et. al., NeuroReport, 16 2079-2084, 2002)(2,000倍希釈)を1次抗体として使用し、ヤギ抗ウサギIgG-HRP抗体 (Cappel社) (20,000倍希釈)を2次抗体として使用した。また、β-actinの発現量解析には、マウス抗β-actinモノクローナル抗体(Chemicon社)(200倍希釈)を1次抗体として使用し、ウサギ抗マウスIgG-HRP抗体 (Chemicon社) (2,000倍希釈)を2次抗体として使用した。尚、抗体反応は、いずれの抗体を用いた場合でも、すべて室温で2時間反応させた。また、転写済みのPVDF膜は、1次抗体ならびに2次抗体反応終了後に大過剰量のTBS-T溶液を用いて10分間ずつ3回の洗浄を行った。その結果、C6BU-1/pSW-Arl6ip-1 #16、C6BU-1/pSW-addicsin #4、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A #11のいずれの安定発現株においても、10 nMミフェプリストンの曝露による内在性因子の変動量の変化は認められなかった(図3A)。
【0052】
ii)ミフェプリストン曝露時における細胞形態の観察
10 nMミフェプリストンにて曝露する前後のC6Bu-1/pSw-X細胞の形態を比較した。すなわち、曝露前、および曝露24時間後にそれぞれ位相差顕微鏡を用いてC6Bu-1/pSw-X細胞像を写真撮影して比較した。その結果、C6BU-1/pSW-Arl6ip-1 #16、C6BU-1/pSW-addicsin #4、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A #11いずれの安定株においても、10 nMミフェプリストンの曝露により、細胞が球形化するのが観察されたが、核凝集などのアポトーシス様の所見は見出されなかった(図3B)。
【0053】
iii) ミフェプリストン曝露による細胞毒性の評価
C6Bu-1/pSw-X細胞を10 nMミフェプリストンにて曝露した場合の細胞毒性をLDH-Cytotoxic Test (和光純薬)を用いて評価した。実験操作はキット添付の取扱説明書に準拠した。その結果、C6BU-1/pSW-Arl6ip-1 #16、C6BU-1/pSW-addicsin #4、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A #11のいずれの安定株においても、細胞外LDH量は、10 nMミフェプリストン曝露群とミフェプリストン未曝露群において有為な差を認めなかった(図3C)。従って、10 nMミフェプリストン曝露による細胞毒性は無いと考えられた。
以上の結果は、10 nMミフェプリストン存在下のC6BU-1/pSw-X細胞で観察される細胞の部分的球形化現象は、目的蛋白質Xの機能に由来するものであり、C6BU-1/pSw-X細胞機能は正常であることを示す。
【0054】
〔実施例6〕
細胞外グルタミン酸取り込み能の測定
C6Bu-1/pSw-X細胞を1x105 個/mlの濃度になるように200 μg/ml ハイグロマイシンBおよび250 μg/mlゼオシンを含む10%FCS DMEMにて希釈調製した。この希釈培地を24穴 PRIMARIAプレート(ファルコン社)に1穴当たり500μlずつ播き、37℃、湿度100%、5% CO2を含む空気下のCO2インキュベーター内で70% 細胞密度に達するまで培養後、最終濃度が10 nMとなるようにミフェプリストンを添加した。24時間後に培地を完全に除去し、10% FCS DMEM あるいは各種薬物を含む10% FCS DMEMを1穴あたり1000μlずつ分注した。37℃で30分間の培養後、以下のグルタミン酸取り込み能の測定実験に供した。
【0055】
C6BU-1細胞を100 nM PMAを含む培養液中に37℃で30分間曝露すると、PKCの活性化によってEAAC1グルタミン酸輸送体の細胞膜表面上の発現量が増加し、細胞外グルタミン酸取り込み能が2?3倍に増加することが知られている。そこで、 C6BU-1/pSw-X細胞を37℃で30分間100 nM PMAで処理したところ、いずれの細胞群においても、細胞外グルタミン酸取り込み能は対照群(100 nM PMA未処理群)と比べて2倍以上に増加した(図4A a, 4B a)。
また、この効果は、PMAの非活性化アナログである 100 nM の4 alpha PMAによっては全く観察されなかった(図4A b, 4B b)。これらの結果から、C6BU-1/pSw-X細胞は野生型C6BU-1細胞と同様な形質を保持していることが明らかとなった。次に、10 nMミフェプリストン存在下で培養したC6BU-1/pSw-X細胞を37℃で30分間100 nM PMAで処理し、目的因子Xの発現量の増加が細胞外グルタミン酸取り込み能に及ぼす影響を検討した。C6BU-1/pSw-addicsin細胞では、addicsinの発現量の増加によって、統計的に有為な細胞外グルタミン酸取り込み能の減少が観察された(図4B a)。
【0056】
一方、C6BU-1/pSw-Arl6ip-1細胞では、Arl6ip-1の発現量の増加によって、統計的に有為な細胞外グルタミン酸取り込み能の増加が観察された(図4A a)。これら統計的に有為な細胞外グルタミン酸取り込み能の変化は、いずれの細胞群においても、PMAの非活性化アナログである 100 nM の4 alpha PMA処理では全く観察されなかった(図4A b, 4B b)。さらに、C6BU-1/pSw-addicsinS18A細胞では、PMA処理時にはaddicsin S18Aを過剰発現による細胞外グルタミン酸取り込み能変化は観察されなかったが、PMA未処理時には、細胞外グルタミン酸取り込み能の促進が認められた(図4C)。以上の結果は、EAAC1グルタミン酸輸送体の細胞膜表面上への輸送に伴って生じる細胞外グルタミン酸取り込み動態をArl6ip-1ならびにaddicsinの発現量を人為的に制御することによって制御できることを示す。
【0057】
なお、グルタミン酸取り込み実験に関する操作は、既報 (Lisa A Dowd et.al. J. Neurochem, 67, 508-516, 1996)の内容を一部改変して実施した。まず実験に先立ち、(1) Na+ 溶液 (5 mM Tris-HCl (pH 7.2), 10 mM HEPES (pH 7.2), 140 mM NaCl, 2.5 mM KCl, 1.2 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 1.2 mM K2HPO4, 10 mM D-(+)-Glucose, pH7.2)、(2) Choline+ 溶液 (5 mM Tris-HCl (pH 7.2), 10 mM HEPES (pH 7.2), 140 mM Choline Cl, 2.5 mM KCl, 1.2 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 1.2 mM K2HPO4, 10 mM D-(+)-Glucose, pH 7.2)、(3)細胞溶解液 (100 mM NaOH)、(4) 2.5mCi 放射性グルタミン酸溶液 (L-[G-3H]放射性グルタミン酸(37 MBq, 1mCi/ml)(Amersham Bioscience社)ならびに30μM 非放射性L-グルタミン酸を含むNa+ 溶液 もしくはCholine+ 溶液)をそれぞれ要時調製した。次に、Na+依存的なグルタミン酸取り込み能を測定する目的で、37℃に保温したNa+ 溶液を、1穴あたり500μlずつ上記プレートに分注し、合計3回の洗浄を行った。洗浄終了後、ただちに、放射性グルタミン酸溶液を1穴当たり400μlずつ分注し、37℃で5分間にわたって放射性グルタミン酸を細胞内へ取り込ませた。取り込み反応終了後、ただちに放射性グルタミン酸溶液を完全に除去し、あらかじめ4℃に冷却しておいたCholine+ 溶液を1穴あたり500μlずつ分注し、合計3回の洗浄を行った。Choline+ 溶液を完全に除去後、細胞溶解液を1穴あたり正確に400μlずつ分注し、十分に振とう後、細胞を完全に溶解させ、細胞溶解溶液とした。この細胞溶解液360μlをHionic-Flour液体シンチレーションカクテル(Perkin Elmer社) 1 mlに加えて均一になるまで混合後、液体シンチレーションカウンター (Beckman社)を用いて3H の絶対放射活性(dpm)を測定した。また、この細胞溶解溶液の蛋白質濃度は、DC Protein Assayキット(PIERCE社)を用いて測定した。
【0058】
具体的には、上記の細胞溶解溶液 5μl 、キット添付試薬A 25μl ならびにキット添付試薬B 200μl をそれぞれ混合し、室温で30分間反応後、分光光度計にて655 nmの吸光度を測定した。また、同様の条件下、各種濃度の牛血清アルブミン(BSA)の655 nmの吸光度を測定して標準濃度曲線を作製し、これに基づいて1穴毎の蛋白質濃度を算出した。
一方、Na+に依存しない非特異的グルタミン酸取り込み量(バックグランド)は、Na+ 溶液の代わりにCholine+ 溶液を使用し、上記記載内容と全く同一の操作を行うことによって測定した。また、この実験時における蛋白質濃度も上記記載内容と全く同一の操作を行うことによって決定した。尚、細胞内へのグルタミン酸取り込み量は、グルタミン酸取り込み量 =(Na+に依存的な蛋白質重量当たりの絶対放射活性値)- (Na+に非依存的な蛋白質重量当たりの絶対放射活性値) により算出した。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】神経シナプスにおけるグルタミン酸輸送体及びその制御因子の作用機構の概略を示す図である。
【図2】Arl6ip-1タンパク質とaddicsinタンパク質の相互作用を、免疫沈降法(A)及びグリセロールグラヂェント法(B)によって解析した結果を示す電気泳動写真である。
【図3】実施例5で得た3種の細胞(C6BU-1/pSW-Arl6ip-1、C6BU-1/pSW-addicsin 、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A)に対するミフェプリストンによる影響について、該細胞における、内在性addicsin及びβ−actinの変動量を解析した結果を示すウエスタンブロット写真(A)、細胞形態を示す顕微鏡写真(B)及び細胞外LDH量を示すグラフ(C)である。
【図4】実施例5で得た3種の細胞(C6BU-1/pSW-Arl6ip-1、C6BU-1/pSW-addicsin、S18AC6BU-1/pSW-addicsin S18A)及び野生型細胞(C6BU-1)について、PMA処理条件下及び未処理条件下、及びミフェプリストン処理条件下及び未処理条件下における、細胞外グルタミン酸の取込み能を解析した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の促進活性を有することを特徴とする、タンパク質。
【請求項2】
配列番号9に示される、アミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、EAAC1グルタミン酸輸送体機能の促進活性を有することを特徴とする、タンパク質。
【請求項3】
請求項1に示されるタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
配列番号2に示される塩基配列を有するDNA。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のDNAが組み込まれていることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項6】
請求項2に示されるタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
配列番号8に示される塩基配列を有するDNA。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のDNAが組み込まれていることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項9】
EAAC1グルタミン酸輸送体発現能を有し、請求項3及び/又は請求項6に記載のDNAが組み込まれた発現ベクターが導入されているこを特徴とする、形質転換体。
【請求項10】
さらにaddicsin タンパク質をコードするDNAが組み込まれた発現ベクターが導入されていることを特徴とする、請求項9に記載の形質転換体。
【請求項11】
形質転換体が、動物細胞株であることを特徴とする、請求項10に記載の形質転換体。
【請求項12】
EAAC1グルタミン酸輸送体発現能を有し、かつaddicsin、Ar16ip及びaddicsinS18Aのいずれか1以上のタンパク質の発現能を有する細胞に、EAAC1グルタミン酸輸送体制御薬剤の候補物質を接触させ、細胞外グルタミン酸の取り込み能を評価することによりスクリーニングすることを特徴とする、EAAC1グルタミン酸輸送体制御薬剤の探索方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−115786(P2006−115786A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308836(P2004−308836)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】