説明

ECT2のプレクストリン相同ドメインを含むポリペプチド、及びホスファチジルイノシトールに対するその結合特異性

本発明は、Ect2のPHドメインの特異的な脂質結合能に関する。詳細には、本発明は、Ect2配列に由来し、DNA配列1(配列番号1)で示す配列を有する単離DH−PH直列型ドメイン及びその使用、並びにEct2の細胞周期活性、及びEct2のPHドメインとPIの相互作用を修飾する作用物質をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ect2のPHドメインの特異的な脂質結合能に関する。詳細には、本発明は、この能力の同定、及びEct2活性の調節物質を同定するアッセイでのこのドメインの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
正常細胞の増殖性の成長は、一連の異なるステップである細胞周期として知られる過程を介する規則的な進行を必要とする。細胞周期を介する進行は、リン酸化カスケードが関与する複雑なシグナル伝達経路を介して、栄養利用能、細胞サイズ、及び成長因子によって調節され、特定のタンパク質の厳密に制御された発現及び安定性が細胞周期の各期で必要である。
【0003】
細胞周期はM期から始まり、その期では細胞質の分裂(細胞質分裂)が生じる。M期の後にはG1期が続き、その期で細胞は高率の生合成及び成長を再開する。S期はDNA合成から始まり、DNA量が2倍になったときに終了する。次いで細胞はG2期に入り、その期は、凝縮した染色体の出現によってシグナル伝達される有糸分裂が開始するときに終了する。最終分化細胞はG1期で停止し、その細胞ではもはや細胞分裂は行われない。
【0004】
細胞周期事象の順序は、別個の各段階が、次の段階が開始する前に確実に終了するように特定のチェックポイントで厳重に調節されている。癌を含めて、異常な細胞増殖と関係するヒト疾患は、細胞周期進行のこの厳重な調節が乱れたときに生じる。細胞周期に関与するシグナル伝達経路、及びその調節におけるその経路の特定の役割を解明すると、癌及び他の増殖関連疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症)の予防的、診断的及び治療的な対処に新たな機会がもたらされる。
【0005】
その一方で、調節された形での細胞の増殖の亢進が好ましいこともある。例えば、細胞の増殖は、創傷治癒、及び組織の成長が望ましい場合に有用である。したがって、シグナル伝達経路及び機構を、増殖の抑制を促進し、亢進し又は防止する調節物質と共に同定することが望ましい。
【0006】
細胞周期の構成成分及び調節物質を同定することが望ましいにも関わらず、この分野でそのような化合物が不足している。新たな化合物を同定する手法の1つは、タンパク質のシグナル伝達の相互作用を解明し、この相互作用を抑制し又は亢進する化合物を同定することである。
【0007】
小さな(21kDa)GTP結合タンパク質(低分子量Gタンパク質)のスーパーファミリーは、5つのサブファミリー:Ras、Rho、ADPリボシル化因子(ARF)、Rab、及びRanを含み、これらは多数の細胞応答を制御する分子スイッチとして働く。GTPアーゼのRhoファミリーの構成要素には、RhoA、RhoB、RhoC、Rac−1、Rac−2、及びCdc42がある。
【0008】
Rhoファミリーの低分子量GTPアーゼは、GDPの結合状態でもGTPの結合状態でも認めることができる。GTPと結合するとき、それは、遺伝子発現の制御、アクチン細胞骨格及び細胞接着の制御、平滑筋収縮の制御、細胞形態、細胞運動、神経突起の退縮、細胞質分裂、及び細胞の形質転換を含めて、多様な細胞の過程に最終的に変化を誘導することができるシグナル伝達カスケードの下流の構成要素と相互作用する(Hall, A. Science (1998) 279:509-514)。
【0009】
GTPとGDPの結合状態の交換は、正及び負の制御機構の調節下にある。GTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)は、GTPアーゼ活性を高め、それによってGDPの結合状態が促進され、その状態は、GDP解離抑制因子(GDI)との相互作用によって隔離し安定化することができる。GAPもGDIも、GTP結合Rhoファミリータンパク質のレベルの低下に作用し、それによってシグナル伝達が「切(off)」になる。その一方でグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)は低分子量GTPアーゼと相互作用し、GTPとのGDPの交換を促進し、それによってその経路におけるシグナル伝達が亢進する。
【0010】
Ect2は、Rho−GEFファミリータンパク質の構成要素であり、したがってRhoファミリーのGTPアーゼ(Rho、Rac及びcdc42)に対してGTPとのGDPの交換を促進する(Tatsumoto et al, 1999)。ect2遺伝子は、哺乳動物及び昆虫において配列及び機能レベルで保存されている。ショウジョウバエのpebble遺伝子(GenBank ID#(GI)5817603)は、マウス(GI293331)及びヒトect2のオルソログであり、細胞質分裂の開始に必要である(Lehner CF, J. Cell Sci. (1992) 103: 1021-1030;Prokopenko SN, et al., Genes Dev (1999) 13(1 7):2301-2314)。
【0011】
そのタンパク質は、長さが883アミノ酸であり、分子量が約100kDである。それは、BRCTドメイン(aa140〜229及び235〜323)、Dbl相同(DH)ドメイン(aa421〜610)及びプレクストリン相同ドメイン(aa644〜763)という4個の機能ドメインからなる。直列型のDH−PHドメイン構築はGEFに特徴的である。データから、DHドメインが相手のGTPアーゼと相互作用し、そのGTPアーゼ上でのヌクレオチド交換を促進し、PHドメインがDHの交換活性のターゲッティング又は制御に関与することが示されている(Zheng et al., 2001により総説されている)。
【0012】
Ect2のリン酸化は、その交換活性に必要であり、G2期とM期の間で起こる。ヒトEct2は、細胞質分裂の制御に関与する。ヒトect2遺伝子は、第3染色体長腕の3q26に位置し(Takai S. et al., Genomics (1995) 27(1):220-222)、それは多数の癌でコピー数及び発現が増大している領域である(Bitter MA, et al., Blood (1985) 66(6): 1362-1370;Kim DH, et al., Int J Cancer. (1995) 60(6):812-8 19;Brzoska PM, et al., Cancer Res. (1995) 55(14):3055-3059;Balsara BR, et al., Cancer Res. (1997) 57(1 1):2116-2120;Heselmeyer K. et al., Genes Chromosomes Cancer (1997) 19(4):233-240;Sonoda G, et al., Genes Chromosomes Cancer. (1997) 20(4):320-8)。米国国立癌研究所から入手可能なデータ(www.ncbi.nlm.nih..cov/ncicgap)により、ヒトect2が、卵巣、子宮、副甲状腺、精巣、脳、及び結腸の癌で過剰発現していることが示唆される。
【0013】
既知の機能ドメインとの相同性を有するいくつかのドメインがEct2ポリペプチド中で同定されている。しかし、その機能はこれまで依然として不明である。これらのドメインの役割、及びこれらのドメインを調節することによりEct2活性を調節する可能性は、細胞周期進行を調節するための依然として重要な標的である。
【0014】
上流のシグナル伝達事象による刺激の前に、多数のGEFが、部分的に活性な状態で、又は不活性な状態でも存在する。活性化は、Vavでの事象などのリン酸化事象から生じる可能性があり、Vavでの事象では、Y174でのリン酸化によりRac相互作用部位を遮蔽するα−へリックスの折畳み構造がほどけ、それによって交換反応の進行が可能となる(Bustelo, 2000)。Ect2自体が、有糸分裂中のリン酸化事象の後に最大の交換活性を示すことが報告されている(Tatsumoto et al, 1999)。タンパク質とタンパク質の相互作用は、APCのアルマジロドメインとRac特異的なGEFのAsefの相互作用によって示されるように、GEF活性に影響を及ぼす可能性もある(Kawasaki et al., 2000)。この相互作用は、AsefのGEF活性の亢進をもたらし、最終的にMDCK細胞における細胞形態の変化をもたらした。
【0015】
ホスファチジルイノシトール(PtdIns)(下記に示す)は、真核生物のイノシトール脂質の中心単位である。それは、ホスホジエステル結合を介してジアシルグリセロールと結合したD−ミオ−イノシトール−1−リン酸からなる。イノシトールの頭部基は、5個の遊離ヒドロキシル基を有し、そのうち3、4及び5位にあるものが、単独で又は細胞環境との組合せでリン酸化された状態で同定されている。
【0016】
【化1】

【0017】
ホスファチジルイノシトール及びそのリン酸化された誘導体は、ホスホイノサイト(phosphoinosite)又はPIと称される。それらはすべての膜中に存在し、キナーゼ、リパーゼ及びホスファターゼを含めた様々な細胞酵素の基質となることが示されている。
【0018】
ホスファチジルイノシトールは、哺乳動物細胞中で認められる最も豊富なイノシトール脂質であり、正常な静止細胞中でPtdIns4P及びPtdIns4,5Pの10〜20倍の濃度で存在する。単独でリン酸化されたPtdInsのうち、95%に近いものがPtdIns4Pとして存在し、残りがPtdIns3P及びPtdIns5Pからなる。PtdIns4,5Pは、最高に豊富な二重リン酸化種であり、その種は99%を超えるそのような脂質からなり、PtdIns3,4P及びPtdIns3,5Pが残りを形成する。三重にリン酸化されたPtdIns3,4,5Pのレベル(Stephens et al., 2000;Rameh et al., 1997)
【0019】
リン脂質とDblファミリーのGEFのPHドメインとの結合は、GEF活性の調節をもたらすこともできる。Vav及びSosのGEF活性が、PtdIns3,4,5Pの結合により活性化し(Han et al., 1998、Nimnual et al., 1998)、PtdIns4,5Pとの相互作用によって抑制される(Das et al., 2000)ことが示されている。癌原遺伝子Dblは、GEF活性を低下させ、PtdIns4,5PともPtdIns3,4,5Pとも相互作用することが示されている(Russo et al., 2001)。
【0020】
リン脂質の結合は、Ect2のプレクストリン相同ドメイン(aa644〜763)によって媒介される。その小さな機能ドメインは、シグナル伝達に関与する多数のタンパク質に存在し、タンパク質キナーゼCの基質であるプレクストリン中で最初に同定された。そのドメインの折畳みである、c末端に両親媒性のへリックスが付いた2つの垂直な逆平行βシートは、リン酸化チロシン結合の折畳み(PTB)、Enabled/VASP相同ドメイン(EVH1)及びRan結合ドメイン(RanBD)と構造上非常に類似しているが、アミノ酸レベルでは類似性がほとんどない。
【0021】
PHドメインによる脂質結合は、幾名かの研究者によって研究され、これにより脂質結合特異性によるPHドメインの分類がなされた。一般に、脂質結合PHドメインは、下記に示す4つの種類のうち1つに入れることができる(Kavran et al., 1998、Rameh et al., 1997)。
【0022】

【0023】
すべてのGEF由来のPHドメインがリン脂質の結合に関与するかどうかはまだ明らかとなっていない。DH−PHの対形成における電荷の分布は、約50%が正に帯電した残基を有し、その残基が脂質の相互作用に必要である可能性が高いことを示すものである。実際、正規の脂質結合部位の周りで負に帯電したPHドメインの分析では、7個のうち5個がDHドメインと対になっており、酸性のリン脂質と結合する可能性は低い(Blomberg & Nilges, 1997)。この考えを支持して、Olsonらは、Rho特異的なGEFのLbc由来の負に帯電したPHドメインが、任意の細胞膜ではなくアクチン線維にそのタンパク質を局在化させる役割を果たすことを示した。
【0024】
したがって、DblファミリーのGEFのPHドメインが交換活性に対して制御的な役割を果たすことができ、この制御がPIの結合により調節できることが示されている。これまで、分析されたほとんどのPHドメインは、PtdIns4,5P又はPtdIns3,4,5Pに対する特異性を有する。
【0025】
これまで、PtdIns3,5−Pと結合するPHドメインについての記載はほとんどない。その脂質は、PI3とPI−3−P5キナーゼの連続した作用によって合成される。その生理的な役割は依然として不明であるが、その合成は、浸透圧負荷をかけた酵母でPI3キナーゼ依存的に活性化される(Dove et al., 1997)。Arf−GAPファミリーの構成要素であるβ−センタウリンだけが、PtdIns3,5−Pと単独で結合することが示されている(Dowler et al., 2000)。このファミリーは、リン脂質結合プロファイルが異なる10種のPHドメイン含有構成要素からなるが、その機能的な関連は依然として不明である。
【0026】
さらに、Rho−GEFのEct2に由来するDH−PH直列型ドメインの脂質結合特異性は、これまで実証されていない。
【非特許文献1】Hall, A. Science (1998) 279:509-514
【非特許文献2】Lehner CF, J. Cell Sci. (1992) 103: 1021-1030
【非特許文献3】Prokopenko SN, et al., Genes Dev (1999) 13(1 7):2301-2314
【非特許文献4】Takai S. et al., Genomics (1995) 27(1):220-222
【非特許文献5】Bitter MA, et al., Blood (1985) 66(6): 1362-1370
【非特許文献6】Kim DH, et al., Int J Cancer. (1995) 60(6):812-8 19
【非特許文献7】Brzoska PM, et al., Cancer Res. (1995) 55(14):3055-3059
【非特許文献8】Balsara BR, et al., Cancer Res. (1997) 57(1 1):2116-2120
【非特許文献9】Heselmeyer K. et al., Genes Chromosomes Cancer (1997) 19(4):233-240
【非特許文献10】Sonoda G, et al., Genes Chromosomes Cancer. (1997) 20(4):320-8
【非特許文献11】www.ncbi.nlm.nih..cov/ncicgap
【非特許文献12】Stephens et al., 2000
【非特許文献13】Dove et al., 1997
【非特許文献14】Dowler et al., 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、Ect2に由来するDH−PH直列型ドメインの同定について記載し、様々なPIに対するこの特異性を実証する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
したがって、本発明の一態様では、Ect2配列に由来し、DNA配列1(配列番号1)で示されるヌクレオチド配列を有する単離DH−PH直列型ドメインが提供される。好ましくは、DNA配列は、アミノ酸配列1(配列番号3)として示すアミノ酸配列をコードする。他の実施形態では、単離DH−PH配列は、アミノ酸配列2(配列番号4)として示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列1(配列番号2)で示されるものなどの発現構築物の一部である。
【0029】
本発明の他の態様では、Ect2のPHドメインとPIの相互作用を調節する作用物質(agent)をスクリーニングする方法が提供され、この方法は、結合を導く条件下でEct2のPHドメインのポリペプチド及び前記PIを候補作用物質と共にインキュベートするステップと、前記候補作用物質がEct2のPHドメインとPIの結合を調節するかどうかを判定するステップとを含む。
【0030】
「Ect2のPHドメイン」とは、Ect2ポリペプチドのアミノ酸644〜763で示されるプレクストリン相同ドメインに対応するアミノ酸配列を有するEct2ポリペプチドの領域、或いはその断片、誘導体又は相同な配列を意味する。したがって、「Ect2のPHドメイン」という語句は、そのポリペプチドの配列と、DNA配列1(配列番号1)で示されるヌクレオチド配列など、そのポリペプチドの配列をコードするヌクレオチド配列の両方を示すのに使用する。適切には、前記Ect2のPHドメインを、その天然の構造を有する折り畳まれたポリペプチドとして提供する。好ましい実施形態では、Ect2のPHドメインを、本明細書に記載のDH−PH直列型ドメインの一部として提供する。したがって、特に好ましい実施形態では、PHドメインを、DNA配列1(配列番号1)で示される配列を有する構築物の一部として提供する。
【0031】
一実施形態では、PIは、イノシトール環の3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIである。適切には、PIには、PtdIns3−P、PtdIns5−P及びPtdIns3,5−Pがある。
【0032】
好ましい実施形態では、前記作用物質は、抗体、有機小分子又はアンチセンスオリゴマーである。
【0033】
他の態様では、Ect2の活性を調節する作用物質を同定する方法が提供され、その方法は、
(a)Ect2のPHドメインを含むポリペプチドと候補作用物質とを含む試料を提供するステップと、
(b)試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合を測定するステップと、
(c)試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合を、Ect2のPHドメインを含むポリペプチドに結合しないことが知られている対照作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合と比較するステップとを含み、
対照作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合と比較した、試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合性の亢進から、候補作用物質がEct2の細胞周期機能を調節することが示唆される。
【0034】
一実施形態では、Ect2の活性は脂質結合活性である。適切には、Ect2の活性はその細胞周期活性である。
【0035】
Ect2のPHドメインが、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIとの結合に対する特異性を有することを本明細書において実証する。4位のリン酸基は、3位及び/又は5位がリン酸化されている場合でもPIとEct2の結合を抑制すると思われる。
【0036】
したがって、本発明の他の態様では、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIによるシグナル伝達の調節に適した化合物を同定するスクリーニング法における、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIと結合できるが、4位にリン酸基を有するPIと結合できないポリペプチドの使用が提供される。
【0037】
適切には、ポリペプチドは、Ect2のPHドメインを含む。一実施形態では、Ect2のPHドメインは、DH−PH直列型ドメインの形態である。具体的には、Ect2のPHドメインは、本明細書に示す配列を有する構築物として提供される。
【0038】
DNA配列1(配列番号1)は、Ect2のDH−PHドメインをコードするcDNA分子である。
【0039】
DNA配列2(配列番号2)は、発現cDNA分子構築物である。
【0040】
AA配列1(配列番号3)は、DNA配列1(配列番号1)に対応するアミノ酸配列である。
【0041】
AA配列2(配列番号4)は、DNA配列2(配列番号2)に対応するアミノ酸配列である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
特に明示しない限り、本明細書で使用するすべての技術的及び科学的用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学における)当業者に通常理解されているものと同じ意味を有する。分子的方法、遺伝学的方法及び生化学的方法には標準的な技術を使用する。一般には、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.及びAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.;並びにGuthrie et al., Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology, Methods in Enzymology, Vol. 194, Academic Press, Inc., (1991)、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis, et al. 1990. Academic Press, San Diego, Calif.)、McPherson et al., PCR Volume 1, Oxford University Press, (1991)、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed. (R. I. Freshney. 1987. Liss, Inc. New York, N.Y.)、及びGene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, ed. E. J. Murray, The Humana Press Inc., Clifton, N.J.)を参照されたい。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
本発明との関係では、Ect2のPHドメインという用語は、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIに対して特異的にその化合物と結合するのに必要な能力を有する限り、その範囲内にその変異体、誘導体及び断片も含む。
【0044】
Ect2のPHドメインのポリペプチドに関して「変異体」又は「誘導体」という用語は、Ect2のPHドメインのポリペプチドの配列からの又はそれへの、1個(又は複数個の)アミノ酸の任意の置換、変異、修飾、代替、欠失又は付加が生じたものを含む。好ましくは、Ect2のPHドメインをコードする核酸は、その変異体又は誘導体を含むと理解される。
【0045】
Ect2のPHドメインの天然の変異体は、保存的なアミノ酸置換を含む可能性が高い。保存的な置換は、例えば下記の表に従って定義することができる。第2列の同じ区画の、好ましくは第3列の同じ行のアミノ酸は、互いに置換することができる。
【0046】

【0047】
Ect2のPHドメインの適切な断片は、長さが少なくとも約5アミノ酸、例えば10、12、15又は20アミノ酸である。その断片は、長さが100、75又は50アミノ酸未満でもよい。その断片は、保存的な置換を含めて、1個又は複数個の(例えば、5、10、15、又は20個の)置換、欠失又は挿入を含んでよい。
【0048】
Ect2のPHドメインの好ましいタンパク質誘導体又は断片は、完全長配列のアミノ酸644〜763として示すEct2のPHドメインのうち連続した範囲と、一部の場合では、完全長配列のアミノ酸644〜763に対応するEct2のPHドメインの配列の長さ全体と少なくとも80%の配列同一性又は類似性を有し、好ましくは少なくとも85%の、より好ましくは少なくとも90%の、さらに好ましくは少なくとも95%の、最も好ましくは97%又は100%の配列同一性又は類似性を有する。好ましいEct2のPHドメインはさらに、Ect2の完全アミノ酸配列のアミノ酸450〜648(RHOGEFドメイン)に対応するアミノ酸配列、或いはその断片又は誘導体を含む。これらのドメインは、pfamプログラム(Bateman et al., Nucleic Acids Res. (1999) 27:260-262;http://pfam.wustl.edu/)を用いて同定することができ、このプログラムは、各ドメインの詳細な説明も含む(RHOGEFドメイン:PF0062 I;PHドメイン:PFOO 169)。
【0049】
Ect2のPHドメインの断片又は誘導体は「機能的に活性」であることが好ましく、このことは、それがアミノ酸644〜763のアミノ酸配列を含む完全長野生型のEct2のPHドメインに伴う1種又は複数種の機能的な活性を示すことを意味する。
【0050】
一例として、断片又は誘導体は抗原性を有してもよく、その結果、Ect2タンパク質に対する抗体の生成に関して下記でさらに論じるように、イムノアッセイ、免疫感作、Ect2活性の調節などでそれを使用することができる。好ましくは、機能的に活性なEct2のPHドメインの断片又は誘導体は、シグナル伝達活性や、3位又は5位にリン酸を有するPIに対して特異的なPIとの結合など、1種又は複数種の生物活性を示すものである。
【0051】
「Ect2の核酸」という用語は、Ect2ポリペプチドをコードするDNA又はRNA分子を指す。好ましくは、Ect2のPHドメインのポリペプチド又は核酸或いはその断片は、ヒト由来である(例えば、本明細書でDNA配列1(配列番号1)で示される)が、好ましくはDNA配列1(配列番号1)に対して少なくとも70%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有するそのオルソログ又は誘導体でもよい。オルソログは、当業者に知られている方法を用いて、DNA配列1(配列番号1)を使用したBLAST分析によって同定することができる(Huynen MA and Fork P, Proc Natl Acad Sci (1998) 95:5849-5856;Huynen MA et al., Genome Research (2000) 10: 1204-1210)。
【0052】
Ect2の核酸及びポリヌクレオチドの単離、生成、及び発現
Ect2のPHドメインのポリペプチドを得るのに多様な方法が利用可能である。一般に、ポリペプチドの使用目的から、発現、生成、及び精製の方法の詳細が決定される。例えば、調節作用物質のスクリーニングに使用するポリペプチドの生成には、このタンパク質の特定の生物活性を保存する方法が必要となることがあるが、抗体生成用のポリペプチドの生成には、特定のエピトープの構造的な完全性が必要となることがある。スクリーニング又は抗体生成用に精製するポリペプチドの発現には、特定のタグの付加(すなわち、融合タンパク質の生成)が必要となることがある。タンパク質の発現、生成、及び精製のための技術は、当業者に周知である;そのための任意の適切な手段を使用することができる(例えば、Higgins SI and Hames ED (eds.) Protein Expression:A Practical Approach, Oxford University Press Inc., New York 1999;Stanbury PF et al., Principles of Fermentation Technology, 2nd edition, Elsevier Science, New York, 1995;Doonan S (ed3 Protein Purification Protocols, Huinana Press, New Jersey, 1996;Coligan JE et al, Current Protocols in Protein Science (eds.), 1999, John Wiley & Sons, New York;米国特許第6,165,992号)。Ect2のPHドメインのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、挿入したタンパク質コード配列を発現させるための任意の適当なベクター中に挿入することができる。プロモーター/エンハンサーエレメントを含めた必要な転写及び翻訳のシグナルは、天然のect2遺伝子及び/又はその隣接領域に由来するものでもよく、或いは異種のものでもよい。
【0053】
原核細胞又は真核細胞中でect2遺伝子を発現させることができ、選択する方法は、そのタンパク質の使用目的に依存する。具体的には、天然の折畳み及び翻訳後修飾が必要であるとき、真核生物の系は特に有用である。好ましい原核細胞には、大腸菌及び枯草菌がある。好ましい真核細胞には、哺乳動物細胞(ヒト、マウス、サルやチャイニーズハムスター卵巣の細胞など)、酵母細胞(ピキア(Pichia)属やサッカロミセス属の種など)、及び昆虫細胞(ショウジョウバエや、種々の鱗翅目細胞系統、例えばSf9細胞など)がある。Ect2ポリペプチドを単離するために、細胞の抽出物又は上清を精製することができる。好ましい精製技術には、HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、陽イオン及び陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、並びに当業者に知られている他のタンパク質精製技術がある。
【0054】
場合によっては、ペプチド結合を介して異種のタンパク質の配列と結合した融合又はキメラ産物として、Ect2のPHドメインのポリペプチドを発現させることができる。例えば、Ect2由来のポリペプチドの検出及び/又は精製を促進するために、Ect2発現ベクター構築物は、Ect2コード領域のN末端、C末端及び/又はその遺伝子配列内の任意の位置に1個又は複数個の抗体のエピトープコード配列を含んでもよい。適切な配列には、Mycエピトープ、HAエピトープ、FLAGエピトープ又はポリヒスチジンエピトープ(例えば、Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratoryを参照)がある。他の例として、GFPやルシフェラーゼなどの転写レポーターと結合した融合タンパク質として、Ect2のPHドメインのポリペプチドを発現させることができる。標準的な方法を用いて適当なコードフレーム中で所望のアミノ酸配列をコードする適当な核酸配列を互いに連結し、そのキメラ産物を発現させることにより、キメラタンパク質を作製することができる。タンパク質合成技術によって、例えばペプチド合成装置の使用によってキメラタンパク質を作製することもできる(Hunkapiller et al., Nature (1984) 310:105-111)。
【0055】
Ect2調節作用物質
本発明は、PHドメインとの相互作用により、したがってPIとの、特に3位及び/又は5位にリン酸を有するPIとの結合の調節により、Ect2及び/又はp21経路と相互作用しかつ/又はその機能を調節する作用物質を同定する方法を提供する。そのような作用物質は、p21経路、細胞周期及びイノシトールシグナル伝達の欠陥が関与する疾患又は異常と関係する様々な診断及び治療上の適用にも、Ect2タンパク質並びに細部周期及びp21経路に対するその寄与についてのさらなる分析にも有用である。
【0056】
好ましい実施形態では、Ect2調節作用物質は、Ect2活性を抑制又は亢進し、或いは、転写、タンパク質の発現、タンパク質の局在化、及び細胞の又は細胞外の活性を含めた正常なEct2の機能にその他の形で影響を及ぼす。さらに好ましい実施形態では、候補イノシトールシグナル伝達経路調節作用物質は、Ect2の機能を特異的に調節する。「特異的な調節作用物質」、「特異的に調節する」などの語句は、本明細書において、Ect2のポリペプチド又は核酸と直接結合し、好ましくはEct2の機能を抑制し、亢進し又はその他の形で変化させる調節作用物質を指すのに使用される。その用語は、Ect2とその結合相手又は基質の相互作用を(例えば、Ect2の結合相手と、又はタンパク質/結合相手の複合体と結合し、その機能を抑制することにより)変化させる調節作用物質も包含する。
【0057】
好ましいEct2調節作用物質には、小分子化学作用物質、抗体及び他の生物学的治療物質を含めたEct2相互作用タンパク質、並びにアンチセンスオリゴマー及びRNAを含めた核酸調節物質がある。調節作用物質は、例えば、併用療法の場合と同様に、他の有効成分、及び/或いは適切な担体又は添加剤を含むことがある組成物として、薬剤組成物中で製剤することができる。生物学的治療用作用物質を製剤する方法は、米国特許第6,146,628号中に詳細に記載されている。化合物を製剤し投与する技術は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" Mack Publishing Co., Easton, PA, 19th edition中に見つけることができる。
【0058】
小分子調節物質
小分子調節物質は通常、分子量が10,000未満であり、好ましくは5,000未満であり、より好ましくは1,000未満であり、最も好ましくは500未満である有機非ペプチド性分子である。この種類の調節物質には、化学的に合成された分子、例えばコンビナトリアル化学ライブラリー由来の化合物がある。小分子調節物質は、既知の構造的な特性、例えば3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIとの結合能、或いは上記に記載の方法を用いて識別される他の特性に基づいて合理的に設計することができる。相手のGタンパク質(RhoA/Rac/CDC42)との複合体中でのEct2の構造は、GEF活性に必要なタンパク質とタンパク質の相互作用の詳細を示すものであり、それを使用して、これらの相互作用の機構を調節し、それによってGEFの機能を破壊する小分子化合物の合理的な設計の助けとすることができる。GEF活性の調節に使用する小分子リガンドとの複合体中でのEct2ポリペプチドの構造から、触媒活性部位に直接関与し、又はその活性部位に対してアロステリック効果を発揮し、それによってGEF活性を調節するEct2分子の部分が示される。小分子調節物質は、化合物ライブラリーをスクリーニングすることによって同定することもできる。
【0059】
代替の小分子調節物質には、天然の産物、特に植物や菌類などの生物からの二次代謝物があり、Ect2の調節活性があるかどうか化合物ライブラリーをスクリーニングすることによってそれを同定することもできる。化合物を生成し取得する方法は、当技術分野で周知である(Schreiber SL, Science (2000) 151: 1964-1969; Radmann J and GuntherJ, Science (2000) 15 1:1947-1948)。
【0060】
スクリーニングアッセイから同定された小分子調節物質は、下記に記載のように、リード化合物として使用することができ、それから候補の臨床的な化合物を設計し、最適化し、合成することができる。そのような臨床的な化合物は、細胞周期又はイノシトールシグナル伝達の欠陥に関連する病変の治療に有用性がある可能性がある。二次の機能検証の反復、構造決定、並びに候補調節物質の修飾及びその試験により、候補小分子調節物質の活性を数倍高めることができる。さらに、候補の臨床的な化合物は、臨床及び薬剤上の特性を特に考慮して生成される。例えば、薬剤開発で試薬を誘導体化し、in vitro及びin vivoのアッセイを用いて再度スクリーニングして、活性を最適化し毒性を最小限にすることができる。
【0061】
タンパク質調節物質
Ect2のPHドメインと相互作用するタンパク質は、内因性、すなわちEct2と遺伝学的に又は生化学的に通常相互作用するものでよい。Ect2調節物質には、顕性不活性型のEct2相互作用タンパク質及びEct2タンパク質自体が含まれる。酵母2ハイブリッド及び変異体スクリーニングは、内因性のEct2相互作用タンパク質を同定するための好ましい方法を提供するものである(Finley, R. L. et al. (1996), DNA Cloning-Expression Systems: A Practical Approach, eds. Glover D. & Hames B. D (Oxford University Press, Oxford, England), pp. 169-203;Fashema SF et al., Gene (2000) 250:1-14;Drees BL Curr Opin Chem Biol (1999) 3:64-70: Vidal M and Legrain P Nucleic Acids Res (1999) 27:919-29;及び米国特許第5,928,868号)。質量分析は、タンパク質複合体を解明するための代替の好ましい方法を提供するものである(例えば、Pandley A and Mann M, Nature (2000) 405:837-846;Yates JR, Trends Genet (2000) 16:5-8に総説がある)。
【0062】
Ect2相互作用タンパク質は、Ect2特異的な抗体又はT細胞抗原受容体などの外因性タンパク質でもよい(例えば、Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratoryを参照)。Ect2抗体については、下記でさらに論じる。
【0063】
好ましい一実施形態では、Ect2相互作用タンパク質は、Ect2のPHドメインと特異的に結合する。代替の好ましい実施形態では、Ect2調節作用物質は、Ect2の基質、結合相手、又は補因子と結合する。特定の適用では、Ect2相互作用タンパク質をスクリーニングで使用して小分子調節物質を同定するとき、様々な既知の方法により、結合の平衡定数(通常少なくとも約10M)及び免疫原性の特性を含めて、Ect2タンパク質とのその相互作用タンパク質の結合特異性についてアッセイを行うことができる。酵素及び受容体に関しては、基質及びリガンドのプロセシングにより、結合についてそれぞれアッセイを行うことができる。
【0064】
特異的抗体
好ましい実施形態では、Ect2相互作用タンパク質は抗体である。Ect2ポリペプチドと特異的に結合する抗体は、既知の方法を使用して生成することができる。好ましくは、抗体は、哺乳動物Ect2ポリペプチドに、より好ましくはヒトEct2に特異的である。特に好ましい実施形態では、抗体は、Ect2のPHドメインと特異的に結合する。
【0065】
抗体は、ポリクローナル、モノクローナル(mAb)、ヒト化又はキメラ抗体、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、Fab発現ライブラリーによって生成された断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片でもよい。記載されている通りに、標準的な手順によって、親和性が10−1であり、好ましくは10−1〜1010−1であり又はそれより強いモノクローナル抗体を作製することができる(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Laboratory (1988);Goding (1986) Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed) Academic Press, New York;並びに米国特許第4,381,292号;第4,451,570号;及び第4,618,577号)。Ect2を発現する細胞の抽出物に対して、或いは実質的に精製されたEct2又はその断片から抗体を生成することができる。Ect2の断片を使用する場合、その断片は、好ましくはEct2タンパク質の少なくとも10個の、より好ましくは少なくとも20個の連続したアミノ酸を含む。適切には、Ect2の断片はPHドメインを含む。特定の実施形態では、Ect2特異的な抗原及び/又は免疫原は、免疫応答を刺激する担体タンパク質と結合している。例えば、対象のポリペプチドをスカシガイヘモシアニン(KLH)担体と共有結合させ、その結合物を、免疫応答を亢進するフロイント完全アジュバント中で乳化する。実験用のウサギやマウスなどの適当な免疫系を、従来のプロトコールに従って免疫感作させる。
【0066】
固定化された対応するEct2ポリペプチドを用いた固相の酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの適当なアッセイにより、Ect2特異的抗体が存在するかどうかアッセイを行う。ラジオイムノアッセイや蛍光アッセイなどの他のアッセイを使用することもできる。
【0067】
異なる動物種由来の異なる部分を含むEct2ポリペプチドに特異的なキメラ抗体を作製することができる。例えば、抗体の生物活性がヒト抗体に由来し、その結合特異性がネズミ断片に由来するように、ヒトイムノグロブリンの定常領域をネズミmAbの可変領域と結合することができる。それぞれの種由来の適当な領域をコードする遺伝子を互いにスプライシングすることによってキメラ抗体を生成する(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (1984) 81:6851-6855;Neuberger et al., Nature (1984) 312:604-608;Takeda et al., Nature (1985) 31:452-454)。組換えDNA技術によってマウス抗体の相補性決定領域(CDR)(Carlos, T. M., 3. M. Harlan., Blood (1994) 84:2068-2101)をヒトのフレームワーク領域及び定常領域中に移植することにより、キメラ抗体の形態であるヒト化抗体を生成することができる(Riechmann LM, et al,, Nature (1988) 323:323-327)。ヒト化抗体は、ネズミの配列を約10%、ヒトの配列を約90%含み、したがって抗体の特異性を保持しながら免疫原性がさらに軽減され又は除去される(Co MS, and Queen C., Nature (1991) 35 1:501-501;Morrison SL., Ann. Rev. Immun. (1992) 10:239-265)。ヒト化抗体及びその生成方法は当技術分野で周知である(米国特許第5,530,101号;第5,585,089号;第5,693,762号、及び第6,180,370号)。
【0068】
組換え体であるEct2特異的な単鎖抗体、アミノ酸の橋を介してFv領域の重鎖と軽鎖の断片を結合することによって形成された単鎖ポリペプチドを生成することができる(米国特許第4,946,778号;Bird, Science (1988) 242:423-426;Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85:5879-5883;及びWard et al., Nature (1989) 334:544-546)。
【0069】
抗体生成に適した他の技術では、リンパ球を抗原性ポリペプチドに、或いはファージ又は同様のベクターの抗体ライブラリーから選択されたものにin vitroで曝露する(Ruse et al., Science (1989) 246:1275-1281)。
【0070】
本発明のポリペプチド及び抗体は、修飾して又は修飾せずに使用することができる。しばしば、検出可能なシグナルをもたらし、又は標的とするタンパク質を発現する細胞に対して毒性がある物質を共有結合又は非共有結合することによってポリペプチド及び抗体を標識する(Menard S, et al., Int J. Biol Markers (1989)4: 131-134)。多様な標識及びその結合技術が知られており、科学文献でも特許文献でも広範に報告されている。適切な標識には、放射性核種、酵素、基質、補因子、抑制物質、蛍光部分、蛍光放射性ランタニド金属、化学発光部分、生物発光部分、磁性粒子などがある(米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,277,437号;第4,275,149号;及び第4,366,241号)。また、組換えイムノグロブリンを生成することもできる(米国特許第4,816,567号)。膜貫通性毒素タンパク質と結合することによって、細胞質タンパク質に対する抗体を送達し、その標的に到達させることができる(米国特許第6,086,900号)。
【0071】
患者において治療上使用するとき、本発明の抗体は、通常は非経口で、可能であれば標的部位に、又は静脈内に投与する。治療上有効な投与量及び投与法は、臨床試験によって決定する。通常、投与する抗体の量は、患者の体重1kg当たり約0.1mg〜約10mgである。非経口投与では、製剤上許容される賦形剤と合わせて、単位投与量を注射可能な形態(例えば、液剤、懸濁剤、乳剤)で抗体を製剤する。そのような賦形剤は、本質的に非毒性であり非治療的なものである。例としては、水、食塩水、リンガー液、デキストロース液、及び5%ヒト血清アルブミンがある。不揮発性油、オレイン酸エチルやリポソーム担体などの非水性賦形剤を使用することもできる。賦形剤は、等張性及び化学的安定性を高め、又はその他の形で治療潜在性を高める緩衝液や保存剤など少量の付加剤を含んでもよい。そのような賦形剤中での抗体の濃度は通常約1mg/ml〜約10mg/mlである。免疫療法の方法は、文献中にさらに記載されている(米国特許第5,859,206号;WO0073469)。
【0072】
核酸調節物質
他の好ましいEct2調節作用物質は、アンチセンスオリゴマーや二本鎖RNA(dsRNA)など、一般にEct2活性を抑制する核酸分子を含む。
【0073】
好ましいアンチセンスオリゴマーは、DNA複製、転写、Ect2RNAの移行、Ect2RNAからのタンパク質の翻訳、RNAスプライシングやEct2RNAの任意の触媒活性など、Ect2核酸の機能に干渉する。
【0074】
代替の好ましいEct2調節作用物質は、RNA干渉(RNAi)を媒介する二本鎖RNA種である。RNAiとは、配列特異的な、動物及び植物における翻訳後の遺伝子発現抑制の方法であり、発現抑制される遺伝子と配列が相同である二本鎖RNA(dsRNA)によって開始される。線虫(C. elegans)、ショウジョウバエ、植物及び哺乳動物で遺伝子を発現抑制するRNAiの使用に関する方法は、当技術分野で既知である(Fire A, et al., 1998 Nature 391:806-811;Fire, A. Trends Genet. 15, 358-363 (1999);Sharp, P. A. RNA interference 2001. Genes Dev. 15, 485-490 (2001);Hammond, S. M., et al., Nature Rev. Genet. 2, 110-1119 (2001);Tuschl, T. Chem. Biochem. 2, 239-245 (2001);Hamilton, A. et al., Science 286, 950-952 (1999);Hammond, S. M., et al., Nature 404, 293-296 (2000);Zamore, P. D., et al., Cell 101,25-33 (2000);Bernstein, E., etal., Nature 409, 363-366 (2001);Elbashir, S. M., etal., Genes Dev. 15, 188-200 (2001);WO0129058;WO9932619、及びElbashir SM, et al., 2001 Nature 4 11:494-498)。
【0075】
アッセイ系
本発明は、Ect2活性の特異的な調節物質を同定するアッセイ系を提供する。一般に、一次アッセイを使用して、Ect2の核酸又はタンパク質或いはEct2のPHドメインに関する調節物質の特異的な生化学的又は分子的効果を同定し又は確認する。一般に、二次アッセイで、一次アッセイによって同定されたEct2調節作用物質の活性をさらに評価し、その調節作用物質が細胞周期の制御に関係のある形でEct2に影響を及ぼすことを確認することができる。
【0076】
プレクストリン相同(PH)ドメインは、2つの垂直な逆平行βシートと、C末端の両親媒性のへリックスとを含む。その結合ループにおける変異性が大きいことが報告されている。PHドメインについての報告された機能には、ヘテロマーGタンパク質のβ/γサブユニットの結合、PtdIns4,5Pの結合、ホスホSer/Thrの結合、及び膜相互作用がある。
【0077】
RhoGEFドメイン(DH又はDblドメイン)は、平らに引き伸ばされたαへリックスの束に折り畳まれた11個のαへリックスを含む。その役割は、Rhoファミリーの低分子量GTPアーゼと結合したGDPの解離を促進し、GTPの結合を促進し、それによってシグナル伝達を活性化することであると考えられる。
【0078】
小分子のGEF活性抑制能の検出に適したアッセイでは、Ect2に由来するポリペプチドをRhoAと共にH GDPの存在下でインキュベートし、候補小分子の存在下又は不在下でのHの保持率を検出する。
【0079】
一次アッセイ
一般に、試験する調節物質の種類によって一次アッセイの種類が決定される。
【0080】
小分子調節物質では、スクリーニングアッセイを使用して候補調節物質を同定する。スクリーニングアッセイは、細胞に基づくものでもよく、或いは標的タンパク質の重要な生化学反応を再現し又は保持する無細胞系を使用してもよい(Sittampalam OS et al., Curr Opin Chem Biol (1997) 1:384-91及び添付の参照文献に総説がある)。本明細書において、「細胞に基づく」という用語は、生細胞、死細胞、又は膜、小胞体やミトコンドリア分画などの特定の細胞分画を使用するアッセイを指す。細胞に基づくスクリーニングアッセイは通常、Ect2のPHドメインの組換え発現の系、及び特定のアッセイで要求される任意の補助タンパク質を必要とする。「無細胞」という用語は、実質的に精製されたタンパク質(内因性、又は組換えにより生成)、部分的に精製された細胞抽出物、又は粗細胞抽出物を使用するアッセイを包含する。スクリーニングアッセイで、タンパク質とDNAの相互作用、タンパク質とタンパク質の相互作用(例えば、受容体とリガンドの結合)、転写活性(例えばレポーター遺伝子を使用して)、酵素活性(例えば、基質の特性を介して)、二次メッセンジャーの活性、免疫原性、及び細胞形態の変化又は他の細胞の特徴を含めた様々な分子的事象を検出することができる。適当なスクリーニングアッセイでは、蛍光法(Klebe C, et al., Biochemistry (1995) 34:12543-12552)、放射活性法(Hart M, et al., Nature (1991) 354:311-314)、比色法、分光光度法、及び電流測定法を含めた広範な検出方法を使用して、しばしば高処理能スクリーニング(HTS)の形式で(例えば、HertzbergRP, and Pope AJ, Current Opinion in Chemical Biology (2000) 4:445-451を参照)、検出した特定の分子的事象を読み出すことができる。
【0081】
結合性の作用物質のアッセイには、天然のEct2結合標的とのEct2の相互作用を調節する化合物のスクリーニングがある。そのようなアッセイで使用するEct2ポリペプチドを、検出又は固着用などのペプチドタグなど他のポリペプチドと融合することができる。特定の実施形態では、その結合標的は、RhoA、RhoC、Rac、又はCdc42、或いはその一部であり、それはアッセイ中で好都合にも測定可能である対象のEct2ポリペプチドに結合特異性及び結合活性をもたらし、好ましくは完全なRhoA、RhoC、Rae、又はCdc42に類似する。候補調節作用物質が存在しなければ、Ect2ポリペプチドが細胞の結合標的、その一部又はアナログと基準の結合親和性で特異的に結合する条件下で、Ect2及び結合標的を候補Ect2調節作用物質の存在下及び不在下(すなわち調節下)でインキュベートする。インキュベーションの後、その作用物質によって偏向した、Ect2ポリペプチドと1個又は複数個の結合標的間の結合が、光学密度又は電子密度、放射性の放出、非放射性のエネルギー転移などを介するものや、抗体結合物での間接的な検出など、その産物及び他のアッセイ構成成分の性質に依存する様々な方法のいずれかによって検出される。作用物質の存在下での結合親和性と比較した、作用物質の不在下での標的とのEct2の結合親和性の差から、その作用物質がEct2結合標的とのEct2の結合を調節することが示唆される。本明細書においては、差は統計上有意であり、好ましくは50%の、好ましくは60%の、より好ましくは75%の、最も好ましくは90%の差となる。
【0082】
他の好ましいアッセイ形式は、蛍光偏光法、時間分解蛍光法、蛍光共鳴エネルギー転移法を含めた蛍光技術を使用するものである。これらの系は、色素標識分子から放出されたシグナルの強度が相手の分子とのその相互作用に依存する、タンパク質とタンパク質の、又はDNAとタンパク質の相互作用をモニターする手段を提供する(例えば、Selvin PR, Nat Struct Biol (2000) 7:730-4;Fernandes PB, Curr Opin Chem Biol (1998) 2:597-603;Hertzberg RP and Pope AJ, Curr Opin Chem Biol (2000) 4:445-451)。
【0083】
抗体の調節物質では、適当な一次アッセイは、Ect2のPHドメインタンパク質に対するその抗体の特異性及び親和性を試験するものである。抗体の特異性及び親和性を試験する方法は当技術分野で周知である。或いは、又はさらには、抗体の調節物質の一次アッセイは、上記に記載のスクリーニングアッセイを含んでもよく、それを用いてEct2調節物質特異的な活性を検出する。
【0084】
二次の検証は、イノシトールシグナル伝達関連経路におけるect2のPHドメインの関与を機能的に検証するのに使用する基本的に同じアッセイを使用することができる。二次の検証アッセイは、候補調節物質の存在下及び不在下での細胞の集団(例えば、野生型細胞の2種のプール)を一般に比較する。
【0085】
他の実施形態では、二次の検証は、高処理能スクリーニングに使用する同じアッセイを使用することができる。この方法では、抗体やアンチセンスオリゴヌクレオチド調節物質など高処理能スクリーニングにより同定されない調節物質の活性を確認することもでき、或いは異なる高処理能スクリーニングアッセイを使用して同定された小分子調節物質の活性を確認することもできる。このアッセイを使用して、候補作用物質の特異性を確認することもできる。
【0086】
さらに、細胞周期に関連する形でEct2に対するその有効性について調節物質のアッセイを行う。そのようなアッセイには、特に、上記に記載の細胞周期、アポトーシス、増殖、及び低酸素誘導アッセイがある。
【0087】
治療及び診断上の適用
患者において抗腫瘍療法に使用するとき、患者の腫瘍量をなくし又は減らす治療有効量でEct2調節作用物質を患者に投与する。その作用物質は、通常は非経口で、可能であれば標的細胞部位に、又は静脈内に投与する。投与量及び投与法は、癌の性質(原発性又は転移性)、その集団、標的部位、特定の免疫毒素の特徴(使用時)、例えば、その治療指数、他の治療薬と併用して作用物質を投与するかどうか、及び患者の病歴に依存する。投与する作用物質の量は通常、患者の体重1kg当たり約0.1mg〜約10mgである。
【0088】
非経口投与では、通常約1mg/ml〜10mg/mlの濃度で、製剤上許容される賦形剤と合わせて、単位投与量を注射可能な又は吸入可能な形態(例えば、液剤、懸濁剤、乳剤)で作用物質を製剤する。
【0089】
Ect2と特異的に結合する抗体は、Ect2の発現を特徴とする状態又は疾患の診断に、或いはEct2調節作用物質で治療している患者をモニターするアッセイで使用することができる。Ect2の診断アッセイには、抗体及び標識を利用して、ヒトの体液或いは細胞又は組織の抽出物中でEct2を検出する方法がある。抗体は、修飾して又は修飾せずに使用することができ、それをレポーター分子と共有結合又は非共有結合することによって標識することができる。
【0090】
Ect2の発現を特徴とする状態の診断は、患者試料中でのEct2の発現を測定する(上記で論じた)ノーザン分析やTaqMan(登録商標)分析など様々な方法のいずれかによって行うこともできる。
【0091】
次に、限定するものではないが以下の実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例】
【0092】
方法
Ect2のクローン化及び発現
その対応するアミノ酸配列がEct2のAA配列1(配列番号3)として示される、DH−PHドメインをコードするcDNA(DNA配列1(配列番号1))を、pENTR-3cベクター(GIBCO社製)中のEcoR1部位にクローン化した。次いで、組換え反応を用いてこの配列をpDEST10(GIBCO社製)に移し、分子量が49.8kDと推定され、Ect2由来のDHドメイン(aa39〜235)及びPHドメイン(aa269〜388)、並びに精製用のN末端hisタグ(aa5〜10)を含む434aaのタンパク質を発現する構築物を得た。最終的な発現構築物の配列は、DNA配列2(配列番号2)中に示す。
【0093】
DNA配列1(配列番号1)
ccagttccttcaaagcagtcagcaaggtggcaagttgcaaaagagctttatcaaactgaaagtaattatgttaatatattggcaacaattattcagttatttcaagtaccattggaagaggaaggacaacgtggtggacctatccttgcaccagaggagattaagactatttttggtagcatcccagatatctttgatgtacacactaagataaaggatgatcttgaagaccttatagttaattgggatgagagcaaaagcattggtgacatttttctgaaatattcaaaagatttggtaaaaacctaccctccctttgtaaacttctttgaaatgagcaaggaaacaattattaaatgtgaaaaacagaaaccaagatttcatgcttttctcaagataaaccaagcaaaaccagaatgtggacggcagagccttgttgaacttcttatccgaccagtacagaggttacccagtgttgcattacttttaaatgatcttaagaagcatacagctgatgaaaatccagacaaaagcactttagaaaaagctattggatcactgaaggaagtaatgacgcatattaatgaggataagagaaaaacagaagctcaaaagcaaatttttgatgttgtttatgaagtagatggatgcccagctaatcttttatcttctcaccgaagcttagtacagcgggttgaaacaatttctctaggtgagcacccctgtgacagaggagaacaagtaactctcttcctcttcaatgattgcctagagatagcaagaaaacggcacaaggttattggcacttttaggagtcctcatggccaaacccgacccccagcttctcttaagcatattcacctaatgcctctttctcagattaagaaggtattggacataagagagacagaagattgccataatgcttttgccttgcttgtgaggccaccaacagagcaggcaaatgtgctactcagtttccagatgacatcagatgaacttccaaaagaaaactggctaaagatgctgtgtcgacatgtagctaacaccatttgtaaa
【0094】
DNA配列2(配列番号2)
atgtcgtactaccatcaccatcaccatcacctcgaatcaacaagtttgtacaaaaaagcaggctctttaaaggaaccaattcagtcgactggatccggtaccgaattcgcccttccagttccttcaaagcagtcagcaaggtggcaagttgcaaaagagctttatcaaactgaaagtaattatgttaatatattggcaacaattattcagttatttcaagtaccattggaagaggaaggacaacgtggtggacctatccttgcaccagaggagattaagactatttttggtagcatcccagatatctttgatgtacacactaagataaaggatgatcttgaagaccttatagttaattgggatgagagcaaaagcattggtgacatttttctgaaatattcaaaagatttggtaaaaacctaccctccctttgtaaacttctttgaaatgagcaaggaaacaattattaaatgtgaaaaacagaaaccaagatttcatgcttttctcaagataaaccaagcaaaaccagaatgtggacggcagagccttgttgaacttcttatccgaccagtacagaggttacccagtgttgcattacttttaaatgatcttaagaagcatacagctgatgaaaatccagacaaaagcactttagaaaaagctattggatcactgaaggaagtaatgacgcatattaatgaggataagagaaaaacagaagctcaaaagcaaatttttgatgttgtttatgaagtagatggatgcccagctaatcttttatcttctcaccgaagcttagtacagcgggttgaaacaatttctctaggtgagcacccctgtgacagaggagaacaagtaactctcttcctcttcaatgattgcctagagatagcaagaaaacggcacaaggttattggcacttttaggagtcctcatggccaaacccgacccccagcttctcttaagcatattcacctaatgcctctttctcagattaagaaggtattggacataagagagacagaagattgccataatgcttttgccttgcttgtgaggccaccaacagagcaggcaaatgtgctactcagtttccagatgacatcagatgaacttccaaaagaaaactggctaaagatgctgtgtcgacatgtagctaacaccatttgtaaagcaagggcgaattcgcggccgcactcgagatatctagacccagctttcttgtacaaagtggttgattcgaggctgctaacaaagcccgaaaggaagctgagttggctgctgccaccgctgagcaataactag
【0095】
AA配列1(配列番号3)
pvpskqsarwqvakelyqtesnyvnilatiiqlfqvpleeegqrggpilapeeiktifgsipdifdvhtkikddledlivnwdesksigdiflkyskdlvktyppfvnffemsketiikcekqkprfhaflkinqakpecgrqslvellirpvqrlpsvalllndlkkhtadenpdkstlekaigslkevmthinedkrkteaqkqifdvvyevdgcpanllsshrslvqrvetislgehpcdrgeqvtlflfndcleiarkrhkvigtfrsphgqtrppaslkhihlmplsqikkvldiretedchnafallvrppteqanvllsfqmtsdelpkenwlkmlcrhvantick
【0096】
AA配列2(配列番号4)
msyyhhhhhhlestslykkagslkepiqstgsgtefalpvpskqsarwqvakelyqtesnyvnilatiiqlfqvpleeegqrggpilapeeiktifgsipdifdvhtkikddledlivnwdesksigdiflkyskdlvktyppfvnffemsketiikcekqkprfhaflkinqakpecgrqslvellirpvqrlpsvalllndlkkhtadenpdkstlekaigslkevmthinedkrkteaqkqifdvvyevdgcpanllsshrslvqrvetislgehpcdrgeqvtlflfndcleiarkrhkvigtfrsphgqtrppaslkhihlmplsqikkvldiretedchnafallvrppteqanvllsfqmtsdelpkenwlkmlcrhvantickaransrphsryldpaflykvvdsrlltkperklswllpplsnn
【0097】
Ect2−DH−PHをRosetta(DE3)pLysS細胞中で発現させた。細胞を37℃で増殖させ、1mMのIPTGで誘導してから3時間後にそれを回収した。細胞ペレットをBugBuster HTタンパク質抽出試薬(Novagen社製)で製造元の説明書に従って処理することによって封入体分画を単離した。
【0098】
封入体ペレットを、50mMトリスHCl pH8.0/1mM DTT/6M GuHCl中、タンパク質濃度0.38mg/mlで再可溶化した。次いでタンパク質を15000rpmで15分間遠心分離して、潜在的な核形成部位を除去した。可溶性分画を「再折畳み用緩衝液」50mMトリスHCl pH8.0/1mM DTT/10%グリセロール/100mM NaCl中に迅速に希釈(1:11)することによって、タンパク質の再折畳みを開始させた。次いで試料を0.2μmフィルターによりろ過し、その後「再折畳み用緩衝液」に対して広範な透析を4℃で1晩行って残存する微量のGdnHClを除去した。タンパク質を0.2μmフィルターにより再度ろ過し、その後10kDaで遮断するAmicon社製Centriprepを用いて濃縮した。SDS−PAGE分析により、この段階でのタンパク質を純度>80%であると判断した。
【0099】
リン脂質結合アッセイ
Ect2のDH−PHドメイン(Ect2−DH−PH)のリン脂質結合特異性を評価するため、脂質重層アッセイを行った。クロロホルム/メタノール/水(1:2:0.8)の混合物中に溶解した250pmolのリン脂質を含む脂質溶液(1μl)を、Hybond-C extra膜上にスポット化し、室温で乾燥させた。脂肪酸を含まないBSAを3%(w:v)含むTBST(10mMトリス/Hcl、pH8.0、150mM NaCl、0.1%Tween-20)中で60分間インキュベートすることによりその膜をブロッキング処理した。次いで、0.5mg/mlのEct2−DH−PHを含む同じ溶液中でその膜を4℃で1晩インキュベートした。次いでその膜をTBSTで広範に洗浄し、1:1000希釈した抗6his抗体(Sigma社製)を含むTBSTと共に60分間インキュベートした。以前の通りにTBSTでその膜を洗浄した後に、1:5000希釈した抗マウスHRP結合物を含むTBST中で60分間インキュベートした。次いで、以前の通りにその膜を洗浄し、その膜をECL試薬(AmershamPharmacia社製)中に浸し、その膜を写真フィルム(Kodak社製)に露出することによってEct2−DH−PHの存在を検出した。
【0100】
結果
図1はEct2DH−PHの発現を示す。
Ect2DH−PHは、E.Coli (DE3)pLysS中で不溶性タンパク質として発現した。封入体分画を調製し、6M GdnHClを含む緩衝液中へと変性させ、その後迅速に希釈し透析して変性剤を除去することによって、タンパク質の再折畳みを行った。試料は、SDS−PAGEによって分離し、クマシー染色(左図)又はウェスタンブロット法(右図)によって視覚化した。図1(a)はEct2DHの発現を示し、レーン1:IPTG誘導t=0、レーン2:IPTG誘導t=+1時間、レーン3:IPTG誘導t=+2時間、レーン4:IPTG誘導t=+3時間である。図1(b)は、再折畳みを行ったEct2DHを示し、レーン1〜4は、再折畳みを行った異なる添加量のEct2DHを示す。
【0101】
図2は、Ect2のPIP結合の特異性を示す。
1 ホスファチジルコリン
2 ホスファチジルエタノールアミン
3 ホスファチジルイノシトール
4 ホスファチジルイノシトール−3リン酸(PtdIns3P)
5 ホスファチジルイノシトール−4リン酸(PtdIns4P)
6 ホスファチジルイノシトール−5リン酸(PtdIns5P)
7 ホスファチジルイノシトール−3,4リン酸(PtdIns3,4P
8 ホスファチジルイノシトール−3,5リン酸(PtdIns3,5P
9 ホスファチジルイノシトール−4,5リン酸(PtdIns4,5P
【0102】
これらの結果から、3位及び/又は5位にあるPOは結合を促進するが、4位にあるPOは3位又は5位がリン酸化されている場合でも結合を抑制することが示唆される。
【0103】
[参考文献]
Blomberg, N. & Nilges, M., Folding & Design, 2, 343 - 355, 1997.

Bustelo, X.R., Mol. Cell Biol., 20, 1461 - 1477, 2000.

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Nimnual et al., Science, 279, 560 - 563.

Rameh et al., J. Biol. Chem., 272, 22059 - 22066, 1997.

Russo et al., J. Biol. Chem., 276, 19524 - 19531, 2001.

Tatsumoto et al., J. Cell Biol., 147(5), 921 - 927, 1999.

Zheng, Y., TIBS, 26(12), 724 - 732, 2001.
【0104】
本明細書で引用されているすべての特許、特許出願、及び刊行された参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。その好ましい実施形態を参照しながら本発明を特に示し説明してきたが、添付した特許請求の範囲により包含される本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書においてその形態及び詳細に様々な変更を加えることができることが当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】SDS−PAGEを示す図であり、クマシー染色(左図)又はウェスタンブロット法(右図)によって視覚化した。(a)はEct2DHの発現を示し、レーン1:IPTG誘導t=0、レーン2:IPTG誘導t=+1時間、レーン3:IPTG誘導t=+2時間、レーン4:IPTG誘導t=+3時間である;(b)は、再折畳みを行ったEct2DHを示し、レーン1〜4は、再折畳みを行った異なる添加量のEct2DHを示す。
【図2】リン脂質結合アッセイの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ect2配列に由来し、DNA配列1(配列番号1)で示す配列を有する単離DH−PH直列型ドメイン。
【請求項2】
PtdIns3P、PtdIns5P又はPtdIns3,5Pに対する特異性を有する、請求項1に記載の単離ドメイン。
【請求項3】
Ect2のPHドメインとPIの相互作用を調節する作用物質をスクリーニングする方法であって、結合を導く条件下でEct2のPHドメインのポリペプチド及び前記PIを候補作用物質と共にインキュベートするステップと、前記候補作用物質がEct2のPHドメインとPIの結合を調節するかどうかを判定するステップとを含む方法。
【請求項4】
PIが、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
作用物質が、抗体、有機小分子又は核酸分子である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
PHドメインが、DNA配列1(配列番号1)で示される配列を有する構築物の一部として提供される、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Ect2の細胞周期活性を調節する作用物質を同定する方法であって、
(a)Ect2のPHドメインを含むポリペプチドと候補作用物質とを含む試料を提供するステップと、
(b)試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合を測定するステップと、
(c)試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合性を、Ect2のPHドメインを含むポリペプチドに結合しないことが知られている対照作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合性と比較するステップとを含み、
対照作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合と比較した、試料中での候補作用物質へのEct2のPHドメインを含むポリペプチドの結合性の亢進から、候補作用物質がEct2の細胞周期機能を調節することが示唆される方法。
【請求項8】
3位及び/又は5位のリン酸基を有するPIによるシグナル伝達の調節に適した化合物を同定するスクリーニング法における、3位及び/又は5位にリン酸基を有するPIと結合できるが、4位にリン酸基を有するPIと結合できないポリペプチドの使用。
【請求項9】
ポリペプチドがEct2のPHドメインを含む、請求項8に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−504224(P2008−504224A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551934(P2006−551934)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000439
【国際公開番号】WO2005/077975
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506138030)サイクラセル リミテッド (21)
【Fターム(参考)】