説明

EGFR突然変異

【課題】上皮増殖因子レセプター(EGFR)における変異と、そのような変異を検出する方法並びに化学療法及び/又はキナーゼインヒビター治療法のような抗癌治療法に感受性である腫瘍を同定する方法、予後予測方法の提供。
【解決手段】腫瘍試料中における変異したEGFR遺伝子又は変異したEGFRタンパク質の存在を決定することを含み、変異したEGFR遺伝子又はタンパク質の存在が、腫瘍が治療に感受性であることを示している。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
(発明の分野)
本発明は癌の診断及び治療、特に診断及び/又は予後に供される突然変異の検出に関する。
【0002】
(発明の背景)
上皮成長因子レセプター(EGFR)は、細胞の成長、分化、及び生存において重要な役割を担う成長因子レセプターの1型チロシンキナーゼファミリーのメンバーである。これらのレセプターの活性化は典型的には特異的リガンド結合を介して起こり、レセプターファミリーメンバー間でのヘテロ又はホモ二量体形成と、それに引き続いてのチロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を生じさせる。この活性化は細胞増殖(ras/raf/MAPキナーゼ経路)と生存(PI3キナーゼ/Akt経路)の双方に関与している細胞内シグナル伝達経路カスケードを惹起する。EGFR及びHER2を含むこのファミリーのメンバーは細胞形質転換に直接関係している。
【0003】
多くのヒト悪性腫瘍は、EGFRの異常又は過剰発現及び/又はその特異的リガンド、例えばトランスフォーミング増殖因子αの過剰発現に関係している(Gullick, Br Med Bull 1991, 47:87-98;Modijtahedi及びDean, Int J Oncol 1994, 4:277-96;Salomon等, Crit Rev Oncol Hematol 1995;19:183-232)。EGFR過剰発現は、NSCLCを含む多くのヒト癌における有害な予後に関連している。ある場合には、腫瘍EGFRの過剰発現は薬剤耐性と予後不良の双方と相関している(Lei等, Anticancer Res 1999; 19:221-8;Veale等, Br J Cancer 1993;68:162-5)。これらの知見は、EGFRレセプター活性化とこれに続く下流のシグナル伝達を効果的に阻害する薬剤が、NSCLCを含む様々なヒト癌において臨床上の活性を有している可能性があることを示唆している。
【0004】
タルセバTM(エルロチニブ;OSI-774としても知られている)、つまりキナゾリンは、EGFRチロシンキナーゼの経口活性の強力な選択的阻害剤である。エルロチニブはインビトロ酵素アッセイにおいて2nM(0.786mg/mL)のIC50でヒトEGFRチロシンキナーゼを阻害する。この阻害は EGFRチロシンキナーゼに対して選択的で、Gで細胞周期停止を生じ、可逆的である。マウスへのエルロチニブの経口投与はヒト異種移植片におけるEGFR自己リン酸化の>70%減少を実証し、ヌードマウスにおけるHN5及びA431異種移植片の顕著な成長阻害が証明された。インビボアッセイ系での単剤活性に加えて、エルロチニブは起こりうる相互作用を判定するために多くの化学療法剤と併用して評価した。エルロチニブ及びパクリタキセル、シスプラチン、ゲムシタビン、及びドキソルビシンの間に相加的相互作用があった。
【0005】
肺癌は合衆国において男性と女性の双方に対する癌関連死亡率の主要な死因である。2000年において、164000例の新しい症例が診断され、157000人の患者がこの疾患で死亡したと見積もられた(Greenlee等, CA Cancer J Clin 2001, 51:15-36)。これらの患者のおよそ75%が非小細胞癌組織を有しているとされ、大部分が手術不能のステージIIIB又はステージIV疾患である。症状がより限られた疾患の患者(ステージI−IIIA)では、アジュバント又はネオアジュバント化学及び/又は放射線療法を伴うか又は伴わない標準的な外科治療後に再発するのが一般的である。これらの知見は、結果として非小細胞肺癌(NSCLC)で〜12%の5年生存率を示すものであり、この疾患における未達成の医療的必要性を強調するものである。
【0006】
白金化合物のシスプラチンは局所的な進行型又は転移性NSCLCへの対処において臨床上の効果を示す最初の化学療法剤であった。無作為臨床試験で、最善の支持的看護の場合と比較して改善された奏効率、生活の質及び生存率が実証された(Rapp等 1988)。しかしながら、この改善の大きさは、週数で測定して、小幅であった。続いて、多くの新しい化学療法剤が第一線の場面において単剤としてまた白金塩と併用されて評価された。これらの研究からの結論は、現代の「二重の(doublet)」化学療法は15%−20%の奏効率、3−4ヶ月の平均無増悪期間、及び7−8ヶ月の平均生存期間を達成すると思われるということである。シスプラチンを用いて得られた結果に対して併用療法を用いた場合に得られる効果の小幅な改善が、これらの治療法を、進行型NSCLCに罹患し許容できる一般状態にある患者に対する標準的な治療法として確立した(Non-Small Cell Lung Cancer Cooperative Group, Br Med J 1995, 311:899-909;American Society of Clinical Oncology, J Clin Oncol 1997, 15:2996-3018;Breathnach等, J Clin Oncol 2001;19:1734-42)。
【0007】
(発明の概要)
本発明の一側面によれば、ヒト患者において治療に対して感受性である腫瘍を同定する方法において、上記腫瘍の試料中の突然変異したEGFR遺伝子又は突然変異したEGFRタンパク質の存在を決定することを含み、上記突然変異がEGFRのエキソン18−21に位置しており、突然変異したEGFR遺伝子又は突然変異したEGFRタンパク質の存在が、腫瘍が治療に対して感受性であることを示す方法が提供される。
本発明の他の側面では、哺乳動物における腫瘍を治療する方法において、上記腫瘍におけるEGFR突然変異の存在を同定し、上記哺乳動物を抗癌剤で治療することを含む方法が提供される。
本発明の他の側面では、試料中のEGFR突然変異を同定する方法において、上記試料からの核酸を、突然変異したEGFRタンパク質をコードする核酸又は突然変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズ可能なプローブと接触させ、上記ハイブリダイゼーションを検出することを含む方法が提供される。
【0008】
本発明の他の側面では、突然変異したEGFRタンパク質をコードする核酸又は突然変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズ可能な核酸プローブが提供される。
本発明の他の側面では、試料中の突然変異したEGFR遺伝子を検出する方法において、EGFR遺伝子のキナーゼドメインに対応する核酸又は突然変異を含むことが疑われるその断片を上記試料から増幅させ、増幅させた核酸の電気泳動移動度を、対応する野生型EGFR遺伝子又はその断片の電気泳動移動度と比較することを含む方法が提供される。
本発明の他の側面では、EGFR阻害剤での治療に対して感受性であるヒト患者における腫瘍を同定する方法であって、(i)上記腫瘍の試料中の野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、ここで、野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在が、腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示し、又は(ii)上記腫瘍の試料中の突然変異したKRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、突然変異したKRASタンパク質又は遺伝子の不存在が、腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示すことを含む方法が提供される。
【0009】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
腫瘍形成に伴う変異性イベントが上皮成長因子レセプター(EGFR)において生じることは本発明の発見である。異常なEGFR活性が様々な癌に伴うことはこれまでに知られていたが、EGFRキナーゼドメイン領域(KDR)に、ある種の癌に伴う異常なシグナル伝達活性を引き起こす突然変異が存在していたことは知られていなかった。意外にもEGFRのKDR突然変異を有する腫瘍に罹患している患者は野生型EGFRの患者よりも良好な予後を有している。EGFR遺伝子のKDR突然変異は、挿入及び欠失のような再配列並びに点突然変異を含みうる。
【0010】
Tributeと称される無作為化二重盲式フェーズIII臨床試験に参加したおよそ250名の患者の試料について配列決定し、EGFRのエキソン18−21に生じる突然変異を調べた。Tributeは、前に化学療法を受けていない組織学的に確認されたNSCLCに罹患している合衆国の約150箇所のセンターにおける1079名の患者を研究し、エルロチニブ+化学療法(カルボプラチン/パクリタキセル)を化学療法単独と比較した。患者には、エルロチニブ(100mg/日の経口投与で、耐性のある患者では150mg/日まで増大)を伴うか伴わないで、パクリタキセル(200mg/mを3時間 、静脈内注入)と、続くカルボプラチン (AUC=カルバート処方を使用して6mg/ml×分の15−30分の注入) を投与した。Tribute治験から収集したおよそ250名の患者の、ホルマリン固定パラフィン包埋ブロック又は汚れのないスライドの腫瘍試料を、レーザ捕獲顕微解剖と続くDNA抽出によって腫瘍細胞について濃縮した。エキソン18−21をネステッドPCRによって増幅させ、蛍光染料−ターミネーター化学を使用して各PCR産物から両方向配列を得た。配列決定から発見された突然変異を表1に示す。
【0011】


突然変異に対するヌクレオチド番号付けは図2a−2dに示した参照配列に基づいている。
【0012】
EGFR突然変異及び野生型EGFRを有する腫瘍の患者の臨床結果を、奏効(完全+部分)利点(奏効+安定)及び進行に応じて分析した。病巣は固形癌の効果判定(RECIST)規準を使用して評価したが、これによれば、「完全奏効」(CR)は全ての標的病巣の消失として定義され;「部分奏効」(PR)は、ベースライン最長径和を規準として、標的病巣の長径和の少なくとも30%の減少として定義され;「進行(PD)」は、治療開始又は一又は複数の病巣の出現時から記録された最小の長径和を規準とした、標的病巣の長径和の少なくとも20%の増加として定義され、「安定」(SD)は、治療開始からの最小の長径和を規準として、部分奏効として認定されるのに十分な縮小でも進行として認定されるのに十分な増大でもないものとして定義される。
【0013】
分析の結果を表2にまとめる。

【0014】
臨床結果の分析により、EGFRのエキソン18−21に突然変異を発現する腫瘍の患者は野生型EGFRを発現する腫瘍の患者よりも良好な予後を有していることが明らかになった。突然変異EGFRの患者は化学療法又は化学療法+エルロチニブで治療した場合、より大なる奏効率、利益率及び生存期間を示した。これらの結果は、腫瘍がエキソン18から21の何れか又は全てにEGFR突然変異を有する患者が、腫瘍がそのような突然変異を持たない患者よりもより好ましい予後を有しているような結果を予測するのに有用である。
【0015】
従って、本発明は、腫瘍を有する患者の予後を決定する方法において、上記腫瘍の試料中においてエキソン18−21(又はエキソン18−21に対応するアミノ酸配列)中の一又は複数のEGFR突然変異の有無を決定し、上記一又は複数のEGFR突然変異の存在が上記一又は複数のEGFR突然変異がない場合と比較してより良好な予後を示す方法を提供する。「予後」とは奏効及び/又は利益及び/又は生存を意味する。「EGFR突然変異」とは、一つの対立遺伝子(ヘテロ接合性)又は双方の対立遺伝子(ホモ接合性)にそれぞれ見出される野生型EGFRタンパク質又は核酸とは異なり、体細胞性又は生殖系列でありうるアミノ酸又は核酸配列を意味する。特定の実施態様では、上記突然変異はEGFRのキナーゼドメイン領域(KDR)に見出される。他の特定の実施態様では、突然変異は、表1に示されるようなアミノ酸置換、欠失又は挿入である。一実施態様では、アミノ酸突然変異は次のものの一又は複数である:G719A、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、S768I、L858P、E746−R748del、R748−P753del、M766−A767AI ins、及びS768−V769SVA ins。他の特定の実施態様では、突然変異は、表1に示すような核酸点突然変異、欠失又は挿入である。一実施態様では、核酸突然変異は、次のものの一又は複数である:2402G>C;2482G>A;2486T>C;2491G>C;2494G>C;2510C>T;2549G>T;2819T>C;2482−2490del;2486−2503del;2544−2545insGCCATA;及び2554−2555insCCAGCGTGG。
【0016】
エルロチニブでの治療に対して耐性を示したH1975腫瘍細胞株からのEGFRエキソン18−21を配列決定し、L858R突然変異と組み合わされた突然変異T790Mを含むことが見出された。従って、本発明は、腫瘍を有する患者の予後を決定する方法において、上記腫瘍の試料中においてT790MのEGFR突然変異の有無を決定し、上記T790MのEGFR突然変異の存在が上記T790MのEGFR突然変異がない場合と比較してより乏しい予後を示す方法を更に提供する。更に、化学療法との併用でであろうとなかろうと、エルロチニブ又はゲフィチニブのようなEGFR阻害剤の治療法に対して応答性が少ない腫瘍の患者を同定する方法であって、患者の腫瘍中のT790MのEGFR突然変異の有無を決定し、上記突然変異の存在が、患者が上記T790MのEGFR突然変異がない腫瘍の患者と比較して上記治療法に対して応答性が少ないことを示す方法が提供される。更に、化学療法との併用でであろうとなかろうと、例えばキナーゼドメイン結合阻害剤(例えば、エルロチニブ又はゲフィチニブ)のようなEGFR阻害剤での治療に耐性がある腫瘍を同定する方法であって、腫瘍の試料中のT790MのEGFR突然変異の有無を決定し、上記突然変異の存在が、腫瘍が上記治療に耐性があることを示す方法が提供される。突然変異の決定はタンパク質レベル又は核酸レベル(ゲノムDNA又はmRNA)においてであり、ここに記載されたもののような技術を使用して達成される。特定の実施態様では、上記EGFR阻害剤はEGFRキナーゼドメインにおいてATPと競合する。特定の実施態様では、EGFR阻害剤はエルロチニブである。
【0017】
他の側面では、T790M突然変異型EGFRタンパク質又は遺伝子を含む腫瘍を有する患者を治療する(又はT790M突然変異型EGFRタンパク質又は遺伝子を含む腫瘍を治療する)方法であって、上記T790M突然変異型EGFRに結合し、及び/又はそのシグナル伝達を阻害する第一化合物を、野生型EGFR又は活性化突然変異を含むEGFRに結合し、及び/又はそのシグナル伝達を阻害する第二化合物と組み合わせて上記患者に同時投与する(又は上記腫瘍に接触させる)ことを含む方法が提供される。特定の実施態様では、上記活性化突然変異は表1に記載されたもの(T790M以外)の一又は複数である。特定の実施態様では、上記第一及び第二化合物は連続的に又は同時に投与される。特定の実施態様では、上記第二化合物はエルロチニブである。
本発明の他の側面では、T790M突然変異を含む突然変異型EGFRタンパク質のシグナル伝達を阻害する化合物のスクリーニング方法であって、リン酸化基質及びATPの存在下で試験化合物に上記突然変異型EGFRを接触させ、上記基質のリン酸化の量の変化を検出することを含み、コントロールと比較した、又は試験化合物の不存在下で基質のリン酸化と比較した上記基質のリン酸化の減少が、上記試験化合物が突然変異型EGFRシグナル伝達の阻害剤であることを示す方法が提供される。一実施態様では、上記方法は、EGF又はTGF-αのような上記突然変異型EGFRのリガンドの存在下でインビトロで実施される。
【0018】
特定の実施態様では、試験化合物の阻害活性を、コントロールに対する試験化合物による上皮成長因子レセプターキナーゼによるチロシン上の外因性基質(例えばLys-ガストリン又はポリGluTyr(4:1)ランダムコポリマー(I. Posner等, J. Biol. Chem. 267 (29), 20638-47 (1992))のリン酸化阻害の量によってインビトロで決定することができる。精製された可溶型ヒトT790MのEGFR突然変異EGFR(96ng)を、室温で20−30分間、10μlの全容量で、リン酸化バッファー+バナジン酸塩(PBV:50mMのHEPES,pH7.4;125mMのNaCl;24mMのMgCl;100μMのオルトバナジン酸ナトリウム)中でEGF(2μg/ml)と共にマイクロチューブ中でプレインキュベートする。ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた試験化合物をPBVに希釈し、10μlを突然変異型EGFR/EGF混合物と混合し、30℃で10−30分間インキュベートする。突然変異型EGFR/EGF混合物に、20μl33P-ATP/基質混合物(120μM Lys-ガストリン(アミノ酸に対する一文字コードでの配列、KKKGPWLEEEEEAYGWLDF - 配列番号38)、50mMのHepes pH7.4、40μMのATP、2μCiγ-[33P]-ATP)を添加することにより、リン酸化反応を開始させ、室温で20分間インキュベートする。その反応を、10μlの停止液(0.5MのEDTA、pH8;2mMのATP)及び6μlの2N HClの添加により停止させる。チューブを4℃、14000RPMで10分間、遠心分離する。各チューブから35μlの上清をワットマンP81ペーパーの2.5cm円上にピペットで取り、洗浄当り1リットルの5%酢酸中で4回バルク洗浄した後、空気乾燥させる。これにより、洗浄で遊離ATPが消失してペーパーに基質が結合する。取り込まれた[33P]は液体シンチレーション計数によって測定する。基質(例えばlys-ガストリン)の不存在下での取り込み量をバックグラウンドとして全ての値から減じ、試験化合物が存在しないコントロールに対する阻害パーセントを計算する。ある範囲の用量の試験化合物を用いて実施されるそのようなアッセイは、T790M突然変異EGFRキナーゼ活性のインビトロでの阻害に対するおよそのIC50値の決定を可能にする。
【0019】
本発明の他の側面では、ヒト患者において治療に対して感受性である腫瘍を同定する方法において、上記腫瘍の試料中の突然変異EGFR遺伝子又は突然変異EGFRタンパク質の存在を決定することを含み、上記突然変異がEGFRのエキソン18−21に位置しており、突然変異EGFR遺伝子又は突然変異EGFRタンパク質の存在が、腫瘍が抗癌剤での治療に対して感受性であることを示す方法が提供される。特定の実施態様では、抗癌剤は、細胞毒性又は細胞分裂阻害性でありうる化学療法剤である。腫瘍には、神経芽細胞腫、腸癌、例えば直腸癌、大腸癌、家族性大腸ポリポーシス癌及び遺伝性非ポリポーシス大腸癌、食道癌、口唇癌、喉頭癌、下咽頭癌、舌癌、唾液腺癌、胃癌、腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺動脈乳頭癌、腎臓癌、腎実質癌、卵巣癌、頸癌、子宮体癌、子宮内膜癌、絨毛癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌、乳癌、尿管癌、メラノーマ、脳腫瘍、例えば膠芽細胞腫、星状細胞腫、髄膜腫、髄芽細胞腫及び末梢神経外胚葉性腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性骨髄性白血病骨(AML)、慢性髄性白血病(CML)、成人T 細胞白血病、肝細胞癌、胆嚢癌、気管支癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、多発性骨髄腫、基底細胞腫、奇形腫、網膜芽細胞腫、脈絡膜メラノーマ、精上皮腫、横紋筋肉腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyngeoma)、骨肉腫、軟骨肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、ユーイング肉腫及び形質細胞腫が含まれる。特定の腫瘍には、脳、肝臓、腎臓、膀胱、乳房、胃、卵巣、結腸直腸、前立腺、膵臓、乳房、肺、外陰部、甲状腺、結腸直腸、食道、肝臓の癌、肉腫、膠芽細胞腫、頭頸部、白血病及びリンパ性悪性疾患が含まれる。
【0020】
特定の化学療法剤には、限定されるものではないが、(i)代謝拮抗剤、例えばシタラビン、フルダラビン、5-フルオロ-2'-デオキシウリジン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア又はメトトレキセート;(ii)DNA断片化剤、例えばブレオマイシン、(iii)DNA架橋剤、例えばクロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド又はナイトロジェンマスタード;(iv)インターカレート剤、例えばアドリアマイシン(ドキソルビシン)又はミトキサントロン;(v)タンパク合成阻害剤、例えばL-アスパラギナーゼ、シクロヘキシミド、ピューロマイシン又はジフテリア毒素;(vi)トポイソメラーゼI毒、例えばカンプトセシン又はトポテカン;(vii)トポイソメラーゼII毒、例えばエトポシド(VP-16)又はテニポシド;(viii)微小管関連剤、例えばコルセミド、コルヒチン、パクリタキセル、ビンブラスチン又はビンクリスチン;(ix)キナーゼ阻害剤、例えば フラボピリドール、スタウロスポリン、STI571(CPG57148B)又はUCN-01(7-ヒドロキシスタウロスポリン);(x)様々な治験薬、例えばチオプラチン(thioplatin)、PS-341、フェニルブチレート、ET-18-OCH、又はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(L-739749、L-744832);ポリフェノール類、例えばケルセチン、レスベラトロール、ピセタノール、エピガロカテキン没食子酸塩、テアフラビン類、フラバノール類、プロシアニジン類、ベツリン酸及びその誘導体;(xi)ホルモン、例えばグルココルチコイド又はフェンレチニド;(xii)抗ホルモン、例えばタモキシフェン、フィナステライド又はLHRHアンタゴニストが含まれる。一実施態様では、化学療法化合物はゲムシタビン、シスプラチン、ドキソルビシン、ダウナルビシン、パクリタキセル(paclitexel)、タキソテール及びマイトマイシンCの一又は複数が含まれる。特定の実施態様では、化学療法化合物はゲムシタビン、シスプラチン及びパクリタキセルの一又は複数である。他の実施態様では、治療はEGFRの阻害剤である。一実施態様では、EGFR阻害剤は例えばエルビツツクス(Erbitutux)TM(セツキシマブ, Imclone Systems Inc.)及びABX-EGF(パニツムマブ, Abgenix, Inc.)のような抗体である。他の実施態様では、EGFR阻害剤は、ATPと競合する低分子、例えばタルセバ(Tarceva)TM(エルロチニブ, OSI Pharmaceuticals)、イレッサ(Iressa)TM(ゲフィチニブ, Astra-Zeneca)、Dvir等, J Cell Biol., 113:857-865 (1991)により記載されたチロホスチン類;米国特許第5679683号に開示された三環系ピリミジン化合物;Panek等, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 283, 1433-1444 (1997)に開示された化合物6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-(4-(2-ジエチルアミノエトキシ)フェニルアミノ)-8-メチル-8H-ピリド(2,3-d)ピリミジン-7-オン(PD166285として知られている)である。
【0021】
本発明の他の側面では、試料中のEGFR突然変異を同定する方法において、上記試料からの核酸を、突然変異したEGFRタンパク質をコードする核酸又は突然変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズ可能な核酸プローブと接触させ、上記ハイブリダイゼーションを検出することを含む方法が提供される。特定の実施態様では、上記プローブは例えば放射性同位元素(H、32P、33P等)、蛍光剤(ローダミン、フルオレセン等)又は発色剤で検出可能に標識される。特定の実施態様では、プローブはアンチセンスオリゴマー、例えばPNA、モルホリノ-ホスホロアミデート類、LNA又は2’-アルコキシアルコキシである。プローブは約8ヌクレオチドから約100ヌクレオチド、又は約10から約75、あるいは約15から約50、又は約20から約30でありうる。他の側面では、本発明の上記プローブは試料中においてEGFR突然変異を同定するためのキットとして提供され、該キットはEGFR遺伝子に又は該遺伝子の突然変異の部位に隣接して特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。該キットはキットを使用してハイブリダイゼーション試験の結果に基づいてEGFR阻害剤でEGFR突然変異を含む腫瘍を有する患者を治療するための指図書を更に含みうる。
本発明の他の側面では、試料中の突然変異EGFR遺伝子を検出する方法において、上記EGFR遺伝子のキナーゼドメインに対応する核酸、又はエキソン18−21、又は突然変異を含むことが疑われるその断片を上記試料から増幅させ、増幅させた核酸の電気泳動移動度を、対応する野生型EGFR遺伝子又はその断片の電気泳動移動度と比較することを含む方法が提供される。移動度の差異は、増幅された核酸配列中に突然変異が存在していることを示している。電気泳動移動度はポリアクリルアミドゲルで測定することができる。
【0022】
あるいは、増幅されたEGFR遺伝子又は断片核酸を、酵素突然変異検出法(Enzymatic Mutation Detection (EMD))(Del Tito等, Clinical Chemistry 44:731-739, 1998)を使用して突然変異の検出について分析することができる。EMDはバクテリオファージリゾルベースTエンドヌクレアーゼVIIを使用し、これは、点突然変異、挿入及び欠失から生じる塩基対ミスマッチによって引き起こされる構造的歪みを検出し切断するまで二本鎖DNAに沿ってスキャンする。例えばゲル電気泳動によってリゾルベース切断により形成された二つの短い断片の検出は突然変異の存在を示している。EMD法の利点は、PCR反応から直接アッセイされた点突然変異、欠失及び挿入を同定する単一のプロトコルであり、試料精製の必要性を排除し、ハイブリダイゼーション時間を短縮し、信号対雑音比を増大させる。20倍までの過剰な正常DNA及び4kbのサイズまでの断片を含む混合試料をアッセイすることができる。しかしながら、EMDスキャンは突然変異陽性試料中に起こる特定の塩基変化を同定せず、必要ならば突然変異を同定するために更なる配列決定手順を必要とする。CEL I酵素は米国特許第5869245号に実証されているようにリゾルベースTエンドヌクレアーゼVIIと同様にして使用することができる。
【0023】
本発明のEGFR突然変異を検出するための他の簡単なキットは、ヘモクロマトーシスを引き起こすHFE、TFR2及びFPN1遺伝子における多重突然変異の検出のためのヘマクロマトーシス試験紙アッセイ(Haemochromatosis StripAssayTM)(Viennalabs http://www.bamburghmarrsh.com/pdf/4220.pdf)に類似したリバースハイブリダイゼーション試験紙である。そのようなアッセイは、PCRによる増幅に続く配列特異的ハイブリダイゼーションに基づいている。単一突然変異アッセイに対しては、マイクロプレートベースの検出系を適用することができる一方、多重突然変異アッセイに対しては、試験紙は「マクロ-アレイ」として使用することができる。キットは試料調製、増幅及び突然変異検出のための直ぐに使用できる試薬を含みうる。多重増幅プロトコルは利便性を提供し、非常に限られた体積の試料の試験を可能にする。直接的な試験紙アッセイ態様を使用して、20及びそれ以上の突然変異の試験を、高価な装置を用いないで5時間未満で完了させることができる。DNAが試料から単離され、EGFR遺伝子(又はエキソン18−21又はKDR又はそのセグメント)がインビトロで増幅され(例えばPCR)、好ましくは単一(「多重(multiplex)」)増幅反応においてビオチン標識される。PCR産物は、プローブが平行線又はバンドとして固定されている試験紙のような固体担体上に固定されたオリゴヌクレオチドプローブ(野生型及び変異型特異的)に選択的にハイブリダイズされたものである。結合したビオチン標識単位複製配列はストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ及び有色基質を使用して検出される。そのようなアッセイは表1の突然変異の全て又は任意のサブセットを検出することができる。特定の突然変異プローブバンドに対しては3種のシグナル伝達パターンの一つが可能である:(i)正常なEGFRを示す野生型プローブに対してのみのバンド(ii)ヘテロ接合遺伝子型を示す野生型及び突然変異双方のプローブに対するバンド及び(iii)ホモ接合突然変異EGFR遺伝子型を示す突然変異プローブだけに対するバンド。従って、本発明のEGFR突然変異を検出する方法であって、試料から核酸を単離し、EGFR遺伝子、又はその断片(例えばKDR又はエキソン18−21又はより小さいもの)を、増幅された核酸がリガンドを含むように増幅させ、増幅されたEGFR遺伝子又は断片を、リガンドに対する検出可能な結合対を含むプローブであってEGFR突然変異体に特異的にハイブリダイズ可能なプローブに接触させ、ついで上記増幅EGFR遺伝子又は断片に対する上記プローブのハイブリダイゼーションを検出する方法が更に提供される。特定の実施態様では、リガンドはビオチンであり、結合対はアビジン又はストレプトアビジンを含む。特定の実施態様では、結合対は、有色基質で検出可能なストレプトアビジン-アルカリ性である。特定の実施態様では、プローブは例えば試験紙上に固定され、そこで、異なった突然変異に相補的であるプローブが互いに分離される。あるいは、増幅された核酸は、放射性同位元素で標識され、その場合、プローブはリガンドを含む必要はない。
【0024】
腫瘍試料はまたKRAS中の突然変異(p21aと称する)について分析した。エキソン1において検出される特定の突然変異は、化学療法並びにエルロチニブ療法と併用した化学療法に対して不良な予後と相関しているG12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dである。従って、本発明はEGFR阻害剤、例えばエルロチニブ又は化学療法と併用したエルロチニブの療法に対して反応性ではない患者を同定する方法であって、KRAS突然変異の存在又は不存在を決定することを含み、上記突然変異の存在が上記療法に患者が応答しないであろうことを示す方法を更に提供する。あるいは、EGFR阻害剤での治療に感受性であるヒト患者における腫瘍を同定する方法であって、(i)上記腫瘍の試料中における野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在が、その腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示し、あるいは(ii)上記腫瘍の試料中における突然変異KRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、突然変異KRASタンパク質又は遺伝子の不存在が、その腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示す方法が提供される。特定の実施態様では、突然変異はK-Rasのエキソン1にある。他の実施態様ではK-Ras突然変異は、G12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dの少なくとも一つである。あるいは、突然変異K-Rasを持つ腫瘍を有する個体は、K-Ras阻害剤と併用した場合は、EGFR阻害剤で治療することができる。K-Ras突然変異の存在を決定する方法はここに詳細に記載するEGFR突然変異を同定するために使用されるものと同様である。
【0025】
本発明の診断及び予後方法によれば、野生型EGFR遺伝子の改変が検出される。本発明による野生型遺伝子の改変は、例えば挿入、逆位、欠失、及び/または点突然変異のような全ての形態の突然変異を包含する。体細胞突然変異はある種の組織、例えば腫瘍組織でのみ生じるものであり、生殖細胞系列で遺伝するものではない。生殖系列突然変異は体組織の任意のもので見出すことができる。単一のアレルのみが体細胞的に突然変異する場合、初期の腫瘍状態が示される。しかしながら、双方のアレルが突然変異すると、ついで後期腫瘍状態が示される。EGFR突然変異の発見は、よって、ここに記載されるように診断及び予後の指標である。
【0026】
腫瘍組織に見出されるEGFR突然変異は癌性状態に導く野生型EGFRに対して増加したシグナル伝達活性を生じうる。野生型EGFR遺伝子の改変を検出するために、腫瘍の特定のタイプ及び位置に対して適切な当該分野でよく知られた方法によって腫瘍の試料又はバイオプシーが得られる。例えば、肺癌病巣の試料は、切除、気管支鏡検査法、微細針吸引、気管支ブラッシングによって、又は血痰、胸腔内液又は血液から得ることができる。組織調製物を腫瘍細胞について濃縮する手段は当該分野で知られている。例えば、組織をパラフィン又はクリオスタット切片から単離することができる。癌細胞はまたフローサイトメトリー又はレーザ捕獲顕微解剖によって正常細胞から分離することもできる。これらの技術と正常細胞から腫瘍を分離するための他の技術は当該分野でよく知られている。腫瘍組織が正常細胞で高度に汚染されている場合、突然変異の検出はより困難である。
点突然変異の検出は、当該分野でよく知られている技術を使用してEGFRアレル(又はアレル群)を分子クローニングしそのアレルを配列決定することによって達成することができる。あるいは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、腫瘍組織からのゲノムDNA調製物から直接的に遺伝子配列を増幅させることができる。ついで、増幅された配列のDNA配列を決定し、それから突然変異を同定することができる。ポリメラーゼ連鎖反応は当該分野でよく知られており、Saiki等, Science 239:487, 1988;米国特許第4683203号;及び米国特許第4683195号に記載されている。
【0027】
EGFRエキソン18−21のPCR増幅に使用することができる特異的プライマー対には次のものが含まれる:

<5pEGFR.ex18.out> CAAATGAGCTGGCAAGTGCCGTGTC (配列番号39)
<3pEGFR.ex18.out> GAGTTTCCCAAACACTCAGTGAAAC (配列番号40)

<5pEGFR.ex19.out> GCAATATCAGCCTTAGGTGCGGCTC (配列番号41)
<3pEGFR.ex19.out> CATAGAAAGTGAACATTTAGGATGTG (配列番号42)

<5pEGFR.ex20.out> CCATGAGTACGTATTTTGAAACTC (配列番号43)
<3pEGFR.ex20.out> CATATCCCCATGGCAAACTCTTGC (配列番号44)

<5pEGFR.ex21.out> CTAACGTTCGCCAGCCATAAGTCC (配列番号45)
<3pEGFR.ex21.out> GCTGCGAGCTCACCCAGAATGTCTGG (配列番号46)

<5pEGFR.ex18.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCAAGTGCCGTGTCCTGGCACCCAAGC
(配列番号47)
<3pEGFR.ex18.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCCAAACACTCAGTGAAACAAAGAG
(配列番号48)

<5pEGFR.ex19.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCCTTAGGTGCGGCTCCACAGC
(配列番号49)
<3pEGFR.ex19.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCATTTAGGATGTGGAGATGAGC
(配列番号50)
<5pEGFR.ex20.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTGAAACTCAAGATCGCATTCATGC
(配列番号51)
<3pEGFR.ex20.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCGCAAACTCTTGCTATCCCAGGAG
(配列番号52)
<5pEGFR.ex21.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCAGCCATAAGTCCTCGACGTGG
(配列番号53)
<3pEGFR.ex21.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCATCCTCCCCTGCATGTGTTAAAC
(配列番号54)

K-Rasエキソン1のPCR増幅に使用することができる特異的プライマー対には次のものが含まれる:
<5pKRAS-out> TACTGGTGGAGTATTTGATAGTG (配列番号55)
<3pKRAS-out> CTGTATCAAAGAATGGTCCTG (配列番号56)

<5pKRAS-in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTTAGTGTATTAACCTTATGTG (配列番号57)
<3pKRAS-in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCACCTCTATTGTTGGATCATATTCG
(配列番号58)
【0028】
当該分野で知られているリガーゼ連鎖反応を、EGFR配列を増幅させるために使用することができる。Wu等, Genomics, Vol. 4, pp.560-569 (1989)を参照。また、アレル特異的PCRとして知られている技術を使用することができる。(Ruano及びKidd, Nucleic Acids Research, Vol. 17, p. 8392, 1989を参照。)この技術によれば、特定のEGFR突然変異にその3’末端でハイブリダイズするプライマーが使用される。特定のEGFR突然変異が存在していない場合は、増幅産物は観察されない。欧州特許出願公開第0332435号及び Newton等, Nucleic Acids Research, Vol. 17, p.7, 1989に開示されたAmplification Refractory Mutation System (ARMS) もまた使用することができる。遺伝子の挿入及び欠失もまたクローニング、配列決定及び増幅によって検出することができる。また、遺伝子又は周りのマーカー遺伝子に対する制限断片長多型(RFLP)プローブを、多型断片におけるアレルの改変又は挿入をスコア付けするために使用することができる。一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)解析もまたアレルの塩基変化変異体を検出するために使用することができる。(Orita等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 86, pp. 2766-2770, 1989,及びGenomics, Vol. 5, pp. 874-879, 1989。)当該分野で知られているような挿入及び欠失を検出する他の方法を使用することができる。
野生型遺伝子の改変はまた遺伝子の野生型発現産物の改変に基づいて検出することもできる。そのような発現産物にはEGFRmRNA並びにEGFRタンパク質産物の双方が含まれる。点突然変異は、mRNAから作製されたcDNAの分子クローニングを介して又はmRNAを増幅し配列決定することによって、検出することができる。クローン化cDNAの配列は当該分野でよく知られたDNA配列決定法を使用して決定することができる。cDNAはまたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して配列決定することもできる。
【0029】
本発明によれば、ミスマッチは、100%相補的ではないハイブリダイズした核酸二本鎖である。完全な相補性の欠如は欠失、挿入、逆位、又は置換又はフレームシフト突然変異によりうる。ミスマッチの検出は遺伝子又はそのmRNA産物中における点突然変異を検出するために使用することができる。これらの技術は配列決定よりも感受性が低いが、多数の腫瘍試料に対して実施するのがより簡単である。ミスマッチ切断方法の一例はリボヌクレアーゼ保護法であり、これは、Winter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 82, p.7575, 1985及びMeyers等, Science, Vol. 230, p.1242, 1985に詳細に記載されている。本発明の実施において、その方法は、ヒト野生型EGFR遺伝子コード配列(又はエキソン18−21又はそのKDR)に相補的である標識リボプローブの使用を含む。リボプローブと腫瘍組織から単離されたmRNA又はDNAの何れかは一緒にアニール(ハイブリダイズ)され、続いて二本鎖RNA構造中の幾らかのミスマッチを検出することができる酵素リボヌクレアーゼAで消化される。ミスマッチがリボヌクレアーゼAによって検出される場合、それはミスマッチ部位で切断する。よって、アニールされたRNA調製物が電気泳動ゲルマトリックスで分離されるとき、ミスマッチがリボヌクレアーゼAによって検出され切断された場合、リボプローブとmRNA又はDNAに対する完全長二本鎖RNAよりも小さいRNA産物が見られる。リボプローブはEGFRmRNA又は遺伝子の完全長である必要はないが、エキソン18から21又はEGFR KDR又はそのセグメントでありうる。リボプローブがEGFRmRNA又は遺伝子のセグメントのみを含む場合、多くのこれらプローブを使用してミスマッチに対する全mRNA配列をスクリーニングすることが望ましい。
【0030】
同様な形で、DNAプローブを用いて、酵素的又は化学的切断を介して、ミスマッチを検出することができる。例えば、Cotton等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 85, 4397, 1988;及びShenk等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 72, p. 989, 1975を参照のこと。あるいは、ミスマッチは、マッチした二本鎖に対するミスマッチの二本鎖の電気泳動移動度シフトによって検出することができる。例えば、Cariello, Human Genetics, Vol. 42, p.726, 1988を参照のこと。リボプローブかDNAプローブの何れかを用いて、突然変異を含むかもしれない細胞性mRNA又はDNAはハイブリダイゼーション前にPCRを使用して増幅させることができる。EGFR遺伝子のDNAの変化は、例えば欠失及び挿入のように特に変化が全体的な再配列である場合は、サザンハイブリダイゼーションを使用して検出することもできる。
【0031】
ポリメラーゼ連鎖反応の使用によって増幅されたEGFR遺伝子のDNA配列を、アレル特異的プローブを使用してスクリーニングすることもまたできる。これらのプローブは核酸オリゴマーであり、その各々が既知の突然変異を有するEGFR遺伝子配列の領域を含む。例えば、一つのオリゴマーは、EGFR遺伝子配列の一部に相当して、約30ヌクレオチド長でありうる。そのようなアレル特異的プローブのバッテリーの使用によって、PCR増幅産物をスクリーニングし、EGFR遺伝子中における過去に同定された突然変異の存在を同定することができる。増幅されたEGFR配列とのアレル特異的プローブのハイブリダイゼーションは例えばナイロンフィルターで実施することができる。ストリンジェントなハイブリダイズ条件下での特定のプローブのハイブリダイゼーションは、アレル特異的プローブにおけるものと同じ突然変異が腫瘍組織に存在していることを示している。
野生型EGFR遺伝子の改変はまた野生型EGFRタンパク質の改変についてスクリーニングすることによっても検出することができる。例えば、EGFRと免疫反応性であるモノクローナル抗体を用いて組織をスクリーニングすることができる。同族抗原の欠如がEGFR突然変異を示すであろう。突然変異アレル産物に特異的な抗体をまた突然変異EGFR遺伝子産物の検出に使用することができる。抗体はファージディスプレイライブラリーから同定することができる。そのような免疫学的アッセイは当該分野で知られている任意の簡便な形態で行うことができる。これらには、ウェスタンブロット、免疫組織化学的アッセイ及びエライザアッセイが含まれる。改変されたEGFRタンパク質を検出するための任意の手段を、野生型EGFR遺伝子の改変を検出するために使用することができる。
【0032】
突然変異EGFR遺伝子又は遺伝子産物は腫瘍から又は尿、痰又は血清のような他の身体の試料から検出することができる。腫瘍試料中の突然変異EGFR遺伝子又は遺伝子産物の検出に対して上で検討されたものと同じ技術を他の身体の試料に対して適用することができる。癌細胞は腫瘍から脱落しそのような身体の試料中に現れる。そのような身体の試料をスクリーニングすることによって、単純な初期の診断を多くのタイプの癌に対して達成することができる。また、化学療法又は放射線療法の進行を、突然変異EGFR遺伝子又は遺伝子産物についてそのような身体の試料を試験することによってより簡単にモニターすることができる。
本発明の診断方法は、例えば肺、乳房、大腸、神経、膀胱、肝臓、胃及び前立腺のような腫瘍形成にEGFRがある役割を担っている任意の腫瘍に適用できる。本発明の診断方法は臨床医に有用であり、彼らは適切な治療過程において決定することができる。例えば、双方のEGFRアレルの改変を示す腫瘍は、一つのみのEGFRアレルの改変を示す腫瘍よりもより積極的な治療レジメンを示唆するかも知れない。
【0033】
本発明のプライマー対はポリメラーゼ連鎖反応を使用する特定のEGFRアレルのヌクレオチド配列の決定のために有用である。一本鎖DNAプライマーの対はEGFR遺伝子自体のDNA合成を刺激増幅するためにEGFR遺伝子内又は該遺伝子を囲む配列にアニーリングすることができる。これらのプライマーの集合によりEGFRエキソン18から21のヌクレオチドの全ての合成が可能になる。アレル特異的プライマーをまた使用することができる。このようなプライマーは特定のEGFR突然変異体アレルにのみアニーリングし、よって鋳型としての突然変異体アレルの存在下で産物を増幅だけする。引き続いての増幅配列のクローニングを容易にするために、プライマーはその末端に付属した制限酵素部位配列を有しうる。よって、プライマーの全てのヌクレオチドは、制限酵素部位を形成するのに必要な数個のヌクレオチドを除いてEGFRエキソン18−21又はそれに隣接する配列から誘導される。そのような酵素及び部位は当該分野でよく知られている。そのプライマー自体は、当該分野でよく知られている技術を使用して合成することができる。一般に、プライマーは、商業的に入手できるオリゴヌクレオチド合成機を使用して作製することができる。特定のプライマーの設計は十分に当業者の技量の範囲内である。
【0034】
本発明によって提供される核酸プローブは多くの目的に対して有用である。それらはゲノムDNAへのサザンハイブリダイゼーションにおいて、また上で既に検討した点突然変異を検出するためのリボヌクレアーゼ保護法において使用することができる。プローブはPCR増幅産物を検出するために使用することができる。それらはまた他の技術を使用してEGFR遺伝子又はmRNAとのミスマッチを検出するために使用することもできる。ミスマッチは酵素(例えばS1ヌクレアーゼ)か、化学物質(例えばヒドロキシルアミン又は四酸化オスミウム及びピペリジン)か、又は完全にマッチしたハイブリッドと比較した場合のミスマッチハイブリッドの電気泳動移動度の変化の何れかを使用して検出することができる。これらの技術は当該分野で知られている。Novack等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.83, p.586, 1986を参照。一般に、プローブはEGFRエキソン18−21配列に相補的であるが、但し、一般にキナーゼドメイン及びそのセグメントに対するプローブもまた考えられる。核酸プローブの全バッテリーを用いて、野生型EGFR遺伝子の改変を検出するためのキットを構成することができる。そのキットにより、EGFR遺伝子の全エキソン18−21配列へのハイブリダイゼーションが可能になる。プローブは互いにオーバーラップしていてもよいし又は近接していてもよい。
【0035】
リボプローブをmRNAとのミスマッチを検出するために使用する場合、それはEGFR遺伝子のmRNAに相補的である。よって、リボプローブは、センス鎖に相補的であるためEGFRタンパク質をコードしていない点でアンチセンスプローブである。リボプローブは一般に放射性、比色性、又は蛍光定量物質で標識され、これは当該分野で知られている任意の手段によって達成することができる。リボプローブがDNAとのミスマッチを検出するために使用される場合、それは何れの極性でも、センス又はアンチセンスでもありうる。同様に、DNAプローブを、ミスマッチを検出するために使用することもまたできる。
【0036】
癌の素因はEGFR遺伝子の突然変異についてヒトの任意の組織を試験することによって確認することができる。例えば、生殖系列EGFR突然変異を受け継いだ人は癌になる傾向があると思われる。これは、身体の任意の組織からのDNAを試験することによって決定することができる。例えば、血液を採り、血液の細胞からDNAを抽出することができる。また、EGFR遺伝子の突然変異について胎児細胞、胎盤細胞、又は羊水を試験することによって出生前診断を達成することができる。例えば点突然変異によろうと又は欠失によろうと、野生型EGFRアレルの改変は、上で検討した手段の任意のものによって検出することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)スライドの調製−脱パラフィン処理及び染色
次の溶液に切片を浸した:
1.新鮮なキシレン(切片の脱パラフィン処理のため)−5分
2.新鮮なキシレン−5分
3.100%エタノール−15秒
4.95%エタノール−15秒
5.70%エタノール−15秒
6.脱イオン水−15秒
7.メイヤーのヘマトキシリン−30秒
8.脱イオン水−洗浄(×2)−15秒
9.70%エタノール−15秒
10.エオシンY−5秒
11.95%エタノール−15秒
12.95%エタノール−15秒
13.100%エタノール−15秒
14.100%エタノール−15秒
15.キシレン(切片の脱水を完全にするため)−60秒
16.およそ2分間空気乾燥させるかエアースプレーを軽く使用してキシレンを完全に除去した。
17.ついで、組織はLCMの準備が整った。
【0038】
(実施例2)レーザ捕獲顕微解剖及びDNA抽出
材料:
PixCell II LCMシステム
CapSure HS又はCapSure Macro LCMキャップ
ExtractSure装置(HSのみ)
カミソリの刃(工場殺菌)
0.5ml試験管
0.2ml試験管
PicoPureDNA抽出キット
65℃インキュベータ
手順:
1.集められる組織の領域にCapSureキャップを配した
2.所望の領域にレーザを当てた
2.組織からキャップを持ち上げた
3.0.5mlの試験管中にプロテイナーゼKと共に20ulのPicoPure消化バッファーを分配した
4.切った材料と共にキャップを試験管中に配して密封シールを形成した
5.消化バッファーがキャップを覆うように試験管を逆さにした
6.65℃で24時間インキュベートした
7.キャップと共に試験管をスピンさせて消化された材料を試験管の底に集めた
8.消化物を0.2mlの細長い試験管に移した
9.加熱した蓋を備えたサーモサイクラーで10分間95℃にてプロテイナーゼKを不活化させた
10.50ulのPCR反応で1−2ulの試料を使用した。清浄化は必要ではなかった。
【0039】
(実施例3)PCR増幅
PCRプライマー:
配列決定をする各エキソン(EGFRエキソン18、19、20及び21)に対してプライマー対を設計した。プライマー配列は次の通りであった:

<5pEGFR.ex18.out> CAAATGAGCTGGCAAGTGCCGTGTC (配列番号39)
<3pEGFR.ex18.out> GAGTTTCCCAAACACTCAGTGAAAC (配列番号40)

<5pEGFR.ex19.out> GCAATATCAGCCTTAGGTGCGGCTC (配列番号41)
<3pEGFR.ex19.out> CATAGAAAGTGAACATTTAGGATGTG (配列番号42)

<5pEGFR.ex20.out> CCATGAGTACGTATTTTGAAACTC (配列番号43)
<3pEGFR.ex20.out> CATATCCCCATGGCAAACTCTTGC (配列番号44)

<5pEGFR.ex21.out> CTAACGTTCGCCAGCCATAAGTCC (配列番号45)
<3pEGFR.ex21.out> GCTGCGAGCTCACCCAGAATGTCTGG (配列番号46)

<5pEGFR.ex18.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCAAGTGCCGTGTCCTGGCACCCAAGC
(配列番号47)
<3pEGFR.ex18.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCCAAACACTCAGTGAAACAAAGAG
(配列番号48)

<5pEGFR.ex19.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCCTTAGGTGCGGCTCCACAGC
(配列番号49)
<3pEGFR.ex19.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCATTTAGGATGTGGAGATGAGC
(配列番号50)

<5pEGFR.ex20.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTGAAACTCAAGATCGCATTCATGC
(配列番号51)
<3pEGFR.ex20.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCGCAAACTCTTGCTATCCCAGGAG
(配列番号52)

<5pEGFR.ex21.in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTCAGCCATAAGTCCTCGACGTGG
(配列番号53)
<3pEGFR.ex21.in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCCATCCTCCCCTGCATGTGTTAAAC
(配列番号54)

PCR用のK-Rasオリゴ
<5pKRAS-out> TACTGGTGGAGTATTTGATAGTG (配列番号55)
<3pKRAS-out> CTGTATCAAAGAATGGTCCTG (配列番号56)

<5pKRAS-in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTTAGTGTATTAACCTTATGTG
(配列番号57)
<3pKRAS-in>.m13r CAGGAAACAGCTATGACCACCTCTATTGTTGGATCATATTCG
(配列番号58)
【0040】
一次PCR産物のネステッド増幅を、一次PCR産物内に位置しているイントロン特異的プライマー対を使用して実施した。これらのネステッドプライマー対はM13f及びM13rev配列でタグ付けした。
PCRの第一回目:
PCR反応:
DNA 0.5から30ng
プライマー 250nM/各外側プライマー
dNTPs 各0.2mM(ロッシュカタログ番号1581295)
MgCl 1.5mM(15mM 10×バッファー)
酵素 1.5U/RX Expand High fidelity Taq
(ロッシュカタログ番号1759078)
50ul反応容積
サーモサイクラー条件:
95℃−3分
94℃−30秒 35回反復
58℃−30秒
72℃−1分
72℃−8分
4℃−永久
PCRの第二回目:
PCR反応:
DNA 第一回目のPCR反応から1ul
プライマー 250nM/各内側プライマー
dNTPs 各0.2mM(ロッシュカタログ番号1581295)
MgCl 1.5mM(15mM 10×バッファー)
酵素 1.5U/RX Expand High fidelity Taq
(ロッシュカタログ番号1759078)
50ul反応容積
サーモサイクラー条件:
95℃−3分
94℃−30秒 30回反復
58℃−30秒
72℃−1分
72℃−8分
4℃−永久
【0041】
PCR産物の単離:
PCR反応産物を、品質管理のためにE-ゲル2%アガロースゲル(Invitrogen, カタログ番号G6018-02)に流した。PCR産物は必要に応じてQiaquick 96PCR精製キット(Qiagen, カタログ番号28181)を使用して直接精製するか又はゲル精製した。ゲル精製では、PCR産物をE-ゲルから切り取り、DNAをゲル抽出プロトコル(Qiagen, カタログ番号28181)でQiaquick 96PCR精製キットを使用して精製した。
【0042】
(実施例4)配列決定
タグ付けPCR産物に対してネステッド配列決定プライマー又は標準M13f及びM13rev配列決定プライマーを使用して、精製されたPCR産物の配列決定を行った。配列は次の通りであった:
<m13f> TGTAAAACGACGGCCAGT (配列番号59)
<m13r> CAGGAAACAGCTATGACC (配列番号60)

精製したPCR産物を希釈し、BigDyeターミネーターキット(ABI, Foster City, CA)を製造者の指示書に従って使用してサイクル配列決定した。
反応混合物:
5ulのDNA(25−100ngのPCR産物)
6ulの水
水で.25OD/100ulに希釈した1ulプライマー(m13f又はm13r又は配列特異的プライマー)
2ulのBigDye v3.1
6ulの希釈バッファー(ABI 5×希釈バッファーの等価物)
サイクル配列決定:
条件:
96℃−2.5分−初期変性
96℃−10秒
50℃−5秒
60℃−4分
全25から50サイクルを繰り返す
反応洗浄:
次のものを使用して取り込まれていないヌクレオチドを除去:
8%セファデックス
Edge BioSystem9ウェルブロック中500ul
750gで2分間スピン
分析:
反応産物を、ABI3700又はABI3730配列決定機器で電気泳動させた。電気泳動図を、Sequencher (Gene Codes, Corp)のような市販の解析プログラムを使用し、また特注ツールを用いて突然変異について解析した。
【0043】
(実施例5)用量応答
この研究に使用したヒト上皮成長因子レセプター(EGFR)野生型及び変異コンストラクトのN末端にgDの単純ヘルペスウイルスシグナル配列でエピトープタグを付け、内因性EGFRシグナル配列を置換した(Schaefer等 1999 J. Biol. Chem. 274, 859-866)。Cos7細胞を、形質移入の24時間前に通常の成長培地の12ウェル皿に播種した。LipofectAMINE 2000 を製造者の推奨するプロトコル(Invitrogen)を用いて発現プラスミドDNA(pRK5.gD.EGFR野生型、pRK5.gD.EGFR. L858R、又はpRK5.gD.EGFR.del(E746-S752))を用いてウェル当り0.25ugを形質移入した。形質移入の24時間後、無血清DMEM中で6時間の間、細胞を血清不足にした。刺激の1時間前に、形質移入した細胞を標示濃度のエルロチニブと共にプレインキュベートした。形質移入した細胞を1nMのTGNαで10分間刺激した。還元Laemmliバッファーを使用してウェル中で細胞を直接溶解させた。成長因子刺激によるEDFRレセプター活性化の指標であるレセプターの自己リン酸化を、HRP結合抗ホスホチロシン抗体(Oncogene Sciences, AB-4)を使用してウェスタンブロット法によって検出した。形質移入効率をgDエピトープタグに対して特異的な抗体(5B6)を使用して評価した。レセプター活性化レベルを、NIHイメージソフトウェアを使用してオートラジオグラムから評価した。ついでこれらのデータを用いてグラフを作成し、それから4パラメータフィット関数を使用してIC50を計算した。以下の結果に示すように、エルロチニブは野生型EGFRと比較して変異を含むEGFRに対してより大なる親和性を有している。

EGFRコンストラクト 阻害 (IC50)
WT EGFR-gD 50 nM
L858R EGFR-gD 20 nM
del(746-752) EGFR-gD 5 nM
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】野生型EGFR1のアミノ酸配列(配列番号1)を示し、ここで、シグナル配列は残基1−24であり、細胞外ドメインは残基24−645を含み、膜貫通ドメインは残基646−668を含み、細胞質ドメインは残基669−1210を含む。チロシンキナーゼドメイン領域は残基718−964であり、スレオニンリン酸化部位は残基678である。
【図2a】野生型EGFRのcDNA配列(配列番号2)であり、エキソン18はヌクレオチド2308−2430に対応し;エキソン19はヌクレオチド2431−2529に対応し;エキソン20はヌクレオチド2530−2715に対応し、エキソン21は2716−2871に対応する。
【図2b】野生型EGFRのcDNA配列(配列番号2)であり、エキソン18はヌクレオチド2308−2430に対応し;エキソン19はヌクレオチド2431−2529に対応し;エキソン20はヌクレオチド2530−2715に対応し、エキソン21は2716−2871に対応する。
【図2c】野生型EGFRのcDNA配列(配列番号2)であり、エキソン18はヌクレオチド2308−2430に対応し;エキソン19はヌクレオチド2431−2529に対応し;エキソン20はヌクレオチド2530−2715に対応し、エキソン21は2716−2871に対応する。
【図2d】野生型EGFRのcDNA配列(配列番号2)であり、エキソン18はヌクレオチド2308−2430に対応し;エキソン19はヌクレオチド2431−2529に対応し;エキソン20はヌクレオチド2530−2715に対応し、エキソン21は2716−2871に対応する。
【図3】EGFRの細胞外(上方)及び細胞内(下方)領域の模式図である。
【図4】野生型EGFR(実線)及び突然変異EGFR(破線)を発現するNSCLC腫瘍の患者の無増悪期間を示すKaplan-Meier曲線である。
【図5】野生型EGFR(実線)及び突然変異EGFR(破線)を発現するNSCLC腫瘍の患者の生存時間を示すKaplan-Meier曲線である。
【図6】一過性に形質移入したCOS7細胞中でエルノチニブの濃度を変化させての突然変異EGFR(L858R及びdel746−752)及び野生型EGFRの自己リン酸化の阻害を示すオートラジオグラフである。
【図7】一過性に形質移入したCOS7細胞中でエルノチニブの濃度を変化させての突然変異EGFR(L858R及びdel746−752)及び野生型EGFRの自己リン酸化の阻害を示すグラフである。
【図8】EGFR遺伝子及びタンパク質配列のエキソン18及び19における突然変異を示す。アミノ酸及びヌクレオチド変化、及び挿入は太字の下線を付したフォントであり、欠失はダッシュ(-)で示す。
【図9】EGFR遺伝子及びタンパク質配列のエキソン20及び21における突然変異を示す。アミノ酸及びヌクレオチド変化、及び挿入は太字の下線を付したフォントであり、欠失はダッシュ(-)で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者において治療に対して感受性である腫瘍を同定する方法において、上記腫瘍の試料中の突然変異したEGFR遺伝子又は突然変異したEGFRタンパク質の存在を決定することを含み、上記突然変異がEGFRのエキソン18−21に位置しており、T790M以外の突然変異EGFR遺伝子又は突然変異EGFRタンパク質の存在が、腫瘍が治療に対して感受性であることを示す方法。
【請求項2】
上記治療が化学療法剤である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記化学療法剤が、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロ-2'-デオキシウリジン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキセート;ブレオマイシン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ミトキサントロン;カンプトセシン、トポテカン;テニポシド;コルセミド、コルヒチン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はタモキシフェンの一又は複数である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記化学療法剤がカルボプラチン及び/又はパクリタキセルである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記治療がEGFR阻害剤である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記EGFR阻害剤がセツキシマブ、パニツムマブ、エルロチニブ又はゲフィチニブの一又は複数である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記EGFR阻害剤がエルロチニブである請求項5に記載の方法。
【請求項8】
上記突然変異がEGFRのキナーゼドメインに位置している請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記突然変異が、G719A、G719C、G719S、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、H773Y、S768I、S784F、L858R、L858P、L861Q、E746−A748del、E746−A750del、E746−R748del、L747−E749del、R748−P753del、L747−S752del、E746V、L747−T751del、L747−P753del、S752−I759del、M766−A767AIins、S768−V769SVAins、P772−H773NSins及びP772−H773Vinsの少なくとも一つである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記突然変異が、G719A、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、S768I、L858P、E746−A748del、R748−P753del、M766−A767AIins、S768−V769SVAins及びP772−H773NSinsの少なくとも一つである請求項8に記載の方法。
【請求項11】
上記突然変異が、2402G>C;2401G>T;2401G>A;2482G>A;2486T>C;2491G>C;2494G>C;2510C>T;2539G>A;2556C>T;2563C>T;2576T>A;2819T>G;2819T>C;2482−2490del;2481−2495del;2482−2490del;2485−2493del;2494G>C;2486−2503del;2485−2502del;2483A>T;2486−2494del;2499−2522del;2544−2545insGCCATA;2554−2555insCCAGCGTGG;2561−2562insGGT;及び2562−2563insAACTCCの少なくとも一つである請求項8に記載の方法。
【請求項12】
上記突然変異が、2402G>C;2482G>A;2486T>C;2491G>C;2494G>C;2510C>T;2539G>A;2549G>T;2563C>T;2819T>C;2482−2490del;2486−2503del;2544−2545insGCCATA;2554−2555insCCAGCGTGG;及び2562−2563insAACTCCの少なくとも一つである請求項8に記載の方法。
【請求項13】
試料中のEGFR突然変異を同定する方法において、上記試料からの核酸を、突然変異したEGFRタンパク質をコードする核酸、又は突然変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズ可能な核酸プローブと接触させ、上記ハイブリダイゼーションを検出することを含む方法。
【請求項14】
上記突然変異がEGFRのキナーゼドメインに存在している請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記EGFR突然変異が、2402G>C;2401G>T;2401G>A;2482G>A;2486T>C;2491G>C;2494G>C;2510C>T;2539G>A; 2556C>T;2563C>T;2576T>A;2819T>G;2819T>C;2482−2490del;2481−2495del;2482−2490 del;2485−2493del;2494G>C;2486−2503 del;2485−2502del;2483A>T;2486−2494del;2499−2522del;2544−2545insGCCATA;2554−2555insCCAGCGTGG;2561−2562insGGT;及び2562−2563insAACTCCの少なくとも一つである請求項13に記載の方法。
【請求項16】
上記EGFR突然変異が、2402G>C;2482G>A;2486T>C;2491G>C;2494G>C;2510C>T;2539G>A;2549G>T;2563C>T; 2819T>C;2482−2490del;2486−2503del;2544−2545insGCCATA;2554−2555insCCAGCGTGG;及び2562−2563insAACTCCの少なくとも一つである請求項13に記載の方法。
【請求項17】
上記プローブが検出可能に標識される請求項13に記載の方法。
【請求項18】
上記プローブがアンチセンスオリゴマーである請求項13に記載の方法。
【請求項19】
上記試料中の上記核酸中のEGFR遺伝子又はその断片が増幅され、上記プローブと接触せしめられる請求項13に記載の方法。
【請求項20】
EGFR突然変異を有する腫瘍の治療のための医薬の調製における抗癌剤の使用であって、上記腫瘍中の上記EGFR突然変異が、G719A、G719C、G719S、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、H773Y、S768I、S784F、L858R、L858P、L861Q、E746−A748del、E746−A750del、E746−R748del、L747−E749del、R748−P753del、L747−S752del、E746V、L747−T751del、L747−P753del、S752−I759del、M766−A767AIins、S768−V769SVAins、P772−H773NSins及びP772−H773Vinsの少なくとも一つである使用。
【請求項21】
上記抗癌剤が化学療法剤である請求項20に記載の使用。
【請求項22】
上記抗癌剤がEGFR阻害剤である請求項20に記載の使用。
【請求項23】
上記化学療法剤が、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロ-2'-デオキシウリジン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキセート、ブレオマイシン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、カンプトセシン、トポテカン;テニポシド;コルセミド、コルヒチン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はタモキシフェンの一又は複数である請求項21に記載の使用。
【請求項24】
上記化学療法剤が、メトトレキセート;ブレオマイシン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はタモキシフェンの一又は複数である請求項21に記載の使用。
【請求項25】
上記化学療法剤が、セツキシマブ、パニツムマブ、エルロチニブ又はゲフィチニブの一又は複数である請求項22に記載の使用。
【請求項26】
上記EGFR突然変異が、G719A、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、S768I、L858P、E746−A748del、R748−P753del、M766−A767AIins、S768−V769SVAins及びP772−H773NSinsの少なくとも一つである請求項20に記載の使用。
【請求項27】
突然変異したEGFRタンパク質をコードする核酸又は突然変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズ可能な核酸プローブ。
【請求項28】
上記プローブが、突然変異したEGFRをコードする上記核酸又はその上記断片に相補的である請求項27に記載のプローブ。
【請求項29】
約10から約50のヌクレオチド長を有する請求項27に記載のプローブ。
【請求項30】
検出可能な標識を更に含む請求項27に記載のプローブ。
【請求項31】
上記突然変異が、G719A、G719C、G719S、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、S768I、L858R、L858P、L861Q、E746−A748del、E746−A750del、E746−R748del、L747−E749del、R748−P753del、L747−S752del、E746V、L747−T751del、L747−P753del、S752−I759del、M766−A767AIins、S768−V769SVAins、及びP772−H773Vinsの少なくとも一つである請求項27に記載のプローブ。
【請求項32】
上記突然変異が、G719A、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、S768I、H773Y、S784F、T790M、L858P、E746−A748del、R748−P753del、M766−A767AIins、P772−H773NSins及びS768−V769SVAinsの少なくとも一つである請求項27に記載の使用。
【請求項33】
試料中の突然変異したEGFR遺伝子を検出する方法において、上記EGFR遺伝子のキナーゼドメインに対応する核酸又は突然変異を含むことが疑われるその断片を上記試料から増幅させ、増幅させた核酸の電気泳動移動度を、対応する野生型EGFR遺伝子又はその断片の電気泳動移動度と比較することを含む方法。
【請求項34】
電気泳動移動度がポリアクリルアミドゲルで測定される請求項33に記載の方法。
【請求項35】
EGFR阻害剤での治療に対して感受性であるヒト患者における腫瘍を同定する方法であって、(i)上記腫瘍の試料中の野生型RASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、ここで、野生型RASタンパク質又は遺伝子の存在が、腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示し、又は(ii)上記腫瘍の試料中の突然変異したRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、突然変異したRASタンパク質又は遺伝子の不在が、腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示すことを含む方法。
【請求項36】
上記RAS突然変異が、G12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dの少なくとも一つである請求項36に記載の方法。
【請求項37】
腫瘍を有する患者の予後を決定する方法において、上記腫瘍の試料中におけるT790MのEGFR突然変異の有無を決定し、上記T790MのEGFR突然変異の存在が上記T790MのEGFR突然変異がない場合と比較してより乏しい予後を示す方法。
【請求項38】
EGFR阻害剤での治療に対して耐性がある腫瘍を同定する方法であって、上記腫瘍の試料中においてT790MのEGFR突然変異の有無を決定し、上記突然変異の存在が、腫瘍がEGFR阻害剤での治療に対して耐性であることを示す方法。
【請求項39】
T790M突然変異を含む突然変異型EGFRタンパク質のシグナル伝達を阻害する化合物のスクリーニング方法であって、リン酸化基質とATPの存在下で上記突然変異型EGFRを試験化合物と接触させ、上記基質のリン酸化量の変化を検出し、コントロールと比較した、又は試験化合物の不在下での基質のリン酸化と比較した上記基質のリン酸化の減少が、上記試験化合物が突然変異型EFGRシグナル伝達の阻害剤であることを示す方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−244823(P2011−244823A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−135152(P2011−135152)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【分割の表示】特願2007−515638(P2007−515638)の分割
【原出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】