説明

EGRガス冷却装置

【課題】燃費に悪影響を与えることなくEGRガスを冷却することができるEGRガス冷却装置を提供する。
【解決手段】作動ガスが封入されたループ管2に、排気マニホールド23の直近でEGR管3を流れるEGRガスと作動ガスとの間で熱交換する加熱器4が設置され、ループ管2に、作動ガスと大気との間で熱交換する冷却器5が設置され、ループ管2の冷却器5と加熱器4との間に再生器6が設置されることでEGRガスの熱をループ管2内の音響に変換する原動機7が構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに再循環されるEGRガスを冷却するEGRガス冷却装置に係り、燃費に悪影響を与えることなくEGRガスを冷却することができるEGRガス冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンには排気ガスをエンジンに循環させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムが搭載される。EGRシステムでは、排気マニホールドからEGR管に取り込まれた温度が高いEGRガスがEGRクーラにて冷却され、その冷却されたEGRガスが新気と混合されてエンジンに吸気される。
【0003】
EGRクーラでは、EGRガスが冷却水により冷却される。その冷却水は、ラジエータにて放熱される。このようにして、EGRガスの熱は、EGRクーラにて冷却損失として失われる。一方、冷却水を放熱させるためにラジエータにおいてエンジンあるいはモータで冷却ファンが駆動される。これらのようにEGRガスの熱が冷却損失となること、及び冷却ファンを駆動することは、ディーゼルエンジンの熱効率低下の要因となっている。
【0004】
エンジンの排気ガスの熱を再利用するために、排気ガスを熱源として熱音響機関を駆動して吸入空気又はEGRガスを冷却する冷却装置が特許文献1,2に開示されている。
【0005】
ここで、熱音響機関について簡単に説明する。
【0006】
図3に示されるように、高温熱源との熱交換を行う熱交換器である加熱器101と、低温熱源との熱交換を行う熱交換器である冷却器102と、これら加熱器101と冷却器102との間で温度勾配を保持する再生器103とが、閉じたループ管104に並べて配置される。ループ管104内には、作動流体(ガス)が封入される。この構成により、ループ管104内の気柱が局部的に加熱及び冷却されると、熱エネルギの一部が力学エネルギに変換され、気柱が自励振動を起こす。ループ管104の長さと封入したガスにより、共振周波数が決まる。この作用から、加熱器101、冷却器102、再生器103は、力学的には原動機105と見なすことができる。ループ管104内のガスが加熱、冷却、膨張、圧縮といった熱力学過程を経験することで、力学的サイクル(スターリングサイクル)が形成される。このように、原動機105は、熱源からの熱をループ管104内の音響に変換する機能を有する。
【0007】
図4に示されるように、原動機105を備えたループ管104に、ループ管104内の気柱の振動(音響)を仕事に変換する受動機として、冷凍機106が配置される。冷凍機106は、原動機105と同様に再生器107の両端に熱交換器が設けられたものである。冷凍機106では、一方の熱交換器が冷却器108として冷却されるとき、他方の熱交換器は冷凍器109となり温度が低下する。このように、冷凍機106は、ループ管104内の音響を冷熱に変換して取り出す機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−233485号公報
【特許文献2】特開2006−2783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の冷却装置では、原動機の加熱器が触媒装置より下流の排気管を流れる排気ガスを熱源としている。しかし、この構成では、原動機それ自体にはEGRガスを冷却する効果はない。さらに、触媒装置の下流では、排気ガス温度がエンジンの排気マニホールドから出てきたばかりの排気ガスの温度に比べて相当に低いため、原動機において加熱器と冷却器との間の温度差が小さく、ループ管に生じる音響が小さい。このため、この音響で冷凍機を駆動してEGRガスを冷却しようとしても、冷却が不十分となる。
【0010】
なお、これとは逆に、触媒装置の上流の排気管を流れる排気ガスを熱源とすると、加熱器において排気ガスの熱が奪われるため、触媒装置における排気ガスの温度が低下して触媒の活性化が阻害される。
【0011】
特許文献1には、原動機の加熱器がEGR管のEGR弁より下流のEGRガスを熱源とする冷却装置と、原動機の加熱器がターボチャージャのタービンより上流の排気管を流れる排気ガスを熱源とする冷却装置とが開示されている。
【0012】
しかし、タービンより上流の排気管を流れる排気ガスを熱源とする冷却装置では、加熱器において排気ガスの熱が奪われるため、タービンを回転させる排気ガスの圧力が低下し、吸入空気量が減少するという弊害がある。また、この構成では、原動機それ自体にはEGRガスを冷却する効果はない。
【0013】
EGRガスを熱源とする冷却装置では、触媒装置やターボチャージャに対する悪影響はない。また、EGRガスを原動機の熱源としたことで、原動機においてEGRガスが冷却される。しかし、EGR弁の下流では、排気ガス温度が排気マニホールドから出てきたばかりの排気ガスの温度に比べて低いため、原動機において加熱器と冷却器との間の温度差が小さく、ループ管に生じる音響が小さい。このため、この音響で冷凍機を駆動してEGRガスを冷却しようとしても、冷却が不十分となる。
【0014】
また、特許文献1,2の冷却装置は、原動機、冷凍機のすべての冷却器の熱源にエンジン冷却水が使用される。しかし、この構成では、冷却器においてエンジン冷却水が熱を受け取ることになる。エンジン冷却水が熱を受け取ると、ラジエータの冷却ファンがそれだけ多く駆動されなければならず、燃料が消費され、燃費に悪影響が及んでしまう。
【0015】
また、エンジン冷却水の温度は、車両が定常的に走行しているとき、80℃程度である。熱音響機関では、原動機において加熱器と冷却器との間の温度差が小さいと、自励振動に不利であり、ループ管に生じる音響が小さい。よって、冷却器の温度は、エンジン冷却水の温度より低い方が望ましい。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、燃費に悪影響を与えることなくEGRガスを冷却することができるEGRガス冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドへEGR管によって導かれるEGRガスを熱音響機関により冷却するEGRガス冷却装置であって、作動ガスが封入されたループ管に、前記排気マニホールドの直近で前記EGR管を流れるEGRガスと作動ガスとの間で熱交換する加熱器が設置され、前記ループ管に、作動ガスと大気との間で熱交換する冷却器が設置され、前記ループ管の前記冷却器と前記加熱器との間に再生器が設置されることでEGRガスの熱を前記ループ管内の音響に変換する原動機が構成されたものである。
【0018】
前記ループ管に、作動ガスと前記エンジンの吸気管を流れる吸入空気との間で熱交換する冷凍器が設置され、前記ループ管に、作動ガスと大気との間で熱交換する第二冷却器が設置され、前記ループ管の前記冷凍器と前記第二冷却器との間に第二再生器が設置されることで前記ループ管内の音響を冷熱に変換して吸入空気を冷却する冷凍機が構成されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0020】
(1)燃費に悪影響を与えることなくEGRガスを冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態を示すEGRガス冷却装置に用いる熱音響機関の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すEGRガス冷却装置を搭載したエンジンシステムの構成図である。
【図3】原動機を備えた熱音響機関の構成図である。
【図4】原動機と冷凍機を備えた熱音響機関の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0023】
本発明に係るEGRガス冷却装置は、エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドへEGR管によって導かれるEGRガスを熱音響機関により冷却するEGRガス冷却装置である。
【0024】
図1に示されるように、本発明に係るEGRガス冷却装置1は、作動ガスが封入されたループ管2に、排気マニホールド直近でEGR管3を流れるEGRガスと作動ガスとの間で熱交換する加熱器4が設置される。ループ管2には、作動ガスと大気との間で熱交換する冷却器(以下、第一冷却器という)5が設置される。ループ管2の第一冷却器5と加熱器4との間に再生器(以下、第一再生器という)6が設置される。このようにして、加熱器4、第一再生器6、第一冷却器5が並べて配置されることにより、EGRガスの熱をループ管2内の音響に変換する原動機7が構成される。
【0025】
本実施形態では、さらに、ループ管2に作動ガスとエンジンの吸気管8を流れる吸入空気との間で熱交換する冷凍器9が設置される。さらに、ループ管2に作動ガスと大気との間で熱交換する第二冷却器10が設置される。ループ管2の冷凍器9と第二冷却器10との間に第二再生器11が設置される。このようにして、冷凍器9、第二再生器11、第二冷却器10が並べて配置されることにより、ループ管2内の音響を冷熱に変換して吸入空気を冷却する冷凍機12が構成される。
【0026】
ループ管2に封入される作動ガスとしては、空気、ヘリウム、窒素、アルゴンなどがある。
【0027】
加熱器4では、ループ管2の内外にフィン(図示せず)が設けられる。ここでは、例えば、ループ管2の外側のフィンを含むループ管2の外周全体を覆うようにEGR管3が設けられる。これらのフィンを介してEGRガスと作動ガスとの間で熱交換することができる。
【0028】
冷凍器9では、ループ管2の内外にフィン(図示せず)が設けられる。ここでも、例えば、ループ管2の外側のフィンを含むループ管2の外周全体を覆うように吸気管8が設けられる。これらのフィンを介して作動ガスと吸入空気との間で熱交換することができる。
【0029】
第一冷却器5、第二冷却器10では、ループ管2の内外にフィン(図示せず)が設けられる。これら冷却器5,10のフィンを介して作動ガスと大気との間で熱交換することができる。外側のフィンに臨ませて空冷ファン13が設置されてもよい。
【0030】
第一再生器6、第二再生器11は、金網、複数の細管の集合、多孔質セラミックなどで構成される。
【0031】
なお、加熱器4、冷凍器9、第一冷却器5、第二冷却器10、第一再生器6、第二再生器11は、公知のものを使用することができるので、詳細な構造の説明は省略する。ループ管2の断面形状、太さ、長さ、ループ形状は、ここでは特に限定しない。
【0032】
図2に示されるように、本発明のEGRガス冷却装置1を搭載したエンジンシステム21では、エンジン22の排気マニホールド23からEGR管3が分岐され、そのEGR管3の最下流が吸気マニホールド24に接続される。EGR管3の途中には、EGRクーラ25とEGRバルブ26が設けられる。加熱器4の位置は、EGRクーラ25とEGRバルブ26よりも上流であり、排気マニホールド23の直近(できる限り近い位置)である。
【0033】
排気マニホールド23から排気管27が分岐され、排気管27の最下流は大気に開放される。排気管27の途中には、ターボチャージャ28のタービン29が設けられ、タービン29の下流には、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)、DPF(Diesel Particulate Filter)等の排気ガス浄化装置30が設けられる。
【0034】
吸気マニホールド24には、ターボチャージャ28のコンプレッサ31の出口からの吸気管8が接続される。吸気管8の途中には吸気スロットル(図示せず)とインタークーラ32が設けられる。コンプレッサ31の入口には、大気からの吸気管8が接続される。冷凍器9の位置は、インタークーラ32から吸気マニホールド24までの間が望ましい。
【0035】
以下、EGRガス冷却装置1の動作を図1と図2を参照しつつ説明する。
【0036】
エンジン22の排気ガスは、排気マニホールド23からEGR管3と排気管27に流れ込む。EGR管3を流れるEGRガスは、加熱器4を通過し、EGRクーラ25とEGRバルブ26を経て吸気マニホールド24に流れ込む。このとき、加熱器4では、EGRガスとループ管2内の作動ガスとの熱交換が行われる。一方、第一冷却器5では、大気とループ管2内の作動ガスとの熱交換が行われる。これにより、加熱器4と第一冷却器5との間の第一再生器6に温度勾配が形成され、ループ管2内の気柱が自励振動を起こし、音響が発生する。
【0037】
EGR管3を流れるEGRガスは、加熱器4で熱交換したことにより、冷却される。この冷却により、吸気マニホールド24に流れ込むEGRガスの密度が高まるので、エンジン22が行う膨張仕事が増大し、エンジン22の熱効率が増大する。
【0038】
排気管27に流れ込んだ排気ガスは、タービン29を駆動した後、排気管27の下流の排気ガス浄化装置30で浄化され、大気へ放出される。
【0039】
大気から吸気管8に取り込まれた吸入空気は、コンプレッサ31で圧縮され、インタークーラ32で冷却され、冷凍器9を通過し、吸気マニホールド24に流れ込む。このとき、第二冷却器10では、大気とループ管2内の作動ガスとの熱交換が行われる。これにより、第二冷却器10における作動ガスの温度が大気温度となるので、第二冷却器10と冷凍器9との間の第二再生器11の温度勾配により、冷凍器9における作動ガスの温度が大気温度より低くなる。このため、吸気管8を流れる吸入空気は冷却され、吸気マニホールド24に流れ込む吸入空気の密度が高まるので、エンジン22が行う膨張仕事が増大し、エンジン22の熱効率が増大する。
【0040】
本発明のEGRガス冷却装置1によれば、EGRガスの熱をループ管2内の音響に変換する原動機7を構成したので、EGRガスが冷却され、EGRクーラ25の冷却水を冷却するラジエータにおける冷却ファンの駆動の仕事が軽減され、エンジン22の熱効率が向上する。
【0041】
本発明のEGRガス冷却装置1によれば、原動機7の加熱器4において排気マニホールド23直近を流れるEGRガスと作動ガスとの間で熱交換するようにしたので、排気マニホールド23から出てきたばかりの高温のEGRガスが熱源となる。これにより、原動機7において加熱器4と第一冷却器5との間の温度差が大きくなり、ループ管2に生じる音響が大きくなるので、加熱器4においてEGRガスの熱が大きく奪われEGRガスがよく冷却される。
【0042】
本発明のEGRガス冷却装置1によれば、冷却器5,10の熱源にエンジン冷却水を使用しないので、エンジン冷却水への入熱が少なく、ラジエータの冷却ファンの駆動要求が緩和される。このため、燃料の消費が抑制され、燃費が向上する。
【0043】
本発明のEGRガス冷却装置1によれば、冷却器5,10のフィンを大気で冷却するようにしたので、特別な冷熱源が必要ない。また、車両走行中のエンジン冷却水温度が80℃くらいであるのに対し、大気の温度はそれより低いので、原動機7において加熱器4と第一冷却器5との間の温度差が大きくなる。これにより、自励振動が容易となり、ループ管2に生じる音響が大きくなる。
【0044】
なお、冷却器5,10のフィンに臨ませて冷却ファン13を設けてもよいが、車両走行中のエンジンルーム内はフィンを通過する空気流があるので、フィンのみでも十分な冷却効果が得られる。したがって、冷却ファン13は車両停止時のように空冷効果が乏しいときに駆動するだけでよく、燃費に悪影響しない。
【0045】
本発明のEGRガス冷却装置1によれば、EGRガスの熱をループ管2内の音響に変換する原動機7に加えて、ループ管2内の音響を冷熱に変換して吸入空気を冷却する冷凍機12を構成したので、EGRガスを冷却するだけでなく、その奪った熱で仕事をさせて吸入空気を冷却することができる。
【0046】
特に、近年要請されているエンジン22やその周辺の部材を小型化するダウンサイジングにおいては、EGRガス温度や吸気温度がダウンサイジング前より高くなる。その一方で、ラジエータの冷却ファンは、エンジン冷却水を冷却することに能力の大半を使用するので、EGRクーラ25やインタークーラ32を冷却する余力がなくなる。したがって、本発明のように熱音響機関によってEGRガスの冷却や吸入空気の冷却ができることは、ダウンサイジングでは大変有用である。
【0047】
本実施形態では、冷凍機12で吸入空気を冷却するようにしたが、冷凍機12の冷凍器9で作動ガスと加熱器4の設置箇所より下流を流れるEGRガスとの間で熱交換するように構成し、冷凍機12でEGRガスを冷却するようにしてもよい。また、ループ管2内の音響から仕事を取り出す原動機は、冷凍機12に限定されない。
【符号の説明】
【0048】
1 EGRガス冷却装置
2 ループ管
3 EGR管
4 加熱器
5 冷却器(第一冷却器)
6 再生器(第一再生器)
7 原動機
8 吸気管
9 冷凍器
10 第二冷却器
11 第二再生器
12 冷凍機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドへEGR管によって導かれるEGRガスを熱音響機関により冷却するEGRガス冷却装置であって、
作動ガスが封入されたループ管に、前記排気マニホールドの直近で前記EGR管を流れるEGRガスと作動ガスとの間で熱交換する加熱器が設置され、
前記ループ管に、作動ガスと大気との間で熱交換する冷却器が設置され、
前記ループ管の前記冷却器と前記加熱器との間に再生器が設置されることでEGRガスの熱を前記ループ管内の音響に変換する原動機が構成されたことを特徴とするEGRガス冷却装置。
【請求項2】
前記ループ管に、作動ガスと前記エンジンの吸気管を流れる吸入空気との間で熱交換する冷凍器が設置され、
前記ループ管に、作動ガスと大気との間で熱交換する第二冷却器が設置され、
前記ループ管の前記冷凍器と前記第二冷却器との間に第二再生器が設置されることで前記ループ管内の音響を冷熱に変換して吸入空気を冷却する冷凍機が構成されたことを特徴とする請求項1記載のEGRガス冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−67656(P2012−67656A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212309(P2010−212309)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】