説明

ETB受容体アゴニストを用いた脳卒中または脳血管障害の治療方法

脳卒中または脳血管障害の治療のための、IRL-1620などのETB受容体アゴニストの使用方法が開示されている。 このETB受容体アゴニストは、それ単独で、あるいは、脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療剤と組み合わせて用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願に関する相互参照]
本願は、本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する、2007年8月21日に出願された米国仮特許出願第60/965,591号の優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府支援の研究または開発]
なし
本願発明は、例えば、血栓症、塞栓症、または、出血に起因する脳卒中および脳血管障害の治療のために、IRL-1620などのエンドセリン(ETB)受容体アゴニストを用いる方法に関する。 このETB受容体アゴニストは、それ単独でも使用することができ、あるいは、組織プラスミノゲン活性化因子などの血栓溶解剤、または、ETAアンタゴニスト、または、エリスロポエチン、ダーベポエチン、および、エポエチンアルファなどの赤血球生成刺激剤、または、ヘモグロビンを主成分とする代用血液、および、ペルフルオロカーボンを主成分とする代用血液などの酸素キャリアと組み合わせて使用することができる。 ETB受容体アゴニストと組み合わせて使用することができるその他の神経保護薬として、アルガトロバン、アルフィメプラーゼ、テネクテプラーゼ、アンクロッド、シルデナフィル、インスリン、および、その増殖因子、硫酸マグネシウム、ヒト血清アルブミン、カフェイノール(カフェインとアルコールとの組み合わせ)、ミクロプラスミン、スタチン、エプチフィバチド、チンザパリン、エネカジン、シチコリン、エダラボン、シロスタゾール、または、ハイポサーミアなどがある。 ETB受容体アゴニストをそれ単独で用いるか、あるいは、公知の神経保護薬と組み合わせて用いることで、脳細胞に対して血液供給および酸素供給が行われ、そして、脳細胞の損傷が軽減される。
【背景技術】
【0003】
21個のアミノ酸からなるペプチドであるエンドセリン-1(ET-1)の発見は、血管による血管緊張の局所的調節についての知見を得る上で役立っている(M. Yanagisawa et al. (1988) Nature 332 (6163):411-5)。 ET-1は、内皮細胞、および、血管平滑筋細胞において、エンドセリン変換酵素-1(ECE-1)の存在下でのプロエンドセリン-1(proET-1)からET-1への変換を介して生成される。 プロエンドセリン-1からET-1への変換は、ET-1の至適血管収縮活性において必須の要素である(M. Yanagisawa et al. (1988) Nature 332 (6163):411-5、および、G.D. Johnson et al. (1999) J Biol Chem 274(7):4053-8)。
【0004】
ET-1は、緩慢な基本比率で、培養した内皮細胞から放出される。 高い血管収縮力と安定した持続作用が故に、内皮細胞からその下方にある平滑筋細胞への少量のET-1の放出は、血管緊張と血圧の維持に関して貢献することが可能である(T. Miyauchi et al. (1999) Annu Rev Physiol 61 :391-415)。 生理学的条件下において、ET-1によって維持されている自然張力は、内皮由来弛緩因子(EDRF、または、一酸化窒素、および、プロスタサイクリン)、および、血管収縮物質(トロンボキサン)の放出によって均衡が図られている(E.L. Schiffrin (1994) Clin Invest Med 17(6):602-20、および、P.B. Persson (1996) Physiol Rev 76(l):193-244)。
【0005】
ETとその類縁物質(ET-1、ET-2、ET-3、ETA、および、ETB受容体)は、高血圧、心不全、腎疾患、および、癌などの疾患の治療において治療効果を示すET受容体アンタゴニストの形成のために必要な作業の契機をもたらす(A. Gulati et al. (1992) Drug Develop Res 26:361-387; A. Gulati et al. (1997) Neuropeptides 31(4) 301-9; G. Remuzzi et al. (2002) Nat Rev Drug Discov l(12):986-1001; J. Nelson et al. (2003) Nat Rev Cancer 3(2): 110-6; および、A. Gulati et al. (2004) J Cardiovasc Pharmacol 44:S483-S486)。 幾つかのETA受容体アンタゴニスト、例えば、アトラセンタン、アボセンタン、クラゾセンタン、ダルセンタン、シタクスセンタン、ZD4054などが、臨床試験の中期段階から最終段階にある。 非特異的ETAおよびETB受容体アンタゴニストであるボセンタンが、この数年間にわたって市販されており、また、最近では、肺動脈高血圧の1日1回の処置に用いるアンブリセンタン(ETA受容体アンタゴニスト)が、米国食品医薬品局(FDA)によって販売が許可された。
【0006】
ETA受容体アンタゴニストの開発のために多大な努力が行われてきた。 しかしながら、治療剤としてのETアゴニストの開発は、実質的には行われてこなかった。 ETB受容体アゴニストの最初の治療用途に関する提案は、ラットの乳癌での血流を選択的に促す強力なETB受容体アゴニストであるIRL-1620の発見に基づくものであった(A. Rai et al. (2003) Cancer Chemother Pharmacol 51(l):21-8; A. Gulati (2003) 米国特許公開公報第2004/0138121号; および、A. Gulati (2006) 米国特許公開公報第2006/0211617号)。 高選択性ETB受容体アンタゴニストであるBQ788を投与することで、IRL-1620によって誘発された乳癌での血流がブロックされ、そして、腫瘍の血管拡張でのETB受容体の関与していることが確認された(A. Rai et al. (2005) J Pharm Pharmacol 57(7):869-76、および、N.V. Rajeshkumar et al. (2005) Breast Cancer Research and Treatment 94(3):237-247)。 腫瘍での血流の選択的改善を行うことで、正常な組織と比較して、注入したパクリタキセルが高い確率で腫瘍に到達していた。
【0007】
乳癌を形成したラットを用いた研究によれば、パクリタキセルに先駆けて、IRL-1620を投与した場合に、パクリタキセルで処置したラットと比較して、腫瘍の体積が顕著に減少しており、また、腫瘍の完全寛解率は20%であった(A. Rai et al. (2005) J Pharm Pharmacol 57(7):869-76, および、N.V. Rajeshkumar et al. (2005) Breast Cancer Research and Treatment 94(3):237-247)。 米国特許公開公報第2004/0138121号、第2006/0211617号、第2006/0257362号、および、第2007/0032422号を参照されたい。
【0008】
本願発明は、脳卒中、および、その他の脳血管障害の治療での、IRL-1620などのETB受容体アゴニストの新規の用途に関する。 具体的には、ETB受容体アゴニストが、脳血液の血流を顕著に増大させるという、新規で、しかも、予期しえない知見を得るに至ったのである。
【0009】
ETは、身体の至るところに分布しており、また、様々な生理学的作用にも関係をしている(A. Gulati et al. (1992) Drug Develop Res 26:361-387、および、J. Nelson et al. (2003) Nat Rev Cancer 3(2): 1 10-6)。 ETは、二つの異なる細胞表面受容体であるETAおよびETBに結合することによって、その効果を発揮する。 ETA受容体は、ET-1とET-2に対しては同程度の親和性を示すものの、ET-3に対する親和性は小さい。 ETB受容体は、ET-1、ET-2、および、ET-3に対して同程度の親和性を示す。 薬理学的証明は、ETB受容体が、二つのサブタイプ、すなわち、内皮細胞に存在するETB1受容体と、平滑筋細胞に存在するETB2受容体のサブタイプに分類できることを示唆している(D.P. Brooks et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 26 Suppl 3:S322-5、および、A. Leite-Moreira et al. (2004) Am J Physiol Heart Circ Physiol 287(3):H1194-9)。 ETA受容体およびETB受容体は、共に、Gタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーに属している(J. Nelson et al. (2003) Nat Rev Cancer 3(2): 110-6)。 血管平滑筋細胞に存在するETA受容体およびETB受容体は、血管収縮を招くが、内皮細胞に存在するETB受容体は、主に血管拡張性のものである(G. Remuzzi et al. (2002) Nat Rev Drug Discov l(12):986-1001)。
【0010】
IRL-1620(N-スクシニル-[Glu9, Ala11,15]エンドセリン1)は、ET-1の合成類似体、すなわち、ET-1の8〜21個のアミノ酸を有するET-1の断片である。 IRL-1620とは、ETA受容体よりも、ETB受容体に対して、120,000倍もの選択性を示す高選択性エンドセリンB受容体アゴニストである(M. Takai et al. (1992) Biochem Biophys Res Commun 184(2):953-9)。 IRL-1620は、C861171727の分子式で表され、また、その分子量は、1820.95である。 図1に示したIRL-1620の分子構造とは、Suc-Asp-Glu-Glu-Ala-Val-Tyr-Phe-Ala-His-Leu-Asp-Ile-Ile-Trp(配列番号:1)のアミノ酸配列で表される。
【0011】
IRL-1620の薬理学的効果
エンドセリンなどのIRL-1620は、血管拡張と血管収縮の双方をもたらすことができる。 内皮細胞に存在するETB受容体とIRL-1620との相互作用によって、血管拡張が起こるが、平滑筋細胞に存在するETB受容体との相互作用では、血管収縮が起こる。 さらに、IRL-1620によるETB受容体の第一次活性化によって、オートクリン/パラクリンET-1放出を促し、次いで、ETA受容体とETB受容体の双方を活性化する(S. Noguchi, et al. (1996) Br J Pharmacol 118(6): 1397-402)。 よって、IRL-1620が奏する実質的な効果は、組織のタイプ、生物種、そして、生理学的条件などの多数の要因に関係している。 IRL-1620が、ETB受容体の高選択性アゴニストであり、そして、所定の生理学的条件下でのETB受容体の役割を明からにするためによく利用されていることもあって、IRL-1620の薬理学的効果に関しては多くの研究が行われている。 これらの研究の内で後述するものにあって、IRL-1620の血管収縮作用は、ET-1の血管収縮作用ほどは、明確に言及されていない。 当業者に周知のその他のETB受容体アゴニストの薬理学的効果は、IRL-1620が奏する薬理学的効果と同様であり、また、その実質的な作用も、ETB受容体に対して選択的に作用する特定の化合物の性質と関連している。
【0012】
全身性血流力学効果
IRL-1620は、麻酔したラット(B. Palacios et al. (1997) Br J Pharmacol 122(6):993-8、および、S.W. Leung et al. (2002) J Cardiovasc Pharmacol 39(4):533-43)、開胸したラットのモデル(M.E. Beyer et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 26 Suppl 3 :S 150-2)、および、健常なハムスターと心筋症のハムスター(J.C. Honore et al. (2002) Clin Sci (Lond) 103 Suppl 48:280S-283S)において、一過性の血管拡張や持続性の血管収縮などの全身性血流力学効果を示す。 IRL-1620の血管収縮作用は、ET-1の血管収縮作用と比較して、さほど言及がされておらず(Palacios et al. (1997) Br J Pharmacol 122(6):993-8; J.C. Honore et al. (2002) Clin Sci (Lond) 103 Suppl 48:280S-283S; および、S.W. Leung et al. (2002) J Cardiovasc Pharmacol 39(4):533-43)、また、IRL-1620は、陽性変力作用を有していた(M.E. Beyer et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 26 Suppl 3:S150-2)。
【0013】
局所性血流力学効果
IRL-1620は、麻酔したイヌに対して腎内動脈灌流を行うことで、腎臓血管を拡張させ(T. Yukimura et al. (1994) Eur J Pharmacol 264(3):399-405)、また、新生子ヒツジに対して肺内動脈注射を行うことで、肺血管を拡張させる(J. Wong et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 25(2):207-l 5)。 灌流を行ってから摘出をしたラットの肺でも、IRL-1620による肺血管の拡張効果が認められた(M. Muramatsu et al. (1999) Am J Physiol 276(2 Pt l):L358-64)。 麻酔したヤギの回旋冠状動脈にIRL-1620を注射しても、冠状動脈の血管収縮は認められなかったが、同様にしてET-1を投与をしたところ、冠状動脈の血管収縮が認められた(J.L. Garcia et al. (1996) Eur J Pharmacol 315(2):179-86)。
【0014】
呼吸気道平滑筋に関する効果
麻酔をかけられ、そして、人工呼吸器につながれたモルモットに対してIRL-1620の静脈内投与を行ったところ、二相性の気管支収縮が認められた(S. Noguchi et al. (1996) Br J Pharmacol 118(6): 1397-402)。 IRL-1620によるETB受容体の活性化に起因すると考えられる第二段階の気管支収縮は、ET-1のオートクリン/パラクリン放出を招き、そして、ETA受容体とETB受容体の双方を活性化した(S. Noguchi et al. (1996) Br J Pharmacol 1 18(6): 1397-402)。
【0015】
ヒトの組織に関する実証研究
IRL-1620は、in vitroで、ヒトの内胸動脈部分に収縮を起こすが、ヒトの橈骨動脈部分には収縮を起こさない(J. J. Liu et al. (1996) Clin Sci (Lond) 90(2) :91-6)。 内胸動脈でのIRL-1620の収縮効果は、最大でも、ET-1またはノルアドレナリンで認められる収縮効果の20%でしかなかった。 さらに、IRL-1620の濃度が増大することで、収縮した動脈が弛緩した。 また、IRL-1620は、ヒトの気管支リングに関して、二相性の収縮効果を示した(T. Takahashi et al. (1997) Eur J Pharmacol 324(2-3):219-22)。
【0016】
臨床研究
今日までに、IRL-1620は、ヒトに対して投与されたことはない。 しかしながら、再発性癌または進行性癌を患った患者でのIRL-1620についての第一相試験、非盲検試験、それに、安全性についての漸増用量、許容性、薬物動態、および、薬力学に関する一連の試験(NCT00613691)が行われている最中である。 さらに、IRL-1620よりも強力な血管収縮剤であることが動物実験において実証されているET-1を、ヒトに対して適用した研究が多数ある(B. Palacios et al. (1997) Br J Pharmacol 122(6):993-8、および、S.W. Leung et al. (2002) J Cardiovasc Pharmacol 39(4):533-43)。 1〜20ng/kg/分の範囲の用量を灌流させてヒトにET-1を投与すると、用量依存的な全身性血管収縮に続いて、血行動態パラメーターに変化が生じる(D. Kiely et al. (1997) Cardiovasc Res 33(2):378-86; A. Franco-Cereceda et al. (1999) Scand Cardiovasc J 33(3):151-6; および、F. Kiefer et al. (2000) Exp Clin Endocrinol Diabetes 108(5):378-81)が、重篤な副作用は認められなかった。
【0017】
ET-1を静脈内投与しても、冠状動脈の血管収縮は起こる(J.Pernow et al. (1996) Circulation 94(9):2077-82)。 しかしながら、IRL-1620では、ヒトの冠状動脈での血管収縮は起こらないと予想される。 ヒトの冠状動脈には、ETB受容体は存在しておらず、あるいは、存在していても非常に僅かな量でしかないので、冠状動脈の血管収縮に及ぼす影響は微々たるものである(W.A. Bax et al. (1994) Br J Pharmacol 113(4):1471-9; A.P. Davenport et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 26 Suppl 3:S265-7; A.P. Davenport et al. (1994) Br J Pharmacol 11 l(l):4-6; W.A. Bax et al. (1993) Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 348(4):403-10; A.P. Davenport et al. (1995) J Cardiovasc Pharmacol 22 Suppl 8:522-5; および、O. Saetrum Opgaard et al. (1996) Regul Pept 63(2-3): 149-56)。
【0018】
IRL-1620よりも選択性が小さいETB受容体であるエンドセリンアゴニストやサラホトキシンS6cなども用いて、ヒトでの研究は行われている。 サラホトキシンS6cを上腕動脈へ注入すると、ET-1と比較して、前腕の血流が減少していた(W.G. Haynes et al. (1995) Circulation 92(3): 357-63)。 よって、IRL-1620によるヒトでの血管収縮作用は、今日までに投与されてきているET-1やその他のエンドセリンアゴニストで認められてきた作用よりも小さいものと予想される。
【0019】
脳血管に関する効果
エンドセリンは、くも膜下出血(R. Suzuki et al. (1992) J Neurosurg 77(l):96-100)や虚血性脳卒中(I. Ziv et al. (1992) Stroke 23(7): 1014-6)などの幾つかの脳血管障害と関係があるとされてきた。 ETA受容体アンタゴニストが、慢性脳血管痙攣を緩和することが知られている(M. Clozel et al. (1993) Life Sci 52(9):825-34; S. Itoh et al. (1993) Biochem Biophys Res Commun 195(2):969-75; H. Nirei et al. (1993) Life Sci 52(23): 1869-74; および、R.N. Willette et al. (1994) Stroke 25(12):2450-5; discussion 2456)。 脳血管でのエンドセリン受容体の特徴を突き止めるための研究が行われてきた。 ETA受容体が、ヒトの脳、髄膜、および、側頭部の動脈の収縮を調節することが知られており(M. Adner et al. (1994) J Anton Nerv Syst 49 Suppl:Sl 17-21)、また、予め収縮させておいたヒトの側頭部動脈において、FR139317(IUPAC名称:(2R)-2-[[(2R)-2-[[(2S)-2-(アゼパン-1-カルボニルアミノ)-4-メチルペンタノイル]アミノ]-3-(1-メチルインドール-3-イル)プロパノイル]アミノ]-3-ピリジン-2-イルプロパン酸)を用いてETA受容体の活性をブロックした場合に、ET-3を用いて、ETB受容体の調節を受けて顕著な緩和作用が出現することも知られている(G. A.Lucas, et al. (1996). Peptides 17(7): 1139-44)。
【0020】
概して、脳卒中、および、その他の脳血管障害を効率的に治療するための薬剤、または、それら薬剤の組み合わせを同定することが、当該技術分野では依然として待望されているのである。 これまでに、脳循環に関するIRL-1620の効果に言及した報告はされておらず、よって、本明細書での開示は、レーザードップラー灌流法を用いて決定した、IRL-1620による脳血液の血流の増大に関する最初の報告となるものである。
【発明の開示】
【0021】
本願発明は、脳卒中、および、その他の脳血管障害の治療でのETB受容体アゴニストの投与に関する。 したがって、本願発明の一実施態様によれば、脳卒中および脳血管障害の治療を必要とする哺乳動物に対して、治療有効量のETB受容体アゴニストを投与することを含む、脳卒中およびその他の脳血管障害を治療する方法が提供される。
【0022】
本願発明の他の実施態様によれば、脳卒中および脳血管障害の治療に有用なETB受容体アゴニストを含む組成物が提供される。 特に、本願発明は、ETB受容体アゴニストを含む組成物、それに、脳卒中およびその他の脳血管障害を治療するための当該組成物の投与方法に関する。 本願発明のさらに別の実施態様によれば、当該組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含む。
【0023】
本願発明の他の実施態様によれば、(a) ETB受容体アゴニスト、(b) 脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療薬、および、(c) 任意の賦形剤、および/または、薬学的に許容可能な担体を含む組成物が提供される。
【0024】
本願発明のさらに別の実施態様によれば、本願発明は、脳卒中および脳血管障害の治療を必要とする個体を治療するための医薬を製造するための組成物、すなわち、ETB受容体アゴニストと任意の神経保護薬を含む組成物の使用が提供される。
【0025】
本願発明のさらに別の実施態様によれば、(a) 容器、(b1) ETBアゴニストを含む包装された組成物、そして、(b2) 脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な神経保護薬を含む包装された任意の組成物、および、(c) 脳卒中および/またはその他の脳血管障害を治療するための一つまたはそれ以上の組成物の同時投与または連続投与に関する指示を記した添付文書、を含むヒトに対する薬学的用途のためのキットが提供される。
【0026】
本願発明のある実施態様によれば、本願発明は、脳卒中および脳血管障害の治療を必要とする患者に対して、治療有効量のエンドセリンB(ETB)受容体アゴニストを投与することを含む、脳卒中またはその他の脳血管障害の患者を治療する方法が提供される。 これら脳卒中や脳血管障害は、例えば、血栓症、塞栓症、または、出血に起因する。 ある好ましい実施態様によれば、このETB受容体アゴニストは、N-スクシニル-[Glu9、Ala11、15] エンドセリン 1(すなわち、IRL-1620)を含む。
【0027】
このETB受容体アゴニストは、それ単独でも投与することができ、あるいは、血栓溶解剤(組織プラスミノゲン活性化因子などがあるが、これらに限定されない)、または、ETAアンタゴニスト(スルフォソキサゾール、クラゾセンタン、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、シタクスセンタン、エンラセンタン、BMS 207940、BMS 193884、BMS 182874、J 104132、VML 588/Ro 61 1790、T-0115、TAK 044、BQ 788、TBC2576、TBC3214、PD180988、ABT 546、SB247083、RPR11803 IA、および、BQ123などがあるが、これらに限定されない)、赤血球生成促進剤(エリスロポエチン、ダーベポエチン、および、エポエチンアルファなど)、または、酸素キャリア(ヘモグロビンを主成分とする代用血液、または、ペルフルオロカーボンを主成分とする代用血液など)などの、脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療薬と組み合わせて投与することもできる。 ETB受容体アゴニストと組み合わせ投与することができるその他の神経保護薬として、アルガトロバン、アルフィメプラーゼ、テネクテプラーゼ、アンクロッド、シルデナフィル、インスリンおよびインスリン増殖因子、硫酸マグネシウム、ヒト血清アルブミン、カフェイノール(カフェインとアルコールとの組み合わせ)、ミクロプラスミン、スタチン、エプチフィバチド、チンザパリン、エネカジン、シチコリン、エダラボン、シロスタゾール、ハイポサーミア、および、これらの組み合わせなどがあるが、これらに限定されない。
【0028】
ETB受容体アゴニストと第二治療薬は、単一投与量として同時に投与することができ、または、第二治療薬の前にETB受容体アゴニストの投与を行い、あるいは、その逆の順序で投与を行うなど、複合投与量として個別に投与することもできる。 単回または複数回の投与量のETB受容体アゴニスト、または、単回または複数回の投与量の第二治療薬を投与可能にすることを意図している。
【0029】
ある実施態様によれば、ETB受容体アゴニストと神経保護治療薬は、同時に投与される。 関連する実施態様によれば、ETB受容体アゴニストと神経保護治療薬は、単一の組成物、または、個別の組成物から投与される。 さらに別の実施態様によれば、ETB受容体アゴニストと神経保護薬は、連続的に投与される。 本願発明によれば、ETB受容体アゴニストは、約0.005〜約500μg/用量、約0.05〜約250μg/用量、または、約0.5〜約50μg/用量の量で投与をすることができる。 あるいは、ETB受容体アゴニストは、約0.005〜約50μg/kg/点滴時間(分)、または、約0.05〜約5μg/kg/点滴時間(分)の量で投与をすることができる。
【0030】
本願発明のその他の態様および特徴事項は、本明細書に添付した図面および以下の好適な実施態様に関する詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本願発明を、その好適な実施態様に沿って説明するが、本願発明が、ここで開示した実施態様に基づいて限定的に解釈されるべきではない。 当業者であれば、前掲の本願発明の実施態様に基づいて様々な修正を加えるであろう、ことは理解に及ぶ事項である。 そのような修正態様も、後述する特許請求の範囲の欄の記載に包含される。
【0032】
本明細書で使用する「エンドセリンB受容体アゴニスト」、「ETB受容体アゴニスト」、および「ETBアゴニスト」の用語は、互換的に用いられている。
【0033】
本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、「治療」などの用語は、障害、および/または、それに関連する症状を軽減または緩和することを指す。 障害または病態を治療するということは、障害、病態、または、それらに関連する症状の完全な解消を求めるものではなく、また、これらに限定もされない。 本明細書で使用する「治療する」、「治療している」、「治療」などの用語は、障害や病態を患ってはいないが、それら障害または病態の進行の再開、または、それら障害または病態の再発の危険性があったり、または、その可能性がある個体において、それら障害または病態の進行の再開、または、それら障害または病態の再発の可能性を低減する「予防的治療」も含むことができる。
【0034】
本明細書で使用する「治療有効量」または「有効用量」の用語は、本願発明の方法に従って投与した場合に、脳卒中または脳血管障害の治療のための薬剤を効率的に送達する上で十分な量の活性成分のことを指す。
【0035】
「容器」の用語は、医薬品を、貯蔵、輸送、調剤、および/または、取り扱う上で適切なレセプタクルおよびクロージャーを指す。
【0036】
「添付文書」の用語は、製品の使用に関して、医師、薬剤師、および、患者が、十分に情報を得た上で決定を行えるようにするために必要な安全性および有効性のデータに沿って、その製品の投与方法に関する説明をするために、医薬品に添付されている情報のことを指す。 この添付文書は、一般的には、医薬品の「ラベル」として見なされている。
【0037】
「同時投与」、「組み合わせで投与した」、「同時の投与」、および、それらと同様の表現は、二つまたはそれ以上の薬剤を含む組成物が、治療を受けている個体に対して同時に投与されることを意味している。 「同時」の表現は、各薬剤が、同時に投与されること、あるいは、所定の時間内に任意の順序で連続して投与されること、を意味している。
【0038】
しかしながら、同時に投与されない場合であっても、ある実施態様によれば、組み合わせた薬剤から所望の治療効果を引き出すために、所定の時間内において、ごく短時間の内に投与が行われる。 薬剤の適切な投与間隔と投与順序は、当業者に自明の事項である。
【0039】
二つまたはそれ以上の薬剤を、個別の組成物を用いて投与することも意図しており、ある実施態様によれば、一方の薬剤は、他方の薬剤を投与する以前または以後に投与される。 事前投与とは、治療を行う1日(24時間)前から治療を行う30分前までの間に薬剤を投与することを指す。 さらに、一方の薬剤を、他方の薬剤を投与した後に投与することも意図している。 事後投与とは、他方の薬剤を投与して30分以後の投与から、第一薬剤の投与から1日(24時間)後の投与までを指す。 30分から24時間の範囲とは、30分、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、16、20、または、24時間の時点での投与を含むものである。
【0040】
本明細書での発明の説明(特に、特許請求の範囲の欄)において使用されている「一つの」、「ある」、「その」、および、それらと同様の表現は、特に断りがされていない限り、または、明確な定義がされていない限りは、単数のものと複数のものの双方を指すものと解釈される。 本明細書に記載されている数値範囲とは、特に断りがされていない限りは、単に、その数値範囲内に属する個別の数値を一纏めに記載することを意図しているものに他ならず、それら個別の数値の各々は、本明細書の一部を構成するものとして援用されている。 本明細書に記載の実施例の一部および全部、または、本明細書で用いられている例示言語(例えば、「など」)は、単に本願発明を明瞭に例示する目的のためのものに他ならず、特許請求の範囲の欄で特に断りがされていない限りは、本願発明の範囲を限定するものではない。 明細書で言及されていない文言は、本願発明の実施にあたって必須であって、特許請求もされていない要素を指すものと解釈すべきである。
【0041】
2010年には、4,000万人の米国人が、65歳以上なると見積もられている。 高齢者人口の増大によって、冠動脈疾患、心不全、および、脳卒中などの慢性疾患の症例数も増大することは明らかである。 加えて、肥満と2型糖尿病の患者数の爆発的増加が起こり、そして、高血圧、脂質異常症、および、アテローム硬化性血管疾患などの関連合併症も増大するものと考えられる。
【0042】
毎年、約700,000名もの人々が、脳卒中の発症や再発を経験している。 約500,000名が、最初の発作を経験し、そして、約200,000名が、発作の再発を経験している。 平均すると、45秒に1名の方が、米国内で脳卒中の発作を起こしていることになる。 また、平均しすると、3〜4分に1名の方が、脳卒中が原因で死亡している。 すべての脳卒中の87%が、虚血性のものである。 その他の脳卒中は、脳内出血およびくも膜下出血によるものである。 その他の脳血管疾患と区別して考慮した場合、脳卒中は、心臓病と癌に次いで、すべての死因の内の第三位の死因となっている。 1979年〜2004年の間、脳卒中が主要疾患と診断された入院患者の短期滞在型病院からの退院者数は21%増大して、906,000名となっている。 2007年での脳卒中に関する直接的および間接的損失の見積値は、627億ドルであった。
【0043】
毎年、脳卒中の患者数は、男性よりも、女性の方が、約46,000名ほど多い。 若年層では、脳卒中罹患率は、女性よりも男性の方が大きいが、高齢者では、男性よりも女性の方が大きくなっている。 男性/女性罹患率は、55〜64歳では1.25、65〜74歳では1.50、75〜84歳では1.07、そして、85歳以上では0.76であった。 18歳以上のアメリカインディアン/アラスカ先住民では、5.1%の方々が脳卒中を経験していた。 黒人またはアフリカ系米国人での罹患率は3.2%、白人での罹患率は2.5%、また、アジア系での罹患率は2.4%であった。
【0044】
米国食品医薬品局(FDA)は、脳卒中の全症例の約80%において認められる血栓に起因する脳卒中を治療するための血栓溶解薬である組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)を認可している。 tPAは、血栓を溶解し、そして、脳に向かう血流を回復させる。 tPAは、脳出血を起こす危険性があるが、処方および投与が適切であれば、その危険性を補って余りある。
【0045】
IRL-1620のようなETB受容体アゴニストを、組織プラスミノゲン活性化因子のような任意の神経保護薬と共に投与することで、血液の血流が増大し、そして、脳の損傷が抑えられることで、脳卒中を患った患者の神経障害を顕著に抑制できることが知見されるに至ったのである。
【0046】
本明細書に記載の方法は、ETBアゴニストと、脳卒中ならびにその他の脳血管障害の治療および管理において有用な任意の神経保護薬との使用による効果を利用するものである。 ETB受容体アゴニストと任意の神経保護薬は、所望の効果を得るべく、同時または連続的に投与することができる。
【0047】
したがって、本願発明は、脳卒中およびその他の脳血管障害を治療するための組成物と方法に関するものである。 また、本願発明は、ETB受容体アゴニストと、脳卒中およびその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療薬、例えば、神経保護薬を含む医薬組成物にも関する。 さらに、個別または一緒に包装された、ETB受容体アゴニストと脳卒中およびその他の脳血管障害の治療において有用な任意の第二治療薬、そして、これら活性成分の使用に関する指示を記した添付文書を含むキットが提供される。
【0048】
以下に実証した通り、IRL-1620は、脳血液の血流を増大するものであり、脳卒中を患った患者の血流を増大させるために用いることができる。 IRL-1620とその他のETBアゴニストは、脳血流の増大が、ペナンブラの抑制に寄与する脳虚血のような病態を治療する上で特に有効に利用することができ、また、脳卒中に起因する神経障害を顕著に抑制することもできる。
【0049】
本願発明によって、IRL-1620において実証されている通り、選択性ETB受容体アゴニストが、脳卒中およびその他の脳血管障害の治療において使用できることが明らかになったのである。 本願発明で用いられるETB受容体アゴニストとして、当該技術分野で周知のETB受容体アゴニストなどがあるが、これらに限定されない。 このETB受容体アゴニストは、ETB受容体に対して選択性を示すもの、すなわち、ETA受容体よりもETB受容体に対して少なくとも103倍もの選択性を示すものが好ましい。
【0050】
本願発明において有用なETBアゴニストの例として、IRL-1620、ET-3、サラホトキシン6c、BQ3020、Ala(1,3,11,15)ET-1、および、これらの混合物などがあるが、これらに限定されない。 具体的には、サラホトキシン6c(すなわち、SFT6C)は、H-Cys-Thr-Cys-Asn-Asp-Met-Thr-Asp-Glu-Glu-Cys-Leu-Asn-Phe-Cys-His-Gln-Asp-Val-Ile-Trp-OH(ジスルフィド架橋:1〜15、および、3〜11)(配列番号:2)のアミノ酸配列を有しており、そして、その分子量は、2515.6である。
【0051】
N-スクシニル-[Glu9、Ala1,15]-エンドセリン1断片8-21とも称されるIRL-1620は、Suc-Asp-Glu-Glu-Ala-Val-Tyr-Phe-Ala-His-Leu-Asp-Ue-Ile-Trp(配列番号:1)のアミノ酸配列を有しており、そして、その分子式は、C861171727であり、また、その分子量は、1820.95である。
【0052】
エンドセリン3(ET-3)は、Cys-Thr-Cys-Phe-Thr-Tyr-Lys-Asp-Lys-Glu-Cys-Val-Tyr-Tyr-Cys-His-Leu-Asp-Ile-Ile-Trp[ジスルフィド架橋:1〜15、および、3〜11](配列番号:3)のアミノ酸配列を有しており、そして、その分子式は、C12116826334であり、また、その分子量は、2643.04である。
【0053】
(N-Ac-Ala(11,15)-エンドセリン-1(6-21))およびN-アセチル-[Ala 11,15]-エンドセリン1断片6-21とも称されるBQ3020は、Ac-Leu-Met-Asp-Lys-Glu-Ala-Val-Tyr-Phe-Ala-His-Leu-Asp-Ile-Ile-Trp(配列番号:4)のアミノ酸配列を有しており、そして、その分子式は、C961402025であり、また、その分子量は、2008.32である。
【0054】
Ala(1,3,11,15)ET-1(CAS番号:121204-87-3)は、Ala-Ser-Ala-Ser-Ser-Leu-Met-Asp-Lys-Glu-Ala-Val-Tyr-Phe-Ala-His-Leu-Asp-Ile-Ile-Trp(配列番号:5)のアミノ酸配列を有しており、そして、その分子式は、C1091632532Sであり、また、その分子量は、2367.67である。
【0055】
よって、本願発明のある実施態様では、本願発明は、脳卒中または脳血管障害を患った個体に対して、治療有効量のETBアゴニストを投与することを含む、個体に対して予防または治療する方法を開示している。 これら脳卒中または脳血管障害として、例えば、血栓症、塞栓症、または、出血に起因するものがある。 好ましい実施態様によれば、このETB受容体アゴニストは、N-スクシニル-[Glu9、Ala11、15]エンドセリン1(IRL-1620)を含む。
【0056】
ETBアゴニストを含む医薬組成物は、ヒトに対する投与に適している。 通常、これら医薬組成物は、滅菌済のものが用いられており、また、投与時に副作用を招かないように、毒性、発癌性、または、変異原性の化合物は含んでいない。
【0057】
ETBアゴニストを用いて、本願発明の方法を実施することができる。 このETBアゴニストは、純品化合物または医薬組成物として投与することができる。 これら医薬組成物、または、純品のETBアゴニストの投与は、脳卒中またはその他の脳血管障害の発症時または発症後に行うことができる。
【0058】
これらETBアゴニストは、脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な一つまたはそれ以上の第二治療薬と共に投与することができる。 この第二治療薬は、ETBアゴニストとは別物である。 ETBアゴニストと第二治療薬は、同時または連続的に投与することができる。 加えて、ETBアゴニストと第二治療薬は、単一の組成物または二つの個別の組成物から投与することができる。 好ましい第二治療薬は、神経保護薬を含む。
【0059】
第二治療薬の例として、血栓溶解剤(組織プラスミノゲン活性化因子などがあるが、これらに限定されない)、または、ETAアンタゴニスト(スルフォソキサゾール、クラゾセンタン、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、シタクスセンタン、エンラセンタン、BMS 207940、BMS 193884、BMS 182874、J 104132、VML 588/Ro 61 1790、T-0115、TAK 044、BQ 788、TBC2576、TBC3214、PD180988、ABT 546、SB247083、RPR11803 IA、および、BQ123などがあるが、これらに限定されない)、赤血球生成促進剤(エリスロポエチン、ダーベポエチン、および、エポエチンアルファなど)、または、酸素キャリア(ヘモグロビンを主成分とする代用血液、または、ペルフルオロカーボンを主成分とする代用血液など)などの神経保護薬があるが、これらに限定されない。 ETB受容体アゴニストと組み合わせて投与することができるその他の神経保護薬として、アルガトロバン、アルフィメプラーゼ、テネクテプラーゼ、アンクロッド、シルデナフィル、インスリンおよびインスリン増殖因子、硫酸マグネシウム、ヒト血清アルブミン、カフェイノール(カフェインとアルコールとの組み合わせ)、ミクロプラスミン、スタチン、エプチフィバチド、チンザパリン、エネカジン、シチコリン、エダラボン、シロスタゾール、ハイポサーミア、および、これらの組み合わせなどがあるが、これらに限定されない。
【0060】
この神経保護薬は、所望の治療効果をもたらす量で投与される。 各神経保護薬での有効量の範囲は、当該技術分野で周知であり、また、それら神経保護薬は、すでに定着している範囲内の量で、治療を必要とする個体に対して投与される。
【0061】
ETB受容体アゴニストと神経保護薬は、単一投与量として同時に投与することができ、または、神経保護薬の前にETB受容体アゴニストの投与を行い、あるいは、その逆の順序で投与を行うなど、複合投与量として個別に投与することもできる。 単回または複数回の投与量のETB受容体アゴニスト、および/または、単回または複数回の投与量の神経保護薬を投与することができる。 これら薬剤を、30分以内〜約1日(24時間)にわたって投与することも意図されている。
【0062】
本願発明の方法において用いられるETB受容体アゴニストは、約0.005〜約500μg/用量、約0.05〜約250μg/用量、または、約0.5〜約50μg/用量の量で投与をすることができる。 例えば、これらETBアゴニストは、約0.005、0.05、0.5、5、50、または、500μg/用量など、0.005〜500μg/用量の範囲内のすべての量で投与をすることができる。
【0063】
あるいは、ETB受容体アゴニストは、約0.005〜約50μg/kg/点滴時間(分)、または、約0.05〜約5μg/kg/点滴時間(分)の量で投与をすることができる。 例えば、これらETBアゴニストは、約0.005、0.05、0.5、5、または、50μg/kg/点滴時間(分)などの量で投与をすることができる。
【0064】
これらETBアゴニストを、経口投与、または、非経口投与するために、適切な賦形剤を用いて製剤することができる。 そのような賦形剤は、当該技術分野において周知である。 一般的に、ETBアゴニストは、組成物の約0.1重量%〜約75重量の量で当該組成物に取り込まれる。
【0065】
ETBアゴニストは、例えば、経口投与、経頬投与、吸入、舌下投与、直腸内投与、膣内投与、嚢内投与、または、腰椎穿刺を介した髄腔内投与、経尿道投与、経鼻吸入、経皮的投与、すなわち、経皮投与、あるいは、(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、冠状動脈内投与、皮内投与、乳房内投与、腹腔内投与、関節内投与、髄腔内投与、眼球後方投与、肺内注射、および/または、特定部位での外科的移植などを含む)非経口投与などの適切な経路で投与することができる。 非経口投与は、針または注射器、あるいは、高圧技術を用いて行うことができる。
【0066】
これら医薬組成物は、所定の目的を達成する有効量のETBアゴニストを投与するための組成物も包含している。 治療有効量は、当業者であれば決定することができ、特に、本明細書に開示した詳細な説明を参照すれば、当業者は容易に決定することができる。
【0067】
個々の医師によって、患者の病態に応じて、的確な処方、投与経路、そして、用量などが決定される。 治療効果または予防効果を維持する上で十分なETBアゴニストのレベルを保つために、投与量ならびに投与間隔を個別に調整することができる。 投与される医薬組成物の量は、治療の対象、患者の体重、重篤度、投与方法、それに、処方医師の判断によって定められる。
【0068】
具体的には、脳卒中またはその他の脳血管障害の治療のためにヒトに投与する場合には、ETBアゴニストの経口投与量は、一般的に、平均的な大人の患者(70kg)にあっては、毎日、約0.005〜約500μgであり、通常は、1日1回、または、1日に2回または3回に分けて投与を行う。 よって、一般的な大人の患者にあっては、1日に1回または数回の単回投与または複数回投与のために、各投与用量は、薬学的に許容可能な適切な賦形剤または担体約に0.005〜約500μgのETBアゴニストを含んでいる。 一般的に、静脈内投与、経頬投与、または、舌下投与のための用量は、必要に応じて、約0.005〜約250μg/kg/単一用量となる。 実際には、医師は、個々の患者に最も適した投与計画を決定し、そして、個々の患者の年齢、体重、それに、反応性を見ながら用量を調整する。 前述した用量は、平均的な事例を例示したものでしかなく、それら用量を増減することで所定の効果を引き出す場合も当然にあるのであって、そのような事例も、本願発明の範囲内の事項である。
【0069】
ETBアゴニストは、それ単独でも、あるいは、意図している投与経路や標準的薬務に照らして選択した薬学的担体と組み合わせて投与することができる。 よって、本願発明に従って使用する医薬組成物は、薬学的に用いることができる調製物へのETBアゴニストの加工を促す賦形剤や助剤を含む一つまたはそれ以上の生理学的に許容可能な担体を用いて、従来の方法によって製剤することができる。
【0070】
これら医薬組成物は、例えば、従来の混合法、溶解法、造粒法、糖衣形成法、乳化法、カプセル化法、封入法、または、凍結乾燥法などの従来技術を用いて製造することができる。 選択した投与経路に応じて適切な製剤が調製される。 有効量のETBアゴニストを経口投与する場合には、一般的に、組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末、溶液、または、エリキシル剤の形態となる。 錠剤の形態で投与を行う場合には、その組成物は、ゼラチンやアジュバントなどの固形担体をさらに含むことができる。 錠剤、カプセル剤、および、粉末は、約1%〜約95%のETBアゴニスト、好ましくは、約1%〜約50%のETBアゴニストを含む。 液剤の形態で投与を行う場合には、水、石油、または、動物または植物由来の油脂などの液体担体を加えることができる。 この液体組成物は、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の糖溶液、または、グリコールをさらに含むことができる。 液剤の形態で投与を行う場合、この組成物は、約0.1重量%〜約90重量%のETBアゴニスト、好ましくは、約1%〜約50%のETBアゴニストを含む。
【0071】
治療有効量のETBアゴニストを、静脈内投与、皮膚投与、または、皮下注射によって投与する場合には、発熱物質を含まず、非経口的に許容可能な溶液の形態で投与される。
【0072】
pH、等張性、安定性などが関係して非経口的に許容可能な溶液を調製することは、当該技術分野で周知の事項である。 静脈内投与、皮膚投与、または、皮下注射に適した組成物は、一般的に、等張性の賦形剤を含んでいる。 ETBアゴニスト、または、ETBアゴニストを含む組成物は、好ましくは、静脈内投与または急速静注法によって投与され、あるいは、その他の液体を用いた点滴によって、10〜30分の時間、または、数時間の時間をかけて投与される。
【0073】
適切なETBアゴニストを、当該技術分野で周知の薬学的に許容可能な担体と共に容易に組み合わせることができる。 このような担体は、治療を受ける患者の経口摂取に供するために、活性成分を、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などに取り込んで製剤することができる。 経口投与用医薬品は、ETBアゴニストを固形賦形剤に対して加え、得られた混合物を任意に粉砕し、そして、必要に応じて、適切な助剤を加えた後に、錠剤または糖衣錠の核材を取得するために顆粒の混合物を加工する、ことによって製造することができる。 適切な賦形剤として、例えば、増量剤やセルロース調製物などがある。 必要に応じて、崩壊剤を加えることもできる。
【0074】
ETBアゴニストを、例えば、急速静注法や連続注入法などの注射による非経口投与のために製剤することができる。 注射用製剤は、防腐剤を加えてなる、例えば、アンプルまたは複合投与用容器に収容された単一投与量の形態で提供することができる。 これら組成物は、懸濁液、溶液、または、油性または水性賦形剤中型乳剤の形態にすることができ、また、懸濁剤、安定剤、および/または、分散剤などの調剤を含むことができる。
【0075】
非経口投与用の医薬組成物として、水溶性活性薬剤の水性溶液がある。 加えて、ETBアゴニストの懸濁液を、適切な油状注射用懸濁液として調製することができる。 適切な親油性溶媒または親油性賦形剤として、脂肪油、または、合成脂肪酸エステルなどがある。 水性注射用懸濁液に、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有させることができる。
【0076】
また、これら懸濁液に、適切な安定剤や、化合物の溶解性を増大させて、高濃度溶液の調製を可能にする薬剤なども任意に含有させることができる。 あるいは、本願発明の組成物を、使用前に適切な賦形剤、例えば、滅菌した発熱物質を含まない水で溶かして使用する粉末形態にすることができる。
【0077】
ETBアゴニストは、例えば、従来の坐薬基剤を含む坐薬または停留浣腸のような、直腸用組成物に製剤することもできる。 前述した製剤に加えて、ETBアゴニストは、デポー製剤として製剤することもできる。 このような長期持続性製剤は、移植(例えば、 皮下または筋肉内移植)、または、筋肉内注射によって投与することができる。 よって、例えば、ETBアゴニストを、適切な重合物質または疎水性物質(例えば、許容可能な油中型乳剤)、あるいは、イオン交換樹脂を用いて製剤に供することができる。
【0078】
具体的には、ETBアゴニストは、澱粉やラクトースなどの賦形剤を含む錠剤、カプセル剤または胚珠の単体あるいは賦形剤とそれらの組み合わせ、エリキシル剤、あるいは、着香料または着色剤を含んだ懸濁液の形態で、経口的、経頬的、または、舌下に投与することができる。 そのような液体製剤は、懸濁剤のような薬学的に許容可能な添加物を用いて調製することができる。 ETBアゴニストを、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、または、冠動脈内などに、非経口的に注射することもできる。 非経口投与を行うにあたって、エンドセリンアゴニストは、血液に対して等張性を示す溶液を調製するために、例えば、マンニトールやグルコースなどの塩類や単糖類などのその他の物質を含有することができる滅菌した水性溶液の形態のものが最善である。
【0079】
さらに別の実施態様として、本願発明は、本願発明の方法の実施にあたって円滑に利用可能に包装された一つまたはそれ以上の化合物または組成物を含むキットに関する。 ある実施態様によれば、このキットは、密閉したボトルや瓶などの容器に包装された本願発明の方法の実施にあたって有用な本明細書に記載の化合物または組成物(例えば、ETBアゴニストおよび任意の神経保護薬を含む組成物)と、本願発明の方法を実施するにあたっての化合物または組成物の使用についての記載がされ、かつ、容器に貼着されているか、あるいは、キットに収容されているラベルを具備している。 好ましくは、本願発明の化合物または組成物は、単位投与用量で包装されている。 このキットは、意図している投与経路で組成物の投与を行うために、それに適した器具をさらに具備することができる。
【0080】
IRL-1620などのETB受容体アゴニストが、脳卒中やその他の脳血管障害を治療できることが明らかとなった。 本明細書に記載の試験法およびデータは、ETBアゴニストが、脳卒中およびその他の脳血管障害を治療する上で有用な薬剤であることを示している。
【実施例】
【0081】
実験手順および実験結果
高選択性ETB受容体アゴニストであるIRL-1620は、腫瘍血流を一時的に増大するものであり、そして、抗癌剤の腫瘍送達と有効性を高めることが示されている。 最近になって、再発癌または進行癌を患った患者でのIRL-1620の使用に関する第1相臨床試験が始められている。
【0082】
腫瘍血管系の独特の構造が故に腫瘍血流が増大することは知られてはいるが、その他の身体部分にある特徴的な血管構造、具体的には、脳血管へのIRL-1620を投与して得られる効果については未だ研究がされていない。 ここでの研究は、ETB受容体アゴニストであるIRL-1620の静脈内投与に起因する脳血流の変化を決定するために行ったものである。
【0083】
方 法
体重が323±4グラム(g)のオスのスプラーグドーリーラットを、等張食塩水(0.9% NaCl、ホスピーラ社、レイクフォレスト、イリノイ州)に溶解したウレタン(カルバミン酸エチル、シグマアルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)で麻酔した。 0.15g/100g体重の用量で腹腔内(i.p.)注射して、ラットに対して投与を行った。
【0084】
血圧および心拍数:大腿動静脈に、カニューレが挿入された。 7PI前置増幅器を介してグラスグラスP7Dポリグラフにて血圧を記録するために、グールドP23 ID圧力トランスデューサーに動脈カニューレが接続された。 血圧信号によって起動する7P4Bタコグラフを介して心拍数が記録された。 静脈カニューレから薬剤が投与された。
【0085】
脳血液の血流:ラットの頭蓋骨の正中線左側の約2ミリメーター(mm)の箇所に、ドリルで穿頭孔を設けた。 ラットの脳表面に当接した光ファイバープローブ(PF407)を介して脳血管の血流状態が計測された。 このプローブは、ペリフラックスPF2b 4000レーザードップラー血流計(ペリメド社、ストックホルム、スウェーデン)に接続された。
【0086】
腎臓血液の血流:右腎臓の腹膜後から切開をした。 ラットの腎臓表面に当接した光ファイバープローブ(PF408)を介して腎臓の血流状態が計測された。 このプローブは、ペリフラックスPF2b 4000レーザードップラー血流計(ペリメド社、ストックホルム、スウェーデン)に接続された。
【0087】
血液ガス分析:pH、pCO2、および、PO2に関する効果を決定するために、動脈血液ガスがモニターされた。 細動脈カニューレから血液を回収し、そして、GEMプレミア3000ユニット(インスツルメントラボラトリー社、レキシントン、マサチューセッツ州)を用いて分析を行った。
【0088】
研究計画
様々な研究に供するべく、ラットを無作為に選別した。 外科処置に続いて、30分間にわたってラットを安静にさせ、そして、前処置に続いて、IRL-1620(Suc-[Glu9, Ala11,15]、アメリカンペプチド社、サニービル、カリフォルニア州)、または、ET-1(Ala 1,3,11,15、RBIシグマ社、ナティック、マサチューセッツ州)を投与する前に、15分間にわたって、すべてのパラメーター(血圧、心拍数、脳血液の血流、および、腎臓血液の血流)の基準値を取得した。 選択性ETB受容体アンタゴニストであるBQ788とは、N-シス-2,6-ジメチルピペリジノカルボニル-L-γ-メチルロイシル-D-1-メトキシカルボニルトリプトファニル-DNIe(Proc. Natl. Acad. Sci USA, 91, pp.4892-4896 (1994)を参照されたい)のナトリウム塩である。 BMSとは、BMS182,874であり、すなわち、以下の構造式で表される選択性エンドセリンAアンタゴニストのBMS182,874である。
【0089】
【化1】

【0090】
研究事例1
グループ1:IRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、生理食塩水で、15分間かけて前処置をした。
【0091】
グループ2:IRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BMS(5mg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0092】
グループ3:IRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BMS(15mg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0093】
グループ4:IRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0094】
研究事例2
グループ1:ET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、生理食塩水で、15分間かけて前処置をした。
【0095】
グループ2:ET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BMS(5mg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0096】
グループ3:ET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BMS(15mg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0097】
グループ4:ET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与に先駆けて、動物(n=4)を、BQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))で、15分間かけて前処置をした。
【0098】
最後の注射を終えてから、2時間にわたって、血圧、心拍数、脳血液の血流、および、腎臓血液の血流のすべてについて記録を行った。 薬剤の投与前、そして、IRL-1620 またはET-1を投与してから60分後と120分後に、血液ガスの分析を行った。 各実験の最後に、動物に対して過剰用量のウレタンを静脈内投与して安楽死させた。 図面には、すべてのデータを、平均値±標準誤差の数値で表した。 グループ間の差を検証するために、一標本t検定と一元配置分散分析法を用いた。 P<0.05のP値は、有意であると考えられた。
【0099】
図2は、ウレタンで麻酔をしたラットでの脳血液の血流に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv))の効果を、レーザードップラー血流計を用いて示している。 IRL-1620は、ベースラインと比較して、脳血液の血流を顕著に増大していた。
【0100】
図3は、ウレタンで麻酔をしたラットでの脳血液の血流と腎臓血液の血流に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv))の効果を、レーザードップラー血流計を用いて示している。 IRL-1620は、ベースラインと比較して、脳血液の血流を顕著に増大しており、また、腎臓血液の血流を顕著に減少していた。
【0101】
図4は、ウレタンで麻酔をしたラットでの血圧と心拍数に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv)、または、5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示している。 血圧の低下と心拍数の増大が一時的に認められたが、ほどなく正常値に戻っていた。
【0102】
図5は、脳血液の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))とET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示している。 IRL-1620は、5分、10分、および、15分の時点で、それぞれ、12.79%、18.17%、および、17.92%の割合で脳血液の血流を増大させた。 この状態が、約60分間にわたって持続していた。 脳血液の血流に関して、ET-1は、顕著な変化を示さなかった。
【0103】
図6は、脳血液の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(ETAアンタゴニスト)(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示している。 BQ788は、脳血液の血流に関するIRL-1620の効果を効率的にブロックしたのに対して、高用量のBMSは、IRL-1620を投与して1分後に、37.99%の割合で脳血液の血流を一時的に増大した。
【0104】
図7は、脳血液の血流に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示している。 ETAアンタゴニストを用いた前処置を行っても、脳血液の血流に関するET-1の効果には変化は認められなかった。
【0105】
図8は、腎臓の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))およびET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示す図である。 IRL-1620は、1分、5分、および、10分の時点で、それぞれ、16.94%、15.05%、および、3.85%の割合で腎臓の血流を減少させた。 この状態が、約15分間にわたって持続していた。 ET-1は、1分、5分、および、10分の時点で、それぞれ、40.27%、50.10%、および、26.33%の割合で腎臓の血流を減少させた。 この腎臓での血流の状態は、基礎レベルにまで回復するまで、約15分間にわたって持続していた。
【0106】
図9は、腎臓の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示す図である。 BQ788は、腎臓の血流に関するIRL-1620の効果をブロックしたが、BMSの方は、IRL-1620を投与して120分に至るまでは、腎臓の血流において持続性の減少を示した。
【0107】
図10は、腎臓の血流に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示す図である。 前処置を行っても、腎臓の血流に関するET-1の効果に顕著な変化は認められなかった。
【0108】
図11は、平均動脈圧に関するIRL-1620(5.0μg/kg、静脈内投与(iv))およびET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与による効果を示す図である。 IRL-1620を投与して、0.2、0.5、および、1分後に、平均動脈圧は、33.32%、23.88%、および、13.66%の割合で減少していた。 ET-1を投与して、0.2、0.5、および、1分後に、平均動脈圧は、43.16%、37.80%、および、19.30%の割合で減少していた。 ET-1を投与して、5、10、および、15分後に、12.72%、25.56%、および、28.49%の割合で増大した平均動脈圧を、高血圧として記録した。
【0109】
図12は、平均動脈圧に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示す図である。 BQ788は、平均動脈圧に関するIRL-1620の効果を効率的にブロックしたが、二通りの用量のBMSで処置した場合には、生理食塩水で前処置した動物で認められたのと同様の一過性の低血圧が出現した。
【0110】
図13は、平均動脈圧に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示す図である。 BQ788およびBMSで前処置を行ったところ、平均動脈圧に関するET-1の効果には変化は認められなかった。
【0111】
以下の表1は、心拍数に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示している。 そこに記載の数値は、平均値±標準誤差(SEM)で表している。 生理食塩水またはBMS(5および15mg/kg)のいずれかで前処置した動物にIRL-1620を投与したところ、心拍数の増大が認められた。 BQ788で前処置を行ったところ、心拍数に関するIRL-1620の効果は効率的にブロックされた。 前処置の有無にかかわらず、ET-1を投与した後には、心拍数の顕著な変化は認められなかった。
【0112】
【表1】

【0113】
以下の表2は、動脈血液ガスに関するIRL-1620およびET-1の効果を示している。 IRL-1620およびET-1のいずれについても、血液ガスに対して顕著な影響を与えていなかった。
【0114】
【表2】

【0115】
前述してきた試験法およびデータは、IRL-1620を投与することで、脳血液の血流が顕著に増大し、しかも、その状態が、約60分にもわたって持続することを示している。 この効果は、ETA受容体アンタゴニストであるBQ788で前処置を行うことでブロックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】IRL-1620の分子構造を示す図である。
【図2】ウレタンで麻酔をしたラットでの脳血液の血流に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv))の効果を、レーザードップラー血流計を用いて示した図であって、IRL-1620は、ベースラインと比較して、脳血液の血流を顕著に増大していた。
【図3】ウレタンで麻酔をしたラットでの脳血液の血流と腎臓血液の血流に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv))の効果を、レーザードップラー血流計を用いて示した図であって、IRL-1620は、ベースラインと比較して、脳血液の血流を顕著に増大しており、また、腎臓血液の血流を顕著に減少していた。
【図4】ウレタンで麻酔をしたラットでの血圧と心拍数に関するIRL-1620(3nmol/kg、静脈内投与(iv)、または、5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示した図であって、血圧の低下と心拍数の増大が一時的に認められたが、ほどなく正常値に戻っていた。
【図5】脳血液の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))とET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示した図であって、IRL-1620が、脳血液の血流を増大し、その状態が、約60分間にわたって持続していた。
【図6】脳血液の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(ETAアンタゴニスト)(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図である。
【図7】脳血液の血流に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図である。
【図8】腎臓の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))およびET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果を示す図であって、IRL-1620は、腎臓の血流の減少を誘発し、その状態が、約15分間にわたって持続していた。
【図9】腎臓の血流に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図である。
【図10】腎臓の血流に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図であって、 前処置を行っても、腎臓の血流に関するET-1の効果に顕著な変化は認められなかった。
【図11】平均動脈圧に関するIRL-1620(5.0μg/kg、静脈内投与(iv))およびET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の投与による効果を示す図である。
【図12】平均動脈圧に関するIRL-1620(5μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図である。
【図13】平均動脈圧に関するET-1(0.75μg/kg、静脈内投与(iv))の効果に対するBMS(5および15mg/kg、静脈内投与(iv))およびBQ788(1μg/kg、静脈内投与(iv))を用いた前処置の効果を示した図である。
【配列表フリーテキスト】
【0117】
<210> 1
<223> 合成ポリペプチド
<222> (1)..(1)
<223> N末端のスクシニル基
<210> 2
<223> 合成ポリペプチド
<222> (1)..(15)
<223> 第1位の残基と第15位の残基との間のジスルフィド架橋
<222> (3)..(11)
<223> 第3位の残基と第11位の残基との間のジスルフィド架橋
<210> 3
<223> 合成ポリペプチド
<222> (1)..(15)
<223> 第1位の残基と第15位の残基との間のジスルフィド架橋
<222> (3)..(11)
<223> 第3位の残基と第11位の残基との間のジスルフィド架橋
<210> 4
<223> 合成ポリペプチド
<222> (1)..(1)
<223> N末端のアセチル基
<210> 5
<223> 合成ポリペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中または脳血管障害の治療を必要とする個体に対して、治療有効量のETB受容体アゴニストを投与することを含む、脳卒中または脳血管障害の治療方法。
【請求項2】
前記脳卒中または脳血管障害が、血栓症、塞栓症、または、出血に起因する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ETB受容体アゴニストが、N-スクシニル-[Glu9、Ala11、15] エンドセリン 1、ET-3、サラホトキシン 6c、N-Ac-Ala(11,15)-エンドセリン-1 (6-21)、Ala(1、3、11、15)ET-1、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ETB受容体アゴニストが、N-スクシニル-[Glu9、Ala11、15] エンドセリン 1を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
脳卒中または脳血管障害の治療において有用な治療有効量の第二治療薬をさらに投与することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第二治療薬が、神経保護薬を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記神経保護薬が、血栓溶解剤、赤血球生成刺激剤、ETAアンタゴニスト、酸素キャリア、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記血栓溶解剤が、組織プラスミノゲン活性化因子を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記赤血球生成刺激剤が、エリスロポエチン、ダーベポエチン、エポエチンアルファ、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記酸素キャリアが、ヘモグロビンを主成分とする代用血液、ペルフルオロカーボンを主成分とする代用血液、または、これらの混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ETAアンタゴニストが、スルフォソキサゾール、クラゾセンタン、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、シタクスセンタン、エンラセンタン、BMS 207940、BMS 193884、BMS 182874、J 104132、VML 588/Ro 61 1790、T-0115、TAK 044、BQ 788、TBC2576、TBC3214、PD180988、ABT 546、SB247083、RPR118031A、BQ123、および、これらの混合物から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記神経保護薬が、アルガトロバン、アルフィメプラーゼ、テネクテプラーゼ、アンクロッド、シルデナフィル、インスリン、インスリン増殖因子、硫酸マグネシウム、ヒト血清アルブミン、カフェイノール、ミクロプラスミン、スタチン、エプチフィバチド、チンザパリン、エネカジン、シチコリン、エダラボン、シロスタゾール、ハイポサーミア、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記ETBアゴニストと第二治療薬が、同時に投与される請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記ETBアゴニストと第二治療薬が、単一の組成物から投与される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ETBアゴニストと第二治療薬が、別個の組成物から投与される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ETBアゴニストと第二治療薬が、別個に投与される請求項5に記載の方法。
【請求項17】
前記ETBアゴニストが、前記第二治療薬に先駆けて投与される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ETBアゴニストが、前記第二治療薬の後に投与される請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ETBアゴニストが、約0.005〜約500μg/用量の量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ETBアゴニストが、約0.005〜約50μg/kg/点滴時間(分)の量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項21】
以下の要素、すなわち;
(a) ETBアゴニストを含む包装された組成物、
(b) 脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療薬を含む任意の包装された組成物、
(c) ヒトの脳卒中またはその他の脳血管障害を治療するための、(a)、または、(a)および(b)の同時投与または連続投与に関する指示を記した添付文書、および
(d) (a)、(b)、および、(c)のための容器、を含むキット。
【請求項22】
以下の要素、すなわち;
(a) ETBアゴニスト、および、脳卒中またはその他の脳血管障害の治療において有用な第二治療薬を含む包装された組成物、
(b) ヒトの脳卒中またはその他の脳血管障害を治療するための、(a)の投与に関する指示を記した添付文書、および
(c) (a)、および、(b)のための容器、を含むキット。
【請求項23】
以下の要素、すなわち;
(a) ETBアゴニスト、
(b) 神経保護薬、および、
(c) 任意の賦形剤、および/または、薬学的に許容可能な担体、を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−536868(P2010−536868A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521975(P2010−521975)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/073581
【国際公開番号】WO2009/026282
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510048370)ミッドウェスタン ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】