説明

EphB受容体結合ペプチド

本明細書は、BクラスのEph受容体に選択的に結合するペプチドの同定に関するものである。また本開示は、様々な疾患の治療における、それらのペプチドの使用である。さらに、患者における腫瘍の画像化は、患者に標識ペプチドを投与し、それから該標識ペプチドの画像を得ることで記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、合衆国法典第35巻第119条(35 U.S.C. §119)に基づき、2005年1月27日に出願された米国仮出願第60/647,852号への優先権の利益を主張し、該仮出願の全体は引用により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府利益)
本発明は、国立衛生研究所から与えられた助成金番号CA82713及びHD25938、並びに国防総省から与えられた助成金番号DAMD17-01-1-0168に基づく政府支援で作出した。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
(発明の分野)
本出願は、EphB1、EphB2及びEphB4を含む、BクラスのEph受容体に選択的に結合する、アンタゴニスト的ペプチドに関する。また、そのようなペプチドの同定方法も含む。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の記述)
Eph受容体は、受容体チロシンキナーゼの大きなファミリーであり、エフリンと呼ばれるリガンドのファミリーが結合することによって、成体組織のみならず、発育組織において、数多くの生物学的過程を制御する(Murai, K. K.及びPasquale, E.B. の論文2003 J Cell Sci 116:2823-2832)。Eph受容体は、様々な健常組織において異なる発現をし(Hafher, C.らの論文 2004 Clinical Chem 50:490-499)、痛みの進行(Battaglia, A.A.らの論文. 2003 Nat Neurosci 6:339-340)、血小板凝集、神経の発達、細胞遊走及び接着(Prevost, N.らの論文. 2005 PNAS USA 102:9820-9825)などの、正常機能の様々な側面に関与する。また、Eph受容体は、腫瘍の進行(Dodelet, V.C.及びPasquale, E. B.の論文 2000 Oncogene 19:5614-5619;Nakamoto, M.及びBergemann, A.D.の論文 2002 Microsc Res Tech 59:58-67;Walker-Daniels, J.らの論文 2003 Am J Pathol 162:1037-1042;Hu, N.らの論文. 2005 Cancer Res 65:2542-2546;Hafher, C.らの論文. 2004 Clin Chem 50:490-499)、血管新生の病理形態(Adams, R.H.,及びKlein, R.の論文 2000 Trends Cardiov Medicine 10:183-188;Brantley-Sieders, D.M.及びChen, J.の論文 2004 Angiogenesis 7:17-28;Noren, N.K.らの論文. 2004 PNAS USA 101:5583-5588)、組織損傷後の慢性的な痛み(Battaglia, A.A.らの論文. 2003 Nat Neurosci 6:339-340)、脊髄損傷後の神経再生(Goldshmit, Y.らの論文. 2004 JNeurosci 24:10064-10073)、及び先天性奇形(Twigg, S. R.らの論文. 2004 PNAS USA 101:8652-8657;Wieland, I.らの論文. 2004 Am J Hum Genet 74:1209-1215)を含む、様々な病理的過程に関与する。さらに、これらの受容体は、幹細胞の自己再生対細胞運命決定及び分化のバランスに役割を担うという報告がなされている(Conover, J. C.らの論文. 2000 Nat Neurosci 3:1091-1097;Aoki, M.らの論文. 2004 J Biol Chem 279:32643-32650;Moore, K.B.らの論文. 2004 Dev Cell 6:55-67)。
【0004】
エフリンリガンドは、受容体のEphAクラスと、受容体のEphBクラスとを、識別することが可能である。高濃度でEphB2に結合することができるエフリン−A5を除いて、エフリン−Aリガンドは、EphA受容体に結合する(Himanen, J.P.らの論文. 2004 Nat Neurosci 7:501-509)。エフリン−BリガンドはEphB受容体に結合し、EphA4も同様に結合する(Gale, N.W.らの論文. 1996 Neuron 17:9-19;Kullander, K. 及びKlein, R.の論文 2002 Nat Rev Mol Cell Biol 3:475-486)。しかしながら、Eph受容体と、同じクラスに属するエフリンとの相互作用は、高度に無差別的である(Murai, K.K.,及びPasquale, E. B.の論文 2003 J Cell Sci 116:2823-2832;Kullander, K.及びKlein, R. 2002 Nat Rev Mol Cell Biol 3:475-486;Flanagan, J. G.及びVanderhaeghen, P.の論文 1998 Annu Rev Neurosci 21:309-345)。それにもかかわらず、ファージディスプレイによって同定されたいくつかの12アミノ酸長のペプチドは、1種又は数種のAクラスのEph受容体に選択的に結合する(Koolpe, M.らの論文. 2002 J Biol Chem 277:46974-46979;Murai, K.K.らの論文. 2003 Mol Cell Neurosci 24:1000-1011)。これらのペプチドは、Eph受容体へのエフリンの結合の高親和性を仲介する主領域である、エフリンの15アミノ酸長のG−Hループにいくらかの配列相同性を有する(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)。特に、EphA受容体結合ペプチドのいくつかは、ΦxxΦモチーフを含み(ここで、「x」は、非保存的アミノ酸であり、かつΦは芳香族アミノ酸である(Aasland, R.らの論文. 2002 FEBS Lett 513:141-144))、これはAクラスエフリンのG−Hループにも見出される。これらのペプチドは、さらなる独特な配列特性を有し、これがおそらく特定のEphA受容体への結合選択性を与える。EphA2及びEphA4に結合する、マイクロモル濃度のペプチドは、これらの受容体へのエフリンの結合を阻害する(Koolpe, M.らの論文. 2002 J Biol Chem 277:46974-46979;Murai, K.K.らの論文. 2003 Mol Cell Neurosci 24:1000-1011)。さらに、EphA4結合ペプチドは、エフリンによる受容体活性化を阻害するアンタゴニストであり(Murai, K.K.らの論文. 2003 Mol Cell Neurosci 24:1000-1011)、一方、EphA2結合ペプチドは、エフリン模倣体として振る舞い、EphA2活性化、及び下流のシグナル伝達を促進する(Koolpe, M.らの論文. 2002 J Biol Chem 277:46974-46979)。該アンタゴニスト的ペプチドは、おそらく、下流のシグナル伝達経路を活性化させることを停止させるのに必要な、エフリン依存性Eph受容体クラスタリング(clustering)及びトランスリン酸化を阻害することによって機能する(Murai, K.K.及びPasquale, E.B.の論文 2003 J Cell Sci 116:2823-2832)。実際に、細胞表面係留型エフリンは、Eph受容体が活性化されるところにおいて、より大きなクラスター(cluster)と同様に、Eph受容体二量体の形成を促進する(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)が、可溶性の単量体型エフリンは、アンタゴニストとして作用する(Davis, S.らの論文. 1994 Science 266:816-819)。対照的に、EphA2結合ペプチドが、どのようにEphA2を活性化することができるかについては、現在明らかではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、EphB受容体結合ペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明の一実施態様は、EphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつEphB受容体ファミリーメンバーへのエフリン−Bの結合を阻害する、ペプチドである。
本発明の別の実施態様は、エフリンG−Hループを模倣し、EphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつEphB受容体ファミリーメンバーへのエフリン−Bの結合を阻害する、単離ペプチドである。
【0007】
本発明の別の実施態様は、配列番号:1〜39のペプチドからなる群から選択された単離ペプチドである。本発明の一実施態様において、該単離ペプチドは、配列番号:1の配列を有する。本発明の別の実施態様において、該単離ペプチドは、配列番号:2の配列を有する。本発明の別の実施態様において、該単離ペプチドは配列番号:3の配列を有する。本発明の別の実施態様において、該単離ペプチドは配列番号:4の配列を有する。本発明の別の実施態様において、該単離ペプチドは配列番号:5の配列を有する。本発明の別の実施態様において、該単離ペプチドは配列番号:39の配列を有する。
【0008】
本発明の別の実施態様は、EphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつEphB受容体ファミリーメンバーへのエフリン−Bの結合を阻害するペプチドである。該ペプチドは、医薬として許容し得る担体とともに組成物中に存在する。
本発明の別の実施態様は、EphB受容体関連疾患の治療を必要とする患者を同定すること、及び該患者に、EphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつ該EphB受容体ファミリーメンバーへのエフリン−Bの結合を阻害する単離ペプチドの治療的有効量を投与することによる、患者におけるEphB受容体関連疾患の治療方法である。該単離ペプチドは、医薬として許容し得る担体とともに組成物中に存在する。そのようなEphB受容体関連疾患は、腫瘍性疾患、神経疾患、又は血管疾患であってよい。別の実施態様において、該ペプチドは、化学療法薬剤、又は毒素に連結される。
【0009】
本発明の別の実施態様は、EphB受容体を発現する腫瘍を有すると疑われる患者を同定すること、及びEphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつEphB受容体ファミリーメンバーへのエフリン−Bの結合を阻害する単離ペプチド(該単離ペプチドは造影剤に連結されている)を該患者に投与し、かつ該患者中の該造影剤の画像を得ることによる、該患者中の腫瘍の画像化方法である。一実施態様において、該造影剤は蛍光性である。別の実施態様において、該造影剤は放射性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
Eph受容体チロシンキナーゼは、多くの病理組織中で発現し、それゆえ有望な薬剤標的候補として頭角を現してきた。しかしながら、単一のEph受容体に選択的に結合することができ、かつこの大きな受容体ファミリーの他のメンバーには結合することができないという、有用な分子はほとんどない。本発明の一実施態様は、EphB1、EphB2、EphB3及びEphB4を含む、EphBクラスの異なる受容体に選択的に結合するペプチドに関する。同一のEphB受容体特異性を有するペプチド群は、結合に際して互いに競合することが見出され、これは該ペプチド群が、部分的に重複した結合部位を有することを示唆する。さらに、該ペプチドのいくつかは、EphB受容体との高親和性相互作用を仲介する領域である、エフリン−BリガンドのG−Hループに見出されるアミノ酸モチーフを含む。該エフリン結合部位を標的化することに一致して、より高親和性のペプチドは、エフリンがEphB受容体に結合することに拮抗する。
【0011】
EphB2及びEphB4の両方は、様々なガンで過剰発現しており、それゆえこれらの受容体に結合するペプチドは、画像化及び薬剤の標的化用途に有用であり得る。以下に記載するように、TNYLなどのいくつかのペプチドは、蛍光量子ドットをEphB4発現細胞へと効率的に送達した。また、特にガン治療において、EphB受容体アンタゴニストに関する多くの使用可能性がある。例えば、乳ガン細胞で発現するEphB4と、腫瘍脈管構造で発現するエフリン−B2との間の相互作用が報告されており、その中で、膜貫通エフリン−B2リガンドの細胞質ドメインは、血管新生を刺激することによって、腫瘍成長を促進した(Noren, N.K.らの論文. 2004 PNAS USA 101:5583-5588)。それゆえ、TNYL−RAWペプチドは、腫瘍の進行、及びEphB4及びエフリン−B2に同様に依存する可能性のある病理的血管新生の他の形態を阻害することに発展し得る。ガンにおけるEphB4及びEphA2などの、特定の病理的過程に関与するEphAクラス受容体及びEphBクラス受容体に結合するペプチドの組み合わせもまた可視化される。最終的に、EphB受容体結合ペプチドの親和性は、柔軟なリンカーを介した二量体化によって大きく増大させてよい。しかしながら、二量体化ペプチドがアゴニストになる可能性がある。
【0012】
以下で議論するように、本発明の実施態様は、Eph受容体関連疾患の治療としての、Eph受容体結合リガンドの使用に関する。そのような疾患の例は、腫瘍性疾患、神経疾患、及び血管疾患を含む。いくつかの実施態様において、Eph受容体関連疾患は、EphB1受容体関連疾患を含む。EphB1関連疾患は、EphB1受容体の正常な発現よりも、より高い発現に関連する疾患を含む。したがって、EphB1受容体を標的化するリガンドの結合は、そのようなEphB1受容体関連疾患に対して治療的有効性を有し得る。EphB1受容体関連疾患の例は、腫瘍性疾患、神経疾患、及び血管疾患を含む。
【0013】
(定義)
本発明明細書の記載に使用される様々な用語の意味及び範囲を明らかにし、かつ明確化するために、下記の定義を説明する。
本明細書で使用するように、「アゴニスト」は、その生物学的に相補的な活性受容体に結合して該受容体を活性化させて該受容体の生物学的反応をもたらす、又は該受容体の既存の生物活性を増幅させる、生物学的に活性なリガンドをさす。
【0014】
本明細書で使用するように、「アンタゴニスト」は、その生物学的に相補的な活性受容体に結合して該受容体の生理的反応を阻害する、生物学的に活性なリガンドをさす。
本明細書で使用するように、「医薬として許容し得る塩」は、医薬品工業で一般的に使用される、非毒性のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩をさし、これらは当業者に周知の方法で製造されるナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アンモニウム塩及びプロタミン亜鉛塩を含む。また、該用語は、本発明の化合物を適切な有機酸又は無機酸と反応させることによって一般的に製造される、非毒性の酸付加塩を含む。代表的な塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩, 酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、及びナプシル酸塩などを含む。
【0015】
本明細書で使用するように、「医薬として許容し得る酸付加塩」は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸などの無機酸、並びに酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びサリチル酸などの有機酸とともに形成され、遊離塩基の生物学的有効性及び特性を保持し、かつ生物学的に又は他の点で好ましいそれらの塩をさす。プロドラッグとしての医薬として許容し得る酸付加塩の記載に関しては、Bundgaard, H.編 1985 『プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)』, Elsevier Science Publishers社、Amsterdam、を参照されたい。
【0016】
本明細書で使用するように、「医薬として許容し得るエステル」は、エステル結合加水分解時の、カルボン酸又はアルコールの生物学的有効性及び特性を保持し、かつ生物学的に又は他の点で好ましい、それらのエステルをさす。プロドラッグとしての医薬として許容し得るエステルの記載に関しては、Bundgaard, H.編 1985 『プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)』, Elsevier Science Publishers社、Amsterdam、を参照されたい。これらのエステルは通常、対応するカルボン酸及びアルコールから形成される。一般的に、エステルの形成は、従来の合成法を介して達成できる。例えば、Marchの文献 1992 『高等有機化学(Advanced Organic Chemistiy)』,第4版, John Wiley & Sons社, New York, 393〜396頁及びそこで引用されている文献、並びにMarkらの文献,1980 『化学技術の百科事典(Encyclopedia of Chemical Technology)』, John Wiley & Sons社, New Yorkを参照されたい。エステルのアルコール構成要素は一般的に、(i)1以上の二重結合を含み得る又は含み得ず、かつ分岐炭素を含み得る又は含み得ない、C〜C12脂肪族アルコール、又は(ii)C〜C12の芳香族アルコール又はへテロ芳香族アルコール、を含む。また、本発明は、本明細書に記載するような両方のエステル、及びそれと同時にその医薬として許容し得る酸付加塩である、それらの組成物の使用を意図する。
【0017】
本明細書で使用するように、「医薬として許容し得るアミド」は、アミド結合加水分解時の、カルボン酸又はアミンの生物学的有効性及び特性を保持し、かつ生物学的に又は他の点で好ましい、それらのアミドをさす。プロドラッグとしての医薬として許容し得るアミドの記載に関しては、Bundgaard, H.編 1985 『プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)』, Elsevier Science Publishers社、Amsterdam、を参照されたい。これらのアミドは通常、対応するカルボン酸及びアミンから形成される。一般的に、アミドの形成は、従来の合成法を介して達成できる。例えば、Marchの文献 1992 『高等有機化学(Advanced Organic Chemistiy)』,第4版, John Wiley & Sons社, New York, 393頁、及びMarkらの文献,1980 『化学技術の百科事典(Encyclopedia of Chemical Technology)』, John Wiley & Sons社, New Yorkを参照されたい。また、本発明は、本明細書に記載するような両方のアミド、及びそれと同時にその医薬として許容し得る酸付加塩である、それらの組成物の使用を意図する。
【0018】
本明細書で使用するように、「医薬として許容し得る担体、又は治療的に許容し得る担体」は、該活性成分の生物活性の有効性に干渉せず、かつ宿主又は患者に毒性でない、担体媒体をさす。
本明細書で使用するように、「立体異性体」は、別のものと同じ分子量、同じ化学組成及び同じ結合順序を有するが、1以上のキラル中心周辺の空間で、異なって分類される原子を有する化合物をさす。すなわち、同じ化学式の立体異性体は、少なくとも1つのキラル中心について、異なる空間配向で配置される、同一の化学的部分を含む。純粋である場合、立体異性体は、平面偏光光を回転させる能力を有する。しかしながら、いくつかの純粋な立体異性体は、現在の分析機器で検出不可能な、ごくわずかな旋光を有していてもよい。本発明の化合物は、1以上の非対称的炭素原子を有してよく、それゆえ、様々な立体異性体を含んでいてもよい。全ての立体異性体は、本発明の範囲内に含まれる。
【0019】
本明細書で使用するように、本発明の組成物に適用するような「治療的有効量又は医薬的許容量」は、所望の生物学的結果をもたらすのに十分な組成物の量をさす。該結果は、徴候、症状又は疾患原因の軽減、若しくは生物システムの他のどれよりも所望される変化であり得る。本発明において、該結果は例えば、ガン性細胞増殖の阻害及び/又は反転(reversal)を含む。
【0020】
本明細書で使用するように、用語「ペプチド化合物」及び「ペプチド構造」は、天然型L−アミノ酸からなるペプチド、並びに天然型L-アミノ酸構造のペプチド誘導体、ペプチド類似体及びペプチド模倣体を含むことを意図する。本明細書で使用するような用語「ペプチド類似体」、「ペプチド誘導体」及び「ペプチド模倣体」は、ペプチドの化学構造を模倣し、かつ該ペプチドの機能的特性を保持する分子を含むことを意図する。ペプチド類似体、誘導体及び模倣薬を設計するための方法は、当業者に既知である。例えば、『薬剤設計(Drug Design)』E.J. Ariens編 Academic Press, New York, 1980, 第10巻, 119〜143頁におけるFarmer, P.S.の文献;Ball J.B.及びAlewood, P.F.の論文 1990 J Mol Recognition 3:55;Morgan, B.A.及びGainor, J.A.の論文 1989 Ann Rep Med Chem 24:243;並びにFreidinger, R.M.の論文 1989 Trends Pharmacol Sci 10:270;Luthrnanらの論文,1996 『薬剤設計及び開発の教科書(A Textbook of Drug Design and Development)』, 14:386-406, 第2版, Harwood Academic Publishers;Joachim Grante, Angew.の論文 1994 Cheni mt Ed Engl 33:1699-1720;Fauchere, J. の論文1986 Adv Drug Res 15:29;Veber及びFreidingerの文献 1985 TINS p. 392;Evansらの論文,1987 J Med Chein 30:229;を参照されたく、これらは全て引用によって本明細書に組み込まれる。治療的に有用なペプチドに構造的に類似するペプチド模倣体を使用して、同等又は強化型の治療効果若しくは予防効果をもたらすことができる。一般的に、ペプチド模倣体は、天然型の受容体結合ポリペプチドなどのパラダイム(paradigm)ポリペプチド(すなわち、生物活性又は医薬活性を有するポリペプチド)に構造的に類似するが、当業者に既知の方法によって、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シス及びトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-、及び-CH2SO-からなる群から選択される結合によって任意に置換された1以上のペプチド結合を有し、さらに下記の参考文献に記載されるものである:『アミノ酸、ペプチド及びタンパク質の化学並びに生化学(Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides, and Proteins)』, B. Weinstein編, Marcel Dekker, New York, 267頁におけるSpatola, A.F.の文献 1983;Spatola, A.F.の文献 1983 Vega Data, 第1巻, 3号, ペプチド骨格修飾 (一般的総説);Morleyの文献, 1980 Trends Pharin Sci 463〜468頁, (一般的総説);Hudsonらの論文,1979 Int J Pept Prot Res 14:177-185 (-CH2NH-, CH2CH2-);Spatolaらの論文,1986 Life Sci 38:1243-1249 (-CH2-S);Hannの論文, 1982 J Chem Soc Perkin Trans I 307-314 (-CH=CH-, シス及びトランス);Almquistらの論文,1980 J Med Chem 23:1392-1398, (-COCH2-);Jennings-Whiteらの論文,1982 Tetrahedron Lett 23:2533 (-COCH2-);Szelkeらの論文,1982 European Appin. EP 45665 (-CH(OH)CH2-);Holladayらの論文,1983 Tetrahedron Lett 24:4401-4404 (-C(OH)CH2-);及びHrubyの論文, 1982 Life Sci 31:189-199 (-CH2-S-);これらの各々は、引用により本明細書に組み込まれる。そのようなペプチド模倣体は、ポリペプチド実施態様を超える有意な利点を有していてよく、例えば、より経済的な製造、より高い化学的安定性、強化された薬理学的特性(半減期、吸収、効力、効率など)、変更された特異性(例えば、生物活性の広域性)、低減された抗原性などを含む。通常、ペプチド模倣体の標識化は、定量的な構造−活性データ及び/又は分子モデリングによって予測されるペプチド模倣体上の非干渉部位への、直接的に又はスペーサー(例えばアミド基)を介する、1以上の標識の共有結合的連結を含む。一般的に、そのような非干渉部位は、該ペプチド模倣体が結合して治療効果をもたらす、巨大分子(受容体分子など)に直接的な接触を形成しない部位である。ペプチド模倣体の誘導体化(例えば標識化)は、該ペプチド模倣体の所望の生物活性又は医薬活性を、実質的に干渉すべきではない。一般的に、受容体結合ペプチドのペプチド模倣体は、高い親和性で該受容体に結合し、かつ検出可能な生物活性(すなわち、該活性は、1以上の受容体介在性の表現型変化に、アゴニスト的又はアンタゴニスト的である。)を有する。
【0021】
同型のD−アミノ酸を用いての、共通配列の1以上のアミノ酸の体系的置換(例えば、L−リジンの代わりにD−リジン)を使用して、より安定なペプチドを作成してよい。さらに、共通配列、又は実質的に同一の共通配列変化を含む、制約ペプチド(constrained peptide)を、当業者に既知の方法(引用によって本明細書に組み込まれる、Rizoらの論文,1992 Ann Rev Biochem 61:387)で作成してよく、例えば、該ペプチドを環化させる分子内ジスルフィド架橋を形成することができる内部システイン残基の付加によって作成してよい。
【0022】
合成アミノ酸又は非天然型アミノ酸は、インビボで自然発生的には存在しないが、それにも関わらず本明細書に記載するペプチド構造に組み込むことができるアミノ酸をさす。好ましい合成アミノ酸は、天然型L−α−アミノ酸のD−α−アミノ酸、並びに式H2NCHR5COOHによって表される非天然型D−α−アミノ酸及び非天然型L−α−アミノ酸である(式中、R5は、1)低級アルキル基、2)炭素原子3個〜7個のシクロアルキル基、3)炭素原子が3個〜7個で、かつ1個〜2個のヘテロ原子が酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された複素環、4)ヒドロキシル、低級アルコキシ、アミノ、及びカルボキシルからなる群から選択される芳香核上の1個〜3個の置換基を任意に有する、炭素原子6個〜10個の芳香族残基、5)-アルキレン-Y であって、該アルキレンが、(a)ヒドロキシ、(b)アミノ、(c)炭素原子3個〜7個のシクロアルキル及びシクロアルケニル、(d)ヒドロキシル、低級アルコキシ、アミノ、及びカルボキシルからなる群から選択される芳香核上の1個〜3個の置換基を任意に有する、炭素原子6個〜10個のアリール、(e)炭素原子が3個〜7個で、かつ1個〜2個のヘテロ原子が酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された複素環、(f)C(O)R2であって、R2は水素原子、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、及び-NR3R4(式中、R3及びR4は、独立に、水素原子及び低級アルキルからなる群から選択される。)からなる群から選択される、(g)-S(O)nR6であって、R5が天然型アミノ酸の側鎖を規定しないという条件で、nが1〜2の整数であり、かつR6が低級アルキルである。)。
【0023】
他の好ましい合成アミノ酸は、アミノ基が、β−アラニン、β−アミノ酪酸などの、2以上の炭素原子によってカルボキシル基から分離されたアミノ酸を含む。
特に好ましい合成アミノ酸は、例として、天然型L−アミノ酸、L−(1−ナフチル)−アラニン、L−(2−ナフチル)−アラニン、L−シクロヘキシルアラニン、L−2−アミノイソ酪酸、メチオニンのスルホキシド及びスルホン誘導体(すなわち、HOOC-(H2NCH)CH2CH2-S(O)nR6、ここでn及びR6は先に定義したようなものである。)、並びにメチオニンの低級アルコキシ誘導体(すなわち、R6が先に定義したようなものであるHOOC-(H2NCH) CH2CH2-OR6)のD−アミノ酸を含む。
【0024】
本明細書で使用するように、化合物X(例えば、ペプチド又はアミノ酸)の「誘導体」は、該化合物中の1以上の反応基が置換基で誘導体化された、Xの形態をさす。ペプチド誘導体の例は、アミノ酸側鎖、ペプチド骨格、又はアミノ末端若しくはカルボキシ末端が置換されたペプチドを含む。本明細書で使用するように、化合物Xの「類似体」は、Xの機能的活性に必要なXの化学構造を有し、さらにまたXとは異なる特定の化学構造を含む化合物をさす。天然型ペプチドの類似体の例は、1以上の非天然型アミノ酸を含むペプチドである。本明細書で使用するように、化合物Xの「模倣体」は、Xの機能的活性に必要なXの化学構造が、Xの高次構造を模倣する他の化学構造で置換された化合物をさす。ペプチド模倣体の例は、さらに以下に記載する、ペプチド骨格が1以上のベンゾジアゼピン分子で置換されたペプチド性化合物(例えば、James, G.L.らの論文. 1993 Science 260:1937-1942を参照されたい)、全てのL−アミノ酸が対応するD−アミノ酸で置換されたペプチド、及び「レトロ−インバーソ(retro-inverso)」ペプチド(Sistoによる米国特許第4,522,752号を参照されたい)を含む。
【0025】
用語模倣体、特にペプチド模倣体は、アイソスター(isostere)を含むことを意図する。本明細書で使用する用語「アイソスター」は、一次構造の立体高次構造が該二次構造の特定の結合部位に適合するため、二次化学構造に置換することができる化学構造を含むことを意図する。該用語は特に、当業者に周知のペプチド骨格修飾(すなわち、アミド結合模倣体)を含む。そのような修飾は、アミド窒素、α−炭素、アミドカルボニル、アミド結合の完全な置換、伸長、削除、又は骨格架橋の修飾を含む。いくつかのペプチド骨格修飾は既知であり、Ψ[CH2S]、Ψ[CH2NH]、Ψ[CSNH2]、Ψ[NHCO]、Ψ[COCH2]、及びΨ[(E)又は(Z) CH=CH]を含む。上記で使用した命名法において、Ψはアミド結合がないことを示す。アミド基を置換する構造を、角括弧内に特定する。アイソスターの他の例は、1以上のベンゾジアゼピン分子で置換したペプチドを含む(例えば、James, G.L.らの論文. 1993 Science 260:1937-1942を参照されたい)。
【0026】
他の可能な修飾は、N−アルキル(又はアリール)置換(Ψ[CONR])、ラクタム及び他の環状構造を構築する骨格架橋、化合物(「インバーソ(inverso)」化合物)中の全てのL−アミノ酸に関する全てのD−アミノ酸の置換、又はレトロ−インバーソアミノ酸組み込み(Ψ[NHCO])を含む。「インバーソ」によっては、配列のL−アミノ酸をD−アミノ酸で置換することを意味し、かつ「レトロ−インバーソ」又は「エナンチオ−レトロ(enantio-retro)」は、アミノ酸の配列を逆転させ(「レトロ」)かつ該L−アミノ酸をD−アミノ酸で置換することを意味する。例えば、親ペプチドがThr-Ala-Tyrである場合、該レトロ修飾形態はTyr-Ala-Thrであり、該インバーソ形態はthr-ala-tyr(小文字はD−アミノ酸をさす)であり、かつ該レトロ−インバーソ形態はtyr-ala-thrである。該親ペプチドに比較して、レトロ−インバーソペプチドは、実質的に、オリジナルの側鎖の空間的な立体構造を保持するが、逆の骨格を有し、結果として該親ペプチドによく似たトポロジーを有する、レトロ−インバーソ異性体を生じる。Goodmanらの論文. 1981 『ペプチド化学の展望(Perspectives in Peptide Chemistry)』283〜294頁を参照されたい。また、さらなる「レトロ−インバーソ」ペプチドの記載に関して、Sistoによる米国特許第4,522,752号を参照されたい。他の誘導体は、C末端ヒドロキシメチル誘導体、O−修飾誘導体(例えば、C末端ヒドロキシメチルベンジルエーテル)並びのアルキルアミド及びヒドラジドなどの置換アミドを含むN末端修飾誘導体を含む。
【0027】
本明細書で使用するように、用語「アミノ酸構造」(「ロイシン構造」、「フェニルアラニン構造」又は「グルタミン構造」)は、該アミノ酸、並びに化合物の機能的活性を維持する該アミノ酸の類似体、誘導体及び模倣体を含むことを意図する。例えば、用語「フェニルアラニン構造」は、フェニルアラニン、並びにピリジルアラニン及びホモフェニルアラニンを含むことを意図する。用語「ロイシン構造」は、ロイシン、並びにバリンで置換したもの、又はノルロイシンなどの脂肪族側鎖を有する他の天然型又は非天然型アミノ酸で置換したものを含むことを意図する。
【0028】
本明細書で開示するペプチド化合物のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端は、非修飾(すなわち、独立に、Y1及び/又はY2は水素原子であり得る)であり得る。あるいは、該ペプチド化合物のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端は、誘導体基で修飾できる。ペプチド化合物のN末端(すなわち、Y1であり得る)に存在し得るアミノ−誘導体基は、アセチル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、エポキシスクシニル基及びコレステリル基を含む。ペプチド化合物のC末端(すなわち、Y2であり得る)に存在し得るカルボキシ−誘導体基は、アルコール基、アルデヒド基、エポキシコハク酸基、酸ハロゲン化物基、カルボニル基、ハロメタン基、及びジアゾメタン基を含む。
【0029】
本明細書で使用するように、「検出可能な標識」又は「造影剤」は、化合物に共有結合させた場合、限定ではないが、Eph受容体結合剤を投与された患者におけるインビボ(in vivo)での検出を含む、該化合物の検出を可能にさせる物質をさす。適切な検出可能な標識は当業者に周知であり、例としては、放射性同位体、蛍光標識(例えばフルオレセイン)などを含む。使用する特定の検出可能な標識は決定的ではなく、使用する標識の量、並びに使用する標識の量での該標識の毒性に関連して選択される。そのような因子に関連する標識の選択は、当業者に周知である。
【0030】
ペプチド又はペプチド模倣体への検出可能な標識の共有結合的連結は、当業者に周知の従来方法で達成される。例えば125I放射性同位体を検出可能な標識として使用する場合、ペプチド又はペプチド模倣体への125Iの共有結合的連結は、アミノ酸チロシンを該ペプチド又はペプチド模倣体へと組み込み、該ペプチドをヨウ素化させることによって達成することができる(例えば、Weanerらの論文,1994 『同位体標識化合物の合成及び適用(Synthesis and Applications of Isotopically Labelled Compounds)』, 137-140頁を参照されたい)。チロシンが、ペプチド又はペプチド模倣体中に存在しない場合、ペプチド又はペプチド模倣体のN末端又はC末端へのチロシンの組み込みは、周知の化学反応で達成可能である。同様に、例えば従来の化学反応を使用して、ペプチド又はペプチド模倣体のヒドロキシル基を介し、リン酸部分としてペプチド又はペプチド模倣体に32Pを組み込むことが可能である。
【0031】
「選択的に」は、1種又は数種のEph受容体ファミリーメンバーに対する結合親和性を有し、それが他の既知のEph受容体ファミリーメンバーに対する前記結合親和性よりも実質的に高いことを意味する。選択的結合親和性との関連で使用する場合、「実質的に高い」は、受容体に結合するリガンドの量の、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍の増加を意味する。
【0032】
本明細書で使用するように、「Eph受容体結合剤」又は「Eph受容体結合リガンド」は、Eph受容体に結合する化合物である。該化合物は、1以上のEph受容体に結合可能な全ての分子を含んでもよい。いくつかの場合において、1以上のEph受容体に結合可能な分子は、ペプチド又はペプチド模倣体である。そのようなペプチド又はペプチド模倣体は、10残基未満、11残基未満、12残基未満、13残基未満、14残基未満、15残基未満、20残基未満、25残基未満、30残基未満、35残基未満、40残基未満、45残基未満、50残基未満、75残基未満、100残基未満、200残基未満、300残基未満、400残基未満又は500残基未満の長さを有し得る。用語「Eph受容体結合剤」及び「Eph受容体結合リガンド」を可換的に使用してもよい。
【0033】
本明細書で使用するように、「エフリン−B」は、エフリン−Bリガンドサブクラスのメンバーである全てのエフリンを含む。
本明細書で使用するように、用語「治療剤」は、抗ガン剤、神経保護剤、又は特定の疾患徴候に所望の治療効果を有し得る他の作用物質を意味する。
本明細書に記載する抗ガン剤は、細胞毒性剤又はガン化学療法剤であり得る。非限定的な例として、DNA関連プロセスを標的化する細胞毒性剤は、シクロホスファミド、メルファラン、マイトマイシンC、ビゼレシン、シスプラチン、ドキソルビシン、エトポシド、ミトキサントロン、SN 38、Et 743、アクチノマイシンD、ブレオマイシン及びTLK286を含む。ガン化学療法剤は、限定でなく、ドセタキセルなどのタキサン;ドキソルビシンなどのアントラサイクリン;アルキル化剤;ビンカアルカロイド;抗代謝剤;シスプラチン又はカルボプラチンなどの白金剤;メトトレキサートなどのステロイド;アドリアマイシンなどの抗生物質;イソファミド(isofamide);又は選択的エストロゲン受容体調節物質;トラスツズマブなどの抗体;であり得る。
【0034】
タキサンは、本発明の併用療法における有用な化学療法剤である。有用なタキサンは、限定でなく、ドセタキセル(タキソテール;Aventis Pharmaceuticals社;Parsippany, NJ)及びパクリタキセル(タキソール;Bristol Myers Squibb社;Princeton, NJ)を含む。例えば、Chanらの論文. 1999 J Clin Oncol 17:2341 2354、及びParidaensらの論文 2000 J Clin Oncol 18:724を参照されたい。
【0035】
本発明の併用療法に有用な別のガン化学療法剤は、ドキソルビシン、イダルビシン又はダウノルビシンなどのアントラサイクリンである。ドキソルビシンは一般的に使用されるガン化学療法剤であり、例えば、乳ガンの治療に有用であり得る(『ガン:腫瘍学の原理と実践(Cancer: Principless and Practice of Oncology)』第5版, 19章、DeVita, Jr.ら編におけるStewart及びRatainの文献;J.P. Lippincottの文献 1997;上記参照, 1997『ガン:腫瘍学の原理と実践』におけるHarrisらの文献)。さらに、ドキソルビシンは抗血管新生活性を有し(Folkmanの論文, 1997 Nature Biotechnology 15:510;『血管新生:基本原理科学、技術及び医薬(Angiogenesis: Key Principles Science, technology and medicine)』449 454頁、Steinerら編、Birkhauser Verlag, 1992におけるSteinerの文献)、ガン治療におけるその有効性に貢献し得る。
【0036】
メルファラン又はクロラムブシルなどのアルキル化剤は、本発明の併用療法に有用なガン化学療法剤である。同様に、ビンデシン、ビンブラスチン又はビノレルビンなどのビンカアルカロイド;5フルオロウラシル、5フルオロウリジン又はそれらの誘導体などの抗代謝剤;は、本発明の併用療法に有用なガン化学療法剤である。
白金剤は、本発明の併用療法に有用な化学療法剤である。そのような白金剤は、例えば、Crownの文献, 2001 Seminars in Oncol 28:28-37に記載されるような、例えばシスプラチン又はカルボプラチンであり得る。本発明の併用療法に有用な他のガン化学療法剤は、限定でなく、メトトレキサート、マイトマイシンC、アドリアマイシン、イホスファミド及びアンサマイシンを含む。
【0037】
乳ガン及び他のホルモン依存性ガンの治療に使用されるガン化学療法剤もまた、選択的エストロゲン受容体調節物質又は抗エストロゲンなどの、エストロゲンの効果に拮抗する作用物質として使用可能である。該選択的エストロゲン受容体調節物質であるタモキシフェンは、乳ガンの治療に関する、本発明の併用療法に有用であり得るガン化学療法剤である(Fisherらの論文. 1998 J Natl Cancer Instit 90:1371 1388)。
【0038】
本発明の併用療法に有用な治療剤は、ヒト化モノクローナル抗体などの抗体であり得る。例として、抗上皮細胞増殖因子受容体2 (HER2)抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン:Genentech社, South San Francisco, CA)は、HER2/neuを過剰発現する乳ガンを治療するための、本発明の複合体に有用な治療剤である(Whiteらの論文. 2001 Ann Rev Med 52:125-141)。
【0039】
また、本発明に有用な別の治療剤は細胞毒性剤であり得、これは本明細書で使用するように、直接的又は間接的に細胞死を促進させる全ての分子である。本発明に有用な細胞毒性剤は、限定でなく、小分子、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸分子、細胞及びウイルスを含む。非限定的な例として、本発明に有用な細胞毒性剤は、ドキソルビシン、ドセタキセル又はトラスツズマブなどの細胞毒性小分子;さらに以下に記載するような抗微生物性ペプチド;例えばカスパーゼ8のようなカスパーゼ及び毒素などのアポトーシス促進性ポリペプチド;ジフテリア毒素A鎖、緑膿菌外毒素A、コレラ毒素、DAB389EGFなどのリガンド融合毒素、トウゴマ毒素(リシン(ricin));及び細胞障害性T細胞などの細胞障害性細胞;を含む。例えば、Martinらの論文. 2000 Cancer Res 60:3218-3224;Kreitman及びPastanの論文 1997 Blood 90:252-259;Allamらの論文. 1997 Cancer Res 57:2615-2618;Osborne及びCoronado Heinsohnの論文 1996 Cancer J Sci Am 2:175;を参照されたい。当業者は、本明細書に記載した又は当業者に既知のこれらの及びさらなる細胞毒性剤が、本発明の治療剤として有用であり得ることを理解する。
【0040】
神経保護剤は当業者に既知であり、神経細胞死を阻止又は遅延させる化合物であり得る。非限定的な例として、神経保護剤は、小分子薬剤、ペプチド、タンパク質、抗体、又はこれらの組み合わせなどの、抗アポトーシス性化合物であり得る。神経保護剤は、1以上のアポトーシス経路又は壊死経路への干渉、神経成長ホルモンの活性化、又はイオンチャネルの調節を介して作用してよい。当業者は、本明細書に記載した又は当業者に既知のこれらの及びさらなる神経保護剤が、本発明の治療剤として有用であり得ることを理解する。
【0041】
(Eph受容体結合剤)
本発明の実施態様は、Eph受容体に結合する作用物質を提供する。本明細書に記載する化合物の多くは、Eph受容体ファミリーの受容体として知られる16種の1種又は限定された数にのみ、選択的に結合する。Eph受容体結合剤は、小分子薬剤、ペプチド又はペプチド模倣体であり得る。Eph受容体結合剤は、天然化合物又は合成化合物であってよい。本明細書に記載の化合物の多くもまた、高い親和性でEph受容体に結合し、Eph受容体アゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして作用することができる。本明細書に記載の化合物は、リード化合物と同一又は類似した分子構造若しくは形状を有するように構築した「リード」化合物及び「誘導体」化合物を含むが、これらは加水分解又はタンパク質分解に対する感受性について、及び/又は該受容体への増加した親和性などの他の生物学的特性について、若しくは該標的Eph受容体に関連しないさらなる生物学的特性を有することのいずれかに関して、該リード化合物とは異なる。
【0042】
(ペプチド及びペプチド模倣体の製造)
(1.固相合成)
本明細書に記載のペプチドは、当業者に既知の古典的方法、例えば標準的な固相技術を使用することによって製造することができる。該標準的方法は、排他的(exclusive)固相合成法、部分固相合成法、フラグメント濃縮、古典的溶液合成、及び組換えDNA技術すらも含む。例えば、引用によって本明細書に組み込まれるMerrifieldの論文, 1963 J Am Chein Soc 85:2149を参照されたい。固相において、該合成は通常、アルファ−アミノ保護樹脂を使用して、該ペプチドのC末端から開始される。適切な出発物質を、例えば、所要のアルファ−アミノ酸を、クロロメチル化樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、又はベンズヒドリルアミン樹脂へと付着させることによって製造することができる。そのようなクロロメチル化樹脂の1つは、BioRad Laboratories社, Richmond, CAによって商品名BlO-BEADS SX-lで販売されており、ヒドロキシメチル樹脂の調製は、Bodonszkyらの論文,1966 Chem Ind (London) 38:1597に記載されている。ベンズヒドリルアミン(BHA)樹脂は、Pietta及びMarshallの論文, 1970 Chem Commn 650に記載されており、かつ塩酸形態で、Beckman Instruments社, Palo Alto, CAから市販されている。
【0043】
それゆえ、化合物は、例えば、Gisinの論文, 1973 Helv Chim Acta 56:1467に記載される方法に従い、炭酸水素セシウム触媒の補助で、アルファ−アミノ保護されたアミノ酸をクロロメチル化樹脂にカップリングさせることによって製造可能である。最初のカップリングの後、有機溶媒中、室温で、トリフルオロ酢酸(TFA)又は塩酸(HCl)を含む試薬の選択により、該アルファ−アミノ保護基を除去する。
【0044】
該アルファ−アミノ保護基は既知であり、ペプチドの段階的合成の技術に有用である。それに含まれるのは、アシル型保護基(例えば、ホルミル、トリフルオロアセチル、アセチル)、芳香族ウレタン型保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)及び置換Cbz)、脂肪族ウレタン保護基(例えば、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、イソプロピルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル)、及びアルキル型保護基(例えば、ベンジル、トリフェニルメチル)を含む。Boc及びFmocは、好ましい保護基である。側鎖保護基は、カップリングの間損なわれず、かつアミノ末端保護基の脱保護の間又はカップリングの間、解離しない。該側鎖保護基は、該最終的ペプチドの合成の完了後すぐに、該標的ペプチドを変化させない反応条件下で除去しなければならない。
【0045】
Tyrに関する側鎖保護基は、テトラヒドロピラニル、tert−ブチル、トリチル、ベンジル、Cbz、Z--Br--Cbz、及び2,5−ジクロロベンジルを含む。Aspに関する側鎖保護基は、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、メチル、エチル、及びシクロヘキシルを含む。Thr及びSerに関する側鎖保護基は、アセチル、ベンゾイル、トリチル、テトラヒドロピラニル、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、及びCbzを含む。Thr及びSerに関する側鎖保護基は、ベンジルを含む。Argに関する側鎖保護基は、ニトロ、トシル(Tos)、Cbz、アダマンチルオキシカルボニル メシトイルスルホニル(mesitoylsulfonyl)(Mts)、又はBocを含む。Lysに関する側鎖保護基は、Cbz、2−クロロベンジルオキシカルボニル(2Cl-Cbz)、2−ブロモベンジルオキシカルボニル (2-BrCbz)、Tos、又はBocを含む。
【0046】
アルファ−アミノ保護基の除去後、残りの保護されたアミノ酸を、所望の順番で段階的にカップリングさせる。一般的には、溶液中、例えば、塩化メチレン(CH2Cl2)、ジメチルホルムアミド(DMF)混合物中において、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの、適切なカルボキシル基活性化因子とともに、各保護化アミノ酸の過剰量を使用する。
【0047】
所望のアミノ酸配列が完成した後、樹脂からはペプチドを解離させないが、全ての残りの側鎖保護基を解離させる、トリフルオロ酢酸又はフッ化水素(HF)などの試薬を用いて、該所望ペプチドを該樹脂支持体から分離させる。クロロメチル化樹脂を使用する場合、フッ化水素処理は、遊離ペプチド酸の形成をもたらす。ベンズヒドリルアミン樹脂を使用する場合、フッ化水素処理は、遊離ペプチドアミドを直接的にもたらす。あるいは、クロロメチル化樹脂を使用する場合、該側鎖保護化ペプチドは、ペプチド樹脂をアンモニアを用いて処理することで分離させて所望の側鎖保護化アミドを与えることができ、又はペプチド樹脂をアルキルアミンを用いて処理することで分離させて側鎖保護化アルキルアミド又は側鎖保護化ジアルキルアミドを与えることができる。側鎖保護をそれから、通常の様式であるフッ化水素を用いた処理で除去し、遊離アミド、遊離アルキルアミド又は遊離ジアルキルアミドを与える。
【0048】
これらの固相ペプチド合成法は当業者に既知であり、J.M. Stewart及びJ.D. Youngの文献, 1984 『固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Syntheses)』第2版, Pierce Chemical Company社によってさらに記載される。
1990年3月7日に出願された米国特許出願出願番号第07/492,462号;1990年12月6日に出願された出願番号第07/624,120号;及び1991年12月6日に出願された出願番号第07/805,727号;に記載される、「コード化合成ライブラリー(encoded thynthetic library)」又は「非常に大規模な固定化重合体合成(very large scale immobilized polymer synthesis)」系を使用する場合、あるものはそのような活性を有するペプチドの最小サイズを測定することができるのみならず、またあるものは1又は2以上の残基で好ましいモチーフ(又はそのモチーフの最小サイズ)とは異なるペプチド基を形成させる全てのペプチドを作ることができる。その後、このペプチド収集物を、これらにが限定されないが、EphB1、EphB2及びEphB4を含むEph受容体のメンバーに結合する能力に関して選別することができる。この固定化重合体合成系又は他のペプチド合成法を使用して、本発明の全てのペプチド化合物の切断類似体及び欠損類似体並びにそれらの組み合わせを合成することも可能であることは理解される。
【0049】
(2.合成アミノ酸)
これらの方法を使用して、天然型で遺伝的にコードされる20種のアミノ酸以外のアミノ酸が、本発明の任意の化合物の1又は2以上で置換されたペプチドを合成することも可能である。例えばナフチルアラニンをトリプトファンと置換し、合成を促進することができる。本発明のペプチド内に置換可能な他の合成アミノ酸は、L−ヒドロキシプロピル、L−3,4−ジヒドロキシ-フェニルアラニル、L−d−ヒドロキシリジル(hydrokylysyl)及びD−d−メチルアラニルなどのdアミノ酸、βアミノ酸、及びイソキノリルを含む。Dアミノ酸及び非天然型合成アミノ酸もまた、本発明のペプチドに組み込むことが可能である(例えば、Robertsらの文献,1983 『ペプチド合成における非一般的なアミノ/酸(Unusual Amino/Acids in Peptide Synthesis)』5:341-449を参照されたい)。
【0050】
あるものは、20種の遺伝的にコードされたアミノ酸(又はDアミノ酸)の天然型側鎖を、他の側鎖、例えばアルキル、低級アルキル、環状4員環アルキル、環状5員環アルキル、環状6員環アルキル、環状7員環アルキル、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ、カルボキシ及びこれらの低級エステル誘導体などの基、及び4員複素環、5員複素環、6員複素環、7員複素環、で置換することが可能である。特に、プロリン残基の環サイズを5員から4員、6員又は7員へと変更したプロリン類似体を使用することができる。環状基は、飽和又は不飽和であり得、不飽和であるならば、芳香族又は非芳香族であり得る。複素環基は好ましくは、1以上の窒素、酸素及び/又は硫黄ヘテロ原子を含む。そのような基の例は、フラザニル、フリル、イミダゾリジニル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、モルホリニル (例えば、モルホリノ)、オキサゾリル、ピペラジニル (例えば、1−ピペラジニル)、ピペリジル (例えば、1−ピペリジル、ピペリジノ)、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾニリル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル (例えば、1−ピロリジニル)、ピロリニル、ピロリル、チアジアゾリル、チアゾリル、チエニル、チオモルホリニル (例えば、チオモルホリノ)、及びトリアゾリルを含む。これらの複素環基は、置換又は非置換であり得る。基が置換された場所において、該置換基は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、酸素、又は置換フェニル若しくは非置換フェニルであり得る。
【0051】
また、あるものはリン酸化によって、本発明のペプチドを容易に修飾することができ(例えば、W. Bannwarthらの論文,1996 Biorganic and Medicinal Cheinistiy Letters 6:2141-2146を参照されたい)、かつ本発明の化合物のペプチド誘導体を作成する他の方法は、Hrubyらの論文,1990 Biochem J 268:249-262に記載されている。それゆえ、本発明のペプチド化合物もまた、類似した生物活性を有するペプチド模倣体を製造するための基本材料として役立つ。
【0052】
(3.末端修飾)
当業者は、対応するペプチド化合物と同一の又は類似した所望の生物活性を有するが、溶解度、安定性及び加水分解及びタンパク質分解への感受性に関して、該ペプチドよりもより好ましい活性を有するペプチド模倣体を構築するのに、様々な技術が利用可能であることを理解する。例えば、Morganらの論文,1989 Ann Rep Med Chem 24:243-252を参照されたい。以下に、N末端アミノ基、C末端カルボキシル基で修飾したペプチド模倣体の製造方法、及び/又はペプチド中の1以上のアミド結合を非アミド結合へと変更する方法を記載する。2以上のそのような修飾を、1つのペプチド模倣体構造中でカップリング可能であることは理解される(例えば、C末端カルボキシル基での修飾、及び該ペプチド中の2つのアミノ酸間の-CH2-カルバメート結合の含有)。
【0053】
(1)N末端修飾)
ペプチドは通常、遊離酸として合成されるが、先に記載したように、アミド又はエステルとして容易に製造可能である。またあるものは、ペプチド化合物のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端を修飾して、他の有用な化合物を製造することができる。アミノ末端修飾は、メチル化(すなわち、-NHCH3又は-NH(CH3)2)、アセチル化、ベンジルオキシカルボニル基の付加、又はアミノ末端をRCOO-(式中、Rはナフチル、アクリジニル、ステロイジル及び類似基)によって定義されるカルボン酸官能性を含む任意の保護基で保護することを含む。カルボキシ末端修飾は、該遊離酸をカルボキサミド基で置換すること、又はカルボキシ末端で環状ラクタムを形成させて構造的に制限を導入すること、を含む。
【0054】
アミノ末端修飾は先に記載したようなものであり、アルキル化、アセチル化、カルボベンゾイル基の付加、スクシンイミド基の形成などを含む(例えば、Murrayらの文献,1995 『バーガーの医薬化学と創薬(Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery)』第5版, 1巻, Manfred B. Wolf編, John Wiley and Sons社を参照されたい)。具体的には、該N末端アミノ基をその後、以下のように反応させることが可能である:
【0055】
(a)酸ハロゲン化物[例えば、RC(O)Cl]、又は対称的無水物と反応させることにより、式RC(O)NH-のアミド基を形成させる(式中、Rは先に定義したものである。)通常、該反応は、約等モル又は過剰量(例えば、約5当量)の酸ハロゲン化物を、好ましくはジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの過剰量(例えば、約10当量)を含む不活性希釈剤(例えば、ジクロロメタン)中の該ペプチドに接触させ、反応中に生成する酸を除去することによって実施可能である。反応条件は、その他においては従来的である(例えば、室温で30分間)。低級アルキルN−置換を提供する末端アミノのアルキル化に続く、先に記載したような酸ハロゲン化物との反応は、式RC(O)NR-のNアルキルアミド基を提供する;
【0056】
(b)無水コハク酸との反応によって、スクシンイミド基を形成する。先に記載したように、約等モル又は過剰量の無水コハク酸(例えば、約5当量)を使用することができ、適切な不活性溶媒(例えば、ジクロロメタン)中で、ジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの過剰量(例えば、10当量)の使用を含む、当業者に既知の方法によって、該アミノ基をスクシンイミドに変換することができる。例えば、引用によってその全体が本明細書に組み込まれるWollenbergらの米国特許第4,612,132号を参照されたい。コハク酸を、例えば、従来の方式で調製したC2-C6アルキル又は-SR置換基で置換して、該ペプチドのN末端で置換スクシンイミドを提供し得ることは理解される。そのようなアルキル置換基を、上記参照のWollenbergらの文献に記載される方法で、低級オレフィン(C2-C6)と無水マレイン酸との反応で調製し、かつ-SR置換基を、RSHと無水マレイン酸との反応によって調製する(式中、Rは先に定義したようなものである);
【0057】
(c)好ましくは、該反応中に生じる酸を除去する第三級アミンを含む、適切な不活性希釈剤(例えば、ジクロロメタン)中での、約等量又は過剰量のCBZ-Cl (すなわち、ベンジルオキシカルボニルクロライド)又は置換CBZ-Clとの反応によって、ベンジルオキシカルボニル-NH-又は置換 ベンジルオキシカルボニル−NH−基を形成させる;
(d)不活性希釈剤(ジクロロメタン)中で、等量又は過剰量(例えば、5当量)のR-S(O)2Clとの反応によってスルホンアミド基を形成させ、末端アミンをスルホンアミドへと変換させる(式中、Rは先に定義したようなものである)。好ましくは、該不活性希釈剤は、ジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの過剰量(例えば、10当量)を含み、反応中に生じる酸を除去する。反応条件は、その他の点では従来型である(例えば、室温で30分間);
【0058】
(e)適切な不活性希釈剤(例えば、ジクロロメタン)中で、等量又は過剰量(例えば、5当量)のR-OC(O)Cl又はR-OC(O)OC6H4-p-NO2との反応によってカルバメート基を形成させ、末端のアミンをカルバメートへと変換させる(式中、Rは先に記載したようなものである)。好ましくは、該不活性希釈剤は、ジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの過剰量(例えば、約10当量)を含み、反応中に生じる全ての酸を除去する。反応条件は、その他の点では従来型である(例えば、室温で30分間);及び、
【0059】
(f)適切な不活性希釈剤(例えば、ジクロロメタン)中で、等量又は過剰量(例えば、5当量)のR-N=C=Oとの反応によって尿素基を形成させ、末端のアミンを尿素基(すなわち、RNHC(O)NH-)へと変換させる(式中、Rは先に記載したようなものである)。好ましくは、該不活性希釈剤は、ジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの過剰量(例えば、約10当量)を含む。反応条件は、その他の点では従来型である(例えば、室温で30分間)。
【0060】
(2)C末端修飾)
C末端カルボキシル基をエステル(すなわち、-C(O)OR(式中、Rは先に記載したようなものである))に置換するペプチド模倣体の製造において、該ペプチド酸を調製するために使用した樹脂を使用し、側鎖を保護したペプチドを、塩基及び適切なアルコール、例えばメタノールを用いて切断する。それから側鎖保護基を、フッ化水素を用いる普通の方法で除去し、所望のエステルを得る。
【0061】
C末端カルボキシル基をアミド-C(O)NR3R4で置換したペプチド模倣体の製造において、ベンズヒドリルアミン樹脂をペプチド合成用固相支持体として使用する。合成完了後すぐの、該支持体から該ペプチドを放出させるフッ化水素処理は、遊離ペプチドアミド(すなわち、C末端が-C(O)NH2)を直接的にもたらす。あるいは、アンモニアを用いた反応と共役したペプチド合成の間におけるクロロメチル化樹脂の使用は、該支持体から側鎖保護化ペプチドを切断して遊離ペプチドアミドを生じ、かつアルキルアミン又はジアルキルアミンを用いた反応は、アルキルアミド又はジアルキルアミドで保護された側鎖(すなわち、C末端が-C(O)NRR1であり、ここでR及びR1は先に記載したようなものである)を生じる。それから、側鎖保護物を、フッ化水素を用いた処理による一般的方法で除去し、遊離のアミド、アルキルアミド又はジアルキルアミドを与える。
【0062】
別の代替的実施態様において、C末端カルボキシル基又はC末端エステルを、カルボキシル基の-OH又はエステル(-OR)と、それぞれN末端アミノ基との内部置換することによって環化させ、環状ペプチドを形成させることができる。例えば、合成及び切断後に該ペプチド酸を与え、該遊離酸を、溶液、例えばメチレンクロライド (CH2Cl 2)、ジメチルホルムアミド(DMF)混合物中で、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの適切なカルボキシル基活性化因子によって、活性化エステルへと変換する。それから該環状ペプチドを、N末端アミンと該活性化エステルとの内部置換によって形成させる。重合とは対照的に、内部環化は、非常に低濃度の溶液の使用で促進させることができる。そのような方法は当業者に周知である。
【0063】
またあるものは、プロテアーゼへの感受性を減少させる、又は該ペプチドの立体構造を制限させるために、本発明のペプチドを環化させる、又は末端アミノ基又は末端カルボキシル基が存在しないように、該ペプチドの末端でデスアミノ残基若しくはデスカルボキシ残基を組み込むことができる。本発明の化合物のC末端の官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ及びカルボキシ、並びにそれらの低級エステル誘導体、及びそれらの医薬として許容し得る塩を含む。
【0064】
前述のN末端及びC末端修飾に加えて、本明細書に記載のペプチド模倣体を含むペプチド化合物は、都合に合わせて、1以上の様々な親水性重合体で修飾又は該重合体に共有結合的にカップリングさせることができる。該ペプチド化合物を親水性重合体で誘導体化した場合、それらの溶解度及び循環系での半減期は増大し、かつそれらの免疫原性は隠されることを見出した。非常に驚くべきことに、前述のものは、それらの結合活性における減退が、たとえあったとしてもわずかで達成可能である。使用に適切な非タンパク質性重合体は、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールに例示されるようなポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオキシアルケン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース及びセルロース誘導体、デキストラン及びデキストラン誘導体などを含む。一般的に、そのような親水性重合体は、約500〜約100,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約40,000ダルトン、さらにより好ましくは約5,000〜約20,000ダルトンの平均分子量を有する。好ましい実施態様において、そのような親水性重合体は、約5,000ダルトン、約10,000ダルトン及び約20,000ダルトンの平均分子量を有する。
【0065】
該ペプチド化合物は、これら全てが引用によって本明細書に組み込まれる、Zallipsky, S.の論文 1995 Bioconjugate Chern 6:150-165;Monfardini, Cらの論文, 1995 Bioconjugate Chem 6:62-69;米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号;第4,179,337号;又はWO 95/34326に記載のいずれかの方法を使用して、そのような重合体を誘導体化する又は該重合体にカップリングさせることが可能である。
【0066】
一実施態様において、該ペプチド化合物を、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて誘導体化する。PEGは、2つの末端ヒドロキシル基を有する、エチレンオキシド繰り返し単位の直鎖状の水溶性重合体である。PEGは、通常、約500ダルトン〜約40,000ダルトンの分子量によって分類される。本明細書の好ましい実施態様において、使用するPEGは、5,000ダルトン〜約20,000ダルトンの分子量を有する。本発明のペプチド化合物にカップリングするPEGは、分枝又は非分枝のいずれかであり得る(例えば、Monfardini, C.らの論文. 1995 Bioconjugate Chem 6:62-69を参照されたい)。PEGは、Shearwater Polymers社 (Huntsville, Ala.)、Sigma Chemical社、及び他の会社から販売されている。そのようなPEGは、これらには限定されないが、モノメトキシポリエチレングリコール(MePEG-OH)、モノメトキシポリエチレングリコール-コハク酸(MePEG-S)、モノメトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルコハク酸(MePEG-S-NHS)、モノメトキシポリエチレングリコール-アミン(MePEG-NH2)、モノメトキシポリエチレングリコール-トレシレート(tresylate)(MePEG-TRES)、及びモノメトキシポリエチレングリコール-イミダゾリル-カルボニル(MePEG-IM)を含む。
【0067】
手短に言うと、模範的一実施態様において、使用する親水性重合体、例えばPEGは、好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基などの非反応性基で一方の末端を覆う。その後、該重合体を、シアヌル酸ハロゲン化物(例えば、シアヌル酸塩化物、シアヌル酸臭化物、又はシアヌル酸フッ化物)、ジイミダゾール、無水物試薬(例えば、ジブロモ無水コハク酸などのジハロ無水コハク酸)、アシルアジド、p−ジアゾニウムベンジルエーテル、3−(p−ジアゾニウムフェノキシ)−2−ヒドロキシプロピルエーテル)などの適切な活性化剤との反応によって、もう一方の末端で活性化させる。該活性化重合体をそれから、本明細書の先に記載したようなペプチド化合物と反応させ、重合体を用いて誘導体化ペプチド化合物を製造する。あるいは、本発明のペプチド化合物中の官能基を該重合体との反応で活性化させることができ、又は該2つの基を既知のカップリング方法を使用する協調的なカップリング反応で連結することができる。本発明のペプチド化合物を、当業者に既知でかつ使用される無数の他の反応スキームを使用して、PEGを用いて誘導体化させることができることは、容易に理解される。
【0068】
いくつかの実施態様において、該誘導体化ペプチドは、非修飾ペプチドの約0.1〜約0.01倍の活性を有する。さらに他の実施態様において、該誘導体化ペプチドは、非修飾ペプチドの約0.1〜約1倍の活性を有する。さらに他の実施態様において、該誘導体化ペプチドは、該非修飾ペプチドよりも、より高い活性を有する。
本明細書の実施態様における使用に適切なペプチドは、一般的にはペプチド、すなわち、これらに限定されないが、EphB1、EphB2、EphB3又はEphB4を含むEph受容体のメンバーに結合するリガンドを含む。そのようなペプチドは、典型的には、約50アミノ酸残基以下、より好ましくは約20アミノ酸以下を含む。本発明の使用に適切な親水性重合体は、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどに例示されるようなポリアルキルエーテル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオキシアルケン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース及びセルロース誘導体、デキストラン及びデキストラン誘導体、などを含む。一般的に、そのような親水性重合体は、約500〜約100,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約40,000ダルトン、さらにより好ましくは約5,000〜約20,000ダルトンの平均分子量を有する。いくつかの実施態様において、そのような親水性重合体は、約5,000ダルトン、約10,000ダルトン及び約20,000ダルトンの平均分子量を有する。該ペプチド化合物は、先に記載した方法、及び引用文献中に記載の方法を使用して誘導体化することができる。
【0069】
(4.骨格修飾)
該化合物のペプチド誘導体を作成する他の方法は、引用によって本明細書に組み込まれるHrubyらの論文,1990 Biochem J 268(2):249-262に記載される。それゆえ、該ペプチド化合物もまた、類似した生物活性を有する非ペプチド化合物の構造的モデルとして機能する。当業者は、様々な技術が、リード化合物と同一の又は類似の所望の生物活性を有するが、溶解度、安定性、並びに加水分解及びタンパク質分解への感受性に関しては、該リードペプチド化合物よりもより好ましい活性を有する化合物を構築するのに有用であることを理解する。引用によって本明細書に組み込まれるMorganらの論文,1989 Ann Rep Med Chem 24:243-252を参照されたい。これらの技術は、ペプチド骨格を、ホスホン酸、アミド、カルバメート、スルホンアミド、第二級アミン、及びN−メチルアミノ酸からなる骨格で置換することを含む。
【0070】
1以上のペプチジル結合[-C(O)NH-]を、-CH2-カルバメート結合、ホスホン酸結合、-CH2-スルホンアミド結合、尿素結合、第二級アミン(-CH2NH-)結合、及びアルキル化ペプチジル結合[-C(O)NR6-(式中、R6は低級アルキル)]のような結合で置換したペプチド模倣体を、合成の間に適切な部分で、該アミノ酸試薬の代わりに、適切に保護化されたアミノ酸類似体を単に置換することによって、従来的なペプチド合成の間に調製する、
【0071】
適切な試薬は、例えば、アミノ酸のカルボキシル基が、先に記載した結合の1つを形成するのに適切な成分で置換されたアミノ酸類似体を含む。例えば、あるものが、該ペプチド中の-C(O)NR-結合を、-CH2-カルバメート結合(-CH2OC(O)NR-)で置換することを所望する場合、それから適切に保護化したアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)をはじめに-CH2OH基へと還元し、これをそれから従来法によって、-OC(O) Cl官能性、又はパラ−ニトロ炭酸-OC(O)O-C6H4-p-NO2官能性へと変換する。固相支持体上に見出される、部分的に加工したペプチドのN末端の遊離アミン又はアルキル化アミンを有するいずれかのそのような反応は、-CH2OC(O) NR-結合の形成をもたらす。そのような-CH2-カルバメート結合形成のより詳細な説明に関しては、Choらの論文,1993 Science 261:1303-1305を参照されたい。
【0072】
同様に、該ペプチド中のアミド結合のホスホン酸結合との置換は、その開示がそれらの全体が引用により本明細書に組み込まれる、米国特許出願番号第07/943,805号、第08/081,577号及び第08/119,700号に記載の方法で達成できる。
該ペプチド中のアミド結合の、-CH2-スルホンアミド結合との置換は、適切に保護したアミノ酸のカルボキシル基(-COOH)を、-CH2OHへと還元することによって達成することができ、それから該ヒドロキシル基を従来法によってトシル基などの適切な離脱基に変換する。トシラート化誘導体と、例えばチオ酢酸との反応に続く、加水分解及び酸化的塩基化は-CH2-S(O)2Cl官能基を与え、これが他の部分は適切に保護されたアミノ酸のカルボキシル基を置換する。ペプチド合成における、適切に保護されたこのアミノ酸類似体の使用は、-CH2S(O)2NR-結合の含有を与え、これは該ペプチド中のアミド結合を置換することによってペプチド模倣体を与える。アミノ酸のカルボキシル基から-CH2S(O)2Cl基への変換のより完全な記載に関しては、例えば、引用によって本明細書に組み込まれるWeinstein, B.の文献, 1983 『アミノ酸、ペプチド及びタンパク質の化学並びに生化学(Chemistry & Biochemistry of Amino Acids, Peptides and Proteins)』7巻, 267-357頁, Marcel Dekker社, New Yorkを参照されたい。
【0073】
該ペプチド中におけるアミド結合の尿素結合との置換は、その全てが引用によって本明細書に組み込まれる米国特許出願番号第08/147,805号に記載の方法で達成することができる。
該ペプチドにおいて、-CH2NH-結合がアミド結合を置換した第二級アミン結合は、例えば従来法で、アミド結合のカルボニル結合をCH2基へと還元した、適切に保護されたジペプチド類似体を使用して調製可能である。例えば、ジグリシンの場合、該アミドからアミンへの還元は、脱保護後にH2NCH2CH2NHCH2COOHを生じ、これをそれから次のカップリング反応のN−保護形態で使用する。ジペプチド中のアミド結合のカルボニル基の還元による、そのような類似体の製造は当業者に周知である(例えば、M.W. Remingtonの論文 1994 Meth Mol Bio 35:241-247を参照されたい)。
【0074】
適切に保護したアミノ酸類似体を、対応するアミノ酸と同じ様式で、従来型のペプチド合成に使用する。例えば、典型的には保護化アミノ酸類似体の約3当量をこの反応に使用する。塩化メチレン又はDMFなどの不活性有機希釈剤を使用して、酸が反応副産物として生じる場合、該反応溶媒は典型的には過剰量の第三級アミンを含み、該反応中に生じる酸を除去する。特に好ましい第三級アミンはジイソプロピルエチルアミンであり、これを典型的には約10倍過剰で使用する。該反応は、非ペプチジル結合を有するアミノ酸類似体のペプチド模倣体への取り込みをもたらす。そのような置換は、該ペプチド中のゼロから全てのアミド結合を非アミド結合で置換するように、要望通り繰り返すことができる。
【0075】
また、あるものは、末端アミノ基又はカルボキシル基がなくなるように、該ペプチドを環化させ、又は該ペプチド末端でデスアミノ残基若しくはデスカルボキシ残基を取り込ませ、プロテアーゼへの感受性を減少させる又は該ペプチドの立体構造を制限することができる。該化合物のC末端官能基は、アミド、アミド低級アルキル、アミドジ(低級アルキル)、低級アルコキシ、ヒドロキシ及びカルボキシ、並びにそれらの低級エステル誘導体、及びそれらの医薬として許容し得る塩を含む。
【0076】
(5.ジスルフィド結合形成)
該化合物は、システインのチオール基間の分子間ジスルフィド結合を有する環状形態で存在してもよい。あるいは、システインのチオール基間の分子内ジスルフィド結合を生成して、二量体(又はそれより大きいオリゴマー)化合物を得ることができる。また、1以上のシステイン残基をホモシステインで置換してもよい。
本発明の他の実施態様は、その硫黄の1つを、CH2基又は硫黄の他のアイソスターで置換した、これらのジスルフィド誘導体の類似体を含む。これらの類似体は、当業者に既知の方法を使用して、分子内置換又は分子間置換を介して作成することができる。
【0077】
あるいは、該ペプチドのアミノ末端を、アルファ置換酢酸(ここでアルファ置換基は、α−ハロ酢酸、例えばα−クロロ酢酸、α−ブロモ酢酸又はα−ヨード酢酸などの脱離基である。)で覆うことができる。本発明の化合物を、システイン又はホモシステイン残基の硫黄により、脱離基の置換を介して、環状又は二量体化させることができる。例えば、各々が引用によって本明細書に組み込まれる、Andreuらの論文 1994 Meth Mol Bio 35(7):91-l69;Barkerらの論文 1992 J Med Chem 35:2040-2048;及びOrらの論文 1991 J Org Chem 56:3146-3149;を参照されたい。
また、該ペプチドを、当業者に周知の組換えDNA技術で製造してもよい。
【0078】
(Eph受容体結合化合物を用いたEph受容体の調節)
本明細書に記載のEph受容体結合化合物は、細胞のEph活性を調節することができる。Eph活性を調節するEph受容体結合化合物は、本明細書に記載のペプチド又はペプチド模倣体を含み、これらはEph受容体ファミリーの1以上のメンバーに結合する。本発明のいくつかの実施態様において、Eph受容体結合化合物は、本明細書で記載の、単一ペプチド又はペプチド模倣体のみを含む。本発明のいくつかの実施態様において、細胞を、Eph受容体のリン酸化を引き起こすのに効果的な量で、Eph受容体結合化合物と接触させ、それによって下流のシグナル伝達事象を活性化させる。いくつかの実施態様において、細胞を、エフリンリガンドによる受容体のリン酸化を妨げるのに効果的な量で、Eph受容体結合化合物と接触させ、それによって受容体活性を阻害する。他の実施態様において、該細胞を、下流のシグナル伝達事象の活性化又は不活化をもたらすのに効果的な量で、Eph受容体結合化合物と接触させることが可能である。下流のシグナル伝達事象の活性化又は不活化をもたらすのに効果的なEph受容体結合化合物の量は、少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.2μM、少なくとも0.3μM、少なくとも0.4μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μM、少なくとも1μM、少なくとも5μM、少なくとも10μM、少なくとも20μM、少なくとも30μM、少なくとも40μM、少なくとも50μM、少なくとも60μM、少なくとも70μM、少なくとも80μM、少なくとも90μM、少なくとも100μM又は少なくとも200μMの濃度を含む。本明細書に記載されない他の有効濃度の決定は、当業者によって容易に決められ得る。
【0079】
本発明のいくつかの実施態様において、興味あるEph受容体を、インビトロ(in vitro)及びインビボの両方において、細胞内で調節する。いずれかの用途に関して、Ephファミリー受容体の少なくとも1メンバーを発現する細胞は、ヒト細胞を含むがこれに限定されない任意の細胞であり得る。
他の実施態様において、EphBサブファミリーの受容体を調節する。そのような受容体は、EphB1、EphB2、EphB3、EphB4、EphB5及びEphB6を含む。特定の実施態様において、EphB1受容体発現細胞を、この受容体の活性を調節してその後の下流シグナル伝達事象を調節するために、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体又は小分子の有効量に接触させる。他の実施態様において、EphB2受容体発現細胞を、この受容体の活性を調節してその後の下流シグナル伝達事象を調節するために、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体又は小分子の有効量に接触させる。他の実施態様において、EphB4受容体発現細胞を、この受容体の活性を調節してその後の下流シグナル伝達事象を調節するために、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体又は小分子の有効量に接触させる。
【0080】
Ephファミリー受容体の特定のメンバーの刺激を、アポトーシス(プログラム細胞死)の活性化に関与させる。したがって、特定の型の腫瘍細胞などの、Eph受容体を過剰発現している特定の細胞におけるプログラム細胞死の活性化は、望ましくない細胞集団の選択的致死に有用であり得る。さらに、プログラム細胞死の標的細胞型において、特定の過剰発現Eph受容体の選択的アゴニストとして機能するEph受容体結合化合物は、非標的化細胞を死滅させずに標的細胞を除去する方法を提供し得る。
【0081】
本発明のいくつかの実施態様において、Eph受容体ファミリーの特定のメンバーの選択的アゴニスト又はアンタゴニストとして機能する、Eph受容体結合化合物の投与方法を検討する。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体又は小分子などの選択的アゴニストを使用して、ヒトを含む哺乳動物に、そのようなペプチド、ペプチド模倣体又は小分子の有効量を投与することにより、プログラム細胞死を活性化させることができる。特定の実施態様において、該アゴニストは、EphB1受容体、EphB2受容体又はEphB4受容体に結合し、それによってエフリン−B1又はエフリン−B2の該受容体への結合を競合的に阻害する。他の実施態様において、該アゴニストの結合は、該受容体のリン酸化を刺激する。
【0082】
哺乳動物への投与に有効なアゴニストの量は、1日あたり、体重の約0.001mg〜約50mg/kgの範囲であり得る。該有効量は、これらに限定されないが、アゴニストの投与経路、アゴニストの結合親和性、標的細胞でのEph受容体発現レベル、及び非標的細胞でのEph受容体発現レベルを含む因子によって決まる。しかしながら、アゴニストの有効量の決定は、当業者によって容易に決定されることは理解される。
【0083】
(治療剤及び治療的送達剤としてのEph受容体結合化合物)
また、本明細書に記載のEph受容体結合化合物を、ヒトを含む温血動物に投与し、インビボでEph受容体を調節することもできる。例えば、本明細書に記載の特定のペプチドを使用して、EphB1、EphB2、EphB3又はEphB4を選択的に活性化させる又は阻害することが可能である。それゆえ、本発明は、インビボでEph受容体を活性化させる又は阻害するのに十分な量で、そのような化合物を投与することを含む、Eph関連疾患の治療的処置方法を含む。
【0084】
Eph受容体の標的化もまた、ガン及び他の疾患への治療的介入を可能にする。本明細書に記載のEph受容体結合化合物を使用して、細胞毒性剤を疾患組織の血管に送達することができる。実際に、化学療法薬剤、毒素、又はアポトーシス促進性ペプチドに連結した血管標的化ペプチドは、腫瘍成長を低下させ、臨床的関節炎を抑制し、又は前立腺組織を破壊することが可能である(Arap, W.らの論文. 1998 Science 279:377-3 80;Olson, T.A.らの論文. 1997 Int J Cancer 73:865-870;Ellerby, H.M.らの論文. 1999 Nat Med 5:1032-1038;Arap, W.らの論文. 2002 PNAS USA 99:1527-1531;Gerlag, D.M.らの論文 2001 Arthritis Research 3:357-361)。例えば、アゴニストによって引き起こされるEphA2のチロシンリン酸化は、該受容体及び該アゴニストの内在化を仲介し(Zantek, N.D.らの論文. 1999 Cell Growth Differ 10:629-638;Carles-Kinch, K.らの論文. 2002 Cancer Res 62:2840-2847;Van der Geer, P.らの論文. 1994 Annu Rev Cell Biol 10:251-337)、それゆえ、毒素又はアポトーシス促進性物質を細胞内に送達し、選択的に細胞を死滅させることができる(Ellerby, H.M.らの論文. 1999 Nat Med 5:1032-1038)。さらに、本明細書に記載のEph受容体結合化合物によって誘導されるEphA2の活性化は、EphA2発現ガン細胞の増殖、侵襲性及び転移性挙動を低減させることができる(Zantek, N.D.らの論文. 1999 Cell Growth Differ 10:629-638;Carles-Kinch, K.らの論文. 2002 Cancer Res 62:2840-2847;Miao, H.らの論文. Nature 2000 Cell Biol 2:62-69)。EphA2活性化が、乳ガン細胞及び前立腺ガン細胞の悪性度の減少に対応し、かつEphA2過剰発現の形質転換効果を逆転させることは、当業者に既知である(Zelinski, D.P.らの論文. 2002 J Cell Biochein 85:714-720;Zantek, N.D.らの論文. 1999 Cell Growth Differ 10:629-638;Carles-Kinch, K.らの論文. 2002 Cancer Res 62:2840-2847)。本明細書に開示の組成物によるEphA2の活性化は、本明細書に記載のEph受容体結合化合物を使用して細胞毒性剤を送達する場合に、アポトーシス性の刺激に細胞を感受性にすることができる(Dohn, M.らの論文. 2001 Oncogene 20:6503-6515)。
【0085】
本明細書で使用するように、用語「腫瘍」及び「腫瘍性疾患」は、全ての細胞の異常な成長又は非制御的増殖を意味し、これは正常組織の浸潤をもたらす可能性があることが理解される。また、該用語は、転移した異常な細胞増殖又は非制御的細胞増殖を含む、すなわち身体の一次部位(すなわち、一次腫瘍)から、該一次腫瘍から空間的に除去された二次部位へと拡がった異常細胞を含む。
【0086】
本明細書に記載のEph受容体結合化合物を様々な腫瘍、例えば、乳ガン、前立腺ガン、腎臓ガン、カポジ肉腫、結腸直腸ガン、子宮頸ガン、卵巣ガン、子宮内膜ガン、肺ガン、脳腫瘍、皮膚性T細胞リンパ腫、頭頸部ガン、気道消化管経路のガン、膵臓ガン、黒色腫、膀胱ガン、肉腫、白斑症、急性前骨髄性白血病など、間葉由来の腫瘍(肉腫)、すなわち、線維肉腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;軟骨肉腫;骨原生肉腫;血管肉腫;内皮腫;リンパ管肉腫腫;滑膜腫;中皮腫;中皮肉腫;ユーイング(Ewing's)腫瘍;骨髄性白血病;単球性白血病;悪性リンパ腫;リンパ球性白血病;形質細胞腫;平滑筋肉腫 及び横紋筋肉腫;の治療に使用することができることを意図する。
【0087】
さらに、本明細書に記載のEph受容体結合化合物は、上皮由来の腫瘍(ガン)、すなわち、扁平樹皮細胞ガン又は表皮ガン;基底細胞ガン;汗腺ガン;皮脂腺ガン;腺ガン;乳頭ガン;乳頭腺ガン;嚢胞腺ガン;髄様ガン;未分化ガン (単純ガン);気管支原生ガン;気管支ガン;黒色ガン;腎臓細胞ガン;肝細胞ガン;胆管ガン;乳頭ガン;移行上皮ガン;扁平上皮ガン;絨毛ガン;精上皮腫;胚性癌腫 悪性奇形腫及び奇形ガン;の治療に使用し得ることを意図する。
【0088】
本発明のいくつかの実施態様は、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体及び小分子などのEph受容体結合化合物に連結させた治療剤を含む複合体を意図する。そのような複合体を、治療の必要がある動物へ適切な複合体を投与することによって、適切なEph受容体を発現する標的細胞に送達することができる。いくつかの実施態様において、該治療剤は治療に関与する。他の実施態様において、該治療剤及び該Eph受容体結合化合物の両方が治療に寄与する。いくつかの実施態様において、該治療剤は造影剤である。
【0089】
興味あるEph受容体に結合するEph受容体結合化合物を、リンカーを用いて治療剤に連結させる。該リンカーは、該Eph受容体結合化合物及び該治療剤を同じ領域、組織又は細胞へと標的化し得る、任意の結合、小分子又は他の媒体であり得る。好ましくは、該リンカーは開裂可能である。
一実施態様において、該リンカーは、1以上のEph受容体結合化合物と1以上の治療剤との間の化学結合である。それゆえ、該結合は、共有結合又はイオン結合であり得る。該リンカーが化学結合である複合体の例は、融合タンパク質であり得る。一実施態様において、該化学結合は、pH感受的結合である。あるいは、該結合はpH感受的でなくてもよいが、後に添加する、又は標的部位の微小環境に自然に見出される、特定の酵素又は化学物質によって開裂可能であってよい。あるいは、該結合は、還元条件下、例えばジスルフィド結合で切断される結合であってよい。あるいは、該結合は開裂可能でなくてもよい。
【0090】
全ての種類のpH開裂可能なリンカー又はpH感受的なリンカーを使用してよい。酸で開裂可能な結合の例は、これらに限定されないが、シス−ポリカルボン酸アルケンとして知られる有機酸のクラスを含む。このクラスの分子は、少なくとも1つの二重結合を含む炭素鎖に連結した、少なくとも3つのカルボン酸基(COOH)を含む。それらがどのように製造され使用されるかのみならず、これらの分子は、Shenらの文献,米国特許第4,631,190号(引用によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。あるいは、穏和な酸性環境下で開裂可能なアミノ−スルフヒドリル架橋試薬などの分子を使用してもよい。これらの分子は、Blattlerらの文献米国特許第4,569,789号(引用によって本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0091】
あるいは、該開裂可能なリンカーは、生分解性結合、加水分解性結合などの徐放性結合であってよい。典型的な生分解性担体の結合は、エステル結合、アミド結合又はウレタン結合を含み、典型的な担体は、約5,000〜1,000,000の分子量を有するポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、及び他の縮合重合体のようなものでる。これらの担体/結合の例は、Petersonらの文献、米国特許第4,356,166号(引用によって本明細書に組み込まれる)に示されている。他の酸で開裂可能なリンカーは、米国特許第4,569,789号及び第4,631,190号(引用によって本明細書に組み込まれる)、又はBlattlerらの論文. 1985 Biochemistry 24:1517-1525に見出すことができる。該リンカーを自然な酸性条件で切断する、あるいは、酸性条件はAbramsらの文献、米国特許第4,171,563号(引用によって本明細書に組み込まれる)に説明されるような標的部位で誘起させることができる。
【0092】
開裂可能なジスルフィド結合(還元可能な結合)を含む連結試薬の例は、これらに限定されないが、"DPDPB"、1,4-ジ-[3'-(2'-ピリジルジチオ)プロピオンアミド] ブタン;"SADP"、(N-スクシンイミジル(4-アジドフェニル) 1,3'-ジチオプロピオン酸);スルホ-SADP" (スルホスクシンイミジル (4-アジドフェニルジチオ)プロピオン酸;"DSP" ジチオ ビス (スクシンイミジルプロピオン酸);"DTSSP"-3,3'-ジチオ ビス (スルホスクシンイミジルプロピオン酸);"DTBP"-ジメチル 3,3'-ジチオビスプロピオンイミダート-2 HClを含み、これら全てはPierce Chemicals社 (Rockford, Illinois)から入手可能である。
【0093】
酸化によって開裂可能な連結試薬の例は、"DST"-ジスクシンイミジル酒石酸;及び"スルホ-DST"-ジスクシンイミジル酒石酸である。これらのリンカーもPierce Chemicals社から入手可能である。
非開裂型リンカーの例は、"スルホ-LC-SMPT"-(スルホスクシンイミジル 6-[アルファ-メチル-アルファ-(2-ピリジルチオ) トルアミド] ヘキサン酸;"SMPT";"ABH"-アジドベンゾイルヒドラジド;"NHS-ASA"-N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸;"SASD"-スルホスクシンイミジル 2-(p -アジドサリチルアミド)エチル-1,3-ジチオプロピオン酸;"APDP"-N-[4-(p-アジドサリチルアミド) ブチル]-3' (2'-ピリジルジチオ) プロピオンアミド;"BASED"-ビス-[ベータ-(4-アジドサリチルアミド)エチル] ジスルフィド;"HSAB"-N-ヒドロキシスクシンイミジル-4 アジド安息香酸;"APG"-p-アジドフェニルグリオキサール一水和物;"SANPAH"-N-Succiminidyl-6(4'-アジド-2'-mitroフェニル-amimo)ヘキサン酸;"スルホ-SANPAH"-スルホスクシンイミジル-6-(4'-アジド-2-ニトロフェニルアミノ)ヘキサン酸;"ANB-NOS"-N-5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド;"SAND"-スルホスクシンイミジル-2-(m-アジド-o-ニトロベンズアミド)-エチル-1,3'-ジチオプロピオン酸;"PNP-DTP"-p-ニトロフェニル-2-ジアゾ-3,3,3-トリフルオロプロピオン酸;"SMCC"-スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル) シクロヘキサン-1-カルボン酸;"スルホ-SMCC"-スルホスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸;"MBS"-m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル;"スルホ-MBS"-m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル;"SIAB"-N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル) アミノ安息香酸;"スルホ-SIAB"-N-スルホスクシンイミジル(4-ヨードアセチル) アミノ安息香酸;"SMPB"-スクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェニル)酪酸;"スルホ-SMPB"-スルホスクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェニル)酪酸;"DSS"-ジスクシンイミジルスベリン酸;"BSSS"-ビス(スルホスクシンイミジル)スベリン酸;"BMH"-ビスマレイミドヘキサン;"DFDNB"-1, 5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン;"DMA"-ジメチルアジピミダート 2 HCl;"DMP" ジメチルピメリミダート-2HCl;"DMS"-ジメチルスベリミダート-2-HC1;"SPDP"-N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルチオ) プロピオン酸;" スルホ-HSAB"-スルホスクシンイミジル 4-(p-アジドフェニル)酪酸;"スルホ-SAPB"-スルホスクシンイミジル 4-(p-アジドフェニル酪酸);"ASIB"-1-9p-アジドサリチルアミド)-4-(ヨードアセトアミド)ブタン;"ASBA"-4-(p-アジドサリチルアミド)ブチルアミンである。これら全てのリンカーは、Pierce Chemicals社から入手可能である。
【0094】
別の実施態様において、該リンカーは、ペプチドリンカーなどの小分子である。一実施態様において、該ペプチドリンカーは、開裂不可能である。さらなる実施態様において、該ペプチドリンカーは、還元条件下で塩基によって、又は特定の酵素で開裂可能である。一実施態様において、該酵素は常在性である。あるいは、該小ペプチドは、後に、又は治療的複合体に加えて投与される非常在性酵素によって開裂可能であってもよい。あるいは、該小ペプチドは、例えば、該ペプチドがジスルフィド結合を含む場合、還元条件下で切断してもよい。あるいは、該小ペプチドはpH感受性であってもよい。ペプチドリンカーの例は、ポリ(L-Gly)、(ポリ L-グリシンリンカー) ;ポリ(L-Glu)、(ポリ L-グルタミンリンカー);ポリ(L-Lys) 、(ポリ L-リジンリンカー)を含む。一実施態様において、該ペプチドリンカーは、式(アミノ酸)を有し、式中、nは2〜100の整数であり、好ましくは該ペプチドは、1以上のアミノ酸の重合体を含む。
【0095】
さらなる実施態様において、該ペプチドリンカーは、プロテイナーゼによって開裂可能である(Suzukiらの論文,1998 J Biomed Mater Res 42:112-6)。一実施態様において、該リンカーは開裂可能なリンカーであり、酵素サーモリシンによって開裂可能な、ポリ(エチレングリコール) (PEG)及びジペプチドであるL-アラニル-L-バリン(Ala-Val)を含む(Goyalらの論文,2000 Biochem J 345:247-254)。
【0096】
化学リンカー及びペプチドリンカーは、複合体合成(conjugate synthesis)の当業者に既知の技術、すなわち遺伝子工学を使用して、又は化学的に、該Eph受容体結合化合物と該治療剤との間に結合し得る。該複合体合成は、適切な官能基の他の部分へのタンパク質の古典的カップリング反応による適切な抗体を介して、化学的に達成することができる。タンパク質中に存在し、かつ化学的カップリング反応に一般的に使用される官能基の例の概要を以下に示す。炭水化物構造をアルデヒド基に酸化させ、これを次にH2NN-R(式中、Rは該化合物である。)を含む化合物と反応させ、C=NH-NH-R基を形成してもよい。チオール基(タンパク質中のシステイン)を、チオール反応基を含む化合物と反応させ、チオエーテル基又はジスルフィド基を形成してもよい。アミノ酸残基における遊離アミノ基(タンパク質のアミノ末端又はリジン)を、活性化カルボキシ基などの求電子基を含む化合物と反応させ、アミド基を形成してよい。アミノ酸残基における遊離カルボキシル基を反応性カルボキシル基に転換させ、その後、アミノ基を含む化合物を反応させ、アミド基を形成してもよい。
【0097】
Eph受容体結合化合物に連結させる治療剤は、所望の結果をもたらす任意の化学物質、分子、又は複合体であってよい。該例は、これらに限定されないが、抗生物質、抗腫瘍剤、免疫抑制剤、ホルモンなどの従来的医薬品、1以上の遺伝子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、造影剤、タンパク質、毒素、放射性分子又は原子、界面活性タンパク質、ナノ粒子、又は凝固タンパク質を含む。該治療剤は脂溶性で、標的細胞に入るのを助ける特性であってよい。
【0098】
造影剤は、当業者に既知の全ての型の造影剤であってよい。最も一般的な造影剤は、基本的に4つの群の1つに含まれる:X線試薬、レントゲン写真試薬、磁気共鳴造影剤、量子ドット、ナノ粒子、及び超音波作用物質。X線試薬は、オムニパク(Omnipaque) (Nycomed社)及びウルトラビスト(Ultravist)(Schering社)などの非イオン性作用物質と同様、イオン性のヨウ素含有試薬を含む。レントゲン写真剤は、以下に記載するような放射性同位体を含む。磁気共鳴画像化試薬は、ガドリニウム及び酸化鉄キレートのような磁性作用物質を含む。超音波作用物質は、ガスの微小気泡、及び多くの泡放出製剤を含む。
【0099】
放射線核種は、診断的又は治療的であってよい。一般的に、医薬として有用な放射線核種は:90Y、111Ln、67Cu、77Lu、99TcなどのY、Ln、Cu、Lu、Tc、Re、Co、Feなどを含み、好ましくは90Y、111Lnなどの三価カチオンを含む。
診断的ガンマシンチレーション測光法を介して、インビボで、器官及び組織を画像化するのに適した放射線核種は、下記のものを含む:γ線放射核種:111Ln、113mLn、67Ga、68Ga、99mTc、51Cr、197Hg、203Hg、169Yb、 85Sr及び87Sr。Fab'フラグメントによる結合に適したキレート化放射線核種の製造は、引用により本明細書に組み込まれる米国特許第4,658,839号(Nicolettiらの文献)に教示されている。
【0100】
MRIにおける造影剤としての使用に適した常磁性金属イオンは、原子番号57〜70のランタニド元素、又は原子番号21〜29、42又は44の遷移金属を含む。米国特許第4,647,447号(Griesらの文献)は、キレート化常磁性金属イオンを介するMRI造影を教示し、これは引用によって本明細書に組み込まれる。
【0101】
治療的放射線核種の例は、β放射体である。適切なβ放射体は、67Cu、186Rh、188Rh、189Rh、153Sm、90Y及び111Lnを含む。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、正常遺伝子の過剰発現、又は異常遺伝子の発現によって引き起こされる全ての疾患の治療に、潜在的用途を有する。アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して、該遺伝子の発現を減少又は停止させることができる。アンチセンス技術で治療可能なガン遺伝子の例、及び使用可能な特異的アンチセンス分子を教示する文献は、以下のものを含む:c-Jun 及び cFos (引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,985,558号);HER-2 (引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,968,748号) B2F-1 (Popoffらの論文、米国特許第6,187,587号;これらは引用によって本明細書に組み込まれる)、SMAD1〜7 (米国特許第6,159,697号;第6,013,788号;第6,013,787号;第6,013,522号;及び第6,037,142号、これらは引用によって本明細書に組み込まれる)、及び Fas (Deanらによる米国特許第6,204,055号、これは引用によって本明細書に組み込まれる)。
【0102】
また、与えるのは、正常遺伝子の過剰発現、又は異常遺伝子の発現によって引き起こされる全ての疾患の治療におけるRNA干渉法の使用用二重鎖RNA分子である。RNA干渉(RNAi)は、転写後RNA分解による配列特異的遺伝子抑制のプロセスであり、これは、沈黙遺伝子(silenced gene)配列に相同な二重鎖RNA(dsRNA)によって開始される。RNAiに適する二重鎖RNA(dsRNA)は、標的遺伝子に一致する約21個の連続するヌクレオチドからなるセンス鎖及びアンチセンス鎖を含み、これが各々の3'末端で2個のヌクレオチドからなる突出末端を有する19個のRNA塩基対を形成する(Elbashirらの論文. 2001 Nature 411:494-498;Bassの論文, 2001 Nature 411:428-429;Zamoreの論文, 2001 Nat Struct Biol 8:746-750)。約25〜30個からなるdsRNAもまた、RNAiの成功のために使用される(Karabinosらの論文. 2001 PNAS 98:7863-7868)。dsRNAはインビトロで合成することができ、かつ当業者に既知の方法で細胞内に導入できる。そのような方法で、標的ポリペプチドの翻訳を低減させることが可能である。
【0103】
治療剤に使用してよいタンパク質は、細胞内に存在する場合にアポトーシスを誘導する、pRB及びp53などのアポトーシス誘導剤(引用によって本明細書に組み込まれるXuらの文献米国特許第5,912,236号)、及び疾患において欠失又は低発現である、エリスロポエチンなどのタンパク質(引用によって本明細書に組み込まれるSytkowskiらの文献米国特許第6,048,971号)を含む。
【0104】
該治療剤は、アルキル化剤(ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン、スルホン酸アルキル、ニトロソ尿素及びトリアゼン)、抗代謝剤 (メトトレキサート、ピリミジン類似体及びプリン類似体などの葉酸類似体) 、天然物及びそれらの誘導体 (抗生物質、アルカロイド、酵素) 、ホルモン及びアンタゴニスト (副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン)などの、腫瘍性疾患用の全ての化学療法剤であり得る。あるいは、該治療剤は、抗腫瘍性作用物質として作用するアンチセンスオリゴヌクレオチド、又は腫瘍細胞におけるアポトーシスを活性化させるタンパク質であり得る。
【0105】
該治療剤は、全ての型の神経作用剤であり得、例えば神経伝達物質、又は神経伝達物質アンタゴニストは、一般的にそれらの使用で経験される様々な副作用なしで必要とされる部位へ標的化してよい。
該治療剤は、オピオイドなどの麻酔剤であり得、これを痛みのある部分に特異的に標的化することができる。吐き気などの副作用は、オピオイド鎮痛剤を使用した患者に普通に経験される。本発明の方法は、外科的創傷又は関節炎の場合の関節などの、鎮痛剤が必要な部位へ該薬剤の非常に特異的な局在を可能にし、これは該副作用を減少し得る。
【0106】
該治療剤は、ヒスタミン、H1-受容体アンタゴニスト及びブラジキニンなどの抗炎症剤であり得る。あるいは、該抗炎症剤は、サリチル酸誘導体、インドール及びインデン酢酸などの非ステロイド性誘導体、並びにアルカノンであり得る。あるいは、該抗炎症剤は、コルチコステロイド、クロモグリク酸ナトリウム及びネドクロミルなどの、喘息治療剤であり得る。該抗炎症剤は、B選択的アドレナリン作動薬及びテオフィリンなどの気管支拡張薬とともに、又は該薬剤なしで、投与可能である。
【0107】
該治療剤は、利尿剤、バソプレシンアゴニスト又はアンタゴニスト、アンジオテンシン、若しくは患者の血圧に特異的に作用するレニンであり得る。
該治療剤は、心疾患の治療に使用する全ての医薬品であり得る。そのような医薬品は、これらに限定されないが、有機亜硝酸塩 (亜硝酸アミル、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド), カルシウムチャネル遮断薬、抗血小板剤及び抗血栓剤、血管拡張剤、抗ジギタリス抗体、並びに節遮断薬を含む。
【0108】
該治療剤は、テトラサイクリン、クリンダマイシン、キニーネ、クロロキン、メフロキン、トリメトプリムサルファメトキサゾール、メトロニダゾール及びオラミン(oramin)などの、原虫感染症の治療に使用される全ての医薬品であり得る。原虫感染部位への医薬品又は他の治療剤を標的化能力は、これらの抗生物質医薬品で経験される、非常に一般的かつ重篤な副作用のために、特に価値がある。
【0109】
該治療剤は、スルホンアミド、キノロン、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、イソニアジド及びリファンピンなどの全ての抗細菌剤であり得る。
該治療剤は、アンホテリシン、フルシトシン、ミコナゾール及びフルコナゾールなどの真菌感染症の治療に使用する全ての医薬品であり得る。
【0110】
該治療剤は、アシクロビル、ビダラビン、インターフェロン、リバビリン、ジドブジン、ザルシタビン、逆転写酵素阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤などのウイルス感染症の治療に使用する全ての医薬品であり得る。また、毒素、放射性原子及びアポトーシス誘導剤などの他の治療剤を使用して、ウイルス感染細胞を標的化して死滅させ得ることを想定することもできる
【0111】
該治療剤を、抗凝血医薬品、抗血栓溶解医薬品、及び抗血小板医薬品から選択できる。
ホルモンの過剰産生又は低産生に由来する疾患は、ホルモン(成長ホルモン、アンドロゲン、エストロゲン、ゴナドトロピン放出ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎皮質ステロイド、インスリン及びグルカゴン)などの治療薬を使用して治療可能であることが理解される。あるいは、該ホルモンが過剰産生される場合、該ホルモンに対するアンタゴニスト又は抗体を治療剤として使用してもよい。
【0112】
様々な他の可能的治療剤は、ビタミン、酵素、及び他の低産生細胞構成要素、並びにシフテリア毒素又はボツリヌス毒素などの毒素を含む。
あるいは、該治療剤は、通常のインビトロ診断に使用するものであってよい。それゆえ、リガンド及びリンカーを従来法で標識し、シグナル産生システム全体又は一部を形成する。該リガンド及びリンカーは、当業者に周知の方法で、トリチウム、炭素14、リン32、ヨウ素125、及びヨウ素131などの放射性同位体に共有結合可能である。例えば125Iは、クロラミン−T法などの方法、ラクトペルオキシダーゼ法又は前標識ボルトン−ハンター法によって酵素的に導入可能である。これらの方法及び他の方法は、H. Van Vunakis及びJ.J. Langone編, 『酵素学における方法(Methods in Enzymology)』, 70巻, 部分A, 1980で議論されている。また、さらなる放射性標識の例として、両方が引用によって本明細書に組み込まれる米国特許第3,646,346号及び第4,062,733号を参照されたい。
【0113】
あるいは、該治療剤は、化学的環境の変化、又は酵素などの別の分子的作用物質の作用によって、対応する医薬品へと変換されるプロドラッグ若しくはプロ分子であり得る。好ましくは、該治療剤を、プロ分子の変換に必要な特定の分子とともに投与する。あるいは、該プロ分子を、標的組織の微小環境に見出される天然分子で切断することができる。あるいは、該プロドラッグはpH感受性であり、血液から細胞又は細胞内小胞への環境の変化で変換される(Grecoらの論文. 2001 J Cell Physiol 187:22-36)。
【0114】
哺乳動物に投与する複合体の有効量は、1日あたり、体重の約0.001mg〜約50mg/kgの範囲であり得る。該有効量は、これらに限定されないが、該複合体の投与経路、該複合体の結合親和性、標的細胞におけるEph受容体発現レベル、及び非標的細胞におけるEph受容体発現レベルなどの因子により決まる。しかしながら、アゴニストの有効量の測定は、当業者によって容易に測定可能であることは理解される。
【0115】
本発明の別の態様は医薬組成物を含み、医薬として許容し得る担体又は希釈剤と関連して、活性成分として、本明細書に記載のペプチド、ペプチド模倣体又は小分子の少なくとも1つを含む。これらの化合物を、経口投与経路、肺投与経路、非経口(筋肉内注射、腹腔内注射、静脈内注射又は皮下注射)投与経路、吸入(細かい粉末製剤又はエアロゾルを介して)投与経路、経皮投与経路、経鼻投与経路、膣投与経路、直腸投与経路又は舌下投与経路で投与可能であり、各々の投与経路に適した剤形で製剤可能である。例えば、各々が引用によって本明細書に組み込まれる、Bernsteinらの文献,PCT特許公報第WO 93/25221号;Pittらの文献、PCT特許公報第WO 94/17784号;及びPittらの文献,欧州特許出願 613,683を参照されたい。
【0116】
経口投与用固体剤形は、カプセル、錠剤、丸薬、粉末及び顆粒を含む。そのような固体剤形において、活性化合物を、スクロース、ラクトース又はデンプンなどの、少なくとも1つの不活性な医薬として許容し得る担体と混合する。そのような剤形はまた、通常の慣行として、不活性希釈剤以外のさらなる物質、例えばステアリン酸マグネシウムなどの平滑剤を含み得る。カプセル、錠剤及び丸薬の場合において、該剤形もまた緩衝剤を含んでよい。錠剤及び丸薬はさらに、腸溶コーティングで製造可能である。
【0117】
経口投与用液体剤形は、水などの、当業者に一般的に使用される不活性希釈剤を含むエリキシル剤に関連して、医薬として許容し得る乳剤、溶液、懸濁液、シロップを含む。そのような希釈剤に加えて、組成物もまた、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤などのアジュバント、並びに甘味料、香味料及び香料を含み得る。
非経口投与用の本発明に従った製剤は、滅菌水溶液又は非水溶液、懸濁液、若しくは乳剤を含む。非水溶性溶媒又は媒体の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイル及びコーンオイルなどの植物油、ゼラチン、及びオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルである。そのような剤形も、保存料、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などのアジュバントを含んでよい。それらを、例えば、細菌滞留フィルターを通す濾過、該組成物中への滅菌剤の取り込み、該組成物の照射、又は該組成物の加熱によって滅菌してよい。また、それらの使用直前に、滅菌水又は他の滅菌注入可能媒体を使用して製造することができる。
【0118】
直腸又は膣投与用組成物は、好ましくは坐薬であり、これは該活性物質に加え、カカオバターなどの賦形剤、又は坐薬用ワックスを含んでよい。経鼻又は舌下投与用組成物も、当業者に周知の標準的賦形剤と共に調製する。
該化合物を含む組成物は、予防的処置及び/又は治療的処置に投与可能である。治療用途において、該疾患の症状及びその合併症を治癒又は少なくとも部分的に抑止させるのに十分な量で、先に記載したような疾患を既に患っている患者に投与する。この達成に適した量を、「治療的有効量」として定義する。この使用に有効な量は、疾患の重篤度、及び患者の体重並びに一般状態によって決まる。
【0119】
また、本明細書に記載の組成物は、例えば引用によってその全てが本明細書に組み込まれる、Tice及びBibiの方法(『制御薬剤送達全書(Treatise on Controlled Drug Delivery)』A. Kydonieus編, Marcel Dekker社, N. Y. 1992, 315〜339頁中)によって、マイクロカプセル化することができる。
予防的用途において、本明細書に開示する化合物を含む組成物を、特定の疾患に感受性のある患者又は別の特定の疾患の危険性のある患者に投与する。そのような量を、「予防的有効量」と定義する。この使用においても、正確な量は、患者の健康状態及び体重によって決まり、かつ当業者によって容易に決定され得る。
【0120】
効果的な治療に必要なEph受容体アゴニストの量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、及び他の投与薬物を含む、多くの異なる因子によって決まる。それゆえ、治療用量を設定し、安全性及び効力を最適化すべきである。典型的には、インビトロで使用する用量は、これらの試薬のインサイチュウ(in situ)投与に有用な量に、有益な案内を提供し得る。特定の障害の治療に効果的な用量の動物試験は、ヒトでの用量の予測的指標をさらに提供する。例えば、各々が引用によって本明細書に組み込まれる:Gilmanら(編), 1990 Goodman及びGilmanの: 『治療剤の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)』第8版, Pergamon Press社;及び『Remingtonの薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)』第7版, Mack Publishing社, Easton, Pa. (1985);中に、様々な考察が記載されている。
【0121】
本明細書に記載のペプチド及びペプチド模倣体は、1日あたり、体重の約0.001mg〜約50mg/kgの用量範囲で投与する場合、Eph受容体介在性条件での治療に効果的である。使用する特定用量は、該状態の重篤度、患者の年齢及び一般状態などの因子によって担当臨床医の判断によるものに加えて、治療される特定の状態も投与経路によって調節される。そのような用量は、当業者に容易に決定され得る。
非経口投与に関して、該ペプチドは、例えば医薬として許容し得る非経口媒体に関連して、溶液、懸濁液、乳剤又は凍結乾燥粉末として製剤可能である。そのような媒体の例は、水、生理食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液、及び5%血清アルブミンである。リポソーム、及び固定油などの非水性媒体も使用してよい。該媒体又は凍結乾燥粉末は、等張性(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)及び化学的安定性(例えば、緩衝液及び防腐剤)を維持する添加剤を含んでよい。該製剤を、一般的に使用される方法で滅菌する。例えば、注射による投与に適した非経口組成物を、0.9%塩化ナトリウム溶液中に、活性成分の重量の1.5%で溶解して製造する。
【0122】
本明細書に記載の医薬組成物は、単回投与又は複数回投与で投与で投与可能であり;単一治療剤、又は他の治療剤との組み合わせで投与可能であり;かつ、逐次投与又は同時投与であってよい従来法と併用可能である。
該化合物は、徐放性組成物、例えば遅延放出性重合体を含む組成物で投与可能である。該活性化合物は、移植片、及びマイクロカプセル型送達システムを含む制御放出製剤などの、急速放出に対して該化合物を保護する担体とともに製造可能である。生分解性で生体適合性の重合体は、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及びポリ乳酸、ポリグリコール性共重合体(PLG)を使用可能である。そのような製剤の製造に関する多くの方法は、当業者に一般的に知られている。
【0123】
本明細書に記載のEph受容体結合化合物を、該化合物がその中の唯一の活性作用物質である医薬組成物に製剤することができる。あるいは、該医薬組成物は、さらなる活性作用物質を含むことができる。例えば、本明細書に記載の2以上のEph受容体結合化合物を組み合わせて使用してよい。さらに、該ペプチド化合物を、Eph受容体活性に調節的効果を有する、1以上の他の作用物質と組み合わせることができる。
【0124】
(Ephファミリーメンバーに選択的に結合するペプチドを同定するためのファージディスプレイの使用)
ファージディスプレイを使用して、16種の既知のEph受容体の各々に特異的に結合するペプチドを単離することができる。本明細書に記載のように、EphB1、EphB2、EphB3又はEphB4に特異的に結合するペプチドを呈示するいくつかのファージを単離し、それらの多くは選択的に結合する。したがって、Eph受容体ファミリーのメンバーに対するパニング(panning)ランダムペプチドライブラリーを使用して、興味ある受容体に選択的に結合するペプチドを得ることができる。該クローンを、当業者に周知の配列決定法で同定することができる。該ペプチドライブラリー中に含まれるペプチドの長さを調節して、高結合選択性及び高結合親和性の両方を有するペプチドを得ることができる。
【0125】
(他の有用性)
本明細書に記載の化合物は、エフリンリガンドの産生及び受容体結合過程に影響を与える、及び影響を受けると考えられる多くの因子の評価を含む、Eph受容体の生物学的役割を理解する類のない道具としてインビトロにおいて有用である。また、該化合物は、Eph受容体に結合して活性化させる他の化合物の開発にも有用である。なぜなら、該化合物は、構造と活性との関連性に重要な情報を提供し、そのような開発を促進するからである。
【0126】
また、該化合物は、新規Eph受容体アゴニストを選別するアッセイにおける競合的結合剤として有用である。そのようなアッセイの実施態様において、本明細書に記載の化合物は修飾なしで使用可能であり、又は様々な方法、例えば直接的若しくは間接的に検出可能シグナルを与える、共有結合的連結部分又は非共有結合的連結部分などの標識で修飾することができる。これらのアッセイの全てにおいて、該物質を、直接的に又は間接的に標識することができる。直接標識の可能性は、125I、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼなどの酵素(米国特許第3,645,090号)、並びに蛍光強度、波長シフト又は蛍光偏光の変化をモニタリングすることができる蛍光標識(米国特許第3,940,475号)などの標識基を含む。間接標識の可能性は、1構成成分のビオチン化と、それに続く、1つの上記標識基に連結したアビジンへの結合を含む。また、該化合物は、該化合物が固相支持体に付着している場合において、スペーサー又はリンカーを含んでよい。
【0127】
核磁気共鳴(NMR)分光法は、高分子構造の特性を示す能力が知られており、標的分子へのリガンド結合の静的及び一過的特性の両方を調べる方法である(Pellecchiaらの論文,2002 Nature Rev Drug Disc 1:211)。NMR分光法は、標的分子へのリガンドの結合を測定するための有用な手段であり、かつタンパク質機能の先行的知見を必要とせずに、高感度で相互作用を検出し、定量することができるという利点を有する。さらに、NMR分光法は、標的及びリガンドの両方の構造情報を提供することができ、その後の、弱い結合ヒットから高親和性リード物質への最適化を助ける。
【0128】
一様に標識した標的生体分子から第一及び第二核磁気共鳴相関スペクトルを得ることによって、標的生体分子へのリガンド化合物の結合を検出する方法は、米国特許第5,698,401号及び第5,804,390号に報告されている。第一スペクトルをリガンド不在の標的物質で得られたデータから得、かつ第二スペクトルを1以上のリガンド存在の標的物質で得られたデータから得る。該2つのスペクトルの比較は、推定リガンドの混合物中の化合物が該標的生体分子に結合することの測定を可能にする。
【0129】
Eph受容体を、1以上のアミノ酸残基側鎖中への1H、13C、15N及び/又は19Fの取り込みによって、選択的に標識してよい。Eph受容体結合リガンドに結合したEph受容体の選択的標識複合体を第二分子に曝露することができ、かつ任意の分子的相互作用をNMR分光法で測定することができる。例えば、2D 13C,1H-HMQC (異核多重量子コヒーレンス) 及び13C編集1H, 1H-NOESY NMR実験を利用して、分子的相互作用を検出し、任意の複合体の解離定数を測定することができる。さらに、該標的の三次元構造、及び該標識側鎖に関する相対位置に基づいて、予測モデルを作成することができる。単一の選択的に標識された標的分子におけるいくつかの異なる標識側鎖の使用は、該モデルの予測的特性と同様に、解像度を向上させる。
【0130】
非ペプチド性小分子は、臨床開発用ペプチドよりもより適切であり得るので、ハイスループットスクリーニングを利用して、Eph−エフリン複合体を分離させる小分子の化学的ライブラリーを選別することができる。該アッセイは、エフリン−アルカリホスファターゼ融合タンパク質を含む複合体中の固定化Eph受容体外部ドメインを使用する。結合したアルカリホスファターゼ活性を減少させる能力は、Eph−エフリン相互作用の小分子阻害剤を同定する。
【0131】
さらに、Eph受容体に選択的に結合する能力に基づき、本明細書に記載のペプチドを、生細胞上、固定細胞上、体液中、組織ホモジネート中、精製した天然生体物質中などにおいて、Eph受容体の選択的検出試薬として使用することができる。例えば、本明細書に記載のペプチドを標識することによって、それらの表面のEphB1、EphB2、EphB3又はEphB4などの受容体を有する細胞を選択的に同定することができる。さらに、Eph受容体に結合するそれらの能力に基づき、該ペプチドを、インサイチュウ染色、FACS(蛍光活性化細胞選別)、ウエスタンブロッティング、ELISAなどに使用することができる。さらに、Eph受容体に選択的に結合するそれらの能力に基づき、該ペプチドを、受容体精製、又は細胞表面(又は透過処理細胞内)にのみ特異的にEph受容体を発現する細胞を精製するのに使用することができる。
【0132】
本明細書に記載の化合物もまた、様々な医学的研究及び診断的使用用の市販試薬として利用することができる。そのような使用は、これらに限定されないが:(1)様々な機能的アッセイにおける、候補Ephアゴニストの活性を定量するための較正標準としての使用;(2)Eph依存性細胞株の増殖及び成長を維持させるための使用;(3)共結晶化を介した、Eph受容体リガンド結合界面の構造的解析における使用;(4)Ephシグナル転換/受容体活性化の機構を調べるための使用;(5)Eph受容体が好ましく活性化される、又はそのような活性化がEphアゴニストの既知量に対して都合よく較正されるなどの、他の研究及び診断用途;及び(6)Eph受容体が好ましく阻害される、又はそのような阻害がEphアンタゴニストの既知量に対して都合よく較正されるなどの、他の研究及び診断用途;を含む。
【実施例】
【0133】
(実施例1)
(異なるEphB受容体に結合するペプチドの同定)
EphB受容体結合ペプチドを同定するために、ランダムに12アミノ酸長のペプチドを提示するM13ファージライブラリー(R&D Systems社, Minneapolis, MN)を、ヒトFcに融合させてカルボキシ末端のヘキサヒスチジンタグを介してニッケル被覆したウエル上に固定したEphB1、EphB2又はEphB4の外部ドメイン上で選別した(図1)。1μg/mlのEph受容体Fc融合タンパク質で被覆したNi−NTAウエルに結合したファージを、ワサビペルオキシダーゼに連結した抗ファージ抗体(M13ファージ検出キット, Amersham Biosciences社)を使用し、基質として2,2−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)を用いて定量した。該測定値から引いたバックグラウンドは、EphB4 Fcなしで測定した。ヒスチジンタグ化EphB外部ドメインFc融合タンパク質を、トリス緩衝食塩水(TBS)(150 mM NaCl, 50mM トリス-HCl, pH 7.5)中、10μg/mlの濃度で、ニッケル−ニトリロ三酢酸(Ni−NTA)被覆ELISAウエル内において4℃で一晩インキュベートした(1μg/mlでインキュベートしたEphB2及びEphB4のラウンド3.2及び4を除く。)。ウエルを、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)含有TBSで1時間ブロッキングし、結合緩衝液(TBS、1mM CaCl2, 0.1% Tween-20、又はEphB2及びEphB4のラウンド3.2 及び4に関しては0.5% Tween-20)でリンスした。パニングのラウンド1において、100μlの結合緩衝液中のファージライブラリーの2×1011プラーク形成単位(PFU)を、EphB受容体被覆ウエル内において、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、残っていた結合ファージを100μlの0.2M グリシン−HCl, pH 2.2で10分間溶出し、15μlの1M トリス−HCl, pH 9で中和した。該溶出物全部を使用して、初期対数期のER2738宿主細菌を感染させ、37℃で4.5時間増殖させた。該ファージを濃縮し、製造業者の推奨に従って保存した。次のラウンドにおいて、前のラウンド由来の増幅ファージプールの2×1011PFUを、EphB Fc被覆ウエル及びBSA被覆ウエルに添加した。該ファージをラウンド1に記載したように選別した(溶出ファージを増幅に先立って力価測定して濃縮を測定した場合を除く。)。パニングの最初のラウンド(1)後に回収したファージは、稀なクローンを回収できることを保証するので定量しなかった。
【0134】
2つのパニング実験を、EphB4に関して実施した。1番目を図1Aに示し、2番目を図1Dとして示す。1番目のパニング実験である図1Cは、3つの異なる配列のみを提示する受容体結合ファージクローンを生じたため、2つの実験を実施した(表1)。ファージPFU(プラーク形成単位)を、ラウンド2〜4に関して示し、エラーバーは標準偏差を示す。EphB1パニング(A)では、多くの白いプラーク(ペプチドを提示していないファージを示す。)があったので、ラウンド3及び4でペプチド提示ファージ由来の青いプラークのみをカウントした。EphB2パニング(B)及び2番目のEphB4パニングにおいて、ラウンド3は、該ウエルの被覆に2つの異なる濃度の受容体外部ドメインを使用して、ラウンド2から2回繰り返した(ラウンド3.1に関しては10μg/ml、ラウンド3.2に関しては1μg/ml)。EphB2及びEphB4(ラウンド3.2由来のファージを使用して実施した)のラウンド4において、該ウエルを、1μg/mlの受容体で被覆した。全ての他のラウンドでは、10μg/mlの受容体を被覆剤として使用した。
【0135】
パニングの異なるラウンド由来の個々のファージクローンが、それらの単離に使用したEphB受容体に結合することを確認し、該提示ペプチドを同定するために配列決定を実施し、かつそれらの配列中の最初の4又は5アミノ酸に基づいて命名した(表1)。異なる哺乳動物のEphB受容体に関するファージクローンの結合選択性も測定した(表1)。興味深いことに、EphB1又はEphB2でのパニングによって同定された多くのクローンは両方の受容体に結合するが、EphB4でのパニングによって単離されたクローンは全て、高い選択性でこの受容体に結合する。これとは対照的に、ペプチド配列のアラインメント(表1)は、EphB1結合ペプチドとEphB2結合ペプチドとの間の類似性を示すが、EphB4結合ペプチドはより異なる配列を有する。例えば、EphB1でのパニングで同定されたTHWKファージクローン、及びEphB2でのパニングで単離されたクローンの1つを除く全ては、モチーフHWを含む関連ペプチドを提示する(表1)。このモチーフは、EphB4結合ファージクローンの全てに存在していない。興味深いことに、EphB1特異的なEWLSクローンは、エフリン−B2及びエフリン−B3のG−Hループに見出される配列SPNLを含み、かつEphB4に結合するTNYLペプチド及びFSPQペプチドはそれぞれ配列FSPN及びFSPを含み、これらはエフリン−B1及びエフリン−B2のG−Hループに見出される。2つの他のEphB4結合クローン(DALN及びDHNH)は、配列NxWxL(式中、xは非保存的アミノ酸である。)を含み、該配列はエフリン−B2及びエフリン−B3のG−Hループ中に存在する。他のEphB4結合クローンを、エフリンG−Hループのカルボキシ末端半分のみに対応させて並べた。異なるファージ濃度を使用して得られた結合曲線は、これらのクローンがEphB4により低い結合親和力を有することを示す。
【0136】
(実施例2)
(これらの単離に使用する、EphB受容体への結合に関して互いに競合する異なるペプチド)
異なるファージクローンが、重複するEph受容体結合部位を標的化するかを測定するために、EWLS EphB1結合ペプチドとTNYL EphB4結合ペプチドを化学的に合成した。これらのペプチドは、エフリン中に見出される配列モチーフを含み、ファージ上に提示された場合、それぞれEphB1又はEphB4に特異的に結合するので選択した(表1)。Fmoc(N-(9-フルオレニル)メトキシカルボニル)化学を使用してペプチドを合成し、高圧液体クロマトグラフィーで精製した。リジン側鎖に結合したビオチンを有するカルボキシ末端のGSGSKリンカーを有するビオチン化ペプチド、又はカルボキシ末端のN-ビオチニル-N'-Fmoc-エチレンジアミン(Novabiochem社)に連結したカルボキシ末端GSGS配列を有するビオチン化ペプチドを合成した。マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析法を、適切なペプチド合成及び純度であるかを検証するために使用する。ペプチドの保存溶液を、リン酸緩衝食塩水(PBS、Irvine Scientific社)に溶かし、該pHが〜6.5であることを検証した。WHWTペプチドは、水性緩衝液中で低い溶解度を有し、それゆえ15%のDMSOを含有するPBS中に可溶化した。ペプチド濃度を、OD280に基づいて計算した。
【0137】
高い選択性でEphB2に結合することが同定された数少ないペプチドの1つであるSNEW EphB2結合ペプチドも合成し、複数のファージクローン上に呈示した(表1)。いくつかの他のペプチドも合成した。それらを以下の基準に基づき選択した:(i)エフリン−BのG−Hループに対する該ペプチドの配列類似性;(ii)該ペプチドを提示するとして単離されたファージクローンの数;及び(iii)異なる配列モチーフの表示(表1)。
【0138】
EphB受容体に結合するファージのペプチド競合を測定するために、Eph外部ドメインFcで被覆したNi−NTAウエルを、様々なペプチド濃度の結合緩衝液(100μl/ウエル)を用いて、室温で30分間インキュベートした。次に、結合緩衝液で1:500〜1:10,000の間で希釈したファージクローンの濃縮保存液を、室温で1時間、該ウエルに添加した。ウエルを洗浄し、抗M13抗体を使用して結合したファージを検出した。図の説明文に示すように、Eph結合ペプチド(RTVAHHGGLYHTNAEVK、配列番号:40)の配列に関連性のない配列を有するビオチン化コントロールペプチドを、いくつかの実験のネガティブコントロールとして使用した。
【0139】
Eph受容体に結合するペプチドの特異性を測定するために、ビオチン化ペプチドを10μMでストレプトアビジン被覆プレート上に固定化し(Pierce Biotechnology社, Rockford, IL)、異なるEph外部ドメインFc融合タンパク質を2.5μg/mlで含む結合緩衝液を用いて、1時間インキュベートした。結合した受容体を、基質としてのp−ニトロフェニルリン酸(Pierce社)と共に、アルカリホスファターゼに連結させた抗Fc抗体(Promega社)を使用して検出した。該測定から差し引いたバックグラウンドは、Eph外部ドメインを発光させることによって測定した。
【0140】
EWLSペプチド、SNEWペプチド及びTNYLペプチドは、濃度依存的様式で、適切な固定化EphB受容体への、対応するファージクローンの結合を効率的に阻害し(図2A、B及びC)、RTVA(実施例1を参照されたい)をコントロールペプチドとして使用した。
また、各々のペプチドは、同じEphB受容体を使用して単離された全ての他のファージクローンの結合を阻害した(図2D、E、F及びG)。具体的には、5μMのEWLSペプチドは、EphB1でのパニングによって単離されたファージクローンのEphB1結合を阻害した(図2D)。SNEWは、両方のパネルにおいて、コントロールペプチドとして使用した。25μMのSNEWペプチドは、EphB2でのパニングで単離されたほとんどのファージクローンのEphB2結合を阻害した(図2E及びG)。例外は、IHWPクローン、DHRWVクローン及びWHWTクローンのみであった。しかしながら、これらのクローンの結合は、特にファージ濃度を半分にした場合に、50μMのSNEWペプチドで阻害された。RTVAを(E)におけるSNEWファージを用いたコントロールペプチドとして使用し、かつSNEWを(G)におけるTNYL EphB4結合ファージクローンと共にコントロールペプチドとして使用した。25μMのTNYLペプチドは、EphB4でのパニングで単離されたファージクローンのEphB4への結合を阻害した(DALNクローンを除く。)(図2F)。SWL EphA2結合ペプチド(Koolpe, M.らの論文 2002 J Biol Chem 277:46974-46979)を、(C)及び(F)におけるコントロールペプチドとして使用した。DALNペプチドは、濃度依存的様式で、固定したEphB4外部ドメインへのDALNファージの結合を阻害した(しかし、DHNHペプチド及びNPVIペプチドは阻害しなかった。)(図2H)。結合したファージを、HRPに連結した抗M13ファージ抗体を使用して検出し、ペプチド存在下で結合するファージを、ペプチド不在下で結合するファージに対して標準化した。エラーバーは、2回反復測定からの標準偏差を示し、誤った増殖を考慮して計算した。
【0141】
これらの結果は、EphB受容体でのパニングで同定した1つを除く全てのペプチドが、該受容体の同じ領域に結合することを示す。エフリンG−Hループを有するいくつかのペプチドの配列類似性に基づくと、共通の結合部位は、Eph受容体の、エフリン高親和性結合界面におそらく対応する。
【0142】
(実施例3)
(EphB1受容体、EphB2受容体及びEphB4受容体へのエフリン結合に選択的に拮抗するペプチド)
エフリンと同じ受容体領域に結合するペプチドが、十分な親和性で相互作用する場合、Eph受容体−エフリン会合を阻害することが予期される。EphB受容体へのアルカリホスファターゼタグ化エフリン−B2(エフリン−B2−AP)の結合を阻害する能力に関して、多くの合成ペプチドを試験した(図3)。ほとんどのペプチドをビオチンタグと共に合成して、ストレプトアビジンプレート上に固定化し、それらの単離に使用したEphB外部ドメインを捕捉する能力を検証した。
【0143】
表示の固定化EphB受容体外部ドメインへのエフリン−B2 AP結合を、表示のペプチドの存在下で測定し、アルカリホスファターゼ活性を検出した。EphB受容体へのエフリン結合を阻害する能力を試験したペプチドのうち、EWLS及びAHTFはEphB1へのエフリン結合を阻害し;SNEWはEphB2へのエフリン結合を阻害し(しかし、DHWRI、SHWP又はSHWTは阻害しなかった);及びTNYL及びDRNHの両方はEphB4へのエフリン結合を阻害した(しかし、NPVI又はDALNは阻害しなかった)(図3A、C、E及びG)。二量体化エフリン−B2 APの結合を50%まで阻害するのに必要なビオチン化ペプチド濃度(IC50)は、EWLSに関しては約10μM、AHTFに関しては約150μM、SNEWに関しては約15μM、TNYLに関しては約50μM、DHNHに関しては約200μMであった(図3A、C、E及びG、並びに表1)。カルボキシ末端のビオチン化リンカーなしで合成したEWLSペプチド及びSNEWペプチドのIC50値は同程度であったが、非ビオチン化TNYLペプチドのIC50は、ビオチン化TNYL(150μM)よりも実質的に高かった。異なるEphB外部ドメインで被覆したウエルを、エフリン−B2 AP、及び50μMの表示のペプチドと共にインキュベートした。ペプチド存在下におけるエフリン−B2 AP結合を、ペプチド不在下における結合に対して標準化した。FSPQ及びEWYMを除く全てのペプチドをビオチン化した。IPWTペプチドのみがEphB受容体(EphB4)に結合できなかったが、これはおそらくその親和性が低すぎたためである。それゆえ、IPWTは以降の実験に使用しなかった。EWYMペプチド、TYFDペプチド及びFSPQペプチドはビオチンタグと共に合成せず、それゆえ、エフリン−B2結合の阻害を直接的に試験した。EWLSペプチド、SNEWペプチド及びTNYLペプチドはEphB受容体のみへのエフリン結合に拮抗したので、これらは選択的であった(図3B、D及びF)。対照的に、AHTFペプチドは、いくつかのEphB受容体へのエフリン結合を阻害した。
【0144】
(実施例4)
(SNEWペプチドは、EphB2シグナル伝達及び生物学的効果を阻害する)
濃度依存的様式でSNEWペプチドを用いたCOS細胞のプレインキュベーションは、チロシンリン酸化を誘導するEphB1 Fcの能力を阻害し、それゆえ内因性EphB2の活性化を阻害した(図4A)。表示の濃度のSNEWペプチド及びコントロールRTVAペプチドの存在下で、エフリン−B1 Fc、又はコントロールとしてのFcを用いた刺激の後に、COS細胞からEphB2を免疫沈降した。EphB2の免疫沈降に関して、EphB2結合ペプチド又はコントロールペプチドの存在下若しくは不在下での1μg/mlのエフリン−B1Fc又はFcタンパク質を用いた刺激に先立ち、DME高グルコース中でCOS細胞を血清飢餓させた。EphB4免疫沈降に関して、MCF−7を、TNYL-RAWペプチドの存在下又は不在下で、0.5μg/mlのエフリン−B2Fc又はFcタンパク質を用いて刺激した。エフリン刺激後、該細胞を、プロテアーゼ阻害剤及び1mMオルトバナジン酸ナトリウムを含有する修飾RIPA緩衝液(150mM NaCl, 1mM EDTA, 1% TritonX-100, 1% デオキシコール酸Na, 0.1% SDS, 20mM トリス pH 8.0)中で溶解させた。細胞溶解物を、5μgのEphB2抗体、又は10μgのEphB4抗体のいずれかを用いる免疫沈降に使用した。該免疫沈降物を、2×SDSサンプル緩衝液中で煮沸して溶出し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ペルオキシダーゼ複合体化抗リン酸化チロシン抗体(Transduction Laboratories, San Diego, CA)を用いた免疫ブロッティングで標識化した。該免疫ブロットをそれからはがし、EphB2抗体Fc又はモノクローナルEphB4抗体(Zymed社)のいずれかで再標識し、二次抗ウサギIgG、又は抗マウスペルオキシダーゼ複合体化抗体で標識した。
【0145】
該フィルターを、抗リン酸化チロシン抗体(PTyr)で標識化し、EphB2抗体で再標識して、免疫沈降した受容体の等量を確認した。
さらに、SNEWは、EphB2シグナル伝達をエフリン−B1 Fcで刺激した場合に起こるCOS細胞の退縮表現型を阻害した(図4B、C)。1.5μg/mlのエフリン−B1 Fcを用いた処理後すぐに、COS細胞は表面で退縮し、スパイク様突起部を残した。400μMのSNEWペプチド存在下又は不在下において、エフリン−B1 Fc(B1)を用いた、又は用いない場合の、スパイクを有する細胞の割合の定量を、(B)に示す。細胞形態の代表例を(C)に示す。COS細胞をガラス製カバーガラス上にまき、16時間後に、0.5%ウシ胎仔血清含有DME中で3時間飢餓させた。該細胞をそれから400μMのSNEW又はコントロールペプチド含有PBS、若しくはコントロールとして等量のPBSで20分間インキュベートし、それから未処理のまま、又は1.5μg/mlのエフリンB1−Fc(R&D Systems社)で10分間刺激した。該細胞をそれから4%ホルムアルデヒドで固定し、0.1% TritonX-100含有PBSで透過処理し、アレクサ(Alexa)594-標識ファロイジン(Molecular Probes社)で染色し、スライドガラス上に包埋した。コントロールペプチドはRTVAであった。それゆえ、SNEWを使用して、EphB2受容体の生物学的効果を阻害することができる。対照的に、200μMまでの濃度のEWLSは、ヒト大動脈内皮細胞のEph−B1 Fc刺激後の内因性EphB1チロシンリン酸化を阻害せず、かつ350μMまでの濃度のTNYLは、MCF7及びMDA-MB-231乳ガン細胞のエフリン−B2 Fc刺激後の内因性EphB4チロシンリン酸化を阻害しなかった。
【0146】
(実施例5)
(標的化剤としてのEphB結合ペプチド)
エフリンに結合し、生物学的反応を誘発するEph受容体の能力を阻害することに加え、EphB結合ペプチドは、薬剤又は造影プローブなどの他の分子を、EphB受容体発現細胞に選択的に標的化させることができる。該ペプチドの受容体結合特異性を測定する厳密な(stringent)アッセイで、高い親和性(見かけ上の解離定数は、低いnMの範囲である。)で二量体化EphB Fcを捕捉した、ストレプトアビジンプレート上に固定化したビオチン化ペプチドを使用した。ビオチン化ペプチドをストレプトアビジン被覆プレートに固定化し、Eph受容体Fcタンパク質を捕捉するために使用した。結合した受容体を、アルカリホスファターゼ連結抗Fc抗体を使用して検出し、最も高い受容体結合を有するウエルの値に対して標準化した。これらの実験は、試験したEWLS及び全てのEphB4結合ペプチドが、それぞれEphB1又はEphB4に選択的に結合したが、他の全てのAクラスEph受容体又はBクラスEph受容体には結合せず、一方でSNEWはEphB2に加えてEphA3にいくらか結合することを示した(図5A、C、D及びE)。対照的に、AHTFペプチド、SHWPIペプチド、WHWTペプチド及びDHRWIペプチドは特異性が低く、いくつかのEphA受容体及びEphB受容体への実質的結合を示した。
【0147】
(実施例6)
(ペプチドの結合安定性)
標的化及び競合阻害の両方に重要である、安定的様式で結合するペプチドの能力を、プルダウン実験で試験した。ペプチドプルダウン実験に関して、60cmプレート中70%密集度の細胞、又は成体マウス脳組織を、プルダウン緩衝液(50mM HEPES pH 7.5, 150mM NaCl, 10% グリセロール, 1% Triton-X100, 5mM KCl、及び1mM EDTA)中で可溶化した。3μgのビオチン化ペプチドを、5μlのストレプトアビジンアガロースビーズ(Sigma社)と共に45〜90分間インキュベートし、非結合ペプチドを洗い流し、該ビーズを該細胞溶解物と共に45〜90分間インキュベートした。該ビーズに結合したタンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、EphB1抗体、EphB2抗体又はEphB4抗体を用いた免疫ブロッティングで標識した。EphB1抗体(Santa Cruz社)を、二次抗ヤギIgGペルオキシダーゼ複合体化抗体(BioRad Laboratories社)を用いて検出した。EphB2抗体及びEphB4抗体は、EphB2受容体又はEphB4受容体のカルボキシ末端尾部から100アミノ酸程度を含むGST融合タンパク質に対して親和性精製したポリクローナル抗体であり(Noren, N.K.らの論文. 2004 PNAS USA 101:5583-5588;Holash, J.A.及びPasquale, E.B.の論文 1995 DeveiBiol 172:683-693)、これらを二次抗ウサギIgGペルオキシダーゼ複合体化抗体(Amersham Biosciences社)を用いて検出した。
【0148】
ストレプトアビジンビーズ上に固定化したEWLSペプチド、SNEWペプチド及びTNYLペプチドを使用して、内因性EphB受容体を、マウスの脳の溶解物又は培養細胞から単離した(図5B、F、G及びH)。ストレプトアビジンビーズ上に固定化したEWLSペプチド、SNEWペプチド及びTNYLペプチドは、組織及び細胞株由来のEphB受容体に安定的に結合する。NPVIペプチドは、MCF7乳ガン細胞株由来の内因性EphB4に検出可能な程度には結合しなかったが、形質移入した293Tヒト胚性腎臓細胞由来の、より高度に発現するEphB4に結合した。RTVAを、EphB4プルダウンのコントロールペプチドとして使用した。NPVIペプチドは、形質移入細胞由来のEphB4を単離できたが、より低いレベルで存在するMCF7細胞由来の内因性EphB4を単離できなかった(図5B、F、G及びH)。これらの結果は、EWLS、SNEW及びTNYLがゆっくりと解離し、それゆえ洗浄ステップ中に持続する安定的結合を仲介することを示す。EphB受容体は、他のペプチドで被覆したビーズへの結合が検出されなかった。ファージ競合実験は、DALNペプチド及びDHNHペプチドがEphBの異なる部位に結合し、それゆえ相乗的に作用することを示唆したにもかかわらず、これらのペプチドは、単独又は一緒に使用した場合には効果がなかった。
【0149】
(実施例7)
(ペプチド標的化)
EphB受容体結合ペプチドの標的化能力を測定するために、TNYLペプチドを使用して、内因性EphB4に加えて、形質導入されて発現する細胞への、蛍光ストレプトアビジン被覆量子ドットナノクリスタルの結合を仲介させる。形質導入されたEphB4を発現する細胞の標識に関して、6cmプレート中のCOS細胞に、SuperFect形質導入試薬を使用して、強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)に連結したEphB4細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをコードするプラスミド(Ogawa, K.らの論文. 2000 Oncogene 19:6043-6052)3μg、又はコントロールとしてファルネシル化EGFPをコードするベクター(pEGFP-F)(BD Biosciences Clontech社)3μgを形質移入させた。該細胞を、形質導入後1日目にガラス製カバーガラス上にまき、形質導入後2日目に標識した。標識実験に関して、20nMのストレプトアビジン複合体化Qドット(Qdot)655量子ドット(Quantum Dot社)を、氷冷の量子ドット結合緩衝液(1mM CaCl2, 2% BSA含有PBS)中で20分間、500nMのビオチン化TNYLペプチドと共にプレインキュベートした。該細胞を、結合したTNYLペプチドを含む量子ドット、又はコントロールとしてペプチドを伴わない量子ドットと共に4℃で20分間インキュベートし、氷冷の1mM CaCl2含有PBSで洗浄した。内因的にEphB4を発現する細胞の標識に関して、フィブロネクチン(10μg/ml)で被覆したガラス製カバーガラス上にまいたMCF-7細胞を、量子ドット結合緩衝液で希釈した100μMのビオチン化TNYLペプチドと共に4℃で20分間インキュベートした。それから該細胞を、氷冷の1mM CaCl2含有PBSで洗浄した後、20nMのストレプトアビジン量子ドットと共に4℃で20分間インキュベートした。標識後、該細胞を4%ホルムアルデヒド/4%スクロース中で10分間固定し、0.05% Triton-X100含有PBSを用いて5分間透過処理した。核をDAPIで対比染色し、該カバーガラスをスライドガラス上においてプロロングゴールド封入剤(ProLong Gold mounting media)(Molecular Probes社)を使用して封入し、蛍光顕微鏡下で画像化し撮影した。緑色蛍光タンパク質は、形質移入細胞を特徴付けた。TNYL Qドットは、EphB4ΔC−EGFPを形質移入した細胞を標識したが、EGFPで形質移入した細胞、又は非形質移入細胞は標識しなかった。
【0150】
内因性EphB4を発現するMCF7細胞もまた、TNYLに結合した量子ドットで標識されたが、ペプチドを伴わないコントロール量子ドットでは標識されなかった。内因的にEphB4を発現するMCF−7ヒト乳ガン細胞を、10%ウシ胎仔血清(fetal bovine serum)、0.01mg/ml ウシインスリン、及びペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep)を含有する、最小必須培地イーグル(MEM)(ATCC社)中で培養した。内因的にEphB2を発現するCOS細胞、及び293ヒト胎児腎臓(HEK)細胞を、高濃度グルコース(Irvine Scientific社)、10%ウシ胎仔血清(fetal calf serum)、ピルビン酸ナトリウム、及びペニシリン/ストレプトマイシンを含有する、ダルベッコ修飾イーグル培地(DME)中で培養した。10cmプレートの293HEK細胞に、SuperFect形質移入試薬(Qiagen社)を使用して、9μgのEphB4cDNA含有pcDNA3、及び形質導入効率を検証する1μgの強化型緑色蛍光タンパク質プラスミド(BD Biosciences Clontech社)を形質移入させた。該細胞を、形質移入後1日目に継代し、形質移入後2日目にプルダウン実験に使用した。形質移入細胞及び非形質移入細胞の両方の核を、DAPIで標識した。TNYLは、4%ホルムアルデヒドを用いた該細胞の固定後でさえもEphB4にも結合し得ることが示され、これは該受容体上のペプチド結合部位が固定化手順で破壊されないことを示した。
【0151】
(実施例8)
(TNYL EphB4結合ペプチドの最適化)
EphB4結合ペプチド配列の調査は、エフリンG−Hループのカルボキシ末端部分に一致して整列させた、該ペプチド中のコンセンサスモチーフGP(以下を参照されたい)及びRAWを示した(表1)。GPモチーフをTNYLのGPモチーフで整列させ、かつRAWモチーフをTNYLの最後のアミノ酸の次に正確に整列させる。これは、そのカルボキシ末端にRAWコンセンサスモチーフを含むTNYLペプチドが、EphB4によりよく結合するであろうことを示唆する。該ペプチド群とエフリン−B2アルカリホスファターゼ融合タンパク質(エフリン−B2 AP)との競合アッセイに関して、使用するエフリン−B2 AP濃度を調節し、異なるEphB受容体と同様なシグナルを得た(0.135〜1.45OD分−1ml−1)。異なるペプチド濃度のエフリン−B2 APを、1μg/mlのEph受容体Fcで被覆したNi−NTAウエル内で1時間、共にインキュベートした。何回かの洗浄後、エフリン−B2−AP結合量を、基質としてp−ニトロフェニルリン酸を使用して定量した。EphB Fcがないウエルからのアルカリホスファターゼ活性を、バックグラウンドとして差し引いた。TNYL-RAWペプチド (TNYLFSPNGPIARAW、配列番号:39)の非ビオチン化形態を作成し、〜15nMのIC50で、EphB4へのエフリン−B2 AP結合を阻害することを見出した(図6A)。注目すべきことに、この値は、非ビオチン化TNYLの〜150μMのIC50よりも10000倍低く(図6A)、かつ二量体化エフリン−B2 Fcの〜9nMのIC50に匹敵する(図6B)(ここで、エフリン−A1 Fcをコントロールとして使用した。)。これらの実験において、該2つのペプチドはビオチン化していない。EphB4を結合する能力は劇的に増加したにもかかわらず、TNYL-RAWペプチドは高い選択性を保持し、かつエフリン結合を阻害するのに十分なそれらの濃度よりも高い濃度でさえも、他のEphB受容体へのエフリン結合を阻害しなかった(図6C)。ここで該TNYL-RAWペプチド(10μM)は、固定化したEphB4の外部ドメインへのエフリン−B2 APの結合を阻害するが、他のEphBの結合ドメインへの結合は阻害しない。ペプチド存在下でのエフリン−B2−AP結合を、(A)及び(B)におけるペプチド不在下での結合に対して標準化した。またTNYL-RAWペプチドは、基底のEphB4チロシンリン酸化と同様、MCF7細胞のエフリン−B2 Fc刺激によって誘導される濃度依存的様式でのEphB4チロシンリン酸化を阻害したが、これはおそらく、内因的に発現した低レベルのエフリン−B2による刺激に起因する(図6D)。エフリン−B2 Fc、又はコントロールとしてのFcでの刺激後、内因性EphB4をMCF7乳ガン細胞から免疫沈降し、抗リン酸化チロシン抗体(PTyr)を用いた免疫ブロッティングで標識した。10秒の露光が、TNYL-RAWペプチドがエフリン−B2 Fcによって誘導されるEphB4のリン酸化を阻害するのを示すのに対し、2分の露光は、該ペプチドもEphB4の低レベルのリン酸化を阻害することを示し、これはおそらく内因的に発現したエフリン−B2に起因する。該フィルターを、EphB4抗体で再標識し、免疫沈降された受容体の等量を確認した。
【0152】
いくつかのペプチドのみが、Bクラスのエフリン−B群のG−Hループに保存されるアミノ酸(表1の斜体かつ太字)を含むが、該ペプチド間の類似性は、全体的なアラインメントの構築を可能にさせた(表1)。該選別で同定された最良のEphB1結合ペプチド及びEphB4結合ペプチドである、EWLS及びTNYLは、Eph受容体との接触面のほとんどに寄与するループ部分(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)である、エフリンG−Hループのアミノ末端部分と共通の、4個の連続したアミノ酸を有する。しかしながら、各々のペプチドはまた、1つのEphB受容体にのみ選択的に結合することに一致して、独特な配列特性を有する。
【0153】
アラインメントは、該ペプチドの他の興味深い特性を示した。ほとんど大部分のペプチドは、エフリンG−Hループの先端に、トリプトファンに対応してプロリンを有する(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)。プロリンはトリプトファンに類似していないが、プロリンはG−Hループの先端の屈曲を模倣し得る屈曲を、ペプチド内に導入する(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)。該プロリンが構造的に重要であり得るという見解をさらに支持するのは、多くのEphB4結合ペプチドにおいて、グリシンはプロリンの前にあり、適切な配列関係で、グリシン−プロリン(GP)モチーフは、ジスルフィド結合がない場合でさえも、β−ヘアピン構造を促進することによって、短いペプチド構造をきわめて安定化させることが知られている(Blanco, F.らの論文. 1998 Curr Opin Struct Biol 8:107-111;Neidigh, J.W.らの論文. 2002 Nat Struct Biol 9:425-430;Song, J.らの論文. 2002 Biochemistry 41:10942-10949)。GPモチーフは、エリスロポエチン受容体に結合する高親和性環状ペプチドにおいて、決定的な役割を果たすことが知られている(Wrighton, N.C.らの論文. 1996 Science 273:458-464;Livnah, O.らの論文. 1996 Science 273:464-471)。このエリスロポエチン模倣ペプチドにおいて、GPモチーフは、2つの短いβ鎖を連結するβターン構造を導入し、エリスロポエチン受容体との重要な接触も仲介する。中央のGPモチーフを含む環状ペプチドを提示するいくつかのファージライブラリーをうまく利用して、細胞表面受容体に高親和性で結合する、構造的に制約されたペプチドを同定した(Fairbrother, W.J.らの論文. 1998 Biochemistry 37:17754-17764;Cwirla, S.E.らの論文. 1997 Science 276:1696-1699;Lowman, H.B.らの論文. 1998 Biochemistry 37:8870-8878)。興味深いことに、GPモチーフを含むEphB4結合ペプチドは、無作為の直鎖状ペプチドライブラリーから単離された。
【0154】
EphB2結合ペプチド及びEphB2結合ペプチドにおいて、プロリンの前にグリシンは存在せず、これはGPモチーフで誘導されるβターンの特定の型(Blanco, F.らの論文. 1998 Curr Opin Struct Biol 8:107-111)が、これらの他のEphB受容体の結合部位との相互作用に重要でないことを示す。THWC BphB2結合ペプチドは、保存されたプロリンを含まない数少ないペプチドの1つである。しかしながら、このペプチドはおそらく、エフリンG−Hループの先端に対応する先端とループを形成する、ジスルフィド結合した環状ペプチドである(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)。これは、たとえ異なる機構を介したとしても、同定されたペプチドのほとんどが、エフリンのG−Hループを模倣するという見解を支持する。最終的に、多くの他のペプチドで見出されたプロリンの代わりに、3つのEphB4結合ペプチドは、EphB4に関する好ましいリガンド、すなわちエフリン−B2のG−Hループに保存されるトリプトファンを含む(Bennett, B.D.らの論文. 1995 PNAS USA 92:1866-1870)。
【0155】
先に証拠を示したように、異なる配列モチーフの連結は、結合親和性の増幅にきわめて効果的であった。TNYL-RAWペプチドは、約15nMのIC50値で、EphB4への二量体化エフリン−B2 APの結合を阻害し、これはEphB4へのTNYL-RAWの結合に関するKDが、一価のEph−エフリン相互作用のKDとして同じ範囲内であることを示した(EphB2−エフリン−B2に関しては16nM、及びEphA3−エフリン−A5に関しては10〜12nM)(Lackrnann, M.らの論文. 1997 J Biol Chem 272:16521-16530;Himanen, J.P.らの論文. 1998 Nature 396:486-491;Smith, F.M.らの論文. 2004 J Biol Chem 279:9522-9531)。実際、二量体化エフリン−B2 FcのIC50値はわずかだけ低い(〜9nM)。アンタゴニストとしてのTNYL-RAWの潜在性は、該ペプチドにおけるジスルフィド結合の不在を顕著に考察させる。それにもかかわらず、TNYL-RAWは、結合親和性を損なわせ得る、EphB4結合のエントロピーの大きな損失を避けるための、適切な抑止的立体構造を有していなければならない。
【0156】
BphB1又はEphB2への結合に基づいて同定したペプチドの多くは両方の受容体に結合することができ(表1)、これはこれらの受容体のエフリン結合ポケットが密接に関連することを示す。実際に、エフリン−B2との抗親和性界面に寄与するEphB2の残基(Himanen, J.Pらの論文. 2001 Nature 414:933-938)は、EphB1で高度に保存されている(マウスの配列と85%のアミノ酸同一性)が、EphB4ではそれほど保存されていない(42%同一性)。全体として、マウスEphB1及びEphB2のエフリン結合ドメインは、互いに77%の同一性であったが、マウスEphB4のエフリン結合ドメインに対してはそれぞれ46%及び43%のみの同一性である。
【0157】
(実施例9)
(ガンの治療におけるEphB結合ペプチドの投与)
様々な診断方法で、結腸直腸ガンの治療の必要がある患者を同定する。治療的有効量のEphB受容体結合ペプチドを、患者に投与する。そのような治療の後、該患者における結腸直腸ガンの減少を検出する。
(実施例10)
(ガンの治療におけるEphB受容体結合ペプチドの投与)
様々な診断方法にで、異常な血管新生に関連する腫瘍性疾患の治療が必要である患者を同定する。治療的有効量のEphB受容体結合ペプチドを、外科的治療及び/又は化学療法的治療に先立って患者に投与し、該腫瘍の血管新生を減少させ、それによって該腫瘍の収縮を誘導する。そのような処理の後、該腫瘍のサイズの減縮を検出する。
【0158】
(実施例10)
(慢性痛の治療におけるEphB結合ペプチドの投与)
神経因性疼痛を訴える患者に、治療的有効量のEphB受容体結合ペプチドを投与する。その痛みのレベルの減少を観測し、該患者で測定する。
(実施例11)
(脊髄損傷の治療における、EphB受容体結合ペプチドの投与)
脊髄の負傷を有する患者に、EphB受容体の活性を阻害する治療的有効量のEphB受容体結合ペプチドを投与する。損傷部位での神経再生を刺激する。そのような治療後、刺激した部位での神経再生が患者で見られる。
【表1】


【0159】
本発明を、明確化及び理解の目的でいくつかの詳細について記載したが、当業者は、形態及び詳細の様々な変更が、本発明の真の範囲から逸脱せずになされ得ることを理解するであろう。先に言及した、全ての図、表、付録、特許、特許出願及び特許公報は、引用によって本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1A〜Dは、EphB受容体に結合するファージクローンの濃縮を示す棒グラフである。(A)EphB1パニングを使用した濃縮。(B)EphB2パニングを使用した濃縮。(C及びD)EphB4パニングを使用した濃縮。
【図2】図2A〜Hは、EphB受容体に結合するペプチド間の競合を示す図表である。(A)EWLSペプチドは、濃度依存的様式で、固定化EphB1外部ドメインへのEWLSファージの結合を阻害する。(B)SNEWペプチドは、濃度依存的様式で、固定化EphB2外部ドメインへのSNEWファージの結合を阻害する。(C)TNYLペプチドは、濃度依存的様式で、固定化EphB4外部ドメインへのTNYLファージの結合を阻害する。(D)EWLSペプチドは、EphB1でのパニングで単離されたファージクローンのEphB1結合を阻害する。(E)及び(G)SNEWペプチドは、EphB2でのパニングで単離されたほとんどのファージクローンのEphB2結合を阻害する。(F)TNYLペプチドは、EphB4でのパニングで単離されたファージクローンのEphB4への結合を阻害する。(H)DALNペプチドは、濃度依存的様式で、固定化したEphB4外部ドメインへのDALNファージの結合を阻害する。エラーバーは、2回反復測定からの標準偏差を示し、これは誤った増殖を考慮して計算した。
【0161】
【図3】図3A〜Gは、EphB受容体に結合するエフリン−B2に選択的に拮抗するペプチドを示す図表である。(A、C、E及びG)アルカリホスファターゼ活性を測定することで検出された、表示の固定化EphB受容体外部ドメインへのエフリン−B2 AP結合。(B、D及びF)エフリン−B2 AP及び表示のペプチドと共にインキュベートした異なるEphB外部ドメイン。エラーバーは、2回反復測定からの標準偏差を示し、これは誤った増殖を考慮して計算した。
【0162】
【図4】図4A及び4Bは、SNEWペプチドが、COS細胞における内因性EphB2のエフリン誘導性の活性化に拮抗することを示す図表である。(A)SNEWペプチドは、濃度依存的様式で、EphB2のエフリン−B1 Fc誘導性チロシンリン酸化(活性化)に拮抗する。(B)SNEWペプチドは、COS細胞のエフリン−B1 Fc誘導性退縮に拮抗する。400μMのSNEWペプチド存在下又は不在下の、エフリン−B1 Fc(B1)を用いた、又は用いない場合における、スパイクを有する細胞のパーセントの定量。(C)細胞形態の代表例。
【0163】
【図5】図5A〜Hは、EphB受容体標的化剤としてのペプチドを示す図表である。(A、C、D及びE)EWLSペプチド(A)、SNEWペプチド(C)、TNYLペプチド(D)及びDHNHペプチド(E)のEph受容体結合選択性。(B、F、G及びH)ストレプトアビジンビーズ上に固定化したEWLSペプチド、SNEWペプチド及びTNYLペプチドは、組織由来細胞株のEphB受容体に安定的に結合する。
【0164】
【図6】図6A〜Dは、TNYL-RAWペプチドが、選択性を維持する一方で、TNYLよりもより潜在的なEphB4アンタゴニストであることを示す図表である。(A)TNYL-RAWペプチドは、固定化したEphB4外部ドメインへのエフリン−B2 APの結合を阻害する。エラーバーは、TNYL-RAWに関しては3回反復測定からの標準偏差、TNYLに関しては2回反復測定からの標準偏差を示し、これらは誤った増殖を考慮して計算した。(B)エフリン−B2 Fcは、固定化したEphB4外部ドメインへのエフリン−B2 APの結合を阻害する。(C)TNYL-RAWペプチドは、固定化EphB4外部ドメインへのエフリン−B2 APの結合を阻害するが、他のEphB外部ドメインは阻害しない。エラーバーは、3回反復測定からの標準偏差を示し、これは誤った増殖を考慮して計算した。(D)TNYL-RAWペプチドは、濃度依存的様式で、EphB4のエフリン−B2誘導性チロシンリン酸化に拮抗する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EphB受容体ファミリーのメンバーに選択的に結合し、かつ該EphB受容体ファミリーの前記メンバーへのエフリンBリガンドの結合を阻害する、単離ペプチド。
【請求項2】
エフリンG−Hループを模倣する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項3】
配列番号:1のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項4】
配列番号:2のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項5】
配列番号:3のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項6】
配列番号:4のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項7】
配列番号:5のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項8】
配列番号:39のアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項9】
治療的に許容し得る担体と組み合わせた、請求項1記載の単離ペプチド。
【請求項10】
患者におけるEphB受容体関連疾患の治療方法であって:
EphB受容体関連疾患の治療を必要とする患者を同定すること;及び、
前記患者に、治療的有効量の請求項1の単離ペプチドを投与すること;
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記EphB受容体関連疾患が、腫瘍性疾患、神経疾患、又は血管疾患である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記単離ペプチドが、化学療法薬剤、又は毒素に連結される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
患者における腫瘍の画像化方法であって:
EphB受容体を発現する腫瘍を有すると疑われる患者を同定すること;
該患者に、造影剤に連結された請求項1記載の単離ペプチドを投与すること;及び、
該患者において、前記造影剤の画像を得ること;
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記造影剤が、蛍光性である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記造影剤が、放射性である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
EphB関連疾患の治療用薬剤の製造における、請求項1記載のペプチドの使用。
【請求項17】
前記EphB関連疾患が、腫瘍性疾患、神経疾患、又は血管疾患である、請求項16記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−528614(P2008−528614A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553261(P2007−553261)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/002923
【国際公開番号】WO2006/081418
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(506176548)ザ・バーンハム・インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】