説明

ErbB受容体由来ペプチド断片

本発明は、細胞増殖、分化、生存及び/又は運動性を調節することができる新規のペプチド化合物に関する。本発明のペプチド化合物は、ErbB受容体の短いペプチド断片を含み、且つErbBと結合し、受容体の活性を調節することができる。本発明は、本発明のペプチド配列を含むエピトープと結合し得る抗体、ペプチド配列及び/又は抗体を含む医薬組成物、並びにErbBの活性を調節することが必要とされる症状の治療のためのその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖(cell proliferation)、分化(differentiation)、生存及び/又は運動性(motility)を調節することができる新規のペプチド化合物に関する。本発明のペプチド化合物は、ErbB受容体の短いペプチド断片を含み、ErbBと結合すると共に受容体の活性を調節することができる。本発明は、本発明のペプチド配列を含むエピトープと結合し得る抗体、当該ペプチド配列及び/又は当該抗体を含む医薬組成物、並びにErbBの活性を調節(modulate)することが必要とされる症状(conditions)の治療のための使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ErbB受容体ファミリー(receptor family)及びそのリガンド
受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーは、細胞外増殖因子リガンド(extracellular growth factor ligands)の結合を細胞内情報伝達経路(intracellular signalling pathways)に共役させて、多様な生物学的応答、例えば増殖(proliferation)、分化(differentiation)、細胞運動性(cell motility)及び生存を調節する。このファミリーの4つの密接に関連した成員、すなわちErbB1(上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor)(EGFR)/HER1としても知られる)、ErbB2(neu、HER2)、ErbB3(HER3)及びErbB4(HER4)は、リガンド誘導性(ligand-induced)受容体ホモ及びヘテロ二量体化に際して活性化される。ErbB2は、すべての他のErbB受容体のための好ましいヘテロ二量体化相手であると思われる(Tzahar et al., 1996;Graus-Porta et al., 1997)。
【0003】
ErbBリガンドはEGF様ドメイン(EGF-like domain)の存在により特性化され、そしてErbB受容体に対するそれらの特異性(specificity)に基づいて3つの群に分けられ得る(Normanno et al., 2005): 第一群(例えばEGF、TGFα及びアンフィレグリン(amphiregulin))はErbB1と特異的に結合し、第二群(例えばベータセルリン(betacellulin)、ヘパリン結合EGF、エピレグリン(epiregulin))はErbB1及びErbB4に対する二重特異性(dual specificity)を示すが、一方、第三群(例えばノイレグリン(neuregulins)(NRGs))はErbB3及び/又はErbB4を結合する。EGF関連増殖因子のうち、ErbB2を結合するものはない。
【0004】
ErbB受容体は、上皮、間葉及び神経細胞における広範な発現パターンを有し、これらの受容体を通る情報伝達(signalling)は多数の臓器における細胞運命決定において重要な発生上の役割を果たす(Normanno et al., 2005)。
【0005】
ErbB受容体の構造及び活性化のメカニズム
4つのErbB受容体はすべて、細胞外リガンド結合ドメイン、単一膜貫通ドメイン及び細胞質チロシンキナーゼ含有ドメインを有する。ErbB受容体の細胞内チロシンキナーゼドメインは高度に保存されるが、ErbB3のキナーゼドメインは重要なアミノ酸(critical amino acids)の置換を含有し、 したがってキナーゼ活性を欠く(Guy et al., 1994)。ErbB受容体のリガンド誘導性二量体化(Ligand-induced dimerisation)は、キナーゼの活性化、C末端尾におけるチロシン残基に関する受容体トランスリン酸化と、その後の細胞内情報伝達エフェクターの動員(recruitment)及び活性化を誘導する(Yarden and Sliwkowski, 2001;Jorissen et al., 2003)。
【0006】
4つのErbBすべての細胞外ドメイン(extracellular domain)の結晶構造は、リガンド誘導性受容体活性化(ligand-induced receptor activation)の過程への詳細な洞察を提供した(Schlessinger, 2002)。各ErbB受容体の細胞外ドメイン(extracellular domain)は、4つのサブドメインから成る: サブドメインI及びIIIはリガンド結合部位(ligand-binding site)を形成するに際して協力するが、サブドメインII(及びおそらくはサブドメインIVも)は直接の受容体-受容体相互作用による受容体二量体化に参加する。リガンド結合ErbB1の構造において、サブドメインII中のβヘアピン(二量体化ループ(dimerisation loop)と呼ばれる)は二量体パートナー中に入り込み、受容体二量体を安定化する(Garrett et al., 2002;Ogiso et al., 2002)。これに対して、不活性ErbB1、ErbB3及びErbB4の構造においては、二量体化ループは、サブドメインIVとの分子内相互作用に関与し(engaged)、これは、リガンドの非存在下での自発的受容体二量体化を防止する(Cho and Leahy, 2002;Ferguson et al., 2003;Bouyan et al., 2005)。ErbB2の構造は、ErbBのうちで独特である。リガンドの非存在下でErbB2は、ErbB1のリガンド活性化状態(ligand-activated state)と類似する高次構造を有し、他のErbB受容体と相互作用するようになっている突出二量体化ループ(protruding dimerisation loop)を伴う(Cho et al., 2003;Garrett et al., 2003)。これは、ErbB2のヘテロ二量体化能力増強を説明し得る。
【0007】
ErbB受容体結晶構造はErbB受容体ホモ及びヘテロ二量体化のためのモデルを提供するが、いくつかのErbBホモ及びヘテロ二量体が他を上回る背景(Franklin et al., 2004)、並びに受容体二量体化及び自己抑制におけるドメインIVの役割(Burgess et al., 2003;Mattoon et al., 2004)は、依然として幾分明らかでない。
【0008】
癌におけるErbB受容体の役割
癌におけるErbB受容体の役割は、特にErbB1及びErbB2について、2つの主な証拠の系譜により十分に実証され、特性化されている: 第一に、ErbB受容体及びそれらのリガンドは試験管内及び生体内での形質転換遺伝子であり、ErbB2は最高のトランスフォーミング能力を示す(Di Fiore et al., 1987a, b; Shankar et al., 1989; Krane and Leder, 1996; Brandt et al., 2000; Normanno et al., 2005)。
【0009】
第二に、1つ又は複数のErbB受容体及び/又はそれらのリガンドは、大多数の固形新生物(solid neoplasms)中で過剰発現される(レビューのためには、Marmor et al., 2004; Normanno et al., 2005を参照されたい)。ErbB1に関しては、この受容体の過剰発現、遺伝子増幅、再構成又は突然変異は、多数のヒト悪性腫瘍(malignancies)、例えば乳房、頭及び首、並びに肺の癌において見出される。蓄積されつつある証拠は、ErbB1が過剰発現されると、その結果としての細胞形質転換はリガンド依存性であり、そしていくつかの腫瘍は、そのリガンドのうちの1つ、EGF又はTGFαと一緒に、ErbB1の過剰発現を示すということを示唆する。ErbB2の突然変異は、ヒト腫瘍においては、あるにしても、稀にしか見出されていない。しかしながら、ErbB2はしばしば多くの癌において(最も高頻度には乳及び卵巣の腫瘍において)過剰発現され、そしてその過剰発現は予後不良(poor prognosis)と関連する。ErbB2過剰発現は、自発的ホモ及び/又はヘテロ二量体形成並びにキナーゼドメインのリガンド非依存性活性化を誘発する。
【0010】
異なるErbB受容体の共発現(co-expression)は、大多数の癌腫(carcinomas)で起こり、そして異なるErbB受容体を共発現する腫瘍は、しばしば、より悪性度の高い(aggressive)表現型及びより悪い臨床結果と関連する(Olayioye et al., 2000)。特に、ErbB2の共発現(co-expression)は、他のErbB受容体に増強したトランスフォーミング能力を付与するが、これは、ErbB2含有ヘテロ二量体が、リガンド結合親和性増大を示し、リガンド誘導性(ligand-induced)の受容体発現低下を回避し、そしてより生物学的に強力(biologically potent)である、という事実のためである(Worthylake et al., 1999;Olayioye et al., 2000)。実際、リガンド無しErbB2及びキナーゼ欠損ErbB3のヘテロ二量体は、最も強力な分裂促進的(mitogenic)及び転移性(metastatic)ErbBシグナルを提供する、という合意が生じつつある(Olayioye et al., 2000; Citri et al., 2003; Xue et al., 2006)。
【0011】
ErbB受容体標的化癌療法
癌発生におけるErbB受容体の中心的役割(pivotal role)のため、それらは癌療法のための明白な標的である。ErbBを標的にするいくつかの抗癌剤は、臨床的使用中であるか又は開発中である(レビューのためには、Normanno et al., 2003; Baselga and Arteaga, 2005を参照されたい)。それらは、以下の2つの範疇に分けられ得る:
【0012】
1. ErbBファミリーに対するキメラ又はヒト化モノクローナル抗体
これらに含まれるものとしては、リガンド結合及びリガンド依存性受容体活性化を防止する抗体(例えば、ErbB1のリガンド結合サブドメインIIIを標的にするセツキシマブ(Cetuximab))、リガンド非依存性受容体活性化を妨害する抗体(例えば、ErbB2のサブドメインIVを標的にするトラツズマブ(Trastuzumab))、そして受容体ヘテロ二量体化を防止する抗体(例えば、ErbB2のサブドメインIIにおける二量体化ループ周囲の領域を標的にする抗ErbB2抗体ペルツズマブ(Pertuzumab))がある。セツキシマブは、進行段階(advanced-stage)の直腸結腸癌(colorectal cancer)の治療のために認可されており、そして頭及び首の扁平上皮癌(squamous cell carcinomas)並びに非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer)の治療のための第三相試験において試験中である。トラツズマブはErbB2を過剰発現する転移性(metastatic)乳癌の治療のために認可されており、そしてペルツズマブは、乳癌、卵巣癌、前立腺(prostate)癌及び非小細胞肺癌の治療のために臨床的第二相で試験中である。しかしながら、ErbB標的化抗体の使用には限界がある。例えばトラツズマブに関しては、客観的奏効率(objective response rates)は相対的に低く、そしてトラツズマブ治療から利益を得る患者の大多数は、治療開始の1年以内に耐性を獲得する。
【0013】
2. 小分子ErbBチロシンキナーゼ阻害薬
2つのErbB1特異的チロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブ(Gefitinib)/イレッサ(Iressa)及びエルロチニブ(Erlotinib)は、非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer)の治療のために認可されており、そして二重ErbB1/ErbB2阻害薬ラパチニブ(Lapatinib)は、乳癌の治療のために第三相試験中である。
【0014】
抗体ベースのErbBターゲッティングの戦略に代わるものとして、2つの最近の研究は、小ペプチドによりErbB1及びErbB2を標的にすることを試みた。EGF様増殖因子との相同性を示し、かつErbB1中のリガンド結合部位(ligand-binding site)(Nakamura et al., 2005)又はErbB2の細胞外ドメイン(extracellular domain)中の不特定の部位(unspecified site)(Pero et al., 2004)に結合し、それによりそれぞれErbB1及びErbB2媒介性有糸分裂誘発(ErbB1- and ErbB2-mediated mitogenesis)を阻害するペプチドを当該著者らは同定した。しかしながら、ErbB受容体の他の細胞外部分(例えば受容体二量体化に関与する部分)を標的にするペプチド、及び/又は同一腫瘍中で発現されるいくつかのErbB受容体を標的化できるペプチドを開発するための試みに関する報告はない。
【非特許文献1】Baselga J, Arteage CL (2005): Critical update and emerging trends in epidermal growth factor receptor targeting in cancer, J Clin Oncol 23, 2445-59.
【非特許文献2】Bouyan S, Lomgo P, Li S, Ferguson K, Leahy D (2005): The extracellular region of ErbB4 adopts a tethered conformation in the absence of ligand, PNAS 102, 15024-15029.
【非特許文献3】Brandt R, Eisenbrandt R, Leenders F, Zschiesche W, Binas B, Juergensen C, Theuring F (2000): Mammary gland specific hEGF receptor transgene expression induces neoplasia and inhibits differentiation, Oncogene 19, 2129-37.
【非特許文献4】Burgess AW, Cho HS, Eigenbrot C, Ferguson KM, Garrett TP, Leahy DJ, Lemmon M, Sliwkowski M, Ward CW, Yokoyama S (2003): An open-and-shut case? Recent insight into the activation of EGF/ErbB receptors, Mol Cell 12, 541-552.
【非特許文献5】Cho HS, Leahy DJ (2002): Structure of the extracellular region of HER3 reveals an interdomain tether, Science 297, 1330-1333.
【非特許文献6】Cho HS, Mason K, Ramyar KX, Stanley AM, Gabelli SB, Denney DW, Leahy DJ (2003): Structure of the extracellular region of HER2 alone and in complex with the Herceptin Fab, Nature 421, 756-760.
【非特許文献7】Citri, Skaria KB, Yarden Y (2003): The deaf and the dumb: the biology of ErbB-2 and ErbB-3. Exp Cell Res 284, 54-65
【非特許文献8】Di Fiore PP, Pierce JH, Kraus MH, Segatto O, King CR, Aronson SA (1987a): ErbB2 is a potent oncogene when overexpressed in NIH/3T3 cells, ScienceI 237, 178-182.
【非特許文献9】Di Fiore PP, Pierce JH, Kraus MH, Segatto O, King CR, Aronson SA (1987b): Overexpression of the human EGF receptor confers an EGF-dependent transformed phenotype to NIH/3T3 cells, Cell 51, 1063-1070.
【非特許文献10】Dmytriyev A, Tkach V, Rudenko O, Bock E, Berezin V (2006): An automatic procedure for evaluation of single cell motility, Cytometry A 69, 979-985.
【非特許文献11】Ferguson K, Berger M, Mendrola J, Cho HS, Leahy D, Lemmon M (2003): EGF activates its receptor by removing interactions that autoinhibit ectodomain dimerisation, Mol Cell 11, 507-517.
【非特許文献12】Franklin MC, Carey KD, Vajdos F, Leahy DJ, de Vos A, Sliwkowski M (2004): Insights into ErbB signaling from the structure of the ErbB-pertuzumab complex, Cancer Cell 5, 317-328.
【非特許文献13】Garrett T, McKern N, Lou M, Elleman T, Adams T, Lovrecz G, Zhu HJ, Walker F, Frenkel M, Hoyne P, Jorissen R, Nice E, Burgess A, Ward C (2002): Crystal structure of a truncated epidermal growth factor receptor extracellular domain bound to transforming growth factor α, Cell 110, 763-773.
【非特許文献14】Garrett TP, McKern NM, Lou M, Elleman TC, Adams TE, Lovrecz GO, Kofler M, Jorissen RN, Nice EC, Burgess AW, Ward CW (2003): The crystal structure of a truncated ErbB2 ectodomain reveals an active conformation, poised to interact with other ErbB receptors, Mol Cell 11, 495-505.
【非特許文献15】Graus-Porta D, Beerli RR, Daly JM, Hynes NE (1997): ErbB-2, the preferred heterodimerization partner of all ErbB receptors, is a mediator of lateral signalling, EMBO J 16, 1647-1655.
【非特許文献16】Guy PM, Platko JV, Cantley LC, Cerione R A, Carraway Kl (1994): Insect Cell-Expressed p180erbB3 Possesses an Impaired Tyrosine Kinase Activity, PNAS 91, 8132-8136.
【非特許文献17】Jorissen R, Walker F, Pouliot N, Garrett T, Ward C, Burgess A (2003): Epidermal growth factor receptor: mechanisms of activation and signaling, Exp Cell Res 284, 31-53.
【非特許文献18】Krane IM, Leder P (1996): NDF/heregulin induces persistence of terminal end buds and adenocarcinomas in the mammary glands of transgenic mice, Oncogene 12, 1781-8.
【非特許文献19】Kwok TT, and Sutherland R M (1991): Differences in EGF related radiosensitistion of human squamous carcinoma cells with high and low numbers of EGF receptors. Br J Cancer 64, 251-254.
【非特許文献20】Marmor MD, Skaria KB, Yarden Y (2004): Signal transduction andoncogenesis by ErbB/HER receptors, Int J Rad Oncol 58, 903-913.
【非特許文献21】Mattoon D, Klein P, Lemmon MA, Lax I, Schlessinger J (2004): The tethered configuration of the EGF receptor extracellular domain exerts only a limited control of receptor function, PNAS 101, 923-928.
【非特許文献22】Nakamura T, Takasugi H, Aizawa T, Yoshida M, Mizugushi M, Mori Y, Shinoda H, Hayakawa Y, Kawano K (2005): Peptide mimics of epidermal growth factor with antagonistic activity, J Biotecnol 116, 211-219.
【非特許文献23】Normanno N, Bianco C, De Luca A, Maiello MR, Salomon DS (2003): Target-based agents against ErbB receptors and their ligands: a novel approach to cancer treatment, Endoc Rel Canc 10, 1-21.
【非特許文献24】Normanno N, Bianco C, Strizzi L, Maiello MR, De Luca A, Caponigro F, Salomon DS (2005): The ErbB receptors and their ligands in cancer: an overview. Curr Drug Targets 6, 243-257.
【非特許文献25】Ogiso H, Ishitani R, Nureki O, Fukai S, Yamanaka M, Kim JH, Saito K, Sakamoto A, Inoue M, Shirouzu M, Yokoyama S (2002): Crystal structure of the complex of human epidermal growth factor and receptor extracellular domains, Cell 110, 775-787.
【非特許文献26】Olayioye MA, Neve RM, Lane HA, Hynes NE (2000): The ErbB signalling network: receptor heterodimerzation in development and cancer. EMBO J 19, 3159-3167.
【非特許文献27】Pero SC, Shukla GS, Armstrong AL, Peterson D, Fuller SP, Godin K, Kingsley-Richards SL, Weaver DL, Bond J, Krag DN (2004): Identification of a small peptide that inhibits the phosphorylation of ErbB2 and proliferation of ErbB2 overexpressing breast cancer cells, Int J Cancer 111, 951-60.
【非特許文献28】Schlessinger J (2002): Ligand-induced, receptor-mediated dimerisation and activation of EGF receptor, Cell 110, 669-672.
【非特許文献29】Shankar V, Ciardiello F, Kim N, Derynck R, Liscia DS, Merlo G, Langton BC, Sheer D, Callahan R, Bassin RH (1989): Transformation of an established mouse mammary epithelial cell line following transfection with a human transforming growth factor alpha cDNA, Mol Carcinogi 2, 1-11.
【非特許文献30】Tzahar E, Waterman H, Chen X, Levkowitz G, Karunagaran D, Lavi S, Ratzkin BJ, Yarden Y (1996): A hierarchical network of interreceptor interactions determines signal transduction by neu differentiation factor/neuregulin and epidermal growth factor, Mol Cell Biol 16, 5276-5287.
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【非特許文献34】Kwok, T. T., and Sutherland, R. M. (1991) Differences in EGF related radiosensitisation of human squamous carcinoma cells with high and low numbers of EGF receptors. Br J Cancer 64, 251-4.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、6〜18個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む最大で30個のアミノ酸残基の単離ペプチドであって、上記アミノ酸配列がErbB受容体のポリペプチドの部分配列(subsequence)と同一であるか又は相同である単離ペプチドに関する。本発明によると、このようなアミノ酸配列を含むペプチドは、i) ErbB受容体と結合し、ii) 細胞増殖(cell proliferation)を調節(modulate)し、iii)細胞運動性(cell motility)を調節し、iii) 細胞生存を調節し、iv) 細胞分化(cell differentiation)を調節し、v) ErbB受容体の活性を調節することができる。
【0016】
したがって本発明の別の態様は、薬物(medicaments)としての、そして症状(condition)又は疾患を治療する薬物を調製するための、本発明のペプチド及び/又は当該ペプチドを含む化合物の使用に関するが、この場合、i) 細胞増殖を調節し、ii) 細胞運動性を調節し、iii) 細胞生存を調節し、iv) 細胞分化を調節するか、又はv) ErbB受容体の活性を調節することは上記治療の一部である。
【0017】
さらに別の態様では、本発明のペプチド又は当該ペプチドを含む化合物は、抗体の産生のために用いられ得る。
本発明はさらに、本発明のペプチド、当該ペプチドを含む化合物、又は当該ペプチドを含むエピトープを認識できる抗体を含む医薬組成物に関する。
【0018】
本発明は、i) 細胞増殖を調節し、ii) 細胞運動性を調節し、iii) 細胞生存を調節し、iv) 細胞分化を調節するか、又はv) ErbB受容体の活性を調節することが有益である症状(conditions)の治療方法であって、本発明のペプチド配列、本発明の化合物、本発明の抗体、又は上記のペプチド配列、上記の化合物若しくは上記の抗体を含む医薬組成物を必要とする個体に投与(administer)する工程を包含する方法にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1. ErbB受容体の断片を含むペプチド配列
第一の態様において、本発明は、ErbB受容体のポリペプチド配列の部分配列(subsequence)と同一であるか又は相同である6〜18個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む最大で30個のアミノ酸残基の単離ペプチドに関する。
【0020】
「単離ペプチド」という用語により、当該ペプチドのアミノ酸配列(より長いポリペプチド配列の部分配列と同一であるか又は相同である)が、より長いポリペプチド配列(例えばErbB受容体又はErbB受容体の大型断片)とは別個の物理的存在物(physical entity)を表わし、その部分配列ではないことを意味する。
【0021】
本発明は、好ましくは、6〜18個のアミノ酸残基の配列を含む単離ペプチドに関するものであり、ここで当該アミノ酸配列はErbB受容体のポリペプチドの部分配列(subsequence)と同一であるか又は相同である。「同一の」という用語によって意図されるのは、当該単離ペプチドが、6〜18個のアミノ酸残基を含むErbB受容体の断片を表わす6〜18個のアミノ酸残基の配列を含むこともできるし又はそれからなることもできる、ということである。「相同の(homologous)」という用語によって意図されるのは、単離ペプチドが、ErbB受容体の部分配列と相同である6〜18個のアミノ酸残基を含むこともできるし又はそれからなることもできる、ということである。或るアミノ酸配列と別のアミノ酸との相同性は、2つの照合配列中の同一又は類似のアミノ酸の百分率として定義される。「類似のアミノ酸」という用語は、照合配列中の2つの比較アミノ酸残基がアミノ酸の同一群に属する(以下を参照されたい)ことを意味する。「配列相同性(sequence homology)」という語句は、本明細書中では、「配列類似性」という用語と同義的に(synonymously)用いられる。配列相同性は、既知のアルゴリズム、例えばBLOSUM 30、BLOSUM 40、BLOSUM 45、BLOSUM 50、BLOSUM 55、BLOSUM 60、BLOSUM 62、BLOSUM 65、BLOSUM 70、BLOSUM 75、BLOSUM 80、BLOSUM 85、又はBLOSUM 90を用いて算定される。
【0022】
本発明のペプチドの好ましい長さは、最大で30個のアミノ酸残基である。ペプチドは、30個より多くのアミノ酸残基を有することもできる。このような実施形態は、最大で50個のアミノ酸残基を有するペプチドに関する。
【0023】
したがって、一実施形態では、本発明のペプチドは、ErbB受容体の部分配列(subsequence)と同一である6〜18個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか又はそれらから成る。このようなアミノ酸配列は、ErbB受容体の断片としても、本明細書中で同定され、言及される。
【0024】
したがって本発明は、少なくとも6個、且つ最大で18個の隣接する(contiguous)アミノ酸残基(例えば7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17個のアミノ酸残基)から成るErbB受容体の断片に関する。
【0025】
ErbB断片は、ErbBファミリーに属する任意の受容体の断片、であってよい(例えばErbB1、ErbB2、ErbB3又はErbB4の断片で、このような受容体は、GenBankにおいてAss.番号:P00533、NP_004439、P70424、P21860、Q61526、Q15303、NP_997538で同定される)。
【0026】
本発明の単離ペプチドが含むアミノ酸配列は、上で同定されたいずれかのErbB受容体の任意の構造ドメインの部分配列(subsequence)を表わしてもよい。本発明の好ましいペプチドは、ErbB受容体の以下の構造ドメインの部分配列を表すErbBペプチド断片を含む:二量体化ループ、自己抑制的ループ(autoinhibitory loop)又は膜近位ドメイン(membrane proximal domain)。
【0027】
本発明のペプチドに含まれてもよいErbB受容体の単離ペプチド断片を表すアミノ酸配列の非限定例は、配列番号1〜39で記述されるアミノ酸配列である。それは、上記の配列の断片又はバリアントでもあり得る。
【0028】
本発明は、上記のErbBの天然断片、合成的に調製される断片又は組換え断片、及びErbB受容体のポリペプチドの酵素的/化学的切断により調製される断片に関する。
【0029】
本願において、アミノ酸配列に言及される場合、アミノ酸残基に関する標準一文字記号が、標準三文字記号と同様に適用される。アミノ酸に関する略号は、IUPAC-IUB Joint Commission on Biochemical Nomenclature Eur. J. Biochem, 1984, vol. 184, pp 9-37における推奨に従っている。説明及び特許請求の範囲全体を通して、天然アミノ酸に関する三文字記号又は一文字記号が用いられる。L型又はD型が特定されていない場合、問題のアミノ酸は天然L型(Pure & Appl. Chem. Vol. (56(5) pp 595-624 (1984)) を参照されたい) 又はD型を有し、したがって、形成されるペプチドはL型、D型又は混合L型及びD型の配列のアミノ酸で構成され得る、と理解されるべきである。
【0030】
何も特定されない場合、本発明のペプチドのC末端アミノ酸は遊離カルボン酸として存在すると理解されるべきであり、これはまた、「-OH」として特定され得る。しかしながら本発明の化合物のC末端アミノ酸は、アミド化誘導体であってもよく、これは、「-NH2」として示される。ほかに記述されるものがない場合、ポリペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を含み、これも「H-」として特定され得る。
【0031】
ほかに特定されるものがない場合、アミノ酸は、天然でも、そうでなくても、任意のアミノ酸、例えば、アルファアミノ酸、ベータアミノ酸、及び/又はガンマアミノ酸から選択され得る。したがって基は、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Phe、Trp、Met、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Gln、Asp、Glu、Lys、Arg、His、Aib、Nal、Sar、Orn、リジン類似体、DAP、DAPA及び4Hypを含むが、これらに限定されない。
【0032】
さらにまた、本発明によれば、化合物/ペプチドの修飾、例えばアミノ酸のグリコシル化及び/又はアセチル化及び/又はリン酸化が実施され得る。
【0033】
塩基性アミノ酸残基は、本発明によれば、アミノ酸Arg、Lys及びHisの残基により表され、酸性アミノ酸残基は、アミノ酸Glu及びAspの残基により表される。塩基性アミノ酸残基及び酸性アミノ酸残基は、荷電アミノ酸残基の群を構成する。疎水性アミノ酸残基の群は、アミノ酸Leu、Ile、Val、Phe、Trp、Tyr、Met、Ala及びProの残基により表される。
【0034】
したがって一実施形態では、ペプチドは、配列番号1〜29から選択されるアミノ酸配列を含むか又はそれらから成り得る。別の実施形態では、ペプチドは、上記配列の断片又はバリアントを含むか又はそれらから成り得る。アミノ酸配列は、単一コピー(single copy)としてペプチド中に存在してもよいし(即ちペプチド配列の単量体(monomer)として製剤される)、或いは同一配列のいくつかのコピーとして存在してもよい(例えば配列番号1〜29から選択される配列の2つ以上のコピーを、又は上記配列の断片又はバリアントの2つ以上のコピーを含む多量体として)。本発明のペプチド配列の多量体的提示(multimeric presentation)の他の型は、以下に記載される。
【0035】
したがって、上記されているように、本発明は、配列番号1〜29で記述されるアミノ酸配列のバリアントに関する。
【0036】
一態様では、、「ペプチド配列のバリアント(variant of a peptide sequence)」という用語は、ペプチドが、例えばアミノ酸残基の1つ又は複数の置換により改変され得る、ということを意味する。L-アミノ酸及びD-アミノ酸の両方が用いられ得る。他の修飾としては、誘導体、例えばエステル、糖類等を含み得る。実例は、メチル及びアセチルエステルである。
【0037】
別の態様では、「バリアント」は、挿入、欠失及び置換(保存的(conservative)置換を含む)の数及び範囲が増大する場合、好ましい既定の配列と漸進的に異なるアミノ酸配列を示す、と理解され得る。この差は、既定の配列及びバリアント間の相同性の低減として測定される。
【0038】
さらに別の態様では、本発明によるペプチド断片のバリアントは、同一バリアント又はその断片内に、或いは異なる複数のバリアント又はその断片相互間で、少なくとも1つの置換、例えば互いに独立して導入される複数の置換を含み得る。複合体のバリアント又はその断片は、したがって、以下のものを含む;互いに独立した保存的(conservative)置換、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのグリシン(Gly)は、Ala、Val、Leu及びIleから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのアラニン(Ala)は、Gly、Val、Leu及びIleから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのバリン(Val)は、Gly、Ala、Leu及びIleから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのロイシン(Leu)は、Gly、Ala、Val及びIleから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのイソロイシン(Ile)は、Gly、Ala、Val及びLeuから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのアスパラギン酸(Asp)は、Glu、Asn及びGlnから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのアスパラギン(Asn)は、Asp、Glu及びGlnから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのグルタミン(Gln)は、Asp、Glu及びAsnから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; 上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのフェニルアラニン(Phe)は、Tyr、Trp、His、Proから成るアミノ酸の群から選択される、好ましくはTyr及びTrpから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのチロシン(Tyr)は、Phe、Trp、His、Proから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換され、 好ましくはPhe及びTrpから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記断片の少なくとも1つのアルギニン(Arg)は、Lys及びHisから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのリジン(Lys)は、Arg及びHisから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片;またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのプロリン(Pro)は、Phe、Tyr、Trp及びHisから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される; またそれから独立して、バリアント又はその断片、この場合、上記バリアント又はその断片の少なくとも1つのシステイン(Cys)は、Asp、Glu、Lys、Arg、His、Asn、Gln、Ser、Thr及びTyrから成るアミノ酸の群から選択されるアミノ酸で置換される。
【0039】
したがって、ペプチド断片の同じ機能的等価物、又は当該機能的等価物の断片は、本明細書中に上で定義されたような保存的アミノ酸の1つ以上の群からの1つ以上の保存的アミノ酸置換を含み得る、ということが上記の結果として生じる。「保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)」という用語は、本明細書中では、「相同アミノ酸置換(homologous amino acid substitution)」という用語と同義的に用いられる。
【0040】
保存的アミノ酸の群は以下の通りである:
P、A、G(中性、弱疎水性)
S、T(中性、親水性)
Q、N(親水性、酸アミン)
E、D(親水性、酸性)
H、K、R(親水性、塩基性)
L、I、V、M、F、Y、W(疎水性、芳香族)
C(架橋形成)。
【0041】
本発明によれば、バリアントは、配列番号1〜29から選択されるアミノ酸配列と少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは95%、さらに好ましくは97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列であり得るか、或いは、配列番号1〜29から選択されるアミノ酸配列と比較して、少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは95%、さらに好ましくは97%、98%又は99%の正のアミノ酸一致度を有するアミノ酸配列であり得る。正のアミノ酸一致は、本明細書中では、2つの比較配列中に同一位置を有するアミノ酸の物理的及び/又は化学的特性により定義される同一性又は類似性と定義される。本発明の好ましい正のアミノ酸一致は、KにR、EにD、LにM、QにE、IにV、IにL、AにS、YにW、KにQ、SにT、NにS及びQにRである。或るアミノ酸配列と別のアミノ酸との相同性は、2つの照合配列中の同一アミノ酸の百分率として定義される。「配列相同性(sequence homology)」という語句は、本明細書中では、「配列類似性(sequence similarity)」という用語と同義的に用いられる。配列相同性(sequence homology)は、すでに上記したように、既知のアルゴリズム、例えばBLOSUM 30、BLOSUM 40、BLOSUM 45、BLOSUM 50、BLOSUM 55、BLOSUM 60、BLOSUM 62、BLOSUM 65、BLOSUM 70、BLOSUM 75、BLOSUM 80、BLOSUM 85又はBLOSUM 90を用いてルーチンに算定され得る。
【0042】
本発明のペプチド配列中のアミノ酸置換であって、本発明の範囲に含まれるペプチド配列のバリアントの形成を生じるものは、一実施形態においては、それらの疎水性値及び親水性値、並びにアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば電荷、サイズ等に基づいてなされ得る。種々の前記の特質を考慮に入れる例示的なアミノ酸置換は当業者に既知であり、例としてはアルギニン及びリジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;セリン及びスレオニン;グルタミン及びアスパラギン;並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンが挙げられる。
【0043】
いくつかの実施形態では、以下のバリアントが好ましい:
1. 配列番号1〜29の配列から選択される配列と少なくとも65%の配列類似性を有する少なくとも6個のアミノ酸残基のアミノ酸配列のバリアント、好ましくは配列番号1〜29の配列から選択される配列と70%より高い配列類似性(例えば71%〜80%の類似性、好ましくは81%〜85%、さらに好ましくは86%〜90%、さらに好ましくは91%〜95%、さらに好ましくは95%より高い配列類似性、例えば96〜99%の類似性)を有する6〜18個の隣接する(contiguous)アミノ酸残基のアミノ酸配列のバリアント。
【0044】
2. 配列番号1〜29の配列から成るバリアント。この場合、上記配列は、糖又は脂質の誘導体、或いは別の誘導体、例えばホスホリル又はアセチル残基と共有結合される1つ又は複数のアミノ酸残基を含み、場合によっては、配列の生物学的活性に影響を及ぼさない任意の他の化学部分(chemical moieties)を含んでもよい。
【0045】
配列番号1〜29から選択されるアミノ酸配列の断片に言及される場合、本発明によるこのような断片は、被選択配列の長さの少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の長さを有する。好ましい実施形態では、本発明は、配列番号30〜39として同定されるアミノ酸配列を有する断片に関する。
【0046】
被選択配列の断片、バリアント及び相同体(homologue)、例えば上記の断片及びバリアントは、元の配列の少なくとも多少の生物学的活性を残存する、と理解される。
【0047】
本発明によれば、単離ペプチドは、化合物の一部として製剤され得る。化合物は、ペプチドの単一コピー(single copy)を含有し得るし、或いはペプチドの2つ以上のコピーを含有し得る。これは、本発明の化合物が例えば単一の個々のペプチド配列を含有するペプチド配列の単量体(monomer)として製剤され得るし、或いは2つ以上のペプチド配列を含有する多量体として製剤され得る、ということを意味する。上記の多量体は、同一アミノ酸配列の2つ以上のコピーを含み得るし、或いは2つ以上の異なるペプチド配列を含み得る。多量体は、被選択アミノ酸配列及び1つ又は複数のその断片の組合せも含み得る。
【0048】
一実施形態では、化合物は、2つの同一の又は異なるアミノ酸配列を含有し得るが、このような化合物は本明細書中で二量体と定義され、別の実施形態では、化合物は2つより多くの同一の又は異なるアミノ酸配列、例えば3個、4個又はそれより多くのアミノ酸配列を含有し得る。本発明は、好ましくは、2個又は4個のペプチド配列を含有する化合物に関する。化合物のアミノ酸配列は、ペプチド結合を介して互いに連結されるか、或いはリンカー分子又はグループ化を介して捻られ(kinked)得る。
【0049】
好ましい一実施形態では、化合物は、配列番号1〜39から選択されるアミノ酸配列を含むか又はそれらから成るペプチド配列の2つ又は4つの同一コピーを含有し、この場合、上記ペプチド配列は、リンカー分子又はグループ化を介して互いに連結される。このような連結グループ化の一例は、アキラル(achiral)なジ、トリ又はテトラカルボン酸であり得る。適切なアキラルなジ、トリ又はテトラカルボン酸びこのような化合物の製造方法(リガンド提示アセンブリー法(ligand presentation assembly method, LPA))は、国際公開第WO00/18791号で詳細に考察されている。考え得るリンカーの別の例は、リジンの残基である。個々のペプチド配列は、ツリー・リジン残基(tree lysine residues)から成るコアに結合され得る。このような化合物は、樹状多量体(dendritic multimer (デンドリマー(dendrimer)))又はMAP型化合物と呼ばれ、当該技術分野で既知である(PCT/US90/02039、Lu et al., (1991) Mol Immunol. 28: 623-630;Defoort et al., (1992) Int J Pept Prot Res. 40: 214-221;Drijfhout et al. (1991) Int J Pept Prot Res. 37: 27-32)。MAPは、目下、研究及び医学的用途に広範に用いられている。配列番号1〜39から選択されるアミノ酸配列を含むか又はそれらから成る4つの個々のペプチドを含むデンドリマー様化合物(dendrimeric compound)を提供することが、本発明の好ましい一実施形態である。
【0050】
多量体的提示(multimeric presentation)、例えばLPA又はMAPが好ましいが、本発明の2つ以上の個々の配列を含む他の既知の型の多量体化合物も、本発明の範囲に含まれ、そして必要な場合、当該技術分野の記載技法に従って調製され得る。
【0051】
2. 生物学的活性
本発明のペプチド配列並びに当該配列を含む化合物は、生物学的活性を保有する。本発明は、好ましくは、ErbB受容体の活性と関連した生物学的活性に関する。
【0052】
本発明によれば、ペプチド及びそれを含む化合物は、ErbB受容体と結合できる。ErbB受容体は、異なる好ましい実施形態では、ErbB1、ErbB2、ErbB3又はErbB3受容体であり得る。
【0053】
本発明によるペプチドは、10-6M〜10-9Mの結合親和性(Kd)でErbB受容体と結合できる。
【0054】
本発明によるペプチドと受容体との結合は、ErbBの活性を調節することを生じる。「調節(modulate)すること」という用語は、刺激すること及び阻害することの両方を含む。したがって、本発明のペプチドは、ペプチドのアミノ酸配列の特殊性に応じて、そして受容体環境(例えばErbB受容体の他のリガンドが受容体環境中に存在するか否か)によって、活性化するか又は阻害し得る。上記のように、ペプチドは、ErbB受容体の異なるペプチド断片を含み得る。これらの断片のいくつかは、ErbBと結合する能力を有しそして受容体を阻害するが、これに対して、他のものは、受容体との結合によりErbBの活性を刺激し得る。このようなペプチドの1つの非限定例は、本発明の配列番号3又は配列番号6を含むか又はそれらから成るペプチドであり得る。これらのペプチドは、ErbBリガンド、例えばEGFの存在又は非存在によって、ErbBを活性化するか又は阻害し得る。
【0055】
ErbB受容体は、細胞増殖(cell proliferation)、分化(differentiation)、生存(survival)及び運動性(motility)の調節(modulate)に関与する主要受容体である。したがってErbBの活性を調節することができる化合物はまた、ErbB活性に依存する生理学的応答を調節することができる。したがって、本明細書中に記載されるペプチドが受容体の活性を調節することができる場合、ErbBの活性と関連した生理学的応答は本発明の範囲内である。ペプチドの好ましい生物学的活性は、細胞増殖(cell proliferation)、細胞分化(cell differentiation)、細胞生存(cell survival)及び/又は細胞運動性(cell motility)を調節(modulate)することを包含する。
【0056】
いくつかの実施形態では、例えば癌細胞(cancer cell)が関係する場合、細胞増殖、細胞分化、細胞生存及び/又は細胞運動性を阻害するペプチドの能力が好ましい。別の好ましい実施形態では、細胞増殖、細胞分化、細胞生存及び/又は細胞運動性を刺激する能力が好ましい(例えば幹細胞(stem cell)、例えば神経又はグリア前駆細胞(neural or glial progenitor cells)が関係する場合)。
【0057】
本発明のペプチド及びそれを含む化合物の生物学的活性の非限定例は以下に記載されるが、これらのうちの一例は、細胞運動性(cell motility)に及ぼす本発明のペプチドの作用である。
【0058】
細胞移動は、神経系の発生、創傷治癒及び腫瘍侵襲中に必要とされる。神経系の正確な形成及び正常機能はともに、それらの本来の部位からそれらの最終位置に、発生中の神経系全体を通してニューロンの大多数が移動するということを必要とする。
【0059】
いくつかの型の細胞は成熟生物体中でも移動する能力を保持するが、一方、他の型はそれを失う。何らかの極端な症状(conditions)では、例えば疾患又は外傷(trauma)においては、細胞の移動する能力は疾患からの救出又は死の開始、例えば創傷治癒又は癌細胞侵襲及び転移(dissemination)を定め得る。したがって細胞運動性を調節する能力を有する物質、例えば或る種の内在性栄養性因子(endogenous trophic factors)は、例えば外傷からの回復を促進し、癌細胞の転移を防止し、或いは炎症の広がりを阻害する化合物に関する研究における主要な標的である。上記のペプチド化合物の可能性を評価するために、細胞運動性に関する情報伝達を調節し、細胞接着を妨げ、細胞運動性を刺激するか又は阻害する能力が研究され得る。本発明の化合物は、細胞運動性を調節することができ(即ち阻害及び/又は刺激することができ)、したがってそれらは、例えば癌細胞の侵襲及び転移を阻害するための、並びにこのような阻害が必要とされる症状で任意の型の細胞侵襲を阻害するための良好な候補化合物であるとみなされる。
【0060】
本発明によれば、上記配列の少なくとも1つを含むペプチドは、細胞運動性を調節することができる、即ち阻害するか又は刺激し得る。本発明は調節(modulate)のレベルを問題にするが、これは、約25%〜約50%又はそれより大きいと概算される。「運動性(motility)」という用語は、本明細書中では、ある場所から別の場所への所定時間内の細胞の変位と定義され、そして本願においては、細胞運動性(cell motility)は、細胞の初期及び最終位置に対応する2点間のユークリッド距離として概算される。細胞運動性並びに化合物の阻害能力の定量、例えば阻害又は運動性の上記の「値」を考える場合、本願は、定義される「値」、例えば細胞の拡散速度(R)、平均細胞速度(Sτ)及び運動性指標(locomotive index)(LI)のようなパラメーターに関する。後者のパラメーターは、細胞運動性の定量のために当該技術分野で一般に用いられ、そして例えばWalmod et al. (2001) Methods Mol Biol. 161: 59-83により記載されており、そして以下に特徴を記載される。
【0061】
細胞運動性の分析は、任意の利用可能な方法並びに当該目的のために当該技術分野で開発された検定法(assay)を用いることにより実行され得る。それは、例えば本願の実施例に記載されるように実施され得る。
【0062】
3. ペプチド配列の製造
本発明のペプチドは、好ましくは合成的に製造される。しかしながら化合物の組換え的製造も用いられ得る。
【0063】
組換え的製造
したがって、一実施形態では、本発明のペプチド配列は、組換えDNA技術の使用により製造され得る。
【0064】
ペプチド又はペプチドが由来する対応する全長タンパク質(full-length protein)をコードするDNA配列は、確立された標準方法により、例えばBeaucage and Caruthers, 1981,Tetrahedron Lett. 22: 1859-1869により記載されたホスホアミダイト法、或いはMatthes et al., 1984, EMBO J. 3: 801-805により記載された方法により、合成的に調製され得る。ホスホアミダイト法に従って、オリゴヌクレオチドは、例えば自動DNA合成機により合成され、精製され、アニーリングされ、ライゲートされ、そして適切なベクター中にクローン化される。
【0065】
ペプチドをコードするDNA配列は、標準プロトコールに従って、DNAアーゼIを用いて、ペプチド起源の対応する全長タンパク質をコードするDNA配列の断片化によっても調製され得る(Sambrook et al., Molecular cloning: A Laboratory manual. 2rd ed., CSHL Press, Cold Spring Harbor, 1989) 。本発明は、上記のタンパク質の群から選択される全長タンパク質に関する。本発明の全長タンパク質をコードするDNAは、代替的には、特定の制限エンドヌクレアーゼを用いて断片化され得る。DNAの断片は、さらに、Sambrook et al., Molecular cloning: A Laboratory manual. 2rd ed., CSHL Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載された標準手法を用いて精製される。
【0066】
全長タンパク質をコードするDNA配列は、例えばゲノム(genomic)又はcDNAライブラリーを調製し、そして標準技法に従って合成オリゴヌクレオチドプローブを用いてハイブリダイゼーションにより全長タンパク質の全部又は一部をコードするDNA配列に関してスクリーニングすることにより得られる、ゲノム又はcDNA起源のものであってもよい(Sambrook et al., Molecular cloning: A Laboratory Manual, 2rd Ed., Cold Spring Harbor, 1989を参照されたい)。DNA配列は、例えば米国特許第4,683,202号又はSaiki et al., 1988, Science 239: 487-491に記載されるように、特定プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応によっても調製され得る。
【0067】
DNA配列は次に、組換え発現ベクター中に挿入されるが、これは、組換えDNA手法に便利に用いることができる任意のベクターでよい。ベクターの選択は、しばしば、導入されるべき宿主細胞(host cell)に依存する。したがってベクターは、自律的複製ベクター、即ちその複製が染色体複製と独立している染色体外存在物として存在するベクター、例えばプラスミドであり得る。代替的には、ベクターは、宿主細胞中に導入された場合に、宿主細胞ゲノム中に組込まれ、そしてそれが組込まれている染色体と一緒に複製される。
【0068】
ベクター中では、ペプチド又は全長タンパク質をコードするDNA配列は、作動できるように適切なプロモーター配列と連結されるべきである。プロモーターは、選択した宿主細胞中で転写活性を示す任意のDNA配列でよく、そして宿主細胞(host cell)に対して相同又は非相同いずれのタンパク質をコードする遺伝子に由来してもよい。哺乳動物細胞中でのコードDNA配列の転写を指揮するための適切なプロモーターの例は、SV40プロモーター(Subramani et al., 1981, Mol. Cell Biol. 1: 854-864) 、MT-1(メタロチオネイン(metallothionein)遺伝子) プロモーター (Palmiter et al., 1983, Science 222: 809-814) 又はアデノウイルス2主要後期プロモーター(adenovirus 2 major late promoter)である。昆虫細胞中で用いるための適切なプロモーターは、ポリヘドリンプロモーター(polyhedrin promoter)である(Vasuvedan et al., 1992, FEBS Lett. 311: 7-11)。酵母宿主細胞中で用いるための適切なプロモーターとしては、酵母解糖遺伝子(glycolytic genes)(Hitzeman et al., 1980, J. Biol. Chem. 255: 12073-12080;Alber and Kawasaki, 1982, J. Mol. Appl. Gen. 1: 419-434)、又はアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(alcohol dehydrogenase genes)(Young et al., 1982, in Genetic Engineering of Microorganisms for Chemicals, Hollaender et al, eds., Plenum Press, New York)、或いはTPl1(米国特許第4,599,311号)又はADH2-4c(Russell et al., 1983, Nature 304: 652-654)プロモーターが挙げられる。糸状真菌宿主細胞(filamentous fungus host cells)中で用いるための適切なプロモーターは、例えばADH3プロモーター(McKnight et al., 1985, EMBO J. 4: 2093-2099)又はtpiAプロモーターである。
【0069】
コードDNA配列はまた、適切なターミネーター、例えばヒト増殖ホルモンターミネーター(human growth hormone terminator)(Palmiter et al., 前記)又は(真菌宿主に関して)TPl1(Alber and Kawasaki, 前記)又はADH3(McKnight et al.,前記)プロモーターと作動できるように連結され得る。ベクターはさらに、ポリアデニル化シグナル(例えばSV40又はアデノウイルス5Elb領域から)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)及び翻訳エンハンサー配列(例えばアデノウイルスVA RNAをコードするもの)のような要素を含み得る。
【0070】
組換え発現ベクターはさらに、当該宿主細胞中でベクターを複製させるDNA配列を含み得る。このような配列の一例(宿主細胞が哺乳動物細胞である場合)は、SV40の複製開始点である。ベクターには、選択マーカー、例えばジヒドロフォレートレダクターゼ(dihydrofolate reductase, DHFR)をコードする遺伝子、或いは薬剤、例えばネオマイシン(neomycin)、ヒドロマイシン(hydromycin)又はメトトレキセート(methotrexate)に耐性を付与する等、その生成が宿主細胞内の欠損を補足する遺伝子を含んでもよい。
【0071】
ペプチド又は全長タンパク質をコードするDNA配列、プロモーター及びターミネーターをそれぞれライゲートするために、そしてそれらを複製のために必要な情報を含有する適切なベクター中に挿入するために用いられる手法は、当業者に既知である(例えばSambrook et al.,上記を参照されたい)。
【0072】
本発明の組換えペプチドを得るために、コードDNA配列は、第二のペプチドコード配列及びプロテアーゼ切断部位コード配列と有用に融合されて、融合タンパク質をコードするDNA構築物を生じることができるが、この場合、プロテアーゼ切断部位コード配列は、HBP断片及び第二のペプチドコードDNA間に配置され、組換え発現ベクター中に挿入され、そして組換え宿主細胞中で発現される。一実施形態では、上記第二のペプチドは、グルタチオン-S-レダクターゼ(glutathion-S-reductase)、仔牛サイモシン(calf thymosin)、細菌チオレドキシン(bacterial thioredoxin)又はヒトユビキチン(human ubiquitin)天然又は合成バリアント、或いはそのペプチドから成る群から選択されるが、これらに限定されない。別の実施形態では、プロテアーゼ切断部位を含むペプチド配列は、因子Xa(Factor Xa)(アミノ酸配列IEGRを伴う)、エンテロキナーゼ(enterokinase)(アミノ酸配列DDDDKを伴う)、トロンビン(thrombin)(アミノ酸配列LVPR/GSを伴う)又はアクロモバクター・リチクス(Acharombacter lyticus)(アミノ酸配列XKXを伴う)切断部位であり得る。
【0073】
発現ベクターが導入される宿主細胞は、ペプチド又は全長タンパク質を発現し得る任意の細胞であり得るし、そして好ましくは真核生物細胞、例えば無脊椎動物(昆虫)細胞又は脊椎細胞、例えばアフリカツメガエル卵細胞又は哺乳動物細胞、特に昆虫及び哺乳動物細胞である。適切な哺乳動物細胞株の例は、HEK293(ATCC CRL-1573)、COS(ATCC CRL-1650)、BHK(ATCC CRL-1632、ATCC CCL-10)又はCHO(ATCC CCL-61)細胞株である。哺乳動物細胞をトランスフェクトし、そして当該細胞中に導入されるDNA配列を発現する方法は、例えば、Kaufman and Sharp, J. Mol. Biol. 159, 1982, pp.601-621;Southern and Berg, 1982, J. Mol. Appl. Genet. 1: 327-341;Loyter et al., 1982, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 422-426;Wigler et al., 1978, Cell 14: 725;Corsaro and Pearson, 1981, in Somatic Cell Genetics 7, p.603;Graham and van der Eb, 1973, Virol. 52: 456;並びにNeumann et al., 1982, EMBO J. 1: 841-845に記載されている。
【0074】
代替的には、真菌細胞(例えば酵母細胞)が、宿主細胞として用いられ得る。適切な酵母細胞の例としては、サッカロミセス属(Saccharomyces spp.)、又はシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces spp.)、特にサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の菌株の細胞が挙げられる。他の真菌細胞の例は、糸状真菌(filamentous fungi)、例えばアスペルギルス(aspergillus)属又はニューロスポラ属(Neurospora spp.)、特にコウジ菌(Aspergillus oryzae)又はクロコウジ菌(Aspergillus niger)の菌株の細胞である。タンパク質の発現のためのアスペルギルス(aspergillus)属の使用は、例えば欧州特許第238023号に記載されている。
【0075】
細胞を培養するために用いられる培地は、哺乳動物細胞を増殖(growing)するのに適した任意の慣用的培地、例えば適切な補足物を含有する血清含有又は無血清の(serum-free)培地、或いは昆虫、酵母又は真菌細胞を増殖(growing)するために適切な培地であり得る。適切な培地は、商業的供給元から入手可能であり、或いは発表されたレシピ(例えばアメリカ培養細胞コレクション(American Type Culture Collection)のカタログ)に従って調製され得る。
【0076】
細胞により組換え的に産生されるペプチド又は全長タンパク質は、その後、慣用的手法により培地から回収され得る。例えば遠心分離又は濾過により培地から宿主細胞を分離し、上清又は濾液のタンパク質様構成成分を塩(例えば硫酸アンモニウム)により沈殿させ、種々のクロマトグラフィー的手法、例えばHPLC、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等により精製する。
【0077】
個々のペプチド配列の合成的製造(synthetic production)
ペプチドの合成的製造方法は、当該技術分野で既知である。合成的ペプチドを製造するための詳細な説明並びに実際的アドバイスは、Synthetic Peptides: A User's Guide (Advances in Molecular Biology), Grant G.A. ed., Oxford University Press, 2002に、又はPharmaceutical Formulation: Development of Peptides and Proteins, Frokjaer and Hovgaard eds., Taylor and Francis, 1999に見出され得る。
【0078】
ペプチドは、例えば、Fmoc化学(Fmoc chemistry)を用いて、Acm保護化システイン(Acm-protected cysteins)を用いて合成され得る。逆相HPLCによる精製後、ペプチドはさらに処理されて、例えば環状(cyclic)或いはC又はN末端修飾アイソフォームを得ることができる。環化(cyclization)及び末端修飾(terminal modification)のための方法は当該技術分野で既知であり、そして上記引用マニュアル中に詳細に記載されている。
【0079】
好ましい一実施形態では、本発明の個々のペプチド配列は、合成的に、特に、上記マニュアル中に記載されている配列援用ペプチド合成(Sequence Assisted Peptide Synthesis, SAPS)法により、製造される。
【0080】
SAPSにより、ペプチドは、濾過のためのポリプロピレンフィルター(polypropylene filter)を備えたポリエチレン容器中でバッチ方式で、或いは、側鎖官能性(side-chain functionality)のためのN-α-アミノ保護基及び適切な一般保護基として9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(9-fluorenylmethyloxycarbonyl, Fmoc)又はtert-ブチルオキシカルボニル(tert-ButyloxycarbonylBoc)を用いて完全自動化ペプチド合成機での連続流動バージョン(continuous-flow version)のポリアミド固相法(polyamide solid-phase method)(Dryland, A. and Sheppard, R.C., (1986) J. Chem. Soc. Perkin Trans. I, 125-137.)で、合成され得る。
【0081】
別の状況では、本発明の個々のペプチド配列の合成は、商業的メーカーに注文し、ここから購入され得る。
【0082】
個々のペプチド配列はさらに、当該技術分野で既知の技法を用いて上記の多量体として製剤することができ、例えばペプチド配列の二量体は国際公開第WO00/18791号に詳細に記載されているLPA法により得ることができ、デンドリマーペプチドはPCT/US90/02039号に記載されている手法により得ることができる。
【0083】
4. 抗体
本発明の別の態様は、配列番号1〜39、又は当該配列の断片、バリアント又は相同体(homologue)から選択されるアミノ酸配列により含まれるかそれらから成るエピトープを認識し、選択的に結合し得る抗体、抗原結合断片(antigen binding fragment)又はその組換えタンパク質に関する。好ましい一実施形態では、本発明のアミノ酸配列を含むエピトープは、ErbB受容体の二量体化ループ、自己抑制的ループ(autoinhibitory loop)又は膜近位ドメイン(membrane proximal domain)に位置する。一実施形態では、抗体は、配列番号1〜6若しくは30〜39、又は当該配列の断片、バリアント又は相同体から選択される配列を含むエピトープを認識し、結合する抗体であり、別の実施形態では、抗体は、配列番号7〜18、又は当該配列の断片、バリアント又は相同体から選択される配列を含むエピトープを認識する。さらに別の好ましい実施形態では、抗体は、配列番号19〜29、又は当該配列の断片、バリアント又は相同体から選択される配列を含むエピトープを認識し、結合する。
【0084】
「エピトープ(epitope)」という用語は、(その抗原の)抗体により認識される(それにより免疫応答を生じる)原子(抗原分子上の)の特定の群を意味する。「エピトープ」という用語は、「抗原決定基(antigenic determinant)」という用語と等価である。エピトープは、非常に近く(close proximity)、例えば隣接する(contiguous)アミノ酸配列内に位置するか、或いは抗原のアミノ酸配列の離れた部分に位置するがタンパク質フォールディングのため互いに近づけられている、3個又はそれより多くのアミノ酸残基、例えば4、5、6、7、8個のアミノ酸残基を含み得る。
【0085】
抗体分子は、免疫グロブリン(immunoglobulin)と呼ばれる血漿タンパク質(plasma proteins)の一ファミリーに属し、その基礎的建築ブロックである免疫グロブリンフォールド又はドメインは、免疫系及びその他の生物学的認識系の多数の分子中で種々の形態で用いられる。典型的免疫グロブリンは、4つのポリペプチド鎖を有し、可変領域(variable region)として知られる抗原結合領域、並びに定常領域(constant region)として知られる非可変領域(non-varying region)を含有する。
【0086】
天然(native)抗体及び免疫グロブリン(immunoglobulin)は、通常は、2つの同一軽(L)鎖及び2つの同一重(H)鎖から成る約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖(light chain)は1つの共有ジスルフィド結合(covalent disulfide bond)により重鎖(heavy chain)と連結されるが、一方、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変わる。各重鎖及び軽鎖はまた、一定の間隔を置いた鎖内(intrachain)ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(variable domain)(VH)と、つづいて多数の定常ドメイン(constant domain)を有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)及びその他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと整列(align)され、そして軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列される。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられる(Novotny J, & Haber E. Proc Natl Acad Sci USA. 82(14): 4592-6, 1985)。
【0087】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てられ得る。少なくとも5つの免疫グロブリンの主要クラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在し、これらのうちのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG-1、IgG-2、IgG-3及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2に分けられ得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)及びミュー(μ)と呼ばれる。抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる型のうちの1つに割り当てられ得る。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元立体配置(three-dimensional configurations)は既知である。
【0088】
抗体の可変ドメイン(variable domain)の文脈での「可変」という用語は、可変ドメインの或る部分が抗体間の配列で広範に異なる、という事実を指す。可変ドメインは結合のためであり、そしてその特定の抗原のための特定の抗体それぞれの特異性(specificity)を決定する。しかしながら可変性は、抗体の可変ドメイン全体に一様に分布されるわけではない。それは、軽鎖及び重鎖可変ドメインの両方において、超可変領域(hypervariable regions)としても知られる相補性決定領域(complementarity determining regions, CDR)と呼ばれる3つのセグメント中に集中する。
【0089】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(framework, FR)と呼ばれる。天然の(native)重及び軽鎖(heavy and light chains)の可変ドメインはそれぞれ4つのFR領域を含み、大部分はβシート立体配置をとり、3つのCDRにより連結される。この3つのCDRは、βシート構造を連結(場合によってはその一部を形成)するループ(loop)を形成する。各鎖中のCDRは、FR領域の非常に近く(close proximity)に保持され、そして他の鎖からのCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。定常ドメイン(constant domain)は、抗体と抗原との結合に直接的に関与しないが、種々のエフェクター機能(例えば抗体依存性細胞毒性における抗体の参加)を示す。
【0090】
したがって、本発明に用いるために意図される抗体は、種々の形態のいずれの形態であってもよく、例えば免疫グロブリン全体、Fv、Fab及び類似の断片などの抗体断片、可変ドメイン相補性決定領域(CDR)を含む1本鎖抗体、並びに同様の形態などが含まれ、これらはすべて、本明細書中で用いる場合、「抗体」という広範な用語に含まれる。本発明は、抗体(ポリクローナル又はモノクローナル)の任意の特異性(specificity)の使用を意図し、そして特定の抗原を認識して免疫反応する抗体に限定されない。好ましい実施形態では、下記の治療及びスクリーニング方法の両方の情況において、本発明の抗原又はエピトープに免疫特異的(immunospecific)である抗体又はその断片が用いられる。
【0091】
「抗体断片(antibody fragment)」という用語は、全長抗体の一部分、一般的には抗原結合又は可変領域(antigen binding or variable region)を指す。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片が挙げられる。抗体のパパイン消化は、それぞれ一つの抗原結合部位を有しFabフラグメント(Fab fragment)と呼ばれる2つの同一な抗原結合断片を生じ、また、残りの「Fc」断片(容易に結晶化できることからそのように呼ばれる)を生じる。ペプシン(pepsin)処理は、抗原を架橋し得る2つの抗原結合断片を有するF(ab')2断片、 並びに残りの他の断片(pFc'と呼ばれる)を生じる。付加的断片としては、ダイアボディ(diabodies)、線状抗体(linear antibodies)、1本鎖抗体分子(single-chain antibody molecules)、並びに抗体断片から形成される多選択性抗体(multispecific antibodies)が挙げられ得る。本明細書中で用いる場合、抗体に関する「機能性断片(functional fragment)」とは、Fv、F(ab)及びF(ab')2断片を指す。
【0092】
「抗体断片」という用語は、「抗原結合断片」という用語と互換的に本明細書中で用いられる。
抗体断片は、約4個のアミノ酸、5個のアミノ酸、6個のアミノ酸、7個のアミノ酸、9個のアミノ酸、約12個のアミノ酸、約15個のアミノ酸、約17個のアミノ酸、約18個のアミノ酸、約20個のアミノ酸、約25個のアミノ酸、約30個のアミノ酸、又はそれ以上という小さいものであり得る。概して、本発明の抗体断片は、配列番号1〜39又は当該配列の断片として本明細書中で同定される配列のいずれかから選択されるペプチド配列を含むエピトープに対して特異的に結合する抗体と類似の又は免疫学的な特性を有する限り、任意のサイズ上限を有し得る。したがって本発明の情況では、「抗体断片」という用語は、「抗原結合断片」という用語と同一である。
【0093】
抗体断片は、その抗原又は受容体と選択的に結合する何らかの能力を保持する。抗体断片のいくつかの型は、以下のように定義される:
【0094】
(1)Fabは、抗体分子の一価抗原結合断片(monovalent antigen-binding fragment)を含有する断片である。Fabフラグメント(Fab fragment)は、酵素パパインを用いて全抗体を消化して、無傷(intact)軽鎖及び1つの重鎖の一部を得ることにより、産生され得る。
【0095】
(2)Fab'は、全抗体をペプシン(pepsin)で処理し、その後、還元して、無傷軽鎖及び重鎖の一部を生じることにより得られる抗体分子の断片である。抗体分子1つにつき、2つのFab'断片(Fab' fragment)が得られる。
Fab'フラグメント(Fab' fragment)は、抗体ヒンジ領域由来の1つ又は複数のシステインを含めた、重鎖CH1ドメイン(heavy chain CH1 domain)のカルボキシル末端における数残基付加により、Fabフラグメント(Fab fragment)と異なる。
【0096】
(3)(Fab')2は、全抗体を酵素ペプシン(pepsin)で処理し、その後、還元せずに得られる抗体の断片である。
【0097】
(4)F(ab')2は、2つのジスルフィド結合により一緒に保持される2つのFab'断片(Fab' fragment)の二量体である。
Fvは、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小抗体断片である。この領域は、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインの、密接な非共有的会合による二量体から成る(VH-VL二量体)。この立体配置によって、各可変ドメイン(variable domain)の3つのCDRは相互作用して、VH-VL二量体の表面の抗原結合部位を定める。まとまって、6つのCDRは抗体に対する抗原結合特異性を付与する。しかしながら一つの可変ドメイン(又は抗原に特異的なCDRを3つだけ含むFvの半分)でさえ抗原を認識し、結合する能力を有するが、結合部位全体よりは低い親和性である。
【0098】
(5)1本鎖抗体(「SCA」)。これは、遺伝子的に融合した1本鎖分子として、適切なポリペプチドリンカーにより連結される、軽鎖の可変領域(variable region)、重鎖の可変領域(variable region)を含有する遺伝子操作分子と定義される。このような1本鎖抗体は、「1本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片とも呼ばれる。一般的に、Fvポリペプチドは、さらに、VHドメイン及びVLドメイン間にポリペプチドリンカーを含み、これによってsFvは抗原結合のための所望の構造を形成することができる。sFvのレビューのためには、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies 113: 269-315 Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, NY, 1994を参照されたい。
【0099】
「ダイアボディ(diabodies)」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小抗体断片を指し、この断片は、同一ポリペプチド鎖(VH-VL)中に軽鎖可変ドメイン(light chain variable domain)(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain)(VH)を含む。同一鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを用いることにより、当該2つのドメインは別の鎖の相補ドメインと強いて対合されて、2つの抗原結合部位を作製する。ダイアボディは、例えば欧州特許第404,097号;国際公開第WO93/11161号及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 90: 6444-6448 (1993) にさらに詳細に記載されている。
【0100】
本発明は、本発明によるエピトープと結合し得るポリクローナル及びモノクローナル抗体の両方、抗原結合断片並びにその組換えタンパク質を意図する。
【0101】
ポリクローナル抗体の調製は、当業者に既知である。例えばGreen et al. 1992. Production of Polyclonal Antisera, in: Immunochemical Protocols (Manson, ed.), pages 1-5 (Humana Press); Coligan, et al., Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats Mice and Hamsters, in: Current Protocols in Immunology, section 2.4.1(これらの記載内容は参照により本明細書中で援用される) を参照されたい。
【0102】
モノクローナル抗体の調製は、同様にありふれたものである。例えばKohler & Milstein, Nature, 256: 495-7 (1975);Coligan, et al., sections 2.5.1-2.6.7;及びHarlow, et al., in: Antibodies: A Laboratory Manual, page 726, Cold Spring Harbor Pub. (1988)を参照されたい。モノクローナル抗体は、種々の十分に確立された技法により、ハイブリドーマ培養から単離され、精製され得る。このような単離技法としては、プロテインAセファロース(Protein-A Sepharose)を用いたアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)、及びイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。例えばColigan, et al., sections 2.7.1-2.7.12及びsections 2.9.1-2.9.3;Barnes, et al., Purification of Immunoglobulin G (IgG). In: Methods in Molecular Biology, 1992, 10: 79-104, Humana Press, NYを参照されたい。
【0103】
モノクローナル抗体の試験管内及び生体内操作の方法は、当業者に既知である。例えば本発明に従って用いられるべきモノクローナル抗体は、Kohler and Milstein, 1975, Nature 256, 495-7により最初に記載されたハイブリドーマ法により作製され得るし、或いは例えば米国特許第4,816,567号に記載されたような組換え法により作製され得る。本発明とともに用いるためのモノクローナル抗体はまた、Clackson et al., 1991, Nature 352: 624-628に、並びにMarks et al., 1991, J Mol Biol 222: 581-597に記載された技法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。別の方法は、ヒトの特異的かつ認識可能な配列を含有する抗体を生成するために、組換え手段によりモノクローナル抗体をヒト化することを包含する(レビューのためには、Holmes, et al., 1997, J Immunol 158: 2192-2201及びVaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81: 105-115を参照されたい)。
【0104】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書中で用いる場合、実質的に均質な抗体の一集団から得られる抗体を指し、即ち当該集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得るおそらくは天然の突然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に差し向けられる。さらに、通常、異なる決定基(エピトープ)に対して差し向けられる異なる抗体を含む通常のポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一決定基に対して差し向けられる。その特異性(specificity)に加えて、モノクローナル抗体は、それらがハイブリドーマ培養により合成され、他の免疫グロブリン(immunoglobulin)により汚染されないという点で有益である。修飾語「モノクローナル(monoclonal)」は、抗体の特質が、抗体の実質的に均質な集団から得られているような抗体の特質を示し、そして任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0105】
モノクローナル抗体は、本明細書中では特に、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含む。キメラ抗体においては、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種に由来する抗体中の対応する配列と同一であるか又は相同であり、若しくは特定の抗体のクラス又はサブクラスに属し、一方、鎖の残りは別の種に由来する抗体中の対応する配列と同一であるか又は相同であり、若しくは別の抗体のクラス又はサブクラスに属するモノクローナル抗体は、また、所望の生物学的活性を示す限りこのような抗体の断片を包含する(米国特許第4,816,567号;Morrison et al., 1984, Proc Natl Acad Sci 81: 6851-6855)。
【0106】
抗体断片の製造方法も、当該技術分野で既知である(例えばHarlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1988(参照により本明細書中で援用される)を参照されたい)。本発明の抗体断片は、抗体のタンパク分解性加水分解により、又は断片をコードするDNAの大腸菌中での発現により調製され得る。抗体断片は、慣用的方法である全抗体のペプシン(pepsin)又はパパイン消化により得られる。例えば抗体断片は、ペプシンで抗体を酵素的に切断してF(ab')2と示される5S断片を提供することにより産生され得る。この断片は、チオール還元剤(thiol reducing agent)を用いて、そして場合によってはジスルフィド結合の切断に起因するスルフヒドリル基(sulfhydryl groups)のための遮断基(blocking group)を用いてさらに切断されて、3.5S Fab'一価断片を生じ得る。代替的には、ペプシンを用いた酵素的切断により、2つの一価Fab'断片(Fab' fragment)及びFc断片が直接的に産生される。これらの方法は、例えば米国特許第4,036,945号及び米国特許第4,331,647号、並びにこれらに含まれる参考文献に記載されている。これらの特許はその全体が参照により本明細書中で援用される。
【0107】
抗体を切断する他の方法、例えば一価軽-重鎖断片を形成するための重鎖の分離、断片のさらなる切断、或いはその他の酵素的、化学的又は遺伝的技法も、当該断片が無傷抗体により認識される抗原と結合する限り、用いられ得る。例えばFv断片は、VH鎖及びVL鎖の会合から成る(comprise)。この会合は非共有的であってもよく、或いは可変鎖(variable chains)は、分子間ジスルフィド結合(intermolecular disulfide bond)により連結され得るか、又はグルタルアルデヒド(glutaraldehyde)のような化学物質により架橋され得る。好ましくはFv断片は、ペプチドリンカーにより連結されるVH鎖及びVL鎖より成る。これらの1本鎖抗原結合タンパク質(single-chain antigen binding proteins, sFv)は、オリゴヌクレオチドにより連結されるVHドメイン及びVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することにより調製される。構造遺伝子は発現ベクター(expression vector)中に挿入され、これはその後、宿主細胞(host cell)、例えば大腸菌中に導入される。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単一ポリペプチド鎖を合成する。sFvを産生するための方法は、例えばWhitlow, et al., 1991, In: Methods: A Companion to Methods in Enzymology, 2: 97;Bird et al., 1988, Science 242: 423-426;米国特許第4,946,778号;及びPack, et al., 1993, Bio Technology 11: 1271-77により記載されている。
【0108】
別の形態の抗体断片は、単一の相補性決定領域(complementarity-determining region, CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位(minimal recognition units)」)は、しばしば、抗原認識及び結合に関与する。CDRペプチドは、興味の対象の抗体のCDRをコードする遺伝子をクローニングするか又は構築することにより得られる。このような遺伝子は、例えばポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域(variable region)を合成することにより調製される(例えばLarrick, et al., Methods: a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 106 (1991)を参照されたい)。
【0109】
本発明は、ヒト(human)及びヒト化(humanized)形態の非ヒト(non-human)(例えばマウス)抗体を意図する。このようなヒト化抗体(humanized antibodies)は、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')2又はその他の抗体の抗原結合部分配列(antigen-binding subsequences))である。当該断片は、エピトープ認識配列のような非ヒト免疫グロブリン(non-human immunoglobulin)由来の最小配列を含有する。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)において、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性及び能力(capacity)を有する、マウス、ラット又はウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基により取り替えられたものである。本発明の抗体の最小配列(本明細書中に記載されるエピトープを認識する配列など)を含有するヒト化抗体は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0110】
いくつかの場合、ヒト免疫グロブリン(human immunoglobulin)のFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト(non-human)残基により置換される。さらに、ヒト化抗体(humanized antibodies)は、レシピエント抗体にも取り込まれたCDR又はフレームワーク配列にも見出されない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能をさらに改良し、最適化するためになされる。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、そして典型的には2つの、可変ドメイン(variable domain)のうちの実質的にすべてを含み、この場合、CDR領域のすべて又は実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリン(non-human immunoglobulin)のものに対応し、そしてFR領域のすべて又は実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン(human immunoglobulin)コンセンサス配列のものである。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含み、典型的にはヒト免疫グロブリン(human immunoglobulin)のものである。さらなる詳細に関しては、以下を参照されたい:Jones et al., 1986, Nature 321, 522-525;Reichmann et al., 1988, Nature 332, 323-329;Presta, 1992, Curr Op Struct Biol 2: 593-596;Holmes et al., 1997, J Immunol 158: 2192-2201及びVaswani, et al., 1998, Annals Allergy, Asthma & Immunol 81: 105-115。
【0111】
抗体の生成は、ポリクローナル及びモノクローナル抗体を産生するための当該技術分野における任意の標準方法により達成でき、抗原として配列番号1〜39から選択されるアミノ酸配列を含むErbBの天然又は組換え断片を用いる。このような抗体は、配列番号1〜39のペプチド配列のバリアント、相同体(homologue)又は断片、或いはその任意の他の免疫原性ペプチド配列又は免疫原性断片を用いても生成され、以下の判定基準を満たす:
【0112】
(i)少なくとも6アミノ酸の隣接する(contiguous)アミノ酸配列であること、及び
(ii)配列番号1〜39のいずれかの少なくとも3個の隣接するアミノ酸残基を含むこと。
【0113】
抗体はさらにまた、治療されるべき個体により、例えば本発明による免疫原性断片を上記個体に投与(administer)することにより、生体内で産生され得る。したがって本発明はさらに、上記の免疫原性断片を含むワクチンに関する。
【0114】
本願は、本発明の抗体の産生方法であって、上記の免疫原性断片を提供する工程を包含する産生方法にも関する。
【0115】
本発明は、1)ErbB受容体の生物学的機能、特に細胞増殖(cell proliferation)、分化(differentiation)及び/又は細胞運動性(cell motility)に関する機能を調節することができる(例えば増強するか又は減弱し得る)抗体、2)その生物学的活性を調節することなく、ErbB受容体を認識し、そして特異的に結合する抗体の両方に関する。
【0116】
本発明は、以下のための上記抗体の使用に関する: 1)ErbB受容体及び/又はErbBリガンドの活性の調節を含む治療的用途、2)細胞分化(cell differentiation)、増殖(proliferation)及び/又は運動性(motility)を含めた細胞性及び生理学的過程を調節(modulate)すること、3)診断目的のために試験管内及び/又は生体内でErbB受容体を検出及び/又はモニタリングすること、及び 4)研究目的。
一実施形態では、本発明は、上記の抗体を含む医薬組成物に関する。
【0117】
5. 薬物(medicament)
本発明は、ErbB受容体又はErbBリガンドの: i)細胞増殖を調節し、 ii)細胞分化を調節し、 iii)細胞運動性を調節し、 iv)活性を調節することができるペプチド配列及び化合物を提供する。したがって、当該化合物は、上記の調節が必要とされる疾患及び/又は症状(conditions)の治療のために有用であり得る。
【0118】
ErbB受容体及びそのリガンドファミリーは、多数の病理学的症状及び疾患に関連づけられることが示されている。
EGFR又はErbB1はヒト悪性腫瘍(malignancy)の原因として関連づけられており、特にこの遺伝子の発現増大は、乳房、膀胱(bladder)、肺及び胃のより悪性度の高い癌腫(aggressive carcinomas)において観察されている。EGFR発現増大は、しばしば、同一腫瘍細胞によるEGFRリガンド、トランスフォーミング増殖因子アルファ(transforming growth factor-alpha, (TGF-alpha))の産生増大と、その結果生じる自己分泌刺激経路による受容体活性化に関連すると報告されている(Baselga et al., Pharmac. Ther. 64: 127-154 (1994))。EGFR又はそのリガンドTGF-アルファ(TGF-alpha)及びEGFに対して差し向けられるモノクローナル抗体は、このような悪性腫瘍(malignancies)の治療における治療薬として評価されてきた(例えばBaselga et al. 上記;Masui et al., Cancer Research 44: 1002-1007 (1984);Wu et al., J. Clin. Invest. 95: 1897-1905 (1995)を参照されたい)。
【0119】
ErbBサブファミリーの一成員p185<neu>は、初めは、化学処理ラットの神経芽細胞腫からのトランスフォーミング遺伝子の産物として同定された。neu遺伝子(erbB2及びHER2とも呼ばれる)は、185kDa受容体タンパク質チロシンキナーゼをコードする。ヒトErbB2遺伝子の増幅及び/又は過剰発現は、乳癌及び卵巣癌の予後不良(poor prognosis)と相関する(Slamon et al., Science 235: 177-182 (1987);及びSlamon et al., Science 244: 707-712 (1989);米国特許第4,968,603号)。ErbB2の過剰発現は、他の癌腫(carcinomas)、例えば胃(stomach)、子宮内膜(endometrium)、唾液腺(salivary gland)、肺(lung)、腎臓(kidney)、結腸(colon)及び膀胱(bladder)の癌腫に伴って観察されている。したがってSlamon他は、米国特許第4,968,603号において、腫瘍細胞におけるErbB2遺伝子増幅又は発現を確定するための種々の診断検定法を記載し、特許請求している。

【0120】
ラットp185<neu>及びヒトErbB2遺伝子産物に対して差し向けられる抗体が記載されている。例えばDrebin et al., Cell 41: 695-706 (1985);Meyers et al., Methods Enzym. 198: 277-290 (1991);及び国際公開第WO94/22478号は、ラット遺伝子産物p185<neu>に対して差し向けられる抗体を記載している。Hudziak et al., Mol. Cell. Biol. 9: 1165-1172 (1989) は、ヒト乳房腫瘍細胞株SKBR3を用いて特性化された抗ErbB2抗体のパネルの生成を記載している。他の抗ErbB2抗体は、文献中にも報告されている。(例えば、米国特許第5,821,337号、同第5,783,186号;国際公開第WO94/00136号; Tagliabue et al., Int. J. Cancer 47:933-937(1991); McKenzie et al., Oncogene 4:543-548(1989); Maier et al., Cancer Res. 51:5361-5369(1991); Bacus et al., Molecular Carcinogenesis 3:350-362(1990); Xu et al., Int. J. Cancer 53:401408(1993); Kasprzyk et al., Cancer Research 52:2771-2776(1992); Hancock et al., Cancer Research 51:45754580(1991); Shawver et al., Cancer Research 54:1367-1373(1994); Arteaga et al., Cancer Research 54:3758-3765(1994); Harwerth et al., J. Biol. Chem. 267:15160-15167(1992)を参照されたい)。
【0121】
さらなる関連遺伝子(erbB3又はHER3と呼ばれる)も、記載されている(米国特許第5,183,884号及び同第5,480,968号;Kraus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 9193-9197 (1989); 欧州特許出願第444,961A1号;及びKraus et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2900-2904 (1993)を参照されたい)。Kraus他(1989)は、或る種のヒト乳房腫瘍細胞株にはerbB3 mRNAレベルの顕著な増大が認められたが、これは、erbB3が、erbB1及びerbB2と同様、ヒト悪性腫瘍(malignancies)において一役を果たし得る、ということを示す、ということを発見した。さらにまたKraus他、上記(1993)は、キメラEGFR/ErbB3受容体のErbB3触媒ドメインのEGF依存性活性化が被形質移入NIH-3T3細胞における増殖応答を生じる、ということを示した。これは、目下、NIH-3T3の内在性ErbB1又はErbB2の結果である、と考えられている。さらに、これらの研究者らは、いくつかのヒト乳房腫瘍細胞株が定常状態におけるErbB3チロシンリン酸化の有意な増大を示すことを実証し、さらに、この受容体がヒト悪性腫瘍(malignancies)において一役を果たし得ることを示した。癌におけるerbB3の役割は、他の研究者により探究されている。乳癌(Lemoine et al., Br. J. Cancer 66: 1116-1121 (1992)) 、胃腸癌 (Poller et al., J. Pathol. 168: 275-280 (1992);Rajkumer et al., J. Pathol. 170: 271-278 (1993);及びSanidas et al., Int. J. Cancer 54: 935-940 (1993))、及び膵臓癌(Lemoine et al., J. Pathol. 168: 269-273 (1992);Friess et al., Clinical Cancer Research 1: 1413-1420 (1995))において過剰発現されることが見出されている。
【0122】
上皮増殖因子受容体タンパク質チロシンキナーゼのクラスIサブファミリーはさらに、ErbB4受容体を包含するように拡張されている(欧州特許出願第599,274号;Plowman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 1746-1750 (1993); 及びPlowman et al., Nature 366: 473-475 (1993) を参照されたい) 。Plowman他は、ErbB4発現増大は、上皮起源の或る種の癌腫(carcinomas)、例えば乳房腺癌と密接に相関する、ということを見出した。ErbB4発現を評価するヒト新生物性症状(neoplastic conditions)(特に乳癌)の検出のための診断方法は、欧州特許出願第599,274号に記載されている。
【0123】
このようなErbB受容体を結合及び/又は活性化させる様々なリガンドが参考文献中に記載されている。このリガンドには、EGF(Savage et al., J. Biol. Chem. 247:7612-7621(1972)) 、TGF-アルファ(TGF-alpha)(Marquardt et al., Science 223:1079-1082(1984))、アンフィレグリン(amphiregulin)(Shoyab et al., Science 243:1074-1076(1989));Kimura et al., Nature 348:257-260(1990);Cook et al., Mol. Cell. Biol. 11:2547-2557(1991)) 、ヘパリン結合EGF (HB-EGF) (Higashiyama et al., Science 251:936-939(1991)) 、ベータセルリン(betacellulin) (Shing et al., Science 259:1604-1607(1993)) 、及びエピレグリン(epiregulin) (Toyoda et al., J. Biol. Chem. 270:7495-7500(1995)) と称されるポリペプチドが含まれる。ErbB1は6つの異なるリガンド、上皮増殖因子(epidermal growth factor)(EGF)、TGF-アルファ(TGF-alpha)、アンフィレグリン(amphiregulin)、HB-EGF、ベータセルリン(betacellulin)、及びエピレグリン(epiregulin)(例えば、Groenen et al., Growth Factors 11:235-257(1994)も参照されたい)、によって結合される。
【0124】
単一遺伝子の選択的スプライシング(alternative splicing)によって生じるヘレグリン(heregulin)タンパク質のファミリーは、ErbB3及びErbB4のリガンドである。さらに後述のように、ヘレグリン(heregulin)ファミリーとしては、NDFs、GGFs、及びARIAが挙げられる(Groenen et al., Growth Factors 11:235-257(1994);Lemke, Molec. & Cell. Neurosc. 7:247-262(1996);Lee et al., Pharm. Rev. 47:51-85(1995))。さらにErbBリガンドは同定されている- ErbB3又はErbB4のいずれかと結合すると報告されているニューレグリン-2(NRG-2)(Chang et al., Nature 387:509-512(1997);Carraway et al., Nature 387:512-516(1997)) 及びErbB4と結合するニューレグリン-3(Zhang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 94:9562-9567(1997)) 。HB-EGF、ベータセルリン(betacellulin)、及びエピレグリン(epiregulin)もErbB4と結合する。
【0125】
EGF及びTGF-アルファ(TGF-alpha)はErbB2を結合しないが、EGFはErbB1及びErbB2を刺激してヘテロ二量体を形成させ、これは、ErbB1を活性化して、ヘテロ二量体におけるErbB2のトランスリン酸化を生じる。二量体化及び/又はトランスリン酸化は、ErbB2チロシンキナーゼを活性化すると思われる。同様に、ErbB3がErbB2と共発現(co-express)されると、活性情報伝達複合体(active signaling complex)が形成され、そしてErbB2に対して差し向けられる抗体は当該複合体を壊すことができる(Sliwkowski et al., J. Biol. Chem. 269: 14661-14665 (1994)) 。さらに、ヘレグリン(heregulin)に対するErbB3の親和性は、ErbB2と共発現されると、より高い親和性状態に増大される(ErbB2-ErbB3タンパク質複合体に関してLevi et al., J. Neuroscience 15: 1329-1340 (1995);Morrisey et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 92: 1431-1435 (1995);及びLewis et al., Cancer Research 56: 1457-1465 (1996))。ErbB4は、ErbB3と同様に、ErbB2と活性情報伝達複合体を形成する(Carraway et al., Cell 78: 5-8 (1994))。
【0126】
Holmes他は、ErbB2受容体に対するポリペプチド活性化因子の一ファミリーを単離し、クローン化したが、それらは、ヘレグリン(heregulin)-アルファ(HRG-アルファ)、へレグリン-ベータ1(HRG-ベータ1)、へレグリン-ベータ2(HRG-ベータ2)、へレグリン-ベータ2様(HRG-ベータ2様)及びへレグリン-ベータ3(HRG-ベータ3)と呼ばれる(Holmes et al., Science 256: 1205-1210 (1992);国際公開第WO92/20798号;及び米国特許第5,367,060号を参照されたい)。45kDaポリペプチド、HRG-アルファは、MDA-MB-231ヒト乳癌細胞(human breast cancer cell)株の条件培地(conditioned medium)から精製された。これらの研究者らは、MCF7乳房腫瘍細胞において、精製ヘレグリンポリペプチドがErbB2受容体のチロシンリン酸化を活性化できることを実証した。さらに、SK-BR-3細胞(高レベルのErbB2受容体を発現する)上でのヘレグリンポリペプチドの分裂促進活性(mitogenic activity)が例証された。
【0127】
各ヘレグリンは最初の213個のアミノ酸残基において実質的に同一であるが、それらは、それらのC末端部分で異なる2つのバリアントEGF様ドメイン(EGF-like domain)に基づいて、2つの主要な型、アルファ及びベータ、に分類される。それにもかかわらず、これらのEGF様ドメインは、その中に含入されている6つのシステイン残基の間隔(spacing)が同一である。アミノ酸配列比較に基づいてHolmes他は、EGF様ドメイン中の第1及び第6システイン間で、HRGは、ヘパリン結合EGF様増殖因子(HB-EGF)と45%類似であり、アンフィレグリン(amphiregulin)(AR)と35%同一であり、TGF-アルファと32%同一であり、そしてEGFと27%同一である、ということを見出した。
【0128】
ヒトHRGのラットにおける等価物である44kDa neu分化因子(neu differentiation factor)(NDF)は、Peles et al., Cell, 69: 205-216 (1992);及びWen et al., Cell, 69: 559-572 (1992)により最初に記載された。HRGポリペプチドと同様に、NDFは、免疫グロブリン(immunoglobulin)(Ig)相同性ドメインに続いてEGF様ドメインを有し、そしてN末端シグナルペプチド(signal peptide)を欠く。その後、Wen et al., Mol. Cell. Biol., 14(3): 1909-1919 (1994)は、「徹底的クローニング(exhaustive cloning)」を実行して、NDFのファミリーの範囲を広げた。この研究は、6つの異なる線維芽細胞性pro-NDFを明示した。Holmes他の命名法を採用すると、NDFは、EGF様ドメインの配列に基づいて、アルファ又はベータポリペプチドと分類される。これらの研究者らは、異なるNDFアイソフォームは選択的スプライシング(alternative splicing)により生成され、そして別個の組織特異的機能を実施する、と結論する(NDFに関して、欧州特許第505 148号;国際公開第WO93/22424号;及び国際公開第WO94/28133号を参照されたい)。
【0129】
Falls他(Cell, 72: 801-815(1993))は、アセチルコリン受容体誘導活性(acetylcholine receptor inducing activity)(ARIA)ポリペプチドと呼ばれるヘレグリン(heregulin)・ファミリーの別の成員を記載している。ニワトリ由来ARIAポリペプチドは筋肉アセチルコリン受容体(muscle acetylcholine receptors)の合成を刺激する(国際公開第WO94/08007号を参照されたい)。ARIAは、ベータ型EGFドメインを有するI型ヘレグリンである。
【0130】
Marchionni他(Nature, 362: 312-318 (1993))は、グリア増殖因子(GGF)と呼ばれるいくつかのウシ由来タンパク質を同定した。これらのGGFは、Ig様ドメイン(Ig-like domain)及びEGF様ドメイン(EGF-like domain)を、上記の他のヘレグリン(heregulin)タンパク質と共有するが、アミノ末端クリングルドメイン(kringle domain)も有する。GGFは一般に、Ig様ドメイン及びEGF様ドメイン間に完全なグリコシル化スペーサー領域(glycosylated spacer region)を有さない。GGFの1つ(GGFII)だけは、N末端シグナルペプチドを保有した (国際公開第WO92/18627号; 国際公開第WO94/00140号; 国際公開第WO94/04560号; 国際公開第WO94/26298号; 及び国際公開第WO95/32724号(GGF並びにその使用に言及))。
【0131】
Ho他はJ. Biol. Chem. 270(4): 14523-14532 (1995) において、感覚及び運動ニューロン由来因子(sensory and motor neuron-derived factor) (SMDF) と呼ばれるヘレグリン・ファミリーの別の成員を記載している。このタンパク質は、すべての他のヘレグリンポリペプチドに特徴的なEGF様ドメインを有するが、別個のN末端ドメインを有する。SMDF及び他のヘレグリンポリペプチド間の主要な構造の違いは、SMDFがIg様ドメイン及び他の全てのヘレグリンポリペプチドに特徴的な「グリコ」スペーサーを欠く、という点である。SMDFの別の特徴は、N末端付近の2つの続きの疎水性アミノ酸の存在である。
【0132】
ヘレグリン(heregulin)ポリペプチドはそれらのErbB2受容体を活性化する能力に基づいて最初に同定された(Holmes et al.、上記を参照されたい)が、neuを発現する或る種の卵細胞及びneu形質移入線維芽細胞はNDFと結合又は架橋しないし、或いはそれらはNDFに応答してチロシンリン酸化を受けることもない(Peles et al., EMBO J. 12:961-971 (1993))、ということが発見された。これは、別の細胞構成成分が完全なヘレグリン応答性を付与するために必要であることを示した。Carraway他は、その後、<125>I-rHRG[ベータ]1177-244が、ウシerbB3で安定的にトランスフェクトされたNIH-3T3線維芽細胞と結合するが、未形質移入親細胞とは結合しない、ということを実証した。したがって、研究者らは、ErbB3はHRGの受容体であり、自己の(intrinsic)チロシン残基のリン酸化並びにErbB3及びErbB2の両受容体を発現する細胞中でErbB2受容体のリン酸化を媒介する、ということを示唆した(Carraway et al., J. Biol. Chem. 269(19): 14303-14306 (1994)) 。Sliwkowski他(J. Biol. Chem. 269(20): 14661-14665 (1994)) は、ErbB3単独でトランスフェクトされた細胞はヘレグリンに対する低親和性を示すが、一方、ErbB2及びErbB3の両方でトランスフェクトされた細胞はより高い親和性を示す、ということを見出した。
【0133】
この観察は、Kokai et al., Cell 58: 287-292 (1989);Stern et al., EMBO J. 7: 995-1001 (1988);及びKing et al., 4: 13-18 (1989)により以前に記載された「受容体クロストーク(receptor cross-talking)」と相関する。これらの研究者らは、EGFとErbB1との結合がErbB1キナーゼドメインの活性化及びp185の交差リン酸化(cross-phosphorylation)を生じる、ということを見出した。これは、リガンド誘導性(ligand-induced)受容体ヘテロ二量体化並びにヘテロ二量体内の受容体の随伴性(concomitant)交差リン酸化の結果である、と考えられている(Wada et al., Cell 61:1339-1347 (1990))。
【0134】
Plowman及び彼の同僚は、同様に、p185<HER4>/p185<HER2>活性化を試験した。彼らは、p185<HER2>単独、p185<HER4>単独、又は2つの受容体を一緒に、ヒトTリンパ球中で発現させ、ヘレグリンはp185<HER4>のチロシンリン酸化を刺激し得るが、両方の受容体を発現する細胞中ではp185<HER2>リン酸化のみを刺激し得る、ということを実証した(Plowman et al., Nature 336:473475 (1993))。
【0135】
種々のErbBリガンドの他の生物学的役割は、いくつかのグループにより研究されてきた。例えばベータセルリン(betacellulin)は、血管平滑筋細胞(vascular smooth muscle cells)及び網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelial cells)において増殖促進活性(growth-promoting activity)を示すことが報告されている(Shing et al.、上記)。Falls他(上記)は、ARIAは筋管分化(myotube differentiation)に一役を果たす、即ち、運動ニューロン(motor neuron)のシナプス後筋細胞(postsynaptic muscle cells)における神経伝達物質受容体(neurotransmitter receptors)の合成及び濃度に影響を及ぼす、ということを見出した。Corfas及びFischbachは、ARIAがさらにまた筋肉中のナトリウムチャンネル(sodium channels)の数を増大させる、ということを実証した(Corfas and Fischbach, J. Neuroscience, 13(5): 2118-2125 (1993))。GGFIIは準集密的無活動ヒト筋芽細胞(subconfluent quiescent human myoblasts)にとって分裂促進的(mitogenic)であり、そしてGGFIIが継続的に存在する状態で、クローンヒト筋芽細胞を分化させると、6日分化させた後の筋管の数がより多くなる、ということも示されている(Sklar et al., J. Cell Biochem., Abst. W462, 18D, 540 (1994))。国際公開第WO94/26298号(1994年11月24日公開)を参照されたい。
【0136】
Holmes他(上記)は、HRGが乳房細胞株(例えばSK-BR-3及びMCF-7)に分裂促進的(mitogenic)作用を発揮する、ということを見出した。シュワン細胞(Schwann cells)に及ぼすGGFの分裂促進活性も、報告されている。(例えば、Brockes et al., J. Biol. Chem. 255(18):8374-8377(1980);Lemke and Brockes, J. Neurosci. 4:75-83(1984);Brockes et al., J. Neuroscience 4(1):75-83 (1984);Brockes et al., Ann. Neurol. 20(3):317-322(1986);Brockes, J., Methods in Enzym. 147:217-225(1987)及びMarchionni et al.,上記を参照されたい)。
【0137】
Pinkas-Kramarski他は、NDFは胚及び成体ラット脳並びにラット脳細胞の初代培養中のニューロン及びグリア細胞中で発現されるらしいということを見出し、そしてそれはアストロサイト(astrocytes)のための生存及び成熟因子として作用し得るということを示唆した(Pinkas-Kramarski et al., PNAS, USA 91: 9387-9391 (1994))。Meyer and Birchmeier, PNAS, USA 91: 1064-1068 (1994)は、マウス胚形成中及び出生時動物におけるヘレグリンの発現を、in situハイブリダイゼーション及びRNAアーゼ保護実験を用いて分析した(Meyer et al., Development 124(18): 3575-3586 (1997)も参照されたい)。同様に、Danilenko他, Abstract 3101, FASEB 8(4-5): A535 (1994)及びDanilenko他(Journal of Clinical Investigation 95(2): 842-851(1995))は、NDF及びErbB2受容体の相互作用は創傷修復中の表皮移動及び分化を指揮するのに重要である、ということを見出した。
【0138】
Ram他(Journal of Cellular Physiology 163: 589-596(1995))は、不死化ヒト乳腺上皮細胞株(immortalized human mammary epithelial cell line)MCF-10Aに関するNDFの分裂促進活性を評価した。Danilenko他(J. Clin. Invest. 95: 842-851(1995))は、NDFが切除性深部部分厚創傷修復(excisional deep partial-thickness wound repair)の生体内モデルにおける表皮移動に影響を及ぼすか否かを研究した。対照創傷対rhNDF-[アルファ]2で処理された創傷において、基底及び上基底層ケラチノサイトを増殖するに際して統計学的有意差は認められなかった、と報告されている。Marikovsky他(Oncogene 10: 1403-1411(1995))は、異数体BALB/MK連続ケラチノサイト細胞株の増殖性応答を試験し、そして表皮ケラチノサイトに及ぼすNDFの[アルファ]-及び[ベータ]-アイソフォームの作用を評価した。
【0139】
種々のErbBリガンドが膵臓細胞増殖(pancreatic cell proliferation)及び分化(differentiation)において果たし得る潜在的役割も、いくつかの研究者らにより報告されている。膵臓(pancreas)中の島細胞(islet cell)(ランゲルハンス島とも呼ばれる)は、ホルモンであるインスリン及びグルカゴン(glucagon)を産生することが既知である。このような島細胞は、胎児小管膵性内皮(fetal ductular pancreatic endothelium)中の幹細胞(stem cell)に由来する、と考えられている(Pictet and Rutter, "Development of the embryonic pancreas", Endocrinology, Handbook of Physiology, 1972, American Physiological Society, Washington D.C., pages 25-66)。特に、発生中、膵臓は、単層の未分化細胞(undifferentiated cells)から成る小管の系を形成し、これは次に、管細胞、腺房細胞又は島細胞に分化し得る(例えばLeDouarin, Cell, 53: 169-171 (1998);Teitelman, Recent Prog. Hormone Res., 47: 259-297 (1991) を参照されたい)。
【0140】
島細胞(islet cell)に及ぼす特定のEGF、ヘレグリン(heregulin)及びヘレグリン関連ポリペプチドの作用に関して、種々の研究者らが報告している。国際公開第WO95/19785号(1995年7月27日公開)には、糖尿病(diabetes mellitus)の治療方法が記載されており、この場合、ガストリン(gastrin)/CCK受容体リガンド及びEGF受容体リガンド(例えばTGF-アルファ(TGF-alpha))の組合せが、膵臓島前駆細胞(pancreatic islet precursor cells)の分化を実行するのに十分な量で投与されて、インスリン分泌細胞を成熟させる。国際公開第WO95/19785号は、TGF-アルファ(TGF-alpha)ポリペプチドは、単独で投与される場合、島前駆細胞の分化を刺激し得ない、ということを教示している。
【0141】
国際公開第WO03013485号は、プラズマ細胞性腫瘍細胞の増殖(proliferation)を抑制するか又はそれらのアポトーシスを誘導する目的に適したErbB受容体阻害薬を記載している。
したがって、本発明のペプチド、化合物及び/又は抗体の使用によって治療又は予防に有益な作用が得られる上記非限定例の症状(conditions)及び疾患の全部又はいずれかが、本発明において意図される。
したがって本発明のペプチド、化合物及び/又は抗体は、以下の予防及び/又は治療のために用いられ得る:
【0142】
1)癌、
2)炎症性疾患(inflammatory disease)、
3)アレルギー症状)、
4)新血管形成、
5)糖尿病。
【0143】
本発明は、新血管形成(neoangiogenesis)を要する任意の型の固形腫瘍並びに任意の悪性癌である癌に関する。特に本発明は、神経系の癌に関する。
【0144】
本発明のペプチド配列及び/又は化合物は、アルコール消費による身体損害を有する個体を治療するために、そしてプリオン病に罹患した個体、被外傷個体及び/又は臓器(organ)又は細胞移植に付された個体を治療するためにも用いられ得る。
【0145】
したがって、薬物(medicament)として、そして薬物を製造するために当該ペプチド、化合物及び/又は抗体を用いることは、本発明の一目的である。本発明の薬物は、任意の症状(condition)又は疾患を治療するために用いられ得るが、この場合、ErbB受容体及び/又はErbBリガンドの活性を調節することは、治療のために有益である。このような症状及び疾患の非限定例は上記されている。
【0146】
本発明の薬物は、有効量の1つ又は複数の上記のような単離ペプチド配列、化合物又は抗体を含み得るし、或いは、有効量の1つ又は複数の上記のような単離ペプチド配列、化合物又は抗体、並びに薬学的に許容可能な添加剤を含む医薬組成物として製剤され得る。いくつかの実施形態では、薬物又は医薬組成物は、有効量の1つ又は複数の上記のような単離ペプチド配列、化合物及び/又は抗体の組合せを含み得る。
【0147】
したがって本発明は、別の態様では、少なくとも1つの本発明の単離ペプチド配列、化合物及び/又は抗体を含む医薬組成物にも関する。
【0148】
本発明のさらなる一態様は、医薬組成物の製造方法であって、有効量の1つ又は複数の本発明の単離ペプチド配列、化合物又は抗体、或いは本発明の医薬組成物を1つ又は複数の薬学的に許容可能な添加剤又は担体と混合することを包含する方法である。
【0149】
本発明は、上記の疾患及び症状のいずれかの治療又は予防のための本発明の化合物を含む医薬組成物の使用にも関する。
【0150】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明のアミノ酸配列を含むエピトープを認識し得る抗体を含む医薬組成物に関する。このような医薬組成物は、本明細書中に記載される症状及び疾患の治療にも有用であり得る。
【0151】
本発明の薬物及び/又は医薬組成物は、経口、経皮、筋肉内、静脈内、頭蓋内、くも膜下腔内、脳室内、鼻腔内又は肺性投与(pulmonal administration)のために適切に製剤され得る。
【0152】
本発明の化合物を基礎にした薬物(medicaments)及び組成物(composition)の製剤開発における戦略は、一般的に、任意の他のタンパク質ベースの薬品のための製剤戦略に対応する。潜在的問題及びこれらの問題を克服するために必要とされる指針は、いくつかの教科書、例えば"Therapeutic Peptides and Protein Formulation. Processing and Delivery Systems", Ed. A.K. Banga, Technomic Publishing AG, Basel, 1995で取り扱われている。
【0153】
注射剤は、通常は、液体溶液又は懸濁液、注射前の液体中の溶液又は懸濁液に適した固体形態として調製される。調製物は、乳化もされ得る。活性成分は、しばしば、薬学的に許容可能なそして活性成分と適合性がある賦形剤と混合される。適切な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、ブドウ糖(dextrose)、グリセロール、エタノール等、並びにその組合せである。さらに、所望により、調製物は少量の補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、或いは調製物の有効性又は運搬を増強する補助物質を含有し得る。
【0154】
本発明の化合物の製剤は、当業者に既知の技法により調製され得る。製剤は、薬学的に許容可能な担体及び賦形剤、例えば微粒子、リポソーム、マイクロカプセル、ナノ粒子等を含有し得る。
【0155】
調製物は、注射により適切に投与(administer)され、場合によっては、活性成分がその作用を発揮する部位で投与される。他の投与(administration)方式に適している付加的製剤としては、坐薬、経鼻(nasal)、肺性の(pulmonal)、そしていくつかの場合には経口製剤が挙げられる。坐薬に関しては、伝統的結合剤及び担体としては、ポリアルキレングリコール(polyalkylene glycols)又はトリグリセリド(triglycerides)が挙げられる。このような坐薬は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲で活性成分を含有する混合物から生成され得る。経口製剤としては、このような普通に用いられる賦形剤、例えば医薬等級のマンニトール(mannitol)、ラクトース(lactose)、デンプン(starch)、ステアリン酸マグネシウム(magnesium stearate)、サッカリン酸ナトリウム(sodium saccharine)、セルロース(cellulose)、炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)等が挙げられる。これらの組成物(composition)は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放性製剤(sustained release formulations)又は粉末の形態をとり、そして一般的に10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分を含有する。
【0156】
他の製剤は、経鼻及び肺性投与に適したもの、例えば吸入器及びエアロゾルである。
【0157】
活性化合物は、中性又は塩形態として製剤され得る。薬学的に許容可能な塩としては、酸付加塩(ペプチド化合物の遊離アミノ基を用いて生成される)が挙げられ、そしてこれらは、無機酸、例えば塩酸又はリン酸、或いは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等を用いて生成される。遊離カルボキシル基を用いて生成される塩は、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は第二鉄の水酸化物、そして有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等からも得られる。
【0158】
調製物は、投与製剤と適合性があるやり方で、そして治療的に有効な量で投与される。投与される量は、被験者の体重及び年齢、治療されるべき疾患並びに疾患の段階を含めて、治療される被験者に応じて決まる。適切な投与量範囲は、体重1kg当たりで、1回投与当たり、活性成分数百μgのオーダーであり、好ましい範囲は、約0.1μg〜5000μg/体重1kgである。単量体の(monomeric)形態の化合物を用いる場合、適切な投与量はしばしば、0.1μg〜5000μg/体重1kgの範囲、例えば約0.1μg〜3000μg/体重1kgの範囲、特に約0.1μg〜1000μg/体重1kgの範囲である。多量体の(multimeric)形態の化合物を用いる場合、適切な投与量はしばしば、0.1μg〜1000μg/体重1kgの範囲、例えば0.1μg〜750μg/体重1kgの範囲、特に0.1μg〜500μg/体重1kgの範囲、例えば0.1μg〜250μg/体重1kgの範囲である。特に、鼻腔内に投与する場合は、他の経路により投与される場合よりも少ない投与量が用いられる。投与は1回実施され得るか、或いはその後の投与を伴い得る。投与量は投与経路によって決まり、そして治療されるべき被験者の年齢及び体重に伴って変わる。多量体の形態の好ましい投与量は、体重70kg当たり1mg〜70mgの間である。
【0159】
いくつかの適応症(indications)に関しては、限局性(localised)又は実質的に限局性の適用が好ましい。
別の適用に関しては、鼻腔内適用が好ましい。
【0160】
本発明の化合物のいくつかは十分に活性であるが、他のいくつかに関しては、作用は、調製物が薬学的に許容可能な添加剤及び/又は担体をさらに含む場合、増強される。このような添加剤及び担体は、当該技術分野で既知である。いくつかの場合、その標的への活性物質の送達(delivery)を促進する化合物を含むことは有益である。
【0161】
多くの場合、製剤を複数回投与することが必要である。投与(administration)は、連続注入、例えば多数回用量投与での、例えば1日多数回毎日、週に多数回毎週等の、脳室内注入又は投与であり得る。薬物の投与は、細胞死をもたらし得る要因に個体が付される前又は付された直後に開始される、というのが好ましい。好ましくは薬物は、当該要因の開始から8時間以内、例えば要因の開始から5時間以内に投与される。化合物の多くは、長期作用を発揮し、それにより化合物の投与は長い間隔(interval)で、例えば1週間又は2週間で実行され得る。
【0162】
本発明によるペプチド配列、それを含む化合物、抗体、それを含む薬物、及び/又はそれを含む医薬組成物の使用による治療は、一実施形態では、細胞分化、増殖、生存及び/又は運動性を調節するのに有用である。したがって治療としては、筋肉の疾患又は症状(conditions)、例えば神経筋肉連結の機能減損、例えば遺伝的又は外傷性萎縮性筋障害(traumatic atrophic muscle disorder)の治療;或いは種々の臓器の疾患又は症状、例えば生殖腺(gonad)の、膵臓(pancreas)(例えばI型及びII型真性糖尿病)の、腎臓(kidney)(例えばネフローゼ(nephrosis))の変性症状(degenerative conditions)の治療が挙げられる。本発明の化合物は、分化を誘導し、増殖を調節し、再生、ニューロン可塑性を刺激するために用いられ得る。
【0163】
さらに本発明は、癌の治療にさらに関する。癌細胞(cancer cell)の増殖、分化、生存及び運動性の制御(regulation)は、癌細胞を含む腫瘍の増殖、侵襲、血管形成及びその伝播に関して重要である。したがって化合物は、癌の予防及び治療における後期過程を阻害するための薬物として用いられるのが有益であり得る。
【0164】
本発明の化合物、薬物及び/又は医薬組成物は、例えば、臨床症状(clinical conditions)、例えば新生物(neoplasm)、例えば悪性新生物、良性新生物、上皮内癌(carcinoma in situ)及び不確定行動を有する新生物、さらに特定的には乳癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、肝臓癌、心臓癌、皮膚癌、血液臓器の癌(他とCML及びAML、しかしこれらに限定されない)、筋肉癌、肉腫、特定受容体及び/又は発現突然変異受容体の、又は可溶性受容体、 例えばErb受容体及びFGF受容体(これらに限定されない)に関連した機能不全及び/又は過剰又は低発現を有する癌、内分泌腺の疾患、例えば真性糖尿病(diabetes mellitus)、下垂体腫瘍、代謝障害(metabolic disorders)、例えばオブセニティ(obscenity)脂質障害(disoeder)、例えば高コレステロール血症、アテローム硬化症、I及びII型糖尿病、アミノ酸輸送及び代謝の障害、プリン及びピリミジン代謝の障害及び痛風、骨障害、例えば骨折、骨粗鬆症、骨関節炎(OA)、肥満症、精神病、例えば老年性及び前老年性器質性精神病性症状(senile and presenile organic psychotic conditions)、アルコール性精神病、薬物精神病、一過性器質性精神病性症状(transient organic psychotic conditions)、うつ病及びその他の気分障害(mood disorders)、例えば躁病性及び双極性障害、アルツハイマー病(Alzheimer's disease)、脳性脂質代謝異常(cerebral lipidoses)、癲癇、全身不全麻痺[梅毒]、肝レンズ核変性、ハンチントン舞踏病、ヤコブ・クロイツフェルト病、多発性硬化症、脳のピック病(pick's disease)、結節性多発性動脈炎、梅毒、統合失調性障害、情動精神病(affective psychoses)、神経症障害(neurotic disorders)、人格障害、例えば性格神経症(character neurosis)、器質性脳症候群(organic brain syndromes)に関連した非精神病性人格障害、妄想性人格障害(paranoid personality disorder)、狂信性人格(fanatic personality)、妄想性人格(障害)、妄想性形質、性の逸脱及び障害又は機能不全(sexual deviations and disorders or dysfunctions)、例えば性的意欲又は理由付けする能力の低減、睡眠障害、遺伝性の或いは疾患又は外傷(trauma)と関連した精神遅滞、神経系及び感覚器官における疾患、例えば疾患、損傷後の、例えば外傷、外科手法及び暴行後の視覚、聴覚、嗅覚、感情、味覚、認識異常に影響を及ぼす疾患、疼痛症候群、例えば非オピオイド型疼痛、ニューロパシー痛、或いは他の障害、例えば糖尿病又はHIVに関連した疼痛、脳炎(encephalitis)、薬物/アルコール乱用、不安、術後神経損害、手術中虚血、脳神経系の炎症性疾患(inflammatory disease)、例えば髄膜炎、脳炎(encephalitis)、脳変性、例えばアルツハイマー病(Alzheimer's disease)、ピック病(pick's disease)、脳の老年性変性、老化NOS、交通性水頭症、閉塞性水頭症、パーキンソン病、例えばその他の錐体外性疾患及び異常運動障害、脊髄小脳疾患、小脳性運動失調、マリー・サンガー・ブラウン失調、ミオクローヌス性小脳性共同運動障害、原発性小脳変性症、例えば脊髄性筋萎縮、家族性、若年性、成人性脊髄性筋萎縮、運動ニューロン(motor neuron)疾患、筋萎縮性側索硬化症、運動ニューロン疾患、進行性延髄麻痺、偽性延髄麻痺、原発性側索硬化症、その他の前角細胞疾患、前角細胞疾患、脊髄の非特異的なその他の疾患、脊髄空洞症及び延髄空洞症、血管性脊髄症、脊髄の急性梗塞(塞栓性)(非塞栓性)、脊髄の動脈血栓症、脊髄の水腫、亜急性壊死性脊髄症、他で分類された疾患における脊髄の亜急性複合変性症、脊髄症、薬物誘導性、放射線誘導性脊髄炎、自律神経系の障害、末梢性自律神経系、交感神経系、副交感神経系又は植物性神経系の障害、家族性自律神経障害[ライリー・デイ症候群]、特発性末梢性自律神経性神経疾患、頚動脈洞性失神又は症候群、頚部交感神経性ジストロフィー又は麻痺、他で分類された障害における末梢性自律神経性神経疾患、アミロイドーシス、自己免疫障害、例えば関節リウマチ、SLE、ALS及びMS、抗炎症作用、喘息及びその他のアレルギー反応、末梢神経系の疾患、腕神経叢病変、頚肋症候群、肋骨鎖骨症候群、前斜角筋症候群、胸郭出口症候群、上腕神経炎又は神経根炎、例えば新生児における炎症性及び毒性神経疾患、例えば急性感染性多発神経炎、ギラン・バレー症候群、感染後多発神経炎、コラーゲン血管性疾患における多発性神経障害、眼球の障害、例えば眼の多数の構造に影響を及ぼす障害、例えば化膿性眼内炎、耳及び乳様突起の疾患、慢性リウマチ性心疾患、虚血性心疾患、不整脈、肺系、呼吸器系、感覚器官、例えば酸素の疾患、喘息、急性心筋梗塞、並びにAMIのその他の関連障害又は後遺症、新生児における臓器又は柔組織の異常、例えば神経系の異常、分娩及び出産における麻酔薬又はその他の鎮痛薬の投与の合併症、皮膚における疾患、例えば感染、不完全循環問題、熱傷、及びその他の機械的及び/又は物理的損傷、萎縮性(atrophic)皮膚炎、乾癬、障害、損傷、例えば手術、挫傷、熱傷後の感染を引き起こす障害、損傷、神経及び脊髄への損傷、例えば神経の分断、連続性における病変(開存性創傷有り又は無し)、外傷性神経腫(開存性創傷有り又は無し)、外傷性一過性麻痺(開存性創傷有り又は無し)、医学手法中の偶発性穿刺又は破傷、視神経及び第2胚神経の損傷、視交叉への損傷、視覚経路への損傷、視覚皮質への損傷、非特異的失明、他の脳神経(複数可)への損傷、他のそして非特異的神経への損傷、薬物、医学的及び生物学的物質による中毒、急性及び慢性の両方の機能不全、例えば損傷後の認知、気分、社会機能の欠損、末梢的及び中枢的な遺伝的又は外傷性萎縮性筋障害(traumatic atrophic muscle disorder)の治療に; 或いは種々の臓器の疾患又は症状、例えば生殖腺(gonad)の、膵臓(pancreas)(例えばI型及びII型真性糖尿病)の、腎臓 (例えばネフローゼ(nephrosis))の変性症状、スクラピー、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー(GSS)病、生体内又は試験管内での幹細胞(stem cell)保護又は成熟、神経形成の治療のために用いられ得る。
【0165】
本発明によれば、上記の症状(conditions)及び症候(symptoms)の治療及び/又は予防の方法は、有効量の本発明のペプチド配列及び/又は化合物及び/又は抗体及び/又は薬物及び/又は医薬組成物をそれを必要とする個体に投与する工程を包含する。
【0166】
6.実施例
ペプチド:
Inherbin群:

全長ペプチド:

Inherbin 1 MLYNPTTYQMDVNPEGK 配列番号:1
Inherbin 2 VTYNTDTFESMPNPEGR 配列番号:2
Inherbin 3 LVYNKLTFQLEPNPHTK 配列番号:3
Inherbin 4 FVYNPTTFQLEMNFNAK 配列番号:4
Mouse ErbB2dl ITYNTDTFESMLNPEGR 配列番号:5
Mouse ErbB3dl: LVYNKLTFQLEPNPHIK 配列番号:6

切断化ペプチド

B1dln LMLYNPTT 配列番号:30
B1dlc TYQMDVN 配列番号:31
B2dln LVTYNTD 配列番号:32
Mouse B2dln LITYNTD 配列番号:33
B2dlc TFESMPN 配列番号:34
Mouse B2dlc TFESMLN 配列番号:35
B3dln PLVYNKLT 配列番号:36
B3dlc TFQLEPN 配列番号:37
B4dln TFVYNPT 配列番号:38
B4dlc TFQLEMN 配列番号:39

スクランブル化ペプチド(scrambled peptide):

Scr-Inherbin3d KHKLPYNFNLETTVQPL 配列番号:40

自己抑制的ループ(autoinhibitory loop)群:

AUER1c AGVMGENNTL 配列番号:7
Mouse AUER1c AGIMGENNTL 配列番号:8
AUER1n AHYIDGPHSVKT 配列番号:9
AUER2c SGVKPDLSYM 配列番号:10
AUER2n AHYKDPPFSVAR 配列番号:11
Mouse AUER2n AHYKDSSSCVAR 配列番号:12
AUER3c HGVLGAKGPI 配列番号:13
Mouse AUER3c HGILGAKGPI 配列番号:14
AUER3n AHFRDGPHSVSS 配列番号:15
Mouse AUER3n AHFRDGPHCVNS 配列番号:16
AUER4c DGLQGANSFI 配列番号:17
AUER4n SHFKDGPNSVEK 配列番号:18

膜近位(Membrane proximal)群:

InhB2_1 GLPREYVNARHCL 配列番号:19
Mouse InhB2_1 GLPREYVRGKHCL 配列番号:20
InhB2_2 HPECQPQNGSVT 配列番号:21
Mouse InhB2_2 HPECQPQNSSET 配列番号:22
InhB2_3 FGPEADQCVA 配列番号:23
Mouse InhB2_3 YGSEADQCEA 配列番号:24
InhB2_4 HYKDPPFCVAR 配列番号:25
Mouse InhB2_4 HYKDSSSCVAR 配列番号:26
InhB2_5 SGVKPDLS 配列番号:27
InhB2_6 YMPIWKFPDEEGA 配列番号:28
Mouse InhB2_6 YMPIWKYPDEEGI 配列番号:29
【0167】
方法:
ペプチド:
Inherbin3ペプチド(配列番号3)を、以下の2つの形態で合成した: a)単量体の(monomeric)線状ペプチドとして、並びにb)リジン主鎖に連結された4つの単量体(monomer)から成る、Inherbin3dと呼ばれる四量体デンドリマー(tetrameric dendrimer)として。Inherbin1(配列番号1)、Inherbin2(配列番号2)及びInherbin4(配列番号4)ペプチドは、結合分析のために用いられる四量体デンドリマーとして合成しただけである。スクランブル化Inherbin3ペプチド(配列番号40)は、デンドリマー様(dendrimeric)形態で合成されただけであり、Scr-Inherbin3dと呼ばれる。1kDaカットオフ透析管(Millipore, Billerica, MA, USA)中で純蒸留水に対する蒸留水中に溶解したペプチドの透析により、デンドリマー様ペプチドを精製した。単量体のペプチドは、合成時に高純度を有し、さらなる精製を必要としなかった。
【0168】
表面プラズモン共鳴分析
ランニングバッファーとして既製HBS-EPバッファー(BIAcore AB)を用いて、25℃で、表面プラズモン共鳴(SPR)ベースのバイオセンサー計器BIAコア2000(BIAcore AB, Uppsala, Sweden)で、結合分析を実施した。5μl/分の流速(flow rate)で、メーカーの使用説明書に従って、アミンカップリング・キット(Biosensor AB, Uppsala, Sweden)を用いて、CM5センサーチップ(BIAcore AB)の表面にペプチドを不動化(immobilize)した。要するに、所望レベルの不動化ペプチド(immobilized peptide)に到達するまで、35μlの活性化溶液を注入し、その後、ペプチド(HBS-EPバッファー、pH7.4中の50μg/mlペプチド)を注入することにより、センサーチップ表面のカルボキシル基を活性化した。35μlの1Mエタノールアミンの注入により、非反応ペプチドを洗い落とし、非反応活性化基を遮断した。最終不動化応答は、約7000〜9000共鳴単位(RU)であった。同一条件下で、しかしペプチドを注入せずに、参照表面を同時的に生成し、そしてブランク・チップ対照として用いた。20μl/分の流速で種々の濃度でErbB受容体タンパク質を注入し、チップ上に不動化されたペプチドとの結合を、リアルタイムで測定した。不動化ペプチドを有するフローセル(flow cells)に関するシグナルとブランク・フローセルに関するシグナルとの間の差に対応する曲線を、分析のために用いた。各センサーグラムは、会合相(最初の320秒)(注入受容体とペプチドとの結合を反映する)、並びに解離相(約300秒)(この間中、ランニングバッファーはチップ上を通過し、結合受容体は洗い落とされつつある)から成る。メーカーのソフトウエアを用いて、非線形曲線フィッティングにより、データを分析した。ヒトErbB1(EGF受容体、EGFRとも呼ばれる)の全細胞外部分を含む組換えタンパク質を、Research Diagnostics(Concord, MA, USA)から購入した。ヒトIgG1のFc領域及びヒトErbB2、ErbB3又はErbB4の細胞外部分と融合されたFcタンパク質を含む組換えタンパク質を、R&D Systems Europe(Abingdon, UK)から購入した。
【0169】
ErbB受容体リン酸化
この検定法のために用いた細胞は、NR6wtEGFR細胞(これは、ErbB1で安定的にトランスフェクトされた繊維芽様細胞(fibroblastoid cells))、そしてヒト頭及び頚部腫瘍誘導HN5細胞であった。集密的NR6wtEGFR又はHN5細胞を、指示濃度で30分間ペプチドで処理し、次に10ng/mlのEGF(Sigma-Aldrich St. Louis, MO, USA)で10分間刺激した。細胞を溶解バッファー(1%(v/v)Triton X-100、150mMのNaCl、10mMのトリス、pH7.4、1mMのEDTA、1mMのEGTA、0.5%(v/v)NP-40、ホスファターゼ阻害薬(ホスファターゼ阻害薬カクテル・セットII(Calbiochem, La Jolla,(CA, USA)製)及びプロテアーゼ阻害薬(コンプリート(商標)プロテアーゼ阻害薬カクテル(Boehringer Mannheim Biochemica(Mannheim, Germany)製))中で溶解し、等量の総タンパク質(ビシンコニン酸検定(Pierce, Rockford, IL, USA)により確定した場合)を含有する透明な溶解物試料を、二重反復実験で、4%〜12%SDS-PAGE及び免疫ブロットに付した。抗ホスホ-EGFR(anti-phospho-EGFR)(ホスホチロシン1068)抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)で一方の膜をプローブし、他方を抗EGFR抗体(Cell Signaling Technology)でプローブした。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)接合二次抗体(DAKO, Denmark)及び強化化学発光(chemiluminiscence)(Pierce)を用いて検出を実行した。ソフトウエアパッケージGeneTools(Syngene, Cambridge, UK)を用いる濃度測定分析を用いて、バンドの強度を定量した。
【0170】
細胞増殖(cell proliferation)(BrdU取り込み):
完全培地(10%ウシ胎仔血清含有)又は飢餓培地(starvation medium)(無血清)中の96ウェルプレート中で、2000個のL929細胞(ECACC番号:85011425)/ウェルを播種した。ペプチド、ErbB1キナーゼ阻害薬PD153035(Calbiochem)及びEGF(Sigma-Aldrich)を、図に指示された濃度で、細胞の播種直後(完全血清中で実行する実験用)、又はインキュベーションの8時間後(飢餓培地中で実行する実験用)に付加した。細胞を6時間増殖させて、次に10μMのブロモデオキシウリジン(BrdU)を付加し、細胞をさらに18時間増殖させた。次に、メーカーのプロトコールに従って、BiotrakELISA系バージョン2(Amersham Biosciences Europe GmbH(Buckinghamshire, UK)製)を用いて、細胞中のBrdU組入れを検定した。
【0171】
細胞生存度(MTS染色):
完全培地(10%ウシ胎仔血清含有)又は飢餓培地 (無血清)中の96ウェルプレート中で、2000個のHN5細胞/ウェルを播種した。12時間のインキュベーション後、ペプチド又はErbB1キナーゼ阻害薬PD153035(Calbiochem)及び/又はEGF(Sigma-Aldrich)を、図に指示された濃度で付加した。細胞を72時間増殖させて、次に20μlのMTS一溶液試薬(Promega, Madison, WI, USA)を各ウェル中に100μl培養培地当たりで付加し、プレートを37℃で1〜2時間インキュベートし、その後、490nmで吸光度を測定した。
【0172】
細胞運動性(cell motility)検定法:
メーカーの使用説明書(Clontech)に従って、準集密的(subconfluent)L929細胞をAd5.CMV-GFPウイルスに感染させた。トランスフェクションの24時間後に、細胞を4×103細胞/cm2の密度で播種し、24時間増殖させた。次に細胞を指示濃度のペプチド及びEGFで処理し、そして自動タイムラプスビデオ記録を用いて、各培養中の25固定位置で4時間、15分毎に細胞位置を記録した。用いたワークステーションは、加熱可動コンピューター制御顕微鏡ステージ(heated, movable, computer controlled microscope stage)を装備したEclipse TE300倒立顕微鏡(Nikon, Japan)を包含した。PRIGRAソフトウエア(Protein Laboratory(Copenhagen, Denmark)で開発された)を用いて、記録を実施した。
【0173】
単一細胞運動性評価のための自動手法を用いて、個々の細胞運動性の分析を実施した。要するに、全記録期間中の細胞の移動軌道の確定のために、連続ビデオフレーム中の細胞位置の自動マーキングを用いた。得られた細胞座標データを、複合重複法('complex overlapping' method)による運動性パラメーターの算定のために用いた。要するに、細胞の最初の位置及び最後の位置に対応する2つの点の間のユークリッド距離として、二乗平均細胞変位量<d2>を算定した。時間に対してプロットした<d2>の曲線を以下の方程式に当てはめることにより、拡散速度Rを算定した:
【数1】

(式中、tiは当該時間間隔(interval)であり、τは観察間の時間間隔(interval)、すなわち15分であり、そしてPは方向の持続時間である(28))。平均細胞速度Sτは、別個の観察間で起こる平均細胞変位量(<dτ>)を別個の観察間の時間間隔(interval)(τ)で割った値として、以下の方程式に従って算定した:
【数2】


平均細胞経路長(cell-path-length)<L>は、所定観察時間での細胞の一集団の一試料に関して、以下のように算定した:
【数3】


運動性指標(locomotive index)LIは、平均細胞変位量(mean cell displacement)と平均細胞経路長(mean cell-path-length)の比として算定した:
【数4】


LIは、細胞の方性存続性(directional persistence)の測定値として用いた。
【0174】
ErbB受容体リン酸化検定法:
NR6wtEGFR細胞(ErbB1で安定的にトランスフェクトされた繊維芽様細胞)を、指示濃度で1時間ペプチドで処理し、次に10ng/mlのEGFで10分間刺激した。細胞を溶解バッファー(1%(v/v)Triton X-100、150mMのNaCl、10mMのトリス、pH7.4、1mMのEDTA、1mMのEGTA、0.5%(v/v)NP-40、ホスファターゼ阻害薬及びプロテアーゼ阻害薬)中で溶解し、等量の総タンパク質(ビシンコニン酸検定法(Pierce, IL, USA)により確定した場合)を含有する透明な溶解物試料を、二重反復実験で、4%〜12%SDS-PAGE及び免疫ブロット(immunoblotting)に付した。抗ホスホ-ErbB1(チロシン1068)抗体で一方の膜をプローブし、他方を抗ErbB1抗体でプローブした。ホースラディッシュペルオキシダーゼ接合二次抗体及び強化化学発光(enhanced chemiluminiscence)(Pierce)を用いて検出を実行した。ソフトウエアパッケージGeneTools(Syngene, Cambridge, UK)を用いる濃度測定分析を用いて、バンドの強度を定量した。
【0175】
結果:
InherbinペプチドとErbB受容体との結合
3つのInherbinペプチドとErbB受容体ファミリー(receptor family)の4つの成員すべてとの結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)結合分析を用いて確定した(表1)。データは、平均KD値±SEMを表わす。ペプチドのInherbin1、Inherbin3及びInherbin4の各々は、ErbB受容体ファミリーのいくつかの成員と結合するが、異なる特異性を有する、ということを本発明者らは見出した。図1は、Inherbin3ペプチドと、組換え単量体の(ErbB1)又は二量体のFcキメラタンパク質(ErbB2〜4)として産生されたErbB1〜4の細胞外部分との、並びにヒトIgGのFc部分のみから成る対照タンパク質との結合の代表的結合曲線を示す。
【0176】
【表1】

【0177】
Inherbin2及びInherbin3ペプチドはL929線維芽細胞におけるEGF誘導性増殖(EGF-induced proliferation)を阻害する
【0178】
ErbB媒介性細胞増殖(ErbB-mediated cell proliferation)を阻害するInherbinペプチドの能力を試験するために、L929細胞におけるEGF誘導性細胞増殖(EGF-induced cell proliferation)に及ぼすInherbin2及びInherbin3ペプチドの作用を試験した(図2)。両ペプチドはEGF誘導性細胞増殖を有意に阻害し得る、ということを本発明者らは見出した。
【0179】
Inherbin3の切断化バージョン(truncated version)(Inherbin3nと呼ばれる)はL929線維芽細胞におけるEGF誘導性増殖を阻害する
【0180】
Inherbin3ペプチドのN末端半分を構成する切断化ペプチドを生成し、Inherbin3nと命名した。このペプチドの生物学的作用をInherbin3の作用と比較するために、EGF誘導性L細胞増殖(EGF-induced L cell proliferation)に及ぼすInherbin3nの作用を確定した(図3)。Inherbin3nペプチドが、Inherbin3と同程度に、EGF誘導性細胞増殖を阻害する、ということを本発明者らは見出した。
【0181】
デンドリマー様(dendrimeric)Inherbin3dペプチドは、単量体のInherbin3よりも、L細胞におけるEGF誘導性細胞増殖の強力な阻害薬(potent inhibitor)である
【0182】
Inherbin3ペプチドを、2つのバージョン:単量体の線状ペプチド(上記生物学的検定法で使用)及び四量体デンドリマー(tetrameric dendrimer)(結合分析のために使用):で合成した。Inherbin3の2つのバージョンがそれらの生物学的作用を誘導する能力を比較するために、本発明者らはL929細胞の増殖に及ぼすデンドリマー様Inherbin3dペプチドの作用を調べた。デンドリマー様Inherbin3dは、単量体のInherbin3に関する場合と同様に、EGF誘導性細胞増殖を阻害する、ということを本発明者らは見出した(図4)。しかしながら、単量体のInherbin3のみは100ng/mlのEGFにより、そして2.5μM及び10μMのペプチド用量でのみ、誘導される細胞増殖を有意に阻害する(図2を参照されたい)が、一方、デンドリマー様Inherbin3dは、0.6μMという低いペプチド用量で、10ng/ml又は100ng/mlのEGFにより誘導される細胞増殖を有意に阻害した(図4)。細胞増殖に及ぼす特異的ErbB1チロシンキナーゼ阻害薬PD153035の作用も検査し、そしてこの阻害薬が10ng/ml又は100ng/mlのEGFを用いた刺激により誘導される細胞増殖を遮断する、ということを本発明者らは見出した(図4)。これらのデータから、デンドリマー様Inherbin3dは単量体のInherbin3よりも強力な、EGF誘導性(EGF-induced)L929細胞増殖の阻害薬であり、そしてこれらの細胞におけるInherbin3dの阻害作用はPD153035の作用に匹敵する、と本発明者らは結論づけた。
【0183】
Inherbin3はEGF誘導性細胞運動性を阻害し、そしてEGFの非存在下での基礎の細胞運動性を刺激する
【0184】
細胞移動軌道(cell tracks)を作るために連続ビデオフレームで緑色細胞の座標を認識する自動評価系(automatic evaluation system)により、緑色蛍光タンパク質の強化バージョン、EGFP、をコードするアデノウイルス構築物に感染させたL929細胞の運動性を確定した(Dmitryev et al., 2006)。細胞運動性確定の結果を、図5に示す。細胞拡散の平均速度(Rと呼ばれる)はEGFにより強力に刺激され、拡散速度のこのEGF誘導性増加(EGF-induced increase)はInherbin3ペプチドにより有意に阻害された(図5B)。40μMの用量では、Inherbin3は拡散速度のEGF誘導性増加を完全に遮断した(図5B)。EGF誘導性細胞運動性(EGF-induced cell motility)に及ぼすInherbin3の作用も図5Aに例示するが、これは、代表的一実験に関する未処理細胞及びEGFで処理した細胞(Inherbin3による同時処理を伴う場合と伴わない場合)に関して時間に対してプロットされた二乗平均細胞変位量(d2)を示す。EGF誘導性細胞運動性に及ぼすその阻害作用とは別に、Inherbin3それ自体(EGF非存在下)は、10μMの用量で、拡散速度をEGF誘導性応答のレベルに刺激することを、本発明者らは見出した(図5B)。
【0185】
EGF及びInherbin3により誘導される細胞拡散速度における変化をさらに調べるために、本発明者らはすべての実験条件についての平均細胞速度St及び運動性指標LIを確定した。図5C及び図5Dにおいて観察され得るように、EGF又はInherbin3は平均細胞速度に有意に影響を及ぼさなかったが、一方、運動性指標は拡散速度において見られた変化を反映した。これは、EGF及びInherbin3誘導性の拡散速度の変化が平均細胞速度における変化によるものでなく、むしろ、運動性指標に反映されているように、細胞の方性存続性における変化によるものである、ということを示す。
【0186】
要するに、図5のデータは、Inherbin3が、EGF誘導性細胞運動性を用量依存的に阻害する、ということを示す。さらにInherbin3それ自体は、EGFの非存在下で、細胞運動性(cell motility)に及ぼす刺激作用を有する。
【0187】
Inherbin3はヒトのErbB1を過剰発現する頭及び頚部癌細胞(head and neck cancer cells)の増殖(growth)を阻害する
【0188】
高レベルでErbB1を過剰発現する細胞におけるInherbin3の作用を評価するために、本発明者らは、ErbB1過剰発現ヒト頭及び頚部癌細胞株HN5(約5.2×106受容体/細胞のレベルでErbB1を発現することが示されている(Kwok and Sutherland 1991))のEGF誘導性及び血清誘導性増殖に及ぼすInherbin3d(デンドリマー様バージョン)の作用を確定した。結果を図6に示す。第一に、飢餓細胞(starved cells)をEGFで刺激した場合、細胞は細胞増殖(cell growth)の強力な増大を伴って応答し、そしてInherbin3による同時処理はこのEGF誘導性細胞増殖応答を阻害する、ということを本発明者らは見出した。しかしながらこれらの細胞におけるInherbin3の作用は、より低いErbB1発現レベルを有する細胞(これらの細胞では、Inherbin3による処理はEGF誘導性作用のほぼ100%阻害を生じた)におけるEGF誘導性細胞増殖、細胞運動性及びErbB1リン酸化に及ぼす先に記載した作用と比較して、相対的に低かった(細胞増殖(cell growth)におけるEGF誘導性増加の約35%阻害)。したがって、EGF誘導性のErbB1の機能に及ぼすInherbin3の作用はErbB1の発現レベルに依存する、と本発明者らは結論づけた。Inherbin3は、これらの条件下では基礎の細胞増殖(cell growth)(EGF刺激なし)に及ぼす作用を有さなかった(図6A)が、これは、L929細胞増殖(cell proliferation)に及ぼすInherbin3の作用と一致する。第二に、細胞が完全培地(10%血清を含有)中で増殖される場合、Inherbin3は血清誘導性細胞増殖(serum-induced cell growth)を阻害する、ということを本発明者らは見出した(図6B)。しかしながら血清誘導性細胞増殖に及ぼすInherbin3の作用は、EGF誘導性細胞増殖に及ぼす当該ペプチドの作用と同様に、相対的に弱く、これもまた、強力なErbB1過剰発現を有する細胞に及ぼすInherbin3の弱い作用を示唆する。HN5細胞増殖(cell growth)に及ぼすPD153035の作用も試験し、そしてEGF刺激の非存在下及び存在下で、そして血清の非存在下及び存在下で、このErbB1キナーゼ阻害薬は細胞の増殖(growth)を強力に阻害する、ということを本発明者らは見出した(図6A及び図6B)。
【0189】
Inherbin3のスクランブル化バージョンはHN5細胞の増殖(growth)に及ぼす作用を有さない
【0190】
Inherbin3の観察された作用の特異性(specificity)を取り扱うために、本発明者らはInherbin3と同一のアミノ酸組成を有する対照ペプチドを、しかし無作為スクランブル化配列で、設計した。このスクランブル化対照ペプチドを、四量体デンドリマー(tetrameric dendrimer)(Scr-Inherbin3dと呼ばれる)として合成し、そしてHN5細胞増殖(cell growth)に及ぼすこのペプチドの作用を、Inherbin3dの作用と比較した。図6A及び図6Bで観察されるように、スクランブル化ペプチド(scrambled peptide)は、EGFの非存在下又は存在下で、そして血清の非存在下又は存在下で、HN5細胞増殖(cell growth)に及ぼす有意の作用を有さなかった。
【0191】
要するに、HN5細胞からの本発明者らのデータは、Inherbin3がEGF誘導性の、並びに血清誘導性のHN5細胞増殖(cell growth)を阻害し得るということを示す(この阻害は、低又は中等度のErbB1発現レベルを有する細胞において観察された当該ペプチドの阻害作用より弱いが)。さらに、スクランブル化対照ペプチドがこれらの作用を発揮しなかったので、これらの作用はInherbin3アミノ酸配列に特異的である、ということを本発明者らは示す。最後に、Inherbin3はErbB1キナーゼ阻害薬PD153035ほど強力な、EGF誘導性及び血清誘導性HN5細胞増殖(cell growth)の阻害薬ではない、ということを本発明者らは示す。
【0192】
Inherbin3ペプチドは2つの異なるErbB1過剰発現細胞株におけるEGF誘導性ErbB1リン酸化を阻害する:
ErbB1活性を阻害するInherbin3ペプチドの能力を試験するために、本発明者らは、ErbB1で安定的にトランスフェクトされ、そしてErbB2〜4の極低い発現レベルを示す細胞株(NR6wtEGFRと呼ばれる)におけるErbB1リン酸化に及ぼすInherbin3の作用を確定した(図7)。Inherbin3がEGF誘導性ErbB1リン酸化を有意に阻害する、ということを本発明者らは見出した。HN5細胞株におけるEGF誘導性ErbB1リン酸化に及ぼすInherbin2及びInherbin3の作用も試験した(図8)。ここに、Inherbin3はEGF誘導性ErbB1リン酸化を有意に阻害するが、一方、Inherbin2の作用は統計学的に有意でない、ということを本発明者らは見出した。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】Inherbin3とErbB受容体との結合。Inherbin3dペプチドをセンサー表面チップ上に不動化し、4つのErbB受容体の細胞外部分を含む組換えタンパク質を注入して、64μM(単量体のErbB1タンパク質に関して)及び32μM(二量体のErbB2-、ErbB3-及びErbB4-Fcキメラタンパク質に関して)の濃度でセンサーチップ表面に浮遊させた。結合は、不動化ペプチドを有するセンサーチップとブランクセンサーチップとの間の応答差(response difference)として示される。3つの独立の実験のうちの1つからの代表的曲線を示す。
【0194】
【図2】L細胞増殖(L cell proliferation)に及ぼすInherbin2及びInherbin3の作用。L929細胞を完全培地中に播種して、指示用量のInherbin2(A)又はInherbin3(B)及びEGFで6時間処理し、次に、BrdUを細胞に付加し、そしてそれらをさらに18時間インキュベートした(やはりInherbin3及びEGFの存在下で)後、BrdU取り込みをELISAベースの(ELISA-based)検定法により確定した。データは、6つの独立の実験に関する平均±SEMを表わす。十字は、ペプチドで処理されない(無EGF、無ペプチド)非刺激細胞と比較した有意差を示し、そして星印は、同一用量のEGFで刺激されるが、ペプチドで処理されない細胞と比較した有意差を示す。+及び*=p<0.05、**=p<0.02、+++=p<0.001(反復測定ANOVAと、その後のダネットの事後検定(dunnett's post-test)により確定)。
【0195】
【図3】L細胞増殖に及ぼすInherbin3の切断化バージョン(truncated version)(Inherbin3nと呼ばれる)の作用。L929細胞を完全培地中に播種して、指示用量のInherbin3n、薬理学的ErbB1阻害薬PD153035及びEGFで6時間処理し、次に、BrdUを細胞に付加し、そしてそれらをさらに18時間インキュベートした(やはりInherbin3及びEGFの存在下で)後、BrdU組入れをELISAベースの(ELISA-based)検定法により確定した。データは、6つの独立の実験に関する平均±SEMを表わす。十字は、Inherbin3nで処理されない(無EGF、無Inherbin3n)非刺激細胞と比較して有意差を示し、そして星印は、同一用量のEGFで刺激されるが、Inherbin3nで処理されない細胞と比較して有意差を示す。+及び*=p<0.05、**=p<0.02、+++=p<0.001(反復測定ANOVAと、その後のダネットの事後検定(dunnett's post-test)により確定)。
【0196】
【図4】L細胞増殖(cell proliferation)に及ぼすInherbin3dの作用。L929細胞を飢餓培地(starvation medium)中に播種して、指示用量のInherbin3d及びEGF及び/又は100nMのPD153035で6時間処理し、次に、BrdUを細胞に付加し、そしてそれらをさらに18時間インキュベートした(やはりInherbin3d及びEGFの存在下で)後、BrdU組入れをELISAベースの(ELISA-based)検定法により確定した。データは、7つの独立の実験に関する平均±SEMを表わす。十字は、Inherbin3dで処理されない(無EGF、無Inherbin3d)非刺激細胞と比較して有意差を示し、そして星印は、同一用量のEGFで刺激されるが、Inherbin3dで処理されない細胞と比較して有意差を示す。*=p<0.05、++及び**=p<0.02、+++=p<0.001(反復測定ANOVAと、その後のダネットの事後検定(dunnett's post-test)により確定)。
【0197】
【図5】細胞運動性(cell motility)に及ぼすInherbin3の作用。EGFPをコードするアデノウイルスに感染させたL929細胞を指示用量のEGF及びInherbin3で刺激し、自動微速度撮影ビデオ録画(automatic time-lapse video recording)を用いて細胞運動性を4時間記録した。A:EGF誘導性細胞運動性に及ぼすInherbin3の作用を示す、代表的な1つの実験についての時間に対する平均二乗細胞変位(mean squared cell displacement)(d2)のプロット。 B、C及びDは、「材料及び方法」に記載されるように算定された拡散速度R(B)、平均細胞速度Sτ(C)並びに運動性指標LI(D)を示す。データは、6つの独立の実験に関する平均±SEMを表わし、そして非処理細胞(無EGF、無Inherbin3)に関する値は100%に設定される。星印は、Inherbin3で処理されないが、EGFで刺激される細胞(即ちカラム5のデータ)と比較した有意差を表わす。十字は、非処理(無EGF、無Inherbin3)細胞と比較した場合の有意差を表わす。+及び*=p<0.05、++及び**=p<0.02(反復測定ANOVAと、その後のダネットの事後検定(dunnett's post-test)により確定)。
【0198】
【図6】ErbB1を過剰発現する頭及び頚部癌細胞の増殖に及ぼすInherbin3dの作用。A:HN5細胞を飢餓培地(starvation medium)中に播種して、12時間増殖させ、その後、指示用量のInherbin3d及びScr-Inherbin3d、10ng/mlのEGF及び/又は100nMのPD153035を細胞に付加した。次に細胞を3日間インキュベートして、細胞増殖(cell growth)をMTS染色で測定した。B:HN5細胞を完全培地(10%ウシ胎仔血清を含有)中に播種して、指示用量のInherbin3d及びScr-Inherbin3d、又は100nMのPD153035で処理した。細胞を3日間増殖させて、細胞増殖(cell growth)をMTS染色で測定した。データは、6〜8つの独立の実験に関する平均±SEMを表わす。星印は、非処理細胞(対照)と比較した場合の有意差を示し、そして十字は、EGFで刺激されるが、ペプチド又はPD153035で処理されない細胞と比較した場合の有意差を示す。+及び*=p<0.05、++及び**=p<0.02、+++及び***=p<0.001(反復測定ANOVAと、その後のダネットの事後検定(dunnett's post-test)により確定)。
【0199】
【図7】ErbBリン酸化に及ぼすInherbin3の用量依存的作用。NR6wtEGFR細胞を指示用量のInherbin3で30分間処理し、その後、10ng/mlのEGFで10分間刺激した。細胞溶解物を、リン酸化ErbB1に対する免疫ブロット(immunoblotting)と、その後、総ErbB1及びアクチンに対する膜ストリッピング(membrane stripping)及び再プロービング(reprobing)に付した。A:1つの実験からの代表的ブロット、B:7つの独立の実験からのホスホ-ErbB1(phospho-ErbB1)及び総ErbB1イムノブロットの濃度測定定量。ErbB1リン酸化のレベルは、ホスホ-ErbB1ブロットのバンドの強度と総ErbB1ブロットの対応するバンドの強度との間の比の平均±SEMとして示される。ペプチドで処理されないEGF処理細胞におけるErbB1リン酸化のレベルは、100%と設定される。+++は、非処理(無ペプチド、無EGF)細胞におけるErbB1リン酸化のレベルと比較した場合に、p<0.001を示し、*は、ペプチドで処理されないEGF刺激細胞と比較した場合に、p<0.05を示す。スチューデントのペアt検定(student's paired t-test)により、統計学的分析を実行した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6〜18個のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む最大で30個のアミノ酸残基から成る単離ペプチドであって、前記アミノ酸配列がErbB受容体のポリペプチド配列の部分配列と同一であるか又は相同である単離ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドの断片がErbB受容体と結合し、そしてその活性を調節することができる、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
前記ErbB受容体がErbB1、ErbB2、ErbB3又はErbB4から選択される、請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
前記アミノ酸配列が配列番号1〜29から選択されるか、又は配列番号1〜29の断片若しくはバリアントである、請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
最大で18個のアミノ酸残基から成り、そして配列番号1〜6、7〜18又は19〜29から選択されるアミノ酸配列を有するか、又は前記配列の断片若しくはバリアントである、請求項1又は4記載のペプチド。
【請求項6】
前記断片が少なくとも5個のアミノ酸残基から成る、請求項4又は5記載のペプチド。
【請求項7】
前記断片が配列番号30〜39から選択されるアミノ酸配列から成る、請求項6記載のペプチド。
【請求項8】
10-6M〜10-9Mの結合親和性(Kd)で前記ErbB受容体と結合し得る、請求項1〜7のいずれか一つに記載のペプチド。
【請求項9】
2つ以上の隣接するアミノ酸配列、例えば二量体又は四量体アミノ酸配列を含む化合物である、請求項1〜8のいずれか一つに記載のペプチド。
【請求項10】
細胞の運動性、増殖、分化及び/又は生存を調節することができる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項11】
細胞運動性を刺激し得る、請求項9記載のペプチド。
【請求項12】
細胞運動性を阻害し得る、請求項9記載のペプチド。
【請求項13】
細胞増殖を刺激し得る、請求項9記載のペプチド。
【請求項14】
細胞増殖を阻害し得る、請求項9記載のペプチド。
【請求項15】
細胞分化を刺激し得る、請求項9記載のペプチド。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチドを含む化合物。
【請求項17】
前記ペプチドの単一コピーから成る単量体として製剤される、請求項15記載の化合物。
【請求項18】
前記ペプチドの2つ以上のコピーから成る多量体、例えば二量体又は四量体として製剤される、請求項15記載の化合物。
【請求項19】
前記多量体が前記ペプチドの4つ以上の同一コピーを含むデンドリマーである、請求項17記載の化合物。
【請求項20】
前記多量体が前記ペプチドの2つの同一コピーを含む二量体である、請求項18記載の化合物。
【請求項21】
前記多量体が2つの異なるペプチド配列を含む二量体である、請求項17記載の化合物。
【請求項22】
薬物としての請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチド又は請求項15〜20のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項23】
前記薬物が症状又は疾患の予防又は治療のためであり、ErbB受容体の活性が前記症状又は疾患の発症或いは回復に不可欠である、請求項21記載の使用。
【請求項24】
前記薬物が細胞増殖、細胞分化、細胞生存、新血管形成、組織リモデリングにおける変化に関連する症状又は疾患の治療のためのものであり、且つ/又は細胞運動性における変化に関与する、請求項21又は22記載の使用。
【請求項25】
前記疾患が癌である、請求項23記載の使用。
【請求項26】
前記症状が臓器又は細胞移植に関連する、請求項23記載の使用。
【請求項27】
前記疾患が糖尿病である、請求項23記載の使用。
【請求項28】
前記症状又は疾患がパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病又は痴呆、例えば多発梗塞性痴呆(multiinfarct dementia)である、請求項23記載の使用。
【請求項29】
前記薬物がアルコール消費による身体損害に関連した症状又は疾患の治療のためである、請求項23記載の使用。
【請求項30】
前記薬物がプリオン病の治療のためである、請求項23記載の使用。
【請求項31】
前記薬物が創傷治癒のためである、請求項23記載の使用。
【請求項32】
前記薬物が炎症応答を調節するためである、請求項23記載の使用。
【請求項33】
抗体の産生のための請求項1〜14のいずれか一つに記載のペプチド或いは請求項15〜20のいずれか一つに記載の化合物の使用。
【請求項34】
配列番号1〜39から選択されるアミノ酸配列或いはその断片又はバリアントを含むエピトープと結合し得る抗体。
【請求項35】
請求項22〜31のいずれか一項で定義されたような症状又は疾患の治療のための薬物の製造のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチド、請求項15〜20のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項35記載の抗体の使用。
【請求項36】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチド、請求項15〜20のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項33記載の抗体を含む薬物。
【請求項37】
有効量の請求項35記載の薬物を含む医薬組成物。
【請求項38】
有効量の請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチド、請求項15〜20のいずれか一項に記載の化合物、請求項33記載の抗体、請求項35記載の薬物、又は請求項36記載の医薬組成物を必要とする個体に投与することを包含する治療方法。
【請求項39】
細胞の増殖、分化、生存及び/又は運動性の調節方法であって、請求項1〜14のいずれか一項に記載のペプチド、請求項15〜20のいずれか一項に記載の化合物、請求項33記載の抗体、請求項35記載の薬物、又は請求項36記載の医薬組成物を使用することを包含する調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−532393(P2009−532393A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503413(P2009−503413)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/DK2007/000171
【国際公開番号】WO2007/115571
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508365322)コペンハーゲン ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】KOBENHAVNS UNIVERSITET
【Fターム(参考)】