説明

FMレーダー

【目的】 送信電力を増加することなく検出距離を増加させることのできるFMレーダーを提供する。
【構成】 送信波TSの単位時間当りの周波数変化量を多段階に切り替える掃引速度切り替え手段3と、送信波TSの周波数掃引速度とビート信号7bの周波数とに基づいて対象物までの距離を求める距離算出手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、所定の送信電力で探知距離の拡大を図ることのできるFMレーダーに関する。
【0002】
【従来の技術】周波数が時間に対して線形に変化する送信波を発射し、送信波と受信波の瞬時周波数の差から目標距離を測定するFMレーダーは、比較的近距離(例えば数百メートル)を探知するのに好適であり、自動車間の距離や障害物までの距離の測定に利用されている(例えば特開昭64−86064号,特公昭63−43715号公報等)。また、レーダの検出距離は、数1に示すレーダ方程式で表わされることが知られている。
【0003】
【数1】


【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなFMレーダーを実現する場合、下記の3点は電波法の制約があり、最も注意すべき事項である。
(1)送信電力の小電力化(2)周波数帯域の狭帯域化(3)送信周波数の安定化この中で送信電力の小電力化は、レーダとしての検出距離、性能を決める重要なファクタであり、小さい送信電力で所定の距離範囲を探知できるのが望ましい。
【0005】図4は送信波と受信波およびビート周波数の関係を示す説明図である。送信波TS(中心周波数f0,周波数偏位ΔF,下限周波数f1から上限周波数f2まで周波数を単調増加させた後に下限周波数f1まで単調減少させる3角波状の周波数変調の掃引周期T)と受信波RSとのビート信号の周波数fBは、送信波TSと受信波RSとの時間差ΔT(目標物までの距離)に比例して高くなる。
【0006】このため、検出距離を長くするにはビート信号の増幅系ならびに検出系等の受信系の周波数帯域を広くする必要がある。しかし、受信系の帯域を広くするとそれに伴って受信系の熱雑音が増加するため、信号対雑音比(S/N)が劣化する。このため送信電力を増加しないと対象物の探知ならびに距離測定ができなくなる。
【0007】この発明はこのような課題を解決するためなされたもので、その目的は送信電力を増加することなく検出距離を増加させることのできるFMレーダーを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するためこの発明に係るFMレーダーは、送信波の単位時間当りの周波数変化量を多段階に切り替える掃引速度切り替え手段と、送信波の周波数掃引速度とビート周波数とに基づいて対象物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
【作用】第1の検出距離範囲を探知対象とするときの掃引周期に対して、そのN倍の距離範囲を探知対象とするときの掃引周期を1/Nにすることで、各検出距離範囲におけるビート周波数の範囲は一定になる。いいかえれば、遠方にある対象物を探知する場合、反射波が到達する時間が長くなるので、送信波の単位時間当りの周波数変化量を小さくしても所定のビート周波数が得られる。よって、送信波の掃引周期を異ならしめることで、受信系の周波数帯域を狭帯域に保つことができる。狭帯域化によって受信系の熱雑音の低減できるので、送信電力を増加することなく所定の信号対雑音比(S/N)を満足した状態でより遠方の対象物を探知し、その距離を求めることができる。
【0010】
【実施例】以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係るFMレーダーのブロック構成図である。このFMレーダー1は、FM信号発生回路2と、掃引速度切り替え手段3と、電力分配器4と、サーキュレータ5と、送受信兼用のアンテナ6と、混合回路7と、距離検出回路8とからなる。
【0011】FM信号発生回路2は、周波数制御端子2aに供給される周波数指定電圧信号3a,3bに基づいて指定された周波数の信号を発生し、出力端子2bから電力分配器4の入力端子4aへ供給するよう構成している。このFM信号発生回路2は、FETと可変容量ダイオードとを組合せて構成した電圧制御型発振器で準ミリ波帯の信号を発生させ、これを周波数逓倍するとともに電力増幅してミリ波帯の信号を生成する。また、ガンダイオードを用いた電圧制御型発振回路で直接ミリ波帯の信号を発生し、電力増幅してもよい。
【0012】掃引速度切り替え手段3は、図2(a)に示すように、周期の異なる3角波状の周波数指定電圧信号3a,3bを交互に発生するよう構成している。近距離用の周波数指定電圧信号3aの周期T1に対して、遠距離用の周波数指定電圧信号3bの周期は2倍に設定している。この掃引速度切り替え手段3は、現在出力している掃引周期に係る情報3c(図2b参照)、ならびに、周波数の変化が増加モードであるか減少モードであるかを示す情報3d(図2c参照)を、距離検出回路8へ供給するよう構成している。
【0013】FM信号発生回路2から出力されたミリ波帯のFM信号2bは、方向性結合器等で構成される電力分配回路4で分配され、一方の信号4aはサーキュレータ5を介してアンテナ6から放射される。他方の信号4bは、混合回路7の一方の入力端子7aへ供給される。
【0014】アンテナ6で受信された受信波は、サーキュレータ5を介して混合回路7の他方の入力端子7bへ供給される。混合回路7は、各入力端子7a,7bに供給された信号を混合し、そのビート信号7cを出力する。
【0015】距離検出回路8は、ビート信号7cを増幅する増幅回路と、ビート信号の周波数または周期を検出するビート周波数検出回路と、検出したビート周波数と現在の掃引速度とに基づいて検出距離情報8aを出力する演算回路を備える。
【0016】表1は掃引速度とビート周波数の関係を、対象物までの距離が80メートルと160メートルの場合について示したものである。周波数の掃引幅は400MHzである。
【0017】
【表1】


【0018】対象物までの距離が一定であれば、掃引速度を早くするほどビート信号の周波数は高くなり、ビート信号の増幅器の周波数帯域を広くする必要がある。また、掃引速度が一定であっても、対象物までの距離が遠くなればビート信号の周波数は高くなる。
【0019】そこで、この実施例では、近距離検出モードの最大検出距離を80メートル、遠距離検出モードの最大検出距離を160メートルとし、掃引速度をそれぞれ200μS,400μSとして、ビート信号の最大ビート周波数を2.132MHzとしている。そして、ビート信号の増幅器等の受信系の周波数帯域を2.132MHzと狭帯域化している。
【0020】以上のように、FM変調送信波の掃引速度を、最大探知距離に応じて遅くする構成としたので、ビート信号の最大ビート周波数を所定の範囲内にすることができる。よって、受信系の周波数帯域を狭帯域化することで、受信系の熱雑音を低減し、所定の送信電力での最大探知距離を増加させることができる。
【0021】なお、この実施例ではFM変調送信信号の変調偏位幅(例えば59.8GHz〜60.2GHzまでの400MHz)を一定とし、掃引周期を異ならしめる構成について説明したが、掃引周期は一定で変調偏位幅を例えば200MHzと400MHzとに切り替えるよう構成してもよい。また、切り替え段数を3段以上としてもよい。
【0022】この実施例では、近距離用と遠距離用の掃引速度を交互に切り替える構成について示したが、距離検出回路8内に対象物までの距離が予め設定した距離よりも近いことを判定する手段を設け、その判定出力を掃引速度切り替え手段3へ供給し、掃引速度切り替え手段3はその判定出力に基づいて対象物が近距離にある間は近距離用の掃引速度で継続的に掃引し、近距離に対象物がない場合は遠距用の掃引速度での掃引を継続するよう構成してもよい。また、掃引速度の切り替え判断は、検出距離情報8aを掃引速度切り替え手段3へ供給し、掃引速度切り替え手段3内で行なってもよい。
【0023】図3はこの発明に係る他のFMレーダーのブロック構成図である。このFMレーダー11の距離検出回路18は、遮断周波数が約2.2MHzの低域通過フィルタ(LPF)21aと周波数帯域が約2.2MHzの増幅器21bとからなる近距離検出用受信系21と、低域遮断周波数が約1MHz,高域遮断周波数が約2.2MHzの帯域通過フィルタ(BPF)22aと、約1MHz〜2.2MHzの周波数帯域を有する増幅器22bとからなる遠距離用受信系22と、掃引速度切り替え手段13から出力される掃引速度に係る情報13cに基づいて対応する受信系21,22の増幅出力21C,22cを選択する選択回路23と、選択された出力信号23aの周波数もしくは周期を求めるとともに掃引速度に係る情報13cに基づいて対象物までの距離を演算する等して、検出距離情報18aを出力する演算処理部24とを備える。
【0024】近距離探知モードで測定可能距離は、遠距離探知モードで測定しなくてもよいので、遠距離用受信系22の周波数帯域はビート周波数が遠距離範囲(例えば探知距離80〜160メートル)となる範囲だけに設定し、その周波数帯域を近距離受信系よりもさらに狭めている。このような構成にすることによって、受信系22の熱雑音を低減し、受信波の信号レベルがより小さくなる遠距離探知時の信号対雑音比(S/N)を確保することができる。
【0025】なお、各実施例とも送受信兼用アンテナ6を用いた構成を示したが、送信用のアンテナと受信用のアンテナを別々に設け、電力分配器4で取り出した送信信号と受信信号を混合回路7でヘテロダイン検波してビート信号を取り出す構成としてもよい。
【0026】
【発明の効果】以上説明したようにこの発明に係るFMレーダーは、最大探知距離に応じて送信波の単位時間当りの周波数変化量を切り替える構成としたので、各検出距離範囲におけるビート周波数を所定の範囲内とすることができる。このためビート信号の増幅・処理等を行なう受信系の周波数帯域を狭帯域化することができ、狭帯域化によって受信系の熱雑音の低減できるので、送信電力を増加することなく所定の信号対雑音比(S/N)を満足した状態でより遠方の対象物を探知し、その距離を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るFMレーダーのブロック構成図
【図2】周波数指定電圧信号および掃引周期に係る情報のタイムチャート
【図3】この発明に係る他のFMレーダーのブロック構成図
【図4】送信波と受信波およびビート周波数の関係を示す説明図
【符号の説明】
1,11…FMレーダー、2…FM信号発生回路、3…掃引速度切り替え手段、4…電力分配器、5…サーキュレータ、6…送受信兼用アンテナ、7…混合回路、8,18…距離検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 周波数が時間に対して線形に変化する送信波を発射し、対象物で反射された受信波と送信波との間で生ずるビート信号に基づいて対象物までの距離を探知するFMレーダーにおいて、前記周波数の単位時間当りの変化量を多段階に切り替える掃引速度切り替え手段と、送信波の周波数掃引速度と前記ビート周波数とに基づいて対象物までの距離を求める距離算出手段とを備えたことを特徴とするFMレーダー。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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